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【マギレコ】 最後の世代の魔法少女たち
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1 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 22:38:46.99 ID:/ZKesHprO
マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝の二次創作です。
書き溜めたものを順次投下して、書き溜めた分が尽きたら不定期で
書き上げて投下する予定です。
時系列は第二部第十一章の後日を想定。
本編には登場しない魔法少女もとして美国織莉子、呉キリカが登場。
おりこマギカイベント My Only Salvationが少々絡んでいます。
拙い内容ですが、よろしくお願いいたします。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1658756326
2 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 22:43:52.64 ID:/ZKesHprO
それは今でも忘れられない、在りし日の神浜市という街の記憶。
神浜市を取り巻く根深い歴史問題。
同じ街の魔法少女同士による東西抗争。
魔女化の宿命からの解放を目指すマギウスの翼が起こした騒動。
伝説の大魔女と呼ばれたワルプルギスの夜の討伐。
その後に待っていたのは、浄化システムを巡る新たな戦いの日々の幕開け。
神浜マギアユニオンの結成と、プロミストブラッドとの抗争と共闘。
時女一族との出会いと同盟、戦友の喪失、ネオマギウスの計画阻止。
午前0時のフォークロアとの邂逅、争い合っていた魔法少女陣営との和解。
そして、インキュベーターに掌握された浄化システムをついに奪還。
その後は、里見灯花と柊ねむの復活があった。
魔法少女たちを取り巻く状況と環境は、短い間に目まぐるしく変化した。
だが、数々の困難を乗り越えて、魔法少女たちは、ようやく一時の安寧を得ることができた。
そんなある日、みかづき荘へ一人の人物が訪ねてくる。
3 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 22:52:05.25 ID:/ZKesHprO
「ご無沙汰しています。環いろはさん」
「……織莉子ちゃん?」
「急に尋ねてごめんなさい。その節は大変ご迷惑をおかけしました」
彼女の名は美国織莉子。未来予知の能力を持つ魔法少女で、みかづき荘の住人は
織莉子と面識があったが、当時は八雲みたまを巡る戦いで、敵対関係にあった。
お互いに命を危険に晒し合ったものの、織莉子の謝罪により和解を果たした。
その後は交流がなかったが、数ヵ月振りの再会となる今日、彼女は深刻な表情で現れた。
未来予知の内容を伝えに来たという織莉子を、環いろはが玄関先で迎える。
「すみません。本日、みなさんはいらっしゃいますか?」
「今日はみかづき荘のみんなで、これから出かけるところなの」
「そうでしたか。それでしたら日を改めます。都合のつく日を教えて下さい。大事なお話なんです」
いろはは、後ほどメンバーの都合を聞き、織莉子に連絡することを約束し、お互いの連絡先を交換。
織莉子はみかづき荘を後にした。
4 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:00:37.83 ID:/ZKesHprO
「誰か来ていたの?」
「それが、織莉子さんが訪ねて来たんです。深刻そうな顔をして……」
「織莉子って……あの時の、美国織莉子よね……?」
「これから出かけることを伝えたら、日を改めると。急なんですけど、
みんなの予定が空いている日はありますか?」
「そうね、ちょっと聞いてみるわ」
七海やちよは、由比鶴乃、フェリシア、二葉さな、環ういに日程を尋ねると、
最後にいろはの予定を尋ねて、織莉子に伝えるよう促した。
織莉子からはすぐに、週末の休日に来訪する旨の返信があった。
