真・恋姫夢想【凡将伝Re】5

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385 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/09/12(火) 20:57:12.79 ID:062XtsZZ0
◆◆◆

「これ以上蜀なぞと名乗る賊軍に付き合う必要はありません。そう主張していましたからね。ここで軍を引くことにも否やはありません。
 しかし、首魁たる天の御使いを僭称する男、おぞましくも帝を名乗る女。
それらを放置してどう始末をつけるつもりですか」

その視線は、絶対零度の刃となって俺を切り裂くがごとく苛烈である。
まあ、退くならばもっと早くしとけってことよね。
だってしょうがないじゃない、相手が恋なんだもの。
戦略とか戦術とか、普通にひっくり返すのよあの子。
だって呂布だもの。
とは言え。

「んー?言ってる意味がよくわからんね。
大勝利!完全勝利!武勲が増えるよやったね稟ちゃんさん!」

「二郎殿。貴方は何を言っているのですか。理解に苦しみます。寝ぼけているならばゆっくりとお休みになってください。
 ええ、戦後処理は風と私で片づけておきますから」

やだ……。ぴくりとも表情筋に仕事させずに威圧してくるじゃん……。コワイ!

「寝ぼけてもないし、処理を任せきるつもりもない。
 重ねて言う。北伐軍は大勝利。北郷一刀と劉備は見事討ち取り、股肱の臣たる、かつて関羽と呼ばれていた字伏も膝をついた。
 いやあ、大勝利ですねえ」

ニヤニヤ、と笑いながら言うとさしもの稟ちゃんさんも押し黙る。

「――正気ですか」

「正気だとも。本気だとも。なに、そこの字伏が証明してくれるよ。かつて仕えていた主は死んだ、もういない、ってね」

「――流石にそれだけでは説得力がないでしょう」

「そうかな?何せ義の人ということになってるしー。それに……。
 これから星が単騎で彼奴らを討ち取ることになってるしな!」

まあ、十日も星がそこらへんで時間を潰してから帰ってきて、「討ち取ったりー」とか言えばそれで済むのだ。済むのである。どうせ今回は軍監とか意図的に排除してるし。
何か言いたげな稟ちゃんさんに風がくふふ、と笑いながら語りかける。

「此度の北伐。それは勝利を約束されていたのです。いえ、勝利せねばならなかったと言うべきでしょか〜。
 そして大筋においてそれは達せられていますし〜。
 ええ、何も問題はないですね〜」

そういうことさ。例え俺が生きようと死のうと漢朝の威光のために北伐は勝利という名のもとに幕を閉じる。閉じねばならないのだ。

「詭弁を……!そこな字伏の主が恥も外聞もなく救出に来たら?或いはまた軍を率いて来たらば何としますか!」

怒号と言っていいほどに語気を荒げたその稟ちゃんさんの言葉に俺は苦笑する。

「その時はそこの字伏が率先して首を刎ねに行くよ」

ぴくり、と一瞬肩を震わせたのを見て、もうちょっと心を折らんといかんかなーとか思ったり。あんなに丁寧に言い聞かせて、覚悟させてたはずなのになー。
天の御使いとか劉備がもっぺん中華にちょっかいをかけてきて、捕えられたらどうなるか。
残酷な刑というのは、多分全世界でこの中華が徹頭徹尾最前線だ。いやあ、文明というやつですよ。興味のある人はググってくださいませ。
だったらお前の手で苦痛なく逝かせてやれってことです、はい。だからまあ、天の御使いとかが幾度叛乱を起こしても、「またか」で済むし。むしろ、魔王的な俺に囚われた救出対象に討ち取られてねえどんな気持ち?どんな気持ち?って感じである。
裏切ったらそれはそれで……。七乃がハッスルするだけである。いやあ、死んだ方がマシな状況は65,535パターンくらいあるそうですよ……。七乃が言うと冗談に聞こえないから怖いね!いや、冗談……だよ……な……?

「つまり、俺たちは漢朝の威光のためにも完全勝利以外の結果は許されないってこったよ。
 まあ、俺の現況が瑕瑾ではあるけどな。だがそれは大した問題じゃない。
 勝利を以て漢朝の威光を、破邪顕正を示すことができればそれでいいのさ」

「――幸いにしてほぼすべての戦場で北伐軍は勝利してますしね〜。
 めでたし、めでたしというわけですよ」

くふふと笑う風の頭をわしゃわしゃと撫で上げてやる。流石メイン軍師。俺の言いたいことを代弁してくれる。
つまり、勝敗というものは曖昧なモノ。そしてそれを定義することができるのだ、俺は。俺たちは。だから勝った。それでいい。それで世は治まる。乱れたらそんときゃそんときのことさ。

「だから、ちょっと星にはおつかいを頼まんといかんけどな」

俺の言葉に星は不敵に笑い、深く頷く。

「そうだな。そうさな、十日か、それくらいあれば十分だろうよ」

おや?思った以上に乗り気である。
面倒くさいとばかりに難航する案件だと思っていたのだが。

目を白黒させる俺に星は艶然と、不敵に微笑む。
その笑み。不敵で無敵な天下無双。
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