西城樹里「タケウチ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:38:48.07 ID:AXuZ3osI0
樹里「…………」

夏葉「今は余計な事を考えるのは止めましょう、樹里」

樹里「夏葉……」

夏葉「あの黒井社長に何らかの思惑があるのは間違いないでしょうけれど……
   発案者である彼の想像をも超える、皆の度肝を抜くようなステージを見せつける」

夏葉「ここまで来た以上、私達に出来ることでアッと言わせた方が面白いと思わない?
   アイドルらしく、ね?」ニコッ

シャニP「夏葉の言う通りだ。俺達は俺達でできる事に集中しよう、西城さん」

樹里「……そりゃあ、分かっているけどよ」ポリポリ


コンコン ガチャッ



楓「お疲れ様です、皆さん」


凛「か、楓さん!?」

咲耶「……!」ピクッ
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:40:34.10 ID:AXuZ3osI0
未央「私達もいるよー、しぶりん!」ヒョコッ

卯月「皆さん、レッスンお疲れ様ですっ!」


樹里「おー差し入れか、ありがとな。
   つっても……」

夏葉「まさか、346プロのトップアイドルが陣中見舞いに来てくれるなんてね。
   とても光栄だわ」

楓「ふふっ……いいえ、こちらこそ」ニコッ

凛「プロデューサーから頼まれたんですか?」

楓「はい」


楓「僭越ながら、『クリスタルウィンター』に出場される皆さんの活動を、
  サポートさせていただくことになりました」

楓「あまりお役に立てないかも知れませんが、何かあったら何でも仰ってくださいね」ニコッ


智代子「わ、私達のサポート!? 楓さんが、ですか!?」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:42:09.04 ID:AXuZ3osI0
卯月「さすがに、給水とかまで楓さんにしてもらう訳にはいかないので、
   私達もお手伝いをさせていただくんですが……」

未央「本人はそういう雑用もノリノリでやりたがるからさー、ホント困っちゃうよ」

楓「たくさんいると、あぶれた私は混雑要員、なんて、ふふふっ♪」ニコニコ

シャニP「は、はぁ……」

夏葉(……噂には聞いていたけれど、これが)

樹里(下手にツッコむと火傷しかねねぇから、適当に相槌打っとけ)

智代子(う、うん……)


咲耶「……おや、もうこんな時間か」

咲耶「夏葉、樹里。そろそろ次の仕事に行った方が良くないかい?」

夏葉「あら、本当ね。プロデューサーも外で待っている頃だわ」

未央「何かあるの?」

樹里「ユニットのPR活動が忙しいんだよ、ったくプロデューサーのヤツ」
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:45:03.34 ID:AXuZ3osI0
凛「大事な仕事なんだから、文句を言わない」

樹里「はいはい」

智代子「私達も夕方からラジオ出演があるんだったよね、凛ちゃん?」

凛「うん。何かあったら面白いフォロー頼んだよ、智代子」

智代子「いや、それどういう意味、凛ちゃん!?」


楓「ふふっ。皆さん、すっかり仲良しなんですね」

樹里「おかげで退屈しなくて済んでますよ」

未央「……ジュリアンが敬語で話してんの、初めて見た気がする」

樹里「はぁ!? あ、当たり前だろ、年上なんだし!」

夏葉「あら、私は?」ニュッ

樹里「だー!! うるせぇあっち行け!」

智代子「根が体育会系だから普通に礼儀正しいんだよね、樹里ちゃん」

シャニP「なるほど」メモメモ

樹里「余計なことメモんな!!」

楓「ふふふ♪」ニコニコ
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:46:19.46 ID:AXuZ3osI0
夏葉「じゃあ、行ってくるわね」フリフリ

樹里「アタシらがいなくてもサボんじゃねーぞ、特にチョコ」

ガチャッ バタン


智代子「……私に対する樹里ちゃんの評価の低さたるや」ガクッ

卯月「ま、まぁまぁ智代子ちゃん、今までの積み重ねがあるわけですし」

智代子「それ言う!?」

未央「しまむー、なかなかにヒドいね」


楓「あ、そうそう」

凛「楓さん、どうしたんですか?」


楓「皆さんのユニット名は、何ていうんでしょう?」

智代子「ああ、それはですね……!」
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:48:15.55 ID:AXuZ3osI0
ブロロロロロ…


武内P「『TAKE−UC』」

武内P「“UC”とは、ICT用語の一種です」

樹里「あいしーてぃー?」


夏葉「“Unified Communication”」

夏葉「掻い摘まんで言えば、電話やメール、ウェブ会議等の多様な情報伝達手段の統合と、
   これによる業務効率化を図る仕組みのことね」

樹里「よく分かんねぇ。
   アタシらの活動は、別にネットとかでどうこうするようなモンでもねぇだろ」プイッ
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:50:18.74 ID:AXuZ3osI0
武内P「283と346、そして961……」

武内P「様々な芸能事務所のアイドル達が統合し、さらなる輝きを放つことを旨とし、
    この言葉を採用しました」

武内P「同時に、“UC”にはもう一つの意味合いも持たせています」

樹里「もう一つの意味合い?」


武内P「私達の向かう道は、後戻りはできない」

武内P「すなわち、キャンセルはできない、という意味です」


夏葉「“Uncancellable”……ふふ、なかなか洒落てるじゃない」

樹里「なるほどな、『TAKE−UC』……
   言い換えりゃ「前進あるのみ」ってトコか?」

武内P「そうです」

樹里「ヘッ、面白ぇ」ニヤッ
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:51:18.02 ID:AXuZ3osI0
〜イベント会場〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…


武内P「本番までは、こちらで待機をするようにとのことです」ガチャッ

樹里「はーい」

武内P「私はスタッフの方々と確認がありますので、一旦失礼します」

夏葉「分かったわ。お願いね」

バタン



樹里「……」スッ

樹里「…………」シャカシャカ
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:52:50.85 ID:AXuZ3osI0
夏葉「……今度歌う新曲?」

樹里「ん? あぁ」スッ

夏葉「アタシ、あんまり物覚えが良い方じゃねーからな」


夏葉「そんな事ないわよ。
   この間のレッスンだって、一度も止まらずに踊りきったじゃない」

樹里「そんなんで満足してちゃダメだろ。
   ちゃんと叩き込んで、曲の解釈?とか、しっかり深めとかねぇと」

樹里「本番までそんなに時間ないんだし、
   完成度を高めるために、無駄な時間は作りたくねぇ」

夏葉「……ふふ、さすがは私達のセンターね」

樹里「ほっとけ」

コンコン

樹里「ん? プロデューサーかな。どうぞー」


ガチャッ

女A「こんにちはー……あら、あなた達は」

女B「283プロの有栖川夏葉さんと、961プロの……西城樹里ちゃんね」

夏葉「あら、共演者さんね。どうも、今日はよろしくね」ニコッ

樹里「そっか、アンタ達もアイドルなん…」
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:54:26.55 ID:AXuZ3osI0
女C「ちょっと、一緒にしないでくれる?」

樹里「え?」


女C「あなたみたいな事務所のネームバリューだけで売れてるコ見ると、虫酸が走るのよね」

女B「そうそう、おまけに色々と良くない噂もあるでしょ?
   共演したコを蹴落として泣かしたとか、コネ使って出演をねじ込んだとか」

女A「SNSとかでもぶっ叩かれてるけど、火の無い所に煙は立たないっていうしさ。
   アンタみたいなのと関わり合いになりたくないの」

樹里「あ、あの……」

女A「だから、さっさと出てってくれる?
   迷惑してんの分かるでしょ、業界全体がさ」

樹里「……!」


女B「アハハ! ちょっとー、それ言い過ぎ。可哀想じゃん」

女C「あたしはそう思わないけどなー。
   だってもっとヒドい目にあったコだっているし。コイツのせいでさ」
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:56:08.02 ID:AXuZ3osI0
女B「だからぁ、そういうのロジハラっていうんだって。訴えられるよ?」

女A「確かに、そういうのの専門家さんだもんねぇ、961プロは? フフッ♪」

女C「アッハッハ…!」

スッ

女C「へ?」


夏葉「この子に文句があるというのなら、私が聞くわ」

樹里「おい、夏葉」

夏葉「本当の樹里を知ろうともせずに、よくもそんな言葉を投げかけられるわね。
   見たくないものを視界に映さない、都合の良い視野をお持ちなのかしら」


女B「な、何よ!
   アンタだって大企業のお嬢様のくせに、ストイックぶっちゃってさ!」

女A「ちょ、ちょっと。この人は敵に回さない方がいいって。
   何されるか分から…」

夏葉「対峙するものが強大であるなら、尻尾を巻いて逃げると?」

女A「えっ?」


夏葉「威勢を張る相手を選んでいるのなら、あなた達の主張は偽物よ」
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:57:39.38 ID:AXuZ3osI0
女C「! こ、この…」

夏葉「真っ向から勝負を挑む度胸も無いくせに、一丁前に業界のお説教だなんてお笑い草ね」

女A「くっ……!」


樹里「夏葉、もういいよ」

夏葉「いいえ、私には許容できないわ。あなたが馬鹿にされて良い道理なんて…」

樹里「その辺にしとけって言ってんだ。
   ムキになるなんざ、アンタらしくもねぇ」

夏葉「……そうね」スッ


女B「あ、あの……」

樹里「アンタ達が癪に障る気持ちも分かるよ。
   961プロなんざ、業界の闇の象徴っつーか、そういうイメージばっかだもんな」

樹里「アタシだって心底気に入らねぇし、許せねぇ所もたくさんあるけど……
   成り行きで所属している以上、そういう批判を受けるのも、しょうがねぇって思う」
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:00:02.62 ID:VfNpJpls0
樹里「だから、そういうのも引っくるめて、何つーか……頑張るよ」

樹里「今はアタシを見て、良くない印象持っちゃう人もいるかもだけど、
   アイドルやる以上、笑顔になってもらえるようになりてぇし」

樹里「やるって決めたからには、ハンパはできねぇからな」

女A「西城樹里……」


樹里「あぁ、だけどさ」

樹里「もし悪口を言いてぇんなら、アタシ一人だけにしとけよ」

樹里「夏葉や咲耶、チョコも……凛も。
   もし他のみんなまで馬鹿にするってんなら、アタシは許さねぇからな」


女B「…………」

女C「あ、あたし達だって、別に悪口言いたい訳じゃ…」


コンコン

夏葉「? どうぞ」


ガチャッ

冬馬「こ、こんにちはーっす! 今日はよろしくお願い……あん?」
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:01:31.79 ID:VfNpJpls0
樹里「なっ!? お、おめーは、鬼ヶ島!」

冬馬「天ヶ瀬!!冬馬だ! いい加減覚えろ!」クワッ!

