西城樹里「タケウチ」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 18:04:16.00 ID:LQd6uuhx0
20時頃まで席を外します。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:31:44.20 ID:LQd6uuhx0
〜後日、とあるミニライブ会場〜

テクテク…

樹里「意外と小さいトコなんだなー」

武内P「本来であれば、もっと大きな会場を用意する事もできるのですが、
    当人の希望により、こちらに」

樹里「当人?」


武内P「ミニライブの主演者……
    西城さんが本日、お手伝いをしていただくアイドルとなります」

樹里「ふーん」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:32:48.01 ID:LQd6uuhx0
樹里「まぁ、アタシはアタシの仕事をするだけだけど……
   普通アイドルって、多くのファンを呼びたいって思うもんじゃねーのか?」

樹里「余計なお世話かも知んねーけど、わざわざ自分の利益が小さくなるようなこと、
   アイドル自身が考えるのって、なんつーか……」


武内P「西城さんの仰ることは、もっともであり、一つの正解ではあります」

武内P「ですが、彼女にとっては、別の価値基準があったということです。
    単純な利益、それ以上に大事なものが」

樹里「利益以上に、大事なもの……?」

武内P「本日の仕事は、西城さんにもその一端をお知りいただけたらと思い、セッティングしました」


武内P「こちらが、そのアイドルの控え室になります」

樹里「……」ゴクリ…
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:33:25.88 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」コンコン


「どうぞ」



ガチャッ

武内P「失礼致します」

樹里「し、失礼しまー……!?」


武内P「どうも、お疲れ様です」



楓「お疲れ様です」ペコリ
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:35:04.02 ID:LQd6uuhx0
樹里「あっ、アンタ! ひょっとして、た、高垣……!?」

楓「はい、高垣楓と申します」ニコッ


樹里「お、おいっ! アイツ……じゃない。
   あの人、346プロじゃねぇか!! アタシでさえ知ってるぜ!」

武内P「はい」

樹里「はいじゃねぇ!! どうして346プロの人間がこんなトコ……!」

樹里「こ、この人のライブの手伝いをすんのが、今日の仕事だってのか!?」

武内P「そうです」

樹里「冗談じゃねぇ!!
   どうしてライバル事務所の手伝いを961プロがしなきゃなんねーんだよ!」

樹里「ふざけやがって! やってられっか!!」ザッ


楓「樹里ちゃん」スッ

樹里「うぇっ!?」ドキッ
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:36:43.86 ID:LQd6uuhx0
樹里(あ、アタシの名前……知ってんのかよ)


楓「ごめんなさい。
  樹里ちゃんが、346プロを苦手だっていうお話は、お伺いしていたのですが……」

楓「今日のお仕事は、私にとって特別な……大切にしている、ミニライブなんです」

楓「これ、見てください。
  今日のファンの方々に配る、うちわです」スッ

樹里「うちわ? ……サイン入り」

楓「先ほどからやっているのですが、ちょこっと大変で。ふふっ♪」ニコッ

樹里(1個1個、手書きでサイン書いてんのかよ……)


楓「樹里ちゃんは、アイドルを志して間もないと、お聞きしました」

楓「先輩風を吹かして、偉そうな事を言うつもりはありません」

楓「ですが……いいえ、だから、今日のお仕事は、
  なるべくお客さんの視点に立って、色々なことを感じ取ってほしいんです」

樹里「お客さんの視点……」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:38:20.76 ID:LQd6uuhx0
楓「その時を楽しみたいという気持ちは、
  961プロや346プロ、そのファンの方々にとって、違いは無いと思っています」

楓「だから、お客さん達と一緒に楽しんでもらえると、とても嬉しいです」

楓「今日はよろしくお願いします、樹里ちゃん」ペコリ

樹里「うわっ……あ、頭下げないでくださいっ!」ブンブン


武内P「いかがでしょうか、西城さん」

樹里「…………」


樹里「はぁ……何つーか、怒りも失せちまったぜ」ポリポリ

樹里「よくよく考えたら、ちゃんと仕事の内容を確認しなかったアタシも悪いし……
   やるって決めたからには、ハンパはできねぇよな」

武内P「ありがとうございます」

楓「ふふっ♪」ニコッ
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:39:51.69 ID:LQd6uuhx0
樹里「で、プロデューサー。
   アタシがやんのは、入口でなんか配るスタッフって事でいいんだよな?」

樹里「最初はステージも頼まれた気がすっけど、やっぱり346プロの前座はできねぇ。
   その辺のナマイキは勘弁してもらうぜ」

武内P「はい。それは承知しております」

樹里「つーか、今日来てんのは楓さんのファンだし、アタシが出たって意味ねぇだろ」

武内P「それは……」

樹里「まぁいいや」


樹里「……今日はよろしくお願いします、高垣楓さん」ペコリ

楓「はい、こちらこそ」



武内P「…………」チラッ


楓「……」クスッ


武内P「……」ポリポリ
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:41:04.86 ID:LQd6uuhx0
――――


凛『楓さんのミニライブの手伝いをさせる?
  そんなの、樹里がいいって言うわけないじゃん!』

凛『第一、346プロのトップアイドルの仕事に参加させたら、
  プロデューサーと346プロの繋がりだって、樹里に疑われるよ』


武内P『西城さんには、表向きは961プロから企画を持ち込み依頼したという名目で、
    正規に高垣さんのミニライブの仕事に参加していただきます』

武内P『実際上は、346プロ内部の裁量しか生じ得ないため、
    調整そのものは難しくありません』

凛『トップアイドルとの仕事の調整を難しくないって言い切るプロデューサーも、結構凄いよね』

武内P『調整が円滑に進んだのは、高垣さんのお考えによるところも大きくございます』

凛『えっ?』


武内P『アイドルを……ファンと共に楽しむ心を、西城さんに気づいてもらいたい。
    その意図を、汲んでいただけたのだと思います』

武内P『高垣さん自身、何か思うところもあったのではないかと』
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:43:20.26 ID:LQd6uuhx0
凛『……でも問題は、いくらトップアイドルとはいえ、樹里が346の楓さんに素直に従うかだよね』

武内P『はい。それについては、西城さん次第となります。
    それと……』


武内P『高垣さんと西城さん、双方のアイドル達が一緒に仕事をする事について、
    本来、346側にメリットはありません』

武内P『加えて、私の立場では、961プロの資金を自由に扱う権利はありません』

武内P『発議者である961プロから、相応のギャランティ等の提示が無いにも関わらず、
    346プロが応じたというのは、経緯を知らない人間から見れば、不可解に捉えられます』

武内P『一体何が起きているのか……
    私達の思惑、その動向について、探りを入れる人物が現れる可能性も、否定できません』

凛『……!』

武内P『衆目を集める派手な動きとなる以上、相応に綱渡りな手段とならざるを得ないでしょう』


凛『……そんなリスクを払ってでも、樹里を助けたいの? プロデューサーは』


武内P『はい』


――――
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:44:36.92 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さんには、こちらのブースを担当していただきます」

樹里「おう……って、
   これ、さっき楓さんが書いてたサイン入りのうちわじゃねーか!」

樹里「さすがにこういうのは、本人が直接ファンに手渡した方がいいんじゃねぇのか?
   いいのかよ、アタシが配っちゃって」


楓「大丈夫ですよ」

樹里「あ、楓さん」

楓「きっと喜んでくれます。
  今日来てくれたファンの皆様の手に、うちわがあるうちは、なんて、ふふっ♪」

樹里「は、はぁ……へ?」

武内P「開場したら、パンフレットと一緒に、こちらのうちわをお客様にお配りください」

樹里(す、スルーかよ……!?)
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:46:17.53 ID:LQd6uuhx0
樹里(まぁ、敵情視察を堂々と行えるチャンス……って考えるか)

武内P「さっそく、お客様がお見えになられたようです」

樹里「よ、よし……」



ガヤガヤ…


樹里「い、いらっしゃいませー!
   こちらでパンフレットとうちわをお配りしていまーす!」



樹里「あ、はいっ。会場は、こちら中入って右側になります」



樹里「え、えっと……うわっ、パンフが折れちまった!」アタフタ



樹里「へ? トイレ、ですか? えぇっと、どこだろ……
   す、すみません、確認してきます! おい、プロデューサー!……」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:47:26.93 ID:LQd6uuhx0
樹里「……! …………!」セッセ セッセ…



楓「……とても熱心に、お仕事に取り組んでくれていますね」

武内P「西城さんは、常識的な感性や責任感が、とても強い方です。
    また、他者への思いやりも」


楓「お話をいただいた時は、私、樹里ちゃんに怒られるんじゃないかって、心配したのですが……」

武内P「高垣さんの人柄に触れ、思い直す面もあったのではと思われます」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:49:13.50 ID:LQd6uuhx0
楓「ううん」フルフル

楓「樹里ちゃん自身、本当は気づいているのかも知れません。
  346プロを憎む事が、本質的な解決にはならない事を」

楓「行き場の無い感情に、ひとまずの納得を与えるために……怒りを抱いているのかな、って」

武内P「…………」


楓「……過ぎた事を言いました。忘れてください」

武内P「いえ……そろそろお着替えのほう、お願い致します」

楓「はい」スッ
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:50:05.14 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…

樹里(だんだん、客足も落ち着いてきたな……そこそこ入ったみてーだ)


樹里(しかし、何つーか……
   アイドルのファンって、もっとガツガツしてるもんだと思ったけど……)

樹里(今日のお客さん、みんな落ち着いてるというか……
   でも、変に冷めてるとかじゃなくて……何だろう)

樹里(このライブを楽しむ事に、ファン同士、皆で協力し合ってるみたいな……)


樹里「……?」チラッ



子供「……ママー…………ママぁ〜〜……!」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:51:13.34 ID:LQd6uuhx0
樹里(何だあれ……ひょっとして迷子か?)



子供「ママぁぁ〜〜!」グスッ



樹里(どっかから迷い込んできたのか?
   いや……この建物の周りに、客を入れるような施設は無さそうだった)

樹里(だとしたら、今日この会場に来た誰かの子供……!?)



子供「うあぁぁぁぁぁ……ママぁぁ〜〜〜!!」ボロボロ



樹里「……クソッ!」ダッ!


武内P「? 西城さん、どちらへ…」

樹里「悪ぃ、プロデューサー! ここは任せた!」

武内P「え?」

タタタ…!
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:51:58.19 ID:LQd6uuhx0
武内P「……?」ポリポリ



ザッ


武内P「……!」ピクッ



黒服A「西城樹里……の、プロデューサーさんですね」

黒服B「お話したいことがあるのですが、少し、お時間いただけますか」



武内P「…………」

武内P「……どうぞ、こちらに」スッ
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:53:05.91 ID:LQd6uuhx0
子供「うええぇぇぇ……!」ボロボロ



樹里「おいっ! 大丈夫か!?」ガシッ!

子供「ひっ!?」ビクッ

樹里「あ……悪ぃ、脅かせちまって」


樹里「ママと迷子になっちまったのか?」

子供「……」コクッ

樹里「んーと、じゃあ……どっちから来たか、分かるか?」

子供「……」フルフル


樹里「うーん……」ワシャワシャ

樹里「悩んでてもしょうがねぇ、とにかくママを探しに行かねーとな。
   ほら、アタシがついてやっから、手」スッ

子供「うん……」ギュッ
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:53:48.78 ID:LQd6uuhx0
樹里「つっても……」


ガヤガヤ…  ゾロゾロ…


樹里「どうやって探すかなぁ……と、とりあえず……」コホン

樹里「あ、あのー!!」


オォォ…?  ドヨドヨ…


子供「……?」

樹里「こ、この子のお母さんはいませんかー!?」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:55:05.04 ID:LQd6uuhx0
…? ……?

ザワザワ…


樹里(……くっ。反応ナシかよ、つめてーな)

樹里「すみませーん!! この子のお母さんいませんかー!!」

樹里「すみませーーん!!」


子供「……」



樹里「……クソッ。場所変えるか」

子供「うええぇ……ママぁ……」グスッ


樹里「……大丈夫だ!」ガシッ

子供「ふぇっ?」


樹里「ここはアタシが何とかしてやる!」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:56:06.81 ID:LQd6uuhx0
樹里「うっし! こうなりゃ手段なんて選んでらんねー」パシッ!

樹里「おい、肩車するぜ。乗れ」スッ

子供「えっ……うわぁっ!?」

樹里「よっ!と ……どうだ?」


子供「わああぁぁぁ……!」

樹里「たけーだろ?」ニカッ

子供「すごーい!! たかいたかーい!!」ワタワタ

樹里「うわっ!? バッ、こ、こらっ! 暴れんなっ!!」


樹里「よし、じゃあ行くぜ!」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:57:02.31 ID:LQd6uuhx0
樹里「すみませーーん!! この子のお母さんいませんかー!!」

子供「いませんかー」キャッキャ


ザワザワ…!  オオォ…


樹里「この子のお母さんいませんかー!?」

樹里「すみませーーん!!」



ザッ…

咲耶「……おや? あれは」



樹里「この子のお母さんを探してまーす!! いませんかー!!」



咲耶「……フフッ。賑やかなことだね」ニコッ
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:58:12.34 ID:LQd6uuhx0
〜舞台裏 控え室〜

スタッフ「それじゃあ、あと15分ほどで開演になりますので」

楓「分かりました」



ガヤガヤ…  ザワザワ…


楓「……?」

スタッフ「……向こうが騒がしいですね。ちょっと様子を見てきます」

楓「はい」



ドタドタ…!


楓「……まぁっ」


樹里「か、楓さんっ!」ザッ
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:59:41.47 ID:LQd6uuhx0
樹里(うわっ、ステージ衣装……)

樹里(改めて見ると……すっげぇ美人、だな)


楓「樹里ちゃん。その、肩車している子供は、一体……?」

樹里「いや、その……迷子になっちまったみたいで…」

子供「わーい」キャッキャ

樹里「だぁーもう、暴れんなって!」

楓「ふふっ。迷子にしては、楽しそうですね」ニコッ

樹里「何も楽しいことなんか……!」


樹里「そ、そうだ! ウチのプロデューサー、どこに行ったか知りませんか!?」

楓「? ……そう言えば、先ほどから姿が見えませんね」

樹里「はあぁ!? アイツ、肝心な時にどこ行ってんだよ!」

樹里「……まぁ急に飛び出しちまったアタシもアタシだけどよ」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:01:00.32 ID:LQd6uuhx0
子供「おねーちゃん、もっとー」ワタワタ

樹里「うおっ、とと……!」

樹里「ったく、こっちが気ぃ利かせてママを探してやってんのに、暢気なもんだぜ。
   すっかり泣き止んじまって」

楓「ママ、ですか……」

樹里「ずっとその辺を探し回っているんですけど、全然見つからなくて」

樹里「中は粗方回ってきたから、ひょっとすると会場の外か?
   そうなったら、もうキリが無くなってくるぜ……!」


楓「……樹里ちゃん」

樹里「え? はい」


楓「私に、ちょこっと良い考えがあります」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:02:42.88 ID:LQd6uuhx0
〜会場外〜

テクテク…

未央「ねぇーしぶりーん、やっぱ止めといた方が良いって」

凛「何が」

未央「いくらジュリアンの様子が気になるったって……」

卯月「私達が見に来ている所を樹里ちゃんに見つかったら、
   346プロとの繋がりとか、疑われちゃうんじゃあ……!」ハラハラ


凛「私達はどこかの小さな事務所の、ただのアイドル候補生」

凛「それで、たまたま346プロのトップアイドル、高垣楓さんのミニライブの情報を聞きつけて……
  その……敵情視察? っていうのに来ただけだから」

未央「その“たまたま聞きつけて”っての、ちょっと無理ない?」

凛「と、とにかく! 今日の私達は樹里じゃなくて、楓さんを見に来たってこと」

卯月「チケットを持ってなくて、関係者でも無いはずの私達が、
   楓さんを見れるわけでもないような気が……」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:04:07.73 ID:LQd6uuhx0
凛「……ふーん。未央も卯月も、そうやって私にイジワル言うんだ」

未央「うわわっ!? ち、違うってしぶりん!」アタフタ

卯月「私達は、ちょっと色々と、心配と言いますか……ねっ、未央ちゃん!?」アセアセ

凛「もう……」ハァ…

凛「でも、確かに、楓さんと樹里を堂々と見れるシーンが、そう都合良く……」


凛「……?」ピタッ

未央「ん?」
卯月「あれ……?」


ザワザワ…!  オオォォ…!



楓「お騒がせしております。高垣楓と、その迷子のお客さんでーす♪」テクテク

樹里「み、道を空けてくださーい! 押さないでー!」

子供「わーい♪」キャッキャ



凛・未央・卯月「いるー!!?」ガビーン!
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:05:44.94 ID:LQd6uuhx0
楓「樹里ちゃんの言う通りでーす♪」

楓「お騒がせしている当事者が言うのもなんですが、
  どうか沿道の皆様、交通の邪魔にならないよう」

楓「おさない、かけない、しゃべらないの“お・か・し”を守ってくださいねー♪」

通行人「しゃべらなかったら迷子探せなくないですかー!?」

楓「あ、それもそうですね。じゃあ、おしゃべりはオッケーでーす♪」

アハハハハ…!



未央「か、楓さんが……メガホン持って歩いてる」

卯月「しかもアレ……ステージ衣装、でしょうか? 綺麗……」

卯月「でも、すごく楽しそうですっ」

未央「これは遠巻きに見に行くしかないっしょ! ねぇしぶりん!?」

凛「さっきと言ってること違くない?」


凛(しかも、樹里も一緒……肩に乗っているのは、子供?)
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:06:59.18 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…!

樹里「か、楓さん、やっぱマズいですってこういうの!」

樹里「うわっ、すっげぇ人集まってきてる……!」

楓「えぇ。プロデューサーがいなくて、良かったかも知れません」

樹里「えっ?」


楓「いたらたぶん、止められちゃうでしょうから」クスッ

樹里「い、いやいやいや! じゃあ止めましょうって!」

楓「ユウちゃん」チラッ

子供「なーにー?」

楓「ユウちゃんは今、楽しいですか?」

子供「うんっ! おねえちゃん、あそんでくれてたのしいー!」ワタワタ

樹里「暴れんなっつーの!」

楓「そう。それは良かったです」ニコッ

樹里「だから良くないって!!」プンスコ!
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:08:02.90 ID:LQd6uuhx0
タタタ…!


楓「……あら?」



母親「ゆ、ユウちゃん……!」


子供「あ、ママー!」フリフリ

樹里「おぁ!? 見つかったのか!?」


母親「ユウちゃんっ!」

子供「ママー!」ジタバタ

樹里「おーよしよし、今降ろしてやっから」スッ


母親「ああユウちゃんっ! ごめんね、怖かったよね……!」ギュゥッ

子供「ううん、すっごくたのしかったー!」

母親「えっ?」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:09:24.50 ID:LQd6uuhx0
子供「あのおねえちゃんが、ずっといっしょにあそんでくれたの!」


樹里「……? あ、アタシ!?」ドキッ

子供「かたぐるまして、たかいたかいして、あそんでくれたの!」

樹里「いやいや! アタシは遊びでやってた訳じゃ…!」

母親「あぁ! あの、本当に……本当にありがとうございます!
   ご迷惑をお掛けして、なんとお礼を言ったらいいのか……!」ペコペコ

樹里「や、やめてください!
   アタシはただ、その子をなんつーか、えーっと……!」

楓「ふふふっ♪」ニコニコ


「迷子だったのか」「あの金髪の子が探してあげてたんだって」「へぇー」

パチパチパチ…!
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:10:57.71 ID:LQd6uuhx0
卯月「……樹里ちゃんが、迷子になった子のお母さんを、探し回っていたんですね」

未央「ファンの人達や、通行人の人達も……なんだか皆、楽しそう」

卯月「はいっ。とっても素敵な笑顔です」

凛「…………」



子供「あそんでー」クイクイ

樹里「だぁー、やめろ! ほら、用が済んだならママんとこ行けって」

楓「……あら、もう開演の時間ですね。ただ、この靴だと急いで走るのが……」

楓「樹里ちゃん、私も会場まで抱っこしてくれませんか?」

樹里「さっきから無茶しか言わねぇなアンタ!?」

楓「女はいつでもダダッコ、なんて、ふふふっ♪」ニコニコ

樹里「あーもう、疲れる!!」ワシャワシャ!



凛「……ふふ、楽しそう」ニコッ

咲耶「ああ、まったくだ」フッ


凛「……!?」ビクッ
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:12:29.13 ID:LQd6uuhx0
咲耶「おっと、すまない。驚かせてしまったかな?」

凛「……あなたは」


未央「あ、この人! 確か283プロの……!」

卯月「ホームページで……白瀬咲耶さん、ですか?」

咲耶「おや? 光栄だ、私を知ってくれていたとはね」

凛「……ここで何をしているんですか?」

咲耶「何てことはないさ、ただの通りすがりだよ」


咲耶「君達の方こそ、彼女達に何か用が?」

凛「! それは、その……」


卯月「わ、私達はっ!
   えーっと、どこかの小さな事務所の、ただのアイドル候補生でして……!」アセアセ

未央「たまたま! その、346プロのトップアイドル、高垣楓さんのミニライブの情報を、き、聞きつけて……!
   何だっけ、そう、敵情視察! 敵情視察をしに来たっていうか!」アタフタ

未央「でいいんだよね、しぶりん!?」

凛「言い方以外はね」ハァ…
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:13:35.40 ID:LQd6uuhx0
咲耶「何も取り繕う必要はないさ、渋谷凛」

凛「!」

咲耶「君達のことも知っている。346プロの、本田未央、島村卯月」

咲耶「961プロの西城樹里が、気になっているのだろう?」

卯月「ど、どうしてそれを……」

咲耶「かくいう私も、同じだからね。樹里のことが、気になって仕方がないんだ」

凛「……楓さんではなくて、樹里を?」


咲耶「ミニライブの様子を見たいのなら、考えがある。
   私についてきてくれないかい?」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:14:53.30 ID:LQd6uuhx0
〜路地裏〜


ドサッ…!

黒服B「うっ……う……」ピクピク


武内P「先に仕掛けてきたのは、あなた達の方です」

黒服A「…………ぐ」


武内P「答えていただきます」

武内P「誰の依頼を受けて、あなた方が私を襲いに来たのか……
    西城さんに干渉しようとしているのかを」


黒服A「…………」

黒服A「……言うと、思うのか?」ニヤッ


武内P「いいえ」

武内P「裏の人間になど、何も期待はしていません」スゥ…


ドスッ…!
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:16:23.18 ID:LQd6uuhx0
〜ミニライブ会場〜

ガヤガヤ…


楓「少し、遅れちゃいましたね」

樹里「ったく……いくらなんでも、無茶苦茶ですよ」

楓「でも、あの子のお母さんは、見つかりました」


楓「ありがとうございます、樹里ちゃん」

樹里「へ?」


楓「ここは、私がアイドルになって、初めて立ったステージなんです」

樹里「……!」


楓「きっとあの子も、樹里ちゃんに見つけてもらうまで、心細くて、不安だったと思います」

楓「あのままだと、きっとこの会場が……
  あの子にとって暗く、悲しい思い出になってしまっていたでしょう」

楓「私にとっての、大切な場所が……ね」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:18:13.12 ID:LQd6uuhx0
樹里「楓さん……」

楓「あの子は、楽しかったと言っていました」

楓「樹里ちゃんが一緒についてくれて、遊んであげたことで……
  あの子にとってもまた、この会場が素敵な場所となった」

楓「その事が、私はとても嬉しいんです」


楓「毎年行っているこのミニライブは、私がファンの方々へ送る、恩返しの場」

楓「でも、今日はもう一つ、お返しをさせてください、樹里ちゃん。
  お席を一つ、ご用意しました」

樹里「……あ、アタシに、ですか?」

楓「はい」ニコッ


楓「樹里ちゃんのおかげで、今日はより一層、心を込めて歌えそうです」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:19:26.73 ID:LQd6uuhx0
ワアアァァァァァァ!!!


楓「〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪」

楓「〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪」



樹里「……すっげぇ」


樹里「…………」



 ――今日は、開演が少しだけ遅くなってしまい、すみません。

 ――ご存知の方も、おられるかも知れませんが……
    このミニライブが始まる前、とても素敵なことがありました。

 ――小さい子供の、綺麗な思い出を守ってくれた、私の友人へ。

 ――そしてもちろん、今日来てくれたファンの皆様にも、
    心ばかりの感謝を届けたいと思います。

 ――楽しんでいってください。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:20:24.07 ID:LQd6uuhx0
樹里「感謝、か……」


ワアアアアァァァァァァ!!! パチパチパチパチ…!!


楓「ありがとうございました」ペコリ

ファン「ありがとー!!」「最高だったよー!」「楓さーん!!」

楓「ふふ、ありがとうございます」フリフリ

ワアアアァァァァァ…!!



樹里「……」パチパチ


武内P「いかがだったでしょうか」ヌッ

樹里「おわっ!?」ビクッ

武内P「高垣さんのステージは」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:22:08.89 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アタシ、アイドルって、もっとアイドルだけが頑張るもんだと思ってた」

樹里「いや、頑張るってのはちげーな。何つーか……
   アイドルがお客さんを引っ張って、一方通行で盛り上げたり、楽しませるもんだって」

武内P「…………」


樹里「でも……楓さんのステージは、違う気がした」

樹里「そりゃあ、歌はすげー上手いし、圧巻って言うしかねーんだけど……」


樹里「ファンの人達も、このステージを一緒に良くしていこうって……
   盛り上げていこうって気持ちが伝わってきて」

樹里「楓さんも、独りよがりなんかじゃなくて、
   ずっとファンに寄り添って、思いやってるっていうか……」

樹里「ファンがいてこそのアイドルなんだな……
   お互いがお互いを、尊重し合ってる、って感じがした」


武内P「……はい」ニコッ


樹里「で、アンタは今までどこほっつき歩いてたんだよ」

武内P「申し訳ございません。少々、別件が入ってしまいまして」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:23:24.93 ID:LQd6uuhx0
樹里「ったく……おかげでこっちは大変だったんだからな?」

武内P「大変失礼致しました」ペコリ



パチパチパチ…!

凛「……凄かったね」

咲耶「まるで、遙か青空の彼方に誘われていたかのような、清らかで美しい歌声だ」

咲耶「歌姫の名に恥じない、素晴らしいステージだったね」

未央「うええぇぇぇ……楓さん、最高だったよぉ……!」ボロボロ

卯月「凄すぎますぅ! 歌上手すぎてぇ……!」パチパチパチ

咲耶「おやおや。
   フフッ、そんなに賑やかにしていたら、変装がバレてしまうよ」


凛「関係者を装って、会場に潜り込むなんて……」

咲耶「ちゃんと業界用のスタッフ証は持っていた。
   こういう時のために、社長からある程度の数を預かっていて良かったよ」

凛「でも!」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:25:38.98 ID:LQd6uuhx0
咲耶「褒められた行いではないのは、理解しているさ」

咲耶「それに、こう言ってはなんだが……
   凛達も、正規の手段でこの観客席へ入ることが難しい身だったんじゃないか、ってね」

凛「…………」


咲耶「樹里を見守るという志を同じくする者同士、この出会いを得難きものにしたい。
   良かったら、もう少し話をしていかないかい?」

咲耶「私に対し、不信感を抱いているとすれば、その払拭もしたいからね」

未央「ふ、不信感だなんて、そんな……」

凛「そうだね」


凛「何で樹里を気にしているのか、聞かせてよ」

咲耶「ありがとう。凛はとても真っ直ぐで美しいね」

咲耶「もちろん、私も腹を割って話させてもらうよ。
   そうでなければ、凛達に失礼だ」

凛「お互い、小細工は無しってことでいい?」

咲耶「生憎、策を弄するほどの余裕は無くてね」フッ
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:27:21.28 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…

武内P「本日は、お疲れ様でした」ペコリ

楓「こちらこそ、とても良いステージができて、嬉しく思います」

武内P「恐れ入ります。それでは、私共はここで失礼致します」

楓「はい」


樹里「あ、あの……」

楓「樹里ちゃん、どうかしましたか?」


樹里「楓さん、その……ありがとうございました」ペコリ

樹里「アイドルが何なのかを教わったっつーか……
   ファンと一緒に楽しむ事の大切さ、みたいなモンを、今日のステージで感じました」

樹里「それと……346プロにも、こういう人がいるんだな、って」


楓「ふふ、ありがとうございます」

楓「またいつか、一緒にお仕事しましょうね」ニコッ

樹里「……はいっ」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:28:09.75 ID:LQd6uuhx0
テクテク…

樹里「なぁ、プロデューサー」

武内P「はい」

樹里「裏方とはいえ、あんな人と一緒の仕事なんて、よくセッティングできたな」

武内P「……」

樹里「ひょっとしてアンタ、業界ん中じゃすげぇプロデューサーなのか?」


武内P「スタッフの募集というのは、アルバイト等と同様に、相応に門戸が開かれています」

武内P「業界のツテを使って、若干名の枠を確保するのは、そう難しい事ではありません」
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:29:23.18 ID:LQd6uuhx0
樹里「ふーん、そういうモンか。まぁいいけどよ」


樹里「夏葉と対決するフェス……『サマードルフィン』とか言ったっけか。
   開催まで、2週間切ってるな」

樹里「アタシは勝つぜ、プロデューサー」

武内P「はい」

樹里「だけど……」

武内P「?」


樹里「あのさ……プロデューサー、アタシに笑顔でいろって、言ったよな?」

樹里「今のアタシに、笑顔になんてなれんのかな……」

武内P「…………」

樹里「楓さんみたいに、あんな……誰もが笑顔になれるステージ、出来んのかな」
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:31:00.71 ID:LQd6uuhx0
樹里「そりゃ、あんなハイレベルなステージを最初から目指すのは、身の程知らずだけどよ」

樹里「何か、自信なくしたっつーか……
   笑顔って、思ってたより難しいのかも知んねぇ、って、尻込みしちまうっていうか……」

樹里「心から笑えるような、そういうの……こんな薄っぺらなアタシに、届けられんのかな……?」


武内P「……」

樹里「あ、おい、今笑っただろ! ひょっとして馬鹿にしてんな!?」

武内P「え? い、いえ! そんな事は……!」


武内P「ですが、西城さん」

武内P「その難しさに気づけただけでも、大きな一歩であると、私は考えます」

樹里「……だと良いけどな」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:32:06.00 ID:LQd6uuhx0
樹里「まぁ……今度のフェスではさ」

樹里「あまり、夏葉に仕返しをしてやろう、みたいなスタンスで望まねぇ方が良さそうだな」

武内P「はい」

武内P「共に頑張りましょう、西城さん」

樹里「うん」


樹里「……あれ?」ピタッ

武内P「? どうされましたか?」


樹里「あ、いや」

樹里「ちょっと……見覚えのある人影が見えた気がしてさ」

武内P「……そうですか」


樹里(凛達……それと咲耶、が一緒に歩いてるワケねーもんな)
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:33:55.55 ID:LQd6uuhx0
〜283プロ 事務所〜

夏葉「…………」スイッ


シャニP「なんだか、珍しい光景だな」

夏葉「プロデューサー……何が?」

シャニP「レッスンにも行かずに、夏葉が熱心にスマホと睨めっこをしている姿が、さ。
     よほど面白いものでもあったのか?」


夏葉「ふふ、ご明察よ」

夏葉「これを見てもらえるかしら」スッ

シャニP「?」


シャニP「346プロの、高垣楓……彼女のライブイベントの様子か」

夏葉「そう。咲耶がチェインで教えてくれたのよ」

夏葉「咲耶だけじゃないわ、ファンの人達の間でもSNS上で大騒ぎよ。
   たぶん本番前なのでしょうけど、高垣楓本人が突然路上に出て、会場周辺を歩き回っているって」

シャニP「しかもステージ衣装を着て、か……随分と派手な振る舞いをするんだな」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:36:17.44 ID:LQd6uuhx0
夏葉「えぇ、本当に」

夏葉「でも、私が注目しているのは、高垣楓の方ではないの」スッ


シャニP「……この、子供を肩車している金髪の子」

シャニP「今度の『サマードルフィン』で夏葉がライバルと目しているという、あの子か。
     961プロの、西城樹里」

夏葉「見所があるでしょう?」

シャニP「ステージ上での姿を見れていないから、何とも言えないが……」

シャニP「確かに、他の子とは違う不思議な風格を感じる。
     賑やかに振る舞っているように見えるが……まるで、孤高の狼のような」

夏葉「孤高?」

シャニP「いや、勘違いだったらすまない。しかし……」

シャニP「961プロの西城樹里が、どうして346プロのトップアイドルと一緒にいるんだ?」
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:37:04.87 ID:LQd6uuhx0
夏葉「そう。そこなのよ」

夏葉「あの子の周りでは、いつもこうして不思議な事が起きている」

夏葉「きっと今度のフェスでも、新たな発見があるって思わない?」

シャニP「夏葉や咲耶の興味が尽きない理由が、分かった気がするよ」

シャニP「俺も業界関係者として、961と346の繋がりは無視できない。
     機会を見つけて、俺も少し調べてみよう」

夏葉「ありがとう。損はさせないと思うわ」

シャニP「ああ」
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:38:47.05 ID:LQd6uuhx0
〜ファミレス〜

卯月「紅茶、お好きなんですか?」

咲耶「事務所の仲間が、よく嗜んでいてね」

咲耶「早速だけど、本題に入ろうか」


凛「そうだね」

凛「まず、咲耶のことを教えて」

咲耶「おや。樹里ではなく、私に興味を持ってくれるとは、嬉しいな」

凛「そうやって人をからかうの、止めてもらえる?」

咲耶「からかってなどいないさ。だが……そうだね」


咲耶「確かに、まずは私に邪な意図が無いことを理解してもらった方が良さそうだ」

咲耶「改めて自己紹介をしよう。
   白瀬咲耶。まだ駆け出しではあるけれど、283プロでアイドルをしている」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:41:13.97 ID:LQd6uuhx0
咲耶「アイドルになったきっかけは、スカウトだった。
   モデルの仕事をしていた時に、今のプロデューサーから声を掛けられてね」

未央「どうりでスタイル抜群なワケだよねぇ」ウンウン

卯月「モデルさんのお仕事姿も、見てみたいです」

咲耶「フフ、ありがとう」


咲耶「ただ私は、誰かを喜ばせる仕事がしたいと、常々思っていた」

咲耶「そのためにはモデルではなく、アイドルの方が適しているのではと思ってね」


凛「ふーん……咲耶にとって、アイドルは手段、ってこと?」

未央「ちょ、ちょっとしぶりん、言い方!」


咲耶「当初は、そのように考えていたのかも知れない。
   だが、今は違うよ」

咲耶「素敵な仲間達とプロデューサーに恵まれているおかげで、
   今はただ、アイドルという仕事が、楽しくて仕方がないんだ」

凛「…………」


咲耶「だからこそ、樹里のことが気になっている、とも言えるね」
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:42:55.91 ID:LQd6uuhx0
凛「え……?」

卯月「ど、どうして樹里ちゃんが気になるんですか?」


咲耶「危うい感情を感じ取ったからさ」

咲耶「憎しみというのは、アイドルには最も似つかわしくない感情だろう?」

凛「憎しみ……」


咲耶「繰り返しになるが、私はアイドルという仕事に出会えて良かった。
   仲間達との得難い絆の数々は、誇りと言っていい」

咲耶「だから、それを心から楽しめていないアイドルの存在が、どうしても気になるんだ」

咲耶「樹里のことを、頭ごなしに否定する気は毛頭無い。
   だけど……その背景や考えをより深く知り、必要とあらば、余計なお節介をしたいのさ」

咲耶「私が樹里に近づく動機は、ただそれだけだよ」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:44:31.01 ID:LQd6uuhx0
未央「な、なんかさくやんってさ……」

咲耶「さくやん?」キョトン

未央「どんなにキザな事を言っても、ぜーんぶサマになっちゃうね」

卯月「はい……何だか、とてもカッコいいです」ポー…

咲耶「フフッ、褒め言葉と受け取っておくよ。
   卯月のような可憐な乙女を喜ばせることが出来たなら、お安い御用さ」バチコーン☆

卯月「う、うええぇぇぇぇっ!?」ドッキーン!

凛「卯月、顔赤くしすぎだから」


凛「なるほどね……樹里に抱いている気持ちについて、たぶん嘘が無いのは分かったよ」

咲耶「ありがとう」


凛「ただ、言葉足らずだよね」

凛「どんな経緯で樹里のことを知ったのか。
  どうして樹里が何かを憎んでるって、知っているのか」

凛「肝心な所を、まだ教えてもらってない」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:45:46.69 ID:LQd6uuhx0
咲耶「凛は鋭いね」フッ

咲耶「もちろん、隠す気なんて無い。お答えしよう」


咲耶「凛達は、有栖川夏葉というアイドルを?」

未央「あっ、283プロの! さくやんと同じ事務所の人だよね」

咲耶「知っていたか。夏葉もきっと喜ぶよ」

卯月「有栖川夏葉さんが、どうかしたんですか?」


咲耶「彼女は実は、先日行われていた、
   346プロのアイドル候補生を決めるオーディションに参加していたんだ」


凛「……!」ピクッ

未央「! えっ……!?」

卯月「それって、つまり……本当は夏葉さんは、346プロに入りたかったってことですか!?」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:46:58.08 ID:LQd6uuhx0
咲耶「そうなるね」

咲耶「しかも夏葉は、そのオーディションに合格していた」

咲耶「なのに、346プロには入らなかった……その意味が分かるだろうか?」


未央「え、えっ……何で受かったのに?」

卯月「……ひょっとして、合格を辞退した、ですか? どうして……」


咲耶「皆を前にして、346プロの悪口を言うつもりは無いのだが……」

咲耶「かのオーディションでは、審査員側で不可解な判定があったらしい。
   夏葉の言うことには、だけどね」


未央「えっ!?」

卯月「ど、どういう事ですか……!?」

凛「…………」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:48:50.96 ID:LQd6uuhx0
咲耶「夏葉は致命的なミスをした。
   本来であれば、並み居る出場者を押さえてまで受かるはずが無いほどのミスだ」

咲耶「しかも、彼女の後に実演した子は、
   会場内の誰もが満場一致で合格を確信するほどの出来映えだったという」

咲耶「夏葉もまた、彼女の合格を信じて疑わなかった」


卯月「……なのに夏葉さんが、合格になって……」


咲耶「あれほど憤った夏葉を見たのは、後にも先にも、その様子を語った時だけだ」

咲耶「誇り高い分、ひどく心を傷つけられたのだろうね」

咲耶「もちろん、かの判定により、それまでの努力を反故にされた、その出場者も」

咲耶「そして……その子の周囲の人間も」

未央「……それがジュリアンと何か関係しているの?」


咲耶「私が夏葉からその話を聞いたのは、つい先日の事だ」

咲耶「それよりも少し前……とある日、私は283プロの社長に呼び出された」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:51:29.18 ID:LQd6uuhx0
凛「社長から?」

咲耶「天井努という人だ。私達をよく気に掛けてくれる、面倒見の良い人でね」

咲耶「西城樹里について知ったのは、彼の話がきっかけだった」

凛「! ……」


咲耶「樹里は、346のオーディションで不条理に落とされた子の友人として、
   付き添いに来ていたらしい」

咲耶「だから樹里は、346プロを憎んでいる。
   引いては、アイドルそのものをも憎んでいるのかも知れない」


未央「だからプロデューサーは、346プロである事を隠せ、って……」


咲耶「そんな彼女を、天井社長は守ってほしいと私に言った」

卯月「守る……な、何から、ですか?」



咲耶「その前に、君達が樹里を気に掛ける理由を教えてもらえるだろうか」

咲耶「ここから先は、生半可な覚悟しか持たない者に話す事はできない」

咲耶「知ってしまったが最後、君達をも危険に晒す事になりかねないからだ」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:52:57.36 ID:LQd6uuhx0
未央「ちょ、ちょっと……何だかすごく物騒というか、おっきな話になってきてない?」

咲耶「ああ。どうやら樹里を中心に、この業界は大きなうねりを見せている。
   おそらくは、私達が考えている以上にね」

卯月「そ、そんな……わ、私達はただ、樹里ちゃんと……!」

凛「いいよ」

卯月「え……」


凛「私達の事もちゃんと話さなきゃ、フェアじゃないよね。
  それに、今さら樹里を放っておくことなんてできない」

凛「上辺の話だけ中途半端に聞かされて、引き下がれっていうのも無理な話でしょ?」

咲耶「……」フッ


凛「そんな大それた事じゃないよ。私達が樹里を気に掛ける理由」

凛「友達でいたいから」

咲耶「友達?」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:54:10.41 ID:LQd6uuhx0
凛「初めて……いや、正確には初めてではなかったけど……」

凛「公園で自主練している樹里を見た時、放ってはおけなかった」

凛「何でかは分からないけど、他人とは思えなくて……」


凛「それに……プロデューサー」

凛「私達のプロデューサーが、すごく面倒で、余計なリスクを抱えてまで、
  あの子の事、気に掛けているんだ」

凛「だったら余計、放っておけないよ」

咲耶「君達のプロデューサーが……」


卯月「詳しい事情は、まだ全然聞けてないんです。だけど……
   あのプロデューサーさんがそうまでするなら、私も協力したいなって」

未央「そうそう。せっかく他所の事務所に出来た最初のアイドル友達だもん!
   お互いもっと楽しくやれた方が、絶対いいでしょ?」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:55:42.32 ID:LQd6uuhx0
凛「私が……私達が信じるプロデューサーが、放っておかない人がいる」

凛「余計なお節介を焼きたいのは、咲耶だけじゃないってこと」

咲耶「…………」

凛「そんな私達の覚悟は……生半可、ってことになるのかな」


咲耶「……いや。すまない」

咲耶「どうやら私は、凛達をみくびっていたようだね」ニコッ

凛「! それじゃあ……」


咲耶「だが、やはり話すことはできない」


卯月「えっ!?」

未央「何でさ!? そういう流れだったじゃん!」


咲耶「卯月。君はさっき、詳しい事情をプロデューサーから聞かされていないと言ったね」

咲耶「それならまず、君達のプロデューサーときちんと話をするべきだ。
   立場上の第三者である私から、より深い情報を引き出すのは、健全ではないと思うよ」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:57:20.83 ID:LQd6uuhx0
未央「ぐぬぬ……!」

卯月「う、う〜ん……」

凛「……悔しいけど、それはそうだね」

咲耶「分かってもらえたようで、何よりだ」


咲耶「さて……そうなると、私から話せることも、これでおしまいという事になる。
   ご満足いただけたかな?」


凛「……満足はしてない、けど」

凛「咲耶がどんな人なのか分かった。今日話せて良かったかな」

咲耶「ありがとう。私も、凛達と親交を深めることができて、嬉しく思うよ」ニコッ

凛「ちょっとキザすぎるのが、たまにキズだけどね」クスッ

咲耶「ハハハ、きっと性分なのさ。どうか大目に見てほしい」

凛「卯月もずっと、目がハートマークだったし」

卯月「ええぇぇっ!? そ、そんな事ありま……本当ですか!?」

未央「否定しきれてないのが何ともだねー」ウリウリ

咲耶「フフッ」ニコッ
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:58:54.84 ID:LQd6uuhx0
咲耶「では、また会おう」クルッ

コツコツ…



卯月「た、立ち去り方もカッコいい……」

未央「見るからに芸能人ですよーって歩き方……あ、道行く人も皆振り返ってる」


凛「……未央、卯月、ごめん」

未央「へ? 何が?」

凛「実は、知ってたんだ、私……346のオーディションで、起こったこと。
  それと、樹里が346プロを憎んでるってことも」

凛「プロデューサーから、この間聞いてたんだけど……私も、信じられなくて……」


卯月「ううん、凛ちゃん」フルフル

卯月「凛ちゃんも私達を思っての事ですし、こうして皆で一緒になれたじゃないですか」

未央「うんうん!
   デッカい問題だけど、まずはそれを知れただけでオッケーだよしぶりん!」

凛「……ありがとう」コクッ
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:00:08.25 ID:LQd6uuhx0
凛「咲耶も言った通り、やっぱりプロデューサーと、ちゃんと話さなきゃ」

凛「ただ、プロデューサーは、全部を抱え込もうとしている。
  たぶん、樹里に対しても」

卯月「タイミングは、慎重に見計らった方が良いかも知れませんね」

未央「思った以上に混み入った話みたいだからねぇ……」


未央「でも、深入りしないワケにもいかないっしょ。ねぇしぶりん?」

凛「……うん」

卯月「えへへ、また咲耶さんとお話できるのが楽しみです」

凛「卯月が言うと、別の意味に聞こえるんだけど」

卯月「え、うええぇぇっ!? ち、ちが……ぇぅ……!?」アタフタ

未央「そうして墓穴を掘るしまむーなのであった」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:00:56.08 ID:LQd6uuhx0
〜某所〜


「……そうか」

「そこまで彼女達に伝わった、ということだね」


「いや……いずれ分かることだ。ありがとう」

「私達が案ずるべきは、順序とタイミングだ」

「これから起こり得ることのね」



「千川君」

「君に頼みたい事がある」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:12:42.19 ID:LQd6uuhx0
〜『サマードルフィン』当日〜


プルルルルル…



プルルルルル…



『現在、電話に出ることができません』

『ピーッという発信音の後に、お名前とメッセージを、録音してください』

 ピーッ


『……あ、もしもし、チョコ? ……アタシ。樹里だけど……』

『今度アタシ、フェスに出るって、メールしたよな?』

『サマードルフィンとかいう、夏葉と対決するっていう、そのフェスなんだけどさ……』
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:14:08.31 ID:LQd6uuhx0
『特別にさ、ネット配信、っつーのか? ……されるんだってよ。
 よくわかんねーけど、そういう、専用のリンクから見れるようになってるらしいんだ』

『IDと、パスワード?
 それと……アタシが出る大体の予定の時間、メールしといたからさ、その……』

『チョコにも、見てもらいたいんだ……それだけ』

『敵討ち、ってモンでもねーけど、その……夏葉には、勝とうと思ってる……ていうか、勝つ』

『……ごめんな、突然電話しちまって……それじゃあ』


 プッ



智代子「…………」

智代子「樹里ちゃん……」グスッ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:14:45.58 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」ピッ


樹里「……よし」


武内P「そろそろ向かいましょう。ご準備の方は、よろしいでしょうか」

樹里「アンタこそ、植木の水やりやったのか?」

武内P「エナドリも、既に」スッ

樹里「あっ、そ」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:15:58.35 ID:LQd6uuhx0
〜フェス会場〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…!


樹里「お、いたいた。おーい」フリフリ

武内P「……」


未央「ジュリアーン!」フリフリ

凛「意外と落ち着いてるね」

樹里「今さらジタバタしたってしょうがねぇだろ」

凛「言えてる」フッ


卯月「あ、あわわわ……!」

樹里「逆に何で卯月が緊張してんだよ」

卯月「い、いええぇ、その! ええっと……!」アセアセ


卯月「こ、こちらの方が……樹里ちゃんの、ぷ、プロデューサーサン、ですよね?」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:17:36.93 ID:LQd6uuhx0
武内P「はい」

武内P「西城の担当をしております、“961プロの”プロデューサーです」スッ

卯月「はひっ!? ど、どうも……」

未央「あーこれは、ご丁寧に名刺をどうも。ほほー、“961プロ”ねぇ」ウンウン

樹里「そっか……こんな強面のデカブツが来たんじゃ、卯月がビビるのも無理ねーよな」

卯月「え、えへへ……!」


凛「……」チラッ


武内P「……」コクッ


樹里「ところで……夏葉、見なかったか?」

卯月「えっ?」

樹里「あぁ、そっか悪ぃ。そもそも夏葉の顔を知らね…」


夏葉「来たわね、樹里!」バァーン!

未央「うわぁっ!?」ビクッ

樹里「相変わらずいちいちうるせぇな」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:19:53.79 ID:LQd6uuhx0
夏葉「今日のために、我ながら熾烈な特訓を重ねてきたわ。
   私の方から啖呵を切った手前、お粗末な姿を見せるわけにはいかないもの」

夏葉「無論、あなたもそうでしょう?
   互いにその成果を存分に発揮して、最高のステージとしましょう、樹里」

夏葉「もちろん、その上で私が勝つわよ!」ビシィ!


樹里「……」ポリポリ

夏葉「? どうしたの樹里、ひょっとして体調不良かしら?」

樹里「何でもねーよ」


樹里(なんか……あんまり悪い事ができるようなヤツには見えねぇな)

樹里(いちいち憎らしく思うのが、馬鹿馬鹿しくなってくるぜ、ったく)


咲耶「やぁ、樹里」スッ


凛「……!」ピクッ

卯月「あっ! ……さ、咲耶さん」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:21:02.82 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタも来てたのか。まぁ、同じ事務所だしな」

咲耶「ああ。悪いけれど、今日の私は夏葉の味方だ」

樹里「何も悪かねぇだろ」


未央(こ、これマズくない!?)

卯月(咲耶さんの口から、私達が346プロだって言われたら……!)ハラハラ


樹里「って、卯月達は咲耶のこと知ってるみてぇだけど、面識あんのか?」

卯月「ひぃぃっ!?」ビクゥ!

樹里「な、何だよ」


咲耶「仕事の縁で、ついこの間知り合ったんだ。
   お互い、駆け出しのアイドルと言うことで、親交を深め合っていこうってね」
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:22:47.81 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタってこう、台詞がいちいちナンパくさいっつーか、キザだよな」

夏葉「咲耶の良い所よ。喜んでくれたなら何よりだわ」

樹里「褒めたつもりはねーんだけど……」ポリポリ


未央(ま……免れた!?)

卯月(咲耶さん、うまくボヤかしてくれた……?)

凛(…………)


タタタ…

シャニP「夏葉、先ほどエントリーを済ませてきた」

夏葉「ありがとう、プロデューサー」

シャニP「とりあえず本番まで……?」チラッ


武内P「……283プロのプロデューサーの方、ですね?」

シャニP「あなたは……」

武内P「私は、こういう者です」スッ
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:24:00.31 ID:LQd6uuhx0
シャニP「……なるほど、あなたが西城樹里さんの……」

シャニP「申し遅れました。283プロのプロデューサーです。
     本日は、ウチの有栖川がお世話になります」スッ

武内P「こちらこそ。本日は、どうかよろしくお願いします」

シャニP「えぇ。お互い、良いフェスにしましょう」


未央「へえぇぇ、オトナな応対だねぇ」

咲耶「アナタの違った一面を見れて、少し得をした気分だよ」フッ

シャニP「な……咲耶、それはどういう意味だ?」

夏葉「もちろん悪い意味ではないから、心配しなくていいわよ?」ニコッ

シャニP「お手柔らかに頼むよ、そういうのは……」ポリポリ


樹里「……あっちのプロデューサーは、結構フレンドリーな感じなんだな」

武内P「む……し、失礼しました」

樹里「謝んなっつーの」

凛「……」クスッ
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:25:20.30 ID:LQd6uuhx0
武内P「ところで、有栖川さんは、これから本番までどうされますか?」

夏葉「咲耶よろしく、樹里と親交を……と言いたい所だけど」

夏葉「生憎、私には強敵を前にして気分転換に勤しむほどの余裕は無いわ。
   最終調整は入念に行いたいから、そろそろ失礼しても良いかしら」

樹里「強敵、ね……喜んでいいのか?」

夏葉「あなたさえ良ければね」フッ

樹里「ヘッ! 後で吠え面かくんじゃねーぞ」ニヤッ


咲耶「バックヤードに手頃な場所があった。行こうか、夏葉」

夏葉「ありがとう、咲耶。助かるわ」

夏葉「ではまた、本番で会いましょう」フリフリ

樹里「ああ」

シャニP「それでは、一旦失礼致します」ペコリ

スタスタ…
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:26:46.02 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アタシも、ボサッとしてらんねぇな」

武内P「練習用のスペースなら、あちらに用意しております」

樹里「凛達も来てくれ。出来を見て欲しい」スタスタ

卯月「は、はいっ!」


未央(すっごい気迫……!)

凛(私達の素性なんて、気にされる心配は無さそうだね)



スタスタ…

咲耶「どうだい、プロデューサー? 実際に樹里に会ってみての感想は」

シャニP「ああ、良い目つきをしていたよ。今から本番が楽しみだ」

夏葉「あら、出番を控える担当アイドルが隣にいるのに、浮気性ね?」

シャニP「そ、そういう意味で言ったんじゃないぞ!?」

夏葉「ふふ、冗談よ」ニコッ


シャニP「ただ、西城樹里よりも、あのプロデューサー……」

咲耶「? 彼がどうかしたのかい?」
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:27:14.42 ID:LQd6uuhx0
シャニP「いや、気のせいかも知れないが……」

シャニP「彼とよく似た人を、346プロで見かけた気がするんだ」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:28:07.66 ID:LQd6uuhx0
〜フェス本番〜

ザワザワ…


武内P「西城さんの出番は、有栖川さんの後になります」

樹里「……ああ、知ってる」


樹里「…………」


武内P「……有栖川さんのステージを、見に行かれますか?」

武内P「ご覧にならず、ご自分のステージに集中するという選択肢もございますが」



樹里「……アンタは、どうしたらいいと思う?」

武内P「えっ?」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:30:20.62 ID:LQd6uuhx0
樹里「アイドルとしての成長を考えるんなら……
   見に行って、何でも吸収しに行った方がいいんだろうな」

樹里「でもアタシは、勝てればいい」

樹里「ただ、勝ちさえすれば……それで、当面の目的を果たせるなら……」


樹里「……そう思ってた。だけど」

樹里「本当に、そうなのかな……」

武内P「…………」


樹里「なぁ、プロデューサー……アイドルに、勝ち負けってあんのか?」


武内P「……難しい質問です」

武内P「今回のフェスについて言えば、審査員がおり、
    より多くの得票を得たアイドルが、勝者となります」

武内P「ですが、敗者となったアイドルにもまた、
    このフェスが、新たなファンを生むきっかけとなる事もあるでしょう」

武内P「果たしてそれを、一概に敗北と断じる事ができるでしょうか」

樹里「…………」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:31:49.41 ID:LQd6uuhx0
武内P「アイドルとは本来、優劣を競い合う類のものではないと、私は考えます」

武内P「なぜなら、アイドルにとって最も重要なものは、個性であるからです」

樹里「……前にも似たような事言ってたな、アンタ」

武内P「はい。それぞれの個性が放つ事のできる輝きがあり……」

武内P「二つと同じ星が無いのと同じように、それらは決して比べるものではありません」

樹里「……星、か」


武内P「有栖川さんには、有栖川さんの輝きが……」

武内P「そして、西城さんには西城さんだけが持つ輝きがあります」

武内P「どうか、私にそれを見せていただきたい。
    たとえ西城さんにとって、アイドルが目的を果たすための手段に過ぎないとしても」

武内P「あなたの歌とダンスに魅了された方々が抱く感動に、嘘はありません」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:32:51.98 ID:LQd6uuhx0
樹里「……要は、アタシの気の持ちよう次第ってことか?」

武内P「少々、乱暴なまとめ方とは存じますが……」ポリポリ

樹里「言うじゃねぇか、でも」

樹里「アンタのそういうトコ、嫌いじゃないぜ」ニヤッ

武内P「西城さん……」


樹里「見ておくよ、夏葉のステージ」スッ

樹里「勝ち負けは別にして、あれだけ大口叩いてたヤツのステージには、興味もあるしな」

武内P「……はい」ニコッ
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:33:41.59 ID:LQd6uuhx0
〜ステージ〜

ワアァァァァァァァ!!!

夏葉「〜〜〜! 〜〜!♪」キュッ! タンッ タタン!

夏葉「〜〜〜〜〜! 〜〜〜!♪」タッ! タン タンッ!

ワアアアアァァァァァァァァァ!!!!



卯月「うひゃあぁぁ……!」

未央「こ、こんな人がいたなんて聞いてないよぉ……
   ジュリアン大丈夫かなぁ、しぶりん?」

凛「…………」

未央「ちょ、沈黙が一番怖いってしぶりん!」

凛「ご、ごめん。でも……こんなにハイレベルだったとは、思わなくて……」

凛(この人が、346プロのオーディションを……)
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:34:39.44 ID:LQd6uuhx0
夏葉「皆ありがとう! これからも、この有栖川夏葉をよろしくね!」フリフリ

ワアアアァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!


未央「終わった……すっごかったなぁ」

卯月「この後に樹里ちゃんの出番なのに……まだ会場がザワついています……!」

凛「…………」



フッ


オオォォォ…!? ザワザワ…!


凛「暗転した……!」

未央「いよいよジュリアンの出番……目一杯盛り上げなくっちゃね!」

卯月「はいっ!」ギュッ!



ワアァァァァァァァ……!!
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:35:22.47 ID:LQd6uuhx0

 西城樹里 【 1st Call 】


286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:37:13.36 ID:LQd6uuhx0
  私のこといちばんに
  呼んでくれていたのね


ワアアアァァァァァァァ!!!


  選ばれたら一瞬の 期待も裏切らないよ
  さあ 声をあげて
  誇らしいと感じてね きみの名前を冠に
  そう こたえている


未央「ジュリアン……頑張れ……!」

凛「……樹里」

卯月「そう、その調子です……」ハラハラ…!



タン タッ タンッ! タンッ キュッ! タタンッ!

樹里「〜〜〜♪ 〜〜〜〜!♪」

タッ タタンッ! タンッ タタン!

樹里「〜〜〜〜!♪ 〜〜〜!♪」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:39:46.67 ID:LQd6uuhx0
夏葉「…………」

咲耶「なんて鋭い……それでいて、情感溢れるダンスと歌声だろう」

咲耶「息つく暇も無いとはこの事だね。釘付けになってしまう」

シャニP「……なるほど。夏葉が見込んだわけだな」


咲耶「どうだい、夏葉? 好敵手と見定めた樹里のステージは」

夏葉「……そうね」


  もしCenterで燃えつきたら 墜ちてしまうかも
  こわくなるのは同じ
  どれ位許せるのかを 考えてみたの
  きみをもっと許せる きみももっと許せる
  でも私は自分で 自分のこと許せない


樹里「〜〜〜!♪ 〜〜〜〜〜!♪」

タタンッ タンッ  キュッ! タッ タンッ!


夏葉「不思議ね……とても誇らしい気分よ」フッ

咲耶「夏葉の目に狂いは無かった、ということかな?」

夏葉「あなたにとっても、でしょう? 咲耶」

咲耶「ああ」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:40:47.82 ID:LQd6uuhx0
  奈落に沈んで しゃがみこんだ時
  名前呼ぶ声が 突き抜けて聴こえた
  暗闇の中 結ばれていく
  ひと筋の光へと 手をのばした


樹里「〜〜!♪ 〜〜〜!♪」

樹里(……このまま)タンッ タタンッ

樹里(このまま、最後まで……!)キュッ タタンッ タン!



樹里「……ッ!?」ギクッ



凛「……?」

未央「あ、あれ?」

卯月「今、な、なんだか……」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:41:56.77 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ッ!」

樹里「〜〜〜〜!♪ 〜〜〜!♪」タッ タン! タタン



シャニP「……ほんの一瞬ではあった、が」

夏葉(表情が、曇った……?)


  宿命的に最高を 更新していく
  生まれ変わり続ける
  今一緒にいて欲しいんだ わがままなくらいに
  ちょっとじゃ足りない全然 嫉妬も加味して超然
  セットリストや視線 完全に伝わってる


樹里「〜〜〜!♪ 〜〜〜!♪」タン! タッ タン!

樹里「〜〜〜〜〜!♪」タタン タッ! ザンッ!



ワアアァァァァァァ!!!!


