西城樹里「タケウチ」

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:56:23.94 ID:LQd6uuhx0
夏葉「もちろん、私が勝つと思っていたわ!」ドヤッ!

樹里「……!」

夏葉「でも、結果は樹里の勝ち。私はそれを受け入れるだけよ」

夏葉「だから、あなたも胸を張りなさい」


樹里「あの時は受け入れなかったクセにか?」

夏葉「あの時?」

樹里「346のオーディションの結果に抗議をした時だよ」

夏葉「……!」ピクッ


樹里「あの日のアンタの気持ち、よく分かるぜ……」

樹里「どうしても……納得ができねぇ。皆、ごめん……!」スッ

未央「あ、ちょっ、ジュリぁ…!」

スタスタ…!

夏葉「待ちなさい、樹里」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:57:36.23 ID:LQd6uuhx0
樹里「! ……」ピタッ


夏葉「約束を果たすわ。あなたへの非礼を詫びると」

夏葉「智代子を想うあなたの決意を侮辱して、ごめんなさい、樹里」スッ


樹里「……アンタって、呆れるほどに真っ直ぐで真面目だな」

樹里「アンタが本当に、不正を仕向けた有栖川家の人間なのか、分からなくなるぜ」

夏葉「そう……それについても、あなたに話をする必要があるわね」

樹里「えっ?」


夏葉「あのオーディションから帰った後、父に問い質したの」

夏葉「どうして、己が実力を346プロに認めさせる機会を私から奪ったのか、とね。
   すると父はこう答えたわ」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:59:27.11 ID:LQd6uuhx0
夏葉「何の事だ、と」


樹里「……何だって?」クルッ


夏葉「彼は……私の父は、346プロオーディションの存在すら知らなかったのよ。
   もちろん、それに私がエントリーをしていた事も」

夏葉「これがどういう意味か、分かるかしら」


樹里「アンタの親父は……不正に関わっていなかった?」


夏葉「この話を信じるかどうかは、あなたの自由よ。
   私も、有栖川家の人間だものね」

夏葉「でも、私は……私だって、あの一件をずっと許していない者の一人」

夏葉「何より、会場内の誰にも文句を付けられないだけの実力で、
   合格を勝ち取ることの出来なかった自分自身にも」

夏葉「いずれにせよ、智代子を傷つける結果を招いた責任が、私にもある事に変わりは無いわ」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:00:45.96 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」

凛「樹里……」


樹里「……少し、考えさせてくれ」スッ

スタスタ…



卯月「オーディションの件……樹里ちゃんも、心の整理は難しいですよね」

武内P「……それもあるでしょう。ですが、それ以外にも……」

未央「今日のステージの出来も、ジュリアンの中で満足いってなさそうだったよね」

夏葉「…………」


咲耶(単に、自分のステージに納得していないだけのようには見えなかった)

咲耶(346プロへの私怨だけでなく、どうやら樹里自身、何かを抱えているようだ)

咲耶(それを明かしてくれる日は、果たして来るだろうか……)
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:02:16.59 ID:LQd6uuhx0
スタスタ…

樹里「……クソッ」

樹里(悪ぃ事、言っちまった……夏葉や、皆にも)

樹里(…………)



  ――樹里ー! パスパース!

  ――えへへっ! やっぱり樹里がいれば安心だねっ!

  ――私の代わりにポイントガードを任せられるの、樹里しかいないよー!



  ――なぜ、あんな無謀なスリーを打った?


樹里「……ッ!!」

ガスッ!


樹里「いちいち、思い出してんじゃねぇよ……!」

樹里「…………ッ」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:03:02.21 ID:LQd6uuhx0
「樹里ちゃん……」


樹里「……!?」クルッ



智代子「……樹里ちゃんっ」



樹里「なっ……ちょ、チョコ!?」

智代子「樹里ちゃん!」ダッ

ダキッ!

樹里「うわっ!」


樹里「チョコ……か、会場に来てくれてたってのか!?」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:04:19.94 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃぁん……!」グスッ

智代子「すごく……ひっ、ぐ、す……すっごい、カッコ良かったよぉ……!!」ポロポロ

智代子「キレイで……きま、う、うっ、キマッ、てて、キラキラで……!!」

智代子「うあぁぁぁあぁ……!!」ギュゥ…!


樹里「チョコ……」

樹里「あ、アタシはただ……その……えっと」ポリポリ


 ――あなたの歌とダンスに魅了された方々が抱く感動に、嘘はありません。


樹里「……チョコに、届いて良かった」

智代子「ぇ……?」

樹里「チョコのために、アタシは……アイドルやってた」


樹里「だから……チョコに喜んでもらえたなら、良かったよ」

樹里「良かった、って……今、やっと思うことができたぜ。チョコのおかげでさ」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:05:35.19 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃん……!」ジワ…!

樹里「あーもう、泣くなって。ほら、鼻かめよ、ティッシュいるか?」

智代子「樹里ちゃあんっ!!」ブワワッ

樹里「わあぁぁっ!? や、止めろって、アタシの服べちゃべちゃになるだろ!」

智代子「樹里ちゃん、そんなこと言うのズルいよぉ!! うわぁぁぁん!!」ジュルジュル


樹里「……へへ、ったく」

樹里「誰のせいだと思ってんだよ、アタシがこうして身体張ってんの」

樹里「チョコもさ……やらねーわけにはいかねぇだろ?」ニカッ

智代子「うん……うんっ……!」

樹里「……世話かけさせやがって」ナデナデ



夏葉「……智代子」
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:08:17.38 ID:LQd6uuhx0
凛(あの子が、樹里の……そっか)

卯月「二人とも、とっても幸せそうです」


咲耶「あの智代子に前を向いてもらう事が、樹里の目的の一つだった」

咲耶「その目的は、達成されたと見て良いだろうか?」

未央「何言ってんのさくやん、あれ見てよ。そうに決まってるじゃん!」

夏葉「樹里の満足げな表情がその証拠ね。さっきとは大違い」ニコッ

咲耶「フフ、そうだね」


凛「これでひとまず、一件落着……かな」

武内P「……今はただ、そうである事を願いましょう」

凛「うん……それと、さっき夏葉さんも言ってたけど、
  このフェスで結果を残した事で、樹里もこれからどんどん有名になる」

凛「そうなれば、しばらくは樹里を危ない目に遭わそうとする人達も、
  容易に手出しが出来なくなる……そうだよね、プロデューサー?」



武内P「……はい」
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:09:43.42 ID:LQd6uuhx0
〜会場外 961プロ リムジン車〜

黒井「何の用かと思えば、ノコノコと……」

黒井「そんな事を貴様に教える筋合いなど無い!」

シャニP「で、ですが……!」


???「では、私から話そう」

シャニP「えっ?」

黒井「何ッ!? 貴様、何を勝手な……!」


天井努「いずれ分かる事だ。
    それに、この男は余計な行動をする者ではない。私が保証しよう」

シャニP「しゃ、社長……」

黒井「……フンッ」


天井「お前の目した通り、あの男は346プロのプロデューサーだ」

シャニP「! ……で、ではどうして、彼は961プロのプロデューサーだと?」

天井「961プロのプロデューサーでもある、という事だ。
   その理由については、まだ明かす事はできない」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:11:25.97 ID:LQd6uuhx0
天井「だが、来るべき時が来るまで、あの男と西城について深入りはせず、
   しかし注意深く見守る必要がある」

天井「お前にも、その役割を担ってほしい。頼まれてくれるな?」


シャニP「……分かりました。今日は、これ以上お伺いすることはしません」

シャニP「ですが、いずれ何らかの形で、私にも事情を明かしていただくことを願います」

天井「すまない、苦労を掛ける」

シャニP「いえ……では、失礼致します」ペコリ

スタスタ…



黒井「……フンッ!」

黒井「あの西城樹里とかいうガチャ蠅……
   346のプロデューサーが妙な動きをしているから、泳がせてみたが」

黒井「どうやら面倒な事になりそうだな。
   金と手間を惜しまず、さっさと潰せば良かったという訳か」

黒井「私とした事が、目測を見誤るなど……」


天井「フッ……いい加減、青臭い事を言うのはよせ」

黒井「……何だと?」ピクッ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:14:09.00 ID:LQd6uuhx0
天井「確かに、我々はそう夢を見てはしゃぐような歳でもないが、
   そうして斜に構えるのは貴様の悪い癖だ」

天井「真っ直ぐに光を見出す若者の背を押すのは、大人の役目だと思うが?」


黒井「貴様……よくもそんな甘っちょろい事を言えたものだ、この私に。
   青臭いのはどちらかね」

天井「さぁな。しかしこれだけは言える」


天井「このフェスを機に、アイドル業界は大きなうねりを見せるだろう」

天井「そして、“何者か”があの男や西城に行動を起こすような事があれば、
   私も静観する事はできなくなる」

黒井「…………」

天井「懸命な判断を期待する。ではな」ガチャッ

バタンッ



黒井「……ナマイキな事を。私を牽制するつもりか」

黒井「夢、か……」

黒井「夢だけで食える業界など無い。だから我々のような者達がいる。
   そう……だからこそ、まだまだ続けていかねばならんのだ」

黒井「346プロとの“契約”だけはな」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:18:18.82 ID:LQd6uuhx0
今日はここまで。
今後、2/20〜24まで、夜の8時〜11時頃を目標に100レス程度ずつ更新していければと思います。
 ※時間は前後する可能性があります。
 ※最終更新予定の2/24(金)は170レス程度になる見込みです。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/20(月) 00:31:52.84 ID:bHNPXj6H0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:39:22.06 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


『というわけで、スタジオには90年から2000年代初頭の懐かしのアイテムをご用意しました〜』

『いやー、お父さんお母さん世代にはたまらないものばかりかと思うのですが、
 さてこの中で夏葉ちゃんが見たことあるものってありますか?』

『そうですね……たまごっち?
 あ、あとガラケーも知ってるわ。私の両親が昔使っていて。触ってもいいですか?』

『はい、もちろん!』

『なるほど、こっちに二つ折りの……え? あ、あらっ!?』バキッ!