樹里「冗談だよ」


北斗「おや、これはいつぞやのエンジェルちゃん」

翔太「最近ユニット組んだんだって? クロちゃんもやること派手だねー」


女A「えっ、ウソ!? ジュピターの北斗様!!?」

女B「翔太クンと冬馬クンもいるー!!」

女C「ふぁ、ファンなんです!! ツーショしてもらえませんか!?」グイィッ


冬馬「ぉわっぷ!? な、何だコイツら! お前らもアイドルだろ!」

北斗「おやおや、そういうのは事務所を通してもらいたいな」フッ

翔太「僕は大丈夫だよー。
   ただ事務所にバレたらウルサいから、お姉さん達とのヒミツってことで♪」

女達「キャアアーーーッ!!(裏声)」
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:03:32.90 ID:VfNpJpls0
樹里「…………」

夏葉「……つくづく、色々な人達がいるものね、この業界」

樹里「雑にまとめんじゃねーよ」


北斗「ところで……先ほどは、何やら穏やかでない空気だったようだが」

女A「えっ!? い、いえいえそんな全然〜!」

女C「楽しくお喋りしてただけですよ、ねぇー樹里ちゃん?」

翔太「そうかなぁ? 廊下の方まで響いちゃってたけどねー、話し声」

女B「うえ゛っ!?」


冬馬「くだらねぇ。
   気に入らねぇヤツがいるなら、グチグチ言わずに力でねじ伏せりゃいいだけじゃねえか」

冬馬「おい、西城」

樹里「あん?」
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:05:23.83 ID:VfNpJpls0
冬馬「お前の力は認めてる。
   だが、それでも俺達の足元には及ばねえし、及ばせねぇ」

冬馬「お前も黒井のオッサンの下についてんなら、
   小細工なんかしないで、せいぜい実力で証明してみせろよ」

冬馬「どんだけ頭数揃えた所で、急造ユニットのチームワークなんざ知れてるぜ!
   『クリスタルウィンター』で勝つのは俺達ジュピター!! だぜ!!」ビシッ!


北斗「フッ。相変わらず素直じゃないな、冬馬」

翔太「今の冬馬君の言葉を翻訳すると、「本戦でお互い良い勝負をしよう」って話ね」

冬馬「な!? こ、こらっ、余計なこと言うんじゃねぇ!」プンスコ!

翔太「ほら、否定しないでしょ?」


夏葉「なるほど、それがあなた達の矜持ということね」

樹里「ヘヘ……冬馬」

冬馬「な、何だよ」


樹里「お前のそういうトコ、嫌いじゃないぜ」ニヤッ
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:12.05 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

カタカタカタ…

シャニP「……それでは、私はこれで」

武内P「はい。新曲の手配、とても助かりました」ペコッ

シャニP「いえ、これくらいは何でもありません」

シャニP「メインで指揮を執るあなたの方が大変なのですから、
     俺に出来ることは何でも言ってください」

武内P「……ありがとうございます」

シャニP「こちらこそ。では、お先に失礼します」ペコリ

武内P「はい。お疲れ様でした」

ガチャッ バタン



武内P「……」グイッ


カタカタカタ… カタカタ…
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:55.16 ID:VfNpJpls0
〜レッスンスタジオ〜

コツ…



コツ…





ガチャッ


楓「…………」ソォー…

楓「……」キョロキョロ



楓「…………」ゴソゴソ
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:08:11.94 ID:VfNpJpls0
タタン! キュッ! タンッ!


タンッ! タッ! タッ タン!


楓「……ッ! …………!」キュッ! タタッ! タン!

楓「フッ……ッ……!」タッ! タタンッ! タタン!





咲耶「アナタほどの人でも、居残り練習をするんですね」



楓「!?」クルッ


咲耶「……すまない。邪魔をするつもりは無かったのだけれど」

楓「咲耶ちゃん……どうしてここに?」
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:09:46.18 ID:VfNpJpls0
咲耶「忘れ物を取りに来た」

咲耶「……という訳ではなくて、私も少し、秘密の練習を」

咲耶「けれど、まさか思わぬ先約がいたとは、ね」フッ

楓「…………」


咲耶「今の振付は、私達の新曲ですよね?」

楓「……そうです」

楓「咲耶ちゃん達のサポートを、プロデューサーからお願いされましたから。
  私も、ひと通り踊れるようにならないと」

咲耶「果たして、本当にプロデューサーからの依頼だったのだろうか」

楓「……え?」


咲耶「私の見立てでは、アナタの方からプロデューサーに掛け合ったと思っているのだけれど、どうかな?」



楓「……ふふっ、アタリです」ニコッ
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:11:07.12 ID:VfNpJpls0
楓「どうして? と、理由を聞きたいでしょうか」

咲耶「それが許されるなら」

咲耶「だけど……アナタが自分から、私達に明かしてくれる日が来るのを待ちたいと思います」

楓「……ありがとうございます。咲耶ちゃん」


咲耶「良かったらご一緒しても? 深窓の歌姫」

楓「えぇ、もちろんです。それと……」

楓「私に敬語は使わなくて構いません。どうか普段通りに、ね?」ニコッ

咲耶「フフッ……ああ、了解した」ニコッ



タンッ! キュッ! タタン…!
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:12:47.96 ID:VfNpJpls0
〜料亭〜

女将「では、ごゆっくり」スッ

スゥー ストン…



トクトクトク…

今西「すまないね、付き合わせて」

ちひろ「いえ……」


今西「昔はよく、先代の会長ともここに来ていたものさ」

今西「接待でも利用したし……表ではとても話せないような密談もした」

今西「ここに来るのも、今日が最後になるかも知れないね」

ちひろ「…………」


今西「たまには君も、気分転換が必要なんじゃないかと思ったんだ」
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:14:22.62 ID:VfNpJpls0
ちひろ「私は……」


ちひろ「……今西部長」

今西「何だい?」


ちひろ「私は入社以来、ずっと346プロに尽くしてきたつもりでした。
    ずっと、事務所の歯車になることを目指してきました」

ちひろ「誰よりも早く出社して、最後に退社するのなんて序の口。
    休日に仕事を持ち帰ることだって、何も苦ではありません」

ちひろ「なぜなら、それが私の大好きなアイドル達のためになると信じていたからです」

今西「…………」


ちひろ「それが……何だか、よく分からなくなっちゃいました」



今西「なら、ここを辞めるかね?」
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:17:23.26 ID:VfNpJpls0
ちひろ「…………」

今西「事務職は、どの業種にも必要不可欠な存在だ。
   君ほどの人材であればどこでもやっていけるし、346プロという職歴はそれなりに箔にもなるだろう」

今西「君もまだ若い。いくらでもやり直せる」

今西「と……あんまり言い過ぎても薄情かな? アハハ」ポリポリ


ちひろ「最近、気づいたことがあります」

ちひろ「私が大好きなもの、応援したかったもの。
    それは……アイドルだけじゃなかったんだ、ということ」

ちひろ「いいえ、ひょっとしたら……彼らもアイドルの一部と言えるのかも知れません」

今西「彼ら?」


ちひろ「プロデューサーさん達のことです」

ちひろ「アイドルもプロデューサーも、お互いに無くてはならないもの……
    皆さんは、仕事のパートナーである以上に、固い絆で結ばれています」

ちひろ「その絆の輝きを、私は応援したかったんだと気づきました」

ちひろ「それができる仕事は……今の業種を置いて他にありません」
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:20:17.96 ID:VfNpJpls0
今西「そうか」

ちひろ「だから……今西部長」


ちひろ「今からでも、常務と黒井社長を説得することは出来ないのでしょうか?」

ちひろ「それが叶わないのなら、
    せめてお二方の手からプロデューサーさんを遠ざけることは、出来ませんか?」

今西「千川君……」

ちひろ「あの人はアイドルを愛しています!」

ちひろ「みんなも、あの人を慕っています。なのに……事務所の都合で……!」


今西「……残念だが、それが組織というものだ」

今西「時代は移り変わる。そのしわ寄せは、誰かが引き受けなければならない」

今西「少なくとも常務は……もう彼のことを、必要としないだろうね」

ちひろ「! …………ッ」



今西「私もね……ただ指をくわえて見ているだけ、というわけではないんだ」
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:21:43.21 ID:VfNpJpls0
ちひろ「……え」


今西「それを防ぐ手段が、一つだけある……かも知れない」

今西「だがそれは、あるいは業界全体をも潰しかねない方法だ」

今西「君は、それを選択する必要があると思うかね?」

ちひろ「い、今西部長……?」


今西「先日、283プロの天井社長と話をしてね」

今西「とある提案を受けたのだが……
   それはきっと、思わぬ化学反応を引き起こすものだったのだろう」


今西「今夜のレッスンスタジオで、彼女が居残りをしているとすれば、ね」
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:26:36.12 ID:VfNpJpls0
〜後日、283プロ〜

ジューーッ…!

