侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part3

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82 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:20:41.10 ID:E7iRZ/bz0

    🎹    🎹    🎹





──フソウのコンテスト会場をすぐ傍に臨む中央公園のベンチで待っていると、


歩夢「侑ちゃーん!」
 「イブイ♪」

侑「あっ、歩夢〜! こっちこっち〜!」


歩夢たちが私たちを見つけ、手を振りながら駆け寄ってくる。


かすみ「先輩たち、ここに居たんですね〜!」

侑「うん。3人とも出店回りは楽しめた?」

栞子「はい……! かすみさんにいろいろ教えてもらいました!」

かすみ「聞いてくださいよ〜……侑せんぱ〜い……せっかくかすみんが『トサキントすくい』のお手本を見せようと思ったら、歩夢先輩が全部すくっちゃって……」

栞子「あれは、すくうというより……トサキントたちに群がられていたというか……」

歩夢「私……近くにいただけなんだけど……」
 「ブイ」

侑「あはは……歩夢、昔にもそんなことあったよね……」

歩夢「あ……もしかして、6番道路での花火大会のときのこと? 懐かしいなぁ……そのとき私、たくさんのトサキントにびっくりして泣いちゃって、侑ちゃんが泣き止むまでずっと手を繋いでてくれたんだよね♪」

侑「あったあった……」


あのときからすでに、歩夢のポケモンに好かれる体質は片鱗を見せていたということだ……。


かすみ「んで……しず子はまたヨウカン食べてるんだ。来るたびに食べてるよね」

しずく「だって、好きなんだもん。この絶妙な甘さと舌触り……いつか、シンオウに行ったら本場のを食べてみたいなぁ……」


しずくちゃんはそう言いながら、ベンチに座ってさっき買ってきた“もりのヨウカン”を食べている。


かすみ「……ん、確かにおいしけどさ〜……毎回同じのばっかで飽きないの?」

しずく「全然飽きないよ。はい、かすみさん、あ〜ん♪」

かすみ「あーん。……もぐもぐ……おいひぃ〜♪」

しずく「でしょ♪」

リナ『3秒前と言ってることが変わってる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「あはは……」

栞子「それはそうと……せつ菜さんは、先ほどから何をされているんですか?」


栞子ちゃんがベンチから離れた場所で、立ったまま胸に手を当て、目を瞑っているせつ菜ちゃんを見て言う。


せつ菜「…………すぅー…………。…………ふぅー…………」


せつ菜ちゃんは、目を瞑ったまま、何度も深呼吸を繰り返していた。
83 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:21:25.26 ID:E7iRZ/bz0

侑「精神統一だってさ」

かすみ「精神統一?」

しずく「あれをすると、集中出来るそうなんです。大事な戦いの前にはいつもああしているそうですよ」

歩夢「大事な戦い……それじゃ……」

侑「うん。次の試合はせつ菜ちゃんにお願いしようってことになったんだ」

せつ菜「──……そう言うわけです」


せつ菜ちゃんが目を開けて、私たちのいるベンチへと歩いてくる。


侑「あ、ごめん……邪魔しちゃったかな?」

せつ菜「いえ、これくらいにしておこうと思っていたときに、ちょうど私の話をしているのが聞こえてきただけですよ。準備は整いました」


そう言うせつ菜ちゃんの表情は──普段の天真爛漫な雰囲気から一変、鋭さを感じさせる雰囲気を纏っている気がした。

バトルモードということかもしれない。


栞子「それでは、龍脈の場所へ移動しましょう」

侑「そうだね」

せつ菜「よろしくお願いします、栞子さん」


私たちは龍脈の場所へと移動を開始する。





    🎹    🎹    🎹





フソウ島は、北側に港があり、そこから南に進んでいくと、ちょうど島の中央にポケモンコンテストのフソウ会場がある。

フソウ会場からさらに南に行くと、ホテルが立ち並ぶ宿泊施設の密集地があり──さらに、その南には……。


かすみ「海です〜〜〜!!」


かすみちゃんが目の前に広がる砂浜をご機嫌になって走り出す。


しずく「かすみさーん! 走ると危ないよー!」

かすみ「大丈夫大丈夫〜……わぁっ……!?」

しずく「言わんこっちゃない……」


早速、砂浜に足を取られて転ぶかすみちゃんを見て、しずくちゃんが肩を竦めながら、かすみちゃんの方へと駆けて行く。

私たちがやってきのは──フソウビーチと言われるフソウ島の南にある大きな砂浜だ。


歩夢「龍脈はこっちなんだよね?」

栞子「はい」


栞子ちゃんは“もえぎいろのたま”の輝きを見ながら頷く。


せつ菜「とりあえず、反応にしたがって進んでみましょうか」

侑「そうだね」


私たちは砂浜沿いに島の南東方面へと進んでいく。
84 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:22:08.49 ID:E7iRZ/bz0

かすみ「……どこまで行くの」

栞子「わかりません……」

かすみ「まさか、本当に海の底じゃないですよね……」

侑「さすがにそれは困るね……」


まあ、海の底で戦うことはないだろうから、バトル自体は近くの海岸ですることになるとは思うけど……。


しずく「そういえば……フソウビーチには、パワースポットがあった気がします」

せつ菜「パワースポットですか……?」

しずく「はい。ビーチの東端に、漣の洞窟という海から入れる洞窟があるんです」

歩夢「あ、私も聞いたことある! 青の洞窟だよね!」

しずく「はい!」

かすみ「青の洞窟……?」

リナ『石灰質の白い海底と、太陽光の影響で、海が青く輝いて見えるっていう海食洞のことだね』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「へー……? なんか青いってこと?」

リナ『まあ、だいたいそれでいいよ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


確かにこのまま進んでいくと、ビーチの東端にたどり着きそうだ。


しずく「そこの奥に、青く光る岩があると……」

侑「そこがパワースポットになってるってことだね」

しずく「もちろん、パワースポットがイコールで龍脈なのかはわかりませんが……」

栞子「とりあえず、反応に従って進んでみましょう」

歩夢「そうだね」


私たちはフソウビーチを進んでいく。





    🎹    🎹    🎹





しずくちゃんの言うとおり、ビーチを進んでいくと、洞窟が見えてきた。


栞子「反応は……洞窟の方ですね」

かすみ「洞窟の入り口、完全に水に浸かってますね……」

せつ菜「“なみのり”で行く必要がありますね。スターミー、出てきてください」
 「──フゥ」

歩夢「トドゼルガ、お願い」
 「──ゼルガ…」

栞子「イダイトウ、出番ですよ」
 「──ダイトウ…!」


3人がみずポケモンをボールから出す。
85 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:23:35.07 ID:E7iRZ/bz0

かすみ「イダイトウ……? 見たことないポケモン……」

しずく「……私も、知らないポケモンです」

歩夢「その子もヒスイのポケモンなの?」

栞子「はい、ヒスイのバスラオが進化した姿なんです」

せつ菜「バスラオに進化した姿があったんですか……!?」

リナ『かつて、しろすじのバスラオって種類がいたと言われてる。そのバスラオはイダイトウに進化してた』 || ╹ᇫ╹ ||

リナ『イダイトウ おおうおポケモン 高さ:3.0m 重さ:110.0kg
   生まれ育った 川に 遡上するときに 志半ばに 散っていった
   仲間達の 魂が 憑りつき 進化した 姿。 憑りついた 魂から
   推進力を 得て 泳ぎ 河川に おいて 敵なしと 言われる。』

栞子「ヒスイ地方ではこのポケモンの力を借りて、海を渡ったそうですよ」

侑「確かに、この大きさなら、一度にたくさんの人を運べそうだね……!」
 「ブイ」

かすみ「あ、えっとー……かすみんたち、みずタイプのポケモンを持っていないのでー……」

栞子「はい、一緒に乗ってください」

しずく「すみません、お世話になります」

歩夢「侑ちゃんはトドゼルガに乗ってね♪」

侑「うん。お願いね、歩夢」
 「イブイ」


私はフィオネは持っているけど……フィオネは私が上に乗って泳げるほど体が大きくないし、ここはありがたく歩夢を頼ろう。


せつ菜「それでは皆さん、行きましょう」
 「フゥ」


スターミーの上にサーフィンのように立つせつ菜ちゃんが先導する形で、洞窟を奥へと進んでいく。

洞窟の中に入ると──どうして青の洞窟と言われているのかがすぐわかった。

洞窟内の海面は、まさに青く輝いていて、青い世界の中を泳いでいるような、そんな世界が広がっていた。


かすみ「……きれい……」

侑「……すごい……」


その美しさに思わず圧倒されてしまう。


リナ『入り口からの太陽光の差し込み方、海底の色、水の透明度とか、いろんな条件が重なるとこうなるって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

しずく「これは……パワースポットと呼ばれるのも頷けますね……」

栞子「はい……すごく、幻想的な光景です……」

歩夢「なんだか……こんなに綺麗だと、目的を忘れちゃいそう……」

せつ菜「ですね……」


青の世界を進んでいくと──洞窟内に上がれる陸が見えてくる。


侑「栞子ちゃん、宝珠の反応は?」

栞子「……奥に進むほど、強くなっています」

侑「わかった、このまま進もう」


私たちは陸に上がり、洞窟を奥へ進んでいくと──開けた空間に出る。

そしてその奥に──薄ぼんやりと青く光る大岩が鎮座していた。
86 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:24:15.44 ID:E7iRZ/bz0

かすみ「しず子……! あの岩光ってるよ!」

しずく「本当にありました……」


それと同時に──栞子ちゃんの手に持たれた宝珠が強く光る。


栞子「……“もえぎいろのたま”が……より強く反応しています。……ここが龍脈です」

せつ菜「まさに、ビンゴでしたね……!」

侑「ランジュちゃんたちは……」


辺りを見回してみるけど、特に人影はなかった。

恐らく、まだたどり着いていないのだろう。


せつ菜「となると、ここでしばらく待つことになりそうですね」

侑「そうだね」

かすみ「それにしても……あれ、なんで光ってるんですかね」

リナ『詳しい理由はわからないけど……“みずのいし”によく似た反応がある。自然エネルギーが蓄えられてるのかもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「太陽の花畑のサンフラワーみたいな感じなのかな?」

リナ『恐らくは』 || ╹ ◡ ╹ ||


不思議な空間だった。

閉鎖的な空間ではあるけど……圧迫感はあまり感じないというか。

これも自然エネルギーが満ちているからなのかな……?


歩夢「なんだか……落ち着くね」

侑「……うん」


リラックスした気分になっていると──


ランジュ「──あーー! ランジュよりも早く着いてるじゃない!!」


ランジュちゃんの声が洞窟内で反響する。


栞子「ランジュ……」

ランジュ「もう! ミアがもたもたしてるからよ!」

ミア「はいはい……」


ランジュちゃんは遅れてきたのが悔しかったのか、ミアちゃんに向かってふくれっ面になる。

ミアちゃんは慣れっこなのか、適当に流しているけど……。


ランジュ「……まあ、いいわ。それじゃ、さっさと二戦目、始めましょうか。今度は誰が相手してくれるのかしら!」


そう言うランジュちゃんの前に、


せつ菜「……今回は私です!」


せつ菜ちゃんが歩み出る。
87 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:24:58.85 ID:E7iRZ/bz0

ランジュ「せつ菜、貴方ね!」

せつ菜「はい! 正々堂々、お互い良い勝負にしましょう!」

ランジュ「望むところよ! ミア!」

ミア「ん。これが今回のポケモン」


前回同様、ミアちゃんがランジュちゃんにボールが3個入ったケースを手渡す。


栞子「せつ菜さん……よろしくお願いします」

せつ菜「お任せください! それでは、始めましょう……!」

ランジュ「ええ!」


二人のトレーナーが同時にボールを放って──五番勝負の次鋒戦が始まった。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「行きますよ!! ウインディ!!」
 「──ワォンッ!!!」


私は1番手に相棒のウインディを繰り出す。

対するランジュさんは──


ランジュ「行くわよ、バシャーモ!」
 「──バシャーーーモッ!!!」


バシャーモを繰り出してくる。それと同時に、耳に掛かった髪をかき上げ──


ランジュ「メガシンカ!!」


輝きと共に、バシャーモの頭部のツノが1本に、冠羽が立派に成長し、腕から噴き出す炎もさらに立派になり棚引いている。

バシャーモがメガシンカした姿──メガバシャーモだ。


 「バ、シャァモッ!!!!」


メガバシャーモに進化すると同時に、強靭な脚力を使って飛び出し──


 「バシャァモッ!!!!」


ウインディの側頭部を蹴り飛ばす。

──が、


 「ワォン…」


ウインディは微動だにしていなかった。


ランジュ「咦!?」

せつ菜「それじゃあ、威力が足りていませんよ……!! “ずつき”!!」
 「ワォンッ!!!!」

 「バシャモッ…!!!」
88 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:25:57.05 ID:E7iRZ/bz0

メガバシャーモを“ずつき”で追い払う。

ただそれ自体は大したダメージではなく、吹っ飛ばされたメガバシャーモは受け身を取ってすぐに起き上がり、片足を上げて特有の構えを取る。


ランジュ「……驚いたわ、“アイアンヘッド”にそんな使い方があったなんて……」

せつ菜「気付かれましたか……! さすがですね……!」


そう、ウインディは攻撃が当たる瞬間だけ、頭部を“アイアンヘッド”で硬質化して、攻撃を防いだ。


ランジュ「でも、そんな小細工いつまで続くかしらね……!!」
 「バ、シャァモッ!!!!」


再び飛び出してくるメガバシャーモ。

恐らく次は──


せつ菜「飛び込んでくるように見せかけて」

 「バシャッ…!!!」

せつ菜「ウインディの目の前で“フェイント”をしかけて、横から攻撃──」


私はトントンとステップを踏みながら、ウインディの左側に歩を運び──ウインディの目の前で、“フェイント”を掛けるメガバシャーモの重心が左に揺れたのを一瞬で判断し、


せつ菜「左!! “ねっぷう”!!」
 「ワォンッ!!!!」

 「シャモッ…!!?」


メガバシャーモに触れられる前に、ウインディの左側に放った“ねっぷう”で押し返す。


ランジュ「読まれてる……!? バシャーモ……!!」

 「バシャッ…!!!」


メガバシャーモは後退りながらも、脚力をバネにし──“かそく”しながら、飛び掛かってくる。

だが、


せつ菜「“じゃれつく”!!」
 「ワォンッ!!!」

 「シャーーモッ…!!!?」


飛び掛かってくるメガバシャーモに向かって前足を振り上げ、巻き込むようにして叩き落とす。

前脚で押さえつけたバシャーモに向かって──


せつ菜「そのまま、“サイコファング”!!」
 「ワォンッ!!!!」


牙を立てようとするが、


ランジュ「“けたぐり”!!」
 「バシャモッ!!!!」


ランジュさんは咄嗟の判断で、“けたぐり”を指示──メガバシャーモは押さえ付けられながらも、脚を伸ばして、ウインディの後ろ足を薙ぎ払う。


 「ワォンッ…!!?」


急な足払いを受けて、ウインディの体が傾いた瞬間、


 「バシャッ!!!」
89 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:26:40.46 ID:E7iRZ/bz0

メガバシャーモは自分を押さえ付けていたウインディの前足から逃れ、そのまま全身のバネを使って跳ね起きの要領で跳び上がり──身を捻って、


ランジュ「“ブレイズキック”!!

 「バシャァァモッ!!!!」


燃える蹴撃をウインディの側頭部に向かって放ってくるが──


 「ワォンッ!!!」


ウインディは体勢を崩しながらも、再び蹴りを“アイアンヘッド”によって硬質化した頭部で受け止め──


 「ワォンッ!!!」

 「バシャッ…!!!」


そのまま頭を振り下ろし、メガバシャーモを吹っ飛ばす。

メガバシャーモはまたしても、受け身を取りながら、ウインディから距離を取る。


せつ菜「無理な体勢から攻撃しても、通りませんよ!」


体重を乗せられない蹴りなんて怖くもなんともない。


ランジュ「みたいね……!」
 「シャモッ!!!!」


さらに“かそく”したメガバシャーモは、姿が一瞬で掻き消える。

次は恐らく──


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!!」


ウインディが勢いよく、後頭部を引くように頭を上に向けると──ウインディの顎下スレスレをメガバシャーモの振り上げた足で振り抜かれる。


ランジュ「……!」

せつ菜「顎……狙いますよね……!」


“アイアンヘッド”で硬くできるのは頭頂や側頭──つまり頭の上の部分。

さすがに顎まではカバーしきれない。

なら次は顎を狙うはず。私の読みどおりランジュさんはしっかりと顎を狙ってきてくれたお陰で、回避に成功する。


ランジュ「バシャーモ!! 一旦距離を取りなさい!」

 「シャモッ…!!!」


バシャーモは反撃を食らう前に飛び退いて、ウインディから距離を取る。


ランジュ「……悉く読まれてるわね」


ランジュさんは優秀なトレーナーだ。

それは、かすみさんとの戦いを見ていただけで十分わかった。

咄嗟の判断もさることながら、技の選択や狙いが合理的な戦い方をしている。

言うなれば、戦い方の精度が高すぎるせいで、逆に読みやすいとでも言うのだろうか。

ただ……。
90 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:27:16.25 ID:E7iRZ/bz0

ランジュ「バシャーモ……!!」
 「シャモッ!!!!」


メガバシャーモは今度こそ、目にも止まらぬスピードで動き出す。

“かそく”によって、どんどん速くなり続け、もう目で捉えるのは不可能に近い。


せつ菜「……さすがに時間を掛け過ぎましたね……!」


もともと相手がとんでもなく速い相手だというのはわかっていたので、最初から反撃重視の戦い方を選んでいましたが、反撃から技を決めようとしても、それをいなす技術も一流だったため、決定打を決め切る前に、“かそく”しきってしまった。

なら── 一旦仕切り直し……!!


 「シャァーモッ!!!!」


メガバシャーモがウインディに飛び掛かってくる瞬間に合わせて──


せつ菜「“ほえる”!!」
 「ワォォォンッ!!!!!!!」

 「シャモッ…!!!?」


大声で吠え掛ける。それと同時に、メガバシャーモが無理やりボールに戻され──代わりのポケモンが飛び出した。


 「──ヴァァァァッ!!!!!」


ボールから出てきたのは、バチバチと電撃の音を立てながら羽ばたく、鳥ポケモンの姿。


せつ菜「……! サンダー……!!」


でんげきポケモン、サンダーの姿。


ランジュ「……2匹目、引き摺りだされちゃったわね……!」

せつ菜「やはりラティオス以外にも捕まえていたんですね……! こんなところで、伝説のポケモンと戦えるなんて……光栄です!! 行きますよ、ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!!」


バトルは次のステージへ。

対するは伝説のポケモン、サンダー……!


ランジュ「サンダー! 10まんボルト!!」
 「ヴァァァーーーッ!!!!!」

せつ菜「“しんそく”!!」
 「ワォンッ!!!」


ウインディの姿が掻き消え──先ほどまでウインディが居た場所に電撃が迸る。

電撃攻撃を掻い潜ったウインディは一瞬でサンダーに肉薄し──


ランジュ「“ほうでん”!!」
 「ヴァァァァーーッ!!!!」

 「ワォンッ…!!!」


──たが、全方位の電撃によって、止められてしまう。

“しんそく”は確かに読んで字のごとく神速の一撃だが、全方位に電撃を放たれると、そもそも近付くのが難しくなってしまう。


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」

 「ワォンッ!!!!」
91 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:28:21.13 ID:E7iRZ/bz0

ウインディが火炎を噴き出すが、


ランジュ「サンダー! “みきり”よ!」
 「ヴァァァ」


サンダーは攻撃を見切って、ひょいと炎を回避し、


ランジュ「“10まんボルト”!!」
 「ヴァァァァーーーッ!!!!!」


再び電撃を放ってくる。


せつ菜「ウインディ!! 走って!!」
 「ワォンッ!!!」


狙い撃ちされないように、“こうそくいどう”で走り回りながら、どうにか落ちてくる電撃を回避するけど──そもそも、でんきタイプの攻撃というのはいなすのが難しい。

回避もずっとは続けられないし、早く策を講じて、倒してしまわないと……!!

そう思った矢先──ぴちょ。

顔に冷たいものが落ちてきた。

ハッとして、顔を上げると──洞窟内に雨雲が発生していた。


せつ菜「“あまごい”……!? いつの間に……!?」

ランジュ「“打雷”!! “かみなり”よ!!」
 「ヴァァァァーーーッ!!!!!」


頭上の雨雲が光った瞬間、


せつ菜「“だいもんじ”!!」

 「ワォォォンッ!!!!」


真上に向かって、“だいもんじ”を発射する。

“かみなり”は“だいもんじ”に直撃し、爆ぜるようにして周囲に稲妻を爆ぜ散らせながら──爆発した。


 「ワァオンッ…!!!」

せつ菜「くっ……!!」


だが、爆炎の中を貫くように、


 「ワォンッ…!!!!?」


一筋の“かみなり”がウインディを直撃する。


せつ菜「ウインディ……!!?」


ウインディはよろけこそしたものの、


 「ワ、ワォンッ…!!!」


足を踏ん張り持ちこたえる。

よかった……倒れてない。


ランジュ「この雨の中で、よくほのお技で“かみなり”の威力と撃ち合えたわね」


ランジュさんの言うとおり、雨が降っているせいで、ほのお技は威力が半減してしまう。
92 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:29:03.81 ID:E7iRZ/bz0

ランジュ「でも、相殺出来てやっとじゃ、こっちが優勢よ!! “かみなり”!!」
 「ヴァァァァーーーッ!!!!!」


再びの落雷。だけど──ピシャァァァンッ!!! と音を立てながら、“かみなり”はウインディとは全く関係のない場所に落ちる。


ランジュ「……!?」

せつ菜「雨が降って不利になるなら……晴らせばいいだけです」

ランジュ「“にほんばれ”……!」


洞窟内なせいで、日差しこそ照ってくることはないが、“にほんばれ”を使えば雨雲を掻き消すことは可能だ。

雨雲がなくなれば、“かみなり”の命中精度は激減する。


ランジュ「サンダー! “あまごい”!」
 「ヴァーー」

せつ菜「ウインディ! “にほんばれ”!」
 「ワォンッ!!!」


雨が降り始めたかと思えば、その雨雲がすぐに払われる。


ランジュ「天気の取り合いをしようって言うのね……! いいわ……! “10まんボルト”!!」
 「ヴァァァァーーー!!!!」

せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!」


ウインディが私の指示で、口の中に炎を溜め、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


火球にして、発射する。

空中で、“10まんボルト”に直撃し、電撃を爆ぜ散らせながら、火炎弾が爆発する中──再び雨粒が振り始める。


せつ菜「“にほんばれ”!!」
 「ワォンッ!!!」


すぐさま、雨雲をかき消した直後、また洞窟内に“かみなり”が落ちる。

一瞬でも雨雲を維持させたら、必中の“かみなり”にやられる……!


