【ブルアカ】頑張れヒナちゃん

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/27(土) 20:55:38.10 ID:F26KAdyh0
ヒナはどうしてここにいるのか思い出せなかった。
視線を向けると、横倒しになっているホワイトボード。
意味のわからない模様でぐちゃぐちゃに落書きされていて、落っこちたマーカーやイレーザーがあちこちに散らばっていた。マーカーから外れたキャップが、足元に転がっている。
ここがどこかすらもよくわからない。
頭に靄がかかっているようで、書類がたくさん積もっている机があるが、それを見ていると頭が痛くなる。
空調の単調な音がずっと続いていて、それをガーッと破って、淹れたてのコーヒーの匂いが鼻をくすぐった。
よろよろと首を傾げながら目を向けると、先生がマグカップを持ちながらちょうど席につくところだったので、ヒナは、惹きつけられるようにフラフラと、一歩一歩、散らばっている書類を踏みしめて歩いていった。
背後に立つ。肩越しに覗くと、先生の視線の先にある紙面は、謎の言語で埋め尽くされていた。
目をゴシゴシと擦る。

「擦り過ぎたらダメだよ、ヒナ」

先生が急に振り返った。
子どものようでいて、どこか大人びて、いつもの安心させてくれる笑顔。戸惑い、先生のことをただ見つめて、

「先生。私はどうしてシャーレにいるの?」

と、尋ねた。


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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/27(土) 20:58:27.64 ID:F26KAdyh0
「どうしてって?」

「だって…その…だから…」

息がかかりそうなくらいに近くで、先生とヒナは見つめ合っていた。どぎまぎするヒナに先生がささやく。

「ヒナ」

「うん…?」

「どうしたの…?座りなよ」

隣の机と椅子を見ながら先生が言う。
先生が身を乗り出して、片手を椅子の背もたれにのせて、後ろにころころと椅子を引いた。そのままこちらをゆっくりと、上目遣いに窺ってくるので、ヒナは視線に負けて、おずおずと先生の隣へ座った。
先生は満足そうに頷いてから、机に戻って仕事を続けた。

「…」

ヒナがこっそり先生を見上げると、先生は大きく口をあけていて、白い奥歯が見えて、ドキッとした。

「ちょっと待っててね」

あくびを噛み殺しながら先生が優しく笑う。

「すぐに相手できるから」

「…」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/27(土) 20:59:36.76 ID:F26KAdyh0
今更ながら、部屋に時計がないことに気がついた。規則正しい針の音は聞こえてこなくて、さっきからずっと、空調の非現実的な響きが延々と続いている。

きまりが悪かった。指をもじもじ動かして、先生を遠慮がちに見上げる。

「あの…先生、悪いのだけど、私、本当に忙しくて…」

「ところでゲヘナでの引き継ぎは終わった?」

「…え?」

「ん?」

先生と目が合う。

「ヒナは風紀委員長を辞めて、これからずっと、シャーレで私と二人きりで働くんだよ?」

「…」

「永遠にね」

…?

「…」


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/27(土) 21:00:43.96 ID:F26KAdyh0
ヒナが心の底から戸惑って、瞬きを繰り返していると、心配そうな声で、

「さっきから様子が変だね…大丈夫?熱でもある?」

先生の指先がおでこに触れた。

「えっ?」

そのまま前髪をかきあげて、おでことおでこをこっつんこしようとする先生。

「えっ、ちょっ…、だっ、大丈夫だからっ…ええと、うん、そう、だった…わね…?え?そう…だったの?ん?んええ?」

先生の顔がとても近い。息遣いの音さえ聞こえる距離で、小さな声でぼそぼそ話しかけてくる。

「…調子が悪いなら、書類の山は放りだして、二人だけのシャーレ就任歓迎会でも開こうか?」

「あっ…えっ?えっ?」

「なーんて、でも後でちゃんと開きたいよね。今日は早めに終わらせて、一緒に買い出しへ行こうか」

「え、え」

「何でも食べたいものを買ってあげるよ」

先生は微笑んでから、また仕事に戻った。上機嫌に口笛を吹いている。

ヒナは前にかざした手の置き場に困って、意味もなく上げたり、下げたりしていた。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/27(土) 21:01:46.00 ID:F26KAdyh0
「???」

シャーレで、働く?私が?

ヒナは何もない机に手を置いて、神経質に表面を指で何度もさわる。視線はずっと、先生のことを見上げていた。

…先生と、一緒に?

「ヒナ」

唐突に先生が呼ぶので、ヒナの心臓がドキンと跳ねた。

「え、な、な、なに…?」

謎の高揚感に羽をパタパタと動かしつつ、先生が続けて口を動かすのを、ヒナはじっと見つめていた。

「ヒナ、あのね…」

「なに…?」

先生が書類から目を離す。ヒナはドキドキしながら先生の顔を見つめていた。

「実は…」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/07/27(土) 21:02:43.59 ID:F26KAdyh0
ジリリリリ!ジリリリリ!


目を開けると見慣れた濃い灰色の天井がそこにはあった。目覚まし時計が今日もまだ陽の出ていない朝を告げていた。

「…」

ヒナはいつもよりも緩慢に腕を動かして、乱暴に騒音の元を叩いた。

ジリッ…。

セミが死んだように音がやんで、部屋の中は早朝の静けさに包まれた。
ヒナはゆっくりと上体を起こして、見慣れた自分の部屋の中を見回した。
しばらくの沈黙の後に事態を理解すると、息を大きく吸い込んで、

「…はぁぁぁぁぁぁぁ」

とても大きなため息をついた。
心底がっかりしたようなため息だった。

「はぁ…」
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