60: ◆6QfWz14LJM[saga]
2015/08/26(水) 01:14:31.77 ID:SNn8TeIE0
◇
資料よし、概要把握よし、シエルとのコンタクトよし。緊張状態は……追々。
ジュリウスは本部との通信会議のためフライアへ、ギルはハルさんと共に討伐任務へ、それぞれ出向中だ。
今回の隊長代理としての仕事は簡単な近況報告だし、もうへまはしない。
という意気込みで、先行のシエルの説明に耳を傾けていると、背後で大きな物音がする。
「ナナ!?おい、しっかりしろ!」
ロミオが叫び声を上げた先へ振り返ると、ナナが仰向けに倒れ込んでいた。
逸るロミオにジュリウスと任務担当のオペレーターへの連絡を任せ、私とシエルはナナの介抱を行う。
数刻の後、ナナは目を覚ましたものの、寝起きで気が緩んでいるのか、直前まで見ていた夢について訥々と語り始めた。
幼少期の母との思い出、母の言葉、そして……血まみれになった母の姿。
「凄い小っちゃい頃だから、色々忘れちゃったんだけどさ……私、お母さんとどっかの山の中、二人で住んでたの」
「お母さん、神機使いでね……あんまり、家にいなかったんだけどさ」
「"泣かない!怒らない!寂しくなったら、おでんパン食べる!"……ってのがお母さんとの約束でね」
「お腹いっぱいになったらあんまり寂しくなかったし……それにおでんパンたくさん食べると、お母さんが喜ぶんだ」
私とシエルの表情が綻ぶ。
そういえば初めてナナに"おでんパン"を渡された時、お母さん直伝とも言っていたっけ。
「だから……おでんパン食べるとお母さんを思い出して……凄い幸せな気分になるんだ――」
「――よっし!もう大丈夫!!2人ともありがとね!」
結局倒れた原因はわからずじまいだったけど、ナナはすっかりいつもの調子を取り戻したようだった。
ただ、今の彼女の一見単純にも見える快活さと、それに裏付けられた芯の強さの源がわかったとはいえ、少々疑問に残る点もあった。
ナナの幼い頃……極東支部がまだ発展途上だったとして。
食糧問題はともかく、仮にも神機使いであった彼女の母が、なぜ支部から離れた山中に居を構えていたんだろうか。
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