「やちよさん、織莉子さんに日程を伝えました」
「ありがとう。美国織莉子、みたまの時のことを思い出すわ……」
「みたまを襲ったときは何事かと思ったけど、あんなことをしたのは、
よく分からないままだったなぁ」
「あん時、一緒にいた黒いやつには、手こずらされたぜ」
「あの時の魔法少女が、今度は何の用ですかね……」
「お姉ちゃん、織莉子さんはどんな用事が言ってた?」
「さっき、電話で少しだけ話を聞いたんだ。今度、織莉子さんが来た時に、
全容を話してくれることになってるんだけど」
「電話で聞いた話だけでもいいわ。どんな話を聞いたの?」
「それが……」
いろはは、先ほど織莉子と電話で交わした、会話の一部始終を語った。
話し終えたとき、話を聞いていた全員が呆れたような、怪訝な表情のまま、視線をいろはから逸らした。
5 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:07:02.38 ID:/ZKesHprO
ショッピングモールのポイント10倍デーに備えて、出発準備が整っていた住人は、
居間で着席はせずにいろはの報告を聞いた。
織莉子によれば、全人類が死に絶える未来を予知したという。
それを止められる可能性にかけて、みかづき荘を訪ねたとのことだった。
かつて、いろはたちと対峙した際、いろはの他者との絆を信じる前向きな姿勢に、
救世の可能性を感じたとも。
「率直に言うと半信半疑ね。みたまの時のことは謝罪を受け取ったから、
当時のことをフィルターにかけたりはしないけど」
「でも、今日のことは電話だけで、今度は直接話すわけですし、
いくらなんでも与太話ってことはないと思います」
「そうよね。そんなことするような人じゃないでしょう。今度の休みなのだけど、
全員、一日予定を空けてちょうだい。もし本当に未来が危ないという話なら、
真剣に聞きたいのよ」
「お姉ちゃん。今日のことなんだけど、私からもいいかな?」
「うい?」
「未来にかかわることなら、灯花ちゃんたちも呼びたいんだ」
「なんでアイツらまで呼ぶんだよ?」
「星屑タイムビューワ」
「なんだそりゃ?新手のウワサか?」
「今はもういないウワサだよ。桜子ちゃんの裁判があった日なんだけど、
あの日、時間が来るまで、星屑タイムビューワで未来を一緒に見たの」
「中央区に行った時のことだね。覚えてるよ」
「だから、灯花ちゃんたちにも来てほしくて」
「分かったよ。私から連絡しておくね」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「やちよさん、一旦部屋に戻ります」
「分かったわ」
いろはは自室に戻ると、灯花に電話で連絡を取った。
灯花はすぐに電話に出ると用件を聞き、いろはは先ほどの内容を伝えた。
6 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:09:25.39 ID:/ZKesHprO
『未来のことかー。わたくしも興味あるし、ねむと桜子、あとは書記を連れて行くね。
場所はみかづき荘でいいの?』
「うん。午前十時には織莉子さんが来るから、間に合うように来てほしいんだ」
『分かった。ねむたちにも言っておくね。それじゃ、またその日にね』
「よろしくね、灯花ちゃん」
いろはは灯花との連絡を終えると、やちよに報告し、目的地であるデパートへ出発した。
後日、美国織莉子は改めてみかづき荘を訪れた。
みかづき莊の居間には、みかづき荘の住人と里見灯花と柊ねむ、柊桜子、
書記として連れてこられた佐鳥かごめの、計十名が揃っていた。
「あなたが美国織莉子だね。はじめまして。わたくしは里見灯花」
「僕からも、はじめまして。僕は柊ねむ。こっちはウワサの柊桜子、
書記として来てもらった佐鳥かごめ」
「|はじめまして。桜子でいい|」
「こ、こんにちは……佐鳥かごめです」
「みなさん、どうもご丁寧に。本日、予知で視た未来をお話しさせていただく、
美国織莉子よ。私のことは織莉子と呼んでいただければ」
「そうさせてもらうね」
時間通りに全員が揃った場で、織莉子の話が始まろうとした前、かごめが挙手。
「かごめさん、でしたね。どうされました?」
