236: ◆c4YEJo22yk[sage saga]
2016/04/13(水) 12:45:15.37 ID:isdK5suj0
「ご、ごめん……すぐに離れるから」
「い、いえっ! いいんです、近くにいてくださいっ……」
俺は気を使って離れようとしたのだが、なんと可憐は逆に寄り添ってきた。
二人の距離が、先ほどよりもさらに縮まる。
彼女の思いがけない行動に、俺は自分の心臓が高鳴るのを感じた。
どうにもじっとしていられない気持ちになり、スマホに手を伸ばす。
「ちょっと、停電の情報がないか調べてみるよ」
そして、数秒間の沈黙。
あまりの静けさに、可憐の吐息の音すらもかすかに聞こえてきた。
「停電の原因は変電所のトラブルみたいだな。うーん、復旧は未定か……」
「でも大丈夫ですよ。このキャンドル、長時間使えますからっ」
つまり、もうしばらくはこのまま二人きりで過ごせるみたいだ。
バニラの甘い香りと炎のゆらぎのせいだろうか。
俺は、夢の中にいるような不思議な気持ちになっていた。
そして何より、可憐が隣りにいてくれることに安らぎと幸せを感じる。
「……俺もアロマキャンドルが欲しくなってきちゃったな」
「じゃ、じゃあ……今度、一緒に買いに行きますか……?」
「あ、ああ……そうだな」
そしてまた、二人でこんな夜を過ごせたらいい。
部屋の明かりを全て消して、小さなろうそくの炎の前でくつろぐんだ。
「バニラ以外でおすすめの香りって何かあるのか?」
「定番はラベンダーやローズですね……。すごく気分が落ち着くんですよ」
「へえ、そうなんだ」
「他には、好みが分かれるんですけどイランイランも私の一押しですね……」
そんな何気ないようなことを、俺たちは喋り続けた。
話題は尽きることはなく、幸せな時間はゆっくりと過ぎていく。
窓から差し込む月光と、アロマキャンドルの明かりだけが、二人を優しく包んでいた。
おわり
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