智代子「…………ッ」ゴクリ…

樹里「まだひっくり返すんじゃねぇぞ」

夏葉「ま、まだなの、樹里?」ジュー…

樹里「アンタのはさっき入れたばっかじゃねぇか」


凛「みんなで樹里のお料理教室、か」

咲耶「仲良きことは美しきことかな、だね。
   卯月、紅茶のお替わりでも?」

卯月「え、うえぇっ!? あぁいえ、自分で出来ますから」

咲耶「構わないさ。
   せっかく来てくれたのだから、ゆっくりするといい」スッ

卯月「は、はひ……」ポーッ


未央「……じぃーーーっ」
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:27:43.89 ID:VfNpJpls0
凛「どうかした、未央?」

未央「ねぇさくやん」

咲耶「? なんだい?」


未央「最近、何か良いことあった?」


咲耶「えっ」ピクッ

未央「あっ、ほらーー!! やっぱり良いことあったんだ!」

卯月「ちょ、ちょっと未央ちゃん、いきなりどうしたんですか?」


未央「いつものさくやんなら……」

未央「フッ……ああ、良いことならたくさんあるさ。
   こうして皆と共に過ごすひとときこそが、私にとっての宝物だよ(イケボ)」

未央「ぐらいの事をサラッと言ってはぐらかすじゃん!
   何今の「えっ」って普通のリアクション!?」

咲耶「あ、いや、あの……」
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:29:57.29 ID:VfNpJpls0
樹里「うるせーな、何騒いでんだよ未央」

夏葉「あの、ま、まだかしら、樹里」ジュー…

樹里「ん、いいぞひっくり返して」

夏葉「……」ソォーー…

樹里「ひっくり返したら蓋して蒸し焼きだからな」

夏葉「は、話しかけないで、集中が乱れるわ……!」ソォーー…


未央「なーんか最近、お肌のツヤとかも良さげだし、
   立ち振る舞いとかルンルンな感じに見えたんだよねー」ウーム

咲耶「よ、よく見てくれているんだね、未央」

智代子「そう言えば、咲耶ちゃん最近遅くまで居残り練習してるよね?
    なのに、確かにすごく元気そうだなぁって」


咲耶「えぇと……」ポリポリ

凛「ふーーん」

咲耶「な、なんだい、凛?」


凛「ひょっとして……ウチのプロデューサーと、何かあった?」
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:31:18.39 ID:VfNpJpls0
咲耶「へ?」

卯月「うええぇぇぇっ!?」

樹里「なぁっ!?」ガタッ!

智代子「樹里ちゃん、凄い反応ッッッ!」

夏葉「樹里、大変よ!! 蓋を開けたらフライパンから煙が!!」ジュー…

樹里「ただの湯気だよ!! それより……!」


咲耶「ご、誤解だ皆! それは本当に誤解だよ!」ブンブン!

凛「必死に否定している所がますます怪しいんだけど」

未央「らしくないねぇ。素直に白状したまえよ、エェー、さくやん?」ウリウリ

樹里「人様んトコのプロデューサーに、咲耶、お前……!」ワナワナ

咲耶「ほ、本当だ! 信じてくれ!
   私はプロデューサーの方とは何も…!」

凛「プロデューサーの方“とは”?」

咲耶「!?」ギクッ!
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:33:02.86 ID:VfNpJpls0
凛「プロデューサーじゃない方とは、何かあるの?
  ていうか、じゃない方の人がいるの?」ズイッ

咲耶「あぁ、いや……言葉のあやさ、別に…」

凛「目を見て離そうよ、咲耶」ズズイッ

咲耶「そ、そんなに怖い目をされたら萎縮してしまうよ、凛」

未央「おおぉ、名探偵しぶりん、パねぇ……」ゴクリ


智代子「何やらあちらは、修羅場を迎えているようですなぁ」モグモグ

夏葉「あら、本当に美味しいわね! これなら家でも作れそう」パクパク


凛「346プロに居残って、誰かと一緒に何かをしてるってことだよね?
  今の話からすると」

樹里「同じユニットのメンバー同士、隠し事はナシにしようぜ、なぁ?」

咲耶「う、うーん……!」


ガチャッ バタン

シャニP「ただいま戻りました、って……おお、皆来ていたのか」
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:34:28.97 ID:VfNpJpls0
智代子「あっ、プロデューサーさんお帰りなさい!」

シャニP「おぉ、美味そうな匂いがすると思ったら、ハンバーグか」

夏葉「プロデューサーも食べてみて! 樹里のハンバーグってすごいのよ!」

シャニP「西城さんの? ……ん、美味いな」モグッ


咲耶「あ……プロデューサー!」ティン!

シャニP「皆、お疲れ様。フェスに向けたミーティングか?」

咲耶「あぁ、そうそう。
   凛、実は私は、こっそりプロデューサーと内緒の打合せをしていたんだ」

凛「えっ?」
シャニP「えっ?」

樹里「346のあのカタブツじゃなくて、283プロのプロデューサーとか?」

咲耶「ああ」


シャニP(咲耶、何の話だ?)ヒソヒソ

咲耶(すまないプロデューサー、この場は話を合わせてくれ……)ヒソヒソ
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:37:19.05 ID:VfNpJpls0
咲耶「当日まで秘密にしておきたかったのだけれど……仕方が無い」

咲耶「ほら、そろそろ近づいてきただろう?
   11月26日が何の日か、皆は知っているかい?」

卯月「11月26日?」

未央「それって……」


樹里「……ひょっとして、アタシの誕生日か?」

智代子「おおぉ、そ、そうでした!」ポンッ


咲耶「それに向けたサプライズを、プロデューサーと計画していたんだ」

咲耶「本当なら、この事務所に戻ってから作戦会議をすべきなのだけれど、
   時間が遅くなってしまうからと、彼が気を利かせて、346プロまで来てくれてね」

咲耶「そうだろう、プロデューサー?」
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:38:26.13 ID:VfNpJpls0
シャニP「あ、あぁ……
     ただ、俺も年頃の女の子に何をプレゼントするのが良いか、分からなくてさ」

シャニP「ちょうど皆にも、相談してみた方がいいんじゃないかって思ってたんだ。
     もっとも、西城さんもこの場にいたんじゃ、サプライズ計画もご破算だけどな」

咲耶「フフッ、そういう事さ」


夏葉「樹里への誕生日プレゼントなら、私に考えがあるわ!
   エプロンにしましょう!」

未央「エプロン? 何で?」

夏葉「こんなに美味しいハンバーグを作ってくれるなら、毎日でも食べたいでしょう?」

樹里「アタシを専属シェフにでもするつもりかよ」

卯月「じゃあ、はいっ!
   樹里ちゃんの新しいレッスンウェアとか、シューズはどうでしょうか?」

樹里「おー、それいいな卯月。ちょうどヘタッてきたから助かるぜ」

卯月「えへへ」ニコニコ
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:39:52.04 ID:VfNpJpls0
凛「なるほどね……それなら、秘密にしたがるのも無理はないか」

咲耶「分かってもらえて何よりだ」

樹里「ていうか……あれ?
   おい、チョコ、夏葉、ハンバーグどうした!?」

智代子「先ほど美味しくいただきました!」

夏葉「我ながら会心の出来だったわよ!」

樹里「後でソース作るっつったじゃねーか!!」

シャニP(あ、ソースも作る予定だったのか)


咲耶「おやおや……フフッ、まぁ次もこの機会を設けようじゃないか。
   樹里。この料理教室、今度は私にも手ほどきをしてくれないかい?」

樹里「別にいいけど、余計なスキンシップとかはナシだかんな」

咲耶「おっと、先手を打たれてしまったね」

樹里「する気だったのかよ」


凛(……まぁ、やっぱりいつもの咲耶、か)

凛(ただ……考えすぎかな。どことなく言い訳がましい気がしたような……)
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:41:05.37 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

咲耶「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー……!」タン! タンッ!


咲耶「……ッ…………フッ!」キュ! タタン! ビシッ!