『あ、ああぁ〜〜〜!?』

  >草ァ!
  >筋 肉 論 破
  >この子いつも筋肉で全てを解決してんな
  >今時のコ達ってガラケー見たことないんか?
  >これもうノゲイラだろ
  >台本って可能性もあるけど、夏葉ちゃんだからなぁww
  >パパのも折ってそう(確信)
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:41:16.67 ID:9H96sgaS0
 【アイドル界の新星! 283プロ『有栖川夏葉』のストイックな魅力に迫る大特集18ページ】

 【老若男女に大人気! 283プロ白瀬咲耶、商店街食べ歩きイベントで神対応 辺りは騒然】

 【トリオユニットの新基準! 346プロ ニュージェネレーションズに密着取材! \ガンバリマス!/】





カタカタカタ… カタカタ…


 【●●プロのアイドル◇◇、不審死を遂げた交際相手の俳優■■と口論する音声が流出】

 【死亡の前夜か? 「死ね」と連呼するアイドル◇◇の肉声 不審死との関連について】


  >文秋砲キターーー!!
  >これマジでヤバすぎやろ、シャレにならなすぎるわ


「待って! 待ってよ!!
 彼を失った上に、何で……何でこんな事を言われなきゃいけないのよ!?」

「こんなひどい事、私言ってない!! 言ってないのに……!!」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:43:01.38 ID:9H96sgaS0
  >普通に殺人やん
  >納得だわ、この間共演してた時も明らかに仲悪そうだったしな
  >キモい擁護してたオタクども息してるかー?


カタカタ… カタカタ…


  >引くほどブチギレてる声で「死ね!」連呼してて草も生えない
  >こんなメンヘラと付き合ってりゃ、そら病むわ……
  >やっぱ自殺かぁ、伸びしろある俳優さんだったのに、本当に可哀想

「違う!! 違うっ!! こんなの全部ウソなのにっ!!」


カタカタ… カタカタカタ…


  >コイツが死ねば良かったのにな


「!!」

「イヤアアアァァァァァァッ!!!」


カタカタカタ…





武内P「………………」
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:44:56.27 ID:9H96sgaS0
〜346プロ 事務室〜


カタカタカタ… カタカタ…

武内P「…………」カタカタ…


ガチャッ

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」

今西「毎日、ご苦労なことだね」

武内P「いえ……お疲れ様です」

つ エナドリ

武内P「……」グビッ


ちひろ「最近のニュージェネレーションズの三人、凄いですね。
    この間始まった新番組、業界人からの評価も高いみたいですよ」コトッ

武内P「ありがとうございます」
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:47:10.09 ID:9H96sgaS0
ちひろ「それと、283プロの有栖川夏葉ちゃんと、白瀬咲耶ちゃんも大人気ですね。
    テレビで見ない日は無いくらい」

武内P「彼女達は、346プロのアイドル達にも負けない、強烈な個性を持っています。
    かつ嫌味が無いため、メディア受けも良いのだと思われます」


武内P「そして……同じく283プロの、園田智代子さん」


ちひろ「先日デビューしたばかりですが、既に業界の中でも注目度は高いですね。
    復帰を熱望していた人達も多くいたみたいです」

武内P「それだけ、大きな事件だったということでしょう」

ちひろ「はい……」

今西「…………」
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:48:16.75 ID:9H96sgaS0
武内P「それ故に、安堵しています」

武内P「園田さんの実力であれば、埋もれる事は考えられません。
    そしてそれ以上に、彼女は……西城さんの心残りの一つでした」

武内P「それが払拭された事は、私にとっても喜ばしい事です」

ちひろ「はいっ」


ちひろ「ただ……」



武内P「……西城さんには、大きな目標がもう一つあります」

武内P「これが達成されない限り、彼女の心が真に晴れる事はありません」


今西「それは、トップアイドルになることではなく、という事かね?」
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:49:11.18 ID:9H96sgaS0
武内P「…………」


ちひろ「961プロの、西城樹里ちゃん……」

ちひろ「先日の『サマードルフィン』で、夏葉ちゃんを押さえて一位になり、
    注目度は智代子ちゃん達以上に高い子です」

ちひろ「それなのに、あれ以来表舞台には姿を見せず、目立った活動も公にされていない」

ちひろ「アイドルファンの間では、引退の噂すら囁かれているほどです」


ちひろ「……プロデューサーさんは、どうお考えになりますか?」


武内P「…………」


ちひろ「……失礼します」スッ

ガチャッ バタン…
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:50:32.27 ID:9H96sgaS0
武内P「…………」


今西「……そうそう。君に一つ、伝えておくことがある」

武内P「美城常務のこと、でしょうか?
    新しくアイドル事業部に着任された」

今西「さすが、察しが良いね」


今西「君のプロジェクトの、渋谷凛君」

今西「彼女もまた、常務の新規プロジェクトへのお声がかかる見込みだ」

武内P「……!」

今西「何、そう構える必要は無いよ。
   直ちに今動いているプロジェクトにメスを入れることが無いよう、私も説得している」

武内P「……ありがとうございます」


今西「だが……あくまで“直ちに”は無い、という話だ」

今西「今後、業績不振に陥るプロジェクトがあれば、その限りではないだろう」


今西「意地悪な言い方にはなるが……
   たとえば、我が事務所以外のアイドルに構うばかりに、“本来業務”が疎かになるプロデューサーの……」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:52:22.53 ID:9H96sgaS0
武内P「!! ……ッ」

今西「私とて、このような事を言いたいわけではない。
   西城樹里君のことは、私も気にかけてはいる……しかし、だ」

今西「この先も彼女を匿い続ける事は、相応のリスクを抱える事になる。
   我が社だけでなく、君にとっても、彼女にとっても。あらゆる意味でね」

今西「だから、一応の警告だけはさせてほしいんだ。すまない」


武内P「……美城常務は、私の素性をご存知でしょうか?」

今西「いや。おそらく美城会長は、961プロとの“契約”の話まではご息女に引き継いでいないだろうね」

今西「だが、彼女は聡明だから、遅かれ早かれ気づくだろう。
   そして同時に、とても高潔な人だ」


武内P「私の存在そのものを、リスクと捉える可能性も考えられる……と?」


今西「時代は移り変わる」

今西「昔のような仕事の仕方は、もう、必要とされなくなるだろう」

今西「黒井社長ともいずれ、今後の“契約”の在り方について、見直すべきかも知れないね」


武内P「…………」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:55:18.79 ID:9H96sgaS0
〜夜 某公園〜

タンッ タタン! タン…!

夏葉「はい、1、2、3、4……!」

未央「5、6、7、8! っと……どう、なつはし!?」

夏葉「良く出来ていたわ。でも、少し無駄な動きが多い気もするわね」

未央「えっ、ウソ!?」ギクッ


咲耶「快活さ溢れるエネルギッシュなダンスは、未央の大きな魅力の一つだ」

咲耶「多少の精度を気にするより、今の元気なベクトルを伸ばしていく方が、
   私は、未央には良いと思うよ」

未央「わーい! ありがとう、さくやん!
   何でも褒めてくれるのすごく嬉しいよー!」ダキッ!

咲耶「おっと。フフッ、未央は本当に感情表現が素直だね」ナデナデ
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:56:49.03 ID:9H96sgaS0
卯月「それにしても、なつはしってあだ名は……」

夏葉「私は別に気にしてないわよ、卯月」

夏葉「確かに、京都の八ツ橋みたいとは思ったけれど、
   八ツ橋自体は何もネガティブな印象を持ち得ないもの」

凛「それは、そうなんだけどね」


シュババババッ!

智代子「だ、誰か今、八ツ橋の話しなかった!?」ザッ!


