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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.4

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383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/08/19(金) 07:56:33.90 ID:l4NqUy6aO
保守
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/08/27(土) 09:11:33.71 ID:k/4CohEA0
2出てたこと最近知って一気読みしてしまった。続き楽しみにしてます!
385 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:27:37.07 ID:d9r5Nguj0
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≪island life:day 25≫
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【ルカのコテージ】

一晩経ったが、まだナイフで裂けた傷は塞がらない。
寝起き早々に手が真っ赤に染まっていて言葉を失った。
自分でやったことではあるものの、傷としては残りそうだし、少し憂鬱になる。
顔を洗おうにも両の手で水を掬ったりはしづらいし、物を握るのも痛みが伴う状態。
どうしたものかと首をもたげた。


「……まあ、あいつはそれどころじゃないんだろうけど」


市川雛菜のことを思うと、そんな嘆きもしょうもなくかんじられる。
私は一時的でも、あいつは一生。
ずっとずっと不便がつきまとう。
それだけでなく、安息を不意に奪うような痛みも不定期に現れる。
この先数十年の人生に落とした影は、思う以上に濃い。


「……それでも、あいつはきっと笑顔なんだろうな」


レストランで待ち受けているだろう顔を想像しても、曇っているものは考え付かなかった。
386 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:28:20.35 ID:d9r5Nguj0
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【ホテル レストラン】

恋鐘「おはようルカ〜〜〜!」

智代子「おはようルカちゃん!」

ルカ「よう……」


出迎えた二人にも、その表情に曇りはない。
むしろうざったいくらいの声量で、こちらの表情が曇るくらいだ。


恋鐘「今日は何でか知らんけど、厨房の冷蔵庫は使えんくなっとったばい……故障ばしとるとやろか?」

智代子「えっ……それじゃあ今日の朝ごはんは……」

恋鐘「ばってん、うちに妥協はなか! 冷蔵庫の食材は使えんくても、他のもんで何とでもなるけん! 新鮮なフルーツでとっておきの朝ごはんを用意しておいたばい!」

智代子「いよっ! その言葉を待っていた〜!」

ルカ「……相変わらずオマエらは能天気だな」


連中はすっかり市川雛菜のペースに飲まれてしまったらしい。
昨日は後遺症やら襲撃やらでとても笑顔なんて余裕がなかったというのに、今ではすっかり元の調子。
体中の力が抜ける、間の抜けた食卓が帰ってきていた。
387 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:28:55.71 ID:d9r5Nguj0

恋鐘「ほら、ルカもた〜んと食べんね! 料理は食べられてこそばい!」


相変わらず問答無用で朝食を皿に盛り付ける長崎女。


智代子「ルカちゃん、そのベーコンエッグ……要らないなら助太刀致しますぞ」


やたら仰々しい口調で余り物にありつこうと集ってくる甘党女。


雛菜「次はヨーグルトが食べたいかな〜」

透「ウィウィ、ちょっと待って。箸だとなかなかむずいから」

雛菜「透ちゃん、スプーン使わないの〜?」

透「あー……あったんだ」


ギャグ漫画でもないようなやり取りでこちらの頭を痛くするノクチルの二人組。

レストランの卓には、私が苦手で苦手で仕方ない、それでも無いなら無いで違和感を覚える喧しさがあった。




……一部分を失した形で。




388 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:29:28.23 ID:d9r5Nguj0

智代子「……あれ、そういえばルカちゃん」

ルカ「あ? どうしたよ」

智代子「あさひちゃん、今日は一緒じゃないんだね」

ルカ「あさひ……?」


今朝の私は完全に抜けていた。
傷ついた自分の体を慰めるのに夢中だったのか、
荒れ果てたかつての相方を見て傷心を引き受けたからか、
悲運を悲運と見ない滑稽とすら感じる開き直りに感化されたからか、
この日ばかりの私は、かつての鋭さの全てを失った形でここに座っていた。
絶対に見落としてはいけないものに、視界の外にいることを許可してしまった。


ルカ「だ、大丈夫だろ……すぐに来るって」

智代子「……行ってあげて、ルカちゃん。不安な気持ちを隠す必要なんかないよ!」

ルカ「……誰が」

恋鐘「素直にならんね、もううちらん前でカッコつける必要なんかなか!」

ルカ「……チッ!」


なぜ手綱を離してしまったのだろう。
散々冬優子から聞かされていた『神出鬼没』、行動の予測がまるでつかない芹沢あさひという存在。
誰よりも彼女の理解者たる冬優子ですら、匙を投げていた。
それにこの島のルールという危険因子が絡んでいる今、ほんのわずかな間の所在なさですら私たちの血の気を引かせるには十分すぎた。

音を立てて引いた椅子、その足を蹴飛ばすようにして入り口へ。
もつれかける足取りも他所に、ドアノブに手をかけた。
そこで思いっきり引けば、あの嫌味ったらしい快晴の太陽が私たちを見下ろしている。
389 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:30:28.80 ID:d9r5Nguj0



_____そのはずだった。



「……え?」





美琴「……」



ルカ「み、美琴……?!」

透「……」

雛菜「へ〜〜〜?」
390 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:31:40.80 ID:d9r5Nguj0

俄に緊張が走る。
浅倉透は恐怖と怒りをないまぜにし、奥歯で感情をすり潰す。
市川雛菜は困惑が一番先に出ているだろうか。
自分の右手を奪った犯人が突然に目の前に現れたことに、行動の選択に手間取る。


恋鐘「透、雛菜! うちらの後ろに下がらんね! 大丈夫……うちらがおれば手出しはさせんけん!」


月岡恋鐘が前に出て美琴の視線を遮った。
だが、美琴はそれを邪魔そうにするでもなく、前に割って出ようとすることもなく静かに視線を落としていた。


ルカ「……待て、オマエら。そうじゃねえみたいだ」


これまでずっと美琴を観測し続けた私には分かった。
狂乱の限り、凶行に走ったあの頃とは違う。
今の美琴は、空っぽだ。
憑き物がとれた、なんて表現があるがそれとはまた違う。

もっと他の表現。根幹から失われてしまった、抜け落ちてしまったという言葉の方が正しいのかもしれない。
美琴に取り憑いていた七草にちかの亡霊が、美琴の中の"もの"ごとにどこかに行ってしまったような。
そんな空虚さを感じてしまう。


ルカ「……」


美琴の前に私が立ったことで、他の連中は黙り込んだ。
色々と察して、私と美琴に時間をくれるようだ。
391 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:32:51.23 ID:d9r5Nguj0

美琴「……」


美琴「……」



美琴「……ルカ、その手」



口を閉ざしていると、沈黙に耐えかねたのか美琴が口を開いた。
落とした視線の先にある私の手を話題に持ち出した。


ルカ「……私より先があんだろ。安易な逃げ道に走るな」

美琴「……っ」


でも、それを咎めた。
私も美琴も、強くはない人間だ。
大事な決断に目を向ける勇気がないから、もっと別なものに依存してお茶を濁す。
その結果時間ばかりがすぎていき、気がつくと全てが手遅れ。
そんな後悔は、もうしたくない。


美琴「……えっと……その」

美琴「……」

ルカ「美琴!」

美琴「……そう、だよね」


並ならぬ私の様子に流石に腹を括ったのか美琴は私の横を通り過ぎて、卓に近づいた。
きっとこのレストランに来た時からそのつもりではあったんだろう。
それ以外に浮かんでいた選択肢を殺した。
私がしたのは、それだけのこと。

392 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:34:46.27 ID:d9r5Nguj0

美琴「…………雛菜、ちゃん」

雛菜「……」


市川雛菜はいつもの喧しい声を潜めて、美琴の顔を見つめる。
つい数日前の仇だというのに、全く肝が据わっている。


美琴「その、右手……は……」

雛菜「見ての通りですよ〜? あなたが刺した傷のおかげで、一生動かないです〜」

美琴「……え」

雛菜「それに、放っておいたらすっごく痛むんですよね〜。お薬が手放せない感じです〜」

美琴「……くす、り」


市川雛菜の言葉ひとつひとつが美琴の胸を刺す。
心臓を締め上げるその鎖は罪悪感という名前がついていた。
自覚するに遅すぎた感情、ずっと麻酔を効かせていただけの神経が眠りから覚める時。
美琴は身をよじろうにもよじれぬ苦しみに悶えていた。


雛菜「利き手じゃない方だったら、まだよかったんですけどね〜。雛菜これじゃマイクも握れませんよ〜」


美琴にとっては、きっとこの言葉が一番重たかった。
アイドルという戦場にずっとその身を置いていたから、武器を失うことの恐ろしさは一番彼女が自覚している。
この世界では、常に銃弾が飛び交う。
武装もしていない人間が飛び出してしまえば、すぐにそいつはお終いだ。
市川雛菜に待ち受けているのは、確定の惨死。
それをもたらしたのは、他ならぬ美琴。
393 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:36:01.95 ID:d9r5Nguj0

美琴「……雛菜ちゃんは、私のせいでステージに立てない」


そんなもの、覚悟していたつもりだった。
浅倉透を殺すと決めたその日から、邪魔をする人間も排除するつもりだった。
あの日の晩に起きたことだって、ある程度は織り込み済みだったはず。
私に遮られてもなお止まらずに、浅倉透の喉元を掻っ切るつもりだった。


美琴「私が、殺した」


ハリボテの覚悟だった。
肉を裂き、血を浴び、苦痛を与え、引き受ける感覚。
人生でそんなもの一度も味わったこともないのに、乗り越えられると盲信していた。
自分は強い人間だと、とっくに麻痺しきった人間だと、陶酔していた。
それが虚勢だということも気付かずに。


美琴「……ごめんなさい、雛菜ちゃん」


言葉は他になかった。
相手から全てを取り上げた、そのことに釈明など許されるはずもない。
奪った側にできるのは全てを悔やむ、謝罪ただ一つのみ。
その結論に至りながらも、稚拙な言葉でしか謝罪を表明できないのが歯痒かった。
394 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:36:39.72 ID:d9r5Nguj0

雛菜「……」


謝罪を受けた市川雛菜は、黙って美琴のことを見つめる。
今の美琴の裏側にあるもの、瞳の奥のその先を見据え、観測していた。
視線を直に浴びて、美琴もまごつく。


美琴「ごめんなさい……どうやってあなたに謝ればいいのか、私にはわからないの」

雛菜「……」

美琴「私のやったことは、取り返しのつかないことだから」

雛菜「……」

雛菜「そんなわかりきったこと、繰り返さなくていいですよ〜?」

美琴「……っ」

雛菜「それに、謝り方に正解とかないですよね〜? 雛菜の失った右手、それにこの右手で掴むはずだったものに見合うだけの謝罪なんて雛菜もわかんないですし」

美琴「そう、だよね……」
395 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:37:33.01 ID:d9r5Nguj0





雛菜「だからその先の話を教えてくれます〜?」





396 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:38:37.19 ID:d9r5Nguj0

市川雛菜は強欲な女だ。
自分のやりたいようにやって、自分の好きなことに声高に好きだと宣言する。
それでいてあさひと大きく違うのが、こいつは何もガキの我儘ばかりではないということ。
一本に通った太く根強い芯が、世界と社会とを俯瞰的に捉えている。
自分というブレないものがあるからこそ、懐疑的に固定概念を打ち破って、他の人間では踏み入れない領域に先駆することができる。
責任とか柵みとかそういった従わざるを得ないものに、彼女は屈しない。
感情というものを先に置いて結論が出せる。


