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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.4
- 345 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:21:39.72 ID:kq3pidQz0
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両手で数えきれないだけのオーディションを受けた。
しかし、その悉くで向けられたのは好奇の視線。
わざわざ長崎から出てきたというのに、アイドルとしての技量で秀でたものは見出されず。
急に飛び出してきた人間で、後ろ盾も何もない。
「何しに来たの?」
苦笑混じりにそう言われたのも一度や二度ではない。
これもまだマシな方。
人格を否定するような言葉も何度もぶつけられた。
それは面接官だけでなく、隣に座る受験者にも。
「田舎臭さが染み付いてる」
「アイドルになろうなんて何様?」
「あなたは“ない”方の人間だということを自覚すべき」
私が夢見ていた桃源郷なんて、どこにもない。
テレビの中で歌い踊っていた彼女たちは、どす黒い地獄の上に立っている。
他の人間の不幸を踏み倒して、死屍累々の上に立つ。
それでようやっと輝きを得ることができるのだ。
- 346 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:22:49.07 ID:kq3pidQz0
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そしてその認識は、芸能界に入ってからも変わることなく。
むしろより一層強まったとも言える。
身内のスキャンダルをバラして椅子を勝ち取るディレクター、
出演のために自分の恋人を抱かせることも厭わない芸人、
オーディションの最中に下剤を仕込むアイドル……
どこまでも救いなんてない。
それでも、私はその憧れを捨てきれなかった。
地の底のような田舎の料理屋で、人生を削りながら汚れていくばかりだった私の心をいとめたあのパフォーマンスは本物だったから。
その裏に何があろうとも、少なくとも私の見たパフォーマンスはそれが全てだったから。
夢と勇気と希望を彼女が与えてくれたのは間違いない。
- 347 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:24:13.61 ID:kq3pidQz0
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地獄を踏み倒した上で与えてくれた僅かな力________
もし、もっともっと凄惨で、劣悪で、澱み切って、目も当てられないような、全てをもって否定したくなるような_____
そんな地獄からアイドルが生まれたら、そこに宿るものは私があの日見たものとは比べ物にならないだろう。
- 348 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:26:00.46 ID:kq3pidQz0
- ◆◇◆◇◆◇◆◇
月岡恋鐘の口から語られた、事の経緯と彼女の心境を前に私たちは非難の手を緩めてしまっていた。
今この場にいる人間の誰よりも、月岡恋鐘は人の営みの歪さを、誰しもが有する悪意を、夢の舞台の澱んだ地盤を知っていたからだ。
私だって苦労をしてこなかったわけじゃない。
義務教育もそこそこに早いうちから研究生として人生の多くの時間をアイドル活動に割いてきた。
大人たちのやりとりだって、他の子供に比べると早くに目にすることになる。
でも、それは芸能界での話であり、外の世界の悪意となると下手すれば普通に育った連中よりも耐性はないのかもしれない。
私のようなアイドルは、温室育ちだ。
美しく咲くことだけを求められるがゆえに、水も温度も陽の光も、管理された上で与えられる。
ただ、月岡恋鐘は元々そうではなかった。
私たちが豊かな土で育ったのなら、彼女はコンクリートの上。
舗装という名目で頭から押さえつけられる、抑圧の環境下でなんとか芽吹かせた。
不可能を可能にした彼女の持つ芯の強さは、確かなものだったろう。
でも、彼女は真っ直ぐに芽を出したわけではなかったのだ。
- 349 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:27:02.28 ID:kq3pidQz0
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恋鐘「そがん時ばい、うちが『あの人』に話を聞いたんは」
あさひ「あの人……その人が、このコロシアイを企てたっすか?」
智代子「そ、それって誰のことなの……!?」
恋鐘「誰も何も、みんなよう知っとる人ばい! それに、そのヒントどころか答えまでうちは渡したはずやけど……」
透「……そうだね」
透「隠してたのに、勝手にバラしちゃうんだもん。やってくれるよね」
あさひ「それって、前回のコロシアイのことっすか?」
智代子「……!!」
恋鐘「さすがあさひ! よう分かったね! この島におらん、他のみんなが参加したコロシアイ、その首謀者とうちは仲間……同じ組織の人間なんよ!」
あさひ「天井社長……っすか」
恋鐘「そう! うちも社長も、チームダンガンロンパのメンバーやけんね!」
月岡恋鐘がポケットから自信満々に取り出したピンバッジには赤でレタリングされたDとRの2文字。
左右の白黒ツートンはモノクマを彷彿とさせるデザインで悪趣味だ。
- 350 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:28:05.67 ID:kq3pidQz0
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智代子「チーム……ダンガンロンパ?」
あさひ「ダンガン、ロンパ……」
透「……ちょっと待ってそれって」
聞いたこともないような組織が飛び出してきて、反芻するしかない私たち。
説明を求めて手を伸ばしたが、月岡恋鐘はなぜかそこには極めて冷淡だった。
恋鐘「まあ、そん辺りのややこしか話はうちが死んだ後の真相究明編でやればよかとやけん、割愛するばい」
智代子「え、ええっ?! そんな勝手な……?!」
恋鐘「チームダンガンロンパはあくまで裏方、メインはコロシアイに参加しとるみんなやけんね。そこに割くべき尺も文量もなかよ」
あさひ「……もしかして、このコロシアイの黒幕って一人じゃないんっすか?」
月岡恋鐘の物言いはあさひの解釈を可能にした。
目の前の狸はチームダンガンロンパという母体に属する一構成員、こいつが死んでもこのコロシアイは続く。
だからこそこれほどまでに饒舌に、堂々と彼女はしゃべっているのか。
そう勘繰るのも無理はない。
- 351 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:29:01.60 ID:kq3pidQz0
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恋鐘「う〜ん……そう言われると解答には困ってしまうとね……うちがここで死ぬことでこのコロシアイ自体には決着がつくのは間違いなかやけん」
あさひ「よくわかんないっす……チームダンガンロンパのことも教えてもらってないし……」
恋鐘「ま、うちが死んだら全部わかるけん、ちょっとの辛抱たい!」
智代子「そ、そんな明るく言い放つことじゃないよ……」
恋鐘「それよりうちは、みんなと話がしたか!」
極めて無邪気に、笑顔を振りまいた。
ほんの少し前屈みになって、小ぶりな二人にもその目線を合わせる。
母が子供の話を聞くように、優しく、そして無遠慮に彼女は解答を求めた。
恋鐘「こん島での暮らし……色んなことがあったばい。たくさんのもんを得て、たくさんのもんを失って、今みんなはどんな気持ちか聞かせて欲しか〜!」
それは、先の独白で語られた彼女自身の理想。
このコロシアイの中で、私たちは何を感じて、どう変化をしたのか。
それを死の間際になって、見極めようとしている。
- 352 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:30:00.96 ID:kq3pidQz0
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恋鐘「あさひ! 愛依はあさひの大好きな果穂に殺されて、冬優子は一人突っ走って人の命を奪ってしまったけど、どがんね?」
あさひ「……」
恋鐘「智代子! 果穂も夏葉も、智代子に色んなもんを託して逝ってまったけど、なんか変わったことはあったばい? 変わらないものがあるから、変わっていける……そうやろ?」
智代子「……その言葉を、こんな形で言わないでよ……」
恋鐘「透……のパチモン! 自分のせいでみんなが色んなもんを失って、いよいよ信じてくれた雛菜もうちが殺した! どがん気持ちになっとーと?」
透「……樋口じゃないけどさ、言いたくなるよ。最悪って」
一人一人、触れてほしくないところを的確に刺激する。
傷跡を人差し指でほじくったような物言いに、苦々しい表情を浮かべざるを得ない面々。
それをみて、月岡恋鐘はまたご満悦。
証言台をフラフラと歩き回って顔を覗き込んだり、鼻歌を口ずさんだり。
決着がついたことで彼女のタガは完全に外れてしまったようだ。
- 353 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:31:11.80 ID:kq3pidQz0
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恋鐘「……で、いつまでそうやってスライムやっとるつもりばい? ルカ、いい加減起きんね!」
(…………)
月岡恋鐘は私の背後で立ち止まった。
他の連中の投げたものとは違う、叱咤するような声量。
それでも私は反応を返さない。
恋鐘「美琴はどげん思いで自分の命を懸けてまで、ルカたちを守ったと思っとるん?! そんな風に、へしゃげてほしいって美琴が思いよっと?!」
(………………)
恋鐘「美琴もずっと苦しんどった……にちかの言葉に縋り続ける自分と、一緒に暮らしとる仲間と……そのぶつかり合いがしんどかったはずばい」
(……………………)
恋鐘「それでも、ルカたちの姿に胸を打たれて、最後にみんなにその命を託したばい! そげなことじゃいかんよルカ!」
異常な光景だった。
自分の相方の命を奪ったばかりの仇に、なぜか逆に励まされている。
自分の罪を棚に上げたその言葉は悉くが癪に触る。
- 354 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:32:30.16 ID:kq3pidQz0
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しかし、苛立ちだけで立ち直れるほど私は単純じゃない。
私の中を埋め尽くす感情は、ちゃちな起爆剤じゃ吹き飛ばせない。
(………………)
恋鐘「……ルカにはガッカリばい、コロシアイが始まってから一番変わってきとったのに、こげんクライマックスで躓くなんて想定外ばい」
智代子「人の感情はそう簡単に割り切れるものじゃない……なのに、なんでそんなに酷い言い方ができるの……」
あさひ「……恋鐘ちゃん、このコロシアイの目的はそこなんすか? わたしたちが、コロシアイを経て成長することが目的なんっすか?」
恋鐘「大体は正解ばい。うちはこのコロシアイで、うちに夢ば見せてくれたあのアイドルと同じ輝きを持ったアイドルに出会いたかったとよ」
恋鐘「あと少し……あと少しで完成するはずだったとに……」
恋鐘「ま、うちん続きはまた別に引き継いでくれればよか!」
あさひ「……え?」
恋鐘「あんまり喋りすぎたら後の楽しみがなくなってしまうけんね! そろそろ区切りにせんといかん!」
- 355 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:33:32.54 ID:kq3pidQz0
