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武内P「島村さんとの距離が近いようなんです」
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1 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:14:22.37 ID:Om8/vz+U0
武内P「……」
まゆP「……」
店員「熱燗《あつかん》、お持ちしました」
まゆP「あ、どうも」
武内P「こちら下げてもらっていいですか」
店員「はい、ありがとうございます」
武内P「……」
まゆP「……」
武内P「熱燗の季節ですね」
まゆP「ああ、もうめっきり冬だ」
武内P「……」
まゆP「それで……卯月ちゃんとの距離が近い、だったか?」
武内P「……はい。私の思い過ごしなんでしょうが」
まゆP「思い過ごし……思い過ごしねえ」
武内P「まゆP?」
まゆP「思い過ごしだと考えているうちに手を打ってれば俺は……いや、思い過ごしだと自分に言い聞かせてさえなければ、俺は……俺は!」
武内P「まゆP!? しっかりしてくださいまゆP!」
まゆP「……はっ!? すまない……ちょっとトラウマが蘇ってしまって」
まゆP「ええっと……卯月ちゃんとの距離が近いって話だが、具体的にどんな感じで近いんだ?」
武内P「それなんですが――」
島村卯月
http://i.imgur.com/2Rbtzoc.png
通算9度目、2ヵ月連続、しまむーでは2度目のご理解
http://i.imgur.com/2DEDbw7.png
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1640639662
2 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:15:33.64 ID:Om8/vz+U0
※ ※ ※
武内P「ただいま戻りました」
卯月「お疲れ様です、プロデューサーさん」
武内P「お疲れ様です。……ん?」
卯月「どうしましたか?」
武内P「いえ、今まで歩き通しだったせいか、部屋の中が暑く感じられただけです」
卯月「暖房下げましょうか?」
武内P「大丈夫です。暑く感じられるのは今だけなので、上着を少しの間脱いでおきいます」
バサッ
卯月「……」
武内P「島村さん、どうしましたか?」
卯月「あ、あのですね」
武内P「はい」
卯月「少し変わったお願いといいますか、奇妙なお願いがあるんですけど」
武内P「お願い、ですか。いったい何でしょう」
卯月「す、スーツのですね。上着を少し貸してもらっていいでしょうか?」
武内P「スーツの上着?」
武内P(ハンガーに上着をかけようとしたところで立ち止まります)
武内P(スーツの上着というのは間違いなく私が今手にしている物でしょう。しかし、島村さんが何故私の上着に興味を持つのか)
卯月「少しだけ、少しだけで良いですから」
武内P「は、はい」
武内P(不思議には思いましたが島村さんがいつになく必死な様子だったため、気圧されるように渡してしまいました)
武内P(もしかしてクリーニングのタグが付いたままだったのでしょうか?)
卯月「……っ」
武内P(無言で私のスーツを見つめています。まさか糸のほつれや色落ち、それどころか悪臭までして見過ごせなかったのですか!?)