雛菜「雛菜がアイドルとして終わった、その先の話をしませんか〜?」

雛菜「あなたは奪ったものの代わりに、雛菜に何をくれるんですか〜?」

美琴「私から、あなたに……?」

雛菜「……? 雛菜、何か変なこと言ってますか〜?」

美琴「……ううん、そうだよね。穴埋め……補填させてもらわなきゃね」


ある種一番残酷な仕打ちかもしれない。
自分の犯した罪をこれから先ずっと間近で見る上に、搾取をされ続ける。
市川雛菜が言うことに、もう美琴は拒否権すらないかもしれない。
ただ、それは美琴の感じている罪悪感と釣り合うだけの贖罪として飲み下すことができた。
美琴にとっては、苦しみ続けられる道を示してもらえたことに感謝すらしていただろう。
397 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:40:06.48 ID:d9r5Nguj0

ルカ「……オマエんとこの、相変わらずだな」

透「うん、雛菜って感じ」

ルカ「……オマエは、それでいいのか?」

透「いいよ、雛菜が決めたことだし」


そんな二人の歩み寄りを、傍観者かつ保護者である私たちは並んで見届けていた。
市川雛菜の言葉に繰り返し頷くようにしていた浅倉透。
自分に殺意を向け続けた人間に課せられた贖罪に、ある程度納得はできたらしい。


透「言ったじゃん、信じてほしい。私はみんなの味方だって」

透「美琴さんも。283プロの一人でしょ」

ルカ「……へいへい」
398 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:41:15.50 ID:d9r5Nguj0

ことの次第を黙って見届けていた、外野二人。
途中から視線の端で妙にソワソワしているのが目についていた。
市川雛菜から赦しが出たその時から、こいつらの間抜け面が戻ってきていた。


智代子「……美琴さんがしたことは、取り返しが効かないし、ずっと向き合っていかなくちゃいけないことなんだよね」

智代子「でも、こうして美琴さんは一歩を踏み出してくれたわけだし……あの言葉をかけてあげてもいいんじゃないのかな」

恋鐘「智代子! 多分うちとおんなじこと考えとる〜!」

智代子「きっと、そう! ずっと前から……私、この一言が言いたかったんだもん! やっと心から言えるタイミングが来たんだね!?」

恋鐘「よ〜し、それじゃあ張り切って……」





「「おかえり〜〜〜〜〜!!」」



399 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:42:09.46 ID:d9r5Nguj0

二人に連れられて、美琴は空席に座らされる。
さっきの今で美琴の表情はまだ硬い。
困惑して口だけをぱくぱくとさせているのが美琴らしくなくて、私は思わず吹き出した。


恋鐘「美琴、一人でおる時まともにご飯なんか食べとらんやろ〜? 席に着いたからにはもう逃さんよ! お腹いっぱいになるまで食べさせるから覚悟するばい!」

美琴「え、えっと……」

智代子「デザートも付いてますし、とことん付き合ってもらっちゃいますよ! 美琴さんのお口に合いそうなもの、たくさん見つけておきましたから!」

美琴「そんなに食べられない……」

ルカ「……ハッ」


あの頃と全く違うのは、帰る場所の有無。
私と組んでいた時は、美琴にはステージの他に居つくべきところは何もなく、そのためにすべてを捧げていたし、横に立つ私にもそれを強いていた。
あれから何年もの時が経ち、美琴には自分を待ってくれる人ができた。
真横に立つパートナーに限った話じゃない、お節介で喧しい年下連中。
仕事を管理している、うちのよりよっぽど優秀らしいプロデューサー。

そして、そんな連中の集う“家”のような事務所。
たとえ道中で何かを失おうとも、自分の身体を傷つけてしまっても。
最後に縋れる存在ができた、それだけで心持はだいぶん変わるはずだ。
400 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:43:07.30 ID:d9r5Nguj0

ルカ「……美琴」


私はその“家”の住人ではない。
だから、その輪に入っていく権利もない。


恋鐘「なんねルカ! そがんところでつっ立っとらんではよ席につかんね!」


でも、許可は下りている。
というよりも、無理やりに押し付けられた。

離れよう、近づくまいとしていたのに、私の袖をつかんでぐいと引っ張るものが何人もいた。


ルカ「……ハッ」


あの頃にも、こんな場所があったなら……なんて、私らしくもない。


401 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:44:12.00 ID:d9r5Nguj0

恋鐘「さ、これで今度こそ全員が一つに結束できたばい! もううちらに恐れるものなんかな〜〜〜〜〜〜〜〜んもなかね!」

智代子「うん! 夏葉ちゃんと冬優子ちゃんにも、誓ったんだもん……ここから先、事件なんて起きない。起こさせない。残ったみんなと一緒に島を出ていくって!」

美琴「……あなたの分のオールも、私が漕ぐから」

雛菜「やは〜! 楽ち〜ん!」

恋鐘「ひとまずはみんなで同じご飯食べて、絆を確かめ合うことが重要やけんね!」

ルカ「……くっせぇセリフ」

恋鐘「ルカ、照れんでよかよ〜」

ルカ「呆れてんだ」


改めて全員が椅子に腰かけ、お互いの顔を見る。
卓を囲む六人、この食事に行きつくまで随分と時間がかかった。
ノクチルの二人と美琴が一緒に食事なんて、つい数日前までは考えられなかった。
この島ではイレギュラーばかりが起きる。
明日の事なんて、想像するだけ無駄だというのがよくわかるな。


信じがたい日常の再来、食事に手をつけようとしたその時だった。
402 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:45:21.92 ID:d9r5Nguj0

美琴「……ねえ」

ルカ「……あ?」


私の隣に座る美琴が、囁くような声で尋ねた。


美琴「そういえばルカ……さっきは何をしようとしていたの? レストランを出て行こうとしていたみたいだけど」


私はいつの間にかすっかり忘れてしまっていた。
元々私が動き出したのは、あいつをレストランに連れ出すため。
これまでの美琴とはまた違った意味合いで行動を把握できず、目を離しているうちに何をしでかすかわからない存在。


____芹沢あさひを、椅子につかせねばならなかったはずだ。

403 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:46:20.01 ID:d9r5Nguj0

ルカ「先始めとけ、すぐに連れてくるから!」

美琴「え……うん」

恋鐘「大丈夫、みんな揃うまでいただきますはお預けにしとくば〜い!」

智代子「えっ……も、もちろん! 食べないから、食べないよ!? ほんとに!」


巡りあわせと言うのは不思議なものだ。
人と人との交流だけで完結すればまだいいが、時の流れや周囲の環境の変化など様々な要因が相互に影響しあって、プラスにもマイナスにも結果を押し流す。
私たちにとって、美琴が帰ってきたという事実は……どちらに働いたのだろうか?

今となっては、その答えは分からない。

ただ一つ確かなのは、美琴が市川雛菜のもとに来たことによって



美琴も事件に巻き込まれてしまうことになった、ということ。



「……え?」

改めてレストランの扉を開けると、またそこには一人の人間が立っていた。
美琴の時とは違う、そいつの顔は私がすこし見下ろすくらいの位置。
太陽の光に照らされて、銀にもベージュにも喩えられよう髪色をもった少女。



ガスマスクの向こう側、ガラス玉のような碧い瞳は、私のことを見上げていた。

404 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:51:27.49 ID:d9r5Nguj0

お久しぶりです。
長らくお待たせしております……
最終章はまだ完成していないのですが、進捗報告を兼ねて少しだけ更新させていただきました。

今回の更新分は5章の没展開です。
元々はこの展開で書いていたのですが、あまりにも美琴が救われすぎるのでガッツリカットして今の展開になりました。

さて、肝心の最終章ですが大体5割ぐらいの進捗でしょうか。
夏はバタバタしていたこともあり中々書く時間が作れず、だいぶ滞ってしまっていました。
10月のムゲンビートまでに終わらせられたら……とは思っているのですが、確実なことは何も言えません。すみません。

しっかりと完結まではお話を書き上げるつもりですので、どうかお待ちいただけましたら幸いです。
それではまた、本編更新時にお会いしましょう……
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/09/18(日) 23:47:23.15 ID:OBWAV+/S0
おつおつ。狂ったルカちゃんの妄想かと思った笑
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/09/19(月) 00:33:56.25 ID:oZreZzu50
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
407 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 20:58:13.63 ID:AQfOwQ040
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GAME OVER

イチカワさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。



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408 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 20:59:21.92 ID:AQfOwQ040

いらっしゃいませ!

キュートなふわふわ、二面相!
ゆる〜くあなたの心に幸せを!
夢と憩いのイエロー空間・ユアクマカフェにようこそ〜!

店内一帯を埋め尽くすユアクマを模したデコレーション。
机の一つ一つにもユアクマが同席しているので、森の中でピクニックをしているような気分!
こんな空間に来ることはできて、市川さんもさぞお喜びなことでしょう!

……あれ?
店内のどこにも市川さんの姿がないですね?

おっと……そうでしたそうでした!
市川さんは今、店員さんの一日体験中!
今日は給仕される側ではなく、給仕する側!
従業員一同一丸となって、夢の空間を作り上げましょうね!


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あおぞらジェノサイダー

超高校級の帰宅部 市川雛菜処刑執行



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409 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:00:19.15 ID:AQfOwQ040

コンセプトカフェとは言えど、言ってしまえば飲食店!
机をあっちこっち回って配膳していただきます!

フワフワのユアクマパンケーキ、
とろける甘さのユアクマサンデー、
シュワシュワパチパチのユアクマサイダー!

どれも目移りしてしまいますね!
でも今は我慢! 食べたいのならまた別日にお客さんとしてやってきましょうね!

ユアクマの可愛さに加えて市川さんの愛嬌も相まってお店は大盛況!
行列ができて客足は全く途絶えることもありません!
厨房も回転が追いつかなくなってきたので市川さんにヘルプの声が。
市川さんも急いで料理を作っていきます。

市川さんの担当は『お連れ様でも大満足! とびきりユアクマハンバーグ』!
どうしてもこういう女性向けのカフェではおつきあいでやってきた殿方もいらっしゃいます。
そうした客層もカバーするあたり、ユアクマも手堅いですね!

一心不乱にお肉をこねこね。
市川さんのお手製ともなると更に注文が飛んできます。

厨房の中は従業員が行ったり来たり!
足の踏み場もないほどの空間でほとんど押し合いへし合い状態!
410 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:01:24.67 ID:AQfOwQ040

……そんな中、鈍臭い従業員が一人。
あまりに鈍臭すぎるので皿洗いしか任されていないアルバイトのモノクマくん。
サイダーで濡れてしまっていた床で、彼が足を滑らせてしまいました。

転倒した勢いで、近くで料理をしていた市川さんに激突!


へ〜〜〜〜〜?!


その目の前には……ハンバーグの下地となるミンチ肉を作るためのマシーンが。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お待たせいたしました!
こちらご注文のとびきりユアクマハンバーグになります!
お熱くなっておりますので鉄板の方は触らないようにお願いします!
お好みで付け合わせのイエローソースと共にお楽しみください!

……え?
こんなカフェでこんなにガッツリ食べられると思わなかった?