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恋鐘「ワックワクドッキドキのおしおきタイムば〜い!」
- 356 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:36:10.58 ID:kq3pidQz0
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コロシアイの黒幕による、自分自身のおしおきの宣言。
それはあまりにも多くの重要性を帯びている。
コロシアイの終幕、私たちの勝利、仲間達の敵討ち、真実の迷宮化、そして
……かつての仲間との別離。
突然にそんなものが言い渡されて、黙って飲み込めるはずなどない。
智代子「ちょ、ちょっと待ってよ! まだ何も聞けてない……恋鐘ちゃんは黒幕で、このコロシアイを仕掛けたんでしょ?!」
智代子「だったら、どうしておしおきなんて……死ぬかどうかも自分次第でしょ、だったらちゃんと喋ってからにしてよ……!」
恋鐘「そげんこつ言われても……あんまりうちが喋っても助長とやろ?」
透「ジョチョー……死ぬのに早いも遅いもなくない?」
恋鐘「チッチッチッ……死もコロシアイ全体を作る上での材料の一つに過ぎんとよ。どんな食材も新鮮さが命! 人だって死ぬべき時に死なんと意味がなか!」
恋鐘「うちが散るべきタイミングは今! 今ここで死ぬことこそが、ひいてはコロシアイ全体を盛り立てることになるけん!」
月岡恋鐘は異常なまでの強情だった。
死ぬと決めたからにはその意志固く、他の連中の言葉には全く耳を貸していない。
それどころか自分にこれから先待ち受けている死をどこか楽しみにしているような、恍惚とした表情を浮かべているのが異様に不気味だった。
瞳が渦巻いて見えるような、狂気じみた態度。
こちらが勝者であちらが敗者という絶対的優位にありながらも、背筋を虫が這うのを止められないだけの嫌な気迫を滲ませた。
- 357 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:37:22.87 ID:kq3pidQz0
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月岡恋鐘は証言台を離れ、元々モノクマの座っていた裁判長席へ。
他よりも高い位置に椅子のある台は、一通り全員の顔が見渡せた。
月岡恋鐘はわざとらしく咳払いを一つすると、朝礼でもするかのように声高々に辞世の句を綴った。
恋鐘「それより、次のステップにさっさと進まんといかん! 残った4人……いや、3人! みんなは新世代のアイドルになれるチケットを手にしとるばい!」
最後までこいつは、激励の言葉をかけた。
コロシアイといういつ終わりがやってくるともわからない場に無理やり連れ出したくせして、“今後”のことを語る。
恋鐘「うち、それに雛菜と美琴! 3人とのお別れを踏み台にすることでみんなはもっともっと輝けるはずた〜い!」
ただこいつはその倒錯に気づいていない。
気づく余地などない。
自分自身の計画を、理想を、憧憬を盲信している彼女からすれば“輝き”こそが絶対のものであり、そのための布石もまた間違いのないものなのだ。
恋鐘「みんな、うちん死を乗り越えてもっともっと輝いてほしか!」
だからそこにある言葉は、たくさんの人間の命を奪い、絶望を振り撒いた存在とは到底思い難いほどに……
- 358 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:38:30.52 ID:kq3pidQz0
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恋鐘「みんなには希望に満ちた未来が待っとるけんね!」
綺麗なフレーズだけが並んでいた。
- 359 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:40:47.29 ID:kq3pidQz0
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CONGRATULATIONS‼︎
ツキオカさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
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- 360 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:44:37.08 ID:t2ChXezO0
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いつの世も美女は時代を動かすもの。
古代エジプトのクレオパトラ、中国唐王朝の楊貴妃、そして平安のかぐや姫。
絶世の美女を前にすれば、男たちは首を垂れて宝物を貢ぐだけの存在となってしまう。
艶やかな袿に身を包んだ月岡さんの前にも、四人のモノクマが跪きます。
紫色の綿飴のようなものが付いたモノクマ、
メガネをかけたツインテールのモノクマ、
額に絆創膏を貼り付けたモノクマ、
美しいポニーテールの気高いモノクマ……
どれも城下に名の知れた名手ばかり。
そんなモノクマたちが求婚のために持ってきた貢物とは……?
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終わりの鐘が鳴っとるけん
超社会人級の絶望 月岡恋鐘処刑執行
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- 361 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:46:18.49 ID:t2ChXezO0
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美しいポニーテールを靡かせて、最初の名手が差し出したのは真っ白で綺麗な鉢。
かの天竺に伝わるという仏の御鉢は高貴で光輝!
思わず月岡さんも手に取ってうっとり……
ですが当然本来この鉢は仏様に捧げるためのもの!
そんな罰当たりな真似をしてしまっては、天の怒りも買いますとも!
天罰を受けた月岡さんは雷をモロにその体に浴びてしまいました!
今度は絆創膏をつけた名手が綺麗な衣を取り出しました。
鮮やかな紅色は月岡さんの艶やかな佇まいにもよく映えますね。
早速月岡さんにも着てもらいましょう!
……え? なんですって!?
この衣は火で燃やしても汚れだけが焼け落ちて、衣は燃えないんですって!
それなら早速試してみるしかないですよね!
月岡さんごと燃やして検証してみましょう!
続いてメガネをかけたツインテールの名手が丁重に持ち出したのは荘厳な雰囲気ある珠。
月岡さんもこれには流石に畏まった様子で、両手で慎重に持ち上げます。
すると月岡さんの綺麗な心に反応したのか珠が光だし、天からは龍がその姿を表したではありませんか!
……なんだ、ただ通りかかっただけじゃないですか。
オゾン層を食い尽くしてお腹いっぱいになった一般通過老龍は月岡さんを気にも止めることなく適当に城ごと荒らして帰って行きました。
- 362 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:47:11.56 ID:t2ChXezO0
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ボロボロになった月岡さん。
それでも紫色の綿飴をつけた名手は退きませんでした。
彼の思いは本物、ああ美しきかな恋心!
名手の心に応えるかのように、貢物の玉の枝は燦然と輝いています。
月岡さんもこれまでの捧げ物での苦労もあり、玉の枝に飛びつくようにして受け取ります。
金の枝に白い玉。根っこは銀色と来た。
やっと見つけた真実の宝、月岡さんも真実の相手に巡り合うことができました!
……と思ったんですが、この名手はどうやら悪戯好きだったご様子。
貢物にしていた玉の枝にはたっぷりと栄養剤を吸わせていたみたいです。
急成長した玉の枝はそのまま月岡さんの全身のあちこちを貫いてしまいました。
感電し、丸焼きにされ、踏み荒らされ、しまいには雑巾みたいにズタズタにされてしまった月岡さん。
一度はかぐや姫の名を恣にした彼女もこうなってしまえばかたなしです。
彼女が突き刺さったままの玉の枝の木には、燕が巣を作り、たくさんの子を成したとか成さなかったとか……
- 363 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:48:37.55 ID:t2ChXezO0
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「…………」
月岡恋鐘の死。
それはこのコロシアイの黒幕の死を意味し、文字通りコロシアイ南国生活の終焉を意味する。
そんなフィナーレの大舞台は、これまで以上に血に塗れて、これまで以上に陰惨な光景で思わず私たちは言葉を失ってしまっていた。
「…………」
仲間たちの命を奪ったこと、積み重ねた時間を嘲笑ったこと、恨みをぶつけるだけの理由は山ほどあった。
それでも、直情的にその言葉を発するのはどうしても躊躇われてしまう。
本性を知る前の、共に食卓を囲んだ時間、間抜けな会話に笑い転げた時間、ステージの上で視線を向け合った時間……そういう時間と共に息づく彼女の表情。
要因は挙げていれば時間がいくらあっても足りない。
「…………」
人間は愚かな生き物だ。
どれほどひどく裏切られようとも、そこにあった信頼を一方的にゼロにすることなど出来はしない。
何度も足元を掬われることになるというのに、それでも懲りないのだ。
- 364 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:49:46.03 ID:t2ChXezO0
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智代子「最後まで……恋鐘ちゃんのこと、わからないままだったね」
智代子「コロシアイを始めた理由は、教えてくれたけど……こんなの私たちの知りたかった答えじゃないよ……」
あさひ「それに、大事なことは隠したままっす。恋鐘ちゃんと天井社長のバックにいるチームダンガンロンパ。これが分からないんじゃ、何も解決してないっす」
透「その組織自体は、聞いたことある」
智代子「え、本当に……?!」
透「一応、ね。詳しいことは知らないけど、前回のコロシアイ……どころかこれまでにも何度もコロシアイを仕掛けてきたんだって」
あさひ「コロシアイって……今回と前回だけじゃないんっすか?」
透「……みたい。それを裏で取り仕切っているのがチームダンガンロンパ、とか」
智代子「そ、そんなの……聞いたこともないよ……」
月岡恋鐘が残したのは悔恨と謎。
コロシアイは閉幕の形をとるものの、その蟠りがある限り彼女たちの不安がなくなることもない。
身に危険が差し迫るでもないのに、理由なく彼女たちの体は震えていた。
- 365 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:50:45.87 ID:t2ChXezO0
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あさひ「……ひとまず地上に戻ってみないことにはどうしようもないっすね。ここにいてもしょうがないっすよ」
智代子「そうだよね……コロシアイが終わっても、すぐに解放されるわけじゃないんだし……」
透「……おーい、そろそろ行くってー」
一方で、体を震わせることはなくむしろその対極とも言える静の反応を示すのが……私だ。
力の抜け切った体は月岡恋鐘の全てを見届けた後でも変わることがなく。
何も掴むことのできなかった掌を、ただ無気力に見つめていた。
智代子「……私たちは、色んなものを失いすぎちゃったね。今までもそうだし、この裁判でも」
あさひ「……でも、だからって立ち止まってちゃダメっすよ。ルカさんが最初の裁判の後で言ってたことじゃないっすか」
「…………」
何の言葉も返す気になれない。
呼吸をすることも煩わしい。
もう、私からすれば……地上に出ることなんてどうでもいい。
この島から出たとて、何をすればいい?
