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【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.3

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204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:03:41.65 ID:CYEyM7vd0
1.【バール】
205 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:12:25.80 ID:/h8laeKX0
1 選択

【バールを渡した……】

透「おー、これ。ゾンビとか殴るやつじゃん」

ルカ「……ゾンビ?」

透「知らない? これで首引っかけてガッやるの」

ルカ「いや、そんなバイオレンスな趣味はねーんだけど……」

透「これ、いいね。気に入った。これあれば生きていける」

透「ビバ、世紀末」

(映画趣味があって助かったな……)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します!】

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思えば私は、こいつと会話をしたことがなかった。
私が言葉を交わしていたのはこいつを取り巻く情報。
島の外の人間と繋がっている、こいつは浅倉透のコピー、そういう表層に回遊しているものだけを掬って、そのことばかり気にしていた。

今目の前に立っている存在、そこに触れようとはしなかった。
触れてはいけないと、そう思っていたのかもしれない。



だってこいつは________



透「……昔見た映画なんだけどさ」

ルカ「なんだよ、急に」

206 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:14:18.57 ID:/h8laeKX0

透「なんか、魔法みたいなすごろくで。子供たちはそこに吸い込まれちゃうんだよね」

透「すごろくの中は、漫画とかアニメとか、そんな感じの世界で。でも、すっごく危ない場所で」

透「クリアしないと出られないのに、何年も、何十年もクリアするまでに時間がかかるの」

透「やっとの思いでクリアしたら、そのときの時間ごと……その世界はなくなっちゃうんだ」

ルカ「それって、プレイする前の状態に戻るってことか?」

透「うん、大きく成長した身体も、そこで育まれた愛とか、思いも全部ね」

ルカ「……やるせないな」




透「……そうかな」



207 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:16:06.96 ID:/h8laeKX0

ルカ「……え?」

透「そのゲームで、そうやって時間を過ごせたってことはさ。何度だって同じ道を歩けるってことでしょ?」

透「たとえ、その記憶が無くなろうとも、人格が無くなろうとも……その人はそれができるだけの何かを、持ってるってことでしょ?」


私たちの記憶を奪って、この島に連れてきた犯人の一人。
ほかならぬこいつ自身がそう言っていた。
そんなやつが口にしたとは思えない、古臭い映画とそのあらすじ。
そこからつかみ取った青臭いメッセージが何だか妙に私の耳に残った。
耳孔を跳ねて反響して、その奥に届く。

私たちが失って、必死に取り返そうとしている記憶の数々。
それを拒絶するでも否定するでもなく、そこに隠されている可能性を、浅倉透は肯定した。

自らを投げうち、忘れ、浅倉透に【なった】……こいつが。

208 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:17:32.00 ID:/h8laeKX0

透「……もしかしたら、忘れた記憶の中で世界救ってたりするかもじゃん」

ルカ「ハッ……だったらこの島に集まったのは英雄たちの同窓会、ってか」

透「かもね」


それは自己肯定だったのかもしれない。
自分自身の生き方を他人にとやかく言われたくないとか、そういう思春期丸出しの主張だったのかもしれない。
でも、たとえそうだったとしても、こいつが自分の立場からものを言ったのは、これが初めてだったのかもしれない。



透「私、ドラゴンだって狩れるから」



____そう感じることができたのは、その笑顔があまりにも自然だったから。


-------------------------------------------------

【浅倉透との間に確かなつながりを感じる……】

【浅倉透の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:10年後のカセットテープを獲得しました!】

・【10年後のカセットテープ】
〔時を超えて音声とともに大事なものを結ぶ方舟。彼女がそこに吹き込んだ言葉は10年の時を待っている〕


【スキル:つづく、を習得しました!】

・【つづく、】
〔学級裁判中発言力がゼロになった時、一度だけ失敗をなかったことにしてやり直すことができる(発言力は1で復活する)〕
209 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:21:28.28 ID:/h8laeKX0
【ルカのコテージ】


記憶を失った自分、失った記憶の中の自分。
その二つをどちらも肯定して生きていく、なんてとんだ棚上げだと思う。

でも、映画のあらすじに駆け付けて話したそれが、不思議と悪くないプランに聞こえて、それが我ながらこっぱずかしくて、
話を早々に切り上げて私は撤収してしまった。

「……にしても、つくづくよくわからないやつだよ。オマエは」

今のあいつは、浅倉透という影もぶれて見える。
能天気女が言っていたように、ここで過ごしたあいつとしての時間が……じきに成熟しようとしているのだろうか。

本当に、読めないものだ。


【自由行動開始】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…32個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:25:41.13 ID:CYEyM7vd0
1.あさひ
211 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:30:39.46 ID:/h8laeKX0
1 あさひ選択

【第2の島 図書館】

ルカ「……オマエ、またここにいたのか」

あさひ「あ、ルカさん! こんにちはっす!」


モノクマの動機提供があり、事態は大きく動き出す。
そうなると真っ先に注意を向けるべき対象が、こいつだ。
以前として狸の嫌疑のかかる中学生が、何かをしでかしやしないかと胸騒ぎがずっとしていたのである。


ルカ「なにをそんな熱心に読んでんだ……?」

あさひ「何か食べられる植物はないか探してたっす! お腹、やっぱり空いちゃってるっすから」


……でも、小宮果穂の処刑の時に見せたあの顔。
あの悲痛な叫びも、どれもこれも……偽物には見えなかった。

こいつの、正体って……本当は……?

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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【神の砂の嵐の角】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:33:15.74 ID:CYEyM7vd0
1.【神の砂の嵐の角】
213 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:44:28.18 ID:/h8laeKX0
1 選択

【神の砂の嵐の角を渡した……】

あさひ「な、なんっすかコレ……!?」

ルカ「何の動物かもわからねえガラクタだ。いらねえしやるよ」

あさひ「すごい……ロマンっすよ、これ!」

あさひ「なんの動物の角なんっすかね……!? ユニコーン、それともケルピー!?」

あさひ「これ、風が読めるような気もするっす……これ持って外行ってくるっすよ!」

ルカ「あ、おい……ちょっと待て!」

ルカ「ちょっ……足、はや……!?」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します】

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ひとまずの監視を行うかと近くの席に着座。
空腹を紛らす目的もあり、適当な文庫本を手に取ったのだが……視界の端でこいつはちょこまかと。

さっきまでご執心だった可食植物の本はどこへやら、机の上には人体の解剖図のようななんとも目に優しくない色合いのページが広がっていた。


ルカ「……おい、何やってんだ」

あさひ「え? ああ、これは研究っす。ほら、夏葉ちゃんの身体……変わっちゃったじゃないっすか?」

ルカ「……! お、おう……」

あさひ「だから、この人体と見比べてみようかなと思って。筋構造とか骨格とか、どう変わったのかなって気になったっす!」

ルカ「……」


私はもう齢20を過ぎる身だ。
かつてあった童心も随分と色あせてしまったし、興味関心なんてものも鳴りを潜めて久しい。

でも、そうだとしても……年頃の少女と言うのはここまで自分の好奇心に振り回されるものだろうか。
仲間の肉体が変わり果ててしまったという悲痛を差し置いて、その身体構造に目を向けて爛々と目を輝かせる。

それは果たして、健全な興味なのだろうか。


あさひ「あのロケットパンチとか、自分の意志で制御してたから脳神経と繋がってるっすかね?」

あさひ「神経回路の電気信号で動いてるんだとしたら、すごい技術……義手とかの技術の応用っすかね」

ルカ「なあ、おい」

あさひ「……? どうしたっすか?」

ルカ「オマエ、そもそもで引っ掛からねえのか? 仲間がロボットになった、なんて言われちまって」

あさひ「……」


私の問いかけを耳にした瞬間。

空気が突然に変わった。
眼からはハイライトが消えて、空調の音だけが空間に響く。


あさひ「それ、どういう意味っすか?」

あさひ「わたしが……夏葉さんの身体に、果穂ちゃんの死に何も感じてないって言いたいっすか?」

ルカ「……!」


1.オマエは自分の感情から逃避しようとしてるだけじゃねえのか
2.あの時の涙はなんだったんだよ

↓1
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:51:11.65 ID:CYEyM7vd0
2
215 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:55:19.03 ID:/h8laeKX0
2 選択

ルカ「……あの時の涙は何だったんだよ」

あさひ「……!!」

ルカ「小宮果穂と死別するときの、オマエのあの感情はどこに行ったんだ……メカ女が現れるなりそれに執心しやがって」

ルカ「ガキは時々残酷だっつーけどよ……オマエの振る舞いは、それにとどまらない」

ルカ「……小宮果穂の気持ち、本当に分かってやってんのか……?」

あさひ「……」

あさひ「……わたしだって、ずっとずっとつらいっす」

あさひ「起きる度に、体がなんだか重たいし、胸のあたりがずっとズキズキしてるっす」

あさひ「気を抜くと、愛依ちゃん、果穂ちゃん……みんなの顔が思い浮かぶし」

あさひ「夏葉さんの、あの優しくて、筋肉質な腕の感触が……蘇るっすよ」

あさひ「でも、だからって……それに縋ってちゃダメだって……冬優子ちゃんが戦えって、そう言うから……」

あさひ「……わたしは、負けられないっすよ」

あさひ「ストレイライトの芹沢あさひでい続ける限り、愛依ちゃんとも、プロデューサーさんとも約束したっすから」

あさひ「だから、凹んでいるよりも……もっと、次に続く何かがしたいっす。わたしに何ができるのか、わたしに何がわかるのか、ずっとずっと、考えたいっす」

あさひ「それに、果穂ちゃんが言ってたっす」

あさひ「わたしたちは大きくなれる、変わっていけるって」

あさひ「……なら、わたしがやるのは泣くことじゃないと思うっす」


こいつの振る舞い、わたしはその中で揺れ動いている感情が見えちゃいなかった。
こいつだって、年頃の子供でこの島に起きている出来事にかき乱されない道理なんてない。
脳を揺さぶられるような情報と感情の奔流に、こいつは必死に抗っていた。
自分自身の好奇心と言う逃げ道を用意して、それに縋ることで、やっとここまで歩いていた。

……残酷な仕打ちを受けているなと思う。


ルカ「……悪い」

あさひ「いいっすよ、別に。気にしてないっす」


こいつという人間に近づけば近づくほど、知れば知るほど……どんどん狸のイメージから遠ざかっていく。
この島で暗躍している影、その輪郭はどんどんぼやけていく一方だった。


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【芹沢あさひの親愛度が上昇しました!】

【芹沢あさひの親愛度レベル…8.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…33個】
216 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:56:37.22 ID:/h8laeKX0
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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