ランジュ「サンダー!! “でんげきは”!!」
 「ヴァァァァ!!!!」

 「ワォンッ…!!!」
せつ菜「くっ……!!」


超高速の電撃攻撃が、防御を許さない。

速度を重視した攻撃である分、威力は大したことがないのが救いだが、その隙にもまた雨が降り出し、それを“にほんばれ”で無効化する。


ランジュ「ジリ貧なんじゃないかしら!! “10まんボルト”!!」
 「ヴァァァァーーー!!!!!」

せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ワァァァォンッ!!!!」


またしても、火球を発射し、“10まんボルト”を相殺する。


ランジュ「感電しないように、わざわざ火球にしたり、工夫はすごいと思うわ! でも、手数が足りてない!」

せつ菜「っ……!」
93 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:30:18.88 ID:E7iRZ/bz0

ランジュさんの言うとおり、サンダーの速さと火力に翻弄されて、防御で手一杯になり、攻撃をうまく通せるチャンスがない。

炎は通電性が高いため、感電しないように、防御策を通常の“かえんほうしゃ”ではなく、火球状にしているのは防御の手段としてうまく行っているが、これはあくまで防御のための技。

攻撃に転じるには、どこかで無茶を通さないといけない。

問題はどこで通すかだ。

だが──先に仕掛けてきたのはランジュさんだった。


せつ菜「……!?」


急に何かに引き寄せられるような感覚がして、身体が前のめりになる。

ハッとしたときには──目の前に風の渦が成長を始めていた。


せつ菜「まさか、“ぼうふう”……!?」


“ぼうふう”も“にほんばれ”状態では命中精度が下がる技だが──


 「ワォンッ…!!!」


風に引き寄せられ、ウインディの足が止まる。

それと同時に、


リナ『わぁぁぁ!!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「り、リナちゃん!? 腕にくっついてて!?」
 「ブ、ブィィィ…!!!」

かすみ「と、飛ばされちゃいますぅぅ!!?」

しずく「かすみさん、頑張って……!!」

歩夢「栞子ちゃん! 私から離れないで……!」

栞子「は、はい……!」


背後から聞こえる、かすみさんたちの悲鳴。

気付けば洞窟内全体に強風が吹き荒れ始めていた──攻撃範囲が広すぎる……!


せつ菜「これじゃ……“にほんばれ”で命中が下がっても関係ない……!」

ランジュ「それだけじゃないわ」


直後──ポツポツと雨が降り始める。


せつ菜「ウインディ!! “にほんばれ”を!!」


私は“にほんばれ”を指示するが──


 「ワ、ワォン…」

せつ菜「ウインディ……!? どうしたの……!?」


“にほんばれ”が発動しない。


ランジュ「持久戦で、サンダーに勝とうとしたのが間違いだったわね! PP切れよ!」

せつ菜「PP……しまった、“プレッシャー”……!?」
94 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:31:44.48 ID:E7iRZ/bz0

戦ったことがないポケモンだったから完全に失念していた。

サンダーの特性は“プレッシャー”。相手の技のパワーポイントを多く削る特性。

つまり──


ランジュ「もう……“にほんばれ”は使えないわ! “かみなり”!!」
 「ヴァァァァァーーー!!!!!!」

せつ菜「“だいもんじ”!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!」


再び、“かみなり”を相殺するための“だいもんじ”を真上に放つ。

稲光が洞窟内に迸り、ウインディや私のすぐよこを走り抜けていく。


ランジュ「再一次! “かみなり”!!」
 「ヴァァァァァァ!!!!!」

せつ菜「“だいもんじ”ッ!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!」


空中で衝突し、ほのおとでんきのエネルギーが爆ぜ散る。

すでに相手の狙いはわかっている。防御を強いて、こちらのパワーポイントを削ってきている。

わかってはいるけど──防御を止めたら直撃だ。

もう仕掛けるなら──ここしかない……!!


せつ菜「ウインディ!! “しんそく”!!」
 「ワォォォンッ!!!!!」


ウインディが地を蹴って飛び出す。

この大雨の中、“かみなり”は必中だ。

なら──“かみなり”に撃たれるよりも早く、攻撃を決めるしかない。


 「ワォォンッ!!!!」


ウインディが目にも止まらぬスピードで、サンダーに肉薄し、前足を伸ばした瞬間──


ランジュ「“放电”!」
 「ヴァァァァァッ!!!!」

 「ワォンッ…!!!?」


サンダーが全方位に放たれる電撃で、ウインディの攻撃を阻止した。


せつ菜「……!? “ほうでん”……!?」

ランジュ「貴方が仕掛けるなら──ここよね、せつ菜」


完全に読まれた。

飛び掛かりを阻止され、無防備になったウインディに向かって──


ランジュ「“打雷”!!」
 「ヴァァァァァァ…!!!!」


“かみなり”がウインディに向かって、真っすぐ降り注いだ。


せつ菜「ウインディ……!!」

 「ワ、ワォ…ン…」
95 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:36:18.27 ID:E7iRZ/bz0

“かみなり”の直撃によって黒焦げになったウインディの体が揺れ、倒れ──


 「ワォンッ…!!!!」


──なかった。


ランジュ「真的假的!? 嘘でしょ……!? 直撃したのよ……!?」

せつ菜「まだ、倒れませんよ……私の自慢の相棒ですから……!!」

 「ワォォォォンッ!!!!!!」

ランジュ「やるじゃない……!! でも、これで本当に終わりよ!!」
 「ヴァァァァァーーーーッ!!!!!」


再度、ウインディの直上に落ちてくる、“かみなり”。

迸る稲光は──ウインディに当たる直前に弾かれるようにして、地面に突き刺さる。


ランジュ「な……!」

せつ菜「温まってきましたね……ウインディ!!」
 「ワォォォォォーーーーンッ!!!!!!」


ウインディの“とおぼえ”が洞窟内に響き渡る。

気付けばウインディの周囲には陽炎が揺らめき、大量の熱量によって、空気がボッボッと燃えて、踊るように周囲を舞っている。


せつ菜「炎熱のエネルギーで“かみなり”を弾き飛ばしました……」

ランジュ「……嘘みたいだけど……ホントみたいね」


当たり前の話だが、ほのおポケモンは炎熱によって活性化する。

そしてその炎熱の源は──戦って使う自分自身のほのお技だ。ほのお技を使えば使うほど、自身の体温を上昇させる。

冷たい雨が降りしきる洞窟内だが──準備は整った。


 「ワォォォォォォーーーーーンッ!!!!!!」


ウインディが雄叫びをあげると同時に、一気に熱波を解放し──周囲の雨を一気に蒸発させていく。


ランジュ「サンダー……!! “みきり”!!」
 「ヴァァァァァッ…!!!!」


大技の予兆を察し、ランジュさんが回避の択を切ってくるが──ここまで温まったウインディには、もはや関係ない。


せつ菜「ウインディィィ!!! “だいふんげき”!!!!」
 「ワォォォォォォォォォーーーーーンッ!!!!!!!!!」


ウインディを中心に──激しい炎が、フィールド全体を焼き尽くさんばかりに膨張する。


 「ヴァァァァァァ…!!!?」
ランジュ「サンダー……!?」


“みきり”も関係ない。

炎熱に焼かれ、苦悶の鳴き声をあげるサンダーを、


 「ワォンッ!!!!!!」

 「ヴァァァッ!!!?」
96 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:36:51.57 ID:E7iRZ/bz0

炎を纏って暴れまわりながら、ウインディが飛び掛かり、地面に叩き落とす。

そして、そのまま──ゴォォォォッ!!!! と激しい音と共に、爆炎によって、至近距離からサンダーを焼き尽くした。

燃え盛る炎が、晴れる頃には──


 「ヴ、ヴァ、ァ……」


サンダーは黒焦げになって、戦闘不能になっていた。


ランジュ「く……! 戻りなさい、サンダー!」

せつ菜「やりました……! ウインディ!」


サンダー撃破……! 喜びと共に小さくガッツポーズをした直後、


 「ワ、ォォン…」


ウインディもフィールドに崩れ落ちた。


せつ菜「ウインディ……!?」

ランジュ「……相討ちみたいね」

せつ菜「……そうですね……。戻って、ウインディ」
 「……ワォォン──」


ウインディをボールに戻す。


せつ菜「ありがとう、ウインディ。ゆっくり休んで」


限界ギリギリの体力の中、全力の炎でサンダーを倒してくれた相棒に労いの言葉を掛ける。


ランジュ「……まさか、サンダーを1匹で突破されると思わなかったわ」

せつ菜「私も、自慢の相棒を1:1交換で持って行かれるとは思いませんでした。お互い様ですよ」

ランジュ「ふふ、言うじゃない」


これでお互い残りポケモンは2匹ずつ。

両者共倒れで仕切り直しだ。

そのとき、後ろから声が聞こえてきた──


かすみ「あ、あちち、熱いですぅ!!?」

侑「かすみちゃん、じっとしてて!? 今消火するから!?」
 「フィオーーーッ!!!」

かすみ「うぴゃぁぁぁ!!?」

歩夢「だ、大丈夫……かすみちゃん……?」

かすみ「助かったけど……ずぶ濡れですぅ……」


気付けば、背後では大騒ぎになっていた。


せつ菜「……あー……えっと、かすみさん、すみません……」


しずく「せつ菜さん! お気になさらず! 私たちは無事なので、引き続き全力で戦ってください!」

かすみ「かすみん、全然無事じゃないんだけど!?」

侑「あはは……」

リナ『問題ないから、せつ菜さんはバトルに集中して』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
97 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:37:34.33 ID:E7iRZ/bz0

せつ菜「わ、わかりました!」


さすがに背後に気を遣いながら戦って勝てる相手ではない。

申し訳ないけど、そこは各々で対処してもらうことにしよう……。


ランジュ「さぁ、次よ!!」

せつ菜「……はい!!」


お互いの次のポケモンがフィールドへと繰り出された。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「──ゲンガァーーー!!!」

ランジュ「ナットレイ、出てきなさい!」
 「──…ナット」


こちらはゲンガー、ランジュさんはナットレイ。

これでランジュさんの手持ちは3匹目まで割れたことになる。


せつ菜「ゲンガー! メガシンカ!!」


私は“メガバングル”を構え、ゲンガーをメガシンカさせる。


 「ゲンガァァァァァ!!!!!!」

せつ菜「ゲンガー! “おにび”!!」
 「ゲンガァーー!!!!」

 「…ナット」


まずは“おにび”でナットレイを“やけど”状態にする。

対するナットレイは、


ランジュ「“やどりぎのタネ”!」
 「…ナット」

 「ゲンガ…!!」


“やどりぎのタネ”を発射し、ゲンガーに植え付ける。

お互いまずは補助技の応酬から始まる。


せつ菜「“たたりめ”!!」
 「ゲンガァーーー!!!!!」


呪いの力で攻撃をするが──


 「…ナット…」


ナットレイは微動だにしない。


せつ菜「……く……硬い……!」
98 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:38:14.30 ID:E7iRZ/bz0

ナットレイは受けに特化したポケモン。その硬さはポケモンの中でも随一な上に──ナットレイは攻撃を受ける合間に“たべのこし”を食べながら攻撃を受け止めている。

完全に受けの姿勢──なら、


せつ菜「ゲンガー、“ふしょくガス”!」
 「ゲンガァーーー!!!!」


ゲンガーが吐き出した、腐食性のガスによって、ナットレイの食べていた“たべのこし”が溶解を始める。

“ふしょくガス”は相手の持ち物を使えない状態にする技だ。

耐久型のポケモンにとって、回復ソースは生命線になる。

これは相手にとって痛手になると思ったが──


ランジュ「ナットレイ、“つるぎのまい”よ!!」
 「…ナット」


ランジュさんが作戦をスイッチする判断も速かった。


せつ菜「攻撃態勢……!? ゲンガー! “たたりめ”!!」
 「ゲンガァーーー!!!!」


相手が攻撃へ舵を切ってきたと判断し、すぐさま倒しきる姿勢に入るが──


 「…ナット」


“たべのこし”がなくなった程度では、ナットレイの頑丈な防御を崩しきれず、


ランジュ「“パワーウィップ”!!」
 「ナット…」


3本の触手を伸ばしながら叩き付けてくる。


 「ゲンガッ…!!!」
せつ菜「く……速い……!」


本体は緩慢な動きなのに、攻撃は俊敏で、回避が間に合わない、それどころか──叩き付けてきた触手の先にあるトゲをゲンガーの周囲の地面に突き刺し、


ランジュ「“ジャイロボール”!!」
 「ナット…」


触手を巻き取るようにして、猛スピードで転がりながら、突っ込んでくる。


せつ菜「……ゲンガー……!! 避けてください……!!」
 「ゲンガ…!!!」


真っ向から猛スピードで突っ込んでくるナットレイ。

それに対してランジュさんは、


ランジュ「──避けられないわけ、ないわよね?」


そう、私に向かって言ってきた。それと同時に、


 「…ナット」


ナットレイがゲンガーの目の前で──急カーブした。


ランジュ「口で避けるように指示しながら──本当は“みちづれ”を狙ってることくらい、気付いてるわ!」

せつ菜「……っ!?」
99 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:39:12.65 ID:E7iRZ/bz0

黒いオーラを纏うゲンガーの目の前を横切ったナットレイは“みちづれ”を回避し、“みちづれ”の効果が切れると同時に、地面に突き刺した触手を引き抜きながら──それを“ぶんまわす”。


 「ゲンガッ…!!!!」
せつ菜「ゲンガー!?」


まるでモーニングスターのように振り回される触手がゲンガーを突き飛ばし、


ランジュ「さぁ、トドメよ!!」

 「…ナット」


今度こそ、方向転換をし“ジャイロボール”で突っ込んでくる、ナットレイ。


せつ菜「ゲンガー……!!」


このタイミングなら、ギリギリ間に合う……!!


 「ゲンガッ…!!!」


ゲンガーが再びぼわっと“みちづれ”の黒いオーラを身に纏う。


ランジュ「だから……読めてるわ!」

 「…ナット」


ナットレイが今度はゲンガーの目の前で飛び跳ねた。


せつ菜「……っ……!」

ランジュ「まあ、もうそうするしかないものね」


飛び跳ねたナットレイは攻撃タイミングを僅かにずらし、ゲンガーに向かって落ちてくる。


ランジュ「“アイアンヘッド”!!」

 「…ナット」

 「ゲンガッ…!!!!」


ナットレイの鋼鉄の体をぶつけられたゲンガーは、


 「ゲン…ガァ…」


その場に倒れ、戦闘不能になってしまった。


せつ菜「ゲンガー……戻って……!」
 「ゲンガ…──」


まずい……。……ペースを崩された。

もっと相手の防御と攻撃の切り替えに素早く対応しなければいけなかったのに……。

思わず唇を噛み締めたそのとき、


侑「せつ菜ちゃーん!! 頑張ってー!!!」

かすみ「相手もダメージ蓄積してますよー!! まだ行けますー!!」


後ろから聞こえてくる応援を聞いて、私は頭を振る。

──反省は後だ。今はバトルに集中。
100 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:39:54.22 ID:E7iRZ/bz0

ランジュ「さぁ、これで貴方の残りは1匹ね」

せつ菜「……はい。ですが……負けません……!!」


私はボールをフィールドに向かって、投げ込んだ。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「ウーラオス!! 行きますよ!!」
 「──ラオスッ!!!!」


最後の1匹、ウーラオスをフィールドに繰り出す。

そして、相手が動き出す前に──


せつ菜「“ばくれつパンチ”!!」
 「ラオスッ!!!!!」

 「ナット…!!!!」


動きの鈍いナットレイに、超威力の拳を叩き付ける。


 「ナット…」
ランジュ「戻りなさい、ナットレイ」


3匹目の繰り出しと共に、あっけなくナットレイを倒されたという割に、ランジュさんは淡泊な表情でナットレイをボールに戻す。

ナットレイはかすみさんの言うとおり、削りダメージを十分に受けていたし、恐らくここで倒されるのは想定内なのだろう。


ランジュ「バシャーモ!! 決めるわよ!!」
 「──バシャーーーモッ!!!!」


メガバシャーモが再びフィールドに躍り出る。

さぁ、泣いても笑ってもこれが最後のマッチアップだ……!


ランジュ「バシャーモ、“ブレイズキック”!」

せつ菜「ウーラオスッ!! “あんこくきょうだ”ッ!!」


メガバシャーモの燃える蹴撃と──ウーラオスの闇を纏った“ふかしのこぶし”がぶつかり合う。


 「ラオスッ!!!!」

 「シャモッ…!!!」


威力では──こちらが優勢……!!!

振りかぶった足を弾かれ、バランスを崩したところに畳みかける。


せつ菜「“インファイト”!!」
 「ラオスッ!!!!」

ランジュ「こっちも“インファイト”よ!!」
 「シャーーモッ!!!!」


両手両足を使った乱打に対し、メガバシャーモもすぐに体勢を立て直しながら対抗してくる。

振り上げてきた脚に対して腕を上げて防ぎ、顔に飛んでくる拳に対しては首を曲げて躱し、腹部に刺してくる拳を手の平で受け止める。

肉薄し、一進一退の格闘戦が繰り広げられる中、
101 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:40:31.27 ID:E7iRZ/bz0

ランジュ「バシャーモ!!」
 「バシャァーッ!!!!」

せつ菜「ウーラオス!! 引いて!!」
 「ラオスッ!!!!」


── 一瞬の判断。メガバシャーモが口を開いた瞬間、ウーラオスは後ろに飛び退き、


 「シャーーモッ!!!!」


メガバシャーモの口から噴き出される“かえんほうしゃ”を、身を捻って回避する。


ランジュ「そこよ!! “ブレイズキック”!!」
 「シャーーーモッ!!!!」


身を捻って体勢の悪いところに追い打ちの燃える蹴撃。

だが、


せつ菜「“あくのはどう”!!」
 「ラオスッ!!!」

 「シャモッ…!!!」


ここで接近は許さない。“あくのはどう”で怯ませながら、ステップを踏み、


せつ菜「そこです!! “あんこくきょうだ”!!」


拳を構えて──今度は逆にメガバシャーモの隙に、強烈な拳を突き出す。


 「ラオスッ!!!」


この位置関係──もう回避は間に合わない……!!

ウーラオスの拳がメガバシャーモの顔面を捉えた──と思った瞬間、メガバシャーモの上半身が掻き消える。


せつ菜「な……!?」


──掻き消えた……違う……!?

メガバシャーモは、その場で上体を後ろに逸らし、ブリッジのような状態から、


ランジュ「“ブレイズキック”!!」
 「シャーーーモッ!!!」

 「ラオスッ…!!?」


サマーソルトでもするかのように、ウーラオスの顎を炎を纏った脚で蹴り上げる。

ウーラオスの体がそれで浮き上が──


 「ラオスッ!!!!!」


──りそうになった瞬間、ウーラオスは震脚し、堪えながら、


せつ菜「“かわらわり”!!」
 「ラオスッ!!!!」

 「シャーーモッ…!!!?」


体を戻す勢いを乗せたチョップをメガバシャーモに叩き付ける。


 「シャモッ…!!!」
102 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:41:41.72 ID:E7iRZ/bz0

メガバシャーモの体が跳ね、そこに向かって──


せつ菜「“メガトンキック”!!」
 「ラオスッ!!!!!」


蹴りを繰り出す。

が、


 「シャーーーモッ!!!!」


メガバシャーモは体勢を崩しているはずなのに、飛んでくるウーラオスの蹴撃を、自分の脚で上からはたくようにして叩き落とし──さらに、叩き落とした反動を使って、身を捻りながら、


 「シャーーーモッ!!!!」

 「ラオスッ…!!!?」


ウーラオスの顔面に蹴りを叩きこんでくる。


せつ菜「く……!? あの体勢から“にどげり”!?」


二撃目の蹴りを直撃させ、ウーラオスが怯んだ隙に着地したメガバシャーモは、


 「シャーーーモッ!!!!!」


“かそく”したスピードで、掻き消える。

次の瞬間──


 「シャーーーモッ!!!!」


ウーラオスの左側に脚を引きながら現れるメガバシャーモ。


せつ菜「“みきり”!!」
 「ラオスッ!!!」


ウーラオスは腕を上げ、ギリギリでメガバシャーモの蹴りをガードし、


せつ菜「“いわくだき”!!」
 「ラオスッ!!!!」

 「シャモッ…!!!」


ガードしたのとは逆の拳をメガバシャーモに叩きこむ。


 「シャモォッ!!!」


“いわくだき”は決して威力の高い技ではないので、メガバシャーモは受け身を取ってすぐに立ち上がり、構えを取ってくる。


せつ菜「はぁ……はぁ……」


息もつかせぬ攻防とはまさにと言った戦いに、気付けば肩で息をしていることに気付く。

そしてそれは──ランジュさんも同じだったようだ。


ランジュ「はぁ……! はぁ……! やるじゃない、せつ菜……!」

せつ菜「ランジュさんこそ……!」
 「ラオスッ…!!!」


ウーラオスが拳を引き、黒いオーラを纏う。
103 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:42:13.80 ID:E7iRZ/bz0

 「シャーーモッ!!!!」


メガバシャーモの脚に炎が灯る。

この激しい攻防──恐らく次で決着がつく。


 「ラオスッ!!!!!」

 「シャーーーモッ!!!!」


2匹が同時に地を蹴って飛び出した。


せつ菜「“あんこくきょうだ”ッ!!!!」

ランジュ「“ブレイズキック”!!」

 「ラオスッ!!!!」

 「シャァァァァーーモッ!!!!!」


ウーラオスの闇の拳と、メガバシャーモの炎の脚が──ぶつかり合う。

お互いの攻撃がぶつかり合った瞬間、あくのエネルギーとほのおのエネルギーが爆ぜ散りながら、迫り合いを始める。


せつ菜「いっけぇぇぇぇ!!!! ウーラオスッ!!!!」

ランジュ「バシャーモ!!! 決め切りなさい!!!」

 「ラオーーースッ!!!!!!」

 「シャァーーーーモッ!!!!!!」


2匹の雄叫びと共に、2種類のエネルギーが膨れ上がり──

周囲に衝撃波を発生させる。


せつ菜「くっ……!!」

ランジュ「きゃぁ……!!」


衝撃波は強風となり、トレーナーの私たちは腕で顔を覆う。

衝撃が止んだとき、そこには──


 「ラオォォス…!!!」

 「シャァァァモ…!!!」


満身創痍の2匹の姿。


せつ菜「ウーラオス……!!」
 「ラォォォスッ!!!!!」


ウーラオスがメガバシャーモよりも先に脚を踏み出した──が、


 「ラオ…」


直後、ウーラオスの体がぐらりと揺れて──

地に伏せったのだった。


せつ菜「…………ウーラオス」

ランジュ「……ウーラオスが持ってた持ち物……“いのちのたま”よね」
104 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:42:53.44 ID:E7iRZ/bz0

──“いのちのたま”。自分の体力を攻撃のエネルギーに変換する持ち物だ。

例え相手がメガシンカポケモンだったとしても、渡り合えるようにと持たせたものだったが……。


ランジュ「……パワーは完全に互角だったわ」

せつ菜「……“いのちのたま”で失った分の体力が……明暗を分けたようですね……。……ウーラオスお疲れ様、戻ってください」
 「…ラオ、ス…──」


私はウーラオスをボールに戻しながら、ランジュさんの方へと歩を進める。


せつ菜「ランジュさん」

ランジュ「せつ菜」


お互い真正面で向き合い、手を振り上げ──


せつ菜「いいバトルでした!! ありがとうございます!!!」

ランジュ「该说的是我! 楽しい試合だったわ!!」


お互いの健闘を称え合い、固く握手を交わしたのだった。


せつ菜「ですが、次は私が勝ちますよ!!」

ランジュ「望むところよ。まあ、何度やっても勝つのはランジュだけどね!」


お互いが健闘を称え合い、次の試合に対する意気込みを交わし合っていると──


ミア「次の試合は置いておいて……。とりあえず、これでランジュの2勝だ」


と言いながら、ミアさんが私たちのもとにやってくる。


せつ菜「2勝……? ……あ……!!」


熱い勝負に胸を躍らせていて、完全に忘れてしまっていた。

私が敗北したということは──私たちは五番勝負で、早くも追い詰められたことを意味していた。





    🎹    🎹    🎹





侑「せつ菜ちゃん、お疲れ様!」
 「ブイ♪」

せつ菜「……すみません……。……あれだけのことを言ったのに……負けてしまいました……」

侑「うぅん、全力で戦った結果だから、仕方ないよ」

せつ菜「侑さん……」


私がせつ菜ちゃんを労っていると──


かすみ「いやいや、そんなこと言ってる場合ですか!? かすみんたち追い詰められちゃいましたよ!?」


かすみちゃんが青い顔をしながら言う。
105 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:43:51.68 ID:E7iRZ/bz0