美琴のいない世界で、アイドルを続けて、何になる?
私の人生は、どこにある?
答えのない、答えを生み出す気すらない疑問をいくつも浮かべて瞳を閉じる。
- 366 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:51:42.84 ID:t2ChXezO0
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……始まったのは、そんな時。
モノミ「コード:サクリファイスの入力を確認! コロシアイ南国生活はフェーズファイナルに移行しまちゅ!」
- 367 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:52:51.79 ID:t2ChXezO0
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けたたましいブザー音と共に、さっきまで黙りこくっていたモノミが突然に騒ぎ出す。
だが、これまでのモノミとはまるで違う。
悪戯に定型文を吐き出しているような無機質で起伏のない言葉、そこにある意味もまるで汲み取れない。
あさひ「な、何っすか?! 急にモノミからブザー音が聞こえ出したっす!」
モノミ「ワールドを再生成! オブジェクト配列を最適化していまちゅ!」
智代子「な、何が起きてるのこれ……透ちゃん?!」
透「え、うち?」
智代子「だ、だって透ちゃんは私たちをこの島に連れてきた組織の一人なんだよね? モノミと一緒に……」
透「あー……」
透「いや、モノミは仲間でも何でもないんだけど」
- 368 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:53:43.34 ID:t2ChXezO0
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智代子「え……?」
透「元々の計画ではガイド役は私だけ。モノミ……ウサミは、てっきり別プログラムで組み込まれたのかと思ってたけど」
透「最初の事件の前、確認したら違うってさ」
智代子「な、なんでそんな大事なこと今まで教えてくれなかったの……?!」
透「え、あー……ごめん」
智代子「ごめんじゃないよ?!」
モノミ「Mob:モノクマの消滅を確認! 権限をMob:モノミに譲渡していまちゅ!」
智代子「え……そ、それじゃあモノミって何者なの……?! モノクマと恋鐘ちゃんが、透ちゃんの元々の計画を乗っ取ったんだよね……?」
あさひ「その二人が死んだ瞬間にこうなったってことは……もしかして、モノミって」
- 369 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:54:26.84 ID:t2ChXezO0
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あさひ「恋鐘ちゃんとモノクマのスペア、なんっすか……?」
- 370 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:55:46.69 ID:t2ChXezO0
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モノミ「アバターを再構築していまちゅ! スポーン地点をHotelに設定しまちた!」
智代子「す、スペア?! それってどういう意味?!」
あさひ「二人がなんらかの理由……それこそ今回みたいに、おしおきを受けてゲームから離脱した時みたいに、コロシアイの運営ができなくなった時に引き継いで代わりに進行する役割とかっす」
あさひ「恋鐘ちゃんもおしおきを受ける直前に、そんなことを言ってたっすよね?」
透「それじゃあ、コロシアイは終わらないってこと?」
智代子「そ、そんな……」
モノミ「一分後に再起動しまちゅ……起動中のアプリケーションを終了してくだちゃい……」
あさひ「いや、むしろそれだけじゃ終わらないかもしれないっす。なんだか、胸の辺りがザワザワするんっすよ」
あさひ「わたしたちがこれまでに経験してきたどれとも違う、何かもっと大きくて、恐ろしいものがやってくるような……そんな感じがするっす」
智代子「ど、どど……どうなっちゃうの……?」
透「なんか、モノミ光ってない?」
智代子「え、爆発?! 爆発しちゃうの?!」
あさひ「……そんなもので済まないと思うっす」
モノミ「準備が完了しまちた! プログラム:卒業試験を開始いたしまちゅ!」
モノミのシステムメッセージじみた宣誓とともに、その体から凄まじい閃光が突き抜けた。
裁判場の天井を光が突き破り、地面は揺れ、私たちはその場に転がり落ち、壁は剥がれ、床は崩れ、
- 371 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:56:46.67 ID:t2ChXezO0
-
_______そして、世界が終わった。
- 372 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:57:40.23 ID:t2ChXezO0
- -------------------------------------------------
CH■PT■■ 05
Kill■r×Mis■ai■■
■ND
谿九j生■者■ ■人
To ■e c■■tin■ed…
-------------------------------------------------
- 373 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 21:58:10.66 ID:t2ChXezO0
-
【CHAPTER 05をクリアしました!】
【クリア報酬としてモノクマメダル140枚を手に入れました!】
【アイテム:油に塗れたエプロンを手に入れた!】
〔上京する前に使っていたエプロン。父親のくすんだ瞳が誉れだと称したその汚れは、彼女にとっては奴隷の焼印と何ら相違ない〕
- 374 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/07/03(日) 22:04:04.60 ID:t2ChXezO0
-
という訳でいよいよ五章も完結です。
恋鐘を黒幕に据えるのはなかなか思い切ったんですが、底なしの明るさを持つ彼女が絶望に振り切れた自己解釈を真正面から注げたので楽しかったです。
過去の回想も恋鐘弁でやろうかと思ったんですが、途中まで書いてなんのこっちゃ自分でも分からなくなったので辞めました。
さて、この後はいよいよ物語も終結に向けて本格的なクライマックスです。
すべてのお話をまとめるうえで文量も多くなるため、これまで以上にお待たせすることにはなると思います。
どうか本シリーズの完結を最後まで温かい目で見守っていただけると幸いです。
それではお疲れさまでした、また次の章でお会いしましょう。
- 375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/03(日) 22:12:40.25 ID:gdlUe4ph0
- >>1乙
Chapter2ラストのモノミのセリフでまさかとは思ってたけど
モノミもやはりチームダンガンロンパ側だったか・・・
- 376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/03(日) 22:51:12.91 ID:aLWosK0z0
- お疲れさまでした
言われてみれば確かにモノミのポジションが原作と同じとは誰も言ってないじゃん
勝手に原作知識に引っ張られて勝手に騙されてたわ
- 377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/04(月) 22:38:46.39 ID:AdkKjKaI0
- 待ってます!
- 378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/11(月) 06:01:13.85 ID:KPTzCTeyO
- 原作知ってる人ほど騙されるギミックすこ
- 379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/18(月) 02:56:59.96 ID:LczHdBeO0
- madの説明文で色々把握したけど掲示板派なのでこちらでの更新を気長に待つ
- 380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/18(月) 22:55:09.66 ID:ws0rZ+TZ0
- このSSのシリーズからmadとかなんか企画ができてたの今日初めて知ったんだけど
要するに前作に絵師が絵をつけてそれを実況というか読んでいくって感じでおk?
- 381 : ◆vqFdMa6h2. [sage saga]:2022/07/18(月) 23:14:07.35 ID:zO2EaFLI0
-
おお、宣伝の動画を視聴してくださった方がいる……ありがとうございます
企画の方ですが、おっしゃられてる通り前シリーズの灯織主人公の方のお話ですね。
現行のシリーズは実況などの予定はまだ特にないです。
実況企画はまだ完全な形として仕上がってるわけではないので具体的にどうとは言えないんですが、
テキストデータを打ち出して別な形で参加者で一緒に読んでいくと言う放送になりそうです。
基本はまだお話を読んでいない人が集まってるので、話の展開を知ったうえで初見の反応を楽しむ感じで。
興味がある方は動向に注目していただければ。
せっかく書き込むのでついでに6章の進捗について。
すみません、まだまだお待ちいただくと思います。
4→5章は早いとこ用意できたんですが、6章はまだまだお話の流れも決めきれていなくて。
なんとか完結はさせるつもりなので、どうか温かい目で見守ってください……
- 382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/19(火) 19:35:08.50 ID:LRKwEbBh0
- 楽しみに待ってるわ
イッチの作品に影響されてダンガンロンパの1と2をプレイしてみたけどマジで神作だな…
- 383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/08/19(金) 07:56:33.90 ID:l4NqUy6aO
- 保守
- 384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/08/27(土) 09:11:33.71 ID:k/4CohEA0
- 2出てたこと最近知って一気読みしてしまった。続き楽しみにしてます!