樹里「はぁ……はぁ……はぁ……!」

樹里「……ありがとうございました!」ペコリ

ワアアアアァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:42:56.20 ID:LQd6uuhx0
コツ… コツ…

樹里「…………」コツ…



武内P「西城さん」

樹里「……プロデューサー」


武内P「お疲れ様でした。素晴らしいステージでした」



樹里「……正直に言えよ」

武内P「西城さん……?」


樹里「夏葉に敵うステージじゃなかった、って」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:44:06.16 ID:LQd6uuhx0
武内P「……目立ったミスはありませんでした」

武内P「それどころか、これまで行ってきたどのレッスンよりも、良い出来だったと思います」



樹里「気づいてるはずだぜ、アンタには」

樹里「ラスサビに繋ぐ、一番盛り上げるシーンで……一瞬、動き止まってたろ、アタシ」


武内P「……繰り返しになりますが、ミスとカウントすべきほどのものでは…」

樹里「心にもねぇこと言ってんじゃねぇよっ!!」

武内P「!」


樹里「……ッ」グッ

武内P「さ、西城さん……」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:44:57.89 ID:LQd6uuhx0
コツ…

樹里「……!」ハッ



夏葉「…………」

咲耶「お疲れ様、樹里」



武内P「有栖川さん、白瀬さん……」

樹里「……何だよ」



夏葉「……まずは結果を待ちましょう。話はそれからよ」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:45:43.95 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ああ」


夏葉「……」クルッ

咲耶「また後で会おう」スッ

シャニP「……」ペコリ

コツコツ…



樹里「…………」

武内P「彼女達の言う通りです。さぁ、西城さん」

樹里「分かってる」スッ

ツカツカ…



武内P「…………」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:46:37.03 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…!

卯月「い、いよいよ結果発表です……!」ハラハラ

未央「うぅぅ……何だか、自分の時以上にドキドキしちゃうよぉ……!」ソワソワ


凛「……贔屓目抜きに、二人は誰が勝つと思う?」

未央「へっ? い、いやぁ……たぶん、ジュリアンかなつはしのどっちかだとは思うけど……」

卯月「ど、どちらが良かったか、って言われても……そのぉ……」モジモジ


凛「……私は、夏葉さんだと思う」

卯月「えっ!?」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:47:36.82 ID:LQd6uuhx0
凛「…………」

未央「し、しぶりん……」



卯月「……あっ! 結果が!!」

凛・未央「!」


オォォォ…!



咲耶「……!」

シャニP「これは……」

夏葉「…………」



武内P「西城さん……」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:48:23.90 ID:LQd6uuhx0
 【 1位  西城樹里 】



樹里「……え」

武内P「おめでとうございます、西城さん」ニコッ


ワアアアァァァァァァ!!!! パチパチパチ!!!


樹里「あ、アタシ……」

武内P「さぁ、ステージへ」


樹里「…………うんっ」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:49:49.95 ID:LQd6uuhx0
ワアアアアァァァァァァァ!!!!


未央「あっ、ジュリアン出てきた!!
   イェーーーイ!!! ジュリアーーン、優勝おめでとーー!!」ヒューヒュー!

卯月「樹里ちゃん、よく頑張りましたー!! 本当にすごいです!
   ねっ、凛ちゃん!?」

凛「うん……!」


凛(でも……何だか、表情がパッとしないような……?)



夏葉「……負けた、わね」パチパチパチ

咲耶「ああ。でも、夏葉も素晴らしかったよ」パチパチ

夏葉「ええ……それでも、樹里には敵わなかった」フッ

シャニP「時の運、というものもある。
     決して見劣りするものではなかったと、今日来てくれたファンも分かっているさ」

シャニP「また次を頑張ればいい。俺達にできない事ではないはずだ」

夏葉「……ありがとう、プロデューサー」コクッ
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:50:38.54 ID:LQd6uuhx0
シャニP「ただ、優勝した当人は……?」

夏葉「…………」

咲耶「ステージ上の樹里……まだ自分の勝利が信じられない、というようにも見えるね」

夏葉「……それだけではない気がするわ」

夏葉(一生懸命、笑顔で応じているようにも見えるけれど……樹里)



樹里「あぁ、いえその……あ、アタシなんかが、っていうか」

樹里「いえ、すっげぇ、じゃなくてあの、すごい嬉しいです!
   すみません、応援ありがとうございます!」

パチパチパチパチ…!!!



夏葉(あなた……ひょっとして何か……?)



武内P「…………」
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:52:13.93 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…

樹里「……ふぅ、やっとひと段落ついたか」

武内P「お疲れ様でした、西城さん」

樹里「本番よりも、その後のセレモニーとかインタビューみてぇなヤツの方が疲れたぜ」

武内P「致し方の無い事です」

樹里「そりゃ分かるけどよ」ポリポリ…


卯月「樹里ちゃーーん!」タッタッタッ


樹里「おー、卯月! 未央と凛も、今日はありがとな」フリフリ

未央「ううん! こちらこそ、すっごい良いステージだったよぉジュリアン!」ダキッ!

樹里「うぉわっ!? お、コラッ、いきなりやめろってそういうの!」


凛「……樹里、お疲れ様」

樹里「凛。へへッ、なんつーか……まだ信じらんねーよ」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:53:18.53 ID:LQd6uuhx0
凛「じゃあ、樹里が実感できるまで、私達がたくさん言ってあげないとね」

卯月「はいっ! 樹里ちゃん、優勝おめでとうございます!」

未央「ジュリアンおめでとー!」

樹里「だからいいってそういうの!」

武内P「おめでとうございます、西城さん」

樹里「アンタまで言うんじゃねぇよ!!」

凛「ふふっ」


コツ…


未央「……あっ」



夏葉「樹里、優勝おめでとう」


卯月「夏葉さん、咲耶さん……」

樹里「……ああ」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:54:56.79 ID:LQd6uuhx0
武内P「プロデューサーは、どちらへ?」

咲耶「先に車で待っていると」

武内P「そうですか」

咲耶「浮かない顔をしているね、樹里」

樹里「…………」

武内P「西城は、先ほどまで関係者への応対により、拘束されておりましたので」

咲耶「なるほど。お疲れというわけか」


夏葉「生憎だけれど、これからはもっとハードなスケジュールになるわよ、樹里」

夏葉「このフェスの優勝を機に、あなたにはきっとたくさん仕事が舞い込んでくるわ。
   これまでとは比較にならないほどのね」

夏葉「弱音を吐いてるヒマなんか無いわよ。しゃんとしなさい! ねっ?」ニコッ


樹里「……アンタは、どう思ってるんだ?」

夏葉「何が?」

樹里「今日の結果だよ」

樹里「アタシは……夏葉が勝つと思ってた」

卯月「じゅ、樹里ちゃん……」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:56:23.94 ID:LQd6uuhx0
夏葉「もちろん、私が勝つと思っていたわ!」ドヤッ!

樹里「……!」

夏葉「でも、結果は樹里の勝ち。私はそれを受け入れるだけよ」

夏葉「だから、あなたも胸を張りなさい」


樹里「あの時は受け入れなかったクセにか?」

夏葉「あの時?」

樹里「346のオーディションの結果に抗議をした時だよ」

夏葉「……!」ピクッ


樹里「あの日のアンタの気持ち、よく分かるぜ……」

樹里「どうしても……納得ができねぇ。皆、ごめん……!」スッ

未央「あ、ちょっ、ジュリぁ…!」

スタスタ…!

夏葉「待ちなさい、樹里」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:57:36.23 ID:LQd6uuhx0
樹里「! ……」ピタッ


夏葉「約束を果たすわ。あなたへの非礼を詫びると」

夏葉「智代子を想うあなたの決意を侮辱して、ごめんなさい、樹里」スッ


樹里「……アンタって、呆れるほどに真っ直ぐで真面目だな」

樹里「アンタが本当に、不正を仕向けた有栖川家の人間なのか、分からなくなるぜ」

夏葉「そう……それについても、あなたに話をする必要があるわね」

樹里「えっ?」


夏葉「あのオーディションから帰った後、父に問い質したの」

夏葉「どうして、己が実力を346プロに認めさせる機会を私から奪ったのか、とね。
   すると父はこう答えたわ」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:59:27.11 ID:LQd6uuhx0
夏葉「何の事だ、と」


樹里「……何だって?」クルッ


夏葉「彼は……私の父は、346プロオーディションの存在すら知らなかったのよ。
   もちろん、それに私がエントリーをしていた事も」

夏葉「これがどういう意味か、分かるかしら」


樹里「アンタの親父は……不正に関わっていなかった?」


夏葉「この話を信じるかどうかは、あなたの自由よ。
   私も、有栖川家の人間だものね」

夏葉「でも、私は……私だって、あの一件をずっと許していない者の一人」

夏葉「何より、会場内の誰にも文句を付けられないだけの実力で、
   合格を勝ち取ることの出来なかった自分自身にも」

夏葉「いずれにせよ、智代子を傷つける結果を招いた責任が、私にもある事に変わりは無いわ」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:00:45.96 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」

凛「樹里……」


樹里「……少し、考えさせてくれ」スッ

スタスタ…



卯月「オーディションの件……樹里ちゃんも、心の整理は難しいですよね」

武内P「……それもあるでしょう。ですが、それ以外にも……」

未央「今日のステージの出来も、ジュリアンの中で満足いってなさそうだったよね」

夏葉「…………」


咲耶(単に、自分のステージに納得していないだけのようには見えなかった)

咲耶(346プロへの私怨だけでなく、どうやら樹里自身、何かを抱えているようだ)

咲耶(それを明かしてくれる日は、果たして来るだろうか……)
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:02:16.59 ID:LQd6uuhx0
スタスタ…

樹里「……クソッ」

樹里(悪ぃ事、言っちまった……夏葉や、皆にも)

樹里(…………)



  ――樹里ー! パスパース!

  ――えへへっ! やっぱり樹里がいれば安心だねっ!

  ――私の代わりにポイントガードを任せられるの、樹里しかいないよー!



  ――なぜ、あんな無謀なスリーを打った?


樹里「……ッ!!」

ガスッ!


樹里「いちいち、思い出してんじゃねぇよ……!」

樹里「…………ッ」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:03:02.21 ID:LQd6uuhx0
「樹里ちゃん……」


樹里「……!?」クルッ



智代子「……樹里ちゃんっ」



樹里「なっ……ちょ、チョコ!?」

智代子「樹里ちゃん!」ダッ

ダキッ!

樹里「うわっ!」


樹里「チョコ……か、会場に来てくれてたってのか!?」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:04:19.94 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃぁん……!」グスッ

智代子「すごく……ひっ、ぐ、す……すっごい、カッコ良かったよぉ……!!」ポロポロ

智代子「キレイで……きま、う、うっ、キマッ、てて、キラキラで……!!」

智代子「うあぁぁぁあぁ……!!」ギュゥ…!


樹里「チョコ……」

樹里「あ、アタシはただ……その……えっと」ポリポリ


 ――あなたの歌とダンスに魅了された方々が抱く感動に、嘘はありません。


樹里「……チョコに、届いて良かった」

智代子「ぇ……?」

樹里「チョコのために、アタシは……アイドルやってた」


樹里「だから……チョコに喜んでもらえたなら、良かったよ」

樹里「良かった、って……今、やっと思うことができたぜ。チョコのおかげでさ」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:05:35.19 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃん……!」ジワ…!

樹里「あーもう、泣くなって。ほら、鼻かめよ、ティッシュいるか?」

智代子「樹里ちゃあんっ!!」ブワワッ

樹里「わあぁぁっ!? や、止めろって、アタシの服べちゃべちゃになるだろ!」

智代子「樹里ちゃん、そんなこと言うのズルいよぉ!! うわぁぁぁん!!」ジュルジュル


樹里「……へへ、ったく」

樹里「誰のせいだと思ってんだよ、アタシがこうして身体張ってんの」

樹里「チョコもさ……やらねーわけにはいかねぇだろ?」ニカッ

智代子「うん……うんっ……!」

樹里「……世話かけさせやがって」ナデナデ



夏葉「……智代子」
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:08:17.38 ID:LQd6uuhx0
凛(あの子が、樹里の……そっか)

卯月「二人とも、とっても幸せそうです」


咲耶「あの智代子に前を向いてもらう事が、樹里の目的の一つだった」

咲耶「その目的は、達成されたと見て良いだろうか?」

未央「何言ってんのさくやん、あれ見てよ。そうに決まってるじゃん!」

夏葉「樹里の満足げな表情がその証拠ね。さっきとは大違い」ニコッ

咲耶「フフ、そうだね」


凛「これでひとまず、一件落着……かな」

武内P「……今はただ、そうである事を願いましょう」

凛「うん……それと、さっき夏葉さんも言ってたけど、
  このフェスで結果を残した事で、樹里もこれからどんどん有名になる」

凛「そうなれば、しばらくは樹里を危ない目に遭わそうとする人達も、
  容易に手出しが出来なくなる……そうだよね、プロデューサー?」



武内P「……はい」
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:09:43.42 ID:LQd6uuhx0
〜会場外 961プロ リムジン車〜

黒井「何の用かと思えば、ノコノコと……」

黒井「そんな事を貴様に教える筋合いなど無い!」

シャニP「で、ですが……!」


???「では、私から話そう」

シャニP「えっ?」

黒井「何ッ!? 貴様、何を勝手な……!」


天井努「いずれ分かる事だ。
    それに、この男は余計な行動をする者ではない。私が保証しよう」

シャニP「しゃ、社長……」

黒井「……フンッ」


天井「お前の目した通り、あの男は346プロのプロデューサーだ」

シャニP「! ……で、ではどうして、彼は961プロのプロデューサーだと?」

天井「961プロのプロデューサーでもある、という事だ。
   その理由については、まだ明かす事はできない」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:11:25.97 ID:LQd6uuhx0
天井「だが、来るべき時が来るまで、あの男と西城について深入りはせず、
   しかし注意深く見守る必要がある」

天井「お前にも、その役割を担ってほしい。頼まれてくれるな?」


シャニP「……分かりました。今日は、これ以上お伺いすることはしません」

シャニP「ですが、いずれ何らかの形で、私にも事情を明かしていただくことを願います」

天井「すまない、苦労を掛ける」

シャニP「いえ……では、失礼致します」ペコリ

スタスタ…



黒井「……フンッ!」

黒井「あの西城樹里とかいうガチャ蠅……
   346のプロデューサーが妙な動きをしているから、泳がせてみたが」

黒井「どうやら面倒な事になりそうだな。
   金と手間を惜しまず、さっさと潰せば良かったという訳か」

黒井「私とした事が、目測を見誤るなど……」


天井「フッ……いい加減、青臭い事を言うのはよせ」

黒井「……何だと?」ピクッ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:14:09.00 ID:LQd6uuhx0
天井「確かに、我々はそう夢を見てはしゃぐような歳でもないが、
   そうして斜に構えるのは貴様の悪い癖だ」

天井「真っ直ぐに光を見出す若者の背を押すのは、大人の役目だと思うが?」


黒井「貴様……よくもそんな甘っちょろい事を言えたものだ、この私に。
   青臭いのはどちらかね」

天井「さぁな。しかしこれだけは言える」


天井「このフェスを機に、アイドル業界は大きなうねりを見せるだろう」

天井「そして、“何者か”があの男や西城に行動を起こすような事があれば、
   私も静観する事はできなくなる」

黒井「…………」

天井「懸命な判断を期待する。ではな」ガチャッ

バタンッ



黒井「……ナマイキな事を。私を牽制するつもりか」

黒井「夢、か……」

黒井「夢だけで食える業界など無い。だから我々のような者達がいる。
   そう……だからこそ、まだまだ続けていかねばならんのだ」

黒井「346プロとの“契約”だけはな」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:18:18.82 ID:LQd6uuhx0
今日はここまで。
今後、2/20〜24まで、夜の8時〜11時頃を目標に100レス程度ずつ更新していければと思います。
 ※時間は前後する可能性があります。
 ※最終更新予定の2/24(金)は170レス程度になる見込みです。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/20(月) 00:31:52.84 ID:bHNPXj6H0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:39:22.06 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


『というわけで、スタジオには90年から2000年代初頭の懐かしのアイテムをご用意しました〜』

『いやー、お父さんお母さん世代にはたまらないものばかりかと思うのですが、
 さてこの中で夏葉ちゃんが見たことあるものってありますか?』

『そうですね……たまごっち?
 あ、あとガラケーも知ってるわ。私の両親が昔使っていて。触ってもいいですか?』

『はい、もちろん!』

『なるほど、こっちに二つ折りの……え? あ、あらっ!?』バキッ!

『あ、ああぁ〜〜〜!?』

  >草ァ!
  >筋 肉 論 破
  >この子いつも筋肉で全てを解決してんな
  >今時のコ達ってガラケー見たことないんか?
  >これもうノゲイラだろ
  >台本って可能性もあるけど、夏葉ちゃんだからなぁww
  >パパのも折ってそう(確信)
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:41:16.67 ID:9H96sgaS0
 【アイドル界の新星! 283プロ『有栖川夏葉』のストイックな魅力に迫る大特集18ページ】

 【老若男女に大人気! 283プロ白瀬咲耶、商店街食べ歩きイベントで神対応 辺りは騒然】

 【トリオユニットの新基準! 346プロ ニュージェネレーションズに密着取材! \ガンバリマス!/】





カタカタカタ… カタカタ…


 【●●プロのアイドル◇◇、不審死を遂げた交際相手の俳優■■と口論する音声が流出】

 【死亡の前夜か? 「死ね」と連呼するアイドル◇◇の肉声 不審死との関連について】


  >文秋砲キターーー!!
  >これマジでヤバすぎやろ、シャレにならなすぎるわ


「待って! 待ってよ!!
 彼を失った上に、何で……何でこんな事を言われなきゃいけないのよ!?」

「こんなひどい事、私言ってない!! 言ってないのに……!!」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:43:01.38 ID:9H96sgaS0
  >普通に殺人やん
  >納得だわ、この間共演してた時も明らかに仲悪そうだったしな
  >キモい擁護してたオタクども息してるかー?


カタカタ… カタカタ…


  >引くほどブチギレてる声で「死ね!」連呼してて草も生えない
  >こんなメンヘラと付き合ってりゃ、そら病むわ……
  >やっぱ自殺かぁ、伸びしろある俳優さんだったのに、本当に可哀想

「違う!! 違うっ!! こんなの全部ウソなのにっ!!」


カタカタ… カタカタカタ…


  >コイツが死ねば良かったのにな


「!!」

「イヤアアアァァァァァァッ!!!」


カタカタカタ…





武内P「………………」
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:44:56.27 ID:9H96sgaS0
〜346プロ 事務室〜


カタカタカタ… カタカタ…

武内P「…………」カタカタ…


ガチャッ

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」

今西「毎日、ご苦労なことだね」

武内P「いえ……お疲れ様です」

つ エナドリ

武内P「……」グビッ


ちひろ「最近のニュージェネレーションズの三人、凄いですね。
    この間始まった新番組、業界人からの評価も高いみたいですよ」コトッ

武内P「ありがとうございます」
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:47:10.09 ID:9H96sgaS0
ちひろ「それと、283プロの有栖川夏葉ちゃんと、白瀬咲耶ちゃんも大人気ですね。
    テレビで見ない日は無いくらい」

武内P「彼女達は、346プロのアイドル達にも負けない、強烈な個性を持っています。
    かつ嫌味が無いため、メディア受けも良いのだと思われます」


武内P「そして……同じく283プロの、園田智代子さん」


ちひろ「先日デビューしたばかりですが、既に業界の中でも注目度は高いですね。
    復帰を熱望していた人達も多くいたみたいです」

武内P「それだけ、大きな事件だったということでしょう」

ちひろ「はい……」

今西「…………」
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:48:16.75 ID:9H96sgaS0
武内P「それ故に、安堵しています」

武内P「園田さんの実力であれば、埋もれる事は考えられません。
    そしてそれ以上に、彼女は……西城さんの心残りの一つでした」

武内P「それが払拭された事は、私にとっても喜ばしい事です」

ちひろ「はいっ」


ちひろ「ただ……」



武内P「……西城さんには、大きな目標がもう一つあります」

武内P「これが達成されない限り、彼女の心が真に晴れる事はありません」


今西「それは、トップアイドルになることではなく、という事かね?」
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:49:11.18 ID:9H96sgaS0
武内P「…………」


ちひろ「961プロの、西城樹里ちゃん……」

ちひろ「先日の『サマードルフィン』で、夏葉ちゃんを押さえて一位になり、
    注目度は智代子ちゃん達以上に高い子です」

ちひろ「それなのに、あれ以来表舞台には姿を見せず、目立った活動も公にされていない」

ちひろ「アイドルファンの間では、引退の噂すら囁かれているほどです」


ちひろ「……プロデューサーさんは、どうお考えになりますか?」


武内P「…………」


ちひろ「……失礼します」スッ

ガチャッ バタン…
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:50:32.27 ID:9H96sgaS0
武内P「…………」


今西「……そうそう。君に一つ、伝えておくことがある」

武内P「美城常務のこと、でしょうか?
    新しくアイドル事業部に着任された」

今西「さすが、察しが良いね」


今西「君のプロジェクトの、渋谷凛君」

今西「彼女もまた、常務の新規プロジェクトへのお声がかかる見込みだ」

武内P「……!」

今西「何、そう構える必要は無いよ。
   直ちに今動いているプロジェクトにメスを入れることが無いよう、私も説得している」

武内P「……ありがとうございます」


今西「だが……あくまで“直ちに”は無い、という話だ」

今西「今後、業績不振に陥るプロジェクトがあれば、その限りではないだろう」


今西「意地悪な言い方にはなるが……
   たとえば、我が事務所以外のアイドルに構うばかりに、“本来業務”が疎かになるプロデューサーの……」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:52:22.53 ID:9H96sgaS0
武内P「!! ……ッ」

今西「私とて、このような事を言いたいわけではない。
   西城樹里君のことは、私も気にかけてはいる……しかし、だ」

今西「この先も彼女を匿い続ける事は、相応のリスクを抱える事になる。
   我が社だけでなく、君にとっても、彼女にとっても。あらゆる意味でね」

今西「だから、一応の警告だけはさせてほしいんだ。すまない」


武内P「……美城常務は、私の素性をご存知でしょうか?」

今西「いや。おそらく美城会長は、961プロとの“契約”の話まではご息女に引き継いでいないだろうね」

今西「だが、彼女は聡明だから、遅かれ早かれ気づくだろう。
   そして同時に、とても高潔な人だ」


武内P「私の存在そのものを、リスクと捉える可能性も考えられる……と?」


今西「時代は移り変わる」

今西「昔のような仕事の仕方は、もう、必要とされなくなるだろう」

今西「黒井社長ともいずれ、今後の“契約”の在り方について、見直すべきかも知れないね」


武内P「…………」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:55:18.79 ID:9H96sgaS0
〜夜 某公園〜

タンッ タタン! タン…!

夏葉「はい、1、2、3、4……!」

未央「5、6、7、8! っと……どう、なつはし!?」

夏葉「良く出来ていたわ。でも、少し無駄な動きが多い気もするわね」

未央「えっ、ウソ!?」ギクッ


咲耶「快活さ溢れるエネルギッシュなダンスは、未央の大きな魅力の一つだ」

咲耶「多少の精度を気にするより、今の元気なベクトルを伸ばしていく方が、
   私は、未央には良いと思うよ」

未央「わーい! ありがとう、さくやん!
   何でも褒めてくれるのすごく嬉しいよー!」ダキッ!

咲耶「おっと。フフッ、未央は本当に感情表現が素直だね」ナデナデ
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:56:49.03 ID:9H96sgaS0
卯月「それにしても、なつはしってあだ名は……」

夏葉「私は別に気にしてないわよ、卯月」

夏葉「確かに、京都の八ツ橋みたいとは思ったけれど、
   八ツ橋自体は何もネガティブな印象を持ち得ないもの」

凛「それは、そうなんだけどね」


シュババババッ!

智代子「だ、誰か今、八ツ橋の話しなかった!?」ザッ!


卯月「うひゃあっ!? ち、智代子ちゃん!」

凛「誰もしてないから、ほら、練習再開しようか」

智代子「そんな……てっきり夏葉ちゃんがお土産で持ってきてくれたんだとばかり……」ガクッ

夏葉「そんなに欲しいなら、今度取り寄せておくのもいいわね。
   京都で懇意にしている老舗のお店があるの」

智代子「ほ、ホントに!?
    どうかお願い! 修学旅行以来ずーっと食べてないから無性に恋しくって!」
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:58:39.81 ID:9H96sgaS0
夏葉「ええ、いいわよ。そのかわり……」スッ

ツンッ プニッ

智代子「オウフ」

夏葉「約束したメニューを、しっかりこなしてからでないとね?」プニプニ

夏葉「私の計算上は、あなたのお腹はもっと引き締まっているはずなのだけれど、
   これはどういう事かしら」プニプニプニ

智代子「ち、違うんだよ夏葉ちゃん、これには深いワケが……」オロオロ


樹里「こらあぁっ、チョコ!!」


智代子「ひぇっ!? じゅ、樹里ちゃん!」ドキッ

樹里「アタシと一緒にランニングするって約束だったよなぁ!?」

樹里「そもそも自分一人だと意志が強く持てないから一緒にやってくれ、って、
   チョコの方がアタシに頼んだってのに、おま…!」

智代子「樹里ちゃん! 樹里ちゃんごめんだからあんまり夜騒ぐと近所迷惑だよ!」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:00:34.43 ID:9H96sgaS0
樹里「ったく、復帰した途端に怠け癖を身につけやがって」

樹里「それとも、以前頑張ってた時も、アタシの見てない所で菓子食いまくってたのか?」

智代子「つ、疲れた時の糖分摂取は、それなりに……」

樹里「カロリー制限しろよな!」

智代子「ひぃっ!」ビクッ


未央「まぁまぁジュリアン、その辺にしてあげたまえよ」

卯月「智代子ちゃんも、悪気があるわけではないですし」

樹里「いーや、甘やかしちゃダメだ」

樹里「何しろアタシ達には、もっとデッカい目標があるんだからな」

咲耶「目標?」


樹里「346プロの不正を公表すんだよ」

樹里「誰も潰すことが出来ないくらい、もっと有名になった上でな」

凛「……!」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:01:52.33 ID:9H96sgaS0
夏葉「……樹里」

智代子「じゅ、樹里ちゃん、それはいいよ。
    ほら、私も夏葉ちゃんも、こうして無事にアイドルをやれてるんだし、あの事はもう…」

樹里「自分達さえ良ければ、それで満足かよ?」

智代子「え……」


樹里「あの後だって、346プロは同じような事を何度もしてる可能性だってあるじゃねーか」

樹里「チョコ達と同じ苦しみを誰かに味わわせるような真似を、
   見過ごすなんてアタシには出来ねぇし、何より……」

グッ…!

樹里「何より、それを平気で行う346プロの腐った性根が気に入らねぇ」ググ…!

樹里「それが当然だと思ってんなら、大きな間違いなんだ、って……
   アイツらには思い知らせてやらなきゃだろ」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:02:48.48 ID:9H96sgaS0
卯月「じゅ、樹里ちゃん……」

咲耶「…………」


樹里「だから、アタシは妥協したくねぇ」

樹里「まだまだ夏葉や咲耶達には及ばねぇけど、いつかは追いついて、
   もっと上の舞台で活動できるようになってやるんだ」

樹里「凛達も、夏葉達に負けないように、一緒に頑張ろうな!」


凛「う、うん……」

樹里「アハハ、何だよ気のない返事だな」

未央「あは、アハハ……」

卯月「…………」


凛「…………」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:04:01.02 ID:9H96sgaS0
――――


凛『樹里に言うから。私達が346プロだってこと』

武内P『……!』ピクッ


凛『安心して。プロデューサーの事は、まだ言わないでおくよ』

凛『正体を明かすのは、あくまで私と未央と卯月の三人だけ』


武内P『……そうですか』

凛『止めないんだ?』

武内P『これ以上、ニュージェネレーションズの活動を西城さんに隠し続けるのは、
    限界だと考えます』

武内P『渋谷さん達と西城さんとの交友関係にも、支障をきたすでしょう』

凛『……ありがとう』
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:05:37.33 ID:9H96sgaS0
凛『でも……プロデューサーは、どうするの?』

凛『まだ、樹里には秘密にし続けるの……?』


武内P『……私が身分を偽って自分に近づいたことを、西城さんが知れば、
    彼女の私に対する疑念は深まります』

武内P『私の素性は……明かす事はできません』


凛『もし、ニュージェネレーションズと樹里が、一緒の仕事をすることになったら?』

武内P『……ッ』

凛『プロデューサーは、どっちのプロデューサーとして来るつもりなの……?』


武内P『…………』


凛『もう、やめようよ』

凛『智代子が立ち直って、アイドルになれた事で……
  きっと樹里も、346プロに対する憎しみは薄れてる』

凛『一緒の仕事をする事になったとしても、全部知られていた方がお互いに気が楽でしょ?』

凛『だから…』

武内P『私の』


凛『え?』
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:06:55.34 ID:9H96sgaS0
武内P『私の本来業務は、何なのでしょうか……』


凛『……何の冗談のつもり?』

凛『私達と樹里、皆をトップアイドルにするために、プロデューサーがいるんでしょ』


武内P『……そう、ですね』

武内P『そうであるよう……努めてまいりたいと、思います』スクッ

凛『ちょっと、プロデューサー!』

武内P『失礼致します。
    まだ私の事は、西城さんには明かさないよう……』

凛『待って!』

スタスタ…



凛『プロデューサー……どうしちゃったの……?』


――――
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:08:37.18 ID:9H96sgaS0
テクテク…

未央「あ、ねぇねぇジュリアン! あっちバスケットコートあるよ」

樹里「あん? ……あぁ」

未央「今度バスケやろうよ!
   私もバスケ部の助っ人やってた時あったから、少しは自信あるんだー」

卯月「あっ、良いですね! 樹里ちゃんのバスケ姿、見てみたいです!」

樹里「んー……気が向いたらな」

未央「何だよー、中学までやってたんでしょ−?
   気の無い返事だなージュリアーン」ウリウリ


凛「……じゃあ、私と樹里はこっちだね。また今度」

咲耶「ああ。お互い忙しくなってきた身だけれど、この秘密特訓は可能な限り続けていこう」

夏葉「場所を変えるのも良いかも知れないわね。
   近くに手頃なジムが無いか、調べておくわ」

智代子「お、お手柔らかに……」ゲッソリ


未央「おやすみー!」フリフリ
卯月「おやすみなさーい!」


樹里「おー……」
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:20:01.70 ID:9H96sgaS0
テクテク…

凛「樹里ってさ……エゴサって、しないの?」

樹里「エゴサ?
   ……あぁ、ネットとかで自分のことを調べたりするヤツか?」

凛「うん」


樹里「プロデューサーから、そういうのは一切すんなって言われてる」

樹里「余計なことを知って、アタシが傷ついたり、変に影響されたりすると良くないってさ。
   ちぇっ、ガキみてーな扱いしやがって」

凛「でも、一応守ってるんだ?」

樹里「まーな。他のアイドルの事とか見たり調べたりすんのもやめろ、って」

樹里「西城サンには西城サンの輝きがあって、
   余計な色が付くとそれが失われてしまうんだと。ハンッ」

凛「…………」


樹里「でもまぁ……曲がりなりにも、アタシのプロデューサーだから?」ポリポリ

樹里「一応、守ってやらねー事も、ねーかな、っていう……」
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:22:07.52 ID:9H96sgaS0
凛「……そっか」

樹里「……悪ぃな。変な話、しちまって」

凛「ううん」フリフリ


テクテク…

凛「……バスケ」

樹里「あん?」

凛「樹里は、あまりやりたくないの?」

樹里「別にそういうワケじゃ……」


樹里「……いや」クシャクシャ

樹里「正直に言うと、な」

凛「そう……」

凛「ごめんね。未央も、悪気があった訳じゃないから」

樹里「知ってるよ。いちいち謝んなって、未央の分まで」

凛「…………」


樹里「? どうした。さっきから、なんか元気ねぇな」
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:23:05.05 ID:9H96sgaS0
凛「……あ、あのさっ」

凛「まだ、言ってなかったよね……私達の事務所」

樹里「……!」ピクッ


凛「今までずっと言えなくて、ごめん」

凛「でも、やっぱり言わないままにしておくの、良くないと思うから……」

凛「だから…!」

樹里「凛」

凛「え……?」


樹里「アタシがバスケをやりたくない理由、どうしてだと思う?」
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:24:10.20 ID:9H96sgaS0
凛「樹里……?」

樹里「答えは『教えてやれねぇ』だ」

樹里「今は、な」

凛「…………」


樹里「アタシも、凛達には言えない秘密を抱えてる」

樹里「だから凛も、無理にアタシに言い辛いこと、言わなくていい」

樹里「お互い、そういう風にしとこうぜ、な?」ニカッ


凛「……樹里」

凛「少し、幻滅したかも」

樹里「……何だと?」ピクッ
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:25:53.76 ID:9H96sgaS0
凛「それ、樹里が言いたくない事を言わないためのダシにしてるよね?
  私が事務所について言わない事を」

樹里「! ……」

凛「樹里がそうやって、自分の都合の良いように相手を利用するなんて、思わなかった」

樹里「そ……そんなつもりで言ったんじゃねぇよ!
   勝手にアタシのこと斜めに見んな!」

凛「じゃあ聞かせてよ。
  どうして私達の事務所について知りたくないのかを」

樹里「な、う……!」


凛「私は別に、樹里がバスケをしたくない理由なんて、あえて聞きたいと思わない。
  見返りや交換条件なんて抜きに、ただ私が樹里に打ち明けたいだけ」

凛「どう? 樹里に断る理由ある?」

樹里「…………」


凛「私達のことを……私を、怖がらないでよ、樹里」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:27:32.07 ID:9H96sgaS0
樹里「…………」

樹里「アタシ、こっちだから……じゃあな」スッ

テクテク……



凛「…………樹里」


凛「……」スッ

ポパピプペ


プルルルルル…


『やぁ、凛。
 君から連絡をもらえるとは、先ほどまでの疲れが嘘のように心が軽くなる思いだよ』

凛「電話出る度に毎回それ言うの?」


凛「あのさ……相談したいことがあるんだ。聞いてくれるかな」

『……樹里のことか』

凛「できれば、夏葉にも」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:29:24.53 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

コツコツ…

美城常務「確認すべき社内の福利厚生施設はこのくらいか」コツコツ

役員「は、はい。左様で」


美城「このエステルームやサウナの稼働率は?」

役員「へっ!? あ、はい、あの……!」パラパラ

役員「年間の利用率ですと、およそ40%程度と…」

美城「では解体だ」

役員「……え?」


美城「アイドル達の福利厚生、パフォーマンス維持に十分に寄与しているとは言えない施設を盲目的に維持し、
   いたずらにランニングコストばかりを掛けるのは非効率だ」

美城「年間の半分も機能していない施設のために、我がアイドル事業部が投入すべき予算など無い。
   解体し、撤去したスペースには別の利活用を考える必要がある」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:31:15.22 ID:9H96sgaS0
役員「で、ですが!
   突然この施設が利用できなくなったら困るアイドル達も大勢いるのでは…」

美城「近隣には類似の民間施設も大勢ある。
   利用する際の費用を活動経費の中で都度工面した方がロスも少ないし、利用実態の把握や予算管理も明瞭で容易だ」

役員「そ、そうだとしても、解体・撤去して新しいものを導入するにも相応のコストが掛かります。
   設備の面でも、定常的に運転させておいた方が維持管理上有利でして…」

美城「であるならば、客観的かつ定量的なデータを添えて、
   新しい施設の導入よりも現状維持が経済比較上有利である旨を私に示すことだ」

美城「猶予はいくらか与えるが、私は気が長い方ではない」

役員「う……!」


美城「我がアイドル事業部は、346プロ社内でも歴史ある部門とは言えない。
   そして事業の性質上、世情の動静には細心の注意を払う必要がある」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:36:54.70 ID:9H96sgaS0
美城「今は会長の期待を寄せられているかも知れないが、次年度に同じだけの予算がつく保証など無い。
   目立った業績を挙げられずに漫然と無駄な支出を重ねていれば、なおさらだ」

美城「そのためにも、極力無駄を省き、
   捻出した予算をより時宜を得た高効率な事業へとフレキシブルに投入する必要がある」

役員「そ、それは、仰る通りですが……」

美城「我々が築いている城は、決して将来を約束された盤石なものではない。
   対外的にも、社内的にもだ」

美城「それが分かったのなら、君の仕事を果たしたまえ」クルッ

役員「……はい」


コツコツ…
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:38:04.02 ID:9H96sgaS0
〜常務室〜

ガチャッ

美城「…………」


今西「やぁ。こんな時間まで大変だね」


美城「もうお帰りになられているものかと」バタン

今西「まぁ何、話があるらしいと、事務の千川君から聞いたものだから」

美城「……お気遣いをいただいたようですね。今、コーヒーを」コツコツ

今西「ああいや、お構いなく。君は常務なのですから」

美城「…………」


スッ

美城「……では、用件を」ギシッ

今西「アハハ、実に端的な人だ」ポリポリ

美城「この職責に、無駄にすべき時間などありません。それで」
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:39:30.82 ID:9H96sgaS0
美城「部内に他社との関わりを持っている者がいないかを知りたいのですが」

今西「……」ピクッ

美城「今西部長。あなたは何かご存知でしょうか」


今西「……それを知ってどうすると?」

美城「簡単な話です。余計なリスクを排除したいだけのこと」

今西「…………」


美城「今の時代、不必要な他社との関わり合いがメリットになるシーンは極めて少ないと考えます」

美城「それどころか、社外秘の情報が漏洩するリスクを考えれば、
   一時のコラボ企画等以外で提携する機会は極力排した方が良いでしょう」

今西「……なるほど、ではもう一つ。
   他社との関わりを持っている者の有無について、君が疑うきっかけとなったものは?」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:41:14.02 ID:9H96sgaS0
美城「他の社員と比べて、明らかに在席率が低い者がいます」

今西「きっと、営業活動等で出突っ張りなんでしょう」

美城「可能性は認めましょう。
   一方で、先日、高垣楓はミニライブを行いました」

今西「…………」

美城「その会場に、他の事務所のアイドル候補生がスタッフとして入り込んでいたようです」

美城「さらに不可解なのは、その相手先である事務所と当方との間で、
   何も金銭の動きが確認されていない」

美城「どちらからの依頼で、どちらが応じたのか……
   いずれにせよ、両社が何の報酬も無しにこれを互いに了承した事には、著しい違和感が認められます」

美城「そして、先日のサマーフェスにおいては、
   我が346プロからのアイドルのエントリーが無かったにも関わらず、我が社のプロデューサーが会場にいたらしい、と」


今西「…………」

美城「いずれも、ただの偶然、あるいは邪な意図など無いのかも知れません。
   ですが、この正否を私には確認する責務があります」
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:43:11.03 ID:9H96sgaS0
美城「私の立場では見通しきれないものも多い。
   ですので、あなたにもご協力をいただきたい」

美城「お願いできますでしょうか」


今西「……ええ、もちろんです」

今西「私はあなたの部下なのだから、是非もないことでしょう」

美城「恐縮です」

スクッ スタスタ

美城「では、事実関係の確認をよろしく頼みます。
   分かり次第で構いませんが、いたずらに問題を放置する事は考えていません」ギシッ

今西「じゃあ、うーん……二週間くらい?」

美城「十日後に、ひとまずはご報告願います」カタカタ…

カタカタカタ… カタカタ…



今西「…………」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:45:40.91 ID:9H96sgaS0
〜後日、レストラン〜

店員「お待ちしておりました。ごゆっくりどうぞ」ペコリ

夏葉「ありがとう」

スタスタ…


樹里「……しっかしまた、高そうな店だなおい」

咲耶「幹線道路にほど近いはずなのに、都会の喧噪を感じさせない落ち着きがある……
   さすが、夏葉の選ぶ店は品があるね」

樹里「こんなトコ連れてこられても、アタシ手持ちねーぞ。
   大丈夫なのかよ、またアンタが出すつもりなのか?」

夏葉「会計なら283プロの経費で落とすよう、ウチの事務員には了解を取っているわ」

樹里「えっ?」


ズイッ

夏葉「今日はあなたと真剣にお話したい事があるの。
   そのために、こうして個室で話せる場所をわざわざ選んだのよ」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:47:29.77 ID:9H96sgaS0
樹里「な、何だよ話したい事って……ていうか、アンタ大概いつも真剣じゃねーか」

夏葉「それはそうだけど、それはそれよ。いい、樹里?」


夏葉「あなた、自分の置かれた境遇がおかしいと思わないの?」

樹里「は?」


夏葉「よく考えてみてちょうだい、樹里」

夏葉「あなたは2ヶ月前の『サマードルフィン』で私を下し、優勝した」

夏葉「それなのに、2位に甘んじた私や咲耶の方がアイドルとして活躍している」

樹里「それは……アンタんとこのプロデューサーの売り出し方が上手い、とか?」

夏葉「じゃあ聞くけど、あのフェス以降、
   あなたがアイドルとして活動した実績は何があるのかしら?」

樹里「えっ? えっと……基礎レッスンと……なんか、宣材写真撮ったり」

夏葉「そういうのは実績とは言わないわよ」
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:49:19.06 ID:9H96sgaS0
夏葉「どうして自分の活動が停滞しているのか、
   あなたのプロデューサーとちゃんと話し合った事はあるの?」

樹里「んー……無い、というか……
   アタシそういうのは全部プロデューサーに任せてっからなぁ」

夏葉「ダメよ、そんなことじゃ。
   樹里がどうしたいというのを、プロデューサーにも伝えないと」

樹里「うっ……いや、つっても、アタシそういうの苦手なんだよ」ポリポリ


夏葉「346プロを打倒するために、もっと高みに上り詰めていきたいんでしょう?」

夏葉「プロデューサーを信頼するのは結構だけれど、
   何もかもを任せきりにして自分を腐らせてはいけないわ」

樹里「わ、分かってるよそんなの! でも……」


咲耶「樹里は、どんなアイドルになりたいんだい?」

樹里「え……」


咲耶「そのビジョンが、樹里の中で明確になっていない所に、問題があるのかも知れないね」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:50:54.07 ID:9H96sgaS0
樹里「何だよ……二人して説教垂れるためにアタシを呼んだってのか?」

樹里「付き合ってらんねぇ。帰らせてもらうぜ」スッ


咲耶「樹里には今、夢中になれるものがあるかい?」

樹里「……!」ピクッ


  ――あなたには今、夢中になれるものがありますか?


樹里「……何でそんな事聞くんだよ」

樹里「アンタには関係ねーだろ」


咲耶「樹里にはそうした方が良いだろうから、ハッキリ言わせてもらうよ」

咲耶「私はアイドルが好きだ。
   そして、私の好きなものを、穏やかならぬ目的のための手段にしようとしている人がいる」

樹里「…………」

咲耶「私にはそれが、どうしても放っておけないのさ。
   たとえ樹里にとって、この行いが価値観の押しつけになろうとも、ね」

咲耶「関係なくなんて無い……私は、樹里と無関係でありたくないんだ」
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:52:17.10 ID:9H96sgaS0
樹里「……夏葉、言ってたよな」

樹里「アイドルを手段としてしか考えない姿勢は、
   本気でアイドルを夢見ているヤツに対する侮辱だ、って」

夏葉「……えぇ、そうね」


樹里「だったら教えてくれよ」

樹里「手段としてしか見出せないヤツに、アイドルをやる資格があるのかを」


咲耶「樹里……!」

樹里「夢を持てないヤツは、誰かを侮辱する事しかできねぇっていうんなら……」

樹里「アタシがアイドルをやること自体、矛盾でしかなかった、ってこったな」

ガタッ

樹里「辞めてやるよ。元々、アタシのガラじゃなかったしな」

樹里「もちろん、346プロを懲らしめてからの話だけどよ」

夏葉「そうやっていつまで自分の気持ちを誤魔化していくつもりなの?」

樹里「あぁ?」
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:53:01.89 ID:9H96sgaS0
夏葉「あなたは恐れているだけよ」

夏葉「どうしてそんなにも怯えているのか、私には分からないけれど……
   手を伸ばさないままでいれば、自身を傷つける心配も無いものね」



樹里「……ッ!」ギリッ


樹里「アンタらに……アンタらに、何が分かんだよ……!!」



クルッ


ツカツカ…!
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:55:04.06 ID:9H96sgaS0
夏葉「…………」

咲耶「……すまない、夏葉。私のせいだ」

夏葉「いいえ。私の方こそ、あの子に強く当たってしまったわ」

夏葉「樹里には、アイドルを続けてほしいから……
   ポジティブな気持ちで、これからもずっと、私達と一緒に」

咲耶「ああ……だけど、かえってムキにさせてしまったようだね。
   凛の期待にも、応えられなかった」

咲耶「あの態度が、樹里の本音でなければ良いのだけれど……」


夏葉「それは心配無いと思うわ」

咲耶「? どうしてだい?」

夏葉「樹里としても、何か理由がある事が分かったからよ」


夏葉「去り際にあの子、言っていたでしょう。「何が分かる」と」

夏葉「樹里自身がジレンマを抱えていない限り、あんな台詞が出てくるはずが無いわ」

咲耶「……ああ、そうだね」
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:55:58.64 ID:9H96sgaS0
〜961プロ 社長室〜

コンコン…

黒井「入りたまえ」


ガチャッ

バタン


武内P「失礼致します」ペコリ



黒井「この私が、わざわざ貴様をここに呼んだ理由、理解しているかね?」

武内P「……西城の件、でしょうか」

黒井「ウィ、そうとも」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:57:51.14 ID:9H96sgaS0
黒井「なぜ私に無断であんなガチャ蠅をスカウトしたのか……
   それについては不問とするつもりでいた」

黒井「961プロとして恥じぬ実績を残せたらの話だがな。
   だが、現実はどうだ?」

黒井「かのサマーフェス以降、西城樹里はロクな活動一つしていない。
   各所からのオファーも次々に断り、業界からの評判も堕ちていく始末」

黒井「当然、我が961プロの品格さえもだ」

武内P「…………」


黒井「いいか。貴様に、我が961プロ内でも相応の地位と権利を与えてやっているのは、
   例の“契約”があるからに過ぎん」

黒井「961と346、双方にとって邪魔となる存在を速やかに排除するため、
   最も柔軟かつ臨機応変に対応できる貴様が、業界内でも動きやすいように、だ」

黒井「勘違いしているようなら、身の程を弁えてもらおうか」
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:00:17.31 ID:9H96sgaS0
武内P「大変、失礼を致しました」ペコリ

黒井「安い謝罪など、どうだっていい。
   あの小娘をどうするつもりか、聞かせてもらおう」

武内P「…………」

黒井「フン……答えに困るような事を聞いているつもりは無いのだが?」

黒井「それとも、何か後ろ暗い事でもあるというのかね? あのガチャ蠅に」


武内P「お言葉ですが、黒井社長」

武内P「西城の初イベントに、あなたが別のアイドルを介入させた事は分かっています」

武内P「実績を残せていないことを責めるのであれば……
    西城の邪魔立てをしたあなたの行為にもまた、説明が必要ではないでしょうか」

黒井「……つくづく、傲岸不遜な物言いをするじゃあないか、この私に向かって」

武内P「さらに言わせていただくなら」


武内P「西城が表舞台に姿を見せない状況は、あなたにとっても好都合なのではないでしょうか」


黒井「フン……それはどういう意味かね?」

武内P「…………」
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:02:14.64 ID:9H96sgaS0
黒井「とにかく、我が社のアイドルとして見合う実績を残せない以上、
   あの西城樹里は961プロに必要無い!」

黒井「これは貴様らだけでなく、我が社の信用問題に関わる話だ」

黒井「そして、現にそれを怪しむ動きも出ている事を、認識した方が良いのではないかね?」

武内P「! ……」

黒井「当然だろう。曲がりなりにも、あの規模のフェスの優勝者だ。
   一切の声明を出さぬまま姿を消すのは、道理に合わん」


武内P「…………ッ」グッ…!


黒井「ああ、そうだとも。
   あの小娘が大人しくしている事自体は、一概に都合が悪いとも言えん」

黒井「しかし、それ故に不都合なのだよ。
   あの小娘に寄せられている関心は、貴様が考えている以上に大きいものだ」

黒井「表社会からも、そうでない者達からも……全くもって不本意ではあるがね」

黒井「どう立ち回ろうとも、もはや注目は逃れられん。
   であるならば、せいぜい為すべき事を為すがいい」

黒井「“我が961プロの”プロデューサーとしてな」
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:03:32.02 ID:9H96sgaS0
武内P「……承知しました」

黒井「分かったなら下がりたまえ。私は忙しい」

武内P「…………」スッ

ガチャッ

武内P「……失礼致します」

バタン…



黒井「……フン」

黒井「厄介な者を抱えてきたものだ……この私を悩ますとは」


プルルルルル…!

カチッ

黒井「私だ」

『346プロダクションの美城常務がお見えです』

黒井「ウィ、社長室へ通せ」

『畏まりました』


黒井「さて……厄介な者がもう一人」ギシッ
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:04:19.34 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

ウィーン…


コツコツ…

武内P「…………」コツコツ…



今西「やぁ、お疲れ様」

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサー」


武内P「! お、お疲れ様です」ペコリ

今西「ハハハ、そう畏まらないで」


今西「ただ……ちょっと話があるのだが」


武内P「常務の件……ですね」

ちひろ「……はい、そうです」
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:06:08.62 ID:9H96sgaS0
今西「……と、いうわけなんだ」

今西「私も、常務に誤魔化し続けるのは、そろそろ限界でね」

武内P「なるほど……」


今西「常務はまだ、君が961プロと内通している、というレベルの認識だろう」

今西「加えて、君が961プロとの契約に従い行ってきた事を突き止めれば……
   単なる解雇以上のペナルティをも、免れなくなるかも知れない」

ちひろ「……ッ」


武内P「…………」


今西「君にばかり負担をかけて、悪いと思っている」

武内P「いえ……身から出た錆です」

武内P「いつかこういう日が来ることは、分かっていました」

ちひろ「プロデューサー……!」


武内P「ですが……もう少し、猶予があれば」
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:07:21.12 ID:9H96sgaS0
今西「猶予があるとして、どうする?」

武内P「……!」


今西「君自身はどうしたい」

今西「西城君や渋谷君達を、トップアイドルにしたいのか。
   それとも、貝のように口を閉ざして生きるのか」

今西「過去の担当アイドルのような目に遭わせないために」

武内P「!! ……ッ」


今西「行動には責任が伴うものだ」

今西「どちらを選択するにせよ、君は……吹っ切らなくてはならないと私は思う」


武内P「…………」


ちひろ「……プロデューサーさん」

ちひろ「こちらを……」スッ
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:08:31.11 ID:9H96sgaS0
武内P「? ……これは?」ペラッ

ちひろ「新天地となる会社の候補を、私なりに選んでみました」

武内P「え……」


ちひろ「こんな事、私は言いたくありません……でも……でもっ」

ちひろ「これ以上、辛いお仕事のためにプロデューサーさんが苦しむのを見たくありません、それに……」

ちひろ「もう、常務には気づかれてしまいます……!
    今のうちにお逃げになって、有耶無耶にしてしまった方が、安全だって思うんです」


武内P「…………」

ちひろ「私を……何もお力になれない私を、恨んでください……」



武内P「………………」
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:09:27.88 ID:9H96sgaS0
〜事務室〜

武内P「………………」ズゥーーン…


未央(ちょ、ちょっとしぶりん……!)コショコショ!

凛「何?」

未央(あんなドンヨリしてるプロデューサー、初めて見るんだけど!?)コショコショ!

卯月(元々、物静かな方ですけど、何だか空気が重すぎて……!)ハラハラ!

凛「ていうか、二人ともそうやってコソコソしてる方が余計に目立つよ」

未央「やっぱり?」スンッ

卯月「えっ? ちょ、ちょっと未央ちゃん!?」


凛「でも……確かに、あの落ち込みようはちょっと異常だね」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:10:27.27 ID:9H96sgaS0
凛「…………」

クルッ

ツカツカツカ…!

卯月「え、ちょ、凛ちゃん……!?」


ツカツカ ピタッ


凛「樹里のことで悩んでるんでしょ」

武内P「!」ピクッ

未央(直球ッ!!)

凛「ここ最近ずっと、私達以外の事でプロデューサーが頭を一杯にしてるの、
  担当アイドルとして面白くないんだけど」

卯月(からの追い打ち……!!)


武内P「……渋谷さんの言う通りです」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:12:00.46 ID:9H96sgaS0
凛「…………」

武内P「私は西城さんを、どう導けば良いのか、迷っています」

武内P「本分を全うする事に悩むようでは……プロデューサー失格です」

卯月「プロデューサーさん……」


未央「導く、って……プロデューサーはジュリアンのこと、背負い込みすぎだよ」

未央「ジュリアンがしたいこと、聞いてあげてさ、それを応援してあげたらどうかな。
   私達の事だって、プロデューサー、伸び伸びとやらせてくれたでしょ?」


武内P「……何をしたいのか、西城さんに気づかせる事ができずにいます」

武内P「事実、優勝後のしばらくの間、基礎レッスンだけを続けさせる事に、
    西城さんは何ら疑問を持っていない……」

未央「う、うーん……」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:13:06.60 ID:9H96sgaS0
凛「気づきたくないだけなんだとしたら?」

武内P「……え?」

卯月「凛ちゃん……?」


凛「樹里も……プロデューサーも、
  私に言わせれば、どっちも素直になれてないだけだよ」

凛「私達には個性個性って、尊重して自由にやらせてくれるクセに……
  プロデューサーはそうして大人ぶって、自分の気持ちを押し殺してるじゃん」

凛「そうして悩んでるフリを続けることが、本当に最後は良い結果に繋がるの?」

武内P「…………」


凛「……ごめん、言い過ぎた」

武内P「いえ……」
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:14:43.74 ID:9H96sgaS0
未央「ま、まぁまぁまぁ!
   とりあえず今日の午前中のお仕事は、確かインタビュー?だっけ?」

未央「それが終わったらさ、皆でお昼ご飯食べに行こうよ!
   私、ずーっと行きたかったお店があったんだけど、いかんせんボリューミーで」

卯月「あっ! この間話してたデカ盛りのお店ですか?」

未央「そうそう! やはり男手がいないと、なかなか突入する勇気が持てんのだよ。
   というワケで、いざって時のモグモグ要員として、プロデューサーも来てくれるよね?」

武内P「申し訳ございません。実は、お弁当を持ってきておりまして……」

未央「あ……そ、そうでした、ね、アハハ、アハ……」

凛「ふーん……まだ続いてるんだ、樹里の」


凛「……!」ピクッ

卯月「凛ちゃん、どうかしましたか?」



凛「……ううん、何でもない」フルフル
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:17:18.87 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


  ううん……やっぱ、無理だよ。

  私、取り返しのつかないこと、しちゃったもん……。

「何言ってんだよ! いいか、よく聞け!」

「アタシがやった事にしろ!」

  ……樹里が?

「ああ! どうせアタシは先公達の評判悪いし、その方が皆納得すんだろ?
 だから……!」


  そんな事、ないよ……。

  先生達、ちゃんと見てるよ……樹里は、気配りのできる、優しい子だって。

  今の私に対しても、そうじゃん。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:18:32.12 ID:9H96sgaS0
「だ、だとしてもだ!
 お前がチームを抜けて、関東勝ち抜けるワケねーだろ!」

「どう考えても、アタシが出場停止食らった方が、チームのためになるんだ!」

「……ッ! 足音……タキザワの奴が来るっ!
 いいか、絶対余計な事言うなよ! アタシに全部任せとけっ!」


「……あっ、タキザワ先生! お、お疲れ様です!」

  二人して、こんな所で何をしている?

「あぁいえ、これは、その、あの……!」


  先生、ごめんなさい。

「えっ……」

  私……。


「おい……やめろ、言うな……」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:20:24.67 ID:9H96sgaS0
「アタシだ……アタシのせいなんだ……!」


  ――お前はチームを欺いた。


「うるせぇ……!!」


  ――なぜ、あんな無謀なスリーを打った?


「アタシは……」

「くそっ、なんで……ボールが……!」


「なんでボールが、届かねぇんだよ……!!」

「届けよ……届いてくれよっ……ちきしょう……!!」


「うあああぁぁぁあぁぁっ……!!!」
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:21:20.76 ID:9H96sgaS0
樹里「………………」



武内P「西城さん」

樹里「……ん?」

武内P「どうかされましたか? 体調が優れないようであれば……」

樹里「何でもねーよ」


樹里「アンタも大概、人のこと言えねーぜ。
   いつも以上に辛気臭いツラしやがって」

武内P「……申し訳ございません」

樹里「謝んなってんだよ……」



ヴィー…! ヴィー…!

樹里「……?」ゴソゴソ
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:22:18.42 ID:9H96sgaS0
樹里「凛か……」

武内P「……」

樹里「悪ぃ、席外すぜ」スッ

武内P「はい」


スタスタ…


ピッ!

樹里「もしもし……おう」

樹里「あぁ、うん……いや、アタシも言い過ぎた。ごめんな」

樹里「で、どうしたんだ?」



樹里「……は? 料理?」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:24:05.79 ID:9H96sgaS0
〜テレビ局 控え室〜

ディレクター「高垣さん、お疲れ様でした。いやー今日の収録も大盛り上がりでしたね」

楓「いえ、そんな……ゲストの方や、皆さんのおかげです。
  ありがとうございます」ペコリ

D「あぁいえいえ、そんなご謙遜を」


D「それで、このトーク番組のゲストについて、各界から応募がたくさん来ておりまして」ドサーッ

楓「まぁ」

D「全部目を通す訳にもいかないでしょうから、こちらでいくつか絞ってみた結果がこちらです」スッ

楓「……ふふっ、お料理番組みたいですね」クスッ

D「ハハハ。でまぁ〜、気になる方がおられたら、高垣さんのご希望をお聞きできればと」

楓「そうでしたか……えぇと」


楓「うーん……」
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:25:30.99 ID:9H96sgaS0
D「今決めていただかなくとも結構ですよ、数日中にご連絡いただければ」

楓「いえ、あまりお待たせしては、先方にも悪いですし……」


楓「……!」ピクッ

D「おっ、気になる方いました?」

楓「智代子ちゃん……」

D「へ?」


楓「283プロの、園田智代子ちゃんをお招きしたいです」


D「あ、はい。えぇっと……アレですよね? 新人アイドルの」ポリポリ

D「彼女の事務所からは、別に応募なんて来てなかったと思いますが」

楓「先ほどは、私の希望を聞いていただけると」

D「あぁいえ! そりゃそうなんですけどね。
  ほら、我々も商売ですし、数字が取れる見込みが無いとちょっと……」


楓「責任なら、私と346プロが取ります」

楓「どうか、よろしくお願いします」
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:26:40.81 ID:9H96sgaS0
〜後日、961プロ寮 樹里の部屋〜

ガチャッ

樹里「まぁ、何もねぇけど」

凛「お邪魔します……あれ?」


智代子「ひぇ……! なんだ、凛ちゃんかぁ、ビックリしたぁ〜」


凛「智代子も来てたんだ」

樹里「合い鍵渡してんだよ」

凛「合い鍵?」

智代子「わわっ!? じゅ、樹里ちゃん、そんな言い方は……!」

樹里「うわぁ!? バ……あの、ちげーよ勘違いすんなよな!!」

凛「勘違いって、何が?」

樹里・智代子「――ッ!!」カァーッ!
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:28:30.35 ID:9H96sgaS0
樹里「つまりぃ! アタシ一人でこんな部屋使うのもったいねーだろ?」

樹里「それに、ほら、アレ」クイッ

凛「?」


樹里「ああして、アタシの手が回んない時は、チョコに面倒見てもらってんだ」

シュッ シュッ

智代子「ありがとう……大きくなれよ、ありがとう……(藤○弘、)」フキフキ

樹里「いらねー小芝居すんな」

智代子「この間、夏葉ちゃんにモノマネ披露したら、すごくウケちゃって」エヘヘ


凛「ふーん……アグラオネマか」


樹里「え?」

智代子「ウソ!? 凛ちゃん分かるの、この鉢植えの名前!」

凛「あ、うん。私の家、花屋やってるから」

樹里「し、知らなかった……」
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:31:14.43 ID:9H96sgaS0
凛「霧吹きだけで水やりしてるの?」

智代子「うん」

樹里「そうしろ、って言われたからな」

凛「それ、たぶんダメだよ」

樹里・智代子「えっ!?」


凛「葉っぱについたホコリを取るのに、水をかけるのは良いと思うけど……
  基本的に水やりは、冬以外は根元にたっぷりあげた方がいいよ」

凛「あとは……これからの時期、寒くなると、外には出さない方がいいかな。
  寒さに弱い品種だし」

凛「それから、あまり日当たりの良い所に置いちゃダメ。
  本来はジャングルに自生する植物だから、直射日光はNGだね」


智代子「へぇ〜……さすがお花屋さん」

樹里「何だよ、全然違うじゃねーか、アイツの言ってた事」

凛「アイツって?」

樹里「プロデューサーだよ、凛も会った事あんだろ?」

凛「……!」ピクッ

樹里「頼まれたから、たまにこうしてアタシの部屋でも面倒見てやってんのに、
   いい加減な事言うなってんだよなぁ? ったく」
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:32:33.34 ID:9H96sgaS0
樹里「なにが「日射がこちらから降り注ぎますので」だ。したり顔で語りやがって。
   花の心っつーもんがまるで分かってねーな」

智代子「乙女心は分かっていても、お花は同じというワケにはいきませんなぁ」

樹里「ヘッ、どうだか。乙女心の方も知れてるぜ」


凛(知らなかった……プロデューサー、そんな趣味があったんだ)

凛(それに……その鉢植えの世話を、私達じゃなくて、樹里に……)


凛「…………」

智代子「り、凛ちゃんどうしたの? ひょっとして怒りに打ち震えてる……!?」

凛「えっ?」

樹里「気持ちは分かるぜ。
   こういう生き物の世話ってのはハンパは許されねーし、まして家業だもんな」

凛「い、いや! そういう事じゃなくて!」ブンブン
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:34:12.62 ID:9H96sgaS0
凛「ていうか、今日来た用事は、別に講釈するためじゃないから」

樹里「あぁ、そういやそうだったな」

智代子「樹里ちゃん家に遊びに来たんじゃないの?」

樹里「なんか料理教えてほしいってさ」

智代子「うああぁ、何それ! 私も一緒にいたい、けど……!」

智代子「不肖、園田智代子。
    これから咲耶ちゃんの新ラジオ番組のゲストに呼ばれておるのです……!」

樹里「超重要なヤツじゃねーかそれ、さっさと行ってこいよ」

凛「咲耶、聞き上手だし、誰かと話をするのも好きそうだし、適任だよね」

智代子「うええぇぇん、樹里ちゃん、後で私にも教えてねぇぇ……!」ポロポロ

樹里「な、泣いてるし……」


智代子「それでは、後はお若い二人でごゆっくり」ニコォォ…!