時間がいくら経過しようとも胃を満たすのは消化液の蒸発した気体のみ。
ただでさえ痩せ型の体型の私は、この一日何も口にしないだけで目眩のするような感覚を覚えた。


「これは……想像以上に体力を持っていかれるな」


美琴の状況は気になるが、それ以前に私自身の身が危ぶまれる。
静かになれば部屋にはすぐに腹の虫が響く、耳栓をしたところで体の内側から聞こえるこの声はどうしようもない。
一人になったこの瞬間、空腹感が荒波のように押し寄せた。

……美琴が暴走をする前なら、二人で気を紛らわせる何かもあったかもしれないのに。
水槽のヤドカリを指先でつつく私は、空腹に加えて孤独を痛感せずにいられなかった。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 16:58:05.40 ID:c3x8LfoP0
218 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:58:26.48 ID:/h8laeKX0
____
______
________

=========
≪island life:day 20≫
=========

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【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


目が覚めて、まず体に違和感を覚えた。とりもちに引っ付いたように、体が布団から持ち上がらない。
いっせーので目を覚ます、上体を起こすだけの動作が日ごろどれほどのエネルギーを消費して行っているのかをはじめて知った。
腹に意識して力を込めることでようやく持ち上がった体、気怠さがその先を継げない。


「レストランには……行ってもしょうがねえか」


どうせ行ったところで食事の支度はない。なら、無駄に歩くよりも他に時間の過ごしようがあるだろう。
そう思ったのも束の間。


『あ、ここでアナウンス! 朝ご飯が食べられなくなってオマエラも退屈してるだろうから、オマエラのために新しいレクリエーションを考案いたしました! 目を覚ました奴から順次中央の島のジャバウォック公園に集合ね、来なかった奴は分かってるよね〜?』


最悪だ。
いや、モノクマの事だ。ただ食事を抜くだけで終わらないのはある程度想像もついたといえばついたか?
空腹に苛まれて思考の幅が狭まってしまっていたのだろう。
これだけほどのアナウンスに過大なショックを受けながら、私は千鳥足で中央の島に向かった。
219 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 16:59:35.28 ID:/h8laeKX0
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【中央の島 ジャバウォック公園】


元から朝は得意な方じゃない。
こちらの都合などお構いなしに照り付ける太陽には毎朝舌打ちをしながら中指を立てていたというのに、
食事もナシにこう島の移動で歩かされると余計に苛立ちが募る。
イライラと鬱憤が溜まっていく状況だというのに、中央の島へと渡ると、更にそれに拍車をかけるようなレクリエーションが私たちを待ち受けていた。


モノクマ「はい、そのままゆっくりと状態を右から左へ回してくださいね!」

あさひ「はいっす!」

モノクマ「そのまま5秒間キープ! 気をため込んで……あ、片足はちゃんと上げたままね!」

智代子「ひ、ひぃ〜〜〜〜! バランスが、保てないよぉ〜〜〜〜!」

夏葉「智代子、しっかりと丹田に力を籠めるのよ!」

ルカ「機械で制御された体のやつが何を言ってんだ……」

モノクマ「はい、今度はお腹に力を入れて左腕を突き出して〜?」

雛菜「このポーズ、可愛くないし雛菜やりたくない〜……」

透「なんか昔映画で見た気がするかも。なんだっけ、あの……ジョッキー?」

恋鐘「それやと馬に乗ってしもうとるたい……」


220 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:01:09.08 ID:/h8laeKX0

モノクマが私たちに強要したのはまさかの太極拳。
緩慢な動作、されど肉体への負荷はかなり大きい。
原理は良く知らないが、はじめて十分と経たないうちに私たちは汗だくになっており、体力もゴリゴリと削られた。
動作が静かな分、嫌でも自分の空腹と向き合うことになるあたりが性格も悪い。


モノクマ「ふぅ! 朝からいい汗かきましたね! この調子で続けていけばみんなもきっと海王を名乗れるほどの実力が身に着きますよ!」

冬優子「何よ……黒曜石を球体にでも削らせる気?」

あさひ「何言ってるんすか、冬優子ちゃん」

モノクマ「モノクマ太極拳は毎朝10時からこの公園で全員参加! やむを得ない理由がある場合を除き、参加しなかった不届き者にはペナルティが課されるので覚悟しておくように!」

雛菜「えぇ〜〜〜! 面倒くさい〜〜〜〜!」

ルカ「……チッ、無駄に毎日運動させやがって」

恋鐘「運動自体は悪くなかやけど……ちゃんとした食事があってこそのもんばい……!」

あさひ「やる前より更にお腹が空いた気がするっす〜……」


モノクマの目論見通りと言ったところだろう。
口々に不満を漏らす私たち、いかにも噴出する寸前といった様相だ。
これが毎朝続くとなると私も気が気でいられない。

221 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:03:53.56 ID:/h8laeKX0

だが、こんな無意味な太極拳にも一つだけ大きな利点があった。
それは、美琴も必ずこの太極拳には参加しなくてはならないという点だ。
この島で暮らす以上はその規則の中でしか生きられない。
全員参加のイベントには必ず美琴も顔を出す。公園の端で一人ぽつんとではあったものの、確かに参加しているのを私も目撃していた。
モノクマが姿を消すと、すぐに美琴の元へ向かった。


美琴「……ふぅ」

ルカ「み、美琴……」

美琴「……!」


だが、声をかけるとすぐに美琴は背を向けて、その場を立ち去ろうとする。
美琴の体力も削られているようだ、その足取りはいつかに比べるとずいぶんと拙い。
今なら、聞いてもらえるかもしれない。


ルカ「待てよ、お前も体力だいぶ削られてんだろ? 無理すんなって」

美琴「……」

ルカ「なあ、頼む……もう一度、話をさせてくれ。浅倉透のことは置いといてもいい、私の気持ちだけでも聞いてはもらえねーか……?」

美琴「……」


それでも美琴は振り返らなかった。私たちと言葉も交わさずに去っていく。
その背中を追う力は、今の私には残されていなかった。
無力感と疲労感がこみあげて、地面にぺたりとへたり込む。


冬優子「ルカ……あんた、大丈夫?」

ルカ「……おう、悪い」

冬優子「……モノクマのやつ、あんたたちの決別のタイミングを狙ったのかしらね」

ルカ「かもな……クソッ、つくづく嫌な野郎だぜ」

冬優子「ええ、ドブネズミ以下ってところかしら。腐り切ってるわ」


タイムリミットは、そう長くない。

222 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:05:16.97 ID:/h8laeKX0
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【ルカのコテージ】

部屋に戻って、ベッドの上。
空腹を無理やり眠って誤魔化そうとも考えたが、太極拳のせいで変に目が冴えてしまっている。
運動というのは健康な時には何よりの味方だが、肉体に異常が起きているときは毒になりうる。
運動が体を蝕んでいく感覚に、虫が全身を這い上がるような言い知れぬ不快感を覚えた私は、時間を埋める術を求めた。


「……一人でいたら、気が狂いそうだ」


【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…33個】

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↓1
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:10:29.69 ID:CYEyM7vd0
1.夏葉
224 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:14:04.79 ID:/h8laeKX0
1 夏葉選択

【第1の島 牧場】

牧草地帯の緑の中に一人立ち尽くす……金属光沢。
明らかに異様な存在なので、数十メートルはあろうかという距離でもすぐに見分けがついた。


ルカ「……よう」

夏葉「ルカ……あなた大丈夫? だいぶげっそりとした様子だけど」

ルカ「しょうがねえだろ……腹も減ってるし、さっきのよくわからねえ太極拳でじり貧だっての……」

夏葉「そうよね……人間は体力的に厳しい段階よね……」

ルカ「……アンドロイド目線が沁みついてきたな」

夏葉「……! やだ、私ったら……」

ルカ「照れるのはそこなのかよ……」


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‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】×2
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
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↓1
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:16:18.40 ID:CYEyM7vd0
1.【ジャパニーズティーカップ】
226 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:28:41.97 ID:/h8laeKX0
1 選択

【ジャパニーズティーカップを渡した……】

夏葉「あら、随分風情ある贈り物ね。凛世が好みそうな装丁が施されてあるわ」

ルカ「ただの湯飲みってわけじゃないらしい。これを使うとただの水でも甘く感じるんだと」

夏葉「それはすごいわね……! ぜひ試してみたいわ!」

夏葉「惜しむらくは、今の私の味覚はあくまで再現品だということ。生身のうちに試してみたかったわ」

夏葉「でも、とても嬉しいわルカ。ありがとう」


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

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ルカ「……ああ、くそ」


元から健康体でない身体に食事抜きと言うのは思っていた以上に大きな影響を与えているようで、思わずよろけてしまった。
らしくもねえ、弱弱しい素振り。
そのままメカ女の手を取ってしまったのが余計に癪。


夏葉「ルカ……あなた、本当に大丈夫なの? 無理はせずちゃんと休んでちょうだい」

ルカ「別に無理なんかしてねー、それに何かしてねえと逆に空腹を意識しちまって頭が狂うんだよ」

夏葉「……そうよね、気持ちは分かるわ。でも……」

ルカ「南国の陽気が余計にきついんだろうな、日差しが体力を持っていきやがる」

夏葉「もう……すぐそこの小陰で少し休みましょう。備蓄していた水ならあるから……」


メカ女に促されるまま、木の下で座り込む。
私をエスコートするその間も、ずっとエンジンの駆動音が聞こえていたのがなんとも妙な感覚だ。


夏葉「……ごめんなさいね、私も体が変わってしまってから体調管理に少しだけ鈍感になってしまっているのかもしれないわ」

ルカ「自己意識の変化ってとこか」

夏葉「お恥ずかしい限りよ」

ルカ「いや、そういうもんだろ……もうオマエは管理の要らない完全体なんだから」


休息も栄養も、電気ですべて事足りる。
生物の高燃費で小回りの利かない生活よりは、よっぽどスマートだと言えるだろう。
でも、それを改めて口にすると……こいつは切なそうな顔をする。


夏葉「……完全、ね」

夏葉「私は、もともとカンペキな人間……トップを目指してここまで歩んできたわ。何をするにしても、やるからには頂点が信条だったの」

夏葉「でも……私はその景色を見る前に、道を違えてしまった。私の意志ではないにせよ、もう戻れないところまで来てしまった」


それは、おそらく体のことを指しているのだろう。
あれほどまでに自信に満ちた佇まいはすっかり錆びついて、しおらしくなっていた。
伏し目がちに、排気をしているその様子は、年季の入った旧車にすら重なって見える。


(……自信、か)

夏葉「誰かを守るため、この体になったことに後悔はないわ。でも……」

夏葉「生活が変わることに少しだけ寂しさを感じるのは、ダメなことなのかしら」

夏葉「こんな体では、もう元々の生活には戻れないでしょうから」


1.前例がないだけだろ?
2.オマエの周りの連中が、受け入れてくれないと思うか?

