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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3

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702 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:10:24.12 ID:6yJfGnKD0


あさひ「嫌だ……冬優子ちゃん、冬優子ちゃん……!!」

冬優子「……やめて、それ以上騒がれると覚悟が揺らぎそうだから」

あさひ「……!!」


だが、今回は今までの3回とは違った。
これから処刑台に乗せられる張本人の冬優子は、その覚悟を決めていた。
勿論それは体裁としての話で、心中が穏やかではないのは明らか。
目に見えて体は強ばり、口元も妙に硬く結ばれているのがかえって不安を滲ませる。

それでも……彼女は『怖がっていない』、死を前にして堂々と『黛冬優子』でい続けようとしている。
そのことを、我々は尊重せねばならない。

703 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:11:36.13 ID:6yJfGnKD0

冬優子「あさひ、最後に年長者っぽいことできてよかったわ。そのやってやった感のまま、終わらせてちょうだい」

あさひ「……うぅ」

冬優子「それと、ルカ……あさひのこと、頼んだわ。今やもう、頼れるのはあんただけだし」


初めの頃とは随分と扱いが変わったものだ。
かけがえのない存在を預からせていただく立場にさえ就かせてもらえるなんて、光栄すぎるな。


冬優子「……それと、パートナーともうまくやりなさいよ」

ルカ「……おう」


……それはお節介だ。
私はぶっきらぼうな返事をせざるを得なかった。
704 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:12:24.86 ID:6yJfGnKD0



モノクマ「今回も超専門学校生級の広報委員である黛冬優子さんのためだけに、スペシャルなおしおきを用意しました!」



冬優子「ふゆはこの選択を間違っているとは思わない、ただ停滞して全員で共倒れなんて……そんなの意味がないじゃない」

冬優子「……だから、ふゆと有栖川夏葉の想いを汲み取ってちょうだい」



モノクマ「それでは張り切っていきましょう!」



冬優子「ふゆたちは、あんたたちを生かすと決めたんだから。その命、雑に扱うような真似すれば……地獄の底からでも蘇って、ぶん殴るわ」

冬優子「ふゆの死、無駄にしたら承知しないんだからね」


705 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:13:02.96 ID:6yJfGnKD0






モノクマ「おしおきターイム!」


冬優子「ふゆの屍を超えていきなさい!」





706 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:14:03.07 ID:6yJfGnKD0
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GAME OVER 


マユズミさんがクロにきまりました。 

おしおきをかいしします。



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707 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:15:35.02 ID:6yJfGnKD0

世界でいちばんおひめさまな黛さん。
キュートな衣装をバッチリ着こなしてますよね!

普段から自分の魅せ方をよく研究しているんですから当然のこと。
それだけ可愛いお姫様の元には当然おうじさまもやってきます!

おひめさまを迎えにやってくるおうじさまと言えば当然『白馬の王子様』!
ほら、今にやってきましたよ!
筋骨隆々、目も血走って、すさまじい馬力で走り続ける白いチャリオットに乗った王子様が!

……あれ?

どうしたんですか、黛さん?
そんな、おうじさまを前にして逃げ出すなんてナシですよ!?

散々人を惹きつけておいて、自分が轢かれるのはそんなに嫌ですか!?

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        SOS

超専門学校生級の広報委員 黛冬優子処刑執行




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708 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:16:44.45 ID:6yJfGnKD0

おうじさまの熱烈アピール!
恋の書状が結びつけられた矢が黛さんに向かって次々に飛んできます!

チャリオットの猛追から逃げながらもなんとか体を捻って済んでのところで矢を回避!

黛さんの元に本来届くはずだった恋文は岩石を砕き、地を穿ちます。

次のアピールはプレゼント作戦!
男女の駆け引きに、プレゼントのセンスは欠かせませんよね。
ダイヤの飾り付けられた綺麗な円形の……チャクラム!
あれれ、これもおひめさまのお気には召さないみたいです。
黛さんがダンスで培った体幹を生かして華麗に回避!
チャクラムに両断されて隣の巨木は根元からボッキリと折れちゃいました!

最後のアピールは100万ドルの夜景で!
それを飾り付ける最高の花火をプレゼント!
あれ? そういえばどこぞの誰かが花火を利用して人を殺したんでしたっけ?
まあいいや、それいけどっかーん!

黛さんも流石にこれには目を奪われてしまった様子、少しばかり火傷を負いながらもなんとか回避。

そしていよいよ目の前に見えてきたのは結婚式場の教会!
なんだ、嫌よ嫌よも好きのうちというわけですか!
白馬のおうじさまに迎えられて、今こそ一つになる時です!
もう黛さんもボロボロで、外堀から埋められていよいよ腹を括る時ですよ!
709 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:17:36.38 ID:6yJfGnKD0





「ざけんじゃないわよ、バーカ」




……え?

ちょ、ちょっと……!?
そっちは、そっちはルート外ですよ!

おひめさまはモノクマの用意した道から自ら外れ、真っ逆さま。
本来おしおきから逃げ出せないように用意していたはずの保険であった巨大シュレッダーに自分から落ちていきました。

刃が彼女を細切れにする直前、その一瞬に。
黛さんはニッと笑って中指を立てていたとかいないとか……

710 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:19:17.35 ID:6yJfGnKD0
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モノクマ「な、なんだよ……消化不良だな……」

あさひ「……冬優子ちゃん、自分から……?」


黛冬優子のおしおきのクライマックス直前での自死、私たちではなくモノクマが一番困惑し、釈然としない表情をしていた。
モノクマからすれば一番盛り上がるところに水を刺されたような思いなんだろう。


モノクマ「フンっ、いっぱい食わせたつもりなのか何だか知らないけどさ。死んだのは死んだんだから、ボクの計画は何も崩れてないよ」

モノクマ「ぶひゃひゃひゃひゃ! どれだけ可愛く飾り立てても、死ぬ時は結局みんなブッサイクな骸に成り果てるんだよね!」

ルカ「……ハッ、それで勝ったつもりかよ」

モノクマ「……うん?」
711 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:20:11.54 ID:6yJfGnKD0


ルカ「てめェがいくら冬優子の死ではしゃいだところで、あいつも私たちも、その死で塞ぎ込んだりしねえ」


ルカ「あいつの死で、私たちは想いを引き継いだんだ。その想いとともに、私たちは生きていくんだ!」


壮絶な裁判の果て、おしおきによる幕引き。
何度経験しても慣れない絶望の波が押し寄せる感覚。
今にも気を抜けば膝からその場に崩れ落ちてしまいそうな無力感を感じつつも、今回ばかりはそう簡単には折れない芯が自分の中に通る感覚があった。

冬優子が最後の最後まで見せつけた姿、それは他でもない【希望】の姿だった。
他の誰かを犠牲にして生き永らえる。
そのことに負い目を感じ続けてここまできたが、冬優子は『自分の死を有効に使え』と言い残してくれた。

それならば、今ここで悔いてはならない。
悲しんではならない。



今の私たちにすべきことは、明日のために……今何ができるか考えることだ。


712 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:21:43.68 ID:6yJfGnKD0

ルカ「そうだろ、あさひ」

あさひ「ルカさん……はいっす!」


それに、私はこいつを冬優子から託された。
ガキのお守りなんざ、ガラじゃねえが……
ダチと交わした約束を不意にするほど私も人でなしじゃない。


智代子「うん……夏葉ちゃんが身を賭して私たちを生き残らせてくれたんだもの、こんなところでへこたれていられないよ!」

透「うん、がんばろ」

雛菜「やは〜! 雛菜も頑張る〜!」

恋鐘「ここまで生き残ってきたうちらならもう大丈夫たい! もうこれ以上コロシアイなんか誰も起こさんよ!」

美琴「……そうだね」


これまでのどの裁判とも違う、誰一人として表情を曇らせない様子に明らかにモノクマはイラついている様子だった。
私たちに何か言葉を投げつけてやろうとして、的確な嫌味が見つからず地団駄を踏む。

713 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:22:40.90 ID:6yJfGnKD0

モノミ「うぅ……あちし、感涙の極みでちゅよ! 黛さんの死でまた一つミナサンは強くなりまちた!」

モノミ「すごい一体感を感じまちゅ。今までにない何か熱い一体感でちゅ! 風……なんだろう吹いてきてまちゅよ確実に、着実に、ミナサンの方に!」

モノミ「絶望なんかに負けない、希望の風を感じまちゅ!」


手のひらの中で熱く鼓動しているものが希望なんだろうか。
それを胸に当てて私は一つ、深く呼吸をした。
肺に通っていく風が、なんだかとても心地よく、私の視線はぶれずに前を見据えた。


モノクマ「ぐぬぬぬ……ぐぬぬぬ……」

ルカ「悪いなモノクマ、お前の目論み通りにならなくて。……それじゃ、私たちは帰るから」

智代子「うん、夏葉ちゃんが取り戻してくれた分ちゃんとお腹いっぱいにしないとね!」

あさひ「あ! 恋鐘ちゃんの朝ごはんがまた食べられるんだ!」

恋鐘「ど〜んと任せるばい! 今まで食べさせてあげられんかった分、特盛サービスで食べさせちゃるけん!」

美琴「楽しみだね」

あさひ「やったー!」
714 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:24:14.37 ID:6yJfGnKD0




