魔女「ふふ。妻の鑑だろう?」
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13: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/08/29(土) 20:08:40.87 ID:tNq3pxyB0



彼女は指輪の代わりに、ものの数分でチョーカーを作ってくれた。
銀のインゴットに彼女の細い指が触れると、
インゴットはまるで粘土細工のように形を変えた。
細い革紐の先に、大樹に繁る枝のような繊細な意匠が凝らされた銀と、
小さな天然石が落ち着いた光を放っていた。
手渡す彼女はどこか誇らしげで、俺の胸元に光るチョーカーを見て、少し念を込めると、
とても嬉しそうな顔をした。
幸せを運ぶおまじないらしい。

その日から彼女は、良き妻として家を守ってくれている。
口調は物々しいが、性格は昔と変わらないようで、
俺の中で、9年前まで彼女と暮らした記憶が日に日に鮮明さを増していく。

彼女は魔法使いらしくなく、活動的で外出が好きで、
妙に所帯じみていた。
限られた資金で研究を続け結果を残してきた名残らしい。
ある日帰宅すると、部屋の隅に扉がひとつ増えていた。
そんな間取りはなかったはずだが、魔法使いにそういう事を聞くのは野暮というものだ。
話を聞くに本来は別にある彼女の研究室に繋がっているそうで、
彼女は日に2時間ほどその部屋に消える。

俺は過去に何度か魔法使いたちと会う機会があった。
敵もいれば味方もいたが、彼らはみな黒いローブを羽織り杖を隠し持っていた。
鼻につく薬品の匂いと青白い肌がより一層その妖しさを増していた。
だがそれらは彼女に言わせれば、魔法使いの神秘性を守るための演出の一環、だそうだ。
彼女はローブではなく、自ら考案したという上下の縫い合わされた作業着や、長白衣を好んだ。
薬品の匂いもしない訳ではないが、潤滑油や蝋、石膏の匂いが主だった。







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