かごめは魔法少女の記録をまとめた『マギアレコード』へ、記録を残すため、
後ほど織莉子への取材を希望し、主旨を理解した織莉子から快諾を得た。
「魔法少女の取材記録とは、大きな目標を掲げているんですね。
せっかくだから、キリカも連れて来れたらよかったわ」
「そういえば、キリカちゃんは今日、来てないの?」
「これからお話しすることと関係していますが、別件で動いてもらっているんです。
今頃は、ミラーズで調査をしているはずです。私は予知の内容を伝えに来ました」
「その予知のことだけど、いろはから未来に脅威が訪れると聞いているわ。
どんな未来を視たのかしら?」
「少し話が長くなってしまいますが、お時間は大丈夫ですか?」
「この場にいる全員に、今日一日の時間を空けてもらってるわ」
「未来にかかわるとなると、一日かかってもおかしくないと思ったんだ」
「ありがとうございます。では、お話しします……」
7 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:15:27.74 ID:/ZKesHprO
織莉子が語る内容を簡潔にまとめると、彼女が視た未来には、世界にアリナ・グレイ以外の
魔法少女が存在しない。そこに生きている人類はアリナ以外におらず、世界には魔女とも
使い魔とも言えない異形が蔓延っている。
その世界でアリナは、巨大な魔女と思わしき存在と融合して力を振るっており、全人類を
人ではないものへと変え、互いに争わせ、その様子を見て狂笑を浮かべているという。
「異形の正体は、アリナ・グレイによって、姿形を変えられた人類の成れの果てでしょう。
何らかの対策を打たなければ、人類の未来は永遠に閉ざされてしまうかもしれません」
「未来でアリナさんがそんなことを……」
「話を聞く限りだと、アリナが人類を滅ぼすように聞こえるわね」
「人間を化け物に変えてるってことかな?アリナだったら、やりかねないけど……」
「ですが、あくまでも可能性にすぎません。惨状の原因がアリナだとは断言できないんです」
それを聞いて、織莉子の一番近くに座るいろはが、質問のために手を上げて口を開く。
「仮定形で話してたけど、アリナが原因ではない可能性がある、ってことかな?」
「恥ずかしながら、断言できない理由は、私の予知能力にはぶれが生じるんです。
自信の能力でありながら制御しきれなくて、それ故、重要ではない情報も私の
意思とは関係なく予知してしまうという有様。それでも大筋は予知通りになる。
未来で人類に滅亡の危機が迫るのは確かなんです」
「分かったわ。続けて」
いろはの隣に座る七海やちよは、いろはの質問で中断した説明の先を促した。
「キリカがアリナの身辺を調査中ですが、判明していることとして、彼女は自分専用のアトリエを
願いで手に入れたことが分かっています。アリナの関係者と遭遇した際に知ったようですが、
行方不明中のアリナは、そこに潜伏している可能性が高いと思われます」
「だったら、アリナのアトリエを見つければ、大事に至る前に解決しそうよね」
8 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:21:12.50 ID:/ZKesHprO
「それが、キリカと一緒にアリナに関係する場所を巡っていますが、成果は上がっていません。
今のところアトリエを特定する方法も、侵入する手段も見つかってないんです」
「探せば見つかるような場所じゃない、ってことかな。それじゃ手の打ちようがないんじゃ?」
やちよの隣に腰かける鶴乃は、織莉子の説明が始まる前に、やちよが全員に用意した麦茶を
一口飲んで、喉を潤して尋ねた。
「アトリエが願いで手に入れたものなら、恐らくですが、アリナ本人しか辿り着けない
場所であることも考えられます」
「それが本当なら、究極の自分専用だなぁ」
「アリナのアトリエは、超時間的、超空間的な場所に存在するのかもしれません。
キュウべぇに聞けば、ヒントくらいは得られるかもしれませんが、神出鬼没です。
探しても肝心な時に見つからない。こちらから接触するのは難しいでしょう」
「しょーがねーって、キュウべぇだし」
鶴乃の向かいに腰かけるフェリシアは、両手を頭の後ろで組んで不満を露にし、