樹里「うるせぇ、さっさと行けって」

ガチャッ

バタン
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:35:22.78 ID:9H96sgaS0
凛「……ふーん」キョロキョロ

樹里「別に面白いモンなんかねーぞ」

樹里「で、何を作りてぇんだ?」

凛「何を、ってほどでもないけど……」


凛「例えば、その……お弁当、とか?」


樹里「弁当? 昼メシの?」

凛「うん」コクッ

樹里「弁当、って……
   んなもん、適当に空いてるスペースに色々ぶち込めばいいだけじゃねぇか」

凛「適当にぶち込んでるように見えないんだけどな……」

樹里「あん?」

凛「あ、ううん、何でもない」

凛「でも、普段料理しない身からすると、その適当にっていうのが難しくてさ」

樹里「ふーん……まぁ、いいけどよ」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:36:57.62 ID:9H96sgaS0
樹里「でも、本当に何でもいいんだったら、冷凍のおかずで事足りんだろ?」

樹里「何か、これだけはちゃんと作ろうって、イメージしてるモンとかあるのか?」

凛「ちゃんと作るもの……」

凛「…………」


  ――それでは、私はハンバーグを。

  ――おおっ! 紅蓮の業火に灼かれし禁断の果実!
     我が友も、彼の贄を所望するか!

  ――らんらんもハンバーグ大好きだもんねー。


凛「……ハンバーグ」

樹里「おー、ハンバーグな。いいトコ突くじゃねーか」

樹里「アタシも最近、色んな作り方を研究しててさ。
   少なくとも冷凍のヤツよりかは、うまく作れる自信あるぜ」

凛「へぇー、樹里がそこまで言うの、期待しちゃうね」

樹里「まぁな。よし、じゃあまずは材料買いに行くか。
   せっかくだし、他にもひと通り思いついたヤツ作ろうぜ」

凛「うん」
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:38:32.62 ID:9H96sgaS0
トントントントン…

樹里「玉ねぎはこうしてみじん切りにして……」トントントン…

凛「……」ジーッ

樹里「……っと、こんな感じ。ほら、半分やってみ?」スッ

凛「う、うん」


トン トン …

凛「……樹里みたいに、早く、できない……」トン…

樹里「焦んなよ、早くやる必要ねーんだからこんなの」

樹里「ほら、端っこの方切る時あぶねぇぞ。
   無理しないで、向き変えて寝かせてみな」

凛「む、向き?」トン…

樹里「玉ねぎの。あぁ、そうそう」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:40:23.88 ID:9H96sgaS0
樹里「先に飴色になるまで炒めて、コクと香りがどうとかって作り方もあるけど……」トントントン

樹里「弁当用のだからな。いちいちそんな時間かけらんねーし」ササッ

樹里「それに、生のままならサッパリ、しかも水分が出てジューシーになったりするし」スイッ

樹里「まぁ、好みの問題ってヤツ?」パッ パッ

凛「……」フムフム


樹里「これと、パン粉と卵、牛乳……」サァーッ…

樹里「んで……氷水」ジャーッ

凛「氷水? 入れるの?」

樹里「いいや、こうしてボウルを冷やすんだ」ガショッ

樹里「手の熱で肉の脂が溶けちまうと、良くないんだってさ。
   そんで、挽肉に、塩をしっかり入れて……」ササッ

樹里「よし、混ぜる。はい」スッ

凛「わ、私?」

樹里「お前が作んだろ」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:42:02.05 ID:9H96sgaS0
凛「…………」ネリネリ

樹里「うん、いいんじゃねぇか?
   そして、そこにさっきのつなぎを投入」ザザーッ

凛「……なんか、くすぐったいね」ネリネリ

樹里「あぁ、わかる」


凛「どう、先生?」

樹里「先生じゃねーし。でもまぁ……そんなもんだろうな」

樹里「んで、こうして手に取って、成形して……」ペタペタ

凛「なんか、手の平でキャッチボールするって聞いた事あるけど」

樹里「あぁ、そうそう。空気抜くんだよな」ペタペタ

凛「ふふっ」ペタペタ


樹里「そんで、表面をなるべく滑らかに……
   こうすると、表面が割れずに、肉汁を閉じ込めやすくなるんだぜ」

凛「なるほど……」フムフム
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:43:16.66 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」

凛「……」チラッ


樹里「………………」ジューッ…


凛「……ふふ」

樹里「ん? どうした?」

凛「ううん、ごめん。すごく真剣な表情だな、って」

樹里「あ? あぁ、まぁ……一番大事な工程だからな」

樹里「焼き加減一つで、それまでの苦労が台無しになる事もあるし」

樹里「別に、自分用のズボラ飯だったら適当にガァーッてやってパパッと済ますんだけど、
   今回は一応、何つーか……」

凛「……」

樹里「凛に教えるんだし、ハンパはできねぇ、なんてな」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:44:33.63 ID:9H96sgaS0
凛「……最近ハンバーグを研究してるの、プロデューサーが好きだから?」

樹里「まぁな。アイツ、何個入れてもペロリと食べやが…」

樹里「!! ……なっ!?!?」ドキッ!

凛「ふふっ」クスッ


凛「プロデューサー用のお弁当も、そうやっていつも真剣に作ってるんだ?」


樹里「〜〜〜〜!!!」カァーッ!

樹里「てんめぇ……! からかうんだったら教えてやんねーぞ!!」

凛「ごめんごめん」

樹里「ほらっ! 蓋っ!! 蒸し焼き!!」ガションッ!

凛「自分でやってるし」



樹里「……これしか」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:45:46.06 ID:9H96sgaS0
凛「え?」


樹里「これくらいしか、ねーからな……アタシにできんの」

樹里「いつも世話になってんだし……」

樹里「ちゃんとすんの……何もおかしかねーだろ」


凛「……ごめん、そこまで言うつもりなかった」

樹里「ああ……いいよ」

凛「…………」

ジューーッ…


樹里「……っし、どうだっ!」パカッ!

ホカホカ…!

凛「! すっごく、良い匂い……!」

樹里「だろ? 後でソースも作んねーとな」ニカッ
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:46:53.72 ID:9H96sgaS0
凛「ほうれん草のゴマ和えと、厚焼き卵、筑前煮……」

樹里「あとはまぁ、こうしてサラダとかもあれば……
   ほら、何となくサマになんだろ?」スッ

凛「……すごいね」

樹里「何もすごくねーよ、筑前煮なんて途中端折ったしな」


樹里「んじゃ、食べようぜ」

凛「うん」

樹里・凛「いただきます」


パクッ

凛「…………」モグモグ

樹里「ど、どうだ……?」
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:48:17.97 ID:9H96sgaS0
凛「……聞くまでもないでしょ」ニコッ

凛「こんな美味しいハンバーグ、今まで食べたこと無い」


樹里「お、おう……ヘヘッ!」

樹里「まぁな!」ガツガツ!

凛(いい食べっぷり)

樹里「とにかくよ、大体覚えただろ?」

凛「うん……一人でやるのは、ちょっと大変そうだけどね」

樹里「いいんだよ、最初から上手くできるヤツなんかいねぇんだし」

樹里「そうだ! 夏葉や咲耶達にも、いつか教えてやってもいいかもな」

樹里「特に、夏葉は外食ばっかで自炊してる感じしねぇし、
   料理で見返してやるってのも悪かねぇ」ドヤァァ

凛(すっかり得意になってる……ふふ)クスッ
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:49:24.07 ID:9H96sgaS0
凛「今日はありがとう、樹里」

樹里「おう、また来いよ」

凛「うん」

凛「…………」


凛「……あっ、あの、さ」

樹里「ん?」


凛「私のプロデューサーも、好きなんだ……ハンバーグ」


樹里「へー……そうなのか」

凛「うん……さっそく明日、お弁当作ってみるね」


樹里(……って)

樹里(何でそんなのをアタシに言うんだよ!?)カァーッ
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:50:17.40 ID:9H96sgaS0
樹里「あ、えぇっと……なんだ……」ワシャワシャ

樹里「頑張れ、よ……?」

凛「……うん」


凛「じゃあ、またね」ガチャッ

樹里「おう」

バタン



樹里「…………」

樹里「なんか……急に腹、一杯になっちまったな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:52:00.21 ID:9H96sgaS0
『……フフッ、智代子は本当にグルメへの造詣が深いんだね。
 ぜひ一度、ご教示賜りたいものだよ』

『そ、そんな大それたものじゃないよぅ、咲耶ちゃん。
 ただ食べるのが好きってだけで、あんまり自分じゃ作れないし……』

『そういう咲耶ちゃんだって、一人暮らしだよね?
 自炊したりするの?』

『私は、人並み程度と言ったところかな。
 威張れるほどの技量は持ち合わせていないさ』

『だが、もし智代子が来てくれるなら、最大限のもてなしをすると約束しよう。
 ちょうど今は、カツオが美味しい時期だ。実家から取り寄せて、寮の皆にも振る舞おうじゃないか』

『か、カツオ!? 魚の!? ひょっとして捌けるの、咲耶ちゃん!?』

『ああ』

『即答ッッッ!!!』


『そうだ! お料理といえば、私の友達にもすっごく上手な子がいてね?』
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:53:52.13 ID:9H96sgaS0
『へぇ。智代子をも唸らせるほどの腕前なのかい?』

『うんっ! 樹里ちゃ……ああいやいや』

『その子ときたら、凄いんだよ!
 お味噌汁一つ作るのだって、即席のじゃなくてちゃんとお出汁を丁寧に取って、すごく美味しくって』

『揚げ物だって、温度の見極めっていうのかな?
 ピタッ! ジュワーッ! という感じで、お加減バッチリなモノをパパッと作れちゃうの!』

『なるほど、手際が良いということか』

『そうっ! まさしくだよ!』

『そういったスキルは、普段の日常生活で行っていないと習熟できないものだ。
 とても家庭的な子なのだろうね』

『いやぁ、普段はメンドクセーなんて言って、あまり作ってはくれないんだけどね?
 私なんかはもうその子に胃袋掴まれっぱなしで』

『ふむ……そういう事なら、私が対抗馬として名乗りを上げても良いかな?』

『美食の姫にご満足いただけるよう、記憶に残る一皿を献上してみせよう、マイレディ』

『そりゃあ、カツオを目の前で捌かれたら忘れられないよねぇ』
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:55:17.37 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


  う、ううむ……

「どうした、プロデューサー?」

  いえ、その……
  お腹が空いて、どうにも力が出ないようでして……

「何だか、アンパンのヒーローみてぇな言いぶりだな……」

「でも、今日はアタシ弁当作ってきてねーしなぁ」

  それは、困りましたね……



  プロデューサー、これ。

  えっ?


「おっ、それひょっとして弁当か? へぇー、やるじゃねぇか」

  明日作ってみる、って言ったでしょ?

「あぁ、そうだったな」
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:56:56.46 ID:9H96sgaS0
  うわぁぁ〜! このハンバーグ、すっごく良い匂い!

  はいっ! とても美味しそうです!

  樹里に教えてもらったんだ、作り方。

「よ、よせよ。いちいち言わなくていいだろ、そんなの」

  樹里ちゃんのハンバーグ!? わ、私にもどうか一口……!

  なるほど。これは私も食指が動いてしまうね、フフッ。

  ハンバーグってすごいのよ!


  ど……どう、プロデューサー?

  はい。とても美味しいです。ありがとうございます。

  そ、そう……ふーん。まぁ、良かったかな。


「何だよ。別にアタシが弁当作らなくても良かった、ってことか」

「二人とも、末永くお幸せに、なんてな」

  ちょ、ちょっと樹里! 変なこと言わないでよ。

「アハハハ」


――――

――――――
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:57:53.89 ID:9H96sgaS0
〜翌日〜

チュン チュン…


樹里「…………」ムクッ

樹里「……」ポリポリ


樹里(今日は久々に、あの夢を見なかったな……)

樹里(でも、なんか……代わりにすげーヘンな夢、見た気がする)


樹里「ふわぁ……」ノビー…


樹里「さて……今日も弁当作ってやっか」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:58:44.51 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」ジュー…!

樹里「……」トントントン



樹里「………………」



樹里「…………」スッ

ポパピプペ


プルルルルル…


樹里「……あぁ、もしもし? アタシ。おはよう」

樹里「あのさ、プロデューサー」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:00:11.89 ID:9H96sgaS0
樹里「悪ぃんだけど、今日は弁当作れねぇわ」

樹里「だから、適当に外で食うとか、してくんねーか?」

樹里「あぁ、買わなくていい……いや、分かんねぇけど。
   ほら、結構外食できそうなトコあるじゃん……そう、例えばの話、っつーか」

樹里「ああ……ごめんな、うん……それじゃ」

ピッ!


樹里「…………」


ポパピプペ

プルルルルル…


樹里「……あぁ、チョコ? あのさ」


樹里「良かったら今日、弁当作ってきてやるよ」
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:01:24.58 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

武内P「…………」カタカタカタ…


未央「んー? あれあれぇ〜?」クンクン

武内P「な、何でしょうか、本田さん?」


未央「プロデューサーの鞄から、いつもの良い匂いがしませんなぁ」

未央「今日はジュリアン、お弁当作ってくれなかったの?」

武内P「は、はい……鋭いですね」

卯月「未央ちゃんの嗅覚は、これすなわち生への執着ですねっ」

未央「しまむー、ちょいちょいヒドいね!?」

武内P「とりあえず、これから出張する際に、どこか外で済まそうかと……」
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:03:22.47 ID:9H96sgaS0
凛「プロデューサー、これ」

武内P「渋谷さん?」

凛「はい」スッ


未央「こ、これはまさか……!?」ワナワナ…

卯月「お弁当! 凛ちゃんお手製、ですか!?」


武内P「……これは」

凛「お昼ご飯、無いんでしょ?
  たまたま私、自分用に作ってきたんだけど」

凛「プロデューサーの方が、忙しいんだし……これ、あげる」

武内P「し、しかし……」

凛「いいからっ」ズイッ!

武内P「は、はい」

未央(何というパワープレー……!)
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:04:45.37 ID:9H96sgaS0
武内P「ありがとうございます、渋谷さん」

凛「……ッ」

凛「い、いいって……普通だし、美味しくないかも、だけど……」モジモジ

武内P「いえ、そんな事はありません。大事にいただきます」

凛「うん……」


卯月「えへへっ。凛ちゃん、何を作ってきたんですか?」

未央「そうだぞー? この未央ちゃんにも内緒にしおってからにー♪」ウリウリ

凛「うぇ、いや、あの……は、ハンバーグ?」

未央「それ、プロデューサーのバッチシ大好物じゃーん!」ヒューッ!


武内P「これは、期待せざるを得ませんね」ニコッ

凛「もうっ。からかわないで……!」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:05:57.02 ID:9H96sgaS0
〜961プロ近くの公園〜

智代子「あーー、んっ!」ハムッ!

智代子「……んん〜〜〜〜っ!!」

樹里「いちいち大袈裟だなぁ、リアクション」

智代子「そんなこと無いって! すっごく美味しいよぉ、樹里ちゃん」キラキラ

樹里「まぁ、喜んでくれんのはありがてぇけどよ」


智代子「特にこのハンバーグ! 全然、お店屋さんに出せる味だよ!」

樹里「ヘヘッ、だろ? ソイツは自信あんだよなー」

樹里「昨日も凛に作り方教えてやってさ。喜んでくれたんだぜ?」

智代子「私も一緒に受けたかったなぁ、樹里ちゃんのお料理教室」


智代子「でも、何で今日は作ってくれたの? お弁当」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:07:14.33 ID:9H96sgaS0
樹里「えっ? あぁ、いや……別に」ポリポリ

樹里「む、虫の知らせ、みたいな……」

智代子「虫の知らせ?」キョトン

樹里「あぁいや! 違う違う、今のナシ」ブンブン

樹里「まぁその……ほら、何だっていいだろ。気分だよ、気分」

智代子「へぇー、たまたまその気になってくれたってことかぁ」ウンウン

樹里「ま、まぁな」


智代子「何にせよ、こうして樹里ちゃんのお弁当食べれるなんて万々歳だし、
    どんどんその気になってくれて私は一向に構わんですよ、樹里ちゃんッ!」

樹里「まぁ、チョコくらい喜んでくれた方が作りがいがある、ってのはあるかもな」

智代子「でしょ?」

樹里「考えとくよ」スクッ
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:11:20.68 ID:9H96sgaS0
智代子「あれ? もう行くの?」

樹里「ああ、これからレッスンだからな」

智代子「レッスン……」

樹里「何だよ、練習は大事だろ?
   チョコだって、午後は夏葉や未央達と秘密特訓じゃねーか」

智代子「あ、はい! そ……そうだね、そうそう! 秘密特訓っ!」

樹里「何でそんなにキョドってんだよ」

智代子「いえ、何も他意は無いです、何も」ブンブン


智代子「あっ、ていうかお弁当箱、洗って返すね!」

樹里「いいって、アタシが持って帰る。ほら」スッ

智代子「そ、そう? ……ごちそうさまでした」

樹里「はい、お粗末さんでした」

樹里「アタシはこっちのがあるから今日は行けないけど、怠けんじゃねーぞ」

智代子「も、もちろんですとも……」

スタスタ…



智代子「……樹里ちゃん、まだ活動再開しないのかなぁ」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:12:05.73 ID:9H96sgaS0
〜961プロ レッスンルーム〜

ガチャッ

樹里「お疲れ様でー、す……?」


武内P「あ……西城さん」

樹里「おう、プロデューサー」


樹里「……弁当、食ってたのか」

武内P「申し訳ございません」

樹里「謝んなよ、だから」



樹里「……それ、アンタが自分で作ってきたのか?」


武内P「いえ……」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:13:01.79 ID:9H96sgaS0
樹里「だろうな」

樹里「…………」



樹里「その……他に担当してる、アイドルからの……か?」


武内P「……はい」



樹里「ちなみに、何が入ってたか……聞いてもいいか?」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:14:22.65 ID:9H96sgaS0
武内P「そうですね」


武内P「ハンバーグと……」

樹里「…………」


武内P「ほうれん草のゴマ和えと、厚焼き卵……」

武内P「それと、筑前煮……野菜も、サラダなどが、入っていました」

武内P「大変美味しく、栄養バランスも良い、ありがたいものです」



樹里「………………」


武内P「? ……西城さん、いかがさ…」

樹里「よく分かった」

武内P「え?」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:15:17.29 ID:9H96sgaS0
樹里「よく分かったと言ったんだ」


樹里「悪ぃが、今日は帰る。ちょっと……気持ちの整理っつーか」クルッ

武内P「さ、西城さ…」

樹里「来んなっ!!」

武内P「!?」


樹里「ちょっと…………一人にさせてくれ……」


ツカツカ…! ガチャッ

バタンッ!



武内P「…………西城さん」

武内P「まさか……?」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:16:47.88 ID:9H96sgaS0
〜346プロ近くのジム〜

卯月「ひぇぇぇ……つ、疲れました……」グッタリ

凛「いつも以上に、ハードだったね……」

未央「ぜぇ、ぜぇ……どう考えても、原因は……」


夏葉「さぁ、仕上げのダウンジョグに行くわよ!」バァーン!

夏葉「近所の川沿いまで往復5km、暗くなる前に終わらせましょう!」

咲耶「ま、まぁまぁ夏葉。
   今日のところは、整理体操くらいにしておくのはどうだろう?」

夏葉「それでもいいわよ。
   いずれにせよ、十分に時間をかけて筋疲労を取り除かなくてはね」


未央「283プロとの、合同レッスン……!」

卯月「夏葉さん、本当にストイック、なんですねぇ……」

智代子「」デローン

凛「智代子なんかもう溶けてるし……」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:17:52.80 ID:9H96sgaS0
夏葉「全ては自分を律するところからよ」

夏葉「高い目標を達成するには、一瞬たりとも自分を甘えさせてはいけないわ」

未央「なつはしの人生哲学だねぇ」

智代子「それを強いられる身にもなってほしいよ、夏葉ちゃん……」

夏葉「ふふっ、智代子?」スッ

ツン

智代子「オウフ」

夏葉「だいぶ引き締まってきたじゃない。
   私の言った通り、食事メニューもちゃんと気を遣っているようね」

智代子「いやぁ……樹里ちゃんのお手製弁当が無かったら即死だったよぉ」

夏葉「樹里の?」

凛「……」ピクッ
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:19:34.17 ID:9H96sgaS0
夏葉「詳しく聞かせてもらえるかしら。
   今日のレッスン前に、あなたは何を摂取してきたの?」

智代子「わわっ!? な、夏葉ちゃん落ち着いて!
    偏食なんかほど遠い、極めて栄養バランスの良いぃお弁当だよ!」

智代子「ほらっ、写真! 皆も見てよ、すっごく美味しかったんだから!」サッ


未央「おおー」

卯月「うわあぁぁ……このハンバーグ、とっても美味しそうです!」キラキラ

咲耶「なるほど、智代子が舌を巻くわけだね」


凛(……当たり前だけど、私のよりも綺麗)


夏葉「あなたの言う通り、見る限りでは身体に悪いものでは無さそうね」

智代子「美味しいものは身体に良いんだよ!」

夏葉「あの子にこんなスキルがあったなんて、樹里も隅に置けないわね。
   今度、私にも教えてもらおうかしら」
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:21:11.42 ID:9H96sgaS0
凛「うん。樹里もそう言ってたよ」

夏葉「あら? 凛は樹里の料理について知っているの?」

凛「昨日樹里に教えてもらったんだ、私。同じお弁当の作り方」


卯月「そうだったんですか!?」

未央「それ私達も誘ってよー、しぶりん!」

智代子「本当だよぉ! 何で凛ちゃんだけ!」

卯月・未央・智代子「ずーるーい! ずーるーい!」エッサ! ホイサ!

夏葉「十分元気じゃない、あなた達」


ヴィー…! ヴィー…!

咲耶「おや?」
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:22:25.98 ID:9H96sgaS0
咲耶「このスマホは、凛のかい?」スッ

凛「ありがとう」


凛「…………!」ピクッ



 『外で待ってる』



凛(樹里……)


卯月「凛ちゃん、どうしたんですか?」

凛「ごめん、ちょっと先に行ってるね」スッ

未央「へ?」

ガチャッ

バタン
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:35:57.56 ID:9H96sgaS0
スタスタ…


凛「……」スタスタ…

凛「…………」ピタッ



樹里「…………」



樹里「……今日は皆、秘密特訓してるモンだとばかり思ってた」

樹里「でも、秘密特訓ってより、むしろ……合同レッスン、って言った方がしっくり来るよな」


樹里「283プロと346プロの、合同レッスン……」


凛「樹里……」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:36:56.80 ID:9H96sgaS0
樹里「…………ッ」スッ

ツカツカ…!


ガッ!

凛「……ッ!」グイッ


樹里「てめぇ……!」ギリッ…!

凛「…………」


樹里「……そうじゃなければいいと思ってた」

樹里「だから……あの時聞くのが怖かった、ってのは認めるよ」

樹里「だけど、まさか……アイツも同じだったなんてよ……!」
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:38:14.74 ID:9H96sgaS0
凛「……薄々勘づいていたくせに」

樹里「あ?」

凛「だから、今日はお弁当、作らなかったんでしょ? “私のプロデューサー”に」

樹里「……ッ!!」グッ


凛「私が言ったんだ」

樹里「何……!?」


凛「私が最初に、樹里には秘密にしようって、皆に言ったんだよ」

凛「わざわざ都合の悪いこと、樹里に言うことなんか無い、って」

樹里「! ……」


凛「あの時打ち明けようと思ったのだって、
  智代子が復帰して、樹里の346プロに対する憎しみが薄れたのを見て取ったから」

凛「つまり、自分達に都合の良いように、私は樹里に接してきたってこと」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:39:11.09 ID:9H96sgaS0
タタタ…!

未央「い、いた! あっ……!」

卯月「凛ちゃん……じゅ、樹里ちゃん!?」


咲耶「樹里……!」



凛「私は樹里を騙して、振り回した……それは言い逃れしないよ」

凛「何か文句ある?」

樹里「…………」



智代子「と、止めないと…!」ダッ

夏葉「待って、智代子」

智代子「ふぇっ!?」ピクッ


夏葉「…………」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:40:11.79 ID:9H96sgaS0
樹里「…………」

樹里「……ッ」グッ

パッ

凛「? ……え」


樹里「…………チッ」ワシャワシャ

樹里「あぁ、文句ならあるぜ」

樹里「凛らしくもねぇ……そうやってつまらねぇウソをつくの、やめろよな」

凛「……!」


樹里「……アタシに気づかせるためだったんだな」

樹里「おかしいと思ったぜ。何で急に、弁当作りを教えろなんて……」

樹里「それもプロデューサーのための……明日作るんだ、なんて、わざわざアタシに……」

凛「…………」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:41:29.55 ID:9H96sgaS0
樹里「お前が誰かを騙すとか、そういう狡い真似、できるわけねぇだろ」

樹里「もう分かってんだよ……
   アタシに隠すよう言ったのは、プロデューサーだってことくらい」

凛「樹里……」


卯月「じゅ、樹里ちゃんっ!!」ダッ!

未央「あ、しまむ…!」


樹里「! ……卯月」

卯月「樹里ちゃん、待ってください!
   プロデューサーさんは、悪気があったんじゃないんです!」

卯月「いつだって、プロデューサーさんは私達みんなのこと、大事に思ってくれていて……!」

卯月「だから、樹里ちゃんを騙そうとか、そんな……そんな事なんかじゃ…!!」

樹里「あぁ、分かってる」


卯月「……ふぇ?」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:42:29.50 ID:9H96sgaS0
樹里「曲がりなりにも、アタシだってアイツの担当アイドルだ。
   どんな考え方してるかくらい、少しは分かるよ」

樹里「だけど……筋は通してもらわねぇとな」


樹里「凛。プロデューサー、後であの公園へ連れてきてくれ」

凛「え?」



樹里「ついでにもう一つ」

樹里「動きやすい服装で来い、ってな」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/20(月) 23:45:07.49 ID:9H96sgaS0
今回はここまで。
次回は明日の夜8時〜11時頃の更新を予定しています。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/20(月) 23:45:32.37 ID:CUehpB+ho
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:50:47.16 ID:sUxM0O3Y0
〜346プロ 常務室〜

美城「園田智代子をゲストに指名しただと? 283プロの?」

美城「即刻キャンセルだ。
   わざわざ格の低いアイドルを選んで共演するなど、デメリットでしかない」

『そ、それがもう、当初の候補だった人達も予定が埋まってしまって、
 今から調整は不可能でして……』

『それに、高垣楓さんがどうしてもと、強く要望されたそうなのです……
 せ、責任も、自分と346プロが取りますから、と……』

美城「……それほどに、か」


美城「話は分かった」

ガチャッ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:51:37.63 ID:sUxM0O3Y0
美城「…………」

美城(……然したる主体性など、有していないアイドルだと思っていた。
   波風を立てず、しかし持ち前のポテンシャルでなるべくして結果を得てきたものだと)

美城(しかし、高垣楓……
   私のプロジェクトへの参加を拒むばかりか、独断でそのような事を進めるなど)

美城「……!」ピクッ


カタカタカタ…

美城「園田智代子……あのオーディション」カタカタ…

美城「そして、その同伴者……」カタカタカタ…

美城「……西城樹里!」カチッ


美城(そして、ここ最近連続して発生している、業界人達の不可解な失脚……)

美城(先日、黒井祟男から聞き出した話の内容……)


美城「………………」



美城「そういうことか」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:52:09.61 ID:sUxM0O3Y0
〜公園〜

スタスタ…

武内P「……そうでしたか」


凛「……ごめん」

凛「私が、勝手なことを……」

武内P「いえ……時間の問題だとは、考えていました」


未央「……ジュリアンたしか、こっちの方へ来い、って」

スタスタ…



卯月「ここは……バスケットコート?」
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:53:15.47 ID:sUxM0O3Y0
樹里「来たか」

武内P「!」クルッ


ダムッ!


未央「ジュリアン……?」


ダムッ!


卯月「……バスケット、ボール」


ダムッ

樹里「動きやすい服装で来い、っつったろ」ダム ダム …

武内P「…………」

樹里「まぁ、アンタらしいけどよ」スッ
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:54:17.56 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「樹里……あまり乱暴はしちゃダメよ」

咲耶「どうか感情的にならないようにね」

樹里「この格好見て分かんねぇかよ? 大きなお世話だぜ」

智代子「う、うん……」


未央「さくやん達も、来てたんだ……」


樹里「おい、そこに立ちな」

武内P「……?」スッ

ザッ



樹里「アンタ、バスケの経験は?」
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:01:30.65 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……学生時代に、少々」

樹里「ふーん、“少々”ね……」


樹里「……」ヒュッ

武内P「!」パシッ

武内P「あ、あの……西城さん、これは……?」

樹里「あ? 寝てんのか?」


樹里「1on1だよ。アンタとアタシ、10点先取だ」

武内P「……」

樹里「アンタが勝てば、何も文句は言わねぇ。このままアイドル続けてやる」

樹里「そのかわり、アタシが勝ったら……」


樹里「洗いざらい話してもらうぜ……アンタがアタシに隠していたこと、全部」
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:02:04.51 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」


樹里「おら、ボール」クイッ

武内P「……」ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダッ!

武内P「ッ!?」


樹里「……」キュッ!

ダムッ! ギュォッ!
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:03:42.24 ID:sUxM0O3Y0
武内P「む、お……!?」グラッ

武内P「ッ!!」ドテッ

樹里「……ッ」ダッ!

シュバッ!


パスッ…!


   テンッ テン テン テテテテ…


武内P「……!」


未央「あ、アンクルブレイク……!」

夏葉「からのレイアップシュート……見事なスピードとキレね」

卯月(か、カッコいい……)
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:04:31.80 ID:sUxM0O3Y0
樹里「フンッ」

スッ

武内P「…………」


樹里「アンタの番だぜ」


武内P「…………」ヒュッ

樹里「……」パシッ ヒュッ

武内P「……」パシッ


武内P「…………」ダムッ

ダムッ


樹里「……」ザッ


樹里「言っとくけど……
   女が相手だと思って、手加減なんか考えんなよな」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:05:34.27 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……」ダムッ

樹里「部活は中学で辞めてっけど、
   野良で男子連中に混ざってストバスやってた時期もあったんだ」

樹里「フィジカル頼りのパワープレーしか脳がねぇヤツなんざ、
   アタシにとっちゃカモなんだよ」

武内P「……」ダムッ


樹里「いや……アンタの場合、
   気に掛かるのは女というより、“担当アイドル”が相手、ってところか?」

樹里「なぁ、“プロデューサー”?」


武内P「……」ダムッ

ダッ!

樹里(来る……左っ!)ザッ!
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:07:35.44 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……!」ギュッ!

ダムッ! バッ!

樹里(違う、ターンして逆か!)

樹里(デケぇ身体を背にしてアタシからボールを隠すように……!)

樹里(へっ、やっぱりフィジカルか! 甘ぇんだよ!!)キュッ!

ザゥッ!

樹里(シュートモーションに入る時にはゴールに正対せざるを得ねぇ……!)

樹里(アタシを躱せるかってんだよ!)


キュッ! ダムッ!

樹里(ここだっ! もらった!!)バッ!
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:08:45.21 ID:sUxM0O3Y0
サッ スカッ

樹里「!?」

キュッ! ブオッ……!


樹里「なっ……!?」

武内P「……」フワッ…

シュッ!


咲耶「フェイダウェイ……!?」


樹里「……ッ!」クルッ


パスッ


   テンッ テン テン テテテテ…


卯月「ぷ、プロデューサーさんもカッコいい……」

智代子「素人目でも、すっごい綺麗なフォームだったねぇ」
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:09:56.69 ID:sUxM0O3Y0
樹里(完全にマークを外された……あのバックステップのキレ味)

樹里(そっから飛んでシュートを打つまでの動作移行……体幹の維持)

樹里(しかも、あんな踏ん張りのきかなそうな革靴で……)


樹里(ふざけやがって、何が“少々”だ)


武内P「あなたの番です」スッ

樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダムッ


樹里「……そのガタイでトリックプレイとはな。恐れ入ったぜ」ダムッ

武内P「…………」

樹里「いや……トリックってほどじゃねーか。単にアタシの判断ミスだ」ダムッ
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:11:43.30 ID:sUxM0O3Y0
樹里「だがなっ!」ダッ!

ダムッ! ダッ!

武内P「!」キュッ!

樹里(……と見せかけて右!)バッ!

武内P「……!」ザッ!

樹里(読まれたか! ヘッ!)キュッ! ダムッ!

樹里(織り込み済みだぜっ!!)ザォッ!

キュッ! シュバッ! 

武内「むっ!?」


樹里(こういうのはどーよ!?)グオッ!

シュッ!


夏葉「フックシュート!?」

凛(プロデューサー、出遅れた……!)
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:12:13.15 ID:sUxM0O3Y0
武内P「ッ!」バッ!

樹里「……な!?」


武内P「……むぅん!」ブンッ!


バチィンッ!!


樹里「うおっ!?」

ダンッ!


卯月「うひゃあっ!?」バシッ!


武内P「あっ! し、島村さんっ!」

未央「うっひょぉ〜〜……見事なハエ叩き」
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:13:05.76 ID:sUxM0O3Y0
武内P「も、申し訳ございません! お怪我はありませんか!?」

卯月「い、いえ、全然……」

武内P「……」ホッ


武内P「…………」チラッ


樹里「……タイミングを外したつもりだったんだけどな」

樹里「やるじゃねぇか。膝にバネでも仕込んでんのか?」

武内P「…………」


樹里「面白ぇ」ニヤッ
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:14:20.55 ID:sUxM0O3Y0
ダムッ! ダンッ!

樹里「うぉらぁぁ!!」グァッ!

武内P「うっ……!」


智代子「な、なにィ!?」

未央「出たぁー!! ジュリアンのダブルクラッチだァァーーッ!!」



武内P「フッ!」ダムッ!

樹里「くっ! うぉ!?」

シャッ! ザォッ!


夏葉「フェイント!?」

卯月「プロデューサーさんが二人になってます!!」

凛「いや、なってないから」
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:15:23.62 ID:sUxM0O3Y0
〜数十分後〜

樹里「うりゃ!」バチンッ!

武内P「ぐっ!」

テンッ テン テテテテ…


樹里「っし! ……ハァ……ハァ……!」

武内P「くっ…………はぁ……はぁ……」ガクッ


智代子「8対6……!」ゴクリ…


咲耶(……プロデューサーの動きに、精彩さが失われてきている)

咲耶(まして、樹里との接触を極力避けるプレースタイルを続けていては、
   明らかにプロデューサーの分が悪い)
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:16:43.15 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダムッ

樹里「…………」ダムッ


武内P「はぁ……はぁ……」



智代子「プロデューサーさん……ひょっとして、樹里ちゃんに遠慮してるのかな」

夏葉「そうだとしても、どのみち体力面でのハンディキャップは否めないわね」

未央「現役アイドルな上に、バスケの腕も運動神経も抜群だよねぇ、ジュリアン」


凛「…………」
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:17:53.24 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ダムッ

武内P「はぁ、はぁ……ッ」グッ


樹里「……」ダムッ

ダムッ! ヒュバッ!

武内P「く……!」

ガッ!

武内P「ッ!?」グラッ

樹里「……」ザゥッ!

キュッ!

シュッ


パスッ


樹里「……」スタッ


武内P「はぁ……はぁ……はぁ……!」
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:18:43.25 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「これで9対6……どうやら勝負あったようね」

卯月「プロデューサーさん……!」ギュッ


武内P「はぁ…………はぁ……」ググッ…


樹里「……気張ってみろよ」スッ

武内P「…………」

樹里「アタシに秘密を明かしたくねぇんならな」


武内P「……」ヒュッ

樹里「……」パシッ ヒュッ

武内P「……」パシッ


樹里「…………」ザッ
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:19:32.14 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」ダムッ

ダムッ


ダムッ


ダムッ ダムッ

武内P「……ッ」ダムッ!

ダムッ! ダッ!


智代子「行った! 正面!?」

咲耶(いや、性格からしてプロデューサーは強引には行かない……!)

咲耶(必ずサイドに躱そうとするはずだ。そして樹里には既に見抜かれている!)


樹里「……!」バッ!

ダッ!
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:20:44.15 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「!?」

未央「わっ、ちょっ……!」

凛(ボールではなく、真っ直ぐにプロデューサーへ……樹里!?)


武内P「な……!?」

樹里「う、おおおぁぁぁぁっ!!」グオッ!

ドガッ!

武内P「むぅっ!!」

樹里「! ぐぁっ……!!」

ドサッ

グキッ!

樹里「ぐっ!! う……!」


夏葉「! 樹里っ!!」

卯月「樹里ちゃん!! 大丈夫ですかっ!?」ダッ!

タタタ…!
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:22:33.49 ID:sUxM0O3Y0
樹里「く……っ痛……!」グッ…!

武内P「西城さん!」

智代子「じゅ、樹里ちゃん、血が……!」


夏葉「見せて、樹里」スッ

樹里「い、てて……大丈夫だって、騒ぐ、な……ッ!」

夏葉「……」グイッ

樹里「ぁい゛っっ!! ……ッ!」ズキンッ

未央「ジュリアン……!」


夏葉「……接触時に、額をプロデューサーの肘にぶつけた。
   出血しているとはいえ、そっちは大した怪我ではないようだけれど……」

夏葉「倒れて右手を地面についた際、手首を捻ったようね。
   早めにお医者様へ診せた方が良いわ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:24:23.00 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「確か、公園を出てすぐ近くにクリニックがあったはずだ。
   専門医に診てもらえるか、問い合わせてみよう」スッ

夏葉「えぇ、お願い。
   さぁ樹里、まずはあそこの水道で冷や…」

樹里「いいって、言ってんだろ……!」グッ

夏葉「言うことを聞きなさい」


武内P「西城さん……なぜ……」

武内P「なぜ、あのような無茶をされたのですか……」

樹里「…………」


武内P「ラフプレーに頼らずとも、あなたであれば、
    今の私からボールをカットする事は容易かったはずです」

武内P「たとえそれが敵わず、点を入れられても、9対7……
    残りのゲームで、じっくり勝利を決めることもできた」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:26:27.39 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……アンタの言う事は正しいよ」

樹里「そうやって勝利をたぐり寄せた方が、確かに利口だよな」


樹里「でも……この勝負は、元々アタシに有利なモンだ」

樹里「アンタがここまでバスケできるとは思ってなかったけどよ……」

樹里「それでも、アタシはこんな準備してきて、アンタは普通のスーツ姿で……
   運動の習慣だって、どうせロクに無かったろ?」

樹里「こんなハンデで勝っても、なんかちげーな、って……
   ちゃんと、なんつーか……」

樹里「勝ちに、行きたかったのかもな……アタシなりに、納得できる形で……」


未央「ジュリアン……」

凛「…………」


武内P「……勝負は、私の負けです」

樹里「まだ終わってねぇだろ、いっ……ッ!」ズキンッ
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:27:42.57 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「先ほどのクリニックだが、すぐに診てもらえるそうだ。
   さぁ行こう、樹里。智代子もついて来てくれるかい?」

智代子「う、うん!」


樹里「やめろっ!!」

智代子「ひぇっ!?」ビクッ


咲耶「……それは聞き入れられないよ。
   樹里のケガは、早急に手当てが必要のはずだ」

咲耶「それを拒むというのなら……理由を聞かせてほしい」

咲耶「私達だって、樹里への想いに納得が必要なんだ」


樹里「…………」



樹里「……もう、同じ思いをするのは嫌なんだよ」

樹里「あんな、惨めな思いは、もう……」グッ…
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:29:14.22 ID:sUxM0O3Y0
凛「……樹里、中学までバスケをやってたんだよね?」

樹里「…………」

凛「それと、関係があること……?」



樹里「……アタシがいた中学のバスケ部は、創部以来初めて県大会優勝してさ」

樹里「関東……ゆくゆくはインターハイも夢じゃねぇかも、
   なんて、メンバー皆ではしゃいでた」


未央「……えへへ、すごいじゃん!」

樹里「へっ、アタシが凄かったんじゃねぇよ……」


樹里「キャプテンで……いわゆる、司令塔のポジションを担うヤツがいてさ」
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:31:55.72 ID:sUxM0O3Y0
樹里「背はそんな高くねぇけど、ボール捌きが抜群に上手くて、視野も広くて……
   それに、明るくて優しくて、皆のムードメーカーで」

樹里「いつも皆の中心で笑ってて、チームの力を実力以上に引き出してた……
   ソイツがいたから、アタシ達は勝てたようなモンだった」

樹里「親友だったんだ……アタシだけじゃなく、皆そう思ってただろうな」


樹里「ある時、ソイツが練習時間になっても来ねぇからさ……探しに行ったんだ」

樹里「学校の隅っこの、もう使われてないオンボロ倉庫の中に、ソイツはいた」


樹里「人目に隠れて、タバコを吸ってたんだ」


凛「……!」

卯月「た、タバコ……!?」

樹里「中2だぜ? 結構ヤンチャしてるよな、ハハ……」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:34:07.18 ID:sUxM0O3Y0
樹里「親父のを、黙って持ってきたんだってよ……
   その時初めて吸った、って……それはたぶん、本当なんだと思った」

樹里「知らなくても一目で分かるくらい、まるで手つきが慣れてなかったからな……」


樹里「初めての関東大会で、部の内外からも期待を集めて……
   相当、プレッシャーを与えちまったんだと思う、アタシ達も」

樹里「それに、ソイツの家庭も、ちょっと問題を抱えてたみたいでさ……
   親父や母親からも、怒鳴られたり、暴力とかも……全然アタシ、知らなくて……」

樹里「友達ヅラして、一方的に追い詰めてた……
   たどたどしくタバコを持つソイツの姿を見て、初めてその事に気づいたんだ」

未央「そんな、ジュリアン……!」


樹里「咄嗟に、ソイツに言ったんだ……アタシがやった事にしろ、って」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:35:07.59 ID:sUxM0O3Y0
智代子「!? そ、そんなの……!」

夏葉「……樹里、それは間違っているわ」


樹里「ああ、そうだよ。間違ってた」

樹里「たぶん、そん時も気づいてたさ……でも、そうするのが一番良いと思った」

樹里「ソイツがいなきゃ、関東も、その先も勝ち抜けるワケがねぇんだからな」

樹里「それがチームのためになると思ったんだ」


樹里「でも、アイツは自白して……辞めた」

咲耶「…………」


樹里「代わりに関東大会初戦のコートに立ったのが、アタシだった」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:36:58.15 ID:sUxM0O3Y0
樹里「結果は散々……ってほどでもなかったかな。
   中盤までは、まだ勝負になってた」

樹里「でも、第3クォーターから、やっぱり地力の違いが出てきてさ……
   点差も、どんどん開いてって……」

樹里「アタシがやらなきゃ、って思ったんだ……
   ここでスリーを決めて、チームを勢いづけて第4クォーターを迎えれば、勝ち目が見えてくる……!」

樹里「アイツの代わりに、アタシが皆の精神的支柱になってやるんだ、って!」グッ…


樹里「でも……アタシのボールは、リングに届きすらしなかった」

樹里「相手チームに取られて、あっさりカウンター決められて、ますます点差が開いて……」


樹里「元々厳しい先生だったけど……ウンザリするほど責められたな。
   逆に、チームのメンバーは、皆アタシを擁護してくれた。励ましてくれた」

樹里「その優しさが、すげぇ辛くてさ……」

卯月「……樹里ちゃん」ジワッ
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:38:13.96 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あの日から……アタシは、空っぽになった」

樹里「あれだけ一生懸命、自分の全てとさえ思ってたバスケを辞めて……
   まぁ、そりゃそうだよな」


樹里「あんなに夢中になって頑張ってたから、全てだったんだ」

樹里「だから、アタシは……夢中になる事が、怖くなった」

武内P「……!」ピクッ

咲耶「そうか……樹里、君は……」


樹里「……なぁ、プロデューサー」

樹里「初ステージの時、アタシ……途中で身体固まって、動かなくなってたろ?」

武内P「……はい。子供が落ちそうになっていたのを、目の当たりにされて」

樹里「違うんだよ」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:39:56.57 ID:sUxM0O3Y0
樹里「子供は関係ない……思い出しちまったんだ」

樹里「土壇場でスリーを外した、あの試合を……トラウマ、ってヤツなのかな」

武内P「! ……」


夏葉「……ひょっとして、サマーフェスのアレも?」

樹里「ヘッ、やっぱ夏葉も気づいてたか……あぁ、そうだよ」

樹里「絶対にミスしちゃダメだ、って……思えば思うほど、あのスリーを思い出しちまう」

樹里「バスケに全てをかけてたアタシの心の傷は、アタシが考えている以上に深かった」

樹里「夏葉の言う通りだぜ。
   手を伸ばさないままでいれば、ケガをする事もねぇ」

夏葉「ッ……私は、そんな……!」

樹里「いいんだ」フルフル


樹里「それもあるのかな……
   本当はアタシ、今は346プロにさほど怒りを感じちゃいねーんだ」

樹里「薄々、自覚しちゃいたけどな……」
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:45:16.20 ID:sUxM0O3Y0
樹里「智代子が立ち直ってくれた後、アイドルを辞めようと思えばできた。
   でも……手放す度胸が持てなくて、かといって、のめり込む勇気さえ無くて……」

樹里「アイドルを好きになりそうな自分が怖くて……
   自分の中で、アイドルがどんどん大きくなっていくのが怖くて……」

樹里「だから、打倒346プロっていう建前を振りかざして、
   一生懸命やるフリだけしながら、一線を引いてさ」

樹里「プロデューサーが、ロクな活動を寄こしていないのも、認識してた。
   踏ん切りつかないアタシは……そのぬるま湯にダラダラと浸かってたんだ」

樹里「ハンパはしたくねーとか言っといてな……ほんと、自分勝手だよな、ハハ……」



咲耶「樹里……いや、これはプロデューサーに聞くべきだろうか」

武内P「……? 何でしょう、白瀬さん」

咲耶「一つ確認させてほしいんだ。
   樹里がアイドルを辞められなかったのは、樹里の気持ちだけじゃない」

咲耶「樹里の事を狙う者達がいるからだと、私は認識していたのだが……違うのかい?」

武内P「! ……どうして、それを」


凛「私が言ったんだよ」

武内P「渋谷さん……」

凛「プロデューサーや樹里だけが、抱え込んでちゃいけないと思ったから」

樹里「…………」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:51:25.82 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「どうか凛を責めないでほしい、プロデューサー」

咲耶「私も、天井社長から薄々話を聞かされていたから、何となくの察しはついている。
   だから……本当のことを聞かせてくれないか」


武内P「……正直に打ち明けますが、その通りです」

武内P「かの346プロのオーディションでの不正の事実を知る西城さんは、狙われている……
    身柄だけでなく、その命さえも」

未央「い、命……!?」

武内P「不正を知られて最も困るのは、346プロです」

智代子「そんな事まで……」

夏葉「なるほど、だからあなたは346プロではなく、961プロとして樹里をスカウトしたのね」

夏葉「それに、身柄の安全を確保するために樹里を匿おうにも、
   346プロとしてスカウトしたのでは樹里は応じないだろう、と」

武内P「はい、仰る通りです」


夏葉「だったら、樹里を救う方法はあるわ」

武内P「……?」

樹里「は?」
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:54:03.79 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「あのオーディションの実態を知る当事者が、ここにも一人いるのをお忘れかしら?」ニコッ


卯月「な、夏葉さん……!」

武内P「待って下さい、有栖川さん。良からぬ事を考えるのはおやめください!」

夏葉「何? 良からぬ事って」

武内P「あなたがこの問題に関わると、あなたにも危害が及ぶ事になります!」


夏葉「あまり自分で言いたくはないけれど、私も世界的な大企業を営む有栖川家の人間なの」

夏葉「当代たる父の影響力をフルに活用して、346プロの追求を牽制し阻む事は、不可能ではないわ」

夏葉「つまり、樹里ではなく、実際にそのオーディションに参加した私がその不正を告発する……
   もし私の身に何かあれば、有栖川グループの総裁が黙っていないだろう、ともね」

夏葉「実家に頼ることは本意ではないけれど、樹里を守るためなら是非も無いことよ。
   何より、当事者である私が告発した方が、信憑性も話題性も担保できる」

夏葉「どう? 何かご不満はあるかしら」ファサッ


武内P「う、うむ……」

未央「ブレの無いなつはしのつよさよ」ゴクリ…
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:55:47.06 ID:sUxM0O3Y0
樹里「余計な事をしないでくれ」

樹里「元々アタシが吹っ掛けた喧嘩なんだ。夏葉には関係ねぇ」

夏葉「あら。あのオーディションの参加者でないあなたよりは、関係あると思うけど?」

樹里「そういう事じゃなくて、あーもう……!」ワシャワシャ


夏葉「あなたの過去も知らずに、身勝手なことを言ったのは謝るわ」

夏葉「それでも、身勝手をさせてほしいのよ。
   あなたに気兼ねなく、アイドルを続けてもらえるように、ねっ?」ニコッ

樹里「……知るか」


智代子「……樹里ちゃん、聞いて」

智代子「私が立ち直れたのってね……
    樹里ちゃんがアイドル、やってくれたおかげなんだよ?」

樹里「…………」

智代子「ガラじゃねぇ、だなんて、あんなに恥ずかしがってた樹里ちゃんが、えへへ……
    私なんかのために、あんなに、一生懸命、キラキラで……」

智代子「すっごく練習、したんだろうなぁ、って……!」グスッ
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:58:14.87 ID:sUxM0O3Y0
智代子「だからね、樹里ちゃん?」ジワ…

智代子「樹里ちゃんがやってきたこと、ハンパなんかじゃ……!」

智代子「……ッ!」ゴシゴシ

智代子「ハンパなんかじゃ全然ないよっ!」

智代子「私はずっと! 樹里ちゃんに感謝しなくちゃ、って……だから!
    それを伝えるために、アイドルやってたい、って! 思って……!」

智代子「今度は、私の番だ、って、うぁ……お、思うから……っ!」ポロポロ

智代子「あぁ、アイドルってすごいなぁ、いいなぁ、って……!
    樹里ちゃんにも、おも……ひ、ぃ、思って、もらいた、て、わたし……!」

樹里「チョコ、もういい……もういいよ」

智代子「よくないっ!! い、ぃぅぅ……!」ボロボロ


樹里「アタシなんかのために、皆もう……そういうの、やめてくれよ」

樹里「怖くなっちまうんだよ……アイドルのことも、皆のことも……」



武内P「……西城さん。一つ、誤解されていることがあります」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:59:58.70 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……?」

武内P「私が西城さんの仕事量を、意図的に少なくしていたのは、
    西城さんがこれ以上、アイドルに没頭するのを避けたかったからではありません」

樹里「知ってるよ……やべぇヤツらからアタシを守るためだろ?」

武内P「はい。ですが、それだけではありません」

樹里「え?」


武内P「私も、恐れたのです……プロデューサーとしての本来業務を果たす事を」


樹里「な……何だよ、それ?」


武内P「黒井社長から、先日指摘された事があります」

武内P「西城さんを表舞台に出そうと出すまいと、既に動向を観察している者はいる。
    どう立ち回ろうと、もはや注目は逃れられない、と……」

咲耶「…………」

夏葉「それじゃあ……なぜあなたは、樹里に目立った活動をさせずに匿い続けたの?」
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:01:41.90 ID:sUxM0O3Y0
武内P「資格が無いのではと、考えるようになりました」

武内P「私のような人間が、アイドルを輝かせようなどという資格が……」

未央「え……」

凛「……詳しく聞かせて」


武内P「……かつて、担当していたアイドルがいました」

武内P「聡明、かつ快活な人柄で、誰からも愛される、花のような人でした」

武内P「しばらくは、順調に活動を続けていたのですが……」


武内P「ある時、とある週刊誌に突然、彼女に関するゴシップ記事が掲載されたのです」

樹里「ゴシップ?」

武内P「男性芸能人との不倫……それも、一人や二人ではなく、あらゆる方面の……
    当然ですが、根も葉もないものでした」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:04:27.69 ID:sUxM0O3Y0
武内P「ですが……当事者たる芸能人達含め、関係者が皆、口裏を合わせたのです」

武内P「ゴシップであるはずのその記事は、やがて真実として各所で報道される事になりました」

智代子「そ、そんな……!?」


武内P「彼らにとっては、ある種の炎上商法と言うのでしょうか……
    多少の汚名よりも、話題性を得る事を良しとする者達で、結託をしたようです」

武内P「そして、それを指揮していたのは、
    当時ライバル関係にあったアイドル事務所のプロデューサーでした」


武内P「私の担当アイドルは、ご家族も含め、メディアに食い潰され……
    そのまま、引退に追い込まれたのです」


夏葉「何てこと……」

未央「そんな……後でそれがウソでしたって、釈明できなかったの!?
   そんなのあんまりだよ!」

武内P「もちろん、力を尽くしました。ですが……」

凛「覆せなかったの……? そんな、酷いことって……!」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:06:04.79 ID:sUxM0O3Y0
武内P「私は、そのライバル事務所のプロデューサーに、抗議をしました」

武内P「ですが、彼は鼻で笑い、こう答えたのです」


武内P「“事故”にあったようなものだ……
    この業界、こんなのはよくある事だろう、と」

武内P「これからは、身の振り方を弁えるんだな、とも……」

樹里「…………」


武内P「私は、怒りと憎悪に取り憑かれました」

武内P「不条理な動機と手段で、私の担当アイドルを社会的に殺したその男を」

武内P「何より、彼女の汚名を晴らすことができなかった、私自身の無力さにも」



武内P「だから私も……同じ事をしたのです」

凛「……!?」ピクッ
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:08:24.15 ID:sUxM0O3Y0
武内P「その男と、彼の担当アイドルを……“事故”に遭わせました」


一同「!!」


武内P「主に行うことは、業界関係者への根回しと誇大広告、SNS上での宣伝工作……」

武内P「興信所に依頼し、相手の汚点となるネタを掻き集め、
    これをマスコミや週刊誌にリークするなども行いました」

武内P「当時持っていた私財のほとんどを費やし……
    それでも足りない分は、事務所の資金を横領して、この活動に充てました」

武内P「あの時の私は、自分の行いは正しいのだと、信じて疑わなかった。
    いや……信じ込もうとしていた」

武内P「担当していた、彼女の無念を晴らすためなのだと」

武内P「後で自分や事務所がどうなろうと、関係無い。
    今すべきことに、全てをかけ、全てを失う覚悟で、私は……復讐を果たしました」


卯月「……ッ」ポロポロ

凛「プロデューサー……」


武内P「本懐を遂げた私に、やがて近づく男がいました。
    961プロの、黒井祟男社長です」
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:12:04.44 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……気になってた事がある」

樹里「アンタが346プロの人間であるのは分かったけどよ……
   961プロのプロデューサーだってのは、結局ウソだったのか?」


武内P「はい。厳密に言えば、正しくはありません。
    あくまで私は、346プロのプロデューサーです」

武内P「ですが、961プロにおいても、それとほぼ同等の権利を与えられている、ということです」

未央「……それって、つまり?」


武内P「黒井社長が私に、協力関係を持ちかけたのです」

武内P「有事の際に、961と346、双方にとって害を為す存在を抹消する……
    その手を下すことを、担ってくれないかと」

武内P「協力をしてくれるなら、私の社会的なステイタスを、全て保障する……
    確実に隠蔽するし、私が無断で横領した346プロの資金も、961プロが補填をしよう、と」

武内P「そうすれば、まだ貴様は、アイドルのプロデューサーを続けられるだろう……」


夏葉「……あなたはそれに従った、ということね」

武内P「そうです。そして……
    346プロの会長と961プロとで、正式かつ秘密裏に、契約が結ばれたのです」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:13:24.28 ID:sUxM0O3Y0
武内P「間接的に相手を陥れるものや、直接的なもの……
    “仕事”の内容は、様々でした」

智代子「直接的、ってどんな事、ですか……?」

武内P「とてもあなた方に、お教えできる事ではありません」

智代子「……!」ゾクッ

武内P「それだけの事を、私は重ねてきたのです」

咲耶「…………」


武内P「これは“事故”なのだ……よくある事なのだ、と……」

武内P「不条理に手を染める私の心を慰めたのは、皮肉にも、あの憎き男の言葉でした」

武内P「この行いは、私の担当アイドルのためなのだと」

武内P「そう、心の中で繰り返し、黙して“仕事”をこなしてきた……
    そんなある日の事でした」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:15:47.07 ID:sUxM0O3Y0
武内P「繁華街を通りがかった時、路上で泣き叫ぶ一人の女性を見かけました」

武内P「見るからに正気ではなく、呂律も回っていない……
    みすぼらしい風貌の、若い人でした」

武内P「気にも留めまいと、通り過ぎようとしたのですが……
    よく見て、気がついたのです」


武内P「その女性は、私が陥れたあの男の、担当アイドルだった人でした」

樹里「……ッ!?」

卯月「もう、やめて……!」


武内P「何を言っているのかは分からない。
    ですが……あらん限りの憎しみや怨嗟を、周囲に吐き出しているのが見て取れました」

武内P「かつて復讐を遂げた相手の、変わり果てた姿を見て、私は……
    逃げるようにその場を後にしたのです」


武内P「その日以来、私は……眠ることが出来なくなりました」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:18:17.71 ID:sUxM0O3Y0
武内P「目を閉じると、瞼の奥に、私の担当アイドルとその女性の姿が重なるのです」

武内P「かつて“事故”に遭わせた、数々の芸能関係者達もまた……同じ末路にあるのだと」

武内P「私は、多くの光を奪った……その私が、誰かに光を諭す事など……」

武内P「まして活躍をさせて注目を浴びれば、同じ目に遭わせようとする者も現れるかも知れない……
    かつての私の担当アイドルや……私が陥れた者達のように」

武内P「だから、私は西城さんを、守るという名目で、活動をさせてこなかった……
    いえ、活動させることが出来なかったのです……」


凛「……やっと、分かった」

凛「プロデューサーの事だったんだね……復讐に身を任せ、暗く深い闇に堕ちた者って」

凛「取り返しのつかない所までいって、二度と光を見ることはできない……」

武内P「…………」


凛「でも……それでもプロデューサーは、助けようとしたんでしょ?」

凛「樹里のことを……樹里が、自分と同じ道を進んじゃう前に」

凛「苦しみを知っているからこそ、見過ごせなかったから助けた、って、言ってたじゃん」

樹里「……知らなかったぜ。そんな話をしてたのか」


凛「それで……樹里はもう、346プロにさほど怒りを抱いていない、って、それは本当?」
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:19:41.31 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……あぁ」

樹里「別に、凛達が346プロだって分かったからじゃない」

樹里「それにまだ、智代子を苦しめた事が許せねぇって気持ちも、もちろんある」

智代子「樹里ちゃん……」


樹里「でも、まぁ……薄れちまった、ってトコだ」ポリポリ


凛「ありがとう、樹里」

凛「だったら……プロデューサーはやっぱり、樹里を救ったんだよ」

武内P「……私が、西城さんを?」

凛「うん」コクッ

凛「だから、その……あんまり自分を責めなくてもいい、っていうか……」

夏葉「凛」

凛「えっ?」


夏葉「私はプロデューサーを許してはいけないと思うわ」
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:21:09.40 ID:sUxM0O3Y0
凛「ッ……!」

智代子「な、夏葉ちゃん、そんなまた水を差すような事…!」

夏葉「彼の話が本当であれば、簡単に見過ごして良いはずがないでしょう」


武内P「有栖川さんの言う通りです。
    元より私の大義は、復讐を果たしたあの時から、既に失っています」

武内P「いかなる誹りも裁きも、免れる事はできません」

武内P「そのために、西城さん」

樹里「……何だよ」


武内P「もし、有栖川さんのご提案に従うのであれば……
    あなたが346プロからその身を狙われる心配も無くなります」

武内P「つまり、自身を守るためにアイドルを続ける必要が、無くなるのです」

樹里「…………」


武内P「今後の方針を振り返るには、良い頃合なのかも知れません。
    私も……あなたを導く自信が、薄れてきている」

武内P「何者にも脅かされることなく、それまで通りの生活に戻る事も……あなたが望むのであれば」
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:22:40.89 ID:sUxM0O3Y0
智代子「樹里ちゃんのプロデュース……諦めるんですか?」

武内P「…………」


未央「ちょ……あ、あの、なつはし、ちょっと待って! あのさ!」

未央「プロデューサーを勘弁してあげるの、できないかな!?
   だ、だって! プロデューサーだって深い事情があって…!」

夏葉「事情があれば他人を陥れて良い道理があると、未央は思っているの?」

未央「うっ……!」ギクッ

卯月「夏葉さんっ……お願いです、そんな!」

咲耶「残念だけど、卯月、未央……夏葉の言っている事は正しい」

卯月「ううぅ……!」


夏葉「彼の手によって、智代子と同じ、いや……智代子以上に苦しめられた人達が何人もいる。
   その事実から、私達は決して目を背けてはならないわ」

凛「夏葉……」


夏葉「かと言って、責任から逃がれる事も許されないわよね」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:24:05.01 ID:sUxM0O3Y0
未央「へ?」

武内P「あ、有栖川さん……」

夏葉「聞こえなかったの?」

夏葉「樹里のプロデュースを辞める事は、逃げだと言ったのよ」


咲耶「樹里とプロデューサー……
   図らずも、二人の間に生まれたモラトリアムに、お互いが利害の一致を見たという訳か」

咲耶「そして、それを氷解するきっかけとなったのが、凛のお弁当だった」

咲耶「私達が考えるべきは、逃避なんかじゃない。
   過去に縛られ、道半ばで自ら夢を絶つなど、この業界に生きる者の本分ではないはずだ」


凛「咲耶……」

未央「えへへ……やっぱりさくやんってば、カッコイイこと言うよねー」ウリウリ

咲耶「そうかな。思ったことを言ったまでさ」ニコッ
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:25:27.61 ID:sUxM0O3Y0
樹里「み、皆……?」

卯月「……ねぇ、樹里ちゃん」

卯月「樹里ちゃんは、私達が構うの、迷惑ですか?」

樹里「め、迷惑……なんかじゃねぇって。この間も言ったろ?」

卯月「だったら!」スッ

ギュッ!

