真・恋姫夢想【凡将伝Re】5

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140 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2022/07/04(月) 23:05:52.64 ID:ib3VgL1k0
一陣の風が大地を駆け抜ける。
その風に関羽は僅かに柳眉をひそめ、髪を整える。その黒髪は荒野にいながらも、あの曹操をして絶賛させるほどの艶をさらに増しているかのようである。

「どうしたどうした!」

厳しい訓練にへたり込む兵を鼓舞する。その声によろ、と兵たちは立ち上がり、槍を手にする。その、死力を尽くしている様に関羽の口が僅かに綻ぶ。その、満足気な関羽の表情に兵達の士気は否応なく上がっていく。

とは言え、もうそろそろ限界だな、と内心で関羽は断をくだす。

「訓練の方がきっついくらいでちょうどいいのさ。戦場の方が楽だなんてことは稀によくある。
 うちのスレた古参兵なんかはさ、実戦の方がいい飯が食えるって笑ってるくらいさ。
 所詮死ぬときは何やっても死ぬんだって、な。でも、な」

勝つためじゃない。生き残るため、生き残らせるために兵をしごくのさ、と彼が漏らした言葉は真情に満ちていた、と思う。
そして、自分がやっているのはきっと彼からの受け売りなのだろう。
――もっとも言い放った本人はそんなことを言ったことなぞ忘れているであろうが。

最後の一駆けを命じて関羽は同じく兵の鍛錬に尽力している黄忠、陳宮に連絡を取る。宿営場所、糧食の手配など仕事はいくらでもある。幸い、正規軍を率いていた二人がそこいらについては滞りなく手配をしていてくれている。

「こんなにも、大変なのだな……」

生真面目な関羽のことである。二人のその労苦を少しでも軽減できるように尽力しているのだが、思い知らされるのは自分の未熟ばかりである。

「まあ、愛紗ちゃんは戦場での勇が本職だから……」

「そんなに自分の無能を気に病むのであれば薄物一つで兵達を慰問すればいいと思うのですぞ」

温かい気遣いの一言、容赦ない一言すらもありがたくすら感じる。
そして、ちくり、と痛みが胸を刺す。

私は、なにをやっているんだろう。

そんな思いが湧き上がってしまう。
雑念だ。そう思っても、振り切ることができない。

「俺?いや、天下泰平になったらすぐさま隠居してやんよ。え?蒼天の行く末?
 ば――っかじゃねえの?そんなん、俺よりデキる奴が何とでもするだろうさ。
 俺の仕事は、そういう奴らが仕事しやすいようにお掃除することさね。
 んでもって今はそのお掃除役を探してるとこなんだわ。
 あー、どっかに既存の政治勢力とは無縁でなお高潔で見識があって分別があって武に秀でた人材はいないかなー」

酒席の上とは言え。ちら、ちらとこちらを見る彼が大層うっとおしかったのではあるが、その薫陶――であったのかは不明だが――は関羽の中に息づいている。
そして、思う。

「私は。何をやっているのだ……」

だが、それでも。自分が主君と仰いだ劉備。その声で招請された兵卒たち。彼等が生き残れるように、せめて、生き残れるようにと関羽は全力を尽くすのである。
――何か、これではいけないのかもしれない、と思いながら。
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