↓1
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:31:25.09 ID:3NZpndnO0
228 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:39:17.62 ID:/h8laeKX0
2 選択


ルカ「……らしくないんじゃねーの」

夏葉「……えっ」

ルカ「オマエは相当に周りに恵まれてる、そうじゃなかったのか? まあ、私からすりゃただの仲良し集団のお節介でしかねえんだけど……」

ルカ「あれだけ殺害予告しといた私を能天気に迎え入れた連中、それがオマエの周りにもいるんだろ?」

ルカ「だったら、何を心配することがあるんだよ。オマエの姿が変わったからって、他の連中の反応が変わるかよ」

ルカ「……実際、今ここにいる連中はオマエを化け物扱いはしてねーぞ」

夏葉「ふふっ……まさか、あなたにそれを教わることになるとはね」

ルカ「教えてねー、思い出させただけだ」


こんな青臭いことを師事したと恩義を持たれるのは御免だ。
私は友情だの絆だのとは無縁。
あくまで今の関係も、利用しあって生き延びるため、それだけの一時的な繋がり……

それなのに、メカ女はそのカメラレンズ越しの瞳を、無邪気に転がして私に微笑みかけた。


夏葉「……そうね、有栖川夏葉という存在をこの世界に、この歴史に刻み付けるうえではいいアクセントになるのかもしれないわ」

ルカ「かもな、私みたいな腫物でもやっていけてんのがこの業界だから」

夏葉「ふふっ、そんなことないわ。あなたのものも、れっきとした立派な個性よ」

ルカ「……うるせー」

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【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル……11.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…34個】
229 :この安価で終わりにします ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:43:39.67 ID:/h8laeKX0
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【ルカのコテージ】

「……ハッ」

あんな安っぽい言葉ですぐに元気になるんだからお気楽な連中だ。
アンドロイドになったところでそれは変わらない、さぞ機械化するときの回路とコードも簡単だったことだろう。

それだけ簡単で単純なものなのに……きっと、作り出すのは難しい。

私は少なくとも、普通に歩んでいるだけじゃああはならなかった。

一体、どこから違うんだろうな。


【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…34個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:45:19.79 ID:CYEyM7vd0
1.夏葉
231 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/01(日) 17:48:57.86 ID:/h8laeKX0

というわけで夏葉選択で本日はここまで。
次回更新は5/4(水)を予定しています。

シーズの追加コミュ読みましたがルカのパーソナリティにちょっと違いがありましたかね
大幅な路線変更とかはする予定もないですし、影響はないと思いますが

それではお疲れさまでした、またよろしくお願いいたします。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/01(日) 17:58:31.96 ID:CYEyM7vd0
お疲れさまでしたー
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/01(日) 22:07:30.24 ID:zpsyyAER0
乙です
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/05/04(水) 18:54:23.36 ID:vyWuNfFPO
本日更新予定でしたがまとまった時間が取れそうにないので明日に返させてください……
235 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 16:56:06.60 ID:S6n2p1Il0
1 夏葉選択

【夏葉の部屋】

さっきの今、空腹と南国の陽気に当てられて。
時間を持て余しているからといってどこへ行けるでもなく、私の足は自然と休息を求めていた。
時間潰しと休息の兼ね合いという贅沢を前に、思考は一つの結論を導き出す。
「さっき一度迷惑をかけたのだから1回も2回も同じ」。


夏葉「あなたが部屋に来てくれるなんて珍しいわね」

ルカ「……嫌ならそう言え」

夏葉「とんでもない! 歓迎するわ、ルカ。あいにく飲み物はオイルしかないのだけど」

ルカ「……だと思って持ってきた。空調だけ効かせてくれれば結構だ」

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【蒔絵竹刀】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 18:01:59.18 ID:Nl54n6u10
1:竹刀
237 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:20:58.50 ID:S6n2p1Il0
1 選択

【蒔絵竹刀を渡した……】

夏葉「これは……随分と凝った装飾の為された竹刀ね」

ルカ「オマエんとこのユニット、確か和服のやつがいただろ?」

夏葉「あら、それじゃあこれは凛世に言づけておけばいいのかしら?」

ルカ「……言づけるも何も」

夏葉「……意地悪を言ってしまったわね。ありがとう、ルカ。あなたの気持ちはよく伝わったわ」

夏葉「ありがとう、大切にさせてもらうわね」

ルカ「おう」

(まあ、普通に喜んだか)

-------------------------------------------------

ワックスのかけられたフローリングはゴム製のソールとの摩擦でアザラシの鳴き声のような音を立てる。
それに時折混ざるのが、金属質な者が奏でる駆動音。
熱気で思わず汗ばむ空間の中央で舞っているのは、彼女だった。


夏葉「……どうかしら、ルカ。振りも歌唱も衰えていないでしょう?」

ルカ「……おう」


いつだったかにテレビで見た通り。
有栖川夏葉は相変わらず画面の中とまるで同じな溌剌として愛らしいパフォーマンスをしてみせた。
完全すぎるほどの再現で。

238 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:22:14.29 ID:S6n2p1Il0

夏葉「この体になってからも練習は欠かしていないの。いつ元の生活に戻ってもすぐに人前に出れるようにしておきたいじゃない?」

ルカ「……」


果たしてその練習に意味はあるのだろうか。
元通りの生活に戻るとか、そういう文脈だけではない。
機械仕掛けの存在が、練習なんてことをするのに意味があるのか?
プログラムされた通りに同じ動作を繰り返す、その再現性には寸分の狂いもない。
1回目のパフォーマンスも、10000回目のパフォーマンスも全て同じはず。
本人がどれだけ力を込めようとも、どれだけ力を抜こうとも、そこに差異はない。
こいつがやっているのは、ただ自分の体に寿命を近づける……


______自傷行為だ。

239 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:23:13.30 ID:S6n2p1Il0

夏葉「私、こんな体になったからといって諦めるつもりはないの。一度決めたからには頂点を掴み取るまで妥協しない。有栖川夏葉の名前をこの世界に轟かせるわ」

ルカ「……」


やっぱり、こいつは美琴に似ていると思う。
高みを目指すという口実のもとに、目の前にある練習という麻薬に依存しているだけの空虚な存在。



『私には、これしかないの_________』




本当は練習の『その先』なんて、てんでぼやけているのに。



ルカ「なあ、そんなに盲目的になる必要は______」

240 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:24:21.13 ID:S6n2p1Il0



夏葉「そのための、最高のステージは自分自身で作り出してみせる」

ルカ「……!」




夏葉「わかっているわ、私の置かれた境遇が元通りを許してくれないことぐらい」


夏葉「好奇の目に晒され……同情だって向けられるかもしれないわね」


夏葉「だから、自分のパフォーマンスを磨くこと以上に……私は私自身の居場所を作り出すことに努力したい」


夏葉「私を待ってくれる仲間と、私を待ってくれるファンの人たちがいるのだもの。彼女たちと一緒に私は頂点に行く」


夏葉「可笑しいわね、初めは一人で登り詰めようと思っていたのに……それでは寂しく感じてしまうの」

241 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:26:44.49 ID:S6n2p1Il0


『アイドルでいられない人と私は組めない』


ルカ「……見当違いだったよ」

夏葉「ルカ?」

ルカ「いや、なんでもない。オマエはオマエの思う通り練習を続ければいいと思う」

ルカ「それぐらいしか、この島じゃ時間を潰す方法もないしな」

夏葉「ええ! もちろんよ! 1秒も時間を無駄になんてしていられないわ!」

ルカ「……皮肉が通じねえ」


人間のように豊かな表情筋は持たない。
機械的に口角が上がって目尻が動くだけ。
ただ、その先のライトの発光がほんの少しだけ柔和なものになったような気がするのは……


きっと電池の残量のせいなんだろうな。

-------------------------------------------------

【有栖川夏葉との間に確かなつながりを感じる……】

【有栖川夏葉の親愛度レベルがMAXに到達しました!】

【アイテム:極上の赤ワインを獲得しました!】

・【極上の赤ワイン】
〔彼女の生まれ年に醸造させられた上質な赤葡萄のワイン。突き抜けるような爽やかな酸味が、20年と言う時の蓄積を感じさせる〕

【スキル:cheer+を習得しました!】

・【cheer+】
〔発言力ゲージを+5する〕
242 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:30:22.67 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

全てがすべて、人間が人間たる部分まで変えられてしまったというのに、変わらないものというのはあるらしい。
私たち生身の人間の方がよっぽど脆弱で、よっぽど変化させられている。

それほどまでに、あの機体に一本通った芯と言うものが強固なようだ。


「有栖川夏葉……か」


私と同世代で、対極にいるアイドル。

いや、対極に『いた』アイドル。

……今の立ち位置がどうなったかなんてのは、言うだけ野暮な話だろう。


【自由行動開始】

【事件発生前最後の自由行動です】


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【現在のモノクマメダル枚数…25枚】
【現在の希望のカケラ…35個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 21:32:20.90 ID:jkNcRtH/0
1.雛菜
244 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 21:40:48.80 ID:S6n2p1Il0
1 雛菜選択

【第1の島 ロケットパンチマーケット】

雛菜「はぁ〜……お腹すいた〜……」

ルカ「……よう」

雛菜「あ、こんにちは〜……何か雛菜にご用事ですか〜?」

ルカ「用事かって言われてもな……」


常にお腹を押さえて前かがみ。
視線はどこか伏し目がちにため息交じり。
いつものこいつらしからぬ様子に、思わず声をかけずにはいられない。

空腹が不調を招いているのはもはや火を見るよりも明らか、と言った様相だった。


ルカ「ま、気を紛らわすのぐらいは手伝うってこった」

雛菜「……そうですか〜?」


まあ、こいつはまた違った悩みもあるんだろうが。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】×2
【ファーマフラー】
【ジャバイアンジュエリー】
【オスシリンダー】×2
【多面ダイスセット】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【マリンスノー】
【ジャパニーズティーカップ】
【絶対音叉】×2
【七支刀】
【クマの髪飾りの少女】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 21:43:14.82 ID:jkNcRtH/0
1.【クマの髪飾りの少女】
246 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:01:38.19 ID:S6n2p1Il0
1 選択

【クマの髪飾りの少女を渡した……】

ルカ「オマエ、確かクマのキャラ好きだったよな?」

雛菜「あ〜、ユアクマちゃんですか〜?」

ルカ「そう、よく知らねーけど……この絵にも似たようなキャラが書かれてて……」

雛菜「え〜?」



雛菜「……こ、これ……何、この絵……」

ルカ「……え?」

雛菜「わかんない……雛菜、この絵に描かれている人も、キャラクターもまるでわからないけど……」

雛菜「見た瞬間から、寒気が止まらない……」

ルカ「お、おいどうしたんだよ……急に……!?」

雛菜「こんなの要らない……雛菜、この絵大嫌い〜〜〜〜〜〜〜!!!」

ドンッ!!