- 385 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:27:37.07 ID:d9r5Nguj0
- ______
________
=========
≪island life:day 25≫
=========
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【ルカのコテージ】
一晩経ったが、まだナイフで裂けた傷は塞がらない。
寝起き早々に手が真っ赤に染まっていて言葉を失った。
自分でやったことではあるものの、傷としては残りそうだし、少し憂鬱になる。
顔を洗おうにも両の手で水を掬ったりはしづらいし、物を握るのも痛みが伴う状態。
どうしたものかと首をもたげた。
「……まあ、あいつはそれどころじゃないんだろうけど」
市川雛菜のことを思うと、そんな嘆きもしょうもなくかんじられる。
私は一時的でも、あいつは一生。
ずっとずっと不便がつきまとう。
それだけでなく、安息を不意に奪うような痛みも不定期に現れる。
この先数十年の人生に落とした影は、思う以上に濃い。
「……それでも、あいつはきっと笑顔なんだろうな」
レストランで待ち受けているだろう顔を想像しても、曇っているものは考え付かなかった。
- 386 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:28:20.35 ID:d9r5Nguj0
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【ホテル レストラン】
恋鐘「おはようルカ〜〜〜!」
智代子「おはようルカちゃん!」
ルカ「よう……」
出迎えた二人にも、その表情に曇りはない。
むしろうざったいくらいの声量で、こちらの表情が曇るくらいだ。
恋鐘「今日は何でか知らんけど、厨房の冷蔵庫は使えんくなっとったばい……故障ばしとるとやろか?」
智代子「えっ……それじゃあ今日の朝ごはんは……」
恋鐘「ばってん、うちに妥協はなか! 冷蔵庫の食材は使えんくても、他のもんで何とでもなるけん! 新鮮なフルーツでとっておきの朝ごはんを用意しておいたばい!」
智代子「いよっ! その言葉を待っていた〜!」
ルカ「……相変わらずオマエらは能天気だな」
連中はすっかり市川雛菜のペースに飲まれてしまったらしい。
昨日は後遺症やら襲撃やらでとても笑顔なんて余裕がなかったというのに、今ではすっかり元の調子。
体中の力が抜ける、間の抜けた食卓が帰ってきていた。
- 387 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:28:55.71 ID:d9r5Nguj0
-
恋鐘「ほら、ルカもた〜んと食べんね! 料理は食べられてこそばい!」
相変わらず問答無用で朝食を皿に盛り付ける長崎女。
智代子「ルカちゃん、そのベーコンエッグ……要らないなら助太刀致しますぞ」
やたら仰々しい口調で余り物にありつこうと集ってくる甘党女。
雛菜「次はヨーグルトが食べたいかな〜」
透「ウィウィ、ちょっと待って。箸だとなかなかむずいから」
雛菜「透ちゃん、スプーン使わないの〜?」
透「あー……あったんだ」
ギャグ漫画でもないようなやり取りでこちらの頭を痛くするノクチルの二人組。
レストランの卓には、私が苦手で苦手で仕方ない、それでも無いなら無いで違和感を覚える喧しさがあった。
……一部分を失した形で。
- 388 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:29:28.23 ID:d9r5Nguj0
-
智代子「……あれ、そういえばルカちゃん」
ルカ「あ? どうしたよ」
智代子「あさひちゃん、今日は一緒じゃないんだね」
ルカ「あさひ……?」
今朝の私は完全に抜けていた。
傷ついた自分の体を慰めるのに夢中だったのか、
荒れ果てたかつての相方を見て傷心を引き受けたからか、
悲運を悲運と見ない滑稽とすら感じる開き直りに感化されたからか、
この日ばかりの私は、かつての鋭さの全てを失った形でここに座っていた。
絶対に見落としてはいけないものに、視界の外にいることを許可してしまった。
ルカ「だ、大丈夫だろ……すぐに来るって」
智代子「……行ってあげて、ルカちゃん。不安な気持ちを隠す必要なんかないよ!」
ルカ「……誰が」
恋鐘「素直にならんね、もううちらん前でカッコつける必要なんかなか!」
ルカ「……チッ!」
なぜ手綱を離してしまったのだろう。
散々冬優子から聞かされていた『神出鬼没』、行動の予測がまるでつかない芹沢あさひという存在。
誰よりも彼女の理解者たる冬優子ですら、匙を投げていた。
それにこの島のルールという危険因子が絡んでいる今、ほんのわずかな間の所在なさですら私たちの血の気を引かせるには十分すぎた。
音を立てて引いた椅子、その足を蹴飛ばすようにして入り口へ。
もつれかける足取りも他所に、ドアノブに手をかけた。
そこで思いっきり引けば、あの嫌味ったらしい快晴の太陽が私たちを見下ろしている。
- 389 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:30:28.80 ID:d9r5Nguj0
-
_____そのはずだった。
「……え?」
美琴「……」
ルカ「み、美琴……?!」
透「……」
雛菜「へ〜〜〜?」
- 390 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:31:40.80 ID:d9r5Nguj0
-
俄に緊張が走る。
浅倉透は恐怖と怒りをないまぜにし、奥歯で感情をすり潰す。
市川雛菜は困惑が一番先に出ているだろうか。
自分の右手を奪った犯人が突然に目の前に現れたことに、行動の選択に手間取る。
恋鐘「透、雛菜! うちらの後ろに下がらんね! 大丈夫……うちらがおれば手出しはさせんけん!」
月岡恋鐘が前に出て美琴の視線を遮った。
だが、美琴はそれを邪魔そうにするでもなく、前に割って出ようとすることもなく静かに視線を落としていた。
ルカ「……待て、オマエら。そうじゃねえみたいだ」
これまでずっと美琴を観測し続けた私には分かった。
狂乱の限り、凶行に走ったあの頃とは違う。
今の美琴は、空っぽだ。
憑き物がとれた、なんて表現があるがそれとはまた違う。
もっと他の表現。根幹から失われてしまった、抜け落ちてしまったという言葉の方が正しいのかもしれない。
美琴に取り憑いていた七草にちかの亡霊が、美琴の中の"もの"ごとにどこかに行ってしまったような。
そんな空虚さを感じてしまう。
ルカ「……」
美琴の前に私が立ったことで、他の連中は黙り込んだ。
色々と察して、私と美琴に時間をくれるようだ。
- 391 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:32:51.23 ID:d9r5Nguj0
-
美琴「……」
美琴「……」
美琴「……ルカ、その手」
口を閉ざしていると、沈黙に耐えかねたのか美琴が口を開いた。
落とした視線の先にある私の手を話題に持ち出した。
ルカ「……私より先があんだろ。安易な逃げ道に走るな」
美琴「……っ」
でも、それを咎めた。
私も美琴も、強くはない人間だ。
大事な決断に目を向ける勇気がないから、もっと別なものに依存してお茶を濁す。
その結果時間ばかりがすぎていき、気がつくと全てが手遅れ。
そんな後悔は、もうしたくない。
美琴「……えっと……その」
美琴「……」
ルカ「美琴!」
美琴「……そう、だよね」
並ならぬ私の様子に流石に腹を括ったのか美琴は私の横を通り過ぎて、卓に近づいた。
きっとこのレストランに来た時からそのつもりではあったんだろう。
それ以外に浮かんでいた選択肢を殺した。
私がしたのは、それだけのこと。
- 392 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:34:46.27 ID:d9r5Nguj0
-
美琴「…………雛菜、ちゃん」
雛菜「……」
市川雛菜はいつもの喧しい声を潜めて、美琴の顔を見つめる。
つい数日前の仇だというのに、全く肝が据わっている。
美琴「その、右手……は……」
雛菜「見ての通りですよ〜? あなたが刺した傷のおかげで、一生動かないです〜」
美琴「……え」
雛菜「それに、放っておいたらすっごく痛むんですよね〜。お薬が手放せない感じです〜」
美琴「……くす、り」
市川雛菜の言葉ひとつひとつが美琴の胸を刺す。
心臓を締め上げるその鎖は罪悪感という名前がついていた。
自覚するに遅すぎた感情、ずっと麻酔を効かせていただけの神経が眠りから覚める時。
美琴は身をよじろうにもよじれぬ苦しみに悶えていた。
雛菜「利き手じゃない方だったら、まだよかったんですけどね〜。雛菜これじゃマイクも握れませんよ〜」
美琴にとっては、きっとこの言葉が一番重たかった。
アイドルという戦場にずっとその身を置いていたから、武器を失うことの恐ろしさは一番彼女が自覚している。
この世界では、常に銃弾が飛び交う。
武装もしていない人間が飛び出してしまえば、すぐにそいつはお終いだ。
市川雛菜に待ち受けているのは、確定の惨死。
それをもたらしたのは、他ならぬ美琴。
- 393 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:36:01.95 ID:d9r5Nguj0
-
美琴「……雛菜ちゃんは、私のせいでステージに立てない」
そんなもの、覚悟していたつもりだった。
浅倉透を殺すと決めたその日から、邪魔をする人間も排除するつもりだった。
あの日の晩に起きたことだって、ある程度は織り込み済みだったはず。
私に遮られてもなお止まらずに、浅倉透の喉元を掻っ切るつもりだった。
美琴「私が、殺した」
ハリボテの覚悟だった。
肉を裂き、血を浴び、苦痛を与え、引き受ける感覚。
人生でそんなもの一度も味わったこともないのに、乗り越えられると盲信していた。
自分は強い人間だと、とっくに麻痺しきった人間だと、陶酔していた。
それが虚勢だということも気付かずに。
美琴「……ごめんなさい、雛菜ちゃん」
言葉は他になかった。
相手から全てを取り上げた、そのことに釈明など許されるはずもない。
奪った側にできるのは全てを悔やむ、謝罪ただ一つのみ。
その結論に至りながらも、稚拙な言葉でしか謝罪を表明できないのが歯痒かった。
- 394 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:36:39.72 ID:d9r5Nguj0
-
雛菜「……」
謝罪を受けた市川雛菜は、黙って美琴のことを見つめる。
今の美琴の裏側にあるもの、瞳の奥のその先を見据え、観測していた。
視線を直に浴びて、美琴もまごつく。
美琴「ごめんなさい……どうやってあなたに謝ればいいのか、私にはわからないの」
雛菜「……」
美琴「私のやったことは、取り返しのつかないことだから」
雛菜「……」
雛菜「そんなわかりきったこと、繰り返さなくていいですよ〜?」
美琴「……っ」
雛菜「それに、謝り方に正解とかないですよね〜? 雛菜の失った右手、それにこの右手で掴むはずだったものに見合うだけの謝罪なんて雛菜もわかんないですし」
美琴「そう、だよね……」
- 395 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:37:33.01 ID:d9r5Nguj0
-
雛菜「だからその先の話を教えてくれます〜?」
- 396 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:38:37.19 ID:d9r5Nguj0
-
市川雛菜は強欲な女だ。
自分のやりたいようにやって、自分の好きなことに声高に好きだと宣言する。
それでいてあさひと大きく違うのが、こいつは何もガキの我儘ばかりではないということ。
一本に通った太く根強い芯が、世界と社会とを俯瞰的に捉えている。