あはは、ユアクマちゃんも本性は“熊”ってことですよ!
411 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:03:27.87 ID:AQfOwQ040
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GAMEOVER

アケタさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。



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412 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:04:35.08 ID:AQfOwQ040


_______奈落。


見上げる場所、始める場所。
ここを上がった時のために、全てがある。

出番を待つこの瞬間に、胸を押さえて、呼吸を整える。
いつだってこの時の昂りと緊張を忘れることはない。
隙間のない拳をさらに握り込んで爪を立てる。

さあ、ステージを始めよう。
向けられる無数の視線とステージライトを見に纏い、その指先までを武器に変えて。
絶対に忘れられないその刹那を、無限のひと時に帰るために。


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(DROP) POP OUT

超社会人級のダンサー 緋田美琴処刑執行



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413 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:06:35.07 ID:AQfOwQ040

奈落が競り上がり、緋田さんはステージの上へ。
ドーム会場ではあちらこちらで数えきれないほどのペンライトが振られています。

でも、緋田さんはそんなことで浮かれたりしません。
積み重ねてきた長い練習の時間を無駄にしないために、その全てをパフォーマンスに注ぎ込むのです。
重低音響くミュージックが流れるとすぐに、すらりと伸びたその手足で魅了し始めます。
激しく荒々しくも繊細で嫋やかなその動きは他の追随を許しません。

____されどステージは一人では完結しません。
彼女はアイドル・緋田美琴である以前に、シーズ・緋田美琴なのです。
競り上がった奈落は一つだけではない、彼女の横には荒削りながらも引けを取らない、




緑のライトに落とされた『影』がありました。




414 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:08:27.31 ID:AQfOwQ040

影とアイコンタクト。
鶴翼を描くように、それぞれが正方形の淵をなぞります。
私たちのパフォーマンスはこれで終わらない。
私たちはまだまだもっと高くに飛べる。
もっと高く、空へ。

重ね合わせたペンシルターン。
二つの回転はコマのようにぶつかるかと思いきや、それぞれの回転がもう片方の回転を加速させるダッシュボードに。
観客の心を奪ったのは、堅実に積み重ねた努力に裏打ちされた回転、ドラマ性に満ちた若き挑戦者の回転……その二つを合わせた竜巻のような強旋風。



____断言してもいい、緋田美琴最高のステージは今ここにある。



緋田さんもそれを実感したのか、宝石のような汗滴を散らした後、これまでに見せたことのないような笑顔に。
達成感と高揚感、そして共にステージを作り上げた同胞への信頼が、その芸術品を創り上げたのです。
415 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:11:02.45 ID:AQfOwQ040

割れんばかりの感性と拍手、橙色の光の海が二人のステージを称賛しています。
まさに感無量といった感じで、マイクを胸に当てて大きく息を一つ。
やっと、やり遂げたんだ。
自分の目指していた最高のステージ、まずはその第一歩。

……でも、これじゃ終われない。
最高はいつだってその先にある。
満足をした先にあるのは停滞、目指し続けるこそ緋田美琴はアイドルであり続けることができる。

緋田さんは観客に手を振って、ステージを後にしようとしました。




_____ただ、それは演者の都合。



今この場にいる観客は、関係者は、今この瞬間の最高をいつまでも噛み締めたい。
奈落は止まることなく上がり続ける。

ステージから降りなければ、パフォーマンスは終わらない。

ぐんぐんと伸びていく奈落から逃げ出すこともできず、気がつけばステージは遥か下。
奈落とは一体どちらのことを指すのでしょうか。

奈落はそれでも止まることなく、

ステージの天井を突き破り、
山を越えて、
雲を越えて、
大気圏を越えて、

もっともっと高みへ。

緋田美琴というアイドルの輝きは、星々の輝きにも引けを取らない。
そう信じたファンの声援が、彼女を文字通りの『スターダム』へと押し上げたのでした。
416 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:16:09.38 ID:AQfOwQ040

予定よりはかなり遅くなりましたが、戻って参りました。
シャニロンパ2、完結までの書き溜めが用意できましたのでそのご報告です。
最終章ともなると文量がすさまじく、かなりお待たせしてしまいました……

さて、特に問題がなければ11月2日(水)の21:00〜より更新予定です。
早速捜査パートからの再開となるので、ご協力のほどよろしくお願いします。
物語の最後まで、あと少しですがまたお付き合いください。
417 : ◆vqFdMa6h2. [sage saga]:2022/11/02(水) 20:55:54.11 ID:t7R2U8OYO
楽しみにしていただいてる方がもしいたらすみません、
残業でまだ帰れそうにないので今日は更新できそうにないです…
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/02(水) 21:04:00.23 ID:hyodrP0P0
了解です
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/02(水) 21:42:10.66 ID:bADBjfNm0
完結まで待ってるので、体調には気をつけてください
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/06(日) 07:40:46.64 ID:84YggPFl0
お疲れ様!
あおぞらジェノサイダーのセンス良すぎや
421 :先日はすみません、少しだけ進めさせてもらいます ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:27:57.76 ID:qALyBpIn0





「……ごめんな、みんなをこんな危険なことにまた巻き込んでしまって」





422 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:28:53.38 ID:qALyBpIn0

「そ、そんな……最終的には私たちの方から志願した話ですし、謝っていただくようなことでは……!」

「みんなも事件の当事者……無傷ではないんだ。まだ治療も終わって間もないタイミング、体も疲れているだろうに……」

「疲れ……てなくはないけどさ? それよりも、みんなを助けられるかもしれないことの嬉しさの方が勝っちゃってる感じだし、全然ヘーキ!」

「……あの学園生活で、私は無力感を何度も感じさせられました。守るべきだったもの、守れたかもしれないもの……それが零れ落ちるたびに、何度も」

「××ちゃん……」

「でも、だからこそ……今この状況では、不思議と活力に満ちているんです。掌の中で何か熱いものが燃え滾っている……ここから逃げるわけにはいかないんです」

「ありがとうな、みんな……そう言ってもらえると心強いよ」

「それより×××の方こそ大丈夫なん? うちらの事件からずっと出突っぱっしょ?」

「いや、大丈夫だ。何もしないで休んでいる方が今はストレスだからな……ははっ」

「や、それ笑えないんですケドー……」
423 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:30:14.81 ID:qALyBpIn0

「あ、そろそろ見えてきたかも〜! ほら、あれじゃない〜?」

「本当だ! あの島が目的地なんですよね?」

「そろそろ準備をしないとな。同行してくれてる鎮圧部隊にも声をかけてくるよ」

「……いよいよですね」

「うぅ……やっぱなんかキンチョーするかも」

「島に賊軍はいるんでしたっけー?」

「……分からないです。みなさんがどんな状態でいるのかも、まだ」

「でも、やるしかないよ……! みんなを助け出さなくちゃ……!」

「……みんな、無茶だけはしないでくれよ」

「いや、無茶しますし……ここで無茶しないで、どこで無茶するっていうんですかぁ?」

「安全圏に引きこもってなんかいられませんよ! 私たちだって一緒に戦います!」

「……そうだよな、みんなだって戦いたいよな。勝手なことを言って悪かった」

「そうですよー、×××はいつもみたいに戦いは私たちに任せて、後はふんぞり返って司令官やってくれればいいと思いますー」

「そ、そんなふうに思ってたのか……?!」

「ふふー、冗談ですー」

424 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:31:03.72 ID:qALyBpIn0

「ねえ、もう着くよ〜?」

「あ……! すまん、急がなくちゃな」

「ふふ……戦いの直前だというのにしまりませんね」

「ま、それがうちららしいんじゃん?」

「かもねー、肩の力ほぐしていきましょー」

「みんな……絶対、一緒に帰ろうな」

「ここにいる人も……みんなも、ですね!」

「勿論です……絶対に、取り返してみせますよ」




「私たちの日常を……!」



425 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:32:02.33 ID:qALyBpIn0
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CHAPTER 06

絶望、あるいは逃げられぬ希望

非日常編



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426 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:33:00.84 ID:qALyBpIn0

……朝だ。

空に登る陽の光が心地よく、目を開けると同時に胸に風が吹き抜けるような爽やかさ。
人々は夢と希望をその胸に抱きながら、1日の行動を開始する。


「はぁ、よく寝た……」


私もゆっくりと体を起こし、うんと伸びを一つ。
それだけの動作なのに、腕や脚には鈍い痛みが走る。
でも、今の私からすればこの痛みには愛おしさや心地よさを感じる部分もある。
外の世界では久しく忘れていた、自分を締め上げるようなこの感覚。
私の存在を何よりも声高に証明してくれるそれは、地に足をつける感覚というにふさわしい。
その痛みに体をさすりながら、鏡の前へ。メイクもなし、寝起きの髪はボサボサ。
こんな姿ファンには見せられないよな、と手入れを開始。


「眠た……」


この島にはファンなんざ一人もいないのは事実なのだが、う私だって20歳という世間では花の盛りの年齢。
それに、大前提として私はアイドルであり、カミサマなのだ。
こんなところで失望を与えるようなことがあってはならない……なんて、そんなプロ意識も、この島に来てからあいつに教わったことだ。


「最後は、赤のリップで」

427 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:34:09.53 ID:qALyBpIn0

私はどちらかというと夜型。
仕事のないオフの日は時計の針が12時を示す直前まで眠りこけていることもザラではあるけれど、
この島に来てからの規則的な生活にもいつしか慣れてしまっていた。
というのも、その影響は彼女によるところが大きいだろう。


……いや、彼女“たち”か。


ピンポーン


「……ったく、相変わらず早すぎだろ」


鬱陶しそうな口ぶりで、はにかみながら。
足取りに迷いはなく、一直線に進んで扉を開けた。




「おはよう、ルカ」
「もう、ルカさん相変わらず寝坊助ですよねー! 早くしないと自主練先にやっちゃいますよー?」



「……ハッ、悪い悪い。練習、行こうぜ。美琴、にちか」

428 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:36:59.62 ID:qALyBpIn0
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【第1の島 ビーチ】


美琴「……よし、おしまい。お疲れ様、二人とも」

にちか「はぁ……つっかれたー! 美琴さん、相変わらず朝から飛ばし過ぎですよー!」

ルカ「おいおい、こんなので根を上げてんのか? なっさけねえな……そんなので美琴の相手が務まんのか?」

にちか「はー?! 本音と建前ってご存知ですー?!」

美琴「ふふ、いつかはどうなるかと思ったけど。二人ともすぐに仲良くなって良かったね」


「どこがだよ?!」
「どこがですかー?!」


こっちに来てからは毎朝3人で自主練するのがすっかりルーティンになった。
美琴とにちかの二人で、歪ながらも積み重ねたもの。
私が単身磨き上げたもの。
そして、私と美琴で生み出してきたもの。
それら三つを擦り合わせながら、共有と研鑽。
長らく忘れていた協力という概念を再び自分のもとに手繰り寄せる。