ルカ「な、なんだよあいつ……突き飛ばしやがって」

ルカ「……こ、この絵……なのか? な、なんだったんだ……?」

(その絵に視線を落とすと)

(ピンクのツインテールに白と黒のクマの髪飾りをした少女がほほ笑んでいた……)


(……どうやら最悪のプレゼントだったらしい)

【BAD COMMUNICATION】

【親愛度が減少します……】

-------------------------------------------------

【市川雛菜の現在の親愛度レベル…5.5】
247 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:03:02.19 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


はぁ……クラクラする。
ほんの二日、食事を抜く。それぐらいのことはこれまでにもあったかもしれない。
完全な断食ではないにせよ、多忙を極めた時はゼリー飲料を流し込んで終わらせるようなことだって何度かあった。

状況はそれとそう変わらないはずなのに、これほどまでに苦しいのは、きっとこの島のせい。
自分の身の上、過去にあったかもしれないコロシアイ、美琴との仲違い……
そういう漠然とした広大な不安感は私の精神をスリップダメージのように削り取り、肉体も内側から食い破っていた。
空腹はそこにトドメを指す最悪の一手。

自分の部屋でさえもぐんにゃりと粘土のように歪み始めた。
私も相当に来ているらしい。

なんでもいい、早く何かを口に入れたい……


「ああ、ダセェダセェダセェダセェ!! こんなの、私じゃねえっての……!!」


自分相手に自分を取り繕えなくなったらもうお終いだ。
こんな自分、見ていたくない。起きていたら余裕の無くした自分に気づいてしまって、いつか気が狂う。
ぐうぐうと喧しい腹の虫を無理やり押さえつけて、瞼を必死に下ろした。
248 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:04:13.50 ID:S6n2p1Il0
____
______
________

=========
≪island life:day 21≫
=========

-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


昨日よりも更にごりっと体力が持ってかれている。
もはや瞼を開けることも厳しいぐらい、口にまともなものがここ二日一度も入っていない。
食物を消化するために本来分泌されるであろう唾液は行き場を失い、口の中は妙な感触を作り出す。
頬と歯茎がくっつくように、妙に粘着質だ。
そんな中から迫出されるため息が清々しいものであるはずもなく。


「……そういや、ヤドカリって……あの見た目でカニの仲間なんだったか」


なんてクソみたいな考えもよぎるほど。
すっかり落魄れてしまったカミサマの姿がそこに在った。


「……落ち着け、とりあえず冷静になって……太極拳に行かねーと」


ぼんやりした思考に無理やりに行動の目的と言う核を埋め込んで、体を動かした。
顔を洗って服を着替えて、出る支度を整えるまでに幾度となく腹は鳴った。
もはや腹の音は聞きなれて環境音にも等しい。
『お腹が減った』という認識から、『何かを食さねば』という義務感に徐々に変わりゆく、そのフェーズの途中だ。


「……はぁ、行くか」
249 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:05:31.91 ID:S6n2p1Il0
-------------------------------------------------

【中央の島 ジャバウォック公園】


智代子「おはようブラックサンダーちゃん! 今日も甘そうだね!」

ルカ「……あ?」

恋鐘「智代子はさっきからこげん感じたい……もう目に入るものすべてが食べ物に見えとるとよ」

智代子「あはは、ちゃんぽんちゃん! そんなに私が食い意地を張ってるみたいな言い方はやめてよ〜!」

あさひ「冬優子ちゃん、昨日図鑑で調べたんすけどゴキブリってエビみたいな味がするらしいっすよ」

冬優子「あんたそれ行動に移したら絶縁だから」

透「どっか芋とか埋まったりして無いかな」

雛菜「最悪土でも食べればお腹は膨れそうだよね〜」


絶食状態もここまで続くと地獄絵図だ。
全員がその欲望を包み隠そうともしなくなり、荒唐無稽なことばかり口にして現実逃避。
そのやつれた頬も相まってかなり悲壮感の漂う光景、これまでの日常からは想像もしなかった世界だ。

250 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:07:32.79 ID:S6n2p1Il0

冬優子「はぁ……こんなでも太極拳はやらなきゃならないって、ほんと終わってるわ」

ルカ「……だな、腹の足しになるどころかマイナス……このままじゃマジで衰弱死しちまうんじゃねーのか」

冬優子「それだけは御免よ……死ぬ前の最後の食事ぐらい、選ばせてほしいわ」

ルカ「ハッ、言えてるな……」


だが、私たちがいくら愚痴を言おうとも……その日の太極拳は中々始まらなかった。
つい先ほど召集のアナウンスだって流れたはず、それなのにモノクマは一向に姿を現さない。


雛菜「もしかして、昨日の一回で飽きちゃったとか〜?」

智代子「だとしたらアナウンスは普通やらないよね……?」

冬優子「……ていうか、なんかヘンよね?」



あさひ「人数、足りてないっすよ」



ルカ「……!?」

251 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:09:00.88 ID:S6n2p1Il0

空腹から来た眩暈でよく見えていなかったが、辺りを見渡してみると確かにその通りだ。
私たちから距離を置こうとしていた美琴……そして、この状況下で誰よりも元気なはず、食事を必要としない存在になった……



【有栖川夏葉】の姿が見えていない。



ルカ「お、おい……モノクマ! この状況……説明しやがれ!」


カメラに向かってそう叫んでもまるで応答はない。自分の叫び声が周辺の木々に吸収されて終わり。
ここしばらくの絶食で完全に抜けきっていた体の力が俄かに蘇る。
体力を維持するためにパフォーマンスを落としていた体の器官という器官が過剰なほどに活動を始めた。
視界は開け、耳は音をよく拾い、そして肺は必要以上に酸素を取り入れる。

それは活力なんて前向きなものではない、脳裏によぎった最悪な予感を検証するための……義務としての活動力。

252 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:10:19.40 ID:S6n2p1Il0

ルカ「急いで探しに行くぞ……!! 胸騒ぎがしやがる……!!」

冬優子「分かった、でも……どうするの? どこにいるかまるで見当もつかないじゃない」

あさひ「智代子ちゃんは夏葉ちゃんと一緒じゃなかったっすか?」

智代子「昨日の夜に会ってからはそれっきりだから……そ、そんなわけないよね!? 夏葉ちゃんが……そ、そんなわけないよね?!」

透「……確かめないと、絶対」

冬優子「しょうがない、片っ端から探し回りましょう。分担して、複数人で残り四つの島を調べるわよ」


冬優子の言う通りに私たちは少数グループをいくつか作り、第1の島から第4の島に至るまで、その全てを捜索する事にした。

私が請け負ったのはもっとも新しいエリア……第4の島。
遊園地なんて、訪れる理由は早々ねーはずだが……万が一のことだってあり得る。
嫌な胸騒ぎを感じつつも、私は島を渡った。

253 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:11:36.46 ID:S6n2p1Il0
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【第4の島】

第4の島の広大な敷地、アトラクションのすべてを見ていたら正直キリがない。
ある程度見当をつけてから調べに行くべきだろう。

そう、思った。

調査にかける労力だけで見れば、この結末は幾分か助かるものだったかもしれない。
今のこの衰え切った体力と思考力では、いつ見つけられるかもわかったものではない。

そう、発見は早ければ早いほどいいものだ。それは間違いない。
でも、対面が早ければ早いほどいいというものでもない。


対面には必要な準備、【覚悟】と言うものがある。


……すっかり忘れていた。
この島がそんな覚悟なんてものに猶予を与えてくれるはずがない。
そんな慈悲があるのなら、私たちがこんな状況に陥っているはずがないのだから。



254 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:12:44.41 ID:S6n2p1Il0


「……嘘、だろ」


こいつだけは、死ぬはずがないと思っていた。
誰も殺せるはずがないと思っていた。
殺していいはずがないと思っていた。
だって、こいつはかけがえのないものを守るために、一度その身を挺して肉体を滅ぼしたのだ。
死の淵からよみがえった人間を改めてもう一度殺すなんて、そんな胸糞の悪い話が、あってたまるかよ。
きっと犯人は、人間として大事なものが欠落している存在なんだろう。



____そうでもなきゃ、


255 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:14:00.75 ID:S6n2p1Il0





【有栖川夏葉の身体をバラバラにして殺害】なんて、できるはずもない。





256 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:15:09.90 ID:S6n2p1Il0
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

非日常編



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257 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/05(木) 22:18:33.08 ID:S6n2p1Il0
というわけでやっと事件発生まで行けました……
チャプタータイトルで想像はついていたとは思いますがこうなりました

ちなみに雛菜に渡した【クマの髪飾りの少女】はいわゆる地雷アイテムです。
原作のあの少女と思しき肖像画は誰にとってもトラウマとなりうる品として作用します。

次回更新は5/6(金)の21:00前後を予定しております。
今章の非日常編は例のゲームがある都合で少し長くなります、是非ご参加ください。

それではお疲れさまでした、またよろしくお願いいたします。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 22:36:42.53 ID:jkNcRtH/0
お疲れさまでしたー
原作の方だと何人かは地雷だから危なそうだしダメそうな気もするけどせっかくならクマつながりで雛菜の反応見たいなー
って興味本位で選んだけどまさかの全員に地雷だとまでは思ってなかったですね……
ふふっ、ごめん
でも絵を見ただけで寒気に襲われる雛菜は正直かわいかった
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/05(木) 23:56:02.65 ID:Nl54n6u10
>>1乙!
やっぱりファイナルデッドルームあるんか・・・
そして参加するのはあいつだろうな・・・
ホントシャニPたちはシーズに闇を持たせたがるんだなぁ・・・
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 17:17:17.55 ID:rYV+b3N9O
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 18:26:14.36 ID:UlYkOM+i0
取り巻きがうるさいなぁ
262 :少し早いですが再開します ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:39:03.45 ID:rCMCDoJ90
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CHAPTER 04

アタシザンサツアンドロイド

非日常編



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263 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:41:29.70 ID:OQT/+f4M0

よくテレビで世界の衝撃映像なんてくだらない番組をやっている。

世界中から集めたハプニング映像だとか、規模の大きな化学実験だとか、
そういうのを集めて出演者のリアクションを集めるのが目的の省エネルギー番組。
子供の時から、やる気のないバラエティだと思っていた。

そんな番組で時々、プレス機を使った実験をする動画が流れた。
水風船やスイカなんかをプレス機にかけてスロー再生したりだとか、子供のおもちゃを押しつぶしてその形態変化っぷりを笑ったりだとか。