モノクマ「そんなお祭りムードのとこ悪いけどさ、オマエラ……それでいいの?」



715 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:25:36.93 ID:6yJfGnKD0

ルカ「……あ?」

モノクマ「黛さんは命をかけて芹沢さんの無実を証明したけどさ……それって同時に、他の人間がぽんぽこ狸さんだって謎を提示したのと同義でしょ?」

あさひ「……!」


それは確かにモノクマの言う通りだ。
私たちを学級裁判で殺そうと画策していた狸はまだ、私たちの中に紛れている。
身長160cm以上という条件はあさひと甘党女以外の5人に当てはまるほか特定に至る証拠もない。




____だとしても。



716 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:26:24.84 ID:6yJfGnKD0

ルカ「言っただろ、お前の目論み通りにはならねえって」

モノクマ「なぬ?」

ルカ「例えこの中にまだ殺しを企んでる奴がいようとも、他の6人でそれを封殺する。私たちはもう誰も死なさない、事件なんて起こさせない」

美琴「……ルカ」


不振の波紋が広がる前に防波堤をつくった。
お互いを疑い合う状況に落とし込まれるなんて、冬優子からすればこれ以上なく癪だろう。
あいつが私たちを生きながらえさせたことの意味を考えれば、今ここでどう受け答えすればいいのかなんてことは考えるよりも先に言葉が出た。


モノクマ「むむむむ……むむむむむ……」

ルカ「用は済んだか? それじゃ、今度こそ行くぞ」

モノクマ「むむむむむむむむむ……」

美琴「それじゃあ、失礼するね」

あさひ「バイバイ!」

透「アデュオス」

モノクマ「く、くそぉ〜……」


背後にモノクマの弱々しい声が聞こえてくるのが、気分良かった。
717 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:27:25.52 ID:6yJfGnKD0

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裁判場を出て、私たちはそれぞれの個室へ戻っていった。
何人かはこれまで禁止されていた分を取り戻さんとばかりにスーパーマーケットでお菓子なんかを大量に持ち帰っていた。
きっと気分を切り替える意味合いもあったんだろう。
私はというと、なんとなくあさひの元を離れがたくて、個室まで付き添って送り届けていた。

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718 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:29:19.97 ID:6yJfGnKD0
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【あさひのコテージ】

あさひ「別に一人で自分の部屋ぐらい戻れるっすよ?」

ルカ「……まあ、そうだよな。オマエもガキじゃねえんだし」

あさひ「……? ルカさん?」


気がついたら、あさひのことをじっと見つめていた。
小柄な体躯に、済んだ目の色、生まれながらだろう髪色は鮮やかな色合いをしている。
冬優子が最後の最後まで守ろうとした存在、改めてそう考えると、込み上げてくるものがあった。


ルカ「さっさと寝ろよ、オマエも疲れてんだろうし」


悟られないように、あえて突っ放すような口調で話した。


あさひ「はいっす!」


返事だけはいいのよね、と時々愚痴をこぼしていたことを思い出す。


ルカ「……ちゃんと、寝るんだぞ」

あさひ「あはは、それなんだか冬優子ちゃんみたいっす」

ルカ「……るせえ」
719 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:31:00.35 ID:6yJfGnKD0
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【ルカのコテージ】

あさひを送り届けてから自分の部屋へ。
私も人のことを言えない、かなり疲労は蓄積している。
瞼が重たくなるのを感じながら、ドアノブを握る。
その時、部屋の前のポストがふと目に止まった。
手前に引いて開ける扉は、何かにつっかえて半開きになっていた。
そこに見えているのは茶封筒。
縦長のシルエットを掴み上げて、部屋へと持ち込んだ。


「……一体、誰からだ?」


ベッドの上に腰掛けて、目の前で広げた。
中には一枚の便箋と写真が一枚。
先に便箋の方を確認することにした。

720 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:31:51.41 ID:6yJfGnKD0

『この手紙をあんたが読んでいるということはふゆはきっと裁判でおしおきを受けた後だと思う。別にそのことを悔いる必要はないし、負い目に感じなくてもいいから。

……まあ、どうせ杞憂だろうけど』


流石は冬優子と言ったところか、気が行き届いているし、私たちのことをよく理解している。


『事件の内容からして、もう知ってのことだと思うけどふゆはファイナルデッドルームをクリアした。どうやらふゆが最初の攻略者だったみたいでその時にモノクマから情報をもらった』


そういえば裁判中美琴もそんなことを言っていた。
美琴は二番目以降の攻略者で、最初にクリアした人間がもらう特典はもらえなかったんだったか。


『その情報をルカに託します。ルカなら、ここに収められている情報を見極めて、有効に使ってもらえると思ったから。ちなみに拒否権はないので、諦めるように』

「……マジか」


手紙はここまでだった。
相変わらず勝手な女だ。冬優子のやつ、一方的に情報を渡してきやがって。

最後の最後まで冬優子らしいその様子に、少し可笑しく思いつつも、襟をただした。
この封筒の持つ意味を改めて確かめる。
私たちの未来さえも左右し得るほどに重要な代物だ。
まだめくっていない写真に、一体何が収められているのか。
生唾を一つ飲み込んだ。


「……いくか」

721 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:33:07.76 ID:6yJfGnKD0
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【あさひのコテージ】


「……もう、わたしだけになっちゃったんだ」

「愛依ちゃんも冬優子ちゃんも、他のみんなももういない」

「みんなを……学級裁判で殺そうとした狸は生きてるのに」

「……」

「……冬優子ちゃんは怒るかな」

「せっかく生かしてやったのに、なんでそんなことすんのよって」

「でも、わたしは知りたい」

「学級裁判で何度も暴れた狸が誰なのか、どうしてそんなことをしてるのか、知りたい」

「……例え冬優子ちゃんでも、わたしがわたしの命をどう使うのかは指図されたくない」

「この身体が、命がある限り……わたしはわたしのために使いたい」
722 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:33:56.33 ID:6yJfGnKD0





「真実を知るために、使いたい」




723 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:35:05.87 ID:6yJfGnKD0
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「んだよこれ……!?」


そこに写っていたのは私たち。
この島にやってきた連中が全員横並びになって……目を瞑っている。
目を瞑ってコールドスリープ用の機械に横たわっている姿が写っていた。

だが、それで終わらない。
この情報の持つ意味、その一番大きなところは……その上。


「なんで、なんでこいつら……」


風野灯織、田中摩美々、和泉愛依、園田智代子、市川雛菜。
前回のコロシアイの生き残りだと名前が上がっていた連中は……白衣を着て、私たちを見下ろしていた。
724 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:35:58.36 ID:6yJfGnKD0





____その機械でまるで、人体実験でもしているかのように。




725 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:36:57.44 ID:6yJfGnKD0
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

END

残り生存者数 7人

To be continued…



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726 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:37:55.63 ID:6yJfGnKD0


【CHAPTER04をクリアしました!】


【クリア報酬としてモノクマメダル60枚を獲得しました!】


【アイテム:くたびれたショッパーを手に入れました!】
〔出かける際愛用していた買い物袋。自身の所属するユニットの缶バッジを隠れたところに着けていたこの袋も、今となっては血に汚れた〕

727 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/22(日) 21:43:49.73 ID:6yJfGnKD0

というわけで4thやバンフェスを挟んで一か月以上に及んだ4章もようやく終了です。
冬優子をクロにするのは中々悩んだところではあるのですが、お別れの直前のあさひとのやり取りは書きたいものが書けた感じがあったのでだいぶ満足しています。

次はついに第五章。物語もここまで来ると、いよいよ大きく動きますね。
また更新までにはしばらくお時間をいただきます、気長にお待ちください。

それではお疲れさまでした、またよろしくお願いします。
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/22(日) 21:48:17.99 ID:QY0ikWxo0
>>1
次回もとてもたのしみにしてます
>>1が描きたいものが描けたって言うだけあって
ふゆのあさひとの最期の別れは本当に胸がえぐられたよ・・・
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/22(日) 23:37:51.79 ID:CvIGFVFz0
お疲れさまでした
冬優子……不器用で揺らぐこともあるけど誇り高く堂々たるその姿は最期まで綺麗だった……
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/24(火) 09:55:45.77 ID:mbg96msT0
なんとなく気になって数えたりしてたんだけど、
残り生存者全員のコミュを終わらせることは多分不可能なんですよね