自分というブレないものがあるからこそ、懐疑的に固定概念を打ち破って、他の人間では踏み入れない領域に先駆することができる。
責任とか柵みとかそういった従わざるを得ないものに、彼女は屈しない。
感情というものを先に置いて結論が出せる。
雛菜「雛菜がアイドルとして終わった、その先の話をしませんか〜?」
雛菜「あなたは奪ったものの代わりに、雛菜に何をくれるんですか〜?」
美琴「私から、あなたに……?」
雛菜「……? 雛菜、何か変なこと言ってますか〜?」
美琴「……ううん、そうだよね。穴埋め……補填させてもらわなきゃね」
ある種一番残酷な仕打ちかもしれない。
自分の犯した罪をこれから先ずっと間近で見る上に、搾取をされ続ける。
市川雛菜が言うことに、もう美琴は拒否権すらないかもしれない。
ただ、それは美琴の感じている罪悪感と釣り合うだけの贖罪として飲み下すことができた。
美琴にとっては、苦しみ続けられる道を示してもらえたことに感謝すらしていただろう。
- 397 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:40:06.48 ID:d9r5Nguj0
-
ルカ「……オマエんとこの、相変わらずだな」
透「うん、雛菜って感じ」
ルカ「……オマエは、それでいいのか?」
透「いいよ、雛菜が決めたことだし」
そんな二人の歩み寄りを、傍観者かつ保護者である私たちは並んで見届けていた。
市川雛菜の言葉に繰り返し頷くようにしていた浅倉透。
自分に殺意を向け続けた人間に課せられた贖罪に、ある程度納得はできたらしい。
透「言ったじゃん、信じてほしい。私はみんなの味方だって」
透「美琴さんも。283プロの一人でしょ」
ルカ「……へいへい」
- 398 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:41:15.50 ID:d9r5Nguj0
-
ことの次第を黙って見届けていた、外野二人。
途中から視線の端で妙にソワソワしているのが目についていた。
市川雛菜から赦しが出たその時から、こいつらの間抜け面が戻ってきていた。
智代子「……美琴さんがしたことは、取り返しが効かないし、ずっと向き合っていかなくちゃいけないことなんだよね」
智代子「でも、こうして美琴さんは一歩を踏み出してくれたわけだし……あの言葉をかけてあげてもいいんじゃないのかな」
恋鐘「智代子! 多分うちとおんなじこと考えとる〜!」
智代子「きっと、そう! ずっと前から……私、この一言が言いたかったんだもん! やっと心から言えるタイミングが来たんだね!?」
恋鐘「よ〜し、それじゃあ張り切って……」
「「おかえり〜〜〜〜〜!!」」
- 399 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:42:09.46 ID:d9r5Nguj0
-
二人に連れられて、美琴は空席に座らされる。
さっきの今で美琴の表情はまだ硬い。
困惑して口だけをぱくぱくとさせているのが美琴らしくなくて、私は思わず吹き出した。
恋鐘「美琴、一人でおる時まともにご飯なんか食べとらんやろ〜? 席に着いたからにはもう逃さんよ! お腹いっぱいになるまで食べさせるから覚悟するばい!」
美琴「え、えっと……」
智代子「デザートも付いてますし、とことん付き合ってもらっちゃいますよ! 美琴さんのお口に合いそうなもの、たくさん見つけておきましたから!」
美琴「そんなに食べられない……」
ルカ「……ハッ」
あの頃と全く違うのは、帰る場所の有無。
私と組んでいた時は、美琴にはステージの他に居つくべきところは何もなく、そのためにすべてを捧げていたし、横に立つ私にもそれを強いていた。
あれから何年もの時が経ち、美琴には自分を待ってくれる人ができた。
真横に立つパートナーに限った話じゃない、お節介で喧しい年下連中。
仕事を管理している、うちのよりよっぽど優秀らしいプロデューサー。
そして、そんな連中の集う“家”のような事務所。
たとえ道中で何かを失おうとも、自分の身体を傷つけてしまっても。
最後に縋れる存在ができた、それだけで心持はだいぶん変わるはずだ。
- 400 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:43:07.30 ID:d9r5Nguj0
-
ルカ「……美琴」
私はその“家”の住人ではない。
だから、その輪に入っていく権利もない。
恋鐘「なんねルカ! そがんところでつっ立っとらんではよ席につかんね!」
でも、許可は下りている。
というよりも、無理やりに押し付けられた。
離れよう、近づくまいとしていたのに、私の袖をつかんでぐいと引っ張るものが何人もいた。
ルカ「……ハッ」
あの頃にも、こんな場所があったなら……なんて、私らしくもない。
- 401 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:44:12.00 ID:d9r5Nguj0
-
恋鐘「さ、これで今度こそ全員が一つに結束できたばい! もううちらに恐れるものなんかな〜〜〜〜〜〜〜〜んもなかね!」
智代子「うん! 夏葉ちゃんと冬優子ちゃんにも、誓ったんだもん……ここから先、事件なんて起きない。起こさせない。残ったみんなと一緒に島を出ていくって!」
美琴「……あなたの分のオールも、私が漕ぐから」
雛菜「やは〜! 楽ち〜ん!」
恋鐘「ひとまずはみんなで同じご飯食べて、絆を確かめ合うことが重要やけんね!」
ルカ「……くっせぇセリフ」
恋鐘「ルカ、照れんでよかよ〜」
ルカ「呆れてんだ」
改めて全員が椅子に腰かけ、お互いの顔を見る。
卓を囲む六人、この食事に行きつくまで随分と時間がかかった。
ノクチルの二人と美琴が一緒に食事なんて、つい数日前までは考えられなかった。
この島ではイレギュラーばかりが起きる。
明日の事なんて、想像するだけ無駄だというのがよくわかるな。
信じがたい日常の再来、食事に手をつけようとしたその時だった。
- 402 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:45:21.92 ID:d9r5Nguj0
-
美琴「……ねえ」
ルカ「……あ?」
私の隣に座る美琴が、囁くような声で尋ねた。
美琴「そういえばルカ……さっきは何をしようとしていたの? レストランを出て行こうとしていたみたいだけど」
私はいつの間にかすっかり忘れてしまっていた。
元々私が動き出したのは、あいつをレストランに連れ出すため。
これまでの美琴とはまた違った意味合いで行動を把握できず、目を離しているうちに何をしでかすかわからない存在。
____芹沢あさひを、椅子につかせねばならなかったはずだ。
- 403 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:46:20.01 ID:d9r5Nguj0
-
ルカ「先始めとけ、すぐに連れてくるから!」
美琴「え……うん」
恋鐘「大丈夫、みんな揃うまでいただきますはお預けにしとくば〜い!」
智代子「えっ……も、もちろん! 食べないから、食べないよ!? ほんとに!」
巡りあわせと言うのは不思議なものだ。
人と人との交流だけで完結すればまだいいが、時の流れや周囲の環境の変化など様々な要因が相互に影響しあって、プラスにもマイナスにも結果を押し流す。
私たちにとって、美琴が帰ってきたという事実は……どちらに働いたのだろうか?
今となっては、その答えは分からない。
ただ一つ確かなのは、美琴が市川雛菜のもとに来たことによって
美琴も事件に巻き込まれてしまうことになった、ということ。
「……え?」
改めてレストランの扉を開けると、またそこには一人の人間が立っていた。
美琴の時とは違う、そいつの顔は私がすこし見下ろすくらいの位置。
太陽の光に照らされて、銀にもベージュにも喩えられよう髪色をもった少女。
ガスマスクの向こう側、ガラス玉のような碧い瞳は、私のことを見上げていた。
- 404 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/09/17(土) 23:51:27.49 ID:d9r5Nguj0
-
お久しぶりです。
長らくお待たせしております……
最終章はまだ完成していないのですが、進捗報告を兼ねて少しだけ更新させていただきました。
今回の更新分は5章の没展開です。
元々はこの展開で書いていたのですが、あまりにも美琴が救われすぎるのでガッツリカットして今の展開になりました。
さて、肝心の最終章ですが大体5割ぐらいの進捗でしょうか。
夏はバタバタしていたこともあり中々書く時間が作れず、だいぶ滞ってしまっていました。
10月のムゲンビートまでに終わらせられたら……とは思っているのですが、確実なことは何も言えません。すみません。
しっかりと完結まではお話を書き上げるつもりですので、どうかお待ちいただけましたら幸いです。
それではまた、本編更新時にお会いしましょう……
- 405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/09/18(日) 23:47:23.15 ID:OBWAV+/S0
- おつおつ。狂ったルカちゃんの妄想かと思った笑
- 406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/09/19(月) 00:33:56.25 ID:oZreZzu50
- 統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
- 407 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 20:58:13.63 ID:AQfOwQ040
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GAME OVER
イチカワさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
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- 408 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 20:59:21.92 ID:AQfOwQ040
-
いらっしゃいませ!
キュートなふわふわ、二面相!
ゆる〜くあなたの心に幸せを!
夢と憩いのイエロー空間・ユアクマカフェにようこそ〜!
店内一帯を埋め尽くすユアクマを模したデコレーション。
机の一つ一つにもユアクマが同席しているので、森の中でピクニックをしているような気分!
こんな空間に来ることはできて、市川さんもさぞお喜びなことでしょう!
……あれ?
店内のどこにも市川さんの姿がないですね?
おっと……そうでしたそうでした!
市川さんは今、店員さんの一日体験中!
今日は給仕される側ではなく、給仕する側!
従業員一同一丸となって、夢の空間を作り上げましょうね!
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あおぞらジェノサイダー
超高校級の帰宅部 市川雛菜処刑執行
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- 409 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:00:19.15 ID:AQfOwQ040
-
コンセプトカフェとは言えど、言ってしまえば飲食店!
机をあっちこっち回って配膳していただきます!
フワフワのユアクマパンケーキ、
とろける甘さのユアクマサンデー、
シュワシュワパチパチのユアクマサイダー!
どれも目移りしてしまいますね!
でも今は我慢! 食べたいのならまた別日にお客さんとしてやってきましょうね!
ユアクマの可愛さに加えて市川さんの愛嬌も相まってお店は大盛況!