卯月「うひゃあっ!? ち、智代子ちゃん!」

凛「誰もしてないから、ほら、練習再開しようか」

智代子「そんな……てっきり夏葉ちゃんがお土産で持ってきてくれたんだとばかり……」ガクッ

夏葉「そんなに欲しいなら、今度取り寄せておくのもいいわね。
   京都で懇意にしている老舗のお店があるの」

智代子「ほ、ホントに!?
    どうかお願い! 修学旅行以来ずーっと食べてないから無性に恋しくって!」
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:58:39.81 ID:9H96sgaS0
夏葉「ええ、いいわよ。そのかわり……」スッ

ツンッ プニッ

智代子「オウフ」

夏葉「約束したメニューを、しっかりこなしてからでないとね?」プニプニ

夏葉「私の計算上は、あなたのお腹はもっと引き締まっているはずなのだけれど、
   これはどういう事かしら」プニプニプニ

智代子「ち、違うんだよ夏葉ちゃん、これには深いワケが……」オロオロ


樹里「こらあぁっ、チョコ!!」


智代子「ひぇっ!? じゅ、樹里ちゃん!」ドキッ

樹里「アタシと一緒にランニングするって約束だったよなぁ!?」

樹里「そもそも自分一人だと意志が強く持てないから一緒にやってくれ、って、
   チョコの方がアタシに頼んだってのに、おま…!」

智代子「樹里ちゃん! 樹里ちゃんごめんだからあんまり夜騒ぐと近所迷惑だよ!」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:00:34.43 ID:9H96sgaS0
樹里「ったく、復帰した途端に怠け癖を身につけやがって」

樹里「それとも、以前頑張ってた時も、アタシの見てない所で菓子食いまくってたのか?」

智代子「つ、疲れた時の糖分摂取は、それなりに……」

樹里「カロリー制限しろよな!」

智代子「ひぃっ!」ビクッ


未央「まぁまぁジュリアン、その辺にしてあげたまえよ」

卯月「智代子ちゃんも、悪気があるわけではないですし」

樹里「いーや、甘やかしちゃダメだ」

樹里「何しろアタシ達には、もっとデッカい目標があるんだからな」

咲耶「目標?」


樹里「346プロの不正を公表すんだよ」

樹里「誰も潰すことが出来ないくらい、もっと有名になった上でな」

凛「……!」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:01:52.33 ID:9H96sgaS0
夏葉「……樹里」

智代子「じゅ、樹里ちゃん、それはいいよ。
    ほら、私も夏葉ちゃんも、こうして無事にアイドルをやれてるんだし、あの事はもう…」

樹里「自分達さえ良ければ、それで満足かよ?」

智代子「え……」


樹里「あの後だって、346プロは同じような事を何度もしてる可能性だってあるじゃねーか」

樹里「チョコ達と同じ苦しみを誰かに味わわせるような真似を、
   見過ごすなんてアタシには出来ねぇし、何より……」

グッ…!

樹里「何より、それを平気で行う346プロの腐った性根が気に入らねぇ」ググ…!

樹里「それが当然だと思ってんなら、大きな間違いなんだ、って……
   アイツらには思い知らせてやらなきゃだろ」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:02:48.48 ID:9H96sgaS0
卯月「じゅ、樹里ちゃん……」

咲耶「…………」


樹里「だから、アタシは妥協したくねぇ」

樹里「まだまだ夏葉や咲耶達には及ばねぇけど、いつかは追いついて、
   もっと上の舞台で活動できるようになってやるんだ」

樹里「凛達も、夏葉達に負けないように、一緒に頑張ろうな!」


凛「う、うん……」

樹里「アハハ、何だよ気のない返事だな」

未央「あは、アハハ……」

卯月「…………」


凛「…………」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:04:01.02 ID:9H96sgaS0
――――


凛『樹里に言うから。私達が346プロだってこと』

武内P『……!』ピクッ


凛『安心して。プロデューサーの事は、まだ言わないでおくよ』

凛『正体を明かすのは、あくまで私と未央と卯月の三人だけ』


武内P『……そうですか』

凛『止めないんだ?』

武内P『これ以上、ニュージェネレーションズの活動を西城さんに隠し続けるのは、
    限界だと考えます』

武内P『渋谷さん達と西城さんとの交友関係にも、支障をきたすでしょう』

凛『……ありがとう』
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:05:37.33 ID:9H96sgaS0
凛『でも……プロデューサーは、どうするの?』

凛『まだ、樹里には秘密にし続けるの……?』


武内P『……私が身分を偽って自分に近づいたことを、西城さんが知れば、
    彼女の私に対する疑念は深まります』

武内P『私の素性は……明かす事はできません』


凛『もし、ニュージェネレーションズと樹里が、一緒の仕事をすることになったら?』

武内P『……ッ』

凛『プロデューサーは、どっちのプロデューサーとして来るつもりなの……?』


武内P『…………』


凛『もう、やめようよ』

凛『智代子が立ち直って、アイドルになれた事で……
  きっと樹里も、346プロに対する憎しみは薄れてる』

凛『一緒の仕事をする事になったとしても、全部知られていた方がお互いに気が楽でしょ?』

凛『だから…』

武内P『私の』


凛『え?』
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:06:55.34 ID:9H96sgaS0
武内P『私の本来業務は、何なのでしょうか……』


凛『……何の冗談のつもり?』

凛『私達と樹里、皆をトップアイドルにするために、プロデューサーがいるんでしょ』


武内P『……そう、ですね』

武内P『そうであるよう……努めてまいりたいと、思います』スクッ

凛『ちょっと、プロデューサー!』

武内P『失礼致します。
    まだ私の事は、西城さんには明かさないよう……』

凛『待って!』

スタスタ…



凛『プロデューサー……どうしちゃったの……?』


――――
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:08:37.18 ID:9H96sgaS0
テクテク…

未央「あ、ねぇねぇジュリアン! あっちバスケットコートあるよ」

樹里「あん? ……あぁ」

未央「今度バスケやろうよ!
   私もバスケ部の助っ人やってた時あったから、少しは自信あるんだー」

卯月「あっ、良いですね! 樹里ちゃんのバスケ姿、見てみたいです!」

樹里「んー……気が向いたらな」

未央「何だよー、中学までやってたんでしょ−?
   気の無い返事だなージュリアーン」ウリウリ


凛「……じゃあ、私と樹里はこっちだね。また今度」

咲耶「ああ。お互い忙しくなってきた身だけれど、この秘密特訓は可能な限り続けていこう」

夏葉「場所を変えるのも良いかも知れないわね。
   近くに手頃なジムが無いか、調べておくわ」

智代子「お、お手柔らかに……」ゲッソリ


未央「おやすみー!」フリフリ
卯月「おやすみなさーい!」


樹里「おー……」
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:20:01.70 ID:9H96sgaS0
テクテク…

凛「樹里ってさ……エゴサって、しないの?」

樹里「エゴサ?
   ……あぁ、ネットとかで自分のことを調べたりするヤツか?」

凛「うん」


樹里「プロデューサーから、そういうのは一切すんなって言われてる」

樹里「余計なことを知って、アタシが傷ついたり、変に影響されたりすると良くないってさ。
   ちぇっ、ガキみてーな扱いしやがって」

凛「でも、一応守ってるんだ?」

樹里「まーな。他のアイドルの事とか見たり調べたりすんのもやめろ、って」

樹里「西城サンには西城サンの輝きがあって、
   余計な色が付くとそれが失われてしまうんだと。ハンッ」

凛「…………」


樹里「でもまぁ……曲がりなりにも、アタシのプロデューサーだから?」ポリポリ

樹里「一応、守ってやらねー事も、ねーかな、っていう……」
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:22:07.52 ID:9H96sgaS0
凛「……そっか」

樹里「……悪ぃな。変な話、しちまって」

凛「ううん」フリフリ


テクテク…

凛「……バスケ」

樹里「あん?」

凛「樹里は、あまりやりたくないの?」

樹里「別にそういうワケじゃ……」


樹里「……いや」クシャクシャ

樹里「正直に言うと、な」

凛「そう……」

凛「ごめんね。未央も、悪気があった訳じゃないから」

樹里「知ってるよ。いちいち謝んなって、未央の分まで」

凛「…………」


樹里「? どうした。さっきから、なんか元気ねぇな」
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:23:05.05 ID:9H96sgaS0
凛「……あ、あのさっ」

凛「まだ、言ってなかったよね……私達の事務所」

樹里「……!」ピクッ


凛「今までずっと言えなくて、ごめん」

凛「でも、やっぱり言わないままにしておくの、良くないと思うから……」

凛「だから…!」

樹里「凛」

凛「え……?」


樹里「アタシがバスケをやりたくない理由、どうしてだと思う?」
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:24:10.20 ID:9H96sgaS0
凛「樹里……?」

樹里「答えは『教えてやれねぇ』だ」

樹里「今は、な」

凛「…………」


樹里「アタシも、凛達には言えない秘密を抱えてる」

樹里「だから凛も、無理にアタシに言い辛いこと、言わなくていい」

樹里「お互い、そういう風にしとこうぜ、な?」ニカッ


凛「……樹里」

凛「少し、幻滅したかも」

樹里「……何だと?」ピクッ
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:25:53.76 ID:9H96sgaS0
凛「それ、樹里が言いたくない事を言わないためのダシにしてるよね?
  私が事務所について言わない事を」