せつ菜「す、すみません……」

しずく「こら、かすみさん!! そんな言い方したら、めっだよ!!」

リナ『そもそも、かすみちゃんも負けてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「ちょ、リナ子ぉ!!」

栞子「お、落ち着いてください、かすみさん……!」

かすみ「で、でもぉ……」

侑「勝負には時の運もあるからさ……」

せつ菜「そう言っていただけると……助かります……」

侑「うん、あんまり気にしすぎないで」

せつ菜「はい……!」


かすみちゃんの言いたいこともわかるけどね。


侑「とりあえず、今日はもう休もう」
 「ブイ」

歩夢「そうだね……せつ菜ちゃんも疲れてると思うし」

せつ菜「いえ、私はまだまだ行けますよ!」

しずく「そう言いながら、膝が笑ってますよ、せつ菜さん」

せつ菜「え? お、おかしいですね……」

栞子「あれだけの戦いの後なんです……ご無理はなさらないでください」

かすみ「はぁ……仕方ないですねぇ……かすみんがひとっ走り行ってきて、ホテルを予約してきますよ!」


そう言って、かすみちゃんが駆け出して行く。


しずく「え、あ、ちょっとかすみさん! ……行っちゃった。かすみさん、泳げるポケモンいないのに、どうやってここから出るんだろう……」

栞子「そ、そうでした……! かすみさんが溺れてしまいます!?」

しずく「いや……たぶん、海の前で手をこまねいてるだけだと思うけど……」

歩夢「とりあえず、外に出よっか」

侑「そうだね……」

リナ『ちなみにネット予約出来たから、部屋は今確保した』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「おぉ!! さすがですね、リナさん!!」

リナ『海の見えるリゾートホテルだよ♪』 || > ◡ < ||

歩夢「あ、ちょっと楽しみかも♪」

しずく「フソウのリゾートホテルでバカンス……いいですね……♪」

侑「せつ菜ちゃん、行こうか」

せつ菜「はい!」


私たちはフソウのホテルを目指して、漣の洞窟を後にする。

五番勝負にて、今後の試合で全勝しなければいけなくなったという、課題を背負いながら──



106 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:44:22.52 ID:E7iRZ/bz0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【漣の洞窟】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     ●  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
107 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/15(日) 12:45:04.43 ID:E7iRZ/bz0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:275匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.68 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.64 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.64 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:254匹 捕まえた数:24匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:298匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.68 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.68 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.68 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:279匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:202匹 捕まえた数:51匹

 主人公 栞子
 手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
      ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
      ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
      マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



108 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:35:09.00 ID:xLULnzaZ0

■ChapterΔ006 『雪山の争闘』 【SIDE Yu】





かすみ「ねーしお子〜……まだ飛ぶの〜……?」

栞子「はい……反応はずっと、北西方面なので……」


──フソウで一晩を過ごした私たちは、今は北西に向かって飛行中。

そろそろカーテンクリフ上空に差し掛かろうという頃合だ。


歩夢「この方向だと……」

侑「グレイブマウンテンかな……」
 「ブイ」

栞子「恐らくは……」

しずく「となると……一度ヒナギクで降りる感じでしょうか」

せつ菜「そうですね。補給無しで山に入るのは危ないでしょうし」

侑「それじゃ、一旦ヒナギクを目指そう」


私たちはヒナギクへと進路を定める。


栞子「……ヒナギクシティ……」

歩夢「? 栞子ちゃん……?」

栞子「いえ……なんでもありません」

歩夢「そう……?」





    🎹    🎹    🎹





──ヒナギクシティへ到着し、降り立った途端、


かすみ「へっくちっ!!」


かすみちゃんが可愛くくしゃみをする。


しずく「かすみさん、大丈夫……!?」

かすみ「う、うん……。……でも、寒すぎますぅ……」


確かにかすみちゃんの言うとおり、ヒナギクシティは凍えるほど寒かった。

今も雪がパラついているし……。


かすみ「前来たときはこんなに寒くなかったのにぃ……」

しずく「前って言っても、もう半年前だからね……」

リナ『あの時期だと、だいたい初夏くらいだったからね。そろそろ冬になるから、さすがに寒くて当然』 || ╹ᇫ╹ ||


全員耐寒用のコートを羽織ってはいるものの……それでも、寒いものは寒い。


せつ菜「一度装備を整えた方がいいかもしれませんね」

歩夢「うん……グレイブマウンテンに入るなら尚更だよね。栞子ちゃん、反応ってやっぱりグレイブマウンテンの方からなのかな?」
109 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:35:49.89 ID:xLULnzaZ0

歩夢が問いかけるけど──


栞子「……」


栞子ちゃんは雪がパラつく町の中で、行き交う人々をボーっと眺めていた。


歩夢「栞子ちゃん?」

栞子「え……? あ、す、すみません、なんでしょうか」

歩夢「龍脈の反応は、どっちにあるのかなって……」

栞子「あ、龍脈ですね……!」


栞子ちゃんは手に持った“もえぎいろのたま”を見つめる。

ぱぁぁぁと輝く宝玉は、栞子ちゃんがグレイブマウンテンの方に向けてかざすと、少しだけ光が強くなる。


栞子「……北方面ですね」

侑「となると……やっぱり、グレイブマウンテンかな」

せつ菜「ですね!」

かすみ「それはわかったので、とりあえずどこか入りましょうよぉ〜……かすみん、寒くて凍えそうですぅ〜……」

侑「じゃあ、まずはポケモンセンターかな。ポケモンたちも山に入る前に休ませたいし」

歩夢「そうだね」

かすみ「早く温かいエネココアが飲みたいですぅ〜!!!」


そう言って、かすみちゃんが一人駆け出す。


しずく「あ、ちょっとかすみさん……行っちゃった……」

せつ菜「よほど寒さが辛かったのかもしれませんね」

しずく「すみません……協調性がなくて……」

リナ『走ると身体もあったまるし、ちょうどいいんじゃない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「私たちも急ごうか」


暖かい場所に行きたいのは、私たちも同じだからね。

かすみちゃんを追って、みんなでポケモンセンターを目指して歩き始める。

そんな中、


栞子「…………」


栞子ちゃんはまた町の様子を見て、ボーっとしていた。


歩夢「栞子ちゃん?」

栞子「え、あ、はい、すみません……! 移動するんですよね!」

歩夢「大丈夫……? もしかして、どこか具合悪い……?」


歩夢が心配そうに訊ねる。


栞子「い、いえ……! その……ちょっと、町の様子を見て、驚いてしまって……」

歩夢「驚く……?」

栞子「はい……この町──」


栞子ちゃんが話そうとしたところで、
110 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:36:41.73 ID:xLULnzaZ0

かすみ「──もうーーーー!!! 皆さんも早く来てくださいーーーー!!!」


かすみちゃんが声を張り上げて、ポケモンセンターの前でぴょんぴょんしていた。


侑「とりあえず、移動しよう」

歩夢「あ、うん、そうだね! 栞子ちゃん、行こ♪」

栞子「は、はい!」


歩夢が栞子ちゃんの手を握って、歩き出す。

歩夢に手を引かれて歩く間も、


栞子「……ここが……ヒナギクシティ……なんですね……」


栞子ちゃんはヒナギクの町をぼんやりと見つめながら、そう呟いていた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「はふぅ〜……。生き返るぅ〜……」


みんなで温かい飲み物を飲みながら一息吐く。


せつ菜「ポケモンたちもみんな預けてきました!」


ポケモンたちを預けるために、センターのポケモン預け口まで行っていたせつ菜ちゃんも戻ってきて合流する。


侑「ありがとう、せつ菜ちゃん。ごめんね、全員分お願いしちゃって……」

せつ菜「いえ! お気になさらないでください! 6人分バラバラに預けるとジョーイさんも大変だと思うので!」

歩夢「ふふ、ありがとうせつ菜ちゃん♪ これ、せつ菜ちゃんの分のエネココアだよ♪」

せつ菜「頼んでおいてくれたんですね! ありがとうございます!」


せつ菜ちゃんも席に着き、今後の話をしたいところだけど──その前に、


歩夢「それで、栞子ちゃん。驚いたって言うのは……」


さっき、栞子ちゃんが言いかけたことの続きが先かな。


栞子「あ、はい……。……その……ヒナギクは、龍神様のお怒りの余波を受けて……雪に閉ざされてしまった町と聞いていたので……」

かすみ「? 今も見たとおり雪に閉ざされてるじゃん……?」

栞子「ですが……行き交う人々には、活気が感じられました……」

しずく「確かに……特有の活気はあるかも……」

リナ『この町は、活気の性質が濃すぎるところあるけどね』 ||;◐ ◡ ◐ ||


確かにこの寒さなのに、窓の外を見ると、いかにもなオカルトガールやサイキッカーが出歩いている。
111 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:37:22.53 ID:xLULnzaZ0

せつ菜「この町にいる方たちは、皆熱い気持ちを持っていますからね!! 私も以前、町ゆく人にお話を伺ったことがあります! 言い知れぬ力を感じると言っていました!」

栞子「言い知れぬ力……!? まさか、この町の方たちは龍脈を感じ取る力のようなものがあるのですか……!?」

せつ菜「はい!! 龍脈ではありませんが、彼女たちは『私たちには見えている……』と、仰っていました!!」

栞子「す、すごいです……! やはり、この町にいる方たちは、特別なんですね……!」

かすみ「しお子〜……間に受けちゃダメだよ〜……」

栞子「え?」


栞子ちゃんがきょとんとする。


かすみ「せつ菜先輩もしお子に変なこと教えないでくださいよ! 説明がめんどくさいんですから!」


まあ、確かに……栞子ちゃんには、この町の人たちを説明するのは難しいというか……。

栞子ちゃんは特別な力を持った翡翠の巫女だから、尚更……。


せつ菜「変なこと……? 私、何かおかしなことを言ったでしょうか……? この町の方たちには不思議な力があるんじゃないんですか?」

かすみ「……マジですか」

歩夢「せつ菜ちゃん……! 変な人に勧誘とかされても、絶対付いて行っちゃダメだよ……!」

せつ菜「……? わかりました……?」


せつ菜ちゃんはせつ菜ちゃんで心配かも……。


しずく「えっと……それで、栞子さんはこの町の活気が気になったの?」

栞子「あ、はい!」


しずくちゃんがズレてしまった話を戻す。


栞子「正直なことを言うと……龍神様の力の被害を最も受けた場所と言っても過言ではないので……ここに来るのは少し気が引けていたんです……。でも……いざ実際に町を見ていたら、思った以上に活気のある町になっていて、驚いてしまって……」

歩夢「そういうことだったんだね……」

せつ菜「この町は確かに他の町に比べると、少し厳しい環境かもしれませんが……それでも、ここにいる方たちはしっかりと生活していますからね」

しずく「ヒナギクはいろんな人たちが、ポケモンと力を合わせて開拓した町と言われています」

リナ『近年で最も発展した町なんて言われることもあるね』 || ╹ᇫ╹ ||

栞子「そうなんですね……」

かすみ「確かにすごいですよね〜。かすみん、こんな寒い場所に頑張って住もうなんてなかなか思えませんもん……」

せつ菜「確かにそう考えると、この町からは人やポケモンの逞しさを感じますね……」

歩夢「ふふ♪ 人とポケモンが力を合わせれば、案外住めない場所なんてないのかもしれないね♪」

栞子「人とポケモンが……力を合わせれば……。……そう、ですね……。……そうなのかもしれません」


栞子ちゃんはそう言ってから、しばらくの間、ボーっと……窓の外から見える、雪の積もったヒナギクの町を眺めていたのだった。



112 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:38:41.25 ID:xLULnzaZ0

    🎹    🎹    🎹





──あの後、私たちはポケモンたちを預けている間に、雪山に入るための装備を整え、


かすみ「……あっつ……。……脱ぎたい……」

しずく「これから寒い場所に行くためでしょ……」

せつ菜「これなら、寒さは問題なさそうですね!」


これで、山に入るための準備は万端だ。


歩夢「ねぇ侑ちゃん……この帽子、もこもこで可愛かったから買っちゃったんだけど……どうかな……?」

侑「うん! すっごく可愛いよね、その帽子! 私も最初に見たとき歩夢が被ったら絶対似合いそうって思ってたよ!」
 「ブイ♪」

歩夢「えへへ……♪ ありがとう♪ 嬉しい♪」

せつ菜「食糧も十分に持ちましたし、これでグレイブマウンテンへ行けますね!」

リナ『それはそうと……決めておかなくちゃいけないことがある』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「決めておかなくちゃいけないこと?」

侑「……次に誰が戦うかだよね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||


私たちはここまで2戦2敗。

あと1敗したら、それで負けが確定してしまう。


歩夢「これ以上負けちゃったら……ランジュちゃんを止められなくなっちゃう……」

侑「どちらにしろ、ここから求められるのは全戦全勝だけど……」

歩夢「わ、私も勝たなきゃってことだよね……」

せつ菜「すみません……私が負けてしまったばっかりに……」

歩夢「あ、うぅん! せつ菜ちゃんが悪いんじゃないよ……!」

リナ『とにかく、侑さん、歩夢さん、しずくちゃんの3人で全部勝つためには……その場その場でコンディションや、フィールドの環境に一番噛み合った人が戦うのがいいと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「環境に噛み合った人……」


確かにこれから向かうのはグレイブマウンテン──つまり、雪山だ。

そういう場所で戦うなら……。


侑「……私は雪山で戦った経験がある」
 「ブイ」


理亞さんとの戦闘の経験がある。


リナ『確かに雪山なら、ライボルトで電気を集束したりも出来るから、侑さんは相性がいいかもしれない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「じゃあ、次の試合は──」


──私と言おうとした、そのとき、


しずく「あの……! 次の試合は私に戦わせてくれませんか!」


しずくちゃんが名乗りを上げた。
113 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:39:35.72 ID:xLULnzaZ0

かすみ「しず子……?」

しずく「グレイブマウンテンとのフィールド相性と言うなら……私もあそこで捕まえたツンベアーを持っています。それに侑先輩は残りの3人の中では確実に1番強い……。……なら、私と歩夢さんどちらも勝算が見込めない場をお任せしたいです」

リナ『……それは確かに』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わかった。そういうことなら……しずくちゃん、お願いできる?」


私の問いに、


しずく「はい! お任せください!」


しずくちゃんは力強く頷くのだった。





    🎹    🎹    🎹





──さて、“そらをとぶ”でグレイブマウンテンに入って数十分。


栞子「この辺りですね。ウォーグル」
 「ウォーグ…」


全員で雪に覆われた山へと降下していく。

場所としては中腹くらいだろうか。

私たちが降り立った場所には──氷で覆われた岩が鎮座していた。

触ると自分まで凍りそうな冷気を放っている不思議な岩だった。


リナ『この岩から、“こおりのいし”に似たエネルギーを感知出来る』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「ここで間違いなさそうですね」

栞子「はい。“もえぎいろのたま”も龍脈のエネルギーを吸収し始めています」

せつ菜「となると……後はランジュさんたちが来るのを待つだけですね」


とりあえず前回同様、先に到着出来たので、あとはここで準備をしながら待つだけだ。


かすみ「…………」

歩夢「かすみちゃん?」

しずく「……やけに大人しいね、かすみさん」


そこでふと、かすみちゃんがやたら大人しいことに気付く。
114 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:41:14.87 ID:xLULnzaZ0

かすみ「……むしろ、皆さん怖くないんですか……」

栞子「恐い……とは……?」

かすみ「冬の雪山ですよ……かすみん知ってますよ、おっきな声とか出すと、雪崩が起こって大変なことになるんです……。……前回も雪崩で大変なことになったし……」

しずく「あれはフリージオが起こした“ゆきなだれ”だし……。……かすみさん、映画の見過ぎだよ?」

かすみ「え、しず子がそれ言う……?」

歩夢「映画でよく見る、大声で雪崩が起こるのはフィクションだから大丈夫だよ」

かすみ「へ? そうなんですか……?」

せつ菜「人の声くらいのエネルギーでは、さすがに雪崩を発生させることは難しいですからね」

かすみ「……でも、せつ菜先輩の大声なら、雪崩くらい起こせそう」

せつ菜「……確かに、私は声が大きいとよく言われます。……そう言われると、もしかしたら、出来るんじゃないかって気がしてきました……!!」


せつ菜ちゃんはスゥーーーっと思いっきり息を吸い込み、


せつ菜「私はーーーチャンピ──……もがっ!」


大声を張り上げようとしたので、栞子ちゃん以外が一斉にせつ菜ちゃんの口を塞ぐ。


せつ菜「……むー。……むー」

侑「ご、ごめん……。せつ菜ちゃんなら、本当に雪崩起こしかねないと思って……」

しずく「……わ、私も……ありえないってわかっているのに、せつ菜さんならやってしまいそうだと……」

かすみ「き、肝が冷えましたよ……勘弁してください……」

歩夢「人の声くらいじゃ起こらない……。起こらない……よね……?」


逆の意味で、せつ菜ちゃんへの信頼感がすごい私たちだった。


せつ菜「わかりました。雪崩チャレンジはまた今度にします!」

かすみ「一生やらないでくださいっ!!」

侑「あはは……」


思わず苦笑してしまう。本当にそのうち、声で雪崩を起こすのに成功しそう……。


侑「とりあえず……ランジュちゃんたちが来るまでどうしようっか」

せつ菜「じっとしていると身体が冷えてしまいそうですね……」

かすみ「あ、なら、かまくらでも作りますか? かすみん結構得意なんですよ〜♪」

栞子「かまくら……? なんですか、それは……?」

かすみ「え、しお子、かまくらも知らないの!? ……仕方ないなぁ〜……かすみんが雪遊びのなんたるかを教えてあげますよ〜」

栞子「は、はい! お願いします!」

歩夢「それじゃ、私は雪うさぎ作ろうかな……♪」


みんながかまくら作りの話をし始める中、


しずく「……すみません。私……少し、席を外しますね」


しずくちゃんは、私たちに背を向けて歩き出す。


かすみ「しず子……? どこ行くの……?」

しずく「……ちょっと、試合の前に、気持ちを落ち着けたいなって……そんなに離れた場所に行くわけじゃないから、心配しないで」
115 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:41:56.53 ID:xLULnzaZ0

そう残して──しずくちゃんは、行ってしまった。


かすみ「しず子……やっぱり、緊張してるのかな」

せつ菜「……そうですね。ランジュさんが強敵だと言うことは、しずくさんも理解しているでしょうし……負けられないというプレッシャーもありますから……」

かすみ「……かすみんたちが勝ってれば……」

せつ菜「……今更言っても仕方ありません。今はしずくさんを信じましょう」

かすみ「はい……」





    💧    💧    💧





しずく「…………」


目を瞑って──ゆっくりと呼吸する。

雪山の冷たい空気が肺に入ってきて痛いくらいだけど……お陰で頭も一緒に冷やされて冷静になれる気がした。


しずく「…………大丈夫」


自分に言い聞かせるように言葉にする。


しずく「私が……かすみさんの分まで……頑張るんだ」


プレッシャーはある。

私は積極的にバトル──特に試合形式のものはしてこなかった故に、不安もある。

だけど……私も、ここまで旅をしてきた、図鑑所有者の一人なんだ。


しずく「……大丈夫……」


もう一度自分に言い聞かせながら目を瞑る。

でも──ドックン、ドックンと、心の臓が音を立てていた。


しずく「……大丈夫……」


もう一度、自分に言い聞かせるように言った──そのとき、


歩夢「──……大丈夫だよ」

せつ菜「──しずくさんなら、大丈夫です」


いつの間にか私の隣に居た歩夢さんとせつ菜さんが、私の手を握りながら言う。


しずく「歩夢さん……せつ菜さん……」


目を開けると──二人が優しく私の手を握りながら、私を真っすぐ見つめていた。


せつ菜「前にも言いましたが……しずくさんは、自分のステージを作り出せれば、ランジュさんにも劣らない実力を持っています。自信を持ってください!」

しずく「せつ菜さん……」

せつ菜「自分で言うのもあれかもしれませんが……しずくさんは、私に一杯食わせたんですよ? あのときの力を出せば、きっと勝てますから!」

しずく「……はい」
116 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:43:44.44 ID:xLULnzaZ0

せつ菜さんの言葉に頷く。


歩夢「しずくちゃんは、私の大切なもの……全部守ってくれた……。……しずくちゃんも怖かったはずなのに……全部全部守ってくれたから……。……しずくちゃんの勇気と芯の強さがあれば、誰にも負けないって信じてるよ」

しずく「歩夢さん……」


あのとき、ウルトラディープシーで共に過ごした二人からの激励の言葉に、


しずく「……はい。……はい……!」


私は力強く頷いた。

気付けば──ドクン、ドクン、と激しく主張していた心の臓は、少しずつ落ち着きを取り戻していた。


しずく「歩夢さん、せつ菜さん」

歩夢「ふふ、なぁに?」

せつ菜「なんですか?」


微笑みながら訊き返してくる二人に、


しずく「勝ってきます」


そう伝える。


歩夢「うん♪」
せつ菜「はい♪」


頼もしい二人の言葉に応えられるように、私は覚悟を決めたのだった。





    💧    💧    💧





あれから、小一時間ほど経った頃に──ランジュさんたちは現れた。


ランジュ「また、先に着けなかった……」

ミア「それより……ボク寒いんだけど……」


二人とも、ちゃんと防寒装備はしてきているけど、ミアちゃんは寒そうに腕をさすっている。


かすみ「ふっふっふ……特別にかすみん特製かまくらの中に入れてあげてもいいですよ〜?」

ミア「Huh? そんな雪で作ったものの中に入っても、余計寒いだけだろ……」

かすみ「騙されたと思って入ってみるといいですよ!」

ミア「……はぁ……なんなんだよもう……」


そう言いながらも、ミアさんはかまくらの中に足を運ぶ。


ミア「……確かに暖かい」

栞子「はい! 私も入ってみて驚きました! 雪で出来ているのに、不思議です!」

ランジュ「ちょっとミア! ポケモン渡してからにしてよ!」

ミア「そうだった……」
117 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:44:44.98 ID:xLULnzaZ0

ミアさんはかまくらから出て、ランジュさんにボールの入ったケースを渡し──そそくさとかまくらに戻っていく。

結構気に入ったのかもしれない。


かすみ「ふんふん! しお子もミア子も素直でよろしい!」

ミア「ミア子……? 勝手に変なあだ名付けるなよ」

かすみ「えーでも、年下なんでしょー? ミア子がちょうどいいって!」

ミア「なんなのこいつ……」

歩夢「ケンカしちゃダメだよ? 仲良くね♪」

ミア「いや、一応ボク敵陣営なんだけど……。……ま、いいけどさ……」


さて、オーディエンスたちの準備は良さそうだ。

私はランジュさんの前に歩み出る。


ランジュ「今回は貴方なのね。しずくだったかしら」

しずく「はい。よろしくお願います」


ランジュさんにペコリと頭を下げる。


ランジュ「ええ、かすみやせつ菜みたいな、楽しい勝負が出来ること……期待してるわ」

しずく「ご希望に応えられるよう、全力で戦わせてもらいます」


両者、ボールを構え──フィールドに向かって投げ放つ。

さぁ、中堅戦──開演です……!!





