真・恋姫夢想【凡将伝Re】5

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117 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2022/06/13(月) 21:50:34.75 ID:zQXbzPMN0
「疲れたなぁ……」

ぼそ、と諸葛亮が呟いたその言葉に鳳統は苦笑する。

「そうだよね。ちょっと根を詰め過ぎだよね。お茶でも淹れようか」

応えも聞かずに鳳統は室を去る。それを見送って諸葛亮はほう、と息を吐く。
幽州が蜀として漢王朝の正当を主張してから彼女は、彼女たちは休まる時もない。
物理的に、だ。些かの準備期間があったとはいえ、国の運営なぞ未知の領域。それをこれまでのところ大過なくこなしているのは最大限に賞賛されるべきであろう。
背後の苦笑する気配。支えてくれている彼女にぼやきという甘えを口にする。
す、と手元に現れた書類に目を通し、形のいい眉をひそめる。

「むー、なんでだろう。治安が悪化してるなぁ。襄平は問題ないのに、国境近いとこほど荒れてきてる……」

「もう、朱里ちゃん。ちょっとは休まないと!」

ぷりぷりと可愛らしく頬を膨らませながら鳳統がそれでも手際よく茶を淹れる。その香りが僅かに諸葛亮の疲労を癒す。
いつの間にか背後の気配は去っている。彼女の淹れてくれたお茶は癒やしとは対極で、のどごしも刺々しくはあったがあれはあれで味わい深いもので、気に入っていたのだ。

「うーん、やっぱり雛里ちゃんが淹れるとすごく香りが立つね!」

「そうでもないよ?単にいい茶葉を使っているだけだもん。私の腕は関係ないよ」

くすくす、きゃいきゃいと、親友でもある中華屈指の頭脳の持ち主たちは雑談に興じる。
それもこれも、これまでの国家運営が――それなりに――順調というのが大きいであろう。
軍政、民政。その二つがほぼ彼女らのか細い肩に圧し掛かっている危うい体制ではあるのだが。
そして軍政は鳳統、民政は諸葛亮と自然な分担が成立している。
無駄な政争なんて彼女らにはない――蜀全体でもあるはずのない――効率的な体制なのだ。
そして、その体制が盤石な理由がある。

「よ、二人ともお疲れさん!」

ふんわりと、仲良しの二人だけの空間。相当に弛緩していた空気だからこそ、その声に二人は引っくり返りそうになる。

「ご、ご主人様……!」

そう、彼女らの執務室への闖入者は、だ。
彼女らが主と仰ぐ男であった。

「二人とも、お疲れさま、だな」

そう言って二人の頭を撫でまわす。これが他の誰かであったら二人とも声を大にして抗議するであろう。子ども扱いするな、と。
だがしかし、北郷一刀のそれは別である。
心からの気遣い、それに二人とも恍惚とする。自分が、自分たちが如何に大事にされているかということを再認識するのである。

「俺には朱里と雛里の手伝いはできそうにないから、せめてもの差し入れ」

笑って包まれていた饅頭を取り出す。

「ちょっと冷めちゃってるけど、それでも。
……いやいや。それはそれで美味しいぞ?」

コンビニの肉まんよりはよほど美味しいしなあ、という呟きなぞ耳に入らないかのように、はぐ、はぐと。そして思ったよりも残されていた熱量。
そして弾む北郷一刀の鼓動にくすり、と笑う。幸福感に包まれる。恐らく冷まさぬように、と駆けてきてくれたのだろう。

「ご主人様、ありがとうございます。とっても美味しかったです」

万感の思いを込めてそう伝える。

「そ、そうか?いや、別にそんな高いモノじゃないし、そこまで喜んでくれるとは思わなかったな」

ま、少しでも二人の応援になったならよかったよ。
そう言おうとした彼に。

「あ、お兄ちゃん、ここにいたのだ!ひどいのだ!今日は鈴々と巡察の予定だったのだ!」
「ご主人様……。恋も……」
「ああ、分かった分かった。じゃな。朱里、雛理。頼りにしてるよ」
「もう、鈴々お腹が減っちゃったのだー」
「恋も……」
「いやちょっと待ってくれ?微妙に値上がりしてるから俺の小遣いで二人の胃袋を満足させられるかには不安がー?」

知るかとばかりに引きずられていく北郷一刀を見送りながら諸葛亮は呟く。

「はわ、わ……?」

その異常。その兆候に気づいたのは流石諸葛亮と言うべきかもしれない。

「――雛里ちゃん!伝票を!違う、そうじゃないね!
桃香様が即位するひと月前からの、食品の相場。できたら価格の推移が見れるものを!
大まかな品目だけでもいいから!」

杞憂であってくれたらそれでいい。
そう、想いながら諸葛亮はもたらされた資料を、人智を超えた速度で確認していくのであった。
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