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もしもシャミ子が葬送のフリーレンの世界に飛ばされたら
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:31:00.46 ID:4JAHijIv0
◇午前3時過ぎ 多魔市せいいき桜ヶ丘 ばんだ荘 吉田家
ヴーッ、ヴーッ
シャミ子「むにゃ……ケータイ……? 誰ですか、こんな時間に……」
シャミ子「はい、しゃろーみふとれひゅゆーこ……もしもし……もしもし……」
ヴーッ、ヴーッ!
シャミ子「……あ、これはごせん像でした。ケータイはこっち……むにゃむにゃもしもし……」
???≪こんばんは、シャドウミストレスさん≫
シャミ子「こんばんわ……ふぁああ……ねむいのでまた明日でもいいですか……」
???≪うーん。夜分遅くに申し訳ないとは思うんだけど、君にお願いがあるんだ≫
シャミ子「私に……?」
???≪そう。魔族と人間の共存の為に、ぜひとも君の力を貸して欲しいんだよ≫
シャミ子「……? もう桜さんがやってませんか、それ……」
???≪だって、千代田桜はもういないだろう?≫
シャミ子「……いますよ……私の心の中にとか、なんかそんな感じで……」
???≪ああ。でもコアになってるんじゃいないのと同じだ。どっちにしろ必要なのは君だしね≫
シャミ子「わたし……? 桃でもミカンさんでもなく、小規模まぞくの私に……?」
???≪そんなに自分を卑下するものじゃないよ。これは、君にしかできないことなんだ≫
シャミ子「……私にしか、できない……」
???≪そう。他でもないシャドウミストレス優子の力が必要なんだ≫
???≪お願いだ、人とまぞくの間に生まれた子よ。僕の夢――魔族と人間が共存する世界を実現する為に協力してくれないか?≫
シャミ子「あっ、なんか王道ファンタジーRPGの導入みたい……眠いながらにテンションあがってきました」
シャミ子「ふふふ、いいでしょう! その依頼、このしゃっ、しゃみっ……シャロウミストレスが承りました!」
シャミ子「……ところで長い夢ですね。いつもならそろそろお母さんが起こしてきたり……」
???≪ありがとう。それじゃあ契約成立だ≫
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1730453459
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:33:04.91 ID:4JAHijIv0
リリス「シャミ子や、さっきからうるさいぞ〜……ふあぁ、目が覚めてしまったではないか。今日も一日ゴミ拾いだというのに。隣の部屋で寝てる良とセイコも起きてしまうぞ」
シャミ子「……ごせんぞ」
リリス「どうしたのだというのだ、まったく。そんな虚空に開いた穴的なものに下半身をすっぽり丸呑みされた状態で……」
リリス「まるで異世界に連れ去られる系の導入のようだぞ。この前結界に取り込まれた小倉を助けに行ったのを彷彿とさせる……」
リリス「……」
シャミ子「……」
リリス「……余の可愛い子孫がどこかへ連れ去られようとしてるーーーー!?」
シャミ子「やっぱり夢じゃなくて現実でしたか! 助けてくださいかどわかされる!!」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:34:55.50 ID:4JAHijIv0
リリス「ふんぬー! ふんぬー! ダメだこれどんどん吸い込まれていく! 桃ミカン良子セイコー! 誰でもいいから助けてー!」
シャミ子「が、頑張ってくださいごせんぞ! うわあ首まで吸い込まれたタタタタ痛い痛い! ごせんぞツノ持たないで!」
リリス「もう持つ所ここしかないのだから仕方あるまい! というかなんでこんなことになっておるのだ!?」
シャミ子「な、なんか知らない人から着信があって、夢心地で出たあと、適当に返答してたら契約完了って言われました!」
リリス「お主のそういう朴訥さはチャームポイントでもあるが、今後はもうちょっと警戒心とかもって欲しいなーってご先祖様思う!」
シャミ子「改めます! 改めますので!」
リリス「ぬぐぐ、しかし魔力契約だとしたら横合いから無理やり破棄させる力は今の余には無いぞ」
リリス「えーい、この依り代のパワーが昆虫並みでなければ! 本来の余なら! 完全体になりさえすればー!」
シャミ子「え、ごせんぞ完全体フォームとかあるんですか!? 今度見せてくださいね!」
リリス「すまん今のは勢いで言っただけだ! だってそうでもしないとお主を吸い込む勢いに対抗できないから――あああシャミ子が鼻のとこまで穴の向こう側に!」
シャミ子「もごもご!」
リリス「もはや何を言ってるか分からんが頑張れ子孫よ! きっともうすぐ桃が助けに来てくれる!」
シャミ子「! ももごも!」
リリス(……とはいえ、それまで余の握力が持つか不安だ。なにか、なにか手はないか――)
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:36:05.07 ID:4JAHijIv0
ばたん!
桃「妙な魔力を感知したと思ったらシャミ子とリリスさんの声が――シャミ子、無事!?」
ミカン「ちなみに緊急事態なのでドアのカギは桃がノブごとねじ切ったわ!」(※あとで弁償しました)
シャミ子「!? もごぉーーーー!」
しゅぽん!
ミカン「いまのって……」
桃「シャミ子が空間に開いてた穴に飲み込まれた? 追いかけようにも穴は閉じたし、どうなって――ええい、小倉ボタン!」 ピンポーン
しおん「呼ばれて飛び出て小倉しおん〜。シャミ子ちゃんちの天井から登場だよ〜」
ミカン「普通に梯子で降りてきたわね……」
桃「小倉、状況説明!」
しおん「アイアイサー。結論から言うと、シャミ子ちゃんは別次元にさらわれちゃったみたい……」
桃「さらわれた? 誰に!?」
しおん「分からない……けどさっきまで、誰かとお話ししてた……シャミ子ちゃん、なにか頼み事されてたよ」
桃「なんでその時点で止めなかった!」
しおん「ひわわわ、揺さぶらないでぇ〜……! だって最初は寝言かと思ってたし、呼ばれもしないのに部屋に入るのは失礼かと思って……」
桃「他人家の天井裏に住み着いてる時点で無作法の極みだよ!」
ミカン「桃、落ち着きなさいな。それより、今はシャミ子を追うのが先でしょ」
桃「そうだった……ごめん。それで、別次元って言ったよね? それってこの前小倉を助けに行った場所? それなら前回と同じ方法で」
しおん「それは無理〜……今回シャミ子ちゃんが引きずり込まれたのは、次元的に前回よりも遠い場所だから……」
桃「遠いってどれくらい?」
しおん「それが分からないのが問題……前回は結界のバグって原因が分かってたから対応策が用意できた……」
しおん「でも今回は……ウガルルちゃんの力を使えば、前回みたいに空間に穴をあけてそこから移動できるかもだけど」
しおん「目的地が分からないんじゃたどり着けない……次元一層分でもずれたら全然別の世界に行っちゃう〜……」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:37:12.45 ID:4JAHijIv0
桃「その目的地はどうやったら分かるの!」
しおん「うーん、シャミ子ちゃんの次元的な現在地が分かればいいから……例えばテレパシー電話が繋がれば逆探知できるけど……」
桃「よし、シャミ子のガラケーの番号はこの前教えて貰った……お願い、繋がって……」
しおん「あっ」
ヴーッ、ヴーッ
桃「……」
ミカン「シャミ子のケータイ、床に放りっぱなしね……あっ、スマホの方も充電中だわ」
しおん「そもそもあれはシャミ子ちゃんのテレパシー能力を"携帯電話"っていう認識で補強してるだけだから、向こうからかけてくれないと意味がないよ」
桃「〜〜〜〜!」
ミカン「はいはい、リラックスリラックス。シャミ子のことになると途端に冷静さを失うわね。柑橘類をとりなさいな、ほら」
桃「むぐっ……すっぱいものを食べて落ち着くのはミカンくらいだよ。カルシウムじゃないんだから」
しおん「ちなみにカルシウムがイライラに効くっていうのは俗説だよ〜」
桃「そんな雑学知識は如何でもいいから、何か手を考えないと……ミカン、何かある?」
ミカン「急には思いつかないわよ。ビーコンもつける暇なかったし……あ、けれど」
桃「何?」
