612: ◆S0mvz1PntgQY[saga]
2016/11/14(月) 01:46:30.84 ID:nSKR7Chn0
ステージの上の三人が、見事なダンスと歌唱で客席にどよめきを広げていく。
浜川さんの強さを押し出すキレのあるダンス、松山さんの繊細で美麗な表現。
そして千奈美ちゃんの、二人を引っ張り上げながらアリーナ全てを薙ぎ払う、強烈な圧の歌声。
「……“夜明けのハイペリオン”」
「誰の曲?」
意外なことに相川さんが曲名を答えてくれて、黒川さんがもう一度質問を乗せて来る。
「“サイレントウィンド”です」
モニターから片時も目を離さないアヤちゃんが答えた。
「“サイレントウィンド”の2ndシングルのA面。一年半前、あいつが初めて制作に関わった楽曲で」
アヤちゃんは涙声で続ける。
「あいつが、千奈美が、歌の仕事で、正面から負けて、悔しくて一晩泣いてた」
堪え切れない様子で、何度か鼻をすすって。……アイドルのする顔じゃないね。
「でも、今日は……今日は、さぁっ、笑顔、で、かっこよくって」
ぐずっ、と声を詰まらせたアヤちゃんは、伊吹ちゃんに、ぽん、と背中を叩かれ、言葉が途切れた。
もう、言葉を紡ぎ出すには限界みたいで。涙を溢れさせながらも、口を真一文字に結んでモニターを見詰めているのは、全て見届けてるために崩れてしまわないよう頑張っているから、なんだろう。
代わって、伊吹ちゃんが口を開いた。
「今日の千奈美、今まででいちばんキラキラしてる」
そうだね。キラキラしてて。
私たちが知ってる千奈美ちゃんじゃ、ないみたい。
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