行列ができて客足は全く途絶えることもありません!
厨房も回転が追いつかなくなってきたので市川さんにヘルプの声が。
市川さんも急いで料理を作っていきます。
市川さんの担当は『お連れ様でも大満足! とびきりユアクマハンバーグ』!
どうしてもこういう女性向けのカフェではおつきあいでやってきた殿方もいらっしゃいます。
そうした客層もカバーするあたり、ユアクマも手堅いですね!
一心不乱にお肉をこねこね。
市川さんのお手製ともなると更に注文が飛んできます。
厨房の中は従業員が行ったり来たり!
足の踏み場もないほどの空間でほとんど押し合いへし合い状態!
- 410 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:01:24.67 ID:AQfOwQ040
-
……そんな中、鈍臭い従業員が一人。
あまりに鈍臭すぎるので皿洗いしか任されていないアルバイトのモノクマくん。
サイダーで濡れてしまっていた床で、彼が足を滑らせてしまいました。
転倒した勢いで、近くで料理をしていた市川さんに激突!
へ〜〜〜〜〜?!
その目の前には……ハンバーグの下地となるミンチ肉を作るためのマシーンが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お待たせいたしました!
こちらご注文のとびきりユアクマハンバーグになります!
お熱くなっておりますので鉄板の方は触らないようにお願いします!
お好みで付け合わせのイエローソースと共にお楽しみください!
……え?
こんなカフェでこんなにガッツリ食べられると思わなかった?
あはは、ユアクマちゃんも本性は“熊”ってことですよ!
- 411 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:03:27.87 ID:AQfOwQ040
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GAMEOVER
アケタさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
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- 412 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:04:35.08 ID:AQfOwQ040
-
_______奈落。
見上げる場所、始める場所。
ここを上がった時のために、全てがある。
出番を待つこの瞬間に、胸を押さえて、呼吸を整える。
いつだってこの時の昂りと緊張を忘れることはない。
隙間のない拳をさらに握り込んで爪を立てる。
さあ、ステージを始めよう。
向けられる無数の視線とステージライトを見に纏い、その指先までを武器に変えて。
絶対に忘れられないその刹那を、無限のひと時に帰るために。
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(DROP) POP OUT
超社会人級のダンサー 緋田美琴処刑執行
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- 413 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:06:35.07 ID:AQfOwQ040
-
奈落が競り上がり、緋田さんはステージの上へ。
ドーム会場ではあちらこちらで数えきれないほどのペンライトが振られています。
でも、緋田さんはそんなことで浮かれたりしません。
積み重ねてきた長い練習の時間を無駄にしないために、その全てをパフォーマンスに注ぎ込むのです。
重低音響くミュージックが流れるとすぐに、すらりと伸びたその手足で魅了し始めます。
激しく荒々しくも繊細で嫋やかなその動きは他の追随を許しません。
____されどステージは一人では完結しません。
彼女はアイドル・緋田美琴である以前に、シーズ・緋田美琴なのです。
競り上がった奈落は一つだけではない、彼女の横には荒削りながらも引けを取らない、
緑のライトに落とされた『影』がありました。
- 414 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:08:27.31 ID:AQfOwQ040
-
影とアイコンタクト。
鶴翼を描くように、それぞれが正方形の淵をなぞります。
私たちのパフォーマンスはこれで終わらない。
私たちはまだまだもっと高くに飛べる。
もっと高く、空へ。
重ね合わせたペンシルターン。
二つの回転はコマのようにぶつかるかと思いきや、それぞれの回転がもう片方の回転を加速させるダッシュボードに。
観客の心を奪ったのは、堅実に積み重ねた努力に裏打ちされた回転、ドラマ性に満ちた若き挑戦者の回転……その二つを合わせた竜巻のような強旋風。
____断言してもいい、緋田美琴最高のステージは今ここにある。
緋田さんもそれを実感したのか、宝石のような汗滴を散らした後、これまでに見せたことのないような笑顔に。
達成感と高揚感、そして共にステージを作り上げた同胞への信頼が、その芸術品を創り上げたのです。
- 415 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:11:02.45 ID:AQfOwQ040
-
割れんばかりの感性と拍手、橙色の光の海が二人のステージを称賛しています。
まさに感無量といった感じで、マイクを胸に当てて大きく息を一つ。
やっと、やり遂げたんだ。
自分の目指していた最高のステージ、まずはその第一歩。
……でも、これじゃ終われない。
最高はいつだってその先にある。
満足をした先にあるのは停滞、目指し続けるこそ緋田美琴はアイドルであり続けることができる。
緋田さんは観客に手を振って、ステージを後にしようとしました。
_____ただ、それは演者の都合。
今この場にいる観客は、関係者は、今この瞬間の最高をいつまでも噛み締めたい。
奈落は止まることなく上がり続ける。
ステージから降りなければ、パフォーマンスは終わらない。
ぐんぐんと伸びていく奈落から逃げ出すこともできず、気がつけばステージは遥か下。
奈落とは一体どちらのことを指すのでしょうか。
奈落はそれでも止まることなく、
ステージの天井を突き破り、
山を越えて、
雲を越えて、
大気圏を越えて、
もっともっと高みへ。
緋田美琴というアイドルの輝きは、星々の輝きにも引けを取らない。
そう信じたファンの声援が、彼女を文字通りの『スターダム』へと押し上げたのでした。
- 416 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/10/29(土) 21:16:09.38 ID:AQfOwQ040
-
予定よりはかなり遅くなりましたが、戻って参りました。
シャニロンパ2、完結までの書き溜めが用意できましたのでそのご報告です。
最終章ともなると文量がすさまじく、かなりお待たせしてしまいました……
さて、特に問題がなければ11月2日(水)の21:00〜より更新予定です。
早速捜査パートからの再開となるので、ご協力のほどよろしくお願いします。
物語の最後まで、あと少しですがまたお付き合いください。
- 417 : ◆vqFdMa6h2. [sage saga]:2022/11/02(水) 20:55:54.11 ID:t7R2U8OYO
- 楽しみにしていただいてる方がもしいたらすみません、
残業でまだ帰れそうにないので今日は更新できそうにないです…
- 418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/02(水) 21:04:00.23 ID:hyodrP0P0
- 了解です
- 419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/02(水) 21:42:10.66 ID:bADBjfNm0
- 完結まで待ってるので、体調には気をつけてください
- 420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/06(日) 07:40:46.64 ID:84YggPFl0
- お疲れ様!
あおぞらジェノサイダーのセンス良すぎや
- 421 :先日はすみません、少しだけ進めさせてもらいます ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:27:57.76 ID:qALyBpIn0
-
「……ごめんな、みんなをこんな危険なことにまた巻き込んでしまって」
- 422 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:28:53.38 ID:qALyBpIn0
-
「そ、そんな……最終的には私たちの方から志願した話ですし、謝っていただくようなことでは……!」
「みんなも事件の当事者……無傷ではないんだ。まだ治療も終わって間もないタイミング、体も疲れているだろうに……」
「疲れ……てなくはないけどさ? それよりも、みんなを助けられるかもしれないことの嬉しさの方が勝っちゃってる感じだし、全然ヘーキ!」
「……あの学園生活で、私は無力感を何度も感じさせられました。守るべきだったもの、守れたかもしれないもの……それが零れ落ちるたびに、何度も」
「××ちゃん……」
「でも、だからこそ……今この状況では、不思議と活力に満ちているんです。掌の中で何か熱いものが燃え滾っている……ここから逃げるわけにはいかないんです」
「ありがとうな、みんな……そう言ってもらえると心強いよ」
「それより×××の方こそ大丈夫なん? うちらの事件からずっと出突っぱっしょ?」
「いや、大丈夫だ。何もしないで休んでいる方が今はストレスだからな……ははっ」
「や、それ笑えないんですケドー……」
- 423 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:30:14.81 ID:qALyBpIn0
-
「あ、そろそろ見えてきたかも〜! ほら、あれじゃない〜?」
「本当だ! あの島が目的地なんですよね?」
「そろそろ準備をしないとな。同行してくれてる鎮圧部隊にも声をかけてくるよ」
「……いよいよですね」
「うぅ……やっぱなんかキンチョーするかも」
「島に賊軍はいるんでしたっけー?」
「……分からないです。みなさんがどんな状態でいるのかも、まだ」
「でも、やるしかないよ……! みんなを助け出さなくちゃ……!」
「……みんな、無茶だけはしないでくれよ」
「いや、無茶しますし……ここで無茶しないで、どこで無茶するっていうんですかぁ?」
「安全圏に引きこもってなんかいられませんよ! 私たちだって一緒に戦います!」
「……そうだよな、みんなだって戦いたいよな。勝手なことを言って悪かった」
「そうですよー、×××はいつもみたいに戦いは私たちに任せて、後はふんぞり返って司令官やってくれればいいと思いますー」
「そ、そんなふうに思ってたのか……?!」
「ふふー、冗談ですー」
- 424 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:31:03.72 ID:qALyBpIn0