なんというか、悪趣味だなと思った。

既に完成された形あるものを、抵抗もできないほどの圧倒的な力で捩じ伏せて破壊する。
その絶対的な力関係を体現したような動画を嬉々としてみる人間の気が知れなかった。



____普段見ているものが拉たり歪んだり、形を変えられてしまうことの気色悪さを、改めて噛み締めていた。



私の目の前に散らばっているのは人体ではない。

だが、人型であったはずのそれは……見る影もないほどにバラバラの鉄の塊となってしまっていた。


「嘘……だろ……? なんだよ、これ……」

264 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:42:45.00 ID:OQT/+f4M0

気がつけば私は両膝をその地面につけていた。
ここ暫くの断食による肉体の疲労も相まって、肉体の虚脱感は凄まじく、意識はもはや肉体の外にあった。
有栖川夏葉のその成れの果てを今のか細く弱りきった体ではとても受け止めきれず、空っぽになった臓物を絶望と困惑が埋め尽くした。

どうして、よりによってこいつなんだ……?
本当にこの島では不条理なことしか起きない。
一度助かったから、もう無事……なんて物語のお約束ごとなんてこの島では守られやしない。
小宮果穂を庇い、肉体を完全に失ったというのに、それに飽き足らず機械の体すらも引き裂いての殺害。
ただ命を奪うだけに終始しない、犯人の手口とそこに交じる感情に苦々しい液体外から迫上がる。
つい昨晩まで言葉を交わした口と言葉を生み出す咽喉は距離を隔て、
機械の体になってから筋肉もないのに鍛えていた自慢の肉体は無残に断裂し、血管のようなケーブルがその間間に垂れ下がる。
肉体を繋ぎ、エネルギーを運んでいただろう液体は地面を黄緑色に染め上げ、私の鼻を刺激的な臭いが刺した。


「……クソッ」


茫然としかける自分を何とか揺り戻す。
今私が死体を発見したこの瞬間から、命を懸けた戦いの火ぶたは切って落とされているのだ。
嘆いているような時間などない。
力の抜けきった膝は、不格好に震えながら上体を持ち上げた。
265 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:43:43.56 ID:OQT/+f4M0
____
______
________


恋鐘「な、夏葉……!? な、なんね……!? なにが起きとる!?」

冬優子「……惨いわね」

透「これ……エグいなぁー……」


これまでに死体を発見する事、三回。
そのいずれも凄惨という言葉を用いるに足る現場ではあった。
死を迎えた人間とはそうした修飾語を用いなくては表現のしようもない有体である。

だが、バラバラの死体ともなるとまた事情が違う。
これまでの凄惨とはまた尺度の異なる凄惨。
自分自身の身体の節々が妙にソワソワするような、そんな心地の悪い感触を抱かずにはいられない。

266 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:44:29.57 ID:OQT/+f4M0

智代子「なつ、はちゃん……?」


甘党女はその、頭部だったものを持ち上げて抱き抱える。
かつて眩しすぎるほどに輝いて、私たちを導いていたその瞳のランプはもう灯ってはいない。


智代子「どうして……どうして夏葉ちゃんが殺されなくちゃいけないの……」


甘党女の瞳から涙が滴り落ちて、その無機質な金属面を伝う。
これは感動的な御伽噺でも、ファンタジーのご都合話でもない。
いくら故人を偲んで涙を流そうが、命失し者はもう戻ってはこない。


智代子「なんで、犯人は2回も夏葉ちゃんを殺したの……? もう、果穂のおしおきで一度死んじゃってるんだよ……?」


その質問には誰も回答を返せなかった。
267 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:46:19.83 ID:OQT/+f4M0

ピンポンパンポ-ン!!

『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


黙りこくる私たちの背後で鳴り響くアナウンス。
すぐにモノクマもその姿を表した。


モノクマ「死……それは何よりも平等なもの……動物だろうと植物だろうと、有機物だろうと無機物だろうと等しく平等に訪れるのです……」

モノクマ「人間の魂を持った無機物だった有栖川さんにも、それは訪れる……回路の機能停止という絶対的な死がね……」

ルカ「来やがったなモノクマ……!」

モノクマ「いやはや、驚いたね。誰よりも強力な肉体と精神を手に入れた彼女がこんなカタチで退場しちゃうなんてさ、ユウェナリスもおったまげでしょ」

美琴「彼女が破壊された場合でも、やっぱり事件としてみなされるんだね」

モノクマ「当然! オマエラにとってかけがえのないお仲間だったことは変わりないでしょ?」

智代子「夏葉ちゃんはどんな姿に変わろうとも、夏葉ちゃんだったもん……その命を奪った犯人、絶対に見つけ出さないと……!」

ルカ「おう……こんな胸糞悪い事件、犯人をみすみす見逃すわけにはいかねえ」

雛菜「それに、雛菜たちの命だってかかってますからね〜」

モノクマ「おっ、ノリノリですなぁ! でも、そんな体調で本当に犯人を見つけ出すことなんてできるのかな?」

268 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:47:27.94 ID:OQT/+f4M0

私たちを一瞥して首を傾げるモノクマ。
何を熱を冷ますようなことを言い出すのかと思うと、そのすぐ後に意図を介した。
仇を討とうと奮起する心情とは裏腹に、肉体は悲鳴を上げている。
ここ数日何も食事を口に運んでいないその体は、不自然なほどに震えていた。
事件に対する恐怖や不安とはまた別の震え、肉体に貯蔵されていた栄養素を分解しているであろう、見たことのない痙攣を前にして自分自身でギョッとした。


モノクマ「空腹は最大の敵! そんな状態じゃ捜査のために駆けずり回ったり、頭を働かせて推理したりなんて出来ないでしょ?」

あさひ「うぅ……お腹はずっと空いてるっすよ〜……」

恋鐘「そげんこつ言うたって仕方なかよ……無茶をしてでも事件に向き合わんと!」

モノクマ「肉体に鞭を打ってでも学級裁判に向き合おうというその姿勢! いかにも日本人らしい社会の歯車精神ではございますが……」


モノクマ「今回はその必要はございません!」


そう言うとモノクマは仰々しく右手を高々と掲げてみせた。
そこに握りしめられていたのは……



モノクマ「あんパンと牛乳〜〜〜〜〜!!」



269 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:49:45.79 ID:OQT/+f4M0

ルカ「お、お前……それって……」

モノクマ「約束だったからね、今回の動機は事件が起きるまで食事抜き! 事件が起きた今、オマエラには食事を口に運ぶ権利があるんだよ」

モノクマ「ほら、ここに段ボールに入れてきたのがあるから一人一セット、捜査の前にしっかり栄養補給してから臨んでよね。そうじゃないと学級裁判どころじゃないでしょ?」

ここ数日ずっと探し求めていた食料。
私たちは考える間もなくその箱に群がって飛びついた。

ずっと何も口に入れておらず、唾液ばかりを何度も味わい続けた口の中で、あんパンの優しい甘さがじんわりと広がっていく。
だが、そんな甘さを嚙みしめているような間はない。
本能と肉体とが、味の検証よりも栄養の補給を優先した。
両手に収まらないぐらいの十分な大きさがあったあんパンはみるみるうちに小さくなっていき、
瓶いっぱいにそそがれていた牛乳も、何のつっかえもなく咽喉へと注ぎ込まれて一瞬にして空。

食事と言うにはあまりにもお粗末な咀嚼をし終えて、一呼吸。
腹を満たす満足感、指の先まで染み渡る息を吹き返したような感触。
270 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:50:45.00 ID:OQT/+f4M0

そして、メカ女に対する並々ならぬ思いがこみ上げてくる。
今この体に入っていった栄養は、こいつの死があってこそのもの。
感謝なんてするわけではない、それは死の冒涜に他ならない。

かといって、謝るのも違う。私とメカ女との関係性をはき違えた言葉は送るべきじゃない。



____では、死を犠牲にして生き永らえた私たちから送るべき言葉はなんなのだろうか。



その答えがどうしても見つからず、私はただ手を合わせた。
何もしないのも気が済まず、手持ち無沙汰になった体で無理やりできる表現のかたち。
何を表現しているのかもわからないが、祈りとは元来そういうものなのだろうと悟った。
言葉にできない万感の思いと言う奴だ。
共に同じ時間を過ごしてきた人間として、私にできるのはそれくらいのものだった。


ルカ「……ごちそうさま」


他の連中も、一通り食事をし終えると不思議と手を合わせていた。
食前食後のただの習慣のやつもいたんだろうが、少なくとも甘党女のそれは私と同じ文脈にあるものだったんだと思う。
そうじゃなきゃ、わざわざメカ女の方に体まで向けはしないだろう。

271 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:52:22.67 ID:OQT/+f4M0

モノクマ「食事というのは間接的な他殺に他なりません。生きとし生けるもの、常に殺しと共にある。ぼかぁそういう営みの尊さを、この同期提供で噛み締めてもらいたかったんだよね」

モノクマ「どうだい? 有栖川さんを犠牲にしたあんパンのお味は」

ルカ「……クソまずい」

モノクマ「そうかいそうかい! 罪悪感のソースはお口に合いませんでしたか!」


モノクマには好きに言わせておくことにした。
私たちが感じているのは罪悪感なんかじゃない、せいぜいその見当違いな解釈ではしゃいでいればいい。
その余裕ぶった態度にできる油断の隙、それをいつか必ず穿ってみせると決めて、私は背を向けた。


ルカ「……美琴」

美琴「……」


美琴はなおも私と協力する気はないらしい。
言葉に何の反応も見せぬまま、死体のそばにより、一人で捜査を開始した。
寂しさよりも申し訳なさが先に立つ。
あんなに千雪が世話焼いて取り持ってくれた仲を守り続けることができなかったなんて、千雪の墓前でどんな顔をすればいいんだろう。


でも、それもこれも嘆いている暇などない。
手から零れ落ちてしまうのなら、それを掬い上げる何かを用意しなくてはならない。
この島において、それは事件の真実になるだろう。
間違った選択をしないこと、自分たちが生き延び続けること。
その道を歩み続ける限りは、対話の瞬間がきっと生まれるはず。

それを信じるほかないんだ。

気合入れろ、頼れるのは……自分だけだ。


【捜査開始】


-------------------------------------------------
272 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:54:42.40 ID:OQT/+f4M0

さてと、まずは事件の概要から確認しておくか。
電子生徒手帳を取り出して起動してみると、案の定既にモノクマによってデータが共有されていた。
指先で画面をつつき、モノクマファイルを展開する。