現状のモノクマメダルが多分96枚?だから、次の探索パートで多分100枚は超える
これは283プロのシャツ換算で2枚分
んで次が5章だから自由行動は最後で、前作を見る限り多分3回×2日の6回行動?
残りのメンバーの親愛度が、恋鐘:5.5、ちょこ:6.0、あさひ:8.0、浅倉:MAX、雛菜:5.5、美琴:4.0
コミュを終わらせてスキルもらおうと思ったら親愛度MAX+交流が必要だからその辺を考えると、
仮にシャツ2枚買ったとして、親愛度は左から、9.5、10.0、12.0(MAX)、MAX、9.5、8.0になる
ここで前にシャツを使ったときの挙動的に残り人数分の希望の欠片も手に入るので15+6×2=27個になると考えられる
親愛度獲得の補助になる幸福のリズムの値段は30個なので購入は無理
つまり1回の交流で上がる親愛度は1.0から2.0の範囲で確定
こうなるとコミュを終わらせてスキル獲得に必要な最低回数の交流は左から、2回、1回、1回、2回、2回で合計8回 > 自由行動6回
これって要はどれだけ最善手選べても全員のコミュを終わらせるのって不可能では?って結論
あれだけぶっ壊れなシャツの暴力をもってしても足りないのか……
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/24(火) 10:57:58.03 ID:KnUE2cJ50
Tシャツがだめならジャンパーを使えばいいじゃない(ソラミミスト的発想)
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/24(火) 19:01:34.11 ID:6bs6nxIu0
>> 730
原作のロンパだって生存者が最初からわかっていたらともかく
初見じゃ絶対生存者全員好感度マックスとか無理だしそう言うもんだと諦めよう
それにコミュで好感度上げたり安価次第で生存者が変わるスレでもあるまいし別に・・・って感じ
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/24(火) 19:28:35.94 ID:DGeFo0JpO
何なら展開されるシナリオの関係で「この人とは交流出来ません」とかも起こり得るでよ
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/24(火) 19:52:59.45 ID:mbg96msT0
せっかくめちゃくちゃ強い効果のシャツがあるからもしかして全員いけるんじゃね?
って思ったから本当にできるか計算してみたら無理だったってだけの話なんですよね
実際732の人の言う通り本来なら無理だしそういうものだとは認識はしてるんですけど、
それはそれとしてもし現実的に可能だったら実現したらスキルがたくさん並ぶから気持ちいいなあって思っただけなので
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/26(木) 10:04:19.58 ID:ljHSiLK50
1回気になりだしたらモノクマが想定してた冬優子の本来のおしおきの結末が気になってきた
教会に逃げ込む前に靴が脱げてチャリオットで轢殺?逃げ込めるもののそのままチャリオットが突っ込んできて轢殺?
チャリオットが突っ込んだ衝撃で教会が崩落して圧殺?夏葉の死因と合わせて逃げ込んだ瞬間に爆発して爆死?
偽装工作に合わせて逃げ込んだ瞬間にどこかに吹き飛ばされて転落死?それともSOSが何かの略でそれに合わせた結末?
考えても候補が多すぎるし突拍子のない結末もあり得るから考え出すと気になって仕方がないわ
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/26(木) 12:17:25.84 ID:/uLg3LVT0
>>1がまた補完で書いてくれると思う
737 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/09(木) 22:17:24.45 ID:QNk4OO930

市民たちの喧騒止まぬ中、ギロチンはゆっくりと持ち上げられていきます。
太陽の光を反射してギラつく、その下には鮮やかなオレンジ色の髪。
色気あるうなじが、木の枷に嵌められて剥き出しになっています。

彼女こそが、悪政を布く傾国の悪女!
国を筋肉によって傾けようとするパワー系悪役令嬢、有栖川さんは断頭台の上に……!


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パンがなければプロテインを飲めばいいじゃない

超高校級の令嬢 有栖川夏葉処刑執行



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738 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/09(木) 22:18:13.10 ID:QNk4OO930

市民たちの怒りはどんどんヒートアップ!
それもそのはず、こちとら炭水化物で腹を満たしたいのに、あんなザラついた液体で飢えを凌げだなんて納得できるはずもありません!
ギロチンが最高地点に到達した時、市民から聞こえてくるのも別れを惜しむものではなく、むしろ歓声すら上がります。

ええい、ままよ!処刑人のモノクマが紐を手放した、その瞬間!


____その瞬間でさえも、有栖川さんは諦めてなどいませんでした。


やはり筋肉、筋肉はすべてを解決する!

有栖川さんの火事場の馬鹿力、筋肉が全身で隆起したかと思うと、バキバキと音を立てて枷の一切が破壊されてしまったではありませんか!
ギロチンは宙を掠め、首を切り落とすことなく断頭台に突き刺さる!

739 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/09(木) 22:19:05.66 ID:QNk4OO930



☆有栖川夏葉、奇跡の生還……!?



暴徒たちもさすがにこれには大歓声! 筋肉をほめたたえ、手を叩いて大喜び!



…パンッ!



ですが、拍手に交じって乾いた音が響きました。
有栖川さんは生存を誇ったポーズのまま、何が起きたのかもわからずその場に倒れ込みます。
群衆に交じっていたスナイパー、凶弾には流石の筋肉も無力だったのです。
拿捕の網も被せられ、有栖川案の死体をずるずると退場。

悪嬢の処刑、もとい鬼退治は呆気ない幕引きとなりましたとさ。
740 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/09(木) 22:26:43.07 ID:QNk4OO930

というわけで二週間と少しぶりでしょうか、お久しぶりです。
いつもより少し早めですが5章更新の準備が出来てきましたので報告にやって参りました。


>>737
久しぶりに早速ガバ、「超高校級」ではなくて「超大学生級」ですね……

>>735
冬優子のおしおきは「冬優子が途中で台無しにする」前提で考えていたので、最後まで細かなことは特に考えてませんでしたかね……
ロンパらしい終わり方となると逃げこもうとする教会はハリボテで、チャリオットと板挟みになって圧死がそれらしいような気もします
「SOS」はソロ曲からとったタイトルですが、歌詞の恋の苦しみのサインが物理的な苦しみのサインに代わる意味合いでつけてます
何かの略にするのもありですね……また考えてみます。


さて、5章は特に問題がなければ6/11(土)の21:00あたりからの更新を考えています。
ストーリーも佳境、どうかお付き合いください。
それではまたよろしくお願いします。
741 :一時間も遅刻してしまいましたが始めます ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:02:50.96 ID:LUS5eqqE0

〇保護観察対象者:風野灯織

保護観察を開始してから二週間余りが経過。
フラッシュバックなど精神衛生に支障をきたす症状は期間中確認されず。
観察者との対話も特に問題なし。
事態認識も正常。事件で命を落とした友人らも正確に把握しており、記憶の自主改竄など自己防衛に走る様子もない。
日常生活の復帰に十分な回復を認めるものとし、保護観察を本日打ち切ると決定。

742 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:04:09.61 ID:LUS5eqqE0

〇283プロダクション連続殺人事件の捜査状況について

主犯格とみられる天井努の経営していた芸能プロダクション『283プロダクション』から社用PCならびに私用PCを押収。
情報捜査担当者に回し、解析結果が本日到着したため、報告に挙がっていた情報をここに記す。

・本連続殺人事件を『コロシアイ合宿生活』と題して外部に公開していた確定的な証拠は発見されなかった。
海外サーバーを経由していたものと思われ、その履歴も消去されてしまっているため復元はほぼ不可能。
保護観察対象者から得られた証言の裏付けとなる根拠には欠ける。
『チーム:ダンガンロンパ』と呼ばれる組織の特定を急ぐ。

・芸能事業とは別の帳簿データを確認。
巨額が闇口座に注ぎ込まれている不正な流れがあり、当事務所の従業員・七草はづきに確認をしたところ、完全に知覚していないものだとの証言が取れる。
天井努が事務所の経営資金と別に蓄えていた金についても、その入手手段、流用先を調査するものとする。

・外部との通信履歴に不審な送信先を確認。
連絡は数度に渡り、一定の頻度で行われている様子。
主要通信業大手に照会するも該当はなし。
位置情報を解析し、送信先の人物と事件との関連性について追求していくことが目下の捜査方針となる。

743 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:05:12.23 ID:LUS5eqqE0





・本件が発生してより行方不明となっている10名との関連も併せて調査する。




744 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:05:48.95 ID:LUS5eqqE0
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CHAPTER 05

Killer×Miss-aiōn

(非)日常編



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745 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:07:06.57 ID:LUS5eqqE0
____
______
________

=========
≪island life:day 22≫
=========

【ルカのコテージ】

「……朝か」

冬優子の裁判の翌朝。
私の肩は妙に重たくて、少しだけベッドから身を起こすのに時間がかかった。
肩にのしかかっているのは、いくつもの責任、タスクともいうべきか。
ガキのお守りに美琴との和解、そして私たちの前に横たわる展望の見えない大きく、深い謎。
一方的に押しつけて自分は早々に退場だなんて、最後の最後まで自分勝手な女だったと思う。
私がそういうのを拒絶できない人間だとわかってやっているのが余計に癪だ。

「……」

まあ、それは私も同じなのだが。
私が美琴に無理やり背負わせたものもそれなりにあるし、その背負わせ合いが人と人との繋がりというものなんだろう。
つくづく煩わしいな、と思う。

「行くか」

とりあえずはすぐ手につくところから、ガキのお守りという一番身近なタスクからやっていくことにした。

746 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:08:22.86 ID:LUS5eqqE0
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【あさひのコテージ】

あさひ「あれ、ルカさん。どうしたっすか?」

ルカ「メシだメシ。ついてこい」


未だ冬優子の代わりを私が務めることに慣れていないのか、あさひは私の顔を見て目をパチクリさせた。
ガラス玉のように綺麗な瞳に見つめられると、なんだかたじろいでしまう。


ルカ「冬優子の代わりだよ、私が面倒みなきゃだろ」

あさひ「ふーん……でも、冬優子ちゃんそんなお迎えなんかしてなかったっすよ?」

ルカ「……それは、知らん」

あさひ「そういうのは愛依ちゃんがやってたっす」


聞いているだけで切なくなるようなことを、本人はこともなげに言う。


あさひ「とりあえず準備するっすね。ちょっと待ってて欲しいっす!」


その小さな背中が部屋の奥に消えていくのを見つめていた。


ルカ「……」


本当に、この島に来る前とは大違いだ。
283プロと馴れ合うどころか、こんな風に故人との約束を律儀に守ろうとしているだなんて。
自分の変貌ぶりにウッとなるのを堪えていた。