ミカン「私、大声で叩き起こされたんだけど、その時シャミ子のご先祖様の声も聞こえたような……」
桃「! そうだ、リリスさん! 私たちより先にシャミ子を助けようとしてたっぽいのに、姿がどこにも……」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:38:07.38 ID:4JAHijIv0
ぐにっ
桃「うわっ、なんか踏んだ。シャミ子の布団の中に、何か……?」
リリス「……」
桃「リリスさん!? なんでそんなところで寝てるの! さっきまであんなに叫んでたのに! ちょっと起きて。シャミ子が……」
リリス「……」
桃「……リリスさん?」
ミカン「なんか白目向いてない? 桃のストンピングが鳩尾にでも入ったのかしら……」
桃「いや、そんなに強くは踏んでない筈……」
しおん「はーい、ちょっとごめんね〜……えーと、体温急下降中。瞳孔収縮せず。脈拍なし。これは〜……」
桃「……え?」
しおん「……はい、御臨終で〜す」
桃「えええええええええええ! なんで死んでるのリリスさん! そんな場合じゃないでしょ!」
ミカン「い、119、いやこの場合は110かしら……桃、ちゃんと罪を償ったら、また会いましょうね……?」
桃「通報しようとしないでミカン! っていうかこれ等身大依り代でしょ!? たぶん始祖像に戻ってるだけだよ!」
ミカン「じゃあその像はどこ?」
桃「えっ……そういえば見当たらないな。たいてい枕元に置いてあるんだけど」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:39:52.45 ID:4JAHijIv0
◇勇者ヒンメルの死から31年後 北部高原エルンスト地方
べちゃり
シャミ子「ほぎゃっ! 高所から落下したような痛みと衝撃が!」
シャミ子「いたた、背中打った……あれ? 足元が地面……ここ屋外ですか?」
シャミ子(道の真ん中……っぽいです。舗装もされてないですけど。周囲は見渡す限り草原、森、遠くに山……明らかにご近所じゃありません)
シャミ子「っていうか太陽出てる! さっきまで真夜中だった筈なのに! これは……もしかして……」
シャミ子「……凄い長い間寝てた?」
ごせん像「違う違うちがーう!! 例の穴の先がここに繋がってたのだ! 出たら既にこちらは昼だったのーだー!」
シャミ子「え、その声は……ああっ、ごせんぞ! ごせん像フォーム! どうしてここに?」
ごせん像「うむ。桃やミカンの助けが来るまで、余の握力がもたないと思ってな。とっさに枕元にあった始祖像となんとかの杖を穴に投げ込んだのだ」
ごせん像「またまたダサ像に戻る羽目になったわけだが……穴が閉じかけていて、等身大依り代では入れなかったから……」
シャミ子「あ、お父さんの杖! す、凄いですごせんぞ! ファインプレーです!」
ごせん像「そ、そうか? ふははは! そうであろうそうであろう! 余の機転を褒めまくると良い!」
シャミ子「で、ごせんぞ。ここはどこですか? どうやったら帰れますか?」
ごせん像「皆目見当もつかん。というか、余達が住んでた世界じゃないっぽいぞここ」
シャミ子「ええ!? 確かに桜ヶ丘じゃないみたいですけど……異世界転生なんですか?」
ごせん像「転生はしておらんだろう別に……空気中に存在する魔力が濃すぎる。余が封印された頃でもここまでではなかったぞ」
シャミ子「ほえぇ……くーきちゅーのまりょく……」
ごせん像「そう。というかお主も感じぬか? ここまで濃厚な魔力が漂っているというのに……」
シャミ子「えっ? うーん、まりょくーまりょくー……はっ、そういえば空気がそこはかとなく美味しい気がします!」
ごせん像「いや、もうよい……魔力感知能力がゲロ弱でも、お主には他に良い所がいっぱいあるからな……」
シャミ子「すみません、精進します……」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:40:40.49 ID:4JAHijIv0
ごせん像「話を戻すが、ここが地球でないというなら飛行機で帰るというわけにもいかん。桃たちが迎えに来てくれるのを待つのが得策だろうな」
シャミ子「でも異世界ですよ? そもそもここまでこれるんでしょうか……」
ごせん像「なーに、この前小倉を助けに異空間へ行ったであろう? いわばアレの応用問題みたいなものよ。時間は多少かかるかもしれんが軽い軽い」
シャミ子「そ、そっか。そうですよね! 桃なら異世界の壁くらい筋肉で砕けますよね!」
ごせん像(……実際のところ、どうかは分からんがな。不必要に不安がらせる必要もあるまい)
シャミ子「ごせんぞ?」
ごせんん? ああなんでもないぞ。それより、桃たちが来るまで多少時間もかかろう。とりあえず衣食住を確保せねばな」
シャミ子「衣食住……えーと、着るもの、食べるもの、住むところですよね。まあ服は着ているからいいとして……」
シャミ子「……いいや、なにもよろしくない! よくよく見れば私、パジャマ一丁じゃないですか! 靴どころか靴下も履いてない! あとなんか死ぬほど寒い!」
ごせん像「多魔市よりも気温が低いらしいな。北国なのかもしれん」
シャミ子「このままじゃ風邪を引いてしまいます!」
ごせん像「安心するのだ、シャミ子よ。こんな時の為の危機管理フォームである」
シャミ子「いやいやいや、アレじゃ寒さは変わりませんよ!? むしろ布面積は少なくなりません!?」
シャミ子「異世界の方にお見せできる格好ではない! 何らかの罪になるかもです!」
◇◇◇
異世界人「この変質者め! 異世界ジェイルじゃー!」
牢屋に放り込まれるシャミ子「ダシテー」
◇◇◇
シャミ子「前科持ち……前科一犯まぞくになってしまう……」
ごせん像「しかしお主、そのぷにぷにあんよで地ベタなんか歩いてみよ。ずたずたの血まみれ、下手したら破傷風にかかってびっくんびっくん痙攣しながら死ぬぞ」
シャミ子「ききかんりーーー!」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:41:20.61 ID:4JAHijIv0
シャミ子「そっか、この恰好ならブーツ履いてますもんね。でもさっそくおへそが冷えてきた……」
ごせん像「なのでさっさと移動するぞ。道が整備されているということは、どこか人里へ繋がっているということだ」
シャミ子「なぁるほど! ごせんぞ頭いい!」
ごせん像「……お主ひとりでこちらに来ていたらどうなったのか、余はちょっと怖くなったぞ」
ごせん像「さて、一本道だが前と後ろ、どちらが人里に近いか……遠くに煮炊きの煙が見えるわけでも無し。判別できる要素が何もないな……」
シャミ子「あっ、それじゃあこれで決めましょう。<方向決めの杖>〜、ていやっ」
ぱたん
シャミ子「こっちみたいです。気休めですが、ミカンさんの心の中でウガルルちゃんを見つけた実績もあります」
ごせん像「うむ。まあ二分の一だし、気休め程度でも指針があるのはありがたい」
シャミ子「それじゃあ行きましょうごせんぞ! いざ異世界冒険の旅に出発です!」
ごせん像「うむ! 異世界を冒険か……そう聞くとちょっとわくわくしてきたな!」
シャミ子「ですよね! いいですかごせんぞ、まずは冒険者ギルドに登録というのが定番の流れです」
ごせん像「異世界に飛ばされること自体希なのに定番とかあるのか?」
シャミ子「いえ、最近杏里ちゃんに異世界モノをお勧めされまして……異世界では謙虚さを忘れてはいけません。じゃないと即座に追放されます」
シャミ子「褒められても舞い上がらず"まぞく、また何かやっちゃいましたか?"と――」
ごせん像「物語と現実をごっちゃにしてはいかんぞシャミ子よ……」
シャミ子「でも実際に異世界に飛ばされてるわけですし、すでにかなりのファンタジー事案だと思うのですが……」
ごせん像「それもそうか……よーし! 余は本当はSランクだけど面倒だからBランク枠とーった!」
シャミ子「あっ、ごせんぞズルい! それ私もやりたかったのに!」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:42:17.84 ID:4JAHijIv0
◇30分後
シャミ子「……行けども行けども草原です。人通りどころか、看板のひとつも立ってません。冒険者ギルドは? むやみやたらと美味しそうな料理が出てくる酒場は?」
ごせん像「まあ異世界とはいっても、シャミ子のやってるゲームみたいな世界観とは限らんしな……」
シャミ子「えー、でもまぞくと人間はいる筈ですよ」