樹里「う、うわっ!?」ドキッ

卯月「もっともっと、そばにいさせてください」

樹里「……ッ!」

卯月「私達が差し伸べる手を、怖いなんて言わないでくださいっ!」

樹里「お、お前……」


智代子「えへ……えへへ」ニコニコ

智代子「モテモテですなぁ、樹里ちゃん?」

樹里「は、はぁ!?」
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:27:20.47 ID:sUxM0O3Y0
未央「ジュリアン、ユーもう観念しちゃいなよ。
   これだけのお節介焼きに囲まれて、逃げきる方が無理ってもんだよね?」

樹里「う、うるせぇ! お節介を焼く側が言う事かよ!」

未央「あはは、それもそっか!」ニコッ

凛「でも、未央の言う通りだよ」


凛「たとえ樹里やプロデューサーが諦めようと、私達は諦めたくない」

凛「これだけ深い間柄になれた人を、放っておけなんて……
  そんな悲しい事、言わないでよ」

武内P「渋谷さん……」

凛「大体、樹里のプロデュースを諦めるクセに、私達の事は何も言わないの、おかしいよね?」クスッ

武内P「う、む……」ポリポリ


咲耶「さて……私達の想いは、今述べた通りだ」

夏葉「あとは、あなた達の気持ち次第よ」


武内P「…………」

樹里「……おい、プロデューサー」

武内P「は、はい。何でしょう……?」
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:28:29.38 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ボール、取ってくれ」スクッ


智代子「……えっ!?」

未央「ちょ、ジュリアン…!」


樹里「まだ9対7だ、勝負は終わっちゃいねぇ。
   次はアタシがオフェンスだったよな」

武内P「し、しかし……」

樹里「いいから、ほら」クイッ


武内P「…………」スッ

樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ


樹里「ッ……!」ズキッ

武内P「…………」


ダムッ
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:29:52.48 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ダムッ


ダムッ


卯月「……あ、あれ?」

咲耶「リングから、遠ざかって……?」


武内P「あ、あの……西城さん?」

樹里「確か、ここだ」ダムッ

武内P「えっ?」


樹里「あの時、アタシがスリーを打ったのは、この辺りだった」スッ


凛「樹里……」



樹里「なぁ、プロデューサー。一つ賭けをしてみねぇか?」

武内P「賭け?」
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:32:01.91 ID:sUxM0O3Y0
樹里「こっからアタシが、スリーポイントシュートを投げる」

樹里「今、9対7……これが入ったら、アタシの勝ち」

樹里「入らなければ、アタシの負けだ。
   この手首じゃ、どのみちゲームは続けらんねぇからな」

樹里「で、そうなった場合、アタシはアイドルを辞める……どうだ?」


夏葉「……何だか、最初と趣旨が変わっていないかしら?」

樹里「なっ!? う、うっせーな、いいんだよ細かい事ぁ!」


樹里「アイドルとしてステージに立つからには、このトラウマは克服しなきゃなんねぇ」

樹里「投げるのは1球だけ。
   一発勝負で入らなきゃ、アタシはそれまでだったってことだ」

卯月「でも、樹里ちゃんは手を…!」

武内P「分かりました」

未央「ぷ、プロデューサー……!?」


武内P「入ったら、アイドルを続けていただけるんですね?」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:34:21.87 ID:sUxM0O3Y0
樹里「へぇー……いいのかよ?」ニヤッ

樹里「卯月が言いかけた通り、今のアタシは万全じゃねぇ」

樹里「それどころか、わざと外して、まんまとアイドル辞めてやる気かも知れないぜ?」


武内P「あなたは、打算的な事をする人ではありません」

樹里「……!」ピクッ

武内P「たとえ後ろ暗い思いがあったとしても、
    目の前のものには真摯に向き合うのが西城さんであると、私は知っています」


樹里「……ったく。
   ホント、アンタって恥ずかしげも無く、よくもまぁ……」


樹里「あぁ。本気でやるよ」

樹里「でないと、諦められるモンも諦められねぇしな」


咲耶「それでこそ樹里だ」ニコッ

樹里「うるせぇ」ザッ


武内P「お願いします、西城さん」



樹里「…………フゥー」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:35:14.95 ID:sUxM0O3Y0
樹里「…………」スゥーッ…

樹里「……」スッ


シュッ…!


未央「行った!」

智代子「お願いっ……!!」ギュッ!


樹里「……ッ」ズキッ



卯月「あ……あぁ……!」

夏葉「軌道が……」



樹里(……ダメ、だな)
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:35:54.41 ID:sUxM0O3Y0
ガンッ!


凛「……ッ!」

智代子「そんな、リングに……!」

咲耶「……」フルフル


ダッ!


未央「うぇっ!?」


ダダッ! バッ!


卯月「ぷ、プロデューサーさんっ!?」
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:36:41.33 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……ッ!」ゴオッ!


樹里「な……えっ!?」


パシッ!

武内P「ッ!」ブォッ!


ガゴォォンッ!!



凛「……ッ!」

夏葉「あ……アリウープ……!」



スタッ

武内P「…………」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:38:00.16 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あ、アンタ……」

武内P「ボールは、入りました」

樹里「!」ピクッ


武内P「……あなたは一人ではありません」

武内P「偉そうに言える立場ではないとしても……私は、あなたの力になりたい」

武内P「たとえ躓いても、私や皆さんがあなたの力になり、支え続けます。
    あなたに手を、伸ばし続けます」

武内P「そうして共に夢を目指すことの尊さを、見出していきたいと……
    ようやく、そう思うことができました」

武内P「ここにいる皆さんのおかげで……だから、西城さん」


武内P「もう一度、あなたをプロデュースさせてください」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:39:04.45 ID:sUxM0O3Y0
樹里「…………」

樹里「どいつもこいつも、勝手なこと、言ってくれるぜ……」

樹里「まぁ……悪くねぇ」


樹里「アタシの勝ちだな」ニカッ

武内P「いいえ、西城さん」

武内P「“私達”の勝ちです」ニコッ

樹里「ヘッ! 言ってろ」



凛「樹里……良かった」

咲耶「ああ。しかし、プロデューサーの罪が消えた訳じゃない」

智代子「そ、そこはほら! 向き合った上での償いをと言いますか……!」

夏葉「ええ、そうね」

夏葉「凛が語ったように、彼が樹里や智代子を救ったことも事実だから」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:40:29.38 ID:sUxM0O3Y0
未央「要するに、私達がやることは変わんないってことでいいよね?」

夏葉「ふふっ……ええ」ニコッ

卯月「それさえ分かれば、私達、頑張れますっ!」ギュッ


武内P「行うべきことは山積みです。
    これからしばらく、相応にハードなスケジュールになることを予めご承知ください」

樹里「何か目標とかあんのか?」

武内P「約二ヶ月後に、先日のサマーフェスと同等の規模のライブイベントがございます。
    西城さんには、これに出場していただきたいと思います」

樹里「また急な話だなおい」


樹里「でも、今までダラッとしてたアタシもアタシだ。いいぜ」

樹里「改めて、これからよろしくな、プロデューサー」スッ

武内P「はい、こちらこそ」スッ

ギュッ…!


樹里「ヘヘ……バスケが出来るワケだぜ」

樹里「でっけぇ手……」

武内P「……」ニコッ
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:42:24.96 ID:sUxM0O3Y0
〜283プロ〜


天井「……ふむ。そちらの言い分は分かりました」

天井「だが、なぜその話の流れで、この私にコンタクトを?」

『何も接点が見えないからです』

『今お話した登場人物の中で、283プロだけが本来的には何の関わり合いも無い』

『にも関わらず、御社のアイドルは本件について甲斐甲斐しく干渉し、
 関わりを持とうとしているように見えます』

天井「ウチの有栖川夏葉が世話になったから。それだけでは理由として不服かな?」


『彼女が弊社に相応の拘りを持っていたとすれば、それもあるでしょう』

『ですが、彼女にはかのオーディションについての未練はもう無い。
 既に御社で生き生きと活動しているように見えます』

『であるならば、今なお弊社で燻り続ける問題に、
 あなたは自分達のアイドルにわざわざ首を突っ込ませる必要など無いはずです』

『いかがですか?』
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:43:50.42 ID:sUxM0O3Y0
天井「……なるほど。
   深く考えた事はありませんでしたが、言われてみれば一理ある」

『ご冗談を。
 あなたは明確な意志を持ってご自分のアイドル達を介入に向かわせています』

『もしお電話ではお話しにくいようであれば、後日そちらにお伺いしましょう。
 283プロ、いいえ、あなたの真意とその背景にあるものについて、直接お聞かせいただきたい』

天井「お越しいただいても、ご期待に添えるようなお話はできませんがね。
   まぁいいでしょう」

『ありがとうございます。ではまた』

プツッ


天井「……フゥー」ガチャッ

天井(油断のならない相手とは聞いていたが、想像以上だな)

天井(あの強気……彼女も確信を得るに足るだけの情報を、既に握っている)


ギシッ…

天井(厄介なものを引き受けてしまったものだ……やはり、ひと味違うという訳か)

天井(“トップアイドル”が抱える問題のスケールというものは)
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:46:29.85 ID:sUxM0O3Y0
――――――

――――


『さぁ〜残り時間もあとわずか! そろそろ勝負が見えてきそうですがー!?』

『うわわっ!? じゅ、樹里ちゃんっ! そこジャンプで回避するか隠れて!!』

『はぁっ!? ちょ、ジャンプしてるってアタシ!! チョコも見ただろ!?』

『そうじゃなくて、敵が弾を撃ってきちゃ、ああぁー!! 前見て前っ!!』

『おりゃ、ジャンプ! あれ、おいっ!! どうなってんだこれ、おあぁっ!?』

『うわああぁぁっ!! またやられちゃった!!』

  >草ァ!
  >【朗報】漢西城、逃げも隠れもしない
  >めちゃくちゃ素が出てる「おいっ!」で大草原
  >焦りまくる樹里ちゃんでしか摂取できない栄養素がある
  >これ後で喧嘩するやろなぁ、せっかくチョコちゃんキル数稼いでたのに
  >クッソ必死にやってて草
  >何にでも本気でやるの良いよねこの子
  >この二人プライベートでもめっちゃ仲良しだぞ
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:47:29.89 ID:sUxM0O3Y0
〜961プロ〜

カタカタ… カタカタカタ…

武内P「はい、はい……恐れ入ります、ではその方向で……」カタカタ…

武内P「その日時であれば、私共は空いております……分かりました。
    では、引き続きどうかよろしくお願い致します……はい、失礼致します」

ピッ!

武内P「お待たせしました、西城さん」ガタッ

樹里「毎日急がしそうだな、ちゃんとメシ食ってんのか?」

武内P「おかげさまで、いつも美味しくいただいております」

樹里「あ、アタシの弁当の事じゃねぇって! 朝とか夜の話!」

武内P「これは、失礼致しました」ペコリ


樹里「……いつも空っぽにして渡されんだから、そっちは分かりきってるっての」ボソッ

武内P「何か?」

樹里「うるっせぇな!! ほら、仕事行くぞ!」プイッ
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:48:20.13 ID:sUxM0O3Y0
ブロロロロロ…

武内P「道が混んでいますので、到着は若干遅れるかと」

樹里「電話しようか、アタシ?」

武内P「いえ、既に先方へは連絡済みです」

樹里「……あ、そう」


樹里「…………」チラッ



 【961プロ西城樹里 アイドル戦国時代へ殴り込み! 目指すは『クリスタルウィンター』優勝!】

 【芸能界は『西城樹里』を待っていた! カムバックにファンからは期待の声続々】



樹里「…………」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:50:37.34 ID:sUxM0O3Y0
武内P「西城さんのファン層は、老若男女、非常に幅広いのが特徴です」

樹里「ッ!? ちょ、何だよ、ちゃんと前見ろよ!」

武内P「失礼」

樹里「……」プイッ


樹里「……この間、道歩いてたらさ」

樹里「アタシのファンです、って……
   たぶん年下だけど、女の子から、握手求められたんだ」

樹里「応じて良かったんだよな、アタシ……?」


武内P「……ケースバイケースではあります。
    人通りが多く、いたずらに混乱を招きうる場合は、避けた方が良いでしょう」

武内P「また、西城さんの肖像権は事務所に帰属するため、写真撮影に応じることも原則としてNGです」

樹里「そっか……悪ぃ」


武内P「いいえ」

武内P「一人一人のファンを大切にされる西城さんの姿勢は、アイドルとして立派です」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:52:17.48 ID:sUxM0O3Y0
樹里「そうかよ……」ポリポリ

樹里「……アタシ、こういうナリだからさ。
   見た目で怖がられて、知らない人から避けられること、多かったんだ」

武内P「…………」


樹里「……嬉しかった」

樹里「握手を求めたその子も、すげー勇気を出してアタシに話しかけたんだろうし……
   ファンに応援されるって、いいモンなんだなって」

樹里「アタシ、もっと頑張るよ」

武内P「……はい」ニコッ


武内P「到着まで、まだ少しかかります。お休みをされても大丈夫ですが」

樹里「何だよ、アタシとお喋りすんのが嫌だってのか?」

武内P「い、いえ! そういう意味では……」

樹里「あはは、バーカ」


樹里「もっと仕事してぇ。頼むぜ、プロデューサー」

武内P「はい」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:53:57.03 ID:sUxM0O3Y0
――――


美城『961プロとのコラボ企画だと?』

武内P『そうです。
    そのために私は961プロに足繁く通い、そのアイドルと準備を進めてまいりました』


美城『君は、この私の目を節穴だと思っているようだな』

美城『君が社の規定に反する行動を取っていた多くの事実を、既に私は握っている』

今西『……!』

武内P『…………』


美城『ただでさえコンプライアンスやCSRの重要性が叫ばれ、
   世間の監視の目も強くなっている時代だ』

美城『次第によっては、私はこの場で解雇を言い渡すどころか、
   反社会的な人間として君の身柄を然るべき機関へ引き渡す事に一切の躊躇もしない』

ちひろ『そ、そんなっ!』



武内P『結構です。しかし……』
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:55:19.84 ID:sUxM0O3Y0
武内P『あなたにそれが出来るでしょうか』

美城『……どういう意味だ』


武内P『あなたはきっと、こうも考えているはずです』

武内P『私を罰しようとするなら、961プロの黒井社長があなたに対し、
    徹底的に抗議してこれを否定するでしょう』

武内P『彼がそれをするに足る理由をあなたが知っているとすれば、ですが』

美城『…………』

武内P『そうなれば、346プロと961プロとの全面戦争は避けられない』

武内P『仮に法廷の場で勝利を納めるとしても、それまでに受けるであろう損失を考えれば、
    表立って行動を起こすのはデメリットでしかない』

武内P『果たしてそれは、あなたにとって合理的な判断と言えるでしょうか』
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:56:16.20 ID:sUxM0O3Y0
美城『……開き直りとはな。
   伊達に裏の仕事を担ってきただけあり、並みの心臓を持ってはいないということか』

武内P『…………』


美城『私は君を否定する。
   このまま野放しにしておく事など考えてはいない』

美城『その時が来るまで、せいぜい独りよがりの贖罪ごっこでも続けるがいい』


武内P『ありがとうございます』ペコリ


ちひろ『プロデューサーさん……』

今西『…………』


――――
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:58:07.58 ID:sUxM0O3Y0
〜某テレビ局スタジオ〜

ワアアァァァァァ!!

冬馬「玉ねぎをすり下ろすぜっ!」ショリショリ!

冬馬「こうすることで、水分が出てふんわりと柔らかくなるし、
   焼いた時に割れちまうリスクも回避できるからオススメ! だぜっ!」ビシッ!

キャアアァァァッ!!


司会者「天ヶ瀬冬馬選手、なんと繊細なひと手間!
    一方で青コーナーの、あーっとこれは961プロ、西城樹里選手!?」

司会者「みじん切りにした玉ねぎに、これは溶かしバターでしょうか!?」

司会者「サッと回しかけたそれをラップに包んで、電子レンジの中へ!
    西城さん、これは今何を!?」


樹里「飴色になるまで炒めてると時間かかるんで、こうしてます」ジャーッ

樹里「普通に炒めるのより水分が飛ばないからジューシーにもなるし、
   加熱した玉ねぎの甘みと、バターでコクも出て……」サッ サッ

樹里「しかもこうして、他の作業も並行してできるから便利かなって」シャカシャカッ

ヒューーッ!! ワアァァァァ!!
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:59:15.48 ID:sUxM0O3Y0
冬馬「ヘッ! レンジを使った程度で得意になってりゃ世話ねぇな」

樹里「何だぁ? 玉ねぎをすり下ろすのなんざ、アタシだってとっくに試してんだよ」

冬馬「言ってろ。最後に美味くできなきゃ意味ねぇぜ!」ガオッ!

樹里「こっちの台詞だぜ! 後で吠え面かくんじゃねぇぞ!」クワッ!

ギャーギャー!

司会者「あぁっと、これはアイドルらしからぬ舌戦の応酬!」

解説者「台本には無いですね。とても良いですよ、ノーカットでやりましょう」

司会者「解説なのに編集者目線ですねぇ!?」

ワアアアァァァァァァ!!



武内P「…………」


凛「プロデューサー、お疲れ様」ヒョコッ

武内P「!? し、渋谷さん……どうしてこちらへ?」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:00:45.26 ID:sUxM0O3Y0
凛「ちょうど、隣のスタジオで仕事だったんだよ。忘れたの?」クスッ

武内P「これは、失礼致しました」

凛「ううん」フルフル


凛「本当は、楓さんも一緒だったんだけど、次の仕事があるみたいで」

武内P「そうでしたか」

凛「だから、楓さんから樹里へ伝言」

凛「美味しいハンバーグを食べて、私達もアイドル業界をわんぱーくに邁進しましょう♪」

武内P「…………」

凛「……いや、私じゃなくて、本当に楓さんが言ったんだからね?」

武内P「いえ、分かっています……」


凛「でも、楽しそうだね、樹里」

武内P「……はい」
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:02:05.73 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あれっ!? おい、チーズを入れんのは反則だろ!」

冬馬「ゲッチュウ! 神様は何も禁止なんかしてない! だぜっ!」ビシッ!

樹里「んの野郎……! よしっ、じゃあこっちも秘密兵器を投入だ!」ドスンッ

冬馬「えっ!? ちょ、何だそれ!? どっから出てきたその鍋!」

樹里「ウチで作ってきた特製デミグラスソース」グツグツ

冬馬「そっちの方がなんかズルくねぇか!?」



凛「その樹里と……ウィンターフェスでは敵同士になるんだね、ニュージェネは」

武内P「……そうなります」


スッ

凛「ねぇ……プロデューサーは、どっちの方につくの?」

武内P「…………」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:03:29.36 ID:sUxM0O3Y0
凛「フェスの事で、話をしたりしないんだけどさ……」

凛「樹里はきっと……私達についてやれ、ってプロデューサーに言うよ。
  本来は、346プロのプロデューサーなんだから、って」

武内P「…………」


凛「…………」



凛「樹里についてあげて」


武内P「えっ?」


凛「知ってる? 樹里の周りにいるの、もうファンだけじゃなくなってるって事」

凛「この間、未央から見せてもらったんだけど……匿名掲示板とかに、そういう……」


武内P「……アンチからの誹謗中傷、ですか」

凛「…………」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:05:02.66 ID:sUxM0O3Y0
武内P「大なり小なり、そういうものはつきものです」

武内P「私も……同じ事を行い、何人も闇に葬ってきました」

凛「! そ、それは961プロから言われて仕方なくでしょ!」

武内P「はい。ですが……許される理由にはなり得ません」

凛「……ッ」プイッ


武内P「私が責められる分には、許容できます。ですが」

武内P「西城さんまでをも巻き込んでしまうのが、私には……」


凛「だから、樹里のそばにいてあげてよ」

凛「その辛さを一番分かっている人が、一番の支えになれるはずだから」


武内P「渋谷さん……」

凛「私達なら大丈夫。
  未央も卯月もいるし、ステージの上でも三人で支え合っていける」

凛「樹里には……プロデューサーが必要なんだよ」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:06:18.96 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」グッ…

武内P「私は……あなた達のプロデューサーです」

凛「…………」


凛「体は一つしか無いんだから……」

凛「樹里は、今が正念場で、特に頑張んなきゃいけないんだから……
  樹里に力を注いであげてよ」


凛「今日はそれを伝えたかっただけ……それじゃ」スッ

武内P「! し、しぶ…」

スタスタ…


武内P「…………」ポリポリ


樹里「あん? どうした、困ったツラして」ズイッ

武内P「!? さ、西城さん……収録は?」

樹里「今休憩に入ったトコだよ、見てなかったのか?」

武内P「も、申し訳ございません」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:08:19.11 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ふーん、アンタらしくねぇな。やっぱ疲れてんじゃねぇのか?」

武内P「い、いえ……」


冬馬「おい西城っ!」

樹里「あ? 何だよ、えーっと……鬼ヶ島?」

冬馬「天ヶ瀬冬馬だ!! “ヶ”しか合ってねぇだろ!
   あのな、えーっと、なんだ……」

樹里「だから何だよ、男ならビッとしろよな」

冬馬「うっ、だ、だからっ! 後でその、お前のレシピも教えてくれ!」

樹里「!? はぁぁ!?」ドキッ

冬馬「こういうのは自分で作ってみねぇと、どっちが美味いか分かんねぇなと思って」


樹里「そ、そりゃあ、別に構わねぇけど……」ポリポリ

樹里「じゃあお前、えーっと……冬馬? のも教えろよな。
   一応アタシも家で作ってやるよ」

冬馬「本当か!? やったぜ! じゃあ後でメールするからな!」ビシッ

スタスタ…
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:09:23.05 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……なんか、アイドルって強引なヤツ多くねぇか?」

樹里「まぁ、退屈はしねぇけどさ」

武内P「…………」

樹里「あ、そうだ。収録終わった後でいいから、アタシのハンバーグ食べていけよな。
   あの冬馬とかいうヤツのと食べ比べて、どっちが美味いか聞かせてくれよ」

武内P「…………」

樹里「? ……おーい、もしもーし」

武内P「え?」


樹里「……やっぱ、何かあったろ」

樹里「もう、隠し事はナシにしようぜ、プロデューサー」



武内P「ウィンターフェス……『クリスタルウィンター』の件ですが」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:10:18.73 ID:sUxM0O3Y0
〜街中〜

トボトボ…

凛「…………」


「ねぇ、ちょっとあの子……」
「しぶりんだよね?」
「変装とかしないんだ……」
「うわぁぁ顔ちっちゃ〜い……可愛い〜……!」


凛(……また、困らせちゃったな、プロデューサー)

凛(私……樹里に嫉妬してばかり)


ヴィー…! ヴィー…!

凛「……?」ゴソゴソ…

凛「知らない番号から……?」


ピッ!

凛「もしもし」
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:11:12.41 ID:sUxM0O3Y0
『突然電話をしてすまない』

凛「あの……誰ですか?」

『美城だ。346プロアイドル事業部の常務をしている』

凛「! えっ……」


『君と話したい事がある。
 すまないが、事務所の常務室まで来てくれないか』

凛「え、えぇっと……少し時間かかると思いますけど」

『構わない。
 用件は、私が主導する新たなプロジェクトへの参加の可否についてだ』

『前向きな回答を期待する』

ピッ!


凛(……常務自ら、私に直接?)
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:12:34.60 ID:sUxM0O3Y0
凛(確か、プロデューサーから聞いたな。プロジェクトクローネ、だっけ)

凛(私には、今のニュージェネの活動があるし……まして、ウィンターフェスも控えてる)

凛(新しいプロジェクトになんて、参加してる余裕は無いんだけど……)


凛(…………)


  ――私は……あなた達のプロデューサーです。


凛(いっそ……)


凛「!? い、いやいやいや……!」ブンブン


凛「ま、まぁ……聞くだけなら、聞いてあげてもいいかな、うん」

凛「そう、聞くだけ……」


凛(何を独り言、言ってんだろ私……馬鹿みたい)
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:14:10.23 ID:sUxM0O3Y0
〜346プロ〜

テクテク…

凛(……ここだ)ピタッ

凛(常務室、初めて来た……)


凛「…………」


凛(プロデューサー……引き留めてくれるのかな)

凛(プロジェクトクローネに行く、って言ったら……)

凛「……馬鹿」スッ


「冗談ではないっ!!」


凛「!?」ビクッ


凛(……え? 男の人の声?)

凛(先客が来てる……?)
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:15:42.45 ID:sUxM0O3Y0
ガチャッ…

凛「……」ソォー…



美城「えぇ、そうです。私は冗談など言っておりません」

黒井「であるなら、どういう風の吹き回しか聞かせてもらおう!」

黒井「この期に及んで“契約”を破棄するだと!?」


美城「御社と弊社の間で結ばれた契約については、
   私も先日、先代からようやく聞き出して知るところとなりました」

美城「346プロダクションアイドル事業の責任者として、お恥ずかしい限りです」

黒井「フンッ」

美城「ですが、黒井社長。昔とは時代が違います。
   何事も力押しで握り潰せるわけではありません」

美城「古い時代に生まれた契約に固執する理由など、弊社には無いということです」


黒井「ほ〜う? それはどうかな」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:19:08.48 ID:sUxM0O3Y0
美城「と言いますと?」

黒井「相応の悪事に荷担した者がそちらにいる事は、既に知っているはずだ。
   これをマスメディアに暴露する」

黒井「世論が大好きな、業界最大手の炎上ネタだ。
   食い物にされれば、おたくの最も大事にする“イメージ”とやらが台無しになるだろう」

美城「……」

黒井「特に……」


黒井「346プロの稼ぎ頭である、あの歌姫の失脚は免れないだろうなァ?」



凛「……!?」ピクッ



美城「自己本位のご想像をされるのは自由ですが……」

美城「それを立証するには、それらを実行した者を明るみに出す必要があるでしょう」

美城「そして、その者は今あなたの手中にある訳ではない」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:20:17.84 ID:sUxM0O3Y0
黒井「甘いな、美城の娘が。
   あの男は我が961プロの事務所にも出入りしているのだ」

黒井「それとも、私がその男を捕らえるよりも先に、346プロが先に動くつもりかね?
   黒い事実の証人を始末するために」


凛(え……)


美城「それをあなたに教える義理は無い」

黒井「クックック、なるほど……
   346プロの新代表は、私が考えている以上に腹が黒いようだ」

黒井「そうとなれば、今日はここで失礼する。
   急用ができたものだからな」スッ


凛(! こ、こっちに来る……!)サッ

ドシンッ!

凛「うっ!?」


黒服「…………」ズオォ…!

凛「! す、すみませ…」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:22:27.54 ID:sUxM0O3Y0
ガチャッ!

黒井「……ンン〜〜〜?」

凛「!?」ビクッ


黒井「貴様、こんな所で何をしている」

凛「あ、いや、えっと……私は、ただの通りすがりで……」

黒服「Sir。このgirlは、doorの間から中のお話をlisten、聞いてマシタ、Sir」

凛「え、ちょ……!?」

黒井「何ぃ〜〜!?」


凛「……!!」ダッ!

黒井「あ、逃げた! 捕まえろ!!」

黒服「イエス、Sir」ダッ!

黒井「そもそも盗み聞きを見てたならなぜ止めさせなかったのだ!!」

ダダダ…!





美城「………………」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:23:23.73 ID:sUxM0O3Y0
凛「くっ!」タタタ…!


ガシッ!

凛「キャッ!!?」グイッ!

黒服「捕まえました、Sir」


黒井「ククク、これはこれは、あの男の担当アイドルか」

凛「! わ、私を、知っているんですか……?」

黒井「あぁ、もちろんだとも」


黒井「貴様があの男を呼び寄せる格好のエサになる事もなァ?」

凛「!!」ゾクッ…!


黒井「私と一緒に来てもらおう、渋谷凜」ニヤ…
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:25:57.60 ID:sUxM0O3Y0
〜283プロ〜

夏葉「えぇ……えぇ、そのつもりよ」

夏葉「え? ……ちょっと、そこまでしてもらうほどの事じゃ……」

夏葉「……確かに、その通りね……えぇ、分かったわ。じゃあ、そのように」

夏葉「ありがとう、お父様」

ピッ!


夏葉「今、父と話をしたわ。
   予定通り、『クリスタルウィンター』のステージ上で、それを告発する」

夏葉「有栖川家は私だけでなく、283プロに対してもあらゆる支援をすると、
   父はすっかり気炎を巻いているわよ」

咲耶「ありがとう、夏葉」

夏葉「礼には及ばないわ。紅茶でも?」

咲耶「ああ、いただこうか」


シャニP「な、なぁ……いくつか確認をさせてほしいんだが」
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:26:53.85 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「先ほど話した通りよ?
   命を狙われている樹里を守るため、私が矢面に立つということ」

シャニP「いや、346プロが不正を隠蔽するために暗躍しているのは分かった」

シャニP「皆が危険に晒されないよう、夏葉のお父さんが最大限の協力をしてくれることもな」

シャニP「天井社長も了解している話であり、俺もその管理については社長から一任されている」


シャニP「じゃあ、最初に346のオーディションで不正を依頼したのは、一体誰なんだ?」

夏葉「あら。社長から一任されているのに、詳しい背景についてあなたも知らないの?」

シャニP「社長は何か知っているらしいんだけどな。俺に教えてくれないんだよ」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:28:05.59 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「……一説には、黒井社長が不正を依頼したらしい。
   だけど、その黒井社長も、誰かからの依頼だったようだ」

夏葉「でも、考えてみれば……確かに、そうね。
   346プロが黒幕だとしたら、わざわざ黒井社長に依頼する理由が無い」

シャニP「相手の狙いが分からないと、全てが後手に回ってしまうんじゃないかと思ってな」

咲耶「アナタの言う通りだね。
   だが……346プロでないのなら、一体誰が?」


ガチャッ

天井「皆、ご苦労」スタスタ

シャニP「あ、社長! どうもお疲れさ…」

シャニP「あれ? 社長、お急ぎのご様子ですがどちらへ?」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:29:15.43 ID:sUxM0O3Y0
天井「961プロだ」

一同「!?」ピクッ

天井「いや……その前に、346プロにも寄る必要があるかも知れんな」

夏葉「? ……??」


天井「ところで、園田智代子はどうしている?」

シャニP「えっ? あの……今日は、346プロの高垣楓さんの番組に出演する予定です」

天井「そうか」

咲耶「あの、天井社長。一体何が……」



天井「大きなうねりが生じてきた。
   我々が第三者ではいられなくなってくるほどの、な」
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:30:09.21 ID:sUxM0O3Y0
〜車の中〜

ブロロロロロ…

樹里「んなモン、悩む要素ねぇじゃねーか。何言ってんだ」

武内P「は、はぁ、しかし……」

樹里「凛も凛だぜ。
   分かりきってる事をいちいち聞くなんざ、らしくねぇ」


樹里「アンタがアタシのプロデューサーとして出ちゃったら、
   346プロん中で示しがつかなくなんだろ?」

樹里「どうしたいかもいいけど、どうしなきゃいけないかを先に考えるべきじゃねーのか?」


武内P「……西城さんは、大人です」

樹里「は、はぁ?」

武内P「私は、あなたよりも歳を重ねてこそいますが、大人になりきれない……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:31:51.93 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……アタシなんか、もっとガキだよ」プイッ

樹里「ただ、筋の通らねぇ事をすんのは良くねぇ、って思っただけだ」

武内P「ですが、西城さん」

樹里「アタシのアンチの話だろ? アンタや凛が気にしてんの」

武内P「え……?」


樹里「チョコから聞かされて、もう知ってるよ。そういうのがいるって事」

樹里「何ならこの場でちょっくら検索して、読み上げてやろうか?」スッ

武内P「あ、あの、西城さん……!」

スイッ スイッ


樹里「……“コイツは口と態度が悪すぎ、さすが元ヤンだよな”」

武内P「…………」

樹里「“他の事務所の子が西城樹里にいじめられてるの見たわ”
   “コイツが映った瞬間チャンネル変えてる”」

樹里「“961プロのゴリ押しが露骨すぎてウザい”
   “不快だからさっさと消えてほしい”」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:34:14.11 ID:sUxM0O3Y0
樹里「と……まぁ大体そんな感じのばっかだな。
   こんなの、大方の予想通りだろ。ったく、誰が元ヤンだ」

武内P「し、しかし! あまりに不当な評価は、許容できません」


樹里「重ねてんだな。アンタが前に担当してたアイドルと、アタシを」

武内P「…………」

樹里「色んな人達から叩かれて……辛かっただろうな、その子」


樹里「でも、アタシはアタシだ」

樹里「もちろん、アタシだってこんなのムカつくよ。
   こっちの気も知らねぇで、ありもしない事を勝手に言われりゃさ」

樹里「だから、いちいち気にしたくねぇし、それに……」


樹里「アンタのおかげで、こっちはトラウマを一つ克服できてんだ。
   今さらこんなのに潰されるような、ヤワなメンタル持ち合わせてねぇよ」

樹里「それを気づかせてくれたのはアンタだろ、プロデューサー?」ニカッ
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:35:28.51 ID:sUxM0O3Y0
武内P「西城さん……」

樹里「だから、えぇっと……あれ、何の話だっけ?」

樹里「あぁそうそう、ウィンターフェスだ。
   アンタはちゃんと、凛達のプロデューサーとしてついてやれよな」

樹里「ヘッ! どんな気分だよ?
   自分が育てた自慢のアイドルに、自分トコのアイドルが負けるのはさ」ニヤッ

武内P「……いいえ、西城さん」

武内P「私達は負けません」フッ

樹里「アハハ! その調子だぜ」


ヴィー…! ヴィー…!

武内P「む、携帯が……」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:36:23.28 ID:sUxM0O3Y0
樹里「アタシが代わりに出ようか?」

武内P「ありがとうございます。相手にもよりますが……」

樹里「えーっと……」スッ


樹里「……凛だ」

武内P「…………」

樹里「噂をすれば、か……出てもいいか?」

武内P「お願いします」


樹里「……」ピッ!

樹里「もしもし」


『…………』


樹里「……もしもし? 聞こえてるか?」
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:37:20.55 ID:sUxM0O3Y0
『……樹里』

樹里「凛、どうした? 今プロデューサー、運転中だからよ」


『……来ないで』


樹里「え……?」


『私を……探さないで、って……プロデューサーに伝えて』

『皆にも……私は、大丈夫だから……』

『心配、要らないから……』


樹里「おい……今どこにいんだよ」


『……っ』

樹里「答えろよ、おい。どうしたんだ凛!?」
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:38:35.85 ID:sUxM0O3Y0
『キャッ……!』

『ガタッ ガタンッ…』


『……電話です、Sir』

『見れば分かる』


樹里「……!?」


『誰だ貴様は?』


樹里「……そっちこそ誰だよ」ギリッ

武内P「……?」


『なるほど……その反抗的な声色は、西城樹里だな?』

『あの男はどうしている? なぜ電話に出ない』
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:39:47.58 ID:sUxM0O3Y0
樹里「プロデューサーのこと言ってんなら、取り込み中だ。
   話があるならアタシが聞いてやる」

『口の利き方には気をつけるんだな。私は貴様の雇い主だ』

樹里「! アンタ……黒井社長……!」

武内P「!?」

ブロロロロ… キキィッ!


『すぐそばにその男がいるのなら話が早い。
 ヤツに伝えておくがいい』

『渋谷凜は、我が961プロが新たに建造したスペシャルなイベントホール、
 『クイーンズゲートドーム』にいる』

『貴様が渋谷凜よりも西城とかいうガチャ蠅を大事にするというのなら、
 存分にこの誘いを無視するがいい、とな』
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:41:38.17 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ふざけやがって……!!」ギリッ

樹里「プロデューサーはそんなヤツじゃねぇよ! 凛を見捨てたりなんかするもんか!!」

『貴様には聞いていない。
 元より、その男の本質を何も知らずにいる貴様の話など、聞くに値しない』

樹里「何だと!?」

武内P「西城さん、電話を代わってください」

『日が明けるよりも前に来なければ、渋谷凜の身の安全は保証しない。
 無論、警察に伝えてもな』

『では、アデュ』

ピッ!


樹里「………………」


武内P「西城さん……?」


樹里「シャレんなってねーぞ、これ……!」

樹里「凛がさらわれた!! 早く助けに行かねーと!!」

武内P「……!!」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:43:11.27 ID:sUxM0O3Y0
〜某テレビ局 スタジオ〜

アハハハハハ…!

智代子「ぜぇ、ぜぇ……あ、あの、そろそろ良いでしょうかね?」

楓「え……もう、おしまいなのですか?」シュン…

智代子「そ、そんな悲しそうな顔しないでくださいよぉ!」

智代子「分かりました、不肖園田智代子のモノマネ100連発!
    次は、チャップリンが目隠しでスケートをする時のモノマネやりますっ!!」

楓「わぁぃ♪」パチパチ


智代子「ふんん〜〜!!」ツイーッ

ドッ!! ワハハハハハ…!!



楓「智代子ちゃん、ありがとうございます」

楓「特に、『雨に唄えば』のジーン・ケリーのモノマネが、とても良かったです」

智代子「よ、喜んでもらえたなら……」ゲッソリ
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:44:35.21 ID:sUxM0O3Y0
楓「普段からそういう、モノマネの練習をしているんですか?」

智代子「そ、そんな四六時中やっている訳じゃないですけど……
    えぇと、友達同士で、ふざけ合ってやるくらいで」

楓「まぁっ。とても賑やかで楽しそうですね♪」

智代子「それが、その友達はあまり乗ってくれないんですよねぇ。
    あ、友達というのは西城樹里ちゃんなんですけど、961プロの」

楓「樹里ちゃんが?」

智代子「新作のモノマネを披露してみせても、「くだらねぇ事すんな」って。
    まったく、私の努力を何だと思っているんでしょうか!」プンスコ

楓「ふふっ。ひょっとしたらそれは、樹里ちゃんの照れ隠しかも知れませんね」

智代子「そ、そうかなぁ……?」


智代子「そう言えば、楓さんは樹里ちゃんと一緒にお仕事された事、あるんでしたよね?」

楓「はい。樹里ちゃん、とっても一生懸命に取り組んでくれました」

智代子「いいなぁ樹里ちゃん。そういうコネを持っている961プロが羨ましい……」

智代子「あっ! コネとかそういうの言わない方がいいですよね、す、すみません!」

アハハハハ…!
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:45:58.73 ID:sUxM0O3Y0
楓「ふふ……いいえ、智代子ちゃん」

智代子「?」


楓「確かに、“961プロ”さんからのご依頼があってのお話でしたけれど……」

楓「樹里ちゃんとのお仕事については、私からの要望でもあったんです」


智代子「えっ!? それってつまり、
    楓さんが、じゅ、樹里ちゃんを指名した……ってこと、ですか!?」

楓「はい」ニコッ

智代子「何でーっ!!? ず、ズルいよぉ樹里ちゃん!!」

楓「まぁまぁ。
  智代子ちゃんにもこうして、私と共演していただけた事ですし」

智代子「そ、そうなんですよ!
    プロ、あぁいえ、事務所の人から聞いたんですけど」

智代子「ほ、本当の話なんですか?
    楓さんの方から、今回のゲスト出演をオファーいただいたのって」
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:47:18.65 ID:sUxM0O3Y0
楓「はい、そうなんです。無事に願いが叶って、ホッとしています」

智代子「いや、願いて……ど、どうして私なんかを?
    他にももっと豪華なゲストがいたんじゃ……」

智代子「あぁいえ、なんかって言っちゃうと失礼なのは分かるんですけど、その……」

楓「智代子ちゃんにとっては、なんかいなお話でしょうか、なんて。ふふふっ♪」

智代子「は、はぁ……」


楓「でも」



楓「それは、私がやらなければならない事だと、思ったからなんです」
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:48:45.46 ID:sUxM0O3Y0
智代子「……楓さん?」


楓「うーん、たとえばの話ですが、智代子ちゃん」

楓「道端にあった石ころを、つい蹴飛ばしてしまったとして……
  もしそれが、他の人に当たってしまった場合」

楓「智代子ちゃんなら、どうしますか?」

智代子「え? い、いやぁ……」

智代子「そりゃあ……ごめんなさいって、当てちゃった人に謝ります」

楓「そうですね。私も、そうすると思います」


楓「では、次の質問です」

楓「道端にあった石ころを蹴飛ばして……それは幸い、誰にも当たらなかった」

楓「でも、もしその蹴飛ばされた石ころを、何日か後に、通りを走る車が踏んで……
  その事が、何かしらの事故に繋がってしまったとしたら」

楓「智代子ちゃんは、その事故の被害に遭われた人に、謝るでしょうか?」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:50:10.73 ID:sUxM0O3Y0
智代子「ええぇ? ど、どうでしょう。
    たぶん、謝らない……というか、謝れないんじゃないでしょうか?」

楓「えぇ、そうですよね」


楓「目の届くものにしか、私達は行動を起こすことができません」

楓「それは、自らの過ちに対してもそう」

楓「だから私は、できる限りあらゆる物事に目を配りたいですし、それに」

楓「私のせいで、私の気づかない所で不幸になっている人も、どこかにいる……
  その事実には、きちんと向き合わなきゃって思うんです」


楓「それが、私が樹里ちゃんや智代子ちゃんと一緒にお仕事をしたい理由、ですね」



智代子「? ……???」キョトン
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:51:56.87 ID:sUxM0O3Y0
智代子「いやいや、その流れで、何で私や樹里ちゃんが出てくるのか……?」

智代子「そもそも、楓さんのせいで不幸になる人なんているわけ無いじゃないですかっ」


楓「ありがとうございます、智代子ちゃん」

楓「そうであるなら、どんなに良いでしょう……」

智代子「楓さん……?」


楓「……ふふっ、ちょっとしんみりしてしまいました」

楓「そろそろ次のトークのお題に移りましょう。えぇっと次は……」

楓「あら、これは智代子ちゃんの得意分野ではないでしょうか。
  『最近ハマッているグルメ』」トンッ

智代子「お、おおっとそんな楓さん、私をまるで食いしんぼキャラみたいな風に!」

楓「まぁまぁ、チョコどうぞ」スッ

智代子「かたじけないッッ」

アハハハハハ…!
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:52:46.69 ID:sUxM0O3Y0
今回はここまで。
次回は明日の夜9時〜12時頃の更新を予定しています。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:56:06.87 ID:pILEJ24B0
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:56:28.77 ID:TH6oWqZDo
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/22(水) 01:15:09.77 ID:k2BSVbQs0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:20:47.07 ID:AXuZ3osI0
〜346プロ〜

今西「お、落ち着いてくれたまえ、本田君、島村君。
   一体何があっ…」

未央「だからっ! しぶりんと連絡が取れないんだってば!」

卯月「プロデューサーさんや……961プロの樹里ちゃんも、何も反応してくれないんです!
   こんなこと、絶対おかしいって、私達心配で、怖くて……!」ジワ…

今西「プロデューサーが……」

未央「ちひろさんは!? ちひろさんもどこにいるの!何でいないの!?」


今西「…………」

今西「……先ほど、常務とも話をしてきたんだ」

今西「新規プロジェクトの件で渋谷凜君を呼んだはずなのに、
   一向に姿を見せないから心配している、とね」
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:22:30.02 ID:AXuZ3osI0
卯月「えっ……!?」

今西「つまり、渋谷君の身に何かがあったとすれば、彼女がこの事務所に……
   常務室へと来る途中、という事になるが」


卯月「じょ、常務はその辺りのお話について、何かご存知ないのでしょうか?」

未央「!? し、しまむー、それってどういう……?」

今西「……島村君。口の利き方には気をつけた方がいい」

卯月「! す、すみません……!」ペコッ


今西「どこに常務の目があるか、分からないのだからね」

卯月・未央「……?」


今西「私から言えるのはもう一つ」

今西「彼女が渋谷君を呼び寄せたその時間、
   常務は961プロの黒井社長と何やら話をしていたらしい」

今西「彼女は、黒井社長の方から突然来訪を受けたと言っていたがね」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:26:06.30 ID:AXuZ3osI0
未央「そ、それ……つまり、黒井社長としぶりんが鉢合わせる事だってありえ……!」

未央「!! ま、まさか、黒井社長がしぶりんを……!?
   い、いやいや、そんないくら何でも…!」

卯月「じょ、常務は……どうして凛ちゃんを今日、常務室へ呼んだのでしょうか?」

未央「しまむー……?」


卯月「もし常務が、黒井社長が今日来ることを知っていたのだとしたら……」

卯月「まるで常務は、凛ちゃんと黒井社長が鉢合わせ…!」

未央「しまむー、それ以上はやめよう! 言い過ぎだよ!」

卯月「でもぉ!! 未央ちゃんだってぇ!」グスッ



コツ…

「失礼する」


未央・卯月「!?」クルッ

今西「おや……あなたは」



天井「美城常務に会いに来たのだが、ご在室かな?」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:27:32.81 ID:AXuZ3osI0
〜961プロ クイーンズゲートドーム前〜

ブロロロロ… キキィッ

ガチャッ 


樹里「……おーおー、イカツいドームだなおい。
   本当にアイドルのライブのための建物かよこれ」バタン

武内P「西城さん。お連れしておいてなんですが、あなたは…」

樹里「何度も言わせんな。
   凛が危ない目に遭ってるってのに、引き下がれるかよ」


武内P「ここはどうか、私にお任せください」

武内P「ハッキリと申し上げますが、あなたでは足手まといになります」


樹里「……そうだとしてもだ」

樹里「頼む、プロデューサー……アタシだって、何かしたいんだよ」

樹里「あれだけ世話になったってのに……
   本当に助けが必要な時に、何もしてやれないんじゃ、何のための友達だ」
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:29:09.24 ID:AXuZ3osI0
武内P「西城さん……」

樹里「どうせ拳銃持ってるようなヤツが当たり前のように出てくる世界なんだろ?
   いつぞやアタシを襲ってきたみたいなさ」

樹里「確かにアタシなんかじゃ、頼りになんねぇだろうけど……
   覚悟だけは、出来てるつもりだぜ」


武内P「……分かりました。共にまいりましょう」

樹里「あぁ。世話を掛けてごめんな」

武内P「いえ、ありがたいです」

樹里「ヘッ……ん?」ピタッ

武内P「どうされましたか?」


樹里「誰かいねぇか? あそこ、入口の方……」

武内P「……あれは」



「……やはり、来てしまったのですね」


ザッ

ちひろ「プロデューサーさん……」
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:41:29.30 ID:AXuZ3osI0
武内P「千川さん……」

樹里「……事務員さん?」

武内P「はい。346プロの、私の同僚です」

樹里「同僚……」


ちひろ「今西部長には、黙って来ちゃいました」


武内P「……なぜあなたが?」

武内P「我々がここに用があって来ることは、黒井社長しか知り得ないはずです」


ちひろ「らしくないですね、プロデューサーさん」

ちひろ「私も961プロと繋がりがあるから、と考えるのが自然でしょう?」

武内P「千川さん……」


ちひろ「……西城樹里ちゃん。お会いするのは、初めてでしたね」

樹里「…………」
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:43:33.60 ID:AXuZ3osI0
ちひろ「正直に言うと、樹里ちゃん……あなたの事を、恨んでいます」

樹里「! え……」

ちひろ「樹里ちゃんと出会ってしまったがために、プロデューサーさんは狂ってしまいました」

ちひろ「たとえ後ろ暗い事であろうと、それまでは平穏無事に、仕事ができていた。
    少なくとも、命が脅かされるような事は、何も」

ちひろ「なのに……」

樹里「……アタシは」

武内P「耳を貸す必要はありません、西城さん」

樹里「ぷ、プロデューサー……」

ちひろ「…………」


武内P「961プロの狙いが渋谷さんではなく私であることは、分かっています」

武内P「私をおびき寄せ、身柄を拘束するために、渋谷さんを人質に取った……
    引き続き、961プロが346プロとの交渉を優位に進めるために」

武内P「346と961を繋ぐものは、私と、かの契約をおいて他にありません。
    つまり、両社の間で、契約の継続について主張の相違があった」


武内P「961プロが、私の身柄を確保したがっているとすれば、
    これに対する346プロの目的は……私の排除」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:45:23.75 ID:AXuZ3osI0
樹里「……えっ!?」

武内P「違いますか?」


ちひろ「……伊達に“こっちの世界”での生活が長くないんですね」

ちひろ「ですが、私達は……私はあくまでも、346プロ側の人間です。
    私の目的もまた、美城常務と全く違えているわけではありません」

武内P「……?」


ちひろ「業界の悪しき慣習を無くしたいという気持ちは、同じなんです」

ちひろ「それを実力行使で直接的に排除するのか、
    穏便に済ませて幕引きを図りたいか……その違いだけ」

武内P「私が、もう346プロに必要とされていないであろう事は、承知しています」

ちひろ「だから……!」


ちひろ「私がここにいるのは、プロデューサーさんを陥れたいからじゃありません」スッ

ジャキッ
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:46:50.05 ID:AXuZ3osI0
樹里「うぇっ!?」ギクッ!

武内P「……ッ」


ちひろ「お願いです、プロデューサーさん……私に、殺されてください」

武内P「千川さん……」

ちひろ「殺されたことに、してください」

武内P「……!?」


ちひろ「遺体も死亡届も、偽装する準備は整っています。
    あなたは名前も戸籍も変えて、これまでの事も忘れて、第二の人生を歩んでくれたらいいんです」

ちひろ「それが、誰も犠牲にならない、最も穏便な方法なんです」


ちひろ「でないと……このままでは本当に、殺されてしまいますっ」ツー…

ポタッ


武内P「……」

ちひろ「う、うっ……う……!」ポロポロ
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:50:18.61 ID:AXuZ3osI0
武内P「それはできません」

ちひろ「! ……ぷ、プロデューサーさん……ッ!」


武内P「私にはまだ、やり残していることがあります」

武内P「担当アイドルと向き合うということ。
    渋谷さん達はもちろん、西城さんが……」

武内P「私がスカウトしたアイドルが、自身の翼を広げて羽ばたく姿を見届けることが、
    プロデューサーとしての私の本分です」

樹里「ぷ、プロデューサー……」


ちひろ「しっ、死んじゃうんですよ!
    346だけじゃないんです、961もほとんど手の平を返し始めています!」

ちひろ「逃げ切れるわけないんですっ!!」ポロポロ

武内P「私の命など、元より終わっているようなものです」

ちひろ「だからって、一方的に汚れ仕事を押しつけられたプロデューサーさんがっ!!
    用済みになった、途端にっ、う……ひっ、ぐ……何の見返りもなく……切ら、ぇっ……!!」

ちひろ「あんまりです……! ひ、いぃ……そんなの、ひどすぎますっ……!!」ボロボロ


武内P「私はむしろ、感謝しているくらいです」
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:52:03.17 ID:AXuZ3osI0
ちひろ「え……」

武内P「確かに、辛く苦しい仕事でした。
    ですが……961プロの仕事が無ければ、今日まで私が業界に携わることも無かった」

武内P「西城さんに出会うことも無かったのです」

ちひろ「どうして……どうしてそこまで、樹里ちゃんに……?」

ちひろ「狙われていた樹里ちゃんを、守るためにスカウトしただけのはずじゃ……」


武内P「いえ……きっとそれが無くとも、私は西城さんをスカウトしたでしょう」

武内P「出会った時に、一目で私は……心を動かされた」


樹里「……え」カァーッ



ちひろ「……“あの子”を、投影しているんですね」


樹里「! ……」

武内P「…………」

ちひろ「そんなに、囚われていたなんて……」


樹里「あの子、って……」
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:53:29.01 ID:AXuZ3osI0
武内P「……救えなかった彼女への罪滅ぼしになるとは、考えていません」

武内P「ですが、西城さんを放っておくことが、どうしても私にはできなかったのです」


ちひろ「……ッ」グッ

ちひろ「分かりました……そこまで言うのなら、止めることはしません」

武内P「ご忠告、感謝します、千川さん。
    あなたが私の身を案じてくれていることも」

ちひろ「私はっ……961プロの協力者です」

武内P「きっとそれも、私の恨みを買いたいがための方便に過ぎないでしょう」

ちひろ「! ……」

武内P「常務の指示で黒井社長の後をつけていた……そう考えるのが自然です」

ちひろ「……ッ」フルフル


武内P「あなたにも、辛い想いをさせてしまいました……申し訳ありません」

武内P「失礼します」スッ

樹里「……」ペコッ

コツコツ…



ちひろ「……辛い想いをしているのは、あなたじゃないですか」ポロポロ
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:55:32.74 ID:AXuZ3osI0
〜テレビ局〜

ガヤガヤ…

楓「楽しくお話をしすぎて、ちょっと収録が押しちゃいましたね……
  ごめんなさい、智代子ちゃん」

智代子「いえいえ! 私の方こそたくさんお話しちゃいましたし!
    とても楽しかったですっ。ありがとうございました」ペコリ

楓「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです」


楓「この後は、智代子ちゃん何かご予定はありますか?
  良かったら、お食事でも一緒に」

智代子「ほ、本当ですか!?」

楓「美味しい白和えを出してくれるお店を知っているんです」

智代子「お、お酒のおつまみッッ……!
    ちょっと私には早いかもですけど、お誘いとあらばぜひ…」ヴィー…!

智代子「ん……? うわっ!?」

楓「?」
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:57:16.15 ID:AXuZ3osI0
智代子「なんか……知らない間に、チェインがすっごい事になってるー!?」

楓「何かあったんですか?」

智代子「は、はい、えぇと凛ちゃんと、夏葉ちゃん達も……わわっ、え!?
    なんか、本当に大変な事に……何これ、えぇぇ!?」


楓「何だか、とても大変そうですね」

智代子「ちょ、ちょっと言葉では言い表せないくらい、大変みたいで……
    だ、だからそのぉ……」

楓「私のことなら、大丈夫ですよ。
  お食事なら、今日じゃなくても行けるでしょうし」

智代子「本当にごめんなさい、ちょっと合流した方が良いっぽくて!
    せっかくの楓さんのお誘いだったのに……!」ペコペコ

楓「いえ、どうか気にしないでください。
  急にお誘いしちゃったのは、私ですし」

楓「智代子ちゃんのお友達を……凛ちゃんや夏葉ちゃん達を、大事にしてください。ね?」ニコッ

智代子「か、楓さん……」ジィーン…
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:58:08.37 ID:AXuZ3osI0
智代子「ありがとうございます! このご恩はいつかきっと!」

楓「ええ、お気をつけて。皆さんにもよろしくお伝えください」フリフリ

智代子「はいっ! それではこれにて、失礼します!」ダッ!

タタタ…!


楓「……」フリフリ



楓「…………」





楓「ごめんなさい、智代子ちゃん……」

楓「本当に……ごめんなさい」
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:59:45.14 ID:AXuZ3osI0
〜クイーンズゲートドーム メインホール〜

黒井「ついこの間、建造したばかりのドームだ」

黒井「こけら落としも済んでいないステージの上にいる事を、光栄とは思わんかね?」


凛「…………」ギシッ


黒井「反抗的な目だ。気に入らんな」

凛「……逆に聞くけど、好意的に見てもらいたいんですか?」

黒井「いいや、思わんね。
   貴様も西城樹里も、等しく私のそばを飛び回るガチャ蠅に過ぎん」

黒井「私が考えるのは、貴様らを飼い慣らす者に、相応の躾をするよう仕向けることだけだ」


凛「……嘘」

黒井「ンンー?」


凛「あなたはプロデューサーをもう、そんな風に見ていない」

凛「自分の都合の良いタイミングで、都合良く使い捨てる事しか……!」
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:00:50.54 ID:AXuZ3osI0
黒井「おやおや、それは心外だ」

黒井「彼にはもっと働いてもらわなくては困るのだよ。使い捨てるなんてとんでもない」

黒井「ただ、最近は妙な自意識を抱いているように見えるのでな。
   少しばかり、お灸を据えてやる必要があるというわけだ」

凛「…………」


ギイィィ…


黒井「フン、噂をすれば、か」

凛「! プロ……」


バタン



コツ…

コツ…



樹里「…………」ザッ
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:02:27.02 ID:AXuZ3osI0
黒井「……何だと」

凛「じゅ、樹里……!?」


樹里「よぉ、凛。それと……」

樹里「アンタと顔合わせんのは初めてだったな……黒井社長」


黒井「口の利き方には気をつけろと言ったはずだ、小娘が」

樹里「生憎、ロクな教育受けてないんでな」

樹里「アタシの友達をそんな目に遭わせるようなヤツへの口の利き方なんてよ」ギリッ…!