-
「ねえ、もう着くよ〜?」
「あ……! すまん、急がなくちゃな」
「ふふ……戦いの直前だというのにしまりませんね」
「ま、それがうちららしいんじゃん?」
「かもねー、肩の力ほぐしていきましょー」
「みんな……絶対、一緒に帰ろうな」
「ここにいる人も……みんなも、ですね!」
「勿論です……絶対に、取り返してみせますよ」
「私たちの日常を……!」
- 425 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:32:02.33 ID:qALyBpIn0
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CHAPTER 06
絶望、あるいは逃げられぬ希望
非日常編
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- 426 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:33:00.84 ID:qALyBpIn0
-
……朝だ。
空に登る陽の光が心地よく、目を開けると同時に胸に風が吹き抜けるような爽やかさ。
人々は夢と希望をその胸に抱きながら、1日の行動を開始する。
「はぁ、よく寝た……」
私もゆっくりと体を起こし、うんと伸びを一つ。
それだけの動作なのに、腕や脚には鈍い痛みが走る。
でも、今の私からすればこの痛みには愛おしさや心地よさを感じる部分もある。
外の世界では久しく忘れていた、自分を締め上げるようなこの感覚。
私の存在を何よりも声高に証明してくれるそれは、地に足をつける感覚というにふさわしい。
その痛みに体をさすりながら、鏡の前へ。メイクもなし、寝起きの髪はボサボサ。
こんな姿ファンには見せられないよな、と手入れを開始。
「眠た……」
この島にはファンなんざ一人もいないのは事実なのだが、う私だって20歳という世間では花の盛りの年齢。
それに、大前提として私はアイドルであり、カミサマなのだ。
こんなところで失望を与えるようなことがあってはならない……なんて、そんなプロ意識も、この島に来てからあいつに教わったことだ。
「最後は、赤のリップで」
- 427 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:34:09.53 ID:qALyBpIn0
-
私はどちらかというと夜型。
仕事のないオフの日は時計の針が12時を示す直前まで眠りこけていることもザラではあるけれど、
この島に来てからの規則的な生活にもいつしか慣れてしまっていた。
というのも、その影響は彼女によるところが大きいだろう。
……いや、彼女“たち”か。
ピンポーン
「……ったく、相変わらず早すぎだろ」
鬱陶しそうな口ぶりで、はにかみながら。
足取りに迷いはなく、一直線に進んで扉を開けた。
「おはよう、ルカ」
「もう、ルカさん相変わらず寝坊助ですよねー! 早くしないと自主練先にやっちゃいますよー?」
「……ハッ、悪い悪い。練習、行こうぜ。美琴、にちか」
- 428 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:36:59.62 ID:qALyBpIn0
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【第1の島 ビーチ】
美琴「……よし、おしまい。お疲れ様、二人とも」
にちか「はぁ……つっかれたー! 美琴さん、相変わらず朝から飛ばし過ぎですよー!」
ルカ「おいおい、こんなので根を上げてんのか? なっさけねえな……そんなので美琴の相手が務まんのか?」
にちか「はー?! 本音と建前ってご存知ですー?!」
美琴「ふふ、いつかはどうなるかと思ったけど。二人ともすぐに仲良くなって良かったね」
「どこがだよ?!」
「どこがですかー?!」
こっちに来てからは毎朝3人で自主練するのがすっかりルーティンになった。
美琴とにちかの二人で、歪ながらも積み重ねたもの。
私が単身磨き上げたもの。
そして、私と美琴で生み出してきたもの。
それら三つを擦り合わせながら、共有と研鑽。
長らく忘れていた協力という概念を再び自分のもとに手繰り寄せる。
- 429 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:38:28.52 ID:qALyBpIn0
-
美琴「とりあえず、休憩しよう。二人とも、少し座ろうか」
にちか「はい!!」
美琴を挟むようにして、私とにちかは横に座り込んだ。
美琴「二人とも、良くなってる。初めの頃はバラバラだったけど、すっかり息もあって。振り付けのタイミングだってバッチリだよ」
ルカ「まあな、にちかのやつ鈍臭いから合わせるのには苦労したよ」
にちか「いやいや……変な癖のついたルカさん矯正するのにどんだけかかったと思ってるんですか」
ルカ「あ? 調子乗んなよオマエ」
美琴「にちかちゃんは2回目のツイストの角度がまだ甘いかな。ルカが上手だから、教えてもらって」
ルカ「ほらな、私もそう思ってたんだよ!」
にちか「むぅ……」
美琴「ルカは手に力を込めすぎなところがあるから、随所随所で脱力を心がけて。その方がシルエットも綺麗に見えるから」
にちか「ぷっ、ダンス初心者みたいなアドバイスもらってませんか?」
ルカ「あ? ざっけんなオマエ、蓬餅みたいな頭しやがって!」
美琴を挟んでいがみ合うこの構図にももう慣れたものだ。
美琴もすっかり日常の光景といった感じで、今更言及も調停もしない。涼しい顔して、次の練習のことを考えている。
- 430 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:39:33.03 ID:qALyBpIn0
-
ルカ「大体オマエはダンス以外もそうなんだよ、飯の時も好物先に食ってガキみてえな食い方してんじゃねーよ!」
にちか「それを言ったらルカさんなんかいつも人殺しそうな目して、他の皆さん怯えてますよー!?」
ルカ「それは取り方次第だろうが! オマエの悪意が滲み出すぎだ!」
にちか「あーもう、バカバカバーカ!」
ルカ「このガキ! ガキガキガキ!」
にちか「バーカバーカあほまぬけーーーーー!!」
ルカ「このチンチクリン! 雑魚! 雑魚雑魚雑魚!」
美琴「……出し切った?」
にちか「……はい」
お互いが叫び尽くして息切れ。
それで一旦はこの喧嘩も幕引きとなる。
もう何回これを繰り返してきただろう、にちかも私も、この形に慣れすぎてもはやそこに敵意なんかない。
ただの馴れ合いとかした喧嘩ごっこに、実りはない。
美琴「それじゃあ、朝ごはんにしよう。みんな待ってるよ」
ルカ「……だな」
散々不満を吐き尽くして空いた胃袋に栄養素を流し込む。
ここまでのワンセットを、私たちは『自主練』と呼んだ。
何に対する練習なのか、いつに向けての練習なのか。
それはまだ、私たちには分からない。
それは今から作り出すもの、そして私たちの手で生み出すものだから。
にちか「ほーらルカさん! ボヤボヤしてると置いて行っちゃいますからね!」
ルカ「……チッ、うるせーな!」
- 431 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:42:19.68 ID:qALyBpIn0
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【ホテル レストラン】
美琴を尾にしてYの字で行進。
私とにちかはずっと道中もいがみ合いながら。
扉を二人で乱暴に開けると、キョトンとした顔して連中が出迎える。
灯織「おはようございます。シーズのお二人に、ルカさん」
千雪「おはようルカちゃん、今日も二人と一緒なのね」
ルカ「私としては美琴だけでいいんだけどな」
にちか「こっちのセリフですー!」
愛依「アハハ、喧嘩するほどナントカって言うじゃん?」
結華「もうにっちゃんとルカルカの絡みは漫才の域だからね〜」
美琴「本当にね、二人とも仲良しだから」
摩美々「ほら、さっさと席ついてよー。摩美々はお腹ぺこぺこで餓死寸前ですー」
私とにちかを仲良しということにして丸め込もうとする283の連中は気に食わない。
とんだお気楽思考、誰しもが最終的に関係性を丸い形に治めるのをよしとすると思うな。
- 432 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:43:44.46 ID:qALyBpIn0
-
冬優子「ほら、さっさと座んなさい。こいつも文句ばっか言ってやかましくて敵わないのよ」
あさひ「みんな早く席に着くっすよー! もうお腹ぺこぺこなんっすもんー」
ルカ「ハッ……相変わらずガキのお守りで大変そうだな」
冬優子「他人事だと思って……」
愛依「アハハ、あさひちゃんモースグ朝ごはん食べれるから! 」
やっときたとばかりの冬優子のうんざりとした顔。
こいつのこんな顔にも見慣れたもんだ。
私の元にこんな煩わしい存在がいなくて本当に助かったと思う。
灯織「朝ご飯、お持ちしました! すみません、お手数ですが各テーブルごとに取りにきていただけますか?」
席に着くとすぐに、ホクロ女が料理の支度を終えた報告。
いつものようにテーブルに呼びかけ、私たちがそれに応じる。
にちか「あ、私行ってきますね! ルカさんはセルフでお願いしますー」
ルカ「元々一人じゃ持ってける量じゃねーだろうが。はなから行く気だ、こっちは」
にちか「風野さん、お願いします!」
灯織「はい、ではにちかさんと美琴さんの分……それとこちらが斑鳩さんと千雪さんの分です」
ルカ「……おう」
にちか「あはは、やっぱり美琴さんの担当は私ですよねー!」
灯織「あ、割り振りに他意は特になく……」
ルカ「わかってる、いちいち言うな。このチンチクリンが調子に乗るだろうが」
にちかと私で朝食を運び、再び席に着く。
美琴は簡潔に手で礼をし、千雪は年甲斐もなく「わぁ…」と声を漏らす。
- 433 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:44:49.30 ID:qALyBpIn0
-
千雪「ルカちゃん、ありがとう。今日も美味しそうなご飯ね」
ルカ「私は運んだだけだ、礼ならあのホクロ女に言いな」
にちか「風野さんの料理、確かにすごく上手ですよねー! 283でも一番じゃないですか?」
美琴「……どうだろう、アンティーカの彼女がいるでしょう?」
にちか「あー……」
ルカ「月岡恋鐘、か」
千雪「恋鐘ちゃん、本来なら私たちと一緒に来る予定だったのに……直前で熱を出しちゃうなんて残念よね」
にちか「一番はしゃいでたぐらいなのに、本当運命って残酷ですよねー。おかげさまでルカさんはお溢れにあやかれたわけですけど!」
ルカ「別に私だって来る気なんかなかったよ」
美琴「そうなの?」
ルカ「……まあ、な」
今ここにい■メンバーは283プロの中か■選■■た、■■■宿に■■■ている連中■。
私は別に28■プロの人■■■ない、今回の■■に応じ■のは事務■の■■、私の■■なん■そこに■■もない。
たまた■月岡恋鐘が病■となっ■ことで■■席が回ってきたの■。
- 434 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:46:44.52 ID:qALyBpIn0
-
