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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part3
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2 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:10:51.27 ID:mgX0GYuD0
■ChapterΔ001 『伝説のポケモン』 【SIDE Yu】
──ウルトラスペースでの戦いから、早くも半年が経とうとしていた。
私と歩夢は、
侑「ふぁぁ……」
歩夢「侑ちゃん、眠そうだね? また、遅くまでバトル大会のビデオ見てたんでしょ?」
侑「ちょっとだけ……」
「ブイ…」
リナ『昨日は4時まで見てた。すごい夜更かし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「……り、リナちゃん……!」
歩夢「もう……侑ちゃんったら……」
ゆったりとした日々を過ごしていた。
今日も歩夢から、ベランダ越しに寝不足を指摘されている。
侑「あはは……何もないと思うと……つい……」
歩夢「前の旅が終わってから、ちょっとだらけ過ぎだよ?」
リナ『また旅に出る?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うーん……って言ってもなぁ……」
私たちはあの戦いの後も、何度か旅をしているけど……ここ1ヶ月くらいはセキレイシティでのんびりしている。
侑「オトノキ地方の、どこを見て回ろうか……」
リナ『確かに、この半年で割と行きつくしたかもしれない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「結構な頻度でいろんなところ行ってたもんね……」
侑「うん……」
もちろん、旅に出たら出たで楽しいし、毎回新しい発見もあるけど……初めて旅に出たときに比べれば、目新しさというものはやはり減っている。
侑「なんかすっごくときめいちゃうような何か……ないかなぁ……」
なんて、ぼやいていたその時だった。
「──なら、良いお話がありますよ!」
侑「え?」
空から声が降ってきて、上を見上げると──エアームドの背に乗って降りてくる少女の姿。
侑・歩夢「「せつ菜ちゃん!?」」
せつ菜「お久しぶりです! 侑さん! 歩夢さん! リナさん!」
リナ『せつ菜さん、久しぶり!』 || > ◡ < ||
「ブイ♪」「シャボ」
せつ菜「イーブイとサスケさんもお久しぶりです♪」
せつ菜ちゃんはニッコリ笑いながら、私たちの前に止まる。
3 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:11:37.24 ID:mgX0GYuD0
侑「急にどうしたの!?」
歩夢「良いお話って……?」
せつ菜「ああ、そうでした! 私、今からある場所に向かおうと思っているんですが、せっかくなので侑さんと歩夢さんもお誘いしようと思いまして!」
侑「ある場所……?」
「ブイ?」
リナ『どこなの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「それは移動しながら、お話しします! 旅の準備をしてください!」
侑「わ、わかった……!」
私はバタバタと部屋へ戻っていく。
侑「って、あれ……!? ボールベルトどこ置いたっけ……!?」
リナ『だらけていた弊害が……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「ブイ…」
侑「あ、歩夢〜!! 手伝って〜!!」
歩夢「もう侑ちゃんったら♪ 今そっち行くから〜」
せつ菜「ちゃんと待っていますので、焦らず準備してください♪」
私は歩夢に手伝ってもらいながら、慌ただしく旅立ちの準備を始めるのだった。
🎹 🎹 🎹
侑・歩夢「「──伝説のポケモンを探しに行く?」」
せつ菜「はい!」
南方面に向かって空を飛びながら、せつ菜ちゃんが私たちに話し始める。
せつ菜「半年前の戦い以降、この地方には何度かウルトラホールが開いたことがあったのは聞いていますよね?」
侑「うん。特に事件直後は、結構頻繁に開いてたんだよね」
リナ『私たちが行ったり来たりしてたからね。その影響でホール自体が少し開きやすくなってた』 || ╹ᇫ╹ ||
その影響で、事件収束直後もジムリーダーたちは町の護衛に大忙しだったし……私たちも何度か、ウルトラビーストの撃退に駆り出された記憶がある。
歩夢「でも、最近は落ち着いてきたんだよね……?」
せつ菜「はい。今では通常の頻度まで戻ったと伺っています」
侑「それと……伝説のポケモンを探しに行くことが関係してるの?」
せつ菜「はい! 実は、そのウルトラホールから……ファイヤーが飛び出してきたという噂があるんです!」
侑「ファイヤー? ……ファイヤーってあの……?」
「ブイ?」
リナ『ファイヤー かえんポケモン 高さ:2.0m 重さ:60.0kg
夜空 さえも 赤く するほど 激しく 燃え上がる 翼で
羽ばたく 伝説の 鳥ポケモン。 昔から 火の鳥伝説として
知られる。 姿を 見せると 春が 訪れると 言われている。』
せつ菜「はい! そのファイヤーです!」
侑「ど、どういうこと……?」
てっきりウルトラホールから飛び出すポケモンは、ウルトラビーストしかいないんだと勝手に思っていたから、まさに寝耳に水な話だった。
4 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:12:26.20 ID:mgX0GYuD0
せつ菜「私も気になって……この間、彼方さんにお会いしたときに聞いてみたんですが、ウルトラスペースの中には、この世界で言う伝説のポケモンと呼ばれる存在が生息している世界もあるそうなんです!」
侑「そうなの!?」
思わずリナちゃんを見ると、
リナ『うん、あるよ。私たちはウルトラスペースゼロって呼んでた』 || ╹ᇫ╹ ||
そんな回答が返ってきた。
リナ『ウルトラスペースから何かの拍子にそういうポケモンたちが流れ込んでくる可能性は十分ある。そもそも、今鞠莉博士の手元にいるディアルガやパルキアも、ウルトラスペースから来たって博士は考えてたし』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「その話を聞いて、ますます信憑性が増してきました!! やっぱりファイヤーはいたんですね!!」
リナ『頻繁にホールが開く環境になってたから、起こり得ると思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
せつ菜「というわけで……!! 侑さん歩夢さんと一緒に、伝説のポケモンを探しに行きたいなと思いまして、お声を掛けさせていただきました!!」
侑「なにそれ! めちゃくちゃ楽しそう……! なんか、ときめいてきちゃった……!」
「イブィ♪」
歩夢「確かに……珍しいポケモンに会えるなら、私も会ってみたいかも♪」
せつ菜「はい! お二人ならきっとそう言ってくれると思っていました! そして今から向かうのは、あそこです!!」
そう言ってせつ菜ちゃんは前方にある──大きな樹を指差す。
それは──オトノキ地方の中心に聳える大樹……。
侑「音ノ木……!」
歩夢「だから南に向かってたんだね」
せつ菜「はい!! なんでも最近、音ノ木の周辺ではポケモンの唸り声のようなものが聞こえることがあるそうなんです!!」
侑「それって……龍の咆哮……?」
せつ菜「という説も考えましたが……今はメテノの季節ではありません」
歩夢「じゃあ、その鳴き声は……」
せつ菜「はい!! 伝説のポケモンのものである可能性は十分にあると思います!!」
侑「あそこに伝説のポケモンが……!」
そう考えたら急にワクワクしてきた。
せつ菜「私たちで伝説のポケモンをこの目で確かめましょう!! そして、可能であれば戦って捕獲もしてみたいです!!」
侑「うん!! 行こう!! 音ノ木の頂上へ!! ウォーグル、お願い!!」
「ウォーーーッ!!!!」
侑「歩夢! 振り落とされないようにね!」
歩夢「う、うん! わかった!」
せつ菜「エアームドも、行きますよ!!」
「ムドーーーーッ!!!!」
私たちは音ノ木の頂上を目指します。
5 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:13:13.60 ID:mgX0GYuD0
🎹 🎹 🎹
少しずつ高度を上げながら、頂上を目指す途中、
リナ『そういえばせつ菜さん。あの事件の後3ヶ月くらいは、ずっとローズに居たんだよね?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんが思い出したかのように訊ねる。
せつ菜「はい! ペナルティで社会奉仕活動をしていたので! 毎日ゴミ拾いをして、ポケモンバトル施設で子供たちにポケモンバトルを教えたり……あと、ローズジムに代理で入った梨子さんのお手伝いと……とにかくいろいろしていました!」
侑「その後は、いつもどおり地方を巡って修行してたの?」
せつ菜「はい! お陰でポケモンたちもまた一回り強くなりましたよ!」
侑「じゃあ……! 強くなったポケモンたちと一緒に、チャンピオンの座を懸けて、またポケモンリーグに行くんだよね! そのときは呼んで!! 絶対に応援に行くから!!」
せつ菜ちゃんと千歌さんの戦いがまた見れると思ったら、それだけでときめいてきてしまう。
どんな予定があっても、応援に行きたい気持ちだったけど──
せつ菜「あ、え、えっと……はい! ありがとうございます!」
せつ菜ちゃんは少し歯切れが悪そうだった。
歩夢「せつ菜ちゃん?」
侑「どうかしたの……?」
せつ菜「あ、えっと、その……。……実は、今の私が千歌さんと戦っていいのか……少し迷っていまして……」
侑「え!? な、なんで!?」
せつ菜「私は……自分が図鑑所有者に選ばれなかったことが悔しくて、それをバネに頑張ってきたつもりでした……。……ですが、今の私は最初のポケモンもポケモン図鑑も持っています……」
侑「それは……そうかもしれないけど……」
せつ菜「前にも話しましたが……この地方の歴代チャンピオンは皆、ポケモン図鑑所有者です。……私はその歴史を塗り替えるつもりで戦っていましたが……こうして図鑑を頂いて……逆に目的を見失ってしまったと言いますか……」
侑「せつ菜ちゃん……」
せつ菜「もちろん、千歌さんと戦うのが嫌なわけではありません。ですが、こんな気持ちのままチャンピオンの座を懸けて戦うのは、どうなのかなと……」
侑「…………そっか」
せつ菜ちゃんはせつ菜ちゃんなりに……自分がどうありたいのかを考えている途中なのかもしれない。
せつ菜「あはは、すみません……応援してくださっているのに、なんか変な感じになっちゃいましたね……」
侑「う、うぅん! 私も変なこと言っちゃってごめんね……! でも、どんな形であっても私はせつ菜ちゃんのこと応援してるから!!」
歩夢「私もせつ菜ちゃんがせつ菜ちゃんのペースで、なりたい自分を目指せれば、きっとそれが一番いいことだと思うよ♪」
せつ菜「侑さん……歩夢さん……。……ありがとうございます!」
そんな話をしながら私たちは、間もなく──音ノ木の頂上へとたどり着こうとしていた。
6 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:13:54.27 ID:mgX0GYuD0
🎹 🎹 🎹
──大樹・音ノ木は雲まで届くほど大きな樹で、幹の太さはもちろん、葉も一枚一枚がとんでもない大きさをしている。
そして、頑丈で分厚く……人が乗っても問題がないくらいだ。
手を広げたように伸びている巨大な葉の上はほぼ平らで、安定した足場のようになっていた。
侑「……よっと」
「ブイ」
私は掴まっていたウォーグルの脚から、音ノ木の葉っぱの上に飛び降りる。
せつ菜「ここが……大樹の頂上……」
せつ菜ちゃんもエアームドから飛び降り、辺りを見回している。
そして最後に、大樹の上に降り立ったウォーグルが、歩夢が降りやすいように身を屈める。
歩夢「ありがとう、ウォーグル♪」
「ウォーグ♪」
ウォーグルにお礼を言い、頭を撫でながら、歩夢も大樹へと降り立つ。
歩夢「すごく広いね……」
せつ菜「そうですね……グラウンドくらいの広さはありますね……」
リナ『運動するには、風が強いけどね……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「標高が高いだけあるね……」
「ブイ…」
ビュウビュウと強い風が吹く中……ふと──
侑「あれ……?」
歩夢「? どうかしたの?」
侑「……あれ……人じゃない……?」
せつ菜「え?」
私が指差した先には──二人の女の子がいた。
一人は薄桃色のロングヘアーを両側で結んでいる女の子。
もう一人はプラチナブロンドのショートヘアの女の子。
二人とも私たちに背を向けて、立ち尽くしている。
侑「こんなところで何してるんだろう……?」
リナ『それを言ったら、私たちも同じ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「まあ……確かに……」
せつ菜「は……まさか……! あの方たちも、伝説のポケモンの鳴き声を聞きつけて……!?」
歩夢「確かにせつ菜ちゃんが気付いたんだったら、他の人が気付いて同じことしててもおかしくないもんね」
せつ菜「はい! こうしてはいられません!! あのーーーーっ!!! すみませーーーーーんっ!!!!」
せつ菜ちゃんが声を張り上げながら走り出す。
ロングヘアーの子「什么?」
7 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:14:35.80 ID:mgX0GYuD0
ロングヘアーの子はせつ菜ちゃんの声に振り返る。
ショートヘアの子「何、ランジュ……助っ人でも呼んでたわけ?」
ランジュ「呼んでないわよ。貴方たち誰かしら?」
ランジュと呼ばれた女の子は、腕を組みながら私たちに問いかけてくる。
せつ菜「私はユウキ・せつ菜です! そして、こちらは侑さんと歩夢さん!」
侑「初めまして、侑です」
歩夢「あ、歩夢って言います……」
私たちが名乗ると、
ランジュ「初次见面。私はランジュ。ショウ・ランジュよ。そして、この子はミア・テイラー」
ミア「……」
自分と隣に居たショートヘアの女の子を紹介してくれる。
せつ菜「ミア・テイラー……?」
侑「……あれ、テイラーって……どこかで……」
歩夢「……?」
私とせつ菜ちゃんは、ショートヘアの女の子──ミアちゃんの名前が気になったけど……。
ランジュ「それはそうと、貴方たち……ここにいると危ないわよ」
侑「え?」
ランジュちゃんがそう言った直後──ゴォォォォッという音と共に、音ノ木の頂上一帯に急に強風が吹き荒れ始めた。
歩夢「き、きゃぁ!?」
侑「歩夢!?」
バランスを崩して転びそうになった歩夢を咄嗟に支える。
歩夢「あ、ありがとう、侑ちゃん……」
侑「怪我してない?」
歩夢「うん……」
せつ菜「な、なんですか……! この強風……!」
立っているのも困難なほどの強風が、絶えず吹き付けてくる。
侑「とりあえず……固まろう……! 吹き飛ばされちゃう……!」
「ブ、ブイ…!!」
せつ菜「は、はい……!」
歩夢「サスケ、吹き飛ばされないようにね……!」
「シャボ」
3人で身を低くしながら手を繋ぐ。
8 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:15:17.49 ID:mgX0GYuD0
ランジュ「だから言ったのに……」
せつ菜「い、一体何が起こっているんですか……!?」
ランジュ「……烈空坐──龍神様のお出ましよ」
侑「龍神……様……?」
吹き荒れる風の中──
「──キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」
侑「え!?」
せつ菜「なっ……!?」
歩夢「な、なに……!?」
そのポケモンは突然現れた。
緑色の巨大な体躯の──龍のようなポケモン。
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」
そのポケモンは現れると同時に、大きな鳴き声を轟かせながら、私たちを睨みつけてくる。
リナ『レックウザ……!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「レックウザって言うの……!? あのポケモン……!!」
せつ菜「まさか、本当に伝説のポケモンがいたということですか……!!!」
せつ菜ちゃんは心なしか嬉しそうだけど──歩夢は、
歩夢「……っ……!」
カタカタと身を震わせていた。
侑「あ、歩夢……? 大丈夫……?」
歩夢「あ、あのポケモン……ものすごく怒ってる……」
せつ菜「怒ってる……? 何にですか……?」
歩夢「……わ、わからないけど……とにかく、ものすごく怒ってるのはわかるの……」
ミア「そりゃま……寝覚めで機嫌が悪いんだろうね」
ミアちゃんが肩を竦めながらそんなことを言う。
寝覚めって……?
ミア「それよりランジュ……さっさとしてくれよ。このままじゃ、ボクたちまで吹き飛ばされかねない」
ランジュ「わかってるわよ。……レックウザ!!」
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」
ランジュ「貴方──ランジュのモノになりなさい」
そう言いながら、ランジュちゃんは──ポケットから紫色のボールを取り出した。
侑「あ、あれって……!?」
せつ菜「マスターボール……!?」
ランジュちゃんはそれを振りかぶって──
9 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:16:16.99 ID:mgX0GYuD0
ランジュ「はぁ……!!」
レックウザに向かって投擲した。
──が、
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」
レックウザが一際大きな鳴き声を上げると同時に、周囲に強烈な風が発生し、
ランジュ「きゃぁ……!?」
マスターボールを風で弾き飛ばした。
ランジュ「ちょっとぉ……!! 絶対に捕まえられるボールだって聞いてたんだけど……!!」
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」
直後、レックウザは大きく身をしならせながら飛翔し──風を纏いながら、猛スピードでこっちに向かって突っ込んできた。
リナ『“ガリョウテンセイ”!? 逃げて!?』 || ? ᆷ ! ||
リナちゃんが叫ぶ。
だけど、強風でまともに身動きが取れない中、突っ込んでくるレックウザに対して、私たちは逃げる余裕すらない。
そのとき、
せつ菜「ウーラオスッ!!!!!」
「──ラオスッ!!!!!」
侑「……!」
せつ菜ちゃんが手持ちを出しながら、私たちの前に立つ──
せつ菜「“あんこくきょうだ”!!」
「ラオスッ!!!!!!」
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」
気合いの掛け声と共に前に踏み出し──突っ込んでくるレックウザに向かって、ウーラオスが正拳突きを叩き付ける。
ウーラオスの強烈な拳によって、レックウザの攻撃の軌道を上に逸らすことには成功したが──
侑「わぁっ……!!?」
「ブイッ…!!!?」
歩夢「きゃぁっ!!!?」
「シャボ…!!」
せつ菜「くっ……!!?」
「ラオスッ…!!!」
弾ける風のエネルギーによって、私たちは音ノ木の上から吹き飛ばされる。
強烈な風によって宙に放り出された瞬間、
侑「ウォーグル!!」
「──ウォーーーーッ!!!!」
せつ菜「エアームド!!」
「──ムドーーーッ!!!!」
私とせつ菜ちゃんは、ウォーグルとエアームドをボールから出し、それぞれのポケモンの脚を掴む。
それと同時に──
10 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:16:51.00 ID:mgX0GYuD0
歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!?」
歩夢の悲鳴を聞き、すぐにそっちに顔を向ける。
侑「歩夢ッ!!!」
──歩夢は空を飛ぶ手段がほぼないに等しい。
私よりも遠くに飛ばされていた歩夢が空中でくるくる回りながら、落下しているのが見え、
「ウォーーーーッ!!!!!」
ウォーグルが飛び出す。
落下する歩夢に向かって、ウォーグルで急降下しながら接近する。
侑「歩夢ーーーーーッ!!!」
大きな声をあげながら、歩夢に手を伸ばす。
歩夢「侑ちゃぁぁーーーーんっ!!!!」
歩夢も手を伸ばし、伸ばしたお互いの手は──すんでのところで届かずに空を掻く。
歩夢「ぁ……」
侑「ッ……!!! 歩夢ーーーーーーッ!!!!!」
「ウォーーーーグッ!!!!!」
ウォーグルはスピードを上げながら、降下するが──重力にしたがって落ちていく歩夢のスピードはそれを上回っていて、どんどん引き離されていく。
高い高い大樹の上にいたはずなのに、猛スピードで落ちる歩夢の背後に──地面が見えてきた。
侑「歩夢ッ!!! 歩夢ーーーーーーッ!!!!!」
このままじゃ歩夢が地面に激突しちゃう……!!