429 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:38:28.52 ID:qALyBpIn0

美琴「とりあえず、休憩しよう。二人とも、少し座ろうか」

にちか「はい!!」


美琴を挟むようにして、私とにちかは横に座り込んだ。


美琴「二人とも、良くなってる。初めの頃はバラバラだったけど、すっかり息もあって。振り付けのタイミングだってバッチリだよ」

ルカ「まあな、にちかのやつ鈍臭いから合わせるのには苦労したよ」

にちか「いやいや……変な癖のついたルカさん矯正するのにどんだけかかったと思ってるんですか」

ルカ「あ? 調子乗んなよオマエ」

美琴「にちかちゃんは2回目のツイストの角度がまだ甘いかな。ルカが上手だから、教えてもらって」

ルカ「ほらな、私もそう思ってたんだよ!」

にちか「むぅ……」

美琴「ルカは手に力を込めすぎなところがあるから、随所随所で脱力を心がけて。その方がシルエットも綺麗に見えるから」

にちか「ぷっ、ダンス初心者みたいなアドバイスもらってませんか?」

ルカ「あ? ざっけんなオマエ、蓬餅みたいな頭しやがって!」


美琴を挟んでいがみ合うこの構図にももう慣れたものだ。
美琴もすっかり日常の光景といった感じで、今更言及も調停もしない。涼しい顔して、次の練習のことを考えている。

430 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:39:33.03 ID:qALyBpIn0

ルカ「大体オマエはダンス以外もそうなんだよ、飯の時も好物先に食ってガキみてえな食い方してんじゃねーよ!」

にちか「それを言ったらルカさんなんかいつも人殺しそうな目して、他の皆さん怯えてますよー!?」

ルカ「それは取り方次第だろうが! オマエの悪意が滲み出すぎだ!」

にちか「あーもう、バカバカバーカ!」

ルカ「このガキ! ガキガキガキ!」

にちか「バーカバーカあほまぬけーーーーー!!」

ルカ「このチンチクリン! 雑魚! 雑魚雑魚雑魚!」

美琴「……出し切った?」

にちか「……はい」


お互いが叫び尽くして息切れ。
それで一旦はこの喧嘩も幕引きとなる。
もう何回これを繰り返してきただろう、にちかも私も、この形に慣れすぎてもはやそこに敵意なんかない。
ただの馴れ合いとかした喧嘩ごっこに、実りはない。


美琴「それじゃあ、朝ごはんにしよう。みんな待ってるよ」

ルカ「……だな」


散々不満を吐き尽くして空いた胃袋に栄養素を流し込む。
ここまでのワンセットを、私たちは『自主練』と呼んだ。
何に対する練習なのか、いつに向けての練習なのか。
それはまだ、私たちには分からない。
それは今から作り出すもの、そして私たちの手で生み出すものだから。


にちか「ほーらルカさん! ボヤボヤしてると置いて行っちゃいますからね!」

ルカ「……チッ、うるせーな!」

431 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:42:19.68 ID:qALyBpIn0
-------------------------------------------------

【ホテル レストラン】


美琴を尾にしてYの字で行進。
私とにちかはずっと道中もいがみ合いながら。
扉を二人で乱暴に開けると、キョトンとした顔して連中が出迎える。


灯織「おはようございます。シーズのお二人に、ルカさん」

千雪「おはようルカちゃん、今日も二人と一緒なのね」

ルカ「私としては美琴だけでいいんだけどな」

にちか「こっちのセリフですー!」

愛依「アハハ、喧嘩するほどナントカって言うじゃん?」

結華「もうにっちゃんとルカルカの絡みは漫才の域だからね〜」

美琴「本当にね、二人とも仲良しだから」

摩美々「ほら、さっさと席ついてよー。摩美々はお腹ぺこぺこで餓死寸前ですー」


私とにちかを仲良しということにして丸め込もうとする283の連中は気に食わない。
とんだお気楽思考、誰しもが最終的に関係性を丸い形に治めるのをよしとすると思うな。
432 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:43:44.46 ID:qALyBpIn0

冬優子「ほら、さっさと座んなさい。こいつも文句ばっか言ってやかましくて敵わないのよ」

あさひ「みんな早く席に着くっすよー! もうお腹ぺこぺこなんっすもんー」

ルカ「ハッ……相変わらずガキのお守りで大変そうだな」

冬優子「他人事だと思って……」

愛依「アハハ、あさひちゃんモースグ朝ごはん食べれるから! 」


やっときたとばかりの冬優子のうんざりとした顔。
こいつのこんな顔にも見慣れたもんだ。
私の元にこんな煩わしい存在がいなくて本当に助かったと思う。


灯織「朝ご飯、お持ちしました! すみません、お手数ですが各テーブルごとに取りにきていただけますか?」


席に着くとすぐに、ホクロ女が料理の支度を終えた報告。
いつものようにテーブルに呼びかけ、私たちがそれに応じる。


にちか「あ、私行ってきますね! ルカさんはセルフでお願いしますー」

ルカ「元々一人じゃ持ってける量じゃねーだろうが。はなから行く気だ、こっちは」

にちか「風野さん、お願いします!」

灯織「はい、ではにちかさんと美琴さんの分……それとこちらが斑鳩さんと千雪さんの分です」

ルカ「……おう」

にちか「あはは、やっぱり美琴さんの担当は私ですよねー!」

灯織「あ、割り振りに他意は特になく……」

ルカ「わかってる、いちいち言うな。このチンチクリンが調子に乗るだろうが」


にちかと私で朝食を運び、再び席に着く。
美琴は簡潔に手で礼をし、千雪は年甲斐もなく「わぁ…」と声を漏らす。
433 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:44:49.30 ID:qALyBpIn0

千雪「ルカちゃん、ありがとう。今日も美味しそうなご飯ね」

ルカ「私は運んだだけだ、礼ならあのホクロ女に言いな」

にちか「風野さんの料理、確かにすごく上手ですよねー! 283でも一番じゃないですか?」

美琴「……どうだろう、アンティーカの彼女がいるでしょう?」

にちか「あー……」

ルカ「月岡恋鐘、か」

千雪「恋鐘ちゃん、本来なら私たちと一緒に来る予定だったのに……直前で熱を出しちゃうなんて残念よね」

にちか「一番はしゃいでたぐらいなのに、本当運命って残酷ですよねー。おかげさまでルカさんはお溢れにあやかれたわけですけど!」

ルカ「別に私だって来る気なんかなかったよ」

美琴「そうなの?」

ルカ「……まあ、な」


今ここにい■メンバーは283プロの中か■選■■た、■■■宿に■■■ている連中■。
私は別に28■プロの人■■■ない、今回の■■に応じ■のは事務■の■■、私の■■なん■そこに■■もない。
たまた■月岡恋鐘が病■となっ■ことで■■席が回ってきたの■。

434 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:46:44.52 ID:qALyBpIn0

ウサミ「ミナサン、今日もらーぶらーぶで何よりでちゅ!」

果穂「あっ! ウサミだ! おはようございますーーーー!!」

ウサミ「はいっ! 小宮さん朝からいいご挨拶でちゅ! あちしも朝から元気がもらえてルンルンでちゅよ」

夏葉「それでウサミ、今日はどうすればいいのかしら? この合宿の方針を示してちょうだい」

ウサミ「はい! 今日ミナサンにやってもらうのは、これでちゅ! 『ワクワク☆ 気になるあの子のパスワードはなんだろな? ねっと@すとーかーれくりえーしょん!』でちゅ!」

結華「ひらがなに織り交ぜて何やら物騒な文字列が並んでますけど!?」

透「パスワードってなんの? スマホ?」

あさひ「冬優子ちゃんのスマホのパスワードは××××っす」

冬優子「あさひちゃ〜ん、後でふゆとお話ししよっか〜」

ウサミ「ミナサンがこの島を探索しているときに発見したこのノートパソコン! 今日はこのアンロックに挑戦してもらいまちゅ!」

ルカ「パソコンのアンロックだぁ……? んなもん、片っ端から入力すりゃあ……」

摩美々「それこそ何時間かかるんですかぁ……」

ウサミ「大丈夫でちゅ! ちゃんとヒントがありまちゅからね、このシートに書かれたヒント通りの場所に行けばパスワードを手に入れるための手がかりが手に入りまちゅ!」

果穂「わぁ! それってつまり、ウォークラリーってことですか!?」

夏葉「なるほど、それなら確かに運動もできるし仲間との協力もできる。まさに合宿にうってつけね!」

あさひ「楽しそう! ウサミ、早くシートを見せてよ!」

ウサミ「はい! こちらがそのシートでちゅ! 一番最初にパスワードを解除したチームにはご褒美もありまちゅからね! 頑張って探してみてくだちゃい!」

愛依「ゴホービ……なになに、何がもらえんの?!」

ウサミ「それはクリアしてみてのお楽しみでちゅ! えへへ、みんなきっと喜んでくれまちゅよ!」


こいつの言うことなんだし、大したもんではないだろう。
至って冷静に冷めた目線を送る私とは対照的に湧き上がる連中。
つくづく私とこいつらの空気感は合わない。

435 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:48:04.24 ID:qALyBpIn0

ウサミ「ひぃふぅみぃ……ここには全員で15人いまちゅから、3人ずつで5チーム作れまちゅね!」

美琴「にちかちゃん、ルカ。いいかな」

にちか「もちろんです! 美琴さん、一緒にがんばりましょう!」

ルカ「おう、美琴。さっさと終わらせるぞ」


レクリエーションなんてのに興味はない。
無理やりに入れ込まれたこの合宿から早く撤収するためには、とやかく言わずクリアしたほうが早い。
ただそれだけの理由。


ルカ「おら、マップがあんならさっさと出しな」

ウサミ「はいっ! 斑鳩さん、ノリノリでちゅね〜!ぷー、くすくす! なんだか可愛いところ見ちゃったな〜!」

ルカ「……」

ウサミ「うぅ……冗談でちゅよ、今にも耳を引っこ抜きそうな目はやめてくだちゃい……」


ウサミの手からピンクに塗れた胃もたれしそうな地図を引ったくる。
なるほど、いくつかのヒントが書かれていて、この謎を解いて場所を導き出せばいいらしい。
436 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:49:42.56 ID:qALyBpIn0

『ワクワク☆ 気になるあの子のパスワードはなんだろな? ねっと@すとーかーれくりえーしょん!

◎ミナサンで力を合わせてパスワードを解読でちゅ!◎

第一のヒント
正義を穿つ闇の眠るところ

第二のヒント
慈愛の女神が辿り着いた果て

第三のヒント
落ちて、堕ちて、墜ちる

第四のヒント
箱入り娘が空を行く

第六のヒント
収穫祭

☆それぞれのヒントは特定の場所を示していまちゅ!』

437 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:50:39.85 ID:qALyBpIn0

にちか「なんですかこれ? さっぱり意味わかんないんですけど……」

ルカ「このヒントが示している場所を巡れば、パソコンのパスワードがわかんのか……美琴、どうだ? 何か分かりそうか?」

美琴「うーん……どうだろう、ウサミちゃんのことだから私たちの仲が深まるような、私たちに関連するヒントだとは思うけれど」

ルカ「あいにく心当たりはまるでないな……しょうがねえ、行き当たりばったりでどうにかするか」


他の連中も地図を眺めながら首を捻ったり、弱い声を漏らしたり。
まだ回答にすぐさまたどり着けそうな人間はいなさそうだ。
別にご褒美とやらにつられたわけではないが、さっさと課題はこなしてしまいたい。
早いところ回答を導き出して、パスワードとやらを手に入れてやるか。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
☆ウォークラリーについて

今チャプターでは、これまでの捜査時間に当たる形でウォークラリーを行っていただきます。
与えられたヒントの指し示す場所を推理していただき、そこに眠るキーワードを5つ集めることが目的です。
……まあ、正直その場所は考えるまでもないとは思いますが。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


ルカ「まずは第一のヒントの場所からだな……」


【第一のヒントが指し示す場所を選べ!】

↓1
438 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 21:27:02.06 ID:qALyBpIn0

突発なので上記安価だけ出して終わっておきます。
少し最近仕事が立て込んでいるので、確実なことは言えないのですが
今のところ11/9(火)の21:00〜はいけそうなのでこのぐらいに再開の予定にさせておいてください。
ダメそうだったらまた連絡します……


『ワクワク☆ 気になるあの子のパスワードはなんだろな? ねっと@すとーかーれくりえーしょん!