ごせん像「ほう、なぜそう思う?」
シャミ子「ほら、私がここに来る前話してた電話の人が、まぞくと人の共存の為にうんたらかんたら言ってたんです」
ごせん像「ああ、ここに来る前に言ってた奴か……状況についていくのが精一杯で忘れておったぞ」
ごせん像「それにしても、まぞくと人間の共存? お主が頼まれたというのはそれか?」
シャミ子「夢心地だったのであんまりよく覚えていませんが、多分そうです!」
シャミ子「あと、そこはかとなく褒め頼られてた気がします! 是非シャドウミストレスの力を借りたいと!」
ごせん像「うーむ……まあ件の電話の君の目的はよく分らんが、やはり魔力契約を結ばされたらしいな」
シャミ子「あれっ? いまごせんぞ、頼りにされるシャドウミストレスの所流しました? ……まりょくけいやく? なんでしたっけそれ」
ごせん像「文字通り魔力を介した契約のことだ。前にちょろっと話したが、他人を眷属にするのもその一種だな」
ごせん像「お主はこの世界のまぞくと人間の仲を取り持つ、という契約に同意してしまったので、こっちの世界に呼び出されてしまったのだ」
シャミ子「寝ぼけてつい頷いちゃっただけで異世界に拉致られるんですか!? クーリングオフは!?」
ごせん像「諦めよ、契約は絶対なのだ……余が以前、お主にネット通販で買わせた服もクーリングオフは効かなかった……」
シャミ子「怖い……契約怖い……ネットも怖い……まぞくはしにました……」
ごせん像「まあ冗談はともかく、普通はこんな曖昧な条文で強制召喚など出来ん筈なのだがな」
ごせん像「今回は相手がよっぽど魔力の扱いに長けていたのだろう。おそらく余と同等以上の使い手と見た」
シャミ子「ごせんぞと同等の……え、なんでそんな人が私に協力を求めるんです? 私、地域限定小規模まぞくですよ?」
ごせん像「まあその辺は実際に会って話を聞かねば分かるまい。というか、呼びつけた側が出迎えくらいせんか!」
シャミ子「確かにスタート地点としてはかなり寂しい感じでしたが……」
シャミ子「……ところでごせんぞ。魔力契約を結ぶと人を遠くから呼び出せるんですよね? じゃあ眷属にしたら桃も呼び出せたりするんでしょうか」
ごせん像「ああ。そういう契約内容を盛り込んで、桃の奴が同意すればな」
シャミ子「じゃあじゃあっ。逆に桃がピンチに陥ったら、私が颯爽と召喚されるみたいなのもありなんでしょうか!?」
ごせん像「可能だが、そもそもお主が呼ばれて役に立つ桃のピンチとは……? 桃が死ぬほど空腹の時とか……?」
ごせん像「そんなものより、もっと余を崇めさせる内容にしよう。週7でゴミ掃除を代わってくれるとか」
シャミ子「桃が血も涙もないゴミを掃除するだけの機械になってしまう! ダメですよごせんぞ。この前ズルしてちょっと焼かれかけたじゃないですか」
ごせん像「しかしシャミ子よ、ここから帰るまでに、余のゴミ掃除ノルマが一体何十キロ加算されてると思う……?」
シャミ子「私もお手伝いしますから……」
ごせん像「それよりもやはり桃を言いくるめて……」
シャミ子「解釈違い……」
ごせん像「――」
シャミ子「――」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:43:19.64 ID:4JAHijIv0
◇街道 夕方
ごせん像「とかなんかとかやってる内に日が暮れてきたな……」
シャミ子「あれからかなり歩きましたが、やっぱり誰ともすれ違わないし、人里っぽいものも見えません……」
ごせん像「このままだと今夜は野宿か……?」
シャミ子「でも杏里ちゃんが、冬の山で寝ると死ぬって言ってましたよ? あっ、もしかして草原なら大丈夫ですか?」
ごせん像「いや、普通に死ぬと思うが……お主も寝てる間は危機管理モードを維持できまい。あの薄手のパジャマに戻ってしまうぞ」
シャミ子「……あれ? 結構大ピンチなのでは?」
ごせん像「なーに、余に任せよ。シャミ子よ、杖を何かに変形させて火とか出せるか?」
シャミ子「えーと……できますよ。ほらチャッカマン」
ごせん像「よしよし。ではいざとなったらそれで草っぱらに火を点けよう。良い感じに乾燥してるから簡単に燃え広がるであろう」
ごせん像「暖かくなるぞ〜。まあ新聞に載るレベルの大火事になってしまうかもしれんがそこはそれ」
ごせん像「むしろ誰かが火を見て駆けつけてくれる可能性すらある」
シャミ子「洒落抜きで投獄コースじゃないですか!? 駆けつけてくるのは消防士さんと警察官さんです!」
シャミ子「却下です却下! ほら、<おやつタイムの杖>! はい、暖かい紅茶が出ましたよごせんぞ! お供えです!」
ごせん像「ずずず……うーむ、ショウガ入りか。これは温まる……」
ごせん像「……うん? なあシャミ子よ、お主これ」
『――たすけてぇえええええ!』
シャミ子「! ごせんぞ! 悲鳴です! 人の声です!」
ごせん像「言葉は分かるのだな。たまさか同じ言語なのか、魔力契約の影響か……」
シャミ子「そんなことより助けにいかないと! 尋常じゃないですよあの声は!」
ごせん像「いやちょっと待て、助けてってことは何かに襲われてるわけで――あああ揺らすな揺らすな紅茶が逆流するぅぅうう……」
12 :
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:45:32.71 ID:4JAHijIv0
女の子「このっ、このっ! あっち行けって!」
でかい狼「グルルルル……!」
女の子「くそっ、私たちはお前のエサじゃないぞ!」
シャミ子「はぁはぁ、見えましたごせんぞ! 前方に荷車です!」
シャミ子「荷台に女の子が乗ってます! 棒切れを振り回して……なんかでかい犬と戦ってます!」
ごせん像「げほっ、げほっ……そのようだな。犬というか、狼だと思うが」
シャミ子「お、狼ですか? じゃあ犬より強いですよね……?」
ごせん像「よぉし、戦略的撤退っ!」
シャミ子「駄目です! 見捨てられません!」
ごせん像「ではどうするのだ? お主にあれ、やっつけられるか? ちなみに今の余では成す術もなく齧られて終わりだ」
シャミ子「やっつけなくても追っ払えればいいんです! えーと、えーと……なんとかの杖、拡声器モード! テレパシー最大出力!」
シャミ子『こぉらそこの狼さん!!! それ以上悪さをすると、お腹切って石詰めて井戸に落としまくりとりゃー!』
でかい狼「!?」
女の子「!? あ、頭に響くぅ……? なにこの声……」
シャミ子「あっ、ほら見てください。狼が馬車から離れましたよ!」
ごせん像「テレパシーだからな。細かいニュアンスはともかく、大意は伝わったのであろう」
ごせん像「というかなんなのださっきの脅し文句は……最後の方噛んでおったし」
シャミ子「すみません。なるたけ怖い言葉を考えたんですが……あまりにも怖すぎて最後まで言えませんでした」
でかい狼「アオーーーーーーーン!」
シャミ子「ほら、ごせんぞ。狼さんもごめんなさいって!」
ごせん像「いや、多分あれは……」
がさがさっ
狼の群れ「グルルル!」
シャミ子「増えたぁーーーーー!?」
13 :
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:47:18.38 ID:4JAHijIv0
ごせん像「そりゃ狼だし、群れで狩りするわな!」
シャミ子「知りませんでした! て、テレパシー! テレパシー! わー! わー!」
でかい狼「……」
シャミ子「怯まない! 効いてない! じりじり近づいてくる! っていうかターゲットがこっちに移ってる!」
ごせん像「たわけ、ああも見事に宣戦布告すればこっちを狙うに決まっておるだろう! テレパシーとてその気になれば我慢もできる!」
シャミ子「すみません、そんなつもりじゃなかったんです! は、話し合いましょう! 話せばわかります!」
ごせん像「そのセリフを言った者は撃ち殺されたのだぞ、シャミ子よ」
シャミ子「そうなんですか!? でもやってみましょう! ごせんぞ、狼語とか喋れません!?」
ごせん像「喋れるか! えーい、まどろっこしい! シャミ子、かみなりの杖だ!」
シャミ子「え、でもあれは夢空間限定で」
ごせん像「いいから余を信じて杖を構えよ! 来るぞ!」
でかい狼「……ガア!」
シャミ子「ひっ、わ、あ。か、かみなりの杖ーーーーーーーー!」
14 :
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:50:03.41 ID:4JAHijIv0
ピシャーン! ピシャーン!