なのに──歩夢との距離はどんどん離れていく。
そのときだった。音ノ木の大きな葉の上から、
「──ピィーーーー!!!!」
歩夢「!? ピィ!!?」
1匹の小さなポケモンが飛び出してきて、歩夢に飛び付いた。
直後、歩夢の身体が光に包まれて──そのポケモンごと、消えてしまった。
侑「……な……!?」
リナ『き、消えちゃった!?』 || ? ᆷ ! ||
私とリナちゃんはその光景に驚きの声をあげる。
せつ菜「侑さーーーーんッ!!!!!」
「ムドーーーッ!!!!!」
そこにせつ菜ちゃんも追い付いてくる。
11 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:17:32.90 ID:mgX0GYuD0
侑「せつ菜ちゃん……!! どうしよう、歩夢が……!!」
せつ菜「見ていました……! ピィが飛び付いてきたと思ったら、歩夢さんの身体が光に包まれて……!」
侑「あ、歩夢に何かあったら……ど、どうしよう……は、早く探さないと……!」
せつ菜「落ち着いてください侑さん……! 姿が消えたということは、少なくとも落下はしていないということです!」
侑「じ、じゃあ、どこに……」
せつ菜「リナさん、確か図鑑にはサーチ機能がありましたよね……?」
リナ『もうやってる。……だけど、歩夢さんの図鑑がサーチできない』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「ど、どういうこと……?」
リナ『……少なくとも、私がサーチできる範囲内に……歩夢さんの図鑑が存在しない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
せつ菜「サーチ範囲内って……具体的に、どれくらいの範囲なんですか……?」
リナ『……オトノキ地方全域くらいはカバーしてる』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「え……」
じゃあ、歩夢は……。
侑「歩夢は……どこに行ったの……?」
🔔 🔔 🔔
ミア「……ランジュ。あいつら、落ちちゃったよ。どうすんの」
ランジュ「……ここまで自力で来られるトレーナーだったら、自分たちでどうにか出来るでしょ」
ミア「まあ……別にボクは構わないけど。……それよりも」
ミアは肩を竦めながら、
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」
ミア「そいつ……さっさとどうにかしてよ」
風を纏い、唸りながらこちらを睨みつけてくるレックウザをどうにかしろと言ってくる。
ランジュ「わかってるわ。レックウザ」
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!」
ランジュ「ランジュがここに来たのは、貴方と交渉するために来たの」
そう言いながら、ポケットから──翠色に輝く珠を取り出す。
ランジュ「今、貴方はオトノキ地方に封じられてる自分の力を取り戻したいんじゃないかしら? それをランジュが代わりに集めてきてあげる」
「…キリュリリュリシイィィィィィィ!!!」
ランジュ「ただ、その代わり、その力を集めてきたら──ランジュと戦いなさい」
「…リュリシイィィィィィィ…!!!」
ランジュ「そして、全ての力を取り戻した貴方を倒したときは……ランジュに従いなさい」
「…キリュリリュリシイィ」
レックウザはしばらくランジュの手にある宝珠を真っすぐ見つめていたけど──
12 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:18:13.74 ID:mgX0GYuD0
「…キリュリリュリシイィィィィィィ」
程なくすると、高度を上げながら背を向けて、北の方へと飛び去って行った。
ミア「……あれ、ホントにわかってんの?」
ランジュ「大丈夫よ。栞子の言っていたとおりなら、レックウザは人の言葉を理解する知能はあるはずだし……少しでも早く力を取り戻したいレックウザにとっては、悪い話じゃないはずだからね」
恐らく飛んでいった先は、自分の力を取り戻しながら、休息の出来る場所だろう。
そして、ランジュの手元にある宝珠はレックウザのエネルギーに当てられたのか──何かに反応するように、光を脈打たせていた。
ミア「……それが、龍脈ってやつに反応してるの?」
ランジュ「ええ。そんなに大急ぎでやる必要はないけど、のんびりもしてられないわ。行くわよ、ミア」
ミア「命令しないでくれないかな……。ボクは自分の目的のために力を貸してるだけだよ」
ランジュ「大丈夫よ。すぐに証明してあげるわ──ランジュがミアの育てたポケモンを使って……最強のトレーナーになってあげる」
🎹 🎹 🎹
ひとまず……私たちは地上に降りてきた。
侑「歩夢……」
せつ菜「リナさん、歩夢さんは本当に今この地方に居ないんでしょうか……?」
リナ『少なくとも……私の観測上ではそうとしか言えない……。図鑑が故障したって可能性ももちろんあるけど……歩夢さんが消えた瞬間に図鑑の反応も消えたから、壊れたよりかは私がサーチできる範囲の外に行っちゃったって考えた方がいいと思う』 || 𝅝• _ • ||
侑「とにかく……探さなきゃ……」
私は歩き出す。
せつ菜「侑さん、落ち着いてください……」
リナ『心配なのはわかるけど……どこにいるのか見当もつかないまま探しても……』 || 𝅝• _ • ||
侑「そうだけど……じっとなんかしてられないよ……」
せつ菜「侑さん、歩夢さんもあの戦いを乗り越えたトレーナーの一人なんです。これくらいのことでどうにかなったりしません」
侑「せつ菜ちゃん……」
せつ菜「それに……侑さんが一番歩夢さんのことを信じてあげないといけませんよ。大切な幼馴染なんでしょう?」
侑「…………」
せつ菜ちゃんの言葉を聞いて、私は一度大きく息を吸って……深く吐く。
焦った頭に酸素が取り込まれて、少しだけ気分が落ち着いてくる。
侑「……ごめん、せつ菜ちゃんの言うとおりだ……私が歩夢のこと信じてあげないでどうするんだ……」
せつ菜「もちろん心配するなとは言いません。ですが、心配しすぎて焦ってはいけませんから」
侑「……うん」
とりあえず……今は落ち着いて、歩夢がどこに行っちゃったのかを考えないと……。
それを考え始めようとしたまさにそのとき、
「──さっきの子は、朧月の洞って場所に飛ばされただけだよ」
13 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:19:06.58 ID:mgX0GYuD0
音ノ木の方から、そんな声が聞こえてきた。
侑「え?」
その声のする方へ振り返ると──そこには赤いメッシュの入った黒髪ロングの女性が、音ノ木の根本に立っていた。
侑「あなたは……?」
薫子「ああ、アタシは薫子って言うんだけどさ」
リナ『その服……もしかして、リーグの職員?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「あ……確かに、リーグ職員の方はそういう制服でしたね」
確かに言われてみれば彼女が着ている服は、どこかの組織の規定服のようなデザインをしていた。
かなり着崩しているせいで、言われないとわからないけど……。
薫子「うん、そうだよ。アタシはリーグの職員。実はここの監視を担当してるんだよね」
せつ菜「監視……? 音ノ木のということですか……?」
薫子「まあ、そんな感じ」
侑「あの……それで、さっき言ってた朧月の洞って言うのは……?」
薫子「あー……なんていうか、説明が難しいんだけどね。世界の狭間にある結界の中……みたいな場所かな」
侑「歩夢は……そこに居るんですか?」
薫子「うん、そうだよ」
リナ『どうして貴方はそんなこと知ってるの?』 || ╹ᇫ╹ ||
薫子「ちょっと事情があってね……妹がそこに住んでるんだよ。栞子って言うんだけどさ」
なんだか、よくわからないけど……。
侑「とりあえず……歩夢は無事……ってことでいいんですか……?」
薫子「うん、恐らく無事だよ。少なくとも地面に激突してるってことはない」
侑「そうなんだ……なら、よかった……」
歩夢はひとまず無事と考えていいと聞いて、少しだけ安心する。
もちろん、実際に顔を見ないと完全に安心することは出来ないけど……。
薫子「あーところでさ、君たちって、この間のDiverDiva事件を解決したトレーナーたちだよね?」
侑「え……どうしてそのことを……?」
薫子「こんな身なりでもリーグ職員だからね。一応、いろいろ知ってるんだよ。……んでさ、そんな君たちの実力を見込んでちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
せつ菜「お願い……ですか……?」
──リーグ職員の人が、私たちに何をお願いするんだろう……と思ったけど、
薫子「……君たちにはレックウザを止めて……妹の──栞子を救ってやって欲しいんだ」
薫子さんが口にしたのは──そんな内容だった。
14 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/11(水) 14:19:52.92 ID:mgX0GYuD0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【大樹 音ノ木】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回●| | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:270匹 捕まえた数:12匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:195匹 捕まえた数:51匹
侑と せつ菜は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
15 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 00:03:46.50 ID:7Lt++ad/0
■Intermission🎀
先ほどまで、猛スピードで音ノ木から落下していた私は──
歩夢「……ここって……」
「シャボ」
気付けば……洞窟のようなところに居た。
いや、ここは……前にも訪れたことがある……。
歩夢「……朧月の洞……」
「ピィ…」
気付けば私の足元にはピィが居て、ぴょこぴょこと跳ねながら鳴き声をあげる。
歩夢「また、あなたが助けてくれたんだね……ありがとう」
「ピィ…」
ピィは一鳴きすると、ぴょこぴょこと奥の部屋へと歩いて行く。
歩夢「……付いてこいってことかな……?」
私がピィの後を追っていくと──
「ピィ…」
歩夢「……え?」
ピィが心配そうに見つめる先に──
栞子「…………っ…………ぅ…………」
栞子ちゃんが倒れていた。
歩夢「栞子ちゃん……!!?」
私はすぐさま栞子ちゃんに駆け寄り、抱き起こす。
歩夢「栞子ちゃん!? 大丈夫!?」
栞子「……あな、たは…………あゆ、む……さん…………?」
栞子ちゃんは薄っすらと目を開けて、ぼんやりと私の名前を呼ぶ。
抱き起こした栞子ちゃんの身体は……すごく熱かった。
歩夢「栞子ちゃん、酷い熱……!」
栞子「…………あゆむ、さん…………」
栞子ちゃんが弱々しく私の袖を掴む。
栞子「…………わた……し…………ラン、ジュを……とめ……ない、と……」
歩夢「え……ランジュちゃん……?」
栞子「…………で、ない……と…………オトノキ……地方……が…………。…………」
その言葉を最後に──栞子ちゃんの腕が力を失って、落ちる。
16 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 00:04:50.39 ID:7Lt++ad/0
歩夢「栞子ちゃん!?」
栞子「………………ぅぅ……」
栞子ちゃんは高熱だけでなく、呼吸が浅く、顔色も真っ青を通り越して蒼白だった。
歩夢「このままじゃ危ない……!! サスケ! 手伝って!」
「シャボッ」
私はサスケに協力してもらいながら、栞子ちゃんを背負い、
歩夢「ピィ!! 外に案内して……!! すぐにでも病院に連れて行かないと……!!」
「ピィ…!!」
ピィと一緒に、外の世界に戻るために──朧月の洞の中を走り出した。
………………
…………
……
🎀
17 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 11:52:44.29 ID:7Lt++ad/0
■ChapterΔ002 『翡翠の巫女』 【SIDE Yu】
私たちは……あの後、音ノ木の大きな根っこに腰掛け、歩夢を待っていた。
侑「……ここに居れば、歩夢は戻ってくるんだよね……?」
せつ菜「薫子さんは、そう言っていましたね」
リナ『少なくとも、サーチはずっと続けてるから。サーチ範囲内に歩夢さんの反応があったら、すぐに知らせるよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん、お願いね。リナちゃん」
まさにそのときだった──突然目の前に、先ほど歩夢が消えた時と同じ光が発生する。
侑「……! これって……!」
リナ『! 歩夢さんの図鑑の反応! 目の前から!』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんの言葉と共に──
歩夢「──外……出られた……! ここは……音ノ木の根本……?」
歩夢が飛び出してきた。
侑「歩夢……!!」
「ブイ!!」
せつ菜「歩夢さん!!」
歩夢「! 侑ちゃん! せつ菜ちゃん!」
私たちは歩夢に駆け寄る。その際──歩夢の背中に、女の子が背負われていることに気付く。
しかも、その子は──
女の子「………………ぅ、ぅ…………」
脂汗を掻き、顔面蒼白で、苦しそうに呻き声をあげている。
侑「そ、その子、大丈夫……!?」
歩夢「そうだ……! この子、すごい高熱で……今すぐにでも病院に連れて行かないと……!」
せつ菜「ここからだとセキレイの病院が近いはずです……! すぐにでも移動して──」
女の子「…………病院、は……やめて……くだ、さい…………」
歩夢「栞子ちゃん……!?」
歩夢に栞子と呼ばれたその子は苦しそうな息遣いのまま、
栞子「……私たち……翡翠の一族は…………表、舞台に……立っては……いけない…………病院は、困り、ます…………」
歩夢「でも……! 栞子ちゃん、すごい熱が出てて……!」
栞子「……ですが……病院は……ダメ……です……」
頑なに病院に行くことを拒否する。
栞子「……お願い……します……」
歩夢「でも……」
18 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 11:56:55.25 ID:7Lt++ad/0
歩夢は酷く困った表情をする。
せつ菜「……病院に行かないにしても、どこか休める場所に行く必要があります」
侑「……そうだね」
歩夢「でも……仮に私の家に連れて行っても……こんな苦しそうな子見たら、お母さんたちがお医者さんを呼んじゃうよ……」
せつ菜「それは……確かに……」
侑「病院に連絡されずに……事情を理解してくれそうな、落ち着ける場所なんて……」
私たちは困ってしまうが、
リナ『なら、セキレイに良い場所がある』 || ╹ᇫ╹ ||
それに答えたのはリナちゃんだった。
歩夢「本当……!?」
リナ『今連絡を入れちゃうから、みんな移動の準備をして!』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「わかった……!」
せつ菜「栞子さんはエアームドの背中に固定して運びましょう。紐を出します」
「ムドーー!!!」
歩夢「私、一緒に乗る……!」
せつ菜「はい、落ちないように見てあげてください!」
侑「それじゃせつ菜ちゃんはウォーグルの背中に乗って……!」
「ウォーーグ!!」
せつ菜「はい! よろしくお願いします!」
エアームドが身を屈め、3人掛かりでその背に栞子ちゃんを寝かせ──せつ菜ちゃんが用意してくれた毛布と紐で身体を固定する。
栞子「…………あゆ、む……さん…………」
歩夢「少し苦しいかもしれないけど……我慢してね……」
栞子「………………は、い…………」
歩夢が栞子ちゃんと一緒にエアームドの背に乗る。
せつ菜「エアームド! 任せますよ!」
「ムドーーッ!!」
歩夢「エアームド……お願いね」
侑「私たちも行こう……!」
せつ菜「はい!」
私たちは大急ぎでセキレイへと飛び立つのだった。
19 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 11:57:28.69 ID:7Lt++ad/0
🎹 🎹 🎹
善子「──それで、私の研究所に来たってことね」
ヨハネ博士はそう言って肩を竦める。
せつ菜「すみません……押しかけてしまって……」
善子「大丈夫よ、ワケアリなんでしょ? それに貴方たちは私のリトルデーモンなんだから」
侑「ありがとうございます、ヨハネ博士……!」
善子「苦しゅうない」
ヨハネ博士は、ベッドに寝かされた栞子ちゃんに目を向ける。
栞子「………………すぅ…………すぅ…………」
歩夢「……よかった……やっと、落ち着いてきたみたい……」
栞子ちゃんはベッドに寝かされ、氷嚢を頭に乗せたまま、穏やかな寝息を立てていた。
善子「歩夢、しばらく看病してあげて」
歩夢「はい」
せつ菜「とりあえず……人が大勢居るとゆっくり休めないでしょうし……」
善子「そうね。私たちは一旦下の研究室に行きましょう」
侑「わかりました。……歩夢、後はお願いね」
歩夢「うん、任せて」
私たちは部屋を後にし、1階の研究室まで移動する。
善子「んで……何があったの?」
侑「えっと……」
私たちはとりあえず、起こったことをありのままに説明し始める。
音ノ木の頂上に伝説のポケモンを探しに行ったこと。
そうしたら、先客──ランジュちゃんたちが居たこと。
レックウザが現れて、吹き飛ばされ……落下する歩夢がピィと一緒に消えてしまったこと。
その後、現れた薫子さんという女性に、歩夢の無事を聞かされ……それと同時に頼み事をされたこと。
そして、薫子さんの言うとおり歩夢が戻ってきたと思ったら……ぐったりとした栞子ちゃんを背負っていた……。
善子「……情報量が多いわね」
せつ菜「あはは……確かに……」
善子「んで、その薫子って人から何を頼まれたの?」
侑「えっと……」
私たちは薫子さんとの会話を反芻しながら、話し始める──
20 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 11:58:02.64 ID:7Lt++ad/0
──────
────
──
侑「妹を……救って欲しい……?」
リナ『リーグ職員なら、リーグ主導で解決した方がいいんじゃない?』 || ╹ᇫ╹ ||
薫子「なんというか、そういうわけにもいかないというかさ……」
薫子さんはリナちゃんの言葉に頭を掻く。
せつ菜「どういうことですか……?」
薫子「実はアタシは……翡翠の民って呼ばれてる一族の末裔なんだ」
侑「翡翠の……民……?」
薫子「翡翠の民は、このオトノキ地方に棲んでる、怒れる龍神様を鎮めるために存在してるんだ」
せつ菜「怒れる龍神……? ……この地方に伝わる龍神伝説のことですか……?」
薫子「それそれ」
侑「でも……あれって、あくまで伝説で……」
薫子「火のないところに煙は立たないって言うでしょ? 龍神は実際に居るんだよ。そして、君たちはまさに今、その龍神を目の当たりにしてたじゃない」
侑「え?」
まさか、それって……。
侑「レックウザ……?」
薫子「そういうこと」
せつ菜「待ってください。龍神様は私たちを見守ってくれているんじゃないんですか? 確か伝説ではそういう内容だったような……」
薫子「……まあ、最初は守ってくれてたんだけどね……。……ちょっといろいろ事情が変わっちゃってさ。今は人間に対して、あんまり友好的じゃなくてね……」
そういえば、歩夢もレックウザは怒っているって言っていたっけ……。
薫子「んで、その怒りを鎮める役割を担っていたのが翡翠の民であり……その中でも、一番近くで龍神様のお世話をしていたのが、翡翠の巫女──アタシの妹の栞子ってわけ」
リナ『さっき、レックウザを止めて欲しいって言ってたけど……止めなくちゃいけないような状態ってこと?』 || ╹ᇫ╹ ||
薫子「本当は栞子がずっと怒りを抑えてたんだけどね……ちょっと事情が変わっちゃってさ」
侑「事情が変わった?」
薫子「上で、女の子に会わなかった? 薄桃色の髪した子」
侑「あ、はい。会いました。ランジュちゃんですよね?」
薫子「あの子がね……なんか、レックウザの封印を解いちゃったみたいでさ」
侑「え……!?」
せつ菜「ランジュさんが怒れる龍神様を解き放ってしまったということですか……!? それって、まずいんじゃ……」
薫子「そうなんだよ……結構まずいんだよねー」
薫子さんの雰囲気のせいか、全然危機感が伝わってこないけど……。
確かにあんなパワーを持ったポケモンが怒り狂ったまま解き放たれてしまったんだとしたら……相当まずい事態な気がする。
薫子「ただ……翡翠の民とリーグ協会はちょっと折り合いが悪くてねー……」
侑「折り合いが悪い……? 薫子さんってリーグの人なんですよね……?」
薫子「ま、表向きにはね」
侑「表向きには……?」
21 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 11:59:57.29 ID:7Lt++ad/0
私はその物言いに首を傾げてしまうが、
せつ菜「……まさか……!! 薫子さんは、翡翠の民を守るために、リーグに潜入しているという展開ですか!!?」
せつ菜ちゃんが目を輝かせながら言う。いや、さすがにそんなことは……。
薫子「簡単に言うとそんな感じかな」
せつ菜「やはりですか……!!」
侑「え、ホントにそうなの……!?」
せつ菜「つまり翡翠の民としては、自分たちの失態でレックウザが解き放たれてしまったということが、リーグに露見する前に解決したいということですね!!」
薫子「おー、理解が早くて助かるよ」
リナ『折り合いが悪いって言うのは具体的にどういうことなの?』 || ╹ᇫ╹ ||
薫子「説明すると長くなっちゃうから省くけど……翡翠の民はあくまで龍神様と共存する方針で、リーグは地方を守るために討伐しようとしてたって感じかな。まあ、正確に言うとリーグの前身組織の考えなんだけどね。大昔に考えの違いで対立してたってわけ」
リナ『それは今も続いてると……』 || ╹ᇫ╹ ||
薫子「今となってはリーグ上層部しか知らないことだけどね。ただ、意志としては生きてる。翡翠の民は龍神様を守る代わりに、それによって問題が起こった際には責任を取るって取り決めを大昔にリーグとしちゃってるってわけ。……だから、リーグ側が事態を解決しても、翡翠の民──特に翡翠の巫女は責任を取らされることになる。……それは避けたいんだ」
侑「救って欲しいって言うのは、そういうことか……」
せつ菜「だから、対立が発生する前に、私たちに解決して欲しいということですね!」
薫子「身勝手なお願いだってことはわかってる。リーグ側のスタンスも理解してる……でも、翡翠の民も、妹も……大事だからさ」
せつ菜「妹さんを想って単身敵組織に乗り込み、守ろうとする姿……感動しました!! 是非、お手伝いさせてください!!」
せつ菜ちゃんが目を輝かせながら、薫子さんの手を両手で捧げ持ちながら言う。
リナ『せつ菜さんが完全に雰囲気に呑まれてる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「あはは……」
確かにせつ菜ちゃんはこういう展開好きそうだけど……。
リナ『侑さんはどうする……?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……もし、私たちで解決出来るなら、変に対立が起こる前にどうにかしてあげたい気はするかな……」
リナ『いいの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「歩夢が飛ばされたのは翡翠の巫女の──栞子ちゃんが住んでる場所なんでしょ? だったら、歩夢を助けてもらった恩もあるわけだし……」
リナ『それは確かに』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「それにリーグの方針では最悪討伐になっちゃうわけだから……それなら、もっと友好的な解決を探したいなって思って」
リナ『わかった。そういうことなら、私は侑さんに協力する』 || > ◡ < ||
もちろん、どちらかにつくという話ではなく……あくまで無用な争いが起こらないように手を貸すだけだけど。
薫子「ありがとう。そう言ってもらえてホッとしてるよ……。それじゃ、アタシはリーグ内に情報が回らないように止めておくから」
せつ菜「はい!! 後のことは私たちにお任せください!! 必ず解決して見せます!!」
薫子「お願いね。朧月の洞に飛ばされた子は……恐らく戻ってくるときは入った場所の近くに出るはずだから、ここに居れば大丈夫なはずだよ」
──
────
──────
22 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:00:33.49 ID:7Lt++ad/0
せつ菜「──ということで、薫子さんのお願いを聞くことになりました!」
善子「あんたたち、安請け合いしたわね……」
侑「やっぱり……よくなかったですか……?」
ポケモンリーグは、この地方の治安を維持している組織でもある。
私たちの行動はある意味、治安を守る組織の意思に反した行動と取れなくもない……。
ただ、ヨハネ博士は、
善子「貴方たちが自分たちの意思で決めたのなら、私からは特に言うことはないわ。結果として、人とポケモンを守るための選択なわけだしね」
そんな風に言う。
せつ菜「はい! 博士ならそう言ってくださると思っていました!」
善子「ただ、やるからにはちゃんとやり遂げなさい。わかった?」
侑「はい!」
せつ菜「お任せください!!」
善子「よろしい。そうなると、あの翡翠の巫女の子……栞子にも事情を聞かないといけないだろうから、あの子の容態が落ち着くまではここに泊まって行きなさい。上の部屋は自由に使っていいから」
侑「ありがとうございます」
せつ菜「お世話になります!」
こうして私たちは、レックウザを止めることになったのだった。
🎹 🎹 🎹
侑「歩夢、入るよ」
「ブイ」
歩夢「あ、侑ちゃん」
歩夢が栞子ちゃんを看病している部屋に入る。
侑「栞子ちゃん……どう?」
そう訊ねながら、栞子ちゃんを見ると──
栞子「…………すぅ…………すぅ…………」
穏やかな寝息を立てながら眠っている。顔色も随分よくなってきた気がする。
歩夢「大分落ち着いたよ。熱も下がってきたし……ヨハネ博士のくれた薬が効いたんだと思う」
侑「そっか……よかった」
安堵の息を漏らしながら、改めて眠っている栞子ちゃんを観察する。
栞子「…………すぅ…………すぅ…………」
歳は……私たちと同じか、少し下くらいかな……。
枕元には、
23 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:01:48.56 ID:7Lt++ad/0
「ピィ…」
ピィが一緒に眠っている。
侑「この子が翡翠の巫女……」
歩夢「え……? 侑ちゃん、なんでそのこと……」
侑「歩夢……そのことについて、ちょっと聞いて欲しい話があるんだ」
歩夢「聞いて欲しいこと……?」
🎹 🎹 🎹
歩夢「……そんなことになってたんだ……」
私は歩夢を部屋の外へ呼び、先ほどヨハネ博士にしたのと、同じ内容を説明した。
侑「それで……私とせつ菜ちゃんは薫子さんに協力することにしたんだけど……」
歩夢「もちろん、私も協力するよ。栞子ちゃんのこと……放っておけないし」
まだ部屋の中では栞子ちゃんが眠っているからか、声のボリュームを抑え気味にしながら、歩夢が協力の意思を伝えてくれる。
侑「わかった。それじゃ、せつ菜ちゃんにもそう伝えておくね」
歩夢「うん、お願いね。私はもう少し栞子ちゃんのこと見てるから……」
侑「了解。あ……栞子ちゃんの容態がよくなるまで、ここに泊まっていいってヨハネ博士が言ってたから」
歩夢「あ、そうなんだね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな……」
侑「うん。それじゃ、また後で様子見に来るね」
歩夢「はーい♪」
🎹 🎹 🎹
部屋を後にし──再び1階に戻ると、
善子「そういえば菜々、最近ポケモンリーグに行ってないって聞いたわよ」
せつ菜「あ、えっと……はい」
せつ菜ちゃんとヨハネ博士の会話が聞こえてきた。
24 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:02:43.06 ID:7Lt++ad/0
善子「千歌が、貴方が来ないって連絡を寄越してきてね……今まで、それなりの頻度で挑戦しに来てたから、突然来なくなって心配してるみたいよ」
せつ菜「…………」
善子「千歌も、自分が全力で戦える相手が出来て嬉しいんだと思うわ。また行ってあげたら?」
せつ菜「あの……そのことなんですけど」
善子「ん?」
せつ菜「私……もう、チャンピオンを目指すのは止めようと思うんです……」
善子「どうして?」
せつ菜「それは……。……その……」
せつ菜ちゃんはヨハネ博士に訊ねられて歯切れが悪くなる。……確かに最初のポケモンと図鑑を貰ったからなんて、ヨハネ博士本人には言いづらいだろう……。
だけど、ヨハネ博士はそんなせつ菜ちゃんの様子を見て、
善子「……はぁ……」
溜め息を吐いた。
善子「……貴方が今、何考えてるか当ててあげるわ」
せつ菜「え?」
善子「今の自分がチャンピオンになっても、結局図鑑を持った選ばれたトレーナーだから……今までのような、普通のトレーナーでも、チャンピオンになれるんだって証明にならない。そう思ってるんでしょ」
せつ菜「ど、どうしてそれを……」
善子「貴方はわかりやすいからよ」
せつ菜「……。……あの、そういうことなので……私はもうチャンピオンを目指すのは……」
善子「……菜々」
ヨハネ博士が名前を呼び、
せつ菜「……なんですか?」
せつ菜ちゃんが顔を上げるのと同時に──
善子「てい!」
せつ菜「いた!?」
頭にチョップした。
25 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:05:40.31 ID:7Lt++ad/0
善子「菜々。貴方は……図鑑を貰っただけでチャンピオンになったつもりなの?」
せつ菜「え……?」
善子「確かにこの地方の歴代チャンピオンは皆ポケモン図鑑所有者だったかもしれない。でも、図鑑所有者が全員チャンピオンになったわけじゃない。それなら私だってとっくにこの地方のチャンピオンよ」
せつ菜「それは……」
善子「目的に掲げていたものがなくなって戸惑うのは理解出来る。でも、貴方がポケモンバトルをしていたのは、図鑑を持っていなかったからなの?」
せつ菜「……違います。……ポケモンバトルが……好きだからです……」
善子「でしょ? それにチャンピオンになったトレーナーは、最初のポケモンと図鑑を貰ったから、チャンピオンになったんじゃない。……誰よりも、ポケモンのことを信頼して、強くなることにひたむきに向き合って努力し続けた結果なの。それは貴方が一番よくわかってるでしょう?」
せつ菜「……はい」
善子「本当にチャンピオン──最強のトレーナーになることに興味がなくなったのなら、私は何も言わないわ。だけど、図鑑を貰ったことが理由だって言うなら……そんなものチャンピオンになってから考えなさい。まだ、貴方は一度も千歌に勝ててない。今でもチャレンジャーなんだから」
せつ菜「……はい」
善子「……あと個人的なわがままを言うなら……」
せつ菜「……?」
善子「私も……自分のもとから旅立ったトレーナーがチャンピオンになる姿を見てみたい……」
せつ菜「ヨハネ博士……」
善子「もし、目的を見失ってどうすればいいのかわからなくなっちゃったなら……私の夢を一緒に叶えることを目的にして欲しいわ。菜々がチャンピオンマントを背負う姿を……私に見せて」
せつ菜「……博士……。……わかりました、いつか必ず……博士にチャンピオンマントをお見せします。……私、この地方の……チャンピオンになります……!」
善子「ん、よろしい。……それでこそ、私が見つけ出した最高のリトルデーモン・菜々よ……。……頑張りなさい」
せつ菜「……はい!」
影から二人のやり取りを見ていた私を見てリナちゃんが、
リナ『侑さん、入らないの?』 || ╹ ◡ ╹ ||
そう訊ねてくる。
侑「邪魔しない方がいいかなって」
ヨハネ博士が、図鑑を渡したトレーナーたちに優劣を付けているわけじゃないけど……それでもせつ菜ちゃん──菜々ちゃんとの絆は少し特別なものだろうから。
リナ『……そうだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「ちょっと散歩でもしてこよっか」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
少しの間、セキレイの街を散歩することにしたのであった。
🎹 🎹 🎹
──翌日。
歩夢「……うん! 熱も下がってる!」
栞子「……すみません、ご迷惑をお掛けしてしまって……」
栞子ちゃんの容態はすっかり安定していた。
栞子「皆さんも……助けてくださって、ありがとうございます……」
26 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:06:29.93 ID:7Lt++ad/0
栞子ちゃんはベッドの上で、三つ指をつきながらお礼を言う。
せつ菜「お気になさらないでください! 困ったときはお互い様です!」
侑「栞子ちゃんが元気になったなら、それで大丈夫だよ♪」
栞子「ありがとうございます……」
栞子ちゃんは重ねてお礼を言ってから、
栞子「改めまして……私は栞子──ミフネ・栞子と申します……。この子は家族のピィです」
「ピィ」
そう自己紹介をする。
侑「私は侑。タカサキ・侑。この子は相棒のイーブイ」
「ブイ♪」
せつ菜「ユウキ・せつ菜です!」
リナ『リナだよ。侑さんのポケモン図鑑』 || ╹ ◡ ╹ ||
栞子「侑さんとイーブイさん、せつ菜さんにリナさんですね。よろしくお願いします」
栞子ちゃんは私たちの顔を順番に見たあと、また恭しく頭を下げる。
すごく礼儀正しい子みたいだ。
歩夢「それで……何があったのか、聞いてもいい?」
栞子「……えっと、その前に……翡翠の巫女について説明させてください。……私は翡翠の民と言われる一族で──」
翡翠の民と翡翠の巫女について説明を始める栞子ちゃんを見て、せつ菜ちゃんが耳打ちしてくる。
せつ菜「……あの……本当に薫子さんのこと……言わなくていいんでしょうか……」
侑「……薫子さんが言わないで欲しいって言うんだから、とりあえず言わない方がいい……んだと思う」
──実は、薫子さんに会ったことは、栞子ちゃんには伝えないで欲しいと言われている。
薫子『栞子はアタシが今ポケモンリーグにいることを知らないんだよね。あの子真面目でね……きっとその話聞いたら、ショック受けちゃうだろうから、可能であれば栞子には言わないでくれると助かるかな……。もちろん、説明しなくちゃいけない状況になったら君たちの判断で言ってもらっても構わないから、アタシがそんなこと言ってた程度に捉えておいてくれると助かるよ』
とのことだった。
なので、可能な限り薫子さんに会ったことは黙っておくことにしている。
27 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:07:42.83 ID:7Lt++ad/0
栞子「──……私は、龍神様にお仕えする巫女をしていました……」
歩夢「その龍神様が……私たちが音ノ木の頂上で見た、レックウザだったんだよね……?」
栞子「……はい」
歩夢「レックウザ……すごく怒ってたけど……」
栞子「……すみません」
歩夢「あ、ご、ごめんね、責めてるんじゃなくて……。どうして、怒ってたのかなって……」
栞子「それは……私が封印を強めて、閉じ込めていたからなんです……」
侑「閉じ込めていた……?」
せつ菜「翡翠の巫女は龍神様のお世話をする存在なのではないんですか?」
栞子「本来はそうなのですが……。……龍神様は地方に何かしらの異変が起こると、地方のポケモンたちを守るために外に出て行かれてしまうことがあるんです……」
リナ『それって、何か問題があるの?』 || ╹ᇫ╹ ||
栞子「はい……。……龍神様はポケモンは守りますが……基本的に人間を守る気はないんです」
歩夢「え……?」
歩夢が困惑した声をあげた。
いや、困惑したのは歩夢だけじゃない……私たちもだ。
侑「昔聞いたお伽噺とかだと……龍神様は、この地方を見守ってくれてるって聞いてたから……てっきり、私たち人間も見守ってくれてるんだと思ってたんだけど……」
せつ菜「私もそういう理解をしていました。……違うんですか……?」
栞子「それを話すには……少しオトノキ地方の歴史に触れないと説明が難しいのですが……。長くなってしまうので……」
歩夢「……わかった。とりあえず、龍神様はポケモンを守るけど、人のことは守ってくれないから、解き放つと大変って理解しておけばいい?」
栞子「はい、概ねその理解で合っています。私たち翡翠の民は、そういうときに龍神様の怒りが世界に向かないように鎮めるのが役割なんです……。……そして、どうしても鎮めきれない場合……翡翠の巫女は儀式によって、龍神様の力を一時的に封印するんです」
リナ『一時的にってどれくらい?』 || ╹ᇫ╹ ||
栞子「龍神様が落ち着かれるまでです……。……3年前は私の巫女としての力が未熟だったため、外に出て行かれてしまったんですが……今回はどうにか、抑えていたんです」
歩夢「ま、待って……! 落ち着くまでずっと抑えてたって……事件が起こったのは、もう半年も前だよ……?」
栞子「……はい。ですから、半年間……抑え続けていました」
歩夢「栞子ちゃん一人で……!? 半年間も……!? そんなことしたら、倒れちゃって当然だよ……!」
栞子「……ですが、それが翡翠の巫女の役割なんです……」
その封印の儀式というのが、具体的にどういうものなのかわからないけど……それでも、半年間ずっと怒れる龍神様を抑え続けていたのは、栞子ちゃんにとって相当な負担だったに違いない。
どうりで、あんなに疲弊しきっていたわけだ。
むしろ、事情を聞いてからだと……1日眠っただけで、ここまで快復出来たことの方が驚きかもしれない……。
せつ菜「……あれ? でも、栞子さんは龍神様を抑えられていたんですよね……? でも、龍神様は……?」
栞子「はい……。……封印の儀式を継続している最中に、幼馴染が──ランジュが現れて、儀式を中断させられてしまったんです……」
それは薫子さんに聞いた話とも合致する。問題は……。
侑「どうしてランジュちゃんはそんなことを……?」
せつ菜「私たち、ランジュさんには音ノ木の頂上でお会いしているんですが……」
栞子「そうだったんですね……。……ですが、私にも理由がわからなくて……」
歩夢「ランジュちゃんは何か言ってなかったの……?」
栞子「……すみません……龍神様が解き放たれたときの衝撃で……私は気を失ってしまったので……」
28 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:09:05.22 ID:7Lt++ad/0
つまり、ランジュちゃんの目的は栞子ちゃんにもわからないらしい。
ただ……。
侑「ランジュちゃん……レックウザに向かって、ボールを投げてたよね」
せつ菜「はい。失敗していましたが……」
栞子「捕獲しようとしていたということですか……? ですが、今の状態では捕獲は難しいと思います……」
歩夢「どういうこと?」
栞子「今の龍神様は……力の大半を封印されている状態のまま解き放たれています。モンスターボールはポケモンが持っている固有のエネルギーに反応して、機能すると伺ったことがあるのですが……」
栞子ちゃんの言葉を聞いて、私たちの視線がリナちゃんに集中する。
リナ『うん。モンスターボールは確かにそういう方法で、ポケモンを判別してる』 || ╹ᇫ╹ ||
栞子「ですので、今の不完全な状態の龍神様は、逆にポケモンとは認識されづらくなっているはずです……」
侑「なるほど……」
せつ菜「だから、マスターボールでも捕獲出来なかったんですね……」
しかし、それはそれとして……。
侑「ランジュちゃんはなんで、レックウザを捕獲しようとしてるんだろう……?」
栞子「それは……私にもよくわかりません……」
せつ菜「とりあえず……それは本人を探して聞くしかなさそうですね」
歩夢「でも、今どこにいるんだろう……」
私たちは歩夢の救出に手一杯で、あの後ランジュちゃんがどこに行ったのかは全くわかっていない。
だけど、
栞子「……もし、ランジュが龍神様を捕獲しようとしているなら……龍神様の封印を完全に解こうとするはずです。恐らく、オトノキ地方にある龍脈に向かったんだと思います」
栞子ちゃんには心当たりがあるようだ。
歩夢「龍脈って……?」
栞子「翡翠の巫女は、龍神様の膨大なエネルギーを封じるために儀式によって、龍神様の力を音ノ木を介して大地に流すんです。大地に流れ出した龍神様のエネルギーは龍脈というエネルギースポットに自然と集まっていきます。ですので、各地の龍脈を訪れて龍神様のエネルギーを回収して、お返しすれば……恐らく龍神様の封印を完全に解くことが出来ると思います」
侑「じゃあ、その龍脈の場所に行けば……!」
栞子「ただ……龍脈は一定の場所に定まっているわけではなくて……時代によって移り変わってしまうので、見つけるには王都にある宝珠が必要なはずなんです」
侑「王都……?」
王都なんて呼ばれてる場所……オトノキ地方にあったっけ……?