◎ミナサンで力を合わせてパスワードを解読でちゅ!◎

第一のヒント
正義を穿つ闇の眠るところ

第二のヒント
慈愛の女神が辿り着いた果て

第三のヒント
落ちて、堕ちて、墜ちる

第四のヒント
箱入り娘が空を行く

第六のヒント
収穫祭

☆それぞれのヒントは特定の場所を示していまちゅ!』


【第一のヒントが指し示す場所を選べ!】

↓1
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/07(月) 23:22:02.99 ID:smjX6xly0
旧館の床下?
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/07(月) 23:28:20.13 ID:iLcjko/90
旧館の大広間?

更新がないか久々に確認に来たら6章始まっててグーと思いました。
完結まで楽しみにしてます。
441 :少し遅刻ですが再開します ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:11:32.83 ID:PGzGnqfO0

【正解】

-------------------------------------------------
【ホテル 旧館】


にちか「ちょっとルカさん? なんでこんなぼろっちい建物なんです? これのどこに正義の要素があるっていうんですかー……」

ルカ「うるさい、見当もつかないからには片っ端から調べていくしかねえだろ。誰も足を踏み入れそうにないこういうところにこそヒントがあるかもしれない」

美琴「……結構、埃っぽいね」

にちか「わ、わ〜〜〜! 美琴さんはいいです、こんなところ! 美琴さんの清潔な肺が汚れちゃいますよ!」

美琴「ありがとう、にちかちゃん。でも、みんなで協力して謎は解かないと」


美琴とにちかを連れてどんどん奥へ。旧館にはまともに電気も通っていないらしく、壁伝いにようやっとで進んでいく。
一歩一歩、脚を踏み下ろすたびに床板がギイギイと軋む。
でも、どちらかというとその都度にちかのやつが文句をぶうぶうと垂らす方が耳障りだ。


ルカ「……ここ、大広間みたいだな」


しばらくすると両開きのデカい扉に行き当たった。
特に鍵などはかかっていないが、長いこと動かされていない扉には埃も溜まり、金具もその形で固定されてしまっていた。


にちか「ねえ、本気でこんなところにヒントがあると思ってますー? 無駄足、マジで勘弁してほしいんですけど……ねえ、美琴さん」

美琴「今回のウォークラリー、まるで見当もつかないから。試せることは試してみないとダメじゃないかな」

にちか「ルカさん、早く扉開けてください」

ルカ「……」

442 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:12:30.09 ID:PGzGnqfO0

重い扉を何故か一人で開けさせられ、それだけで不機嫌が五割増し。
ゆっくりと扉が開いて、大広間が私たちの前に姿を現していく。
長い間誰も受け入れていなかったであろう空間は少しの隙間からかびたような匂いを鼻へと届けた。
誰も足を踏み入れていない場所、この大広間に出入りするには今私が押し開けた扉以外には通用口も何もない。
だから、この匂いこそが本来なら不正解であることの証明になるわけだが。
この島では、私たちの常識は通らない。

時が止まったような空間、埃の被った机やテーブルクロス。
その中で不自然なほどに綺麗な状態で、【それ】はあった。


にちか「あ、もしかしてあれじゃないですか!? パスワードのヒントって!」

美琴「うん、みたいだね」

ルカ「ハッ、見たかよ……やっぱり私の勘は当たるんだ」


さて、どこから調べようか……?


1.風野灯織
2.胸に突き刺さった鉄串

↓1
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/08(火) 21:15:03.99 ID:kv16cA8F0
風野灯織
444 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:16:53.28 ID:PGzGnqfO0
1 選択
-------------------------------------------------

【風野灯織】


にちか「あ、この死体がパスワードのヒントなんですかね?」

ルカ「だろうな、これ見よがしに横たえられて……こんなの、他の所にはなかったからな」

美琴「でも、どこを見ればいいのかな。これってまるっきりただの死体でしょ?」

にちか「うーん……腕とか脚とか引きちぎってみちゃいます?」

ルカ「おいおい……どこにそんな力があるんだよ」

にちか「あはは、冗談ですって!」

美琴「……少し、死体自体を調べてみようか。ポケットとかに、何か持ってるかもしれない」

にちか「流石です美琴さん! その発想は盲点でした!」


美琴の提案通り、私たちは三人で死体を足先から頭の先まで調べてみることにした。
物言わぬ人形と化した風野灯織、図々しくも全体重を私たちの手に載せてくる。
ポケットをまさぐるために動かすのも重労働だ。


445 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:18:11.23 ID:PGzGnqfO0

にちか「あ、なんですかね。この紙きれ」


にちかのやつが一枚の紙片を見つけた。
私と美琴は慌てて駆け寄り、にちかが目の前でその紙片を広げていく。


にちか「あー……またウサミの魔法か……」


するといつものように、物理法則を完全無視した動きで紙片はその姿を変えていくではないか。
どんどんとにちかの手の中で大きくなっていったそれは、やがてプラスチック製の表紙を伴った冊子状の見た目へと変貌を遂げた。


美琴「これは……何かのファイル?」

にちか「希望ヶ峰学園歌姫計画……って書いてますね。これって確か、島に来た最初にウサミが言ってたやつじゃないですか?」

ルカ「あー……なんか言ってたかもな」


≪ウサミ「そうなんでちゅ! ビッグさぷらーいず! ミナサンは希望ヶ峰学園が主催する、【希望ヶ峰学園歌姫計画】の参加者に選ばれたんでちゅ!」

美琴「これもさっき話してたと思うんだけど……」

にちか「す、すみません……完全に聞いてませんでした」

ウサミ「ミナサンもよく知る通り、希望ヶ峰学園は世界中から超一流の才能を持つ高校生を集めて才能の研究を行う研究学術機関なんでちゅ。歌姫計画はその延長線上にある、大規模プロジェクトなんでちゅよ!」

にちか「な、なんだかすごく大きな話になってきた……」

ウサミ「希望ヶ峰学園の才能研究のノウハウを生かして、ミナサンの持つ才能の種、それをアイドルとしての個性・才能まで育むことを目的とした計画なんでちゅ! 新時代のエンタメ産業をけん引するような超一流のアイドルになれるように、頑張りまちょうね!」

にちか「……!!」

(そ、そんな計画に……私が……?!)

美琴「この計画の舞台に選ばれたのがこの島ってことみたい」

ウサミ「はい! でも安心してくだちゃいね、人体実験とか人格移植だとかそんな物騒なことは行いまちぇん。ちゃんとミナサンが自分自身の力で未来を切り開けるような教育プログラムをご用意してまちゅから!」≫

446 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:19:22.92 ID:PGzGnqfO0

にちか「特にあれ以降説明はなかったですけど、今の私たちが参加してるこのレクリエーションとかもその一部なんですよね?」

美琴「多分、そうだろうね。毎日みんなと何かしらのタスクをこなすように日程が組まれているから。この合宿自体がそうなんだと思うよ」

ルカ「ま、とりあえず読んでみるか」


『希望ヶ峰学園歌姫計画』

『超高校級のアイドル、超高校級のマネージャーをはじめとした学園の生徒協力のもと日本のエンタメ産業を担う新時代の“歌姫”を育成する計画』
『人為的に才能を生みだす意図ではなく、環境からのアプローチで才能を伸ばすことを目的とする』
『計画には現役の283プロダクション所属のアイドルに参加してもらい、学園の生徒同様のトレーニングを実施する。適宜別のメニューも考案し、“超高校級”に匹敵する実力を習得する。成功した暁には、その生徒を【超高校級の歌姫】として迎え入れる予定』


ルカ「ふーん……私たちのやってるコレって、希望ヶ峰の生徒が協力してたのか」

にちか「その割には普通の合宿と大した違いは感じないですけどねー……」

美琴「私たちの元々持っているものを引き出して伸ばそうとするプログラム……プロデューサーがこの合宿に推薦してくれた理由、なんとなくわかるな」

ルカ「……まあ、私たちの今置かれている状況の説明としては納得のいく記述……か」

(でもなんだ……? この何か引っかかるような感覚は……?)


コトダマゲット!【希望ヶ峰学園歌姫計画】
〔希望ヶ峰学園のノウハウを活かして283プロダクションのアイドルの中から新時代の歌姫を育成するプログラム。コロシアイの参加者が元々持ちかけられた計画と名前は同じだが、その実態には明確に引っかかる点がある。〕

【選択肢が残り一つになったので自動進行します】
447 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:20:51.59 ID:PGzGnqfO0
-------------------------------------------------

【胸に刺さった鉄串】


美琴「どうやらこの胸に刺さった鉄串が直接の死因みたいだね」

にちか「みたいですねー……心臓まで直接一刺しって感じっぽいです!」

ルカ「まあこれもウサミのヒントなんだろ。とりあえず抜いてみるぞ」

にちか「あ、それじゃあお願いしますー! 一思いに抜いちゃってくださーい!」

(……やれやれ)


野菜の収穫でもするかのように力いっぱいに引き抜いた。
肉を裂き、内臓を傷つけ、血液はポンプのように噴き出しながら、殊の外あっさりと鉄串は引き抜くことができた。


にちか「うわーーーー!! ちょっと、こっちまで血飛沫散ったんですけど! 美琴さん、ばっちいので離れた方がいいですよ!」

ルカ「オマエなぁ……」


呆れる私の手の中で鉄串はその姿をみるみるうちに変えていく。
長細い形状は極端に短くなり、やがてそのシルエットは扁平に。
さっきのファイルとはまた別のファイルへとその姿を変えた。

448 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:22:07.40 ID:PGzGnqfO0

にちか「【283プロダクション連続殺人事件捜査資料】って書いてありますよ?」

ルカ「連続殺人……もしかして、前回のコロシアイってやつか?」

美琴「……多分、ここで死んでいる彼女の参加したコロシアイのことだね」

にちか「ルカさん、早く見せてくださいよ!」

ルカ「お、おう……」


促されるままにページをパラパラと捲る。
そこに書いてあったのはこれまでの生活で私たち自身が得てきた情報と同じ記述。
参加者、死亡者、そして首謀者。
私にとっても馴染み深い名前が名を連ね、凄惨な事件の全貌を綴る。


ルカ「……こっから先は見たことねーな」

にちか「事件の、その後……です?」

美琴「このコロシアイを生き抜いた彼女たちがどうなったのかが書いてあるみたいだね」

ルカ「……どうやら生存者5人はそのまま身柄をが当局預かりになって、保護観察処分となったみたいだな」

にちか「えーっと……それって、カウンセリングみたいなやつです?」

美琴「うん、平たく言えば検査入院みたいなものだよ」

にちか「なるほど! さすが、一発で分かりましたよ!」


449 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:23:08.41 ID:PGzGnqfO0


『〇保護観察対象者:風野灯織

保護観察を開始してから二週間余りが経過。
フラッシュバックなど精神衛生に支障をきたす症状は期間中確認されず。
観察者との対話も特に問題なし。
事態認識も正常。事件で命を落とした友人らも正確に把握しており、記憶の自主改竄など自己防衛に走る様子もない。
日常生活の復帰に十分な回復を認めるものとし、保護観察を本日打ち切ると決定』


ルカ「……特にこの5人に異常はなかったらしいな。二週間余りで終わったみたいだ」

にちか「目の前で人が死んだってのに、たくましい人たちですねー」

美琴「ふふ……それを言ったら、今だって目の前に死体があるよ、にちかちゃん」

にちか「あはは、言われてみればー!」

ルカ「おいおい流石に不謹慎だっての……」

450 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:24:20.92 ID:PGzGnqfO0

『〇283プロダクション連続殺人事件の捜査状況について

主犯格とみられる天井努の経営していた芸能プロダクション『283プロダクション』から社用PCならびに私用PCを押収。
情報捜査担当者に回し、解析結果が本日到着したため、報告に挙がっていた情報をここに記す。