凛「樹里、私の事なんかいいから早く逃げてっ!」

樹里「“なんか”って言うな」

凛「……!」


樹里「前にも言ったろ?」ニコッ

凛「……馬鹿」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:03:40.17 ID:AXuZ3osI0
黒井「勝手に話をしているんじゃあないぞ、ガチャ蠅共。
   あの男はどうした?」

樹里「来てねぇよ。伝えてねぇからな」

黒井「ダウト」フンッ!


黒井「差し詰め貴様は囮で、どこかの物陰からこの小娘を助ける隙を伺っているのだろう?」

樹里「…………」

黒井「私とて、この世界に長く身をやつしている訳ではない。
   つまらん小細工が通用するなどとは思わん事だ」

黒井「それとも」スッ

パチンッ!


ズザザザッ!

黒服達「……」ザッ!
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:05:08.58 ID:AXuZ3osI0
凛「わ、わわ……!」

黒井「貴様が囮でないというのなら、
   見事この包囲網を突破し、私の手から小娘を救い出してみせるがいい」

樹里「…………」

黒井「まっ! 出来んだろう。大人しく貴様もこの私に屈…」

ザッ

黒井「ン?」


スタスタ…

樹里「……」スタスタ


凛「じゅ、樹里……!?」

黒井「正気か? 貴様……」


樹里「…………」スタスタ
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:06:39.13 ID:AXuZ3osI0
黒服「社長。いかがされますか?」ジャキッ

黒井「…………」

黒服「さすがに実弾の使用は控えるべきとは思…」

黒井「構わん、やれ」

黒服「は?」


黒井「ここは私のテリトリーであり、あの小娘も961プロの人間だ。
   後で何があろうと、どうとでも握り潰せる」

黒井「聞こえなかったのか? あの身の程知らずを始末しろ!」


ジャキ ジャキッ!


凛「や、やめてっ!!」


樹里「……ッ!」
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:07:39.37 ID:AXuZ3osI0
ガシャンッ!



黒服達「!?!?」



黒井「何だ!? 何があった!!」

凛「で、電気が……急に真っ暗に……!?」


ガッ!

黒服「ぐぁっ!」

ゴッ! ガスッ!

黒服達「うっ……!?」「ガハッ!」


ドサッ バタッ
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:08:45.37 ID:AXuZ3osI0
黒井「ええい何が起きている!! 状況を報告しろ!!」

「渋谷さん、こちらへ」

「え……あ」


黒井「!? なっ……!」

スッ

黒井「えぇい、貴様ら、待てっ! くっ!!」ジャキッ!

「おりゃ!」バシッ!

黒井「な、何っ!?」


樹里「社長であるアンタまでこんな物騒なモン持ってるとはな」ヒョイッ

樹里「呆れて物も言えねぇぜ、本当にヤクザじゃねーか」
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:10:51.07 ID:AXuZ3osI0
黒井「か、返せっ!!」バッ!

樹里「おっと」サッ

タンッ タタン! タッ!

黒井「な、この……ちょこまかと!」ブンッ!

黒井「うおっ!?」グラッ…!

ドテッ


キュッ! タッ タンッ!

ザッ


樹里「アンタみてぇなオッサンを相手にカットして突破すんのはワケねぇよ」

樹里「これがホントの“アンクルブレイク”ってな」


武内P「ナイスプレーです、西城さん」

樹里「ヘヘッ、そっちもな」

凛「二人とも……!」
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:13:58.38 ID:AXuZ3osI0
黒井「お、おんのれぇ、貴様らぁぁ〜〜!!」ワナワナ…!

武内P「一つお伝えしたい事があります、黒井社長」

黒井「……何?」


武内P「あなたには感謝しています」

武内P「曲がりなりにも、私をこれまで生き長らえさせてくれたこと……
    それが、今の私と、私達に繋がっている」

武内P「そのため、せめて『クリスタルウィンター』までは、どうか見逃していただきたい」

武内P「それが終われば、私はいかなる処遇をも甘んじてお受けします」


凛「プロデューサー……」

樹里「カッコつけてんじゃねーよ、アタシらの前で」

武内P「…………」


黒井「……フンッ」
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:15:35.55 ID:AXuZ3osI0
黒井「そういう台詞は、この場を生きて逃れてから言うものだ」パチンッ!


ズザザザザッ!!

黒服達「……」ザザッ!


武内P「……!」

樹里「げっ!?」

凛「さ、さっきよりも多く……!」


黒井「その二人を庇いながらどこまで逃げおおせる事ができる?」

黒井「あるいは、小娘達を見捨てれば、貴様一人の命は助かるかも知れんなァ?」

武内P「…………ッ」


黒井「ところで……私に感謝していると、貴様は言ったな」

黒井「それは、貴様が抱える心の傷についても、という事かね?」
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:19:54.77 ID:AXuZ3osI0
武内P「……どういう意味でしょうか」


黒井「良い機会だ。冥土の土産に教えてやろう」

黒井「貴様は不思議に思わなかったのか?
   当時の担当アイドルを潰した、その事務所のプロデューサーとアイドルに復讐を果たした時」

黒井「なぜこの私が、復讐を果たした直後に貴様と接触しようとしたのか。
   なぜ、そのタイミングを見計らう事ができたのか」

黒井「そもそも、貴様が画策する弱小事務所への復讐など、961プロには何ら関係が無い」

黒井「なのに、その経緯を把握し、タイミングを狙って声を掛けたのなら、
   私は貴様を観察していた事になる」


黒井「なぜ、復讐を果たすに至るまでの貴様の動向を、わざわざこの私が観察していたのか?」

黒井「なぜ、貴様が行う復讐の経緯を、私が知っていたのか?」


樹里「経緯、って……!?」

凛「そんな……」


武内P「…………まさか……!!」
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:23:43.41 ID:AXuZ3osI0
黒井「あぁそうとも」

黒井「全ては私の計画だ。
   その事務所のプロデューサーを焚きつけ、貴様の当時の担当アイドルを潰させた事も」

黒井「自責の念が強い貴様は、憎悪に駆られて同じ事を仕返すであろう、という事もな」

黒井「先代の美城会長は、貴様を高く評価していたよ。
   幾度も話をしていたものだから、これは使えると考えたのだ」

黒井「我が961プロにとって目の上のタンコブである346プロに負い目を与え、
   これに“契約”という形で強請れば、意のままに操り続ける事ができるだろう、と」

黒井「いざとなれば、全ての罪を346プロに負わせ、こちらは知らぬ存ぜぬを貫き通せばいい。
   もたらされる結果は、いずれにせよ961プロの一人勝ちという訳だ」


凛「何てことを……!」

樹里「な、ナメやがって……それでも血の通った人間かよテメェ!!!」

黒井「あぁそうだとも。いかにも人間らしい合理的な考えだろう?」

樹里「ふざっけんな!!!」ガッ!

黒服「……」グッ

樹里「くっそ、放せ!! アイツ、許さねぇ!!!」ジタバタ!
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:24:50.70 ID:AXuZ3osI0
黒井「まっ、それも今日で終わりか。寂しいものだ」

黒井「ひとまず今日を以て、貴様らには消えてもらおう。
   同時に、346プロには貴様の過去の所行について全責任を負わせ、舞台を降りてもらう」

黒井「残りの283プロなどという弱小事務所も、後でどうとでも料理すればいい」

黒井「労いに与える物が、鉛玉では味気ないかも知れんがね。ハハハ!」

樹里「クソ野郎……!!!」ギリッ!


武内P「…………なるほど」


武内P「よく分かりました」

黒井「何?」



武内P「よく分かったと言ったのです、黒井社長」

武内P「果たすべき目標が……やるべき事が明確であれば、迷わずに済む」
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:29:37.16 ID:AXuZ3osI0
黒井「この状況で何を言っている? ロクな得物も持っていないようだが」

武内P「武器なら、ここに」シュッ

樹里「あ」パシッ

武内P「……」ジャキッ


黒服達「……!」ドヨ…!


黒井「小娘に奪われた、私の銃を……!」

黒井「馬鹿な真似はよすんだな。
   私を屠ることに傾注すれば、その小娘達の命など保証できまい」

黒井「それとも、その二人を守りながら完遂するつもりかね?」


武内P「私にできないとお思いですか?」

武内P「私の腕は、私に“信頼”して数々の依頼をしてきたあなたにはご存知のはずです」



黒井「…………ッ」


凛「ぷ、プロデューサー……?」

樹里「お、おい、マジかよ……」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:31:30.02 ID:AXuZ3osI0
「そこまでだ」ザッ


一同「!!?」


黒井「誰だっ!?」



コツ…

「言ったはずだ、黒井。
 その者達に派手な行いをする事があれば、私も静観できなくなる、と」

「なるほど、これがクイーンズゲートドーム……
 ぜひ弊社の新施設の構想において、大いに参考とさせていただきたい、ですが」


黒井「貴様、ら……!」



天井「今一度、大人の話し合いをしようじゃないか、黒井」

美城「まずは正すべき襟を正していただきましょう」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:32:45.69 ID:AXuZ3osI0
武内P「み、美城常務! それと……!」

凛「隣にいる人は……283プロの、天井社長?」

樹里「あぁ、だと思った。でも何で……?」


天井「まずはご苦労だったと言わせてもらおう。
   双方共に無血であることは何よりだ」

黒井「無血? 我が事務所の社員は、その男から暴行を受けたのだが?」


黒服達「うっ……」「うぐぐ……」ピクピク


天井「フッ。失礼した」

美城「ですが、それもきっと、正当防衛と解せるものとお察しします」

美城「そちらの黒服達は、レプリカでなければ物騒な物をお持ちのようで」

黒服達「!」サッ

黒井「狼狽えるな、馬鹿共」
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:34:54.16 ID:AXuZ3osI0
美城「いずれにせよ、私や天井社長もいるこの場で、
   これ以上の穏やかならぬ行いは慎んでいただきたい」

黒井「ノコノコと人様の建物に不法侵入しておいてよく言う……」

黒井「第一、貴様らは一体何しに来た? どうしてここが分かったのだ」


天井「何、大した事ではない。
   たまたま346プロへ所用で向かっている折りに、私の事務所のアイドル達から連絡があったのだ」

天井「346プロの渋谷凜との連絡がつかなくなった、と……
   それを、こちらの美城常務にも伝えてみれば、彼女はこう答えた」

天井「黒井社長がお忘れ物をしていたようだったので、事務員に後を追わせています、とね」


黒井「事務員……フンッ、まさか、あの千川という女か」

美城「その者から、こちらの位置情報を報告させました」

美城「天井社長はあなたに御用があるとのお話でしたので、
   ついでと言っては何ですが、こうして私もご一緒させていただいた次第です」

黒井「白々しい事を……!」


美城「千川は外で待たせています。
   末端の事務員に聞かせるようなお話を、あなたとするつもりは無い」

美城「無論、この場にいる他の者達も同様です」チラッ
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:36:44.99 ID:AXuZ3osI0
樹里「! な、何だよ……」

武内P「…………」


天井「こんな所で立ち話しては落ち着かん。河岸を変えたいのだが」

美城「では、弊社の会議室へとご案内しましょう」

黒井「勝手に話を進めるな。いいか、私はこの者達から暴行を受け…」


美城「346プロと争うおつもりが?」

黒井「…………」

美城「冷静なご判断を期待しますが、いかがでしょうか」



黒井「……良いだろう。
   ただし、我が961プロの一方的な不利益を強要するものと判断したら、即座に退席させていただく」

天井「貴様がそんな事を言うとはな」フッ

黒井「黙れ」
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:38:25.71 ID:AXuZ3osI0
凛「あの人達って、知り合い同士なの……?」コソッ

樹里「アタシが知るかよ」


美城「ご同意を得られて何よりです」

美城「外に車を手配してあります。どうぞ、こちらへ」スッ


武内P「あ、あの、常務っ」ザッ


常務「……先ほど話した通りだ。君達の出る幕は無い」

常務「今日のところは、もう帰りなさい」

武内P「わ、私は……常務にとって、決して無視できない行いを…」

凛「そ! そんな事ないっ! プロデューサーは何も悪いことなんか!!」

樹里「そうだぜ、悪いってんならむしろクロ…!」


常務「当然、君達の処分についても含めた会議となる。
   大人しく待っていなさい」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:39:09.29 ID:AXuZ3osI0
凛「そんな……」

樹里「……納得いかねぇな」


武内P「渋谷さん、西城さん。帰りましょう」

凛「プロデューサー……」

武内P「今、ここで私達が出来ることはありません」


武内P「失礼致します」ペコリ

常務「……」

樹里「チッ……」スッ



天井「外には件の事務員だけではない。
   283プロと346プロ、双方のアイドル達も集まってきている」
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:39:54.68 ID:AXuZ3osI0
武内P「……!」

凛「えっ!?」


天井「我が事務所のアイドル達に伝えたら、そちらまで広まったようだ」

天井「きっと君達を心配しているだろう。早く元気な姿を見せてやるといい」


樹里「マジかよ……」

武内P「……ありがとうございます、天井社長」ペコリ


天井「何、大した事ではないさ」フッ
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:42:00.23 ID:AXuZ3osI0
〜ドーム前〜


コツコツ…

凛「……あっ」

樹里「おぉ、マジで来てる」


武内P「……皆さん」



未央「し、しぶりぃ〜〜〜ん!!!」ダダダッ!

ガバッ!

凛「わぷっ!?」

卯月「凛ちゃあぁん!! 本当に……本当に無事で!!」ワシャワシャ

凛「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて……!」


シャニP「社長と、こちらの事務員さんから、大まかなお話は聞いています」

ちひろ「プロデューサーさん……」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:43:56.23 ID:AXuZ3osI0
武内P「わざわざご足労いただき、申し訳ございません」ペコリ

シャニP「いえ、我々は何も。大変だったのはあなた方でしょう」


咲耶「凛……樹里も、本当に無事で何よりだ」

樹里「言うほど無事でもねーけどな。生きた心地しなかったぜ」

智代子「そ、そんなに!? 一体、中でどんな事があったの?」

樹里「そりゃまぁ、色々……?」チラッ


夏葉「……樹里。ケガは無い?」


樹里「ああ、別に……ヘヘッ」

夏葉「? どうしたの?」

樹里「いや、アンタがそんなしんみりしたツラしてんの、らしくねぇって思ってさ」

夏葉「! ……ふふっ」

夏葉「誰がしんみりしているですって!?」バァーン!

樹里「アハハ、そうそう。その調子だぜ」
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:46:05.89 ID:AXuZ3osI0
武内P「この度は弊社の……
    いいえ、私達に関するトラブルについて、ご心配をお掛けしました」

武内P「ご覧の通り、渋谷さんも西城さんも無事です。
    皆様どうか、今日の所はお帰りの上、ゆっくりお休みにな…」

樹里「待てよ、プロデューサー」

武内P「西城さん……渋谷さん?」


凛「ちゃんと、皆には話しといた方がいいよ。
  今日の出来事……あの中で、黒井社長達と話していた事」

武内P「…………」

樹里「あぁ、それと……アンタが前に担当していたアイドルの事、教えてほしいんだ」

樹里「辛くて、話しづらいだろうけど……
   もしアンタがアタシにその子を重ねているなら、どんな子だったか、ちゃんと知りてぇ」


ちひろ「……その件については、私からもお伝えできることがあるかと思います」

凛「ちひろさんが?」

ちひろ「はい」コクッ
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:47:46.34 ID:AXuZ3osI0
武内P「千川さん……」

ちひろ「あ、でも場所が……
    常務達が346プロに向かってしまって、うっかり鉢合わせるのも気まずいですね」


シャニP「それなら、ウチの事務所にお越しいただくのはいかがでしょうか?」

シャニP「さほど広くはありませんが、皆さんでゆっくり腰を落ち着けることくらいはできるかと」

夏葉「ナイスアイディアね、プロデューサー」

咲耶「私達の仲間で持ち寄った紅茶が、ちょうど今は充実しているんだ。
   ぜひご賞味いただきたいな」

智代子「困った時のお夜食も!」ニュッ


卯月「プロデューサーさん……私達からも、お願いします」

未央「とっくに私達は、運命共同体でしょ?」



武内P「…………分かりました」
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:49:38.30 ID:AXuZ3osI0
〜346プロ 会議室〜

美城「……ふむ、なるほど」

黒井「貴様らが来る前に、あの中で起きていた事は今述べた通りだ」


天井「対応を誤ったようだな、黒井」

黒井「何?」

天井「お前が今言った中で、一つ抜けている事実がある。
   我々が来る直前、貴様があのプロデューサーに告げた事だ」

黒井「……盗み聞きをしていた、だと?」


天井「あの男にトラウマという名の禍根を残した、その張本人が自分であった。
   それも、自分の私利私欲のために」

天井「貴様はあのプロデューサーを使う立場から、命を狙われる立場となった訳だ」

天井「安心して熟睡できる日が無くなったな?」

黒井「……フンッ、邪魔なら消せばいいだけの事だ。これまでもそうしてきた」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:52:11.93 ID:AXuZ3osI0
美城「それを私の前で堂々と仰る辺り、さすがの胆力ですね、黒井社長」

黒井「美城の娘……貴様もあの男の扱いには手を焼いていたはずだろう。
   私が代わりに手を下すことに、何か不都合でも?」

美城「今は時期が悪いと言いたいのです」

黒井「時期?」


美城「『クリスタルウィンター』を前に騒ぎを起こすのは、
   この場にいる誰の利益にもならないでしょう?」

美城「ですので、せめてそれが終わるまでは派手な行いをしていただきたくはない」

黒井「……フム」


美城「確かに、あなたは契約に従い、弊社からの依頼をもよく受けてくれていたようですが、
   下品な手法による強引な解決は我々の本意ではない」

美城「それらはともすれば業界全体への不信を招き、自らの首を絞めることにもなるからです」

美城「ご安心を。
   あのプロデューサーに対しては、私の方からよくクギを刺しておきます」

黒井「フンッ、貴様が言って素直に聞くような男ではあるまい」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:59:40.15 ID:AXuZ3osI0
美城「確かに。しかしながら、私に一つ考えがあります」

天井「考え?」


美城「次の『クリスタルウィンター』……
   この3社のアイドル達による合同ユニットで出場するのはいかがでしょうか?」


黒井「合同ユニットだと?」

天井「ほう……」


美城「他社とのコラボ企画などというものは、
   よほどのメリットが無い限り、弊社も積極的に採用しようとは思いません」

美城「ですが、相応に注目を集める旬のアイドル達が、
   事務所の垣根を越えてユニットを組むのは、良い意味で話題性を生むでしょう」

美城「加えて、その監督者としてかのプロデューサーを充てれば、
   まさかこれを無視してまで黒井社長に事を為す可能性は低いと考えます」

美城「アイドル達にとっても、知らぬ間柄ではないあの男がプロデューサーを務めた方が、
   お互いにやりやすいでしょう」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:01:09.46 ID:AXuZ3osI0
天井「私は賛成だ。メンバー次第ではあるがな」

黒井「フンッ! 聞こえの良い事を並べ立てているが、
   最終的に自分が美味しいところを攫っていくつもりではないかね?」


美城「であるならば、プロジェクト名は御社になぞらえて、そうですね……」

美城「『プロジェクトクローネ』、というのはいかがです?」


黒井「みくびられたものだ。
   この私が、346の新規プロジェクト名を知らんとお思いか」

美城「フフ、ご存知でしたか」

美城「ですが、黒井社長の声掛けにより発足されたものとなれば、
   その功績はあなたのものとなります」

黒井「体良く責任を押しつけているようにも思えるがな」

美城「…………」
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:04:36.51 ID:AXuZ3osI0
黒井「良いだろう。
   283プロの有栖川夏葉と白瀬咲耶、園田智代子」

黒井「その者達も関わるということであれば、あの男もこれを成功させるために力を尽くすはずだ」

美城「その間、あのプロデューサーには大人しくさせておくことをお約束します」


天井「要綱によれば、『クリスタルウィンター』の出場は5人編成のクインテットユニットが限度だ」

天井「我が事務所から三人も出すのなら、961と346からは誰を出す?
   961プロからは西城樹里として……」


美城「私個人の考えとしては、弊社からは高垣楓を、
   と言いたい所ですが……彼女は応じないでしょう」

美城「それに、そのメンバーであれば、渋谷凜が適任であると考えます」

黒井「美城の娘も、所詮は絆などという甘ったれたものを最後に重視するということかね?」

美城「あくまで適性が最も高いというだけの話です」


天井「なるほど、了解した。
   ひとまずは事態が平穏無事に収まっていくようで何よりだ」

黒井「待て、天井。貴様はこの私に用があると言ったが?」

天井「既に今の話の中で用は済んだ」
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:07:04.19 ID:AXuZ3osI0
美城「私はあなたに用があります、天井社長」

天井「……貴女もしつこい人だ」

美城「そもそも、これは961プロと我々346プロの間の話です。
   第一、今日の一件についても、私に情報をもたらしたのはあなただった」

美城「そうまでして我々に積極的に関わる理由は何か、お教えいただきたい」


天井「私の主張はシンプルだ。
   有栖川夏葉、引いては他の283プロアイドル達の身の安全を保証すること」

黒井「どういう意味かね。
   私は貴様の弱小事務所のアイドルなど、ハナから相手にしていないのだが?」

天井「我が事務所の有栖川夏葉が、かのオーディションの関係者であってもか?」

黒井「……!」ピクッ


美城「先日のお電話でもお話しましたが、
   彼女にはもう、あのオーディションの件について関わる必要性など無いはずです」

美城「あなたが焚きつけているのでは? 天井社長」

天井「いや、彼女が自主的にそれを申し出たのだ」

天井「あなた自身も言っていたが、美城常務……
   私に言わせれば、正すべき襟があるのは黒井だけではないと考えている」

天井「なればこそ、その不義理を正そうとする彼女の自主性を、私が否定する理由など無い」
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:10:27.67 ID:AXuZ3osI0
黒井「馬鹿な事を。
   あの有栖川が、オーディションの件について外部に告発する気だと言うのか?」

美城「あれはもう終わった話です、天井社長。
   蒸し返す事は、それこそ誰の利益にもなりません」

美城「いたずらに敵を作る愚かさが、分からないあなたでは無いはずです」


天井「自分達に潰されるのが怖いのなら、不条理に対して口を閉ざせと?」

天井「そもそもの事態を起こした貴様らが、よくも敵を作る愚かさなどと私に説いたものだな。
   大手の芸能事務所が聞いて呆れる」


黒井「では聞くが……我が961プロの西城樹里の初イベントに、
   貴様は白瀬咲耶を遣わしていたな?」

天井「…………」

黒井「オーディションの一件に義憤を駆られたなどといった事をほざきながら、
   それと関係が無い西城樹里の動向を観察していたのはなぜだ」

天井「西城樹里は、かのオーディションの被害者である園田智代子の友人だ。
   思うところが無かったはずはあるまい。だから動向を注視した」


美城「果たしてそれだけでしょうか?」

天井「というと?」

美城「白瀬咲耶は、弊社の高垣楓のミニライブにも姿を現していたようです」
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:15:57.23 ID:AXuZ3osI0
天井「……フム。それは初耳だな」

美城「とぼけた事を……
   あなたの指示でないのなら、なぜ彼女がその場にいたというのです」


美城「私が思うに、天井社長……」

美城「オーディションの一件について、業界の不義理を正すために告発するというご主張は、
   ご自身の真意を隠すための大義名分に過ぎない」

美城「あなたが本件に関わる理由は、別の所にあるのでは?」

黒井「同感だ。我々を甘く見ないでもらおうか」


天井「パンドラの箱を?」

黒井「何?」

美城「……?」


天井「私はただ、彼女自身がそれを開ける日が来るまで、
   余計な邪魔立てが入らないようにするだけだ」

黒井「貴様……何度も言わせるな、貴様の有栖川夏葉が…!」
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:16:34.25 ID:AXuZ3osI0
天井「有栖川ではない」


黒井・美城「……!?」



天井「有栖川はただのきっかけに過ぎん」

天井「“彼女”がそれを開けるための、な」



天井「私から言えるのは、ここまでだ。
   既に察しがついているのなら、これ以上の言及はご遠慮願おうか」
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:18:01.38 ID:AXuZ3osI0
美城「…………」


黒井「…………フン」



天井「……今日の話を整理させてもらう」

天井「ウィンターフェスに当たり、三社の合同ユニット『プロジェクトクローネ』を結成する。
   メンバーは283プロの有栖川、白瀬、園田、961の西城、346の渋谷」

天井「これが終わるまでの間は一時休戦とし、かのプロデューサーにも誰も干渉をしない」

天井「ただし、終わった後はお望み通り、私は第三者に戻ろう。
   双方の好きにするがいい」


美城「古い時代の悪しき慣習は、もう必要とされてはいません」

黒井「どうとでも言うがいい。だが……」

黒井「フェスが終わった後、こちらに裁量を任されることに異論は無い」


美城「では、あの男は…………」
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:18:28.80 ID:AXuZ3osI0
楓「………………」





楓「…………」スッ


コツ…



コツ…
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:20:42.54 ID:AXuZ3osI0
〜283プロ事務所〜

ジィーーー…


 『ふんふーん……♪』

 『わぁ、綺麗なお花ですね。毎日お疲れ様です』

 『あっ、ちひろさん! ううん、全然お疲れなんかじゃないよっ。
  お花のお世話、私も好きでやってるんだし』

 『それでも、こうして事務所の花壇のお手入れをしてくれるおかげで、
  他のアイドルの皆さんも、晴々とした気持ちになれると思います』

 『もちろん、私も。本当にありがとうございます』

 『そうかな……えへへ、そうだと嬉しいな』


 『ところで、ちひろさん。それ動画撮ってるの? どうして?』

 『あぁ、これはですね。
  事務所の入社説明会で使う動画を撮影していまして』

 『基本的には内部用ですが、綺麗に撮れたものは、外向けのPRにも使おうと思っているんです』
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:22:14.47 ID:AXuZ3osI0
 『へぇー。あっ、だとしたら私、もっと張り切っちゃおうかなっ♪』

 『えぇ、よろしくお願いしますね。
  それじゃあ……あっ、ちなみにこの黄色いお花、何ていう名前ですか?』

 『あっ、よくぞ聞いてくれました! これはね、ラナンキュラスだよっ!
  黄色のラナンキュラスの花言葉は、「優しい心遣い」』

 『花束やフラワーアレンジメントの定番でもあるんだけど、
  モコッとして存在感あるのに他のお花達ともすごく調和してくれるから、私、好きなんだ』

 『優しい心遣い……ふふっ、ひょっとしてプロデューサーさんへの贈り物用ですか?』

 『うん。えっ!? ち、違うよっ!? いや、違く、ないけど……』

 『って、あぁ〜もうっ! そういうの言わせないでよー、ちひろさん!』

 『ふふっ。残念ですが、この動画はお蔵入りですね』





ちひろ「…………」


樹里「……この子が」
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:23:46.07 ID:AXuZ3osI0
武内P「このような動画があったとは……知りませんでした」

ちひろ「本当はお蔵入りにせず、音声だけオフにして使用する予定でした」

ちひろ「ですが……これを撮影した直後に、あの報道がなされて……」

武内P「…………」グッ…!


咲耶「先日アナタが言っていた通り、花のように可憐で可愛らしい人だ」

智代子「それに、こうして花壇の手入れも率先してやってくれて……」

夏葉「献身的な子だったのね。
   それだけに……そんなひどい目に遭ったなんて、ますます許せない」

シャニP「あぁ、その通りだ」


卯月「凛ちゃん……さっきのお話、本当なんですか?
   黒井社長が、すべて……」

凛「……あの人が嘘をついていないのなら、ね」

未央「……ッ」グスッ


樹里「……なぁ、プロデューサー」
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:25:11.44 ID:AXuZ3osI0
樹里「アンタが部屋で育ててる、あのアグラオネマとかいう鉢植え……
   ひょっとして、この子からのプレゼントだった、とか?」

凛「……」ピクッ


武内P「……彼女に連れられ、花屋に立ち寄った事がありました」

武内P「学が無い私に、色々な花を、楽しそうに講釈してくれて……
    その中で、一つの鉢植えが目に留まったのです」

武内P「花も無ければ、根も無い……まるで私のようだと思い、親近感が湧きました」

武内P「彼女は、そのように自分を評する私に、憤慨したりもしましたが……
    店を出る時、密かにこれを購入し、私に手渡したのです」

武内P「愛情を持って大事に育てることが、一番の栄養なのだと。
    それを忘れないで、と……」


凛「……それが、アグラオネマだったんだね」
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:26:35.67 ID:AXuZ3osI0
樹里「……そっか」

樹里「ごめん、プロデューサー……アタシ、アンタのこと勝手に馬鹿にしてた」

樹里「花の心も分かってねぇ、なんて……アンタの気も知らねぇで……」

武内P「謝らないでください、西城さん」


樹里「こんなの……」グッ

樹里「こんなのって、ねぇよ……ひでぇよ……!」

樹里「黒井のヤツ……ちきしょう……!」ポロポロ


智代子「樹里ちゃん……」

武内P「…………」


シャニP「……これからどうしますか?」

シャニP「もし今のお話が本当なら、961プロが……
     いえ、黒井社長が今後、手段を選んでくるとは思えない」

ちひろ「私も同感です。
    プロデューサーさんは、しばらく身を隠された方が……」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:29:16.76 ID:AXuZ3osI0
武内P「いいえ、それには及びません」

未央「えっ?」


武内P「私のやるべき事は、既に決まっています」スクッ


卯月「ま、まさかプロデューサーさん……?」

咲耶「早まった事はしないでくれ、これ以上アナタが罪を重ねる必要は無いっ」ガタッ!

夏葉「そうよ、私が告発するまで待っ…!」

武内P「全ては私の身から出た錆であり、私が全てに片をつけるのが筋です」


樹里「アタシのプロデュースはどうすんだよっ!!」

武内P「……!」ピタッ


樹里「アタシが、自分の翼を広げて羽ばたく姿を見届けるって……」

樹里「それがプロデューサーとしての本分だ、って……
   さっきそう言ったばかりじゃねぇかよ……!」
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:30:55.16 ID:AXuZ3osI0
武内P「……申し訳ございません」

樹里「……ッ」フルフル


ヴィー…! ヴィー…!

ちひろ「……? 今西部長?」ピッ

ちひろ「はい、もしもし、千川です……」

ちひろ「えぇ、はい……はい、すみません、そうです……いえ……」

凛「……」



ちひろ「え、えぇっ!?」

一同「!?」ビクッ


ちひろ「い、いえ……はい……はい……あ、はい、います」


ちひろ「プロデューサーさん、あの……今西部長が代わってほしいと」スッ

武内P「一体、何のお話だったのですか?」

ちひろ「それが、その……」



ちひろ「ご、合同ユニットを……三社の合同ユニットのプロデュースを、と……」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:32:14.02 ID:AXuZ3osI0
――――――

――――


『それではここで、発起人である黒井社長からのメッセージが届いています、どうぞ』


『我が961プロが事務所の威信をかけて皆様にご提案する夢のアイドルプロジェクト!!
 その名も、プロジェクトクローネ!!』

『その第一弾となるユニットは、事務所の垣根を越え、
 時代を象徴する旬なアイドル達を選りすぐった、精鋭クインテットであります!』

『283プロの有栖川夏葉さんに白瀬咲耶さん、園田智代子さん!
 346プロの渋谷凜さん!』

『そして……我が961プロの西城樹里!』

『この私が直々に目を掛け、選出した圧倒的な力でもって、
 必ずや! クリスタルウィンターに伝説を残すことを約束しようではありませんか!!』

『さらに、このプロジェクトはこれだけに留まる予定などありません!
 今後も第二弾、三弾と、次代を担うトレンディなアイドルユニットを…!』
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:35:47.26 ID:AXuZ3osI0
  >さすがにゴリ押しが露骨すぎて萎える
  >また西城かよ、最近ほんと出すぎじゃねコイツ
  >ていうか西城樹里がセンターなの?
  >961プロ主導なら当然だろ

  >この間のサマーフェスだってどうせ八百長だよな
   明らかに夏葉ちゃんの方が良かったじゃん、西城とか一瞬棒立ちだったし
  >↑未だにこれ言ってるヤツいて草
   素直に負けを認めろよガイジ
  >西城本人がこの話題になった途端に言い淀む時点で答え出てるぞ

  >まぁ、283プロの人選は分かるわ
   何で346プロは楓さんじゃないんや?
  >ギャラが高い定期
  >↑金にならないミニライブを毎年やってる聖人なんだよなぁ
  >言うてしぶりんもそんなに悪い選択肢じゃないやろ
   そろそろポスト高垣も育てとかなアカンし

  >そういや、西城樹里がこの間の楓さんのミニライブに出てたってマジ?
  >↑画像出回ってるぞ
  >一体コイツに何があるんや。ここまで来るとすげぇな

  >こうして散々話題になってる時点で、961プロの宣伝としては成功なんだろうな
  >ここで叩いてる連中も、なんやかんやで絶対見ると思うわ
  >見なきゃ叩けないからな
  >叩くためにコンテンツを追いかけるオタクの鑑
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:37:22.20 ID:AXuZ3osI0
〜283プロ レッスンスタジオ〜

 キュッ! タタンッ! タン!

咲耶「フッ……!」キュッ!


夏葉「良い仕上がりね、咲耶」スッ

咲耶「そうかい? フフッ、ありがとう夏葉」

樹里「随分気合い入ってんじゃねーか」


咲耶「それはそうさ」

咲耶「このメンバーで同じステージに上がることが出来たなら……
   ずっと夢見ていた事が、現実になる」

咲耶「燃えない方が、無理があるよ」


凛「それにしても……まさか、黒井社長の発案だなんてね」

智代子「そ、それは驚きだけど!
    でも、そのおかげで皆と一緒にやれるのは、素直に嬉しいなぁ私」
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:38:48.07 ID:AXuZ3osI0
樹里「…………」

夏葉「今は余計な事を考えるのは止めましょう、樹里」

樹里「夏葉……」

夏葉「あの黒井社長に何らかの思惑があるのは間違いないでしょうけれど……
   発案者である彼の想像をも超える、皆の度肝を抜くようなステージを見せつける」

夏葉「ここまで来た以上、私達に出来ることでアッと言わせた方が面白いと思わない?
   アイドルらしく、ね?」ニコッ

シャニP「夏葉の言う通りだ。俺達は俺達でできる事に集中しよう、西城さん」

樹里「……そりゃあ、分かっているけどよ」ポリポリ


コンコン ガチャッ



楓「お疲れ様です、皆さん」


凛「か、楓さん!?」

咲耶「……!」ピクッ
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:40:34.10 ID:AXuZ3osI0
未央「私達もいるよー、しぶりん!」ヒョコッ

卯月「皆さん、レッスンお疲れ様ですっ!」


樹里「おー差し入れか、ありがとな。
   つっても……」

夏葉「まさか、346プロのトップアイドルが陣中見舞いに来てくれるなんてね。
   とても光栄だわ」

楓「ふふっ……いいえ、こちらこそ」ニコッ

凛「プロデューサーから頼まれたんですか?」

楓「はい」


楓「僭越ながら、『クリスタルウィンター』に出場される皆さんの活動を、
  サポートさせていただくことになりました」

楓「あまりお役に立てないかも知れませんが、何かあったら何でも仰ってくださいね」ニコッ


智代子「わ、私達のサポート!? 楓さんが、ですか!?」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:42:09.04 ID:AXuZ3osI0
卯月「さすがに、給水とかまで楓さんにしてもらう訳にはいかないので、
   私達もお手伝いをさせていただくんですが……」

未央「本人はそういう雑用もノリノリでやりたがるからさー、ホント困っちゃうよ」

楓「たくさんいると、あぶれた私は混雑要員、なんて、ふふふっ♪」ニコニコ

シャニP「は、はぁ……」

夏葉(……噂には聞いていたけれど、これが)

樹里(下手にツッコむと火傷しかねねぇから、適当に相槌打っとけ)

智代子(う、うん……)


咲耶「……おや、もうこんな時間か」

咲耶「夏葉、樹里。そろそろ次の仕事に行った方が良くないかい?」

夏葉「あら、本当ね。プロデューサーも外で待っている頃だわ」

未央「何かあるの?」

樹里「ユニットのPR活動が忙しいんだよ、ったくプロデューサーのヤツ」
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:45:03.34 ID:AXuZ3osI0
凛「大事な仕事なんだから、文句を言わない」

樹里「はいはい」

智代子「私達も夕方からラジオ出演があるんだったよね、凛ちゃん?」

凛「うん。何かあったら面白いフォロー頼んだよ、智代子」

智代子「いや、それどういう意味、凛ちゃん!?」


楓「ふふっ。皆さん、すっかり仲良しなんですね」

樹里「おかげで退屈しなくて済んでますよ」

未央「……ジュリアンが敬語で話してんの、初めて見た気がする」

樹里「はぁ!? あ、当たり前だろ、年上なんだし!」

夏葉「あら、私は?」ニュッ

樹里「だー!! うるせぇあっち行け!」

智代子「根が体育会系だから普通に礼儀正しいんだよね、樹里ちゃん」

シャニP「なるほど」メモメモ

樹里「余計なことメモんな!!」

楓「ふふふ♪」ニコニコ
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:46:19.46 ID:AXuZ3osI0
夏葉「じゃあ、行ってくるわね」フリフリ

樹里「アタシらがいなくてもサボんじゃねーぞ、特にチョコ」

ガチャッ バタン


智代子「……私に対する樹里ちゃんの評価の低さたるや」ガクッ

卯月「ま、まぁまぁ智代子ちゃん、今までの積み重ねがあるわけですし」

智代子「それ言う!?」

未央「しまむー、なかなかにヒドいね」


楓「あ、そうそう」

凛「楓さん、どうしたんですか?」


楓「皆さんのユニット名は、何ていうんでしょう?」

智代子「ああ、それはですね……!」
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:48:15.55 ID:AXuZ3osI0
ブロロロロロ…


武内P「『TAKE−UC』」

武内P「“UC”とは、ICT用語の一種です」

樹里「あいしーてぃー?」


夏葉「“Unified Communication”」

夏葉「掻い摘まんで言えば、電話やメール、ウェブ会議等の多様な情報伝達手段の統合と、
   これによる業務効率化を図る仕組みのことね」

樹里「よく分かんねぇ。
   アタシらの活動は、別にネットとかでどうこうするようなモンでもねぇだろ」プイッ
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:50:18.74 ID:AXuZ3osI0
武内P「283と346、そして961……」

武内P「様々な芸能事務所のアイドル達が統合し、さらなる輝きを放つことを旨とし、
    この言葉を採用しました」

武内P「同時に、“UC”にはもう一つの意味合いも持たせています」

樹里「もう一つの意味合い?」


武内P「私達の向かう道は、後戻りはできない」

武内P「すなわち、キャンセルはできない、という意味です」


夏葉「“Uncancellable”……ふふ、なかなか洒落てるじゃない」

樹里「なるほどな、『TAKE−UC』……
   言い換えりゃ「前進あるのみ」ってトコか?」

武内P「そうです」

樹里「ヘッ、面白ぇ」ニヤッ
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:51:18.02 ID:AXuZ3osI0
〜イベント会場〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…


武内P「本番までは、こちらで待機をするようにとのことです」ガチャッ

樹里「はーい」

武内P「私はスタッフの方々と確認がありますので、一旦失礼します」

夏葉「分かったわ。お願いね」

バタン



樹里「……」スッ

樹里「…………」シャカシャカ
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:52:50.85 ID:AXuZ3osI0
夏葉「……今度歌う新曲?」

樹里「ん? あぁ」スッ

夏葉「アタシ、あんまり物覚えが良い方じゃねーからな」


夏葉「そんな事ないわよ。
   この間のレッスンだって、一度も止まらずに踊りきったじゃない」

樹里「そんなんで満足してちゃダメだろ。
   ちゃんと叩き込んで、曲の解釈?とか、しっかり深めとかねぇと」

樹里「本番までそんなに時間ないんだし、
   完成度を高めるために、無駄な時間は作りたくねぇ」

夏葉「……ふふ、さすがは私達のセンターね」

樹里「ほっとけ」

コンコン

樹里「ん? プロデューサーかな。どうぞー」


ガチャッ

女A「こんにちはー……あら、あなた達は」

女B「283プロの有栖川夏葉さんと、961プロの……西城樹里ちゃんね」

夏葉「あら、共演者さんね。どうも、今日はよろしくね」ニコッ

樹里「そっか、アンタ達もアイドルなん…」
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:54:26.55 ID:AXuZ3osI0
女C「ちょっと、一緒にしないでくれる?」

樹里「え?」


女C「あなたみたいな事務所のネームバリューだけで売れてるコ見ると、虫酸が走るのよね」

女B「そうそう、おまけに色々と良くない噂もあるでしょ?
   共演したコを蹴落として泣かしたとか、コネ使って出演をねじ込んだとか」

女A「SNSとかでもぶっ叩かれてるけど、火の無い所に煙は立たないっていうしさ。
   アンタみたいなのと関わり合いになりたくないの」

樹里「あ、あの……」

女A「だから、さっさと出てってくれる?
   迷惑してんの分かるでしょ、業界全体がさ」

樹里「……!」


女B「アハハ! ちょっとー、それ言い過ぎ。可哀想じゃん」

女C「あたしはそう思わないけどなー。
   だってもっとヒドい目にあったコだっているし。コイツのせいでさ」
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:56:08.02 ID:AXuZ3osI0
女B「だからぁ、そういうのロジハラっていうんだって。訴えられるよ?」

女A「確かに、そういうのの専門家さんだもんねぇ、961プロは? フフッ♪」

女C「アッハッハ…!」

スッ

女C「へ?」


夏葉「この子に文句があるというのなら、私が聞くわ」

樹里「おい、夏葉」

夏葉「本当の樹里を知ろうともせずに、よくもそんな言葉を投げかけられるわね。
   見たくないものを視界に映さない、都合の良い視野をお持ちなのかしら」


女B「な、何よ!
   アンタだって大企業のお嬢様のくせに、ストイックぶっちゃってさ!」

女A「ちょ、ちょっと。この人は敵に回さない方がいいって。
   何されるか分から…」

夏葉「対峙するものが強大であるなら、尻尾を巻いて逃げると?」

女A「えっ?」


夏葉「威勢を張る相手を選んでいるのなら、あなた達の主張は偽物よ」
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:57:39.38 ID:AXuZ3osI0
女C「! こ、この…」

夏葉「真っ向から勝負を挑む度胸も無いくせに、一丁前に業界のお説教だなんてお笑い草ね」

女A「くっ……!」


樹里「夏葉、もういいよ」

夏葉「いいえ、私には許容できないわ。あなたが馬鹿にされて良い道理なんて…」

樹里「その辺にしとけって言ってんだ。
   ムキになるなんざ、アンタらしくもねぇ」

夏葉「……そうね」スッ


女B「あ、あの……」

樹里「アンタ達が癪に障る気持ちも分かるよ。
   961プロなんざ、業界の闇の象徴っつーか、そういうイメージばっかだもんな」

樹里「アタシだって心底気に入らねぇし、許せねぇ所もたくさんあるけど……
   成り行きで所属している以上、そういう批判を受けるのも、しょうがねぇって思う」
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:00:02.62 ID:VfNpJpls0
樹里「だから、そういうのも引っくるめて、何つーか……頑張るよ」

樹里「今はアタシを見て、良くない印象持っちゃう人もいるかもだけど、
   アイドルやる以上、笑顔になってもらえるようになりてぇし」

樹里「やるって決めたからには、ハンパはできねぇからな」

女A「西城樹里……」


樹里「あぁ、だけどさ」

樹里「もし悪口を言いてぇんなら、アタシ一人だけにしとけよ」

樹里「夏葉や咲耶、チョコも……凛も。
   もし他のみんなまで馬鹿にするってんなら、アタシは許さねぇからな」


女B「…………」

女C「あ、あたし達だって、別に悪口言いたい訳じゃ…」


コンコン

夏葉「? どうぞ」


ガチャッ

冬馬「こ、こんにちはーっす! 今日はよろしくお願い……あん?」
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:01:31.79 ID:VfNpJpls0
樹里「なっ!? お、おめーは、鬼ヶ島!」

冬馬「天ヶ瀬!!冬馬だ! いい加減覚えろ!」クワッ!

樹里「冗談だよ」


北斗「おや、これはいつぞやのエンジェルちゃん」

翔太「最近ユニット組んだんだって? クロちゃんもやること派手だねー」


女A「えっ、ウソ!? ジュピターの北斗様!!?」

女B「翔太クンと冬馬クンもいるー!!」

女C「ふぁ、ファンなんです!! ツーショしてもらえませんか!?」グイィッ


冬馬「ぉわっぷ!? な、何だコイツら! お前らもアイドルだろ!」

北斗「おやおや、そういうのは事務所を通してもらいたいな」フッ

翔太「僕は大丈夫だよー。
   ただ事務所にバレたらウルサいから、お姉さん達とのヒミツってことで♪」

女達「キャアアーーーッ!!(裏声)」
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:03:32.90 ID:VfNpJpls0
樹里「…………」

夏葉「……つくづく、色々な人達がいるものね、この業界」

樹里「雑にまとめんじゃねーよ」


北斗「ところで……先ほどは、何やら穏やかでない空気だったようだが」

女A「えっ!? い、いえいえそんな全然〜!」

女C「楽しくお喋りしてただけですよ、ねぇー樹里ちゃん?」

翔太「そうかなぁ? 廊下の方まで響いちゃってたけどねー、話し声」

女B「うえ゛っ!?」


冬馬「くだらねぇ。
   気に入らねぇヤツがいるなら、グチグチ言わずに力でねじ伏せりゃいいだけじゃねえか」

冬馬「おい、西城」

樹里「あん?」
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:05:23.83 ID:VfNpJpls0
冬馬「お前の力は認めてる。
   だが、それでも俺達の足元には及ばねえし、及ばせねぇ」

冬馬「お前も黒井のオッサンの下についてんなら、
   小細工なんかしないで、せいぜい実力で証明してみせろよ」

冬馬「どんだけ頭数揃えた所で、急造ユニットのチームワークなんざ知れてるぜ!
   『クリスタルウィンター』で勝つのは俺達ジュピター!! だぜ!!」ビシッ!


北斗「フッ。相変わらず素直じゃないな、冬馬」

翔太「今の冬馬君の言葉を翻訳すると、「本戦でお互い良い勝負をしよう」って話ね」

冬馬「な!? こ、こらっ、余計なこと言うんじゃねぇ!」プンスコ!

翔太「ほら、否定しないでしょ?」


夏葉「なるほど、それがあなた達の矜持ということね」

樹里「ヘヘ……冬馬」

冬馬「な、何だよ」


樹里「お前のそういうトコ、嫌いじゃないぜ」ニヤッ
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:12.05 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

カタカタカタ…

シャニP「……それでは、私はこれで」

武内P「はい。新曲の手配、とても助かりました」ペコッ

シャニP「いえ、これくらいは何でもありません」

シャニP「メインで指揮を執るあなたの方が大変なのですから、
     俺に出来ることは何でも言ってください」

武内P「……ありがとうございます」

シャニP「こちらこそ。では、お先に失礼します」ペコリ

武内P「はい。お疲れ様でした」

ガチャッ バタン



武内P「……」グイッ


カタカタカタ… カタカタ…
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:55.16 ID:VfNpJpls0
〜レッスンスタジオ〜

コツ…



コツ…





ガチャッ


楓「…………」ソォー…

楓「……」キョロキョロ



楓「…………」ゴソゴソ
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:08:11.94 ID:VfNpJpls0
タタン! キュッ! タンッ!


タンッ! タッ! タッ タン!


楓「……ッ! …………!」キュッ! タタッ! タン!

楓「フッ……ッ……!」タッ! タタンッ! タタン!





咲耶「アナタほどの人でも、居残り練習をするんですね」



楓「!?」クルッ


咲耶「……すまない。邪魔をするつもりは無かったのだけれど」

楓「咲耶ちゃん……どうしてここに?」
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:09:46.18 ID:VfNpJpls0
咲耶「忘れ物を取りに来た」

咲耶「……という訳ではなくて、私も少し、秘密の練習を」

咲耶「けれど、まさか思わぬ先約がいたとは、ね」フッ

楓「…………」


咲耶「今の振付は、私達の新曲ですよね?」

楓「……そうです」

楓「咲耶ちゃん達のサポートを、プロデューサーからお願いされましたから。
  私も、ひと通り踊れるようにならないと」

咲耶「果たして、本当にプロデューサーからの依頼だったのだろうか」

楓「……え?」


咲耶「私の見立てでは、アナタの方からプロデューサーに掛け合ったと思っているのだけれど、どうかな?」



楓「……ふふっ、アタリです」ニコッ
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:11:07.12 ID:VfNpJpls0
楓「どうして? と、理由を聞きたいでしょうか」

咲耶「それが許されるなら」

咲耶「だけど……アナタが自分から、私達に明かしてくれる日が来るのを待ちたいと思います」

楓「……ありがとうございます。咲耶ちゃん」


咲耶「良かったらご一緒しても? 深窓の歌姫」

楓「えぇ、もちろんです。それと……」

楓「私に敬語は使わなくて構いません。どうか普段通りに、ね?」ニコッ

咲耶「フフッ……ああ、了解した」ニコッ



タンッ! キュッ! タタン…!
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:12:47.96 ID:VfNpJpls0
〜料亭〜

女将「では、ごゆっくり」スッ

スゥー ストン…



トクトクトク…

今西「すまないね、付き合わせて」

ちひろ「いえ……」


今西「昔はよく、先代の会長ともここに来ていたものさ」

今西「接待でも利用したし……表ではとても話せないような密談もした」

今西「ここに来るのも、今日が最後になるかも知れないね」

ちひろ「…………」


今西「たまには君も、気分転換が必要なんじゃないかと思ったんだ」
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:14:22.62 ID:VfNpJpls0
ちひろ「私は……」


ちひろ「……今西部長」

今西「何だい?」


ちひろ「私は入社以来、ずっと346プロに尽くしてきたつもりでした。
    ずっと、事務所の歯車になることを目指してきました」

ちひろ「誰よりも早く出社して、最後に退社するのなんて序の口。
    休日に仕事を持ち帰ることだって、何も苦ではありません」

ちひろ「なぜなら、それが私の大好きなアイドル達のためになると信じていたからです」

今西「…………」


ちひろ「それが……何だか、よく分からなくなっちゃいました」



今西「なら、ここを辞めるかね?」
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:17:23.26 ID:VfNpJpls0
ちひろ「…………」

今西「事務職は、どの業種にも必要不可欠な存在だ。
   君ほどの人材であればどこでもやっていけるし、346プロという職歴はそれなりに箔にもなるだろう」

今西「君もまだ若い。いくらでもやり直せる」

今西「と……あんまり言い過ぎても薄情かな? アハハ」ポリポリ


ちひろ「最近、気づいたことがあります」

ちひろ「私が大好きなもの、応援したかったもの。
    それは……アイドルだけじゃなかったんだ、ということ」

ちひろ「いいえ、ひょっとしたら……彼らもアイドルの一部と言えるのかも知れません」

今西「彼ら?」


ちひろ「プロデューサーさん達のことです」

ちひろ「アイドルもプロデューサーも、お互いに無くてはならないもの……
    皆さんは、仕事のパートナーである以上に、固い絆で結ばれています」

ちひろ「その絆の輝きを、私は応援したかったんだと気づきました」

ちひろ「それができる仕事は……今の業種を置いて他にありません」
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:20:17.96 ID:VfNpJpls0
今西「そうか」

ちひろ「だから……今西部長」


ちひろ「今からでも、常務と黒井社長を説得することは出来ないのでしょうか?」

ちひろ「それが叶わないのなら、
    せめてお二方の手からプロデューサーさんを遠ざけることは、出来ませんか?」

今西「千川君……」

ちひろ「あの人はアイドルを愛しています!」

ちひろ「みんなも、あの人を慕っています。なのに……事務所の都合で……!」


今西「……残念だが、それが組織というものだ」

今西「時代は移り変わる。そのしわ寄せは、誰かが引き受けなければならない」

今西「少なくとも常務は……もう彼のことを、必要としないだろうね」

ちひろ「! …………ッ」



今西「私もね……ただ指をくわえて見ているだけ、というわけではないんだ」
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:21:43.21 ID:VfNpJpls0
ちひろ「……え」


今西「それを防ぐ手段が、一つだけある……かも知れない」

今西「だがそれは、あるいは業界全体をも潰しかねない方法だ」

今西「君は、それを選択する必要があると思うかね?」

ちひろ「い、今西部長……?」


今西「先日、283プロの天井社長と話をしてね」

今西「とある提案を受けたのだが……
   それはきっと、思わぬ化学反応を引き起こすものだったのだろう」


今西「今夜のレッスンスタジオで、彼女が居残りをしているとすれば、ね」
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:26:36.12 ID:VfNpJpls0
〜後日、283プロ〜

ジューーッ…!

智代子「…………ッ」ゴクリ…

樹里「まだひっくり返すんじゃねぇぞ」

夏葉「ま、まだなの、樹里?」ジュー…

樹里「アンタのはさっき入れたばっかじゃねぇか」


凛「みんなで樹里のお料理教室、か」

咲耶「仲良きことは美しきことかな、だね。
   卯月、紅茶のお替わりでも?」

卯月「え、うえぇっ!? あぁいえ、自分で出来ますから」

咲耶「構わないさ。
   せっかく来てくれたのだから、ゆっくりするといい」スッ

卯月「は、はひ……」ポーッ


未央「……じぃーーーっ」
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:27:43.89 ID:VfNpJpls0
凛「どうかした、未央?」

未央「ねぇさくやん」

咲耶「? なんだい?」


未央「最近、何か良いことあった?」


咲耶「えっ」ピクッ

未央「あっ、ほらーー!! やっぱり良いことあったんだ!」

卯月「ちょ、ちょっと未央ちゃん、いきなりどうしたんですか?」


未央「いつものさくやんなら……」

未央「フッ……ああ、良いことならたくさんあるさ。
   こうして皆と共に過ごすひとときこそが、私にとっての宝物だよ(イケボ)」

未央「ぐらいの事をサラッと言ってはぐらかすじゃん!
   何今の「えっ」って普通のリアクション!?」

咲耶「あ、いや、あの……」
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:29:57.29 ID:VfNpJpls0
樹里「うるせーな、何騒いでんだよ未央」

夏葉「あの、ま、まだかしら、樹里」ジュー…

樹里「ん、いいぞひっくり返して」

夏葉「……」ソォーー…

樹里「ひっくり返したら蓋して蒸し焼きだからな」

夏葉「は、話しかけないで、集中が乱れるわ……!」ソォーー…


未央「なーんか最近、お肌のツヤとかも良さげだし、
   立ち振る舞いとかルンルンな感じに見えたんだよねー」ウーム

咲耶「よ、よく見てくれているんだね、未央」

智代子「そう言えば、咲耶ちゃん最近遅くまで居残り練習してるよね?
    なのに、確かにすごく元気そうだなぁって」


咲耶「えぇと……」ポリポリ

凛「ふーーん」

咲耶「な、なんだい、凛?」


凛「ひょっとして……ウチのプロデューサーと、何かあった?」
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:31:18.39 ID:VfNpJpls0
咲耶「へ?」

卯月「うええぇぇぇっ!?」

樹里「なぁっ!?」ガタッ!

智代子「樹里ちゃん、凄い反応ッッッ!」

夏葉「樹里、大変よ!! 蓋を開けたらフライパンから煙が!!」ジュー…

樹里「ただの湯気だよ!! それより……!」


咲耶「ご、誤解だ皆! それは本当に誤解だよ!」ブンブン!

凛「必死に否定している所がますます怪しいんだけど」

未央「らしくないねぇ。素直に白状したまえよ、エェー、さくやん?」ウリウリ

樹里「人様んトコのプロデューサーに、咲耶、お前……!」ワナワナ

咲耶「ほ、本当だ! 信じてくれ!
   私はプロデューサーの方とは何も…!」

凛「プロデューサーの方“とは”?」

咲耶「!?」ギクッ!
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:33:02.86 ID:VfNpJpls0
凛「プロデューサーじゃない方とは、何かあるの?
  ていうか、じゃない方の人がいるの?」ズイッ

咲耶「あぁ、いや……言葉のあやさ、別に…」

凛「目を見て離そうよ、咲耶」ズズイッ

咲耶「そ、そんなに怖い目をされたら萎縮してしまうよ、凛」

未央「おおぉ、名探偵しぶりん、パねぇ……」ゴクリ


智代子「何やらあちらは、修羅場を迎えているようですなぁ」モグモグ

夏葉「あら、本当に美味しいわね! これなら家でも作れそう」パクパク


凛「346プロに居残って、誰かと一緒に何かをしてるってことだよね?
  今の話からすると」

樹里「同じユニットのメンバー同士、隠し事はナシにしようぜ、なぁ?」

咲耶「う、うーん……!」


ガチャッ バタン

シャニP「ただいま戻りました、って……おお、皆来ていたのか」
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:34:28.97 ID:VfNpJpls0
智代子「あっ、プロデューサーさんお帰りなさい!」

シャニP「おぉ、美味そうな匂いがすると思ったら、ハンバーグか」

夏葉「プロデューサーも食べてみて! 樹里のハンバーグってすごいのよ!」

シャニP「西城さんの? ……ん、美味いな」モグッ


咲耶「あ……プロデューサー!」ティン!

シャニP「皆、お疲れ様。フェスに向けたミーティングか?」

咲耶「あぁ、そうそう。
   凛、実は私は、こっそりプロデューサーと内緒の打合せをしていたんだ」

凛「えっ?」
シャニP「えっ?」

樹里「346のあのカタブツじゃなくて、283プロのプロデューサーとか?」

咲耶「ああ」


シャニP(咲耶、何の話だ?)ヒソヒソ

咲耶(すまないプロデューサー、この場は話を合わせてくれ……)ヒソヒソ
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:37:19.05 ID:VfNpJpls0
咲耶「当日まで秘密にしておきたかったのだけれど……仕方が無い」

咲耶「ほら、そろそろ近づいてきただろう?
   11月26日が何の日か、皆は知っているかい?」

卯月「11月26日?」

未央「それって……」


樹里「……ひょっとして、アタシの誕生日か?」

智代子「おおぉ、そ、そうでした!」ポンッ


咲耶「それに向けたサプライズを、プロデューサーと計画していたんだ」

咲耶「本当なら、この事務所に戻ってから作戦会議をすべきなのだけれど、
   時間が遅くなってしまうからと、彼が気を利かせて、346プロまで来てくれてね」

咲耶「そうだろう、プロデューサー?」
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:38:26.13 ID:VfNpJpls0
シャニP「あ、あぁ……
     ただ、俺も年頃の女の子に何をプレゼントするのが良いか、分からなくてさ」

シャニP「ちょうど皆にも、相談してみた方がいいんじゃないかって思ってたんだ。
     もっとも、西城さんもこの場にいたんじゃ、サプライズ計画もご破算だけどな」

咲耶「フフッ、そういう事さ」


夏葉「樹里への誕生日プレゼントなら、私に考えがあるわ!
   エプロンにしましょう!」

未央「エプロン? 何で?」

夏葉「こんなに美味しいハンバーグを作ってくれるなら、毎日でも食べたいでしょう?」

樹里「アタシを専属シェフにでもするつもりかよ」

卯月「じゃあ、はいっ!
   樹里ちゃんの新しいレッスンウェアとか、シューズはどうでしょうか?」

樹里「おー、それいいな卯月。ちょうどヘタッてきたから助かるぜ」

卯月「えへへ」ニコニコ
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:39:52.04 ID:VfNpJpls0
凛「なるほどね……それなら、秘密にしたがるのも無理はないか」

咲耶「分かってもらえて何よりだ」

樹里「ていうか……あれ?
   おい、チョコ、夏葉、ハンバーグどうした!?」

智代子「先ほど美味しくいただきました!」

夏葉「我ながら会心の出来だったわよ!」

樹里「後でソース作るっつったじゃねーか!!」

シャニP(あ、ソースも作る予定だったのか)


咲耶「おやおや……フフッ、まぁ次もこの機会を設けようじゃないか。
   樹里。この料理教室、今度は私にも手ほどきをしてくれないかい?」

樹里「別にいいけど、余計なスキンシップとかはナシだかんな」

咲耶「おっと、先手を打たれてしまったね」

樹里「する気だったのかよ」


凛(……まぁ、やっぱりいつもの咲耶、か)

凛(ただ……考えすぎかな。どことなく言い訳がましい気がしたような……)
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:41:05.37 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

咲耶「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー……!」タン! タンッ!


