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真・恋姫夢想【凡将伝Re】5
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378 :
一ノ瀬
◆lAEnHrAlo.
[saga]:2023/09/11(月) 19:37:43.47 ID:jpPH5Rw/0
「……海だ!」
我知らず漏れ零れたのは感嘆の言葉。北郷一刀は目の前の海岸線にほう、と息を漏らす。
「うわあ、海だ。これが海なんだね。ご主人様!」
寄り添いはしゃぐ劉備に苦笑する。なるほど。広大な中華に住むと、海というものを見たことがある人は少ないのかもな、と。
もっと常ならばはしゃいでいるであろう人物に目をやる。ここまでの道中彼らを護衛していた豪傑。張飛を。
「これが、海……」
大海原、である。寄せては返す波濤、そして彼方の水平線。圧倒的な存在感にさしもの張飛も言葉を失う。
「えっと、ここまでは街道があるから楽だったけどこっから先はまだ未整備だってさ。北、南どっちに行っても漁港があるみたいだけどどっちに行こうか」
諸葛亮が遺した指南書に目を通して北郷一刀は問う。
「うーん。私はどっちでもいいかな。ご主人様が決めたらいいと思うよ!」
にこやかなその表情、言動に救われているな、と思う。どんな逆境でもこの子と一緒ならば乗り越えられるという確信がある。それはまさに彼女の持つ人徳というものだろう。
「鈴々は、どっちに行ったらいいと思う?」
北郷一刀は大海に心奪われ、呆けたような張飛に声をかける。その言葉に張飛は慌てて、考え込む。
「あ、あの……だな。すごい、と思うのだ。海、というのを鈴々は初めて見たのだ……。
これ、多分愛紗が見たら腰を抜かすと思うのだ。
鈴々は、それを笑ってやるのだ。いつも。いっつも鈴々の前でいいかっこしてた愛紗のかっこ悪いとこを散々に笑ってやるのだ。
だから。鈴々はここで愛紗を待つのだ。愛紗は絶対に嘘をつかないのだ。
だから。だからここに、きっと来るのだ。そして愛紗は方向音痴だからここからどうすればいいかわからないのだ。
だから、お兄ちゃんがどこに行ったのか、鈴々が教えてやらないといけないのだ」
そして諸葛亮に言い含められていたことでもある。其処で迫る敵兵を殲滅し、死守すべしと。無論それを北郷一刀も劉備も知らない。
「んー。そこまで愛紗が方向音痴ってことはないと思うけどなー」
「あー、でもでもご主人様。北か南か。私たちの行く先を鈴々ちゃんが示してくれるなら愛紗ちゃんも安心だと思うな!」
なるほど、と北郷一刀は頷く。
「そうだな。じきに朱里も追いつくだろうから一緒に追いかけてくれよ。
また、皆で、そうだな。温泉にでも行こう。いい湯がたくさんあるんだ」
にこり、と笑ってくしゃ、と張飛の頭をわしゃ、とかき混ぜる。
「うん。すぐに追いつくから。だから鈴々はここで愛紗と朱里を見つけたらかっさらってすぐに追いつくのだ」
◆◆◆
「えへへ」
「どうしたんだ?桃香」
その問いに劉備は相好を崩す。
「うん。よくないことだって分かってるんだけどね。
えへ。
ご主人様と二人っきりって、初めてだな、って」
その言葉に北郷一刀の頬がに上気する。
「な、何を言ってんだよ……」
「あ、うん。えへへ。でもね……?」
全身で好意を示す劉備に北郷一刀は小さく笑い、立ち上がる。
「よし!まずは船を探さないとな。話はそれからだ」
「うん、そうだね!話はそれからだね!」
そう、彼らの旅路はまだ始まったばかりなのだから。
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