樹里「! ……」

凛「樹里がそうやって、自分の都合の良いように相手を利用するなんて、思わなかった」

樹里「そ……そんなつもりで言ったんじゃねぇよ!
   勝手にアタシのこと斜めに見んな!」

凛「じゃあ聞かせてよ。
  どうして私達の事務所について知りたくないのかを」

樹里「な、う……!」


凛「私は別に、樹里がバスケをしたくない理由なんて、あえて聞きたいと思わない。
  見返りや交換条件なんて抜きに、ただ私が樹里に打ち明けたいだけ」

凛「どう? 樹里に断る理由ある?」

樹里「…………」


凛「私達のことを……私を、怖がらないでよ、樹里」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:27:32.07 ID:9H96sgaS0
樹里「…………」

樹里「アタシ、こっちだから……じゃあな」スッ

テクテク……



凛「…………樹里」


凛「……」スッ

ポパピプペ


プルルルルル…


『やぁ、凛。
 君から連絡をもらえるとは、先ほどまでの疲れが嘘のように心が軽くなる思いだよ』

凛「電話出る度に毎回それ言うの?」


凛「あのさ……相談したいことがあるんだ。聞いてくれるかな」

『……樹里のことか』

凛「できれば、夏葉にも」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:29:24.53 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

コツコツ…

美城常務「確認すべき社内の福利厚生施設はこのくらいか」コツコツ

役員「は、はい。左様で」


美城「このエステルームやサウナの稼働率は?」

役員「へっ!? あ、はい、あの……!」パラパラ

役員「年間の利用率ですと、およそ40%程度と…」

美城「では解体だ」

役員「……え?」


美城「アイドル達の福利厚生、パフォーマンス維持に十分に寄与しているとは言えない施設を盲目的に維持し、
   いたずらにランニングコストばかりを掛けるのは非効率だ」

美城「年間の半分も機能していない施設のために、我がアイドル事業部が投入すべき予算など無い。
   解体し、撤去したスペースには別の利活用を考える必要がある」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:31:15.22 ID:9H96sgaS0
役員「で、ですが!
   突然この施設が利用できなくなったら困るアイドル達も大勢いるのでは…」

美城「近隣には類似の民間施設も大勢ある。
   利用する際の費用を活動経費の中で都度工面した方がロスも少ないし、利用実態の把握や予算管理も明瞭で容易だ」

役員「そ、そうだとしても、解体・撤去して新しいものを導入するにも相応のコストが掛かります。
   設備の面でも、定常的に運転させておいた方が維持管理上有利でして…」

美城「であるならば、客観的かつ定量的なデータを添えて、
   新しい施設の導入よりも現状維持が経済比較上有利である旨を私に示すことだ」

美城「猶予はいくらか与えるが、私は気が長い方ではない」

役員「う……!」


美城「我がアイドル事業部は、346プロ社内でも歴史ある部門とは言えない。
   そして事業の性質上、世情の動静には細心の注意を払う必要がある」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:36:54.70 ID:9H96sgaS0
美城「今は会長の期待を寄せられているかも知れないが、次年度に同じだけの予算がつく保証など無い。
   目立った業績を挙げられずに漫然と無駄な支出を重ねていれば、なおさらだ」

美城「そのためにも、極力無駄を省き、
   捻出した予算をより時宜を得た高効率な事業へとフレキシブルに投入する必要がある」

役員「そ、それは、仰る通りですが……」

美城「我々が築いている城は、決して将来を約束された盤石なものではない。
   対外的にも、社内的にもだ」

美城「それが分かったのなら、君の仕事を果たしたまえ」クルッ

役員「……はい」


コツコツ…
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:38:04.02 ID:9H96sgaS0
〜常務室〜

ガチャッ

美城「…………」


今西「やぁ。こんな時間まで大変だね」


美城「もうお帰りになられているものかと」バタン

今西「まぁ何、話があるらしいと、事務の千川君から聞いたものだから」

美城「……お気遣いをいただいたようですね。今、コーヒーを」コツコツ

今西「ああいや、お構いなく。君は常務なのですから」

美城「…………」


スッ

美城「……では、用件を」ギシッ

今西「アハハ、実に端的な人だ」ポリポリ

美城「この職責に、無駄にすべき時間などありません。それで」
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:39:30.82 ID:9H96sgaS0
美城「部内に他社との関わりを持っている者がいないかを知りたいのですが」

今西「……」ピクッ

美城「今西部長。あなたは何かご存知でしょうか」


今西「……それを知ってどうすると?」

美城「簡単な話です。余計なリスクを排除したいだけのこと」

今西「…………」


美城「今の時代、不必要な他社との関わり合いがメリットになるシーンは極めて少ないと考えます」

美城「それどころか、社外秘の情報が漏洩するリスクを考えれば、
   一時のコラボ企画等以外で提携する機会は極力排した方が良いでしょう」

今西「……なるほど、ではもう一つ。
   他社との関わりを持っている者の有無について、君が疑うきっかけとなったものは?」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:41:14.02 ID:9H96sgaS0
美城「他の社員と比べて、明らかに在席率が低い者がいます」

今西「きっと、営業活動等で出突っ張りなんでしょう」

美城「可能性は認めましょう。
   一方で、先日、高垣楓はミニライブを行いました」

今西「…………」

美城「その会場に、他の事務所のアイドル候補生がスタッフとして入り込んでいたようです」

美城「さらに不可解なのは、その相手先である事務所と当方との間で、
   何も金銭の動きが確認されていない」

美城「どちらからの依頼で、どちらが応じたのか……
   いずれにせよ、両社が何の報酬も無しにこれを互いに了承した事には、著しい違和感が認められます」

美城「そして、先日のサマーフェスにおいては、
   我が346プロからのアイドルのエントリーが無かったにも関わらず、我が社のプロデューサーが会場にいたらしい、と」


今西「…………」

美城「いずれも、ただの偶然、あるいは邪な意図など無いのかも知れません。
   ですが、この正否を私には確認する責務があります」
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:43:11.03 ID:9H96sgaS0
美城「私の立場では見通しきれないものも多い。
   ですので、あなたにもご協力をいただきたい」

美城「お願いできますでしょうか」


今西「……ええ、もちろんです」

今西「私はあなたの部下なのだから、是非もないことでしょう」

美城「恐縮です」

スクッ スタスタ

美城「では、事実関係の確認をよろしく頼みます。
   分かり次第で構いませんが、いたずらに問題を放置する事は考えていません」ギシッ

今西「じゃあ、うーん……二週間くらい?」

美城「十日後に、ひとまずはご報告願います」カタカタ…

カタカタカタ… カタカタ…



今西「…………」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:45:40.91 ID:9H96sgaS0
〜後日、レストラン〜

店員「お待ちしておりました。ごゆっくりどうぞ」ペコリ

夏葉「ありがとう」

スタスタ…


樹里「……しっかしまた、高そうな店だなおい」

咲耶「幹線道路にほど近いはずなのに、都会の喧噪を感じさせない落ち着きがある……
   さすが、夏葉の選ぶ店は品があるね」

樹里「こんなトコ連れてこられても、アタシ手持ちねーぞ。
   大丈夫なのかよ、またアンタが出すつもりなのか?」

夏葉「会計なら283プロの経費で落とすよう、ウチの事務員には了解を取っているわ」

樹里「えっ?」


ズイッ

夏葉「今日はあなたと真剣にお話したい事があるの。
   そのために、こうして個室で話せる場所をわざわざ選んだのよ」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:47:29.77 ID:9H96sgaS0
樹里「な、何だよ話したい事って……ていうか、アンタ大概いつも真剣じゃねーか」

夏葉「それはそうだけど、それはそれよ。いい、樹里?」


夏葉「あなた、自分の置かれた境遇がおかしいと思わないの?」

樹里「は?」


夏葉「よく考えてみてちょうだい、樹里」

夏葉「あなたは2ヶ月前の『サマードルフィン』で私を下し、優勝した」

夏葉「それなのに、2位に甘んじた私や咲耶の方がアイドルとして活躍している」

樹里「それは……アンタんとこのプロデューサーの売り出し方が上手い、とか?」

夏葉「じゃあ聞くけど、あのフェス以降、
   あなたがアイドルとして活動した実績は何があるのかしら?」

樹里「えっ? えっと……基礎レッスンと……なんか、宣材写真撮ったり」

夏葉「そういうのは実績とは言わないわよ」
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:49:19.06 ID:9H96sgaS0
夏葉「どうして自分の活動が停滞しているのか、
   あなたのプロデューサーとちゃんと話し合った事はあるの?」

樹里「んー……無い、というか……
   アタシそういうのは全部プロデューサーに任せてっからなぁ」

夏葉「ダメよ、そんなことじゃ。
   樹里がどうしたいというのを、プロデューサーにも伝えないと」

樹里「うっ……いや、つっても、アタシそういうの苦手なんだよ」ポリポリ


夏葉「346プロを打倒するために、もっと高みに上り詰めていきたいんでしょう?」

夏葉「プロデューサーを信頼するのは結構だけれど、
   何もかもを任せきりにして自分を腐らせてはいけないわ」

樹里「わ、分かってるよそんなの! でも……」


咲耶「樹里は、どんなアイドルになりたいんだい?」

樹里「え……」


咲耶「そのビジョンが、樹里の中で明確になっていない所に、問題があるのかも知れないね」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:50:54.07 ID:9H96sgaS0
樹里「何だよ……二人して説教垂れるためにアタシを呼んだってのか?」

樹里「付き合ってらんねぇ。帰らせてもらうぜ」スッ


咲耶「樹里には今、夢中になれるものがあるかい?」

樹里「……!」ピクッ


  ――あなたには今、夢中になれるものがありますか?