『被害者は有栖川夏葉。被害者は先日の学級裁判によるおしおきの巻き添えに遭い、身体機能の多くを失ってしまったため、機械の体に意識を移植する手術を受けていた。死亡推定時刻は昨日深夜3時ごろ、死体は第4の島の外周、砂地の上で発見された。人間にあるはずの臓器の類いを被害者は有してはいないが、全身に強い衝撃を受けたことにより回路系統を損傷して機能停止を起こしたことをもって死亡したと判定した。損壊は激しく、四肢と胴体部、頭部などはバラバラになっており、凹みも激しい』


なるほど、人間ではない被害者ということでどんな記述になると思ったが、
機械の体に埋め込まれている回路の損傷をもって死亡したと断定するらしい。
人間の心臓が拍動して体中に血液を巡らせ、栄養を運ぶように、アンドロイドの身体は回路が電気信号を走らせて情報を運ぶ。
まさに心臓部と呼べる部分があったんだろう。

死因と死体の有様とは矛盾しない。
死体はまさにバラバラ死体と言うべき状態で、ボコボコに凹んだ死体のパーツが辺りに散らばり、オイルもその場に撒き散らされいる。
その光景を人間に置き換えてみるとぞっとする。
……いや、そんなことを考えている自分の方が残虐か。

ともかく、今回の事件は特殊なんだ。
このモノクマファイルはいつも以上に有力な証拠になるだろうな。


コトダマゲット!【モノクマファイル4】
〔被害者は有栖川夏葉。被害者は先日の学級裁判によるおしおきの巻き添えに遭い、身体機能の多くを失ってしまったため、機械の体に意識を移植する手術を受けていた。死亡推定時刻は昨日深夜3時ごろ、死体は第4の島の外周、砂地の上で発見された。人間にあるはずの臓器の類いを被害者は有してはいないが、全身に強い衝撃を受けたことにより回路系統を損傷して機能停止を起こしたことをもって死亡したと判定した。損壊は激しく、四肢と胴体部、頭部などはバラバラになっており、凹みも激しい〕


273 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 20:56:21.98 ID:OQT/+f4M0

今回は、とにかくここを重点的に調べないことには進まないよな。
こういう言い方をするのもなんだが、人体ではなく機械の体だから、今回は自分自身で触って調べることもできそうだ。
まあ、流石につい昨日まで動いているところを見ていたから胸は痛むけどな。

死体を調べてみるとして……パーツごとに調べてみようか。

【頭部】……有栖川夏葉の人間だったころの名残を色濃く残しているパーツだな。あんなに饒舌だったのに、今となっては一切の言葉を発さない。

【胴部】……一番大きな胴体部のパーツだ。やっぱり頑丈なつくりになっているのか、そのまま切り出したような形でゴロンと転がっている。様々な機能がここに集中していたはずだ、確認しておこう。

【腕部】……この第4の島を解放したロケットパンチだ。……大丈夫だよな? 突然、暴発とかしないよな?

【脚部】……あの鋼の肉体を支えていただけあって、他のパーツとは違った構造の断面図が見え隠れしているな。詳しいことは分からねえけど。

-------------------------------------------------

さて、どのパーツから調べるか……

1.頭部
2.胴部
3.腕部
4.脚部

↓1

274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 20:57:53.83 ID:Ubtp7SOH0
275 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:01:53.62 ID:OQT/+f4M0
1 選択
-------------------------------------------------
【頭部】

溌溂とした笑顔、はきはきとした喋り口、つい後ろをついていきたくなるような温かくも力強い眼光。
そうした彼女らしさに満ち溢れた顔は機械の体になってからも変わらない彼女のアイデンティティであり続けた。
構成する物質が変わりこそすれ、不思議とそれを受け入れられたのはきっと彼女自身が変わらなかったからなんだろうと今になって思う。

そんな、有栖川夏葉のなれの果てがこれなのだ。
大きく凹んだ頭頂部からはオイルがだくだくと溢れだし、カメラレンズとなった眼球は閉じることもなく光を失ってそこに鎮座する。
その表情は、どこか苦悶の色をにじませた。


智代子「……」

ルカ「……なあ、その……調べても、いいか」


甘党女の肩に触れる。載せた手が、彼女の肩に合わせて小刻みに上下した。
私の要求を聞いた甘党女は、しばらく自分の顔と同じ高さに有栖川夏葉の亡骸を持ち上げる。

276 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:02:54.68 ID:OQT/+f4M0

智代子「夏葉ちゃんはね、本当によくみんなのことを見ていてくれたんだ。ユニットで一番お姉さんだったからって言うこともあるけど……きっと、それ以上の理由があったんだと思う」

智代子「こんなカメラレンズなんかじゃなくたって、見えすぎちゃうぐらいの瞳があったんだ。わたしたちのいいところも、悪いところも、辛いところも全部見通しちゃう不思議な瞳」

智代子「こんな、こんなくすんだレンズなんかじゃないよ……!」


もはや直視は出来ていなかった。目を伏せるようにして首を振る。
頬を伝う涙が、動きに合わせて蛇行したのが目についた。
苦しみからもがき逃げ出そうとしているような、現実逃避が露わになったような絵面で痛ましい。
自分の口から出ている言葉を検証もできていないその様子は、流石に私でもこれ以上放っておくことはできなかった。


智代子「……どうして、こんな形で夏葉ちゃんは殺されなくちゃいけなかったんだろう。せめて人の姿のままでって思っちゃう……」

ルカ「それは違うんじゃねーのか」

智代子「え……?」

ルカ「あいつは……この姿になってから、一度だってその変化を嘆いたか? むしろその逆……小宮果穂の死の寸前まで、一番近いところに居たことを誇りに思ってただろ?」


有栖川夏葉という人間は、いつだって自分の選択に後悔はしていなかった。
小宮果穂のおしおきの夜、あの病院に居合わせた者が全員言葉を詰まらせる中でも、当の本人はその体をむしろ誇らしげに見せびらかすほど。
その全てが本当の彼女の心情だったとは言わない。
277 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:04:02.37 ID:OQT/+f4M0

でも、人に見せる姿はそうでありたいという彼女の信念があったことは確かだ。
他の連中を率いる年長者としての責任だけでない、大切な何かがそこに在った。それは甘党女が今口にした通りだ。
だから、こいつだけには……それを否定するような言葉は口にしてほしくなかった。


ルカ「なら、こいつの姿かたちをお前が嘆いちまうのは……こいつの生きざまと死にざまを否定しちまうのは……悲しいことだと私は思う」

智代子「……」


先ほど目を合わせずに逸らしてしまった頭部を、今度はじっと見つめた。
そのカメラレンズがどう映ったのかはわからない。
が、有栖川夏葉が生前守り続けた何かを僅かながらに掴んだんだろう。
意を決したように頷くと、私の方に向き直った。


智代子「……そっか、そうだよね。夏葉ちゃんは夏葉ちゃんで、ずっと変わらなかったんだもんね! ……よし!」

智代子「ルカちゃん、お願いします! 夏葉ちゃんのこと、とことん調べてあげて! それで……夏葉ちゃんの死を……どうか無駄にしないであげて!」

ルカ「……おう」


手渡しされたその頭部はズッシリと重たかった。

278 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:04:57.72 ID:OQT/+f4M0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇

頭部の付近には明らかに目を引く異様な物体が落ちている。
いかにもこれで殴りましたと言わんばかりの……巨大すぎるハンマーだ。


ルカ「うお……なんだこれ、めちゃくちゃ重たいな……」

智代子「こんなので殴られたらひとたまりもないよ……夏葉ちゃんの身体がバラバラになっちゃうのも納得だね……!」

ルカ「確かに、これで殴られたらそうだろうな……」


なんとか私たちでも振り回せるぐらいの重量。
凶器として使うには申し分ないだろうが……


ルカ「でも、これで本当にメカ女を殺したのか?」

智代子「え?」

ルカ「きれいすぎるんだよ、このハンマーは」


その金属部分にはオイルが全く付着していない。
人間の血液とはわけが違う、油はしっかりと洗浄しなくては取れないものだし、拭っただけではどうにもならない。
メカ女を殴ったのでもあれば返り血ならぬ返り油が付着していないとおかしいはずだ。


ルカ「それに……疑問は他にもある。このハンマー、一体どこから出て来たってんだ」

智代子「そういえば、こんなに大きなハンマーはスーパーマーケットでも見かけたことなかったよね。見覚えがあれば、こんなの絶対に忘れないはずだよ」

ルカ「……なんなんだ、この不気味なハンマーは」


コトダマゲット!【ハンマー】
〔死体の付近に落ちていた巨大なハンマー。人を殴りつける金属部分にはオイルが全く付着しておらずあまりにも綺麗すぎる。出所不明〕
279 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:07:10.57 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「……しかし、どうやったらここまで大きく凹むんだろうな」

智代子「うん……夏葉ちゃん、ただでさえ石頭だったけど……機械の体になってからは磨きがかかってダイヤモンド頭ってぐらいだったよ」


メカ女の頭頂部は頭蓋骨のかたちに加工された金板ごとはっきりとくぼんでいた。
隙間からオイルが流れ出ており、妙な熱を帯びている。
太陽に透かして見るようにしてみると、全面が薄黒い色になっているのにも気が付く。


ルカ「ていうか……前面に煤がかかってるのか? これ」

智代子「う〜ん……なんだか焦げちゃったパン、って感じになってるよね?」

ルカ「この頭の凹みと何か関係があるのか、これって……」


金属製の身体がここまでの有様になる、かなり大きな力が働いたことは間違いないだろうが……その全貌はいまだ見えてはこない。

続いて調査はその頭部のつくり自体に移る。
といっても専門知識は誰も持ってはいない。
機械いじりなんか中学化高校の技術の授業でラジオを作ったぐらい。
隙間から見える基盤なんか見たところで得られる情報は私たちにはない。

280 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:09:48.28 ID:OQT/+f4M0

唯一頼りになるのは、甘党女からの話ぐらいのものだろう。
ユニットの仲間として、誰よりも近くで長い時間を過ごしてきたこいつなら、深い情報まで知っている可能性はある。


ルカ「なあ、お前はメカ女のこの頭を見て……何か気づいたことはないか? 見た目の偏かとかじゃなくて……そう、機能面とかでさ」

智代子「機能? と、言われましても……」

智代子「あっ、夏葉ちゃんの眼、開いたまんま壊れちゃってるね」

ルカ「……? それって変なのか?」


甘党女の言う通り、メカ女の頭部は瞼が落ちておらずカメラレンズの瞳がむき出しの状態になっている。
どうやら人体の構造と同じように、球状のカメラがここには取り付けられているようだ。


智代子「別に変ってわけじゃないんだけど……これ、この状態なら多分……取り出せると思うよ、目玉」

ルカ「……は?! えっ、ちょっ、マジか!?」

智代子「あはは、大丈夫だよ。人間の本物の眼球じゃないんだから」

(いやいや……そういう問題か!?)