ソファの背凭れに体を預けて脚を組んだ。
「だけど、あんなことがあった後で、キュウべぇが取り合ってくれるんでしょうか」
「た、多分、話くらいならしてくれるかも……」
浄化システムのコアとなった日を思い出しつつ、ういは心配そうに呟いた。
9 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:25:47.21 ID:/ZKesHprO
「こんなんじゃ、一度隠れたら、隠れた本人が自分から出てこない限り、どうにもならないね」
「こっちから乗り込んで、怖いねーちゃんを叩けねーってことかよ。ずりぃ」
「そうだ。キモチ石の時みたいに、灯花ちゃんからキュウべぇに接触できないかな?」
「そうしたいところだけど、まだ電波望遠鏡の修理は完了してないんだよ。
しばらく機械たちも動かしてなかったから、稼働試験もしないとだし」
「こちらからキュウべぇに接触するのは、一旦は保留しておこう。今はアリナのことが気になるよ」
「アリナは、何らかの手段を用いて、アトリエで時間の経過を待つつもりなのでしょう。
それがどのような方法かは分かりませんが、アリナを発見する方法がないのなら、
鶴乃さんが仰る通り、彼女が自発的に現れるのを待つしかないでしょうね」
「未来でアリナが現れるのを待つしかないんですね。どれくらい待てばいいんでしょうか?」
織莉子はやや顔を俯かせて言い淀んだが、意を決したように顔を上げて答えた。
「……おおよそですが、百年弱です」
織莉子の返答を聞いて全員が絶句し、フェリシアの隣に座るさなは目を見開いた。
「ひ、百年って……冗談じゃ……ないんですよね?」
「……予知で視えたビジョンに、それくらいの時間経過を示すものがありました」
「百年なんて……仮にそこまで生きてても、その頃の私たちは全員、おばあちゃんだよ……」
さなの隣に座る環ういは、アリナ・グレイに対峙する、魔法少女姿の老婆集団を想像して落胆した。
そこへ、柊ねむ、里見灯花、柊桜子が言葉を続ける。
10 :
◆3U.uIqIZZE
:2022/07/25(月) 23:36:30.63 ID:/ZKesHprO
「アリナが目指す、ベストアートの完成が目的なのかもしれない。自分以外に魔法少女が
存在しない時代であれば、誰の妨害なく悲願を成就できると考えたのだろうね」
「混乱のどさくさでアリナを逃したのは痛手だったよ。困ったことになったにゃー……」
「|だからといって、アリナを全く放置するわけにもいかない。
何か手を打つ必要があるけど、一旦休憩を挟むことを提案する|」
桜子の提案を受け入れた一同は、十五分後に会合を再開した。
各々、思い思いに休憩をとっていたが、灯花は休憩中から何かを考え込んでいた。
会合再開直後、いろはが灯花へ質問を投げる。
「灯花ちゃん、何か方法はあるかな?私たちじゃ何も思いつかなくて……」
「うーん……提案は……あるにはあるんだけど……」
灯花が語る未来を襲う脅威への対策方法は二つ。
一つは鏡の魔女結界に存在する無数の鏡から、目的の時間へ繋がる鏡を見つけ出し、
アリナが事を起こす未来へ渡ること。もう一つは、要員を選定してコールドスリープで
未来へ送ることだった。
「提案しておいてなんだけど、ミラーズを使う方法は、現実味の薄い方法なんだよね」
前者は目的の時間に通じる鏡が、存在することを前提とした方法だった。
だが、これまで未来の時間に繋がる鏡を、発見したという記録はない。
株分けの魔女の性質上、仮に以前に発見していたとしても、鏡を壊せばその記憶自体が消える。
未来に通じる鏡が存在する可能性はあるものの、どの鏡が目的の時間に通じているかは分からない。
それが発見できても、無事に未来へ渡れる保証も、未来から帰れる保証もない。
「それに、ミラーズで未来と現在を行き来できても、それはそれで別の問題があるんだよ」
「どういうこと、灯花ちゃん」
11 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:40:07.03 ID:/ZKesHprO
「わたくしたちが暮らす現在を世界α、百年後の未来を世界βと仮定してお話するね。
未来へ行って現在に帰ってくることは、わたくしたちにとっては世界αと世界βを