いや、そもそも王様がいないし……。
29 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:10:08.36 ID:7Lt++ad/0
せつ菜「……もしかして、ダリアシティのことですか?」
侑「え? ダリア?」
せつ菜「はい。ダリアは遥か昔、オトノキ地方を統治していた王族が住んでいたと言われている場所なので……」
栞子「せつ菜さんの言うとおり、今はダリアシティがある場所ですね。……そこに宝珠が保管されているはずなんですが……」
歩夢「じゃあ、ランジュちゃんはそこからその宝珠を持って行っちゃったってこと……?」
栞子「わかりません……。……ですが、実際に行って確認をした方がいいかもしれません」
リナ『なら、行き先は決まったね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん。とにかく、一旦ダリアシティに行ってみよう」
「イブイ♪」
私たちはかつての王都こと──ダリアシティに向かうことになった。
🎹 🎹 🎹
侑「それじゃ、ヨハネ博士! 行ってきます!」
「ブイ♪」
善子「行ってらっしゃい。何かあったら、連絡しなさい」
せつ菜「ありがとうございます!!」
栞子「ご迷惑をおかけしました……」
善子「栞子、貴方も何かあったら言いなさい。寝床くらいなら、いつでも貸せるから」
栞子「はい……! ありがとうございます……!」
ヨハネ博士に見送られながら、私たちはダリアに向かうために、ポケモンたちを出す。
侑「ウォーグル!」
「──ウォーーッ!!!」
せつ菜「エアームド!」
「──ムドーッ!!」
せつ菜「歩夢さんは侑さんと一緒にウォーグルに乗ると思うので……栞子さんはエアームドに一緒に乗っていただけると……」
栞子「あ、いえ……! 私も飛べるポケモンは持っているので……! 出てきてください!」
そう言いながら、栞子ちゃんがボールを放ると──
「ウォーーー…」
ボールからウォーグルが飛び出す。
侑「栞子ちゃんもウォーグル持ってたの……!? ……って、あれ……? なんかちょっと見た目が違うような……」
栞子ちゃんの出したウォーグルは、私のウォーグルと違って、白と灰色の羽を持ち、冠羽も紫色で特徴的な目のような模様が浮かんでいる。
さらに、私のウォーグルに比べると体も一回り大きい気がする。
30 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:10:45.60 ID:7Lt++ad/0
リナ『ヒスイウォーグル……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ヒスイウォーグル……?」
リナ『ウォーグル(ヒスイのすがた) おたけびポケモン 高さ:1.7m 重さ:43.4kg
敵を 見つけると 鬼気迫る 大きな 雄叫びを 上げ
大きな体を 使って 狩りを 行う。 湖の 水に 向かって
衝撃波を 放ち 水面に 浮かんできた 獲物を 捕まえる。』
リナ『すごく珍しいリージョンフォルム』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「久しぶりだね、ウォーグル」
「ウォー」
歩夢は顔見知りなのか、ウォーグルの頭を撫でている。
歩夢「そういえば、栞子ちゃん……ダリアの場所はわかる?」
栞子「え、えっと……大まかに西側ということくらいなら……」
歩夢「それなら、私が一緒に乗って案内するよ♪」
栞子「は、はい! そうして頂けると助かります!」
歩夢「侑ちゃん、私、今回は栞子ちゃんのウォーグルに一緒に乗せてもらうことにするけど……いい?」
侑「え? う、うん、構わないけど……」
歩夢「うん! それじゃ、ウォーグル。お願いね♪」
「ウォーグ…」
歩夢が身を屈めたヒスイウォーグルの背に乗り、
栞子「歩夢さん、後ろから失礼します。……落とされないように、気を付けてくださいね」
歩夢「はーい♪」
栞子ちゃんがそのすぐ後ろに座る。
私のウォーグルよりも一回り体が大きいから、背中に二人乗せても大丈夫なようだ。
栞子「ウォーグル、飛んでください!」
「ウォーーーグ」
栞子ちゃんの指示と共に、ヒスイウォーグルが飛翔する。
せつ菜「それでは侑さん! 私たちも参りましょう!」
侑「うん、そうだね!」
「ウォーーグッ!!!!」「ムドーーーッ!!!」
私たちもポケモンたちの力で空へと飛び立ち、ダリアシティへ向けて飛び立つのだった。
31 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/12(木) 12:11:20.18 ID:7Lt++ad/0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:270匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.68 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.64 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.64 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:249匹 捕まえた数:24匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:195匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と せつ菜と 栞子は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
32 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:14:37.91 ID:fZboHQww0
■ChapterΔ003 『オトノキ地方』 【SIDE Yu】
空を飛んで数十分ほど。
ダリアシティの大時計塔が見えてくる。
侑「ウォーグル、降りるよ」
「ウォーグ!!」
私が高度を落とすと、それに合わせてせつ菜ちゃんと栞子ちゃんも一緒に降下を始める。
侑「到着っと……ここまで、ありがとう。戻って、ウォーグル」
「ウォーグ──」
ウォーグルをボールに戻しながら、ダリアのポケモンセンターの前に降り立つ。
せつ菜「ここに王家の秘宝が眠っているんですね!! なんだか、宝探しみたいでワクワクしてきました!!」
リナ『微妙に大袈裟になってる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……。……それで、栞子ちゃん。どこに行けばいい?」
歩夢がそう訊ねるけど、
栞子「え、えっと……」
栞子ちゃんはダリアの街をキョロキョロと見回しながら、狼狽えている様子だった。
歩夢「栞子ちゃん……?」
栞子「あ、あの……ここがダリアシティ……なんですよね?」
歩夢「え? う、うん」
栞子「その……私が昔写真で見たものとは全然様相が違うと言いますか……」
そう言いながら、栞子ちゃんがバッグから写真を1枚取り出す。
それをみんなで覗き込むと──それは白黒の写真だった。
侑「こ、これ……もしかしてダリアの写真……?」
「ブイ?」
栞子「はい……。……これが旧王都の今の姿だと……」
せつ菜「……100年以上前の写真な気がしますね」
歩夢「そういえば……歴史の教科書で見たことあるかも」
リナ『カメラが一般普及し始めたくらいに資料として撮られた街並みの風景だね。私のデータベースにもあるよ』 || ╹ᇫ╹ ||
栞子「そ、そうなのですか……!? すみません……これがそんなに古い写真だったなんて……。……私、小さい頃から翡翠の民の里と、朧月の洞以外の場所はほとんど見たことがなくて……」
歩夢「うぅん、大丈夫だよ♪ どこに宝珠が保管されてるかは聞いてる?」
栞子「詳しくはわかりませんが……ダリア王家と翡翠の民が地方を守るために預けた宝珠ですので、王家の名残のある場所にあるはずです。ダリア王宮はどこでしょうか?」
せつ菜「だ、ダリア王宮ですか……!?」
せつ菜ちゃんが眉をハの字にしながら声をあげる。
栞子「は、はい……どうかされたんですか……?」
歩夢「えっと……ダリア王宮は、100年前にあった地震で修復不可能なくらいの損傷を受けて……安全のことも考えて解体されたの……」
栞子「え……!?」
33 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:15:57.50 ID:fZboHQww0
そういえば、そんな話を歴史の授業で聞いたような、聞かなかったような……。
せつ菜「確かに建築物には多少当時の様式が使われている場所もあるそうですが……ダリア、セキレイ、ローズの3都市は近年で大きく姿を変えた都市と言われています」
侑「確かに栞子ちゃんの写真だと……全然街並みが違うもんね」
「ブイ」
栞子「そ、そんな……それじゃ、宝珠がどこにあるか……」
せつ菜「……困りましたね」
栞子「すみません……」
歩夢「うぅん、大丈夫だよ♪ この街のどこかにはあるんだよね?」
栞子「お、恐らくは……」
歩夢「じゃあ、みんなで一緒に探せばきっと見つかるよ♪」
栞子「はい……」
というわけで、私たちがダリアシティで宝珠探しを始めようとした──そのとき。
──pipipipipipipi!!!
歩夢「きゃっ!?」
「シャボ…」
歩夢のポケットから大きな音が鳴り始める。
この音って……。
侑「図鑑の共鳴音……!?」
歩夢「う、うん……!」
私たちがキョロキョロと周囲を見回していると──
「──侑せんぱーい!! 歩夢せんぱーい!!」
元気な声をあげながら、女の子がこっちに向かって駆け寄ってきているところだった。
その子はもちろん──
かすみ「リナ子とせつ菜先輩まで!! お久しぶりですぅ〜〜〜!!」
かすみちゃんが嬉しそうに私に抱き着いてくる。
侑「おとと……!」
かすみ「侑せんぱ〜い!! 会いたかったですぅ〜!!」
侑「うん……! 久しぶり、かすみちゃん! 元気だった?」
かすみ「はい! かすみん、元気満タンです〜!」
子犬だったら、千切れんばかりに尻尾を振っていそうなテンションで、かすみちゃんがにこにこ笑う。
そして、その後ろから遅れて、
しずく「皆さーん!!」
歩夢「しずくちゃん!」
しずくちゃんが駆けてくる。
34 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:18:53.82 ID:fZboHQww0
しずく「こんなところでお会いできるなんて……!」
かすみ「うんうん!! 図鑑の共鳴音が鳴り始めたときはびっくりしちゃいました……!」
せつ菜「すごい偶然ですね……!! まさか、こんな形で5人揃うなんて……!」
しずく「はい! 私たち、今さっきダリアに着いたところなんですが……」
侑「ダリアに何か用事があったの?」
かすみ「今流行りの限定スイーツを買いに来たんですよ〜! これです! ダリアコットンアイス!」
そう言いながら、かすみちゃんがお菓子の箱を見せてくれる。
せつ菜「あ! もしかして、最近雑誌とかでも特集が組まれているやつですか!?」
歩夢「それ私も気になってたんだ……! アイスなのにわたあめみたいにふわふわだって評判のやつだよね!」
かすみ「そうですそうです! あのあのあの! 多めに買ったので、もしよかったら侑先輩たちも一緒にどうですか!?」
侑「いいの!?」
私たちは再会を喜びながら、思わずいつものような賑やかな雰囲気になる。
そんな中、
栞子「え、えっと……」
栞子ちゃんは突然のことに面食らって、動揺していた。
歩夢「あ、ご、ごめんね栞子ちゃん」
栞子「いえ……お知り合いの方たちなんですね?」
侑「うん! 私たちと同じように、ヨハネ博士から図鑑をもらった仲間のかすみちゃんとしずくちゃんだよ!」
私が栞子ちゃんに二人を紹介する。
しずく「初めまして、しずくと言います」
かすみ「あ、かすみんは〜超絶プリティーポケモントレーナーのかすみんですぅ〜♪」
栞子「初めまして、栞子と申します」
しずくちゃんと栞子ちゃんが恭しく頭を下げて挨拶しあう中、
かすみ「ふんふん……歳は同じくらいっぽい?」
かすみちゃんが栞子ちゃんをジロジロと観察し始める。
しずく「かすみさん……初対面で失礼だよ」
栞子「い、いえ……私は大丈夫なので……」
かすみ「栞子……じゃあ、しお子だね! よろしくね、しお子!」
栞子「しお子……?」
しずく「また勝手に変なあだ名付けて……。栞子さん、嫌だったら嫌って言って大丈夫だからね?」
栞子「い、いえ、大丈夫です」
栞子ちゃんはかすみちゃんの勢いにやや気圧され気味になっていた。
かすみ「っと……それよりもコットンアイスが溶けちゃう前に早く食べちゃいましょ〜!」
せつ菜「そうですね! ポケモンセンターのレストスペースをお借りしましょう!」
35 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:19:53.11 ID:fZboHQww0
そう言いながら、かすみちゃんとせつ菜ちゃんがポケモンセンターに駆けていく。
しずく「……なんか、すみません。急にお誘いしちゃいましたけど……お時間大丈夫でしたか?」
言われてみれば、時間にすごく余裕があるわけじゃないけど……。
侑「そうだ……! せっかくだし、しずくちゃんたちにも手伝ってもらえないかな……?」
しずく「え?」
🎹 🎹 🎹
侑「──というわけで、私たちは今ランジュちゃんって子を追いかけてるところなんだ」
しずく「……そんなことになっていたんですね」
ポケモンセンターのレストスペースで、かすみちゃんとしずくちゃんに、今起こっている事態の説明をする。
もちろん、栞子ちゃんの前なので、薫子さんの話は伏せているけど……。
かすみ「はぁ〜〜〜♡ コットンアイス絶品すぎますぅ〜〜〜♡」
しずく「かすみさん……話聞いてた?」
かすみ「聞いてた聞いてた。要はそのランジュ先輩って人を止めればいいんでしょ?」
しずく「わかってるならいいけど……」
栞子「あ、あの……よ、よろしいんですか……? 今出会ったばかりなのに、手伝っていただくなんて……」
かすみ「でも、しお子困ってるんでしょ? なら、かすみんがどうにかしてあげる! かすみん凄腕トレーナーだから!」
しずく「千歌さんには負けちゃったけどね」
かすみ「ちょっと、しず子ぉ!! 余計なこと言わないでよ! 四天王には勝てたから、次の挑戦でかすみんがチャンピオンになるんだから!」
栞子「ありがとうございます……」
ペコリと頭を下げる栞子ちゃん。
かすみ「それよりも! しお子、アイス食べないと!! 溶けちゃうよ!」
栞子「え、あ、はい」
栞子ちゃんは手に持ったカップを見つめながら──
栞子「あ、あの……そのまま食べればいいんですよね……?」
そう言って首を傾げる。
かすみ「? うん」
栞子「わ、わかりました。いただきます……!」
そう言って、スプーンでコットンアイスを掬って口に運び──
栞子「……!」
目をぱぁぁぁっと輝かせる。
36 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:20:27.99 ID:fZboHQww0
栞子「冷たくて甘くておいしいです……! 外では、こんな食べ物があるんですね……!」
かすみ「え? もしかして、アイス……食べたことなかったの?」
栞子「はい……!」
栞子ちゃんはおいしそうにアイスをぱくぱくと食べ、
栞子「あ……もう、なくなっちゃいました……」
そう言ってしゅんとする。
かすみ「……そんなにおいしかったんなら、もう1個食べる?」
栞子「え……!? で、ですが……それは悪いです……」
かすみ「かすみん1個は食べたし、アイスもおいしそうに食べてくれる人に食べて欲しいと思うから♪ はい!」
かすみちゃんはそう言いながら、栞子ちゃんの前にアイスのカップをポンと置く。
栞子ちゃんは戸惑っていたけど、
歩夢「ふふ♪ よかったね、栞子ちゃん♪」
栞子「……は、はい……///」
歩夢がニコニコしながら頭をポンポンと撫でると、少し照れ臭そうに、アイスを食べ始めた。
栞子「……私、こんなことをしていて、いいのでしょうか……」
せつ菜「何を為すにしても、英気を養うのは必要ですよ! おいしいものを食べると、元気になりますから!」
栞子「それは……そうかもしれません」
歩夢「ただ、宝珠がどこにあるのか、考えながらがいいかもね」
栞子「はい……ただ、どこにあるのか……」
せつ菜「王家の所有していた建造物が残っていれば良かったのですが……」
確かに王宮が残っていないなら、そこに保管されていたものは他に移動しているはずだ。
私たちはこれからそれに頭を悩ませる必要があるわけだけど……。
しずく「王家に関係している場所なら、ありますよ」
その疑問に答えたのはしずくちゃんだった。
栞子「ほ、本当ですか……!?」
しずく「はい。ダリアの大時計塔はダリア王家がダリアのシンボルとして作ったと言われています」
せつ菜「え……!? ダリア王家が滅んだのって数百年以上前ですよね……!? その時代からあったんですか……!?」
しずく「ダリアの大時計塔は現在でもどうやって作ったかは謎とされています。所謂オーパーツの一つですね。ですが、今でも寸分違わぬ精度で時を刻み続けています。ですので、ダリア王家はかなり高度な技術を持っていたとされているんです」
かすみ「じゃあ、時計塔に宝珠があるってこと?」
しずく「それはわからないけど……図書館の倉庫とかにしまってあったりするのかな……」
かすみ「でもそれってちょっと不用心じゃない〜?」
そこでふと──ダリアの大時計塔には不思議な空間があったことを思い出す。
そんなことを考えていると、ちょうどせつ菜ちゃんと目が合う。
37 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:21:24.02 ID:fZboHQww0
せつ菜「なら……あそこしかないんじゃないでしょうか」
侑「……うん!」
歩夢「……そっか! 確かにあそこなら……!」
かすみ・しずく「「あそこ……?」」
次の目的地が決まった。
侑「とにかく、ダリアの大時計塔に行ってみよう!」
栞子「は、はい! わかりました……!」
🎹 🎹 🎹
──ダリア大時計塔。
私たちは時計塔内の図書館に入ると、そのまま最上階を目指す。
かすみ「どんどん上に行ってますけど……どこ行くつもりですか〜?」
せつ菜「? ……かすみさんも、ジムバッジは8つ持っているんですよね?」
かすみ「え? はい。持ってますけど……?」
せつ菜「??」
かすみ「???」
せつ菜ちゃんとかすみちゃんの間でハテナが飛び交っている。
確かにダリアジムを攻略していれば、どこに行こうかわかりそうなものだけど……?