・本連続殺人事件を『コロシアイ合宿生活』と題して外部に公開していた確定的な証拠は発見されなかった。
海外サーバーを経由していたものと思われ、その履歴も消去されてしまっているため復元はほぼ不可能。
保護観察対象者から得られた証言の裏付けとなる根拠には欠ける。
『チーム:ダンガンロンパ』と呼ばれる組織の特定を急ぐ』


ルカ「二週間も経ちゃあ捜査も結構進んでんだな」

にちか「はぁ……ていうかうちの社長がコロシアイの黒幕ってマジでなんなんですかー……あんなダンディぶっといて中身性悪とか、普通にショックなんですけどー……」

美琴「それを言ったら今回の黒幕は恋鐘ちゃんでしょ?」

にちか「あはは、確かにー! 私たち恋鐘さんのエゴでぶっ殺されたんでしたー!」

(……さっきも見たよな、このやりとり)

ルカ「それにしてもこの『チーム・ダンガンロンパ』っての、月岡恋鐘も言ってた組織名だよな?」

美琴「うん、彼女はこのコロシアイをその組織と共謀して起こしたって言ってた。彼女自身がそのメンバーだとも言ってたね」

にちか「なんか悪趣味なシンボルマークですよねー」

ルカ「このチーム・ダンガンロンパってのは一体なんなんだろうな」

にちか「全然聞いたことないですけどねー。なんでしたっけ、コロシアイを興行としてやってるんでしたっけ?」

美琴「もう少し調べてみないといけなそうだね」


451 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:25:37.86 ID:PGzGnqfO0

『・芸能事業とは別の帳簿データを確認。
巨額が闇口座に注ぎ込まれている不正な流れがあり、当事務所の従業員・七草はづきに確認をしたところ、完全に知覚していないものだとの証言が取れる。
天井努が事務所の経営資金と別に蓄えていた金についても、その入手手段、流用先を調査するものとする。』


にちか「……ん?」

ルカ「どうした、鈴カステラ喉に詰まらせたみたいな顔しやがって」

にちか「無理やり子供扱いするのやめてもらえますー? いや、あの……なんかここ、すごい違和感あるんですけど」

美琴「……そうなの? 帳簿の管理は基本はづきさんにお任せしていたし、何もおかしなところはないように思うけど」

にちか「んー? なんだろなー、この違和感……」

ルカ「なんなんだよ、オマエがはっきりしないとこっちもなんか気持ち悪いだろうが」

にちか「……あ! このお姉ちゃん、泣きぼくろがある! お姉ちゃんにこんなほくろなんかありましたっけ?」

美琴「……言われてみると、そうかも」

にちか「うーん……あったような気もするけど……なかったような気も……いや、3:7でなかったな……」

(死ぬほどどうでもいいな……)


コトダマゲット!【にちかの証言】
〔捜査資料に写っていた実姉・七草はづきの泣きぼくろに違和感を覚えたらしい〕

452 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:27:20.10 ID:PGzGnqfO0

『・外部との通信履歴に不審な送信先を確認。
連絡は数度に渡り、一定の頻度で行われている様子。
主要通信業大手に照会するも該当はなし。
位置情報を解析し、送信先の人物と事件との関連性について追求していくことが目下の捜査方針となる』


美琴「……これ、不審な送信先っていうのが恋鐘ちゃんのことなのかな」

ルカ「可能性として高いのはそうだろうな。あいつの口ぶりからして、前回のコロシアイの時から協力関係にあったんだ。ずっとやりとりをしてたんだろうさ」

にちか「じゃあこの時に特定できてたら、私たち死ななくてよかったんじゃないですか? あーあ、日本の警察ってダメダメだなー!」

ルカ「身も蓋もねえな……」




『・本件が発生してより行方不明となっている10名との関連も併せて調査する』




ルカ「行方不明の10名……ってこれ」

美琴「私たちのこと、だよね? 多分」

にちか「あー、肝心の行方不明者の名前が黒塗りになってるー! なんでこんなことするんですかー!」

ルカ「まあ、普通に考えればこのコロシアイに参加している人間。前回の生き残り5人と私を除いた10人、だろうな」

美琴「……前回のコロシアイ、その記憶が私たちにはない。この行方不明となっている時に私たちの身に何が起きていたのかも、誰も覚えていないんだよね」

(……失われた記憶の中で、何が起きて、何が起きなかったのか)

(そしてその結果、どうして私たちがここに来ることになったのか)

(……それを明らかにしないことには、前に進めないよな)


コトダマゲット!【行方不明の十人】
〔前回のコロシアイが起きた時から、10人の人間が行方不明となっていたらしい。今回のコロシアイの参加者のうち、前回の生き残りと透を除けば丁度10名〕
453 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:29:47.45 ID:PGzGnqfO0

美琴「死体は一通り調べたけど……」

にちか「肝心のウォークラリーのヒントがないですね……」

ルカ「……そういえばそんなのやってたんだったな。死体が用意されてたあたり、間違っちゃいなかったと思うんだけどな」


死体から得られたのは私たちの置かれた状況に関する手がかりのみ。
でも、そんなことどうだっていい。
だって私たちは希望ヶ峰学園の意志を受け継ぐものであり人格を入れ込む器でしかない希望希望希望希望希望
希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希望希


にちか「やっぱり死体の腕とか脚とか引きちぎるしかないですってー!」

美琴「あまり気は進まないけど、そうするしかないのかもね」

ルカ「じゃあ私は頭をぶち抜くぞ」


それぞれが体の一部分を両手で持ち、今まさに力を入れようとしたその時。
手の中で冷たくなっている物言わぬ屍が、起きた。


にちか「わ、わわ?! な、何が起きてるんですー?!」

美琴「これもウサミちゃんの魔法……なのかな」


手に持っていた体の一部分は私たちの体をすり抜けたかと思うと、そのまま血だらけの体のまま私たちに正対。
そして口をモゴモゴと動かし始めた。
454 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:32:42.63 ID:PGzGnqfO0

非\ォりり
【私はただ皆さんを守りたかっただけなのに理不尽心臓に空いた穴が痛い血が漏れ出て息もできない苦しい助けて辛い』


にちか「ありがとうございますー! パスワードの一文字めは『ナ』みたいですね!」

ルカ「チッ……正解の場所なら勿体ぶらずさっさと教えやがれってんだ」

美琴「他のチームはどうなんだろう、私たちが出遅れてないといいけど」

にちか「もうここでの用事は済んだことですし、早く戻りましょう! 負けてらんないです!」

ルカ「そうするか、二つめのヒントは『慈愛の女神の行き着く果て』……」

美琴「慈愛の女神……誰のことだろうね」


どうやら私の推理は間違っちゃいないらしい。
ウサミのやつ、きっかり私たちにゆかりの深い場所をキーワードの場所に設定してやがるな。
あいつにいいように動かされているのは癪だが、ここは大人しく従って駆けずり回るしかなさそうだ。


にちか「それじゃあさっさとしゅっぱーつ!」


ヒ唹”#咦
[置いていかないで守らせて私が今度こそ守って見せるから後悔したくない手放したくない≫


ルカ「おい! 何突っ走ってんだ!」

------------------------------------------------

『慈愛の女神の行き着く果て』

【第二のヒントが指し示す場所を選べ!】

↓1
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/08(火) 21:34:57.83 ID:D38ZPOww0
図書館
456 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:40:21.66 ID:PGzGnqfO0

【正解】

------------------------------------------------

【第2の島 図書館】


普段自分からは足を踏み入れようとはしない場所。
この令和の時代、絵の情報だろうが活字の情報だろうがスマートフォンの中に押し込めて閉じ込められるのに、
わざわざ手間暇をかけてまで足を運ぶのは流石に手間だろう。
私が風趣を介さないつまらない若者、というわけでもない。
この時代よくいる若者が、私だ。


にちか「ルカさんって活字読めなさそ〜、読書感想文とかググってた性質ですよね?」

ルカ「なんで不正してたことが前提なんだよ、それぐらいは読んでたわ」

美琴「ルカ、本とか読むんだ」

ルカ「……」


なんとなく会話を続けたくなかったので率先して私が扉を開けた。
無駄に重厚な扉はギィという音と共に私たちを文字の世界へと誘う。
扉を開けた瞬間に、かびたような時間の止まった匂いが鼻口をくすぐった。


にちか「で、今更なんですけどどうして図書館が第二のヒントの場所なんです?」

ルカ「ああ、えっと……なんだっけな……」


ついさっきの思いつき、私には確かな心当たりがあってこの場所を選んだはず。
だというのに、私の頭にはポッカリと穴が空いていてそこから記憶が流れ出てしまったかのようで、まるでその時の記憶を掘り起こすことはできなかった。
457 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:41:18.70 ID:PGzGnqfO0


にちか「……あっ! あれ!」


でも、記憶なんかもうどうでもいい。
大事なのは過程よりも結果。
私がどんな思いつきで図書館にたどり着いたなんかよりも、今目の前に千雪の死体が転がっていることが全てだ。


にちか「死体見―――――っけ!」

ルカ「よし……正解みたいだな。千雪のやつ、腹を弓矢でブッ刺されて死んでるぞ」

美琴「彼女、最後の力で引き抜いたのかな。矢が地面に転がってるみたいだけど」

ルカ「……」

(……あ? なんだ、この感覚……)


さっきも死体は目の前で見た。
これだって、なんてことないただの死体だ。
ただの、桑山千雪の死体だ。
それなのに、なぜ私は右手で自分の胸を抑えているのだろう。
何を吐き出そうというのか、何を堪えているのか。
その答えは図書館のどの本、どのページを開いても見つけることはできないだろう。
……やっぱり、活字なんて今更クソ喰らえだ。


美琴「……ルカ、どうしたの?」

ルカ「いや、なんでもない……」


私は自分の苦悶と衝動から目を背けた。


1.死体付近に落ちている矢
2.ボウガン
3.死体の抱える本

↓1
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/08(火) 21:45:03.53 ID:D38ZPOww0
1.死体付近に落ちている矢
459 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:52:18.49 ID:PGzGnqfO0
1 選択

------------------------------------------------
【死体付近に落ちている矢】

死体に突き刺さっていたであろう矢を拾い上げる。
誰かが握っていたのだろうか、本来無機質な冷たさであるはずの鉄の柱はほのかに熱を有している。


ルカ「……」

にちか「ルカさん、何をそんなにジロジロ見てるんですか? 何か気になることでもありますー?」

ルカ「いや、なんでもねーよ」

美琴「二人とも、これも正解みたいだよ」


美琴の指摘通り、私の手の中で矢はその姿をみるみると変えていく。
魔法の感触というのは随分と心地が悪い。
手に纏わりつく泡のような物質は鬱陶しいばかり、キラキラとした光の粒子も目に五月蝿い。


ルカ「……今度はなんだ? なんだかチラシっていうか、パンフレットみたいになったわけだが」


さっきまでのコピー用紙とは違ってすべすべとした手触りの紙切れ。
組織のロゴマークとは対照的に青や白で飾られて、いかにもベンチャー企業といった印象。
この外面だけの良さは、外部の人間に向けられたアピール用、なのだろう。
460 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:54:22.70 ID:PGzGnqfO0