往復しただけ。これは分かるかなにゃー?」
「うん」
「だけど、宇宙の視点からすると、それはまた別の意味を持つの。世界αは、世界βを
経由した時間旅行者を内包する世界α’となるんだよ。百年後の未来である世界βは、
世界αからの時間旅行者を内包していた世界、世界β’となる。これもいい?」
「ちゃんとついていけてるよ」
「これが何を意味するかというと、世界α’では百年後の未来までの間に起きる
すべての出来事は、世界β’に繋がるよう、世界α’が調整されるかもしれない、
ということなんだよ」
「え、えっと……ごめん、ちょっと混乱してきた。世界βと世界β’はどう違うのかな?」
そこへ、ねむが灯花の説明の捕捉に加わる。
「いろはお姉さん、僕たちがミラーズを経由して、百年後の未来である世界βに渡ったと考えて」
「うん」
「世界βに到着したら、脅威を払拭するまでは、世界βに滞在することになるよね。
この時点では、世界βはまだ世界β’になっていない。これはいい?」
「大丈夫、ついていけてるよ」
「脅威を払拭して世界βから世界α……つまり、現在に戻ってくる。すると世界αは
世界α’となり、世界βは、僕たちが去った時間以降が世界β’となる」
「そっか。私たちが未来へ渡ったとして、現在に帰ってくるまでは、どちらの世界も
ダッシュには変わらないってことだね」
「その通りだよ。世界βが世界β’に変わるのは、現在である世界αに到着した時。
その時、はじめて世界αは世界α’になり、世界βは世界β’になる」
そこまでの説明で、会合出席者の一部は、首を傾げて考え込み始める。
出席者のうち、頭を抱えて困惑するフェリシアの様子は、一際目立っていた。
12 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:43:47.25 ID:/ZKesHprO
「本来、未来は常に変動しているの。現在よりも先の時間であり、世界であり、
数多の可能性の中から選ばれた一つの可能性。現在を生きるわたくしたちの
行動次第で、いくらでも変えられるものなんだよ」
「だけど、僕たちが未来へ渡って現在に帰ってきたら、つまり、世界βへ渡って
帰ってきて、世界αが世界α’に、世界βが世界β’になったら、この宇宙は、
世界β‘に時間が辿り着くまでの間、修正を働かせるかもしれない」
「その修正っていうのが分かりにくいな……」
「そうだにゃー……みんなは、歴史の修正力という言葉を聞いたことはあるかな?」
「SF映画とかで聞いたことあるよ」
「SFものだと割と定番よね」
「私には馴染みがないよ……」
「しゅーせいなんて、殴るくらいしか知らねーや」
「すみません、私も漠然としたイメージしかないです」
「過去で誰かを助けても、未来は変わらないとか聞いたような……」
「私は、過去を変えようとすると働く大きな力だと認識しています」
「一つ例え話をするよ。ある一人の人間の未来を変えようとして、仮にZさんとするね。
Zさんが不慮の事故に巻き込まれる瞬間を助けて、歴史を変える行動をとったとする。
その行動によって、本来は死ぬはずだったZさんが助かるけど、それは一時的な死の
回避でしなかないの。ここまでいい?」
「おう、続けていいぞ」
「その後、歴史による修正力が働くことで、歴史の辻褄合わせが起こる。
一度は助かったZさんが、別の形で死んでしまって、結局、Zさんの
未来は変わらないってことだよ」
「そ、それは、今回の話と、どう繋がるのでしょうか……」
「僕たちが世界βに渡ったという事実が消えないように、この宇宙が世界α’の中で
生きる人々の、あらゆる行動を世界βへと収束させ、時間が世界β’へ繋がるよう、
歴史を修正すると思われる」
13 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:47:50.36 ID:/ZKesHprO
「それって、何かよくないことになるのかしら?」
「未来が変わって世界βに時間が繋がらなくなるとい、時間の連続性が失われちゃう。
宇宙による歴史の修正が働かなかったら、最終的に人類が理解する時空間の崩壊を
引き起こすかもしれない。タイムパラドックって言えば分かるんじゃないかにゃー?