しずく「あ、もしかして……そういうことかな……」
侑「しずくちゃん?」
しずく「かすみさん……実はダリアのジム戦は無理言って、にこさんと戦っているので……。……確か、本来だと別の課題があったんですよね……? だから、私たちはそれが何か知らなくて……」
せつ菜「そ、そんな裏技が……!?」
かすみ「ちょっとぉ……! なんか、かすみんがずるしたみたいじゃん!」
侑「あはは……一応図書館だから静かにしようね……」
上の方の管理はポケモンがしているから、叱られるってこともないんだけど……。
歩夢「栞子ちゃん大丈夫? 疲れてない?」
栞子「はい。問題ありません。ありがとうございます、歩夢さん」
歩夢「病み上がりだから、無理しちゃダメだよ?」
栞子「お気遣い感謝します。辛いときは言いますので……」
歩夢「うん、約束だよ♪」
栞子「はい」
6人で図書館の最上階にたどり着く。
最上階は今日も人気がなく、静まり返っている。
38 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:25:49.02 ID:fZboHQww0
侑「確か、こっちだよね」
せつ菜「はい!」
オトノキの史書コーナーに足を運び、背表紙の色が浮いている本『叡智の試しの至る場所』というタイトルの本を押し込むと──
──ガコン! という音が鳴る。
かすみ「ぴゃぁ!? な、なんですか……!?」
そして、上から降りてくる折り畳み式の階段。
栞子「隠し階段……」
しずく「こんなところに……」
侑「この上だよ」
私はみんなを引き連れて、上の階へとのぼっていく──
🎹 🎹 🎹
私たちが上の階にたどり着くと、
花丸「──チャレンジャー……じゃないね。侑ちゃんたち、久しぶりだね」
花丸さんは読んでいた本をパタンと閉じて、こちらに目を向ける。
侑「お久しぶりです!」
せつ菜「こうしてここを訪れるのは本当に久しぶりな気がします!!」
かすみ「あ、あれ……? マル子先輩……? どゆこと……?」
花丸「ここはダリアジムだよ。マルはジムリーダー。確かかすみちゃんは、にこさんとジム戦したんだったよね」
しずく「……ダリアジムはバトルの実力だけではなくて、それ以外の知恵も試すと言っていたのはそういうことだったんですね……」
かすみ「……どゆこと……?」
しずく「えっと……だから実はダリアジムは謎解きの要素があって……」
飲み込みの早いしずくちゃんが、かすみちゃんに説明する中、
栞子「あ、あの……!」
栞子ちゃんが前に出る。
花丸「こんにちは。貴方は?」
栞子「私、栞子と申します。……こちらにダリア王家が保管していた宝珠があるのではないかと思い、伺いました」
栞子ちゃんのその言葉を聞いて、
花丸「もしかして……翡翠の民の子ずら?」
花丸さんはそう返す。
39 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:35:39.72 ID:fZboHQww0
栞子「……! 翡翠の民をご存じなのですか!? 私は翡翠の巫女です……!」
花丸「なるほど。やっと、役割を果たすときが来たってことだね」
そう言いながら、花丸さんは本を置きながら、立ち上がる。
侑「役割を果たす……? どういうことですか……?」
花丸「こっちに来てくれるかな」
そう言いながら、花丸さんは壁際の方へと歩いて行き……壁中に敷き詰められている本棚の中の本を1冊押し込むと──下の階で見たのと同じように、ガコンと音がする。
直後、ゴゴゴと音を立てながら、本棚が横にスライドしていく。
せつ菜「隠し部屋の中にさらに隠し通路が……!?」
花丸「栞子ちゃんが探しているものは、この先にあるよ」
栞子「本当ですか……!」
花丸さんに言われたとおり、隠し通路の中へと歩いて行くと……その中には小さな部屋があった。
歩夢「あの……花丸さん。ここは一体……?」
花丸「ここは大時計の時計盤の裏側だよ。そして……ダリア王室の隠し宝物庫だった場所ずら」
しずく「隠し宝物庫……」
せつ菜「花丸さん、先ほど役割を果たすときが来たと仰っていましたよね? 一体、貴方は……?」
花丸「えっと、なんて言えばいいのかな……? マルは門番みたいなものなのかな?」
侑「門番……?」
花丸「マルは、ダリア大学に入学したあと、ずっとここの図書館で働きながら研究をしてたんだけど……ある日、史書の整理をしてるときに、この部屋の存在に気付いたんだ。そして、ここにある本を読んで驚いた。大昔にあった大戦時のことが書かれた本が大量に見つかった。……そこには焚書されたと思われたものもたくさん」
かすみ「ふんしょ……?」
しずく「言論統制や検閲のために、本を焼却することだよ」
せつ菜「つまり……隠された歴史がここにある……ということですか……?」
花丸「そういうこと。その中には……翡翠の民と翡翠の巫女の話も出てきてた」
栞子「それでは……」
花丸「ここには、オトノキ地方にかつて栄えたダリア王家と、翡翠の民たちの歴史と……失われたディアンシー伝説、龍神伝説の真実が記されているずら」
侑「伝説の……真実……?」
花丸「実際に、見て確かめてみるといいよ。マルは外で待ってるから」
そう言って花丸さんは、小部屋から出て行こうとする。
栞子「あ、あの……花丸さん、貴方はどうしてここを守っていたんですか……?」
花丸「んー……たぶん、これが外に漏れると、情報が検閲されちゃうんじゃないかって思ったからかな。ジムリーダーになって、ここをポケモンジムに改修したら、誰も手を出せないと思って、ここにジムを構えたんだ。だから、ここの部屋の存在はマル以外のリーグの人間は誰も知らないよ」
侑「そういう……理由だったんだ……」
花丸さんは随分手の込んだジムリーダーだと思ったけど……本当はそういう理由があったんだ……。
花丸「あ、でも、ジムリーダーとしての責任はちゃんと果たしてるよ? トレーナーたちの知恵を試すジムが必要だと思ったのも本当だし!」
栞子「どうしてそこまでして……」
栞子ちゃんは埃一つ被っていない手入れの行き届いた古書を見ながら呟く。
それに対して花丸さんは、
40 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:36:21.64 ID:fZboHQww0
花丸「いつかその本に記されたことを求めてやってくる人がいると思ったからかな。……本は誰かに伝えるためにあるもので、それが失われるのが嫌だったから」
栞子「花丸さん……」
花丸「だから、その本たちがちゃんと必要としている人たちに届いたみたいで安心ずら♪ ちゃんと読んであげてね」
そう残して、花丸さんは小部屋から出て行くのであった。
🎹 🎹 🎹
隠し部屋の中にはたくさんの本が所狭しと詰め込まれていた。
私たちはそれを1冊ずつ手に取って中を確認する。
かすみ「……ねーねー」
しずく「何?」
かすみ「かすみんたち……宝珠を探しに来たんでしょ? 本読んでる場合なの?」
栞子「恐らく……今、宝珠がどこに行ったのかも記されていると思います。それに……ここに記されていることは、私たち翡翠の民でも知らなかったようなことが記されています……。……今、全て読むのは不可能かもしれませんが、ある程度目を通しておいて損はありません」
かすみ「しお子は真面目だなぁ……」
せつ菜「……いえ、栞子さんの話を聞いていて思ったのですが……私たちの歴史は思った以上に、誰かの意思によって都合のいい形に事実を塗り替えられている気がします。私たちも、この地方で何があったのか……知るべきなのかもしれません」
栞子「……そうですね。龍神様を追う以上……皆さんも龍神様と、この地方にあったことを……知っておいた方がいいのかもしれません」
栞子ちゃんはそう言って私たちの顔を順に見回す。
栞子「過去に、この地方で何があったのか……龍神様と人間の間に何があったのか……翡翠の民がどうして龍神様との間を取り持っていたのか……それをお話しします」
そう前置いて、栞子ちゃんはオトノキ地方の歴史を話し始めるのだった。
🎹 🎹 🎹
栞子「この地方はディアンシー様が各地に輝きをもたらしたことから始まった輝きの地方と言われています」
せつ菜「もともとは今で言うところのローズシティ以南がオトノキ地方だったんですよね? ウテナは最近出来た人工都市ですし、ヒナギクとクロユリは元は独立した集落だったと聞いたことがあります」
歩夢「オトノキ地方で特に古い町って言うと……アキハラ、ウラノホシ、コメコ、ダリアだったかな……。セキレイとかローズが発展したのは結構最近だったって聞いたことあるかも」
栞子「はい。そして、その地方の中で人々はディアンシー様に貰った輝きを糧に発展していきます。ディアンシー様の光は人々やポケモンの心を勇気付け、そのエネルギーによって、地方の中心には雲よりも高い……大きな大きな樹が時間を掛けて成長していきました」
侑「それが音ノ木だよね」
栞子「そうですね。……そして、音ノ木の頂上には、いつしか龍神様が住みつくようになりました」
かすみ「龍神様って、もともとこの地方に居たポケモンじゃないんだ」
栞子「はい。龍神様はもともと成層圏に生息しているので……標高の高い音ノ木は龍神様にとって、居心地がよかったのでしょう。そんな神様たちのもとで……音ノ木を中心とした輝きの地方は、オトノキ地方と呼ばれるようになります」
歩夢「そこまでは、ディアンシー伝説でもあったよね」
栞子「そして、このオトノキ地方を統治していた方たちが、後にダリア王家となります。そして、地方全体が一つの共同体として纏まりを見せ始めた時期に……事件が起きます」
しずく「ディアンシーを巡って……戦争が起こった」
栞子「そのとおりです。ディアンシー様の光は、今で言うヒナギクの辺りには届いていませんでした。さらにヒナギク以北……グレイブマウンテンの向こうには大きな国があったそうです」
41 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:39:05.77 ID:fZboHQww0
栞子ちゃんは本のページを捲りながら言う。
栞子「非常に肥沃な土地だったそうです……。……そのため、発展していて武力にも秀でた国……。……そんな大きな隣国が、まだ国が発足して間もないダリアの国を襲いました」
かすみ「待って待って、しつもーん!」
しずく「もう……話の腰を折っちゃ、めっだよ?」
栞子「いえ、大丈夫ですよ。わからないことには、適宜答えていった方が理解も深まると思います。なんですか?」
かすみ「その隣国って、グレイブマウンテンの向こう側だったんだよね?」
栞子「はい。正確には戦時中に独立集落として存在していたヒナギクも飲み込んで、グレイブマウンテンの南側まで拡大することになるんですが……」
かすみ「でも、グレイブマウンテンの向こう側ってめっちゃ寒いって聞いたよ?」
せつ菜「言われてみれば……。……決して肥沃な土地ではないですね。点々と集落が存在するだけで、人が生きていくにはあまりにも厳しい場所だと言われています」
栞子「それについては……オトノキ戦争の話をする必要がありますね。北の大国がディアンシー様を奪うためにダリア国に侵略を始めました。カーテンクリフやクリスタルケイヴのような自然の城壁があったため、侵略は一筋縄では行きませんでしたが……それでも、相手は大国……ダリア国は窮地に立たされます。ですが、そのとき……龍神様がお怒りになられました。そして、ディアンシーを奪おうと武力を持って押し寄せる隣国を……圧倒的な力で滅ぼしました」
侑「滅ぼした……?」
栞子「はい。それは本当に圧倒的な力だったらしく……気候が変わってしまうほどだったそうです……」
せつ菜「……肥沃な土地が、氷に閉ざされてしまうような気候変動すら引き起こせる力だった……ということですね」
リナ『レックウザは気候を司るポケモンとも言われてる。本気を出したら、そうなるのも無理ないかも』 || ╹ᇫ╹ ||
栞子「龍神様の圧倒的な力によって敵を退けたダリア国では、まさに英雄である龍神様を讃えるようになります」
せつ菜「それがこの地方の龍神伝説の始まりということですね」
栞子「はい。当時はまだ、ポケモンのこともよくわからず、人々にとって畏怖の対象でしかなかったポケモンたちでしたが……龍神様に国の窮地を救われた人々は……龍神様を崇め奉るようになります」
しずく「それが……翡翠の民──栞子さんのご先祖様ってことだね」
栞子「そのとおりです。そして、翡翠の民たちが龍神様への信仰を始めたのと同時期に、ダリアを統治する王が生まれました。ダリアは龍神様の加護を受けたこの地で……大きく発展していきます。……その後、100年程は安定していたと言われています。……が、それも永遠には続きませんでした」
かすみ「何が起こったの?」
栞子「……人々がポケモンと共に力を合わせて生きるようになりました」
侑「え……? それの何が問題なの……?」
栞子「それだけなら問題ではなかった……ですが、人々はポケモンを武力として使うようになったんです」
せつ菜「その言い方だと……ポケモンバトルというほど、規律のあるものではなかったんでしょうね」
栞子「はい……。……力を持った集落が、ディアンシー様の力の恩恵をより多く求めて……地方内の各地で争いが起きたんです。ダリア王家はそれを諫めようと東奔西走したそうですが……広いオトノキ地方を管理しきることは出来ず……人にもポケモンにも……多くの犠牲が出ました。……特にポケモンの犠牲は多かったそうです」
歩夢「……酷い……。……人が始めた戦争なのに……ポケモンを代わりに戦わせてたってこと……?」
栞子「……はい。……そして、その人々の行為は、龍神様の怒りを買いました」
かすみ「え、それってオトノキ地方が滅ぼされちゃうじゃん!?」
栞子「……実際その直前まで行ったそうです。各地を龍神様が攻撃し、争いをする余裕もなくなりました。……気候がおかしくならなかったのは……龍神様が、この地方を気に入られていたからこその慈悲だったと言われています。私たち翡翠の民は、龍神様の怒りを鎮めるために、人身御供として、一生を龍神様のお世話に費やす存在である翡翠の巫女を龍神様のお傍に置き、龍神様と共に……朧月の洞という結界の中から、この地方を俯瞰して見る立場となりました」
歩夢「じゃあ、栞子ちゃんは……」
栞子「……はい。私は本来であれば、死ぬまで龍神様にお仕えするだけの人生のはずでした……」
歩夢「……そう、なんだ……」
栞子「……話を戻します。龍神様は地方のポケモンたちを守るという名目で、多くの人間の命を奪いました。……その結果、龍神様を討伐する考えを持った人間たちが現れました」
そこでなんとなくピンとくる。
恐らくそれが……薫子さんの言っていたリーグの前身組織を形成することになる人たちということだろう。
42 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:40:19.97 ID:fZboHQww0
栞子「ですが、龍神様をやっとの想いで鎮めたというのに……そんな人たちが現れたら、次こそ、この地方は滅ぼされかねない。そう思った翡翠の民は……ダリア王家に彼らを抑えることを求めたんです」
しずく「……話が見えてきました。だから、ダリア王家によって、焚書が行われたんですね」
かすみ「へ? どゆこと……?」
しずく「龍神様が地方を救った英雄譚だけ残し、オトノキ地方の人たちの命を奪ったという事実をなかったことにして……龍神信仰への反発を抑えようとしたんだよ」
栞子「はい……。……実際それは今のオトノキ地方を見れば成功したと言えます。……まさか、こんな形で焚書を逃れた書物が王家の遺した地にあるとは思いませんでしたが……」
せつ菜「確かにそれは妙ですよね……王家からしたら、自分たちで管理していたとはいえ、こんな事実が手元に残っていることは都合が悪いはずなのに……」
歩夢「……怖かったんじゃないかな」
侑「怖かった……?」
歩夢「……王家の人たちは……龍神様が落ち着いてくれても……何かの拍子に滅ぼされちゃうんじゃないかって……だから、こういうことがあったことを完全に忘れちゃうのが……怖かったのかなって……」
侑「……」
栞子「……こればかりは、この書物を遺した人にしかわかりません……。……歩夢さんの言うとおり、畏れだったのかもしれませんし……花丸さんのように書物や歴史は残されるべきと考えた人がいたのか……それはもう今となっては誰にもわからない。……わかるのは、誰かがこれをいつか誰かが知るために遺した……それだけです」
栞子ちゃんはそう言いながら、手に持った本を撫でる。
栞子「龍神様はその後も……地方内のポケモンの命が、人間の手によって脅かされそうになると、度々ポケモンたちを救う為に……人を滅ぼそうとしました。時に私たち翡翠の民が、命を懸けて怒りを鎮めたり……時に勇敢なトレーナーが力を示し、龍神様を抑え込んだこともあったと聞きます。ですが……今回、こんなことになってしまいました……」
こんなこと──つまり、ランジュちゃんがレックウザを解き放ってしまったことを指しているのだろう。
侑「……ランジュちゃんはどうして、レックウザを解き放ったりしたんだろう……」
栞子「わかりません……」
かすみ「あのあの、そもそも今回この騒動を起こしてるランジュ先輩と……ミア、先輩? って何者なんですか?」
栞子「ランジュは私の幼馴染なんです……。翡翠の民は基本的に隠れ里に住んでいるんですが……翡翠の巫女は幼少期に巫女修行としてポケモンと共に異国の山に籠もるんです。……そのとき、同じ師のもとで修業をしていたのがランジュでした。彼女は当時からポケモンの扱いに長けていて……一緒にいたのは1年ほどでしたが……私はランジュと一緒にいろいろな経験をしました……」
歩夢「……大切な、お友達だったんだね」
栞子「……はい。……だから、ランジュがどうして急にこんなことをしたのかが、理解出来なくて……」
せつ菜「ランジュさんは翡翠の巫女のことを知っていたんですか……?」
栞子「……一度だけ、ランジュには話したことがあったんです。……無闇矢鱈に話すものではないとはわかっていましたが……修行が終わって、お互いの故郷へ帰る日に……。……きっと、ランジュには私のことを忘れて欲しくなかったんだと思います……」
侑「栞子ちゃん……」
栞子「でもまさか……それが、こんな事態を招くことになるなんて……。……すみません……」
歩夢「栞子ちゃんのせいじゃないよ……そんなに気に病まないで」
歩夢はそう言って、栞子ちゃんの頭を撫でる。
栞子「歩夢さん……。……ありがとうございます……」
歩夢「とにかく、どうしてこんなことをしたのか……それはランジュちゃんに直接聞かないとだね」
栞子「はい……。……ですが、もう一人……ランジュに協力しているという……ミアさんについては、私は何も知らなくて……」
栞子ちゃんはそう言って目を伏せるけど、
せつ菜「いえ、ミアさんのことなら、知っていますよ。ミア・テイラーさん」
しずく「え……? テイラーってまさかあの……?」
せつ菜ちゃんとしずくちゃんの反応を見て、私もほぼ確信する。
侑「やっぱり……あの有名なテイラー一家だよね」
せつ菜「はい」
せつ菜ちゃんは私の言葉に首を縦に振る。
43 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:41:17.66 ID:fZboHQww0
かすみ「え? なんですか? 有名人なんですか?」
歩夢「わ、私も知らない……」
侑「テイラーって……外国で有名なポケモントレーナーの一家があるんだよ」
しずく「世界でも有数のトレーナー一家で……私も詳しいわけではないので、ミア・テイラーさんについてはわかりませんが……テイラー夫人はポケモンミュージカル女優としても有名な方なので、私は映像で何度も見たことがあります……!」
侑「テイラー家は家族全員がいろんな世界の大会で結果を残してるくらいすごいトレーナーなんだ。私はオトノキ地方のリーグばっかり見てるから……そんなにバトルそのものを見たことはないんだけど……」
せつ菜「……ミアさんはそんなバトル一家の中でも、ポケモンブリーダーとして名を馳せている方なんです。……各地のポケモンのバトル施設において、ポケモンの貸し出しというものがありますが、その半分ほどがミアさんが育てたポケモンとまで言われるくらいポケモン育成に長けた人と言われています」
侑「ミアちゃんはブリーダーなんだ……」
せつ菜「はい。しかも、年齢はまだ14歳……」
かすみ「14歳!? 年下じゃないですか!! 先輩なんて呼んで損した!」
しずく「そういう基準なの……?」
かすみ「それにしても、なんでそんなすごいのがランジュ先輩に手を貸してるんですかね?」
栞子「それも、わかりません……」
侑「やっぱり、なんにせよランジュちゃんたちに会って話してみるしかないね……」
栞子「はい……」
かすみ「んじゃ、そのために宝珠探さないと! どっかに書いてないの?」
栞子「それなら、こちらの書物に記述がありました」
かすみ「あったの!? 見せて!!」
栞子「はい、こちらです」
そう言いながら、栞子ちゃんが開いたページをみんなで覗き込む。
侑「これって……地図……?」
栞子「はい。ダリアシティの真下にある地下壕に隠し宝物庫があるそうです。これはそこの地図です」
しずく「ダリアの真下にある地下壕ってことは……」
かすみ「叡智のゴミ捨て場じゃん!?」
しずく「また行くことになるとはね……あはは」
かすみ「……まあ、行くとわかったら、ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと帰ってきましょう!!」
侑「そうだね。それじゃ、次はダリアの地下だ……!」
私たちは次の目的地を目指す。
🎹 🎹 🎹
──叡智のゴミ捨て場は6番道路から入ることが出来た。
ゴミ捨て場というだけあって……入るためのドアを開けた瞬間、酷い臭気が漂ってきた。
44 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:43:36.42 ID:fZboHQww0
歩夢「…………ぅ…………」
侑「歩夢、大丈夫……?」
歩夢「……うん……大丈夫……」
リナ『歩夢さんは人より五感が鋭いから……ちょっと臭いがきついかもね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「辛いなら、外で待っててもいいよ……?」
歩夢「大丈夫……行こう」
栞子「歩夢さん……無理なさらないでくださいね」
歩夢「うん、ありがとう……」
歩夢に気を配りながら、ゴミ捨て場に入ると──もぞもぞと何かが動いているのが目に入る。
せつ菜「ポケモンでしょうか……?」
しずく「ここには大量のヤブクロンが生息しているんです……」
かすみ「あーもう!! 邪魔邪魔!! ダストダス、行くよー!!」
「──ダストダァス!!!!」
「ヤブゥー!!!?」「ヤブクー!!!?」
かすみちゃんのダストダスが大きな腕を振り回して、ヤブクロンたちを蹴散らしながら、突き進んでいく。
かすみ「今までいじめられた分、100倍にして見返してやりましょう……ニシシ……」
「ダストダァァァス!!!!!」
歩夢「なんか……楽しそう……」
せつ菜「かすみさん、頼もしいですね!!」
私たちは奥へと進んでいきます。
🎹 🎹 🎹
リナ『さっきの地図通りなら、場所はこの辺りだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんのガイドに従いながら、該当の場所に到着したけど、
かすみ「何もないよ……?」
確かに、周囲はゴミ袋が積まれているだけの空間だ。
しずく「まあ、さすがに……宝物庫をそのまま置いているとも思えないので……」
せつ菜「となると……床下でしょうか」
侑「わかった。イーブイ、“きらきらストーム”」
「ブイッ」
イーブイがフェアリータイプの風を吹かせる。
“きらきらストーム”は周囲の毒気も中和できるから、これなら歩夢も苦しくないだろうしね。
“きらきらストーム”によって、足元の塵やゴミを吹き飛ばすと──その下から、取っ手らしきものが出てくる。
45 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:46:15.33 ID:fZboHQww0
せつ菜「ビンゴですね!」
かすみ「ダストダス! 引っ張って!」
「ダストダァッ!!!」
その取っ手をダストダスが思いっきり引っ張ると──鉄板が持ち上がり、そこに階段が現れる。
侑「きっとこの先にありそうだね……! 行こう!」
栞子「はい!」
みんなでゆっくりと階段を降りていくと──小さな空間の中に高そうな壺や、絵画が飾られている小さな部屋があった。
しずく「まさしく……と言った感じですね」
かすみ「ねぇ見て見てー!! 王冠!! これ本物かな〜!? かすみん、初めて見ました〜!!」
しずく「持ってっちゃダメだからね……?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら王冠を眺めるかすみちゃんを傍目に、私たちは宝物庫を奥へと進んでいく。
すると──奥に小さいけれど、まさしくな宝箱があった。
歩夢「栞子ちゃん」
栞子「……はい」
栞子ちゃんがその箱を開けると──中に翠色に輝く珠が納まっていた。
栞子「これが……“もえぎいろのたま”……」
かすみ「わ、きれーっ!」
侑「この珠なら龍脈からエネルギーを集められるんだよね……?」
栞子「はい、そうなんですが……」
栞子ちゃんは少し困った表情をする。
せつ菜「……これがここにあるということは、ランジュさんはどうやって龍脈のエネルギーを集めるつもりなんでしょうか……?」
そう、私たちはランジュちゃんがこの“もえぎいろのたま”を持ち出している可能性を考えて、珠を探していたわけだけど……この宝珠は結局この場にあったわけで……ランジュちゃんはここに来ているわけじゃないらしい。
かすみ「とにもかくにも、それは必要なんでしょ? とりあえず、それ持ってさっさと外に出ない?」
栞子「……そうですね」
栞子ちゃんがかすみちゃんの言葉に頷きながら、珠を手に取ると──パァァァァと輝き出す。
かすみ「わ、光った……!?」
栞子「この珠は龍脈に近付けば近付くほど強い光を発します。ですので、この珠を持ったまま珠が強く光る場所を探せば、龍脈を見付けることが出来ると思います」
せつ菜「となると次は……」
栞子「はい……。もしランジュも龍脈を探しているなら……これの反応従って、私たちも龍脈の在り処を目指しましょう。きっと、そうすればランジュの行き先にかち合うはずです……!」
私たちは“もえぎいろのたま”の光を頼りに、ランジュちゃんを追って、龍脈探しへと進むのであった。
46 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:48:13.14 ID:fZboHQww0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【叡智のゴミ捨て場】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
47 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/13(金) 12:48:49.50 ID:fZboHQww0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:270匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.68 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.64 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.64 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:249匹 捕まえた数:24匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.77 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.75 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:294匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.68 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.68 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.68 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:276匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:197匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
48 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:08:15.31 ID:p9JQiW5R0
■Intermission🔔
ランジュ「──やっとこの宝珠の反応の仕組みがわかってきたわ! ジジーロン! あっちよ!」
「ジーロン…」
ランジュはジジーロンの背に乗りながら、目的の方向を指差す。
ミア「Finally? 随分時間が掛かったじゃないか」
ランジュ「仕方ないでしょ、使ったことないんだから」
ミア「ま、別にいいけど……。……んで、どうすんの?」
ランジュ「この宝珠は龍脈に近付けば近付くほど、光が強くなるみたいよ! そして、光がより強くなるのは──あっちよ!」
ランジュは、南の方を指差す。
ミア「There is ... a forest?」
ランジュ「ええ、コメコの森って言うそうよ!」
ミア「ふーん……」
ランジュたちは龍脈を目指して移動を始めたのだった──
………………
…………
……
🔔
49 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:09:06.32 ID:p9JQiW5R0
■ChapterΔ004 『決戦の森』 【SIDE Yu】
──叡智のゴミ捨て場から出た私たちは、
栞子「反応が強くなっているのは……恐らく東方向です」
せつ菜「では、東に向かって移動しましょう! エアームド、出番ですよ!」
「──ムドー!!」
栞子「ウォーグル、出てきてください」
「──ウォーグ…」
侑「ウォーグル、お願いね」
「──ウォー!!」
しずく「出てきて、アーマーガア!」
「──ガァァァ!!!」