でかい狼「キャインキャイン!」
ごせん像「おお、逃げて行った……一発も当たらんかったが。まあ正確に狙ってくる奴より、目ぇ瞑ってしこたま雷落としてくる奴の方がある意味怖いわな」
シャミ子「わ、わああああ! そこだー! そこかー! そこかしこにー!」
ごせん像「シャミ子、もうよいぞ。危機は去ったようだ」
シャミ子「そこにゃー! ……はあはあ、お、狼は……?」
ごせん像「逃げた。いろいろと課題はあるが、見事な戦いぶりだったぞ」
シャミ子「そ、そうですか……良かったぁ」
シャミ子「あっ、それよりもかみなりの杖! なんで夢の中じゃないのに使えたんでしょうか? というか、ごせんぞ使えること知ってました?」
ごせん像「賭けの部分もあったがな。お主、先ほどおやつタイムの杖を使っていたであろう? あれも本来は夢の中でなければ使なかった筈だ」
シャミ子「あー……」
ごせん像「おそらく魔力に関する理が微妙に違うのだろう。どうやらこの世界では杖の変形難易度が下がるようだな」
シャミ子「ほのおの杖、こおりの杖、天沼矛――ほ、ほんとだー! 夢限定のずるい武器シリーズが自由自在です!」
ごせん像「とはいえ、お主の魔力が上がったわけではないのだから、あまり調子に乗らぬ方が良いぞ。余の一族は大抵それで失敗するのだ」
シャミ子「肝に命じておきます……あっ。そうだ、さっきの女の子! あのー、無事ですかー!」
15 :
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:51:00.63 ID:4JAHijIv0
女の子(雷が止んだ……人の声が聞こえたけど、通りすがりの魔法使いが助けてくれた?)
シャミ子「あのー、無事ですかー!」
女の子「あ、ありがとう。助かっ……ひっ」
シャミ子「?」
女の子「頭の角……ひょっとして、ま、魔族?」
シャミ子「はい! まぞくのシャドウミストレス優子です! やった、噛まずに言えた!」
ごせん像「略してシャミ子と呼ぶがよいぞ。そして余は5000年を生きる大まぞく! 永劫の闇を司りし魔女、リリスである!」
シャミ子「ああっ、異世界でくらいシャドウミストレスって呼んで貰おうと思ってたのに!」
女の子「あ、あああああ……」
シャミ子「? どうかしましたか? 寒いですか? でも私より厚着ですよね……あっ、あのっ。この恰好は好きでやってるわけではなくてですね……」
女の子「た、食べないで……」
シャミ子「食べる? 何を?」
女の子「ま、魔族は人間を食べるんだろ……?」
シャミ子「食べませんよ! え、食べませんよね!?」
ごせん像「まぞくによる。あの蛟とか人のひとりやふたり食ってそうだと思わんか?」
シャミ子「ごせんぞ何てことを!」
女の子「や、やっぱり食べるんだ……!」
シャミ子「ほーら誤解が深まった! 食べません食べません! お米とかの方が好きです!」
女の子「わ、私は食べてもいいから、母さんは助けて……」
シャミ子「しゃーから食べませんて! ……お母さん?」
女性「う、うう……」
シャミ子(よく見たら荷台にもう一人……っていうか、足! 血が……!)
ごせん像「どうやら先ほどの狼にやられたようだな……荷馬も辛うじて息はあるようだが、喉を破られておる。それで立ち往生というわけか」
シャミ子「助けないと! ちょっと荷台の上、失礼しますね!」
女の子「や、やめてぇ……たべないでぇ……!」
シャミ子「えっ、うわっ、力強っ!? 違います怪我を診る為に荷台に上がりたいだけで、うわっ、押さないで押さないでっ……ほげぇ!」
ごせん像「荷台に登ろうとしたシャミ子が、泣いてる女子に突き落とされた……」
女の子「えっ、力弱っ。よ、よーし」
シャミ子「棒はやめてください棒は! 戦闘態勢取らないで! ……分かりましたとりあえず荷台は次で! まずはお馬さんの方から!」
シャミ子「この前は桃に妨害されてもとに戻っちゃいましたが……<かいふくのつえ>!」
ラバ「ひひーん!」
女の子「えっ、ダイアウルフに噛まれた筈なのに……女神様の魔法?」
シャミ子「……ふぅっ。よかった、上手くいった……あの、よければ次はそっちの人を診せて貰いたいんですけど……」
16 :
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[sage saga]:2024/11/01(金) 18:52:41.62 ID:4JAHijIv0
シャミ子「……はい、これで治療完了です!」
女性「……」
女の子「母さんの怪我が一瞬で……あ、ありがとう」
ごせん像「失った血も補われた筈だ。目を覚ますまでそう時間はかからぬだろう」
女の子「あの……」
シャミ子「? なんです?」
女の子「……ごめんね。さっき馬車から落としちゃって」
シャミ子「いいんですよ。お母さんを守りたかったんですよね? 私も魔法少女にお母さんを退治されかけた思い出があるので気持ちは分かります」
女の子「そっか……シャミ子のお母さんは魔法使いに退治されちゃったんだ……」
シャミ子「いえ、あれは結局すれ違いというか私の勘違いだったんですが……というかもうシャミ子呼びなんですね……」
女の子「私、アソリって言うんだ。この先の村に住んでて、買い出しの帰りだったんだけど……」
ごせん像「そこにあの狼が、というわけか」
アソリ「いつもは日のある内に帰るようにしてるんだけどね……今日はちょっと買い過ぎちゃってさ」
ごせん像「確かに、かなりの量の荷だが……お主の家はそんなに大家族なのか?」
アソリ「まさか。村全体の買い出しだよ。ロバも荷車も村の共有財産だし。ノルム商会の流通網が復旧したおかげで、ちょっとだけ安売りになっててさ」
アソリ「っていうかシャミ子、この喋る像はなんなの?」
シャミ子「私のご先祖様です。いまは封印されてますが……お話は出来るので、いろいろ教えて頂いてるんです」
アソリ「シャミ子のご先祖様かー……じゃあ略してシャミ先だね」
ごせん像「ううむ……このコミュ強染みた距離の詰め方、誰かを彷彿とさせる」
シャミ子「そういえばカタカナだと名前の見た目が似てますね……」
17 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 18:53:30.73 ID:4JAHijIv0
アソリ「ところでシャミ子たちはこんなところで何してたの? もしかしてこの辺に住んでる?」
シャミ子「私は携帯電話で悪質な契約を結ばされてしまい、気が付いたら異世界に拉致されていたんです」
アソリ「え、何? ケイタイ……?」
ごせん像『シャミ子、ストップストップ』
シャミ子『? なんですかごせんぞ。急にテレパシー経由で……』
ごせん像『もうちょっと危機感を持てと言っただろう。どうもこの世界ではまぞくに対する評価がガチで低めのようだ』
シャミ子『そういえば人間食べるとか言ってましたね……』
ごせん像『人とは不明を恐れるもの……この上、異世界から来ました〜などと馬鹿正直に伝えて変に警戒されてはたまらん』
ごせん像『幸い、アソリは狼の撃退や母親の治療でこちらに好意的なようだ。ここはうま〜く取り入って助けになってもらおう』
シャミ子『……でもそれって嘘をつくってことですよね?』
ごせん像『なぁに、お主はただ黙っていればそれでよい。余が適当なカバーストリーをでっちあげてやるぞ』
シャミ子『でも……』
アソリ「……」
18 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 18:54:34.02 ID:4JAHijIv0
アソリ「うん、分かった。聞かない」
シャミ子「ほぇ?」
ごせん像「聞かないとは?」
アソリ「シャミ子たち、なんか困ってるみたいじゃん。答えづらそうにしてるしさ。だから事情は聞かないよ」
シャミ子「アソリちゃん……」
ごせん像「……かたじけない」
アソリ「そんなにかしこまらないでよ。っていうか、助けて貰ったのはこっちの方だし。それより、行く宛がないなら今晩はうちに来る?」
シャミ子「い、いいんですか? アソリちゃんから見て、私たちすごく怪しいと思うんですけど……」
アソリ「ああ……確かにその服装はちょっとどうかと思うけど……」
シャミ子「ち、ちがっ! これはですね、やむなき事情があって発動した危機管理フォームでして」
アソリ「いいっていいって。趣味はひとそれぞれだと思うしさ……」
シャミ子「さっきは凄い察してくれてありがたかったですけど、これに関してはちゃんと話を聞いてください!」
19 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 18:56:44.00 ID:4JAHijIv0
シャミ子(ああ……それにしても良かった。異世界で初めて会った人、アソリちゃんはとても良い人みたいです)
シャミ子(どことなく杏里ちゃんを彷彿とさせます……安心して、胸の内がぽかぽかしてきました……)
シャミ子(……あれ? なんか物理的にも暖かくなってきたような……?)