咲耶「……ッ…………フッ!」キュ! タタン! ビシッ!

咲耶「っ……はぁ……はぁ……」ガクッ


楓「とても良くなってきていると思います、咲耶ちゃん」

咲耶「そ、そうだろうか……フフ、アナタに言われると、自信になるよ」

楓「ふふっ」ニコッ



咲耶「……実は今日、少し危ういことがあったんだ」

楓「危ういこと?」

咲耶「この秘密練習について、凛達に疑われてね」

楓「まぁ」
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:43:24.17 ID:VfNpJpls0
咲耶「ひとまずは、ウチのプロデューサーの助けも借りて、何とかごまかせたのだけれど……」


スクッ

咲耶「この時間を皆に秘密にしているのは、独りよがりな私個人の意志だ。それでも」

咲耶「やはり楓……今一度、尋ねてもいいかな。
   どうしてアナタが、こんなにも私達に尽くしてくれるのかを」

楓「…………」


咲耶「……アナタが樹里と智代子を特別視していたのは、知っているよ。
   自分の仕事に、直々に指名して招待するほどだ」

咲耶「それと、関係があることかい?」



楓「……はい、そうです」

楓「端的に言えば……償い、ですね」

咲耶「償い……?」
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:45:16.15 ID:VfNpJpls0
楓「それ以上は、今は言えません……ごめんなさい、咲耶ちゃん」


咲耶「……ありがとう、楓。
   ではお返しに、私からも秘密を一つ明かそうか」

楓「えっ?」

咲耶「アナタだけでなく、他の誰にも明かしていない秘密さ」


咲耶「実は、先日の楓のミニライブ、私も観に行っていてね」

楓「えぇ。それは、凛ちゃん達からも聞いています」

楓「樹里ちゃんの行動を見守るために、咲耶ちゃんも凛ちゃん達も来ていたって」

咲耶「いや、違うんだ」フルフル


咲耶「私にとっては、樹里があの場にいた事こそが偶然だった」


楓「……それは、どういう…?」

咲耶「純粋に、楓……一ファンとして、アナタのライブを観に来ていたんだ」

楓「えっ」


咲耶「アナタがアイドルになる前……
   モデル時代から、私にとって高垣楓は憧れの存在だったのさ」
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:54:01.54 ID:VfNpJpls0
楓「咲耶ちゃん……」


咲耶「たまたま手に取った雑誌に、アナタの写真が載っていて……目を奪われた。
   この人のようになりたいと思って、モデルの勉強をしたんだ」

咲耶「高校生以上なら活動させてくれる事務所を見つけて、進学してすぐに契約した。
   前知識は十分に得たつもりだったけれど、なかなかアナタのようにいかなくてね……」

咲耶「少しずつ軌道に乗るようになってからも、私はアナタの後を追いかけ続けた。
   どんな細かい記事でもチェックをして、それで……アナタがアイドルに転身したことを知った」

咲耶「すると、今度はアイドルについて知りたくなったんだ」

咲耶「モデルとしても、あれほど脚光を浴びていた人が、何の前触れも無くアイドルになる……
   一体どんな魅力を見出したのか、興味を持つなという方が無理があるだろう?」


咲耶「そんな折、今の事務所のプロデューサーが、私をスカウトしてくれた」

咲耶「最初は、少し迷ったんだ。
   アナタと同じ事務所に行った方が、会える可能性も高まるんじゃないか、ってね」

咲耶「でも、私はあえて違う事務所を……283プロを選んだ。
   追いかけるだけでなく、いつの日か高垣楓と肩を並べる存在になるために」


咲耶「そして今……同じ立場で相まみえる日を待ち焦がれ続けた高垣楓が、私の目の前にいる」

咲耶「フフ……緊張を抑えるのに、私がずっと前から必死なのが分かるかい?」
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:55:51.02 ID:VfNpJpls0
楓「……そうだったんですか」


咲耶「アイドルに転身してからも、アナタの輝きは留まることを知らない。
   いや、それまで以上に眩い光を放ち続けている」

咲耶「楓……私には、アナタと二人でいるこの時間が、宝物だ」

咲耶「独り占めしたくて、だから……皆に教えたくなかった。
   こんな気持ちは初めてさ」

咲耶「私からアナタに贈る、二人だけの秘密……フフ、子供じみていると思うだろう?」ニコッ


楓「ううん」フルフル

楓「私が誰かにとって、強い想いを起こさせる存在になれたなら、
  とても光栄なことだなぁって思います」

咲耶「そうやってアナタは、他人事のように言うんだね」フッ

楓「そうでしょうか……そうかも知れません」
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:57:03.41 ID:VfNpJpls0
楓「我が事として捉える度胸が、私には足りていないのだと思います」

楓「畏れ多くて、同時に…………とても……」

楓「…………」

咲耶「……とても?」


楓「……一つ、分かりました」

楓「誰かからの秘密を預かるというのは、とても負担の大きい事なのですね」

咲耶「楓……?」


楓「咲耶ちゃん、ごめんなさい……それでも、まだお話はできません」

楓「ですが、一つだけ」


楓「私の秘密を預けている人が、一人だけいます」

楓「それは、咲耶ちゃんもよくご存知の人です。
  当時、たまたまお仕事でお会いした……283プロの人」
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:58:07.86 ID:VfNpJpls0
咲耶「283プロ……!?」


楓「関わり合いの薄い彼になら、中立の立場でそれを担ってくれると考えました。
  私の願いを、重荷とも思わないで済むような人になら、と」

楓「ですが……きっと、その方にも、負担を強いていたのでしょうね」

咲耶「か、楓……」


楓「察しがついたのなら、何かの折に、私が謝っていたとお伝えください」

楓「今度のフェスが終わった時に……私が、全て背負いますからと」

楓「だから……」



咲耶「……楓」

咲耶「ひとつ私から、提案したいことがある」
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:59:28.26 ID:VfNpJpls0
今回はここまで。
次回は明日の夜8時〜11時頃の更新を予定しています。
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:11:36.34 ID:VfNpJpls0
〜283プロ 社長室〜

美城「同じ事務所にいながら、私が高垣楓の動向を把握していないとでも?」

天井「把握していると思ったさ」

天井「動揺のあまり、あなたがこうして私の元へ駆け込んできた事も、
   私は実に趣深いものだと思っている」

美城「それが悪ふざけに留まらないことを貴方は知るべきだ」


天井「気づいていたか。ウチの白瀬咲耶の思惑に」

美城「つい先日の事です。
   弊社の事業部の者と、あなたは接触していたそうですね」



美城「一体何を考えている、天井努」

美城「パンドラの箱、と貴方は言ったが、
   まさしくそれを開けば、これに携わる誰もがタダでは済まされなくなるのだぞ」
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:13:02.05 ID:VfNpJpls0
天井「……フッ。情というのは、厄介なものだな」

美城「何?」


天井「最初は、安い用だと思ったものさ」

天井「だが、知れば知るほど、時が経てば経つほど……無視できないものになっていく」


天井「彼女は十分この業界に尽くし、かけがえのないものを与え続けてきた」

天井「最期の頼みの一つくらい、叶っても良いだろう」

天井「私が考えていることは、それだけだ」
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:14:13.31 ID:VfNpJpls0
〜後日、346プロ レッスンスタジオ〜

夏葉「ワン、ツー、スリー、フォー!」タンッ! キュッ タタン!

凛「……! ……ッ!」タタンッ! タッ!

樹里「よっ……っ……!」キュッ! タタッ! タン!


武内P「……十分な仕上がりであると思われます」

シャニP「えぇ。違う事務所同士なのに、ここまで息が合うとは」

シャニP「あなたのご指導と、あなたについていこうという皆の気持ちの表れですよ」

武内P「いえ。ひとえに、皆さんの緻密な練習の成果、それに……
    培われた絆の深さによるところです」

武内P「それと、手前味噌にはなりますが……」チラッ


楓「……いえ、私は何も」

シャニP「ああ、仰る通りですね。
     高垣さんのサポートがあってこそ、皆は頑張ってこれました」

楓「いえ、そんな……ありがとうございます」ペコッ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:15:49.81 ID:VfNpJpls0
智代子「……とぁ!」タン タンッ! ビシッ!

智代子「はぁ、はぁ……えへへ、どう、卯月ちゃん!?」

卯月「どうって……凄すぎて、私なんかじゃケチつけられないです!」

智代子「ほ、本当!?」

未央「うんうん、相当練習してきたんだもん。
   この未央ちゃんも太鼓判、たくさん押しちゃうよ!」

卯月「はいっ! 智代子ちゃん、これまでよく頑張りました!」ギュッ

智代子「や、やった……!」グッ…!


智代子「夏葉ちゃん! 約束の八ツ橋、ご馳走してくれるよね!?」クルッ

夏葉「まったく……あなたって子は、しょうがないわね」

夏葉「今度周子に言っておくわ。たくさん種類があるものをお願い、ってね」ニコッ

智代子「オホォォーー!!(裏声)」ガッツ!

凛「アイドルが出しちゃいけない声出してる……」

卯月「それにしても、周子ちゃんのご実家だったんですね。
   夏葉さんが懇意にしている京都のお店って」

夏葉「あら、言ってなかったかしら?」
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:16:56.47 ID:VfNpJpls0
樹里「……みんな悪ぃ。間奏部分がちょっとズレちまった」

樹里「もう一度通しで合わせてぇ。休憩したら、もっかいいいか?」


未央「……ジュリアンってさ、修行僧?」

樹里「しゅ、修行僧!?」

卯月「傍から見てても、すっごくレベルの高いパフォーマンスだなぁって。
   ね、楓さんもそう思いませんか?」

楓「はい。とてもすごかったです」

樹里「つっても、せっかく皆でやるんだし、
   少しでも良いモンにしたいっていうか……」ポリポリ…



咲耶「…………ッ」グッ グッ…



夏葉「……咲耶、どうしたの?」

咲耶「あぁ……」


咲耶「ッ ……いや、何でもないんだ」
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:18:24.43 ID:VfNpJpls0
夏葉「足が痛むの? そこに座って、ちょっと見せて」

凛「え……」

咲耶「すまない……ッ」グッ


智代子「さ、咲耶ちゃん……!?」

樹里「おい、大丈夫かよ?」

シャニP「咲耶!?」

武内P「…………」

ザワ…


夏葉「……」グッ グイッ

咲耶「……ッ」ズキッ

夏葉「……ここは痛む?」グッ

咲耶「いっ、いや……ッ」

夏葉「正直に言いなさい。
   隠したって、何もあなたや私達のためにはならないわ」
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:19:45.81 ID:VfNpJpls0
咲耶「す、ッ……すまない、ぐ……!」ズキンッ

卯月「咲耶さん……!」

シャニP「咲耶、大丈夫か!?」


夏葉「…………」スクッ


夏葉「プロデューサー。今からメンバーの変更はできる?」

武内P「……!」ピクッ


夏葉「これまでの居残り練習で、無理が祟ったようね」

夏葉「正確な症状は、お医者様に診せないと分からないけれど、
   今の咲耶の反応から考えられるのは、足首の捻挫」

夏葉「外くるぶしの靱帯が断裂しかけている可能性がある……
   もしそうなら、とてもステージに立てるような状態じゃないわ」

咲耶「ッ…………!」


武内P「あ、有栖川さん……」

夏葉「質問に答えてちょうだい。今から『TAKE−UC』のメンバーの変更は?」
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:21:05.56 ID:VfNpJpls0
未央「そ、そんな!」

卯月「これまで、あんなに頑張ってきた咲耶さんが……」


武内P「……2日前までであれば、事務局に届けを出せば、変更は可能のはずです」

凛「ちょっとプロデューサー!」

樹里「凛」スッ

凛「じゅ、樹里……!?」

樹里「爆弾抱えてるヤツに、無理をさせるべきじゃねぇよ」


グッ…!

樹里「…………ッ」

智代子「樹里ちゃん……」


咲耶「すまない、みんな……ッ」


シャニP「だが、咲耶の代わりになれる人が、今から探して見つかるとは…」
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:22:09.34 ID:VfNpJpls0
咲耶「いるさ……」

シャニP「えっ?」

一同「!?」ザワッ


咲耶「適任が一人……私達のサポートをしてくれた」

咲耶「……お願いだ、楓」



楓「…………」


凛「か、楓さん……!」

夏葉「そうよ。楓なら、ダンスもボーカルも文句の付け所が無いレベルで体得しているわ!」

智代子「こんな豪華な人に、代役を頼めるなんて……!」


樹里「……楓さん」

樹里「お願いします。アタシ達、こんなトコで終われないんです」スッ
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:25:06.80 ID:VfNpJpls0
楓「…………衣装」

樹里「えっ?」


楓「身長は同じくらいですけれど……きっと胸のところが、余っちゃいますね」

楓「私は、咲耶ちゃんほど立派なものを持っていませんから。ふふっ♪」ニコッ


樹里「な゛っ!!?」カァー!

武内P「丈はそのままで、バストの部分を調整が可能か、衣装担当に確認をしておきます」スラスラ

樹里「何でアンタは平然としてんだよ!」

武内P「す、すみません」

夏葉「なるほど、そういう所にも気を配らなければならないのね」フ-ム

智代子「咲耶ちゃん並みにおっぱい大きい人もそうそういないし」

樹里「おっぱい言うな!!」クワッ!

未央「ジュリアン、声でかい」
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:26:43.24 ID:VfNpJpls0
卯月「楓さんが、凛ちゃんや樹里ちゃん達と……!」


凛「……咲耶の分まで頑張ってくるから、私達」

夏葉「しっかり治しておきなさい。捻挫はクセになりやすいから」

智代子「このユニットだって、フェスで終わりにしたくないもん!
    ね、樹里ちゃん?」

樹里「当たりめーだ。
   一度も咲耶とステージやらねぇまま解散なんてバカバカしい話あるかよ」ニカッ


咲耶「皆……」

咲耶「……楓も、ありがとう」

楓「いいえ。私がお役に立てるなら、お安い御用です」ニコッ


樹里「そうと決まれば、すぐ合わせようぜ。
   楓さん、ご準備お願いできますか?」

楓「はいっ、樹里ちゃん」



樹里「よっし。じゃあ皆、せーの…」
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:30:05.53 ID:VfNpJpls0
〜夜、961プロ〜

ダンッ!

黒井「高垣楓が白瀬咲耶の代わりに出るだとぉ!?」ガタン!

『はい、そうです』

黒井「私に何の相談も無しに勝手に決めるなどと、よくも軽々しく…!」

『現場の陣頭指揮を執ることを私に命じたのは、あなたのはずです』

黒井「勝手をしろと命じた覚えは無い!
   貴様というヤツは、つくづく都合の良い解釈を……!」


『なぜ、高垣をそうまで恐れるのでしょうか』

黒井「……私が恐れている、だと?」ピクッ


『弊社としては、このプロジェクトクローネに協力するために、
 申し分の無い実力を持つアイドルをご用意したつもりです』

『相談も無く、事後報告となってしまった事については、お詫びします。
 ですが、彼女にご不満を持つ理由が、あなたにおありでしょうか?』


黒井「それを貴様に教える必要は無い」

『理由が、あるのですね?』
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:31:06.80 ID:VfNpJpls0
黒井「余計な詮索はしない方が身のためだぞ」

『分かりました。それでは、失礼致します』

ガチャンッ



黒井「…………」ギシッ

黒井(346プロを強請るための、格好の材料だと思っていた)

黒井(だがアレは……私の想像を超える爆弾だ。
   961や346だけでない、業界全体をも揺るがしかねないほどの……)

黒井(それが、最も起爆してはならない時と場所で……!)


黒井「……」ガチャッ

プルルルルル…!


黒井「私だ」

黒井「当日は全員呼べ」


黒井「……いいから全員だっ!!!」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:33:32.07 ID:VfNpJpls0
〜961プロ寮 武内Pの部屋〜

武内P「……」ピッ

樹里「また黒井のヤツからうるせーこと言われたのか」コトッ

武内P「いつものことです。しかし……」

樹里「しかし?」


武内P「黒井社長は、明確に高垣さんを特別視しています。
    それは、彼女がトップアイドルである事とは、おそらく別の何かが……」

樹里「…………」

武内P「きっと当日は、何かしらの手立てを工作してくるものと思われます。
    どのような者達が介入に現れるか分かりません」

武内P「気がかりなのは、先日渋谷さんからお聞きした話です。
    黒井社長が美城常務に対し、高垣さんの失脚を示唆するような話があったと」

武内P「一体、何を意図しているのか……せめて相手の狙いが分かれば、対処が……」


樹里「今さらそんな難しいこと考えんなよ」

武内P「西城さん……」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:35:33.64 ID:VfNpJpls0
樹里「眉間に皺寄せてばっかいるから、そんな辛気臭いツラになんだよ」

樹里「ほら、布団のシーツ、洗って替えといたぜ。もう寝ろよ」

武内P「……ありがとうございます。しかし私は…」

樹里「寝れねぇってんだろ?」

樹里「でも、横になって目を瞑りゃ、少なくともずっと起きてるよりはマシだ。
   つべこべ言ってないで、ほら」ポフッ

武内P「は、はぁ……」


武内P「……あ、あの、西城さんは…?」

樹里「あ、アタシはアンタが寝たのを見届けてから部屋に戻るよ!
   なんか、その……」モジモジ

樹里「アイツらから、た、頼まれてっからさ……
   プロデューサーをちゃんと休ませろって……同じ寮に住んでんだから、って」

武内P「そ、それは……ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」

イソイソ…


樹里「…………」ゴクリ…
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:39:33.31 ID:VfNpJpls0
――――


樹里『はぁ!? そ、添い寝だぁ!?』ドキッ

未央『やっぱりプロデューサーの心身の健康のためには、これしか無いかと』ウーム

凛『樹里にしか頼めないことなんだ』

樹里『自分が何言ってるか分かってんのか!? 出来るワケねぇだろそんなの!!』

夏葉『ベビーヒーリングタッチと言って、
   母親からのスキンシップが子供に心身の健康を与えるという医学的論拠もあるのよ』

樹里『とっくにベビーじゃねぇだろアイツ!!』

智代子『大切な人とそばにいる安心感を与えるって意味では、同じことじゃない?』

卯月『大丈夫です! 危ないことになりそうだったら私に電話してください!』

樹里『電話してどうしろってんだよ! ていうか危ねぇこと想像してんじゃねぇか!!』

咲耶『お願いだ、樹里……』 ←真剣な眼差し

楓『樹里ちゃん……』 ←何とも言えない眼差し


樹里『……〜〜〜〜ッ!!』


――――
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:40:53.26 ID:VfNpJpls0
武内P「さ、西城さん……寝ました」

樹里「寝てねぇじゃねーか」

武内P「ね、寝ます。なので……電気を消していただけると……」

樹里「あ、あぁ……」

パチッ フッ…



武内P「…………」


「お、おい……プロデューサー」


武内P「……何でしょう」


「壁の方に、横になった方が……寝やすいらしいぜ」

武内P「え?」

「い、いいからっ。ほら……横向きになって」


「あと……もうちょい、そっちに身体、寄せて……」
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:42:21.29 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ゴソゴソ…

武内P「こ、これで、よろしいでしょうか?」


「あぁ……」


武内P「…………」



スッ…


モゾモゾ…


武内P「……!?」

ソッ…


武内P「さ、さぃ……!?」

「こっち向くんじゃねぇぞ……」


武内P「こ、これは一体……?」



「きょ、今日は……これで、寝させてくれ……」
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:43:55.61 ID:VfNpJpls0
武内P「西城さん……」


「大変だったよな……」

「ほんと……アタシ達のために、すっげぇ頑張ってくれて……」

「皆……感謝してる」



「今回だけだ」

「今夜だけ……そばで寝させてくれ……」


武内P「……はい」



「寝るぞ……おやすみ」


武内P「はい……おやすみなさい、西城さん」



武内P「…………」
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:45:52.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


「…………」

「……ん…………む……」

  あっ、起きた?
  えへへ、お寝坊さんだね、プロデューサーさんっ♪

「これは……」

「!? あ、あなたは…!」

  あ、ダメダメ。
  まだそのまま寝てて。プロデューサーさん、ずっと働き詰めなんだもん。

  私の膝なら、いくらでも大丈夫だから。気にしないで、ねっ?

「……私は」

  大きなプロジェクトを任されてるんだね。
  色んな事務所の子達を担当するって、大変そう。

  でも、すごく嬉しいよっ。
  私の大好きなプロデューサーさんが、そんな立派なことをしてるなんて。

「私は……」


  私のことなら、気にしないで。
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:52:38.92 ID:VfNpJpls0
「…………」

  今のあの子達を、プロデューサーさんは大切にしてあげなきゃダメだよ。

  特に、西城樹里ちゃん。

  私に似て……って言うと失礼だけど、
  きっと自分の気持ちを表現するのが苦手な子だから。

  だから、ちゃんと見て、手を差し伸べて、気持ちを引き出して上げて。
  根は素直な子なんだから、お世話してあげればちゃんと応えてくれるはずだよ。

  お花のようにねっ。

「……はい、その通りです」

  あれ?
  そっか、私がわざわざ言うまでも無かったよね。ごめんなさい。


「いいえ……あなたに教えられたのです」

「それを彼女達は、思い出させてくれました」

「あなたも含め、皆さんには……感謝しても、しきれません」


  うんっ。


――――

――――――
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:53:23.17 ID:VfNpJpls0
――――


武内P「…………」

武内P「……ん…………む……?」


樹里「やっと起きたか」

武内P「……? さ、西城さん!?」ガバッ!

樹里「ハハハ、寝ぐせついてるぜ」

武内P「……!?」サッ


チュン チュン…


樹里「おはよう、プロデューサー」クスッ


武内P「……はい」

武内P「おはようございます、西城さん」ニコッ
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:56:03.38 ID:VfNpJpls0
――――――

――――


  >咲耶ちゃんOUT 楓さんIN ってマ?
  >最初からそうしとけや、めっちゃ期待するけど
  >咲耶ちゃんだってぬか喜びしなくて済んだしな
  >ええぇ、ワイめちゃくちゃショックなんやが……楓さんなんていつでも見れるやん

  >センターは西城樹里が不動か?
  >楓さん入るんだったらさすがに譲るだろ
  >西城エアプか?
   あの図々しさ考えたらありえんわ
  >ここにも西城叩きいるのかよ、いい加減ウザいぞ
  >でも一歩引いてる奥ゆかしさが楓さんらしい
  >961関係無しに今からリーダー変えんの普通無くね?

  >夏葉ちゃんやチョコちゃんって楓さんと何話すんだろ?
  >楓さんはクッソしょうもない話でもニコニコしながら相槌打つ聞き上手だぞ
  >智代子ちゃん大喜びでカレーの作り方とか熱弁してそう
  >夏葉ネキ「楓さん、一緒にトレーニングするわよ!」ダンベル ドサー
  >楓さん「背筋を鍛えた身体でハイキング、なんて、ふふっ」
  >凛渋谷「普通全裸でやるよね?」
  >唐突な名誉G民のしぶりんで草
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:58:03.08 ID:VfNpJpls0
〜『クリスタルウィンター』当日、会場 スターリットドーム〜

ドォォォォォ…!


智代子「お、大きい会場だねぇ……」

卯月「は、はい……目が回りそうです」


武内P「スターリットドーム……」

武内P「スターリットシーズンという、アイドルの頂上決定戦に相当するイベントがあり、
    その最終戦の舞台となった会場です」

武内P「スターリットシーズン以後、イベント中に行われた四季大会は通年イベントとして残り、
    冬のイベント『クリスタルウィンター』の会場は、今もこのスターリットドームとなっています」

凛「その四季大会っていう中で、一番大きいものが、『クリスタルウィンター』ってこと?」

武内P「実質的には」
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 20:59:41.49 ID:VfNpJpls0
未央「へぇぇ、海外のアーティストとかも御用達にするんだって」スイッ スイッ

樹里「超有名な人達もいんじゃねーか、マジかよ……!」

凛「樹里って洋楽も聴くんだったっけ、そう言えば」


夏葉「臆することは無いわ、樹里!」バァーン!

樹里「いちいち後ろからデケぇ声出すなよ」

夏葉「それだけ私達がこの会場に相応しいアイドルになったということよ。
   日々の努力が実を結んだ事を、まずは誇りに思いましょう」

シャニP「ああ、夏葉の言うことはもっともだ」

卯月「こういう時の夏葉さん、本当に頼もしいですっ」ギュッ
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:00:58.51 ID:VfNpJpls0
咲耶「楓は、この会場で歌ったことはあるのかい?」

楓「うーん……2、3回、来たことがある気がします」

智代子「あ、あるんですか……」

楓「と言っても、単独ライブなどではありません。
  いずれも、ご招待いただいて、1曲程度歌っただけのもので」

未央「それでもめちゃくちゃ凄いよぉ、楓さん!」

卯月「はいっ! やっぱり楓さんは、私達の憧れです!」

楓「ふふ……」ニコッ

咲耶「…………」


凛「プロデューサー。
  リハーサルの時間まで、振りを確認したいんだけど」

武内P「事務局に確認し、裏手の搬入スペースをご案内いただきました。
    資材搬入を終えた後であれば、自由に使っても構わないそうです」

夏葉「助かるわ。ありがとう」
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:02:55.14 ID:VfNpJpls0
武内P「私は、関係者への挨拶と出場の手続きを行ってまいりますので、
    彼女達の引率をお願いできますでしょうか?」

シャニP「分かりました」

樹里「あ、あのさ、プロデューサー」

武内P「? 西城さん、何か」


樹里「……いや、悪ぃ。やっぱ後でいいや」ポリポリ


武内P「?」

未央「何だよジュリア〜ン、らしくないなぁスパッと言っちゃえよぉ」ウリウリ

樹里「う、うっせぇな! いいんだよ、大した用じゃねぇから!」

凛「ふーーーん?」クスッ

樹里「何笑ってんだよ凛!!」ムキー!
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:03:52.31 ID:VfNpJpls0
武内P「……?」ポリポリ

シャニP「ふふ。行きましょうか」

武内P「はい」

スタスタ…



夏葉「ところで……咲耶、今日出れなかった事だけれど」

咲耶「おっと。夏葉、そういうのは言いっこなしだと言っただろう?」

夏葉「えぇ、そうね。でも、聞きたいことがあって」


夏葉「あなたの足、お医者様には診てもらった?」


咲耶「……ああ」

夏葉「お医者様は、何と?」

咲耶「…………」
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:05:33.10 ID:VfNpJpls0
夏葉「あなたはつまらない嘘をつく子ではないのを、私は知っているわ。
   “ただの一度”を除いて、ね」

夏葉「だから、あなたは黙っている」


夏葉「本当は何とも無かったんでしょう?」


咲耶「……やはり、気づいていたか」

夏葉「あなたの足を見た時にね。上手く演技をしたつもりでしょうけれど」

夏葉「そして、自分の代役として楓を提案したのもあなただった」


夏葉「一体、何を考えているの?」



咲耶「……謝らなければならない事がある、夏葉」

咲耶「皆に嘘をついたのは、“ただの一度”ではないんだ」
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:06:32.64 ID:VfNpJpls0
夏葉「咲耶……」

咲耶「すまない、夏葉。皆には黙っていてほしい」

咲耶「彼女の想いを尊重したいという、私からの願いだ」


夏葉「……彼女?」チラッ


咲耶「あぁ、そうだ」

咲耶「夏葉こそ、何か意図があって私の演技を見逃してくれたのだろう?」


夏葉「あなたは無意味なことをしないと思ったからよ」

夏葉「でも今は……それがネガティブな結末を招かないことを祈るばかりだわ」


咲耶「……そうだね」
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:07:56.88 ID:VfNpJpls0
ガヤガヤ…


スタスタ…

武内P「……」キョロキョロ



ちひろ「あっ、プロデューサーさん、お疲れ様です!」スッ


武内P「千川さん……いらしていたのですか」

ちひろ「もちろん。彼女達の晴れ舞台ですから」

ちひろ「あ、今西部長もお越しになられていますよ。
    アイドルの子達の様子を見に行くって仰っていました」

武内P「そうでしたか」

ちひろ「受付会場を探していたんですよね?」

武内P「はい」


ちひろ「大丈夫です。私が既に済ましておきましたから!」エッヘン
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:09:19.26 ID:VfNpJpls0
武内P「えっ?」

ちひろ「ほら、これが『TAKE−UC』の受付票です。
    ちゃんと今日のメンバー変更も反映されていますよ」サッ

武内P「……確かに。ありがとうございます、千川さん」ペコリ

ちひろ「いえいえ、これくらい何でもありません。
    その分、プロデューサーさんはアイドルの子達についてあげてください」

ちひろ「ほら、行きましょう」グイッ

武内P「せ、千川さん?」

ちひろ「皆、裏手の方にいるんですよね? 早く合流しましょう、さぁさぁ」グイィッ

武内P「あ、あの……」

スタスタ…



スッ

黒服達「…………」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:10:43.97 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

冬馬「な、何でお前らまでいんだよ!?」

樹里「それはこっちの台詞だぜ! アタシらの場所を横取りすんじゃねぇ!!」

冬馬「俺達の方が先だったじゃねーか!!」

樹里「いーやアタシらが先だ!!」

シャニP「あぁぁこらこら、二人ともケンカは良くないぞ」


凛「……ジュピターの人達と鉢合わせるなんてね」

翔太「ま、一番近い練習場所がココなんだし、そりゃ被っちゃうのもあるよねー」

北斗「その辺にしとけよ、冬馬。みっともないぞ」


冬馬「ふんっ!」ムスッ

樹里「ヘンッ!」プイッ


卯月(何だか似てますね、あの二人)ニコッ

未央(しまむー、それ言ったら絶対怒られるからやめようね?)
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:12:35.99 ID:VfNpJpls0
夏葉「でも、本番前の良い刺激になるかも知れないわ。
   お互いにリハを見せ合うというのはどうかしら?」

翔太「えぇー? さすがに手の内を本番前に見せちゃうのはどうかなぁ」

北斗「本来であればな。だが、麗しいレディからの頼みとあれば話は別だ」

冬馬「別なワケねぇだろ! 敵の誘いに応じる理由なんかねぇぜ!」


咲耶「確かに、この場にいる皆はお互いに事務所が違う。
   今日だけでなくこれからも、立場上はしのぎを削り合うライバル同士、という事になるね」

咲耶「だが、同じアイドルだ」

咲耶「志を同じくする仲間同士、お互いを分かち合おうじゃないか」バチコーン☆


樹里「ったく、また咲耶はそうやってキザなこと言って」

冬馬「お、おう……べ、別にお前らなんて仲間なんかじゃ…」ポッ

樹里「効いてんじゃねーよ」

楓「楽しいリハーサルになりそうですね♪」ニコッ


コツ…

今西「やぁ。皆揃っているね」

未央「あっ、部長さーん!」フリフリ
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:14:19.88 ID:VfNpJpls0
シャニP「これは、今西部長。どうもお疲れ様です」ペコリ

今西「あぁいや、283プロのプロデューサーさん。
   どうか私に畏まらないでください」

今西「お世話になっているのは、こちらの方ですからね。
   私共のプロデューサーを、よくサポートしてくださった」

シャニP「いえ、俺にできることをしただけですから」


シャニP「それに……彼は本当に素晴らしいプロデューサーだと思います」

シャニP「自分もこうあれたらと……
     真摯に目の前のアイドル達と向き合う姿勢は、俺の目標です」


今西「そうですか……」

今西「それが今日、結実する日になる。
   裏方として携わる私も、心より祈っているよ。

今西「無事にステージを完遂できることを、ね」

一同「はいっ!!」


楓「……はい」

今西「…………」
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:16:27.93 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

コツコツ…


武内P「……?」

ちひろ「本当に大きな会場ですねー。
    使用料も見たことない金額で驚きましたよ」

ちひろ「主催側で使用するのは、そうそう無いでしょうね。
    あっ、でも共催なら費用負担を多少解消できるかも、なんて♪」

武内P「は、はぁ……」


コツコツ…


武内P「あの、千川さん……皆さんがいるのは、こちらではな…」

ちひろ「ええ、分かっています」

武内P「えっ?」
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:17:37.10 ID:VfNpJpls0
ちひろ「本番前にもう一度、プロデューサーさんとお話をしたかったんです。
    二人きりで、ね」

武内P「千川さん……」

ちひろ「プロデューサーさんは、ご存知ですか?」

コツ…

ちひろ「今日、楓さんがステージの上で何をするつもりなのかを」

武内P「高垣さんが?」



ちひろ「楓さんは、全てを暴露するつもりなんです」

ちひろ「346プロや961プロが、これまで行ってきた所業の数々を」

武内P「!!?」


ちひろ「ふふっ。そのご様子だと、知らなかったみたいですね」
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:19:39.42 ID:VfNpJpls0
武内P「一体何を……どういう事ですか、千川さん!?」

武内P「なぜ、高垣さんがそのような事をする必要があるのですか!?」

武内P「いえ、そもそもなぜ高垣さんがその事を知って……!?」


ちひろ「私も、今西部長からお聞きした話ですから、詳しいご事情までは把握できていません」

ちひろ「でも、部長が仰ることには……全ての遠因は、楓さんにあると言います」

ちひろ「そして、346プロは楓さんを守りすぎた」

武内P「……守りすぎた?」

ちひろ「そこを961プロにつけ込まれた、という見方もあるそうなのですが……でも」


ちひろ「楓さんは、ずっと一人で罪の意識に苛まれていました」

ちひろ「事実として、プロデューサーさん……
    あなたの命も、その証拠を抹消せんとする常務達の手によって、危ぶまれています」

武内P「…………」


ちひろ「でも、楓さんがその前に明らかにしてしまえば……
    常務達は、プロデューサーさんを手に掛ける理由を失うことになります」
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:22:04.42 ID:VfNpJpls0
武内P「馬鹿な……」

ちひろ「分かりますか? プロデューサーさん」

ちひろ「彼女が表舞台でそれを公表することは、あなたを守るためでもあるんです」

武内P「で、ですが!
    それをしたら彼女どころか、346プロが築き上げたブランドイメージが崩壊します!」

武内P「346プロだけではありません。961プロも、283プロも……
    およそアイドル業というものが成り立つ前提たる“信用”が根底から覆ることに……!」

武内P「もしそれが事実なのであれば、今すぐ止めさせ…!」ダッ!

ギュッ

武内P「!? せ、千川さんっ……?」


ちひろ「私にとっては、あなたが助かることの方が大事です」

ちひろ「アイドルが……私達の仕事が、台無しになるとしても……
    ひ、人が死んじゃうよりは、ずっと……!」


武内P「……それはあなたの本心ではないはずです、千川さん」

ちひろ「えっ……?」
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:25:08.86 ID:VfNpJpls0
武内P「誰よりもアイドルを愛するあなたが、
    その輝きが奪われることを良しとするはずがありません」

武内P「そして、それを支える仕事を、ご自身ができなくなることも」

武内P「いいえ……たとえそれが本心であったとしても」

武内P「私はプロデューサーとして、彼女達のステージを見届ける義務と責任があります」


ちひろ「プロデューサーさん……」

武内P「まずは、高垣さんと話をしてきます。
    事実確認ののち、必要であれば説得やメンバー交代など、必要な調整を」

武内P「そうするであろう事を、私に期待したからこそ……
    あなたも、高垣さんの事を私に話してくれたのではないでしょうか」


ちひろ「……やっぱり、プロデューサーさんはプロデューサーさん、ですね」クスッ

ちひろ「だとしたら、気をつけてください」

ちひろ「既に……狙われています」


ザッ…


武内P「ええ。知っています」
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:26:05.35 ID:VfNpJpls0
武内P「千川さんも、お逃げください」

ちひろ「私のことなら心配いりません。さぁ、早くっ!」

武内P「! ……失礼」ダッ!

タタタッ!


ザッ!

黒服達「追え!」「生かして捕らえろ!」


ちひろ「……!」クルッ

ちひろ「止まってくださいっ!!」バッ!

黒服達「!?」


ちひろ「どうか……どうかあの人の好きにさせてあげてくださいっ!!」ポロポロ
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:28:03.24 ID:VfNpJpls0
〜裏手〜

キュッ! タタン タンッ! ザッ!


夏葉「……ふぅ! 良い仕上がりね!」

樹里「はぁ、はぁ……ヘヘッ。あぁ!」

智代子「わ、私も変なところ無かったよね? ね!?」

凛「当たり前でしょ。今までよりすごく良かったよ、智代子」

智代子「や、やったぁ! えへへ!」

楓「ふふっ♪ 皆さん、動きが軽やかですね」


冬馬「ふーん……まぁ、思ったよりやるようだな」

卯月(これは、“大絶賛”ってことでいいんですか?)コソコソ

翔太(ご明察)ニコッ

冬馬「聞こえてんだよっ!!」
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:29:39.73 ID:VfNpJpls0
北斗「まいったな……これは相当なプレッシャーだ」

未央「えへへー、ウチのアイドル達の凄さ分かっちゃった〜?」ウリウリ

樹里「何で未央が得意になってんだよ」

咲耶「誇りに思うのも無理はないさ、樹里。
   皆の努力を間近で見てきて、誰よりもそれを分かっているのだから」

咲耶「もちろん、私もね。自慢くらいさせてくれたっていいだろう?」ニコッ

樹里「……ヘッ、まだ早ぇってんだよ」ニヤッ

夏葉「樹里の言う通りよ。そして、その時はすぐそこまで来ているわ」

咲耶「……あぁ」


卯月「ううぅ、ドキドキします……!」ギュッ

凛「心配しなくていいよ、卯月。私達なら大丈夫だから」

卯月「凛ちゃん……はいっ」


智代子「ねぇ、樹里ちゃん」
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:32:31.92 ID:VfNpJpls0
樹里「ん?」

智代子「本当にありがとね。
    樹里ちゃんがいたから、今の私があるんだなぁって」

樹里「よせよ、こんな時に」

智代子「こんな時だから、言うんだよ」


智代子「あの時、ひどい言葉をぶつけて……ごめんなさい、樹里ちゃん」

智代子「そして、私をここまで連れてきてくれて、ありがとう」


樹里「……そっくり、アタシも同じ言葉を返すよ、チョコ」

樹里「アタシはずっと、チョコに謝りたかった。
   チョコのためだけにアイドルやってた……そのはずだったのにな」

智代子「樹里ちゃん……」


樹里「チョコだけじゃない。
   夏葉も咲耶も、凛も、未央と卯月、楓さん……プロデューサーも」

樹里「皆との出会いが無かったら、今のアタシは無かったんだ」
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:36:28.19 ID:VfNpJpls0
凛「樹里……」

咲耶「フフッ。珍しくセンチメンタルな事を言うんだね、樹里」

夏葉「緊張しているの?
   私と一緒にステージに立つことの何が不安なのかしら」ファサッ

樹里「口の減らねぇヤツらだな、ホントによ」


樹里「特に、楓さん」

楓「……私?」


樹里「あの日の楓さんのステージを……いや、なんつーか……
   楓さんのアイドルやファンに対する立派な姿勢を、見ることができたから」

樹里「それまで正直、嫌な世界だなって思ってたアイドルの事を、初めて好きになれた……
   そのきっかけが、アタシにとっては楓さんで、目標を見つけた瞬間だったんです」


楓「樹里ちゃん……」


樹里「ありがとうございます、楓さん。
   たくさん失礼な事を言っちゃったけど、それはステージで返します」

樹里「だから、改めて今日は、よろしくお願いします」ペコリ
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:37:33.88 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

樹里「ていうか、アイツおせぇな。まだ来ねぇのかよ」

凛「確かに……とっくに手続きは終わってるはずなのに」

未央「まぁー、これだけ大きい会場だとさ、挨拶しに行く人達もいっぱいいるんじゃない?」

智代子「そろそろ衣装に着替えて準備しとかなきゃだよね? 私達」

シャニP「お、俺何もしなくて大丈夫だったのかな……?」ソワソワ


ヴィー…! ヴィー…!

楓「!」

楓「……すみません、携帯が。ちょっと失礼しますね」スッ

卯月「え? あ、はい」

スタスタ…


咲耶「……?」
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:40:44.43 ID:VfNpJpls0
〜来賓ルーム〜

トクトクトク…

天井「そろそろ開演の時間ではあるが……
   舞台裏では、ある意味本番と呼べる事態が既に起こっているようだ」

天井「賑やかな事だな、黒井?」コトッ

黒井「フンッ! 私だって本意ではない。
   我が961プロの貴重な人員を、こんな事に割かなければならんとは……」

黒井「貴様の事務所で高垣楓の出場を止めていれば、こんな事をせずとも済んだのだ、美城」


美城「それを言うなら、あなたも同じことです、黒井社長」

黒井「何?」

美城「プロジェクトクローネ……そして、『TAKE−UC』の監督権は貴方にある」

美城「それほど危険視しているというのなら、
   あなたがユニットの出場を取り止めれば良かったのでは?」

黒井「そんな真似、できるはずがあるか!
   我が961プロの看板を背負わせているのだぞ、あの者達には!」

黒井「出場取り止めなどすれば、我が事務所の末代まで残る汚点だ!」
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:43:27.73 ID:VfNpJpls0
天井「なるほど……大したタマだよ、美城常務」

天井「黒井がそう考えることも見越して、
   あなたはプロジェクトクローネを黒井に譲ったという事か」

美城「それは、半分は正しくありません」

天井「? 半分とは?」


美城「正直に申し上げましょう。
   確かに、黒井社長の行動を制限することを狙いとし、私はクローネを明け渡しました」

黒井「……」

美城「ですが、私にとって何より計算外だったのは、高垣楓の暴走です」

美城「そして、あのように衆目を集めてしまっては、もう止めることはできません。
   今から高垣楓を止めれば、その不自然さがあらぬ疑惑を生む」

美城「それに、このフェスの出場を止めたとしても、彼女にとっては別の機会がいくらでもある」

美城「つまり……私には打つ手が無かった、という事です」


天井「それは違うな」

美城「……」ピクッ
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:46:28.92 ID:VfNpJpls0
天井「手段さえ選ばなければ、高垣楓を止める術はあったはずだ」

天井「世論から向けられる疑惑なども、メディアを利用して誘導すれば、
   その情報を操作する事だって、あなたの事務所なら苦ではないだろう」

美城「…………」


天井「なぜそうしなかったか…… 
   それは、あなたが純粋に彼女のステージを見たかったからではないのか」

天井「高垣楓を……いいや、西城樹里をはじめとする『TAKE−UC』の晴れ姿を」

天井「お前もきっと同じだろう? 黒井」


黒井「……今、私の者達がヤツの身柄を押さえるために奔走しているが、
   それは美城、貴様に先を取られないようにするためだ」

黒井「だがもし貴様が、我らの過去の行いが衆目に晒される事を諦めているのなら……
   貴様はもう、あの男をどうするつもりも無いという事かね?」


美城「……いいえ、黒井社長」

美城「打つ手が無い、と私が言ったのは、彼女の暴走についてです」

美城「私の目は、既に事が起きた後の処理について向いています」
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:47:04.02 ID:VfNpJpls0
〜関係者通路〜

ガッ! ゴキャッ!

黒服達「ぐ、は……!」「うっ!?」

ドサッ



ダダダ…!

黒服達「いたぞ! 逃がすな!!」ジャキ!

武内P「!」

ピシュッ!

武内P「……!」サッ!

チュイン!
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:10.68 ID:VfNpJpls0
武内P(サイレンサー……実弾を……!)


ピシュッ! ビシュッ!

武内P「むぅ……!」ダッ!

タタタ…! チュイン! キィン!

ビシッ!

武内P「ぐっ!」


タタタ…!


武内P「くっ……はぁ……はぁ……!」

ポタポタ…


武内P「はぁ、はぁ……う、ぐ…!」シュルッ

ギュッ!

武内P「…………」ダッ

タタタ…!
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:48:42.97 ID:VfNpJpls0
〜会場 サブエントランス〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…!

「おい、あれ……」
「本物?」
「うわー、すっごい綺麗……!」
「誰か待っているのかな……」


楓「…………」





ザッ



楓「……こんな時でも、時間通りなんですね」クスッ
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:49:18.79 ID:VfNpJpls0
武内P「はぁ……はぁ……」



「誰だろう、あの人」
「デッカい男だな……」
「SP?」

ヒソヒソ…


武内P「……こちらへ、高垣さん」

楓「はい」

スタスタ…
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:50:25.26 ID:VfNpJpls0
〜備品倉庫〜

ガチャッ

バタン

武内P「……」キョロキョロ サッ

武内P「……」ゴソゴソ

楓「…………」


武内P「……ここなら、落ち着いて話せそうです。
    狭苦しくて、恐縮ですが…」

楓「いえ、構いません」


楓「それよりも、お怪我を……」

武内P「…………」グッ

楓「……私のせい、ですね」

武内P「いえ」


武内P「高垣さん……どうか正直に、お答えいただきたい」
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:52:51.65 ID:VfNpJpls0
楓「ご用件は、承知しています」

楓「私が、346プロと961プロの内情を、ステージ終了後に公表する……
  もう決めたことです」

武内P「……!」


楓「私は、あのミニライブの会場が好きです」

楓「ずっとあそこに留まって、来てくれる方々に私の歌を聴いてもらう……
  それだけで良かった」

楓「でも、いつの間にか私は……私が望む以上に、大きくなりすぎちゃいました」

楓「膨らみすぎた風船がやがて破裂するように……私は、もう……」


武内P「……高垣さん」

武内P「それがどれだけ346プロ、ひいては業界全体に大きな影響を及ぼすか、
    お考えになられた事はありますか」

楓「…………」
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:55:34.68 ID:VfNpJpls0
武内P「あなたが行おうとする行為は、これまで業界が築き上げたものだけでなく、
    アイドル界の未来をも奪いかねないものです」

武内P「将来のアイドルを夢見る人達が、放つ事が出来たかも知れない輝きを!」

武内P「私個人としては、事務所のことなどどうでもいい。ですが……
    その事だけは、どうしても承服できないのです」

武内P「高垣さん、あなたは……
    あなたが行おうとする事の影響の大きさをどうか…」

楓「考えた事が無いと、お思いですか?」

武内P「……っ!?」


楓「自分の存在が他者に与える影響について、私が何も考えの及ばない女だと?」

武内P「た、高垣さん……」

楓「私は……っ」


楓「もう、たくさんなんです……」

楓「夏葉ちゃんだって……私は、そんなつもり……無かったのに……!」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 21:59:09.21 ID:VfNpJpls0
武内P「あ、有栖川さんが……!?」

武内P「一体、どういう事が……何があったのですか」


楓「……専属契約を結んでいない、練習生と呼ばれる子達のレッスンを見る機会があって」

楓「懸命にレッスンに励む子達の中に……一際、目を引く人がいました」

楓「とても快活で、自信に満ち溢れていて……
  その自信を裏付けるだけの非常な努力を苦としない、分かりやすい強さを持っていました」

楓「立場こそ、私は先輩ですが……その子の姿に、とても憧れたんです」


楓「いつか一緒に、仕事をしてみたい……つい、そう零しました」

楓「その強さを、私にも分け与えてもらえたら、って……一緒にいれば、それが叶うかもって。
  インタビュアーの取材と離れた、記事にもならない雑談を、したのだと思います」

楓「それが……巡り巡って、黒井社長の耳に入ったみたいです」

武内P「! ……」
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:02:31.77 ID:VfNpJpls0
楓「軽い気持ちで零した独り言を、彼は引き合いに出し、
  私に……346プロに、取引を持ちかけました」

楓「その子……有栖川夏葉ちゃんに、346プロを応募するよう、それとなく誘導する。
  ツテのある346プロの社員達にも根回しをしてあげましょう、と」


楓「もちろん、私はそれを断りました。
  私のワガママで、皆を巻き込むような事をさせる訳にはいきません、と」

楓「ですが、既に黒井社長は、346プロ内への根回しを行っていました」

楓「高垣楓が目を掛けている、デュオを行いたいと言っている……
  その企画が、既に346プロの社内で進行していたんです」

楓「夏葉ちゃんのオーディション合格を前提として……」

武内P「…………」

楓「全てはあなたの発言に端を発する事なんですよ、と彼は私を脅しました。
  もしこれが明るみに出れば、あなたもその責任を免れることは無い、と」

楓「私は……その影響を考慮し、やむなく受け入れました。
  ですが、一つ条件を提示したのです」


楓「今の図式では、961プロは全くの無関係のまま」

楓「取引を持ちかけるおつもりなら、せめて建前上、
  このオーディションの不正は、961プロ側からの依頼であるとすべきでは、と」
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:06:24.57 ID:VfNpJpls0
武内P「……そんな事が」

楓「黒井社長は、笑ってこれを了承しました。
  彼にとっては、何でも無いことであり……事実として、意味の無い事だったのでしょう」


楓「そして……あのオーディションが、行われました」

楓「黒井社長の言った通り、全ては……私の軽い気持ちで言ったことのために……」

武内P「…………」


楓「今、346プロが必死になって不正の事実を隠蔽しようとしているのも、そのせいです」

楓「全ての原因が高垣楓だと知られたら、346プロの信用が大きく揺らぐ……
  皆、私を守るために、必死になって手を回しているんです」

楓「私は、何も望んでいなかった……
  本当にそんなつもり、無かったんです、なのに……!」

武内P「高垣さん……」


楓「ふと、怖くなり……私自身の過去のお仕事についても、調べました。
  それで、知ったんです」

楓「案の定、私を引き立てるために、邪な意志が様々に働いていたことを」

楓「それにより、不条理な目に遭い、一方的に光を奪われた人達が大勢いたことを……」
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:09:18.25 ID:VfNpJpls0
武内P「……高垣さん。それはあなたの周囲が勝手にやった事です」

武内P「おそらく私も、961プロとの契約に関わる仕事に携わった中には、
    あなたの実績に繋がるような依頼もあったでしょう」

武内P「ですが、それはあなたが依頼したものではありません。
    あなたが責任を感じるべきものでは無いのです」


楓「では、光を奪われた人達は“事故”にあったとでも思って諦めろと?」

武内P「!!」


楓「そんなはずはありません。
  たとえ私がそれを望んでいなかったとしても、私さえいなければそんな事にはならなかった」

楓「黒井社長や、346プロの上役の幾人かがいなくなったとして、解決する話ではありません。
  “それ”を望む人達がもう、今ではあまりに多すぎるんです」

楓「私を“立派なトップアイドル”だと仕立て上げた方が、何かと都合が良い人達も……
  私に夢を見出し、期待をする人達も」


楓「私の手に負えないほどに、アイドル高垣楓はどんどん大きくなって、
  取り返しのつかない代物になってしまいました」

楓「ちょっと歩いただけで跳ね飛ばす石が、巡り巡って人を傷つける……
  それが、あまりに多くなりすぎるほどに」
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:11:27.38 ID:VfNpJpls0
楓「さっき樹里ちゃんに、言われたんです……
  アイドルを好きになれたきっかけが、私だったと」

楓「私のアイドルやファンに対する姿勢が立派で、目標だったって!」ツー…

楓「自分や智代子ちゃんが傷つき苦しんだ元凶が私とも知らずにっ!!」


武内P「た、高垣さ…」

楓「咲耶ちゃんからも言われました!
  高垣楓はモデル時代だった頃から私の目標だ、憧れの存在だと!!」

楓「皆が勝手に大きくした偶像を……全部インチキなのにっ!!」ポロポロ


楓「私のせいで不幸になった人が大勢いる事実を知れば、
  決して言えないはずの事を私はっ! あの子達に言わせてる!!」

楓「それがどんなに悔しくて、申し訳なくて、耐え難い苦痛かあなたに分かりますか!?」

楓「預かり知らぬ所で今この瞬間も誰かを騙し、苦しめ続ける私の気持ちがっ!!」ボロボロ


武内P「…………」

楓「うぁ、ぁ……うっ……ッ……うぅ……!」ボロボロ
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:12:18.60 ID:VfNpJpls0
武内P「……だからあなたは、全てを壊すのですか」

楓「…………」


武内P「あなたにそれをするよう促した人物も、おおよそ見当がついています」

武内P「今西部長、それと……283プロの、天井社長ですね?」


――――


樹里「……なぁ、夏葉」

夏葉「何?」

樹里「今さらだけどよ……本当に公表して大丈夫なのかな、不正の件」
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:15:42.74 ID:VfNpJpls0
夏葉「ふふ、本当に今さらね」

夏葉「もちろん、何も問題は無いわ。
   そもそも私から提案した事に、この期に及んで是非も無いでしょう?」

樹里「そうだけど、そうじゃなくて……なんつーか……」

智代子「?」


樹里「大手のアイドル事務所が、普通にそういう事してる、って知られたら……
   業界全体が、なんかヤベー事になっちゃわないかなって、ふと思ってさ」

樹里「あ、いや! アタシ自身がアイドルやるって決めたから、
   その、自己保身とか、打算的なアレで言ってるんじゃなくて!」フリフリ

夏葉「えぇ、分かっているわ」

樹里「……凛達だって、相当しんどい思いをする事になるだろうし、その……」


卯月「私達なら大丈夫です、樹里ちゃん」

未央「そりゃあファンの人達からは、ものすごく白い目で見られたり、
   叩かれたりするだろうけどね……」ポリポリ

凛「見過ごしていい問題じゃないっていう気持ちは、私達も一緒だよ」
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:18:04.85 ID:VfNpJpls0
凛「ただ問題は、346プロ側がそれを認めるかどうか……かな」

咲耶「認めてしまったが最後、事務所として築き上げた信用が地に落ちる事になる。
   346プロの上役達が、素直に不正を認めるとは思えないな」

夏葉「えぇ。私も、長く厳しい戦いになるであろう事は承知の上よ」

樹里「夏葉……」

夏葉「せめて346プロの中でも誰か影響力の大きい人が、私の告発に便乗してくれれば、
   風向きは変わるのでしょうけれど」

智代子「そんな都合の良い人が、果たしているかなぁ……?」ウーン

咲耶「…………」


――――


楓「……たとえ、あの人達のお話が無かったとしても」

楓「いずれ私は、同じ事をしたでしょう……
  それを分かってくれたから、咲耶ちゃんも、今日のステージを私に譲ってくれたんです」

武内P「…………」


楓「私の言葉なら……きっと346プロも、抑え込むことはできません」

楓「それが、私にできる唯一の償い……その考えは、間違っているでしょうか」
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:19:43.98 ID:VfNpJpls0
武内P「……卑怯な言い方になりますが、高垣さん」

武内P「それが正しいか、間違っているかは、私には分かりません」

武内P「あなたの苦しみは、あなたしか経験した事のないものであり……
    私が何を言ったところで、軽薄で無責任な言葉にしかなり得ないと考えます」

楓「…………」

武内P「ですが、確信を持って言える事が、一つだけあります」

楓「……?」ピクッ


武内P「あなたは、西城さん達と一緒にステージに立った事が無いということです」

武内P「そして、そのステージから得られるものとの出会いも」


楓「樹里ちゃん達と……」


武内P「アイドルを本格的に志してからの西城さんは、
    見違えるように、良い笑顔を見せるようになりました」

武内P「西城さんだけではありません。
    白瀬さんも有栖川さんも、園田さんも……もちろん、本田さんや島村さん、渋谷さんも」
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:26:07.12 ID:VfNpJpls0
武内P「幾多の経緯を経て彼女達は出会い、互いに切磋琢磨し……
    非常な輝きを帯びて、大いなる未来への一歩を新たに踏み出そうとしています」

武内P「『TAKE−UC』が今日歌う楽曲は、
    そんな未来に踏み出す彼女達の姿を投影させたものです」

武内P「283プロのプロデューサーは、そう私に語り、その曲を託しました」


楓「……『Ambitious Eve』を」


武内P「白瀬さんがあなたに今日のステージを譲ったのは、
    あなたの意を汲み、それを公表する場を与えるためだったのかも知れません」

武内P「ですが、こうも考えられないでしょうか?」

武内P「“あなたに思い直して欲しかった”のだと」

楓「……!」

武内P「夢への一歩を踏み出す尊さを、アイドルを志した当時のあなたも知っていた。
    それを、思い出して欲しかったのではないでしょうか」

武内P「今まさにそれを踏み出そうとする、西城さん達と一緒のステージに立つことで」


武内P「私は、そう信じたい……
    かつてモデル部門にいたあなたを、アイドル部門へと導いた者として」
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:27:40.48 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

武内P「……勝手なことを申し上げました」

武内P「繰り返しになりますが……私には、あなたの苦しみを否定することはできません。
    その苦しさ故に、あなたが下す決断も」

武内P「ですが、もし私の願いを聞き入れてくれるのなら……」


武内P「どうか、今日のステージだけは目一杯、楽しんできてください」

武内P「西城さん達と共に、たくさん、笑ってください」


楓「…………」


武内P「……そろそろ時間です。
    戻りましょう。大勢の刺客が潜んでいますが、必ずお守りし…」

ギュッ

武内P「……!? えっ」


楓「まさか、私まで危ない目に遭わせようという人はいないと思います」

楓「だから、こうしていれば、プロデューサーさんも安心ですよね?」ニコッ

武内P「…………」ポリポリ
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:29:29.55 ID:VfNpJpls0
〜来賓ルーム〜

黒井「高垣楓と肌身離さず行動を共にしているだと?」ガタッ

美城「…………」

天井「ハッハッハ」


黒井「チッ……了解した」ピッ!

美城「まんまと御社の黒服達から逃げおおせた、ということですか」

黒井「伊達に裏社会で生きてきた訳ではなかったということだ。
   あの男、なかなかどうして悪知恵が働く……」

天井「いや。おそらく、高垣楓の発案によるものではないかな」

天井「彼女は、自分のために誰かが傷つくのを極度に恐れている」

黒井「……フンッ」


美城「あとは……あの男が彼女と接触し、何を話したか」

美城「要らぬお節介が、今回ばかりは望ましい方向に働くのを祈るほかありません」
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:30:56.46 ID:VfNpJpls0
〜控え室〜

凛「……どう?」クルッ

卯月「すっごくカッコいいです、凛ちゃん!」ギュッ

未央「うんうん! チョコもなつはしも、ジュリアンも皆よく似合ってるよ!」


夏葉「そう言えば、楓の衣装の手直しは間に合ったのかしら」

智代子「間に合ったって、この間ちひろさん言ってたよ。
    踊っててスポーンと脱げ落ちちゃう事は無いんじゃないかな」

樹里「そういう事言うなっつーの」

咲耶「…………」

樹里「ほら見ろ、咲耶が黙り込んじまったじゃねぇか」

咲耶「えっ? あ……すまない、何の話かな」

樹里「は? あぁいや、聞いてないならいいんだけどよ」


凛「……咲耶」スッ
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:32:10.84 ID:VfNpJpls0
咲耶「ん? 何だい、凛」

凛「何か、さっきから様子が変だね」

咲耶「……そう見えるかな」


凛「そんなに楓さんが心配?」

咲耶「!」ピクッ

凛「……案外、分かりやすい反応するよね」クスッ

未央「さくやん……?」


咲耶「……凛には敵わないな」フッ


智代子「咲耶ちゃん、どうかしたの?」

樹里「楓さんがどうしたっつーんだよ?」

夏葉「…………」


咲耶「……実は」
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:33:23.99 ID:VfNpJpls0
コンコン

卯月「ひぇっ!?」ビクッ!

