モバP「終わりと始まり」

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20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/23(月) 23:58:43.28 ID:uOlWpvdA0
 試合はあっという間に進んでいった。あたしはお兄さんと一緒に同点犠牲フライに叫んだり、ヒットにはしゃいだり、奪三振に喝采を送ったりした。ほんの短い時間だったけど、にわかだったけど、あの日のあたしは間違いなく近鉄ファンだった。
 11回の裏、近鉄がサヨナラ勝ちを収めたその後で、お兄さんが声をかけてきた。

「楽しかったか?」
「うん!」
「そら良かった。今日のこと、できれば忘れんといて欲しいな。よかったらお兄さんと約束してくれるか?」
「うん!わすれないよ!いつかまたあおうね!」

 お父さんとの写真を撮って貰って別れた。無邪気に「またいつか会える」なんて思いながら。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/25(水) 23:37:19.49 ID:accjczqR0
「あたしさ、あの後本当に近鉄が無くなったのが信じられなかったんだ。なのに野球ニュース見ても、初めから近鉄なんて無かったみたいな扱いでさ。あの時おにいちゃんが……プロデューサーが言った『好きなチームがなくなる』ってこういうことだったんだなって思った」

 懐かしそうに語る友紀。俺は黙ったままだった。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/25(水) 23:37:50.16 ID:accjczqR0
「あたしはキャッツしか興味無かったんだけど、それから他のチームも応援したりするようになったんだ。アイドルじゃなくて野球ファンとしての今のあたしがあるのも、プロデューサーのおかげ。野球ファン姫川友紀の物語はね、あの日から始まったんだよ」
「始まり……か。終わりじゃなくて」

 友紀の言葉を反芻する。20年前に始まった物語の結果が今俺の目の前にあるのだと思うと、置き場の無かった想いがすとんと収まったような気がした。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/25(水) 23:38:20.71 ID:accjczqR0
「友紀、ありがとうな」
「どうしたのさ改まっちゃって。ビール足りてないんじゃないのー?」
「俺まで飲んだら帰りに背負う人おらんくなるやろ、そういう話やなくて……」

 言葉を切る。これを言ってしまえば、俺が守り続けた……いや、囚われ続けた20年は意味がないものとして消えてしまうだろう。それでいいのだ。あらゆるものに始まりがある以上、いつかは必ず終わらなければならないのだから。死ぬ前に見せる光景として、今の友紀以上のものがあるだろうか?自らの死によって完成する、野球ファン姫川友紀という物語以上のものが。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/25(水) 23:39:13.86 ID:accjczqR0
「俺が今やっと『大阪近鉄バファローズ』を終わらせられた、ってだけやから」

 不器用に笑って、グラウンドに目を向けた。一瞬だけ、礼を言うかのように、あの紅色が見えたような気がした。

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/25(水) 23:51:33.49 ID:accjczqR0
野球絡みで畜生じゃないユッキが見たいなぁと思って書いたらこうなりました。野球自体に複雑な思いを抱いて葛藤しつつ6年間ユッキをプロデュースしてあまつさえ進んだ関係になっちゃってたプロデューサーってどないやねんって話は無しで。
近鉄最後のホームゲームをやった9月24日に間に合わなかったことだけが心残りです。終わります。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/26(木) 15:11:28.35 ID:znMYFlHB0
>>20>>21の間にあるべき↓の部分が抜けてました本当に申し訳ありません




 試合はオリックス有利に進んでいた。グラウンド整備中に買ってきたビール(結局友紀をなだめきれなかったのだ)を開ける友紀を見て、ふと思い出して尋ねてみる。

「なぁユッキ」
「んー?」
「6年ぐらい前に始球式の仕事しに来たときもここ座らへんかった?」
「あ、覚えてたんだ」
「そりゃまぁユッキのプロデューサーなわけやしな」

 忘れるわけがない。あの時友紀に俺が野球に抱く複雑な思いを伝えられなかったら、無意識に野球の仕事を遠ざけていた俺のままだったら、多分今の友紀はなかったはずだ。

「じゃあさ、20年前の近鉄の最後の試合の時にプロデューサーの横にいた女の子のことは?」
「……女の子に怒鳴ってもうた記憶ならあるけど……まさか」

 アルコールで多少回らなくなりつつある頭で、記憶を必死でたぐる。あの女の子の緑の瞳が、栗色の髪が、横にいる友紀と重なる。友紀はにっこりと笑って言った。

「久しぶり、おにいちゃん」
 
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/11/07(木) 01:38:21.58 ID:PKNqOcsvo
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