ぱちっ ぱちっ
シャミ子「……草原に火がついてる!! え、なんで!? どうしてですか!?」
ごせん像「あっ……もしや先ほどシャミ子が落とした雷が火種になって……」
シャミ子「あわわ、盛大に燃え広がっていく!」
アソリ「やべーよ! ここ領主様の土地じゃん!」
シャミ子「まさかの投獄コース実現ですか!?」
アソリ「いや、火付けは普通に縛り首だけど」
シャミ子「西部劇でしか聞かないような刑が! し、消火! 火を消さないと……ええと、<みずの杖>! ざばーん! ざばーん!」
アソリ「うわっ、凄い量の水が! 鉄砲水みたい! ……これはこれで後々問題になるかもしれないけど」
アソリ(うーん。魔族だけど、やっぱり悪い子じゃないよな……)
ごせん像「シャミ子よ。景気よく水をまき散らすのは良いが、そろそろ加減をしないと……」
シャミ子「はい? なんですかごせんぞ? ……あれ?」
シャミ子(なんでしょう……急に、眠く――)
20 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 18:57:43.78 ID:4JAHijIv0
◇北部高原エルンスト地方 モグサノ村
シャミ子「……はっ!? 知らない天井です!」
シャミ子「……ベッド? 家の中……うちではないですよね? アンティーク感ありますし。いえ、うちもアンティークといえばアンティークなんですが……」
ごせん像「……起きたかシャミ子よ。ここはアソリの家だ」
シャミ子「あっ、ごせんぞ! おはようございます……私、どうなったんですか? 火を消そうとしたところまでは覚えてるんですけど」
ごせん像「魔力切れだな。寝不足もあったのかもしれんが。それで気を失ったお主を馬車に乗せて、村まで運びいれたのだが……」
シャミ子「いれたのだが?」
ごせん像「少々、いやかなり不味い事態になっておる。窓から外を覗いてみよ。こっそりな」
シャミ子「こっそり?」
21 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 18:58:28.67 ID:4JAHijIv0
◇◇◇
◇窓の外
怒れる村人たち『魔族を殺せー!』
◇◇◇
22 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 18:59:06.29 ID:4JAHijIv0
シャミ子「!?」
ごせん像「やばいであろう?」
シャミ子「完全に一揆じゃないですか!? 怖い! みんな松明持ってる! クワとかカマも持ってる!」
ごせん像「しー! 静かにせよ!」
シャミ子「無理ですよ! 血祭りにあげられる悪代官の気持ちになりました!」
ごせん像「アソリ達の帰りが遅いのを、村人たちも心配していたようでな……」
ごせん像「お主をこっそり運び入れようと計画したのだが、帰るのを待っていた村人に見つかってしまったのだ」
ごせん像「アソリは余達のことを悪いまぞくではないと庇ってくれたのだが……まあ結果は御覧の通りだ。アソリの母が気を失ってたのも拙かったな」
シャミ子「アソリちゃん……いた!」
◇◇◇
◇窓の外
アソリ『だからシャミ子は悪い魔族じゃないんだって! 母さんとラバの怪我も治してくれたんだぞ!』
ガタイのいい村人『そんなの! こうして村に案内させるための演技だったんじゃないのか!?』
村人『そうだそうだ!』『アソリ、お前は騙されてるんだ!』『ダイアウルフだって、そいつがけしかけたのかも……』
アソリ『シャミ子と話してみれば分かるけど、絶っっ対そんな器用なことできる子じゃないって! かなりアホ寄りだよ!』
ガタイのいい村人『じゃあそこを通せ!』
アソリ『通したら話す前にシャミ子に酷いことするだろ!』
◇◇◇
シャミ子「アホ寄り……?」
ごせん像「そこは引っ掛からなくてよい。今はまだ問答で済んでいるが、強行突入は時間の問題だな……」
シャミ子「……アソリちゃんのお母さんは?」
ごせん像「別の部屋で寝ておる。連中が焼き討ちに移らないのはそのおかげかもしれん。とにかく、お主が起きたのなら好都合だ」
ごせん像「アソリが時間を稼いでくれている内にどうにかこっそり脱出するぞ。お主の杖、ドリルとかにならんか?」
ごせん像「……おや? シャミ子?」
23 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:00:25.50 ID:4JAHijIv0
ばたーん!
シャミ子「待って、待ってくださーい!」
アソリ「シャミ子!? 中で待っててって、シャミ先に頼んでたのに……」
村人「魔族だ! 魔族が出てきた!」「噂通り角が生えてるわ!」「尻尾も生えてる!」
シャミ子(うっ……凄い人数……怒号がお腹に響く……暗闇に松明の灯りが揺らめいて、目が眩む……)
ガタイのいい村人「自分から出てくるたぁいい度胸だ! さあ、アソリ! そこをどけ!」
アソリ「シャミ子、中に入ってて! 私が話をつけるから!」
シャミ子「私のことが問題になっているのに、私だけ隠れてなんていられません!」
ごせん像『シャミ子、よせ! 余達だけで逃げるのだ!』
シャミ子「覚悟が揺らぐのでごせんぞはちょっと静かに!」
24 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:02:15.95 ID:4JAHijIv0
シャミ子「き、聞いてください! 確かに私はまぞくですが、人を襲ったりはしません!」
シャミ子「事情があって、家に帰れなくて……そこをアソリちゃんに拾ってもらったんです!」
アソリ「ダイアウルフを追っ払ってもらったんだ! シャミ子がいなかったら今頃奴らの晩御飯だった!」
シャミ子「私にできることなら何でもします! 掃除とか、洗濯とか、料理とか……だ、だから、今晩だけでもここに置いて貰えませんか?」
村人「うーん……」「なんか思ってたのと違うな……」「待って、いまなんでもするって」
アソリ「私がちゃんと世話するから! 散歩もするからぁ!」
シャミ子「アソリちゃん?」
アソリ「合わせて合わせて! シャミ子の無害さをアピールするんだ!」
シャミ子「な、なるほど。がってんです!」
アソリ「さぁここに取り出したるは木のお盆。いまより手前が投じますこれを、シャミ子が見事キャッチできれば拍手喝采!」
シャミ子「どんとこいです!」
アソリ「えいや!」
シャミ子「うわっ、アソリちゃんこれ速っ……」
ごっ
シャミ子「顔面直撃!」
アソリ「うわっ、ごめんシャミ子大丈夫か!? ……ほ、ほら! 見ての通りの鈍くさだよ!? これでもまだシャミ子が危ないっていうの!?」
村人「確かになぁ……」「俺でも勝てそう」「魔族も所詮噂だけか……」
25 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:03:03.13 ID:4JAHijIv0
ガタイのいい村人「騙されるな! こんな茶番で何が分かるって言うんだ!」
シャミ子「ひっ」
アソリ「ちょっと、エルマーさん!」
ガタイのいい村人「無力だっていっても、少なくともダイアウルフを追い払えるだけの力は持ってるんだろう!」
ガタイのいい村人「油断させて、夜のうちに一網打尽にするつもりかもしれねえ!」
村人「確かになぁ……」「そしたら負けそう」「噂通り魔族は恐ろしい……」
アソリ「ちょ、ちょっと、みんな!」
ごせん像(不味いな、一言で流れを戻された……あのガタイが良いのがこの騒ぎの主導者か……)
ガタイのいい村人「ほら、アソリ! そいつから離れろ! おい、お前らアソリを抑えとけ!」
アソリ「あっ、ちょっと! やめっ、離してってば! シャミ子!」
シャミ子「アソリちゃん!」
26 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:04:02.39 ID:4JAHijIv0
ガタイのいい村人「アソリの目と耳はふさいどいてやれ。おい、斧を寄越せ」
シャミ子「ち、違うんです。私は本当に悪いまぞくじゃ……」
ガタイのいい村人「……」
シャミ子「ひう……」
シャミ子(ダメだ、話を聞いてもらえない……ならどうすれば……杖を使う? 人相手に? 無理!)