咲耶「っ……はぁ……はぁ……」ガクッ


楓「とても良くなってきていると思います、咲耶ちゃん」

咲耶「そ、そうだろうか……フフ、アナタに言われると、自信になるよ」

楓「ふふっ」ニコッ



咲耶「……実は今日、少し危ういことがあったんだ」

楓「危ういこと?」

咲耶「この秘密練習について、凛達に疑われてね」

楓「まぁ」
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:43:24.17 ID:VfNpJpls0
咲耶「ひとまずは、ウチのプロデューサーの助けも借りて、何とかごまかせたのだけれど……」


スクッ

咲耶「この時間を皆に秘密にしているのは、独りよがりな私個人の意志だ。それでも」

咲耶「やはり楓……今一度、尋ねてもいいかな。
   どうしてアナタが、こんなにも私達に尽くしてくれるのかを」

楓「…………」


咲耶「……アナタが樹里と智代子を特別視していたのは、知っているよ。
   自分の仕事に、直々に指名して招待するほどだ」

咲耶「それと、関係があることかい?」



楓「……はい、そうです」

楓「端的に言えば……償い、ですね」

咲耶「償い……?」
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:45:16.15 ID:VfNpJpls0
楓「それ以上は、今は言えません……ごめんなさい、咲耶ちゃん」


咲耶「……ありがとう、楓。
   ではお返しに、私からも秘密を一つ明かそうか」

楓「えっ?」

咲耶「アナタだけでなく、他の誰にも明かしていない秘密さ」


咲耶「実は、先日の楓のミニライブ、私も観に行っていてね」

楓「えぇ。それは、凛ちゃん達からも聞いています」

楓「樹里ちゃんの行動を見守るために、咲耶ちゃんも凛ちゃん達も来ていたって」

咲耶「いや、違うんだ」フルフル


咲耶「私にとっては、樹里があの場にいた事こそが偶然だった」


楓「……それは、どういう…?」

咲耶「純粋に、楓……一ファンとして、アナタのライブを観に来ていたんだ」

楓「えっ」


咲耶「アナタがアイドルになる前……
   モデル時代から、私にとって高垣楓は憧れの存在だったのさ」
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:54:01.54 ID:VfNpJpls0
楓「咲耶ちゃん……」


咲耶「たまたま手に取った雑誌に、アナタの写真が載っていて……目を奪われた。
   この人のようになりたいと思って、モデルの勉強をしたんだ」

咲耶「高校生以上なら活動させてくれる事務所を見つけて、進学してすぐに契約した。
   前知識は十分に得たつもりだったけれど、なかなかアナタのようにいかなくてね……」

咲耶「少しずつ軌道に乗るようになってからも、私はアナタの後を追いかけ続けた。
   どんな細かい記事でもチェックをして、それで……アナタがアイドルに転身したことを知った」

咲耶「すると、今度はアイドルについて知りたくなったんだ」

咲耶「モデルとしても、あれほど脚光を浴びていた人が、何の前触れも無くアイドルになる……
   一体どんな魅力を見出したのか、興味を持つなという方が無理があるだろう?」


咲耶「そんな折、今の事務所のプロデューサーが、私をスカウトしてくれた」

咲耶「最初は、少し迷ったんだ。
   アナタと同じ事務所に行った方が、会える可能性も高まるんじゃないか、ってね」

咲耶「でも、私はあえて違う事務所を……283プロを選んだ。
   追いかけるだけでなく、いつの日か高垣楓と肩を並べる存在になるために」


咲耶「そして今……同じ立場で相まみえる日を待ち焦がれ続けた高垣楓が、私の目の前にいる」

咲耶「フフ……緊張を抑えるのに、私がずっと前から必死なのが分かるかい?」
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:55:51.02 ID:VfNpJpls0
楓「……そうだったんですか」


咲耶「アイドルに転身してからも、アナタの輝きは留まることを知らない。
   いや、それまで以上に眩い光を放ち続けている」

咲耶「楓……私には、アナタと二人でいるこの時間が、宝物だ」

咲耶「独り占めしたくて、だから……皆に教えたくなかった。
   こんな気持ちは初めてさ」

咲耶「私からアナタに贈る、二人だけの秘密……フフ、子供じみていると思うだろう?」ニコッ


楓「ううん」フルフル

楓「私が誰かにとって、強い想いを起こさせる存在になれたなら、
  とても光栄なことだなぁって思います」

咲耶「そうやってアナタは、他人事のように言うんだね」フッ

楓「そうでしょうか……そうかも知れません」
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:57:03.41 ID:VfNpJpls0
楓「我が事として捉える度胸が、私には足りていないのだと思います」

楓「畏れ多くて、同時に…………とても……」

楓「…………」

咲耶「……とても?」


楓「……一つ、分かりました」

楓「誰かからの秘密を預かるというのは、とても負担の大きい事なのですね」

咲耶「楓……?」


楓「咲耶ちゃん、ごめんなさい……それでも、まだお話はできません」

楓「ですが、一つだけ」


楓「私の秘密を預けている人が、一人だけいます」

楓「それは、咲耶ちゃんもよくご存知の人です。
  当時、たまたまお仕事でお会いした……283プロの人」
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:58:07.86 ID:VfNpJpls0
咲耶「283プロ……!?」


楓「関わり合いの薄い彼になら、中立の立場でそれを担ってくれると考えました。
  私の願いを、重荷とも思わないで済むような人になら、と」

楓「ですが……きっと、その方にも、負担を強いていたのでしょうね」

咲耶「か、楓……」


楓「察しがついたのなら、何かの折に、私が謝っていたとお伝えください」

楓「今度のフェスが終わった時に……私が、全て背負いますからと」

楓「だから……」



咲耶「……楓」

咲耶「ひとつ私から、提案したいことがある」
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:59:28.26 ID:VfNpJpls0
今回はここまで。
次回は明日の夜8時〜11時頃の更新を予定しています。
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:11:36.34 ID:VfNpJpls0
〜283プロ 社長室〜

美城「同じ事務所にいながら、私が高垣楓の動向を把握していないとでも?」

天井「把握していると思ったさ」

天井「動揺のあまり、あなたがこうして私の元へ駆け込んできた事も、
   私は実に趣深いものだと思っている」

美城「それが悪ふざけに留まらないことを貴方は知るべきだ」


天井「気づいていたか。ウチの白瀬咲耶の思惑に」

美城「つい先日の事です。
   弊社の事業部の者と、あなたは接触していたそうですね」



美城「一体何を考えている、天井努」

美城「パンドラの箱、と貴方は言ったが、
   まさしくそれを開けば、これに携わる誰もがタダでは済まされなくなるのだぞ」
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:13:02.05 ID:VfNpJpls0
天井「……フッ。情というのは、厄介なものだな」

美城「何?」


天井「最初は、安い用だと思ったものさ」

天井「だが、知れば知るほど、時が経てば経つほど……無視できないものになっていく」


天井「彼女は十分この業界に尽くし、かけがえのないものを与え続けてきた」

天井「最期の頼みの一つくらい、叶っても良いだろう」

天井「私が考えていることは、それだけだ」
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:14:13.31 ID:VfNpJpls0
〜後日、346プロ レッスンスタジオ〜

夏葉「ワン、ツー、スリー、フォー!」タンッ! キュッ タタン!

凛「……! ……ッ!」タタンッ! タッ!

樹里「よっ……っ……!」キュッ! タタッ! タン!


武内P「……十分な仕上がりであると思われます」

シャニP「えぇ。違う事務所同士なのに、ここまで息が合うとは」

シャニP「あなたのご指導と、あなたについていこうという皆の気持ちの表れですよ」

武内P「いえ。ひとえに、皆さんの緻密な練習の成果、それに……
    培われた絆の深さによるところです」

武内P「それと、手前味噌にはなりますが……」チラッ


楓「……いえ、私は何も」

シャニP「ああ、仰る通りですね。
     高垣さんのサポートがあってこそ、皆は頑張ってこれました」

楓「いえ、そんな……ありがとうございます」ペコッ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:15:49.81 ID:VfNpJpls0
智代子「……とぁ!」タン タンッ! ビシッ!

智代子「はぁ、はぁ……えへへ、どう、卯月ちゃん!?」

卯月「どうって……凄すぎて、私なんかじゃケチつけられないです!」

智代子「ほ、本当!?」

未央「うんうん、相当練習してきたんだもん。
   この未央ちゃんも太鼓判、たくさん押しちゃうよ!」

卯月「はいっ! 智代子ちゃん、これまでよく頑張りました!」ギュッ

智代子「や、やった……!」グッ…!


智代子「夏葉ちゃん! 約束の八ツ橋、ご馳走してくれるよね!?」クルッ

夏葉「まったく……あなたって子は、しょうがないわね」

夏葉「今度周子に言っておくわ。たくさん種類があるものをお願い、ってね」ニコッ

智代子「オホォォーー!!(裏声)」ガッツ!

