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【あんこ】迷宮の探索者【安価】
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◆tybR/mt68A
[saga]:2023/02/26(日) 21:42:37.74 ID:fUPi8LL40
夜の闇を切り裂くような甲高い悲鳴がどこかから響いた。
彼女はベッドの上で目を覚まし、半覚醒の朦朧とする意識の中で、鳥肌が立つような嫌な予感を感じて
窓扉を開けてから、表の通りの様子を伺う。
するとそこには真夜中だというのに人が数人いて、松明やランプを片手に慌てた様子で道を急いでいる。
尋常ではない事が起こったらしいと察知し、彼女は階段を降りて居間へと向かう。
既にそこには同じく飛び起きたであろう、父母と兄の姿もあった。
「一体、何が起こってるの?」
髪を乱しながら父に問いかける母だが、父も今の状況を理解できていないらしく首を振る。
「分からん。 もしかしたら、町中に危険な魔物でも侵入したのかも知れん。 兎に角、俺達は領主様の城へと向かわねば。
お前達は避難して……、いや、良く分からない内に無暗に動く方が危険か。 この家に隠れていなさい。 二階の部屋に鍵を
掛けていれば、魔物の襲撃でも凌げるだろう。 この家にはお前しか戦える者が居なくなる。 お母さんを頼んだぞ」
「は、はい、お父様」
短く慌ただしいやり取りが終わると、父と兄は家の外へ飛び出して城の方へと走っていった。
領主様に仕える役人である父と兄は、有事の時にはまず登城しなければならない。
二人を見送り、暫く彼女は、不安がる母と二人で二階の部屋に鍵を掛けて、僅かに開けた窓から外を伺っていた。
せわし気に部屋を行き来する母は、何だか子供の時よりも小さく見えた。
もう守られているだけの子供ではいられない。
父の言う通り、私が母を守らなければ。
彼女は内心でそう決意を固めるが、窓から見える外の状況は悪くなる一方だった。
人の形はしているが、猫背の獣のような速さで走る何かが通りを幾度も通り過ぎたのだ。
そして断続的に苦痛に満ちた人の悲鳴が聞こえ続け、人の形をした何かは数を増している。
更に悪い事には、何時しか焦げ臭い煙もどこかから漂ってきた。
町のどこかで火事が起こっている。
もしここまで火が回って来れば最悪、化物が闊歩する外に焼け出される事になるかも知れない。
これが自分一人であれば、彼女は家を抜け出し、城や教会への避難を試みただろう。
身の軽さには自信があるし、狭い路地を通れば化物に見つからないで移動出来る可能性が高い。
だが母と二人では、もし化物に見つかった場合にどうにもならない。
一体だけなら魔法で何とか出来るかも知れないが、化物はどれだけ居るのかも分からない。
「大丈夫だよ、母さん。 家の鍵は頑丈だし、ここに居れば安全だから」
「そ、そうよね……、でもね、もしもの時はあなただけでも逃げて。 魔法が使えるあなたなら一人で逃げられるかも知れないわ」
「変な事言わないでよ! 母さんを見捨てる訳ないじゃない!」
母は怯えながらも自分の心配をしてくれている。
その姿に彼女は、何としても母を守らなければという決意を新たにした。
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