武内P「あの……島村さん? 私のスーツに何かありましたか?」
卯月「……プロデューサーさん!」
武内P「は、はい!」
武内P(嫌な予感がしていた私は、いつにない島村さんの強い語気に思わず身をすくめ――)
卯月「羽織ってみていいでしょうか!」
武内P「はい! …………………………はい?」
武内P(――島村さんのお願いを、とっさに承諾していまいました)
3 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:16:38.44 ID:Om8/vz+U0
卯月「良いんですか! ありがとうございます!」
武内P「あの……あの……え?」
卯月「えへへ〜♪ 前から一度羽織ってみたかったんです。二人っきりでプロデューサーさんが脱いでくれたから、勇気を出してみました」
武内P(戸惑う私の声は、興奮した様子の島村さんには届きません。二回りも三回りも大きな上着を楽しそうに袖を通します)
卯月「うわぁ、おっきい! ぶっかぶかっ」
武内P「……っ」
武内P(制服の上から大きなスーツをまとった島村さんの姿は、これまでにないモノでした。スーツの丈は膝下にまで及び、袖は指先まで隠すほど余っています)
武内P(ブカブカの服――それも男物を着てはしゃぐ姿はぜひ次の撮影に活かしたいと思われるものです)
武内P(……ただしスーツは私の物なので、戸惑いが見入る事を許してくれません)
武内P「……島村さん。いいでしょうか?」
卯月「あ、プロデューサーさん! 羽織らせてもらってありがとうございます。これにはワケがあってですね」
武内P「はい」
卯月「小さな頃はよくパパの上着をぶかぶかさせて遊んでたんです。今でもパパの方が大きいんですけど、小さな頃のような差は無くなっちゃって。でも見てください! プロデューサーさんの上着ならこんなにぶかぶかになれます!」
武内P「なるほど……昔の思い出を再現してみたかったわけですね」
卯月「ここ数年は忘れていたんですけど、小梅ちゃんの余っている袖を見ていたら思い出しちゃったんです。あ、そうだ!」
武内P(何かを思いついた島村さんは、閃きのままに部屋の中を小走りで移動する。その先にあったモノを見て、すぐに彼女の考えがわかった)
武内P(――姿見。大きな鏡で今の自分を確認するつもりのようです)
卯月「――――あ」
武内P「……島村さん?」
武内P(鏡の前ではしゃぐ姿を想像していたため、呆然と立ち尽くす島村さんを不思議に思って声をかけます)
卯月「いや……あの、これって」
武内P「……?」
卯月「彼シャツ……みたいだなって」
武内P「ようやく……気づいていただけましたか」
卯月「ぷ、プロデューサーさん!? 気づいていたなら教えてくださいよ!」
武内P「私の口からは言い出しづらい内容だったので……」
卯月「そんな〜! 私こんな状態でプロデューサーさんの前ではしゃいでたんですか? う、ううぅ」
武内P「そ、そういうわけですので……そろそろ上着を脱ぎませんか? 他の人に見られたら妙な誤解を与えかねません」
卯月「……」
武内P「島村さん?」
4 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:17:39.13 ID:Om8/vz+U0
卯月「……どうでしたか?」
武内P「どう……とは?」
卯月「その……この格好、どう思いましたか?」
武内P「そうですね……制服の上から大きすぎる男物の上着を羽織り、楽しそうに服の余りを確認する姿は魅力的でした。ぜひカメラに収めたい内容でしたが、制服を使う事を学校が許可――」
卯月「ぷ、プロデューサーさん! そういう意味じゃないです!」
武内P「……え?」
卯月「で、ですから……プロデューサーさんの上着で彼シャツをした私を……どう思いましたか?」
武内P「……頭を抱えたくなりました」
卯月「ええ〜〜〜っ!!」
武内P「自分が何をしているのかわかっていない様子で……実際にわかっていなくて……私だったから良かったものの、これが島村さんと歳の近い男ならどうなってしまった事やら」
卯月「ど、どうなってしまうんですか?」
武内P「島村さんの無邪気な行為を自分へのアプローチだと受け止め、あまりに魅力的な島村さんに一瞬で心を奪われ、両想いだと浮かれます。そしてそれが自分だけの勘違いだと知って絶望した事でしょう。残酷な仕打ちにもほどがあります」
卯月「そんな……大げさですよ」
武内P「私が十歳若ければそうなっていました。お願いですから気をつけてください」
卯月「……え?」
武内P「さあ、上着を脱いでください」
卯月「本当……ですか?」
武内P「……島村さん?」
卯月「プロデューサーさんが十歳若ければ、私を好きになってくれたんですか?」