    💧    💧    💧





しずく「ツンベアー! お願い!」
 「──ベァァッ!!!」


私の1番手は、ここグレイブマウンテンの環境で育ったツンベアーだ。

一方、ランジュさんは、


ランジュ「行くわよ、グライオン!」
 「──グライ!!!」


グライオンだ。

グライオンはじめん・ひこうタイプのポケモン。こおりタイプは大の苦手なはずだ。1番手は出し勝ってる……!

しかも今回ツンベアーには少しでもパワーを高めるために、“いのちのたま”を持たせている。

グライオンを一気に突破して、数的有利が取れれば……!


しずく「ツンベアー! “つららおとし”!!」
 「ベァァッ!!!!」


ツンベアーがこおりのエネルギーをグライオンの頭上に飛ばし、そこからつららが生成されて降り注ぐ。

一方、ランジュさんは、


ランジュ「グライオン、“まもる”!」
 「グライ!!」
118 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:45:23.45 ID:xLULnzaZ0

まずは様子見の防御技。

グライオンが頭上にハサミを掲げながら、つららを弾いて防御する。

それと同時に──グライオンが首に提げていた紫色の球が鈍く光る。

あの持ち物は──


しずく「……! “どくどくだま”……!」


持っているポケモンを“もうどく”状態にするアイテムだ。

そして恐らく、あのグライオンの特性は“ポイズンヒール”。

本来ダメージ受けるはずの“どく”状態で、逆にHPが回復していく特性だ。

相手は受け特化のグライオン……!

受けの姿勢を作らせちゃダメだ……!


しずく「“つららおとし”!!」
 「ベァァァッ!!!!」


“まもる”は連続では使えないはず……!

今度こそ攻撃を直撃させようと同じ攻撃を狙うが──つららが落ちるよりも早く、


ランジュ「“とんぼがえり”!!」
 「グライッ!!!」

 「ベァァ…!!!」


グライオンがツンベアーに突撃し、その反動を利用してボールに戻っていく。

そして代わりに出てきた──


 「──…ヤドラーン」


ヤドランに向かって、つららが降り注ぐ。

だけど──ヤドランはみず・エスパータイプ。

こおりタイプは効果がいまひとつでダメージが少なく、顔色一つ変えていない。

さらに──


ランジュ「ヤドラン! メガシンカよ!」
 「ドラーン」


ヤドランが光に包まれ──尻尾に噛みついているシェルダーが巨大化し、ヤドランの全身を覆うサイズになる。

メガヤドランは極端なほどに防御が向上するメガシンカだ。

要塞とも言える防御力に手を焼くトレーナーも多いが──対策はある。


しずく「“ぜったいれいど”!!」
 「ベァァァーーーッ!!!!!」


それは一撃必殺だ。

一撃必殺は、命中に難はあるが──防御主体のポケモンに対しては撃つ回数が確保できるため、防御崩しの手段として用いられる。

広がる冷気が、メガヤドランに向かって飛んでいくが──冷気はメガヤドランを外して、見当外れの場所を凍てつかせる。

冷気が強力過ぎる故に、相手を捉えるのが苦手な技だ。ここは割り切って回数を稼ぐしかない。


しずく「もう一度……!」


再び、“ぜったいれいど”を撃とうとしたそのとき──
119 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:46:05.61 ID:xLULnzaZ0

ランジュ「“定身法”!」
 「ドラーン」


メガヤドランの目がカッと光り──


 「ベァ…!!」


同時に“ぜったいれいど”が不発する。

これは──


しずく「くっ……“かなしばり”ですか……!?」


“かなしばり”で“ぜったいれいど”を封じられた。

相手も受け崩しを理解して対策を打ってくる。

さらに、


ランジュ「“ねっとう”よ!」
 「ドラーーン」

 「ベァァッ…!!!?」
しずく「ツンベアー……!?」


技が不発し、動揺したところに、メガヤドランが噴き出した“ねっとう”が襲い掛かる。

しかも──


 「ベ、ベァァ…」
しずく「一発で“やけど”……!」

ランジュ「あら、運が悪いわね、しずく」

しずく「くっ……戻って、ツンベアー!」


一旦ツンベアーを戻す。何もメガヤドラン対策は一撃必殺だけじゃない……!


しずく「お願い、サーナイト!」
 「──サナ」


サーナイトを繰り出すと同時に──襟元に着けたメガブローチが光り輝く。


しずく「メガシンカ!!」


サーナイトの体が光に包まれ──


 「サナッ!!!」


メガサーナイトへとメガシンカする。


しずく「“10まんボルト”!!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが電撃を放つ。

メガヤドランは防御こそ高いものの、特殊耐久は並程度だ。

しかし──


ランジュ「“まもる”!」
 「ドラーン」


メガヤドランはシェルダーの中に籠もって、電撃を受け流す。
120 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:46:44.65 ID:xLULnzaZ0

しずく「また“まもる”……!」


いや、焦るな、私……! “まもる”は連発出来ないんだ……!


しずく「もう一度、“10まんボルト”!!」
 「サーーーナァッ!!!!」


再び、電撃を放つサーナイト。

一方ランジュさんは、


ランジュ「戻りなさい」
 「ドラン──」


メガヤドランを控えに戻し──


ランジュ「行きなさい!! ラッキー!」
 「──ラッキー」


代わりに出てきたラッキーが“10まんボルト”を受け止める。

ラッキーは特殊耐久が極端に高いポケモンとして知られている。そのため、“10まんボルト”のダメージをほとんど受けていない。


しずく「今度は、特殊耐久のポケモン……!」


さっきから攻撃はしているはずなのに、うまく通らない。

いや、苛立っちゃダメだ……! 耐久ポケモンを倒すためには一つ一つ丁寧に崩して行かないと……!

特殊耐久が高いなら──


しずく「“サイコショック”!!」
 「サナッ!!!」


“サイコショック”は特殊技でありながら、特殊防御力では防ぐことの出来ないトリッキーな技だ。

これなら、特殊耐久が極端に高いラッキー相手でも有効にダメージを通していけるはず……!

動きの緩慢なラッキーは技を避ける素振りも見せず──


 「ラキッ…!!!!」


“サイコショック”によって発生したサイコキューブがラッキーに降り注ぐ。


しずく「やった……!」


有効にダメージを与えることに成功した。

だが、直後に──サーナイトの方に向かって、タマゴが飛んできた。


しずく「……!?」


──“タマゴばくだん”……!?


しずく「“スピードスター”!!」
 「サナッ!!!!」


直撃する前に、空中で撃ち落とそうと、星型のエネルギー弾で迎撃する。

“スピードスター”に撃ち抜かれた“タマゴばくだん”は、空中で爆散し、攻撃を防げたと思ったのも束の間──

爆散したタマゴの中から──大量の紫色の液体がサーナイトに向かって、降り注いできた。
121 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:47:22.05 ID:xLULnzaZ0

 「サナッ…!!?」
しずく「な……!?」


その毒液を頭から浴びたサーナイトは膝を突く。

まさか、今の技は“タマゴばくだん”じゃなくて──


しずく「“どくどく”……!?」


“もうどく”にされてしまった。これじゃ、相手は攻撃を防いでいるだけで、サーナイトも、すでに“やけど”状態になっているツンベアーも倒れてしまう。


しずく「く……! サーナイト!! “サイコショック”!!」
 「サナッ…!!!」


とにかく早く相手を倒さないと、時間がない……!!

再び、ラッキーの周囲にサイコキューブが出現するが──


ランジュ「戻りなさい、ラッキー!」
 「ラキ──」

しずく「また交換……!?」

ランジュ「グライオン!!」
 「──グライ…!!!」


ラッキーの代わりに飛び出してきたグライオンが、“サイコショック”を受け止める。

グライオンも防御力の高さがウリのポケモン。半面、特防には自信がないはず……!


しずく「“サイコキネシス”!!」
 「サナッ!!!」

ランジュ「“まもる”!」
 「グライ!!」

しずく「ま、また……!」


焦るな。苛立っちゃダメだ。そういう戦術なんだ……!


しずく「戻って! サーナイト!!」
 「サナ…──」


時間稼ぎに付き合って、“もうどく”で消耗させられる方がまずい。


しずく「“インテレオン”!!」
 「──インテ」


私は3匹目、インテレオンを繰り出す。

今回は“ピントレンズ”を持たせて、急所狙いに特化している。耐久重視のランジュさん相手には決して悪くない相性のポケモン。

ただ、ランジュさんは交代の隙を突いて──


ランジュ「“みがわり”!」
 「グライ!!」


グライオンが体力を使って、攻撃を肩代わりする“みがわり”を自らの目の前に作り出す。

防御戦術なら、“まもる”と“みがわり”を使った時間稼ぎは有名な戦術だ。

さすがに向こうがここまで徹底的にやってくるなら、私にだって対応策を打つことくらい出来る……!


しずく「“つららばり”!!」
 「インテッ!!!!」
122 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:47:53.64 ID:xLULnzaZ0

インテレオンが指先から、氷の針を連続で発射する。

発射された、つららは──“みがわり”を1発目で消滅させ、


 「グライッ…!!?」


その背後にいたグライオンに2発、3発と命中する。

4発目、5発目もグライオンを捉えたかと思ったが、


 「グライッ…!!!」


グライオンは身を捻って、ギリギリ最後の“つららばり”を回避し──


 「グライッ!!!!」


そのまま、インテレオンに向かって突っ込んでくる。


しずく「突撃してきた……!? “ねらいうち”!!」
 「インテッ!!!!」


インテレオンが飛び掛かってくる、グライオンに向かって、指先の銃口を構え──水銃を撃ち放った。


 「グライ…ッ」


水銃はしっかりと、グライオンを撃ち抜き、グライオンが崩れ落ちる──が、


 「インテ…!!!」


崩れ落ちながらも──グライオンの尻尾の針が、インテレオンの腹部に突き刺さっていた。


しずく「インテレオン……!」
 「インテ…!!」


大ダメージこそ受けていないようだが──インテレオンの顔色が悪い。

ここまでのランジュさんの戦い方からしても、もう何をされたか理解するのは容易だった。


しずく「“どくどく”……」


インテレオンも“もうどく”状態にされた。


ランジュ「さぁ、ラッキー、出てきなさい」
 「──ラッキー」


ラッキーによる時間稼ぎをするつもりだ。


しずく「戻って、インテレオン……!」
 「インテ…──」

しずく「ツンベアー……!」
 「ベァァ…!!!」


否応がなく、交換を強いられている状況の中、私の交換の隙を突いて、


ランジュ「“タマゴうみ”!」
 「ラッキー♪」


ラッキーが自身の生んだ栄養満点のタマゴで体力を回復する。

でもラッキーの防御力は低いんだ……!
123 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:48:26.47 ID:xLULnzaZ0

しずく「“ばかぢから”!!」
 「ベァァァ!!!!」


ツンベアーがラッキーに近付いて拳を振り下ろすが──


ランジュ「戻りなさい!」


ランジュさんは再びラッキーを交換──


 「──ドラーン」


代わりに出てきたメガヤドランが、ツンベアーの拳を硬いシェルダーの鎧で受け止める。


しずく「“ぜったいれいど”!!」
 「ベァーーーーッ!!!!!」


起死回生の一撃必殺は──またしても明後日の方向に飛んでいく。

そして、技を外した隙を突いて──


ランジュ「“サイコキネシス”!!」
 「ドラーーン」

 「ベァァ…!!!」


メガシンカによって強化されたサイコパワーで、ツンベアーを吹き飛ばす。


 「…ベァ…」


吹き飛ばされ、地面に叩き付けられ、さらに蓄積した“やけど”のダメージと、“いのちのたま”によって削れた自傷ダメージが重なり、崩れ落ちるツンベアー。


ランジュ「ふふ、さっきからツイてないわね」

しずく「……」


こちらの“ぜったいれいど”は2回とも外れ、1回の“ねっとう”で“やけど”状態にさせられた。

“つららばり”は5発中3発しか当たらないし、“ピントレンズ”を持っているのに、急所へのヒットもなし。

確かに、運が悪い。

だけど……それは結局試合の結果には関係ないし、負けたときの言い訳には出来ない。


しずく「インテレオン……!!」
 「──インテ…!!」


インテレオンをボールから繰り出し、


しずく「“あくのはどう”!!」
 「インテ…!!!」


メガヤドランに相性の良いあく技で攻撃をする。


ランジュ「ヤドラン、“ドわすれ”よ!」
 「ヤァン…?」


しかし、ランジュさんは“ドわすれ”で特防を上げることによって、時間稼ぎをしてくる。

その間にも、


 「インテ……ッ」
124 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:49:36.43 ID:xLULnzaZ0

インテレオンの体力は“もうどく”によって、どんどん削られていく。

早く……倒さないと……!!


 「インテ…!!!」


インテレオンが指の先に影の球を集束させながら、“ピントレンズ”を使って狙いを定める。


しずく「“シャドーボール”!!」
 「インテッ!!!」


インテレオンの指先から発射された“シャドーボール”は──


 「ヤァンッ…!!!?」


見事にシェルダーの鎧を避け、メガヤドランの頭部に直撃する。


 「…ド、ラン…」


急所に当たった。さすがにこれにはメガヤドランも堪らずダウンする。


しずく「これで……残り2対1……!!」


数の上では有利を取っている。

だが──


ランジュ「でも、ランジュの最後のポケモンは──ラッキーよ」
 「──ラッキー!!」


そう、ラッキーだ。


しずく「“ねらいうち”!!」
 「インテ…!!!」

 「ラッキー…!!?」


“ピントレンズ”と急所に当たりやすい技の“ねらいうち”でラッキーの急所を撃ち抜き、吹き飛ばすが──


 「…ラッキー!!」


ラッキーはすぐに起き上がる。

急所に当たっても全然ダメージになっていない……!


しずく「特殊防御が高すぎる……!」


恐らくラッキーが持っている持ち物は“しんかのきせき”。

まだ進化を残しているポケモンの防御と特防を著しく上昇させるアイテムだ。


ランジュ「それだけじゃないわ。ラッキー、“タマゴうみ”よ!」
 「ラッキー♪」


ラッキーは再び栄養満点のタマゴを産み、自らの体力を回復してしまう。

必死に急所を狙ってダメージの蓄積を狙うが──ラッキーの回復の方が速く……。

そして最終的には──


 「イン、テ…」
125 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:50:23.36 ID:xLULnzaZ0

“もうどく”のダメージの蓄積によって、インテレオンが崩れ落ちる。


しずく「……っ……。……戻って、インテレオン」
 「インテ…──」


インテレオンをボールに戻し──最後のポケモンのボールに手を掛ける。

手を掛けたところで──自分の手が、震えていることに気付いた。


しずく「…………っ」

ランジュ「さあ、早く最後のポケモンを出しなさい。……まあ、降参してもいいけど。もう、ほぼ詰みみたいな状態だし」


──降参。ランジュさんの口からそんな言葉が出てくる。


しずく「……しません」

ランジュ「じゃあ、早く出して」

しずく「……サーナイトッ!!!」
 「──サナ…!!!」


“もうどく”状態のメガサーナイトがボールから飛び出す。


しずく「サーナイト!! “サイコショック”!!」
 「サナ…!!!」

 「ラッキ…!!!」


“サイコショック”によって、有効的なダメージは与えられるけど──


ランジュ「“タマゴうみ”」
 「ラッキー♪」

しずく「……くっ……」

ランジュ「もう無理よ。ラッキーの回復は十分追い付いてる」


そう──多少は削れているかもしれないけど……ラッキーの体力を削り切る前に……サーナイトが“もうどく”で倒れる。


ランジュ「それとも──4.17%に賭ける?」


──4.17%

これは……一般的に、ポケモンの技が偶然急所を捉える確率と言われている。

確かに今、急所に当たりさえすれば……倒しきることが出来る。

でも……それを今狙うというには、あまりに絶望的な確率。

世の中には、狙って相手の急所を捉えることが出来る特別なトレーナーがいるらしいが……私にはそんな芸当は出来ない。

もしここに立っているのが歩夢さんだったら、それが出来たのかもしれない。

侑さんだったら多彩な技で潜り抜け打開をし、かすみさんだったら奇抜な発想で逆転をし、せつ菜さんだったらそもそも相手の思うように防御戦術を展開すらさせていなかったかもしれない。

でも──今の私には、ランジュさんの戦法を崩す術が……ない。


しずく「…………っ」


唇を噛む。


 「サナ…ッ!!!」
126 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:51:13.13 ID:xLULnzaZ0

今もサーナイトは必死に“サイコショック”を続けているのに──私にはもう何も出来ないの……? 何も出来ることはないの……?

このままじゃ、本当に、何も出来ずに敗北を待つだけ。

なんで私は──……こんなに弱いんだ。

みんなのために勝つって意気込んで、この場に立っているのに。戦っているのに。


かすみ「しず子ぉぉーー!! 頑張れーーーっ!!」

せつ菜「しずくさん!! まだ終わってませんよーーー!!」

侑「しずくちゃーん! 諦めないでー!!!」


かすみさん、せつ菜さん、侑さんが応援を飛ばしてくれる。


歩夢「…………っ……!」

栞子「……しずくさん……」


歩夢さんは祈るようにして、栞子さんは不安そうに、固唾を飲んで見守っている。

──そうだ。


しずく「……私は……負けるわけにいかない」


今、私が負けたら……全部終わりなんだ。

そのとき、ふと──あることを思い出した……。

半年前の……戦いのときのことを──



──────
────
──



──侑先輩と歩夢さんがウルトラスペースに飛び込んでから、3日ほど経ったときだ。


 「──フェロ…」

しずく「はぁ……! はぁ……!」


やっとの思いで、こちらの世界に現れたフェローチェを撃退した私たち。


彼方「ふぅ……。……しずくちゃん、一旦休憩しておいで〜」

しずく「いえ……! まだ、戦えます……!」

彼方「ダーメ、疲れが見えてるよ。後方で休憩しなさーい」

かすみ「しず子! こっちはかすみんたちがどうにかするから!」

せつ菜「はい! 休憩するのは大事ですから!」

しずく「……わかりました。……よろしくお願いします」


連日連戦が続いていたため、全員で交代で休憩を取りながらウルトラビーストと戦っている状態だった。

後方へ下がると──
127 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:51:49.70 ID:xLULnzaZ0

姫乃「しずくさん、どうされましたか」

遥「もしかして、お怪我を……」

しずく「いえ、休憩をいただいたところです」

遥「そういうことでしたら、ポケモン預かりますね! 回復させておきます!」

エマ「食事も作ってあるから、今持ってくるね! あっちのテントで待ってて!」

しずく「はい、ありがとうございます」


後方で炊事をしているエマさんと、ポケモンと私たちトレーナーの怪我の治療を行っている遥さん。そして、そんな二人を護衛している姫乃さんに出迎えられる。

とりあえず、軽く食事を取ってから、仮眠しようかな……。

そう思って、簡易テントの中に入ると──


果林「あら……しずくちゃん」


すでに休憩している果林さんが居た。


しずく「果林さん……」

果林「突っ立ってないで、座ったら?」

しずく「あ……はい」


促され、少し離れた場所に腰を下ろす。

しばらくすると──


エマ「はい! しずくちゃん、どうぞ♪」


エマさんがゴーゴートを支えにしながら、シチューを持ってきてくれる。


しずく「ありがとうございます。エマさん」

エマ「どういたしまして♪ それじゃ、ゆっくり休んでね♪」


そう残して、エマさんは再びゴーゴートと一緒に持ち場に戻っていく。


しずく「…………」

果林「食べないの?」

しずく「……食べます」

果林「そう」


果林さんと一言二言交わして、シチューを食べ始める。

疲れた身体に、シチューの温かさが沁みる。

ただ──正直、果林さんと二人きりというのは気まずさがあった。

何せ……歩夢さんを助けるためとはいえ、私は果林さんを騙していたわけで……。

今は利害の一致から味方ではあるものの……きっと果林さんも私のことはよく思っていないだろうし……。

チラチラと果林さんの様子を伺いながら、シチューをいただく。


果林「もう……何? さっきからチラチラ見て……」

しずく「あ……い、いえ……! なんでもありません……」


完全にバレていた……。

気まずくて目を逸らすと──
128 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:52:53.16 ID:xLULnzaZ0

果林「……それにしても、しずくちゃん……本当に克服しちゃったのね」


果林さんは突然、感心したように言う。


しずく「克服……?」

果林「フェローチェのこと。さっき、戦ってたんでしょ?」

しずく「……えっと……はい」

果林「貴方の目は……今でもちゃんと、フェローチェの毒に侵された人特有の目をしてるのにね」

しずく「そう……なんですか……?」

果林「ええ。長年フェローチェを使ってきた私が言うんだから間違いないわ。毒の因子は身体の中にまだあるのに……精神力で抑えつけてる。これってとんでもないことなのよ?」

しずく「……は、はい……。……えっと……はい」


盛大に気まずい。特にフェローチェの話は……。


果林「もう、そんなに緊張しなくていいじゃない。今は味方なんだし……私、これでもしずくちゃんのことは結構認めてるのよ?」

しずく「認めてるって……」

果林「貴方には、悪のカリスマがあるわ」

しずく「悪のカリスマ……」


なんだそれはと眉を顰めてしまう。


果林「ええ。目的の為なら、他者を騙すことも厭わないところとかね」

しずく「……嬉しくありません」

果林「そう? ごめんなさい」


謝りながらも、果林さんはくすくすと笑う。


果林「ただね、それはしずくちゃんの強みだと思うわ」

しずく「強み……ですか……?」

果林「普通、人って……誰かに嘘を吐いたり、ズルいことをするときに、どうしても遠慮しちゃうと言うか……ストッパーが掛かっちゃうものなのよ」

しずく「……私も人を騙すときは、良心を痛めていますよ?」

果林「そうかもね。でも……それでも、大切な人たちを助けるためなら、その良心の痛みに耐えられるんでしょ?」

しずく「それは……そうですけど……」

果林「それはね、きっと貴方の仲間たちには出来ないことよ。侑も、歩夢も、かすみちゃんも、せつ菜も……みんな素直過ぎるのよ。自分に嘘が吐けない良い子たち」

しずく「…………」

果林「だから……しずくちゃん。貴方のズルさが必要なときは、その力でみんなを守ってあげるといいんじゃないかしら」

しずく「そんなことが起こらないのが、一番いいと思います……」

果林「そうね。また悪い人が、お友達を利用するために連れ去っちゃったりしたら嫌だものね」

しずく「……ホントですよ」


ウルトラディープシーでの日々は……歩夢さんを助けるためとはいえ、すごく精神を消耗した。

出来ることなら、もうあんなことは起こらないで欲しい……。

もし起こったら……また同じことをするでしょうけど……。
129 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:53:23.25 ID:xLULnzaZ0