あさひ「お待たせっす! さ、行くっすよ! 今日は恋鐘ちゃん、どんなご飯を作ってくれてるっすかね!」

ルカ「……うるせえ、朝からキャンキャン騒ぐな。頭が痛くなる」

747 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:11:06.90 ID:LUS5eqqE0
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【ホテル レストラン】

透「おはよう、二人仲良しだね」

あさひ「透ちゃんおはようっす!」

ルカ「……よう」


冬優子の死に際に見せたあの姿には一定の効用があったらしい。
これまでの裁判の翌日は、どこか取り繕ったような重たい空気が朝食会にも漂っているものだったが、今回はそんなことはない。
全員が全員吹っ切れたような様子で、変わらぬ日常を過ごしている。

……ただ、そこに美琴の姿がないだけだ。


ルカ「……」

あさひ「……? どうしたっすか?」


あさひの顔を見つめてつい考え込む。
……私はどこに座るべきなのだろう。
別に真隣に座る必要もないんだろうが、かと言って美琴の隣(だった)席に座るのもなんとなくバツが悪い。


智代子「ねえ、もう人数もだいぶ減っちゃったし、今日からはこっち側の机でみんなで食べない?」

恋鐘「8人掛け……うちも賛成たい、どうしても空席があると寂しくなっちゃうけん」

(……助かったな)
748 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:14:08.10 ID:LUS5eqqE0

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


あさひ「恋鐘ちゃん、今日の朝ごはんも美味しいっすね! これ、なんて料理っすか?」

恋鐘「ふふーん、今日のはタプシログばい! この前一緒に図書館に行ったとやろ? その時に読んだ本に書いてあったフィリピンの朝ごはんを作ってみたとよ!」

智代子「このお肉、醤油の風味ですごく美味しいよ!」

あさひ「ほうっふね!」

(……口周りすげえソースで汚れてるんだけど、これを拭き取るのは流石に過保護か……?)

(ああクソ……冬優子はどうしてたっけ……!?)

恋鐘「ふふ! あさひ、口周り汚れとるよ!」

あさひ「……? あ、恋鐘ちゃんありがとうっす!」

(どれぐらい世話を焼いていいのかわかんねえ……)

(283の連中、元々距離感が近いから余計に……)


長崎女の作った朝食を口に運びながら今後の相談。
4回目の事件をくぐり抜け、私たちの状況はまた変わった。
そしてそれは、島の状況も同じはずだ。

749 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:15:14.69 ID:LUS5eqqE0

ルカ「今回はモノミのやつ、ちゃんと働いてくれるといいんだが……」

あさひ「この前は夏葉さんのおかげで助かったっすけど、どうっすかね?」

智代子「島も残すところあと一つ、だもんね」

雛菜「でもそこに手がかりがなかったらしんどいですね〜」

恋鐘「そんなことなか! 絶対にこの島を出るためのヒントは眠っとるばい!」

透「……第5の島、か」


新エリアの解放を待ち侘びて、手をこまねくばかりの私たち。
そんな雑談ばかりの時間を数十分過ごしたところで、やつはようやっと姿を表した。


バビューン!!

モノミ「ミナサン! お待たせしました! いや、お待たせしすぎたのかもしれまちぇん……」

ルカ「お、来たな……どうだった」

モノミ「話が早いでちゅ……そうでちゅよね、あたちとミナサンの間にもう言葉なんて要らない……それが信頼ってやつでちゅ」

透「あー……うん、そうだね」

モノミ「適当に流されまちた……」
750 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:18:13.63 ID:LUS5eqqE0

あさひ「そんなことより新しい島に行けるようになったのかどうなのか聞かせて欲しいっす!」

恋鐘「そうばい! どがんね、モノミ!」

モノミ「結論からいいまちゅ……」

モノミ「あちしはモノケモノに…………」

モノミ「勝てま…………」

モノミ「…………………………………」

モノミ「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」






ガチャ

美琴「新しい島、行けるようになってるよ」

ルカ「み、美琴……!?」


モノミのクソみたいな溜めをぶった斬って登場したのは美琴。
レストランの入り口の扉にもたれ掛かるようにして、私たちに話しかける。

751 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:19:21.63 ID:LUS5eqqE0

美琴「……その様子だと、やっぱり知らなかったんだね」

ルカ「いや、それはそうだけど……お前……」

美琴「勘違いしないで、ただ伝達に来ただけ。私は今もその子と一緒に行動する気はないよ」

透「……」

美琴「それじゃあ、また」


私たちが言葉を返す暇も与えずに、美琴はすぐに姿を消した。


智代子「……まだ、一緒に行動はしてくれないんだね」

ルカ「……悪い」

恋鐘「ルカはなんも悪くなかよ!」

透「……私、だもんね」

ルカ「……」
752 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:20:52.31 ID:LUS5eqqE0

雛菜「でも、なんでわざわざレストランに顔を見せたんですかね〜? 透ちゃんがいるのなんてわかりきってるのに〜」

あさひ「だからこそ、じゃないっすか? 美琴さんは透ちゃんを殺そうとした過去もある、そんな相手が何度も目の前に現れたら普通嫌っすよね?」

ルカ「嫌がらせ、ってか……」

あさひ「んー……というよりは、透ちゃんが弱るのを待ってるとかっすかね」


精神的に衰弱するのを待っている、なんてまるで狩りみたいだ。
今か今かとその隙を狙いすまして、弱った瞬間を討つ。
サバンナに潜むライオンのように、その牙を研ぎ澄まして目を凝らしているのが今の美琴。
アイドルとしてパフォーマンスを磨き上げていた時と同じ集中が、あらゆる干渉を拒んでしまっている。


雛菜「透ちゃん、大丈夫だよ! 雛菜がず〜っと一緒にいて、守ってあげるから〜!」

透「……ごめん、雛菜」

(……)

753 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:21:30.43 ID:LUS5eqqE0

モノミ「あ、あの〜……ミナサン、あちしのことお忘れじゃないでちゅかね……?」

あさひ「あ、まだいたんだ」

モノミ「ぐすん……決死の思い出モノケモノにリベンジしたのに……完全にいいところを持っていかれちゃったでちゅ……」

智代子「そんなことないよ! 私たち、自力じゃ島の解放なんて出来ないんだから……モノミにはすごく助けられてるよ!」

雛菜「モノミちゃん、ありがとね〜〜〜〜〜!!」

モノミ「ミナサンの優しさがフェルトの五臓六腑に染み渡りまちゅ……」

ルカ「……まあ、とりあえず新しい島には行けるようになったんだ。とりあえず行ってみようぜ」

あさひ「はいっす!」


美琴のことで少し不穏な空気は流れたが、それよりも今は目の前の新しい手がかり。
美琴に対する何か対抗策もあるかもしれない、今はとにかく新しい一歩。
私たちはすぐにレストランを後にした。

754 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:22:34.31 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【第5の島】

「これが第5の島……なんていうか、ラスボスって感じだな……」


新しく踏み入れた島は、比較的私たちの日常に近しい形をしていた。
コンクリートで整えられた地面、並ぶ高層の建造物。
だが、それがかえってこの南国の諸島では不気味な雰囲気を漂わせる。
あれほど照り付けていた太陽も、工場から噴き出す排気が光を遮り、目にやさしかった緑を上塗りするような灰色が気分を僅かばかりに沈めてくる。
何とはなしに騒つく胸に、思わず手を当ててしまうような光景だ。


「……美琴は、既にここにいるんだろうか」


レストランで私たちに情報を与えてきた辺り、美琴は私たちより先に立とうとしている。
もしかすると、この島にある何かで害をなそうとしている可能性もある。
七草にちかの遺志に、殉じるために。


(そんなものが、本当にあいつの遺志だって……本気で思ってるのかよ)

755 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:25:14.30 ID:LUS5eqqE0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆

電子生徒手帳のマップに目を通す。
この島はやはり他の島とは異なった文明レベルのようだ。
自然や海といったものは全く存在していない隔絶された空間。
【軍事施設】なんてものがあるのがその象徴だろう。
暴と知を体現する施設、これまでになかった情報が眠っているかもしれないな。

【ワダツミインダストリアル】は工場のようなものらしい。マップ上ではその全貌は全く見えない、調査の必要があるだろう。
それとは別に【モノクマ工場】もある。
モノクマ管轄の工場といったところなんだろうが、流石にこの文字列は私でも不安になるな。
比較的平穏なのは【屋台村】か?
とはいえこんな島に設けられた施設、まともなもんは期待できそうにないか……


ルカ「今回は一緒に来てもらうぞ、あさひ」

あさひ「ルカさんと一緒に調べるっすか? 別にいいっすけど」

ルカ「お前一人にしたらどこで怪我するかもわからねーからな、私の目の届くところに居てくれ」

あさひ「……? そうっすか」

(……やっぱ、過保護なのか?)


