222: ◆c4YEJo22yk[sage saga]
2016/03/27(日) 20:26:41.28 ID:qZYUd6et0
【風の戦士、寝技に目覚める】
「ワン、ツー! ここで左フック!」
俺が部屋に入ると、百合子がシャドーボクシングらしきことをしていた。
彼女が拳を突き出すたびに、その綺麗な髪が揺れる。
「……何してるんだ、百合子?」
「事務所がテロリストに襲撃された時のための特訓です!」
「うん、そんな事態になったら素直に警察を呼ぼうな」
俺はあきれつつ、ふと机の上に目をやる。
そこには、格闘技の教則本が置かれていた。
なるほど、この本に影響されたのか。
運動は不得手なはずの百合子がシャドーをしているなんて不思議だと思ったんだ。
「私、トータルファイターを目指そうと思います!」
百合子がキリッとした顔でそう宣言したが、俺は意味が分からず首を傾げる。
「何だそれ? 聞いたことのない言葉だな」
「私もさっき本で読んだばかりなんですけどね。トータルファイターっていうのは……」
格闘技に明るくない俺に、彼女は簡単に解説してくれた。
打撃中心で戦うのがストライカー。
寝技などを得意とするのがグラップラー。
そして、それらを両立する者をトータルファイターと呼ぶのだという。
要するに、格闘家の中でもオールラウンダーを指す言葉のようだ。
「と言うことは、百合子は寝技や関節技もできるのか?」
「いえ、シミュレーションはしているんですが、相手がいないと練習できないので……」
百合子はそこで言葉を切ると、少しためらいながら俺に言った。
「プロデューサーさん、寝技の練習相手になってもらえませんか?」
「ええっ!? そ、それはさすがにマズイんじゃないかな……」
十五歳の女の子に寝技をかけてもらうなんて、危険な香りがするぞ。
似たようなサービスをしていて摘発されたお店があったような気もするし。
「お願いしますっ。他に頼める人もいないんですよ」
「うーん……まあ、少しだけなら大丈夫かな」
この部屋の中なら誰にも見られないのだし、問題ないだろう。
そう思った俺は、百合子の頼みを安請け合いしてしまった。
――ほんの数分後に後悔することになるとも知らずに。
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