果林「ただ、そんなことをしちゃう悪〜いお姉さんから、アドバイスよ」

しずく「……」

果林「その信念は、きっとしずくちゃんの強さを支える重要な要素になる。だから、もし転びそうになったら、自分の強さはそこにあることを思い出してみて」

しずく「…………一応、覚えておきます」

果林「ふふ、よろしい♪ まあ何せ、この私をあそこまでコケにしたんだもの……簡単に忘れられちゃ困るわ」

しずく「果林さん……意地悪で言ってますよね」

果林「ふふ、どうかしらね?」


果林さんはイタズラな笑顔を浮かべながら、くすくすと笑うのだった。


──
────
──────



せつ菜さんは言っていた。

──『……しずくさんは、自分のステージを作り出せれば、ランジュさんにも劣らない実力を持っています。自信を持ってください!』──

ステージか……私のステージ──


 「サナ…ッ」


“もうどく”に苦しむサーナイトを見て──思った。

“こんなこと”をしたら……恐らく、相手を怒らせるだろう。

だけど──


栞子「…………」


ここで負けたら、栞子さんの願いはどうなる。


かすみ「しず子ーーー!!」

せつ菜「しずくさーーーん!!」

侑「しずくちゃーーーんっ!!」

歩夢「…………しずくちゃん……!」


私にこの場を託してくれた仲間たちの想いはどうなる。

このまま、何も出来ずに負けるくらいなら──私は少し……悪い子になってでも、最後まで足掻こう。

そう思って──胸いっぱいに息を吸い込んだ。

山の上の方に顔を向け──


ランジュ「什么?」

しずく「──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


全身全霊の──大声を発した。



130 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:54:11.56 ID:xLULnzaZ0

    👑    👑    👑





──しず子が急に、山に向かってとんでもない大声を張り上げ始めて、かすみんたちは目を丸くする。


かすみ「し、しず子……!? ど、どうしちゃったの……!?」

せつ菜「す、すごい……声量です……っ!」

ミア「Too loud...」


あのせつ菜先輩さえも、耳を塞いで表情を歪めている。

実際、しず子の声の大きさはとんでもなくて、その声だけで山自体がビリビリと振動しているような気さえしてくる。


侑「え、演劇部が本気で声出すと……こんなすごいの……!?」

歩夢「で、でも、しずくちゃん……何してるの……!?」

栞子「わ、わかりません……!」


とんでもない叫び声の中──かすみんはふと思い出す。


かすみ「……もしかして……雪崩……?」

侑「え……?」

かすみ「しず子……大声で雪崩を起こそうとしてるんじゃ……!?」

せつ菜「まさか……それで、逆転を手繰り寄せようと……!?」

ミア「What?! Is she serious?!」

かすみ「しず子……」


しず子の叫び声は、かすみんたちが話している間もずっと続いている。


しずく「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」





    💧    💧    💧





しずく「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ランジュ「も、もう、一体なんなのよ……!?」


とにかく叫ぶ。力の限り。

喉の強さと声量には自信がある。

だけど──さすがにこんな無茶な声の出し方をするのは初めてだ。

冷たい外気と酸欠のせいか、すでに頭が痛い。

喉も──今にも潰れてしまいそうだ。

だけど──私は叫ぶ。

私が叫び続ける中でも──


 「サナ…ッ!!!」

 「ラッキー♪」
131 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:55:01.50 ID:xLULnzaZ0

“サイコショック”を撃つサーナイトと、それを“タマゴうみ”で回復するラッキーの姿。

もう──逆転の一手はこれしか残ってない。

だから──私は叫び続ける。


しずく「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──ぁ……あ゛あ゛、あ゛……!!!!」


声が掠れる。


しずく「……っ゛……あ゛あ゛あ゛ぁ゛……げほっ、ごほっ……!!」


喉の痛みで、咳き込む。


しずく「ぁ゛、あ゛あ゛……ぁ゛……」


掠れるような声が、出る。……喉が……痛い……。頭も……。


かすみ「──しず子!! もういい!! やめてっ……!!」


かすみさんが、叫ぶ声が聞こえた。


しずく「あ゛……あ゛ぁ゛……っ……げほっ、ごほっ……!! ごほっ、げほっ……!!」


激しく咳き込んで、思わず膝を突く。


ランジュ「……興が醒めたわ。何がしたいの、貴方……」


ランジュさんが冷たい目を向けてくる。


しずく「……はぁ…………はぁ…………」

ランジュ「……憐れね。……かすみやせつ菜と違って……貴方とのバトルは……楽しくないわ」

しずく「……49.4%」

ランジュ「……?」

しずく「“サイコショック”をパワーポイント限界ギリギリまで使ったときに……1回以上急所に当たる確率です……」

ランジュ「……だから、何?」

しずく「……私と、ランジュさん……どっちの運がいいか……約2分の1です……!!」

ランジュ「……何を言い出すかと思ったら……。その前に貴方のサーナイトは“もうどく”で倒れるわ」

 「サナ…ッ」

ランジュ「今もそんなに苦しそうじゃない……」


そう言っている間にも、弾丸のように出現してはラッキーに襲い掛かる“サイコショック”。

そして、その度にラッキーは“タマゴうみ”で回復する。

1回──2回──3回──


ランジュ「……そろそろ、終わりね」


4回──5回──6回──


ランジュ「……え……?」


ランジュさんの顔色が、変わった。
132 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:55:47.38 ID:xLULnzaZ0

ランジュ「なんで……!? なんで、倒れないの……!?」

しずく「……倒れませんよ」


倒れるわけがない。


しずく「私のサーナイトは──“もうどく”状態じゃありませんから」
 「サナ」

ランジュ「什么!?」


私がやっていたのは、決して分の悪い賭けじゃない。

確率約50%の五分五分の賭け……!!


しずく「サーナイト!! “サイコショック”!!」
 「サナッ!!!!」


通算16回目──パワーポイントギリギリ、最後の“サイコショック”が、


 「ラッキッ…!!!?」


ラッキーの急所を捉え──


 「ラ…キィー…」


ラッキーは、その一撃を受け──雪の上に倒れ込むのだった。


しずく「…………急所に当たりました。……ランジュさん──運が、悪かったですね」

ランジュ「……嘘……?」


ランジュさんが、信じられないものを見るような顔をしながら、その場にへたり込む。


ミア「ランジュが……負けた……!? 嘘だろ……!?」

かすみ「……え……何……どゆこと……?」

侑「しずくちゃんが……勝った……の……?」

せつ菜「え、っと……何が……起こったんですか……」


そして、オーディエンスたちも事態が飲み込めていないようだった。


かすみ「え、だって雪崩、起こってませんよ……!? 雪崩起こして、一発逆転狙ってたんじゃ……!?」

しずく「けほっけほっ……。……もう、かすみさん……けほっ……。……人の声じゃ……雪崩は起こせないって……言ったでしょ……」

かすみ「え、じゃあ……さっきの大声は……」

ランジュ「そ、そうよ……!! 確かにサーナイトには、ラッキーが“どくどく”を当てたはずよ!!」

しずく「……そうですね……。……けほっけほっ」


私が咳き込みながら、ランジュさんの言葉に頷いていると──


リナ『確かにメガサーナイトはラッキーからの“どくどく”で“もうどく”状態になった』 || ╹ᇫ╹ ||


リナさんが飛んでくる。
133 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:56:27.51 ID:xLULnzaZ0

ランジュ「じゃあ、なんで倒れてないのよ!」

リナ『それは簡単。回復したから』 || ╹ᇫ╹ ||

ミア「What?! “どくけし”でも使ったって言うのか!?」

リナ『違う』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「サーナイト……“いやしのすず”」
 「サナ〜♪」


私が指示をすると──サーナイトが周囲に心地の良い鐘の音を響かせる。


ランジュ「……まさ……か……」

しずく「……そうですよ……。……私が叫んだのは──“いやしのすず”の音をランジュさんに気付かれないように、掻き消すためです……」

ランジュ「じ、じゃあ……メガサーナイトが苦しそうにしてたのは……」

しずく「もちろん……演技ですよ」
 「サナ」

しずく「私のポケモンたちは……ポケモン演劇の稽古を旅の合間に行っています。……“もうどく”で苦しむ演技なんて、簡単ですよ」

ランジュ「………………」


ランジュさんは、それを聞いて項垂れる。

だけど──


ミア「……そんなの反則だろ!!」


ミアさんが怒鳴り込んでくる。


ミア「トレーナーが“いやしのすず”の音を大声で掻き消して、相手にバレないようにしただって!? そんなの聞いたことないし、トレーナーがポケモンバトルに介入するのは反則だろ!!」

ランジュ「……ミア、いいわ。……ランジュの負けよ」

ミア「いいわけないだろ!! こんなのポケモンバトルの判定としておかしい!!」

ランジュ「いいからっ!!」

ミア「……!」


ミアさんの言葉に、強い語気でランジュさんが言葉を返す。


ランジュ「……負けは負けよ」

ミア「……」


ランジュさんはゆっくりと立ち上がって──


ランジュ「……これで……2勝1敗……。……次の龍脈の地で……待ってるわ」


そう残し、ランジュさんは踵を返して、


ランジュ「ジジーロン……飛んで」
 「──ジーロン」


ボールから出したジジーロンの背に飛び乗る。


ミア「あ、おい!! ランジュ……!!」


ミアさんはそれを追うようにジジーロンの背に飛び乗り──二人はグレイブマウンテンを去っていったのだった。

どうにか──勝てた。……安心した瞬間──
134 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:58:33.36 ID:xLULnzaZ0

しずく「…………げほっ!! ごほっ!!」


喉の違和感から、激しく咳き込み、その場に蹲る。


かすみ「しず子……!?」


かすみさんが駆け寄ってくる。


しずく「ごほっ、げほっ……!! がはっ……!!!」


激しい咳と共に吐き出された唾液が──グレイブマウンテンの雪を赤く染めた。


しずく「あ、あれ……」

かすみ「……!? 血!? しず子、血吐いてる……!?」


気付けば、呼吸も苦しい。喉が痛くて、うまく息が出来ない。


しずく「げほっ……ごほっ……」

歩夢「しずくちゃん、落ち着いて……! 深く、ゆっくり息をして……!」


駆け寄ってきた歩夢さんが、私の背中をさすりながら言う。


しずく「……はぁ…………はぁ…………すぅー…………はぁー…………」

歩夢「そう、ゆっくり……ゆっくりね……。吸うよりも、吐くことを意識して……苦しくないよ……」

かすみ「しず子……」

せつ菜「しずくさん……」


かすみさんとせつ菜さんが私の手を握る。


侑「しずくちゃん……よく頑張ったね。ありがとう」

しずく「侑……先輩……けほっ……けほっ……」


侑先輩は──優しく、私の頭を撫でる。


栞子「しずくさん……ありがとうございます……。……こんなになるまで……」


そして、栞子さんが青い顔をしながら言う。


しずく「うぅん……だい、じょうぶ……けほっ……」

侑「とにかく、この寒さと乾燥だと喉にも良くないよね……一旦移動しよう」

かすみ「はい! しず子、アーマーガア出せる……?」

せつ菜「私は毛布を準備しますね……! 出来れば寝かせて運んであげた方がいいでしょうし……!」

しずく「そこまで、して……いただかなくても……けほっけほっ……ごほっ……!!」

かすみ「いいから……!」

しずく「う、うん……」



135 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 17:59:46.76 ID:xLULnzaZ0

    🎹    🎹    🎹





──ツシマ研究所。


善子「しばらく安静にしてなさい。声帯から出血してる。どんな無茶な発声したらそうなるのよ……。悪化するとポリープになるわよ。そうなったら困るでしょ。極力喋らないように」

しずく「────」


ヨハネ博士の言葉に、しずくちゃんが無言で頷く。


かすみ「あ、あの……しず子……大丈夫……なんですよね……?」

善子「ええ。大声の出し過ぎで、声帯が一時的に損傷してるだけ。安静にしてればすぐによくなるわ」

かすみ「よかった……」

侑「とりあえず……しずくちゃんはここで安静にしてた方がいいかな……」

せつ菜「そうですね……。無理をして悪化させてもよくないでしょうし」

しずく「────」


私たちの言葉にしずくちゃんが両手を顔の前で合わせて、「ごめんなさい」の意を示してくる。


かすみ「その間、かすみんが看病します……!」

善子「まあ、おかしいのは喉だけだから、あんまり大袈裟に考えなくてもいいけどね。部屋は自由に使っていいから、しっかり休みなさい」

かすみ「ありがとうございます……ヨハ子博士……」

善子「気にしなくていいわよ。あと、ヨハ子じゃなくてヨハネだからね」


そう言い残して、ヨハネ博士は部屋を出て行った。


侑「それじゃ……次の場所へは、4人で行こうか」
 「ブイ」

歩夢「栞子ちゃん、反応はどっち方面?」

栞子「えっと……東です。……それに反応も近い」

せつ菜「ここから東にあるパワースポットらしき場所となると……」

歩夢「……太陽の花畑……!」

リナ『だね。それで、次は誰が戦う?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「私か歩夢だけど……」


果たしてどちらが先に行くべきかだけど──
136 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 18:00:21.29 ID:xLULnzaZ0

歩夢「……私が戦う」


予想外にも、歩夢が自分から名乗り出た。

歩夢はあんまり積極的にバトルに臨むタイプではないから、ちょっと意外だった。


歩夢「太陽の花畑なら……私が一番知ってるし……。……それに大将を任せるなら侑ちゃんの方がいいと思う」

リナ『まあ、そうかもね。大一番は侑さんの方が向いてる』 || ╹ ◡ ╹ ||


確かに……大将戦は一番プレッシャーが掛かる場所だろうしね。

歩夢よりもバトル慣れしている私の方がいいのは、そうなのかもしれない。


侑「それじゃ歩夢、お願いね!」

歩夢「うん! 頑張るね!」


しずくちゃんの頑張りによって、どうにかグレイブマウンテンでの中堅戦に勝利し──私たちはこれで3戦1勝2敗。首の皮一枚繋がった。

さあ次は、太陽の花畑で歩夢の副将戦だ──



137 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 18:00:52.30 ID:xLULnzaZ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
138 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 18:01:26.13 ID:xLULnzaZ0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:278匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.68 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.64 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.64 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:257匹 捕まえた数:24匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:301匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.69 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.69 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.69 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:282匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:205匹 捕まえた数:51匹

 主人公 栞子
 手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
      ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
      ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
      マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



139 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/16(月) 23:02:00.32 ID:xLULnzaZ0

 ■Intermission🔔



ミア「おい、ランジュ……!」


ジジーロンで飛行する中、ミアが声を荒げながら、ランジュの肩を掴む。


ランジュ「……何?」

ミア「何? じゃないだろ……! どうして、負けを認めたんだ……!」

ランジュ「……だから言ったでしょ。負けは負けよ」

ミア「あの戦いは相手の反則負けでもおかしくなかった。ランジュの目的はレックウザなんだろ? なら、判定勝ちして、レックウザを捕獲する権利を得るべきだったんじゃないか?」

ランジュ「……それじゃ、ダメなのよ」

ミア「Why?」

ランジュ「相手がちょっとズルをした程度でそれに文句を言ってるようじゃ……足りないの」

ミア「……足りない?」

ランジュ「ランジュは──圧倒的な力で、レックウザを従えないといけないんだから……」

ミア「……」


ミアはランジュの言葉を聞いて、少しの間、黙っていたけど──


ミア「なら……これ以上負けるようなことになるなよ? ボクの育てたポケモンを使ってるんだ……ランジュには、ボクのブリーダーとしての腕を証明してもらわないと困るんだ」

ランジュ「わかってる。……次は、絶対に負けないわ」


ランジュは、“みどりいろのたま”を握りしめて──次の龍脈の地を目指すのだった。


………………
…………
……
🔔

140 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:07:38.46 ID:8ywSMszf0

■ChapterΔ007 『合戦の花畑』 【SIDE Ayumu】





──ポケモンバトルというものが、別段嫌いなわけではなかった。

ただ、どうしても画面の向こうで起こっている事というか……自分がその場に立つというのをなかなか想像出来なかった。

侑ちゃんと旅をして、失敗して、挫折して、諦めそうになって……。でも、大切な人たちを守るためには……蹲って、怖がって泣いているだけじゃダメだって、そんな当たり前のことに気付いて──私は戦うことを選んだ。

ただ……そうは言っても、私は必要に駆られないのであれば、可能な限り戦わない方がいいと思っている。

だから、あの旅にひと段落付いた後は、実は一度もポケモンバトルらしいバトルをした覚えがなかった。

もちろん、野生のポケモンと戦うことくらいはあったけど……。

だから、今回の私たちのチームでの五番勝負も、出来ることなら私の番が回ってくる前に終わって欲しい──無意識の内に、そんな甘いことを考えていたと思う。

ただ……しずくちゃんの戦っている姿を見て、考えが変わった。

あんなにボロボロになるまで戦ってくれたしずくちゃんを見て、私は出来れば戦いたくないなんて……思えるわけない。


歩夢「しずくちゃんの繋いでくれたバトンを──私が侑ちゃんに繋ぐんだ……」


私はそう独り言ちながら──太陽の花畑へ向かう。





    🎀    🎀    🎀





──グレイブマウンテンでの戦いを終え、ツシマ研究所で一晩過ごした私たちはその翌日、太陽の花畑へと訪れていた。

栞子ちゃんの持っている“もえぎいろのたま”は当然のように、大輪華・サンフラワーの方へ反応を示し……そこには既に、


ランジュ「……来たわね」


ランジュちゃんたちが待っていた。


ランジュ「……次にランジュの相手をするのは……どっち?」


ランジュちゃんが私と侑ちゃんを順に見る。

なんだか……ランジュちゃんはすごくピリピリしていた。

しずくちゃんに負けたのは本当に予想外だったみたいだから……ある意味、当然なのかもしれない。


歩夢「私だよ」

ランジュ「……歩夢、貴方ね」


私は一人、前に歩み出て、ランジュちゃんと相対する。


栞子「歩夢さん……! 頑張ってください……!」

せつ菜「歩夢さん、ファイトです!!」

侑「歩夢……! お願いね!」

リナ『歩夢さん、ファイトー!!』 || > ◡ < ||


みんなの応援を受けながら、


歩夢「うん、任せて!」
141 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:08:10.16 ID:8ywSMszf0

力強く頷く。


ランジュ「……勝つつもりなのね」

歩夢「うん。負けないよ」


私の言葉を聞くと、ランジュちゃんはスッと目を細める。


ミア「ランジュ、今回のポケモン」

ランジュ「ええ」


ランジュちゃんが例の如く3匹のポケモンをミアちゃんから受け取り──ランジュちゃんがボールを構える。

そのとき、なんとなくだけど──ランジュちゃんが構えているボールに入っているポケモンが……じめんタイプな気がした。


ランジュ「さぁ、始めるわよ……!!」


お互いのボールが花畑のフィールドの中に、放たれた──





    🎀    🎀    🎀





ランジュ「行きなさい、カバルドン!!」
 「──バルドン…」


ランジュちゃんの1匹目、カバルドンがボールから飛び出すと同時に“すなおこし”で“すなあらし”が発生する。

やっぱり、じめんタイプだった……!

対して私が繰り出したのは──


歩夢「お願い、トドゼルガ!」
 「──ゼルガァ…!!!」


トドゼルガだ。

相性は有利……!


歩夢「“ハイドロポンプ”!」
 「ゼルガァーー!!!!」


トドゼルガが先に動いて、強烈な水流でカバルドンを攻撃する。


 「バルドン…」


カバルドンは攻撃を受けながら、


ランジュ「“ステルスロック”!」
 「バルドン…」


カバルドンが全身の穴から、鋭い岩を噴き出し、それが周囲に漂い始める。さらに“オボンのみ”を食べて体力の回復をしているのが見える。

そして“オボンのみ”を食べ終わった直後──カバルドンが口を開けて息を吸い込むのが見えた。

──あの子……“あくび”しそう……。


歩夢「“アンコール”!」
 「ゼルガ」
142 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:09:07.93 ID:8ywSMszf0

トドゼルガが上半身を持ち上げ、パチパチと手を打ち鳴らし始める。

すると、


 「バルド…」


カバルドンは再び“ステルスロック”を発射し始める。

“アンコール”は相手の直前にした行動を繰り返させる技。


歩夢「ほ……。……“あくび”されたら、眠っちゃうところだったね」
 「ゼルガ」

ランジュ「……読まれてる……。戻りなさい、カバルドン」
 「バルドン──」


ランジュちゃんがカバルドンをボールに戻し、次のボールを手に持つ。


歩夢「…………」


その瞬間、肌がピリピリとし、毛が逆立つような感覚がした。

でんきタイプ……とは違う。威圧的な存在感を持つタイプ──ドラゴンタイプな気がする。


ランジュ「カイリュー!!」
 「──リューー!!!」

歩夢「“れいとうビーム”!!」
 「ゼルガァ!!!」

ランジュ「な……!?」
 「リュゥ…!!」

歩夢「やった! やっぱり、ドラゴンタイプだった……!」


カイリューは苦手な“れいとうビーム”を受けて、苦しそうに呻き声をあげる。


ランジュ「よ、読まれてる……!? なんで……!?」





    🎹    🎹    🎹





せつ菜「歩夢さん……すごいです……! 悉く読みが当たっています……!」

リナ『読みというか……たぶん、勘……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


リナちゃんの言うとおり、歩夢の場合は戦術的な読みというよりは……たぶん、勘だと思う。

歩夢のポケモンに対する第六感とも言える勘は、あの戦いが終わった後も、日に日に強くなっている気はしていたけど……。


侑「私たちには真似出来ない戦い方かも……」

栞子「すごいです、歩夢さん……! ランジュに対して、優勢を取っています……!」

リナ『ただ──歩夢さんの能力は、弱点もある』 ||;◐ ◡ ◐ ||

せつ菜「弱点……ですか?」

侑「歩夢がわかるのは……あくまでポケモンのことだけだから……」
143 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:09:52.62 ID:8ywSMszf0

歩夢は無意識に自分の勘に頼りがちだから……そこが戦うときの弱点になることがある。

特に今回のルールでは──





    🎀    🎀    🎀





ランジュ「“ばかぢから”!!」
 「リューーーッ!!!!」

 「ゼルガァ…!!!?」
歩夢「きゃぁっ!!?」


トドゼルガの攻撃を受けた途端、カイリューの攻撃力が著しく上昇し、トドゼルガを一撃で吹き飛ばす。


歩夢「き、急に攻撃力が上がった……!? な、なんで……?」
 「ゼ、ゼルガァ…」

歩夢「戻って、トドゼルガ……!」


私は焦ってトドゼルガをボールに戻す。


ランジュ「貴方……あれだけ読みを通していたのに、“じゃくてんほけん”のこと、知らないの……?」

歩夢「“じゃくてん……ほけん”……?」


私が首を傾げると──


侑「歩夢ー!! 弱点の技を受けたときに、自分の攻撃能力を上げる持ち物のことだよー!」


と、後ろから侑ちゃんが教えてくれる。


歩夢「そ、そういうのもあるんだ……」


持ち物のことはよくわからなかったから、トドゼルガにはあの子が好きな“フィラのみ”を持たせていたけど……一撃で倒されちゃったから、食べる暇もなかった。


せつ菜「歩夢さん! 焦らないでください! ちゃんと相手に十分な削りは入れられていますよ!」


せつ菜ちゃんの言葉に頷き、私は一度息を吸って心を落ち着ける。

トドゼルガは倒されちゃったけど……まだ全然挽回出来る。


歩夢「……よし! 行くよ、フラージェス!」
 「──ラージェス」


フラージェスがボールから飛び出すのと同時に、周囲を漂っていた鋭い岩がフラージェスに向かって突き刺さりそうになるけど──気付けば、フラージェスに向かって飛んでくる岩との間に、たくさんの花びらが浮遊し、纏わりつくようにして、岩の動きを止めていた。