そうならないように、宇宙は何らかの形で、干渉するかもしれないってことだよ」
「つまり……時間旅行が齎す結果は、未知数ということね」
「そうだね。未来でわたくしたちが暮らすというなら、話はまた変わってくるけど、
それもベストとは言い切れないの」
「未来で暮らす私たちの姿は……想像できないわね。もう一つの方法というのは?」
後者は、前者よりも実現性の高い方法だったが、膨大なコストがかかるという問題があった。
未来へ送る要員と人数は限られ、付随する問題として、送り出された要員は行ったきりとなる。
コールドスリープは、一方通行の時間旅行でもあった。
そこへ、考え込んでいた織莉子が顔を上げ、ねむに疑問を尋ねる。
「コールドスリープで未来へ送られた人が、ミラーズから過去に戻ることは可能ですか?」
「時間は過去から未来へ一方通行で流れていて、それは覆らない。
ミラーズで未来へ渡った場合も、戻って来れるかは分からないんだ。
だから過去に戻ることはできないと、言いたいところだけど……」
「わたくしたちの世界には魔法が存在する。そのせいで原因と結果が逆転して、
因果律の矛盾が発生することもあるし、事例もなかなか説明しにくいんだよ」
「一方通行のはずの時間の流れに、逆らえることがあるかもしれないと?」
「それも、分からないとしか答えられないんだけど、過去へ戻れたとしても、
それはそれで問題があるんだよね」
「過去に戻れたとしても、戻った先の過去が、出発元の現在であるとは限らないからね」
14 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:56:01.42 ID:/ZKesHprO
「それどころか、未来から要員が出発元の現在に戻って来れた場合、
さっきも言ったけど、タイムパラドックスが発生する可能性が高いの」
「出発元の時間と、そうではない時間。具体的にはどのような違いが?」
「出発元の過去ではない場合は、出発した時代とよく似た歴史を辿った、
別の世界に到着すると思う。その世界に要員との同一存在がいた場合、
その世界の自分に成り代わるかもしれない。或いは、その世界の自分と
同時に存在することも考えられるね」
「同一存在がいない場合は、そこは別の世界の自分が既に死んでいるか、
そもそも最初から存在していないのかもしれない」
「いずれにせよ、一度未来へ送り出された要員が過去に戻ることは、
ミラーズを使うよりも危険と言わざるを得ないの」
「というより、異なる時間を行き来すること自体が、既にリスクなんだけど」
「さらに、過去に無事に到着しても、そこで生活ができるかは別問題だよ」
「では、戻った先の過去が、出発元の世界の過去だったときはどうでしょうか?」
「一つの世界に同じ人間……とは言っても、厳密には異なるんだけど……
同じ人間が複数同時に存在すると、宇宙が不安定になるかもしれないの。
仮に未来から出発元の時代に帰ってきたとすると、そこには現在の自分と、
百年後の自分が同時に存在することになる。これは本来はありえないこと。
そんな事態に対して、宇宙がどう対応するのか、まったく分からないんだよ」
「現時点で、コールドスリープで未来へ送られた要員が、ミラーズを通じて
現在に戻ってきたりしていない。これを宇宙視点から見た場合、僕たちが
存在する現在の世界は、未来から戻ってきた要員を内包する世界ではない、
ということ。一応確認するけど、ここまでついてこれてるかな?」
「はい。整理もできています」
15 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/25(月) 23:59:18.49 ID:/ZKesHprO
「それじゃあ、話を続けるよ。未来へ送られた要員が過去へ戻ってきたら、その世界は、
未来から戻ってきた要員を内包する世界へ、上書きされるということ。でも、時間の
連続性の観点からすると、上書き前の世界から過去に戻ってきたという事実に対して、
矛盾が生じてしまうんだ」
「その矛盾について、もう少し詳しくお話を聞かせて下さい」
「未来から戻ってきた要員は、上書きされる前の世界から、未来を経由して過去へ
戻ってきたともいえるね。だけど、過去へ戻ってきて世界が上書きされたことで、
上書き前の世界は消える。これは、戻ってきた要員が出発した世界が消えてしまう、
ということでもあるの」
「……未来から戻ってきた人が、どうやって過去に辿り着いたのか分からなくなる。
帰って来れるはずがないのに帰ってきているのはおかしい、ということですか?」
「その解釈で間違ってないよー。それがタイムパラドックス。これが起きるということは、
宇宙が矛盾に耐えられなくなった時、フェイルセーフが発動する可能性があるの」
それを聞いて、フェリシアが頭を抱えながら疑問を口にする。
「宇宙がカマンベールってなんだ?」
「フェイルセーフだよ。なんでチーズが出てくるのかにゃー?」
「しょーがねーだろ。そう聞こえたんだからよ。なんとかセーフってなんだ?」
「……フェイルセーフ。本来の言葉の意味としては、機械装置の操作を誤ったときや、
機械装置に故障や異常が発生した時、周囲に危険が及ばないよう予防動作をさせて、
危険を回避する機構を指す」