武内P「え……いえ、あの。言葉の綾と言いますか」
5 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:18:33.49 ID:Om8/vz+U0
卯月「じゃあ嘘なんですか?」
武内P「噓ではありません。同じ事を島村さんと歳の近い男がされればどうなるだろうと思い、若い頃の自分に置き換えて考えてみました。すると……」
卯月「すると?」
武内P「まあ……間違いなく見惚れていた事でしょう」
卯月「……見惚れるだけですか?」
武内P「勘違いも……したかもしれません」
卯月「本当ですか!?」
武内P「かもしれない! かもしれないという話です」
卯月「はい、わかってます! プロデューサーさんが私に見惚れて、両想いだと思っちゃうかもしれないんですね! えへへ♪」
武内P「私がまだ学生だったら、の話です! 親子ほど――は言い過ぎですが、こんなにも歳の離れている島村さんを相手に勘違いなどしませんので! どうか安心してください!」
卯月「……今は勘違いしてくれないんですか?」
武内P「ええ、もちろんです」
卯月「それは……なんだか残念です」
武内P「ざ、残念?」
卯月「だって……プロデューサーさんが私と両想いだと勘違いしてくれたら、今でも優しいプロデューサーさんが、もっともっと私に優しくなってくれて……私のコトを、今以上に考えてくれて、想ってくれて、大切にしてくれるんですよね? もしそうなったら私、嬉しくて嬉しくて……」
武内P「島村さん……?」
卯月「え、いえ、あの……その。面白そうだなって思っただけです! ダメですよね! 私とプロデューサーさんがそうなっちゃったら!」
武内P「はい」
卯月「三年後ならともかく!」
武内P「え?」
卯月「……あ」
武内P「しまむら……さん?」
卯月「ちが、違います! 一般論! 一般論です! 大人と子どもはマズいですから! 私は十七歳だからいけませんけど、二十歳なら許されると思っただけです! 深い意味はありませんから!」
武内P「わ、わかっています。勘違いなど私はしませんから」
卯月「いえ、だから……勘違いしてもらっても私は……」
武内P「島村さん!?」
卯月「ああぁ! これも違うんです! え、ええっと……あ、上着お返しします! あ、あと、着こみ過ぎて暑くなったからちょっと外に――へごっ!」ドンガラガッシャーン
武内P「島村さああああああぁんっ!!」
6 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:19:35.82 ID:Om8/vz+U0
※ ※ ※
武内P「――という事がありました」
まゆP「アウトだろ」
武内P「……アウトでしょうか?」
まゆP「あの子から見れば俺やオマエはオッサンみたいな歳だぞ。オッサンの服を羽織るなんて、普通の女子高生なら強い抵抗感を持つ。抵抗感を持つどころか自分から喜んで羽織る理由はなんだ?」
武内P「……」
まゆP「彼シャツみたいだという自覚を持った後の行動は何だ? 恥ずかしがる以上に、オマエがどう感じたかの方に重きを置いている」
武内P「……」
まゆP「あとオマエ気をつけろ。若ければ恋に落ちたかもしれないなんて、女子高生がオッサンに言われれば怖気《おぞけ》が奔る言葉だぞ」
武内P「貴方の言う通りです。突然の事に動揺してしまい……」
まゆP「これは邪推かもしれないが、オマエの動揺を見抜いて言わせたかもしれん」
武内P「まさか……島村さんはそんな事はしません」
まゆP「オマエは……恋に盲目になった少女について、俺以上に詳しいとでも?」
武内P「あっ……すいません」
まゆP「島村卯月……あの子は危険だ」
武内P「……え?」
まゆP「例えばの話だが、パッションの女の子――そうだな、未央ちゃんや莉嘉ちゃんにしようか。あの子たちがオマエに挨拶がてら抱きついてきても、オマエはちゃんと注意できるだろ」
武内P「はい。このような事はしてはいけませんと」
まゆP「遊び半分のコミュニケーションだから注意しやすいもんな。じゃあ卯月ちゃんがオマエの服の裾をそっと握ったり、上着を貸してくださいというお願いを、注意したり突っぱねたりできるか」
武内P「そ、それは……」
まゆP「同性ならともかく、異性に対してそんな事をするとは考えにくい女の子が、自分に対してだけ勇気を振り絞ったアプローチを断るのは心が痛むもんな。相手が良い子であればあるほど、傷つけたくなくて断れない。強く言えない」
武内P「……」
まゆP「注意できないでいるうちに、相手の女の子は少しずつ大胆になる。昨日のアプローチは受け入れてくれた。戸惑っていたけど、恥ずかしそうにしてくれた。私の事を意識してくれている。今日はもう少し頑張ってみよう――という具合に」