さて、どこから調べるか。

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【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.軍事施設
2.ワダツミインダストリアル
3.モノクマ工場
4.屋台村

↓1
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/06/11(土) 22:27:13.39 ID:JBBrDmjn0
1
757 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:33:18.95 ID:LUS5eqqE0
1 選択

【コンマ判定39】

【モノクマメダル9枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数……94枚】

------------------------------------------------

【軍事施設】

この国にも一応軍隊はある。
名義を違えているので、あくまで国防のためであり、原義での暴力的な意味合いには薄いが……

でも、多分この島にあるこれは原義寄りの方だろう。
必要以上に大きな砲台を携えたヘリコプター、家ごと押し潰してしまいそうなほどに大きなキャタピラの戦車、宝石箱のように手榴弾の詰め込まれたクランク……
『制圧』という言葉が目的にふさわしいであろうだけのものがその場には並んでいた。


あさひ「すごいっす! これ、全部動かせるっすかね〜?!」

ルカ「おい、むやみに触んな……危ねえだろ」


肩にランチャーを抱え込んだあさひから慌ててひったくる。
なるほど冬優子の生前の気苦労がよく知れる。
こいつの手綱を握るのはなかなかハードなことだろう。
……いや、あいつもしっかりと握れていたのかと言われると疑問符が浮かぶのだが。

758 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:35:51.81 ID:LUS5eqqE0

透「よっす」

ルカ「浅倉透、お前らもここの調査中か?」

透「まあね、あれ……見てよ」


浅倉透が親指で後方を指差す。
促されるままに視線をやると、そこにあったのは巨大な送風機。
船のプロペラと言われても信じるような、あれほど大きな物は_______



______以前にも見たことがある。



小宮果穂の命を奪ったあの悪趣味なおしおき。
命の灯火を掻き消そうとしたあの送風機にどう見ても相違なかった。
759 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:37:04.66 ID:LUS5eqqE0

ルカ「な、なんでこれが……こんなところに……?!」

透「……ここにある兵器っていうのは人の命を奪うためにあるんだろうね」

雛菜「もしかして、この戦車とかもおしおきに使うようなの〜?」

透「かもね」


あんな砲身から放たれた弾に当たればひとたまりもないだろう。
それこそ一瞬で消し炭に、生命というものを軽んじて弄ぶ、モノクマらしい趣向だ。


あさひ「……? これ、なんっすかね?」


並んでいる残虐な兵器に目を奪われていると、あさひが奥から何か手のひら大の大きさのものを引っ張り出してきた。
先ほどの手榴弾の入っていたものとはまた別の収納からの様子。実際、その武器の色合いや形状も異なっている。


ルカ「……あ?」


手に取ってみると、ふざけた塗装。
ネズミをモチーフにしただろうマスコットが下品な笑顔を浮かべていた。
ジョークグッズか何かの類いだろう。

そう思って放ろうとした、その時。

760 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:37:54.07 ID:LUS5eqqE0



透「_____待って」


浅倉透がそれを制した。




ルカ「なんだよ」

透「それ……私のだ」

ルカ「は? これが?」

透「私の……黒幕への対抗策。ほら、前に話したでしょ、電波を断絶する、黒幕の干渉を拒むアイテム。それが、これ」


≪透「……そもそも、私が連絡取れてたのはモノクマからの干渉を拒める手段があったからなんだよね」

透「この島にいる限り、モノクマには全部知られちゃうんだよね。何をしてるか、何を話してるのかも。全部」

透「だから、そこら辺をクリアにする機能を持ったのがあったんだけど……今はもう使えない、取り上げられちゃったから」≫


761 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:38:57.02 ID:LUS5eqqE0

透「それは『エレクトボム』って言って、炸裂すると辺り一体に妨害電波を発生させてさ。電子機器の類は使えなくなるし、特定の電波以外は通さなくなっちゃう」

ルカ「マジか……んなもんあったら、モノクマの監視カメラも」

透「そういうこと。島の中に安息地が作れちゃう」

透「大体半径百メートル? しかも球でね」

ルカ「ドローンなんかが飛んでても、落ちちまうのか……」

雛菜「でも、それモノクマに奪われてたんだよね〜? なんでこんなところにあるの〜?」

あさひ「黒幕が研究し尽くした後、とかなんすかね?」

ルカ「もう対処法を見つけて用済みだってことか?」

あさひ「かもしれないっすね、わたしたちに返す理由が特にないっすから」

ルカ「じゃあこれは無用の長物ってやつか……」

透「……」

雛菜「透ちゃん〜?」

透「これ、とりあえず預かってていい?」

ルカ「ん? まあ、元々お前のやつだしな……でも、むやみに使うなよ、さっきあさひが言った通り手の内は知られてるんだ」

透「ん、オッケー」

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.ワダツミインダストリアル
2.モノクマ工場
3.屋台村

↓1
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/11(土) 22:47:20.52 ID:G6swC7Fw0
1
763 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:49:11.66 ID:LUS5eqqE0
1 選択

【コンマ判定52】

【モノクマメダル2枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数……96枚】

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【ワダツミインダストリアル】

ルカ「ここは、なんだ……?」


外観は昔見た洋画に出てくる敵組織のアジトのようだった。
蜂の巣のようにくっついた立方体の装飾が前衛的で、まるで内装を窺わせない。
恐る恐る壁に取り付けられたボタンを押すと、仰々しい音と共にシャッターが持ち上がった。


あさひ「中、入ってみるっすよ! ルカさん!」

ルカ「あっ、コラ、走んな!」


あさひが我先にと潜って駆けていくので慌てて跡を追う。
金網と鉄板で作られた足場を勢いに任せて登っていく。
天井の中央に取り付けられた大きな電灯に近づくにつれて、やがて視界は開け……ついに建物の中の全貌が私の視界に飛び込んできた。

764 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:49:47.60 ID:LUS5eqqE0

天井から垂れ下がる巨大なロボットアームは忙しなくその巨体に何か機械をあてがい火花を散らす。
足元のケーブルは極太の静脈のように複雑に絡み合い、ネオン色の発光をしている。
そうやって壮大で丁重な世話を受けているのは、私たちの背丈の何倍はあろうかというような人柄の機械。


ルカ「なんだよ、これ……」

モノケモノとはまた別の機体がそこに6体も並んでいたのである。

あさひ「なんなんすかね、このロボット」

ルカ「……碌なもんじゃねーのは確かだ」


災害救助用なんかでは間違ってもない。
人間で言う手と思しき部分にはガトリング銃のようなものが備わっており、足の部分はスプリンターのように異常な形状をしている。
血に飢えた悪魔がこんな姿だと言われたら、すぐに飲み込めそうな悍ましき造形だ。


智代子「このロボット……『エグイサル』って言うんだって」

ルカ「なんだ、その……どこぞの男性グループを敵に回したようなネーミングは」

765 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 22:50:19.09 ID:LUS5eqqE0

智代子「あっちのコンピュータにあったデータなんだけど……どうやらコロシアイに私たちが従わなかった時の強要の武力手段みたい」

智代子「通常モードとは別に嬲るための手加減モードまであって……用意周到って感じだったよ……」

あさひ「モノケモノの改良版、みたいなもんっすかね」

ルカ「……改悪だよ、こんなの」


赤、緑、青、ピンク、黄色、白。
ハの字に並んだ機体が私たちを見下ろしているこの空間はなんとも居心地が悪い。


あさひ「……」

ルカ「おい、もういいだろ。いくぞ」


あさひは、私とは魔反対の反応を見せていたが。
一体、このロボットの何がそんなに心を射止めたのか。
本当に、よくわからないガキだな。

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【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.モノクマ工場
2.屋台村

↓1
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/11(土) 22:58:37.94 ID:G6swC7Fw0
1
767 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:00:02.52 ID:LUS5eqqE0
1 選択

【コンマ判定 94】

【モノクマメダル4枚獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数……100枚】

------------------------------------------------

【モノクマ工場】

もしこの世界に醜悪な建造物を決めるコンテストがあるなら、この建物はかなり上位に食い込むだろう。
モノクマそのものを象ったドーム状の天井が、汚く濁った黒い煙を吐き出して空を穢す。
見ているだけで胸やけがしそうな光景だ。


あさひ「これ、何作ってるっすかね?」

ルカ「……まあ、碌なもんじゃねえだろうな」


工場には倉庫も隣接して建てられているらしい。
一応後で確認しておいた方がいいか?
768 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:01:07.92 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【工場内部】

ルカ「な、なんだよ……これ……!?」


工場に大蛇のように縦横無尽に張り巡らされたベルトコンベア。
その上に載せられているのは寸胴な形をした素体。
それがコンベアを進むにつれて毛を纏い、彩色され、そして頭部や手足を身につけて行く。
最後には腹部に不細工な臍を取り付けて完成。


そこで作られていたのは_____




あさひ「モノクマの工場っす!」

ルカ「おいおい……なんだよこれ……」



確かにあいつはスペアの存在を仄めかしてはいたが、そんなレベルの話じゃない。
私たちの頭数の何十倍かという数のモノクマが息を吸って吐いての間に量産されているのだ。

769 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:02:48.92 ID:LUS5eqqE0

あさひ「あれ、全部一つ一つに爆弾が埋め込まれてるっすよ?」

ルカ「……」

あさひ「それに、武器もちゃんと全部に取り付けられてるし……あ、カメラもスピーカーも!」


立ち眩みがした。
この島に逃げ場はない。そんなことは分かり切っていることだと思っていた。
でも、まだまだ認識が甘かった。
私たちに課せられているのは制限付きの区画ではなく、絶対的な監視と拘束に紐づけられた、檻。
視界の端々まで連なる格子が、途端に実態を伴って現れたのだ。
その壮大さと荒唐無稽さの前に、膝を折る以外の反応など示せようもない。


モノクマ「やあやあ! ボクの生まれ故郷にようこそ!」

あさひ「あ、モノクマ! ここで作られてるのって……」

モノクマ「うん、ボクそのものだよね。いまこうやってお話している『ボク』と性能に何ら遜色ないボクが今この瞬間も量産されているんだよ」

あさひ「じゃあ、モノクマはいくら破壊しても意味ないってことっすか?」

モノクマ「なんでそんな物騒な質問をするのかは置いといて、実際その通りだね。ゴキブリ以上の繁殖能力を持つボクを一体一体潰しても無駄だし、そもそも校則違反でオマエラが死んじゃうよ」

