真・恋姫夢想【凡将伝Re】5

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92 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2022/05/16(月) 22:36:24.35 ID:YFoWzSuU0
「で、どこまでやる気なんだ?」

張紘の問いが室に響く。
義兄弟三人が集まり酒を酌み交わし、久闊を除していた席のことである。
まあ、宴席の場が紀霊の執務室であったのは多少の問題があるかもしれないがよくあることである。
なにせ、防諜的な意味では万全であるし、楽進や典韋などという最上級の料理人が料理を提供してくれるのだからして。
火酒に柑橘の汁を搾り湯で割ったものを喉に流し込み、いつになく饒舌な紀霊のふとした沈黙に問いかけたのは既定路線ですらあったかもしれない。

「経済制裁、やるなら母流龍九商会(うち)がその尖兵となるだろうからな。
 ある程度の見込みは聞いときたい」

素面では聞けないし言えない。
張紘というのはそれくらいには善性の人格である。それをよく知る沮授は黙って杯を重ねる。
常ならば茶化すところではあるが、話題が話題である。
そして、それ以上に興味があった。はたしてどこまでやる気なのか、と。

「蜀を干上がらせる、ということだがどこまでやる?」

張紘も杯を重ねる。
先ほどまでと違い、喉を駆け下りる炎が我が身を苛むようである。

「いや、無論二郎がそこまで考えていないのならそれでいいんだ。
 おいらたちに任せるということならばそれはそれでいい。
 そのあたり、沮授と考えるよ」

袁家の強みは分厚い実務集団を手にしていることである。
反董卓連合。
規模からいえば驚くほどに犠牲を少なくその目的を果たすことが出来たのは、富の集積があったのもあるがそれをきちんと運用したことが大きい。
なにせ、かつて売官という制度があった時には、漢朝全ての官職を袁家で占めてしまおうというくらいの気運であったのだから。
そしてその官僚の頂点に立ち、掌握しているのが沮授であるのは自他共に認めるところである。

そして張紘である。
反董卓連合の際に兵站に必要な物資を準備したのは沮授だが、実際に運用したのは張紘であったと言っていい。
物流をその手に収め、ただの一度も破綻させなかったその手腕を知る者はごくわずか。
いや。その尋常ならざる手腕と実績を「あの」曹操ですらこの時点では理解しきっていない。
無論可能な限り秘匿しているということも大きいのだが。

そしてその二人に補佐をされて、袁家の裁量を任されているのが紀霊である。
個人的武力、用兵、政治等々の能力については一流半から二流程度との自己評価は割と妥当なものであろう。
だが紀霊の強みはそのような一面の処理能力ではない。かつて、故馬騰が評した言葉。
「将の将たる器」
それこそが紀霊の真価であろう。沮授はそう思いながらにこやかな笑みを崩さずに杯を重ねる。
幼少時よりの付き合いだ。苦言や小言、或いは諫言。そういったのは張紘の役割なのだから。
そして、紀霊がどこまでやるにしても付き合う覚悟は定まっている。
それは張紘にしたって同じだろう。
なにせ、生まれた日は違えども死ぬるのは同日と誓ったのだからして。
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