武内P「な、なるほど」
まゆP「そんな女の子の健気で愛らしい想いを受け続けて、オマエは耐えられるか? 私はプロデューサーだから、大人だからと自分に言い聞かせる程度でこの猛攻をしのぎ切れるとでも?」
武内P「ま、待ってください! 島村さんが私をそういった目で見ているとは決まったわけではありません」
まゆP「オマエの思い込み……いや、自惚《うぬぼ》れに過ぎない可能性があると?」
武内P「普通に考えればそちらの可能性の方が高いでしょう。島村さんが、私のような男を好いている可能性よりも」
まゆP「武内さぁ……今のオマエにとって、最悪な事態って何だ?」
武内P「え? それは……」
7 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:20:31.94 ID:Om8/vz+U0
まゆP「自分は年頃の人気アイドルに愛されていると勘違いしたあげく、そのアイドルに“アイドルとプロデューサーとして適切な関係でいましょう”と言って、アイドルに“え……? 何一人で勘違いしてるのこの人? 気持ち悪い!”って思われる事か? 違うだろ!」
まゆP「オマエにとっての最悪の事態は、アイドルに好意を寄せられているという事実から目を逸らし! アイドルからのアプローチが激しくなっていくのを成すすべなく見守っていくうちに心を完全に奪われる事だ!」
まゆP「心がなあ! 完全に奪われちまったら後の祭りだ! その時になってようやくアイドルに注意しても意味なんか無いんだ!」
まゆP「俺はオマエをそういう目で見ていないし、見られない。アイドルとプロデューサー、何より子どもと大人だからと言っても、勝ち誇って笑うんだよ!」
まゆ『でもまゆのコト、好きなんですよね?』
武内P「え?」
まゆP「あ」
佐久間まゆ
http://i.imgur.com/kKrEkb3.jpg
8 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:21:25.17 ID:Om8/vz+U0
武内P「……」
まゆP「……」
武内P「あの……まゆP、今の話は……」
まゆP「……実体験だ」
まゆP「突き放そうとしても……距離を取ろうとしても……“まゆは貴方の本心をわかっていますから”って、余裕たっぷりで笑うんだよ! 俺の無駄なあがきを慈しむような笑み! 俺は……あの笑顔を見る度に、もうこんな無駄な抵抗なんてやめてしまって、さっさと幸せになろうって……自分に負けそうになるんだよ!」
武内P「まゆP……貴方は……貴方はまだ、負けていませんっ」
まゆP「負けねえよ? 俺なんかどうでもいい。まゆのために俺は負けられないんだ。俺の心はまゆに持っていかれたが、それでも俺は断じて負けねえ。手を出さない限り俺の負けじゃないんだ」
武内P「はい……きっといつか佐久間さんも、自分が恋だと思い込んでいたモノは思春期の憧れに過ぎないと気づいてくれます。そして手を出さずに見守り続けた貴方に感謝してくれるでしょう」
まゆP「ああ、きっとそうなってくれる。そうに違いない」
武内P「ええ、きっと。おそらく……はい、多分」
まゆP「おい、俺の目を見て言え」
武内P「……すみません。今貴方を見れば、泣かずにすむ自信がありません」
まゆP「は、ハハ。俺よりオマエはマシだがな、絶望的な戦いに挑んでいるという点では変わんねえからな!」
まゆP「いいか、惚れたら負けだ! いや、俺は負けてねえけど、とにかく惚れたら負けだ! 一度惚れてしまったら、相手はアイドルで未成年だと、どれだけ自分に言い聞かせても無駄だ。そしてそれを見透かされてみろ。完全敗北だ! いや、俺は負けてねえけど!」
武内P「わかっています……まゆP、貴方はまだ負けていません」
まゆP「そうだ! そしてオマエもまだ負けてねえ! 今のうちに釘を刺すんだ!」
まゆ「私たちはアイドルとプロデューサー、子どもと大人だってな!」
9 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:22:08.20 ID:Om8/vz+U0
※ ※ ※
武内P(……そろそろ島村さんとの約束の時間ですね)
武内P(急いで二人だけで話せる場を用意しましたが……覚悟が決まっているとは言い難い状態です)
武内P(しかしどれだけ時間をかけても、覚悟などできるわけがありません)
武内P(あの島村さんに気色悪いと思われる覚悟、あるいは――想いを否定して、恨まれる覚悟。そんな覚悟をどうやれば持てるというのでしょうか
)
武内P(時間をかければかけるほど状況が悪化する以上、いつまでも決まらない覚悟を待っている時間などありません)
武内P(私は今日ここで、島村さんに嫌われる……っ!!)