それぞれ飛行用のポケモンをボールから出す。
侑「それじゃ、歩夢」
栞子「歩夢さん」
歩夢「うん♪ また、お願いね、ウォーグル♪」
「ウォーグ…」
歩夢は私が声を掛けるよりも早く、栞子ちゃんに手を引かれて、ヒスイウォーグルの背中に乗る。
侑「あれ……また、そっちに乗るんだ」
歩夢「うん、栞子ちゃん……この地方のこと、あんまりわからないみたいだから……私が見ててあげた方がいいかなって」
侑「確かに……。……それじゃ、お願いね、歩夢!」
歩夢「うん♪」
栞子「すみません……ご迷惑をおかけしてしまって……」
歩夢「気にしないで♪」
栞子「ありがとうございます。……ウォーグル、飛んでください」
「ウォー…」
──バサッバサッと音を立てながら、ウォーグルが飛び立つ。
侑「…………」
「ブイ…?」
せつ菜「侑さん? どうかされたんですか?」
侑「え? あ、いや……いっつも歩夢と一緒に空を飛んでたからかな……歩夢と一緒にいるのに、一人で飛ぶのにちょっと違和感があるというか……」
せつ菜「寂しいのでしたら、私のエアームドに一緒に乗ってもいいですよ! 二人くらいなら楽勝で飛べますから!」
侑「あはは、そんな大袈裟な話じゃないって♪」
せつ菜「そうですか? なら、私たちも急ぎましょう!」
侑「うん、そうだね!」
かすみ「……ねぇ、しず子……あれ、大丈夫なの……?」
しずく「……うーん……」
リナ『……まあ、たまにはいい薬だと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
しずく「……それもそうかもね」
かすみ「困った人たちですね……」
50 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:09:47.66 ID:p9JQiW5R0
侑「リナちゃん、もう飛ぶよー? 腕にくっついててー?」
リナ『はーい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみちゃんたちと話していたリナちゃんが、私の腕に装着される。
侑「かすみちゃんたちと何話してたの?」
リナ『世の中には、自分の気持ちにもなかなか気付けない人がいて大変だなってお話』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「……? そうなんだ……?」
リナ『うん』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「まあ、いいや……! のんびりしてると栞子ちゃんたちを見失っちゃう……!」
「ウォーーッ!!!!」
せつ菜「そうですね! 行きましょう!」
「ムドーーー!!!!」
しずく「かすみさん、ちゃんと乗った?」
かすみ「おっけー!」
しずく「了解。アーマーガア、飛んでください!」
「ガァーー!!!」
私たちは栞子ちゃんを追いかけて、空の移動を始める。
🎹 🎹 🎹
歩夢「……少しずつ、光が強くなってるね」
栞子「はい。恐らく、順調に龍脈に近付いているんだと思います」
せつ菜「この方向ですと……先にあるのは──」
侑「コメコの森……」
私たちの飛ぶ先には──コメコの森が広がっていた。
しずく「森の上からだと、木が邪魔で降りられませんね……」
リナ『一旦降りて地上を移動した方がいいかも』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうだね……。みんな、一旦地上に降りよう」
栞子「わかりました。ウォーグル」
「ウォー」
全員で森の入り口へと降り立つ。
かすみ「ホントに光が強くなってるね」
栞子「はい。恐らく、この森の中に龍脈があるんだと思います……行きましょう」
歩夢「うん!」
栞子ちゃんの手に持った宝珠の光を頼りに、私たちはコメコの森の中へと入っていく──
51 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:11:09.40 ID:p9JQiW5R0
🎹 🎹 🎹
コメコの森に入ると、栞子ちゃんの持っている宝珠はより強く輝きを増していく。
そして、その光に導かれるようにたどり着いたそこは──いつの日か、エマさんが教えてくれた苔むした岩のある場所だった。
栞子「恐らく……ここが、龍脈の地です」
そう言う栞子ちゃんの手に乗せられた“もえぎいろのたま”は、眩く光を放っていた。
そして、私たちが到着するのとほぼ同時に──
ランジュ「あら……?」
私たちが来たのとは逆側から、ランジュちゃんとミアちゃんが現れた。
栞子「ランジュ……! やっと見つけましたよ……!」
ランジュ「栞子……追ってきたの?」
そんなランジュちゃんの手の上には──栞子ちゃんの持っている“もえぎいろのたま”とよく似た宝珠が光を放っていた。
栞子「ランジュ……それは……!?」
ランジュ「ああ、これ? ランジュが作った“みどりいろのたま”よ!」
栞子「“みどりいろのたま”……!? 作ったとは、どういうことですか……!?」
ランジュ「言ったとおりの意味よ。オリジナルの珠が見つからなかったから、この珠を作る研究だけを行う研究所を設立して、作らせたの。世界中から、優秀な研究者を雇ったんだから! それでも、オリジナルよりは龍脈探知の能力が弱いみたいだけど……」
そう言いながら、ランジュちゃんが栞子ちゃんの持っている宝珠と自分の宝珠を見比べる。
確かに、ランジュちゃんの持っている宝珠は栞子ちゃんのものに比べて、少し輝きが弱かった。
ランジュ「作るのに苦労して……これ1個完成させるのに3年も掛かっちゃったけど……ただ、これでも龍脈からエネルギーを集めるのには問題ないわ!」
栞子「そこまでして……貴方は何をしようとしているのですか……?」
ランジュ「もちろん、レックウザを捕まえるつもりよ」
栞子「……やめてください。龍神様をこれ以上、刺激しないでください……」
ランジュ「大丈夫よ、栞子。ランジュがちゃんと捕まえて従えてあげるから! レックウザが暴れ出すことはもうなくなるのよ!」
栞子「そういう話をしているのではありません……!! ランジュ、お願いですから、もうこんなことはやめてください……!」
ランジュ「栞子、全部ランジュに任せておけば無問題ラ! 安心しなさい!」
栞子「ランジュ……!」
栞子ちゃんは必死にランジュちゃんを説得しようとするけど──
かすみ「まるで聞いてませんね……」
歩夢「ランジュちゃん……! 龍神様の力は危ないの……!」
ランジュ「あら、貴方無事だったのね、よかったわ♪ でも、そんなことを言われてもランジュはやめないわ。ランジュがレックウザを捕まえて従える。これは既に決定事項なの!」
ミア「ランジュに何言っても無駄だよ。ランジュの強引さは、度を越えてるから」
栞子「ランジュ……」
ランジュちゃんはまるで聞く耳を持たない。
52 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:11:50.54 ID:p9JQiW5R0
歩夢「侑ちゃん……どうしよう……」
侑「……。……ねぇ、ランジュちゃん」
ランジュ「何かしら?」
侑「……もし、私たちがレックウザを捕まえるって言ったら、どうする?」
ランジュ「……なんですって?」
歩夢「ゆ、侑ちゃん……?」
歩夢が困惑した声をあげる。私はそんな歩夢に、目配せする。私に任せて、と。
ランジュ「ダメよ、レックウザは私が捕まえるって、もう決まってるんだから!」
侑「でも、レックウザは野生のポケモンだよね? 野生のポケモンなら、誰にでも捕まえる権利があるはずだよ」
ランジュ「それは……確かに、そうかもしれないけど……。でも、ランジュが捕まえるって決めてるの! 貴方たちが捕まえるのはダメよ!」
侑「でも、私たちも龍脈のエネルギーを集める手段を持ってる。早い物勝ちなのは構わないけど、ランジュちゃんに私たちを止める権利もないはずだよ」
しずく「──なるほど……」
しずくちゃんは私の意図にいち早く気付いたらしい。
しずく「もし早い物勝ちなんだとしたら……オリジナルの“もえぎいろのたま”を持っている私たちが、先にレックウザにたどり着くことになりそうですね、侑先輩♪」
侑「うん」
ランジュ「ちょっと待って!! それは困るわ……!! それこそ平等じゃないじゃない……!!」
侑「だから、こうしない? レックウザを捕まえるのは──より強いトレーナーが相応しいと思う」
ランジュ「……貴方たちがランジュよりも、優秀なトレーナーだって言いたいの?」
侑「それを決めようって話。私たちと戦って、強い方がレックウザに挑戦する権利を得る。どうかな」
ランジュ「……いいわ。その話乗ってあげる」
ミア「ランジュ、いいのかい?」
ランジュ「どうせ私が勝つわ。全員相手してあげるから、まとめて掛かってきなさい」
ランジュちゃんは自信満々に言うけど、
せつ菜「さ、さすがにそれは出来ません……! 戦うなら一人ずつにしましょう!」
せつ菜ちゃんが困ったように声をあげる。
かすみ「ちょ……せっかく全員で戦えそうなのに……!」
しずく「かすみさん、ポケモンバトルで強い方を決めるならフェアに行かないと、めっだよ?」
しずくちゃんの言葉を聞いて、今度はミアちゃんが口を開く。
ミア「フェアって言うけど……まさかランジュと5人がそれぞれ戦って、そのうち1人でも勝ったらランジュの負け、なんて言うんじゃないよね」
ランジュ「別にランジュはそれでもいいんだけど?」
ミア「いや、ダメだ。ボクの育てたポケモンを使う以上、そのルールは認められない」
確かにミアちゃんの言うとおり、私たち全員が順番に戦って1回でも勝てば、こちらの勝ちなんてルールだとランジュちゃんが不利になりすぎる。
侑「こっちには5人のトレーナーが居るから、1人1戦ずつ……全部で5戦のうち、3勝した方が勝ちって言うのはどうかな」
ミア「……いいだろう。ただ、使用ポケモンは3匹でいいかな? ランジュはボクが育てたポケモンを使うんだけど、ボクのポケモンは基本的に3vs3のルール用にチューンされてるんだ。6vs6用のポケモンだと準備に少し時間が掛かるんだけど……」
53 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:12:35.24 ID:p9JQiW5R0
確かにバトル施設用のポケモンは3vs3を想定されていることが多い。今回はあくまで試合として申し込んでいる。
それに……ランジュちゃんは1人で戦う以上、使用ポケモンは被らせたくないだろうし、毎回6匹を選ぶのはさすがに負担も大きいからこその提案だろう。
侑「わかった。じゃあ、お互い使用ポケモンは3匹で」
ミア「あと同じ種類のポケモンの使用と、道具の使用はなし。持ち物はありだけど、同じ持ち物を持たせるのは禁止。ポケモンの交換は自由。これでいいかい?」
侑「うん、それで大丈夫」
ランジュ「それじゃ、誰が最初の相手かしら?」
侑「それは、ちょっと相談してもいいかな……?」
ランジュ「ええ、構わないわ。誰が出てきてもランジュが勝つだけだから!」
侑「うん、ありがとう、ランジュちゃん」
私はランジュちゃんにお礼を言って、みんなと共に作戦会議を始めた。
🎹 🎹 🎹
侑「……ごめんね、勝手に決めちゃって」
せつ菜「いえ、素晴らしい機転だったと思います!」
歩夢「あのままだと、絶対に何も聞いてくれそうになかったもんね……」
侑「しずくちゃんも……フォローありがとう。助かったよ」
しずく「いえ、お力になれたようでなによりです」
私たちはレックウザを捕獲するつもりはないけど……ランジュちゃんに諦めてもらうにはこれしかなかった。
栞子「すみません……皆さんにまたご迷惑を……」
かすみ「もう、そういうのはいいの! とにかく、しお子は解決することだけ考えてれば!」
栞子「は、はい……! ありがとうございます……かすみさん」
かすみ「とりあえず、勝てばいいんだよね! あの人に!」
しずく「そうだね……私たち図鑑所有者5人で、3勝……」
しずくちゃんの言葉に対して、
かすみ「5人で3勝って言いますけど……もちろん、3勝するためのメンバーは決まってます!」
かすみちゃんがそう答える。
かすみ「かすみんと侑先輩とせつ菜先輩で、さっさと3勝して終わりにしましょう!」
せつ菜「確かに、この5人の中でバトルが得意なのは、私、侑さん、かすみさんですからね!」
リナ『じゃあ、まず誰が戦う?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんの問いに、
かすみ「まずは、かすみんが1勝もぎ取ってきますよ!」
かすみちゃんが名乗り出た。
54 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:13:11.06 ID:p9JQiW5R0
侑「わかった! かすみちゃん、お願いね!」
栞子「かすみさん……よろしくお願いします……!」
かすみ「はい! まあ、軽く勝ってきますよ!」
せつ菜「ポケモンに持たせる道具は私が持っているものをお貸しします!」
かすみ「ありがとうございます! せつ菜先輩!」
かすみちゃんはせつ菜ちゃんからアイテムを受け取り、バトルの準備を始める──
👑 👑 👑
ランジュ「最初の相手は貴方ね?」
かすみ「かすみんは貴方じゃないです! かすみんです!」
しずく「えっと……この子はかすみさんって言います。申し遅れましたが、私はしずくと言います」
ランジュ「かすみとしずくね。……私が倒すことになる子たちの名前。覚えておくわ」
かすみ「……ムッカ……! めっちゃ失礼ですねこの人……! いつまで、その余裕が続きますかね!」
かすみん、ボールを構えます。
ミア「ランジュ、今回のポケモン」
ランジュ「ありがとう、ミア」
ランジュ先輩はミア子からボールが3つ収められたケースを受け取り、こちらに向き直ります。
ランジュ「始めても良いかしら?」
かすみ「ええ、いつでもかかってきやがれです!!」
ランジュ「それじゃ、始めましょうか。露一手给你们看看」
2つのボールが放たれ……かすみん率いる図鑑所有者チームの先鋒戦、開始です!!
👑 👑 👑
かすみ「行きますよ、ブリムオン!!」
「──リムオンッ!!!」
ランジュ「ハッサム。行くわよ」
「──ハッサムッ!!!」
かすみんの1番手はブリムオン、ランジュ先輩の1番手はハッサムです……!
ランジュ「“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが目にも止まらぬスピードで飛び出してきますが──
55 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:13:52.10 ID:p9JQiW5R0
かすみ「“サイコキネシス”!!」
「リムオン!!!」
「ハッサムッ…!!」
ブリムオンは周囲にサイコパワーを展開して、押し返す。
ランジュ「へぇ……!」
侑「先制技の“バレットパンチ”を防いだ……!」
かすみ「防御することだけを考えて展開すれば、狙いを定める必要がない分、速く展開出来ます!」
これも果南先輩に教わった戦法の一つ。
相手が高速の一撃を使ってくるとわかっている場合は、あらかじめ自分の周囲に強引に技を展開しておけば、防げるという寸法です!
名付けて力任せ防御! (もちろん、果南先輩命名ですよ?)
ランジュ「面白いことするじゃない!」
かすみ「どんどん行きますよ!! “マジカルフレイム”!!」
「リムオンッ!!!!」
ブリムオンの周囲に出現した紫色の炎がハッサムに向かって飛んでいきます。
ランジュ「“しんくうは”!!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムはそれを“しんくうは”で的確に撃ち落として行く。
かすみ「むむ……当たれば弱点なのに……!」
ランジュ「少しは楽しめそうな相手で安心したわ!」
そう言いながら、ランジュ先輩が耳に掛かった髪をかき上げると──そこには小さな宝石のようなものが。
あれって……!
かすみ「“キーストーン”……!」
ランジュ「ハッサム! メガシンカ!!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが光に包まれ──巨大なハサミを持ったメガハッサムへと姿を変える。
かすみ「め、メガシンカしても弱点は変わらないもん!」
「リムオンッ!!!」
ブリムオンの周囲に再び“マジカルフレイム”が出現します。
ですが、メガハッサムはそれが飛び出すよりも前に突撃してきて──
ランジュ「“とんぼがえり”!!」
「ハッサム!!!!」
「リムオン…!!!」
ブリムオンに体当たりを食らわせながら、衝突の反動を使ってノックバックする。
かすみ「逃がしません!!」
「リムオンッ!!!」
体勢を崩しながらもブリムオンは“マジカルフレイム”を発射しますが、
56 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:14:27.33 ID:p9JQiW5R0
ランジュ「ロトム! 受け止めなさい!」
「──ロトー!!」
“とんぼがえり”でボールに戻ったメガハッサムの代わりに、洗濯機の姿をしたロトムが、“マジカルフレイム”を真正面から受け止める。
しずく「かすみさん!! ウォッシュロトムにはみずタイプがあるから、ほのお技の効果が薄いよ!!」
かすみ「わかってる!! “サイコショック”!!」
「リムオンッ!!!」
ブリムオンは今度はロトムの周囲にサイコキューブを出現させるけど──
「ロトト!!!」
ロトムは急に電撃を纏って飛び出し──その勢いを乗せたまま電撃を放ってくる。
ランジュ「“ボルトチェンジ”!!」
「ロトト!!!!」
「リムオンッ…!!!」
ロトムは電撃の塊をブリムオンにぶつかた後、ボールに戻っていく。
かすみ「また交換技……!?」
そして、ロトムの代わりに──
「ハッサムッ!!!」
再び飛び出してきたメガハッサムが“サイコショック”を代わりに受け止める。
もちろん、はがねタイプのメガハッサムにはエスパータイプの“サイコショック”は効果が薄い。
ランジュ「全然効いてないわよ!」
かすみ「ぐ、ぐぬぬ……」
せつ菜「“とんぼがえり”と“ボルトチェンジ”を使って攻撃しながら、自分の苦手なタイプの攻撃を交換先が受け止める……よく考えられています」
かすみ「せつ菜先輩、何感心してるんですかぁーーー!?」
せつ菜「あ、すみません……つい……」
ランジュ「ふふ、オーディエンスもランジュの華麗なバトルに魅了されてるみたいね♪」
かすみ「なら、どっちにも通りやすいタイプで攻撃するだけです!! ブリムオン、“ぶんまわす”!!」
「リムオンッ!!!!」
ブリムオンが頭に付いている触手を“ぶんまわす”。
ランジュ「ハッサム! こっちも“ぶんまわす”よ!」
「ハッサム!!!」
伸びてくるブリムオンの触手を、メガハッサムのハサミが弾き返す。
距離を置いて牽制しながら──
かすみ「“シャドーボール”!!」
「リムオン!!」
ハッサムにもロトムにも通る“シャドーボール”を発射する。
57 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:20:47.76 ID:p9JQiW5R0
ランジュ「“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ…!!!」
ランジュ先輩は、影の球を弾丸のような拳で相殺しようとしますが──“ぶんまわす”の相殺をした直後で判断が少し遅れたようです。
“シャドーボール”を散らし切ることが出来ず、影の球がハッサムのハサミを飲み込むように包み込んだあと、爆発して、
「サムッ…!!!」
ハッサムにダメージを与える。
かすみ「よし、いいよ! ブリムオン!」
手応えありです……!
しずく「……っ……!」
しず子が息を飲む声が後ろから聞こえてくる。
かすみ「ふふ……どうですか、かすみんの華麗な作戦でオーディエンスを魅了し返してやりましたよ!」
しずく「……かすみさんが……っ……複雑なタイプ相性を理解してる……っ……」
かすみ「何に感動してんの、しず子ぉーーー!!!?」
かすみんのオーディエンスは失礼な人しか居ないんですか!?
ランジュ「確かにあくタイプやゴーストタイプなら、ハッサムにもロトムにも通るけど……」
「ハッサムッ!!!!」
ランジュ「それじゃ、威力が足りないわ!」
「ハッサムッ!!!」
ハッサムが再び突っ込んでくる。
また、“とんぼがえり”……! でもやってくることがわかるなら──
かすみ「サイコショック!!」
「リムオンッ!!!」
最初からロトムに向かって使う技を準備しておくだけ……!!
だけど、メガハッサムが使ってきたのは──
ランジュ「“アイアンヘッド”!!」
「ハッサムッ!!!」
「リムオンッ…!!?」
かすみ「“とんぼがえり”じゃない!?」
アイアンヘッドに吹っ飛ばされるブリムオン。
一方メガハッサムは、遅れて襲い掛かってくる、“サイコショック”を難なく耐える。
ランジュ「そんな単調な攻撃しないわ!」
かすみ「く……」
「リ、リムオン…ッ」
ランジュ「あら……? 弱点の攻撃なのに耐えたのね……。……“リリバのみ”ね」
“リリバのみ”ははがねタイプの攻撃を1回だけ半減する“きのみ”です。
持たせておいてよかった……。
58 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:21:44.36 ID:p9JQiW5R0
ランジュ「でも、“リリバのみ”が使えるのは一回きり。もう次はないわよ!」
「ハッサムッ!!!!」
ハッサムが突っ込んでくる。
かすみ「力任せ防御ですぅ〜!」
「リムオンッ!!!」
突っ込んでくるメガハッサムをサイコパワーで無理やり押し返す。
今回は“とんぼがえり”だったらしく、メガハッサムがボールに戻り、
「──ロトト」
再びロトムが飛び出してくる。
ランジュ「ふふ、その防御、確かにすごいけど……連発出来ないのかしら?」
かすみ「……ギクッ」
ランジュ「やっぱり図星みたいね」
確かに、この力任せ防御は、文字通り力任せにサイコパワーを解放する分、かなり無駄も多い。
防御範囲は広いけど……連発すると、すぐにブリムオンがバテちゃうという欠点があります。
かすみ「でも、かすみん考えましたよ!! そもそも、こっちの攻撃が遅いのが原因なんです!! 上さえ取っちゃえば、関係ありません! “トリックルーム”!!」
「リムオンッ!!」
周囲の空間が歪み始める。
かすみ「こうすれば素早さは逆転です!! ブリムオン──」
逆転した素早さで、攻撃に転じようとした──そのとき、
ランジュ「“ハイドロポンプ”!!」
「ロトーーーーッ!!!!!」
「リムオンッ…!!!?」
かすみ「……!?」
ブリムオンが強烈な水流によって、吹っ飛ばされた。
かすみ「ぶ、ブリムオン……!!」
かすみんは吹っ飛ばされたブリムオンに駆け寄りますが──
「リ、リム…オン…」
ハッサムの攻撃によって、体力を削られていたこともあって……耐えきれずに戦闘不能になってしまいました。
かすみ「そ、そんな……」
ランジュ「確かに、対抗策としては間違ってないけど……“トリックルーム”は展開するのには隙がある。その間に大技を撃ち込ませて貰ったわ。少し判断が遅かったわね」
かすみ「……ぐぬぬ……」
かすみんはブリムオンをボールに戻しながら立ち上がります。
かすみ「相手はウォッシュロトム……それなら、とにかく相性がいいので速攻片を付けますよ!! ジュカイン!!」
「──カインッ!!!!」
59 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:22:17.31 ID:p9JQiW5R0
かすみんは2匹目にエースのジュカインを投入します。
でも、
せつ菜「かすみさんっ!? 今、ジュカインはまずいです!!?」
後ろから、せつ菜先輩の声が響く。
かすみ「へ?」
しずく「かすみさん!! まだ、“トリックルーム”中……!!」
かすみ「…………しまった……!?」
“トリックルーム”の中では遅いポケモンほど速く、速いポケモンほど遅くなる。
そして、ジュカインは──とびきり速い、高速アタッカー。
ランジュ「ここでミスなんて、勝つ気あるのかしら? ロトム!! “ボルトチェンジ”!!」
「ロトトトトッ!!!!」
「カインッ…!!!」
ジュカインが“ボルトチェンジ”を受け、そして代わりに出てきたハッサムがボールから飛び出す──
それと同時に──かすみんは思わずニヤッと笑ってしまった。
かすみ「ミスなんて……──してるわけないじゃないですか〜♪」
直後、攻撃を食らったジュカインの姿がブレる。
ランジュ「……なっ!?」
かすみ「“かえんほうしゃ”!!」
「──ゾロ、アーーーーークッ!!!!!!」
「ハッサムッ…!!!?」
ジュカインもとい──ゾロアークが噴き出した“かえんほうしゃ”が交代先のメガハッサムに直撃した。
ランジュ「ジュカインじゃなくて、ゾロアーク……!? く……!! ハッサム……!!」
「ハッ…サムッ!!!!」
とびきり苦手な炎の中から、ハッサムが気合いで飛び出してくる。
──もちろん、それも想定済み。
この技の切りどころは──ここです……!!
ランジュ「“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!」
かすみ「“みきり”!!」
「ゾロアークッ!!!!」
ゾロアークがハッサムの拳を、掠めるように回避し、
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ゾロアーーークッ!!!!」
「ハッサムッ…!!!?」
メガハッサムにトドメの一撃を食らわせたのでした。
“かえんほうしゃ”を受けた直後に、ダメ押しの“ナイトバースト”を食らったメガハッサムは──
60 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:32:23.61 ID:p9JQiW5R0
「ハッ…サムッ…」
さすがに耐えきれずに崩れ落ちたのでした。
ランジュ「う、嘘でしょ……」
かすみ「いやぁ〜良い顔になったじゃないですか!」
ランジュ「……ちょっと驚いただけよ」
そう言いながらランジュ先輩は、
「──ロトト!!!」
再びロトムを繰り出す。
ランジュ「まだ、“トリックルーム”は継続中よ……!」
確かにロトムの方がゾロアークより遅いポケモンなので、このままだと、ロトムの方が“トリックルーム”の中では速く動けることになりますが──
かすみ「ん〜、でもでも〜、そのゾロアークはどこに行っちゃったんでしょうかね〜?」
ランジュ「え……?」
ランジュ先輩はかすみんの言葉にハッとする。
気付けばゾロアークがフィールド上から姿を消していた。
ランジュ「ゾロアークはどこ……!?」
「ロ、ロト…」
かすみ「正解は〜……森の中でーす♪」
「──ゾロアークッ!!!!」
ゾロアークがロトムの横にある木の陰から勢いよく飛び出す。
ランジュ「!?」
「ロトッ!!!?」
かすみ「“はいよるいちげき”!!」
「ゾロアーーークッ!!!!」
「ロトトッ…!!!」
猛スピードでロトムの背後を取ったゾロアークが鋭い爪で切り付ける。
ロトムは怯みながら、ゾロアークから離れる。
かすみ「タフですね〜……」
よく見たらロトムは“オボンのみ”を食べて回復を試みていた。
どうりでタフなわけです。
ランジュ「なんでそんなに速いの……!? “トリックルーム”はまだ続いてるはずなのに……!?」
かすみ「自分で使うのに、“トリックルーム”の生かし方をわかってないわけないじゃないですか〜♪」
逃げるロトムを、
「ゾロアーークッ!!!!」
61 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:33:09.51 ID:p9JQiW5R0
ゾロアークが、猛スピードで追いかける。
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ゾロアーークッ!!!!」
ランジュ「“じゅうでん”!!」
「ロトトッ!!!」
ロトムは咄嗟に“じゅうでん”し、自分の特防を高めて、“ナイトバースト”を受け止めますが、
かすみ「“うっぷんばらし”!!」
「ゾロアーーークッ!!!!!」
「ロトッ…!!!」
今度は“うっぷんばらし”を叩き付ける。
“うっぷんばらし”は直前に能力を上げた相手への威力が倍増する技です!!
ですが、ロトムはかなりタフで──
「ロ、ロトト…!!!」
満身創痍ながら、どうにか耐えて逃げ出す。
それと同時に──周囲の歪んだ空間が元に戻る。
“トリックルーム”の時間が終わったらしい。それと同時に、ゾロアークの動きが遅くなる。
かすみ「おっとと……それじゃ、“こうそくいどう”!!」
「ゾロアーークッ!!!!」
遅くなった素早さをフォローするように、“こうそくいどう”で素早さを上げて、再びロトムを猛追し始める。
ランジュ「ロトム!! “ほうでん”!!」
「ロトト!!!」
追いかけるゾロアークに対して、範囲攻撃の“ほうでん”で牽制してきますが──さっき食らわせた“はいよるいちげき”の効果で特攻が下がっていることもあり、ゾロアークの勢いを止めるに至らない。
ランジュ「く……!!」
かすみ「さぁ、決めますよ……!!
「アーーークッ!!!!」
ゾロアークがロトムに向かって飛び掛かり、
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ゾロ、アーーーークッ!!!!」
「ロトーーーーッ…!!!?」
ロトムに暗黒の衝撃波を直撃させる。
度重なる攻撃によって、
「ロ、ロト、ト…」
ロトムは力尽きて墜落したのでした。
ランジュ「……ロトム、戻りなさい」
62 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:34:07.67 ID:p9JQiW5R0
ランジュ先輩はロトムをボールに戻しながら、悔しそうにする。
ランジュ「……貴方のゾロア―ク……妙に遅かった。……“ルームサービス”ね」
かすみ「そーゆーことです!」
かすみんはえっへんと胸を張ります。
“ルームサービス”は“トリックルーム”の中に入ると発動して、自分の素早さを下げてくれる道具です。
“トリックルーム”の中で素早さが下がるということは……つまり、“トリックルーム”の中で速くなるということ。
欠点としては、“トリックルーム”が切れたあとも素早さが下がりっぱなしだってことなんですけどね……。
ランジュ「……あの“トリックルーム”の中で間違えてジュカインを出したように言ったのも演技……。……騙されたわ」
かすみ「ふふん♪ どんなもんですか〜♪」
かすみん、果南先輩に稽古を付けてもらって、パワーファイトが出来るようになりましたけど、やっぱり一番得意なのは化かし合いなんですよね〜♪
さぁ、これでランジュ先輩の手持ちは残り1匹です……!