ランジュ「……!」

歩夢「ここはこの子が生まれ育ったお花のフィールドだから……ここのお花はフラージェスの味方」
 「ラージェス」


フラージェスは花を操って戦うポケモン。

私がここ太陽の花畑での戦いを選んだ理由は、フラージェスの力を最大限に発揮出来るからだ。

お花たちの力を少しでも発揮できるように、持ち物も“きせきのタネ”を選んだ。“きせきのタネ”はくさタイプの技の威力を上げるアイテムだと、侑ちゃんが教えてくれた。


ランジュ「面白い戦い方するじゃない……! カイリュー! “アイアンテール”!!」
 「リューーーッ!!!」
144 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:10:24.95 ID:8ywSMszf0

カイリューが、フェアリータイプのフラージェスが苦手なはがねタイプの技で攻撃してくるけど──

ザァァァッと、大量の花びらたちが集まってきて、


 「リューーーッ!!!!」


振り下ろされる、鋼鉄の尻尾を、ボフンッと音を立てながら受け止める。


ランジュ「……く……花の量が多すぎる……」


ここは一面見渡す限り花しかない。花たちはフラージェスを守ってくれるから、本来は苦手だけど、物理攻撃に偏っているはがねタイプも怖くない。

もちろん、ランジュちゃんもそれはすぐに判断したようで──


ランジュ「なら、焼き払うだけよ!! カイリュー!! “かえんほうしゃ”!!」
 「リューーーッ!!!」

歩夢「! いけない! フラージェス!」
 「ラージェスッ!!!」


カイリューがお花たちに向かって、口から炎を吐き出した瞬間──お花たちはザァァァッと道を開けるようにその場から離れ、代わりにフラージェスが、“かえんほうしゃ”に向かって突っ込んでいく。


ランジュ「什么!?」

歩夢「“ひかりのかべ”!」
 「ラージェスッ!!!」


特殊攻撃を弱める障壁を展開し、炎を散らして防御する。

フラージェスとお花は共生関係にある。お花はフラージェスを守ってくれるし、フラージェスもお花を守る。

フラージェスが攻撃を防ぐと同時に──四方八方に散ったお花はカイリューの上下左右から回り込むように迂回し、


歩夢「“はなふぶき”!!」
 「ラーージェスッ」

 「カイ、リューー…!!!」


カイリューに向かって突撃していく。

ドラゴンタイプとひこうタイプを持つカイリューにはそこまで効果的な威力は出ないものの、その物量でカイリューの動きを鈍らせる。


ランジュ「く……“ぼうふう”!!」
 「リューーーッ!!!!」

 「ラージェス…!!」
歩夢「きゃ……!?」


だけど、カイリューは翼を振るって“ぼうふう”を起こし、周囲の花を吹き飛ばす。

吹き飛ばされたお花は、すぐにUターンしてカイリューに向かっていくけど──巻き起こされる強風によって、一定距離までしか近付けない。


歩夢「なら……! “にほんばれ”!」
 「ラージェス」


フラージェスが“すなあらし”をかき消すように天気を晴らし──同時に光の集束を始める。

ここ太陽の花畑は──いつでも太陽のエネルギーに満ちている場所だから、


歩夢「“ソーラービーム”!!」
 「ラーージェスッ!!!!!」


強力な“ソーラービーム”は、カイリューの“ぼうふう”を突き破って、


 「リュゥゥーーーッ!!!」
145 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:11:03.41 ID:8ywSMszf0

カイリューのお腹に直撃し、“ぼうふう”を中断させる。

風による妨害を受けなくなったお花たちは、再びカイリューに向かって押し寄せる。

四方八方から押し寄せるお花たちがカイリューを捉えようとした瞬間──


ランジュ「カイリュー!! “しんそく”!!」
 「リューーッ!!!」


お花たちの切れ目を、カイリューが弾丸のように飛び出してきた。


歩夢「……!?」


咄嗟のことに対応しきれず──目にも止まらぬ勢いで、カイリューがフラージェスを突き飛ばす。


 「ラーージェスッ…!!!?」


さらに突き飛ばされたフラージェスに向かって──


ランジュ「“ギガインパクト”!!」
 「リューーーーッ!!!!!」


追撃の大技。この位置じゃ、もうお花たちの防御も間に合わない。

猛スピードで突っ込んでくるカイリューに向かって、


歩夢「……っ……! “マジカルシャイン”!!」
 「ラーーージェスッ!!!!」


フラージェスが激しく閃光する。


 「リュゥゥゥゥッ…!!!!」


フェアリータイプの閃光。カイリューには効果は抜群だけど──


 「リュゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


カイリューはその光を突き抜け、


 「リュゥゥゥゥゥッ!!!!!」
 「ラーージェスッ…!!!!」


フラージェスにぶつかるのと同時に──“ギガインパクト”のエネルギーが大爆発を起こした。


歩夢「フラージェス……!!」
 「──ラー…ジェス…」


爆炎の中から、フラージェスが吹き飛ばされてきて──花畑の上に力なく落下する。

だけど──


 「リュゥ…!!!」


“ギガインパクト”の反動で動けなくなったカイリューに向かって──仇を撃つように、お花たちが押し寄せ、


 「リュウ…ッ!!!」


カイリューを押しつぶした。

ここまでの戦闘でのダメージの蓄積に加えて、激しい“はなふぶき”に曝されたカイリューは、
146 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:12:26.90 ID:8ywSMszf0

 「リュウ…」


戦闘不能になり──フラージェス同様、花畑の上に落下したのだった。


歩夢「フラージェス……! 戻って……!」
 「ラージェス…──」

ランジュ「カイリュー、お疲れ様」
 「リュゥ…──」


お互いポケモンをボールに戻す。

──相討ちだ。

だけど……。


ランジュ「まさか、“じゃくてんほけん”で能力を上げたカイリューを倒されるとは思わなかったけど……これで2対1ね」

歩夢「……」


追いつめられてしまった。

やっぱり……私じゃ……勝てないのかな……。

思わず弱気になってしまうけど──


侑「歩夢ーー!! 頑張れーー!!」

栞子「歩夢さん!! 頑張ってください……!!」

せつ菜「歩夢さんっ! まだ全然、逆転のチャンスはありますよっ!」


背中に3人の応援の言葉を受けて、私はふるふると頭を振る。

弱気になっちゃダメ……! 侑ちゃんにバトンを繋ぐって、決めたんだから……!

最後まで諦めない……!


歩夢「……行くよ!! エースバーン!!」
 「──バーースッ!!!!」

ランジュ「最後はエースバーンね。それじゃ、出てきなさい──ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!!」


ランジュちゃんの最後のポケモンは、はどうポケモン、ルカリオ。

ルカリオがフィールドに繰り出されると同時に──


歩夢「……?」


──変な感じがした。

どう変かが説明出来ない……ただ、変な感じがしたとしか。


歩夢「…………? 今の……何……?」


違和感の正体がわからず、思わずキョロキョロしてしまう。そんな私を見て、


ランジュ「? ……どうかしたの? 何か問題があったのかしら?」


ランジュちゃんがアクシデントと思ったのか、そう訊ねてくる。


歩夢「あ……いや……大丈夫……!」

ランジュ「そう? じゃあ、続けるわよ!」

歩夢「うん、ごめんね!」
147 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:13:11.20 ID:8ywSMszf0

変な感じは続いているけど……バトルを中断するほどじゃないと判断して、ランジュちゃんの言葉に頷く。


ランジュ「それじゃ、行くわよ! メガシンカ!!」
 「グゥォ…!!」

歩夢「……! やっぱり、メガシンカ……!」


眩い光に包まれ──ルカリオがメガルカリオへと姿を変える。

その瞬間──つま先から頭のてっぺんまでを、何かが走り抜けた。


歩夢「……ッ……!?」


身体がビクッと緊張し、全身の毛が一瞬で逆立つ。

気付けば、心臓がドクンドクンと脈打っていることに気付く。

──なに……? これ……?

酷い違和感が全身を襲ってくる。だけど──


ランジュ「ルカリオ!! “はどうだん”!!」
 「グゥォッ!!!!!」


大丈夫と言った手前、ランジュちゃんは待ってなんかくれない。

頭をぶんぶん振って、変な感覚を極力気にしないようにしながら、エースバーンに指示を出す。


歩夢「“かえんボール”!!」
 「バーーースッ!!!!」


エースバーンが拾い上げた小石を発火させながら、火球として蹴り飛ばす。

“かえんボール”と“はどうだん”が空中でぶつかり合い、爆発してエネルギーを散らせる。

その間も──


歩夢「……っ」


違和感は大きなっていく。

具体的に何がおかしいのかがわからないのが、酷く気持ち悪い。

でも、


歩夢「戦いに……集中、しなきゃ……」


この戦いは……負けるわけにいかないんだから……。


 「バーースッ…!!?」
歩夢「……!?」


エースバーンの鳴き声でハッとなって顔を上げる。

すると、エースバーンは仰向けで、メガルカリオが作り出した骨の形をした波導の塊で、押さえつけらているところだった。


ランジュ「そのまま決めなさい!! “ボーンラッシュ”!!」
 「グゥォッ!!!!」


メガルカリオが、倒れているエースバーンに、骨による追撃を食らわせようと、振りかぶった瞬間、


歩夢「“ローキック”……!!」
 「バーーースッ!!!」


エースバーンがメガルカリオに脚を引っかけて転ばせようとするが、
148 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:14:49.60 ID:8ywSMszf0

 「グゥオッ…!!!」


メガルカリオは咄嗟に、骨を杖のように突いて、転ばないように堪え──


ランジュ「“メガトンキック”!!」
 「グゥォッ!!!!!」

 「バァーースッ…!!!?」


咄嗟に攻撃手段を変えて、エースバーンを蹴り飛ばす。


歩夢「エースバーン……!?」
 「バ、バーースッ…!!」


エースバーンは受け身を取ってすぐに起き上がるけど──このままじゃ、いけない……。

指示に集中したいのに──全身を走る違和感で、集中出来ない。

そのとき──


侑「──歩夢ーーー!! 頑張れーーー!!」


侑ちゃんの声が──響いた。

それは本当に文字通り──頭の中に、直接、ぐわんぐわんと響いていた。

聞こえ方がおかしかった。

でも──止まっちゃ……ダメ……。

負けたくない……。みんなのために──負けたくない……!

そう、強く、思った、瞬間──世界の色が、変わった。





    🎀    🎀    🎀





世界が青白く光っていた。


ランジュ「ルーカーリーオー、“イーンーファーイートー”!」


何故か、ランジュちゃんがゆっくり喋っている。

そして──


 「グーゥーォーッ」


メガルカリオがどこに攻撃しようとしているのかが──何故か、理解出来た。

ゆっくりと肉薄してきたメガルカリオが、エースバーンに向かって、両手両足を使った乱打を仕掛けてくる。

けど──


 「バース」


頭で、メガルカリオが攻撃しようとしている場所を思い描くと──エースバーンはそれをヒョイヒョイと回避する。


ランジュ「什ー么ー……!?」


そして、頭の中で──今のタイミングなら、“ブレイズキック”が出来そう……と思うと、
149 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:16:00.23 ID:8ywSMszf0

 「バーースッ」


エースバーンがメガルカリオの下段蹴りを小ジャンプで回避しながら身を捻り──“ブレイズキック”をメガルカリオの頭部に叩きこむ。


 「グーゥーォーッ…!!!?」


メガルカリオはゆっくり吹き飛びながらも、受け身を取って起き上がる。


ランジュ「きゅーうーにーつーよーくーなーっーたー……!?」


何が起きているんだろう。

私がおかしくなったのか、周りがおかしくなったのか、わからない。

何もわからないけど──何故だか……今の私は、負ける気がしなかった。





    🎹    🎹    🎹





侑「な、なにが起こってるの……?」
 「ブイ…」

せつ菜「わ、わかりません……」


歩夢の様子が目に見えておかしかった。

だらんと両腕が下がり、なんだか脱力しながら立っている様子だ。

そして、全くエースバーンに指示を出さなくなってしまった。

……なのに、エースバーンの動きが急に良くなり──いや、良くなったなんてレベルじゃない。メガルカリオの至近距離からの猛ラッシュを全て躱して、反撃をするという神業をして見せた。

何かわからないけど……何かが、起こっている。


侑「そ、そうだ! リナちゃんなら、何が起こってるかわかるんじゃ……!」


そう思ってリナちゃんに訊ねるも──


リナ『……ごめん。全くわからない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


リナちゃんですら何が起きているか理解出来ていなかった。

でも、そんな中、


栞子「……歩夢さんが……波導に同調している……?」


栞子ちゃんがそんなことを呟いた。


侑「波導に……同調……? どういうこと……?」

栞子「……歩夢さんは、ポケモンに対する感応性が異常に強い人です……。……もしかしたら──メガルカリオが持つ強い波導のエネルギーに中てられているんじゃ……」

せつ菜「……えっと……?」


せつ菜ちゃんは栞子ちゃんの説明に首を傾げるけど──私は歩夢をずっと見てきたからか、なんとなく……感覚的にだけど……わかるような気がした。
150 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:16:30.04 ID:8ywSMszf0

侑「……ルカリオの波導を読み取る力に、歩夢が影響されちゃってる……ってこと?」

栞子「はい……恐らくは」

リナ『つまり……ルカリオが波導から読み取ってる情報を、歩夢さんが読み取ってる……』 || ╹ᇫ╹ ||

栞子「波導によって読み取れる情報は……普通の五感情報とは一線を画すものです……。今の歩夢さんには、世界がスローモーションに見えていて……それを第三者が見れば、さながら未来予知のように見えてもおかしくありません」

せつ菜「で、ですが……それを歩夢さんが出来たとしても、エースバーンまで相手の攻撃を予知しているのはおかしくないですか……?」

栞子「……稀に強い信頼で結ばれた人とポケモンは、言葉を交わさなくても、お互いの考えていることがわかると言います……歩夢さんもエースバーンも一種の過集中状態なのかもしれません。波導を介して繋がっているというのもあるのかもしれませんが……」

せつ菜「……ゾーンのようなものですか。……私もバトルの最中に極限まで集中すると、最低限の指示でポケモンに意図が伝わるという経験はしたことがありますが……」

リナ『それのさらにすごい版かもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「つまり……ピンチに秘めたる力が覚醒したということですよね……!! すごいです、歩夢さん!!」


せつ菜ちゃんはそう言って目を輝かせる。

でも、栞子ちゃんはせっかく形勢が逆転しそうなのに、浮かない顔をしていた。


侑「栞子ちゃん……?」

栞子「……確かに、今の状況はバトルを好転させ得るものかもしれません。……ですが……人には本来読み取れない情報を読み取り続けるのは……歩夢さんに大きな負担が掛かるはずです」

侑「……」


ただ、バトル中である以上、私たちには手出しが出来ない。


侑「歩夢……」
 「イブィ…」





    🎀    🎀    🎀





ランジュ「“はーどー──」


“はどうだん”が来るのがわかった時点で──


 「バーース」


エースバーンが“かえんボール”を蹴り出す。

ゆっくりと飛ぶ火球は──ちょうどメガルカリオが“はどうだん”の集束を始めたところに突き刺さり、


 「グーゥーォーッ…!!!」


メガルカリオを吹っ飛ばした。

さらに、もう一発──


 「バーースッ」
151 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:17:23.86 ID:8ywSMszf0

エースバーンが“かえんボール”を用意する。

吹き飛ばされながらも、受け身を取って立ち上がるメガルカリオ。

そのメガルカリオの体には──波導が巡っているのがわかる。

そしてのその全身を巡る波導にも、強い部分と弱い部分がある。

手足や頭、お腹にはたくさんの波導が集中している反面──他の部位の波導は弱い。

そこが、メガルカリオの急所。

何故だか確信が持てた。


 「バーーースッ!!!」


エースバーンが蹴り出した火球は──


 「グーゥー…ォー…」


メガルカリオの急所──みぞおちの辺りに、突き刺さり……メガルカリオは花畑の上を転がりながら、戦闘不能になった。





    🔔    🔔    🔔





──何が起きているのか理解出来なかった。

さっきまで、こっちが優勢だったはずなのに、気付けば圧倒されていた。


ランジュ「何よ……なんなのよ……これ……」


一方で、歩夢は──


歩夢「…………」


さっきから、ぼんやりと脱力した状態で立ち尽くしているだけ。

まるでポケモンに指示も出していないのに、エースバーンが未来予知でもしているかのような動きで、ルカリオを圧倒してしまった。


ランジュ「……ルカリオ……戻って……」


だけど、まだこっちにだって勝機はある。

カバルドンなら、ほのおタイプのエースバーンと、相性は悪くない。


ランジュ「負けるもんですか……!!」


ランジュは、最後の手持ちを繰り出す──



152 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:19:23.81 ID:8ywSMszf0

    🎀    🎀    🎀





──カバルドンが出てきた。


 「バールードーンー…」


“じしん”をしてきそうだなと思った。


 「バース」


直後、エースバーンが“とびはねる”で攻撃を回避する。


ランジュ「…………!」


ランジュちゃんが驚いた顔をした。

気付けば、地面が揺れていた。

だけど、私は揺れる地面の動きが何故だか理解出来て、全然転ぶ気がしなかった。

まるで、大地に杭のように刺さっているかのように、地面の揺れに合わせて自分もゆらゆら揺れるだけ。


 「バーースッ!!!」


“とびはねる”で宙に浮いたエースバーンは──予め拾っておいた小石に炎を宿しながら、“かえんボール”として、真下にいるカバルドンに向かって蹴り出す。


 「バールードーンー…」


カバルドンの眉間に、“かえんボール”が直撃し、よろけさせる。

そして──落下の速度を乗せた、エースバーンが、


 「バーーースッ!!!!」


“とびひざげり”をカバルドンの脳天に炸裂させたのだった。


 「バールー……ドーンー……」


ゆっくりと崩れ落ちるカバルドン。


ランジュ「………………」


ランジュちゃんは何故だか絶句していた。

──あ。そっか。

気付けば……ランジュちゃんのポケモンは、みんな戦闘不能になっていた。

私……勝ったんだ。

なんだか頭がふわふわとしていて、実感が湧かないけど……ちゃんと勝てたことに安堵した──途端、


歩夢「………………ッ……!?」


周囲の環境音が爆音のように大きくなって聞こえてきた。

私の頭の中に、風の音が、花が揺れる音が、あちこちにいるポケモンたちの鳴き声が、ありとあらゆる周りの音が、無理やり頭の中に詰め込まれるような感覚と共に──私は目の前が真っ白になった。



153 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:20:58.78 ID:8ywSMszf0

    🎹    🎹    🎹





──戦いが終わると同時に、


侑「……あゆ、む……?」


歩夢は──パタリと花畑の上に倒れてしまった。


侑「……歩夢ッ!?」
 「ブイ…!!!」


私は血の気が引いて、考えるよりも先に走り出していた。

歩夢に駆け寄り、歩夢を抱き起こす。


侑「歩夢しっかりして!! 歩夢!!」
 「イブィ!!!」

歩夢「………………」
 「シャボ…」


声を掛けても目を覚まさない。バトルの間、ずっと大人しかったサスケも、心配にそうに歩夢の頬をチロチロと舐めている。


侑「歩夢……!! 歩夢ッ……!!」

せつ菜「侑さん……! 落ち着いてください……!」


気付けば、せつ菜ちゃんも追い付いてきて、歩夢を抱きかかえる私のすぐ傍にしゃがみこみ、歩夢の首筋に手を当てる。


栞子「侑さん……! せつ菜さん……! 歩夢さんは……!」

せつ菜「……脈は正常だと思います」

リナ『バイタルもひととおりチェックした。……たぶん、気を失ってるだけ』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんとせつ菜ちゃんの言葉を聞いて──


侑「……よかった……」


力が抜けてしまう。

一方で、


ランジュ「何よ……一体、何がどうなってるのよ……」


ランジュちゃんが信じられないものを見るような目で、歩夢を見ていた。


ランジュ「ランジュ……負けたの……?」

栞子「……はい。ランジュ……今回は貴方の負けです」

ランジュ「…………」

ミア「Oh my gosh...」

ランジュ「…………ッ」


ランジュちゃんは悔しそうに、拳を握りしめていたけど──


ランジュ「…………2勝……2敗……。……でも……最後には、絶対にランジュが……勝つんだから……」
154 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:22:04.74 ID:8ywSMszf0

絞り出すようにそう言い、踵を返して、太陽の花畑から去っていったのだった……。





    🎹    🎹    🎹





──ツシマ研究所。その一室。


侑「……歩夢……」
 「ブイ…」

歩夢「…………」
 「シャボ…」


もうすっかり日も落ちて……。

薄暗い部屋の中でベッドに横になっている歩夢は……静かに胸が上下しているので、眠っているだけなのはわかるけど……。


善子「……ひととおり診たけど……身体に異常はない。今はたぶん疲れて眠ってるだけだから、明日になったら目を覚ますと思うわ」

侑「…………」

善子「心配なのはわかるから、やめろとは言わないけど……ほどほどにね。侑が倒れたら、一番悲しむのは歩夢なんだから」

侑「はい……」


ヨハネ博士はそう残して部屋を出て行く。


歩夢「…………」

侑「歩夢……」


何気なく、歩夢の手を握ると──無意識だろうけど、弱い力で握り返してくる。


侑「歩夢のお陰で2勝2敗だよ。ありがとう」

歩夢「…………ゅ、ぅ…………ちゃ…………」

侑「…………歩夢?」

歩夢「…………すぅ…………すぅ…………」

侑「……うん。……今はゆっくり、休んでね……」


私は眠る歩夢の髪を、優しく撫でつけるのだった……。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「──あ、ヨハネ博士……!」

善子「菜々……」


私は歩夢さんが休んでいる部屋から出てきた博士に声を掛ける。


せつ菜「あの……歩夢さんは……」

善子「今は疲れて眠ってるだけよ。すぐよくなるわ」

せつ菜「よかった……」
155 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:23:16.82 ID:8ywSMszf0

リナさんのチェックでも、問題はないと言っていたけど……ある程度、医学の心得のあるヨハネ博士に言ってもらえると、安心感が増す。


善子「なんなら……中に入って顔でも見てきたら?」

せつ菜「いえ……今は侑さんと二人にしてあげた方がいいかなと思って……」

善子「ん……そっか」


きっと一番心配しているのは侑さんでしょうし……。

あまり部屋の前でうるさくしてもいけないので、ヨハネ博士と一緒に1階へと向かう。


せつ菜「あの……ヨハネ博士」

善子「なに?」

せつ菜「歩夢さんの力というのは……一体なんなんでしょうか……?」


彼女がポケモンに対して特別な力を持っていることは、なんとなく知っていたけど……今日改めて、その力のすごさを目の当たりにしてしまったというか……。


善子「……何と一言で言うのは少し難しいけど……。……私は超共感性やシナスタジアの一種だとは思ってる」

せつ菜「シナスタジア……共感覚でしたっけ」

善子「ええ。歩夢には、ポケモンが発する鳴き声やエネルギーを、別の感覚に変換して見たり、聞いたりすることが出来るんだと思うわ」

せつ菜「本当に……そんなことが出来るものなんですか?」

善子「実際のところは本人にしかわからないけど……。ただ、歴史上にポケモンと意思疎通を図ることが出来た人間は数多く存在してる。それこそ、栞子のような人とポケモンとの仲介役を担う巫女は、そういう力を有してると言われてる」