凛「アイドルが出しちゃいけない声出してる……」

卯月「それにしても、周子ちゃんのご実家だったんですね。
   夏葉さんが懇意にしている京都のお店って」

夏葉「あら、言ってなかったかしら?」
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:16:56.47 ID:VfNpJpls0
樹里「……みんな悪ぃ。間奏部分がちょっとズレちまった」

樹里「もう一度通しで合わせてぇ。休憩したら、もっかいいいか?」


未央「……ジュリアンってさ、修行僧?」

樹里「しゅ、修行僧!?」

卯月「傍から見てても、すっごくレベルの高いパフォーマンスだなぁって。
   ね、楓さんもそう思いませんか?」

楓「はい。とてもすごかったです」

樹里「つっても、せっかく皆でやるんだし、
   少しでも良いモンにしたいっていうか……」ポリポリ…



咲耶「…………ッ」グッ グッ…



夏葉「……咲耶、どうしたの?」

咲耶「あぁ……」


咲耶「ッ ……いや、何でもないんだ」
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:18:24.43 ID:VfNpJpls0
夏葉「足が痛むの? そこに座って、ちょっと見せて」

凛「え……」

咲耶「すまない……ッ」グッ


智代子「さ、咲耶ちゃん……!?」

樹里「おい、大丈夫かよ?」

シャニP「咲耶!?」

武内P「…………」

ザワ…


夏葉「……」グッ グイッ

咲耶「……ッ」ズキッ

夏葉「……ここは痛む?」グッ

咲耶「いっ、いや……ッ」

夏葉「正直に言いなさい。
   隠したって、何もあなたや私達のためにはならないわ」
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:19:45.81 ID:VfNpJpls0
咲耶「す、ッ……すまない、ぐ……!」ズキンッ

卯月「咲耶さん……!」

シャニP「咲耶、大丈夫か!?」


夏葉「…………」スクッ


夏葉「プロデューサー。今からメンバーの変更はできる?」

武内P「……!」ピクッ


夏葉「これまでの居残り練習で、無理が祟ったようね」

夏葉「正確な症状は、お医者様に診せないと分からないけれど、
   今の咲耶の反応から考えられるのは、足首の捻挫」

夏葉「外くるぶしの靱帯が断裂しかけている可能性がある……
   もしそうなら、とてもステージに立てるような状態じゃないわ」

咲耶「ッ…………!」


武内P「あ、有栖川さん……」

夏葉「質問に答えてちょうだい。今から『TAKE−UC』のメンバーの変更は?」
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:21:05.56 ID:VfNpJpls0
未央「そ、そんな!」

卯月「これまで、あんなに頑張ってきた咲耶さんが……」


武内P「……2日前までであれば、事務局に届けを出せば、変更は可能のはずです」

凛「ちょっとプロデューサー!」

樹里「凛」スッ

凛「じゅ、樹里……!?」

樹里「爆弾抱えてるヤツに、無理をさせるべきじゃねぇよ」


グッ…!

樹里「…………ッ」

智代子「樹里ちゃん……」


咲耶「すまない、みんな……ッ」


シャニP「だが、咲耶の代わりになれる人が、今から探して見つかるとは…」
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:22:09.34 ID:VfNpJpls0
咲耶「いるさ……」

シャニP「えっ?」

一同「!?」ザワッ


咲耶「適任が一人……私達のサポートをしてくれた」

咲耶「……お願いだ、楓」



楓「…………」


凛「か、楓さん……!」

夏葉「そうよ。楓なら、ダンスもボーカルも文句の付け所が無いレベルで体得しているわ!」

智代子「こんな豪華な人に、代役を頼めるなんて……!」


樹里「……楓さん」

樹里「お願いします。アタシ達、こんなトコで終われないんです」スッ
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:25:06.80 ID:VfNpJpls0
楓「…………衣装」

樹里「えっ?」


楓「身長は同じくらいですけれど……きっと胸のところが、余っちゃいますね」

楓「私は、咲耶ちゃんほど立派なものを持っていませんから。ふふっ♪」ニコッ


樹里「な゛っ!!?」カァー!

武内P「丈はそのままで、バストの部分を調整が可能か、衣装担当に確認をしておきます」スラスラ

樹里「何でアンタは平然としてんだよ!」

武内P「す、すみません」

夏葉「なるほど、そういう所にも気を配らなければならないのね」フ-ム

智代子「咲耶ちゃん並みにおっぱい大きい人もそうそういないし」

樹里「おっぱい言うな!!」クワッ!

未央「ジュリアン、声でかい」
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:26:43.24 ID:VfNpJpls0
卯月「楓さんが、凛ちゃんや樹里ちゃん達と……!」


凛「……咲耶の分まで頑張ってくるから、私達」

夏葉「しっかり治しておきなさい。捻挫はクセになりやすいから」

智代子「このユニットだって、フェスで終わりにしたくないもん!
    ね、樹里ちゃん?」

樹里「当たりめーだ。
   一度も咲耶とステージやらねぇまま解散なんてバカバカしい話あるかよ」ニカッ


咲耶「皆……」

咲耶「……楓も、ありがとう」

楓「いいえ。私がお役に立てるなら、お安い御用です」ニコッ


樹里「そうと決まれば、すぐ合わせようぜ。
   楓さん、ご準備お願いできますか?」

楓「はいっ、樹里ちゃん」



樹里「よっし。じゃあ皆、せーの…」
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:30:05.53 ID:VfNpJpls0
〜夜、961プロ〜

ダンッ!

黒井「高垣楓が白瀬咲耶の代わりに出るだとぉ!?」ガタン!

『はい、そうです』

黒井「私に何の相談も無しに勝手に決めるなどと、よくも軽々しく…!」

『現場の陣頭指揮を執ることを私に命じたのは、あなたのはずです』

黒井「勝手をしろと命じた覚えは無い!
   貴様というヤツは、つくづく都合の良い解釈を……!」


『なぜ、高垣をそうまで恐れるのでしょうか』

黒井「……私が恐れている、だと?」ピクッ


『弊社としては、このプロジェクトクローネに協力するために、
 申し分の無い実力を持つアイドルをご用意したつもりです』

『相談も無く、事後報告となってしまった事については、お詫びします。
 ですが、彼女にご不満を持つ理由が、あなたにおありでしょうか?』


黒井「それを貴様に教える必要は無い」

『理由が、あるのですね?』
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:31:06.80 ID:VfNpJpls0
黒井「余計な詮索はしない方が身のためだぞ」

『分かりました。それでは、失礼致します』

ガチャンッ



黒井「…………」ギシッ

黒井(346プロを強請るための、格好の材料だと思っていた)

黒井(だがアレは……私の想像を超える爆弾だ。
   961や346だけでない、業界全体をも揺るがしかねないほどの……)

黒井(それが、最も起爆してはならない時と場所で……!)


黒井「……」ガチャッ

プルルルルル…!


黒井「私だ」

黒井「当日は全員呼べ」


黒井「……いいから全員だっ!!!」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:33:32.07 ID:VfNpJpls0
〜961プロ寮 武内Pの部屋〜

武内P「……」ピッ

樹里「また黒井のヤツからうるせーこと言われたのか」コトッ

武内P「いつものことです。しかし……」

樹里「しかし?」


武内P「黒井社長は、明確に高垣さんを特別視しています。
    それは、彼女がトップアイドルである事とは、おそらく別の何かが……」

樹里「…………」

武内P「きっと当日は、何かしらの手立てを工作してくるものと思われます。
    どのような者達が介入に現れるか分かりません」

武内P「気がかりなのは、先日渋谷さんからお聞きした話です。
    黒井社長が美城常務に対し、高垣さんの失脚を示唆するような話があったと」

武内P「一体、何を意図しているのか……せめて相手の狙いが分かれば、対処が……」


樹里「今さらそんな難しいこと考えんなよ」

武内P「西城さん……」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:35:33.64 ID:VfNpJpls0
樹里「眉間に皺寄せてばっかいるから、そんな辛気臭いツラになんだよ」

樹里「ほら、布団のシーツ、洗って替えといたぜ。もう寝ろよ」

武内P「……ありがとうございます。しかし私は…」

樹里「寝れねぇってんだろ?」

樹里「でも、横になって目を瞑りゃ、少なくともずっと起きてるよりはマシだ。
   つべこべ言ってないで、ほら」ポフッ

武内P「は、はぁ……」


武内P「……あ、あの、西城さんは…?」

樹里「あ、アタシはアンタが寝たのを見届けてから部屋に戻るよ!
   なんか、その……」モジモジ

樹里「アイツらから、た、頼まれてっからさ……
   プロデューサーをちゃんと休ませろって……同じ寮に住んでんだから、って」

武内P「そ、それは……ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」

イソイソ…


樹里「…………」ゴクリ…
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:39:33.31 ID:VfNpJpls0
――――


樹里『はぁ!? そ、添い寝だぁ!?』ドキッ

未央『やっぱりプロデューサーの心身の健康のためには、これしか無いかと』ウーム

凛『樹里にしか頼めないことなんだ』

樹里『自分が何言ってるか分かってんのか!? 出来るワケねぇだろそんなの!!』

夏葉『ベビーヒーリングタッチと言って、
   母親からのスキンシップが子供に心身の健康を与えるという医学的論拠もあるのよ』

樹里『とっくにベビーじゃねぇだろアイツ!!』

智代子『大切な人とそばにいる安心感を与えるって意味では、同じことじゃない?』

卯月『大丈夫です! 危ないことになりそうだったら私に電話してください!』

樹里『電話してどうしろってんだよ! ていうか危ねぇこと想像してんじゃねぇか!!』

咲耶『お願いだ、樹里……』 ←真剣な眼差し

楓『樹里ちゃん……』 ←何とも言えない眼差し


樹里『……〜〜〜〜ッ!!』


――――
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:40:53.26 ID:VfNpJpls0
武内P「さ、西城さん……寝ました」

樹里「寝てねぇじゃねーか」

武内P「ね、寝ます。なので……電気を消していただけると……」

樹里「あ、あぁ……」

パチッ フッ…



武内P「…………」


「お、おい……プロデューサー」


武内P「……何でしょう」


「壁の方に、横になった方が……寝やすいらしいぜ」

武内P「え?」

「い、いいからっ。ほら……横向きになって」


「あと……もうちょい、そっちに身体、寄せて……」
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:42:21.29 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ゴソゴソ…

武内P「こ、これで、よろしいでしょうか?」


「あぁ……」


武内P「…………」



スッ…


モゾモゾ…


武内P「……!?」

ソッ…


武内P「さ、さぃ……!?」

「こっち向くんじゃねぇぞ……」


武内P「こ、これは一体……?」



「きょ、今日は……これで、寝させてくれ……」
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:43:55.61 ID:VfNpJpls0
武内P「西城さん……」


「大変だったよな……」

「ほんと……アタシ達のために、すっげぇ頑張ってくれて……」

「皆……感謝してる」



「今回だけだ」

「今夜だけ……そばで寝させてくれ……」


武内P「……はい」



「寝るぞ……おやすみ」


武内P「はい……おやすみなさい、西城さん」



武内P「…………」
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:45:52.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


「…………」

「……ん…………む……」

  あっ、起きた?
  えへへ、お寝坊さんだね、プロデューサーさんっ♪

「これは……」

「!? あ、あなたは…!」

  あ、ダメダメ。
  まだそのまま寝てて。プロデューサーさん、ずっと働き詰めなんだもん。

  私の膝なら、いくらでも大丈夫だから。気にしないで、ねっ?