樹里「……何でそんな事聞くんだよ」

樹里「アンタには関係ねーだろ」


咲耶「樹里にはそうした方が良いだろうから、ハッキリ言わせてもらうよ」

咲耶「私はアイドルが好きだ。
   そして、私の好きなものを、穏やかならぬ目的のための手段にしようとしている人がいる」

樹里「…………」

咲耶「私にはそれが、どうしても放っておけないのさ。
   たとえ樹里にとって、この行いが価値観の押しつけになろうとも、ね」

咲耶「関係なくなんて無い……私は、樹里と無関係でありたくないんだ」
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:52:17.10 ID:9H96sgaS0
樹里「……夏葉、言ってたよな」

樹里「アイドルを手段としてしか考えない姿勢は、
   本気でアイドルを夢見ているヤツに対する侮辱だ、って」

夏葉「……えぇ、そうね」


樹里「だったら教えてくれよ」

樹里「手段としてしか見出せないヤツに、アイドルをやる資格があるのかを」


咲耶「樹里……!」

樹里「夢を持てないヤツは、誰かを侮辱する事しかできねぇっていうんなら……」

樹里「アタシがアイドルをやること自体、矛盾でしかなかった、ってこったな」

ガタッ

樹里「辞めてやるよ。元々、アタシのガラじゃなかったしな」

樹里「もちろん、346プロを懲らしめてからの話だけどよ」

夏葉「そうやっていつまで自分の気持ちを誤魔化していくつもりなの?」

樹里「あぁ?」
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:53:01.89 ID:9H96sgaS0
夏葉「あなたは恐れているだけよ」

夏葉「どうしてそんなにも怯えているのか、私には分からないけれど……
   手を伸ばさないままでいれば、自身を傷つける心配も無いものね」



樹里「……ッ!」ギリッ


樹里「アンタらに……アンタらに、何が分かんだよ……!!」



クルッ


ツカツカ…!
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:55:04.06 ID:9H96sgaS0
夏葉「…………」

咲耶「……すまない、夏葉。私のせいだ」

夏葉「いいえ。私の方こそ、あの子に強く当たってしまったわ」

夏葉「樹里には、アイドルを続けてほしいから……
   ポジティブな気持ちで、これからもずっと、私達と一緒に」

咲耶「ああ……だけど、かえってムキにさせてしまったようだね。
   凛の期待にも、応えられなかった」

咲耶「あの態度が、樹里の本音でなければ良いのだけれど……」


夏葉「それは心配無いと思うわ」

咲耶「? どうしてだい?」

夏葉「樹里としても、何か理由がある事が分かったからよ」


夏葉「去り際にあの子、言っていたでしょう。「何が分かる」と」

夏葉「樹里自身がジレンマを抱えていない限り、あんな台詞が出てくるはずが無いわ」

咲耶「……ああ、そうだね」
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:55:58.64 ID:9H96sgaS0
〜961プロ 社長室〜

コンコン…

黒井「入りたまえ」


ガチャッ

バタン


武内P「失礼致します」ペコリ



黒井「この私が、わざわざ貴様をここに呼んだ理由、理解しているかね?」

武内P「……西城の件、でしょうか」

黒井「ウィ、そうとも」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:57:51.14 ID:9H96sgaS0
黒井「なぜ私に無断であんなガチャ蠅をスカウトしたのか……
   それについては不問とするつもりでいた」

黒井「961プロとして恥じぬ実績を残せたらの話だがな。
   だが、現実はどうだ?」

黒井「かのサマーフェス以降、西城樹里はロクな活動一つしていない。
   各所からのオファーも次々に断り、業界からの評判も堕ちていく始末」

黒井「当然、我が961プロの品格さえもだ」

武内P「…………」


黒井「いいか。貴様に、我が961プロ内でも相応の地位と権利を与えてやっているのは、
   例の“契約”があるからに過ぎん」

黒井「961と346、双方にとって邪魔となる存在を速やかに排除するため、
   最も柔軟かつ臨機応変に対応できる貴様が、業界内でも動きやすいように、だ」

黒井「勘違いしているようなら、身の程を弁えてもらおうか」
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:00:17.31 ID:9H96sgaS0
武内P「大変、失礼を致しました」ペコリ

黒井「安い謝罪など、どうだっていい。
   あの小娘をどうするつもりか、聞かせてもらおう」

武内P「…………」

黒井「フン……答えに困るような事を聞いているつもりは無いのだが?」

黒井「それとも、何か後ろ暗い事でもあるというのかね? あのガチャ蠅に」


武内P「お言葉ですが、黒井社長」

武内P「西城の初イベントに、あなたが別のアイドルを介入させた事は分かっています」

武内P「実績を残せていないことを責めるのであれば……
    西城の邪魔立てをしたあなたの行為にもまた、説明が必要ではないでしょうか」

黒井「……つくづく、傲岸不遜な物言いをするじゃあないか、この私に向かって」

武内P「さらに言わせていただくなら」


武内P「西城が表舞台に姿を見せない状況は、あなたにとっても好都合なのではないでしょうか」


黒井「フン……それはどういう意味かね?」

武内P「…………」
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:02:14.64 ID:9H96sgaS0
黒井「とにかく、我が社のアイドルとして見合う実績を残せない以上、
   あの西城樹里は961プロに必要無い!」

黒井「これは貴様らだけでなく、我が社の信用問題に関わる話だ」

黒井「そして、現にそれを怪しむ動きも出ている事を、認識した方が良いのではないかね?」

武内P「! ……」

黒井「当然だろう。曲がりなりにも、あの規模のフェスの優勝者だ。
   一切の声明を出さぬまま姿を消すのは、道理に合わん」


武内P「…………ッ」グッ…!


黒井「ああ、そうだとも。
   あの小娘が大人しくしている事自体は、一概に都合が悪いとも言えん」

黒井「しかし、それ故に不都合なのだよ。
   あの小娘に寄せられている関心は、貴様が考えている以上に大きいものだ」

黒井「表社会からも、そうでない者達からも……全くもって不本意ではあるがね」

黒井「どう立ち回ろうとも、もはや注目は逃れられん。
   であるならば、せいぜい為すべき事を為すがいい」

黒井「“我が961プロの”プロデューサーとしてな」
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:03:32.02 ID:9H96sgaS0
武内P「……承知しました」

黒井「分かったなら下がりたまえ。私は忙しい」

武内P「…………」スッ

ガチャッ

武内P「……失礼致します」

バタン…



黒井「……フン」

黒井「厄介な者を抱えてきたものだ……この私を悩ますとは」


プルルルルル…!

カチッ

黒井「私だ」

『346プロダクションの美城常務がお見えです』

黒井「ウィ、社長室へ通せ」

『畏まりました』


黒井「さて……厄介な者がもう一人」ギシッ
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:04:19.34 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

ウィーン…


コツコツ…

武内P「…………」コツコツ…



今西「やぁ、お疲れ様」

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサー」


武内P「! お、お疲れ様です」ペコリ

今西「ハハハ、そう畏まらないで」


今西「ただ……ちょっと話があるのだが」


武内P「常務の件……ですね」

ちひろ「……はい、そうです」
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:06:08.62 ID:9H96sgaS0
今西「……と、いうわけなんだ」

今西「私も、常務に誤魔化し続けるのは、そろそろ限界でね」

武内P「なるほど……」


今西「常務はまだ、君が961プロと内通している、というレベルの認識だろう」

今西「加えて、君が961プロとの契約に従い行ってきた事を突き止めれば……
   単なる解雇以上のペナルティをも、免れなくなるかも知れない」

ちひろ「……ッ」


武内P「…………」


今西「君にばかり負担をかけて、悪いと思っている」

武内P「いえ……身から出た錆です」

武内P「いつかこういう日が来ることは、分かっていました」

ちひろ「プロデューサー……!」


武内P「ですが……もう少し、猶予があれば」
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:07:21.12 ID:9H96sgaS0
今西「猶予があるとして、どうする?」

武内P「……!」


今西「君自身はどうしたい」

今西「西城君や渋谷君達を、トップアイドルにしたいのか。
   それとも、貝のように口を閉ざして生きるのか」

今西「過去の担当アイドルのような目に遭わせないために」

武内P「!! ……ッ」


今西「行動には責任が伴うものだ」

今西「どちらを選択するにせよ、君は……吹っ切らなくてはならないと私は思う」


武内P「…………」


ちひろ「……プロデューサーさん」

ちひろ「こちらを……」スッ
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:08:31.11 ID:9H96sgaS0
武内P「? ……これは?」ペラッ

ちひろ「新天地となる会社の候補を、私なりに選んでみました」

武内P「え……」


ちひろ「こんな事、私は言いたくありません……でも……でもっ」

ちひろ「これ以上、辛いお仕事のためにプロデューサーさんが苦しむのを見たくありません、それに……」

ちひろ「もう、常務には気づかれてしまいます……!
    今のうちにお逃げになって、有耶無耶にしてしまった方が、安全だって思うんです」


武内P「…………」

ちひろ「私を……何もお力になれない私を、恨んでください……」



武内P「………………」
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:09:27.88 ID:9H96sgaS0
〜事務室〜

武内P「………………」ズゥーーン…


未央(ちょ、ちょっとしぶりん……!)コショコショ!