にちか「……『チーム・ダンガンロンパ』、これって月岡さんが言ってたやつじゃないですか?」

美琴「透ちゃんも知ってたみたいだったよね」


《恋鐘「そう! うちも社長も、チームダンガンロンパのメンバーやけんね!」

智代子「チーム……ダンガンロンパ?」

あさひ「ダンガン、ロンパ……」

透「……ちょっと待ってそれって」

恋鐘「まあ、そん辺りのややこしか話はうちが死んだ後の真相究明編でやればよかとやけん、割愛するばい」

智代子「え、ええっ?! そんな勝手な……?!」

恋鐘「チームダンガンロンパはあくまで裏方、メインはコロシアイに参加しとるみんなやけんね。そこに割くべき尺も文量もなかよ」》

《あさひ「それに、大事なことは隠したままっす。恋鐘ちゃんと天井社長のバックにいるチームダンガンロンパ。これが分からないんじゃ、何も解決してないっす」

透「その組織自体は、聞いたことある」

智代子「え、本当に……?!」

透「一応、ね。詳しいことは知らないけど、前回のコロシアイ……どころかこれまでにも何度もコロシアイを仕掛けてきたんだって」

あさひ「コロシアイって……今回と前回だけじゃないんっすか?」

透「……みたい。それを裏で取り仕切っているのがチームダンガンロンパ、とか」

智代子「そ、そんなの……聞いたこともないよ……」》


これまでの人生で一度も聞いたことがないような組織だった。
コロシアイなんてものすら人生で触れることはまずないのに、それを取り仕切っているだなんてSF小説にしてもくだらない。
もはや信じるとか信じないとか、そんな前提にすらないようなお話で、私は両手を手放してしまっていた。
それなのに、目の前の紙切れは実在だと声高に主張してくる。
461 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:56:34.29 ID:PGzGnqfO0

『チーム・ダンガンロンパは刺激の足りない毎日を送る皆様にこれまでにない画期的なエンターテインメントを提供するソーシャルエグゼクティブなグループです!』

『我々は人と人が命をかけて生存を争う様子を【コロシアイ】と題してリアルタイムな配信を行なっています! 平穏に飼い潰されてしまった日常に、刺激的な時間をお届け!』

『コロシアイは正真正銘の本物! 本当に実際の人間が血を流し、苦しみ、命を落としています!』


ルカ「マジでこんな組織があるってのか……?」


コロシアイ、なんて文字列と共に並んでいるのはスタッフであろう人間のお手本のような笑顔。
キラキラとした表情に血生臭い文言ばかりが並んで、その取り合わせがなんとも言えない不快感を抱かせる。


にちか「でも、確かに需要はありそうですよねー。スプラッタ映画とかって昔からコアなファンがいるじゃないですか」

ルカ「いやいや……あれは作り物だろ? 生身の人間でのコロシアイだなんて、そんなのそもそもが法を犯してて……」

美琴「だからこそ、じゃないかな」

美琴「日常の範疇から逸脱しているからこそ、人の目を引く。ラインを超えてでも見てみたい、そういうふうに思う人はそう珍しくもないんじゃない?」

ルカ「まあそうなのかもしれねえけど……」

ニ猇kkkkkk
『あははは! そうですよね、私だって人が死ぬところ見てみたいですもん! あははははは!:

深コ菟
【人のお腹を裂くとどんなふうに内臓が出てくるのかな人の首を切るとどんなふうに血が飛ぶのかな人は命を落とす時どんな声を漏らすのかな≫

¿尼Ch果
:コロシアイはもう一大エンターテインメントなんですよ無責任に人の生き死にを笑いたい惨たらしい死に様を嘲笑いたい「


ルカ「ふーん……まあそういうもんか」


私だって同じことが繰り返されるような日常には飽き飽きしているんだ。
コロシアイという刺激に飛びつく人間がいたとしてもそれはおかしくもないのかもな。


コトダマゲット!【チーム・ダンガンロンパ】
〔恋鐘と努が生前所属していた組織。コロシアイをエンターテインメントと定義し、リアルタイム配信を行なっていた。コロシアイを運営するのはこれが初めてではなく、既に何回もコロシアイが行われていた〕

1.ボウガン
2.死体の抱える本

↓1

462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/08(火) 21:58:30.64 ID:D38ZPOww0
1.ボウガン
463 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:05:30.05 ID:PGzGnqfO0
1 選択
------------------------------------------------
【ボウガン】

本が群れをなす中にひっそりと、その群れの中に姿を隠すようにして置かれたものがある。
いかにも重要そうな手がかりみたいな面をしておいて、実際は事件とは無関係な偽装された証拠だと言うのだからタチが悪い。


美琴「ボウガン……千雪さんに刺さっているのとは型番が違ったんだよね」

ルカ「おう、これを置いたのは月岡恋鐘……狸だよ。冬優子を秘密で釣っておいて、罪をこれでなすりつけようとしたわけだ」

にちか「これもヒントみたいですね、弓がなんかぐにゃりだしましたよ!」


ボウガンは飴細工のように捻じ曲がったかと思うと、今度私たちの前に突然と浮き上がる。
そこに壁などないのに、何かにぶつかり溶け込むようにして、長方形の板のような形に変わった。
それを一言で言うなら、ゲームのウィンドウだ。


にちか「うわ……なんかアルファベットと数字の羅列……これってプログラミングってやつじゃないです?」

美琴「……みたいだね、すごい情報量」

ルカ「おいおい、こんなもんパッと見せられても私たちじゃ全く意味わかんねー……」

美琴「……エラーが発生してるみたいだね」

ルカ「あ?」

にちか「み、美琴さん! プログラミング分かるんです?!」

美琴「ううん、そうじゃなくて。ほら、単純にこの一部分には〔error〕の表示があるよね?」

ルカ「あ、言われてみれば」

美琴「テキストメッセージとして出ているものだけ拾えば、少しくらいは読み解けるんじゃないかな」

にちか「だ、だったら任せて下さい! 英語は得意科目……ってほどでもないですけど、一応現役なので!」

美琴「うん、頼めるかな」

464 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:06:29.81 ID:PGzGnqfO0

妙に息巻いてウィンドウを流れるメッセージを読み解いていくにちか。
言葉を辿々しく拾い集めると、恐る恐るその解答を口にする。


にちか「多分……なんですけど、このエラーは何かウイルスが混入して発生したみたいです」

美琴「ウイルス? これは病気になってるの?」

(おいおい……)

にちか「誰かが持ち込んだウイルスによってシステムに異常が起きてて……多分、外からじゃどうにもならない……みたいな感じだと思います」

ルカ「外から? プログラムに外も中もないだろ」

にちか「うるさいなー、私だってよくわかんない分野の話なんですから黙っててくださいよ」

ルカ「なっ、生意気な……」

美琴「もしかして、セキュリティの話なんじゃない? ハッキングを防ぐためのファイアーウォールとか……そういう話だったりして」

にちか「さ、さすがは美琴さん……! どこぞのニュース解説者より分かり易い解説です……!」

ルカ「無駄に喧嘩を売るなっての……」

(まあ、言い方はさておいて……ウイルスの侵入によるセキュリティ異常ってのは覚えておいてもいいかもな)

(何のシステムのメッセージかはわからないけど、外部とは完全に遮断されたことは大きな意味を持つはずだ)


コトダマゲット!【プログラムエラー】
〔何らかのシステムにおけるエラーメッセージ。システム内部に何かウイルスが侵入した事でセキュリティシステムが異常作動を起こし、外部の干渉を完全に遮断してしまったらしい〕

【選択肢が残り一つになったので自動進行します】
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/08(火) 22:07:48.92 ID:xVZEcpDk0
1
466 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:09:50.70 ID:PGzGnqfO0
------------------------------------------------
【死体の抱える本】

千雪が何やら大事そうに手にしている本がある。
彼女の腹部から漏れ出たものであろう血は、手のひらを経由して紙の装丁の表紙にべったりと張り付いている。
元々の表紙、そのタイトルは今からは解読不能だろう。


ルカ「……」


何故だか、私はその本から目が離せなかった。
別になんてことはない、死体が握っていただけの一冊。
それこそダイイングメッセージの一つでも蓄えた宝箱くらいの認識で足りるはず。
私が抱いているのは、一体なんの感慨なんだ。


にちか「何ボケーっとしてるんですか、さっさと検証しましょうよ」


にちかはそんな私を他所に死体から乱暴に本を引ったくる。
この本も例に漏れずウサミの魔法がかけられていたようで、血に塗れた表紙はチカチカしたピンクの光と共に移り変わり、既視感のある一冊へと変わった。


ルカ「……これって、確かモノクマの工場かなんかで見つけたやつじゃ」


『ジャバウォック島再開発計画』のタイトルに掲げられている通り、
ここに記されているのは時代に取り残された観光島・ジャバウォック島の事業再生を目指す計画書。
その先導に立つのは、私たちの前にその存在を何度か仄めかした『未来機関』だ。
467 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:12:19.82 ID:PGzGnqfO0


にちか「うーん……でも変ですよね、この島って私たち以外にまるで人はいない感じなのに。このファイルにはずーーっと人が住んでて生活が営まれてる体で書かれてますよね」

美琴「……姿を消したにしても大規模だよね」

ルカ「それに、この島で見つけた被験体……ってのは誰の何を指してるんだ……?」

にちか「島の中央の行政施設を解体して未来機関の拠点にする……はー、かんっっぜんにサッパリです!」

ルカ「あの遺跡を作って何がしたかったのかも分からないし……マジで謎だな」

にちか「こうなったらあの遺跡に入ってみる以外なくないです? 他のことはなーんにもわかんないですし」

ルカ「おいおい、またパスワードかよ……めんどくせえな」


私たちの前に何重にも立ち塞がる謎という壁。
その一つ一つが分厚く、そして全貌の見えぬほどに高い。


美琴「……ルカ、これは前に見た書類と完全に一緒?」

ルカ「ん? おう……あさひと見た時と一緒……だな。元々この島には住んでいる人間がいて、中央の島の行政機関をぶっ潰す形で『未来機関』ってのがここに拠点を持ったらしい」

美琴「その後のこれは?」

ルカ「……『先遣部隊が上陸時、既に標的の姿は島にはなく、鎮圧自体は何ら妨害を受けることもなく成功した』」

ルカ「まあ、見たことない記述だけど……そんなに重要なのか?」

美琴「……」

にちか「なんかほんとどこまでも小学生の自由帳みたいな話ですよねー」

ルカ「どこまで信用できるのかは疑問だな……」


コトダマゲット!【ジャバウォック島再開発計画】
〔未来機関という組織がジャバウォック島を再開発し、新たに本部を構えるまでの記録。中央の島には行政機関があったらしいが、そんな痕跡は今現在の島には全くない。未来機関が上陸時に、既に標的の姿は島になかったという〕

468 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:14:38.30 ID:PGzGnqfO0

ルカ「後はこの死体ぐらいのものか……」


千雪の亡骸の近くに散らばっている物は一通り拾い上げて、その正体も確かめた。
しかしながら、まだパスワード自体は分かっていない。手がかりを残すのは、この死体だけ。


にちか「じゃあ今度こそ死体を分解しますかねー。両腕引きちぎっちゃいます?」

美琴「そうだね……その前に眼球を抉ったりして、小さなところから確かめようか」

(……)


不思議な感覚だった。
真実を知ろうとしているだけ、先に進むために探索をしているだけなのに、なぜかにちかと美琴の言葉の一つ一つに胸がざわつく。
そんな感情は無用な感情だ死体は死体でしかないそんな感慨なんて抱いたところで無意味
屍を踏み越えて私たちは先に進む希望に停滞はない希望に行き止まりはないただ前に進むだけ


