速水奏「あなたの迂闊なプレゼント」

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1 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 22:48:11.99 ID:7rsY9P8g0

――事務所

ガチャ

速水奏「あら、プロデューサーさんだけ?」

デレP(以下P)「うん? ああ、奏。おはよう」

奏「おはようございます」パタン

P「まあ、俺もこの後出るけど……今日はラジオだったな」

奏「ええ。他には特になし」

P「特にないのに事務所きたのか?」

奏「ふふ」

奏「あなたに会いに来たの」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1719755291
2 : ◆WO7BVrJPw2 :2024/06/30(日) 22:53:52.90 ID:7rsY9P8g0

P「それは、どうも」

奏「ほら、明日はさらに用が無いでしょう? なら、会う予定もつくれないなって」

P「そうか。まぁ、確かにな」

P「今日は営業終わって帰ってきたら、いい時間になってるだろうし」

奏「いい時間って、8時とか、9時とか?」

P「そんなもんかな? 日付変わるほどじゃない。幸い明日は休みだし……」

奏「ふふ、あまり根を詰め過ぎないでね」

P「ああ。 ……じゃあ奏、1日早いんだけど」

奏「ちょっと待って、ストップ」

P「おっと?」

奏「……なにか、用意してくれているのは嬉しいのだけれど」

奏「でも、それはまだ。私が誕生日を迎えてから渡してもらう方が、嬉しいわ」

P「あー、そういうものか? じゃあ、分かった、そうしておく」

奏「ありがとう。……ふふ、でもね」

奏「本当に分かっているかしら?」

P「……?」
3 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 22:57:27.71 ID:7rsY9P8g0

P(ほどなくして奏は仕事に向かった)

P(6月30日。まだ梅雨の明けないこの時期は、雨が降っていなくても空気がじっとりとしている)

P(だからというわけではないけど……そんな予感はしていた)

−−−

P(営業の外出を終えて事務所に戻ると、今日の仕事をまとめ、明日のスケジュールをチェック。そろそろ帰ろうかという頃に――)

ピコン

P(社用のではない、自分のスマホにメッセージが入った)

P「…………」

『迎えにきて』

P「んー……」
4 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 22:59:59.50 ID:7rsY9P8g0

P(……さて)

P(ラジオ収録はとうに終わっており、仕事完了のメールも届いた)

P(それとは別に、俺の仕事が終わるころを想定してのメッセージ送信)

P(具体的な場所の指定はなし)

P「……」

『どこにいるんだ?』

P「……」

ピコン

『教えてあげない』

P「んん〜……」

P(そうなるとこれは謎かけか。いや、試されているのか)

P(こんな返しをしてきているということは、ある意味ヒント無しでもわかる場所ということか)
5 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:02:37.98 ID:7rsY9P8g0

P(前にも同じように、夜に迎えにいったことがある)

P(と言っても、彼女の家の近くだったが…… 果たして同じところだろうか)

P「……まさかあの海岸じゃないだろうな」

P(いや、ラジオが終わってからでは、まだ着ける時間じゃない)

P(移動しながらメッセージを書いているとしたら?)

P(それはさすがに何でもありになるな。奏は着いてから連絡するタイプだろう)

『安全な場所なんだな』

P「…………」

ピコン

P(フレデリカさんの顔をしたチューリップのスタンプが送られてきた)

P(こんなスタンプあるのかよ)

P(よく分からないけど、特に問題ないと判断しよう)

P(さて。速水奏はどこに行ったか)

P(荷物をまとめつつ、考えを巡らせる)
6 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:08:11.96 ID:7rsY9P8g0

P(奏が行きそうな場所。……奏と行った場所?)

P(奏が仕事終わってから、ここまでの時間で行けそうな場所……)

P(都内の交通は便利すぎて困るな)

P(……撮影で行った、タワーの見えるビル)

P(あそこは閉館時間にもなってないし、一番先にいってみるか)

P(閉館時間というとあの水族館は?)カチャカチャ カチ

P(……もう閉まっている、と)

『迎えにはいくけど』

P(ラジオ局から出た時間と……連絡してきた時間で、行けそうな場所か)

『待っていてくれよ』

P(既読はついた)

P(行けるところ、片っ端から行くしかないか)
7 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:12:29.35 ID:7rsY9P8g0

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P(会ったらとりあえず夕食だろうか。いや、もう食べてるか)

P(家に帰す前に、俺が帰れないような時間にならなければいいけど……)

P(そんな危惧が頭をよぎる)

P「……ここじゃないか」

P(思いついた展望台にはいなかった)