「……私は」

  大きなプロジェクトを任されてるんだね。
  色んな事務所の子達を担当するって、大変そう。

  でも、すごく嬉しいよっ。
  私の大好きなプロデューサーさんが、そんな立派なことをしてるなんて。

「私は……」


  私のことなら、気にしないで。
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:52:38.92 ID:VfNpJpls0
「…………」

  今のあの子達を、プロデューサーさんは大切にしてあげなきゃダメだよ。

  特に、西城樹里ちゃん。

  私に似て……って言うと失礼だけど、
  きっと自分の気持ちを表現するのが苦手な子だから。

  だから、ちゃんと見て、手を差し伸べて、気持ちを引き出して上げて。
  根は素直な子なんだから、お世話してあげればちゃんと応えてくれるはずだよ。

  お花のようにねっ。

「……はい、その通りです」

  あれ?
  そっか、私がわざわざ言うまでも無かったよね。ごめんなさい。


「いいえ……あなたに教えられたのです」

「それを彼女達は、思い出させてくれました」

「あなたも含め、皆さんには……感謝しても、しきれません」


  うんっ。


――――

――――――
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:53:23.17 ID:VfNpJpls0
――――


武内P「…………」

武内P「……ん…………む……?」


樹里「やっと起きたか」

武内P「……? さ、西城さん!?」ガバッ!

樹里「ハハハ、寝ぐせついてるぜ」

武内P「……!?」サッ


チュン チュン…


樹里「おはよう、プロデューサー」クスッ


武内P「……はい」

武内P「おはようございます、西城さん」ニコッ
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:56:03.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


  >咲耶ちゃんOUT 楓さんIN ってマ?
  >最初からそうしとけや、めっちゃ期待するけど
  >咲耶ちゃんだってぬか喜びしなくて済んだしな
  >ええぇ、ワイめちゃくちゃショックなんやが……楓さんなんていつでも見れるやん

  >センターは西城樹里が不動か?
  >楓さん入るんだったらさすがに譲るだろ
  >西城エアプか?
   あの図々しさ考えたらありえんわ
  >ここにも西城叩きいるのかよ、いい加減ウザいぞ
  >でも一歩引いてる奥ゆかしさが楓さんらしい
  >961関係無しに今からリーダー変えんの普通無くね?

  >夏葉ちゃんやチョコちゃんって楓さんと何話すんだろ?
  >楓さんはクッソしょうもない話でもニコニコしながら相槌打つ聞き上手だぞ
  >智代子ちゃん大喜びでカレーの作り方とか熱弁してそう
  >夏葉ネキ「楓さん、一緒にトレーニングするわよ!」ダンベル ドサー
  >楓さん「背筋を鍛えた身体でハイキング、なんて、ふふっ」
  >凛渋谷「普通全裸でやるよね?」
  >唐突な名誉G民のしぶりんで草
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:58:03.08 ID:VfNpJpls0
〜『クリスタルウィンター』当日、会場 スターリットドーム〜

ドォォォォォ…!


智代子「お、大きい会場だねぇ……」

卯月「は、はい……目が回りそうです」


武内P「スターリットドーム……」

武内P「スターリットシーズンという、アイドルの頂上決定戦に相当するイベントがあり、
    その最終戦の舞台となった会場です」

武内P「スターリットシーズン以後、イベント中に行われた四季大会は通年イベントとして残り、
    冬のイベント『クリスタルウィンター』の会場は、今もこのスターリットドームとなっています」

凛「その四季大会っていう中で、一番大きいものが、『クリスタルウィンター』ってこと?」

武内P「実質的には」
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:59:41.49 ID:VfNpJpls0
未央「へぇぇ、海外のアーティストとかも御用達にするんだって」スイッ スイッ

樹里「超有名な人達もいんじゃねーか、マジかよ……!」

凛「樹里って洋楽も聴くんだったっけ、そう言えば」


夏葉「臆することは無いわ、樹里!」バァーン!

樹里「いちいち後ろからデケぇ声出すなよ」

夏葉「それだけ私達がこの会場に相応しいアイドルになったということよ。
   日々の努力が実を結んだ事を、まずは誇りに思いましょう」

シャニP「ああ、夏葉の言うことはもっともだ」

卯月「こういう時の夏葉さん、本当に頼もしいですっ」ギュッ
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:00:58.51 ID:VfNpJpls0
咲耶「楓は、この会場で歌ったことはあるのかい?」

楓「うーん……2、3回、来たことがある気がします」

智代子「あ、あるんですか……」

楓「と言っても、単独ライブなどではありません。
  いずれも、ご招待いただいて、1曲程度歌っただけのもので」

未央「それでもめちゃくちゃ凄いよぉ、楓さん!」

卯月「はいっ! やっぱり楓さんは、私達の憧れです!」

楓「ふふ……」ニコッ

咲耶「…………」


凛「プロデューサー。
  リハーサルの時間まで、振りを確認したいんだけど」

武内P「事務局に確認し、裏手の搬入スペースをご案内いただきました。
    資材搬入を終えた後であれば、自由に使っても構わないそうです」

夏葉「助かるわ。ありがとう」
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:02:55.14 ID:VfNpJpls0
武内P「私は、関係者への挨拶と出場の手続きを行ってまいりますので、
    彼女達の引率をお願いできますでしょうか?」

シャニP「分かりました」

樹里「あ、あのさ、プロデューサー」

武内P「? 西城さん、何か」


樹里「……いや、悪ぃ。やっぱ後でいいや」ポリポリ


武内P「?」

未央「何だよジュリア〜ン、らしくないなぁスパッと言っちゃえよぉ」ウリウリ

樹里「う、うっせぇな! いいんだよ、大した用じゃねぇから!」

凛「ふーーーん?」クスッ

樹里「何笑ってんだよ凛!!」ムキー!
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:03:52.31 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ポリポリ

シャニP「ふふ。行きましょうか」

武内P「はい」

スタスタ…



夏葉「ところで……咲耶、今日出れなかった事だけれど」

咲耶「おっと。夏葉、そういうのは言いっこなしだと言っただろう?」

夏葉「えぇ、そうね。でも、聞きたいことがあって」


夏葉「あなたの足、お医者様には診てもらった?」


咲耶「……ああ」

夏葉「お医者様は、何と?」

咲耶「…………」
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:05:33.10 ID:VfNpJpls0
夏葉「あなたはつまらない嘘をつく子ではないのを、私は知っているわ。
   “ただの一度”を除いて、ね」

夏葉「だから、あなたは黙っている」


夏葉「本当は何とも無かったんでしょう?」


咲耶「……やはり、気づいていたか」

夏葉「あなたの足を見た時にね。上手く演技をしたつもりでしょうけれど」

夏葉「そして、自分の代役として楓を提案したのもあなただった」


夏葉「一体、何を考えているの?」



咲耶「……謝らなければならない事がある、夏葉」

咲耶「皆に嘘をついたのは、“ただの一度”ではないんだ」
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:06:32.64 ID:VfNpJpls0
夏葉「咲耶……」

咲耶「すまない、夏葉。皆には黙っていてほしい」

咲耶「彼女の想いを尊重したいという、私からの願いだ」


夏葉「……彼女?」チラッ


咲耶「あぁ、そうだ」

咲耶「夏葉こそ、何か意図があって私の演技を見逃してくれたのだろう?」


夏葉「あなたは無意味なことをしないと思ったからよ」

夏葉「でも今は……それがネガティブな結末を招かないことを祈るばかりだわ」


咲耶「……そうだね」
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:07:56.88 ID:VfNpJpls0
ガヤガヤ…


スタスタ…

武内P「……」キョロキョロ



ちひろ「あっ、プロデューサーさん、お疲れ様です!」スッ


武内P「千川さん……いらしていたのですか」

ちひろ「もちろん。彼女達の晴れ舞台ですから」

ちひろ「あ、今西部長もお越しになられていますよ。
    アイドルの子達の様子を見に行くって仰っていました」

武内P「そうでしたか」

ちひろ「受付会場を探していたんですよね?」

武内P「はい」


ちひろ「大丈夫です。私が既に済ましておきましたから!」エッヘン
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:09:19.26 ID:VfNpJpls0
武内P「えっ?」

ちひろ「ほら、これが『TAKE−UC』の受付票です。
    ちゃんと今日のメンバー変更も反映されていますよ」サッ

武内P「……確かに。ありがとうございます、千川さん」ペコリ

ちひろ「いえいえ、これくらい何でもありません。
    その分、プロデューサーさんはアイドルの子達についてあげてください」

ちひろ「ほら、行きましょう」グイッ

武内P「せ、千川さん?」

ちひろ「皆、裏手の方にいるんですよね? 早く合流しましょう、さぁさぁ」グイィッ

武内P「あ、あの……」

スタスタ…



スッ

黒服達「…………」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:10:43.97 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