ルカ「……こんなに量産して、お前はいったい何を企んでんだよ……!」

モノクマ「企む? うーん、何って言われてもなぁ……しいて言うなら、世界デビューかな?」

ルカ「はぁ?」

モノクマ「これだけの数があれば、世界中にばらまいても足りるでしょ? モノクマの名をワールドワイドにするその足掛かりにでもしようかな!」

(こいつは何を言ってるんだ……)

あさひ「……」

あさひ「ねえ、モノクマ。あっちの部屋は何っすか?」

モノクマ「ん? ああ、あれはバックヤードで、別に何も面白いものはないよ? 掃除用具とか、そういうのの簡易的な物置さ」

あさひ「へぇ……」


モノクマの馬鹿げた数と、馬鹿げた展望とに頭痛を起こしながら私は工場を後にした。

-
770 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:03:29.40 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【工場倉庫】


ルカ「……あいつの言ってた世界進出とやら、案外本気なのか」


倉庫を開けた瞬間にげんなりする。
そこら中に転がるのはモノクマの等身大パネルに、マスコットサイズのぬいぐるみ。
雑多な用品も並んではいるものの、埃をかぶっているあたり普段から使われてはいない様子。


あさひ「何か使えそうなものとかないっすかね?」

ルカ「……特にはない、か」


辺りを一応調べては見るが、何も実用的なものはなさそうだ。
工具などの専門的なものはそもそも使い方も分からない。
ここは、そういう空間があったで納得するしかなさそうだ。

771 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:04:43.88 ID:LUS5eqqE0

そう諦めて、出ようとしたその時だった。
1枚のすすけたファイルが視界に入る。
青色のファイルには、簡素なテープが貼り付けられ、マーカーペンで何か書かれてある。


ルカ「『ジャバウォック島再開発計画』……?」

あさひ「……? 変っすね、この島ってもともと観光地だったっすよね? そんな場所で再開発をするっすか?」

ルカ「……ちょっと読んでみるか」


パラパラとめくって確かめていく。
そういえば、この島に来てまだ日も浅い時……風野灯織が何か言っていた気がする。、


≪灯織「皆さんは中央の島の公園には行かれましたか?」

夏葉「ええ、確か巨大な銅像が置いてあったわね。動物を模したものだったはずよ」

愛依「あー! あのあさひちゃんが登ってたやつ!」

にちか「えぇ……?」

灯織「あの銅像を見た時に、以前聞いた話を思い出したんです。太平洋に浮かぶ小さな島で、風光明媚な常夏の楽園という呼び方をされるにふさわしい島の存在を……」

灯織「中央の小さな島を中心にして、“5つの島”から構成されるその島々は同じく“神聖な5体の生物”を島の象徴にしているらしいんです」

にちか「えっ……?! そ、それって……」

灯織「確か、その名前は【ジャバウォック島】」

雛菜「ふ〜ん? 雛菜はあんまり聞き覚えない感じですね〜」

夏葉「……以前父の海外赴任の際に一度耳にした名前だわ。でも灯織、それっておかしくないかしら」

果穂「おかしい……ですか?」

灯織「はい……ジャバウォック島は確か……もう人が住んでいないはずなんです」

恋鐘「ふぇ? でも実際島には誰もおらんよ?」

摩美々「そうじゃなくて、管理する人間もいないぐらいの廃島ってことでしょー?」

灯織「はい……こんなに環境が整備されているというのがなんだか気になって」≫

772 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:05:28.65 ID:LUS5eqqE0

この島はもともと廃島になっていた、それなのにこれほどの設備環境が、手入れをされた状態で残っている。
希望ヶ峰学園歌姫計画とやらで連れてこられたと聞いていた私たちは、あれほどの資金のある組織ならと納得していたのだが……

このファイルに記されている開発元の名前は『希望ヶ峰学園』ではない。


ルカ「……『未来機関』ってのはなんだ?」

あさひ「……このロゴ、何かで見たことあるっすね」

ルカ「私もだ……でも、一体……どこで見た?」


妙に角ばった書式の2文字。
それとにらめっこすること数十秒。
凝り固まった記憶の奥底に、該当するものを掘り出すことに成功する。


≪ルカ「とりあえず近づいてみるぞ」

千雪「あっ……待って!」


近づいてみたが、あるのは私の身長を優に超す大きさの扉。
しかもドアノブがあってそれをひねって開けるような単純な扉ではなく、もっと電子的で近未来的な……全く見なれない扉だ。


ルカ「……これ、なんなんだ?」


しかもその扉の表面にはデカデカと『未来』の二文字。
私たちの良く知る漢字で掘られている……ということは、この遺跡は私たちと同じ文化圏のものだということになる。それもまた妙な話だ。≫


773 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:06:32.87 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……第二の島の、遺跡か……!」

あさひ「ああ、あのツタの絡まってたところっすね!」

ルカ「あの遺跡……何やら厳重な装備がされてたよな……そういえば、あそこのパスワードも結局分からずじまいだよな」

あさひ「……ルカさん、これどういう意味っすかね?」

あさひ「ジャバウォック島の中央に位置する行政施設を改築し、未来機関の活動拠点にする……そんな建物、中央の島にあったっすか?」

ルカ「……いや、あの島にはモノクマロックと、モノケモノの入ってた銅像しかない。それ以外には、何も無いぞ」

あさひ「……それに、ほかにもおかしなところがあるっすよ。手付かずの無人島になっていたこの島で、被検体を見つけたとか……敵対組織が根城にしてたとか……ちんぷんかんぷんっす」

ルカ「被検体……何か実験でもしてたのか?」

ルカ「……」

ルカ「……!」


実験、その言葉を口にした瞬間に昨夜の写真がフラッシュバックする。
あそこに収められていたのは、前回のコロシアイとやらで生き残ったとされる連中が昏睡している私たちを眼前に白衣を着こんだ姿。
実験と言う言葉に当てはめるならあれ以上にうってつけの材料はない。


そしてそうなると、ここにあるもう一つの言葉『敵対組織』というものが当然紐づいてくる。
もしかすると、あのコロシアイを生き延びた5人はその組織とやらに所属していて未来機関との間に何か衝突を起こしていたのではないか?



となると……私たちにとって味方となるのは、そのどちらなんだ?



774 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:06:59.64 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……」


でも、その疑問を口にすることはできない。
冬優子が託した手掛かりは不安と疑念を振りまくためのものではない。
真実にたどり着くための一ピース、切りどころはしっかりと見極めないと。


まだ、あさひにも言うべきじゃない。


ルカ「それにしても、聞いてた話とあまりにも違うな……この様子だと、無人島ですらなさそうだよな」

あさひ「うーん……人が過ごしてたっぽい形跡……あんまり感じなかったっすけどね……」

ルカ「この島で言ってるジャバウォック島と、私たちのいるジャバウォック島って本当に同じものなのか……?」


ふつふつと湧き上がる疑問を前に、首をひねるしか出来ないのがはがゆい。
せめてこの島の事を知っていた風野灯織か有栖川夏葉でも残っていれば話はまた違ったんだが……

-------------------------------------------------
【残り選択肢が一つになったので自動で進行します】

【コンマ判定によりモノクマメダルの獲得枚数を決定します】

↓1
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/06/11(土) 23:14:49.42 ID:G6swC7Fw0
むん
776 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:20:06.90 ID:LUS5eqqE0

【コンマ判定 42】

【モノクマメダル2枚を手に入れました!】

【現在のモノクマメダル枚数……102枚】

------------------------------------------------

【屋台村】


恋鐘「あ、二人とも〜! ちょっと食べて行かんね〜?」


黒と灰色で作られた無機質な街並みの中に突然姿を現す、人々の活気ある声が聞こえてきそうな軒の数々。
そこかしこから香ばしい香りが鼻をくすぐり、提灯の明かりも目を引いた。


ルカ「よう……ここは?」

恋鐘「見ての通りたい。でも、お祭りとかをやっとる雰囲気じゃなかね」

あさひ「とんこつラーメン、おでん、焼き鳥……なんだか社長さんが好きそうなものばっかりっす」

ルカ「梯子酒でもしろってか……?」

恋鐘「別にここにならんどる食べ物に害はなかよ、小腹が空いたらつまんでもいいと思うばい」


試しに近くのおでんの屋台から大根を引き抜いて口に運ぶ。
……うまい。
出汁がよく染み込んでいるし、型崩れもしていない。
島の外の店にも全く引けを取らない味だ。

……でも、どうして?
なんでこんなところに食べ物を用意する必要が?