ガタイのいい村人「悪く思うなよ……」
シャミ子「い……」
ガタイのいい村人「?」
シャミ子「いぅっ、えうっ……おがあざ〜ん゛……も゛もぉ〜……」
ガタイのいい村人「……っ」
村人「……」
村長「……これではどちらが魔族か分からんな」
ガタイのいい村人「! ……村長……」
27 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:05:50.36 ID:4JAHijIv0
シャミ子「えぐっ、ひっく……」
村長「アソリがそこまで庇うんだ。少し様子を見るくらいはしてやってもいいだろう。いまのところ、泣いている子供にしか見えんしな」
アソリ「……ぷはっ、村長!」
ガタイのいい村人「だけどこいつは魔族だ! 子供だっていっても、ダイアウルフを追っ払える程度の力はあるんだぞ!」
村長「そうだな。つまりアソリ達をダイアウルフから救ってくれたのは確かなんだろう?」
村長「ラバも荷車も買い直すには大金が必要だ。彼女がいなければ、我々は向こう半年は塩無しのスープを啜らねばならなかっただろう。村の恩人なのは間違いない」
ガタイのいい村人「そうやって油断させておいて、俺たちを襲うつもりだったら……」
村長「だったら人間も同じことだ。これから村に立ち寄ったよそ者を片端から打ち殺していくつもりかね?」
ガタイのいい村人「……」
村長「エルマー、その魔族が我々の手に負える程度の存在だったらいつでも始末できるだろう」
村長「だがもしも手に負えないなら、お前が斧を振り下ろした瞬間に本性を表すだけだ」
村長「で、どうするかね? 今のお前は、怪我ができる立場ではないと思うが」
ガタイのいい村人「……様子を見る。いまのところは」
村長「分かった……さあ、みんなも家に戻るんだ! 明日も早いんだぞ!」
村人「村長がそういうなら……」「帰って寝るか……」
シャミ子「ひう……?」
アソリ「シャミ子、大丈夫!? 良かった……村長、みんなを収めてくれてくれてありがとう」
村長「それが務めだからな。だがアソリ、ここまでの騒動に発展したのはお前にも責任があるぞ」
村長「恩があるとはいえ秘密裏に魔族を村にいれようとするなど! 次こういうことがあったら私を呼んで村の外で待て。二度目が無いことを祈るが」
アソリ「ごめんなさい……」
シャミ子「ぐすっ、アソリちゃんは悪くないんです……私が、行くところがないって言ったから……」
村長「……悪さをしないのなら、しばらくはいてくれて構わん。仕事はしてもらうし、永住するとなったらまた考えねばならんが」
村長「魔族のお嬢さん。シャミ子とかいったかな? 今日の私の選択を後悔させんでくれよ」
シャミ子「はい……ありがとうございます」
28 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:07:07.35 ID:4JAHijIv0
◇夢空間
リリス「……まったくお主は無策で飛び出していきおって! 危うく斧で頭カチ割られるところだったではないか!」
シャミ子「ごめんなさいでした……」
リリス「せめて自己防衛くらいせよ。杖を使えば何とでもなっただろう」
シャミ子「だってかみなりの杖とか人に向けて使えませんよ……」
リリス「……まあ確かにお主のコントロールだと人死にが出かねんが……クソデカテレパシーも恐慌状態にさせるだけだろうし」
シャミ子「でしょう?」
リリス「だがな、対話というのは対して話すと書くのだ。相手と対等になって初めて話し合いができるのだぞ」
シャミ子「肝に命じておきます……」
リリス「……お主が殺されかけそうになった時な、余は本当に怖かったのだ」
リリス「お主は余の可愛い子孫だ。その優しさは美徳だが、自分の身も同じくらい大事にしておくれ」
シャミ子「ごせんぞ……」
リリス「……それにお主がいないと余も元の世界に帰れんではないか! 下手したらその辺に埋められておしまいだ!」
リリス「というわけでこうして夢空間にお主を呼んだわけだ。これから何をするか分かるか?」
シャミ子「ああ、そういう理由だったんですね……えーと、杖のコントロールの練習とかですか?」
リリス「ちがーう! 余達は夢魔! その能力で村人たちに暗示をかけてとりあえずの安全を確保するのだ!」
シャミ子「ええっ、ちょっと感動するようなこと言ってたのに! 対話は対等の立場ではどこいっちゃったんですか!」
リリス「有利な立場で交渉を進められるのならそれが一番に決まっておろうが!」
29 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:07:59.26 ID:4JAHijIv0
リリス「だいたい先ほどは村長とやらの介入でうやむやになったが、暴徒の連中があれで心から納得したとは思えん」
リリス「特にあのガタイの良い奴! 隙を見てシャミ子を森に埋めて肥料にしようとか考えててもおかしくない剣幕だった!」
シャミ子「まさかぁ。村長さんの説得できちんと帰ってくれたじゃないですか」
リリス「それを確かめる為にも奴の夢に潜り込むのだ。夢の中では精神防御がぐずぐずだからな。簡単に本音を引き出せる」
リリス「お主の言う通り、本当に納得していると確認出来たら何もせずに帰ればよい。問題なかろう?」
シャミ子「まあそれでごせんぞが納得するなら……でもさっきの人の夢の中に上手く入れますかね?」
リリス「先ほど一次的な接触があったばかりだ。縁が結ばれておるし、お主も最近は頑張っておるからな。余もサポートするし、いけるであろう」
30 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:08:42.35 ID:4JAHijIv0
◇ガタイのいい村人の夢
ガタイのいい村人「隙を見てあの魔族を肥料にする……」
シャミ子「……はいっ、じゃあ大丈夫だったので帰りましょう!」
リリス「現実逃避をしても何も解決せんぞシャミ子よ。あと大声を出すな見つかる」
シャミ子「だ、だって斧研ぎながらあんなこと言ってるんですよ! 怖い! あと斧がデカい! 刃の部分が私の身長くらいある!」
シャミ子「全体的にこの夢、見通しが悪くて怖いです! 霧の向こうから殺人鬼とかでてきそう! 総じて怖い!」
リリス「過剰に怖がるな。きちんと観察をせよ。むしろこの夢は夢魔にとってはつけ入るところだらけ。難易度で言えばベリーイージーだ」
シャミ子「そ、そうなんですか?」
リリス「例えばあの斧。柄と刃がバランスを欠いているのは、精神的な不安定さによるもの」
リリス「この夢を包む霧も同じだな。見通しが立たない……典型的な未来に対する不安の象徴だ」
シャミ子「お、おお〜」
リリス「というわけでシャミ子よ。まずはこの霧を晴らすのだ!」
シャミ子「わかりました! 霧をひとかたまりにすれば……なんとかの杖、あめのぬぼこー!」
31 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:09:23.75 ID:4JAHijIv0
シャミ子「……そんなわけで霧をまとめて固めましたが、これは……」
赤ちゃん「うぶぶぶ」
シャミ子「ご、ごせんぞ! 霧から赤ちゃんが生まれました! 霧太郎です! ほっぺたぷにぷにです! かわいい! かわいい!」
リリス「ふむ。不安の象徴から生まれた……ということは、これが原因か」
シャミ子「原因? なんの原因です?」
赤ちゃん「……おぎゃあ! おぎゃあ!」
シャミ子「うわっ、泣き出しました! お〜よしよし、泣き止んでくださいね〜。じゃないと斧を持った恐ろしい人に……」
ガタイのいい村人「……」
シャミ子「ひぃ、見つかった! 違います、私は通りすがりの夢清掃員で……」
ガタイのいい村人「ああ、アンナ。ごめんな。父ちゃんを許してくれ……」
シャミ子「アンナ?」
リリス「シャミ子、その子を渡してやれ。おそらくだが、そやつの赤子だ」
32 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:13:53.79 ID:4JAHijIv0