冬馬「な、何でお前らまでいんだよ!?」

樹里「それはこっちの台詞だぜ! アタシらの場所を横取りすんじゃねぇ!!」

冬馬「俺達の方が先だったじゃねーか!!」

樹里「いーやアタシらが先だ!!」

シャニP「あぁぁこらこら、二人ともケンカは良くないぞ」


凛「……ジュピターの人達と鉢合わせるなんてね」

翔太「ま、一番近い練習場所がココなんだし、そりゃ被っちゃうのもあるよねー」

北斗「その辺にしとけよ、冬馬。みっともないぞ」


冬馬「ふんっ!」ムスッ

樹里「ヘンッ!」プイッ


卯月(何だか似てますね、あの二人)ニコッ

未央(しまむー、それ言ったら絶対怒られるからやめようね?)
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:12:35.99 ID:VfNpJpls0
夏葉「でも、本番前の良い刺激になるかも知れないわ。
   お互いにリハを見せ合うというのはどうかしら?」

翔太「えぇー? さすがに手の内を本番前に見せちゃうのはどうかなぁ」

北斗「本来であればな。だが、麗しいレディからの頼みとあれば話は別だ」

冬馬「別なワケねぇだろ! 敵の誘いに応じる理由なんかねぇぜ!」


咲耶「確かに、この場にいる皆はお互いに事務所が違う。
   今日だけでなくこれからも、立場上はしのぎを削り合うライバル同士、という事になるね」

咲耶「だが、同じアイドルだ」

咲耶「志を同じくする仲間同士、お互いを分かち合おうじゃないか」バチコーン☆


樹里「ったく、また咲耶はそうやってキザなこと言って」

冬馬「お、おう……べ、別にお前らなんて仲間なんかじゃ…」ポッ

樹里「効いてんじゃねーよ」

楓「楽しいリハーサルになりそうですね♪」ニコッ


コツ…

今西「やぁ。皆揃っているね」

未央「あっ、部長さーん!」フリフリ
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:14:19.88 ID:VfNpJpls0
シャニP「これは、今西部長。どうもお疲れ様です」ペコリ

今西「あぁいや、283プロのプロデューサーさん。
   どうか私に畏まらないでください」

今西「お世話になっているのは、こちらの方ですからね。
   私共のプロデューサーを、よくサポートしてくださった」

シャニP「いえ、俺にできることをしただけですから」


シャニP「それに……彼は本当に素晴らしいプロデューサーだと思います」

シャニP「自分もこうあれたらと……
     真摯に目の前のアイドル達と向き合う姿勢は、俺の目標です」


今西「そうですか……」

今西「それが今日、結実する日になる。
   裏方として携わる私も、心より祈っているよ。

今西「無事にステージを完遂できることを、ね」

一同「はいっ!!」


楓「……はい」

今西「…………」
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:16:27.93 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

コツコツ…


武内P「……?」

ちひろ「本当に大きな会場ですねー。
    使用料も見たことない金額で驚きましたよ」

ちひろ「主催側で使用するのは、そうそう無いでしょうね。
    あっ、でも共催なら費用負担を多少解消できるかも、なんて♪」

武内P「は、はぁ……」


コツコツ…


武内P「あの、千川さん……皆さんがいるのは、こちらではな…」

ちひろ「ええ、分かっています」

武内P「えっ?」
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:17:37.10 ID:VfNpJpls0
ちひろ「本番前にもう一度、プロデューサーさんとお話をしたかったんです。
    二人きりで、ね」

武内P「千川さん……」

ちひろ「プロデューサーさんは、ご存知ですか?」

コツ…

ちひろ「今日、楓さんがステージの上で何をするつもりなのかを」

武内P「高垣さんが?」



ちひろ「楓さんは、全てを暴露するつもりなんです」

ちひろ「346プロや961プロが、これまで行ってきた所業の数々を」

武内P「!!?」


ちひろ「ふふっ。そのご様子だと、知らなかったみたいですね」
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:19:39.42 ID:VfNpJpls0
武内P「一体何を……どういう事ですか、千川さん!?」

武内P「なぜ、高垣さんがそのような事をする必要があるのですか!?」

武内P「いえ、そもそもなぜ高垣さんがその事を知って……!?」


ちひろ「私も、今西部長からお聞きした話ですから、詳しいご事情までは把握できていません」

ちひろ「でも、部長が仰ることには……全ての遠因は、楓さんにあると言います」

ちひろ「そして、346プロは楓さんを守りすぎた」

武内P「……守りすぎた?」

ちひろ「そこを961プロにつけ込まれた、という見方もあるそうなのですが……でも」


ちひろ「楓さんは、ずっと一人で罪の意識に苛まれていました」

ちひろ「事実として、プロデューサーさん……
    あなたの命も、その証拠を抹消せんとする常務達の手によって、危ぶまれています」

武内P「…………」


ちひろ「でも、楓さんがその前に明らかにしてしまえば……
    常務達は、プロデューサーさんを手に掛ける理由を失うことになります」
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:22:04.42 ID:VfNpJpls0
武内P「馬鹿な……」

ちひろ「分かりますか? プロデューサーさん」

ちひろ「彼女が表舞台でそれを公表することは、あなたを守るためでもあるんです」

武内P「で、ですが!
    それをしたら彼女どころか、346プロが築き上げたブランドイメージが崩壊します!」

武内P「346プロだけではありません。961プロも、283プロも……
    およそアイドル業というものが成り立つ前提たる“信用”が根底から覆ることに……!」

武内P「もしそれが事実なのであれば、今すぐ止めさせ…!」ダッ!

ギュッ

武内P「!? せ、千川さんっ……?」


ちひろ「私にとっては、あなたが助かることの方が大事です」

ちひろ「アイドルが……私達の仕事が、台無しになるとしても……
    ひ、人が死んじゃうよりは、ずっと……!」


武内P「……それはあなたの本心ではないはずです、千川さん」

ちひろ「えっ……?」
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:25:08.86 ID:VfNpJpls0
武内P「誰よりもアイドルを愛するあなたが、
    その輝きが奪われることを良しとするはずがありません」

武内P「そして、それを支える仕事を、ご自身ができなくなることも」

武内P「いいえ……たとえそれが本心であったとしても」

武内P「私はプロデューサーとして、彼女達のステージを見届ける義務と責任があります」


ちひろ「プロデューサーさん……」

武内P「まずは、高垣さんと話をしてきます。
    事実確認ののち、必要であれば説得やメンバー交代など、必要な調整を」

武内P「そうするであろう事を、私に期待したからこそ……
    あなたも、高垣さんの事を私に話してくれたのではないでしょうか」


ちひろ「……やっぱり、プロデューサーさんはプロデューサーさん、ですね」クスッ

ちひろ「だとしたら、気をつけてください」

ちひろ「既に……狙われています」


ザッ…


武内P「ええ。知っています」
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:26:05.35 ID:VfNpJpls0
武内P「千川さんも、お逃げください」

ちひろ「私のことなら心配いりません。さぁ、早くっ!」

武内P「! ……失礼」ダッ!

タタタッ!


ザッ!

黒服達「追え!」「生かして捕らえろ!」


ちひろ「……!」クルッ

ちひろ「止まってくださいっ!!」バッ!

黒服達「!?」


ちひろ「どうか……どうかあの人の好きにさせてあげてくださいっ!!」ポロポロ
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:28:03.24 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

キュッ! タタン タンッ! ザッ!


夏葉「……ふぅ! 良い仕上がりね!」

樹里「はぁ、はぁ……ヘヘッ。あぁ!」

智代子「わ、私も変なところ無かったよね? ね!?」

凛「当たり前でしょ。今までよりすごく良かったよ、智代子」

智代子「や、やったぁ! えへへ!」

楓「ふふっ♪ 皆さん、動きが軽やかですね」


冬馬「ふーん……まぁ、思ったよりやるようだな」

卯月(これは、“大絶賛”ってことでいいんですか?)コソコソ

翔太(ご明察)ニコッ

冬馬「聞こえてんだよっ!!」
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:29:39.73 ID:VfNpJpls0
北斗「まいったな……これは相当なプレッシャーだ」

未央「えへへー、ウチのアイドル達の凄さ分かっちゃった〜?」ウリウリ

樹里「何で未央が得意になってんだよ」

咲耶「誇りに思うのも無理はないさ、樹里。
   皆の努力を間近で見てきて、誰よりもそれを分かっているのだから」

咲耶「もちろん、私もね。自慢くらいさせてくれたっていいだろう?」ニコッ

樹里「……ヘッ、まだ早ぇってんだよ」ニヤッ

夏葉「樹里の言う通りよ。そして、その時はすぐそこまで来ているわ」

咲耶「……あぁ」


卯月「ううぅ、ドキドキします……!」ギュッ

凛「心配しなくていいよ、卯月。私達なら大丈夫だから」

卯月「凛ちゃん……はいっ」


智代子「ねぇ、樹里ちゃん」
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:32:31.92 ID:VfNpJpls0
樹里「ん?」