ルカ「何か手掛かりの類いはなかったのか?」

恋鐘「んー……ざっと見た感じは特にはなさそうたい」

ルカ「おいおい……いよいよなんのためなんだ、これ」

あさひ「モノクマ、無意味なことも好きっすからね」

ルカ「にしてもなぁ……」
777 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:21:10.92 ID:LUS5eqqE0

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

最後の島の探索は私たちに更なる謎と威圧感とを齎した。
圧倒的な武力を前にして私たちに抵抗の手段などないだろうし、この島の暮らしに希望的な展開は待っていない。
それを改めてまざまざと見せつけられたような気分だ。


あさひ「うーん、手がかりないっすね……」


冬優子に押しつけられたガキの世話にも手応えがないし、美琴のことは言うまでもない。
私たちの背中にのしかかるものばかりが増えていく。
パンクしてしまうのも時間の問題といったところか。


ルカ「……病んだ」


口癖のように、乾いた悲鳴をあげた。


あさひ「ルカさん?」

ルカ「ああいや……とりあえずレストランに戻るか、情報共有だろ」

あさひ「はいっす」

778 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:22:26.99 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【ホテル レストラン】

智代子「モノクマ……黒幕は、モノケモノ以上の武力を持ってたよ。量産されるモノクマに、新型の人型破壊兵器……軍事基地のものも合わせたらひとたまりもないかも」

恋鐘「それとは対照的になぜか屋台が並んでいる区画があったばい、何の目的があってあんなもん作ったとやろ」


レストランに持ち帰った情報も、どれも不穏なものばかり。
口々の報告のいずれもその言葉尻は重たい。


あさひ「そういえばルカさん、あの工場の倉庫で見たファイルの話はいいんすか?」

ルカ「……! ああ、そうだったな」

雛菜「ファイルですか〜?」

ルカ「ああ、あの悪趣味な造形した工場。そのすぐ隣にはちいさな倉庫があってな、そんなかで見つけたやつなんだよ」

ルカ「『ジャバウォック島再開発計画』、ってな」

智代子「再開発……? あれ、でもジャバウォック島はそもそも廃島だったんだよね?」

恋鐘「そいを希望ヶ峰学園が買い取って改造した島とやろ?」
779 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:22:56.68 ID:LUS5eqqE0

ルカ「だが、そこに書いてあった内容は大違いだ。どうみてもこの島には人が住んでいるコミュニティが存在していたし、更には……未来機関の敵対組織もいたらしい」

雛菜「未来機関……なんか聞いたことだけはあるかも〜」

透「第二の島の遺跡、あれだよね」

ルカ「ああ、厳重なロックでとても出入りはできやしねーけどな。浅倉透、お前は何か知ってるか?」

透「……未来機関自体はあんまり。島の外のことはあまり知らないし」

雛菜「ふ〜ん……」

あさひ「なんだかわたしたちの知ってる情報とチグハグな感じがして気持ちが悪いっす」

ルカ「だな……まあ分かっちゃいたが、答えを与えてはくれないのがこの島だ。手がかりを探しながら考えるしかねー」


未来機関の話を持ち出しては見るものの、それを知っている人間など要るはずもなく。
結局のところ私たちはただ行動範囲を広げただけで、それ以上の意味もそれ以下の価値もない。
結局はこの鬱屈とした南国生活を延長するほかないのである。

780 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:24:08.43 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……なあ」

ルカ「誰か、美琴の姿は……見なかったか?」


そんな中で私は切り出した。
聞いたところでどうにかなるわけでもないのに、それでも縋ってしまうのは我ながら情けないと思う。
第4の島ではジェットコースターと言う明確な協力の動機があったが故、あいつの姿を追うことができたが、今回はあいつの影を掴むことすらできなかった。
今朝がたレストランで見てから、それっきり。
今のあいつは、あれだけの物騒な品の数々を見て何を思っているのだろうか。


智代子「……ごめん、ルカちゃんには悪いけど美琴さんは見かけてないよ」

恋鐘「美琴も第5の島の探索はしとったはずやけん、誰か一人でも見とってもおかしくなかと思うけど……」

透「……見てないかな」

雛菜「うん、ここの人たち以外は見かけてないです〜」

あさひ「わたしたちもっすよね」

ルカ「……チッ」


闇の中に身を隠す美琴、それが異様に不気味で胸がざわついた。
かつての相方に向ける感情としてはあまりにもそれはザラついていた。



781 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:24:59.08 ID:LUS5eqqE0

ルカ「……こんなこと言いたかねーけどよ、今の美琴はマジで狂ってる。どこで誰に刃を向けるとも限らねーんだ。警戒しとけよ」

あさひ「……」


無意識なんだろう、あさひは私の裾を握っていた。
ユニットの仲間の死を2回も経験したこいつも、自覚しないうちに精神の衰弱を迎えている。
他の連中も下唇を少し強く嚙んだようにして、身を寄せ合う。
どこからやってくるかもしれない外敵に対する、生物の本能から来る防衛機制だ。


透「あ、それじゃあ」


そんな空気の重たいレストランで、浅倉透が一歩踏み出した。
懐を少しまさぐって、少し大きめな石ぐらいの大きさの巾着をいくつか取り出した。
それを机の上に並べて、私たちを見やった。


透「これ、お守り……全員分あるからさ、使ってよ」


不細工な装丁には283プロダクションのマークが縫い付けてある。
これは、こいつ本人がやったのだろうか?
私はその所属ではないのだが、一応は手に取って証明に掲げてみる。

782 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:25:54.20 ID:LUS5eqqE0

あさひ「これ、何が入ってるっすか?」

透「中は……今は見ないで、いざというときに使ってほしい」

智代子「いざというときって……」

恋鐘「自分の命ば危なくなったときってことたい……?」

透「それは……任せた。でもきっと、みんなの役に立つから」


開けるなのお達し通り、かなり厳重に巾着の口も縫い付けてある。
よほどがない限りはこのままにしておけと言うことなのだろう。
私は素直に従い、懐にしのばせることにした。


透「……前に言ってたでしょ。もう事件は起こさせないって」


≪ルカ「言っただろ、お前の目論み通りにはならねえって」

モノクマ「なぬ?」

ルカ「例えこの中にまだ殺しを企んでる奴がいようとも、他の6人でそれを封殺する。私たちはもう誰も死なさない、事件なんて起こさせない」》

783 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:26:38.02 ID:LUS5eqqE0

透「私も、そうしたい。もう誰にも死んでほしくなんかないから」

透「生き残ろ。絶対」

智代子「うんうん! 透ちゃん、ありがとう! 透ちゃんの想いのつまったお守りがあると心強いよ!」

恋鐘「うちもおんなじ気持ちばい! ここにいるみんなで揃って島を出る、これはもう確定事項やけんね!」


ここにいるみんな、にここにいない一人が含まれるのか尋ねるのはやめておいた。
もしそれに漏れているのなら、枠に戻してやるのはそもそも私の役目だから。

それができるのかどうか、正直なところ自身は毛ほどもないが……


ルカ「このお守りが、それを助けてくれる……だろ?」

透「うん、神様が見てくれるよ。プリーズ、ご加護」



……自覚がない皮肉が、少しだけ胸を刺した。



784 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:27:26.90 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

日が沈んで夜が覆い、外は草木の息吹だけが響く。
この島に私たち以外の人気はない。
人数が少なくなるにつれ、その静寂は増す一方だった。

そんな静寂の中に、身を隠して殺意を研ぎ澄ます。
あいも変わらずも眩い満月を見上げると、自然とお守りを握る手にも力がこもった。

神頼み、ではないが標にはなる。
私は一人で戦っているわけではないというだけの指標で、心もとはない。
それでも妥協して、私は扉に手をかけた。

785 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:28:45.44 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【第5の島】

この島はやっぱり異様だ。
他の島と違って草木が風に靡くような音は聞こえてこない。
コンクリートで取り囲まれた環境は、うるさすぎるほどの静寂を生む。
自分の靴音だけが響く静けさに、思わず耳を覆った。


______ガガ


音が指の隙間から飛び込んできた。
遠くの方から、怪獣が一歩を踏み出したような音。
思わず首を振り回して音の主を探してしまう。

何度首を振ってもどれだけ目を凝らそうともすぐにはわからない異音に、自然と足が動き出す。

その音は少しずつ、ゆっくりと大きくなり、近づいている。

「……美琴!」

その名前を口にしながら、駆け出した。

786 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:29:15.48 ID:LUS5eqqE0
------------------------------------------------

【ワダツミインダストリアル】

その音は、夜の裂け目から。
高く高いシャッターの隙間から見える光の奥で影が動くのが目に入る。
照明を足元から浴びているのか、その影は異様に大きく、そしておおよそ人とは思えない輪郭をしていた。
妙に角ばった形に、細長い線が付きまとう。
シルエットだけでは何か伺い知れず、息を殺しながらシャッターに近づいた。
気取られないように、そっと首を伸ばした。

____ガガ

聞こえていた異音は機械音。
ゆっくりと動かすその腕と、処理をするCPUが呟く声。

____ガガ

悠然と我が物顔で手足を動かしているそれは、先ほど称した通り怪物そのものに見えた。
腕の先には尖った爪のような備わり、どっしりとしたその脚は家屋も踏み倒してしまいそう。
その怪物に、私は見おぼえがあった。

つい昼方に初めて見たばかり……
私たちが黒幕の持つ力について、その認識と恐怖とを新たにした火付け役。



……エグイサルが、動いていた。


787 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:30:01.58 ID:LUS5eqqE0

「……こ、こいつ動くのかよ……!?」

まだ実践で投入されることはないだろうと高をくくっていた。
反抗的な口は聞きつつも、コロシアイには参加してしまっていた私たちは黒幕にとって脅威でも何でもないはず。
そう思っていた。

でも、とっくにお相手は痺れを切らしていたようだ。
今すぐにでもと言わんばかりの暴力を目の前にして、思わずその場にへたり込む。

一瞬にして全身の血の気が引いた。
と、同時に冷めていく体温の中で少しだけ脳は醒めていた。
ここまでの生活の中で麻痺していた部分が、かえって役に立つ。
恐怖よりも先に立った冷静が、眼球を動かした。

今エグイサルが動いているということは、動かしている人間がいるということ。

そして、それは私たちにとっての敵に他ならないだろう。
狸なのか、はたまた黒幕なのか……なんにせよそれを知っておくことには大きな意味がある。
息を呑んで目を見張った。

……でも、そこに人の影はなかった。
エグイサルの足元、奥、整備のための鉄橋、隅々まで目を凝らしても人の姿はない。


「もしかして……入ってやがんのか?」


となると、残される空間はただ一つ。
エグイサル、そのものの内部だ。
コックピットの中になら、その姿を潜ませることができる。
でも、どうやってその正体を探ればいいというのだろうか。
今ここにいるのだって危険なのに、そもそも近づくなんて自殺行為。
788 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:31:13.78 ID:LUS5eqqE0


「……チッ」

歯がゆさに舌打ちした。




……それがまずかった。




_____ブー! ブー!


「な、なんだ……?!」

何がきっかけになったのかはわからない。
だが、私の舌内を皮切りに辺り一帯に鳴り響きだすブザー音。
侵入者を感知したと声高に叫ぶそれに呼応して、地響きが始まった。


エグイサルが、こちらに近づき始めていた。
789 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:32:40.69 ID:LUS5eqqE0

(ま、まずい……!)