せつ菜「……なるほど」


だから、栞子さんは歩夢さんの身に起こっていることに、いち早く気付いたのかもしれない。

ヨハネ博士と話しながら1階へ降りてくると──


かすみ「あ、せつ菜先輩……! ヨハ子博士……! 歩夢先輩は……!」


かすみさんがパタパタと駆けよってくる。


せつ菜「今は疲れて眠っているだけだそうですよ」

かすみ「ほ……よかったですぅ……」


安心するかすみさんの後ろで、しずくさんが──『気を失った歩夢さんを見たときは、肝が冷えました……』と筆談で伝えてくる。

しずくさんは喉の調子が戻りつつあるようですが、今は極力喉を休めるために筆談で会話をしているそうです。


リナ『しずくちゃんもリナちゃんボードを使ってるみたいだね』 || > ◡ < ||


──『じゃあ、しずちゃんボードだね♪』

なんておどけている辺り、しずくさんの方は順調に回復しているようだ。

とりあえず……。


せつ菜「これで2勝2敗……しずくさんと歩夢さんが、私たちの負けを取り返してくれました」

かすみ「はい……! あとは侑先輩が勝つだけです!」
156 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:23:49.96 ID:8ywSMszf0

序盤から大ピンチだった五番勝負は、どうにかイーブンまで巻き返し──最終戦まで、もつれ込むことになった。

あとは最後に残った侑さんの試合。侑さんは大一番での勝負強さがある。

最後を任せるに相応しいと思います。

そのとき、


栞子「……あの、皆さん……。……お願いがあるんです」


先ほどまで、黙って座っていた栞子さんが、口を開く。


せつ菜「栞子さん? なんでしょうか」

栞子「……最終戦のことなんですが……」

かすみ「最終戦は侑先輩に任せておけば大丈夫だよ! 侑先輩、すっごく強いから!」

栞子「いえ……最終戦は……私に戦わせてくれませんか」

かすみ「……へ?」


なんと栞子さんは──最後の戦いを自分にやらせて欲しいと、口にするのだった。



157 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:24:24.58 ID:8ywSMszf0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
158 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/17(火) 12:25:18.89 ID:8ywSMszf0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:281匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.69 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.65 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.65 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:260匹 捕まえた数:24匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:301匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.69 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.69 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.69 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:282匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:51匹

 主人公 栞子
 手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
      ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
      ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
      マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



159 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 10:50:06.11 ID:1Gm0czzm0

 ■Intermission🔔



ランジュ「……次の反応は……北西……。……しかも、そんなに離れてないわね……」


北西を見ると──高い丘が見える。

何度か“そらをとぶ”で移動しているときに、高い丘の上に湖があるのを見た覚えがある。

恐らく次の龍脈はあそこなのだろう。


ミア「……ランジュ」

ランジュ「……何かしら」

ミア「……2連敗だぞ。わかってるのか?」

ランジュ「…………わかってる」

ミア「……まさか、これ以上負けるなんてこと……ないよな?」


ミアが苛立ちを隠さずに言葉をぶつけてくる。


ランジュ「……ありえないわ」


しずくも歩夢も……ポケモンバトルの常識とは逸脱した戦い方だったから、油断してしまったけど……もう負けるつもりなんてない。


ミア「なら、結果で示してくれよ」

ランジュ「ええ、わかってるわ」


こんなところで……負けるわけにはいかない。

そうじゃないと──栞子のこと……救ってあげられないから……。


………………
…………
……
🔔

160 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:49:46.96 ID:1Gm0czzm0

■ChapterΔ008 『最終戦』 【SIDE Yu】





──近くで人の気配がする。


侑「…………ん……ぅ…………」


ゆっくりと目を開けると──


歩夢「……あ……ごめんね、起こしちゃった……?」

侑「……歩夢……」


歩夢が、ずり落ちそうになっていた毛布を、私に掛けようとしているところだった。


侑「………………歩夢……っ!?」

歩夢「きゃっ!?」


私は今しがた寝ていたソファから跳ね起き、歩夢の両肩に手を置く。


侑「歩夢、平気なの……!? 痛いところとかない……!?」

歩夢「うん、大丈夫だよ」


歩夢はそう言いながら、いつもの笑顔でニコっと笑う。

私が騒がしかったのか──


 「…ブイ…?」


ソファで一緒に寝ていたイーブイも目を覚まし、


 「…ブイ!!!」


歩夢が起きているのを見ると、イーブイは歩夢に向かって飛び付いた。


歩夢「ふふ、イーブイ、おはよう♪」
 「ブイ♪」

侑「ホントに元気そうで、安心した……」


今の様子を見る限り、本当にいつもどおりの歩夢だ。心配そうに歩夢の枕元で見守っていたサスケも、今はいつもどおり歩夢の首に掛かりながら、眠っている。

ただ、歩夢はイーブイを撫でながら、少し不安そうな顔になって、


歩夢「えっと……その……私、気付いたらここで寝てたんだけど……ランジュちゃんとのバトルはどうなったの……?」


そう訊ねてくる。


侑「もしかして、覚えてないの……?」

歩夢「ランジュちゃんとバトルしてたら……ルカリオが出てきて、その子がメガシンカして……。……そこくらいから、記憶が曖昧で……」

侑「…………」


やっぱり、栞子ちゃんの言うとおり、あの状態は歩夢に強い負荷を掛けていたのかもしれない……。
161 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:50:30.30 ID:1Gm0czzm0

歩夢「侑ちゃん……?」

侑「えっとね……ルカリオの波導が逆に流れ込んで来ちゃって、オーバーヒートしちゃった……って言うのかな……」

歩夢「オーバー……ヒート……」


歩夢は私の言葉に少し難しそうな顔をしていたけど、


歩夢「……そっか……あれは……オーバーヒート……」


自分の中の朧気な記憶と、私の説明を照らし合わせて、納得出来たのか、最終的に呟きながら小さく頷いていた。

そして、


歩夢「……それじゃ……私……負けちゃったんだね……」


そう言いながら、シュンとする。


侑「違うよ」

歩夢「え?」

侑「試合は……歩夢の勝ちだよ」

歩夢「え……」


歩夢は驚いたように目を見開く。


歩夢「ホント……?」

侑「うん。夢中だったから覚えてないかもしれないけど……歩夢がランジュちゃんのポケモンを倒しきって、副将戦は歩夢が勝ったんだよ」

歩夢「そ、そっか……」


歩夢は身に覚えのない勝利に戸惑っている様子だったけど、


侑「歩夢……ありがとう」


私がお礼を言いながら、歩夢をぎゅっと抱きしめると、


歩夢「侑ちゃん……は、恥ずかしいよ……。……でも、みんなの役に立てたなら……嬉しい……えへへ……」


そう言ってはにかむのだった。

しばらく、ぎゅーっとしていると──くぅぅぅ〜……と可愛らしい音が聞こえてくる。


歩夢「……///」


歩夢のお腹の音だった。


侑「そういえば……昨日から何も食べてないんだもんね。朝ごはんにしよっか」

歩夢「うん……///」


歩夢の手を引いて、部屋から出ようとしたそのとき──コンコン。控えめにドアがノックされる。

そして、ドアの向こうから、


栞子『……侑さん、今大丈夫でしょうか……?』


栞子ちゃんの声が聞こえてきた。


歩夢「栞子ちゃん……?」
162 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:51:06.91 ID:1Gm0czzm0

歩夢がドアを開けると、


栞子「……! 歩夢さん、目を覚まされたんですね……! よかった……」


栞子ちゃんは歩夢の姿を見て、ホッと安堵の息を漏らす。


歩夢「心配掛けちゃってごめんね……」

栞子「いえ……ご無事なら何よりです」

侑「それで……どうかしたの?」

栞子「あ、はい。……実は、侑さんにご相談がありまして……」

侑「相談……?」





    🎹    🎹    🎹





侑「──最終戦を栞子ちゃんが……?」

栞子「……はい」


栞子ちゃんから打診されたのは──ランジュちゃんとの五番勝負、その最終戦を自分に戦わせてくれないかというお願いだった。


栞子「最後になって……こんなことをお願いするのは不躾だというのは理解していますが……」

侑「それは構わないけど……どうして急に……?」


ここまで見てきた感じだと……栞子ちゃんは積極的にバトルをしたがる性格ではないし、純粋に疑問だった。


栞子「……皆さんの戦う姿を見ていて……思ったんです。……見ず知らずの私のために……皆さん、あんなに必死に戦ってくれて……。……歩夢さんやしずくさんに至っては、倒れるまで……。……それなのに、私だけが何もしないで見ているだけでいいのかと……」

歩夢「そんなに気負わなくてもいいんだよ……! せつ菜ちゃんも言ってたけど、困ったときはお互い様だよ! 栞子ちゃんは今までずっと一人で地方を守ってくれてたんだし……!」

栞子「いえ……元はと言えば……私とランジュの問題なんです……。本来は、私がランジュを止めなくてはいけなかったのに……」


栞子ちゃんなりに……戦う私たちを見て、ずっと責任を感じていたのかもしれない。


栞子「それに……皆さんの戦う姿を見ていて……私も勇気を貰ったんです。勝てないなんて最初から決めつけず、最後まで諦めずに戦う……私もそんな強さが欲しいと……」

歩夢「栞子ちゃん……」

侑「……わかった。そういうことなら、最終戦──大将は栞子ちゃんにお願いしていい?」

栞子「……! はい!」


栞子ちゃんは私の言葉を聞くと、パァァっと表情が明るくなる。


栞子「それでは、皆さんにもそう報告してきます……!」

侑「うん、お願いね」


栞子ちゃんは一度恭しく私に頭を下げたあと、部屋を出て、下の階へと下りていく。


歩夢「侑ちゃん……いいの?」


歩夢の問い。恐らく、栞子ちゃんはそこまでバトル慣れしていなさそうだし……私が戦った方が勝率は高いと思う。

そういう意味での、「いいの?」という問い。
163 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:53:04.39 ID:1Gm0czzm0

侑「栞子ちゃんも言ってたけど……根本的には栞子ちゃんとランジュちゃんの問題だし……それに私たちが首を突っ込んでるだけだからさ。栞子ちゃんが自分で解決したいって言うんなら、その方がいいと思って」

歩夢「……確かに、そうかも……」

侑「きっと、栞子ちゃんも悩んで決めたことだと思うし……。……それなら、私は栞子ちゃんの選択を信じてあげたいなって」

歩夢「侑ちゃん……。……わかった。侑ちゃんがそう言うなら、私も賛成」

侑「ありがと、歩夢♪」





    👑    👑    👑





かすみ「むむむー……」

リナ『かすみちゃん、どうしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||


難しい顔をして唸ってるかすみん(まあ、そんな顔をしててもかすみんはとびきりキュートなんですけど)を見て、リナ子が話しかけてくる。


かすみ「最終戦……ホントにしお子に任せちゃっていいのかなって……」

リナ『侑さんがいいって言った以上、その判断に従うべきだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「それは……そうだけど……」

しずく「……」


かすみんの隣に座っていたしず子が、筆談用のノートにペンを走らせる。

──『かすみさんも反対しなかったでしょ?』


かすみ「そ、そうだけどぉ……」


確かにかすみんも、しお子が自分で戦いたいって言ってるのに、ダメ! なんて言いたくないけど……。


かすみ「ただ……いろいろ考えちゃって……」

リナ『いろいろって?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「……ランジュ先輩……強いから、しお子よりもきっと侑先輩の方が勝てる可能性は高いだろうし……。それに……」


言いながら、しず子に視線を向ける。


しずく「?」

かすみ「……しず子がこんなになるまで頑張ったのに……この判断で負けちゃったら……」

しずく「……」


しず子は椅子から立ち上がって──かすみんの頭をナデナデし始める。


しずく「……私、たちの……戦いを見て……栞子さんが、勇気を出せたなら……私は……それで、いいの……けほ……」

かすみ「しず子……」


掠れた声でしず子は言う。

やっぱりまだ喋りづらかったのか、再び筆談ノートを手に取って──『それに、私はちょっと声が枯れちゃっただけだから、そんなに大袈裟なことじゃないよ』──なんてことを書く。

続けて──『あとは栞子さんを信じてあげよう?』……と。


かすみ「……うん」
164 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:54:08.54 ID:1Gm0czzm0

もちろん、かすみんもいじわるしたくてこんなことを言ってるわけじゃない。


かすみ「……わかった。しず子がそう言うなら、かすみんも全力でしお子のこと応援する」

しずく「♪」


かすみんの言葉を聞いて、しず子はニッコリと笑うのだった。





    🎙    🎙    🎙





善子「それにしても意外だったわ」


研究のお手伝いで、飼育されているポケモンたちに餌をあげていると、博士は私に向かって急にそんなことを言う。


せつ菜「意外? なんのことですか?」

善子「菜々は、勝負には拘るタイプだと思ったから」

せつ菜「……ああ、その話ですか」

善子「即決で栞子が戦うことに賛成したから、ちょっと意外だった」

せつ菜「……そうですね。前の私だったら……きっと難色を示していたと思います」


前の私だったら……確実に勝てる人選を優先したと思う。

私は勝つことでしか自分を証明出来ないと思い込んでいたし……例え草試合でも、とにかく勝つことを意識していた。


せつ菜「ただ……あのとき、千歌さんと全力でぶつかりあって……気付いたんです。本当に大事なことは、勝ち負けだけじゃないのかなって……」


もちろん、勝負である以上、勝利出来るに越したことはない。

だけど……じゃあ、勝てればなんでもいいというわけじゃない。


せつ菜「その戦いに……どう臨んだかとか、それで何を得られるのかとか……。そういうことの方が大事なのかなって……。……栞子さんとランジュさんは幼馴染だと言っていました。きっと、二人がちゃんとぶつかり合うことには、意味があると思うんです」

善子「……なるほどね」


ヨハネ博士はうんうんと頷きながら、私の頭をポンポンと撫でる。


善子「成長したわね。菜々」

せつ菜「えへへ……ヨハネ博士に褒められると、嬉しいです」

善子「これで、菜々が自分の試合で勝ってれば、もっとかっこよかったんだけどね」

せつ菜「え、あ、いや……それは、その……」

善子「ふふ、冗談よ」

せつ菜「い、いじわるなこと言わないでください……」

善子「ふふ、ごめんなさい」


ヨハネ博士はクスクスと笑う。


善子「ただ……栞子が負けたときはどうするの? 五番勝負はレックウザの捕獲の権利を賭けてるんでしょ?」

せつ菜「そのときはそのときです! また何か別の解決策を考えます! だから今は、栞子さんが全力で戦えるよう、応援するのみです!」

善子「……ふふ、愚問だったわね。じゃあ、全力で栞子のこと、サポートしなくちゃね」

せつ菜「はい! お任せください!」
165 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:54:58.92 ID:1Gm0czzm0

こうして私たちの大将戦は──栞子さんに託されることとなった。





    🎹    🎹    🎹





──セキレイシティを発ってから、数十分ほど。

すぐに次の龍脈の地が見えてきた。


侑「見えてきたね──クリスタルレイク」
 「ブイ」

歩夢「栞子ちゃん、反応は?」

栞子「はい。確実に強くなっています」

せつ菜「間違いなさそうですね! 降りましょう!」

かすみ「アーマーガア、降りてくれる?」
 「ガァーー」


全員でクリスタルレイクへと降り立つ。


栞子「反応は……強くなっているんですが……」

歩夢「方向はあってそうだけど……」


確かに“もえぎいろのたま”はクリスタルレイクに近付くほど強くなるけど……今まで見た龍脈での反応に比べると少し弱く感じる。

となると……。


せつ菜「あとは……高さでしょうか」


──『なら、クリスタルケイヴではないでしょうか』と、しずくちゃん。


侑「うん。水晶の大水槽だと思う」

歩夢「となると……下に降りないとだね」


歩夢がキョロキョロと辺りを見回すと──


歩夢「あっ、あそこに縦穴があるよ!」


すぐにイワークが作ったであろう、大きな穴を見付ける。


リナ『ちょっとエコーロケーションしてくるね』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんがそう言って穴に向かって浮遊し始めると、


 「──ウニャァ〜」


ボールからニャスパーが飛び出して、リナちゃんの背面に引っ付いて一緒に飛んでいく。

恐らくニャスパーの“チャームボイス”を使ってエコーロケーションを行う為だろう。

リナちゃんたちが縦穴に向かっていくのを見ながら、かすみちゃんが口を開く。
166 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:55:36.29 ID:1Gm0czzm0

かすみ「それにしても歩夢先輩……すぐに見つけちゃいましたね」

歩夢「前に侑ちゃんが、この辺りの縦穴に落ちちゃったことがあって……」

侑「あはは……あったね……そんなこと……」


クリスタルケイヴまで繋がる縦穴はかなり長かったし、下にキノコがなかったら、私も無事では済まなかったと思う……。

そんな話をしていると、


リナ『うん。ここからなら、大水晶のある部屋に繋がってると思う』 || > ◡ < ||
 「ウニャァ〜」


リナちゃんたちから、報告が入る。


せつ菜「それでは、降りてみましょう! ウーラオス!」
 「──ラオス!!」

かすみ「ジュカイン!」
 「──カインッ」

歩夢「ウツロイド、お願い」
 「──ジェルルップ…」

侑「ドラパルト、出てきて」
 「──パルト」


大きな縦穴と言っても、羽ばたいて降りるのは危ないので、身のこなしの軽いポケモンや、ゆっくり下降の出来るポケモンたちを出す。


せつ菜「かすみさん、お先にどうぞ!」

かすみ「それじゃ、お言葉に甘えて……しず子、乗って」
 「カイン」

しずく「……」


しずくちゃんがコクリと頷きながら、二人でジュカインの尻尾に腰かけ、ジュカインが壁伝いに穴を降りていく。

その後に続くように、せつ菜ちゃんが、ウーラオスの肩に乗り、


せつ菜「ウーラオス、お願いします」
 「ラオス」


壁伝いに降りていく。


侑「栞子ちゃんはドラパルトに一緒に乗ってね」

栞子「はい。お願いします」

歩夢「それじゃ、先に行くね」

侑「うん」

歩夢「ウツロイド、ゆっくり降りるよ」
 「──ジェルルップ」


歩夢がウツロイドを頭の上に乗せ──落下傘のようにゆっくりと下降を始める。

最後に私と栞子ちゃんがドラパルトの頭の上に乗って、ゆっくりと縦穴を降りていく──



167 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:56:25.74 ID:1Gm0czzm0

    🎹    🎹    🎹





滞りなく、縦穴の底にたどり着くと、例の如く白く光るキノコがたくさん敷き詰められていた。


侑「ネマシュたちは、イワークが作った穴を巣にするんだね」

かすみ「綺麗……ほわほわ……」

リナ『かすみちゃん、あんまり見てると眠くなっちゃうよ』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「周囲にネマシュもいますね」


せつ菜ちゃんの言うとおり、


 「ネマシュ…」「マシュ…」


ネマシュが洞窟の陰からこちらを見つめている。

前回は落ちたのが夜だったからネマシュたちは出払っていたけど、今はまだ日中だから洞窟内にいるのだろう。


侑「ライボルト、“エレキフィールド”」
 「──ライボ!!」


ボールからライボルトを出して、“エレキフィールド”を展開させる。

“エレキフィールド”の中でなら、眠ることがなくなるから、これで眠ってネマシュたちに襲われる心配もなくなる。


かすみ「なんか、ピリピリしてて、目が冴えてきました……!」


効果てき面のようだ。

ネマシュたちも眠らないのがわかってからは、横を通ってもじーっと見ているだけで、攻撃してくるような素振りはなかった。

そのまま、通路を進んでいくと──水晶の大水槽の大部屋に辿りつく。


栞子「……これは……。……すごいです……」


この光景は何度見ても圧倒される。……透明な水晶の先で、湖に差し込んできた太陽光がプリズムのように反射してキラキラと光っている光景は、神秘的で息を飲んでしまう。

そして、その七色の光の下に、


ランジュ「……遅かったわね」

ミア「……」


ランジュちゃんたちが居た。


ランジュ「さぁ、侑……白黒付けましょう」


私に向かって、そう促してくるけど──


栞子「いえ、ランジュ……。……今回戦うのは、私です」


栞子ちゃんが前に歩み出る。
168 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:57:28.87 ID:1Gm0czzm0

ランジュ「……え? ……ち、ちょっと待って……! 栞子、貴方は五番勝負のメンバーじゃないはずよ!」

栞子「はい。ですので、無理を言って代わってもらいました」

ランジュ「か、代わってもらったって……き、聞いてないわ! そんなこと……!」

栞子「確かに言ってないので……聞いてないとは思いますが……。……ですが、そもそも“もえぎいろのたま”を持っているのは私です。私が戦うメンバーになることに問題はないと思います」

ランジュ「でも、栞子……! 貴方は修行中、ランジュに一度だって勝ったことなんてなかったじゃない!」

栞子「それはむしろ、ランジュにとっては都合のいいことなのではないですか? それとも──私に負けるのが怖いんですか?」

ランジュ「な……! そんなわけないでしょ!! いいわ、この際相手が栞子でも、侑でも、どっちでも……!」

栞子「ありがとうございます」


栞子ちゃんは、ランジュちゃんの扱いがわかっているのか、説得して、フィールドに立つ。


ミア「ランジュ。ポケモン」

ランジュ「谢谢」


ランジュちゃんがミアちゃんからポケモンを受け取り、二人がフィールドで相対する。

そんな中で、栞子ちゃんは、


栞子「皆さん」


こちらを振り返り、私たち全員に順番に目配せをして、


栞子「頑張りますので……見ていてください!」


覚悟の言葉を口にした。


侑「うん! 頑張って、栞子ちゃん!」

せつ菜「栞子さんの気持ち、ランジュさんにぶつけてあげてください!」

──『栞子さん、応援してるね!』

かすみ「しお子! 任せたからね!」

リナ『栞子ちゃん、ファイト!!』 || > ◡ < ||

歩夢「栞子ちゃん、思いっきり戦って!」

栞子「はい!」


栞子ちゃんは私たちの言葉に頷き──フィールドに向き直り、


ランジュ「始めるわよ……!」

栞子「はい……!」


二人のトレーナーが、ボールを、放った──



169 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:58:07.73 ID:1Gm0czzm0

    🔖    🔖    🔖





栞子「ウインディ! お願いします!」
 「──ワォン」


私は灰色の体毛を身に纏った、ヒスイのすがたのウインディを繰り出す。

通常のウインディとは違って、体毛に火成岩の成分が含まれており、加えて岩で出来たツノを持っている、ほのお・いわタイプの姿です。

さらに頭には“ちからのハチマキ”を巻いて攻撃力を強化している。

対するランジュが繰り出したのは、


ランジュ「ギルガルド、行きなさい!」
 「──ガルド」


剣と盾の体に霊魂を宿したおうけんポケモン、ギルガルド。


栞子「ウインディ!! “かえんぐるま”!!」
 「ワォンッ」


ウインディが先制で炎を身に纏って、ギルガルドへ突進する。

──ガィンッ!! ウインディの硬い体毛と、ギルガルドの金属質の盾がぶつかり合い、硬い音を立てながら、弾き返される。

ノックバックしたウインディに、


ランジュ「“せいなるつるぎ”!!」
 「ガルド…!!!」

 「ワォンッ…!!!」


盾を除け、“ブレードフォルム”にチェンジした、ギルガルドの刃がウインディを斬り裂く。


栞子「怯まないでください……! “かえんほうしゃ”!!」
 「ワォンッ…!!」


ウインディはすぐさま口に炎を宿し、ギルガルドに向かって放射する。

ですが、


ランジュ「“キングシールド”!!」
 「ガルド」


再び、“シールドフォルム”に戻ったギルガルドは、自身の大きな盾で“かえんほうしゃ”を防いでしまう。


栞子「“キングシールド”には隙が出来ます……! もう一度!!」
 「ワォーンッ…!!!!」


連続で“かえんほうしゃ”による攻撃。隙の出来たギルガルドに今度こそ直撃させられたと思ったが、


ランジュ「戻りなさい、ギルガルド!!」
 「ガルド──」


ランジュは、冷静にギルガルドを控えに戻し、次のポケモンのボールを放る。

飛び出して、ギルガルドの代わりに“かえんほうしゃ”を受け止めるのは──


ランジュ「行きなさい、マリルリ!」
 「──マリ」
170 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 20:59:41.89 ID:1Gm0czzm0

みずうさぎポケモン、マリルリ。

“かえんほうしゃ”を真っ向から受け止めるマリルリの体に──みずのエネルギーが纏われるのが見えた。


ランジュ「“アクア──」

栞子「……! 戻ってください、ウインディ!」
 「ワォン──」


ランジュが攻撃の指示を出し切る前に、咄嗟にウインディをボールに戻し、次のポケモンのボールを投げ込む。


ランジュ「──ジェット”!!」

栞子「マルマイン!!」
 「──マインッ!!」


そして、代わりに飛び出してきたのは、ヒスイの姿のマルマイン。

通常のマルマインと違い、木目調のボディはでんきタイプだけでなく、くさタイプも有し、みずタイプの“アクアジェット”を半減して受け止める。

受け止めると同時に、


栞子「“10まんボルト”!!」
 「マインッ!!!」

 「マリッ…!!!?」


電撃による反撃でマリルリを痺れさせる。効果は抜群ではあるものの──マリルリが身に纏っている“とつげきチョッキ”のせいで、ダメージは思ったように通っていない。

しかし、だとしても相性は圧倒的にこちらが有利。


ランジュ「……く……」


直後、


ランジュ「戻りなさい、マリルリ!」

栞子「戻ってください、マルマイン!」

ランジュ「……!?」


二人同時にポケモンをボールに戻し、


 「──ワォン…!!」

 「──サザンドーラッ…!!!」


ウインディとサザンドラがフィールドに繰り出される。


栞子「ランジュはバトルの基本がよく出来ていると、お師匠様もよく褒めていましたね」

ランジュ「……」


ランジュなら、絶対に交換をしてくると思ったからこそ、私もポケモンを交換した。

ただ……何度もうまく行くわけじゃない。ちゃんと、読みを通した一回一回の機会を大切にしないと……!