コンコン、ガチャ
卯月「失礼します」
武内P「……お疲れ様です、島村さん」
卯月「はい、お疲れ様ですプロデューサーさん。お話って何のコトでしょうか?」
武内P「……ええ、はい」
卯月「レッスンについてですか? あ、それとも新しいお仕事だったり♪」
武内P「いえ……そういった話ではありません」
卯月「え? う〜ん、それでは何のお話ですか?」
武内P「今日お話ししたいのは、アイドルの在り方についてです」
卯月「在り方……ですか?」
武内P「島村さんは学業とアイドルを上手く両立させていると思います。しかし一点だけ、不安がありまして」
卯月「は、はい。私に足りないモノがあるんですね。いったい何でしょう?」
武内P「これは私の思い過ごしだとは思うのですが……」
卯月「……?」
武内P「……」
卯月「プロデューサーさん……?」
武内P(言わなければ……まゆPが言っていた通りです。私にとって最悪の事態とは、島村さんに気味悪がられる事でも恨まれる事でもありません。アイドルとプロデューサーとして、適切な関係を築けなくなる事です)
武内P(言わなければ……たとえ、島村さんに嫌われようとも)
武内P「実は……」
卯月「あの……もしかして例の噂のコトですか?」
武内P「……噂?」
武内P(何とか切り出そうとした時です。島村さんが気になる事を口にしました)
卯月「あ、違いましたか? 実は最近、私とプロデューサーさんについて噂が流れていたみたいで、そのコトかなって」
武内P「私と島村さんについての噂ですか。それは初耳です。どういったモノでしょうか?」
卯月「そ、それが……ええっとですね。私とプロデューサーさんが、その……」
武内P「……私と島村さんが?」
卯月「か……隠れて付き合っているんじゃないかって!」
武内P「な……っ」
武内P(その噂は私の疑念が的外れではないと教えてくれるものでした。傍《はた》から見ればそう見えるほど私たちの距離が近いということであり、何より――)
卯月「お、おかしな噂ですよね! 私なんかじゃプロデューサーさんと釣り合うわけがないのに、アハハハハ」
卯月「でも……自分でも不思議なんですけど、恥ずかしいって気持ちや申し訳ないっていう思いより……プロデューサーさんと仲が良いと噂されて……嬉しいと感じちゃうんです」
武内P(――まんざらでもない様子で話すその姿は、ますます私の危機感を募らせるものでした)
10 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:22:42.37 ID:Om8/vz+U0
武内P「その噂は初めて耳にしましたが……島村さんに来てもらって件と無関係ではありません」
卯月「……」
武内P「そういった噂が流れてしまうのは、私たちの距離がアイドルとプロデューサーとして不適切なまでに『迷惑……でしたか?』――島村さん?」
卯月「わ……私……楽しくって……プロデューサーさんと仲良くして……私のコトでプロデューサーさんが驚いたり慌てたりしてくれるのが……嬉しくって」
武内P「い、いえ! 決して迷惑などでは!」
卯月「でも……そうですよね? 私はアイドルで……アイドルを夢見て……それがようやく叶って……プロデューサーさんはそんな私の夢を支えてくれる……子どもを守る、大人ですもんね」
武内P「……」
卯月「今みたいな距離じゃ……プロデューサーさんに迷惑ですもんね?」
武内P「……っ」
武内P(これが正しい。これで良い。そうわかっているのに、そう決まっているのに――そんな事は無いと言い出そうとするこの口を、歯を食いしばって抑え込む)