見つかったら私なんて二秒で肉塊だ。
慌てて辺りに身を隠せるところを探す。

……が、見つからない。
そんなもの、あるはずがない。
この島には自然がそもそも無いのだから。
開けた無機質な視界には、障害物と呼べそうなもの一つ見当たらなかった。

(……終わった)

万事休す、その言葉が脳裏によぎった瞬間。





バッ!!




「……!?」


私の身体は強い力で引っ張られ、その場に崩れ落ちた。
790 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:33:45.36 ID:LUS5eqqE0


そしてその直後、真っ暗闇に染まる視界。
思わず抵抗しようともがく。



「……動かないで、じっとして」



そんな私を厳しく諭すように、耳元で呟いた。



「……美琴」




その声には、聞き覚えがあった。


「大丈夫、このシートの裏に隠れていれば見つからないから」
「な、何を……」
「夏葉さんと同じ……赤外線カメラは、アルミシートの裏にあるものを判別できない」
「……!」
「……静かにしてて」


私に覆いかぶさるようにしているその重みに、身をゆだねた。

791 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:34:12.87 ID:LUS5eqqE0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

そこから何分が経っただろうか。
辺りに鳴り響いていたブザーが鎮まり、地響きも完全に収まった。
とりあえずは、凌いだということなのだろう。

私の視界にもゆっくりと星明りが差し込んでくる。


「……危ないところだったね」


ゆっくりと視界がその明るさに慣れていく。
目の前に立つ長身のシルエット、その全貌も見えてきた。
グラデーションがかった毛先、赤と黒のブルゾン、あのころと変わらないペンダント……


「美琴……オマエ、どうしてこんなところに」


やっぱり緋田美琴に変わりない。


「ちょうど用事があって立ち寄ったところだったの。でもちょうどよかった、ルカには死んでほしくないから」
(私、には……)


その瞳には、かつてのハイライトはもう灯っちゃいない。


「用事ってなんなんだよ、こんな島に何の用事があるって……」
「分かってるでしょ?」
「……!」


美琴の肩には頑丈なつくりをしていそうなバッグがかかっていた。
最近はやりのフードデリバリーのカバンを小ぶりにした代わりにポケットを増やした感じだ。
そのポケットの所々から、何か柄のようなものが見えているのが、嫌。


「私も口だけじゃいられないから。そろそろちゃんとしないと」
「ざけんな……冬優子の裁判の時の私の言葉、忘れたとは言わせねえぞ……!」
「殺しを誰かが企んでも、残りの6人で止める、だっけ?」
「そうだよ! だから、美琴もいい加減に____」
792 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:35:28.40 ID:LUS5eqqE0






「本当に止められると思ってる?」





793 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:36:08.09 ID:LUS5eqqE0

美琴はこれまでと違って、私の前から逃げようとはしなかった。
むしろその逆、覗き込むようにしながら、一歩ずつ距離を詰めてくる。
思わず私はその迫力の前にあとずさり。


「あ、当たり前だろ……! 美琴だって、体格は私たちより大きいかもしれないけど全員で押さえつけられたらどうしようもないし……!」
「……ルカ。さっきの、見たよね?」


一歩、一歩。


「さっきの……だと……?」
「エグイサル。もし、あれを使って誰かが誰かを殺そうとしたとして、止められるの?」
「は、ちょっと待て……」
「ファイナルデッドルームなんかもあったよね、あそこにも武器は沢山」
「み、美琴……!」


いよいよ背中に壁がぶつかった。
794 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:37:06.53 ID:LUS5eqqE0





「無理だと思う。私は」





795 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:38:39.73 ID:LUS5eqqE0

壁にもたれかかって、ズルズルとその場に座りこんだ。
私を見下ろす美琴の背後で満月が笑っている。


「美琴……」


名前を呟くしかできなかった。
手足から力が抜けきってしまっていたから。


「それじゃあ、おやすみ。ルカ」


アルミシートを乱雑にまとめ上げて、背を向けた。
美琴の姿はすぐに闇夜に呑まれて輪郭を見失う。


「……」


30分ほど、そこに座っていた。
796 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:47:00.09 ID:LUS5eqqE0

というわけで本日はここまで、物語の終わりの始まり、5章がついに幕をあけました。
なかなか5章は事件もその後の展開も考えるのにカロリーを使いましたが、楽しんでいただけるものになっていると思います……!
どうかお付き合いください!
余談ですが今章のチャプタータイトルは「アイオーン」のラテン語表記と言う力技です。
滅茶苦茶好きな曲なので、なんとか章題にねじ込みたかった……

次回更新は6/13(月)の21:30前後を予定しています。
それではまたよろしくお願いします、お疲れさまでした。
797 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:48:14.60 ID:LUS5eqqE0

【5章段階での主人公の情報】

‣習得スキル
・【花風Smiley】
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕

・【アンシーン・ダブルキャスト】
〔学級裁判中誤答するたびにコトダマの数が減少する〕

・【つづく、】
〔学級裁判中発言力がゼロになった時、一度だけ失敗をなかったことにしてやり直すことができる(発言力は1で復活する)〕

・【cheer+】
〔発言力ゲージを+5する〕

・【ピトス・エルピス】
〔反論ショーダウン・パニックトークアクションの時コンマの基本値が+15される〕

‣現在のモノクマメダル枚数…102枚

‣現在の希望のカケラ…15個

‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【オカルトフォトフレーム】

798 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/11(土) 23:48:41.02 ID:LUS5eqqE0

‣通信簿および親愛度

【超高校級の占い師】風野灯織…0【DEAD】
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘…5.5
【超大学生級の写真部】 三峰結華…0【DEAD】
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々…0【DEAD】
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂…1.0【DEAD】
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子…6.0
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉…12.0【DEAD】
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪…10.5【DEAD】
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ…8.0
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子…12.0【DEAD】
【超高校級のギャル】 和泉愛依…0【DEAD】
【超高校級の???】 浅倉透…12.0
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜…5.5
【超高校級の幸運】 七草にちか…0【DEAD】
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴…4.0
799 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:21:46.54 ID:/lNWkEhY0
____
______
________

=========
≪island life:day 23≫
=========

------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

ようやっと手足の実感が戻ってきた。
萎びてしまった気力から、シワシワにでもなっていないかと思ったがさすがにそれは無かった。
ただ、手足はなんだかいつも以上に細く見えて血管が鮮明に見えた。


「……気色悪い」

ピンポーン


そう呟いたところでインターホンが鳴る。
気色悪い指で髪をかき上げながらドアを開けた。


あさひ「ルカさん、おはようっす!」

ルカ「……あ?」

800 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:22:51.48 ID:/lNWkEhY0

あさひ「なんでそんな不思議そうなんっすか? 朝ご飯食べないっす?」

ルカ「いや、そりゃオマエ……つい昨日お迎えはいらねえって」

あさひ「冬優子ちゃんはしてなかったってだけっすよ? ルカさんは一緒に行きたいのかなって」

ルカ「……そんなわけねーから、その言いぐさはやめろ。気色悪い」

あさひ「……?」

ルカ「わかった、わかった。とりあえず準備するから、中で待っとけ」

あさひ「はいっす!」


無邪気な返事をするあさひ。
こいつに絡まれているところをほかの人間に見られたくないからあわてて部屋の中にしまい込んだ。
……もう見るようなやつもそんなに残っちゃいないのに。

801 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/06/13(月) 21:25:34.68 ID:/lNWkEhY0

ルカ「いいか? どこも触んなよ、準備はすぐ終わんだから!」

あさひ「はいっす!」


相変わらず信用の置けない明朗な返事にため息。
ベッドの上に座り込ませてそそくさと支度を開始した。


あさひ「……」

あさひ「……」

あさひ「……」


ずっと背後のあさひが気にかかって仕方ない。
別に見られて困るようなものもないのだけど、自分の空間に人が割り込むというのはそれだけでかなりの異物感だ。
ましてこいつともなるとその異物感も倍に増す。
どこかで爆発でも起きるんじゃないかというざわつきばかりが加速した。


ルカ「……あ」

あさひ「ルカさん、どうしたっすか?」
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