281 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:11:22.36 ID:OQT/+f4M0

智代子「……それに、夏葉ちゃんは使える情報は全部使ってほしいと思うはずだから。逃げない方がいいと思うんだ」

ルカ「……そんな風に言われると止められないじゃねーか」

智代子「よしっ、それじゃあいきますよ! ……よっと!」


甘党女が一思いに引っ張ると、すっぽりとカメラレンズの眼球が抜け落ちた。
ケーブルが眼孔から伸びているのがなんとも惨たらしい。


智代子「ちょっと確かめてみるね……夏葉ちゃんに、前にカメラの機能について聞いたことがあるんだ」

ルカ「へぇ……やっぱり、高機能なカメラなのか?」

智代子「うん、光学望遠鏡並みの視力があるのはみんなのいる前でも披露したけど……暗闇でも物が見えるような暗視補正機能もついてるんだ」

ルカ「暗視スコープみたいなもんか?」

智代子「うん、赤外線カメラなんだけどね。周囲の光量を感知して、一定以下になると暗視モードに切り替わるらしいんだ。それに伴ってレンズも変わるんだけど……」

智代子「あっ、やっぱり。このレンズは暗視用……つまり夏葉ちゃんの眼球は赤外線カメラモードに切り替わった状態で殺害されてるね」

ルカ「ってことは……モノクマファイルに書いてあった死亡推定時刻とは矛盾しないな」

智代子「うん、やっぱり夏葉ちゃんは深夜に暗闇の中で襲われたんだ」


私だけじゃこの眼球の見極めは出来なかった。
甘党女の時間の蓄積があるからこその発見だな。


コトダマゲット!【夏葉の眼球】
〔夏葉は光学顕微鏡並みの視力を持っていたほか、暗視モードも備えていた。暗闇を感知すると赤外線カメラに切り替わり、レンズも変化する。智代子曰く、死体となった夏葉の眼球も暗視モードになっていた模様〕

282 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:12:25.69 ID:OQT/+f4M0
さて、残りのパーツも調べちまうか…

1.胴部
2.腕部
3.脚部

↓1
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 21:16:30.66 ID:HPrrMSk90
胴体
284 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:18:35.26 ID:OQT/+f4M0
1 選択
-------------------------------------------------
【胴体部】

生前の抜群のプロポーションを形だけ準えたような無機質な胸板。
そこには彼女の努力で練り上げた筋肉も、芸術品のようにしなやかな動きも存在しない。
他の身体と切り離されて落ちている今となっては、もはや人間の胴体であることも疑わしいぐらいだ。
オイルの海に落ちているそれは座礁した船のようにも見えた。


透「あ、これ……使って」

ルカ「ん……ゴム手袋か?」

雛菜「なんか雛菜の看病してくれてた時のやつらしいです〜」

(絶望病の時のやつか……)


とにかく、オイルを素手で触ると後が厳しい。この手袋は助かるな。
浅倉透から受け取ったゴム手袋を装着し、胴体部を持ち上げた。


雛菜「なんだかこのパーツ、焦げ臭くないですか〜?」

ルカ「ん……? 言われてみれば、たしかに……」


辺りに撒き散らされているオイルの匂いが激しいので若干気づきづらいが、確かに匂いの中に焦げ臭さが混ざっている。
それに注意してみてみると、胴体部のパーツの部分部分は茶黒い焦げ跡のようなものが着いているのも確認できる。
これはなんだ……?


285 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:19:51.62 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「……なんか、砂被ってんな」

透「多分、殺されたときに胴体部分が地面にぶつかって砂を巻き上げたんだと思う。ほら、ここって砂地だし」


これまでの事件と違って、今回の事件は室内でも舗装された地面でもない。
第4の島の外周、何か名前のある施設でもないただの道の一部分なのだ。
踏み固められたただの砂の上に横たわる死体が砂を被っているのも言われてみればそう不自然なことでもない。


ルカ「……にしても、なんだか多くないか? 倒れ込んだ時って、接地面の裏側にまで砂って巻き上がるもんか?」

透「私たちよりかなり重たかったから?」

ルカ「あんまり女性相手に言うべき表現じゃねーだろそれ……」

雛菜「雛菜も不自然に思うな〜。小糸ちゃんが小学校の時運動会のかけっこで派手に転んだことがあるんだけど……そのとき、前半分は砂まみれだったけど裏側はそうでもなかったんだよね〜」


砂を巻き上げるほどの衝突となると、相当な勢いが必要になると思う。
誰かに撲殺されて地面に倒れ込んだだけで、こんなに砂を被るようなことがあるんだろうか?
ちょっと覚えておいた方がいい情報かもな。


コトダマゲット!【死体に被さっていた砂】
〔夏葉の死体は砂を被っていた。ただ転倒しただけではこれほどの量の砂が巻き上がるとは考えづらく、何か別に勢いよく衝突したのではないかと思われる〕

286 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:21:21.48 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「ちょっとひっくり返してみるか」


かなりの重量のある胴体部。転がすようにしてひっくり返して背面部を確認する。
纏っていた衣服もなく剥き出しになったその背中には……何かが取り付けられていた。
立橋を支えるブリッジ部のように、不完全な半円のような形のそれは何かを通すような構造をしていた。


透「これ、ワイヤーのフックじゃない? ほら、バンジージャンプの命綱とかに使う奴」


くだらないバラエティ番組なんかで見覚えがある。
この真ん中にワイヤーを通すようにして、落下を防止する単純な仕組みだ。


ルカ「まさかバンジージャンプに失敗して死んだ……とかじゃねえよな?」

雛菜「う〜ん、バンジージャンプじゃないと思うけど〜……このフック、だいぶ緩くなってるね〜」


能天気女はフックの接合部をパカパカと開閉して見せた。
なるほど確かに少し強めな衝撃を受けてしまうと完全に開いてしまうようだ。
ワイヤーを通して命綱代わりにしたところで、これでは意味がない。
まさか……こいつの死は事故だなんて……そんなことが?


透「でも、ないよね。肝心のワイヤー」

ルカ「ああ、近くをざっと見た感じ……見当たらないな」

雛菜「なにかの拍子で外れちゃったのかな〜」


もともとこいつの身体に取り付けられていたであろうワイヤーは、何かの原因があって外れてしまったに違いない。
その原因が何か突き止めることができれば……事件の全貌を掴むうえで大きな手掛かりになりそうだ。


コトダマゲット!【ワイヤーフック】
〔夏葉の胴体部に取り付けられていたワイヤーフック。だいぶ緩くなっており、少し強い衝撃を受けただけで簡単に開いてしまうようだ〕
287 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:23:09.67 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

私がこいつの背面を確認したのには大きな理由がある。
それは、生前にもこいつが意気揚々と発表したとある機能だ。


ルカ「おやすみスイッチ……どこにあるんだ?」


人間ではなくなったその体に睡眠は必要なのかと求められたときに、疑似的に人間の睡眠を再現する仕組みがあると教えられた。
タイマーを設定すればその時間通りに眠り、目を覚ます……
それが本当に睡眠と言っていいのかは少し言葉に詰まったが、それと同時に言っていたのが『おやすみスイッチ』だ。

押された瞬間にメカ女は強制的にスリープモードになり、一定の時間が経つまでは完全にシャットダウンとなってしまうらしい。
もし、それが事件のさなかで押されていたのであれば……犯人がどんな手口を取ったのかを明らかにすることができる。


透「確か、背中側だったよね」

雛菜「この人にとってはすごく大事な急所だったわけでしょ〜? だったらそんなに見つけやすいところにはないよね〜」


衣服の下などを重点的に調べてみた。
すると……背面部のかなり下、人間であれば広背筋の中央に当たる部分に……あった。
ガラス窓で守られたボタンには『押すな』のお触書。


透「……押されてるよね、これ」


そのガラス窓は、強引に指で押し割られた形跡があった。

288 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:24:28.74 ID:OQT/+f4M0

ルカ「犯人はこいつのボタンを押して、意識を奪ったうえで犯行に及んだ。どうやらそれは間違いないらしいな」

雛菜「人間でいえば、睡眠薬を飲まされた状態で殺されたみたいなもんですかね〜」

ルカ「……でも、どうやってこのボタンを押したんだ?」


今確認した通り、このボタンは背面の押しづらいところにあった。
まさか犯人に言われるがままされるがままにメカ女も黙ってボタンを押されるのを受け入れるはずもない。
きっと抵抗だってするはずだ。

だが、こいつが本気で抵抗をすればこの島の誰も適いはしないはずだ。
ただでさえ体格がいいことに加えて、今は人体改造を受けて攻撃力も防御力も異常に上がっている。
それこそ殴り返されでもしたらひとたまりもない。
犯人は、いったいどうやってボタンを押したというのだろうか……?


コトダマゲット!【おやすみスイッチ】
〔夏葉の背中に取り付けられた強制スリープボタン。背面の見えづらいところに取り付けられたボタンで、夏葉の不意でも突かない限りは押すことは難しい。死体となった胴体部では、ボタンが押されていることが確認できた〕

-------------------------------------------------
さて、残りのパーツも調べちまうか…

1.腕部
2.脚部

↓1
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 21:26:43.82 ID:HPrrMSk90
うで
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 21:29:46.15 ID:Ubtp7SOH0
291 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:30:37.33 ID:OQT/+f4M0
1 選択
-------------------------------------------------
【腕部】

ゴロンと転がるパーツ群。
その中で、調査をしている人間が心なしか少ないのは……やっぱり、あれを見ているからだろうな。
モノケモノを一撃のもとに葬り去ったロケットパンチ、あれが暴発でもしようもんなら即死だろう。
こういうところで調査をしている人間となると、やはり……


あさひ「あ、ルカさん。これ見てほしいっす」

ルカ「……んだよ」


狸は私を無邪気に呼び寄せると、まるで臆す様子もなく腕をひょいと拾い上げた。


あさひ「なにか夏葉さん握ってるのに、手のひらが開かないっすよ。力を貸してほしいっす」

ルカ「あ? なにか握ってる……?」


促されるままに見てみると、確かに鉄の延べ棒みたいな指の先に何かが見える。
しっかりとした形のあるようなものではなさそうな、半固形の物質らしい。


ルカ「まさか毒とかじゃねえよな……?」

292 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:31:25.97 ID:OQT/+f4M0

訝しみながら指を一本一本開いていく。
なるほど金属の指は強く握り込まれており、死体そのものに力がこもっていなくとも開かせるには力とコツがいる。
中学生がすぐそばでソワソワしながら見つめる中、丁寧にそれを取り出した。


あさひ「……これ、なんっすか? 」


そこにあったのは、茶色の塊。
どこか湿っているそれは、指で触れるとすぐに形を崩して零れ落ちる。
液体のようにも見えるが、その触感はどこかザラザラもしている。


ルカ「【泥】……だな」


結構期待をして開けた分肩を落とした。
なんてことはない、ただ死の直前に強くその場で握り込んで泥を掴んだというだけの話なのだろう。


ルカ「はぁ、期待外れだったな。犯人に繋がる手掛かりでも握り込んでたら話は別だったが……」

あさひ「……」

293 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:32:16.03 ID:OQT/+f4M0

あさひ「このあたりの地面、別に湿ってないっすよね?」

ルカ「あ?」

あさひ「ぱっと見回してみても、砂地の地面は乾ききってるっす。泥なんて、他には見当たらないっすよ?」


言われてみれば確かにそうだ。
ここに来るまでの道中も、ここ自体もそう。地面は踏み固められた砂地で完走しきっている。
泥濘なんかどこにもない。


あさひ「ちょっと見せてほしいっす」


中学生は泥を手のひらに載せると、その粒を一つ一つ持ち上げて丁寧に覗き込んだ。


あさひ「……でも、混ざってる草とかはこのあたりのものと同じっすね。別に死体が他の所から運ばれたのを示す証拠ではなさそうっす」

ルカ「そうか……泥に含まれてるものがこの島以外のもんだったら、移動した可能性を示すものになりえたのか」

ルカ「でも、そうじゃねーんだろ? だったら……たまたまじゃねーの?」

あさひ「……そうなのかな」


誰かが飲み物を零して、1点だけに泥ができてたとかそんなオチだろうと思った。
……そんなに、不思議がるようなものなのか?