卯月「明日から……こういった噂が流れないように、ちゃんと気をつけます」
武内P「……はい。そのようにしていただければ助かります」
卯月「でも……一つだけ、お願いがあるんです」
武内P「……お願い、ですか?」
武内P(噛みしめすぎてこめかみに覚える痛みと、それ以上の罪悪感に襲われている私にとって、そのお願いは救いに思えました)
武内P(お願いの内容が何なのかはわかりませんが、それを叶える事ができるのならば、この胸を締め付ける痛みが和らいでくれるかもしれません)
卯月「……待ってくれなくていいです」
武内P「……え?」
卯月「私が大人になる前に好きな人ができて、その人と想いが通じ合って付き合ってもいいです。その人と……結婚……しても……私は祝福します」
武内P(一つ一つの言葉を、断腸の思いのように紡いでいく姿はあまりに悲壮で――)
卯月「でも、もし……私が大人になって、アイドルを辞める時に――プロデューサーさんの隣に女の人がいなかったなら……私の話を、聞いてください」
武内P(――儚《はかな》くて美しく、私を息をのんで見守るしかできませんでした)
卯月「受け入れてくれなくていいです。ただ……聞いてください。今の私じゃ伝えても迷惑なだけな、この想いを」
武内P(その瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた)
卯月「私がお願いしたいコトは……ただその一つだけなんです」
武内P(とめどなく溢《あふ》れ出そうとする涙に耐えた泣き笑いを、私は一生忘れる事はできないでしょう)
卯月「お願いします! プロデューサーさん!」
武内P(彼女のただ一つの、健気な願いに私は――)
11 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:23:22.51 ID:Om8/vz+U0
――
――――
――――――――
まゆP「……で、そのお願いを受け入れたわけだ」
武内P「はい……断る事など、できなくて」
まゆP「はぁ……オマエさあ」
武内P「し、しかし! 数年もすれば、いえ数年どころも一年もしないうちに彼女も気づくはずです。私などでは彼女に釣り合わないと」
まゆP「……なあ、四年後のまゆが俺を諦めてる可能性はどのぐらいだと思う?」
武内P「四年……四年ですか」
まゆP「そうだ。叶わない想いが冷めるには十分過ぎる長さだけど、どうよ?」
武内P「……四年程度で佐久間さんが諦めるとはとうてい思えません。せめて十年は必要でしょう」
まゆP「オマエ……俺を前にしてハッキリと言ってくれるな。俺がこの戦いを十年以上続ける必要があるってサラリと言いやがって」
武内P「あの佐久間さんと対峙している貴方が、甘い願望を抱いているとは思っていませんので」
まゆP「ん。まあ十年で済めば御の字だと思っている。つまり俺は十年以上まゆの猛攻をしのぐ必要があって、その覚悟をしているつもりだ」
まゆP「けどオマエはダメだ。俺と同じぐらいの覚悟が必要なのに、一年もしないうちに卯月ちゃんの想いが冷めるなんて夢を見ている」
武内P「え……? いえ、あの……島村さんの想いが、あの佐久間さんに並ぶとは思えません」
まゆP「しっかりと言質《げんち》取られてるクセに何言ってんだオマエ。いいか? 明日から卯月ちゃんはオマエと距離を取るだろう。一見な」
まゆP「けどな、オマエとの約束を取りつけた自信が彼女を強くする。逆に約束してしまったオマエは弱くなる」
まゆP「彼女はふとオマエと目があった時、優しくも情念の込められたほほ笑みを返すだろう。彼女の何気ない一挙一動でオマエは情けなく狼狽《うろた》えちまうんだ」