🎹 🎹 🎹
せつ菜「かすみさん……すごいです……! 一瞬で劣勢を覆してしまいました……!」
しずく「かすみさんの戦い方は心臓に悪いです……」
確かに危なっかしい戦い方に見えるけど……かすみちゃんは劣勢の中でも諦めないどころか、逆転の展開を作り出せる。
半年前に比べて、その戦い方にさらに磨きが掛かっている気がする。
侑「なにはともあれ、これでランジュちゃんのポケモンはあと1匹……!」
そんな中、ミアちゃんが、
ミア「……ランジュ。何苦戦してるんだよ」
ランジュちゃんに向かって文句を口にする。
ランジュ「ちょっと油断したわ」
ミア「……まさか、負けるなんて言わないよね」
ランジュ「まさか。それこそありえないわ」
そう言って、ランジュちゃんは3匹目のボールをフィールドに向かって放り投げた──
👑 👑 👑
かすみ「さぁ、この調子で勝ち切るよ! ゾロアーク!」
「ゾロアーークッ!!!」
さぁ、ランジュ先輩の3匹目は……!
63 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:34:57.12 ID:p9JQiW5R0
「──ラティ…」
かすみ「……ん……」
見たことがないポケモンだった。
青と白のボディで長い首と滑空出来そうな大きな翼が特徴のポケモン。
ただ、他のみんなはあのポケモンが何か知っていたようだった。
しずく「ラティ……オス……?」
侑「う、うそ……」
せつ菜「ラティオス……!? 伝説の……ポケモン……!?」
かすみ「え? 伝説のポケモン……!?」
かすみんは図鑑を開いて確認する。
『ラティオス むげんポケモン 高さ:2.0m 重さ:60.0kg
見た ものや 考えた イメージを 相手に 映像として
見せる 能力を 持つ。 腕を 折り畳むと 空気抵抗が
減って ジェット機 よりも 速く 空を 飛ぶことが出来る。』
ランジュ「そうよ。半年前からこの地方に現れ始めた、伝説のポケモンの1匹よ!」
かすみ「で、伝説だかなんだか知りませんけど……! かすみんたち、ウルトラビーストも倒したことあるんですからね!! 行くよ、ゾロアーク!!」
「ゾロアーークッ!!!」
かすみんの指示で、ゾロアークが飛び出します。
ですが──
「ラティ…!!!」
ラティオスは、まさに目にも止まらぬスピードで飛び出し、飛び掛かるゾロアークを避けながら、空に飛び立っていきます。
かすみ「逃がしちゃだめ!! “スピードスター”!!」
「ゾロアーーークッ!!!!」
空に逃げるラティオスに向かって、星型のエネルギー弾を発射する。
ランジュ「“ラスターパージ”!!」
「ラティッ!!!!」
ですが、ラティオスが眩い光を放つと、その光に飲み込まれるようにして、“スピードスター”は掻き消えてしまう。
そして、空にいるラティオスの口に──ドラゴンのエネルギーが集束を始める。
かすみ「や、やば……!?」
ランジュ「“りゅうのはどう”!!」
「ラーーーティィッ!!!!!」
空から猛スピードで“りゅうのはどう”が降ってくる。
避ける余裕もなく──
「ゾロアーーークッ…!!!!」
ゾロアークに攻撃が直撃した。
64 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:35:58.60 ID:p9JQiW5R0
かすみ「ゾロアーク……!?」
「ゾロ…アーーク…」
連戦のダメージもあったせいか、ゾロアークは一撃で戦闘不能になってしまった。
かすみ「も、戻って……!」
「ゾロ、アーク…──」
ランジュ「さぁ、これでイーブンね」
かすみんは3匹目のボールに手を掛ける。
ただ、3匹目はゾロアークが“イリュージョン”をしていた時点で、確定しています。
かすみ「行くよ、ジュカイン!」
「──カインッ!!」
かすみ「メガシンカ!!」
“メガブレスレット”を光らせ、ジュカインをメガシンカさせる。
「カァァインッ!!!!」
まずは地面に叩き落とす……!!
かすみ「ジュカイン!!」
「カインッ!!!」
ジュカインは周囲の木を猛スピードで登り──木のてっぺんから、ラティオスに向かって踏み切る。
飛び掛かってくるジュカインに向かって、
ランジュ「ラティオス!! “りゅうのはどう”!!」
「ラーーティィッ!!!!」
先ほどと同じ技の“りゅうのはどう”。
かすみ「ならこっちも“りゅうのはどう”です!!」
「カァーーーインッ!!!!!」
ジュカインも口から“りゅうのはどう”を発射し、空中でお互いのドラゴンエネルギーが衝突する。
お互いのエネルギーが空中で爆ぜ、空気を震わせる中──
「カァインッ!!!!」
ジュカインは空中で身を捩って、尻尾をラティオスに向け──
かすみ「“リーフストーム”!!」
「カインッ!!!!」
“リーフストーム”を纏ったしっぽミサイルを発射する。
爆発する“りゅうのはどう”が目くらましになったのか──
「ラティッ…!!!」
65 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:36:37.39 ID:p9JQiW5R0
しっぽミサイルがラティオスに直撃し、体勢を崩させる。
さらに畳みかける……!!
ジュカインはさらに身を捻り──
かすみ「“ソーラーブレード”!!」
「カァインッ!!!!」
特大の陽光剣を横薙ぎに振るう。
ランジュ「ラティオス!! “サイコキネシス”!!」
「ラティィッ!!!!」
だけど、ラティオスはサイコパワーで力場を発生させ、無理やり“ソーラーブレード”を押し止める。
ランジュ「“れいとうビーム”!!」
「ラァァーーーティィィィッ!!!!!」
かすみ「い……っ!? それはヤバイです!? ジュカインっ!!」
「カインッ…!!!」
ジュカインは“ソーラーブレード”を解除し、背中にある空気の詰まったタネを爆発させて、空中で無理やり軌道を変えて、“れいとうビーム”を回避する。
外れた“れいとうビーム”は森の木に当たって、一気に凍り付かせていく。
栞子「ら、ランジュ……!! 自然を傷つけてはいけません!!」
ランジュ「ええ!? バトル中に無茶言わないでよ!?」
かすみ「大丈夫だよ、しお子!!」
「カインッ!!!」
着地したジュカインが、背中のタネを凍り付いた木に投げつけると──メキメキと音を立て、表面の氷を割り砕きながら急成長を始める。
そして、その木はそのまま空中のラティオスを絡め取る。
「ラティ…!!!?」
ランジュ「な……!?」
かすみ「さぁ、捕まえましたよ……!! ジュカイン!!」
「カインッ!!!!」
ジュカインが集束“ソーラーブレード”を作り出す。
ランジュ先輩はそれが大技だと一瞬で判断したのか──
ランジュ「ラティオス!! “りゅうせいぐん”!!」
「ラティッ…!!!」
ラティオスが“りゅうせいぐん”を降らせ、自身を絡め取っている木を流星で破壊し始める。
ジュカインはその間に、再び木を駆け上がり──集束“ソーラーブレード”で流星を斬り裂きながら、ラティオスへと迫る。
あと、少しで届く……!! そんな距離に迫ったところで、
「ラティッ…!!!」
拘束から逃れたラティオスが、ジェット機のようなスピードで飛び出し、ジュカインの攻撃をギリギリのところで回避する。
66 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:37:18.87 ID:p9JQiW5R0
かすみ「逃がさない……!! “スケイルショット”!!」
「カァインッ!!!!」
ジュカインが全身から鱗を発射する。
ランジュ「“ラスターパージ”!!」
「ラティッ!!!!」
逃げるラティオスに迫っていく鱗が、“ラスターパージ”で蹴散らされる。
かすみ「逃がさないって言ってんでしょ!!」
「カァインッ!!!!」
ジュカインが森の樹上から、特大の“ソーラーブレード”を縦薙ぎに振るう。
「ラティッ…!!!?」
──やっと捉えた……!!
“ソーラーブレード”によって、森に墜落するラティオス。
今すぐ追撃をと思い、地上に降りてきたジュカインと一緒に走りだろうとした瞬間──
「ラティッ!!!!」
「カインッ…!!!?」
ラティオスは低空飛行で森の木々を掻い潜りながら、ジュカインに突撃してきた。
「カインッ…!!!」
突き飛ばされながらも、ジュカインは受け身を取るけど──
ランジュ「“ドラゴンクロー”!!」
「ラティッ!!!」
ラティオスはそこに畳みかけるように、竜の爪で引き裂こうとしてくる。
かすみ「“リーフブレード”!!」
「カインッ!!!」
──ギィンッ!! 硬い物がぶつかり合う音が森の中に響き渡る。
「カインッ…!!!」
「ラティッ…!!!」
2匹の斬撃が鍔迫り合う中、
「ラティッ!!!」
ラティオスが、口を開く。
ランジュ「“りゅうのいぶき”!!」
「ラーーーティィィッ!!!」
「カァインッ…!!!?」
かすみ「ジュカイン!?」
67 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:38:13.17 ID:p9JQiW5R0
顔に“りゅうのいぶき”を直撃させられ、体勢を崩したジュカインは“ドラゴンクロー”に弾かれるようにして、地面を転がる。
ランジュ「“サイコキネシス”!!」
「ラーーーティィィッ!!!」
そして、そこに畳みかけるようにサイコパワーが衝撃波となって、ジュカインに襲い掛かってくる。が、
かすみ「集束ッ!!!」
「カインッ!!!!」
ジュカインは受け身を取って立ち上がり、すぐさま集束“ソーラーブレード”を構える。
かすみ「諦めなければッ!! 斬れないものなんてないッ!!!!」
「カインッ!!!!!」
ジュカインは、“サイコキネシス”を──真っ向から斬り裂いた。
ランジュ「嘘……!?」
「ラティ…!!!?」
まさか、“サイコキネシス”という実態のないものを、斬り裂かれて無効化されると思っていなかったであろうランジュ先輩とラティオスは、驚きの表情を見せる。
かすみ「そのまま、斬り裂けぇッ……!!」
「カインッ!!!!」
ジュカインが集束“ソーラーブレード”を構えて、ラティオスに斬りかかる。
ランジュ「ラティオス!! 加速しなさい!!」
「ラティ…!!!」
ラティオスは逃げるどころか、ジュカインに向かって急加速し──
「ラティッ!!!」
ジュカインの太刀筋を掠めるように、身を逸らしながら、横を通り過ぎる。
が──
「ラティッ…!!」
ラティオスが苦悶の表情を浮かべながら墜落し、地面を滑る。
ジュカインの太刀を躱しきれなかったらしく──翼に斬り傷が入っていた。
ランジュ「ラティオス……!」
「ラ、ラティ…!!」
翼に斬撃を受けたラティオスはもうさっきみたいに自由に飛べない。
かすみ「これで……終わりです!!」
「カインッ!!!!」
ジュカインがラティオスに最後の一太刀を振り下そうとした──瞬間。
「カ、インッ…!!!」
かすみ「……え……!?」
ジュカインの体を──上から何かが押しつぶした。
「カ、カイ…ン…」
68 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:40:40.66 ID:p9JQiW5R0
それが決定打となり──ジュカインはその場で倒れてしまったのだった。
かすみ「え、な、なに……?」
ミア「……未来に攻撃してたみたいだね」
ミア子の言葉で、なんとなく何をされたのかを理解した。
かすみ「“みらい……よち”……」
ランジュ先輩は、逃げ回っていたように見えて……ラティオスに攻撃を設置させていたということだ。
かすみ「……あと……ちょっとだったのに……」
私は、思わず膝をついてしまった。
……そのとき、
ランジュ「……かすみーっ!!」
かすみ「わひゃぁっ!!?」
ランジュ先輩が抱き着いてきた。
かすみ「え、なに!? なんですか!?」
意味が解らず、目をぱちくりとさせてしまう。
ランジュ「かすみ、すごかったわ!! このランジュがこんなにギリギリの戦いを強いられるなんて思わなかった!! すっごく楽しいバトルだったわ!!」
かすみ「え……は、はぁ……」
ランジュ先輩は目をキラキラと輝かせながら、最初の態度が嘘のように、かすみんのことを賞賛していた。
ランジュ「ねぇ、またバトルしましょう! かすみとなら、また楽しいバトルが出来ると思うわ!」
かすみ「え、えっと……は、はい……?」
──ランジュ先輩は心の底から、またかすみんとバトルがしたいと言っていた。
なんというか……あまりに天真爛漫というか、無垢というか、その素直な言葉は……嘘というものを全く感じさせないものだったんです。
かすみ「……あ、あの……ランジュ先輩……そろそろ離してください。……かすみんたち、敵同士なんですから……」
ランジュ「あら、ランジュはもう敵とは思ってないんだけど……こんなに楽しいバトルが出来るなら、ランジュはかすみとお友達になりたいわ!」
かすみ「…………」
なんか調子狂いますねぇ……。
かすみ「とにかく……離してください……」
ランジュ「もう……仕方ないわねぇ……」
やっとの思いでランジュ先輩を引き剥がすのと同時に、かすみんたちのもとに──
しずく「かすみさん……!!」
しず子たちが駆け寄ってくる。
69 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:41:26.02 ID:p9JQiW5R0
せつ菜「かすみさん! ナイスファイトでした!」
侑「うん! すっごく熱いバトルだったよ! すっごくときめいちゃった!」
かすみ「でも……負けちゃいました……」
歩夢「大丈夫だよ、かすみちゃんの頑張り……ちゃんと伝わったから!」
かすみ「皆さん……」
栞子「かすみさん……全力で戦ってくれて、ありがとうございました」
かすみ「うぅん……ごめん。負けちゃって……」
栞子「いえ……そんな……気に病まれないでください」
かすみん、勝ちをもぎ取ってくるって言ったのに……さすがにちょっと凹みます……。
ミア「何はともあれ、まずはランジュの1勝だ。異論はないね」
かすみ「……認めたくはありませんけど……。……かすみんの負けです……」
ランジュ「それじゃ、次は誰が相手してくれるのかしら?」
ミア「あれだけのバトルの後に連戦するつもりか? 今日はここまでだ」
ランジュ「ええ? なんでよ? ランジュ、まだ戦えるわよ?」
ミア「ベストコンディションで戦えた方が、ランジュも楽しいだろ?」
ランジュ「……それもそうかもしれないわね」
ランジュ先輩はミア子の言葉に納得して頷く。
ミア「というわけで、次の試合は後日でいいかい?」
侑「わかった」
せつ菜「では、次の試合の場所と日取りは……」
ミア「なら次の龍脈の地にお互いがたどり着いたタイミングでどうだい? どうせ、お互い龍脈を巡る必要があるんだし」
侑「……わかった。みんなもそれでいいかな?」
侑先輩の確認に、全員が頷く。
ミア「それじゃ、また後日。龍脈の地で第二試合ってことで」
ランジュ「次のバトルも楽しみにしてるわ!」
そう残して、二人は森をホシゾラシティ方面へと歩いて行ってしまうのでした……。
👑 👑 👑
せつ菜「そういえば龍脈の地というのは複数あるんですよね? 私たちとランジュさんたちで、別々の場所に行ってしまったりしないんですか?」
せつ菜先輩の疑問に、
栞子「いえ……龍脈には順番があるので、ここの龍脈エネルギーを集めきった宝珠は次の龍脈を指し示すはずです」
しお子がそう答える。
70 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:42:01.82 ID:p9JQiW5R0
かすみ「それじゃ、とりあえず次の龍脈を探しますか……?」
侑「いや……さすがに今日はもう休んだ方がいいかな。かすみちゃんもあのバトルの後に探索はきついだろうし」
歩夢「それじゃ、今日はコメコに泊まろっか」
リナ『それがいいかもしれないね』 || ╹ ◡ ╹ ||
せつ菜「私、ひとっ走り行って、宿がないか探してきますね!!」
言うが早いか、せつ菜先輩はコメコシティに向かって走り出してしまった。
侑「あ、せつ菜ちゃ……行っちゃった」
歩夢「私たちも行こっか」
かすみ「そうですねー……」
みんなでぞろぞろと移動しようとした、そのとき、
しずく「あ、ちょっと待ってください」
しず子が声をあげる。
かすみ「どしたの? しず子」
しずく「えっと……私とかすみさんは、少し用事があるので、先に行ってもらってもいいですか?」
かすみ「え?」
用事……? そんなのあったっけ……?
侑「構わないけど……暗くなる前には、コメコに来るんだよ? 夜の森は危ないから……」
しずく「はい、心得ています」
栞子「それでは……お先に失礼します」
歩夢「二人とも、また後でね」
皆さんは、かすみんたちを残して、コメコに向かって行ってしまった。
かすみ「……んで、用事って何? なんかコメコの森でやることなんてあったっけ?」
かすみんが小首を傾げながら訊ねると──急にしず子に抱きしめられた。
かすみ「し、しず子……?」
しずく「……もう、大丈夫だよ」
かすみ「いや、だから、何が……」
しずく「私しか居ないから」
かすみ「……ぇ……」
しずく「ホントは……泣くほど悔しいのに、我慢してることくらい……わかってるから」
かすみ「………………ぁ」
しず子にそう言われた途端──意識して考えないようにしていた感情が、どんどん胸の奥底から溢れ出してきて、
かすみ「…………ぅ…………ぐす…………」
ポロポロポロポロと涙が零れ出す。
71 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:42:40.99 ID:p9JQiW5R0
かすみ「…………かす、みん…………っ…………ホントは……勝たなきゃ……いけなかったのに……っ…………ひっく…………っ…………」
しずく「…………うん」
かすみ「…………みんなのため、に……勝たなきゃ…………いけなかったのに……っ……」
大事な初戦だったはずなのに……。
かすみ「…………わた、し……まけ、ちゃった……っ……」
しずく「…………でも、かっこよかったよ……」
かすみ「…………かた、なきゃ……っ、だめだったのに……っ」
しずく「…………よしよし…………大丈夫だよ…………」
かすみ「…………わた、し…………まだ、よわ、くって……っ」
しずく「そんなことないよ……かすみさんは強い……私が保証する」
かすみ「…………ぅ……ぇぐ……っ……ぃっぐ……っ……」
しずく「……よしよし……」
かすみ「…………ぅぇぇぇぇぇ……っ……」
静かな静かなコメコの森に……かすみんの泣く声が、静かに響くのだった──
🎹 🎹 🎹
コメコシティに着くと、
せつ菜「皆さーん!!」
せつ菜ちゃんがこちらに駆けてきた。
せつ菜「ちょうど3人部屋が2部屋だけ残っていました! 運がよかったです!」
リナ『ギリギリだったね。コメコは宿が少ないから……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
そういえば、前も宿探しには困ったことがあったっけ……。
侑「ありがとう、せつ菜ちゃん」
「ブイ♪」
せつ菜「いえ! どういたしまして!」
とりあえず、宿は確保出来た……。
そんな中──
栞子「…………」
栞子ちゃんがしきりに周囲をキョロキョロと見ていることに気付く。
72 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:43:26.34 ID:p9JQiW5R0
歩夢「栞子ちゃん? どうかしたの?」
栞子「あ、いえ……。……この町には随分ポケモンが多いなと思いまして……」
せつ菜「確かに、コメコは町中にいるポケモンがすごく多いところかもしれません」
侑「この町は、ポケモンと一緒に生活してる町だからね」
「イブィ」
栞子「ポケモンと一緒に……ポケモントレーナーがたくさんいるということですか?」
歩夢「うぅん、そうじゃなくて……ポケモンと一緒に農業をしながら毎日暮らしてるんだよ」
栞子「い、今でもですか……?」
歩夢「うん、そうだよ。町の北側に行くと、大きな農業地帯と牧場があって、そこだともっと多くのポケモンが人と協力して毎日頑張ってるんだよ♪」
栞子「ほ、本当ですか……?」
栞子ちゃんは目を丸くする。
栞子「……今の時代は……人と関わるほとんどのポケモンが、モンスターボールに入って、人に従っているんだと思っていました……」
歩夢「そんなことないよ? 私の家も、一緒に住んでる子たちは常にボールの外に居たし……」
せつ菜「人とポケモンは、お互いこの地方に生きる仲間ですからね。私の住んでいるローズシティみたいに、ポケモンが街中に居ない方がむしろ特殊なくらいです」
リナ『コメコはローズとは真逆かもね。この町は何百年も前から、ポケモンと共に生きてきて、その形が今も続いてる町だから』 || ╹ ◡ ╹ ||
栞子「そう……なのですね……」
栞子ちゃんはそう言いながら、町中を歩いているドロバンコを目で追いかけている。
歩夢「……気になるなら、今からコメコ牧場に行ってみる?」
栞子「え、い、いいのですか……!?」
歩夢「うん♪ コメコ牧場は私も好きだから、栞子ちゃんにも知って欲しいなって♪」
せつ菜「確かに、見られるときに見ておくのはいいことだと思いますよ」
侑「そうだね。せっかく、朧月の洞の外に居るんだし……この機会に、この地方のいろんなものに触れてみるのもいいかもしれないね」
栞子「……はい。あの……よ、よろしくお願いします……歩夢さん……!」
歩夢「うん♪ それじゃ私、栞子ちゃんと牧場まで行ってくるね!」
せつ菜「それでは私は夕食の準備をして待っていますね!!」
歩夢「……みんなでコメコ牧場まで行こっか♪ 牧場の搾りたての“モーモーミルク”を使ったメニュー、エマさんにたくさん教えてもらったんだ♪ 私がみんなに作ってあげるね♪」
せつ菜「え……? 急にどうされたんですか……?」
リナ『今、しずくちゃんにメッセージ送っておいた。コメコ牧場集合って』 ||;◐ ◡ ◐ ||
歩夢「うん、ありがとうリナちゃん♪ それじゃ、せつ菜ちゃん、コメコ牧場に行こっか♪」
せつ菜「歩夢さん……? どうして、私の腕を引っ張るんですか……?」
73 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:44:21.31 ID:p9JQiW5R0
歩夢がせつ菜ちゃんをぐいぐいと引っ張りながら、コメコ牧場の方へと歩いて行く。
リナ『……危うく死人を出すところだった……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「……? 歩夢、どうかしたのかな……?」
リナ『知らない方がいいこともある』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「……?」
栞子「え、えっと……それでは、私たちも参りましょうか」
侑「……まあ、うん。そうだね」
私たちは、社会見学がてら……コメコ牧場へと向かうのであった。
せつ菜「は……! 歩夢さん!! 私今、“モーモーミルク”を使ったとびっきりのメニューを思いつきましたよ!!」
歩夢「うん♪ 私が見てるから、絶対に、一緒に作ろうね♪」
74 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:44:55.47 ID:p9JQiW5R0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___●○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
75 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/14(土) 11:45:30.40 ID:p9JQiW5R0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:271匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.68 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.64 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.64 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:250匹 捕まえた数:24匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:295匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.68 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.68 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.68 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:276匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:198匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
76 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:15:53.93 ID:E7iRZ/bz0
■ChapterΔ005 『漣の戦場』 【SIDE Yu】
──翌日。
歩夢「栞子ちゃん。方向は……やっぱり、東?」
栞子「はい……。……“もえぎいろのたま”の反応は……まだ東方面ですね……」
コメコの森で龍脈のエネルギーを吸収した“もえぎいろのたま”は、コメコの森よりもさらに東に反応を示していた。
今はすでにホシゾラシティを飛び越えて、スタービーチまで来ている。
しずく「となると……行き先はフソウ島でしょうか」
せつ菜「そうですね……。スタービーチより東となると、フソウ島くらいしかありませんから」
リナ『海の底という説を除けばそうなるね』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「リナ子……怖いこと言わないでよ」
侑「それじゃ、とりあえずフソウタウンを目指そうか」
「ブイ」
歩夢「そうだね」
私たちは目的地をフソウタウンに設定して、次の龍脈に向かいます──
🎹 🎹 🎹
──フソウの港に降り立つ。
するとすぐに出店が見えてくる。
栞子「なんだかすごく人が多いですね。今日はお祭りがあるのでしょうか?」
行き交う人々とポケモンを見て、栞子ちゃんがそんな風に言う。
せつ菜「いえ、フソウはいつもこんな感じですよ」
栞子「え?」
かすみ「フソウは毎日お祭りみたいな町ですからね〜」
しずく「毎日ポケモンコンテストの大会が開催されていて、観光地としてとても有名な場所なんです。今日は大きな大会がないから、控えめなくらいで……」
栞子「こ、これで控えめなんですか……!?」
栞子ちゃんがコメコのとき同様、目を丸くする。
歩夢「ふふ♪ せっかくだから、一緒に屋台回ってみる?」
栞子「い、いえ……! そんなことをしている場合ではありません! 早く龍脈を見つけないと……」
と言いながら、栞子ちゃんの視線はバニプッチアイスの屋台に惹かれている。
77 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:16:28.15 ID:E7iRZ/bz0
