石動乃絵「フィラメントみたいに切れることはない」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/02/15(火) 23:12:28.66 ID:Uv7BXwyvO
「ね、眞一郎」
「ん? なんだ?」

ぽりぽりと2人で並び天空の食事を頬張り。

「私、発光ダイオードが好き」

発光ダイオードみたいなグミの実は美味だ。

「発光ダイオードって、LEDのことか?」
「違うわ。LEDが発光ダイオードなのよ」

ギラギラしたLEDは装飾過多なイメージだ。

「たしか、プラスからマイナスに電気を流すだけで発光する抵抗のことだよな」
「そうよ。素朴な輝きがとても綺麗」

昔、お兄ちゃんがよく遊んでいたゲームの電源を入れると赤色の発光ダイオードが点灯した。電池の残量が少なくなると小さくなる。

「でもちょっと頼りなくないか?」
「どうして?」
「ハロゲンランプと違って熱も出ないから」

ぶつかり合わず熱くならない。そこが好き。

「眞一郎は男の子だから」
「なんだよそれ」
「バチバチ熱くなるのが好きでしょ」

訊ねると彼は目を逸らし後頭部を掻きつつ。

「まあ、そういう一面はあるかもな」
「野蛮人」
「あのな! 男に生まれたからにはどうしてもぶつかり合って、バチバチやり合わないといけない時があるんだよ! たぶん……きっと」

勝てるかどうかはわからない。不安そうだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1644934348
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/02/15(火) 23:14:34.41 ID:Uv7BXwyvO
「眞一郎は誰かのために戦いたいの?」

偽善。義憤。正義感。そんなの意味がない。

「そうだな……そうだとしても、そいつのためとは口が裂けても言わないだろうな」
「格好つけるため?」
「理由を自分で背負うため」

それが、格好つけるためだ。彼は認めずに。

「やり合うのは自分で、やっつけるにせよ、やられるにせよ、結局自分が背負うんだ」
「やっつけたらスカッとする?」
「まあ、その時はスカッとするだろうな。そんで、すぐに後悔する羽目になる」

男の子は馬鹿だと思う。わかっているのに。

「眞一郎は優しいね」
「へ? な、なんだよ、急に」
「相手の怪我の痛みをわかってあげられる」

今でも私の怪我は癒えない。胸が疼くから。

「眞一郎の偽善の裏にアブラムシ」
「俺の優しさはアブラムシか」
「眞一郎の怪我の痛みもアブラムシ」

私と同じように痛む胸を手のひらで撫でる。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/02/15(火) 23:18:53.66 ID:Uv7BXwyvO
「眞一郎はハロゲンランプ?」
「どうかな。少なくとも直流ではないかな」
「じゃあ、点滅してるのね」

光ったり、消えたり。そんな慎一郎が好き。

「……乃絵の笑顔もさ」
「え?」
「点いたり消えたりして、忙しないよな」

知れず、微笑んだ顔を見られて赤面する私。

「もうこの先一生、笑わないわ」
「そりゃ困る」
「どうして慎一郎が困るの?」
「だって俺は、石動乃絵の笑顔が……」

残り少ない電池みたいに、光が消えかかる。

「特別に眞一郎の前でだけ笑ってあげる」
「……いいのか?」
「よくないわ。特別なことは罪深いもの」

私は仲上慎一郎の特別になりたかった。特別になれなかった。特別になりたいという気持ちが他人を傷ついた。そして私も傷ついた。

「でもいいの。私が、その罪を背負うから」
「それは格好つけてるのか?」
「違うわ。バチバチチカチカしてないもの」

これは素朴な輝き。私の秘めた想いだから。

「石動乃絵の胸に秘めたアブラムシ、か」
「アブラムシは光らないわ」
「そうだな。ただそこに居るだけだ」

仲上慎一郎みたいに。ただそこに居るだけ。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/02/15(火) 23:21:29.14 ID:Uv7BXwyvO
すみません
>>3レス目の、他人を傷ついたは、他人を傷つけたの間違いでした

以下、続きです
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2022/02/15(火) 23:23:34.17 ID:Uv7BXwyvO
「慎一郎の胸の中にも居る?」
「ああ……増えたり、減ったりしてる」

私とおんなじ。増えたり減ったり。点滅だ。

「私も発光ダイオードみたい?」
「ああ。乃絵はその……す、素敵だ」

それは精一杯の褒め言葉で。私は点灯する。

「眞一郎」
「なんだよ……乃絵」
「発光ダイオードは寿命がとても長いの」

いつまで輝き続けるのだろう。熱を持たず。

「フィラメントみたいに切れることはない」

ずっとずっと好きで。ずっとずっと苦しい。

「それでも私は、この輝きを大切にしたい」
「……そうか」

眞一郎は謝らなかった。その優しさが響く。

「ところで眞一郎」
「そろそろ帰るか?」
「実はいま私、お腹が発酵ダイオードなの」
「……そうか」

眞一郎は覚悟を決めた顔をしてぶつかった。

「実は俺もお腹の調子が発酵ダイオードだ」
「そう。奇遇ね」
「天空の食事を食い過ぎたかもな」

グミの実に整腸作用がある。そこが好きだ。
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