209: ◆yyODYISLaQDh[saga]
2015/12/21(月) 22:17:05.02 ID:Hg+7sYzLO
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下校中の小学生の波を眺めながら、たまに自分に向けられる挨拶に笑顔を返す。
真九郎はこの数年で保護者として既に認知されており、懐疑の視線を向けてくる者はほとんどいない。
聞いたところによると、紫の生徒名簿の緊急連絡先には真九郎の名前と電話番号が登録されているほどであり、学校側からも公認されているらしい。
紫が自慢気に語っていたので、少なくとも嘘ではない。
学校側としても、世界有数の大財閥である九鳳院家に電話をかけるより、職業不詳であろうと九鳳院家に認められている青年に連絡するほうが気が楽というのもあるのだろう。
九鳳院、麒麟塚、皇牙宮。
表御三家と言われるこの三つの家系は、日本を古くから支え、支配してきた。
その名は一般人でも知らない者はおらず、児童である紫にさえ尻込みしてしまう教師も少なくない。
「家の名は私の出自を保証するものだが、私自身ではない。しかし、不本意だが私個人よりも《九鳳院》という家の方が目立つのは仕方のないことだ」
とは、紫本人の言。
それは諦念というよりは、ありのままの事実を受け入れるという、良い意味で年齢不相応の器の大きさを表していた。
思えば、出会った頃から大人びた言動をする少女だった。
当時まだ高校生だった真九郎は、それに救われたのだ。
その生き方は、純粋にして高貴。
師であり命の恩人でもある柔沢紅香とは別の意味で、女傑と呼ばれる人間に育つだろう。
そんな遠くない未来を夢想し、遠くからその姿を見ることができればいい、と真九郎は思う。
高校も既に卒業している今、自分は完全に裏世界の住人であり、晴れて表の世界に立つことができた紫とは違う場所にいるべきだ。
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