かすみ「しお子、バニプッチアイス気になるの?」
栞子「え? い、いえ、その……。……コットンアイスとどう違うのかなと思っただけで……」
かすみ「屋台は気になったら、とりあえず買って食べるのが一番いいんだよ! 行こう♪」
栞子「え、えぇ!?」
かすみ「おじさ〜ん♪ バニプッチアイスくださ〜い♪」
かすみちゃんが栞子ちゃんの手を引いて、駆け出して行く。
歩夢「私も栞子ちゃんとかすみちゃんのこと、ちょっと見てくるね」
侑「うん、お願いね、歩夢」
歩夢「はーい♪」
「ブイブイ」
侑「え、イーブイも行きたいの?」
歩夢「ふふ♪ それじゃ、イーブイも一緒に行こっか♪ おいで♪」
「イブイ♪」
イーブイは私の頭からピョンと跳ねて、歩夢の胸に飛び込む。
侑「ごめん、歩夢。イーブイもお願いね」
歩夢「うん、任せて♪」
「ブイ♪」
歩夢はイーブイを抱きかかえながら、栞子ちゃんとかすみちゃんの後を追って、賑やかな出店通りへと歩いて行く。
その背中を見送りながら、しずくちゃんが口を開く。
しずく「よかったんですか? 栞子さんの言うとおり、龍脈探しをした方がいい気もしますけど……」
侑「まあ、場所はこの島で十中八九間違いないだろうし……龍脈を見つけても、ランジュちゃんたちが来るまでは何も出来ないしね……。向こうがもうたどり着いてる可能性もあるけど……」
せつ菜「確かに昨日の様子を見る限り、バトルで決着をつけることには前向きでしたしね。こちらがよほど待たせない限り、約束を反故にされることもない気はします」
しずく「それは確かに……」
侑「それに……かすみちゃんに気晴らしをさせてあげたいというか……」
しずく「……あはは……さすがに気付きますよね……」
かすみちゃんは昨日の負けが相当堪えたみたいだった。
もちろん、本人は隠しているつもりだろうけど……やっぱり、いつもよりも声に張りがないと言うか……。
侑「せっかく、お祭りの町に来たわけだしね」
しずく「お気遣い、ありがとうございます……侑先輩」
侑「うぅん、私もかすみちゃんには元気で居て欲しいし……それに、栞子ちゃんもこの町に興味を惹かれてたし、ちょうどいいかなって」
歩夢なら、二人を見守るのには最適だろうしね。
リナ『なら、私たちは待ってる間に、次の戦いのことを話しておいた方がいいかもね』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「そうですね。次は誰が戦いましょうか」
しずく「あの、それなんですが……次は私に戦わせて貰えませんか……!」
しずくちゃんが自ら、次の戦いに名乗りをあげる。
しずく「私……かすみさんの仇を討ちたい……」
侑「しずくちゃん……」
78 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:17:21.58 ID:E7iRZ/bz0
確かに……しずくちゃんはかすみちゃんのこと、すごく心配していたし……もしここでしずくちゃんが勝てば、かすみちゃんも勇気付けられるかもしれない。
だけど、
リナ『でも、ここで負けたら私たちは追い詰められることになる』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんはあまり積極的でない様子。
しずく「それは……」
リナ『むしろ、感情的に決めない方がいいと思う。ランジュさんは強いし……それに、しずくちゃんは冷静なときの方が強い』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「リナさん……。……確かに、私……今は少し頭に血が上っているのかもしれません……」
せつ菜「そうですね……可能なら、戦うのはベストコンディションで臨める時の方が良いかもしれません」
しずく「そう……かもしれませんね……。……今の気持ちのまま戦っても……自分らしい戦いは出来ないかも……」
せつ菜「しずくさんは自分のステージさえ作り出せれば、本当にお強いですから! 自分の力を100%発揮出来るタイミングなら、ランジュさんにも劣らないはずですよ!」
しずく「……せつ菜さん……。ありがとうございます……わかりました、今回は見送らせてもらいます」
侑「わかった。それじゃ……どうしようか……」
私か、歩夢か、せつ菜ちゃんということになるけど……。
リナ『初戦を落としてる以上、2戦目を落とすと追い詰められる。精神的にも、ここは確実に白星が欲しいところだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「確かに、そうですね……。この後の試合のプレッシャーも考えて……」
侑「確実に勝ちを取りに行くとなると……」
全員の視線が──せつ菜ちゃんに集中する。
せつ菜「……なるほど。……そう言うことならば、期待にはお応えしなければいけませんね!」
せつ菜ちゃんが頷きながら、拳をぐっと胸の前で握る。
せつ菜「不肖、ユウキ・せつ菜……皆さんのために必ず勝利してみせます!!」
五番勝負──次鋒はせつ菜ちゃんが戦うことに決定した。
🎀 🎀 🎀
栞子「バニプッチアイス……冷たくて甘くておいしいです……」
かすみ「しお子、コットンアイス食べたときと同じこと言ってる……」
栞子「す、すみません……こういうときの感想があまり思いつかなくて……。……ですが、こちらのアイスはふわふわしていないんですね」
かすみ「あれはアイスとわたあめが合体したやつみたいな感じだからね〜」
栞子「わたあめ……?」
かすみ「え、しお子、わたあめも知らないの!?」
栞子「す、すみません……」
かすみ「もう、仕方ないなぁ〜、お祭りマスターのかすみんが、しお子にお祭り屋台の極意を教えちゃうんだから!」
栞子「よ、よろしくお願いします!」
79 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:18:06.61 ID:E7iRZ/bz0
かすみちゃんが栞子ちゃんの手を引っ張りながら、あちこちの屋台を見て回っている。
私はそれを後ろから見守りながら、イーブイと一緒にゆっくりと追いかける。
歩夢「ふふ♪」
「ブイ?」
歩夢「二人とも楽しそうだなって思って♪」
「ブイ♪」
特にかすみちゃんはすごく落ち込んでいたから心配だったけど……いい気晴らしになっているみたいで安心する。
栞子「歩夢さん……! このふわふわ、すごく甘くておいしいです……!」
歩夢「ふふ♪ よかったね、栞子ちゃん♪」
栞子「はい!」
かすみ「しお子ったら、どれでも喜んでくれるから、かすみんも教え甲斐があります〜♪」
栞子「昨日歩夢さんが作ってくれた、ふれんちとーすとと、ぐらたんもおいしかったですし……外の世界にはいろんな食べ物があるんですね……!」
かすみ「そうだよ〜? そして、屋台もまだまだ続きます……! コンプリート目指して頑張るよ!」
栞子「はい!」
歩夢「あはは……食べすぎないようにね」
張り切るかすみちゃんに苦笑しながら、出店通りを歩いていると、
「シャボ…」
サスケが屋台から漂ってくる良い匂いに反応して、目を覚ます。
歩夢「サスケ、おはよう。何か食べたいの?」
「シャボ…」
歩夢「えっと……それじゃあ……」
キョロキョロと屋台を見回して──
歩夢「あっ、あれならよさそう」
ポケモン用のベビーカステラの屋台を見付ける。
歩夢「すみません、ベビーカステラ……えっと、とりあえず6袋ください」
屋台のおばさん「はいよー」
大雑把に買って、みんなで分けようかな。
余っても、サスケが全部食べるだろうし。
購入したミニカステラを受け取ると、
「シャボ!!」
歩夢「あっ、こら、サスケ……!」
サスケは貰った紙袋の一つに頭を突っ込んでカステラを食べ始める。
歩夢「もう……サスケったら……食いしん坊なんだから……」
屋台のおばさん「ははっ、元気のいいアーボだねぇ!」
屋台の人に笑われてしまう。
もう恥ずかしいなぁ……。
80 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:18:59.36 ID:E7iRZ/bz0
「ブイ…」
歩夢「イーブイも食べたいよね。はい♪」
袋からベビーカステラを一つ摘まんで、イーブイにあげる。
「ブイ♪」
すると、イーブイは嬉しそうにベビーカステラを食べ始める。
歩夢「おいしい?」
「ブイ♪」
歩夢「ふふ♪ よかった♪」
ポケモンたちにおやつをあげていると、
栞子「歩夢さん……それは……?」
栞子ちゃんが不思議そうな顔をしながら訊ねてくる。
歩夢「これはね、ポケモン用のお菓子なんだよ」
栞子「ポケモン用の……お菓子……?」
歩夢「そうだ、栞子ちゃんのポケモンにもあげてみたらどうかな♪ はい♪」
そう言いながら、ベビーカステラの入った紙袋を一つ手渡す。
栞子「いいんですか?」
歩夢「うん♪」
栞子「えっと……それじゃ、ピィ」
「──ピィ」
栞子ちゃんがピィをボールから出し、足元に飛び出してきたピィの前にしゃがみこむ。
栞子「ピィ、ポケモン用のお菓子だそうです」
「ピィ?」
ピィはベビーカステラを受け取って小首を傾げるけど──それを口に運ぶと、
「ピィ♪」
ご機嫌になる。
栞子「おいしいですか?」
「ピィ♪」
歩夢「ふふ♪」
かすみ「かすみんもポケモンたちのおやつ買おうっかなぁ……」
歩夢「かすみちゃんの分もあるよ♪ はい♪」
かすみ「わ、いいんですか!? さっすが歩夢先輩〜♪ ちょっとあっちのベンチでポケモンたちにあげてきますね〜!」
歩夢「うん」
さすがに屋台通りで大きなポケモンは出せないからか、かすみちゃんはベンチがある近くの広場へと走っていく。
栞子「……これ、ポケモン専用なんですか……?」
歩夢「んー……人が食べても問題ないけど、味が薄いから、あんまりおいしくないかも」
81 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:19:37.32 ID:E7iRZ/bz0
試しに一つ食べてみるけど──
歩夢「……うん、やっぱり、あんまり味がしない気がする」
栞子「わ、私も食べてみます……」
そう言いながら、ベビーカステラを口に運んだ栞子ちゃんは、
栞子「…………確かに、味がしません……」
そう言って顔を顰める。
歩夢「ふふ、でしょ?」
栞子「じゃあ……本当にポケモンのためだけに作られたおやつなんですね……」
「ピィ♪」
栞子ちゃんはおいしそうにベビーカステラを食べるピィを見ながら言う。
歩夢「栞子ちゃん?」
栞子「……人は……こんなにもポケモンのことを、大切にしているんですね……」
歩夢「そうだね……。人もポケモンも、この地方で……一緒に生きる仲間同士だもん」
栞子「一緒に生きる……仲間……」
栞子ちゃんは私の言葉を反芻するように言う。
栞子「…………」
歩夢「人とポケモンがこうして仲良くしてるの……意外だった?」
栞子「…………はい……。……本音を言うと……そう思っています」
歩夢「……そっか」
栞子「私……ずっと、イメージでしか、外の人を見ていなかったのかもしれません……」
栞子ちゃんは、生まれてからほとんどの時間を朧月の洞で過ごしていた。
だから、自分の中にあったイメージと現実のギャップで混乱しているのかもしれない。
……でも、だからこそかな……。
歩夢「栞子ちゃん」
栞子「……なんでしょうか」
歩夢「今は大変なことになっちゃってるけど……きっと、良い機会なんだと思う」
栞子「良い機会……」
歩夢「栞子ちゃんの目で……この地方でみんながどう暮らしてるか、確認してみたらどうかな」
知らない世界をちゃんと知るのはきっといいことだと思うから。
栞子「……はい」
栞子ちゃんは私の言葉に頷く。
栞子「自分の目で……しっかり、確認しないと……。この地方の……人と……ポケモンを……」
まるで自分に言い聞かせるように、そう言葉にするのでした。
82 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:20:41.10 ID:E7iRZ/bz0
🎹 🎹 🎹
──フソウのコンテスト会場をすぐ傍に臨む中央公園のベンチで待っていると、
歩夢「侑ちゃーん!」
「イブイ♪」
侑「あっ、歩夢〜! こっちこっち〜!」
歩夢たちが私たちを見つけ、手を振りながら駆け寄ってくる。
かすみ「先輩たち、ここに居たんですね〜!」
侑「うん。3人とも出店回りは楽しめた?」
栞子「はい……! かすみさんにいろいろ教えてもらいました!」
かすみ「聞いてくださいよ〜……侑せんぱ〜い……せっかくかすみんが『トサキントすくい』のお手本を見せようと思ったら、歩夢先輩が全部すくっちゃって……」
栞子「あれは、すくうというより……トサキントたちに群がられていたというか……」
歩夢「私……近くにいただけなんだけど……」
「ブイ」
侑「あはは……歩夢、昔にもそんなことあったよね……」
歩夢「あ……もしかして、6番道路での花火大会のときのこと? 懐かしいなぁ……そのとき私、たくさんのトサキントにびっくりして泣いちゃって、侑ちゃんが泣き止むまでずっと手を繋いでてくれたんだよね♪」
侑「あったあった……」
あのときからすでに、歩夢のポケモンに好かれる体質は片鱗を見せていたということだ……。
かすみ「んで……しず子はまたヨウカン食べてるんだ。来るたびに食べてるよね」
しずく「だって、好きなんだもん。この絶妙な甘さと舌触り……いつか、シンオウに行ったら本場のを食べてみたいなぁ……」
しずくちゃんはそう言いながら、ベンチに座ってさっき買ってきた“もりのヨウカン”を食べている。
かすみ「……ん、確かにおいしけどさ〜……毎回同じのばっかで飽きないの?」
しずく「全然飽きないよ。はい、かすみさん、あ〜ん♪」
かすみ「あーん。……もぐもぐ……おいひぃ〜♪」
しずく「でしょ♪」
リナ『3秒前と言ってることが変わってる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「あはは……」
栞子「それはそうと……せつ菜さんは、先ほどから何をされているんですか?」
栞子ちゃんがベンチから離れた場所で、立ったまま胸に手を当て、目を瞑っているせつ菜ちゃんを見て言う。
せつ菜「…………すぅー…………。…………ふぅー…………」
せつ菜ちゃんは、目を瞑ったまま、何度も深呼吸を繰り返していた。
83 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:21:25.26 ID:E7iRZ/bz0
侑「精神統一だってさ」
かすみ「精神統一?」
しずく「あれをすると、集中出来るそうなんです。大事な戦いの前にはいつもああしているそうですよ」
歩夢「大事な戦い……それじゃ……」
侑「うん。次の試合はせつ菜ちゃんにお願いしようってことになったんだ」
せつ菜「──……そう言うわけです」
せつ菜ちゃんが目を開けて、私たちのいるベンチへと歩いてくる。
侑「あ、ごめん……邪魔しちゃったかな?」
せつ菜「いえ、これくらいにしておこうと思っていたときに、ちょうど私の話をしているのが聞こえてきただけですよ。準備は整いました」
そう言うせつ菜ちゃんの表情は──普段の天真爛漫な雰囲気から一変、鋭さを感じさせる雰囲気を纏っている気がした。
バトルモードということかもしれない。
栞子「それでは、龍脈の場所へ移動しましょう」
侑「そうだね」
せつ菜「よろしくお願いします、栞子さん」
私たちは龍脈の場所へと移動を開始する。
🎹 🎹 🎹
フソウ島は、北側に港があり、そこから南に進んでいくと、ちょうど島の中央にポケモンコンテストのフソウ会場がある。
フソウ会場からさらに南に行くと、ホテルが立ち並ぶ宿泊施設の密集地があり──さらに、その南には……。
かすみ「海です〜〜〜!!」
かすみちゃんが目の前に広がる砂浜をご機嫌になって走り出す。
しずく「かすみさーん! 走ると危ないよー!」
かすみ「大丈夫大丈夫〜……わぁっ……!?」
しずく「言わんこっちゃない……」
早速、砂浜に足を取られて転ぶかすみちゃんを見て、しずくちゃんが肩を竦めながら、かすみちゃんの方へと駆けて行く。
私たちがやってきのは──フソウビーチと言われるフソウ島の南にある大きな砂浜だ。
歩夢「龍脈はこっちなんだよね?」
栞子「はい」
栞子ちゃんは“もえぎいろのたま”の輝きを見ながら頷く。
せつ菜「とりあえず、反応にしたがって進んでみましょうか」
侑「そうだね」
私たちは砂浜沿いに島の南東方面へと進んでいく。
84 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:22:08.49 ID:E7iRZ/bz0
かすみ「……どこまで行くの」
栞子「わかりません……」
かすみ「まさか、本当に海の底じゃないですよね……」
侑「さすがにそれは困るね……」
まあ、海の底で戦うことはないだろうから、バトル自体は近くの海岸ですることになるとは思うけど……。
しずく「そういえば……フソウビーチには、パワースポットがあった気がします」
せつ菜「パワースポットですか……?」
しずく「はい。ビーチの東端に、漣の洞窟という海から入れる洞窟があるんです」
歩夢「あ、私も聞いたことある! 青の洞窟だよね!」
しずく「はい!」
かすみ「青の洞窟……?」
リナ『石灰質の白い海底と、太陽光の影響で、海が青く輝いて見えるっていう海食洞のことだね』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「へー……? なんか青いってこと?」
リナ『まあ、だいたいそれでいいよ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
確かにこのまま進んでいくと、ビーチの東端にたどり着きそうだ。
しずく「そこの奥に、青く光る岩があると……」
侑「そこがパワースポットになってるってことだね」
しずく「もちろん、パワースポットがイコールで龍脈なのかはわかりませんが……」
栞子「とりあえず、反応に従って進んでみましょう」
歩夢「そうだね」
私たちはフソウビーチを進んでいく。
🎹 🎹 🎹
しずくちゃんの言うとおり、ビーチを進んでいくと、洞窟が見えてきた。
栞子「反応は……洞窟の方ですね」
かすみ「洞窟の入り口、完全に水に浸かってますね……」
せつ菜「“なみのり”で行く必要がありますね。スターミー、出てきてください」
「──フゥ」
歩夢「トドゼルガ、お願い」
「──ゼルガ…」
栞子「イダイトウ、出番ですよ」
「──ダイトウ…!」
3人がみずポケモンをボールから出す。
85 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:23:35.07 ID:E7iRZ/bz0
かすみ「イダイトウ……? 見たことないポケモン……」
しずく「……私も、知らないポケモンです」
歩夢「その子もヒスイのポケモンなの?」
栞子「はい、ヒスイのバスラオが進化した姿なんです」
せつ菜「バスラオに進化した姿があったんですか……!?」
リナ『かつて、しろすじのバスラオって種類がいたと言われてる。そのバスラオはイダイトウに進化してた』 || ╹ᇫ╹ ||
リナ『イダイトウ おおうおポケモン 高さ:3.0m 重さ:110.0kg
生まれ育った 川に 遡上するときに 志半ばに 散っていった
仲間達の 魂が 憑りつき 進化した 姿。 憑りついた 魂から
推進力を 得て 泳ぎ 河川に おいて 敵なしと 言われる。』
栞子「ヒスイ地方ではこのポケモンの力を借りて、海を渡ったそうですよ」
侑「確かに、この大きさなら、一度にたくさんの人を運べそうだね……!」
「ブイ」
かすみ「あ、えっとー……かすみんたち、みずタイプのポケモンを持っていないのでー……」
栞子「はい、一緒に乗ってください」
しずく「すみません、お世話になります」
歩夢「侑ちゃんはトドゼルガに乗ってね♪」
侑「うん。お願いね、歩夢」
「イブイ」
私はフィオネは持っているけど……フィオネは私が上に乗って泳げるほど体が大きくないし、ここはありがたく歩夢を頼ろう。
せつ菜「それでは皆さん、行きましょう」
「フゥ」
スターミーの上にサーフィンのように立つせつ菜ちゃんが先導する形で、洞窟を奥へと進んでいく。
洞窟の中に入ると──どうして青の洞窟と言われているのかがすぐわかった。
洞窟内の海面は、まさに青く輝いていて、青い世界の中を泳いでいるような、そんな世界が広がっていた。
かすみ「……きれい……」
侑「……すごい……」
その美しさに思わず圧倒されてしまう。
リナ『入り口からの太陽光の差し込み方、海底の色、水の透明度とか、いろんな条件が重なるとこうなるって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||
しずく「これは……パワースポットと呼ばれるのも頷けますね……」
栞子「はい……すごく、幻想的な光景です……」
歩夢「なんだか……こんなに綺麗だと、目的を忘れちゃいそう……」
せつ菜「ですね……」
青の世界を進んでいくと──洞窟内に上がれる陸が見えてくる。
侑「栞子ちゃん、宝珠の反応は?」
栞子「……奥に進むほど、強くなっています」
侑「わかった、このまま進もう」
私たちは陸に上がり、洞窟を奥へ進んでいくと──開けた空間に出る。
そしてその奥に──薄ぼんやりと青く光る大岩が鎮座していた。
86 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:24:15.44 ID:E7iRZ/bz0
かすみ「しず子……! あの岩光ってるよ!」
しずく「本当にありました……」
それと同時に──栞子ちゃんの手に持たれた宝珠が強く光る。
栞子「……“もえぎいろのたま”が……より強く反応しています。……ここが龍脈です」
せつ菜「まさに、ビンゴでしたね……!」
侑「ランジュちゃんたちは……」
辺りを見回してみるけど、特に人影はなかった。
恐らく、まだたどり着いていないのだろう。
せつ菜「となると、ここでしばらく待つことになりそうですね」
侑「そうだね」
かすみ「それにしても……あれ、なんで光ってるんですかね」
リナ『詳しい理由はわからないけど……“みずのいし”によく似た反応がある。自然エネルギーが蓄えられてるのかもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「太陽の花畑のサンフラワーみたいな感じなのかな?」
リナ『恐らくは』 || ╹ ◡ ╹ ||
不思議な空間だった。
閉鎖的な空間ではあるけど……圧迫感はあまり感じないというか。
これも自然エネルギーが満ちているからなのかな……?
歩夢「なんだか……落ち着くね」
侑「……うん」
リラックスした気分になっていると──
ランジュ「──あーー! ランジュよりも早く着いてるじゃない!!」
ランジュちゃんの声が洞窟内で反響する。
栞子「ランジュ……」
ランジュ「もう! ミアがもたもたしてるからよ!」
ミア「はいはい……」
ランジュちゃんは遅れてきたのが悔しかったのか、ミアちゃんに向かってふくれっ面になる。
ミアちゃんは慣れっこなのか、適当に流しているけど……。
ランジュ「……まあ、いいわ。それじゃ、さっさと二戦目、始めましょうか。今度は誰が相手してくれるのかしら!」
そう言うランジュちゃんの前に、
せつ菜「……今回は私です!」
せつ菜ちゃんが歩み出る。
87 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:24:58.85 ID:E7iRZ/bz0
ランジュ「せつ菜、貴方ね!」
せつ菜「はい! 正々堂々、お互い良い勝負にしましょう!」
ランジュ「望むところよ! ミア!」
ミア「ん。これが今回のポケモン」
前回同様、ミアちゃんがランジュちゃんにボールが3個入ったケースを手渡す。
栞子「せつ菜さん……よろしくお願いします」
せつ菜「お任せください! それでは、始めましょう……!」
ランジュ「ええ!」
二人のトレーナーが同時にボールを放って──五番勝負の次鋒戦が始まった。
🎙 🎙 🎙
せつ菜「行きますよ!! ウインディ!!」
「──ワォンッ!!!」
私は1番手に相棒のウインディを繰り出す。
対するランジュさんは──
ランジュ「行くわよ、バシャーモ!」
「──バシャーーーモッ!!!」
バシャーモを繰り出してくる。それと同時に、耳に掛かった髪をかき上げ──
ランジュ「メガシンカ!!」
輝きと共に、バシャーモの頭部のツノが1本に、冠羽が立派に成長し、腕から噴き出す炎もさらに立派になり棚引いている。
バシャーモがメガシンカした姿──メガバシャーモだ。
「バ、シャァモッ!!!!」
メガバシャーモに進化すると同時に、強靭な脚力を使って飛び出し──
「バシャァモッ!!!!」
ウインディの側頭部を蹴り飛ばす。
──が、
「ワォン…」
ウインディは微動だにしていなかった。
ランジュ「咦!?」
せつ菜「それじゃあ、威力が足りていませんよ……!! “ずつき”!!」
「ワォンッ!!!!」
「バシャモッ…!!!」
88 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:25:57.05 ID:E7iRZ/bz0
メガバシャーモを“ずつき”で追い払う。
ただそれ自体は大したダメージではなく、吹っ飛ばされたメガバシャーモは受け身を取ってすぐに起き上がり、片足を上げて特有の構えを取る。
ランジュ「……驚いたわ、“アイアンヘッド”にそんな使い方があったなんて……」
せつ菜「気付かれましたか……! さすがですね……!」
そう、ウインディは攻撃が当たる瞬間だけ、頭部を“アイアンヘッド”で硬質化して、攻撃を防いだ。
ランジュ「でも、そんな小細工いつまで続くかしらね……!!」
「バ、シャァモッ!!!!」
再び飛び出してくるメガバシャーモ。
恐らく次は──
せつ菜「飛び込んでくるように見せかけて」
「バシャッ…!!!」
せつ菜「ウインディの目の前で“フェイント”をしかけて、横から攻撃──」
私はトントンとステップを踏みながら、ウインディの左側に歩を運び──ウインディの目の前で、“フェイント”を掛けるメガバシャーモの重心が左に揺れたのを一瞬で判断し、
せつ菜「左!! “ねっぷう”!!」
「ワォンッ!!!!」
「シャモッ…!!?」
メガバシャーモに触れられる前に、ウインディの左側に放った“ねっぷう”で押し返す。
ランジュ「読まれてる……!? バシャーモ……!!」
「バシャッ…!!!」
メガバシャーモは後退りながらも、脚力をバネにし──“かそく”しながら、飛び掛かってくる。
だが、
せつ菜「“じゃれつく”!!」
「ワォンッ!!!」
「シャーーモッ…!!!?」
飛び掛かってくるメガバシャーモに向かって前足を振り上げ、巻き込むようにして叩き落とす。
前脚で押さえつけたバシャーモに向かって──
せつ菜「そのまま、“サイコファング”!!」
「ワォンッ!!!!」
牙を立てようとするが、
ランジュ「“けたぐり”!!」
「バシャモッ!!!!」
ランジュさんは咄嗟の判断で、“けたぐり”を指示──メガバシャーモは押さえ付けられながらも、脚を伸ばして、ウインディの後ろ足を薙ぎ払う。
「ワォンッ…!!?」
急な足払いを受けて、ウインディの体が傾いた瞬間、
「バシャッ!!!」
89 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:26:40.46 ID:E7iRZ/bz0
メガバシャーモは自分を押さえ付けていたウインディの前足から逃れ、そのまま全身のバネを使って跳ね起きの要領で跳び上がり──身を捻って、
ランジュ「“ブレイズキック”!!