まゆP「男と女が将来の約束をしてしまった以上、目を合わせるだけでも十分なんだよ。今までみたいに距離を詰める必要なんか無い。彼女はアイドルとしてわきまえたようでいて、これっぽっちもオマエを諦めていないぞ」
武内P「まさか! いくらなんでも考えすぎです」
まゆP「考えすぎ……考えすぎねえ。まゆを相手にして疑い深くなったかもなあ、俺」
武内P「ええ。あそこまで一途な子はそうそういませんから」
まゆP「考えすぎと言えば……距離を取るって話を切り出そうとしたら、卯月ちゃんから話し始めたんだろ? で、話のペースを持っていかれて約束をしてしまった……ねえ」
武内P「何が言いたいんですか、まゆP?」
まゆP「……いや、オマエの言う通り考えすぎだ。予断は許さないとはいえ、オマエの当面の問題は解決できたんだ。飲もう飲もう!」
武内P「ええ、今日はとことんまで付き合います」
まゆP「ん〜、しかし変だよなあ。俺たちちゃんとこうやって飲みながら対策練ってるのに、なんでアイドルに追い詰められるんだろうなあ?」
武内P「そうですね。二人で力を合わせているのに」
武まゆP『不思議だなあ』
12 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:24:07.55 ID:Om8/vz+U0
※ ※ ※
卯月「――というわけで、私の方から話を切り出しました! これもまゆちゃんからの情報提供のおかげです!」
まゆ「うふふ、いいんですよ。私が見逃した情報も、卯月ちゃんがCPのプロデューサーさんを通して拾ってくれたりしますから」
卯月「あ、そういえば今晩も二人で飲みに行くみたいです」
まゆ「同期と仲が良いのは結構ですけど……これ以上仲が良くならないように注意しないといけませんね」
卯月「追い詰め過ぎて男に走ったら困りますもんね」
まゆ「そういう意味では今回の卯月ちゃんの手は絶妙でしたね。追い詰めるのではなくやんわりと囲む。素晴らしいです」
卯月「だって……一つずつ崩していく方が、プロデューサーさんが私に懊悩《おうのう》する色んな姿を長く見られて幸せじゃないですか!」
まゆ「うふふ。卯月ちゃんが敵じゃなくて本当に良かったです」
卯月「私の方こそ、まゆちゃんが味方で本当に良かったです」
まゆ「……信頼する仲間であるCPのプロデューサーさんが折れれば、プロデューサーさんの心も折れる」
卯月「逆もまたしかり」
まゆ「私たちこれからも、仲良く協力していきましょう」
卯月「はい! 二人とも幸せになるために!」
まゆ「うふふ」
卯月「ああ……っ」
まゆ「あはははははははははははははは」
卯月「へそ下辺りが、むずがゆい……っ」
〜おしまい〜
13 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:24:58.67 ID:Om8/vz+U0
最後まで読んでいただきありがとうございました。
通算9度目、2ヵ月連続、しまむーでは2度目のご理解を記念した奉納SSになります。
次のお話はウマ娘で
「笠松の皆から“トレーナーさんをしっかりモノにしときなさい”と言われたオグリが油性ペン(極太)を手にする」
を書く予定です。
……ところでウマソウルを宿すとウマ娘になるんですよね?
つまりホモサピエンスソウルを宿せば――あ、察したじぇ。
14 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:25:32.83 ID:Om8/vz+U0
これまでのおきてがみ(黒歴史)デース!