ランジュ「サザンドラ、“りゅうのはどう”!!」
 「サザンーーラッ!!!!」

栞子「“いわなだれ”!!」
 「ワォン…!!」


ウインディが目の前に、岩石を大量に落とし、壁を作って“りゅうのはどう”を防御する。

それによって、砕かれた岩の壁の向こうから──
171 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:00:46.02 ID:1Gm0czzm0

 「サンドーーラッ!!!」

栞子「……!?」


サザンドラが突っ込んできていた。


ランジュ「“とんぼがえり”!!」
 「サザンッ!!!」

 「ワゥッ…!!」


ダメージは小さいが、再び交換を許し、“とんぼがえり”の効果でボールに戻ったサザンドラの代わりに、


 「──マリッ」


再びマリルリが飛び出し、ウインディに向かって飛び掛かってくる。


ランジュ「“じゃれつく”!!」
 「マリ〜♪」


そのまま、じゃれついてくるマリルリ。フェアリータイプの攻撃はウインディには効果いまひとつです。

ダメージを半減にして攻撃を受け、そのまま、


栞子「“かみなりのキバ”!!」
 「ワォン…!!!」


電撃を纏ったキバで噛みついて攻撃する。


 「マリリッ…!!」
ランジュ「今度は交換してない……!」


ランジュが次の行動に移る前に、


栞子「交代です……!」
 「ワオンッ──」

 「──マインッ!!!」


再び、飛び出すマルマインが、


 「マリッ…!!!」


マリルリのみずエネルギーを纏った突進──“たきのぼり”を受け止める。


ランジュ「また、読まれた……!?」

栞子「マルマイン!! “クロロブラスト”!!」
 「マインッ!!!」


マルマインがボールの体の真下部分を相手に向けると同時に──緑色のエネルギー砲が一気に放出される。


 「マリ…!!!?」


至近距離で極太のくさタイプのレーザーが直撃すると同時に、大爆発を起こし、強烈な光を伴うエネルギーの奔流が止む頃には──


 「マ、マリ…」
172 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:02:04.24 ID:1Gm0czzm0

弱点タイプの攻撃なこともあって、マリルリが戦闘不能になって目を回していた。

“クロロブラスト”は自分にも大きな反動ダメージがある分、とても強力な技です。

さらに今回マルマインに持たせた道具はくさタイプの攻撃力を上げる“きせきのタネ”──“とつげきチョッキ”があっても、どうやらその威力には耐えきれなかったようです。


栞子「……やりました……! マルマイン!」
 「マインッ」

ランジュ「……っ」

ミア「……おい、ランジュ」

ランジュ「……大丈夫よ、黙って見てなさい」

ミア「……」


ランジュは今にも文句を言いたげなミアさんを言葉で制しながら、次の手持ちをフィールドに出す──





    🎹    🎹    🎹





かすみ「しお子すごい……!」

歩夢「うん……! ランジュちゃんを圧倒してる……!」

せつ菜「ランジュさんのトレーナーとしての癖を理解していますね……同門だからでしょうか」


確かに読み勝ちが、試合の流れをいい方向に持って行っている。

──『栞子さん……すごくよく相手を見ながら戦っていますね』としずくちゃん。

ある意味、ランジュちゃんにとっては、栞子ちゃんこそ厄介な相手なのかもしれない。


かすみ「この勝負……勝てますよ……!」

侑「うん……!」

歩夢「栞子ちゃーん! 頑張ってー!!」





    🔖    🔖    🔖





背中に声援を受けながら、


 「──ガルド」


再び場に現れるギルガルドと相対する。

ギルガルドには、くさタイプでは効果が薄い。なら……!


栞子「“10まんボルト”!!」
 「マインッ!!!」


電撃による攻撃。


 「ガルド…」
173 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:04:57.84 ID:1Gm0czzm0

ギルガルドは、それを“シールドフォルム”で受け止めながら──不思議な動きを始める。

盾の後ろで、自身の刀身を振るような──


栞子「……!?」


攻撃技をしてくると思っていたので、一瞬何をしているのかで困惑してしまったけど──すぐに思い至る。


栞子「……しまった……!? “つるぎのまい”……!?」


あえてマルマインの攻撃を受け止め──その隙に“つるぎのまい”で自身の攻撃力を上げていたんだと気付いたときには、もうすでに遅く、


ランジュ「“かげうち”!!」
 「ガルドッ」

 「マインッ…!!!?」
栞子「……っ! マルマイン……!!」


上昇した攻撃による、高速の一撃がマルマインに直撃し、


 「マ、マイン…」


“クロロブラスト”による自分へのダメージもあったマルマインは、戦闘不能になってしまった。


栞子「も、戻ってください……!」
 「マイン…──」

ランジュ「やっぱり、読みと言っても完璧じゃないわね」

栞子「……く……」


そう言う間にも、


 「ガルド…」


ギルガルドは“たべのこし”で自身の体力を回復しながら待っている。

早く次のポケモンを出さないと……!


栞子「お願いします! ゾロアーク!」
 「ゾロアーーク…」


私は3匹目──ヒスイのすがたのゾロアークを繰り出す。

あくタイプである本来のゾロアークと違って、ヒスイのすがたはノーマル・ゴーストタイプ。

このタイプなら、攻撃力が強化された“かげうち”で一方的にやられることは防げる。

さらに、こちらのゴーストタイプの技を“のろいのおふだ”で強化している。


栞子「“シャドーボール”!!」
 「ゾロアーーク…!!」

ランジュ「“キングシールド”!」
 「ガルド」


当然の如く、ギルガルドは“シールドフォルム”に戻って攻撃を受け止める。

でも、ギルガルドの戦い方を考えれば、ここまではわかり切っていること。

勝負はここから……!


 「ゾロアーーーク…」


ゾロアークから紫色の呪いのオーラが溢れ出す。
174 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:05:31.68 ID:1Gm0czzm0

栞子「“うらみつらみ”!」
 「ゾロアーーークッ…」


そのオーラは、ギルガルドを包み込み、


 「ガルド…!!!」


ダメージを与えながら──身の毛もよだつ呪いのエネルギーが相手を“しもやけ”状態にする技です。


ランジュ「確かに強力な技だとは思う……だけどね」


“シールドフォルム”で攻撃を耐え、“バトルスイッチ”で“ブレードフォルム”へと姿を変えながら、


ランジュ「“アイアンヘッド”!!」
 「ガルド!!!!」


剣の切っ先をこちらに向けて、突き刺すように、ゾロアークへと突撃をしてくる。


栞子「ゾロアーク!!」
 「ゾロアーークッ…」


ゾロアークは、後ろに飛びながら、攻撃を回避しようとするが──

しつこく追い回してくるギルガルドから、逃げ切れず、


 「ゾロアーークッ…!!」


重い剣の体をぶつけられ、地面を転がり、たったの一撃で戦闘不能になってしまった。


栞子「ゾロアーク……!」
 「ゾ、ゾロアーク……」

ランジュ「防御が低いゾロアークじゃ、撃ち合いきれなかったわね」

栞子「戻ってください……ゾロアーク……」


ゾロアークをボールに戻す。

あっという間に追い詰められて……残るは、ウインディだけ……。


ランジュ「……栞子、もうやめましょう。貴方じゃ私には勝てない」

栞子「……まだ……勝負はついてません……!」

ランジュ「無理よ。栞子は、私には勝てない……。……ねぇ、侑」


ランジュは急に、私の後ろにいる侑さんに声を掛ける。


侑「ん……なにかな」

ランジュ「この勝負……無効試合にしない? 栞子は本来戦う予定じゃなかったし……そもそもバトルが得意じゃない。ランジュが勝って当然よ……これで勝っても、嬉しくないわ。だから、この試合はなかったことに──」

栞子「……ダメです……!」


私はランジュの言葉を遮るように声をあげる。


ランジュ「……栞子。貴方は戦わなくていいの」

栞子「……どうして……ランジュがそれを決めるんですか……!」
175 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:06:14.21 ID:1Gm0czzm0

私はギュッとボールを握り込む。

自分が弱いことは……自分が一番わかっている。

自分にバトルの才能がないことだって……わかっています。

でも──


栞子「……私は……ずっと後ろで皆さんの戦いを見てきました」


私には、かすみさんのように、意表を突く奇抜な戦い方は出来ません。

せつ菜さんのように、裏打ちされた自信と、確かな実力で、盤石な戦いを展開することは出来ません。

しずくさんのように、誰にも予想出来ないような舞台を自身の力で作り出すことも……。

歩夢さんのように、信じられないような力で圧倒することも出来ない……。


栞子「私は……皆さんのように、上手に戦うことは出来ません……だけど──」


私は真っすぐランジュに視線をぶつける。


栞子「諦めないで最後まで戦うことは……私にだって出来ます……!」

ランジュ「…………」

栞子「ランジュが勝手に、私の可能性を決めないでください……!!」


私は──ボールを投げる。


 「──ワォンッ!!!!」

栞子「ウインディ!! “かえんほうしゃ”!!」
 「ワォンッ!!!」


ウインディが炎を噴き出すが──それより早く、


ランジュ「“かげうち”!!」
 「ガルド!!!」

 「ワオンッ…!!」


ウインディの足元から影が立ち上り、ウインディを攻撃する。

でも、ギルガルドも“かえんほうしゃ”に飲み込まれ──


 「…ガル、ド…」


ここまでの蓄積ダメージもあって、やっと崩れ落ちる。


栞子「これで……1対1です……!」

ランジュ「……体力の削れたウインディで、サザンドラに勝てると思ってるの?」

栞子「まだ、勝負はついてません……!」

ランジュ「……侑、もう決着はついてるようなものよ。ここで試合を無効に出来るのは、貴方たちにとっても悪い話じゃないと思うんだけど」

栞子「ランジュ……!! どうして、そこまでして試合をなかったことにしたがるんですか……!?」

ランジュ「……そんなの……栞子と、これ以上戦いたくないからに決まってるじゃない……」

栞子「どうしてですか!? 私が弱いからですか!?」

ランジュ「そうよ。栞子は弱い」

栞子「……っ!」


真っ向から、弱いと言われ、言葉に詰まる。
176 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:07:02.36 ID:1Gm0czzm0

ランジュ「だから、強い人に守ってもらえばいいの。栞子が戦う必要なんて最初からないのよ」

栞子「……どうして──どうして、ランジュはいつも……私の話を聞いてくれないんですかっ……! 龍神様のことだって……解放したら大変なことになってしまうと何度も言ったのに……!!」

ランジュ「……話を聞いてくれないのは……栞子だって同じじゃない」

栞子「……え」


ランジュが──酷く寂しそうに、言った。


ランジュ「サザンドラ、出てきなさい」
 「──サザンドーラ…!!!」

ランジュ「……そんなに続けたいなら……わからせてあげる。栞子は自分で戦う必要なんかないって……」

栞子「…………」

ランジュ「それで……もう戦わなくなるんだったら……。栞子に戦いなんて向いてないって……ちゃんと、わからせてあげるから……」


ランジュが一体、何を考えているのか……私には理解出来なかった。

ですが、戦いは最後の局面へと移っていく……。





    🔖    🔖    🔖





ランジュ「“サザンドラ”! “あくのはどう”!!」
 「サザンドーーラッ!!!!」

栞子「“いわなだれ”!!」
 「ワォンッ!!!!」


再び前方に岩を降らせ、壁を作って攻撃を防ぐ。

だけど、


ランジュ「“りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーラッ!!!!」


ランジュは立て続けに攻撃をし、岩石の壁を吹き飛ばす。


栞子「っ……! ウインディ、走ってください……!」
 「ワォンッ…!!!」


狙いを付けられないように、ウインディが走り回り始める。


ランジュ「逃がさないわ……! サザンドラ!!」
 「サザンドーーラッ!!!!」


ランジュの指示と共に、サザンドラの3つの口に、光が集束され──


ランジュ「“ラスターカノン”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


光が一閃し、


 「ワォンッ…!!!!」
栞子「ウインディ……!!」


ウインディを撃ち抜く。
177 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:07:45.12 ID:1Gm0czzm0

ランジュ「……無理よ。栞子じゃ……私には勝てない」

栞子「ま、まだです……!!」
 「ワォ、ンッ…!!!」


ウインディはよろけながらも立ち上がる。


ランジュ「逃げるので精一杯じゃない……」
 「サザンドーーラッ…!!!」


サザンドラの3つの口にそれぞれ──ほのお、でんき、こおりのエネルギーが集束され始める。


ランジュ「“トライアタック”!!」
 「サザン、ドーーーラッ!!!!」


発射される3種のエネルギーの複合技に向かって、


栞子「“だいもんじ”!!」
 「ワーーォォーーーンッ!!!!!」


大の字に広がる、業火で迎え撃つ。

空中でエネルギーがぶつかり合い、


栞子「きゃぁ……!」


弾ける衝撃が、私のところまで伝わってきて、尻餅をつく。


歩夢「栞子ちゃん……!」

栞子「へ、平気です……!」


でも、私はすぐに立ち上がる。

まだ……まだ終わってない……!


栞子「“ストーンエッジ”!!」
 「ワォンッ!!!」


ウインディが前足で地面を打ち鳴らすと──サザンドラの真横にあった、洞窟の壁から鋭利な岩が突き出てくる。

しかし、


 「サザンドーラッ」


サザンドラはアクロバット飛行のような身のこなしで、その岩を躱しながら、


ランジュ「“りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」


ドラゴンエネルギーを発射する。


 「ワォンッ……!!?」


直撃。


栞子「ウインディ……!!」

ランジュ「勝負……あったわね」
178 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:08:17.93 ID:1Gm0czzm0

よろけるウインディ。

体がゆっくりと傾き、崩れ落ちそうになったが──


 「ワォンッ…!!!」
栞子「ウインディ……!」

ランジュ「……!」


ウインディは持ちこたえ、


 「ワォーーーンッ!!!!!」


“かえんほうしゃ”でサザンドラに反撃する。


 「サザンッ…!!!」


猛烈な火炎で押し返しながら、再びウインディが走り始める。


栞子「まだ……まだです……!」


歩夢「栞子ちゃーん! 頑張ってー!!」

せつ菜「栞子さん!! まだチャンスはありますよ!!」

かすみ「しお子ーー!! 諦めちゃダメだよーーー!!」


栞子「はい……!!」


私は皆さんの声援に頷く。


ランジュ「……何よ。……私の言葉は……聞いてくれないのに……なんで……」

栞子「ランジュ……! 私は何を言われても、途中で諦めたりしません……!」

ランジュ「…………サザンドラ……“ドラゴンダイブ”」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


急にサザンドラが──猛スピードで、ウインディに向かって落下してきた。


 「ワォンッ…!!?」
栞子「ウインディ……!?」


急なことに全く対応出来ず、ウインディはサザンドラにのしかかられるように組みつかれ──


ランジュ「“りゅうのはどう”」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


至近距離で“りゅうのはどう”が炸裂する。


ランジュ「……だから言ったでしょ……栞子は私には勝てない」

 「ワ、ォォォン…!!!」
栞子「まだ……まだですっ!!!」

 「サザンッ…!!!?」
ランジュ「な……!?」


ウインディはボロボロになりながらも、サザンドラの真ん中の首に噛みつき、抵抗を続ける。


ランジュ「しつこい……!!」
 「サザンッ…!!!!」
179 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:08:49.06 ID:1Gm0czzm0

しかし、サザンドラの首は3つある。両サイドの首から“りゅうのいぶき”を噴き付けられる。

でも、それでも──


 「ワ、ォォォォンッ!!!!!」


ウインディは倒れなかった。


ランジュ「なんで……なんでよ……。……もう、体力……限界でしょ……」

栞子「ウインディ!! “だいふんげき”!!」
 「ワォォォォンッ!!!!!」


ウインディは全身から炎熱を噴き出しながら、暴れはじめる。


ランジュ「……なんでよ」

栞子「ランジュッ!! 私は、最後まで諦めません……!!」
 「ワォォォォンッ!!!!!」

 「サザン、ドーーラッ…!!!!」


ウインディは逆にサザンドラを組み伏せ、何度も何度も炎熱を叩き付ける。

しかし、サザンドラもただ無抵抗にやられているわけではなく、何度も3つの首から、“りゅうのはどう”や“りゅうのいぶき”を発射し、ウインディを攻撃している。


栞子「あとちょっと……あとちょっとで……!!」

ランジュ「……なんなのよ」

 「ワォォォォンッ!!!!!!」


ウインディが雄叫びと共に──大きく息を吸い込む。


ランジュ「……これでやっと──栞子が……戦わなくてよくなると……思ったのに……」

栞子「ウインディ!!! “だいもんじ”!!!」
 「ワォォォォンッ!!!!!」


ウインディが最後の大技をサザンドラ目掛けて放った──が……。

ボフッ……。ウインディの口からは、小さな炎が出ただけで──


 「ワ…ォン…」


ウインディは静かに崩れ落ちたのだった。


栞子「あ……」

ランジュ「……」


ウインディは……ついに力尽きて、戦闘不能になっていた。


栞子「ウインディ……!」


私はウインディの傍に駆け寄る。


 「ワ、ォン…」
栞子「ウインディ……」


ボロボロになったウインディの顔に身を寄せると──


 「ワォン…」
180 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:09:23.91 ID:1Gm0czzm0

ウインディは弱々しく鳴きながら、私の頬をペロりと舐めた。


栞子「ありがとうございます……ウインディ。……よく頑張りましたね……」
 「ワ、ォン…」


私はウインディを労ってから、ボールに戻す。

そしてそこに、


歩夢「栞子ちゃん……!」

かすみ「しお子ー……!!」


皆さんが駆け寄ってくる。


栞子「……すみません……。……負けて……しまいました……」


私はそう口にしながら、シュンとしてしまう。けど、


歩夢「うぅん……栞子ちゃん、すごく頑張ってたの……ちゃんと見てたよ」

栞子「歩夢さん……」

かすみ「うんうん! ナイスファイトだったと思うよ! 特に最後、すごかった!」

栞子「かすみさん……」

せつ菜「そうですよ。結果は負けてしまったかもしれませんが……得られるものはあったはずです」

栞子「せつ菜さん……」

侑「誰も栞子ちゃんのこと、責めたりしないから……そんな顔しないで?」

栞子「侑さん……」

しずく「……栞子さん……けほ……かっこ、よかったよ……けほけほ……」

栞子「しずくさん……」


負けてしまった。

自分から名乗り出て、戦うと言ったのに。

大事な大将戦で負けてしまったのに……。

皆さんが励ましてくれる言葉が、温かかった……。


ミア「……とりあえず、これでランジュの3勝2敗だ。……レックウザを捕まえる権利はランジュが得る。それで問題ないね?」

栞子「……はい」


これに関してはそういう約束である以上、反故にすることは出来ない。

ですが──


ランジュ「…………もう、いいわ」


ランジュは急に、目を伏せたまま、そう言った。


ミア「What?」

ランジュ「……もう……いい……」

ミア「何がだよ」

ランジュ「…………レックウザ……もう、いい……」

ミア「……はぁ? おい、何言ってるんだ、ランジュ」

ランジュ「…………栞子に……こんな苦戦してるようじゃ……ダメなのよ……」
181 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/18(水) 21:09:56.01 ID:1Gm0czzm0

ランジュは絞り出すように言いながら──手から、“みどりいろのたま”を地面に放る。


栞子「……ランジュ……?」

ランジュ「ランジュは……圧倒的に強くなくちゃいけないのに……」


そう言って、ランジュは踵を返す。


ミア「おい、ランジュ!!」

ランジュ「……ミア、もう付いてこなくていいわ」

ミア「はぁ!?」

ランジュ「……もう……やめにしたから……」

ミア「ふざけんなよっ!! おい、待てって……!! ランジュ!!」


ミアさんが大声で怒鳴りながら、ランジュを制止しますが──ランジュは振り返ることなく、クリスタルケイヴから去っていってしまったのでした……。





    🎹    🎹    🎹





ミア「なんだよ……一体なんなんだよ……!! わけわかんないよ……!!」


憤慨するミアちゃんを見ながら、私たちも呆然としていた。


かすみ「えっと……とりあえず……解決……しました……?」

せつ菜「……そ、そう……なんですかね……?」

侑「……確かに、ランジュちゃんがレックウザを諦めてくれたなら……目的は達成された……けど……」


あまりに急な展開に、全員が反応に困っていた。

そんな中、


ミア「…………っ」


ミアちゃんは拳を握りしめて、肩を震わせていた。


ミア「……なん……だよ……。……ランジュが、ボクの育てたポケモンで……最強を証明するって……言ったんじゃないか……」


ミアちゃんは悔しそうに、呟く。

ミアちゃんは最初は憤慨していたけど、だんだんと表情が曇っていき──


ミア「…………ボクの育てたポケモンが……悪かったのか……?」


自分を責めるようなことを口にし始めた。


ミア「ボクの育てたポケモンが……弱いから……ランジュが、満足の行く結果を……出せなかったんじゃ……」


自分を卑下するように言うミアちゃんに向かって、


リナ『そんなことないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが答える。
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