シャミ子「……なるほど、先日赤ちゃんを産んで以来、奥さんの具合が悪いと」
リリス「おそらく産褥熱という奴だな。不安になるのも頷ける。それで余達の排除に熱心だったのか」
シャミ子「さんじょくねつ? それって怖い病気なんですか?」
リリス「かつては3人に1人は死んでいた病だ。この世界でも大差なかろう」
ガタイのいい村人「このあたりには教会もねえ……医者を呼ぶ金も……」
シャミ子「教会? 教会に行けば助かるんですか?」
ガタイのいい村人「僧侶様なら女神様の魔法で人を癒すことができるそうだ……生憎、本物を見たことはねえが……」
シャミ子「白魔法! 白魔法ですよごせんぞ!」
リリス「アソリもちらっと言っていたが、この世界では普通に魔法が認知されているのだな……シャミ子の好きな西洋ファンタジーな世界観だったか」
ガタイのいい村人「アンナ……せっかく生まれてきたってのに、母親を亡くしちまうかもしれねえなんて……おまけに俺は、子育てのことなんかなんも分かんねぇ……」
シャミ子「……大丈夫ですよ。私もかいふくのつえが使えます。どのくらい効き目があるか分かりませんが……」
ガタイのいい村人「な、治せるのか?」
リリス「シャミ子よ、良いのか? こやつはお主を……」
シャミ子「怖かったですけど……奥さんが病気で、お子さんも生まれたばかりで。そこにこの世界では危険とされているまぞくです。過敏になるのも分かります」
シャミ子「それに……やっぱり、お母さんとお父さんが揃っているこしたことはないでしょうから」
リリス(む……そうか、シャミ子の家も……)
シャミ子「というわけで、仲直りしましょう! 明日、治しに行きますから奥さんと引き合わせてくださいね?」
ガタイのいい村人「ああ、すまねえ……俺はあんたにあんなことをしたのに……世の中にゃ、良い魔族もいるんだな……」
リリス「感謝するのだぞ。シャミ子に危険が迫ったら肉壁くらいにはなって貰おうか、ふははは!」
ガタイのいい村人「肉壁……」
シャミ子「ごせんぞ、またそんなこと言って……とりあえず、お話も終わったのでお暇しませんか?」
リリス「うむ。夢の中でこれだけはっきり約束を交わせば、奥方の治療に行っても問題あるまい」
リリス「それじゃあ次の夢に行くぞ! こやつの夢から縁を辿って、まぞく排除派を今日中に5人くらい改心させたい!」
シャミ子「うえ、まだやるんですか?」
リリス「なんだか魔力の調子が良いからな。おそらくこの異世界の性質によるものだろうが……」
リリス「それに、こうして夢を渡り歩くのはお主の魔力鍛錬にもなるのだ。さきほど精進すると言ったのは嘘か?」
シャミ子「それを言われると……えーい分かりました! やったらぁー!」
33 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:18:33.01 ID:4JAHijIv0
いったん中断。書きためは終わってるので今日中に全部放流したい
34 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:46:55.56 ID:4JAHijIv0
再開
35 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:47:51.50 ID:4JAHijIv0
◇シャミ子が異世界にきてから6日後 アソリの家
アソリ「シャミ子、起きて。朝だよ、お日様出たよ」
シャミ子「むにゃ……おはようございますです、アソリちゃん」
アソリ「シャミ子は相変わらず朝弱いなぁ」
シャミ子「これでも起きれるようにはなったんです……」
アソリ「まあ最初に比べたらね。ほら、顔洗って、服着替えて。母さんがスープに火を入れてるから、その間に朝の仕事を終わらせるよ」
シャミ子「はーい……」
ごせん像「Zzzz」
拝啓、千代田桃様。私ことシャドウミストレス優子はようやくこっちの暮らしにも馴染んできた感じです。
シャミ子「うう、相変わらず水が冷たい……顔が引き締まります……」
こっちの世界には水道が無いので、汲み置きの水を使います。
その水を汲んでくる川は、村から体感500mほど離れた場所に。
当然水を汲んでくるのは重労働ですが、ここにアソリちゃんがまぞくの隙間産業を見出しました。
36 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:48:23.85 ID:4JAHijIv0
◇村の広場
がやがや
アソリ「ほらシャミ子、みんな待ってるよ。目を開けて目を開けて!」
シャミ子「むにゃむにゃ……おはようございます」
村人「あらアソリちゃん。今日もシャミ子ちゃんの手を引いて……妹でもできたみたいねぇ。すっかりしっかり者になっちゃって。前は水汲みもよくサボってたのに」
アソリ「やめてよそんな話ー。それより待たせちゃったかな? できるだけ急いだんだけど……」
村人「いいのよ。シャミ子ちゃんのお陰で、だいぶ楽になったもの。それじゃあシャミ子ちゃん、今日もお願いできる?」
朝、村人の人たちは日が出ると同時に瓶をもってめいめい川へ向かうのが習慣でしたが、最近は広場に集まります。
シャミ子「<みずのつえ>ー!」
……こうして杖から出したお水を配給するのが、私の朝の仕事になりました。
毎朝村人全員が来るわけではありませんが、なかなかの重労働です。魔力鍛錬にもなります。きたえられます。
村人「シャミ子ちゃんが水を出してくれるようになってから、朝の時間に余裕ができたわぁ」
村人「それにシャミ子ちゃんのお水、川の水と違って生臭くないのよね。スープが美味しくなった気がするの」
村人「ありがとうねぇ、シャミ子ちゃん。わたしゃ最近水汲みの仕事が辛くて辛くて……」
まぞくの水は煮沸しなくても飲めるので、薪の節約にもなると好評をいただいています。ありがたいかぎりです。
37 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:49:35.25 ID:4JAHijIv0
おうちに戻ると朝ごはんです。
現在、私とごせんぞはアソリちゃんのお宅にそのままお世話になっています。
アソリちゃんはお母さんと二人暮らしだそうです。お父さんは去年、流行り病でお亡くなりになられたのだとか。
私の貸して貰ってる服も、元々はお父さんの物だったのを丈詰めしてもらった物です。
アソリ母「シャミ子ちゃん、お仕事お疲れ様〜。スープ出来てるよ〜」
ごせん像「おはよう、シャミ子や。とりあえずお水をお供えしておくれ」
シャミ子「おはようございます。はい、ごせんぞ。お水です」
メニューは野菜入りの塩スープと、お皿に置く時ごとっと音がする硬いパン。基本的に3食これです。
この村は開拓以来まぞくに攻め込まれたことが無く、豊かな方なのだそうで。
パンが硬いのは保存がきくようにするのと薪を節約する為、一ヶ月分をまとめて焼くからです。スープに浸していただきます。
アソリ母「シャミ子ちゃん、今日のスープの味はどう?」
シャミ子「美味しいです! 野菜の旨みが出ています! パンも麦の味がしっかりします!」
アソリ母「うんうん、シャミ子ちゃんみたいに美味しそうに食べて貰えると作り甲斐があるわぁ。それに比べて……」
アソリ「なんだよー。だっていつものスープと同じじゃん。肉とか入ってたら私も喜んで食べるよ」
ごせん像「気にするな、アソリよ。シャミ子は食のストライクゾーンがむやみやたらと広いのだ……パン硬っ。いざというとき武器になりそう〜」
38 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:50:24.03 ID:4JAHijIv0
朝ごはんの後は洗濯にお掃除、そして畑仕事です。まぞくも収穫などをお手伝いしています。
村ぐるみで行う大規模な収穫や出荷は少し前に終わっているとのことで、一年の中では暇な方だそうです。