【モバマスSS】凛「プロデューサーにセクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446375146/
加蓮「CPのプロデューサーってかっこいいよね」凛「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447574640/
未央「貴方の視線」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448895601/
楓「私たちも」美嘉「プロデューサーに」小梅「…セクハラしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449474797/
莉嘉「Pくんってかっこいいよね!」美嘉「」【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454068376/
武内P「襲われました…」卯月「へそ下辺りが満たされました♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455880196/
早苗「CPのプロデューサー君(武内P)ってかっこいいじゃない」楓「どやぁ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458041208/
凛(五体投地)「お願いだからやらせてください」武内P「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461585627
島村卯月の性教育【※武内Pもの】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471173660/
武内P「これは……私の抱き枕?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474714761/
藍子「CPのプロデューサーさん(武内P)ってかっこいいですね」未央「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479472847/
武内P「渋谷さんがお神酒を飲んだら……」凛「プロデューシャー♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483266061/
武内P「女性は誰もがこわ……強いですから」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486799319/
美嘉「アタシは――――処女だから」武内P「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493789801/
まゆ「ムリヤリ凸凹×……するんですよね?」モバP「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1497097910/
蘭子「汝が望む豊かな乳房のため、儀式を行っている!!]武内P「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1498048271/
武内P「私がロリコンで熟女好きのホモ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1500183343/
まゆP「ホモになるぞ!」武内P「その手がありました……ッ!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1502777106/
武内P「絶対にアイドルに手を出したりしませんッ!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1509169274/
武内P「眠る私に口づけをしたのは」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514581555/
武内P「パッションな皆さんとの平穏な日常」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525510965
楓「初めましてお義母様」武内P「」
幸子「孕まされてお腹がパンパンです♪」武内P「」
武内P「私が童貞ではなかったせいで」
武内P「私の愛が重い?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1559328861
武内P「姉を望んだ末路」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1563177051
武内P「桃太郎」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1569111780
15 :
◆SbXzuGhlwpak
[sage]:2021/12/28(火) 06:26:07.48 ID:Om8/vz+U0
モバP「輝子が魔王になってしまった」輝子「Welcome to this crazy Time!!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1570966043
武内P「私をドキドキさせたい?」小梅「……うん」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1575794519/
楓「つまり私が彼女ということですね!」武内P「え?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1578872881/
武内P「素直じゃないプロポーズ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1586776696/
武内P「まゆのお悩み相談室?」まゆ「はぁい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1588283199/
武内P「島村さんが私の?」卯月「お気に入りですよね!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1589098334/
茜「さいきっく・おいろけビーム!!!」武内P「!!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1590605113/
武内P「ホモのショックで記憶が」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1593212226
武内P「魔神が生まれた日」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1597086263
武内P「ノンケの証明」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1602379126
仁奈「ノンケの気持ちになるですよ!」武内P「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1605324279
武内P「神崎さんが反抗期になってしまいました……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1608413995
楓「恋と呼ぶのでしょう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1611959574
武内P「私にマーキングしたい?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1615806377
千夜「お前を監視する」武内P「?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1619637247
武内P「脳が破壊される?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1623064813/
千夜「お前のモノを測る」武内P「?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1625265155
凛「……」まゆ「……」【セ〇クスしないと出られない部屋】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1625963589
武内P(これは……脅迫状?)文香(あれは……ラブレター!?)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1627687863
奏「CPのプロデューサーさんってチャーミングよね」文香「……ダメですよ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1634384818
莉嘉「どうしてお姉ちゃんはまだ処女なの?」武内P「」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1636840341
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/28(火) 06:56:23.24 ID:UGg3GAml0
久しぶりのへそ下卯月
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/28(火) 07:31:46.90 ID:86zGoX0U0
綺麗な卯月かと思ったがそうは問屋がおろさねえ
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/28(火) 07:33:50.67 ID:KP5f1Rd7O
ヘソ下だったか…こっちも好きだから助かる!
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2021/12/28(火) 09:48:58.64 ID:X9oSN2NDO
やはりへそ下
普通でない普通さが、奴らには命取りよ
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