「もうちょっと分かりやすく言ってくんねーか?」
16 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/26(火) 00:01:35.51 ID:DJtq/vHtO
「じゃあ、例え話をしよう。昔の機械装置は、大きな電力が一気に流れ込んだ際、
機械がそれで壊れたりしないよう、ヒューズという部品が未然に故障を防いだ。
ヒューズが飛ぶなんて表現、聞いたことないかな?」
「それなら聞いたことがある気がする」
「規定を超えた電力で、機械装置が壊れないようにするために、ヒューズが飛んで
電気の流れを断つ。これもフェイルセーフの一種さ」
「ここでいうフェイルセーフは、宇宙が矛盾に耐えられなくなった時、自己消滅するか、
歴史を改変するかもしれないということだよ」
「それって、宇宙が自[
ピーーー
]るってことになるのかな?」
「そういった可能性も無きにしも非ずだね。宇宙が正常な形を維持し続けるための、
特定の波長というかパターンがあるの。人間の体で例えると脳波が近いかにゃー。
異なる時間を行き来することによって、その波長に影響があるかもしれないの。
最悪の場合、宇宙が崩壊してしまうことも考えられる。その後、崩壊した宇宙は
崩壊したままなのか、再構築されるのか。どちらにしろ、何かが起きたその先で、
わたくしたちが知る現在の宇宙は、存在しないんだよ」
「他に可能性があるとしたら、過去に戻ってきた要員に免疫ができる可能性だね」
「免疫って、人体の仕組みでいう免疫のことかな?」
「考え方の一つだけど、時間を渡った人間には、宇宙が歴史の辻褄合わせをするため、
歴史の変化による影響が及ばない。或いは、未来から戻ってきた人は、異世界から
渡ってきた姿形が同じ別人という扱いになるかもしれない」
「宇宙が崩壊しちゃうかもしれないから、試すこともできないけど」
「未来から過去へ戻ろうとすると、何が起きるか分からない以上、未来へり出された人は、
そのまま未来で生きていくことが、無難な選択のですね」
そこで思わず、鶴乃が呟くように言葉を口にした。
17 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/26(火) 00:04:39.53 ID:DJtq/vHtO
「頭がずっと混乱してる。こんなことなら、もっとSF物の漫画でも読んでおけばよかった」
「疑問を抱いているのは、鶴乃だけじゃないはずだ。どう説明しても頭の混乱は避けられない。
日常生活で宇宙と時間の連続性を考えたり、タイムトラベルなんて意識しないはずだからね」
「分からないことがあれば、どんどん聞いてね」
それを聞いて、いろはが困惑した表情とともに灯花に尋ねる。
「灯花ちゃん、ねむちゃん。悪いんだけど、また休憩を取ってもいい?
少し頭を整理する時間が欲しくて」
「いいよー。再開するときは声をかけてね」
休憩を告げられると、出席者は思い思いに休憩を取り、会合を再開する。
異なる時間の行き来が齎す危険性の説明が終わり、議題はコールドスリープへ戻った。
コールドスリープマシンを開発すると仮定して会合は進行するが、未来へ送る要員に
百年後の問題を押しつけるも同然の方法は、出席者全員から疑問が上がった。
「未来に送るのは、誰でもいいわけでもないですよね……」
「かかるコストを考えると人数も限られる。誰を送るのかも考えることになるわね」
「募集かけても、志願者が現れることは期待できないと思う。選ぶほうが早いのかも」
「オレは絶対やらねーよ……。だって、百年も経ったら、誰も知ってるやつがいねーじゃん」
「現在と比べて環境が全く変わってるはずですし、別の世界に旅立つのと変わらないかと」
「私も百年も経った世界で生きていくのは、ちょっと想像できないよ……」
「無理もないと思うよー?わたくしも、百年も先の未来で生活するなんて現実味がないからね」
「それでも、今後を見据えて、コールドスリープマシン開発は、視野に入れるべきだと思うよ。
要員の選定も必要になるし、万が一の備えとして、実現する手段を考えても損はないはずだ」
「|ねむの言う通り、私も今すぐ決める必要はないと思う。まずは、考えられる限りの方法を
列挙してからでも遅くはない。私は、魔法少女の能力を組み合わせで、未来へ渡る方法を
探ることを提案する|」
いろはたちが未来へ渡る方法を考える横で、書記として議事録をまとめていたかごめが
コネクトを通して織莉子に呟いた。
(なんだか、本当にSFみたいな話ですね……)
(魔法少女の存在自体が、ある意味ではSFかもしれませんよ)
18 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/26(火) 00:06:44.10 ID:DJtq/vHtO
二人の視線の先では、コールドスリープを選択した場合に備え、
百年後の未来へ送る要員の選定を巡って、議論が続いている。
織莉子自身も思案を巡らせた。
未来へ送り出されてしまえば、宇宙存続の問題が絡むことから、
過去(現在)へ戻ることはできない。送り出された要員は、未来で
生きていくこととなり、そのための財と資源が必要となる。
だが、どの程度の財と資源が必要になる?