「バシャァァモッ!!!!」
燃える蹴撃をウインディの側頭部に向かって放ってくるが──
「ワォンッ!!!」
ウインディは体勢を崩しながらも、再び蹴りを“アイアンヘッド”によって硬質化した頭部で受け止め──
「ワォンッ!!!」
「バシャッ…!!!」
そのまま頭を振り下ろし、メガバシャーモを吹っ飛ばす。
メガバシャーモはまたしても、受け身を取りながら、ウインディから距離を取る。
せつ菜「無理な体勢から攻撃しても、通りませんよ!」
体重を乗せられない蹴りなんて怖くもなんともない。
ランジュ「みたいね……!」
「シャモッ!!!!」
さらに“かそく”したメガバシャーモは、姿が一瞬で掻き消える。
次は恐らく──
せつ菜「ウインディ!!」
「ワォンッ!!!!」
ウインディが勢いよく、後頭部を引くように頭を上に向けると──ウインディの顎下スレスレをメガバシャーモの振り上げた足で振り抜かれる。
ランジュ「……!」
せつ菜「顎……狙いますよね……!」
“アイアンヘッド”で硬くできるのは頭頂や側頭──つまり頭の上の部分。
さすがに顎まではカバーしきれない。
なら次は顎を狙うはず。私の読みどおりランジュさんはしっかりと顎を狙ってきてくれたお陰で、回避に成功する。
ランジュ「バシャーモ!! 一旦距離を取りなさい!」
「シャモッ…!!!」
バシャーモは反撃を食らう前に飛び退いて、ウインディから距離を取る。
ランジュ「……悉く読まれてるわね」
ランジュさんは優秀なトレーナーだ。
それは、かすみさんとの戦いを見ていただけで十分わかった。
咄嗟の判断もさることながら、技の選択や狙いが合理的な戦い方をしている。
言うなれば、戦い方の精度が高すぎるせいで、逆に読みやすいとでも言うのだろうか。
ただ……。
90 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:27:16.25 ID:E7iRZ/bz0
ランジュ「バシャーモ……!!」
「シャモッ!!!!」
メガバシャーモは今度こそ、目にも止まらぬスピードで動き出す。
“かそく”によって、どんどん速くなり続け、もう目で捉えるのは不可能に近い。
せつ菜「……さすがに時間を掛け過ぎましたね……!」
もともと相手がとんでもなく速い相手だというのはわかっていたので、最初から反撃重視の戦い方を選んでいましたが、反撃から技を決めようとしても、それをいなす技術も一流だったため、決定打を決め切る前に、“かそく”しきってしまった。
なら── 一旦仕切り直し……!!
「シャァーモッ!!!!」
メガバシャーモがウインディに飛び掛かってくる瞬間に合わせて──
せつ菜「“ほえる”!!」
「ワォォォンッ!!!!!!!」
「シャモッ…!!!?」
大声で吠え掛ける。それと同時に、メガバシャーモが無理やりボールに戻され──代わりのポケモンが飛び出した。
「──ヴァァァァッ!!!!!」
ボールから出てきたのは、バチバチと電撃の音を立てながら羽ばたく、鳥ポケモンの姿。
せつ菜「……! サンダー……!!」
でんげきポケモン、サンダーの姿。
ランジュ「……2匹目、引き摺りだされちゃったわね……!」
せつ菜「やはりラティオス以外にも捕まえていたんですね……! こんなところで、伝説のポケモンと戦えるなんて……光栄です!! 行きますよ、ウインディ!!」
「ワォンッ!!!!」
バトルは次のステージへ。
対するは伝説のポケモン、サンダー……!
ランジュ「サンダー! 10まんボルト!!」
「ヴァァァーーーッ!!!!!」
せつ菜「“しんそく”!!」
「ワォンッ!!!」
ウインディの姿が掻き消え──先ほどまでウインディが居た場所に電撃が迸る。
電撃攻撃を掻い潜ったウインディは一瞬でサンダーに肉薄し──
ランジュ「“ほうでん”!!」
「ヴァァァァーーッ!!!!」
「ワォンッ…!!!」
──たが、全方位の電撃によって、止められてしまう。
“しんそく”は確かに読んで字のごとく神速の一撃だが、全方位に電撃を放たれると、そもそも近付くのが難しくなってしまう。
せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
「ワォンッ!!!!」
91 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:28:21.13 ID:E7iRZ/bz0
ウインディが火炎を噴き出すが、
ランジュ「サンダー! “みきり”よ!」
「ヴァァァ」
サンダーは攻撃を見切って、ひょいと炎を回避し、
ランジュ「“10まんボルト”!!」
「ヴァァァァーーーッ!!!!!」
再び電撃を放ってくる。
せつ菜「ウインディ!! 走って!!」
「ワォンッ!!!」
狙い撃ちされないように、“こうそくいどう”で走り回りながら、どうにか落ちてくる電撃を回避するけど──そもそも、でんきタイプの攻撃というのはいなすのが難しい。
回避もずっとは続けられないし、早く策を講じて、倒してしまわないと……!!
そう思った矢先──ぴちょ。
顔に冷たいものが落ちてきた。
ハッとして、顔を上げると──洞窟内に雨雲が発生していた。
せつ菜「“あまごい”……!? いつの間に……!?」
ランジュ「“打雷”!! “かみなり”よ!!」
「ヴァァァァーーーッ!!!!!」
頭上の雨雲が光った瞬間、
せつ菜「“だいもんじ”!!」
「ワォォォンッ!!!!」
真上に向かって、“だいもんじ”を発射する。
“かみなり”は“だいもんじ”に直撃し、爆ぜるようにして周囲に稲妻を爆ぜ散らせながら──爆発した。
「ワァオンッ…!!!」
せつ菜「くっ……!!」
だが、爆炎の中を貫くように、
「ワォンッ…!!!!?」
一筋の“かみなり”がウインディを直撃する。
せつ菜「ウインディ……!!?」
ウインディはよろけこそしたものの、
「ワ、ワォンッ…!!!」
足を踏ん張り持ちこたえる。
よかった……倒れてない。
ランジュ「この雨の中で、よくほのお技で“かみなり”の威力と撃ち合えたわね」
ランジュさんの言うとおり、雨が降っているせいで、ほのお技は威力が半減してしまう。
92 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:29:03.81 ID:E7iRZ/bz0
ランジュ「でも、相殺出来てやっとじゃ、こっちが優勢よ!! “かみなり”!!」
「ヴァァァァーーーッ!!!!!」
再びの落雷。だけど──ピシャァァァンッ!!! と音を立てながら、“かみなり”はウインディとは全く関係のない場所に落ちる。
ランジュ「……!?」
せつ菜「雨が降って不利になるなら……晴らせばいいだけです」
ランジュ「“にほんばれ”……!」
洞窟内なせいで、日差しこそ照ってくることはないが、“にほんばれ”を使えば雨雲を掻き消すことは可能だ。
雨雲がなくなれば、“かみなり”の命中精度は激減する。
ランジュ「サンダー! “あまごい”!」
「ヴァーー」
せつ菜「ウインディ! “にほんばれ”!」
「ワォンッ!!!」
雨が降り始めたかと思えば、その雨雲がすぐに払われる。
ランジュ「天気の取り合いをしようって言うのね……! いいわ……! “10まんボルト”!!」
「ヴァァァァーーー!!!!」
せつ菜「ウインディ!!」
「ワォンッ!!!」
ウインディが私の指示で、口の中に炎を溜め、
せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
「ワォンッ!!!!!」
火球にして、発射する。
空中で、“10まんボルト”に直撃し、電撃を爆ぜ散らせながら、火炎弾が爆発する中──再び雨粒が振り始める。
せつ菜「“にほんばれ”!!」
「ワォンッ!!!」
すぐさま、雨雲をかき消した直後、また洞窟内に“かみなり”が落ちる。
一瞬でも雨雲を維持させたら、必中の“かみなり”にやられる……!
ランジュ「サンダー!! “でんげきは”!!」
「ヴァァァァ!!!!」
「ワォンッ…!!!」
せつ菜「くっ……!!」
超高速の電撃攻撃が、防御を許さない。
速度を重視した攻撃である分、威力は大したことがないのが救いだが、その隙にもまた雨が降り出し、それを“にほんばれ”で無効化する。
ランジュ「ジリ貧なんじゃないかしら!! “10まんボルト”!!」
「ヴァァァァーーー!!!!!」
せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
「ワァァァォンッ!!!!」
またしても、火球を発射し、“10まんボルト”を相殺する。
ランジュ「感電しないように、わざわざ火球にしたり、工夫はすごいと思うわ! でも、手数が足りてない!」
せつ菜「っ……!」
93 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:30:18.88 ID:E7iRZ/bz0
ランジュさんの言うとおり、サンダーの速さと火力に翻弄されて、防御で手一杯になり、攻撃をうまく通せるチャンスがない。
炎は通電性が高いため、感電しないように、防御策を通常の“かえんほうしゃ”ではなく、火球状にしているのは防御の手段としてうまく行っているが、これはあくまで防御のための技。
攻撃に転じるには、どこかで無茶を通さないといけない。
問題はどこで通すかだ。
だが──先に仕掛けてきたのはランジュさんだった。
せつ菜「……!?」
急に何かに引き寄せられるような感覚がして、身体が前のめりになる。
ハッとしたときには──目の前に風の渦が成長を始めていた。
せつ菜「まさか、“ぼうふう”……!?」
“ぼうふう”も“にほんばれ”状態では命中精度が下がる技だが──
「ワォンッ…!!!」
風に引き寄せられ、ウインディの足が止まる。
それと同時に、
リナ『わぁぁぁ!!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「り、リナちゃん!? 腕にくっついてて!?」
「ブ、ブィィィ…!!!」
かすみ「と、飛ばされちゃいますぅぅ!!?」
しずく「かすみさん、頑張って……!!」
歩夢「栞子ちゃん! 私から離れないで……!」
栞子「は、はい……!」
背後から聞こえる、かすみさんたちの悲鳴。
気付けば洞窟内全体に強風が吹き荒れ始めていた──攻撃範囲が広すぎる……!
せつ菜「これじゃ……“にほんばれ”で命中が下がっても関係ない……!」
ランジュ「それだけじゃないわ」
直後──ポツポツと雨が降り始める。
せつ菜「ウインディ!! “にほんばれ”を!!」
私は“にほんばれ”を指示するが──
「ワ、ワォン…」
せつ菜「ウインディ……!? どうしたの……!?」
“にほんばれ”が発動しない。
ランジュ「持久戦で、サンダーに勝とうとしたのが間違いだったわね! PP切れよ!」
せつ菜「PP……しまった、“プレッシャー”……!?」
94 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:31:44.48 ID:E7iRZ/bz0
戦ったことがないポケモンだったから完全に失念していた。
サンダーの特性は“プレッシャー”。相手の技のパワーポイントを多く削る特性。
つまり──
ランジュ「もう……“にほんばれ”は使えないわ! “かみなり”!!」
「ヴァァァァァーーー!!!!!!」
せつ菜「“だいもんじ”!!!」
「ワォォォォォンッ!!!!!!」
再び、“かみなり”を相殺するための“だいもんじ”を真上に放つ。
稲光が洞窟内に迸り、ウインディや私のすぐよこを走り抜けていく。
ランジュ「再一次! “かみなり”!!」
「ヴァァァァァァ!!!!!」
せつ菜「“だいもんじ”ッ!!!」
「ワォォォォォンッ!!!!!」
空中で衝突し、ほのおとでんきのエネルギーが爆ぜ散る。
すでに相手の狙いはわかっている。防御を強いて、こちらのパワーポイントを削ってきている。
わかってはいるけど──防御を止めたら直撃だ。
もう仕掛けるなら──ここしかない……!!
せつ菜「ウインディ!! “しんそく”!!」
「ワォォォンッ!!!!!」
ウインディが地を蹴って飛び出す。
この大雨の中、“かみなり”は必中だ。
なら──“かみなり”に撃たれるよりも早く、攻撃を決めるしかない。
「ワォォンッ!!!!」
ウインディが目にも止まらぬスピードで、サンダーに肉薄し、前足を伸ばした瞬間──
ランジュ「“放电”!」
「ヴァァァァァッ!!!!」
「ワォンッ…!!!?」
サンダーが全方位に放たれる電撃で、ウインディの攻撃を阻止した。
せつ菜「……!? “ほうでん”……!?」
ランジュ「貴方が仕掛けるなら──ここよね、せつ菜」
完全に読まれた。
飛び掛かりを阻止され、無防備になったウインディに向かって──
ランジュ「“打雷”!!」
「ヴァァァァァァ…!!!!」
“かみなり”がウインディに向かって、真っすぐ降り注いだ。
せつ菜「ウインディ……!!」
「ワ、ワォ…ン…」
95 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:36:18.27 ID:E7iRZ/bz0
“かみなり”の直撃によって黒焦げになったウインディの体が揺れ、倒れ──
「ワォンッ…!!!!」
──なかった。
ランジュ「真的假的!? 嘘でしょ……!? 直撃したのよ……!?」
せつ菜「まだ、倒れませんよ……私の自慢の相棒ですから……!!」
「ワォォォォンッ!!!!!!」
ランジュ「やるじゃない……!! でも、これで本当に終わりよ!!」
「ヴァァァァァーーーーッ!!!!!」
再度、ウインディの直上に落ちてくる、“かみなり”。
迸る稲光は──ウインディに当たる直前に弾かれるようにして、地面に突き刺さる。
ランジュ「な……!」
せつ菜「温まってきましたね……ウインディ!!」
「ワォォォォォーーーーンッ!!!!!!」
ウインディの“とおぼえ”が洞窟内に響き渡る。
気付けばウインディの周囲には陽炎が揺らめき、大量の熱量によって、空気がボッボッと燃えて、踊るように周囲を舞っている。
せつ菜「炎熱のエネルギーで“かみなり”を弾き飛ばしました……」
ランジュ「……嘘みたいだけど……ホントみたいね」
当たり前の話だが、ほのおポケモンは炎熱によって活性化する。
そしてその炎熱の源は──戦って使う自分自身のほのお技だ。ほのお技を使えば使うほど、自身の体温を上昇させる。
冷たい雨が降りしきる洞窟内だが──準備は整った。
「ワォォォォォォーーーーーンッ!!!!!!」
ウインディが雄叫びをあげると同時に、一気に熱波を解放し──周囲の雨を一気に蒸発させていく。
ランジュ「サンダー……!! “みきり”!!」
「ヴァァァァァッ…!!!!」
大技の予兆を察し、ランジュさんが回避の択を切ってくるが──ここまで温まったウインディには、もはや関係ない。
せつ菜「ウインディィィ!!! “だいふんげき”!!!!」
「ワォォォォォォォォォーーーーーンッ!!!!!!!!!」
ウインディを中心に──激しい炎が、フィールド全体を焼き尽くさんばかりに膨張する。
「ヴァァァァァァ…!!!?」
ランジュ「サンダー……!?」
“みきり”も関係ない。
炎熱に焼かれ、苦悶の鳴き声をあげるサンダーを、
「ワォンッ!!!!!!」
「ヴァァァッ!!!?」
96 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:36:51.57 ID:E7iRZ/bz0
炎を纏って暴れまわりながら、ウインディが飛び掛かり、地面に叩き落とす。
そして、そのまま──ゴォォォォッ!!!! と激しい音と共に、爆炎によって、至近距離からサンダーを焼き尽くした。
燃え盛る炎が、晴れる頃には──
「ヴ、ヴァ、ァ……」
サンダーは黒焦げになって、戦闘不能になっていた。
ランジュ「く……! 戻りなさい、サンダー!」
せつ菜「やりました……! ウインディ!」
サンダー撃破……! 喜びと共に小さくガッツポーズをした直後、
「ワ、ォォン…」
ウインディもフィールドに崩れ落ちた。
せつ菜「ウインディ……!?」
ランジュ「……相討ちみたいね」
せつ菜「……そうですね……。戻って、ウインディ」
「……ワォォン──」
ウインディをボールに戻す。
せつ菜「ありがとう、ウインディ。ゆっくり休んで」
限界ギリギリの体力の中、全力の炎でサンダーを倒してくれた相棒に労いの言葉を掛ける。
ランジュ「……まさか、サンダーを1匹で突破されると思わなかったわ」
せつ菜「私も、自慢の相棒を1:1交換で持って行かれるとは思いませんでした。お互い様ですよ」
ランジュ「ふふ、言うじゃない」
これでお互い残りポケモンは2匹ずつ。
両者共倒れで仕切り直しだ。
そのとき、後ろから声が聞こえてきた──
かすみ「あ、あちち、熱いですぅ!!?」
侑「かすみちゃん、じっとしてて!? 今消火するから!?」
「フィオーーーッ!!!」
かすみ「うぴゃぁぁぁ!!?」
歩夢「だ、大丈夫……かすみちゃん……?」
かすみ「助かったけど……ずぶ濡れですぅ……」
気付けば、背後では大騒ぎになっていた。
せつ菜「……あー……えっと、かすみさん、すみません……」
しずく「せつ菜さん! お気になさらず! 私たちは無事なので、引き続き全力で戦ってください!」
かすみ「かすみん、全然無事じゃないんだけど!?」
侑「あはは……」
リナ『問題ないから、せつ菜さんはバトルに集中して』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
97 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:37:34.33 ID:E7iRZ/bz0
せつ菜「わ、わかりました!」
さすがに背後に気を遣いながら戦って勝てる相手ではない。
申し訳ないけど、そこは各々で対処してもらうことにしよう……。
ランジュ「さぁ、次よ!!」
せつ菜「……はい!!」
お互いの次のポケモンがフィールドへと繰り出された。
🎙 🎙 🎙
せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
「──ゲンガァーーー!!!」
ランジュ「ナットレイ、出てきなさい!」
「──…ナット」
こちらはゲンガー、ランジュさんはナットレイ。
これでランジュさんの手持ちは3匹目まで割れたことになる。
せつ菜「ゲンガー! メガシンカ!!」
私は“メガバングル”を構え、ゲンガーをメガシンカさせる。
「ゲンガァァァァァ!!!!!!」
せつ菜「ゲンガー! “おにび”!!」
「ゲンガァーー!!!!」
「…ナット」
まずは“おにび”でナットレイを“やけど”状態にする。
対するナットレイは、
ランジュ「“やどりぎのタネ”!」
「…ナット」
「ゲンガ…!!」
“やどりぎのタネ”を発射し、ゲンガーに植え付ける。
お互いまずは補助技の応酬から始まる。
せつ菜「“たたりめ”!!」
「ゲンガァーーー!!!!!」
呪いの力で攻撃をするが──
「…ナット…」
ナットレイは微動だにしない。
せつ菜「……く……硬い……!」
98 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:38:14.30 ID:E7iRZ/bz0
ナットレイは受けに特化したポケモン。その硬さはポケモンの中でも随一な上に──ナットレイは攻撃を受ける合間に“たべのこし”を食べながら攻撃を受け止めている。
完全に受けの姿勢──なら、
せつ菜「ゲンガー、“ふしょくガス”!」
「ゲンガァーーー!!!!」
ゲンガーが吐き出した、腐食性のガスによって、ナットレイの食べていた“たべのこし”が溶解を始める。
“ふしょくガス”は相手の持ち物を使えない状態にする技だ。
耐久型のポケモンにとって、回復ソースは生命線になる。
これは相手にとって痛手になると思ったが──
ランジュ「ナットレイ、“つるぎのまい”よ!!」
「…ナット」
ランジュさんが作戦をスイッチする判断も速かった。
せつ菜「攻撃態勢……!? ゲンガー! “たたりめ”!!」
「ゲンガァーーー!!!!」
相手が攻撃へ舵を切ってきたと判断し、すぐさま倒しきる姿勢に入るが──
「…ナット」
“たべのこし”がなくなった程度では、ナットレイの頑丈な防御を崩しきれず、
ランジュ「“パワーウィップ”!!」
「ナット…」
3本の触手を伸ばしながら叩き付けてくる。
「ゲンガッ…!!!」
せつ菜「く……速い……!」
本体は緩慢な動きなのに、攻撃は俊敏で、回避が間に合わない、それどころか──叩き付けてきた触手の先にあるトゲをゲンガーの周囲の地面に突き刺し、
ランジュ「“ジャイロボール”!!」
「ナット…」
触手を巻き取るようにして、猛スピードで転がりながら、突っ込んでくる。
せつ菜「……ゲンガー……!! 避けてください……!!」
「ゲンガ…!!!」
真っ向から猛スピードで突っ込んでくるナットレイ。
それに対してランジュさんは、
ランジュ「──避けられないわけ、ないわよね?」
そう、私に向かって言ってきた。それと同時に、
「…ナット」
ナットレイがゲンガーの目の前で──急カーブした。
ランジュ「口で避けるように指示しながら──本当は“みちづれ”を狙ってることくらい、気付いてるわ!」
せつ菜「……っ!?」
99 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:39:12.65 ID:E7iRZ/bz0
黒いオーラを纏うゲンガーの目の前を横切ったナットレイは“みちづれ”を回避し、“みちづれ”の効果が切れると同時に、地面に突き刺した触手を引き抜きながら──それを“ぶんまわす”。
「ゲンガッ…!!!!」
せつ菜「ゲンガー!?」
まるでモーニングスターのように振り回される触手がゲンガーを突き飛ばし、
ランジュ「さぁ、トドメよ!!」
「…ナット」
今度こそ、方向転換をし“ジャイロボール”で突っ込んでくる、ナットレイ。
せつ菜「ゲンガー……!!」
このタイミングなら、ギリギリ間に合う……!!
「ゲンガッ…!!!」
ゲンガーが再びぼわっと“みちづれ”の黒いオーラを身に纏う。
ランジュ「だから……読めてるわ!」
「…ナット」
ナットレイが今度はゲンガーの目の前で飛び跳ねた。
せつ菜「……っ……!」
ランジュ「まあ、もうそうするしかないものね」
飛び跳ねたナットレイは攻撃タイミングを僅かにずらし、ゲンガーに向かって落ちてくる。
ランジュ「“アイアンヘッド”!!」
「…ナット」
「ゲンガッ…!!!!」
ナットレイの鋼鉄の体をぶつけられたゲンガーは、
「ゲン…ガァ…」
その場に倒れ、戦闘不能になってしまった。
せつ菜「ゲンガー……戻って……!」
「ゲンガ…──」
まずい……。……ペースを崩された。
もっと相手の防御と攻撃の切り替えに素早く対応しなければいけなかったのに……。
思わず唇を噛み締めたそのとき、
侑「せつ菜ちゃーん!! 頑張ってー!!!」
かすみ「相手もダメージ蓄積してますよー!! まだ行けますー!!」
後ろから聞こえてくる応援を聞いて、私は頭を振る。
──反省は後だ。今はバトルに集中。
100 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:39:54.22 ID:E7iRZ/bz0
ランジュ「さぁ、これで貴方の残りは1匹ね」
せつ菜「……はい。ですが……負けません……!!」
私はボールをフィールドに向かって、投げ込んだ。
🎙 🎙 🎙
せつ菜「ウーラオス!! 行きますよ!!」
「──ラオスッ!!!!」
最後の1匹、ウーラオスをフィールドに繰り出す。
そして、相手が動き出す前に──
せつ菜「“ばくれつパンチ”!!」
「ラオスッ!!!!!」
「ナット…!!!!」
動きの鈍いナットレイに、超威力の拳を叩き付ける。
「ナット…」
ランジュ「戻りなさい、ナットレイ」
3匹目の繰り出しと共に、あっけなくナットレイを倒されたという割に、ランジュさんは淡泊な表情でナットレイをボールに戻す。
ナットレイはかすみさんの言うとおり、削りダメージを十分に受けていたし、恐らくここで倒されるのは想定内なのだろう。
ランジュ「バシャーモ!! 決めるわよ!!」
「──バシャーーーモッ!!!!」
メガバシャーモが再びフィールドに躍り出る。
さぁ、泣いても笑ってもこれが最後のマッチアップだ……!
ランジュ「バシャーモ、“ブレイズキック”!」
せつ菜「ウーラオスッ!! “あんこくきょうだ”ッ!!」
メガバシャーモの燃える蹴撃と──ウーラオスの闇を纏った“ふかしのこぶし”がぶつかり合う。
「ラオスッ!!!!」
「シャモッ…!!!」
威力では──こちらが優勢……!!!
振りかぶった足を弾かれ、バランスを崩したところに畳みかける。
せつ菜「“インファイト”!!」
「ラオスッ!!!!」
ランジュ「こっちも“インファイト”よ!!」
「シャーーモッ!!!!」
両手両足を使った乱打に対し、メガバシャーモもすぐに体勢を立て直しながら対抗してくる。
振り上げてきた脚に対して腕を上げて防ぎ、顔に飛んでくる拳に対しては首を曲げて躱し、腹部に刺してくる拳を手の平で受け止める。
肉薄し、一進一退の格闘戦が繰り広げられる中、
101 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/15(日) 12:40:31.27 ID:E7iRZ/bz0
ランジュ「バシャーモ!!」
「バシャァーッ!!!!」
せつ菜「ウーラオス!! 引いて!!」
「ラオスッ!!!!」
── 一瞬の判断。メガバシャーモが口を開いた瞬間、ウーラオスは後ろに飛び退き、
「シャーーモッ!!!!」
メガバシャーモの口から噴き出される“かえんほうしゃ”を、身を捻って回避する。
ランジュ「そこよ!! “ブレイズキック”!!」
「シャーーーモッ!!!!」
身を捻って体勢の悪いところに追い打ちの燃える蹴撃。
だが、
せつ菜「“あくのはどう”!!」
「ラオスッ!!!」
「シャモッ…!!!」
ここで接近は許さない。“あくのはどう”で怯ませながら、ステップを踏み、
せつ菜「そこです!! “あんこくきょうだ”!!」
拳を構えて──今度は逆にメガバシャーモの隙に、強烈な拳を突き出す。
「ラオスッ!!!」
この位置関係──もう回避は間に合わない……!!
ウーラオスの拳がメガバシャーモの顔面を捉えた──と思った瞬間、メガバシャーモの上半身が掻き消える。
せつ菜「な……!?」
──掻き消えた……違う……!?
メガバシャーモは、その場で上体を後ろに逸らし、ブリッジのような状態から、
ランジュ「“ブレイズキック”!!」
「シャーーーモッ!!!」
「ラオスッ…!!?」
サマーソルトでもするかのように、ウーラオスの顎を炎を纏った脚で蹴り上げる。
ウーラオスの体がそれで浮き上が──
「ラオスッ!!!!!」
──りそうになった瞬間、ウーラオスは震脚し、堪えながら、
せつ菜「“かわらわり”!!」
「ラオスッ!!!!」
「シャーーモッ…!!!?」
体を戻す勢いを乗せたチョップをメガバシャーモに叩き付ける。
「シャモッ…!!!」
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