樹里「はーい」

ガチャッ


武内P「大変、お待たせしました」

楓「ちょっとお手洗いが混んじゃっていて」


未央「プロデューサー! それに楓さんも!」

咲耶「……!」

樹里「おせぇよ、一体何してたんだ?」

武内P「すみません。少々、厄介な相手方に捕まっておりまして」

楓「私も、油断していました……ちゃんと事前に済ましトイレば、なんて。ふふっ♪」ニコッ

凛「あ、はい」
716 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:34:52.27 ID:VfNpJpls0
夏葉「あまり悠長にしていられる時間は無いわ。
   楓、あなたも衣装に着替えておいてもらえるかしら?」

楓「はいっ」

智代子「……楓さんにもビシッと指示する夏葉ちゃん、本当すごいと思う」

樹里「アンタのその胆力が羨ましいぜ」

夏葉「?」キョトン

楓「……ふふっ♪」スッ

シャーッ


夏葉「それよりも、プロデューサー。
   レディが着替えようという時に、この部屋に留まるつもりなの?」

武内P「……えっ!?」ドキッ!
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:36:13.16 ID:VfNpJpls0
凛「そうだよね。ほら、こっちの部屋行ってて」グイッ

武内P「あ、す、すみません……!」ズルズル…

バタンッ


凛「ふぅ……ほら、樹里も」

樹里「は、アタシ? 何で?」

凛「さっきプロデューサーに言いかけてた言葉、あったでしょ?」

樹里「……ッ!」ドキッ

未央「あーそうだった!
   えへへー、ジュリアンいつぶちかますのー? 今でしょー?」ウリウリ

樹里「な、何だよぶちかますって……
   あーもう! そのウリウリすんのやめろ!」
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:37:37.14 ID:VfNpJpls0
卯月「えへへ。樹里ちゃん、ファイトですっ!」ギュッ!

樹里「が、頑張ることなんかねぇって!!」

凛「はいはい、いいからほら、早く」グイーッ

樹里「あ、ちょっ! 凛、この……!」ズルズル…

ガチャッ バタン


凛「まったく……どっちも世話が焼けるんだから」

智代子「えへへ。優しいね、凛ちゃん達」

智代子「でも、良かったの?」


凛「……それくらいは、させてあげたいでしょ」

卯月「大一番を間近に控えて、お互いに積もる話の一つや二つ、あると思いますから」
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:39:21.44 ID:VfNpJpls0
夏葉「ふふっ。粋な計らいをするのね」

未央「そして聞き耳を立てる未央ちゃんであった」ソッ

夏葉「やめなさい」ギューッ

未央「いだだだだだだ!!? 耳っ、耳がちぎぃだだだだだだ!!」

夏葉「それよりも……」


シャーッ

楓「…………」スッ


夏葉「……よく似合っているわ、楓」

智代子「本当! あ、脚なっがい……」

楓「ありがとうございます」


楓「……夏葉ちゃん」

夏葉「? 何?」
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:41:23.71 ID:VfNpJpls0
楓「一緒にステージに立てて、嬉しいです」

夏葉「えぇ。私も、とても光栄よ」

夏葉「でも今日のステージでは、私はあなたの足を引っ張るつもりは無いの。
   それどころか、あなたやセンターの樹里さえも差し置いて私が主導権を握ってみせるわ」

夏葉「せいぜい頑張って私について来てみせることね!
   覚悟しておきなさい、“世紀末歌姫”高垣楓っ!!」ビシッ!


智代子「……夏葉ちゃん、それたぶんカメラの前で言わない方がいいよ」

卯月「身内が言うのも何ですが、ちょっとその……怒られそうかなぁって」

夏葉「? どうして?」

未央「本当にブレないねなつはしは!」


楓「……ふふふ♪」ニコッ

咲耶「アナタが喜ぶ姿を見れて、嬉しいよ」フッ

楓「咲耶ちゃん……」


楓「あ、あの、咲耶ちゃん…」
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:43:59.01 ID:VfNpJpls0
スゥ… ピトッ

楓「……っ?」


咲耶「今は何も言葉はいらないよ、楓」

咲耶「私は舞台袖にいる。
   ステージが終わったら、私もアナタに話したかった想いを打ち明けよう」

咲耶「きっと“そうしてくれる”ことを、願いながら、ね」


楓「……はいっ」


卯月「あ、あわわわ……!」プシュー…!

智代子「さ、咲耶ちゃん、いつの間に楓さんとそんな仲に!?」

咲耶「? 何で顔を赤くしているんだい?」

未央「C・ロナ○ドなのかい、さくやん!?」


夏葉「ふふっ。どうやら余計な心配だったみたいね」

凛「余計な混乱は招いているみたいだけどね」ハァ…
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:46:08.95 ID:VfNpJpls0
〜別室〜

武内P「さ、西城さん……」ポリポリ

樹里「……アタシまで追い出しやがって、凛のヤツ」


樹里「ていうか……さっきまでそのジャンパー、羽織ってなかったよな」

武内P「……」

樹里「袖、まくってみろよ」

武内P「…………」スッ


樹里「! ……それ、怪我してんじゃねーか」

樹里「そんなヤバイ目に遭ってたのかよ、アンタ……」


武内P「……そう言えば、283プロのプロデューサーさんは、どちらへ?」

樹里「チッ、話題逸らしやがって……」

樹里「今西って人とどっかに行ったよ。
   現場の指揮をアンタに譲って、観客席で見守ったりとかすんじゃねーか?」

武内P「そうであれば、良いですが……」


樹里「…………」モジモジ
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:48:47.69 ID:VfNpJpls0
樹里「あ、あのさ、プロデューサー……ええっと、その……」

武内P「……はい」

樹里「この間から、ちょっと……考えてた事があって……」


樹里「アタシ、アイドル辞めようと思う」

武内P「えっ」

樹里「……961プロの、な」ニカッ

武内P「西城さん……?」


樹里「このフェスが終わったら……アタシを346プロに入れてくれねぇか?」

武内P「……!?」ピクッ

樹里「そ、そんなに驚くような事かよ」

武内P「いえ、失礼……ですが、意外だったもので」


樹里「そりゃあ、確かにアタシ自身、346プロには良い印象を持ってねぇ。
   だけど、961プロはもっとだ」

樹里「とにかく961プロだけは出ようって思って、283プロとどっちにしようか、迷ってた」
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:50:12.69 ID:VfNpJpls0
武内P「なぜ、283プロではなく、346プロを?」

武内P「元々のご友人である園田さんだけでなく、有栖川さんや白瀬さん……
    あなたを慕い、支えてくれる方も多くおられます」


樹里「友達がいるのは、346プロだって同じだよ」

樹里「だけど……アンタがいるのは、346プロだけだ」

武内P「!」


樹里「これまでの事、振り返って……分かったんだ」

樹里「アタシのアイドル活動のそばには、いつもアンタがいた」

樹里「アンタ無しでアイドルやってくなんて、アタシには考えらんねぇ」

武内P「さ、西城さん……」

樹里「……!? あっいや、ち、ちがっ!!
   い、今のはちげぇから! 勘違いすんなよな!!」ブンブン!

武内P「な、何が、でしょうか?」

樹里「――ッ!!」カァーッ!

樹里「いちいち言わせんじゃねぇよそういうのっ!!」ポカポカ!

武内P「も、申し訳ありません」
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:52:17.76 ID:VfNpJpls0
樹里「はぁ……ったく。アンタってほんとブレねぇよな」ワシャワシャ

樹里「ま、そういう所がいいんだけどさ」

武内P「……私は」

樹里「ん?」


武内P「西城さんには、283プロが合っていると考えていました」

武内P「346プロほど大規模でなく、政治的な意図に振り回されるリスクも少ない……
    仲間達と共に、地に足のついた活動が行えるよう、天井社長もよく見てくださる方です」

武内P「そして、あのプロデューサーも、情熱に溢れ、
    理知的かつ親身にアイドル達を導くことができる方だと、この活動を通して分かりました」

武内P「私を判断材料としてくれた事は、とても光栄ではありますが……」ポリポリ


樹里「……ナマイキな事、言うけどさ」

樹里「アタシだけのためじゃねぇ。
   アンタの事も、アタシは支えていきたいんだよ」

武内P「えっ?」
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:55:14.36 ID:VfNpJpls0
樹里「アグラオネマって、あの鉢植えさ……ジャングルに生える植物なんだってな」

樹里「直射日光はNGだって、凛から教えてもらったぜ。
   ったく、デタラメな育て方教えやがって」

武内P「は、はぁ……」


樹里「でも、やっぱりあのアグラオネマは、日の当たる所で育てて良い気がしたんだ」

樹里「自分の事、大事にしなさすぎるアンタには、もっと日の当たる所にいてほしい」

樹里「誰かを笑顔にするのがアイドルなら、アタシが一番笑顔にしたい人ってさ……
   やっぱ、アンタになっちまうんだよ」

樹里「だから……その……」ポリポリ

武内P「…………」

樹里「あっ! じゃあ分かった、こうしようぜ」ティン!


樹里「今日のステージで、
   もっとアタシの事をプロデュースしてぇ、ってアンタに思わせてやる」

樹里「アタシにはアタシの輝きがある……アンタが言ってたことだけど」

樹里「西城樹里って一番星が放っておけなくなるくらい、
   アタシに夢中になったんなら、アタシを346プロに引き抜けよ」

樹里「どうだ。誤魔化しあい無しの、アンタとアタシの賭け。
   当然乗るよな?」
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 22:57:34.35 ID:VfNpJpls0
武内P「……西城さん」

武内P「やる前から結果が分かっているものは、賭けとは言いません」ニコッ

樹里「! え、じゃあ……!」


武内P「西城さんの言うとおりです」

武内P「私も……これからは胸を張って生きていきたい。
    裏の世界ではなく、日の当たる場所に根を下ろし、本来の業務に邁進していきたい」

武内P「あなたと一緒なら、それができる……そう思いました」

樹里「……ヘヘッ」ニカッ

武内P「それに……随分と辛い想いも、させてきたかと思います」

樹里「え?」


武内P「私に心配をかけさせないよう、気丈に振る舞っておられましたが……」

武内P「インターネット上をはじめとした誹謗中傷には、心を痛めていたのではないかと」


樹里「……やっぱ、バレてたか」


樹里「怖かったよ……」

樹里「まるでアタシのこと……人とすら思ってねぇようなことまで……ッ」
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:01:11.25 ID:VfNpJpls0
武内P「…………」

樹里「でも……本当に怖いのはさ」

樹里「もし、アイドルやってなかったら、
   アタシもそうして、好き勝手に悪態ついていたかも知れなかったんだ」

樹里「チョコをひでぇ目に遭わせた業界……
   そこで頑張ってる凛達や夏葉達のような、アイドル皆に」

武内P「西城さん……」


樹里「アタシを救ってくれて……ありがとう、プロデューサー」

武内P「……私も、あなたに救われました。
    礼を言うのは私の方です、西城さん」

樹里「ヘヘッ……」グスッ

樹里「……ッ」ゴシゴシ

樹里「アタシが346プロに入ったら、そん時はちゃんと下の名前で呼んでくれるか?」

武内P「……分かりました」ニコッ

樹里「よしっ」パシッ


樹里「そろそろ行ってくる。ちゃんと見てろよな」

武内P「もちろんです。私はあなたのプロデューサーですから」
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:02:59.24 ID:VfNpJpls0
〜???〜

ちひろ「………………」


黒服「抵抗されたので、その……」

???「言い訳はいい」

黒服「は、ハッ!」


???「結果的に奏功するかも知れん」

???「意識が戻る前に、彼女を例の場所へ運び出せ」

黒服「ハッ!」

スッ



???「……」スチャッ



???「私です」

???「あなたはクイーンズゲートドームに向かってください」

『わ、分かりました』
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:04:21.63 ID:VfNpJpls0
〜舞台袖〜

ワアアァァァァァァァ…!!


夏葉「公表するのを止めろですって?」

智代子「……ッ!?」

武内P「そうです」

卯月「プロデューサーさん……」

凛「…………」


夏葉「会場には、既に父が有事のために手配したSP達が何人も手配されているわ。
   それに、交友のあるジャーナリストの方達も」

夏葉「皆、有栖川家のためにリスキーな依頼を引き受け、今日のために来てくれた人達なのよ」

夏葉「父の顔に泥を塗れと?」


武内P「…………」
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:07:35.48 ID:VfNpJpls0
夏葉「……ふふ、なんてね」ニコッ

未央「えっ?」


夏葉「実は私も、内心少し気が引けていたの」

夏葉「危険な目に晒される事が、じゃないわ。
   せっかく皆と一緒に立つステージに、私自身の手で水を差すことをね」

智代子「夏葉ちゃん……!」パァッ


夏葉「卯月、私のスマホを」

卯月「え? は、はい」スッ

夏葉「父に連絡しなくちゃ。予定していた計画は全てキャンセル」スチャッ

夏葉「今日来てくれた人達には、純粋に私達のステージを楽しんでいただきたい、と」

武内P「……ありがとうございます、有栖川さん」ペコリ

夏葉「こちらこそ。これで心置きなくステージに集中できるわ」フンスッ

夏葉「……もしもし、お父様?」

樹里「ヘッ、切り替えの早ぇこった」



武内P「……お聞きいただいた通りです、高垣さん」
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:09:07.88 ID:VfNpJpls0
楓「…………」

未央「え、楓さん? ……プロデューサー?」キョロキョロ


武内P「あなたにご判断を委ねます」

武内P「そして、いかなる決断であろうと、私はそれを尊重することをお約束します」


楓「……この身が、意志を持たないただの人形であれたら」

武内P「…………」

楓「そう思わなかった日は、ありません」

樹里「か、楓さん……?」


楓「ですが……一つだけ分かることは、
  それを考えるのは、今ではないということ」
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:12:09.19 ID:VfNpJpls0
楓「今の私は、『TAKE−UC』……
  振り返らず、ただ目の前のお客さん達だけを見て、精一杯歌いたいと思います」

楓「咲耶ちゃんの分まで」


咲耶「……アナタに会いたかった人達が、会場に来ている」

咲耶「このステージをずっと待っていたんだ、って……
   アナタに伝えたい人達が、たくさんいるんだ、楓」

咲耶「答えてあげてくれないか。私の分まで」

楓「はい」コクッ


ワアアアァァァァァァァァ…!!!


卯月「ジュピターさん達、すごい歓声です……」

智代子「そろそろ出番だね……!」ドキドキ


凛「ねぇ。そのさ……皆で何かしない?」

夏葉「ふふ。何かってなぁに、凛?」クスッ

凛「もうっ、分かるでしょ。その……エイエイオーみたいなヤツ」

未央「しぶりん、意外と語彙が行方不明になる時あるよね」
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:14:06.26 ID:VfNpJpls0
楓「それなら、私にちょこっと良い考えがあります」

智代子「考え?」

樹里(嫌な予感……)

楓「おすすめの験担ぎがあるんです。皆さん、手を」スッ

凛・夏葉「手?」「験担ぎ?」キョトン


楓「皆で円陣を組むんです」

楓「本番前にエンジンを掛けるために、円陣を。ふふふっ♪」ニコッ


樹里「そんなこったろうと思ったぜ」スッ

楓「樹里ちゃん……」

咲耶「フフッ。さぁ皆、勝利の女神にあやかろうじゃないか」スッ
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:15:09.09 ID:VfNpJpls0
卯月「ほら、プロデューサーさんもっ!」スッ

武内P「は、はい」スッ


楓「では樹里ちゃん、音頭をお願いします」

樹里「吹っ掛けといてアタシですか!?」

凛「まぁ、センターだもんね」

樹里「そ、そう言われても……えっと、ど、どうすりゃいいんだこれ」

智代子「樹里ちゃんの好きな掛け声でいいんだよ」

武内P「……」ニコッ



樹里「……あー、っと」ポリポリ
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:16:25.99 ID:VfNpJpls0
ワアアアアアァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!

翔太「みんな、ありがとうー!!」

北斗「これからも、俺達ジュピターをよろしくっ!」


冬馬「と、言いてぇ所だが……」

冬馬「俺達の後に続いて、どうにも可愛げのねぇヤツらが、
   間もなくこのステージに上がってくるらしいぜ」

冬馬「だから、そんなナマイキがステージ上でビビっちまうくらい、
   俺達と同じだけの熱量をヤツらにぶつけてやれっ!!」

ワアアアアアァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!


翔太「冬馬君、あの子達のこと好きすぎでしょ」

冬馬「うるせぇ。西城がへっぴり腰になるのを見てぇだけだ」

北斗「ま、そういう事にしておこうか」ポンッ
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:17:13.74 ID:VfNpJpls0
ワアアアァァァァァァァァァ…!!


フッ


オオォッ!? ザワザワ…!


冬馬「来たか」

北斗「…………」



パッ


ワアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!



樹里「…………」
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:19:40.22 ID:VfNpJpls0
――――


樹里『……いや』ワシャワシャ

樹里『咲耶や未央と違ってさ…
   やっぱアタシ、こういう時に気の利いたこと、言えねぇよ』


樹里『ただ……ありがとう』

樹里『辛いこと、嫌なこともたくさんあったけど……でも、楽しかったよ』

樹里『皆がいてくれたから、本当にアイドルって、楽しくて……
   やってなかったら何をしてたのか、今じゃ考えらんねぇくらい……』

樹里『かけがえのないモンばっかで……』

樹里『…………』


樹里『悪ぃ、やっぱりまとまんねぇわ、ハハ、ハ……』

樹里『こういうの、アタシ、ガラじゃねぇって……ごめん皆、上手く、いかなくって……』


凛『何言ってるの、樹里』

樹里『凛……』

未央『ちゃんと出来てるよ、ジュリアン』

卯月『私達は皆、そんな樹里ちゃんが大好きなんです』
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:21:53.30 ID:VfNpJpls0
樹里『……ヘヘッ』

樹里『ッ……悪ぃ、夏葉。バトンタッチ』スッ

夏葉『あら、もういいの?』パシッ


夏葉『それでは、ウォッホン!! エェーー、オッホン!!
   さぁ皆! 始めていくわよ、私達『TAKE−UC』の伝説を!!』

夏葉『まさかこのフェスでの優勝が最終目標であると考えている人はいないでしょうね!?
   無論、ここで終わらせるつもりなんてさらさら無いわ!! この先もずっと私達は…!!』ウンタラカンタラ!

樹里『急に演説始めてんじゃねぇよ!!』

智代子『あ、そろそろお時間の方が……スタッフさん、こっち見てるような……』

咲耶『フフッ。直前まで賑やかなことだね』

楓『ふふふっ♪』ニコニコ


武内P『会場の方々も、すっかりお待ちです』

武内P『期待に応えるためにも、精一杯楽しませてあげてください。そして』

武内P『どうか皆さん自身も、思う存分、楽しんできてください』

一同『はいっ!!』


――――
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:22:46.16 ID:VfNpJpls0
――――


ワアアァァァァァァ…!!



凛「今、ここから始まる」

夏葉「私達の夢……!」


樹里「見ていてください。
   アタシ達のそれが……燃え上がる瞬間をっ」
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:23:26.46 ID:VfNpJpls0

 TAKE−UC 【 Ambitious Eve 】


742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:25:23.86 ID:VfNpJpls0
ワアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!


 タンッ タンタタン キュッ!
 タタンッ タッ! タン!


樹里(行くぜ……皆!)

智代子(うん!)コクッ


  どこまで行けるの 眺めてた
  空に飛び込んだ あの日から

夏葉「高鳴ってる!」

凛「ざわめいてる……!」

  心の光は

智代子「消えてない!」


咲耶(ほら、消えない……)


咲耶(そうだろう、楓?)
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:27:14.57 ID:VfNpJpls0
楓「……ッ」キュッ タタンッ! タン!

  俯いてたら

咲耶(寄り添っているよ)

  声と思いが

咲耶(アナタを大事に想っている人は、いつも)


楓(隣に……?)


咲耶「……」コクッ


  せいいっぱい ぐっと羽ばたけ

樹里「夢まで!!」

 タンッ!


 ――アイドルが何なのかを教わったっつーか……

 ――ファンと一緒に楽しむ事の大切さ、みたいなモンを、今日のステージで感じました。
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:31:31.35 ID:VfNpJpls0
楓(樹里ちゃん……)


 ――それを、思い出して欲しかったのではないでしょうか。


楓(ごめんなさい……)


 ――今まさにそれを踏み出そうとする、西城さん達と一緒のステージに立つことで。



楓(いいえ……ありがとう)

  この翼で (次の空へ) 少しずつ
  近づいてきた (そうでしょ?)


楓「だから言えるよ〜〜!♪」

 オオォォォォ…!! ワアァァァァァ!!


武内P「…………」グッ


  今 Ambitious Eve だって!
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:33:19.78 ID:VfNpJpls0
樹里(ヘッ……なんつー歌唱力だよ。こんなダンサブルな曲で!)

 タタン! キュッ タン!

樹里(アタシが足を引っ張る訳にはいかねぇ!)

樹里(ましてセンターでコケたりなんか……!)

 タン! タンッ! タッ タン!

樹里(絶対に、ミスなんか!!)


 キュッ! タタン! タンッ!



樹里(……震えが起きねぇ)

樹里(ヘッ、どうやらアタシの勝ちだな)

樹里(いや……)


智代子(……)ニコッ

凛(……)コクッ


樹里(アタシ達の勝ちだ)
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:34:45.45 ID:VfNpJpls0
  見渡してみよう (感じてみよう) いろんな景色
  みんなの気持ち (それはエナジー) 作った今日が
  また出会いに (色とりどり) つながるの


卯月「みんな……!」

未央「すごいよ……すっごく、カッコいいよ!!」


  答え見つけた (そうでしょ?)
  だから進むよ (そうだよ!)
  アイコトバ

一同「かがー やーけーー!!」


ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:35:49.48 ID:VfNpJpls0
美城「…………」

天井「見たまえ。
   この会場にいる誰もが望んだものが、そこにある」

天井「貴女や……お前も含めて。無論、私も」


黒井「……当然だ。私が監修したユニットなのだからな」

天井「フッ……」


美城「……歪まず真っ直ぐにいられるのなら、それに越した事はありません」

天井「その通り。だからこそ、彼女達の輝きは眩しく尊い」

美城「そうです」



美城「それ故に、我々がその業を背負う必要があるのです」
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:45:12.57 ID:VfNpJpls0
樹里(このまま突っ走るぜ! 皆っ!!)

凛(うんっ!)コクッ

智代子(合点承知!)

夏葉(楓もいいわね!?)

楓(はいっ!)

 タタンッ! タンッ! タンッ!


  ときめきのまま (わたしのまま) 叶えてみよう
  イメージのなか (未来のなか) 急ごう

凛「君と!」

夏葉「GO!」


樹里「〜〜〜〜! 〜〜〜!♪」タンッ タタン!



武内P「…………」
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:46:22.36 ID:VfNpJpls0
武内P「良い笑顔です……西城さん」


  だから言えるよ (そうだよ!)

  今まさに (ドキドキの)

智代子「ア!」

楓「ン!」

凛「ビ!」

夏葉「シャ!」

樹里「ス!」

一同「イブ!!  なーんだーー♪!!!」

  タタンッ タッ! ザンッ!!


ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチパチ…!
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:47:05.35 ID:VfNpJpls0
樹里「はぁ、はぁ、はぁ……!」

樹里「……」クルッ


智代子「えへへ……!」

夏葉「出しきった、わね……」

楓「はい……」

凛「……ほら、挨拶」ニコッ


樹里「あぁ」


樹里「ありがとうございましたぁーー!!」


ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:48:12.12 ID:VfNpJpls0
コツコツ…

未央「! えへへ、来た来た!」

卯月「樹里ちゃん! 凛ちゃん、皆……!!」ウルウル


コツ…

樹里「……どうだった、プロデューサー?」

武内P「はい。とても良いステージでした」

樹里「そんなん当たりめーだっての。もっとこう、何かあんだろ」


武内P「はい、あります」

武内P「言葉では言い尽くせないものが、あまりにも、たくさん」

武内P「皆さんは……『TAKE−UC』は、
    それをファンの方々に届けられる明確な力がある」

武内P「この割れんばかりの歓声が、その証左にほかなりません」
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:49:25.37 ID:VfNpJpls0
樹里「ヘヘッ……!」

凛「樹里……お疲れ様」

樹里「あん? 何だよ、凛は今のでヘバッたのか?」

凛「ううん」フルフル

凛「もう一度、今すぐにでもステージに上がりたい気分だよ」ニコッ

夏葉「見上げた心意気ね、凛!」

智代子「私は、も、もう少し休憩してからで、いいかな……?」

樹里「チョコは明日からレッスンメニュー追加な」

智代子「そ、そんなぁ!? 後生だよ樹里ちゃん!!」

未央「あははは!」ニコニコ


武内P「……いかがでしたか? 高垣さん」
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:50:31.48 ID:VfNpJpls0
楓「はい……とても、楽しかったです」

楓「私にも、出来ることがあるのだと……
  悲観の対象でしかなかった自分の中に、一筋の光が見出せたライブでした」

楓「皆さんのおかげです」


咲耶「楓……あなたの居場所はここさ」

咲耶「お帰りなさい、楓」

楓「ふふっ♪ はい、咲耶ちゃん」ニコッ


ワアアアアアァァァァァァァァァァ…!!


卯月「ま、まだ歓声が鳴り止みません……!」

樹里「アタシ達が最後って訳じゃないんだろ?
   ステージの進行的に大丈夫かよ」

武内P「この後は、数組ほどの公演が残されており、
    それが終われば、審査結果の発表と表彰式が…」
754 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:51:20.96 ID:VfNpJpls0
ヴィー…! ヴィー…!

武内P「!」

未央「電話?」

武内P「はい。失礼」スッ


武内P「……!」ピクッ


ピッ!

武内P「……もしもし」



『お疲れ様です。
 ステージは、無事に上手くいったようですね』
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:52:36.66 ID:VfNpJpls0
武内P「他人事のようなお話しぶりですが……」

武内P「会場の観客席で、ご覧になられていたのではなかったのですか」


武内P「プロデューサーさん」


『申し訳ございません。
 もちろん俺も、皆のステージをこの目で見たかったのですが』

『どうしても外せない、急な用事が入ってしまって……』


武内P「……ところで、ご用件は」


『あ、あぁそうだ。すみません』

『クイーンズゲートドームって、ありますよね?
 あの……そちらに来ていただくことって、出来ますか?』
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:53:44.93 ID:VfNpJpls0
武内P「これからセレモニーです。
    私が担当する、『TAKE−UC』の」

武内P「お分かりいただけると思いますが、私はこの場を離れることは出来ません」


『や、やはりそうですよね、すみません……』

『うーん、どうしようかな。
 実は俺も、御社の今西部長から言われて、急遽こっちに来ているもので……』


武内P「今西部長が?」ピクッ


『あ、そうだ!
 あなたに伝えてほしいと、今西部長からお預かりしていた言葉があって』


武内P「……それは、一体」



『過去の清算をしたい、と』
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:55:09.17 ID:VfNpJpls0
冬馬「ヘッ! 身の程知らずも大概にしろ!だぜ!!」

翔太「冬馬君、口調がおかしな事になってるよ」

樹里「ハッハッハ、どうやら本心では負けを認めたみてーだな」エッヘン!

冬馬「う、うるせぇ! 結果を見るまで分からねぇじゃねーか!」

北斗「そう言いたい所ではあるがな」フッ


冬馬「まぁ、だけどよ……」ポリポリ

冬馬「光るものがあった、ってのは認めてやる」


未央「えへへ、なーんだイイとこあるじゃん、あまとう〜♪」ウリウリ

冬馬「あ、あまとうって言うな!」

咲耶「フフッ。冬馬は心根が素直で優しい人だね」ニコッ

冬馬「べ、別にそんなんじゃねぇよ……」ポッ

樹里「もしかしなくても咲耶に弱すぎんだろお前」
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:56:00.10 ID:VfNpJpls0
コツ…

凛「……?」


凛「!」タッ!

卯月「あれ、凛ちゃん?」



凛「プロデューサー!」


樹里「……?」クルッ


コツ…

武内P「…………」


凛「……どこに行くの?」

凛「そろそろ表彰式なんだよ? 私達の」
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:56:45.31 ID:VfNpJpls0
武内P「…………」


武内P「……申し訳、ございません」スッ


樹里「おい、待てよプロデューサー!!」ダッ!


武内P「西城さん……!」

ザッ

樹里「自分の担当ユニットの晴れ姿を放って優先する用事って、何だよ」

樹里「ここまで来て、そんな……そんなつまんねー事すんなよ……!」グッ



武内P「……つまらない事では、ありません」


樹里「え……」
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:57:33.94 ID:VfNpJpls0
武内P「私には、無視できない事なのです」

武内P「過去に犯してきた罪と、向き合うために」


武内P「……申し訳ございません」クルッ

樹里「あっ、おい!!」

タタタ…!


樹里「夏葉っ!」

夏葉「会場のSP達に連絡して、彼を包囲させろと?」

樹里「分かってんなら早くしろよ!!」

夏葉「残念だけど、それは出来ないわ」

樹里「なっ……!?」
761 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 23:59:09.88 ID:VfNpJpls0
夏葉「言ったでしょう? 彼は簡単に許されて良い人ではないわ」

夏葉「きっと、それを最も理解しているのは、あの人自身」

夏葉「だから……彼の決意を、私達に止めることは出来ない」


夏葉「…………ッ」


卯月「ぷ、プロデューサーさん……」

樹里「…………ざっけんなよ……!」ギリッ



楓「……皆さん」

智代子「は、はい」

未央「楓さん……?」


楓「皆さんに、お話しておきたい事があります」

楓「いいえ、お話しなければならない事が」
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 00:04:33.75 ID:QvLQwGsg0
コツコツ…!

黒井「誰がクイーンズゲートドームの使用を許可しろと言った!!」

『い、いえ! それは、黒井社長のご指示があったものと…』

『社長のIDから発信されておりましたし、
 何よりもう……ドームは開場されていますので、我々はそのように……』

黒井「な、何だと……!?」ピタッ



天井「まさか……先日立ち入った際に、貴女は……?」



美城「悪しき慣習を排除するタイミングとして、決して望ましいとは思いません」

美城「ですが、今を逃せばその機を失う事にもなる。
   使えるものは何でも。やれることは躊躇無く」


美城「看板アイドルの口から告発されるという、最悪の事態は免れたとはいえ、
   我々も決して無傷では済まされない」

美城「しかし、結果として今がベストとならざるを得ないでしょう」
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 00:05:35.08 ID:QvLQwGsg0
今回はここまで。
次回は明日の夜9時〜12時頃の更新を予定しています。
次でラストです。
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2023/02/24(金) 05:38:48.78 ID:N6GUGpSDO
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:08:33.06 ID:QvLQwGsg0
〜クイーンズゲートドーム〜

ブロロロロロ… キキィ!

ガチャッ! バタン!

武内P「……ッ」タタタ…!





ギイィィ…


武内P「……」コツコツ…

武内P「……ッ」

ピタッ



武内P「せ、千川さん……!」
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:09:22.48 ID:QvLQwGsg0
ちひろ「…………ぅ」


武内P「千川さん! 大丈夫ですか!?」ダッ!



シャニP「ぷ、プロデューサーさん!」ザッ


武内P「!?」

武内P「……っ」


シャニP「これは、一体……!?」


武内P「よくものうのうと……」

武内P「あなたこそ、ご事情をよく承知した上で私を呼んだのではないですか?」
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:14:18.24 ID:QvLQwGsg0
シャニP「!? え、い、いや……ま、待ってください」

シャニP「俺は今西部長に呼ばれて来ただけです!
     千川さんがこんな事になっているなんて何も…!」

シャニP「ていうか、こんな話してるより、まず千川さんを助けないと!」

武内P「! それは、確かに……!」


「それには至らない」


武内P・シャニP「!?」クルッ



コツ…



コツ…



今西「……彼女は気を失っているだけだ。
   もうじき、目を覚ますだろう」
768 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:15:50.43 ID:QvLQwGsg0
シャニP「今西部長……?」

武内P「……ご説明願います、あなたの意図を」

武内P「『過去の清算』という話を額面通りに受け取るならば、
    これは私とあなたの問題であり、関係の無い彼を呼び出す理由が無い」

武内P「無論、千川さんをこのような目に遭わせる事も!」


今西「君の言う通りだね」

今西「しかし、だからこそ無関係でいさせたくない、という気持ちもある」

武内P「な、何を……」


今西「283プロのプロデューサーさん」

シャニP「は、はい」

今西「あなたと千川君には、生き証人になってもらいたい」

シャニP「は? ……い、生き証人?」


今西「あなたのそばにある、その機材のスイッチを押してもらえますか?」
769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:17:15.53 ID:QvLQwGsg0
シャニP「この……赤くてデカいスイッチですか?」

今西「そう」

カチッ


ヴィン…!

シャニP「う、うわ!?」


武内P「モニターが……これは……」


『……それでは見事優勝した『TAKE−UC』のスピーチに移りたいと思います。
 しかし圧巻のステージでした! ご覧ください、まだ拍手が鳴り止みません!』

『ワアァァァァァァァ…!!! パチパチパチ…!!』

『……あ、えっと……あ、ありがとうございます。
 まだその、アタシ達……ていうか、アタシ、実感が無い、っていうか……』


武内P「西城さん……これは、『クリスタルウィンター』の?」
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:22:31.63 ID:QvLQwGsg0
今西「中継の模様を映し出しているだけさ」

今西「だが、行いたいのはそれではない」

シャニP「え?」


今西「知らないかね?」

今西「『クリスタルウィンター』の会場であるスターリットドームは、
   ライブイベントをはじめとした世界的な情報発信基地として、最新鋭の機能を有している」

今西「そして、このクイーンズゲートドームもまた、
   規模こそ譲るものの、スターリットドームに見劣りしない通信設備を有し、そして……」


今西「両ドームの通信は、既に繋がっている」

今西「つまり、ここから送った映像をあちらの会場のモニターに映し出し、
   それを全国に発信することだって可能、という訳だ」

武内P「! ……」


『すっごく嬉しいです! 嬉しいんですけど……
 アタシや、アタシ達だけの力で勝ち取れたとは思っていません』

『ずっと支え続けてきてくれた人がいて、その……ソイツに、ちゃんと届けたくて……』
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:27:01.69 ID:QvLQwGsg0
シャニP「ちょ、ちょっと待ってください!
     細かい話は俺にはよく分からないですが……!」

シャニP「今まさに進行している彼女達の晴れ姿を、台無しにしようと言うのですか!?」

武内P「おそらく、それに留まるものでは無いでしょう」

シャニP「えっ……」


武内P「今西部長……最初から、あなたが行うつもりだったのですね」

武内P「有栖川さんや高垣さんではなく、あなたが……」


今西「……我々が行ってきたことだ」

今西「その所業を、アイドルの口から言わせるのは、あまりに忍びない」


シャニP「しょ、所業……?」


今西「……ところで、君は961プロとの“契約”の当事者が自分だけと思っていないかね?」

武内P「え?」


スチャッ
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:28:02.85 ID:QvLQwGsg0
武内P「! 離れて!」ドンッ!

シャニP「うわ!?」


ダァンッ!!


バスッ!

武内P「ッ!! ……ッ」ガクッ

シャニP「!? ちょ、え……えっ!?」


ちひろ「……!」パチッ


武内P「……ぅ…………!」ドサッ


ちひろ「!! ぷ、プロデューサーさん!!」



今西「立場的には、私は君の“先輩”に当たるんだ」
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:31:04.94 ID:QvLQwGsg0
シャニP「ち、血が!? え、本当に拳銃……!」

ジャキ!

シャニP「うっ…!?」ピタッ


今西「言わずとも分かると思うが、余計な行動は慎んでいただこう」

シャニP「あ、あなたは……何者なんですか」

ちひろ「プロデューサーさん!
    しっかりしてください、プロデューサーさんっ!!」


今西「どうして、私がここの設備に精通していると思うかね?」

今西「私も、建造に携わった者の一人だからだ。
   このクイーンズゲートドームのね」

武内P「……ッ」カヒュッ…

今西「もっと言えば、有栖川夏葉君をかのオーディションで勝たせた際、
   黒井社長は君にこう伝えたはずだ」

今西「今回は“他の者”に依頼する、と」

武内P「……!」


ちひろ「ぶ、部長が手引きしていたんですか……!?」
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:32:44.96 ID:QvLQwGsg0
今西「346と961の間にある“契約”は、昔から続いていたんだ」

今西「だが、私も歳を重ねてしまったし、何より社内での役職もできた。
   昔のように、満足な活動ができなくなってね」

今西「“契約”を続けるための後継者が、346側に必要となった」


武内P「…………ま、さか……」

武内P「黒井、社長に…………かのじょ、を……?」


今西「黒井社長に、君と当時の担当アイドルに関する情報を渡したのは、私だ」

今西「……君にはすまない事をしたと思っている」


ちひろ「そんな……」

武内P「………………ッ」ズズッ

シャニP「し、しっかり! 無理しないでください!」
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:39:40.48 ID:QvLQwGsg0
今西「このクイーンズゲートドームの地下には、施設の全動力を担う設備室が備わっている。
   文字通りの心臓部であり、血管に相当する幹線がドームの至る所に経由している」

今西「普段は過負荷がかからないようセーフティーが機能しているし、
   何より全容量での稼働などせずとも十分に施設の運用には支障が無い」


今西「それほど過剰な設備のセーフティーを解除し、一気に臨界点まで稼働させたらどうなると思う?」

武内P「…………」


今西「彼女達のセレモニーが終わったタイミングで、モニターの映像をこちらに切り替える」

今西「そして、私達が重ねてきたことを、公表する……
   既に映像データは作成済みだから、それを流すだけだ」

今西「映像が最後まで流れる頃合に……地下の動力が臨界点まで作動し、
   このドームは地下から一気に崩れ落ちる」

今西「私と君は、闇に葬られるということだ……忌むべき歴史としてね」



今西「283プロのプロデューサーさん」

今西「あなたは千川君を連れて、このドームから退避してください」
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:40:59.19 ID:QvLQwGsg0
シャニP「い、今西部長……死ぬってことですか?」

シャニP「あなたもこの人も、死ななければならない人だとは俺には思えません」

シャニP「彼を慕うアイドル達の事はどうなるんですか!? どうして…!」

武内P「か、まいません……」

シャニP「! プロデューサーさん……」


武内P「いって……ください…………」


今西「……私も同じ気持ちです」

今西「きっと、私も彼も、大罪人として世間には周知される事となるでしょう」

今西「だが、私はともかく、彼は……彼の真実を知る人だけは、どうか残したかった」

今西「だから、あなたと千川君にここへ来てもらったのです」
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:43:34.25 ID:QvLQwGsg0
シャニP「……俺は」


ちひろ「どうにも……ならないんですか……?」ポロポロ

今西「アイドル達の未来を守るためには、こうするのが一番合理的だ」

今西「常務には詳しい事情を明かさなかったが……
   私の動向を監視しながら、こうして泳がせている当たり、彼女も私の思惑に気づいていたのだろう」

今西「まぁ……会社の不都合を一部の社員が丸ごと被って消えるとなれば、
   彼女として止める理由など無いだろうね、ハハハ」ポリポリ

ちひろ「い、いや……ぁ、うぁ……!」


『だから、今はその、なんか離れたトコに行っちゃったんですけど……
 もし見ていたら、こう伝えてやりたいんです』

『もっと目の離せないアイドルになってやるから、首を洗って待ってろ、って』

『じゅ、樹里ちゃん、ちょっとそれ言い方が物騒じゃぁ……!』

『うるせーな、良いんだよ。
 それくらいガツンと言ってやんなきゃどうせ分かりゃしねぇんだ、あんなヤツ』

『アハハハ…!』
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:45:29.33 ID:QvLQwGsg0
今西「……そろそろだな」

ちひろ「そ、そうだ黒井社長! 黒井社長に応援を…!」スチャッ

今西「無駄だよ。
   彼らの連絡網は、既にアカウント情報が錯綜して機能不全に陥っている」

今西「このドームに突入すべきなのか、ドームへ侵入者しようとする者を守るのか……
   どちらの指示が正しいのかも、もはや彼の部隊には判断がつかない」

ちひろ「う、うぅ……!」

シャニP「……天井社長は、あなたの考えに賛同されたんですね?」

今西「あなたをここへ呼ぶことも含めて、ね」


シャニP「分かりました」

シャニP「千川さん、ここを離れましょう」グッ

ちひろ「い、嫌です! そんなの、私嫌ですっ!!」

シャニP「でも、一つだけ約束させてください、今西部長」
779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:46:57.69 ID:QvLQwGsg0
シャニP「俺はこんな幕切れが正しい事だとは決して思いません」

シャニP「だから、あなたの事を認めることは出来ません」

シャニP「ですが、俺は俺のやり方であの子達と向き合い、トップアイドルへと導いてみせます」

シャニP「それがきっと、あなた方が望んでいたアイドルの未来であると信じて」



今西「……聞いたかね? 彼の言葉を」


武内P「…………」コクッ


今西「納得したようだ」



シャニP「……失礼します」グイッ

ちひろ「うぁ、あぅぅ……!!」ボロボロ

スタスタ…
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:49:25.33 ID:QvLQwGsg0
今西「……静かになったね」

武内P「…………」

今西「あと1分ほどで、映像が切り替わる……」


『……えー、なおも興奮冷めやらぬこのスターリットドームですが、
 最後にこの方にもコメントをいただく必要があるでしょう』

『高垣楓さん。今回は当初出場予定だった283プロの白瀬咲耶さんから、
 急遽バトンを託されての『TAKE−UC』入りだったそうですが、今のお気持ちを』


『はい……これほど非常な精神で、ステージに望んだことはありませんでした』

『疑いなく、私のアイドル人生で生涯記憶に残るものになったと感じています』

『それは、ここにいる樹里ちゃん達『TAKE−UC』の皆さん。
 そして、今日会場にお越しいただいたファンの方々……』

『皆さんのおかげで、もう少しだけ私も自分の翼を信じ、羽ばたける気がしました』


『心より感謝を。
 ありがとうございます……これを観てくれている、あなたにも』
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:50:06.44 ID:QvLQwGsg0
武内P「た、かがき……さん……」


『ウィンターフェスの優勝者『TAKE−UC』の皆さんでした!
 皆さん、改めてどうか惜しみない拍手をお送りください! おめでとうございます!』

『ワアアアアァァァァァァ!!! パチパチパチパチ…!!』


ヴィン…!


武内P「……!」



今西「……始まったようだね」
782 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:50:57.75 ID:QvLQwGsg0
〜スターリットドーム〜

司会者「? あれ?」

ザワザワ…

樹里「何だ?」

凛「あのモニター、急に画面が真っ暗に……」

智代子「あそこだけじゃないよ! 会場中のモニターが……!」


夏葉「何者かにジャックされている……!?」

楓「…………」

ザワザワ…! オイオイ…!


パッ!


『……私は346プロダクションアイドル事業部長、今西と申します』
783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:51:57.02 ID:QvLQwGsg0
「お、何だ?」
「何か始まったぞ」

ザワザワ…


未央「い、今西部長!?」

卯月「どういう事ですか!? どうして……!」


『この場をお借りして、皆様にお伝えしなくてはならない事があります』

『我が346プロダクションと、黒井祟男氏を代表とする961プロダクションは……』


咲耶「これは……まさか……!?」



『自らの利益を追い求めるために、罪も無い他社のアイドル達や、芸能関係者を……』
784 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:53:10.93 ID:QvLQwGsg0
ダァンッ!!

今西「!?」


ガィンッ!!

ギィッ ギギー!! ガガガ…!

ブスブス…!

今西「! き、機材が……!」


武内P「はぁ…………はぁ……」スチャッ


今西「拳銃……君は、一体どこでそんなものを……!?」





『ジジッ…! ザザッ!』

『ブツッ!』
785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:53:46.72 ID:QvLQwGsg0
智代子「あ、あれ……?」

卯月「切れ……た?」





武内P「彼女達に……伝えたい事が……」グッ

今西「君は……」

武内P「予備の、回線は……ぐっ…………」ヨロヨロ…

武内P「ありますか……?」


今西「……もう、時間は無いぞ」

今西「臨界は始まっている」スッ

カチッ



パッ!
786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:55:53.37 ID:QvLQwGsg0
未央「ん? ……えっ!?」

「え、何だ?」
「男?」
「誰……?」

ザワザワ…


樹里「ぷ、プロデューサー……!?」



『皆さん……さ、西城さん……』


樹里「!」



『申し訳…… ゴォォォ…! ござ……ゴゴゴ…! …せ……ゴゴゴゴ…!』


『どうか…… ゴゴゴゴゴ…!』
787 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:56:20.20 ID:QvLQwGsg0
ゴゴゴゴゴ…!!


今西「律儀だね、君は……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!


武内P「…………」ガクッ


ドドドドドドドドオオォォォーーーー!!!!





プツッ!
788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 21:58:05.66 ID:QvLQwGsg0
凛「切れ、た……」


咲耶「ぷ、プロデューサー……?」


ザワザワ…!



楓「…………」



樹里「…………何だよ、これ」

樹里「ふ、ふざけ……ふざけんなよ、なぁ……!?」


樹里「ウソだろ? ……プロデューサー…………?」


樹里「プロデューサーッ!!!」

樹里「未央、卯月! アタシのスマホ!! 早くっ!!」ダッ!
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:01:22.21 ID:QvLQwGsg0
未央「じゅ、ジュリアン落ち着いて! な、何が起きたか…!」

樹里「誰か連絡取れよ!! 何ボサッとしてんだよ!?
   どうなってんだよふざっけんな!! アイツどこだよ、さっさと…!!」ツカツカ…!

卯月「樹里ちゃんっ!!」ダキッ!

樹里「は、放せっ! 放せよぉ!!」


樹里「あ、アイツのトコに、行くんだよ……!
   何だよ……ウソだ……う、ぅ、ウソだ……ウソだっ……!」ジワ…

卯月「樹里ちゃん……!」

樹里「ウソだ! う、ウソだ……!!」


樹里「どこだよ、プロデューサー……? プロデューサー……!」


樹里「どこ行ったんだよ……!?」


樹里「プロ、でぅ……ぁ、うあ……あ……!!!」

樹里「うああぁ、あぁぁぁ……!!!」ポロポロ


――――

――――――
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:07:10.47 ID:QvLQwGsg0
――――――

――――


『先日起きた961プロダクション所有のドーム爆破事故について、
 代表の黒井祟男社長はこの日会見を開き、
 改めて同社の管理体制に問題は無かったとする見解を明らかにしました』


『……えぇー、こちらの事故調査報告書によりますと、
 我がクイーンズゲートドームの爆破の原因につきましては、
 地下の設備ルームに急激な負荷がかかり、臨界に達した事が挙げられまして』

『これは通常の管理・運用においては考えられない操作がなされたとのことです。
 加えまして、事故が起きた当日、我が961プロの“正規の社員”はこのドームに出入りしておらずぅ!』

『以上のことから導き出される事実は、何者かが故意にッ! 我が施設に侵入し操作した!
 つまり事故ではなく、大いに事件性のあるものと考えられましたので、
 961プロとして断固! 厳正に! 対処していく次第であります』

『週刊慎重です。黒井社長。
 今インターネット上で広がっている動画の件につきまして、コメントをお願いします』

『ハッ! あんなもの、どこの馬の骨か分からぬものが勝手に作った代物でしょう。
 出所すら確認できんものに、信憑性の有無を議論することはナンセンスと考えますな』

『しかし、幾人かの芸能関係者からも、これを検証すべきとのご意見が…』

『我が961プロが愉快犯の戯れ事に屈する事は無い!
 むしろ名誉毀損でこちらから…!』
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:14:31.85 ID:QvLQwGsg0
  >とんでもない爆弾案件が出てきたな
  >令和最大ぶっちぎりで更新しただろコレ
  >実際にいた人なんだっけ? 動画に出てた白髪のオッサン
  >自己紹介の通り、346プロダクションアイドル事業部の今西って人で確定らしい
  >ドームのネットワークを通じて346のデータクラウドからサルベージされたんだっけ?
   出所も信憑性も十分やんけ

  >あの歳で部長って凄いの?
  >普通に行けば専務とか取締役クラスでもおかしくないし、そうでもなくね?
  >最大手で役職就いてる時点でレジェンド定期
  >レジェンド(笑
  >346のアイドル部門立ち上げたのが本当ならガチレジェンドやろ
  >「346プロアイドル事業部長です。今すべてをお話します」
  >↑これ系でマジなの初めて見たわ

  >楓さんのことも結構言ってたよな
   さすがにヤバない? 楓さん見れなくなるんか?
  >本当だったら高垣楓どころか、アイドル業界のビジネスモデルが終わる
  >この間降臨してた考察班の言ってること当たっとるやんけ
  >チョコちゃん回のヤツ?
  >あのクッソ意味深な話して実況勢が軒並み混乱したヤツか

  >上がってたから見てきたけど、何だこれ……もう答え合わせできてるだろ
  >346プロサイドの沈黙が怖すぎる
792 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:17:15.04 ID:QvLQwGsg0
  >樹里ちゃんが大泣きしてたのもヤベー雰囲気出てたよな
  >演技に決まってんだろ、全部台本だよこんなの
  >演出で事務所のドーム爆破してたらすげーわww
  >西城樹里の言ってたプロデューサーって、当日会場で一瞬映ってたヤツ?
  >アイツが業界人の殺しやネガキャンとか全部やってたんだよな?
   ガチモンの極悪人やんけ
  >アイツのせいで一生懸命頑張ってた他のアイドルの子らも日の目見れなくなるのクソすぎ
  >そういうレベル超えてるわ、人として絶許
  >悪いことするヤツってマジで自分の事しか考えないよな。なんなん?

  >ていうかTAKE−UCの子ら、アレから全然出てこないな、大丈夫か?
  >事務所から口止めされてんじゃねーの(適当)
  >樹里ちゃんまた鬱になってそう
  >そりゃゴリ押しの後ろ盾が無くなればギャン泣きもするわな
  >まだ言ってんのかお前
  >ましてセンターだしな、そら入れ食いさせまくったんだろ
  >↑通報した
  >今裁判所の開示手続きクッソ早いからな、震えて眠るんやで
  >こんだけ誹謗中傷が問題視されてんのにまだやる馬鹿いるんだな
  >馬鹿はニュース見ないからな

  >素直に寂しいわ、テレビつければ大抵誰かが映ってたし
  >まさか西城樹里ロスを感じる時が来るとは……
  >広告も一切流れないの自粛ムードすごいわ
  >このまま引退しちゃうのかな……
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:18:56.18 ID:QvLQwGsg0
〜346プロ 会議室〜

美城「……適性を考慮した結果、
   君には渋谷凜とのデュオユニットで活動してもらう事を検討している」パラ…

美城「先日の『TAKE−UC』のステージは、私も感銘を受けた。
   それに、お互いに気心の知れた者同士の方が、何かと動きやすいだろう」

美城「優秀なプロデューサーもつけよう。
   君に無理をさせるような事は無いはずだ」パラ…

パラ…


美城「……君にとって、悪くない話を提示したつもりだが、いかがだろうか」



樹里「…………」



美城「……なら、君の希望を聞かせてほしい」

美城「君の境遇は理解しているつもりだ。
   アイドル事業部の常務として、君の待遇には最大限の配慮をする用意がある」
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:22:05.21 ID:QvLQwGsg0
樹里「……じゃあ、聞いてもいいですか」

美城「どうぞ」


樹里「アイツの……あのプロデューサーの事は、どうするつもりなんですか」

美城「…………」


樹里「アンタにしてみりゃ、何も痛いトコなんかねぇよな」

樹里「あの動画の通り……アイツと今西って人が961プロと勝手にやった事にすりゃあよ」

美城「…………」

樹里「沈黙を守ってさえいれば、どうせ黒井社長は遅かれ早かれボロを出す。
   ネットの検証が黒井社長のウソを暴いて、いずれ炎上して961プロは窮地に陥る」

樹里「それでズルズルと自滅すりゃ、結果としてアンタら346プロの一人勝ち……
   アンタの狙いは、そんなトコだろ」

美城「…………」
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:26:16.43 ID:QvLQwGsg0
樹里「ふざけやがって……!」ギリッ

ダンッ!

樹里「アイツを悪者にして、テメェの手を汚さず城の外へ一歩も出ねぇ王様気取りかよ!!」

樹里「アイツを追い詰めたのはアンタらお偉いさんだろうがっ!!」


美城「そうだ」

樹里「! ……」


美城「私とて、このような結末は本意ではない」

美城「だが、私は常務としてこの事務所を、そして社員の生活を守る責務がある」


樹里「だから、切り捨てるってのかよ……!?」

美城「仕事柄、憎まれ役は慣れている。
   それが私の仕事であるとも」

樹里「馬鹿にすんじゃねぇよっ!! 大人ぶりやがって!!」

美城「割り切らなければ、私達は前に進めないのも事実だ」
796 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:28:32.58 ID:QvLQwGsg0
樹里「……ハッ、簡単に言ってくれるぜ。他人事だと思ってよ」

樹里「アタシの希望を教えろっつったな。聞かせてやる」

樹里「アイツを返せ」

美城「…………」


樹里「アタシの……『TAKE−UC』のプロデューサーはな。
   冷蔵庫には変なドリンクしか入ってねぇし、自炊もままならねぇ」

樹里「かと思えば、ハンバーグを弁当に何個入れても空にしてくるし……
   バスケをやらせりゃ、信じらんねぇプレーでアタシの度肝を抜いてきやがる」

樹里「それで、淡泊な受け答えしかしなくて……
   さん付けなんかやめて、下の名前で呼び捨てにするって、約束してたのに」

樹里「とうとう、一度も呼んでもらえなくて……」


樹里「でも……」

樹里「アグラオネマって鉢植えを、あんま正しくねーけど大切に、
   丁寧に愛情を持って育てるようなヤツで……」

樹里「それと同じくらい、アタシの……
   アタシ達アイドルの事は、ずっと一番に考えてくれて……」

樹里「自分の事なんかより、よほど大事に……」ツー…

ポタッ
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:31:09.85 ID:QvLQwGsg0
美城「…………」

樹里「そんな……そんな献身的なヤツがさ」

樹里「私利私欲、のため、に……悪いことばっかして……ッ……」

樹里「それで……961と問題を起こして、勝手にし、しん……!」ポロポロ

樹里「あ……うぁ、ぁ……!!」ポロポロ

美城「………」

樹里「そんな……ひっ、ぐ……そんなさ……!」

樹里「そんな酷いヤツだったんだ、って! 世間に報道されて終わるなんてよ!!」

樹里「あんまりじゃねぇか……!!」グッ


樹里「返せよ……」

樹里「アイツを、返せよ」

美城「…………」

樹里「それが出来ねぇなら、せめてアイツは立派なプロデューサーだったんだ、って、
   アンタの口から公表しろ」

樹里「そしたら、アンタの条件を飲んでやる」
798 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:33:00.20 ID:QvLQwGsg0
美城「…………」

美城「……帰りの交通費にでも使いなさい」スッ


樹里「! ……〜〜〜〜ッ!!」ガシッ!

ビリッ!!

美城「…………」

樹里「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

樹里「どんだけコケにすりゃ気が済むんだ……!」


美城「……残念だ」

樹里「アタシはちっともだよ。逆に清々した」


クルッ

樹里「アタシは346のアイドルになんかならねぇよ。絶対にな」

樹里「アイツを……アイツをとことん、ヒドい目に遭わせた所になんか……!」ギリッ

ツカツカ…!



美城「……彼の名誉は、保証できない」

美城「しかし、別の人物の名誉を回復させる段取りは進んでいる」
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:35:00.94 ID:QvLQwGsg0
樹里「……!?」ピタッ


美城「君の見立てにも一理ある。
   だが、かの問題について、我々346プロが沈黙を貫くことは、本来望ましい事ではない」

美城「その気になれば、この機に乗じて、
   多少のリスクを被ってでも961を糾弾した方が、商売敵を一気に潰せるからだ」

美城「それをしない事の交換条件として、我々が961プロ側に要求した事項が一つある」

樹里「……?」


美城「とある一人のアイドルの名誉を、回復するようにと」

美城「961と346の契約のために、過去に犠牲となったアイドル……
   かつて彼が担当していたその子が、またステージに立つことができるように」

樹里「……!」


美城「既に一定の報道はなされている。
   再びこの事務所に顔を出してくれる日も近いだろう」
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:48:14.53 ID:QvLQwGsg0
ウィーン…



テクテク…


未央「……あっ、ジュリアン!」

卯月「樹里ちゃん!」タッ


凛「……樹里」


樹里「……皆、悪ぃ」

樹里「やっぱアタシ……ここには居られねぇわ」


凛「うん……何も謝ることなんか、ないよ」フルフル

樹里「でも……!」
801 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:50:10.55 ID:QvLQwGsg0
卯月「樹里ちゃんとは私達、ずっと一緒の友達です。
   たとえ同じ事務所でいられなくたって」

未央「そうそう。何かあったら……ううん、何も無くても連絡取り合おうよ!
   この未央ちゃん、電話一本ですぐジュリアンのとこに飛んでいっちゃうんだから!」

樹里「ハハ……またお前、そうやって調子の良い……」

未央「それが私の良い所でしょー?」ウリウリ

樹里「ハハ、ハ……」


凛「……そうだ。ねぇ樹里、コレなんだけど」スッ

樹里「あぁ、そうだったな」


卯月「アグラオネマ、ですか」

未央「プロデューサーの部屋に、あったヤツだよね……」
802 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:56:54.71 ID:QvLQwGsg0
樹里「本当は、アタシが決めることじゃないって、分かってんだけどさ……」

樹里「やっぱコレは……346プロの誰かに、面倒見てもらった方がいいと思うんだ。
   花壇かどっかに植えて……ドサクサ紛れみたいで、カッコつかねぇけど」

凛「うん……私も、そう考えてた」

樹里「凛が引き取ってもいいんだぜ?
   お前なら、ちゃんと世話してくれそうだしさ」

凛「ううん」フルフル


凛「樹里が引き取らないんだったら……私も、引き取れない」

凛「何ていうか、その……フェアじゃない、でしょ?」


樹里「……何だそりゃ」

凛「ふふっ……さぁ、何だろうね」クスッ

樹里「うるせぇ」ハハッ
803 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:58:07.24 ID:QvLQwGsg0
〜中庭〜

テクテク…

樹里「……こんなに広い中庭、あったんだな」

未央「結構さ、日当たりも良いんだよ」

卯月「私もたまに、日向ぼっこしたりしています」

樹里「ふーん……」


凛「どこに植える? 樹里」


樹里「……あそこがいい」スッ


卯月「噴水の……」

未央「おぉー、こりゃ一番目立つ所だねぇ」

凛「……恥ずかしいって、嫌がりそうだけどね」クスッ

樹里「そんくらいがちょうどいいんだよ、コイツには」
804 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 22:59:19.10 ID:QvLQwGsg0
ザクッ ザクッ

樹里「……」ザック ザック

凛「…………」


樹里「そういやさ……今さらだけどよ」ザク ザク…

樹里「寒さに弱いんじゃなかったっけ、これ。
   もしかして、外に植えるのって、まずいのか?」

凛「うん……本当はね。
  まぁ、最近暖かい日も多くなってきたから、大丈夫かも」

凛「でも……次の冬は、越えられないと思う……」


樹里「それでも……反対しねーのか?
   アタシが、ここに植えるの」


凛「……私は、お世話していないから」

凛「今まで世話していた樹里に……口出しできる筋合い、無いよ」


樹里「…………」


ザクッ

樹里「ごめんな……部外者のアタシが、ワガママ言って」ザクザク…
805 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:00:20.39 ID:QvLQwGsg0
凛「部外者なんかじゃ……」

樹里「アタシよりも、お前らの方が付き合い長いだろ」ザッ ザッ…

卯月「…………」

未央「そういうの……関係ないっていうか、さ」

ザクッ…


樹里「……アタシは、何を残してやれたのかな」

樹里「最期、アイツ……何を言いたかったのかな……」


凛「樹里……」


樹里「……ヘッ、なんてな。今さら考えたってしょうがねぇ」

樹里「よっと」スッ


樹里「こんな、感じで……と」ソォー…

樹里「ん? もうちょい掘った方がいいか?
   どう思う、凛?」

凛「……私は」



???「あっ! ちょっと待ってぇー!」タタタ!
806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:05:46.20 ID:QvLQwGsg0
樹里「へ?」

タタタ…!