それを未来までどのように守り続ける?
未来へ送る要員の人数と選定方法は?
柊桜子が提案した方法は、組み合わせる能力次第で、未来へ渡れる可能性がある。
未来へ渡ることはできなくても、他の方法と組み合わせれば応用が利くかもしれない。
(いずれにせよ、一朝一夕で答えは出ないわね……)
議論すべきことは多くあったが、時間が押してきたため、会合は日を改めることとなる。
正午に始まった会合だったが、気付けば夜の帳が下りようとしていた。
「すみません。こんなに長い時間、お邪魔してしまって……」
「気にしないでちょうだい。私たち全員、今日一日予定を空けていたのよ」
「やちよさんの提案で、未来にかかわることなら、纏まった時間が必要になるからって」
「そうだったんですか。お気遣い、痛み入ります」
「それより、織莉子さん。かごめさんの取材の件、帰る前で悪いのだけど……」
「とんでもない。それでは、約束通りに……」
19 :
◆3U.uIqIZZE
[sage]:2022/07/26(火) 00:11:54.83 ID:DJtq/vHtO
織莉子は帰路に就く前、約束通りかごめの取材を受けた。
取材の場で織莉子は、自身が世界に存在する意味と、自信の能力を以って、
自分が何を成すべきかを悩んだ日々を語った。
自分の目的のために、関係ない少女を巻き込んで魔法少女にしてしまったこと、
みかづき荘の住人と対峙したが、いろはが他者との絆を信じる姿を見て救世に
対する考えを改めたこと、自身の心の声に正直になろうと決めたことを語った。
取材を終えた後、織莉子はみかづき荘を後にしようとしたが、ねむが呼び止めた。
「すまない。大事なことを一つ言い忘れた」
「なんでしょうか?」
「今後、僕たちはミラーズを使うことはできない」
「柊さん、それはどういうことかしら?」
「アリナがミラーズに隠れている可能性を考えてみた。ミラーズは僕たち魔法少女の
記憶を読み取れる。未来で人類が滅ぶ原因がアリナだとしたら、鏡の魔女と利害が
一致しているともいえるよね」
「……仰りたいことは分かりました。今日の情報を、ミラーズのコピーがアリナに
伝えるかもしれない。そうなればアリナが完全に雲隠れしてしまって、私たちは
アリナ発見を断念することになる」
「察しがいいね。そういうわけで、この場にいる全員、今日限りでミラーズに入ることは
出来なくなってしまった、ということだよ」
「ど、どうしましょう、やちよさん。私たちじゃ、鏡の魔女を倒せなくなったも同然ですよ」
「み、皆さん、申し訳ございません。私、予知した未来のことで手一杯になってしまって、
そちらのことは全く考えていませんでした……」
「待って。起きてしまったことを責めても、どうにもならないわ。それに、あなたは危機を
未来の危機を知らせに来たのであって、魔女退治の邪魔をしに来たのではないもの。
あなたは悪くないから、気にしないでちょうだい」
「……そう言ってもらえると、助かります」
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