凛「何?」

未央(あんなドンヨリしてるプロデューサー、初めて見るんだけど!?)コショコショ!

卯月(元々、物静かな方ですけど、何だか空気が重すぎて……!)ハラハラ!

凛「ていうか、二人ともそうやってコソコソしてる方が余計に目立つよ」

未央「やっぱり?」スンッ

卯月「えっ? ちょ、ちょっと未央ちゃん!?」


凛「でも……確かに、あの落ち込みようはちょっと異常だね」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:10:27.27 ID:9H96sgaS0
凛「…………」

クルッ

ツカツカツカ…!

卯月「え、ちょ、凛ちゃん……!?」


ツカツカ ピタッ


凛「樹里のことで悩んでるんでしょ」

武内P「!」ピクッ

未央(直球ッ!!)

凛「ここ最近ずっと、私達以外の事でプロデューサーが頭を一杯にしてるの、
  担当アイドルとして面白くないんだけど」

卯月(からの追い打ち……!!)


武内P「……渋谷さんの言う通りです」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:12:00.46 ID:9H96sgaS0
凛「…………」

武内P「私は西城さんを、どう導けば良いのか、迷っています」

武内P「本分を全うする事に悩むようでは……プロデューサー失格です」

卯月「プロデューサーさん……」


未央「導く、って……プロデューサーはジュリアンのこと、背負い込みすぎだよ」

未央「ジュリアンがしたいこと、聞いてあげてさ、それを応援してあげたらどうかな。
   私達の事だって、プロデューサー、伸び伸びとやらせてくれたでしょ?」


武内P「……何をしたいのか、西城さんに気づかせる事ができずにいます」

武内P「事実、優勝後のしばらくの間、基礎レッスンだけを続けさせる事に、
    西城さんは何ら疑問を持っていない……」

未央「う、うーん……」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:13:06.60 ID:9H96sgaS0
凛「気づきたくないだけなんだとしたら?」

武内P「……え?」

卯月「凛ちゃん……?」


凛「樹里も……プロデューサーも、
  私に言わせれば、どっちも素直になれてないだけだよ」

凛「私達には個性個性って、尊重して自由にやらせてくれるクセに……
  プロデューサーはそうして大人ぶって、自分の気持ちを押し殺してるじゃん」

凛「そうして悩んでるフリを続けることが、本当に最後は良い結果に繋がるの?」

武内P「…………」


凛「……ごめん、言い過ぎた」

武内P「いえ……」
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:14:43.74 ID:9H96sgaS0
未央「ま、まぁまぁまぁ!
   とりあえず今日の午前中のお仕事は、確かインタビュー?だっけ?」

未央「それが終わったらさ、皆でお昼ご飯食べに行こうよ!
   私、ずーっと行きたかったお店があったんだけど、いかんせんボリューミーで」

卯月「あっ! この間話してたデカ盛りのお店ですか?」

未央「そうそう! やはり男手がいないと、なかなか突入する勇気が持てんのだよ。
   というワケで、いざって時のモグモグ要員として、プロデューサーも来てくれるよね?」

武内P「申し訳ございません。実は、お弁当を持ってきておりまして……」

未央「あ……そ、そうでした、ね、アハハ、アハ……」

凛「ふーん……まだ続いてるんだ、樹里の」


凛「……!」ピクッ

卯月「凛ちゃん、どうかしましたか?」



凛「……ううん、何でもない」フルフル
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:17:18.87 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


  ううん……やっぱ、無理だよ。

  私、取り返しのつかないこと、しちゃったもん……。

「何言ってんだよ! いいか、よく聞け!」

「アタシがやった事にしろ!」

  ……樹里が?

「ああ! どうせアタシは先公達の評判悪いし、その方が皆納得すんだろ?
 だから……!」


  そんな事、ないよ……。

  先生達、ちゃんと見てるよ……樹里は、気配りのできる、優しい子だって。

  今の私に対しても、そうじゃん。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:18:32.12 ID:9H96sgaS0
「だ、だとしてもだ!
 お前がチームを抜けて、関東勝ち抜けるワケねーだろ!」

「どう考えても、アタシが出場停止食らった方が、チームのためになるんだ!」

「……ッ! 足音……タキザワの奴が来るっ!
 いいか、絶対余計な事言うなよ! アタシに全部任せとけっ!」


「……あっ、タキザワ先生! お、お疲れ様です!」

  二人して、こんな所で何をしている?

「あぁいえ、これは、その、あの……!」


  先生、ごめんなさい。

「えっ……」

  私……。


「おい……やめろ、言うな……」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:20:24.67 ID:9H96sgaS0
「アタシだ……アタシのせいなんだ……!」


  ――お前はチームを欺いた。


「うるせぇ……!!」


  ――なぜ、あんな無謀なスリーを打った?


「アタシは……」

「くそっ、なんで……ボールが……!」


「なんでボールが、届かねぇんだよ……!!」

「届けよ……届いてくれよっ……ちきしょう……!!」


「うあああぁぁぁあぁぁっ……!!!」
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:21:20.76 ID:9H96sgaS0
樹里「………………」



武内P「西城さん」

樹里「……ん?」

武内P「どうかされましたか? 体調が優れないようであれば……」

樹里「何でもねーよ」


樹里「アンタも大概、人のこと言えねーぜ。
   いつも以上に辛気臭いツラしやがって」

武内P「……申し訳ございません」

樹里「謝んなってんだよ……」



ヴィー…! ヴィー…!

樹里「……?」ゴソゴソ
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:22:18.42 ID:9H96sgaS0
樹里「凛か……」

武内P「……」

樹里「悪ぃ、席外すぜ」スッ

武内P「はい」


スタスタ…


ピッ!

樹里「もしもし……おう」

樹里「あぁ、うん……いや、アタシも言い過ぎた。ごめんな」

樹里「で、どうしたんだ?」



樹里「……は? 料理?」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:24:05.79 ID:9H96sgaS0
〜テレビ局 控え室〜

ディレクター「高垣さん、お疲れ様でした。いやー今日の収録も大盛り上がりでしたね」

楓「いえ、そんな……ゲストの方や、皆さんのおかげです。
  ありがとうございます」ペコリ

D「あぁいえいえ、そんなご謙遜を」


D「それで、このトーク番組のゲストについて、各界から応募がたくさん来ておりまして」ドサーッ

楓「まぁ」

D「全部目を通す訳にもいかないでしょうから、こちらでいくつか絞ってみた結果がこちらです」スッ

楓「……ふふっ、お料理番組みたいですね」クスッ

D「ハハハ。でまぁ〜、気になる方がおられたら、高垣さんのご希望をお聞きできればと」

楓「そうでしたか……えぇと」


楓「うーん……」
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:25:30.99 ID:9H96sgaS0
D「今決めていただかなくとも結構ですよ、数日中にご連絡いただければ」

楓「いえ、あまりお待たせしては、先方にも悪いですし……」


楓「……!」ピクッ

D「おっ、気になる方いました?」

楓「智代子ちゃん……」

D「へ?」


楓「283プロの、園田智代子ちゃんをお招きしたいです」


D「あ、はい。えぇっと……アレですよね? 新人アイドルの」ポリポリ

D「彼女の事務所からは、別に応募なんて来てなかったと思いますが」

楓「先ほどは、私の希望を聞いていただけると」

D「あぁいえ! そりゃそうなんですけどね。
  ほら、我々も商売ですし、数字が取れる見込みが無いとちょっと……」


楓「責任なら、私と346プロが取ります」

楓「どうか、よろしくお願いします」
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:26:40.81 ID:9H96sgaS0
〜後日、961プロ寮 樹里の部屋〜