ウサミ「ミナサン、今日もらーぶらーぶで何よりでちゅ!」
果穂「あっ! ウサミだ! おはようございますーーーー!!」
ウサミ「はいっ! 小宮さん朝からいいご挨拶でちゅ! あちしも朝から元気がもらえてルンルンでちゅよ」
夏葉「それでウサミ、今日はどうすればいいのかしら? この合宿の方針を示してちょうだい」
ウサミ「はい! 今日ミナサンにやってもらうのは、これでちゅ! 『ワクワク☆ 気になるあの子のパスワードはなんだろな? ねっと@すとーかーれくりえーしょん!』でちゅ!」
結華「ひらがなに織り交ぜて何やら物騒な文字列が並んでますけど!?」
透「パスワードってなんの? スマホ?」
あさひ「冬優子ちゃんのスマホのパスワードは××××っす」
冬優子「あさひちゃ〜ん、後でふゆとお話ししよっか〜」
ウサミ「ミナサンがこの島を探索しているときに発見したこのノートパソコン! 今日はこのアンロックに挑戦してもらいまちゅ!」
ルカ「パソコンのアンロックだぁ……? んなもん、片っ端から入力すりゃあ……」
摩美々「それこそ何時間かかるんですかぁ……」
ウサミ「大丈夫でちゅ! ちゃんとヒントがありまちゅからね、このシートに書かれたヒント通りの場所に行けばパスワードを手に入れるための手がかりが手に入りまちゅ!」
果穂「わぁ! それってつまり、ウォークラリーってことですか!?」
夏葉「なるほど、それなら確かに運動もできるし仲間との協力もできる。まさに合宿にうってつけね!」
あさひ「楽しそう! ウサミ、早くシートを見せてよ!」
ウサミ「はい! こちらがそのシートでちゅ! 一番最初にパスワードを解除したチームにはご褒美もありまちゅからね! 頑張って探してみてくだちゃい!」
愛依「ゴホービ……なになに、何がもらえんの?!」
ウサミ「それはクリアしてみてのお楽しみでちゅ! えへへ、みんなきっと喜んでくれまちゅよ!」
こいつの言うことなんだし、大したもんではないだろう。
至って冷静に冷めた目線を送る私とは対照的に湧き上がる連中。
つくづく私とこいつらの空気感は合わない。
- 435 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:48:04.24 ID:qALyBpIn0
-
ウサミ「ひぃふぅみぃ……ここには全員で15人いまちゅから、3人ずつで5チーム作れまちゅね!」
美琴「にちかちゃん、ルカ。いいかな」
にちか「もちろんです! 美琴さん、一緒にがんばりましょう!」
ルカ「おう、美琴。さっさと終わらせるぞ」
レクリエーションなんてのに興味はない。
無理やりに入れ込まれたこの合宿から早く撤収するためには、とやかく言わずクリアしたほうが早い。
ただそれだけの理由。
ルカ「おら、マップがあんならさっさと出しな」
ウサミ「はいっ! 斑鳩さん、ノリノリでちゅね〜!ぷー、くすくす! なんだか可愛いところ見ちゃったな〜!」
ルカ「……」
ウサミ「うぅ……冗談でちゅよ、今にも耳を引っこ抜きそうな目はやめてくだちゃい……」
ウサミの手からピンクに塗れた胃もたれしそうな地図を引ったくる。
なるほど、いくつかのヒントが書かれていて、この謎を解いて場所を導き出せばいいらしい。
- 436 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:49:42.56 ID:qALyBpIn0
-
『ワクワク☆ 気になるあの子のパスワードはなんだろな? ねっと@すとーかーれくりえーしょん!
◎ミナサンで力を合わせてパスワードを解読でちゅ!◎
第一のヒント
正義を穿つ闇の眠るところ
第二のヒント
慈愛の女神が辿り着いた果て
第三のヒント
落ちて、堕ちて、墜ちる
第四のヒント
箱入り娘が空を行く
第六のヒント
収穫祭
☆それぞれのヒントは特定の場所を示していまちゅ!』
- 437 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 20:50:39.85 ID:qALyBpIn0
-
にちか「なんですかこれ? さっぱり意味わかんないんですけど……」
ルカ「このヒントが示している場所を巡れば、パソコンのパスワードがわかんのか……美琴、どうだ? 何か分かりそうか?」
美琴「うーん……どうだろう、ウサミちゃんのことだから私たちの仲が深まるような、私たちに関連するヒントだとは思うけれど」
ルカ「あいにく心当たりはまるでないな……しょうがねえ、行き当たりばったりでどうにかするか」
他の連中も地図を眺めながら首を捻ったり、弱い声を漏らしたり。
まだ回答にすぐさまたどり着けそうな人間はいなさそうだ。
別にご褒美とやらにつられたわけではないが、さっさと課題はこなしてしまいたい。
早いところ回答を導き出して、パスワードとやらを手に入れてやるか。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
☆ウォークラリーについて
今チャプターでは、これまでの捜査時間に当たる形でウォークラリーを行っていただきます。
与えられたヒントの指し示す場所を推理していただき、そこに眠るキーワードを5つ集めることが目的です。
……まあ、正直その場所は考えるまでもないとは思いますが。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ルカ「まずは第一のヒントの場所からだな……」
【第一のヒントが指し示す場所を選べ!】
↓1
- 438 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/06(日) 21:27:02.06 ID:qALyBpIn0
-
突発なので上記安価だけ出して終わっておきます。
少し最近仕事が立て込んでいるので、確実なことは言えないのですが
今のところ11/9(火)の21:00〜はいけそうなのでこのぐらいに再開の予定にさせておいてください。
ダメそうだったらまた連絡します……
『ワクワク☆ 気になるあの子のパスワードはなんだろな? ねっと@すとーかーれくりえーしょん!
◎ミナサンで力を合わせてパスワードを解読でちゅ!◎
第一のヒント
正義を穿つ闇の眠るところ
第二のヒント
慈愛の女神が辿り着いた果て
第三のヒント
落ちて、堕ちて、墜ちる
第四のヒント
箱入り娘が空を行く
第六のヒント
収穫祭
☆それぞれのヒントは特定の場所を示していまちゅ!』
【第一のヒントが指し示す場所を選べ!】
↓1
- 439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/07(月) 23:22:02.99 ID:smjX6xly0
- 旧館の床下?
- 440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/07(月) 23:28:20.13 ID:iLcjko/90
- 旧館の大広間?
更新がないか久々に確認に来たら6章始まっててグーと思いました。
完結まで楽しみにしてます。
- 441 :少し遅刻ですが再開します ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:11:32.83 ID:PGzGnqfO0
-
【正解】
-------------------------------------------------
【ホテル 旧館】
にちか「ちょっとルカさん? なんでこんなぼろっちい建物なんです? これのどこに正義の要素があるっていうんですかー……」
ルカ「うるさい、見当もつかないからには片っ端から調べていくしかねえだろ。誰も足を踏み入れそうにないこういうところにこそヒントがあるかもしれない」
美琴「……結構、埃っぽいね」
にちか「わ、わ〜〜〜! 美琴さんはいいです、こんなところ! 美琴さんの清潔な肺が汚れちゃいますよ!」
美琴「ありがとう、にちかちゃん。でも、みんなで協力して謎は解かないと」
美琴とにちかを連れてどんどん奥へ。旧館にはまともに電気も通っていないらしく、壁伝いにようやっとで進んでいく。
一歩一歩、脚を踏み下ろすたびに床板がギイギイと軋む。
でも、どちらかというとその都度にちかのやつが文句をぶうぶうと垂らす方が耳障りだ。
ルカ「……ここ、大広間みたいだな」
しばらくすると両開きのデカい扉に行き当たった。
特に鍵などはかかっていないが、長いこと動かされていない扉には埃も溜まり、金具もその形で固定されてしまっていた。
にちか「ねえ、本気でこんなところにヒントがあると思ってますー? 無駄足、マジで勘弁してほしいんですけど……ねえ、美琴さん」
美琴「今回のウォークラリー、まるで見当もつかないから。試せることは試してみないとダメじゃないかな」
にちか「ルカさん、早く扉開けてください」
ルカ「……」
- 442 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:12:30.09 ID:PGzGnqfO0
-
重い扉を何故か一人で開けさせられ、それだけで不機嫌が五割増し。
ゆっくりと扉が開いて、大広間が私たちの前に姿を現していく。
長い間誰も受け入れていなかったであろう空間は少しの隙間からかびたような匂いを鼻へと届けた。
誰も足を踏み入れていない場所、この大広間に出入りするには今私が押し開けた扉以外には通用口も何もない。
だから、この匂いこそが本来なら不正解であることの証明になるわけだが。
この島では、私たちの常識は通らない。
時が止まったような空間、埃の被った机やテーブルクロス。
その中で不自然なほどに綺麗な状態で、【それ】はあった。
にちか「あ、もしかしてあれじゃないですか!? パスワードのヒントって!」
美琴「うん、みたいだね」
ルカ「ハッ、見たかよ……やっぱり私の勘は当たるんだ」
さて、どこから調べようか……?
1.風野灯織
2.胸に突き刺さった鉄串
↓1
- 443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/11/08(火) 21:15:03.99 ID:kv16cA8F0
- 風野灯織
- 444 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/11/08(火) 21:16:53.28 ID:PGzGnqfO0
- 1 選択
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【風野灯織】
にちか「あ、この死体がパスワードのヒントなんですかね?」
ルカ「だろうな、これ見よがしに横たえられて……こんなの、他の所にはなかったからな」
美琴「でも、どこを見ればいいのかな。これってまるっきりただの死体でしょ?」
にちか「うーん……腕とか脚とか引きちぎってみちゃいます?」
ルカ「おいおい……どこにそんな力があるんだよ」
にちか「あはは、冗談ですって!」
美琴「……少し、死体自体を調べてみようか。ポケットとかに、何か持ってるかもしれない」
にちか「流石です美琴さん! その発想は盲点でした!」
美琴の提案通り、私たちは三人で死体を足先から頭の先まで調べてみることにした。
物言わぬ人形と化した風野灯織、図々しくも全体重を私たちの手に載せてくる。
ポケットをまさぐるために動かすのも重労働だ。
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