コトダマゲット!【泥】
〔夏葉の死体が握り込んでいた泥。あたりの地面は乾ききっているが、一体どこから出てきた泥なのだろうか〕

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【選択肢が残り一つになったので自動進行します】

294 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:33:12.67 ID:OQT/+f4M0
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【脚部】

かなりの重量がある全身を支えていた二本の柱。
流石に元の姿のままの細さとは言い難く、少しばかり元よりもたくましい作りになっているのが印象的だ。
とはいえ、脚も他のパーツと同様に凹みも激しく壊されてしまっているので、もはやその品評も意味はなさない。


冬優子「はぁ……こんなにスタイルよかったのに壊されちゃってるんじゃ形無しね」

ルカ「おいおい……んなこと言ってる場合か」

冬優子「……純粋に、惜しんでいるのよ。有栖川夏葉の気品や見せ方はふゆもよく見習っていたし……こんなバラバラにされた上に凹まされるなんて残念で仕方ないわ」


残念がる割に触ろうとしない冬優子をしり目に私は脚部を持ち上げた。
オイルが音を立てて跳ねて顔につく。
……冬優子のやつ、これが嫌で手を出してなかったな。


ルカ「……特に変わったところはなさそうだな。バラバラになって破損も激しいことぐらいで」

冬優子「何か脚部に機能は無いの?」

ルカ「これまでに聞いたこともないし……何か変化しそうなパーツも見当たらないな。腕と同じようにジェット噴射で飛び上がったり、とかもなさそうだ」

(まあ、そんなものがあれば脱出のために使ってるか)

冬優子「……そう」

どうやら、この脚部からは大して得られる情報はなさそうだ。
295 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:34:21.54 ID:OQT/+f4M0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

一通り死体のパーツは確認し終えた。
どれもこれもバラバラで凹みも激しい……今回の事件はやっぱり異色だな。
確かに人体とは構造も違うが、犯人のやつ随分と入念にやったものだ。


ルカ「……あれ」


一度距離を取って、遠目に死体を見てみると一つの事に気が付いた。
死体のパーツはいずれも損壊が激しいが……【脚部】とそれ以外のパーツでは発色が異なるのだ。

でも、これは脚部がおかしいのではなく、その逆。
他のパーツのいずれも黒ずんでいるのだ。
さっき各パーツを確認した通り、脚部以外にはすべて【焦げ跡】がついていた。
それがこの色の違いを生んでいるのが……どうして脚部だけ、逆に焦げ跡がついていないんだ?
そもそも、この焦げ跡はいつついたんだ……?
死体のバラバラと、何か関係があるのか……?


コトダマゲット!【死体の焦げ跡】
〔バラバラになっている夏葉の死体には焦げ跡がついている部分があった。脚部以外のパーツに焦げ跡は集中しているようだ〕

296 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:35:19.92 ID:OQT/+f4M0
-------------------------------------------------

現場での調査を一通り終えたが……困り果ててしまった。
これまでの事件ではいずれも死体を調べた後でも周りの物を調べたりだとか、別の現場を調べたりだとか調査の仕様はいくらでもあった。
でも……今回は違う。
死体が落ちているのは第4の島の外周に過ぎず、辺りには特に建物もないし、オイルを見ても死体が移動させられたような跡はない。

……私は、次に何をすればいい?

突如押し寄せた手持ち無沙汰にぶわっと汗が噴き出す。
もちろん調査の手を詰めるつもりは毛頭ない。
それでも、自分の行動の指針が見つからず不安に襲われてしまうのだ。


ルカ「と、とりあえず他の連中の話でも聞いてみるか……!」


迫る時間と空白の脳内。どうにか行動したという事実を求めて、当てもない聞き込みを開始するのだった。

297 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:36:17.11 ID:OQT/+f4M0












≪OTHER SIDE≫


298 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:37:44.87 ID:OQT/+f4M0

死体を確認してすぐに、私は移動を開始していた。

バラバラの死体にみんな目を奪われて、調査は当分彼女たちが占有するだろうし……情報ならちゃんと共有してもらえる。
それなら、私がいるべき場所はあそこではないと判断した。

ルカと同じ場所にいるのがきまずかったというのは否定しない。
あの子が目に付くのが煩わしかったのも確か。
でも、もっとそれ以上に……生き残るために行動をしたいという大義名分はある。

事件が起きたと聞いた瞬間に脳裏によぎった場所。
私はその前に立っていた。


「【ファイナルデッドルーム】……きっと犯人は、ここに来たんだ」

299 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:39:13.42 ID:OQT/+f4M0

私がこのアトラクションを見つけたのは、動機の提示された晩の事。
モノクマらしからぬ、手段を択ばない動機提供に違和感を覚えた私はその意図を調査するために単身第4の島にやってきていた。
この島は夏葉さんが強引に解禁した場所、モノクマにとってそれが想定外だったために決着を焦っているのかと思い、手掛かりを探しに来た。

……けど、どうやら違ったみたい。
モノクマは単純に血に飢えていた。そのためにあんな動機を用意したんだ。

島に来ていた当初は建設中の立て札が立てられていた場所に、我が物顔で鎮座するピエロの顔をした建造物。
入り口の看板にはこう書いてあった。


『ファイナルデッドルームにようこそ!
命を懸けた試練に挑め! クリアすればコロシアイ南国生活において絶対役立つ極上の凶器をプレゼント!』


『極上の凶器』……まさにこの動機のためだけに用意されたような文言。
一刻も早く誰かを殺さなくては自分が飢え死にする。
そんな思考にからめとられている中でこんなものがぶら下げられれば誰でも手に取りたくなる。


でも……気にかかるなのはその前の『命を懸けた試練』の言葉。
モノクマの事だから、はいそうですかとその極上の凶器は渡してくれないのは想像にたやすかった。

だから私はその時は一度引き返すことにした。
まだ……あの子を殺す覚悟もできていなかったし、ルカの説得を受けて少し思うところもあった。
今はまだ、行くべきタイミングじゃないと思った。



____その結果が、今。


300 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:39:55.85 ID:OQT/+f4M0

あのバラバラの死体とその脇に置かれたハンマーを見て、すぐにここが思い浮かんだ。
あんな殺し方は、今までの私たちでは出来ない。
きっと犯人はこの部屋の先で、新しい力を手に入れたんだろうと考えた。
私たちの想像を超える、『極上の凶器』という力を。

それなら、生き残るためには誰かが挑まなくてはいけない。
この島において、知識に隔たりがあること……それはもっとも致命的。

犯人が何を手にして、何を使ったのか。
それを知るために、犠牲となる人間が必要。


「……にちかちゃん」


私は振り返ることもなく、その一歩を踏み出した。

301 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:41:32.93 ID:OQT/+f4M0
-------------------------------------------------
【ファイナルデッドルーム】


ガラララララ……ガッシャーン!


部屋に入ると、すぐに背後の扉が閉められた。
地面からは槍のようなものが何本せりあがって天井に突き刺さった。
なるほど、ここは私のために作られた檻のような空間。
この檻の中で『命を懸けた試練』に挑むらしい。

……と、思いきや。


モノミ「あ、あれ……緋田さん、なんでここに……!?」


この部屋には、想定外の先客がいた。
モノミちゃんは部屋の隅で震えながら私の方を見る。

302 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:42:36.90 ID:OQT/+f4M0

美琴「モノミちゃん、あなたこそ……いつからここに?」

モノミ「えっと……事件が起きて、すぐに……ミナサンのために手掛かりを手に入れたくて……」


なんだ。事件が起きる前からではないみたい。
この様子だと、犯人の正体は知らないみたいだ。


モノミ「でも……この部屋からあちし、脱出できなくなっちゃって……途方に暮れてたところなんでちゅ」

美琴「……脱出できないの?」

モノミ「……はい、あちらを見てほしいんでちゅけど……」


モノミちゃんが指さした側にはもう一つの扉。
でも、そのカギは固く閉ざされている。いくらドアノブを捻ろうともびくともしない。


美琴「困ったね」

モノミ「どうやら、扉の横の機械を使って脱出するみたいなんでちゅけど……そもそも入力パネルすら開けなくて困ってるんでちゅ……」


モノミちゃんの言う通り、扉のすぐ隣には数字を表示している液晶。
その下はネジで留められて蓋をされている不自然なくぼみ。
303 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/05/06(金) 21:43:13.76 ID:OQT/+f4M0

美琴「リアル脱出ゲーム……ってやつかな」

モノミ「みたいでちゅ……あちし、こういうのはからっきしでちて」


せっかく食事を手にしたばかりだというのに、ここから出られないんじゃまた餓死しちゃう。
それ以前に、捜査時間が終わってもモノクマロックに行けないとペナルティでおしおきされちゃうかもしれない。
そうか……そういう意味で『命を懸けた試練』なのかな?


美琴「……それなら、私が出してあげる」

モノミ「え! い、いいんでちゅか!?」

美琴「こういうのは経験ないけど……要はクイズみたいなものだよね? 一緒に頑張ろうか」

モノミ「緋田さん……よろしくお願いしまちゅ! あちし、今夜は温かいお布団で眠りたいでちゅ!」



【脱出開始】


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