ガチャッ

樹里「まぁ、何もねぇけど」

凛「お邪魔します……あれ?」


智代子「ひぇ……! なんだ、凛ちゃんかぁ、ビックリしたぁ〜」


凛「智代子も来てたんだ」

樹里「合い鍵渡してんだよ」

凛「合い鍵?」

智代子「わわっ!? じゅ、樹里ちゃん、そんな言い方は……!」

樹里「うわぁ!? バ……あの、ちげーよ勘違いすんなよな!!」

凛「勘違いって、何が?」

樹里・智代子「――ッ!!」カァーッ!
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:28:30.35 ID:9H96sgaS0
樹里「つまりぃ! アタシ一人でこんな部屋使うのもったいねーだろ?」

樹里「それに、ほら、アレ」クイッ

凛「?」


樹里「ああして、アタシの手が回んない時は、チョコに面倒見てもらってんだ」

シュッ シュッ

智代子「ありがとう……大きくなれよ、ありがとう……(藤○弘、)」フキフキ

樹里「いらねー小芝居すんな」

智代子「この間、夏葉ちゃんにモノマネ披露したら、すごくウケちゃって」エヘヘ


凛「ふーん……アグラオネマか」


樹里「え?」

智代子「ウソ!? 凛ちゃん分かるの、この鉢植えの名前!」

凛「あ、うん。私の家、花屋やってるから」

樹里「し、知らなかった……」
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:31:14.43 ID:9H96sgaS0
凛「霧吹きだけで水やりしてるの?」

智代子「うん」

樹里「そうしろ、って言われたからな」

凛「それ、たぶんダメだよ」

樹里・智代子「えっ!?」


凛「葉っぱについたホコリを取るのに、水をかけるのは良いと思うけど……
  基本的に水やりは、冬以外は根元にたっぷりあげた方がいいよ」

凛「あとは……これからの時期、寒くなると、外には出さない方がいいかな。
  寒さに弱い品種だし」

凛「それから、あまり日当たりの良い所に置いちゃダメ。
  本来はジャングルに自生する植物だから、直射日光はNGだね」


智代子「へぇ〜……さすがお花屋さん」

樹里「何だよ、全然違うじゃねーか、アイツの言ってた事」

凛「アイツって?」

樹里「プロデューサーだよ、凛も会った事あんだろ?」

凛「……!」ピクッ

樹里「頼まれたから、たまにこうしてアタシの部屋でも面倒見てやってんのに、
   いい加減な事言うなってんだよなぁ? ったく」
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:32:33.34 ID:9H96sgaS0
樹里「なにが「日射がこちらから降り注ぎますので」だ。したり顔で語りやがって。
   花の心っつーもんがまるで分かってねーな」

智代子「乙女心は分かっていても、お花は同じというワケにはいきませんなぁ」

樹里「ヘッ、どうだか。乙女心の方も知れてるぜ」


凛(知らなかった……プロデューサー、そんな趣味があったんだ)

凛(それに……その鉢植えの世話を、私達じゃなくて、樹里に……)


凛「…………」

智代子「り、凛ちゃんどうしたの? ひょっとして怒りに打ち震えてる……!?」

凛「えっ?」

樹里「気持ちは分かるぜ。
   こういう生き物の世話ってのはハンパは許されねーし、まして家業だもんな」

凛「い、いや! そういう事じゃなくて!」ブンブン
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:34:12.62 ID:9H96sgaS0
凛「ていうか、今日来た用事は、別に講釈するためじゃないから」

樹里「あぁ、そういやそうだったな」

智代子「樹里ちゃん家に遊びに来たんじゃないの?」

樹里「なんか料理教えてほしいってさ」

智代子「うああぁ、何それ! 私も一緒にいたい、けど……!」

智代子「不肖、園田智代子。
    これから咲耶ちゃんの新ラジオ番組のゲストに呼ばれておるのです……!」

樹里「超重要なヤツじゃねーかそれ、さっさと行ってこいよ」

凛「咲耶、聞き上手だし、誰かと話をするのも好きそうだし、適任だよね」

智代子「うええぇぇん、樹里ちゃん、後で私にも教えてねぇぇ……!」ポロポロ

樹里「な、泣いてるし……」


智代子「それでは、後はお若い二人でごゆっくり」ニコォォ…!

樹里「うるせぇ、さっさと行けって」

ガチャッ

バタン
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:35:22.78 ID:9H96sgaS0
凛「……ふーん」キョロキョロ

樹里「別に面白いモンなんかねーぞ」

樹里「で、何を作りてぇんだ?」

凛「何を、ってほどでもないけど……」


凛「例えば、その……お弁当、とか?」


樹里「弁当? 昼メシの?」

凛「うん」コクッ

樹里「弁当、って……
   んなもん、適当に空いてるスペースに色々ぶち込めばいいだけじゃねぇか」

凛「適当にぶち込んでるように見えないんだけどな……」

樹里「あん?」

凛「あ、ううん、何でもない」

凛「でも、普段料理しない身からすると、その適当にっていうのが難しくてさ」

樹里「ふーん……まぁ、いいけどよ」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:36:57.62 ID:9H96sgaS0
樹里「でも、本当に何でもいいんだったら、冷凍のおかずで事足りんだろ?」

樹里「何か、これだけはちゃんと作ろうって、イメージしてるモンとかあるのか?」

凛「ちゃんと作るもの……」

凛「…………」


  ――それでは、私はハンバーグを。

  ――おおっ! 紅蓮の業火に灼かれし禁断の果実!
     我が友も、彼の贄を所望するか!

  ――らんらんもハンバーグ大好きだもんねー。


凛「……ハンバーグ」

樹里「おー、ハンバーグな。いいトコ突くじゃねーか」

樹里「アタシも最近、色んな作り方を研究しててさ。
   少なくとも冷凍のヤツよりかは、うまく作れる自信あるぜ」

凛「へぇー、樹里がそこまで言うの、期待しちゃうね」

樹里「まぁな。よし、じゃあまずは材料買いに行くか。
   せっかくだし、他にもひと通り思いついたヤツ作ろうぜ」

凛「うん」
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:38:32.62 ID:9H96sgaS0
トントントントン…

樹里「玉ねぎはこうしてみじん切りにして……」トントントン…

凛「……」ジーッ

樹里「……っと、こんな感じ。ほら、半分やってみ?」スッ

凛「う、うん」


トン トン …

凛「……樹里みたいに、早く、できない……」トン…

樹里「焦んなよ、早くやる必要ねーんだからこんなの」

樹里「ほら、端っこの方切る時あぶねぇぞ。
   無理しないで、向き変えて寝かせてみな」

凛「む、向き?」トン…

樹里「玉ねぎの。あぁ、そうそう」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:40:23.88 ID:9H96sgaS0
樹里「先に飴色になるまで炒めて、コクと香りがどうとかって作り方もあるけど……」トントントン

樹里「弁当用のだからな。いちいちそんな時間かけらんねーし」ササッ

樹里「それに、生のままならサッパリ、しかも水分が出てジューシーになったりするし」スイッ

樹里「まぁ、好みの問題ってヤツ?」パッ パッ

凛「……」フムフム


樹里「これと、パン粉と卵、牛乳……」サァーッ…

樹里「んで……氷水」ジャーッ

凛「氷水? 入れるの?」

樹里「いいや、こうしてボウルを冷やすんだ」ガショッ

樹里「手の熱で肉の脂が溶けちまうと、良くないんだってさ。
   そんで、挽肉に、塩をしっかり入れて……」ササッ

樹里「よし、混ぜる。はい」スッ

凛「わ、私?」

樹里「お前が作んだろ」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:42:02.05 ID:9H96sgaS0
凛「…………」ネリネリ

樹里「うん、いいんじゃねぇか?
   そして、そこにさっきのつなぎを投入」ザザーッ

凛「……なんか、くすぐったいね」ネリネリ

樹里「あぁ、わかる」


凛「どう、先生?」

樹里「先生じゃねーし。でもまぁ……そんなもんだろうな」

樹里「んで、こうして手に取って、成形して……」ペタペタ

凛「なんか、手の平でキャッチボールするって聞いた事あるけど」

樹里「あぁ、そうそう。空気抜くんだよな」ペタペタ

凛「ふふっ」ペタペタ


樹里「そんで、表面をなるべく滑らかに……
   こうすると、表面が割れずに、肉汁を閉じ込めやすくなるんだぜ」

凛「なるほど……」フムフム
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:43:16.66 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」

凛「……」チラッ


樹里「………………」ジューッ…


凛「……ふふ」

樹里「ん? どうした?」

凛「ううん、ごめん。すごく真剣な表情だな、って」

樹里「あ? あぁ、まぁ……一番大事な工程だからな」

樹里「焼き加減一つで、それまでの苦労が台無しになる事もあるし」

樹里「別に、自分用のズボラ飯だったら適当にガァーッてやってパパッと済ますんだけど、
   今回は一応、何つーか……」

凛「……」

樹里「凛に教えるんだし、ハンパはできねぇ、なんてな」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:44:33.63 ID:9H96sgaS0
凛「……最近ハンバーグを研究してるの、プロデューサーが好きだから?」

樹里「まぁな。アイツ、何個入れてもペロリと食べやが…」

樹里「!! ……なっ!?!?」ドキッ!

