558: ◆S0mvz1PntgQY[sage saga]
2016/08/16(火) 00:47:37.47 ID:Hnrzybny0
お客さんの前で歌って、踊って、視線と歓声を受け止める。
言葉にすればそれだけのことだけど、それだけじゃない。
前には一万人を超えるお客さんがいて、みんながみんな、それぞれに想いと期待を持ってくる。
後ろには何十人ものスタッフ、そしてそれ以上の数の関係者がいて、やっぱりそこにはみんな誇りや願いを持ってる。
そんなに大きくないカフェで働きながら、月に一回、数十人のお客さん相手にライブをしている店員だって、
ローカルテレビ番組のMCが主な仕事のダンサーだって、全国ネットのレギュラーを持ってる現役女子高生だって、
最新シングルが数万枚売れたユニットに所属してたって、銀幕で大活躍の新進気鋭の女優だって、
古着屋のバイトだってピアニストだって事務所の社長だって。
ステージに立って、お客さんの熱気に晒されたら、大した違いはないんだ。
「……吐きそう」
ドレスルームからステージへの通路の脇、いくつかある控えスペースの片隅で、アタシは一人座り込んでる。
客観的な自分が、今の自分を指差して笑ってる。椅子に尻がへばりついたみたいだ。
声が出ない。膝が震えてる。
せいぜい百人程度しか相手にしてなかった、場末のアイドル崩れが、一万人を相手にできるかよ。
馬鹿言うなよ。自嘲が胸の中で膨らんでいく。
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