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真・恋姫夢想【凡将伝Re】5
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37 :
一ノ瀬
◆lAEnHrAlo.
[saga]:2022/03/07(月) 21:56:49.20 ID:K6OXCmyW0
子々孫々まで忠誠を、と夏候惇は恭しくひざまづく。名家夏候家の首魁である。その所作、簡にして潔。だがそれ故にその存在感は場を圧倒し、制圧する。
「無論、華琳様の命あらば、です。
華琳様の命あらばこの子も流しましょう。鬼子母神にもなって父を討たせましょう。この身は華琳様のためにあるのですから。
――お気に触ったならば如何様にも」
この首刎ね給えとばかりに頭を垂れる夏候惇。
場の、静かなざわめき。それらを全て可笑しげに口角を上げて曹操は口を開く。
その存在感たるや、これまでの張遼や夏候惇の発言を圧倒的に塗りつぶすもの。
「――かつて私がまだ何の力もない小娘であった時、ある男が言ったわ。
私は丞相くらいならば軽く勤まるであろうと、ね」
丞相。大将軍が武において三公を上回るならば、文において三公に隔絶する地位である。
その言葉は果てしなく、重い。
「かつての私は宦官の孫として侮蔑され、迫害される日々だったわ。
無論、無知蒙昧な輩が何を言おうと、どうでもいいのだけれどもね」
それでも、と曹操は言葉を続ける。
「忌々しいことにね、そうまで私を評価しておきながら、よ。私に跪くのはお断りときた!
なんて不遜、そして屈辱!」
気炎万丈。その怒気は控える武将たちを圧倒する。
「中華という盤面に幾多の指し手がいたわ。いずれも容易ならざる相手よ。それらを排除して、跳ね除けてようやく相対したのよ。その男――二郎とね。
ええ、ようやく二郎と差し向かったのよね。私を誰より買っていながら、私に靡(なびか)かなかった二郎と、ね。
なによ、そんなに麗羽がいいっていうのかしらね」
まったくもって不可解なことである、とばかりに曹操は大きくため息を一つ。
「話が逸れたわね。そして、いよいよ盤上で差し向かったと思ったら不粋な闖入者が湧いたわ――」
その表情はにこやかだが、曹操配下であれば分かる。これは嵐の前の静けさ。しかも控える嵐は過去に見たこともない規模であろう。
その言動にて誤解されることも多い。
だが、本来曹操は激情家なのである――。
「蜀なぞと自称する虫ども、きっちり踏みつぶしなさい!」
炎すら幻視されるような気迫。小柄であるはずの曹操。だがその覇気は英傑たる配下達を圧倒して余りある。
「御意!」
――後世、曹操がこの時に叛すればどうなったか。
思考実験として好まれる題材である。
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