そんなわけで、午前中に農作業は大体終わります。午後は午後で冬に向けて薪を割ったり保存食を作ったりしますが、割と暇な時間です。
そんな時はアソリちゃんが村の中を案内してくれます。最近ではようやく村の地理も頭の中に入ってきました。
この村は森に囲まれており、街道からは見えにくくなっています。アソリちゃんと出会わなければそのままスルーしていたでしょう。
シャミ子「アソリちゃん、でっかい枝が落ちてます! 持って帰って薪にしましょう!」
アソリ「どれどれ……ああ、こりゃ駄目だよシャミ子。持ち上げてみたら、ほら」
シャミ子「うわっ、ボロボロです。持ち帰るまでには粉々になってそう」
アソリ「腐ってるんだよ。この時期は多いんだ、こういうの」
森では薪や木の実などを得ることができます。畑への鹿害が多いのがたまに傷。
39 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:50:58.34 ID:4JAHijIv0
ガタイのいい村人「おうアソリ、シャミ子ちゃん! 散歩か? さっきサルナシを採ってきてな。ほら、持っていってくれ」
アソリ「おっ、いいの? ラッキー。シャミ子、食べよ食べよ」
シャミ子「サルナシ……? 初めて見ました。食べるの楽しみですね! ありがとうございます、エルマーさん」
ガタイのいい村人「いやあ、良いってことよ。シャミ子ちゃんにはいくら返しても返しきれねえくらい恩があるからな」
<かいふくのつえ>の効果で奥さんが快復されて以来、こちらの方(エルマーさんというそうです)とはすっかり仲良しになりました。
折に触れては木の実などをくれたりします。赤ちゃんのアンナちゃんとも遊ばせてもらいます。かわいいです。
他の村の人たちも、最近は普通に挨拶してくれるようになりました。毎晩、ごせんぞと一緒に夢回りをしたかいがあるというものです。
40 :
1
[sage saga]:2024/11/01(金) 19:52:26.70 ID:4JAHijIv0
◇夕方 アソリ宅
シャミ子「……というわけで、異世界でもまあまあ上手くやれている私です。桃も今の私を見たら、まぞくの成長っぷりに驚くことでしょう……と」
ごせん像「シャミ子や、先ほどから何を熱心に書き連ねておるのだ?」
シャミ子「日記です! 木炭と木の板をいただいたので、異世界での冒険譚を書き留めておこうかと」
ごせん像「ほとんど農業しかしておらぬではないか……余は退屈だ。何しろこの村にはテレビどころか本の一冊もないからな」
シャミ子「村の子とよくお話されてるみたいじゃないですか」
ごせん像「余の偉大さを広めてやろうと思ったのだが、連中の相手をしていると講談師でもやっている気分になる……」
ごせん像「まあ、それでも役立つ情報はいくつか聞き出せたのでよしとするが」
シャミ子「役立つ情報……ですか?」
ごせん像「この世界に関する情報だ。こちらのまぞくや魔法についてだな。ほとんど具体性はなかったが……ちなみにお主はアソリなどから何か聞けたか?」
シャミ子「すみません……お仕事を覚えるので精一杯でした。精々、木の実の生っている場所とかしか……」
ごせん像「よいよい。これに関しては余がひとりでやった方が捗るだろうからな。お主では余計なことを言いかねん」
ごせん像「まずこの世界のまぞくについてだがな、かなり凶暴だぞ。昔は魔王を旗頭に人類と全面戦争していたらしい」
シャミ子「ま、魔王がいるんですかこの世界! 凄い! 怖いけど会ってみたい!」
ごせん像「会うのは無理だろうな。正確な年代は誰も知らんかったが、100年くらい前、勇者一行に倒されておるそうだ」
シャミ子「勇者もいるんですか! こ、興奮してきました! まぞくの癖を貫く勢いです!」
ごせん像「うーん。何がお主をそこまで興奮させるのか……余、分かんないや!」
ごせん像「あと言っておくが勇者も寿命で死んでるみたいだぞ。で、今は魔王軍の残党とやらが暴れ回っているそうだ」
シャミ子「この辺りはずっと平和だってアソリちゃん言ってましたけど……」
ごせん像「このエルンスト地方が特別に平和なだけらしい。放り出された先がそんな場所だったのは不幸中の幸いだったな」
ごせん像「まぞくによる被害を受けたことがないから、村長も余達の滞在を許したというのはあるだろう」
ごせん像「逆に言うと、ここの連中はまぞくについて噂しか知らんのだ。人を食べるというのは確からしいが」
シャミ子「……こちらの世界のまぞくと人間、共存無理では?」
ごせん像「他のもので代替できれば……とも考えたが、ある意味そっちの方が共存は難しいかもしれん」
ごせん像「他の食事でも腹を満たせるのに人を襲うということは、こちらのまぞくにとって人を捕食することが本能的なものである可能性が高い」
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[sage saga]:2024/11/01(金) 19:53:11.04 ID:4JAHijIv0
ごせん像「それについてはおいおい考えていくとして、目下の脅威は魔法使いの方だな」
ごせん像「まぞくを討伐しながら北方諸国を巡回しているらしい。余達も見つかったら危険だろう」
シャミ子「フレッシュピーチハートシャワーとか使ってくるんでしょうか……」
ごせん像「こんな村だからな。魔法使いに関する具体的な情報はほとんどなかった。どんな戦法を使ってくるのかも不明だ」
シャミ子「……そもそも平和な村には魔法使いなんてこないのでは?」
ごせん像「確かに可能性としては低いであろうが、用心するにこしたことはあるまい」
ごせん像「余達にできるのは隠れていることくらいだろうがな。幸い、村人たちからの余達に対する評価は悪くない。匿ってくれることを期待しよう」
アソリ「シャミ子ー、そろそろ暗くなってきたから寝るよー」
シャミ子「あ、アソリちゃん。分かりました。すぐ片付けちゃいますので」
アソリ「あいあい。ところでシャミ子は明日暇かい?」
シャミ子「? そうですね。畑の草取りは今日やりましたし……」
アソリ「じゃあさ、明日鹿狩りにいかない?」
シャミ子「えっ、アソリちゃん鹿狩れるんですか?」
アソリ「いや無理。弓持ってるの猟師のおじさんだけだし。でもさ、シャミ子なら魔法で仕留められない?」
シャミ子「え、どうでしょう……ミカンさんの武器コピーモードならいけるかな、矢だし」
アソリ「お、いける感じ? いやー、実は結構前から考えてたんだよね」
アソリ「でも村の皆がシャミ子に慣れるまでは魔法とか使わない方がいいと思ってさ。いまなら大丈夫っしょ」
ごせん像「こやつ、意外にしたたかだな……猟師がいると言っていたが、勝手に狩って良いものなのか?」
アソリ「明日、猟師のおじさんに許可は貰うよ。多分大丈夫だと思う。仲良いんだ。たまに解体手伝ったりするし」
ごせん像「ならば良い。領分を侵して余計な軋轢を生みたくはないからな」
シャミ子「ちょっと待ってください。なんか狩る流れになってますけど、私が鹿撃つんですか?」
アソリ「頼むよー、シャミ子。病弱な母さんに肉を食わせてやりたくて……」
シャミ子「アソリちゃんのお母さん、夕食のスープ2杯くらいお代わりしてませんでした?」
ごせん像「やるのだシャミ子よ。余もお肉が食べたいぞ。ベジタリアンな生活からはおさらばだ」
シャミ子「ごせんぞまで……いや、でも生きてる鹿撃つんですよね? 鹿は角が生えてるので実質まぞく……」
ごせん像「しかしお主、この前牛肉は食べていたではないか」
アソリ「え、シャミ子牛肉食べたことあるんだ……いいなぁ。私みたいな寒村の住人はきっと一生食べることはないんだろうなぁ。せめて鹿肉食べたいなぁ」
シャミ子「うぐぐぐ……分かりました! 頑張ってみます!」
ごせん像・アソリ「いえーい!」
……そういえば明日でもう一週間になりますが、私をこの世界に呼びつけた人は一向に姿を現しません。
もしかしたら魔法少女とかに狩られてしまったんでしょうか?
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