−−−

P(買い物に付き合わされたショッピングストリートを通り抜け)

−−−

P(バレンタインに待ち合わせをした喫茶店を覗きこみ)

−−−

P(そういえば映画を見たのはこの近くだったか)

P(気が付けば)

P(近場ですらこんなにも、奏との思い出が増えていた)

P「……」

P(それはそれとして)

P「いねぇー……」

P(気が付けば人通りは減り始め、夜が深まり始めている)

P(大抵の仕事場やスタジオも閉鎖されていく時間)

P(……あとは、あそこか)

P(居てくれと願いながら)

P(あの公園を目指した)

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8 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:17:39.12 ID:7rsY9P8g0

――奏の自宅近くの公園

P「なんだ」

P「やっぱりここか」

奏「うん。……やっぱりあなたは来てくれる」

奏「でも、今日は結構時間かかったかしら」

P「どこにいるか教えてくれなかったからなぁ……」

奏「……うん」

奏「来てくれるの、分かっていたのに、また呼んじゃった。……ごめんなさい」

P「まぁ、それはいいよ…… 見つかってよかった。何か起きていたら俺の監督責任だ」

奏「仕事としての心配だけ?」

P「……アイドルでなくても、こんな時間にひとりで出歩くもんじゃない」

奏「ふふ。そうね、そうだわ」
9 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:21:09.15 ID:7rsY9P8g0

P「ベンチ、横いいか」

奏「ええ」

ギシッ

奏「ねぇ。どこまで探しに行ったの?」

P「え? まぁ、行けるところまで」

奏「全部?」

P「全部、かなぁ。この時間だから、行けない場所も結構あったな」

P「閉館して締め出されていたら、ちょっと面白かったかもしれないけど」

奏「それは締まらない話だわ」

P「場所を教えなかったのは……」

P「まっすぐ来てほしくない理由があったんだろ」

奏「……あーあ」

奏「気付いてほしく無い時に、そういうのって気付かれちゃうのよね」

奏「……」

奏「……誰よりも早く」

奏「誕生日になった瞬間に、あなたにいて欲しかった」

奏「なんて言ったら、怒る?」

P「別に怒りは……いや、場所くらい教えてくれても問題なかったんじゃないか」

奏「ダメよ。そしたら、日付が変わる前に帰されるもの」

P「ああ、だから時間かかるようにわざと」

奏「そう」

P「そこまで織り込み済みだってんなら、怒ろうが反省しないじゃないか」

奏「ふふっ、そうね。その通りだわ」
10 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:28:48.83 ID:7rsY9P8g0

P「俺が日付変わるのに間に合わなかったら?」

奏「別に? プロデューサーさんが来てくれるまで待てばいい話だわ」

奏「そうすれば、一番に祝ってもらえるでしょう?」

P「俺が行くのは疑わないのか」

奏「だって来てくれているもの」

P「……そうだな」

P「わかった、日付変わるまでは付き合うよ」

P「奏の家も近いしな」

奏「……我儘でごめんなさいね」

P「相手は選んでるんだろう。ならいいんだ」

P「奏は、手がかからないから」

奏「ここまで付き合わせて?」

P「アイドルとして。仕事で俺が苦労したことはないんじゃないかってくらいだ」

P「だから、これくらいの我儘でちょうどいいんだろう」
11 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:39:26.72 ID:7rsY9P8g0

奏「……そういうの、ズルいわ」

奏「あなただけ大人みたい」

P「俺だけ大人だよ」

奏「……そうね」

ピピ

P「日付変わったか」

P「……」

奏「……」ジッ

P「……誕生日おめでとう」

奏「ふふ……」

奏「ありがとう」
12 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:43:36.74 ID:7rsY9P8g0

P「満足したかー?」

奏「ええ。……でも、あなたにここまでさせるほどじゃなかったかな」

P「来年からはちゃんと場所を言ってくれよ」

奏「あはっ、付き合ってくれるのね。……うん。そうする」

P「……さて、プレゼントは何がいい、と訊こうと思っていたんだけど」

奏「……? ……用意してくれていたんじゃないの?」

P「してない」

奏「え」

奏「じゃあ、お昼に渡そうとしたのは……?」

P「何が欲しいか聞こうとしていたんだよ」

P「何か用意していたっていうのは、奏が勝手に思い込んだんだ」

奏「…………」

奏「ちょっと、これじゃ私が悪いみたいじゃない」

P「奏が悪いよ」

奏「むぅ……」
13 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:44:31.63 ID:7rsY9P8g0