智代子「本当にありがとね。
    樹里ちゃんがいたから、今の私があるんだなぁって」

樹里「よせよ、こんな時に」

智代子「こんな時だから、言うんだよ」


智代子「あの時、ひどい言葉をぶつけて……ごめんなさい、樹里ちゃん」

智代子「そして、私をここまで連れてきてくれて、ありがとう」


樹里「……そっくり、アタシも同じ言葉を返すよ、チョコ」

樹里「アタシはずっと、チョコに謝りたかった。
   チョコのためだけにアイドルやってた……そのはずだったのにな」

智代子「樹里ちゃん……」


樹里「チョコだけじゃない。
   夏葉も咲耶も、凛も、未央と卯月、楓さん……プロデューサーも」

樹里「皆との出会いが無かったら、今のアタシは無かったんだ」
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:36:28.19 ID:VfNpJpls0
凛「樹里……」

咲耶「フフッ。珍しくセンチメンタルな事を言うんだね、樹里」

夏葉「緊張しているの?
   私と一緒にステージに立つことの何が不安なのかしら」ファサッ

樹里「口の減らねぇヤツらだな、ホントによ」


樹里「特に、楓さん」

楓「……私?」


樹里「あの日の楓さんのステージを……いや、なんつーか……
   楓さんのアイドルやファンに対する立派な姿勢を、見ることができたから」

樹里「それまで正直、嫌な世界だなって思ってたアイドルの事を、初めて好きになれた……
   そのきっかけが、アタシにとっては楓さんで、目標を見つけた瞬間だったんです」


楓「樹里ちゃん……」


樹里「ありがとうございます、楓さん。
   たくさん失礼な事を言っちゃったけど、それはステージで返します」

樹里「だから、改めて今日は、よろしくお願いします」ペコリ
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:37:33.88 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

樹里「ていうか、アイツおせぇな。まだ来ねぇのかよ」

凛「確かに……とっくに手続きは終わってるはずなのに」

未央「まぁー、これだけ大きい会場だとさ、挨拶しに行く人達もいっぱいいるんじゃない?」

智代子「そろそろ衣装に着替えて準備しとかなきゃだよね? 私達」

シャニP「お、俺何もしなくて大丈夫だったのかな……?」ソワソワ


ヴィー…! ヴィー…!

楓「!」

楓「……すみません、携帯が。ちょっと失礼しますね」スッ

卯月「え? あ、はい」

スタスタ…


咲耶「……?」
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:40:44.43 ID:VfNpJpls0
〜来賓ルーム〜

トクトクトク…

天井「そろそろ開演の時間ではあるが……
   舞台裏では、ある意味本番と呼べる事態が既に起こっているようだ」

天井「賑やかな事だな、黒井?」コトッ

黒井「フンッ! 私だって本意ではない。
   我が961プロの貴重な人員を、こんな事に割かなければならんとは……」

黒井「貴様の事務所で高垣楓の出場を止めていれば、こんな事をせずとも済んだのだ、美城」


美城「それを言うなら、あなたも同じことです、黒井社長」

黒井「何?」

美城「プロジェクトクローネ……そして、『TAKE−UC』の監督権は貴方にある」

美城「それほど危険視しているというのなら、
   あなたがユニットの出場を取り止めれば良かったのでは?」

黒井「そんな真似、できるはずがあるか!
   我が961プロの看板を背負わせているのだぞ、あの者達には!」

黒井「出場取り止めなどすれば、我が事務所の末代まで残る汚点だ!」
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:43:27.73 ID:VfNpJpls0
天井「なるほど……大したタマだよ、美城常務」

天井「黒井がそう考えることも見越して、
   あなたはプロジェクトクローネを黒井に譲ったという事か」

美城「それは、半分は正しくありません」

天井「? 半分とは?」


美城「正直に申し上げましょう。
   確かに、黒井社長の行動を制限することを狙いとし、私はクローネを明け渡しました」

黒井「……」

美城「ですが、私にとって何より計算外だったのは、高垣楓の暴走です」

美城「そして、あのように衆目を集めてしまっては、もう止めることはできません。
   今から高垣楓を止めれば、その不自然さがあらぬ疑惑を生む」

美城「それに、このフェスの出場を止めたとしても、彼女にとっては別の機会がいくらでもある」

美城「つまり……私には打つ手が無かった、という事です」


天井「それは違うな」

美城「……」ピクッ
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:46:28.92 ID:VfNpJpls0
天井「手段さえ選ばなければ、高垣楓を止める術はあったはずだ」

天井「世論から向けられる疑惑なども、メディアを利用して誘導すれば、
   その情報を操作する事だって、あなたの事務所なら苦ではないだろう」

美城「…………」


天井「なぜそうしなかったか…… 
   それは、あなたが純粋に彼女のステージを見たかったからではないのか」

天井「高垣楓を……いいや、西城樹里をはじめとする『TAKE−UC』の晴れ姿を」

天井「お前もきっと同じだろう? 黒井」


黒井「……今、私の者達がヤツの身柄を押さえるために奔走しているが、
   それは美城、貴様に先を取られないようにするためだ」

黒井「だがもし貴様が、我らの過去の行いが衆目に晒される事を諦めているのなら……
   貴様はもう、あの男をどうするつもりも無いという事かね?」


美城「……いいえ、黒井社長」

美城「打つ手が無い、と私が言ったのは、彼女の暴走についてです」

美城「私の目は、既に事が起きた後の処理について向いています」
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:47:04.02 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

ガッ! ゴキャッ!

黒服達「ぐ、は……!」「うっ!?」

ドサッ



ダダダ…!

黒服達「いたぞ! 逃がすな!!」ジャキ!

武内P「!」

ピシュッ!

武内P「……!」サッ!

チュイン!
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:10.68 ID:VfNpJpls0
武内P(サイレンサー……実弾を……!)


ピシュッ! ビシュッ!

武内P「むぅ……!」ダッ!

タタタ…! チュイン! キィン!

ビシッ!

武内P「ぐっ!」


タタタ…!


武内P「くっ……はぁ……はぁ……!」

ポタポタ…


武内P「はぁ、はぁ……う、ぐ…!」シュルッ

ギュッ!

武内P「…………」ダッ

タタタ…!
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:42.97 ID:VfNpJpls0
〜会場 サブエントランス〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…!

「おい、あれ……」
「本物?」
「うわー、すっごい綺麗……!」
「誰か待っているのかな……」


楓「…………」





ザッ



楓「……こんな時でも、時間通りなんですね」クスッ
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:49:18.79 ID:VfNpJpls0
武内P「はぁ……はぁ……」



「誰だろう、あの人」
「デッカい男だな……」
「SP?」

ヒソヒソ…


武内P「……こちらへ、高垣さん」

楓「はい」

スタスタ…
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:50:25.26 ID:VfNpJpls0
〜備品倉庫〜

ガチャッ

バタン

武内P「……」キョロキョロ サッ

武内P「……」ゴソゴソ

楓「…………」


武内P「……ここなら、落ち着いて話せそうです。
    狭苦しくて、恐縮ですが…」

楓「いえ、構いません」


楓「それよりも、お怪我を……」

武内P「…………」グッ

楓「……私のせい、ですね」

武内P「いえ」


武内P「高垣さん……どうか正直に、お答えいただきたい」
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:52:51.65 ID:VfNpJpls0
楓「ご用件は、承知しています」

楓「私が、346プロと961プロの内情を、ステージ終了後に公表する……
  もう決めたことです」

武内P「……!」


楓「私は、あのミニライブの会場が好きです」

楓「ずっとあそこに留まって、来てくれる方々に私の歌を聴いてもらう……
  それだけで良かった」

楓「でも、いつの間にか私は……私が望む以上に、大きくなりすぎちゃいました」

楓「膨らみすぎた風船がやがて破裂するように……私は、もう……」


武内P「……高垣さん」

武内P「それがどれだけ346プロ、ひいては業界全体に大きな影響を及ぼすか、
    お考えになられた事はありますか」

楓「…………」
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:55:34.68 ID:VfNpJpls0
武内P「あなたが行おうとする行為は、これまで業界が築き上げたものだけでなく、
    アイドル界の未来をも奪いかねないものです」

武内P「将来のアイドルを夢見る人達が、放つ事が出来たかも知れない輝きを!」

武内P「私個人としては、事務所のことなどどうでもいい。ですが……
    その事だけは、どうしても承服できないのです」

武内P「高垣さん、あなたは……
    あなたが行おうとする事の影響の大きさをどうか…」

楓「考えた事が無いと、お思いですか?」

武内P「……っ!?」


楓「自分の存在が他者に与える影響について、私が何も考えの及ばない女だと?」

武内P「た、高垣さん……」

楓「私は……っ」


楓「もう、たくさんなんです……」

楓「夏葉ちゃんだって……私は、そんなつもり……無かったのに……!」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:59:09.21 ID:VfNpJpls0
武内P「あ、有栖川さんが……!?」

武内P「一体、どういう事が……何があったのですか」


楓「……専属契約を結んでいない、練習生と呼ばれる子達のレッスンを見る機会があって」

楓「懸命にレッスンに励む子達の中に……一際、目を引く人がいました」

楓「とても快活で、自信に満ち溢れていて……
  その自信を裏付けるだけの非常な努力を苦としない、分かりやすい強さを持っていました」

楓「立場こそ、私は先輩ですが……その子の姿に、とても憧れたんです」


楓「いつか一緒に、仕事をしてみたい……つい、そう零しました」

楓「その強さを、私にも分け与えてもらえたら、って……一緒にいれば、それが叶うかもって。
  インタビュアーの取材と離れた、記事にもならない雑談を、したのだと思います」

楓「それが……巡り巡って、黒井社長の耳に入ったみたいです」

武内P「! ……」
646.15 KB Speed:1.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)