凛「ふふっ」クスッ


凛「プロデューサー用のお弁当も、そうやっていつも真剣に作ってるんだ?」


樹里「〜〜〜〜!!!」カァーッ!

樹里「てんめぇ……! からかうんだったら教えてやんねーぞ!!」

凛「ごめんごめん」

樹里「ほらっ! 蓋っ!! 蒸し焼き!!」ガションッ!

凛「自分でやってるし」



樹里「……これしか」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:45:46.06 ID:9H96sgaS0
凛「え?」


樹里「これくらいしか、ねーからな……アタシにできんの」

樹里「いつも世話になってんだし……」

樹里「ちゃんとすんの……何もおかしかねーだろ」


凛「……ごめん、そこまで言うつもりなかった」

樹里「ああ……いいよ」

凛「…………」

ジューーッ…


樹里「……っし、どうだっ!」パカッ!

ホカホカ…!

凛「! すっごく、良い匂い……!」

樹里「だろ? 後でソースも作んねーとな」ニカッ
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:46:53.72 ID:9H96sgaS0
凛「ほうれん草のゴマ和えと、厚焼き卵、筑前煮……」

樹里「あとはまぁ、こうしてサラダとかもあれば……
   ほら、何となくサマになんだろ?」スッ

凛「……すごいね」

樹里「何もすごくねーよ、筑前煮なんて途中端折ったしな」


樹里「んじゃ、食べようぜ」

凛「うん」

樹里・凛「いただきます」


パクッ

凛「…………」モグモグ

樹里「ど、どうだ……?」
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:48:17.97 ID:9H96sgaS0
凛「……聞くまでもないでしょ」ニコッ

凛「こんな美味しいハンバーグ、今まで食べたこと無い」


樹里「お、おう……ヘヘッ!」

樹里「まぁな!」ガツガツ!

凛(いい食べっぷり)

樹里「とにかくよ、大体覚えただろ?」

凛「うん……一人でやるのは、ちょっと大変そうだけどね」

樹里「いいんだよ、最初から上手くできるヤツなんかいねぇんだし」

樹里「そうだ! 夏葉や咲耶達にも、いつか教えてやってもいいかもな」

樹里「特に、夏葉は外食ばっかで自炊してる感じしねぇし、
   料理で見返してやるってのも悪かねぇ」ドヤァァ

凛(すっかり得意になってる……ふふ)クスッ
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:49:24.07 ID:9H96sgaS0
凛「今日はありがとう、樹里」

樹里「おう、また来いよ」

凛「うん」

凛「…………」


凛「……あっ、あの、さ」

樹里「ん?」


凛「私のプロデューサーも、好きなんだ……ハンバーグ」


樹里「へー……そうなのか」

凛「うん……さっそく明日、お弁当作ってみるね」


樹里(……って)

樹里(何でそんなのをアタシに言うんだよ!?)カァーッ
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:50:17.40 ID:9H96sgaS0
樹里「あ、えぇっと……なんだ……」ワシャワシャ

樹里「頑張れ、よ……?」

凛「……うん」


凛「じゃあ、またね」ガチャッ

樹里「おう」

バタン



樹里「…………」

樹里「なんか……急に腹、一杯になっちまったな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:52:00.21 ID:9H96sgaS0
『……フフッ、智代子は本当にグルメへの造詣が深いんだね。
 ぜひ一度、ご教示賜りたいものだよ』

『そ、そんな大それたものじゃないよぅ、咲耶ちゃん。
 ただ食べるのが好きってだけで、あんまり自分じゃ作れないし……』

『そういう咲耶ちゃんだって、一人暮らしだよね?
 自炊したりするの?』

『私は、人並み程度と言ったところかな。
 威張れるほどの技量は持ち合わせていないさ』

『だが、もし智代子が来てくれるなら、最大限のもてなしをすると約束しよう。
 ちょうど今は、カツオが美味しい時期だ。実家から取り寄せて、寮の皆にも振る舞おうじゃないか』

『か、カツオ!? 魚の!? ひょっとして捌けるの、咲耶ちゃん!?』

『ああ』

『即答ッッッ!!!』


『そうだ! お料理といえば、私の友達にもすっごく上手な子がいてね?』
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:53:52.13 ID:9H96sgaS0
『へぇ。智代子をも唸らせるほどの腕前なのかい?』

『うんっ! 樹里ちゃ……ああいやいや』

『その子ときたら、凄いんだよ!
 お味噌汁一つ作るのだって、即席のじゃなくてちゃんとお出汁を丁寧に取って、すごく美味しくって』

『揚げ物だって、温度の見極めっていうのかな?
 ピタッ! ジュワーッ! という感じで、お加減バッチリなモノをパパッと作れちゃうの!』

『なるほど、手際が良いということか』

『そうっ! まさしくだよ!』

『そういったスキルは、普段の日常生活で行っていないと習熟できないものだ。
 とても家庭的な子なのだろうね』

『いやぁ、普段はメンドクセーなんて言って、あまり作ってはくれないんだけどね?
 私なんかはもうその子に胃袋掴まれっぱなしで』

『ふむ……そういう事なら、私が対抗馬として名乗りを上げても良いかな?』

『美食の姫にご満足いただけるよう、記憶に残る一皿を献上してみせよう、マイレディ』

『そりゃあ、カツオを目の前で捌かれたら忘れられないよねぇ』
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:55:17.37 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


  う、ううむ……

「どうした、プロデューサー?」

  いえ、その……
  お腹が空いて、どうにも力が出ないようでして……

「何だか、アンパンのヒーローみてぇな言いぶりだな……」

「でも、今日はアタシ弁当作ってきてねーしなぁ」

  それは、困りましたね……



  プロデューサー、これ。

  えっ?


「おっ、それひょっとして弁当か? へぇー、やるじゃねぇか」

  明日作ってみる、って言ったでしょ?

「あぁ、そうだったな」
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:56:56.46 ID:9H96sgaS0
  うわぁぁ〜! このハンバーグ、すっごく良い匂い!

  はいっ! とても美味しそうです!

  樹里に教えてもらったんだ、作り方。

「よ、よせよ。いちいち言わなくていいだろ、そんなの」

  樹里ちゃんのハンバーグ!? わ、私にもどうか一口……!

  なるほど。これは私も食指が動いてしまうね、フフッ。

  ハンバーグってすごいのよ!


  ど……どう、プロデューサー?

  はい。とても美味しいです。ありがとうございます。

  そ、そう……ふーん。まぁ、良かったかな。


「何だよ。別にアタシが弁当作らなくても良かった、ってことか」

「二人とも、末永くお幸せに、なんてな」

  ちょ、ちょっと樹里! 変なこと言わないでよ。

「アハハハ」


――――

――――――
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:57:53.89 ID:9H96sgaS0
〜翌日〜

チュン チュン…


樹里「…………」ムクッ

樹里「……」ポリポリ


樹里(今日は久々に、あの夢を見なかったな……)

樹里(でも、なんか……代わりにすげーヘンな夢、見た気がする)


樹里「ふわぁ……」ノビー…


樹里「さて……今日も弁当作ってやっか」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:58:44.51 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」ジュー…!

樹里「……」トントントン



樹里「………………」



樹里「…………」スッ

ポパピプペ


プルルルルル…


樹里「……あぁ、もしもし? アタシ。おはよう」

樹里「あのさ、プロデューサー」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:00:11.89 ID:9H96sgaS0
樹里「悪ぃんだけど、今日は弁当作れねぇわ」

樹里「だから、適当に外で食うとか、してくんねーか?」

樹里「あぁ、買わなくていい……いや、分かんねぇけど。
   ほら、結構外食できそうなトコあるじゃん……そう、例えばの話、っつーか」

樹里「ああ……ごめんな、うん……それじゃ」

ピッ!


樹里「…………」


ポパピプペ

プルルルルル…


樹里「……あぁ、チョコ? あのさ」


樹里「良かったら今日、弁当作ってきてやるよ」
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:01:24.58 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

武内P「…………」カタカタカタ…


未央「んー? あれあれぇ〜?」クンクン

武内P「な、何でしょうか、本田さん?」


未央「プロデューサーの鞄から、いつもの良い匂いがしませんなぁ」

未央「今日はジュリアン、お弁当作ってくれなかったの?」

武内P「は、はい……鋭いですね」

卯月「未央ちゃんの嗅覚は、これすなわち生への執着ですねっ」

未央「しまむー、ちょいちょいヒドいね!?」

武内P「とりあえず、これから出張する際に、どこか外で済まそうかと……」
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:03:22.47 ID:9H96sgaS0
凛「プロデューサー、これ」

武内P「渋谷さん?」

凛「はい」スッ


未央「こ、これはまさか……!?」ワナワナ…

卯月「お弁当! 凛ちゃんお手製、ですか!?」


武内P「……これは」

凛「お昼ご飯、無いんでしょ?
  たまたま私、自分用に作ってきたんだけど」

凛「プロデューサーの方が、忙しいんだし……これ、あげる」

武内P「し、しかし……」

凛「いいからっ」ズイッ!

武内P「は、はい」

未央(何というパワープレー……!)
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