ルカ「よし、それじゃあ舌をペンチでぶっこ抜くところからだな!」


死体をぶち壊して情報を啜ろうとしたその一歩手前。
またしても死が裏返った。


美琴「……!」


踟¡逝キ
|私が一■黙って■■ばい■罪■背■って■を閉ざしてい■■誰も傷つ■ない私だ■■犠牲に■ればいい


にちか「あ、またパスワード教えてくれるやつですかね! ほら、早く言っちゃってください! ゲロった方が楽になりますよ!」

ルカ「取り調べじゃないんだから……」


チ$裄:;
■を貫く鉄芯が■■い本当■■れでよか■たの■な私が■■意味はあっ■のかな■が信じ■あげ■■よかったの■な私は疑うこ■を■■てよかっ■のかな


美琴「パスワードは『モ』……ありがとう、後はもうゆっくり休んで」

ルカ「これで2個目、か」

にちか「このペースじゃ日が暮れちゃいますよ! さっさと次行っちゃいましょう!」


私たちがパスワードを獲得すると、千雪はその場に崩れ落ちてまた物言わぬ骸に戻った。
死体を傷付けずともヒントが得られた。そのことに安堵せずにはいられない自分がいたが、二人には悟られないように取り繕っていた。
469 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:16:11.54 ID:PGzGnqfO0

美琴「次のヒントは『落ちて、堕ちて、墜ちる』……」

にちか「どこか高いところなんですかねー……? 崖の上とか!」

ルカ「今日は火曜日でもないしサスペンスでもないぞ。それにこの島にそれらしい崖なんかないだろ……」

(まあ高いところってのは間違いなさそうだな……考えてみるか)

------------------------------------------------

『落ちて、堕ちて、墜ちる』

【第三のヒントが指し示す場所を選べ!】

↓1
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/08(火) 22:19:37.52 ID:D38ZPOww0
病院の駐車場?
471 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:22:27.88 ID:PGzGnqfO0
【正解】

------------------------------------------------

【第3の島 病院 駐車場】

西部劇を思わせる荒野に突如として現れるコンクリートの絨毯。
すっかり砂をかぶっているため、その表面はざらついており、ソールが叩いてもコツンという足音には雑音が混じる。
高所とは真逆の印象もあるこの場所に、なぜ足を運んだのか……相変わらず自分自身でもわからないままだ。


にちか「えー、病院? どこか体でも悪くしてるんですかー?」

美琴「ルカ、どういう推理なの?」


ただ、その不可解はすぐに接頭語も外れることとなる。


ルカ「……ビンゴみたいだな」


私たちの前に現れたのは血の海に正面から顔を浸し、うんともすんとも言わなくなった三峰結華の死体。
その頭上をハゲタカが獲物を狙うように、ドローンが飛び交っていた。


にちか「うぇー……なんかあの死体、顔面グロい感じになってる気じゃないです……? ルカさん、ちゃっちゃと捲って見てきてくださいよ」

ルカ「私はオマエの小間使いじゃねえぞ……チッ、とりあえず死体の周りで情報を集めようぜ」

美琴「まあ……それが良さそうかな」


やたらと照りつける日差しが厳しい島だ。野外の操作は手早にしておかないとこちらの体力が持っていかれる。
それに……腐臭も増していくばかりだ。


1.結華のメガネ
2.青い繊維
3.ゲッカビジン

↓1
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/08(火) 22:24:48.74 ID:D38ZPOww0
1.結華のメガネ
473 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:26:27.22 ID:PGzGnqfO0
1 選択
------------------------------------------------

【結華のメガネ】

死体は真っ正面から激しい衝撃を受けているので、みるも無残な有様という他ないが、
その脇に落ちているメガネはあり得ないほどに綺麗なまま。
事件の鍵を握っていた重要なパーツ……パスワードのヒントがあると言うのなら、ここだろう。


ルカ「……やっぱりな」


天に透かすようにしてみると、度の入ったはずの視界は鮮明になるどころか、反対に別のものを映し出した。
まだ太陽は高く登っている、周りには遮蔽物もない。
それなのに、レンズの先はまるで別世界のように真っ暗だ。


にちか「うわ……ルカさん死体から剥ぎ取ったメガネかけてますよ。どこの羅生門なんですかそれ」

ルカ「捜査のためだ……うるさいな。それに羅生門は髪の毛だろうが」


一つの仮説を立て、自分自身でメガネを装着。
そのまま顔を上げて天を仰いでみると、仮説を裏付ける根拠が顔を覗かせた。
474 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:28:15.48 ID:PGzGnqfO0


ルカ「……やっぱり、このメガネを通してみると夜の状態の島の様子が見えるんだな」


夜空に散らばる星の数々、その中央に鎮座する真円の満月。
この島に来てからずっと見てきた夜空そのものと全く変わりない光景がそこにはあった。


ルカ「……」


自然と、あの夜のことを思い出す。
にちかを犠牲に生き残ったあの晩に、息が詰まるような切迫感の逃げ道を空に探した時のことを。

あの時から、この空は何も変わらない。
星の配置も、月の満ち欠けも。
まるで時が止まってしまったかのように変わらないのである。

ルカ「なあ、二人はどうしてこの月の形が変わらないんだと思う?」


爾|#戈
そんなこ■を気にする必要はありませ■私た■は使命に従■■生き■だ■彼女た■を■■るために育て■だけそれ■■が生きる理由な■です■

m萎k悪t苧
私た■は舞台装■彼■たちをステ■ジに立たせるた■■舞■装置■だけ見せ■だ■そこ■思■■必要ない■■要らな■


ルカ「……そう、だよな」


私は何を気にしていたんだ。月の形が変わらないからってなんなんだ?
考えたところで答えが見つかるわけでもないのに烏滸がましい身分不相応図に乗っているダメだ却下拒絶断絶中断終了


コトダマゲット!【満月】
〔この島に来てからずっと月の形は変わらないまま〕

------------------------------------------------

1.青い繊維
2.ゲッカビジン

↓1
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/08(火) 22:32:38.14 ID:D38ZPOww0
1.青い繊維
476 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:36:43.38 ID:PGzGnqfO0
1 選択
------------------------------------------------
【青い繊維】

空を飛んでいるドローンを調べようにも、手を伸ばしたところで届くはずもない。そうなると視線は自然と死体に戻ってくるわけで。
……だとしても、なぜこんな糸屑に私の視線は止まってしまったのだろう。
死体の纏っている衣服のどれとも違う、青い色合いの繊維。
ほんの一ドットほどの違和感が私を捉えた。


ルカ「まさかこんな所に眠ってたりしないよな……?」


だが、その違和感はもはや確証に等しかった。
このレクリエーションが始まってから、明らかに私は異常だ。
何かに手を引かれているかのように行動の全てが他の誰かの意思の上にある。
導かれた先の悉くで、それに出会う。


にちか「わ! またモノミの魔法ですよ!」

美琴「……今度は資料とかじゃないね、どんどん大きくなっていく」


私の手を離れたところで繊維は粒子を巻き込んで大きくなっていき、やがて一つのものを形作る。
これまでの紙や冊子の形状とは全くの別物。
そこに出てきたのは……


ルカ「浅倉、透……?」


私たちが共同生活を続けてきたやつと全く同じ姿形で、化けて出たのである。
477 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:38:06.85 ID:PGzGnqfO0

美琴「ホログラム……のようなものなのかな」

にちか「浅倉さーん……? これ、どうなってるんですかー?」

透「……」

透「ねえ、記憶ってどこまである? この島に来る前の一番新しい記憶って?」

ルカ「……あ?」


それは、不思議な感覚だった。
脳の隅をほじくり返したと言うべきか、押入れの隅で埃をかぶっていた衣服を引っ張り出した時のようなむず痒さを伴った。
無意識化に押しやっていたことに対する、罪悪感にも近い割り切れない感情。


透「ねえ、記憶ってどこまである? この島に来る前の一番新しい記憶って?」

にちか「え、なにこれ……壊れたレコードか何かですか」

美琴「この言葉に意味があるってことなのかな」

(私は……知っている、こいつの、この言葉を)


何度も繰り返される言葉が、深層の底に落ちていた記憶をゆっくりと引き上げていく。
それは、私の記憶に紐づいた、記憶の証言の記憶。
あの病院で、惨劇が起きる前の、一歩を踏み出すトリガーになった、明確な分岐点の、在りし日の、忘れ難き、記憶。
478 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:39:37.33 ID:PGzGnqfO0


《透「思い出しちゃ、ダメなんだよ」

透「忘れといて、そのまま」

ルカ「……お前が私たちの記憶を奪ったのか?」

透「……」

ルカ「いつからの記憶がないかを把握してるってことはそういうことだろ? お前はこの希望ヶ峰学園歌姫計画の参加者じゃなくて……運営する側の人間なんじゃないか?」

透「……私が奪ったって言うか」

透「私たちが、奪った」》


ルカ「……!!」


一気に記憶が間欠泉のように噴き出した。
眠っていた記憶が即座に蘇る。
あの言葉で私は浅倉透という存在に対する認識を改めて、信頼の一歩を踏み出したんだ。
このコロシアイの最中で、自分を追い込む発言だと分かっていながら、
歩み寄るために口にした言葉には確かな力があったのに、なぜ私はそんなことを忘れていたんだろう。


ルカ「そうだ……この島に来た理由、それは浅倉透が私たちを連れてきたから」
479 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:40:59.51 ID:PGzGnqfO0

ルカ「なんで、なんでこんなことを忘れちまってたんだ……? なんだ、何が起きてる……? 私たちはコロシアイをしてたはずだろ? なんでこんな呑気にウォークラリーなんか……」


聻ち¿k亜亜亜01
疑問を持■な今はそのフェーズで■ない与えら■た役割を遂■しろ今はただ情報を■■だけの傀儡■なれ

11111胡000000
浅倉透を憎め感情■定■■れ■いる自分の感情は許さ■ていない■く次に進め記■はあとで■■てくる


ルカ「……あ?」

にちか「もう、ルカさん何やってるんですかー? 今大事なのは浅倉さんが私たちをこの島に連れてきた極悪犯ってことですよねー?」

美琴「うん、彼女のことは許しちゃいけないよ」

ルカ「ハッ……ハハッ、そうだよな。浅倉透は許さない、そうだ、そうだよ……なんだったんだ、今のは」


私が錯乱しているうちにいつの間にか浅倉透を真似た繊維は姿を消していた。
二人のいう通りだ、今大事なのは浅倉透は私たちをこの島に連れてきた憎むべき悪人だということ。
この感情に疑問なんて抱いちゃいけないのに、何を思っていたんだろう。


ルカ「……」


……そう、なんだよな?


コトダマゲット!【透の証言】
〔浅倉透はルカに対して、このコロシアイの参加者を集めたのは自分だと自白している。当初の希望ヶ峰学園歌姫計画は彼女とその仲間が計画したものであるらしい〕


【選択肢が残り一つになったので自動進行します】
480 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 22:42:37.03 ID:PGzGnqfO0

次は少し長く、眠気がすごいので急ですがここで今日は中断させてください。
次はゲッカビジンより再開します。
明日も時間が取れそうなので、11/9(水)21:00ごろから再開予定です。
よろしくお願いします。

それではお疲れさまでした。
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/08(火) 23:10:39.71 ID:D38ZPOww0
お疲れさまでした。
正常にバグってるゲーム画面、好き。
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/09(水) 01:07:33.44 ID:xSnet1NJ0
お疲れ様でした!
どんどん怖くなっていくな……
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