とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4
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833: ◆A0cfz0tVgA[sage saga]
2017/04/10(月) 01:48:00.04 ID:5wSePt270

そしてものの数分もしない内に森を抜けた私は、目の前の光景に思わず息をのんだ。
広がるのは、向こう端の木々が針の先のように小さく見える程の広大な湖。
四方八方を森で囲まれた中にあるこの場所は、まるで世界のヘソのようだ。
風波一つ立たない湖面は巨大な鏡のようであり、空の月を模様の細部までくっきりと映し出している。
空の月と地上の月。その二つは双眼のように、湖岸に立ち尽くす私を睨んでいる。


幾許の間呆然としていた私は、妙なものが視界の中にあることに気がついた。


館だ。それもかなり大きい。

私もそれなりに大きな家に住んでいるけれど、目の前にある建物はそれ以上だ。
何せ遠目から見ても分かるくらい大きな塀がある。私の身長の5倍くらいの高さがありそうだ。
加えて館と塀の遠近から考えれば、塀の中も相当な広さだろう。最早、『城』と表現しても良いかもしれない。
屋上から突きだした、巨大な時計盤が備え付けられた塔がより『それっぽさ』を醸し出している。


湖の畔に聳え立つ城。ただの人がその言葉だけを聞いたならば、さぞ荘厳な情景が脳裏に浮かぶことだろう。
だが今私の目の前に映る建物は、人々が思い描くようなものとはかけ離れたものだと断言出来る。それは何故か。

『紅い』のだ。屋根の色が紅いとか、紅月の光に照らされているから壁が紅いとか、そんな次元ではない。
『全てが紅い』。空からペンキをぶちまけられたかのように、真紅に染め上げられている。
唯一の例外は時計盤だけだ。その部分だけがくり抜かれたかのように白かった。


そんな異様な雰囲気が漂う建造物に対し、私はどうしてなのか、その目を離すことが出来なかった。
まるで眼球が固定されたかのように、視線を逸らすことが出来ない。
それどころか、無性にその場所に行きたいという感情が湧いてくる。
そして何よりも不思議なことは、その事実に微塵も不快感を覚えないことだった。




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