P「そうだな…… 俺への迷惑料と、罰としてリクエストは無しだな」

P「代わりに、俺の決めた誕生日プレゼントだ」

奏「別に……最初からそれで良かったけれど…… なに?」

P「権利をひとつ」

奏「権利……?」

P「どこかに連れていく権利」

奏「どこか、に」

P「奏が行きたいところに。場合によっては時間もかかるだろうけど、この先、どこでも、どこであろうと」

奏「……街でも、国でも?」

P「世界のどこへでも」

P「ドームのステージでも」

P「必ず、連れていこう」
14 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:45:56.32 ID:7rsY9P8g0

奏「……」

奏「それって、ステージ以外を答えられる空気?」

P「バレたか」

奏「野暮な人。そう言われたら、もう他に……」

奏「……Pさんの家、なんて言ってもいいのかしら?」

P「ああ、いい」

奏「……ふぅん?」

P「奏がそれを、本当に望むなら」

奏「そう」

奏「そうね」

奏「これ、答えるのはいつでもいいの?」

P「ん? まぁ……期限は付けなくてもいいけど」

奏「それなら……」

奏「Pさんの家には、いずれ自力で行くとして」

P「佐久間さんみたいなこと言うな……」

奏「どこかテーマパークとか、海外とかかしら」

P「え、普通に行先選ぶのか」

奏「だって、どこでもいいんでしょう?」

P「いや、うん、そう言ったけど…… ここはドームのステージにってところじゃ」

奏「そうね。でも、そっちは」

奏「あなたに着いていくだけで、叶いそうだから」

P「……はは、これは一本取られたな」

奏「ふふ……」
15 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:48:32.33 ID:7rsY9P8g0

奏「あ」

P「うん?」

奏「この権利って、プロデューサーさんにも有効?」

P「俺……ってどういうことだ?」

奏「あなたも一緒に来てくれるのかってこと」

P「あー…… 連れていくっていうなら、俺も行くことになるのか」

奏「それなら…… この日に休みを取ってくれるかしら」

P「えーと、平日か? 予定は……んー、調整はつくか」

P「なに、どこに行きたいんだ?」

奏「私の学校」

P「うん?」

奏「その日体育祭があるの」
16 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:50:25.75 ID:7rsY9P8g0

P「体育祭って……」

奏「ね。来てよ」

奏「保護者ですって顔できてくれれば大丈夫だから」

P「そういうのは、親御さんが…… ……いや、そうか」

奏「でしょう。来ないもの、うちは」

奏「あなたでいい、なんて言わない」

奏「あなたに来てほしいの」

奏「体育祭で頑張る私を見てくれるだけでいい」

奏「ステージで見ているでしょう? いつもと同じよ」

P「……そうか。わかった」
17 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/06/30(日) 23:57:03.38 ID:7rsY9P8g0

P「でも、それだけでいいのか、本当に」

奏「ええ、もちろん。今日、無茶なことに付き合わせてしまったもの」

奏「迂闊なプレゼントなわりには、奥ゆかしいところを見せられたでしょう?」

P「迂闊?」

奏「それはもう」

P「そうだったか……?」

奏「だって」

奏「連れていくの、新婚旅行、なんて言わないだけよかったでしょう?」

P「げ、げほっ、ごほっ……」

奏「ふふっ、ふふ」

奏「気を付けてね、Pさん」

P(奏が人差し指をたてて)

奏「次同じ権利が来たら」

P(そっと俺の唇に触れた)

奏「月の裏側、なんて言っちゃうから」





おわり

18 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2024/07/01(月) 00:00:06.82 ID:AXDvJ+KX0


お読み頂きありがとうございました。

奏、誕生日おめでとう!
[クリアブルーに誘われて]速水奏 を無事引けたので、
どうにか絡ませたくなって、書いている途中で軌道修正しました。



過去の奏SSです。よろしければどうぞ。

速水奏「はー……」モバP「はー……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546751465/

速水奏「とびきりの、キスをあげる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1555420447/

速水奏「特別な、プレゼント」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1561907176/

速水奏「今年のチョコが、渡せない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1581598611/

速水奏「恋愛映画は苦手」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1588939565/

速水奏「月の丘の裏側まで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1593528022/

速水奏「ずるいひと」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1615649135/

速水奏「練習はキスシーンの後で」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1625065215/

速水奏は癒したい
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1639879679/

速水奏「眠り姫には口づけを」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1656684020/

速水奏「私がなりたい、アイドル」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1680014394/

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/07/01(月) 19:59:44.59 ID:hDVBvzEKo
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