???「よっこい、しょ! っと!
    えへへ、お花のお世話をしてくれてるんだねっ。ありがとう!」

???「うーん、穴はもう少し広い方が良いかなぁ?
    ちょっとスコップ貸して」ヒョイッ

樹里「あ……」

???「よっ。ほっ」ザク ザクッ

???「あっ、でもこれ、よく見たらアグラオネマ?」

???「ダメだよ、この子は日当たりの良いお外に植えるのは良くない品種なの。
    それに今はまだ寒いから、きっとすぐに枯れちゃう」


卯月「……あなたは」


???「だから、どうしても植えたいんだったら、あそこの、うーん……そう!
    春になってから、あの大きなけやきの下に植えてあげると良いんじゃないかなっ」

???「人目にも付きやすいし、木陰で休みながら皆に撫でてもらえたりするかも?
    この中庭の新しい人気者になれるかもね、なんて、えへへ♪」


未央「ひょっとして……」
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:07:24.77 ID:QvLQwGsg0
???「でも、勝手に植えたりしたらちひろさんに怒られちゃうからね。
    私の方から許可もらえるか聞いてくる! ちょっと待ってて!」

樹里「いや、いい」

???「ん?」ピタッ


樹里「日当たりの良いトコが……寒いのがNGなのは、知ってる。
   けど……コイツは、ここでいいんだ」

樹里「アンタみたいな専門家に言ったら……怒られちまうかもだけど……」

???「ううん、怒んないよっ」ニコッ

樹里「……え?」


凛「…………相葉、夕美」


相葉夕美「この子も、日当たりの良い所が好きみたいっ」

夕美「お花の気持ちが分かってくれる人に面倒見てもらえて、幸せな子だね♪」


樹里「何で……どうして、分かるんだ?」

夕美「そりゃあ、私の選んだ子だもんっ」ニコッ

樹里「!!」
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:08:52.25 ID:QvLQwGsg0
夕美「あの人に、プレゼントしてあげた子だったからね」


樹里「……あ、アタシは」

樹里「アタシは……!」ジワ…!

夕美「あなたが、西城樹里ちゃんだよね?」

樹里「……ずっと、アタシ……アンタに……!」

夕美「あの人と一緒に、ずっとこの子の面倒、見てくれてたんでしょう?」


樹里「ずっとアンタに、会いたくて……!!」ポロポロ

樹里「会って、あや、ぁ……謝らなくちゃ、って……!」

夕美「どうして?」

樹里「アタシは何もできやしなかった!!」


樹里「あの時、無理やりにでもアイツを引き留めていれば……!」

樹里「きっと、こんな事なんか……ごめん、う、ぅ……!!」ボロボロ
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:10:33.61 ID:QvLQwGsg0
夕美「ううん、許さない」


樹里「!」

夕美「樹里ちゃんはもっと笑っていい人なんだよっ」

樹里「……え」


夕美「あの人だって、きっとそう言っていたでしょう?」

夕美「二言目には、笑顔って言う人なんだから、
   きっと樹里ちゃんの泣いてる姿なんて、見たくないはずだよ」

夕美「それに、樹里ちゃんはあの人のそばにいてくれたんだから……」

夕美「きっと私のことで傷ついていたあの人に、親身に寄り添って、
   前を向いてもらえるようにしてくれたのが樹里ちゃんだって」


夕美「何となく分かるの。
   あなたに会って、こうしてお話をしていると、ひしひしと」スッ
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:12:20.59 ID:QvLQwGsg0
ギュッ

樹里「あ……」


夕美「だから、笑おう?
   あの人のためにも、樹里ちゃんのためにも」

夕美「そうしてくれないと、私、許さないんだからっ。なんてね♪」ニコッ


樹里「やめてくれよ……」

樹里「もうそういうの、ウンザリなんだよ……!! アタシは…!」

夕美「あっと、穴ぼこ広げなきゃだねっ。ちょっと待って、もう少しで終わ…」


樹里「許されていいヤツじゃねぇんだよアタシはっ!!」

夕美「…………」


樹里「……ッ」ダッ!

卯月「あ、樹里ちゃん!?」

未央「ジュリアン、どこ行くの!?」

タタタ…!
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:19:25.00 ID:QvLQwGsg0
卯月「樹里ちゃん……」


凛「……アンタが、相葉夕美」

夕美「…………」ザック ザック…


夕美「追い詰めるような事、言っちゃったかな……」ザク ザクッ

凛「ううん。でも……」

凛「今は……そっとしておいてあげた方が、いいと思う」

夕美「お花ってね」

凛「?」


夕美「お世話してくれる人に、ちゃんと答えてくれるの」スッ

凛「……」

夕美「逆に放っといたら、すぐに元気を無くして枯れちゃう」ソォー

夕美「もちろん、品種にもよるけどね……っと。こんなもんかな?」ギュッ


夕美「……こんなに立派なアグラオネマ見るの、私、初めてだよ」

夕美「あの人も、樹里ちゃんも……本当に、大事にしてくれてたんだなぁ……」


夕美「皆も出来ると思うんだ……樹里ちゃんに、この子と同じことを」
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:20:18.13 ID:QvLQwGsg0
凛「え……?」


夕美「樹里ちゃんを、支えてあげること。元気づけてあげること」

夕美「私では、ちょっと難しかったみたいだけど……
   樹里ちゃんと友達でいてくれた、皆なら」


凛「…………」

凛「未央」

未央「へ?」

凛「確か、バスケやったことあるって言ったっけ?」

未央「わ、私?
   えぇ、まぁ、部活の助っ人とか。あと、弟とたまに……」

凛「家にバスケボールある?」

未央「あ、ありますけど…」

凛「取ってきて」

未央「へぁ!?」

卯月「り、凛ちゃん?」
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:21:31.37 ID:QvLQwGsg0
未央「そ、それは構わないけど、私んち結構電車乗り継ぐから時間かかるよ!?」

凛「じゃあタクシーで行って。お金はちひろさんと相談するから」

未央「思い立ったら唐突に頑固だねしぶりんは!?」


未央「でも……何か考えがあるんだよね、しぶりん?」

凛「うん」コクッ

未央「よーし、じゃあ任された!」ダッ!

卯月「あ、未央ちゃん!」

凛「卯月、樹里を追いかけよう!」

卯月「凛ちゃん……はいっ!」ギュッ


夕美「……ありがとう」

凛「きっと何とかする。待ってて」

夕美「うんっ」コクッ

タタタ…
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:22:24.56 ID:QvLQwGsg0
夕美「……よし、じゃあ私は、っと」ヒョイッ

夕美「…………」ザッ ザッ


ちひろ「来てくれてたんですね……」スッ


夕美「……うん、おかげさまで」

ちひろ「ありがとうございます。それと……」

ちひろ「ごめ…」

夕美「言わないで、ちひろさん」

ちひろ「…………」


夕美「……あぁ、樹里ちゃんの気持ち、ちょっと分かるなぁ」
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:23:38.85 ID:QvLQwGsg0
ちひろ「夕美ちゃん……」

夕美「やっぱり、悲しいな……本当に、ちょっと、ううん……」


夕美「悲しんだり……寂しがった方が、良いのかな」

夕美「樹里ちゃん達みたいに……」

夕美「えへへ……分かんないや……」


ちひろ「強がらなくて、いいんです」

夕美「…………」

ちひろ「あなたの素直な気持ちなんですから……悲しいのも、寂しいのも」

ちひろ「どうか……夕美ちゃんのためにも、我慢しないであげてください」



ツー…

ポタッ


夕美「……うんっ」ポロポロ
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:24:58.76 ID:QvLQwGsg0
タタタ…!

未央「と、とは言ったものの……!」


ブロロロロ…! ププー…!

未央「タクシーなんて、そんな都合良く捕まらないよぉしぶりん!
   も、もっと駅の方まで歩かなきゃダメかなぁ……?」

ブロロロロロ…!


キキィッ!

未央「……へ?」

未央(何か、すっごい高そうな車が止まったけど……)


ウィーーン

夏葉「お急ぎかしら? 未央」
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:26:13.87 ID:QvLQwGsg0
未央「な、なつはし!?」

智代子「私もいるよ、未央ちゃん!」ニュッ

未央「チョコまで! 二人ともどうしたの!?」


夏葉「咲耶が楓の説得に向かっていてね。迎えに行く所なのよ」

未央「説得……」

智代子「ほ、ほら。楓さん、その……」

未央「う、うん。分かってる」


未央「引退説……」

未央「一応、同じ事務所だし……色々聞こえてきちゃったりするし」

夏葉「やはり、本当なの?」

未央「普段見かけないような偉い人達が、フロアを大慌てで走り回ってるのを見ちゃうと、ね」

智代子「咲耶ちゃん……楓さんと話、できたのかな……?」
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:28:24.05 ID:QvLQwGsg0
夏葉「それはそうと、未央はどこへ行くつもりなの?」

未央「えっ? あ、えっと、家に急ぐ用事があって!」

智代子「家? 未央ちゃんの?」

未央「そう! ちょっと忘れ物というか、取りに行きたい物が…!」

夏葉「乗りなさい。送るわ」クイッ

未央「ええっ!? い、いやいや! さくやんと楓さんを迎えに行くんでしょ!?」


夏葉「あの二人の事なら、咲耶に連絡をすれば足りるわよ」

夏葉「咲耶だって、きっと楓との時間を大事にしたいでしょうし」ニコッ

智代子「めくるめく二人きりのアブナイひととき……
    あっ、い、今のはちょっと不謹慎でした! 失敬!」ブンブン!


未央「……ありがとう! じゃあお言葉に甘えて!」ガチャッ

ササッ バタン
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:30:04.13 ID:QvLQwGsg0
夏葉「ところで、家まで取りに行きたい物って何?」

未央「あぁ、バスケットボール」カチャッ

未央「何に使うか分かんないけど、しぶりんがすぐに取ってきて、って」

夏葉「そう言われただけで取りに行く未央も、随分とお人好しね」クスッ

未央「なつはしも、でしょ?」ニカッ

夏葉「フッ……ご自宅はどこかしら?
   モタモタする気は無いわ! しっかり掴まっていなさい!」グッ!

未央「ちょっ、法定速度は守ってよなつはし!?」


智代子「あ、あの……ちょっといいかな?」スッ

未央「ん?」

夏葉「どうしたの、智代子?」


智代子「か、買えばいいんじゃないかな? って……バスケットボール」

智代子「わざわざ未央ちゃんの家まで行かなくても、その辺のスポーツショップで……」


未央・夏葉「……ッッッ!!?」

智代子「顔ッッッッ!!!」
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:30:47.78 ID:QvLQwGsg0
〜駅前〜

タタタ…!

凛「はぁ、はぁ……!」タタタ…!

『こっちの方はいません、凛ちゃん!』

凛「うん……もう少し探そう!」

『はいっ!』


凛「くっ……樹里……!」タタタ…!

凛「……!」



凛「あ、あのー!!」


オォォ…?  ドヨドヨ…
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:31:54.61 ID:QvLQwGsg0
「え、ウソ? しぶりんじゃない!?」
「ずっとテレビとか出てなかったよね?」
「制服着てる。オフかな……」
「めっちゃ可愛い〜……!」

ザワザワ…!


凛「じゅ、樹里を……西城樹里を探していますっ!!

凛「誰か、樹里を見た人はいませんか!?
  こっちの方に走っていったと思うんです!!」

ザワザワ… エェェ…?


凛「すみません! どんな情報でもいいんです!!」

凛「誰か……誰か、西城樹里を知りませんか!?」


ザワザワ…


凛(くっ……反応ナシ、か)



女の子「あ、あの……」スッ
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:33:03.73 ID:QvLQwGsg0
凛「!?」クルッ

女の子「ひぇっ! あ、す、すみません…!」

凛「あ、ううん、こちらこそ……何か知っているんですか?」

女の子「もしかしたら、っていうレベルなんですけど……」

女の子「金髪の子が、あっちの方に歩いて行くのが、見えた気がして……」スッ

凛「……行ってみます!」ダッ!

女の子「じゅ、樹里ちゃんは……」

凛「え?」ピタッ


女の子「樹里ちゃん……前に一度、握手してもらったこと、あって……」

女の子「きっと、迷惑かけちゃったのに……樹里ちゃん、すごく優しく応じてくれて」

女の子「ありがとな、って……照れ臭そうに、な、何度も、握り返してくれたんです」


凛「……そうなんだ」ニコッ
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:37:30.31 ID:QvLQwGsg0
女の子「樹里ちゃん、応援しています……凛ちゃんも」

女の子「もし困ってるなら……樹里ちゃん、助けてあげてくださいっ」

凛「ありがとう!」ダッ!

タタタ…!



凛「卯月! 道玄坂の方に行って!」タタタ…!

凛「今ツイスタ見たら、それっぽい目撃情報呟いてる人も結構いる!」

『わ、分かりました!』


凛「樹里……!」タタタ…!


  ――許されていいヤツじゃねぇんだよアタシはっ!!


凛「勝手なこと、言わないでよ……馬鹿……!」
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:38:54.16 ID:QvLQwGsg0
〜夏葉の車〜

ブロロロロロ…!

未央「うええぇぇっ!? し、しぶりん何してんの!?」ギョッ!?

智代子「ツイスタですごい拡散されてるね、凛ちゃんが駅前で大声上げてる動画」


夏葉「ふふ、凛もやるわね」

未央「笑ってる場合じゃないってなつはし!
   一応私達、事務所から謹慎っていうか自粛命令みたいなの出てるんだよ!?」

未央「こんなに目立っちゃう事したら、どんなお咎めが待っているか…!」ハラハラ…!

夏葉「それでも、樹里のためを思っての行動なのでしょう?」


夏葉「……敵わないわね、凛には」フッ

智代子「ん? どうしたの、夏葉ちゃん?」

夏葉「何でも無いわ」
825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:40:14.36 ID:QvLQwGsg0
〜カフェ〜

店員「有栖川様よりお聞きしております。ごゆっくりどうぞ」カチャッ

咲耶「どうも」

スタスタ…


咲耶「聞いての通り、夏葉から教えてもらったお店なんだ」

咲耶「ここなら、人目を気にせずゆっくりアナタと話ができると思ってね」


楓「…………」


咲耶「お酒が好きなのは聞いている。だが、生憎私は未成年だからね」フッ

咲耶「それとも、お酒が入っていた方が、アナタの素直な気持ちを聴けただろうか」
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:41:25.31 ID:QvLQwGsg0
楓「…………」


咲耶「……本題に入ろう」

咲耶「楓……アイドルを辞める意向があるというのは、本当かい?」



楓「……今西部長は、346プロのアイドル事業部を立ち上げた人でした」

楓「第一期のメンバーに、私もお声がけいただいて……」

咲耶「…………」


楓「その際、当時モデル部門にいた私を、スカウトに来たのが……あの人だったんです」


咲耶「プロデューサーが……?」

咲耶「あの人は……かつて、アナタの担当プロデューサーでもあったのかい?」
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:43:57.64 ID:QvLQwGsg0
楓「右も左も分からない私を、あの人は親身に支えてくれました」

楓「もちろんあの人自身も、アイドル部門は未知の領域で、
  四苦八苦されていた所も、あったでしょうけれど……」

楓「不器用ながら、私と向き合ってくれる……とても誠実で真摯な方であると、感じました」

咲耶「…………」


楓「でも……人事異動があって、あの人は私の担当を外されました」

楓「私は大人ですし、一人でもある程度活動はできますから、
  若い子達をサポートする方が良い、との判断があったそうです」

楓「それはもっともだと、私も納得しました。
  そして、私の後にあの人が担当したのが……」

咲耶「……相葉夕美、だね?」


楓「とても快活で、心根の優しい、良い子でした」

楓「彼女と接した人は皆、笑顔になれる……
  私などよりも、ずっとアイドルに向いている、本当に花のような子でした」
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:47:13.91 ID:QvLQwGsg0
楓「……彼女が不幸な事件の被害者となった時、私は……とても悲しみました」

楓「でも……ふと、思ったんです」

咲耶「……?」


楓「彼女に対する嫉妬心は、本当に無かったと言えるのだろうか、と」

楓「あの子さえいなければ、私はまだ、あの人の担当アイドルでいられたのではないか」

楓「その気持ちが、無意識のうちに態度に表れて、どこかへ伝わって誰かに…!」

咲耶「楓っ!」ガタッ!


咲耶「アナタは誰かの不幸を願い、喜べるような人じゃないっ!」


楓「……咲耶ちゃんにそれが、分かるのですか?」

咲耶「え……」


楓「軽々しく……知った風に、言わないで」

楓「私でさえ、自分自身が……もう、分かりません……でも!」ギュッ

楓「私さえいなければ……あの人も……!」
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:49:29.93 ID:QvLQwGsg0
咲耶「分かるさ」

楓「……安い慰めを、言ってもらいたいのではありません」

咲耶「“安い”だって?」


咲耶「アナタだって知った風に決めつけているじゃないか! 私の気持ちをっ!」

楓「……!」ピクッ


咲耶「……楓の言う通りさ。
   私はアナタのことを、私という一方向の視点でしか理解できていない」

咲耶「いや、そもそも誰かを真に理解することなんて、本当は不可能なのかも知れない」

咲耶「だから私達は、寄り添い合おうとすることが出来るんだ、って……
   そう想うのは“安い”ことなのかい?」

楓「さ、咲耶ちゃん……」


咲耶「未央からさっき、連絡があった」

咲耶「私と一緒に、来て欲しい所があるんだ、楓」
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:50:53.74 ID:QvLQwGsg0
〜街中〜

凛「はぁ……はぁ……!」タタタ…!


「あ、マジでいた!」
「凛ちゃーん!」

「さっき樹里ちゃんもいたよな?」


凛「……!」ピクッ


「え、やっぱあれ樹里ちゃんだったの?」
「番組の企画とかかなぁ……」


凛「ど、どっちですか!?」ズイッ

男A「うわっ!?」

凛「樹里は、どこに……!?」

男B「な、生しぶりんだ……じゃなくて、あ、あっちの方っす」スッ

凛「ありがとうございます!」ダッ!
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:51:24.97 ID:QvLQwGsg0
トボトボ…

樹里「…………」


樹里「……ちきしょう…………」



子供「あれ?」


樹里「?」ピタッ



子供「おねえちゃん?」
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:52:36.38 ID:QvLQwGsg0
樹里「……! あ、お前……あん時の迷子か!?」


子供「おねえちゃんだー!」タタタ ダキッ

樹里「わっ! たっ、と……ちょ、どうしたんだよ、ママは一緒じゃねぇのか?」

子供「ううん、あっちでおかいもの」スッ

樹里「はぁ……この間迷子になったばかりだってのに、暢気なもんだな」


子供「おねえちゃんは、まいご?」

樹里「!」ピクッ


子供「……?」ジーッ

樹里「そ……そんなワケねぇだろ」ポリポリ

樹里「ただまぁ、ちょっと、その……気晴らしっつーか」

子供「きばらし?」

樹里「だーもう。いいんだよ気にしなくて」

樹里「ほら、ママが心配するといけねぇから、さっさと帰んな」
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:53:40.58 ID:QvLQwGsg0
子供「おねえちゃん、たのしくなさそう?」

樹里「た……?」

子供「たのしいこと、してないの?」


子供「ママがいってた」

子供「かえでさん、っていうアイドルと、おねえちゃんはおんなじだって」

子供「ぼくやみんなをえがおにしてくれる、すごいひとなんだよって」

子供「たのしいこと、たくさんしてもらえてよかったねって」


樹里「……そっか」

樹里「ただ、ごめんな……
   今はちょっとおねえちゃん、アイドルはおやすみ中なんだ」ナデナデ

子供「どうして?」

樹里「どうしても」
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:55:23.15 ID:QvLQwGsg0
子供「どうして、たのしいことをしないの?」

子供「アイドルって、たのしくないの?」



樹里「……楽しいさ」

樹里「本当にな……楽しいこと、たくさんやりたいに決まってるよな」

樹里「でも……ハハハ、うーん」

樹里「悪ぃ、ちょっと……説明すんの、難しいや」

子供「?」キョトン



タタタ…!

凛「……!」


凛「樹里っ!!」
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:55:49.62 ID:QvLQwGsg0
樹里「!?」

ダッ!

子供「あっ」


凛「待って、樹里!!」ダッ!

タタタ…!



タタタ…

樹里「クッソ……はぁ、はぁ……!」
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:57:07.04 ID:QvLQwGsg0
凛「……!」タタタ! バッ

ガシッ!

樹里「くっ……!」グッ…!

凛「じゅ、樹里っ……!」グイッ


樹里「放せ……クソ、放せよ!!」ガバッ

バシッ!

凛「うっ! ……ッ!」ガクッ

樹里「!? り、凛っ!」


樹里「わ、悪ぃ……つい、力入っちまって、手が……大丈夫か!?」

凛「……ッ!」スッ

バチンッ!

樹里「ぐぁ、いって!? ……!?」

樹里「な……何すんだよ!」


凛「おあいこだよ」

凛「これで、樹里が私に引け目や負い目を感じる必要なんて、無いよね?」
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/24(金) 23:59:03.03 ID:QvLQwGsg0
樹里「……調子乗んな」

樹里「そんなんでチャラにできるほど、アタシのやった事は安かねぇんだよ」

凛「じゃあ、もっとぶてばいいってこと?」スッ

樹里「それで凛の気が済むならな。ふざけやがって」

凛「ふざけた事言ってんのは樹里でしょ」

樹里「あ? 何だと?」ピクッ


凛「私がそんな事して満足するとでも思ってんの?」

凛「殴らせることで気を済ませたいのは、私じゃなくて樹里の方だよね?」


樹里「てめぇ……!」ツカツカ…!

ガッ!

凛「……ッ」グイッ!

樹里「そんなにアタシにケンカ売りてぇかよ!!」
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/24(金) 23:59:49.32 ID:ApKCZaSC0
سۇمىكا ئالتۇن دورا بېلىتى 100 يوكا خىروگارۇ خولو نەق مەيدان توكيو مانگا تارىخى بېلەت باھاسى
يېڭى مۇھەببەت ھېكايىسى
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:01:24.49 ID:mUoeDtH10
タタタ…!

卯月「……あ、いた! って、じゅ、樹里ちゃん!?」


凛「そうだと言ったら?」

樹里「もうアタシに構うんじゃねぇってんだよ!!」

樹里「ウンザリだっつってんだろ! 気持ち悪いんだよお前らっ!!」

卯月「……っ!」ビクッ


樹里「! 卯月……」

卯月「じゅ、樹里ちゃん……」


樹里「……チッ……あぁそうだよ、気持ち悪いね」

樹里「今さらそういう上っ面な仲良しこよしなんざ……ウンザリなんだよ」

卯月「……ッ」ウルウル
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:03:21.00 ID:mUoeDtH10
凛「心にも無いこと言って、私達を遠ざけようとしないでよ」

樹里「…………」

凛「来て」ガシッ

樹里「放せ……!」

凛「来てっ!」

樹里「……!?」


凛「プロデューサーに会いたいんでしょ?」


樹里「……ふざけてんのか?」

樹里「アイツはもういねぇ。アタシが…!」

凛「いるっ!」

樹里「ふざけんなっ!! アイツはもう、もういねぇんだよ!!」

樹里「いい加減、目ぇ覚ませっ!!」ガバッ
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:04:42.73 ID:mUoeDtH10
パシッ

樹里「!?」

凛「……樹里の方こそ、目、覚ましてよ」

樹里「お前……」


凛「プロデューサーはいる。生きてる……私達の中に、ずっと」

樹里「……ポエムなら勝手にやってろ」

凛「それを誰よりも分かっているのは自分自身だ、って……樹里は気づいてる」

樹里「やめろ……!」

凛「誰よりも許せないのも自分だから、塞ぎ込んでる……
  また同じ事をするつもりなの? バスケの時と同じように」

樹里「うるせぇんだよ!! やめろっ!!」


凛「やだ。やめない……!」ジワ…!

樹里「! り、凛……」
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:07:09.31 ID:mUoeDtH10
凛「放っておけなんて……構うな、って!」ツー

卯月「凛ちゃん……」


凛「そんな自分勝手なこと、言わないでよ!」

凛「あの人が樹里を放っておけなかったのと同じように、
  私だって樹里を放ってなんてできない!」

樹里「!」

凛「ずっと、友達でいさせてよ!」

凛「勝手なこと、言わないでよ……!」



樹里「…………」

凛「……来て。賭けをしよう」

樹里「……? 賭け?」


凛「一緒に公園に来て」
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:09:35.14 ID:mUoeDtH10
〜公園〜

キュッ! キュキュッ!

ダムッ!

未央「あ、あぁっ!?」


パスッ!


智代子「おぉ〜、さすが夏葉ちゃん!」パチパチ


夏葉「……ふぅ、こんな所かしらね」

未央「この未央ちゃんをあっさり抜くとは、やるではないかなつはし」フフン

夏葉「私も、兄と少し嗜んでいた時期はあったから」


楓「…………」
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:10:30.57 ID:mUoeDtH10
咲耶「皆、どうやらお遊びはそこまでのようだ」

一同「!」


楓「……樹里ちゃん」


テクテク…


ザッ



樹里「……皆」

凛「お待たせ」

夏葉「えぇ……待っていたわ」


卯月「あ、未央ちゃん。バスケットボール……」

未央「えへへ。なつはしに買ってもらっちゃった」
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:11:32.04 ID:mUoeDtH10
夏葉「はい、凛。ボールを」スッ

凛「ありがとう」


樹里「……こんな所で、何しようってんだよ」

樹里「賭けとか言ったな。まさかアタシと1on1でもする気か?」


ダムッ!

凛「私がシュートする」


樹里「……」

凛「もし入ったら、樹里はアイドルを続ける。
  入らなかったら……樹里の好きにする」

凛「どう?」
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:13:20.24 ID:mUoeDtH10
樹里「……凛。バスケの経験は?」

凛「学校の体育の時間くらい、かな」


樹里「無理だな」

樹里「アタシでさえ、この距離は一度も入った事がねぇ。
   凛だって見たろ? あの日のアタシのシュート」

樹里「お前じゃあ、決められっこねぇよ」


凛「ふーん……賭けに乗った、って事でいいんだよね?」スッ

智代子「え、凛ちゃん……!?」

ダムッ! ダムッ!

樹里「素人が投げて入るような距離じゃねぇ」

凛「分かった」

ダムッ


凛「…………」


卯月「り、凛ちゃん……」

未央「まさか、マジで入れる気……?」
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:14:27.15 ID:mUoeDtH10
テクテク…

冬馬「……チッ」

北斗「最近元気が無いじゃないか、冬馬」

翔太「冬馬君、TAKE−UCの大ファンだったもんね。僕も心配だなぁ」

冬馬「なっ!? ち、ちげぇよ! 誰があんなヤツら……!」


シャニP「でも、こうして捜索に手を貸してくれるのは嬉しいよ」

冬馬「だからアンタの用事なんか関係ねえって!」

シャニP「俺も社長から、西城さんを保護するように言われたけど、心当たりのある場所が…」

冬馬「聞けよ、人の話っ!!」

冬馬「ん?」ピタッ



ダムッ ダムッ…
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:16:47.90 ID:mUoeDtH10
翔太「あれ……凛ちゃんと、樹里ちゃん達だ」

冬馬「高垣楓までいるじゃねーか」

シャニP「夏葉達も一緒か……しかし、あんなに勢揃いしていては…」

北斗「えぇ、目立ちすぎる。
   誰かが見つけて騒ぎ立てれば、この一帯は混乱するでしょうね」

冬馬「……」チラッ


アハハ…!

女の子A「マジだってほら! 樹里ちゃんと凛ちゃん!」

女の子B「うっそぉ〜!? 目撃情報こんなにあるのヤバくない!?」

女の子C「しかも結構近いじゃん! 今もその辺にいたりして」



冬馬「…………」

冬馬「北斗、翔太」
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:17:20.21 ID:mUoeDtH10
翔太「オッケー♪」

北斗「お前もよくよく、お人好しだな」フッ

冬馬「そんなんじゃねぇ。
   アイツらが俺達より目立つのが許せねぇだけだ」


シャニP「えっ? ど、どうしたんだ皆……?」

冬馬「アンタはさっさとアイツらのトコに行ってこい」プイッ

スタスタ…


シャニP「……?」
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:19:13.17 ID:mUoeDtH10
女の子B「絶対いるって! ちょ、ツイスタ見てみよ…!」

女の子A「アハハ、ちょっと興奮しすぎ! 何マジになってんの?」


「「ゲッチュウ!!」」


女の子C「へ……?」ピタッ


冬馬「ちょっとした気まぐれ! だぜ!!」

北斗「往来の皆さん、お騒がせしてすまない」

翔太「僕達ジュピターの、野外ゲリラライブ! あっちでオンステージだよー!!」


女の子達「きゃああぁっ!!?」「え、ジュピター!?」「冬馬クン!!」


冬馬「あっちの広場でやるぜ!! 皆、ついてきな!!」

北斗「はーい、ジュピターを見たい人達はこちらへどうぞー」

翔太「バスケコート使ってる人達の迷惑にならないようにねー♪」フリフリ


キャアァァァ! ガヤガヤ…!  ゾロゾロ…!
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:19:53.70 ID:mUoeDtH10
凛「…………」スゥーッ

凛「……」スッ

シュッ!



咲耶「……これは」

夏葉「…………」



楓(全然、届かない……)


スカッ


   テンッ テン テン テテテテ…


智代子「あ、あぁ……!」
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:20:56.58 ID:mUoeDtH10
凛「…………」


卯月「凛ちゃん……」



樹里「………………」



スタスタ

ヒョイッ


樹里「……チッ、ほら見ろ」

凛「樹里……?」


樹里「全然なってねぇな、ったく。そこに直れ」ダムッ
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:23:34.63 ID:mUoeDtH10
未央「あ、あれ? ジュリアン……」


凛「なってねぇな、って……これでも、左手は添えたけど」

樹里「他のやるべき事を色々やった上で、最後に“左手は添えるだけ”なんだよ。
   凛のは本当にただ左手を添えてるだけじゃねーか」


樹里「いいか? まず膝」パシッ

樹里「ここをちゃんと柔らかく使って、その屈伸の力を上体に伝えんだよ」グッ

凛「うわ、何か本格的…」

樹里「真面目に聞け。その場で屈伸、やってみな」

凛「?」スッ スッ

樹里「体幹は曲げんな。真っ直ぐのまま屈伸」

凛「体幹?」

樹里「上体を地面に対して垂直のまま屈伸しろってこと。こう」スッ スッ
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:24:52.52 ID:mUoeDtH10
卯月「……樹里ちゃん」


凛「……」スッ スッ

樹里「うん、まぁいいか。
   それで、膝と上体を意識して投げてみな」スッ

樹里「未央っ! ボール!」

未央「は、はい!?」ピシッ

樹里「そこに立って、凛がシュートしたヤツを拾ってくんねぇか」

未央「……あぁ、なるほど! オッケー、ジュリアン!」タタタ!


卯月「未央ちゃん、私も手伝います!」タッ

未央「よーし、じゃあそっちから半分、しまむーお願いね!」

卯月「はいっ!」ギュッ


樹里「ほら、凛。膝からの力を上体へ連動させるように」

凛「う、うん……」
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:26:16.21 ID:mUoeDtH10
凛「……」スッ

シュッ!


スカッ

   テンッ テン

未央「ああぁ、まだ届かない……」パシッ


樹里「片手じゃ無理そうだから、両手投げだな」

凛「えっ。でも、バスケって普通片手で皆シュートしてない?
  樹里だって片手で……」

樹里「ボースハンドシュートっつって、女バスは両手打ちも普通だよ。
   アタシは片手の方がやりやすいってだけ」

樹里「ていうか、リングに届かなきゃ話になんねーだろ」

凛「まぁ、そっか」

樹里「素人が一丁前に口出しすんな。
   未央ー、ボール」

未央「あ、はーい、ごめーん!」ヒュッ
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:27:30.33 ID:mUoeDtH10
樹里「よっ、と」パシッ

樹里「手首を柔らかく、スナップを利かせる感じで打ってみな」スッ

凛「……」スッ

シュッ!


スカッ

卯月「わっ! っとと」パシッ

未央「距離は出てるよ、しぶりーん!」

卯月「樹里ちゃん、パス! えいっ!」ヒュッ

ダムッ

樹里「サンキュー、卯月。はい、次」パシッ スッ

凛「ちょ、ちょっと休ませて…」

樹里「始めたばっかじゃねーか。甘ったれんな、ほら」
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:29:14.68 ID:mUoeDtH10
樹里「リリースポイントは高めに、山なりの軌道を描く感じで、だぞ」

凛「もう……!」スッ

シュッ!



楓「…………」

智代子「な、何か……いつの間にか、樹里ちゃんのバスケ教室が……?」

夏葉「当初の趣旨と変わっている気がするわね」


咲耶「……だけど、楽しそうだ」フッ

夏葉「そうね、ふふっ」

智代子「えへへ」

楓「…………」



樹里「手首の使い方がブレブレなんだよ。
   もっとカチッと固定させろ。じゃないと方向も定まらねぇだろうが」

凛「さっき、手首は柔らかく使えって言ったじゃん」ムスッ

樹里「そ、ソレはソレだよ、うるせぇな! ほら次!」ムッ!
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:32:26.45 ID:mUoeDtH10
楓「樹里ちゃん……」


咲耶「……ねぇ、楓」

咲耶「アナタは言っていたね。
   自分さえいなければ、こんな事にはならなかったと」

咲耶「でも、あの二人の姿を見てごらん」

楓「…………」



樹里「だからぁ! 肘を曲げんなっての!」

凛「肘曲げなきゃ投げれないじゃん!」

樹里「変な風に曲げんなっつってんだよ! こう!」

凛「こう?」

樹里「ちげぇよ! 何つーか、真っ直ぐ曲げんの!」

凛「……樹里、教え方下手だね」

樹里「ああっ!?」カチン!
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:34:48.41 ID:mUoeDtH10
咲耶「確かにあのオーディションは、
   智代子や夏葉をはじめ、多くの人達を傷つけたのかも知れない」

智代子「……」

咲耶「でも……結果論ではあるけれど、
   あの出来事が無かったら、今目の前で起きている事は存在し得なかった」

咲耶「私達が出会い、こうして絆を深め合うことも無かったかも知れない」


咲耶「あの凛と樹里の姿を……アナタは否定できるかい?」

楓「…………」



樹里「貸せ! 手本を見せてやる!」パシッ

樹里「よっ」シュッ!

ガコンッ!

凛「入ってないじゃん」

樹里「お前のよりは数段マシだろうが! 卯月、ボール!」

卯月「はいっ!」ヒュッ



夏葉「……それを言うなら、私の方こそ」

楓「夏葉ちゃん……?」
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:36:37.10 ID:mUoeDtH10
夏葉「もしあのオーディションで、私がミスをしなければ……」

夏葉「そう思わなかった日は無いわ」

楓「…………」

夏葉「全力を出し切った上で智代子と戦い、勝利を収めたのなら、
   きっと私は何も疑うことなく、その合格を受け入れていた」

夏葉「智代子も、きっと必要以上に落ちこむことも無かったでしょうね」

智代子「夏葉ちゃん……」


夏葉「楓……あなたは何も悪くないわ。全て私のせいなのよ」

夏葉「私がミスさえしなければ、誰もあのオーディションで不条理に傷つく人などいなかった」

夏葉「そう。でも……でもね、楓?」ギュッ…!


夏葉「こんなの……到底許される感情でないのは、理解しているつもりよ」

夏葉「とてもロジカルに説明なんてつくものじゃない、だけど……!」
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:40:53.94 ID:mUoeDtH10
夏葉「私には……今流れているこの時を否定することが、とても出来ない」

夏葉「本当に、どうしようもなく自分勝手だけれど、私は……愛おしいの」

夏葉「肯定できない出来事も含めて幾重にも偶然が折り重なった末にある今が、私には……」



樹里「モーションが雑になってきてんぞ! 焦んな!」

凛「はぁ、はぁ……急かしてるの、そっちのクセに……!」

樹里「何か言ったか?
   おら、アタシから言われたこと一コずつ整理してみろ」スッ

凛「くっ……
  ひ、膝を柔らかくして、上体を真っ直ぐ……手首を柔らかく、でも打つ瞬間は……」



楓「……夏葉ちゃん。それは違います」

楓「夏葉ちゃんがあのオーディションに来てくれたのも、私が原因なんです」

楓「全て私が…!」

智代子「私はっ!」ピョンッ

楓「! ち、智代子ちゃん……」


智代子「私は、自分の意志で346プロのオーディションを受けに来ました!」
862 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:42:50.82 ID:mUoeDtH10
智代子「そりゃあ、楓さんみたいに素敵なアイドルになれたらなーって気持ちもありましたけど、えへへ……でも」

智代子「私がアイドルを目指したのは、楓さんにお願いされたからじゃなくて、
    自分でなりたかったからで……」

智代子「あっ!? ちょ、ちょっと今の言い方はナマイキだったかもですけど!
    す、すみません!」ペコペコ!

楓「いえ、大丈夫です、お気になさらないで…」

智代子「はい……で、えぇと、確かにあの時は、本当に悲しかったんですけど……
    でも、今だから思えることがあるんです」


智代子「本気で一生懸命に頑張っていたから、あれだけ「悲しい!」って気持ちになれたんだ、って」


楓「悲しい気持ちになれた……?」



ガゴッ!

未央「オッケーイ、しぶりん!」パシッ

卯月「あとは方向さえちゃんとなったら、入りそうですっ!」

ヒュッ

樹里「卯月の言う通りだぜ。ほら、もう一踏ん張り」パシッ スッ

凛「はぁ、はぁ……!」
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:46:39.75 ID:mUoeDtH10
智代子「アレが無かったら、今私はこんなにアイドルの事を、
    本気でしっかり考えていなかったんじゃないかなぁって」

智代子「確かに、一時はすっごくアイドルが嫌になったりもしたんですけど……」

智代子「すごく頑張ったから……好きだったからこそ、嫌いになって。
    それだけ本気で向き合えるものが、私にはどれだけあるんだろう、って」

智代子「こんなに悲しいのは、何よりもアイドルが好きな証拠なんだって気づけたんです」

智代子「私のために、一生懸命にアイドルを頑張ってくれた樹里ちゃんのおかげで」

楓「智代子ちゃん……」

智代子「えへへ、だから! 私も、夏葉ちゃんと同じ気持ちでありますっ!」ムフン

夏葉「……ありがとう、智代子」



咲耶「“原因”とアナタは言ったけれど……私達にとっては、そうじゃない」

咲耶「アナタは“きっかけ”だったんだ、楓」

楓「……!」
864 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:52:54.00 ID:mUoeDtH10
ガゴンッ!

樹里「よーし、そうそう! 雰囲気出てるぜ」

凛「ちょ、ちょっと……もう、腕が上がらない……!」ガクッ

ヒュッ パシッ

樹里「いつもこんなのよりずっとハードなレッスンしてるじゃねーか。
   頑張れ、ほら」スッ

樹里「大丈夫だ。凛ならやれる」

凛「……もうっ」クスッ



咲耶「アナタはあまりに優しすぎて、臆病で、心の弱い部分も持っているのだろう」

咲耶「だから、自分の行いに正しさを求めている」


咲耶「確かに、アナタや私達が招いたものは、いつも正しいものばかりじゃなかった」

咲耶「だけど……正しさでは測れないものも、きっとあったんだ、楓」

咲耶「アナタが無自覚に弾いた石は、たとえ一時の智代子達を傷つけたとしても、
   その石が生んだ波紋は、私達をこの場所に引き寄せた」

咲耶「今の私達が抱いている気持ちのように……決してマイナスばかりなんかじゃない」
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:59:00.84 ID:mUoeDtH10
咲耶「私達だけじゃない。きっとアナタのファンだって同じさ」

咲耶「アナタの歌声を愛おしいと思わないアイドルファンはどこにもいない。
   たとえアナタが言うように、それが作り上げられた虚構の偶像だったとしても」

咲耶「アナタのファンが抱く気持ちに、嘘なんかどこにも無いんだ」

楓「…………」


咲耶「だって……だって、私がそうなのだから……!」

咲耶「今の私達が立っている場所は、マイナスなんかじゃないんだと信じたい」

咲耶「もっと高垣楓を応援したい……寄り添い、肩を並べて、同じ夢を見ていたい」

咲耶「そんな私達の……私の気持ちまで、否定するようなこと、しないでよ……!」


楓「…………ッ」ポロポロ…!



ガゴゴンッ!

卯月「ああぁ〜〜!! おっしぃ〜〜!」パシッ

未央「もうほぼ入ってたじゃん今のー! このイジワルリング〜〜!!」

ヒュッ

樹里「ハハハ。ついてねーな、凛」パシッ

凛「くっ……はぁ、はぁ……!」
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 00:59:53.00 ID:mUoeDtH10
樹里「でも、逆に言やぁ、運以外の要素はもう出来てる」

凛「……そう、かな」

樹里「あとちょっとだ、凛」スッ

凛「……うん」コクッ


凛「………………」スゥー…


凛「……ッ」スッ

シュッ!


フワッ…





パスッ!


未央「…………ッ!!」パシッ

卯月「は……!」


凛「入った……!」
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:00:55.28 ID:mUoeDtH10
智代子「ぃやったあーー!!」ピョンッ

夏葉「ナイスシュートだったわ、凛!」

咲耶「……」パチパチ



凛「樹里……!」クルッ


樹里「ヘヘッ……やったな、凛」

凛「うん……!」


凛「……樹里」

樹里「ん?」



凛「入ったよ」

凛「私のシュート……入った」


樹里「…………」
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:02:53.75 ID:mUoeDtH10
凛「さっきの賭け……樹里も、気づいていたんでしょ?」

凛「私のシュートの回数に、制限なんて無いってこと」

凛「だから、私の勝ち……そうだよね?」


樹里「……いいや、賭けはアタシの勝ちだ」

凛「……」

樹里「だから、アタシは賭けのルールに従った」

樹里「入らなかったから……アタシの好きにしたまでだ」

凛「樹里……」


樹里「弁当の時といい……お前もしたたかなヤツだよな」

樹里「どっちに転んでも、アタシがそうなるように仕向けたんだろ?」


凛「ううん、違うよ」フルフル

凛「樹里なら、自分の気持ちに気づいてくれる……その背中を、私は押したかっただけ」
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:06:51.23 ID:mUoeDtH10
樹里「……ほんとさ」

樹里「本当に……大したお節介焼きだぜ」

樹里「余計なお世話なんだよ……そういうのもう、嫌なんだよ……!」

樹里「嫌だって……思いたいのによ……!」グッ

未央「ジュリアン……」


樹里「どこにもいないんだ……アイツはもう」

樹里「そう自分に言い聞かせて、納得して……受け入れたつもりでいたかった」


樹里「そうするフリして……アタシは、忘れたかった。
   逃げたかったんだ」

樹里「大切なものを失うことの辛さから……
   アイツのことだって、さ、最初っからさ……!」

樹里「あんなヤツ、最初からいなかったんだ、って……!」ジワ…

凛「樹里……」

樹里「全部……ぜんぶ、忘れたかった!
   無かったことすりゃ、アタシは何も失ってないって!!」

樹里「なのによ……!」ポロポロ
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:08:21.16 ID:mUoeDtH10
卯月「樹里ちゃん……」

樹里「どうしようもねぇんだよ!! あ、うぁ……ぅ……!」

樹里「アタシ、ずっと目瞑ってるのに、気づけばアイツを探してて!
   どこにも見つかんなくって!! 逃げたいのに追っかけて!!」ボロボロ

樹里「忘れたいのに……アイツ、あ、ぁ、い……ひ、ぃ……!!」

樹里「アイツに会いた、て……話、したくて……!」

凛「樹里……」スッ

ダキッ

樹里「うあぁっ、ぁ……! ぃやだ……や、ぁ……!」ボロボロ


凛「いたでしょ、プロデューサー……?」

凛「私達や……樹里の中に、たくさん……たくさんっ」ギュッ

樹里「あぁ……プロデューサー……!」

樹里「プロデューサー……! ひ、あぁぁ……!!」ギュゥ
871 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:09:47.29 ID:mUoeDtH10
凛「寂しいよね…………悲しいよね……
  でも、寂しくないよ」

凛「私達だって、寂しいから……!」

凛「樹里の悲しみが、痛いほどに分かるから……!」ギュゥ…!

樹里「ぃやだ…………うぁ、やだ、ぁあ、ああぁぁ……!」ポロポロ

凛「だから、一緒に探していこうよ……プロデューサーとの、思い出の欠片を」

凛「皆と一緒に、たくさん……」

凛「私の中にいるプロデューサーも…………樹里のものだから……」


樹里「プロデューサー……うぁっ! あぁぁ……!」ボロボロ

樹里「プロデューサぁぁぁ……!!」ギュゥ…!

凛「…………」ナデナデ
872 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:11:27.93 ID:mUoeDtH10
楓「樹里ちゃん……」


夏葉「謝ってはダメよ、楓」

楓「……夏葉ちゃん」

智代子「…………」ポロポロ


楓「……はい」



樹里「ヒック……ヒック……!」

樹里「…………」


樹里「……」





スッ

凛「……落ち着いた?」
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:12:50.43 ID:mUoeDtH10
樹里「……うん。ありがとう、凛」

凛「もう……服がベチャベチャ」クスッ

樹里「うるせぇ」



ザッ

シャニP「……さ、西城さんっ」


樹里「? あ、アンタ……283プロの……」

シャニP「すまない。ちょっと、声を掛けるタイミングが無くて……」


咲耶「もっと早く入ってきてくれて良かったのに」クスッ

シャニP「えっ、き、気づいていたのか、咲耶!?」

夏葉「咲耶だけじゃないわ。当たり前でしょう、ねっ、智代子?」

智代子「もっ、も、もちろん……!」
874 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:18:01.71 ID:mUoeDtH10
凛「樹里」

樹里「あぁ、分かってるよ」


シャニP「……君を迎えに来た、西城さん」

シャニP「社長は俺に、君のことを保護するようにと言った」

樹里「保護?」

シャニP「その意図は、俺にもよく分からないのだけど……
     でも、それとは関係無く、俺は君に用があったんだ」

樹里「……何だよ」


シャニP「単刀直入に言おう、西城さん」

シャニP「君を283プロのアイドルとして、スカウトさせてほしい」


シャニP「俺は……まだ彼のような立派なプロデューサーではないのかも知れない。
     だけど、俺にも託されたものがある」

シャニP「その答えが何なのか、君と一緒に、探していきたいんだ」
875 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:19:18.88 ID:mUoeDtH10
樹里「いいぜ」

シャニP「えっ!?」

樹里「何で誘った方がビックリしてんだよ」

シャニP「い、いや、あまりにアッサリとしていて……良いのか?」


樹里「むしろアタシの方からお願いしたいと思ってたんだ」

樹里「アイツも、アタシには283プロが合ってるって、言ってたし……」

樹里「さっき、賭けにも“勝っちまった”からな」ニカッ

凛「ふふっ」クスッ


智代子「やったぁ、樹里ちゃん!」

夏葉「こんなに嬉しいことは無いわ、樹里」ニコッ

樹里「ヘッ。なんか……新鮮さはねーけどな」

咲耶「それだけ深め合ったものがあるということさ」バチコーン☆

樹里「やめろってそういうの」
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:21:05.86 ID:mUoeDtH10
シャニP「ありがとう……これからよろしく頼むよ、西城さん」ペコリ

樹里「樹里だ」

シャニP「えっ?」


樹里「アタシのことは、樹里って呼んでくれよ」


シャニP「あぁ……分かった、樹里」

樹里「……ヘヘッ」


樹里「それと……」クルッ



楓「……? 樹里ちゃん?」

樹里「なぁ、楓さん」
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:23:11.34 ID:mUoeDtH10
樹里「アタシと、賭けをしてみませんか?」

楓「賭け……」

ダムッ!

樹里「さっきの凛と同じ、この位置からアタシがシュートを打つ」

楓「…………」


樹里「……引退の噂があったのは、知っています」

樹里「もしそれが本当だってのなら……
   このボールが入ったら、楓さんはアイドルを続けてください」

楓「……入らなかったら、私の好きに、ですか?」

樹里「ハハハ。あぁ、そう」



楓「……樹里ちゃん」

楓「私は……やはり、メディアに全てを打ち明けたいと思います」
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:27:46.82 ID:mUoeDtH10
智代子「えっ……!」

卯月「ちょ、楓さん……!?」

シャニP「……それは、今世間を騒がせているあの動画の内容について、
     公式に真偽を言及するという事ですか?」

シャニP「あなたほどの人がそれを発言したら……」

楓「分かっています……私はもう、アイドル業界にいられなくなるかも知れません。
  それどころか、多くの人をご迷惑に……」

楓「でも、やはりそれは、ケジメなんです」

咲耶「楓……」


楓「その上で、私は……樹里ちゃんの投げたボールが入る事を、信じたいと思います」


夏葉「……損な性格をしているわね、楓」

未央「でも、楓さんらしい、かな?」


樹里「……一応もう一度、言っときますけど」ダムッ

樹里「アタシ、ここからシュートして入ったこと無いけど、いいんですか?」
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:29:20.41 ID:mUoeDtH10
楓「やる前から結果が分かっているものは、賭けとは言いません」

楓「そうでしょう?」ニコッ


樹里「……ヘヘッ」

樹里「みんな! ゴール下についてくれ!」


凛「うんっ」

未央「ほい来た!」

卯月「任せてください!」

咲耶「私はこちらで良いかな」

智代子「じゃあ私はこの辺で!」

ザザッ


シャニP「まさか……入らなかったボールを処理して、皆で入れようと?」

シャニP「た、確かに“ボールが入ったら”という条件ではあるが……何か、ずる…」

夏葉「プロデューサー! あなたも早く配置につきなさい!」

シャニP「あ、あぁ!」ザッ
880 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:31:13.12 ID:mUoeDtH10
樹里「よし……いいですね?」

楓「はい。お願いします、樹里ちゃん」

樹里「…………」ダムッ ダムッ


樹里(きっと、これから先も……アタシ一人の力じゃ届かねぇんだろうな)

ダムッ

樹里(でも、アタシは一人じゃない)

樹里(皆と一緒だから……アタシは、勝てる)

樹里(どこまでも、羽ばたいていける……)


樹里「…………」

樹里「……」スッ



樹里(そうだろ? プロデューサー)



シュッ!


――――

――――――
881 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:36:38.29 ID:mUoeDtH10
――――――

――――


  >今日のステージにタケウチ出るんだっけ?
  >出るもなにも大トリだぞ、運営も明らかに狙ってやってる
  >注目度だけじゃなくて、期待を裏切らない実力を見せてくるのはさすがだわ
  >ワイは最初からタケウチが来るって分かってた

  >ずっと思ってたんだけどさ
   『タケウチ』じゃなくて『タケウチャー』じゃね? どちらかと言うと
  >タケちゃん定期
  >今さら呼称を覆すのは無理だろ、明らかにタケウチが浸透しすぎた
  >実際呼びやすいしな
   全国のタケウチさんはネタにされちゃうだろうけど
  >カラオケでタケウチの曲を歌わされるタケウチさん続出してそう

  >しかしまさか楓さんが復活するとは思わなかったわ
  >いや、当たり前やろ
   楓さん何も悪いことしてないじゃん
  >その辺りは俺らには知る由も無いけどな
  >何でもいいよ、これからも上手に俺達を騙してほしいってだけ

  >樹里ちゃんも収まる所に収まった感あるわ
  >あの子もなんか雰囲気落ち着いたよな
   961にいた頃は必死な感じがしてウザかったけど
  >今ではすっかり283プロの良心
  >牙を抜かれたどころか、周りに濃いメンツいすぎてツッコミが追いつかない
  >胃薬のCM出始めたのほんと草生える
882 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:40:31.08 ID:mUoeDtH10
『……さぁ、ここでアイドル・アルティメイト決勝戦にコマを進めた、
 その最後のユニットのご紹介になります』

『さぁ見えました、『TAKE−UC HIGHER』!』

『以前行われたクリスタルウィンターにおいて優勝を果たした『TAKE−UC』、
 その5名に、283プロの白瀬咲耶さんを加えた6人組のユニットとなります』

『いえ、正確には『TAKE−UC』本来のメンバーには白瀬さんも入っていたのですが、
 アクシデントにより急遽346プロの高垣楓さんが代わりのメンバーとなっていたとのことで』

『ある意味では最終進化形と言えるユニットになったということでしょうか』

『ところで、この『TAKE−UC HIGHER』について、
 ファンの間でユニークな愛称が流行っているそうですね』

『あぁ、“タケウチ”という』

『ユニット名をローマ字読みした発音から、そう呼ばれていると。
 彼女達自身も気に入っているそうですよ』

『さぁ、その“タケウチ”ですが、今日のステージで披露する楽曲は、
 メンバーの皆が胸に秘めたある想いがテーマになっているそうです』
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:43:56.13 ID:mUoeDtH10
ワアアアァァァァァァァァ…!!!


樹里「……またこの花束かよ」ポリポリ

凛「夕美もマメだよね」


夏葉「黄色のラナンキュラス……」

咲耶「花言葉は、「優しい心遣い」」

智代子「見た目といい、樹里ちゃんにピッタリのお花だね!」

樹里「うるせぇ」プイッ


楓「会場の皆さん、お待ちかねのようです」

樹里「……ですね」


樹里「じゃあプロデューサー、行ってくる」

シャニP「あぁ」

シャニP「届けてきてくれ。お前達の笑顔を」

一同「はいっ!!」
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:45:37.53 ID:mUoeDtH10

 TAKE−UC HIGHER 【 FUTURITY SMILE 】



――――


ドタドタドタ…!

モバP「こ、こら志希! またそうやってふざけた事を……この、待てっ!」

一ノ瀬志希「ふざけてないよー、からかってるだけー♪」

塩見周子「まーまー。大人しくしといた方がかえってダメージ少ないよ、プロデューサーさん」

モバP「悪いことをする側の理屈じゃないか、それ……」


夕美「こらー、二人とも!
   プロデューサーさんを困らせちゃダメって言ったでしょ!」ムンズ

志希「ありゃりゃ、捕まっちゃったー、にゃははー♪」

周子「我が家のママがお出ましだねぇ、頼りになるわ」

夕美「ふざけた事言ってないで、ほら! 早くレッスン行こ!」
885 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:46:54.40 ID:mUoeDtH10
モバP「夕美、いつもありがとう。本当に助かるよ」

モバP「でも……すまない、夕美。ちょうど伝えようと思っていたんだが」

夕美「え?」

モバP「実は、トレーナーさんが風邪ひいちゃって、お休みしてるらしい。
    だから、今日のレッスンはキャンセルだ」

周子「あらら、そりゃ心配だね。そういう人達でも体調を崩すことあるんだ」

志希「絶対の事象なんて無いからねー。
   とりあえずゴシュウショウサマ……ん? 違うか。ぷりーずていくけあ、ゆーとぅー」


夕美「ううん、プロデューサーさんは何も悪くないよっ」フルフル

夕美「それに、レッスンがお休みなら、代わりにやりたい事もあるんだ♪」
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:48:21.33 ID:mUoeDtH10
モバP「中庭の花壇の手入れか?」

夕美「うんっ! ほら、志希ちゃんと周子ちゃんも行こう?」

志希(ふむふむ、これはヤダって言っても無理やり連れてかれるヤツと見た)

周子(下手に逆らわない方が身のためよ、志希ちゃん)ヒソヒソ

夕美「行こう??」ズイッ

志希・周子「はい」

モバP「お達者でなー」フリフリ


――――

  当たり前にある今日も
  奇跡だって思うよ
  どうすれば変われるのかを
  考えて過ごしてたの

――――



テクテク…

志希「わぁーっ! 綺麗なお花畑ー!」

夕美「えへへ。そりゃあ、私がお手入れしているからねっ♪」
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:49:41.95 ID:mUoeDtH10
周子「本当、お花に関しては丁寧だよねー」

夕美「ちょ、ちょっと!? アイドルのお仕事もちゃんとやってるでしょ!」プンスコ!

志希「アハハハ」


――――

  トキメキを形にできる場所
  見つけたから 溢れる希望
  その“始まり”を あなたがくれた
  まっすぐ見つめてくれた

――――


志希「ん?」ピタッ

周子「どうかした?」

志希「これ……アグラオネマだよね? こんな所に植えてていいの?」

夕美「あぁ、それはね」


スッ

夕美「この子は、ここでいいの」
888 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:53:05.45 ID:mUoeDtH10
夕美「もちろん、本当は日当たりの良い所に植えちゃいけない品種なんだけどね」

夕美「この子は、大切な人からの……」


――――

  舞い上がり ぶつかって 何度でも
  思い出すあの瞬間(とき) 最初の1ページ
  信じあう 響きあう 高鳴りを
  永遠に そう 忘れない

――――


周子「へぇー、お日様の日光が良くない植物とかあるんだ?」

周子「でもこの、アグラオネマさんは、日当たりが好き?
   色々と変わり者屋さんだね」

志希「まぁ何にでもイレギュラーはあるからねー」

周子「志希ちゃんが言うと説得力あるわぁ」


夕美「えへへ……変わり者なんかじゃないよ」

周子・志希「?」
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/25(土) 01:56:24.67 ID:mUoeDtH10
  輝こう…!
  大きな空で あなたが誇れる星になろう
  限りない“ありがとう”繋いでゆく 希望のステージ
  羽ばたこう…!
  夢見ることに 全力出せる“今”があるの
  眩しい世界へ いつまでも Stand by Me



ワアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!! パチパチパチパチ…!!!!


樹里「はぁ……はぁ……はぁ……」


樹里「……これで安心だろ? プロデューサー」



フッ…


夕美「あっ! ふふ……」

夕美「良い笑顔だねっ!」ニコッ


〜おしまい〜
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/25(土) 02:02:26.51 ID:mUoeDtH10
洋画『レオン』のパロディを書こうとしていたのですが、全然違うものになりました。
色々おかしい所もあるかと思います。

アイドルマスターシリーズの楽曲から、『オーバーマスター』、『1st Call』、『Ambitious Eve』、『FUTURITY SMILE』の歌詞をそれぞれ一部引用している箇所があります。

ひたすら長くなり、すみません。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/02/27(月) 18:15:55.38 ID:8ZpP9TWeO
龍が如くスピンオフ

リーガルサスペンスアクションゲーム

ジャッジアイズ:死神の遺言
(キムタクが如く)最終回

▽第11話〜最終13話
『Back Stage』『Dirty Work』『トカゲの尻尾』
(18:06〜)

https://youtu.be/a_6K0l2_4aQ
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/03/01(水) 20:17:54.61 ID:BETezwxDO
第1回ピザラポーカー
supported by エムホールデム
(Tホールデムアプリトーナメント)
オーイシ×加藤のピザラジオ#99SP
(21:00〜)

■もこう、鈴木ゆゆうた、おにや
すたみな(あむあむWORLD)
高井佳祐(ガーリィレコード)
ミト(Clammbon/Ba.)、やしろあずき
岡田紗佳(Mリーグ/角川サクラナイツ)

□解説:けいたん(R.A.B)、ガイP

https://www.youtube.com/live/pYpPF8cDbO8
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/03/04(土) 10:50:51.40 ID:gKYd6OUzo
いいんじゃね?
樹里ちゃんが好きになるSS
894 : [sage]:2023/03/06(月) 23:52:06.49 ID:1HMyapfU0
>>478
誤)樹里「まだ9対7だ、勝負は終わっちゃいねぇ。
正)樹里「まだ9対6だ、勝負は終わっちゃいねぇ。

>>480
誤)樹里「今、9対7……これが入ったら、アタシの勝ち」
正)樹里「今、9対6……これが入ったら、アタシの勝ち」

スコアを間違えていました、すみません。
646.15 KB Speed:1.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)