【安価コンマ要素あり】Master of arms−−武具の支配者−−

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342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:42:51.66 ID:kGyfnVX6O
目に映る商品はどれもこれも素晴らしい出来栄えをしていた。あなたは無意識のうちに、感嘆の声を漏らしていた。

「そりゃそうだろう。オレが心と全力を込めて鍛えた逸品だ。それがそこらの安物と一緒に見えるような素人に、オレはこいつらを使って欲しくないね」

「まあ、安物が悪いわけじゃないがな。あれだって、普段使いするならちょうどいい物だ。普段使いするなら、な」

そう言うシュミットの視線は、あなたに向けられている。じっとりとしていることから、抗議されていることは理解出来た。

最悪神器を抜けばいいから普段使いの武器なんて安物でええじゃろ。そんな浅ましい考えがあったことは認めるし謝る。
が、それは過去の話だ。今あなたは、自身の本気に耐えられる装備を求めていた。神器以外で。神器が手に入るのなら、それはそれとしてありがたく頂戴する。

そういう意味では、シュミットが作り上げた物はあなたの無駄に高い要求水準を見事に満たしていた。
神器顔負けの耐久性と斬れ味を持つそれは、使い手によっては後世に神器と言い伝えられてもおかしくない。
意思は内包していないので、言い伝えられたとしても神器未満の紛い物になるだけではあるが。

「だがまあ、お前にゃまだ手が届かんだろう。もっと稼いでから来な」

逸品を買うにはまだまだ寂しい懐を見透かされたあなたは店主の洞察力に脱帽し、また品揃えを観に来ることを伝え退店した。

「平和を望んでいるくせに闘争を求めている。なのに、殺すのには微塵も興味が無し、と。面白い眼をしてる奴だ」

「お前にどんな神器が相応しいか見定めてやる、天命の煌災」

くつくつと笑う女神の声は、勇者には聞こえなかった。
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:43:31.23 ID:q1ulCQSxO
現実に打ち拉がれたあなたはマーケットを進む。その最中に、見知った顔と出会った。

「おう、数日ぶりだな」

「あれからどうですか?体調を崩したりしてないですか?」

一緒に墓場で一仕事をした美女と野獣コンビこと『付き合ってません。本当です』パーティことエルウッドとシルファだった。
防具と買い物の内容を見るに、これから依頼を受けに行くのだろう。

「ん、まあ、な。ちょっと新人のお守りをすることになったんだ」

「カレアードとエルダのちょうど真ん中辺りにある農村で、賊の被害が出ているんです。その対処をする依頼があるんですけど」

「どういうわけか、ベテランが対応する前にひよっ子たちに流れちまったみたいでな。再三受付嬢たちも警告したが、何とかなるって押し切ったそうだ」

「若くて血気盛んなのは良いのですが、無謀なことはしないでいただきたいので。せめて、私たちがフォローに回ろう…ってわけです」

カレアード。別名魔王領で、そちらの方が通りの良い名前だ。嘗てはあなたもカレアード内で暴れ回ったものだ。
ここから数百kmは下らない距離にある村を助けに行くとは、なんとも奉仕の精神に溢れている。素晴らしいものだと内心感心していた。
災難なことだとあなたは二人を労う。エルウッドは苦笑し、言葉を漏らした。

「ま、誰も死なないように俺が頑張るよ」

健闘を祈る、とあなたは手を振り、二人を見送った。
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:44:20.92 ID:Mw9Fi4gmO
待ち合わせ時間が迫る中、二人は列車の発着場で待機していた。

「あと10分で電車が出ちまうぞ。流石にそこまでは面倒は見切れないからな」

「約束の時間を守るのは人として当たり前のことですからね。私も異存ありません」

軽食のホットドッグを頬張るエルウッドは、弓の手入れをするシルファをぼんやりと眺めている。

「これで俺より歳上だってんだから怖いよな、エルフって」

「あら、私は人間換算すればまだ成人もしていない小娘ですよ。それを怖いだなんて酷い」

「いや怖いよ。俺なんか、もう一年経つ度に身体の節々に違和感が出てきてるってのに…。お前さんは俺より歳上なのに、どんどん調子が良くなるんだろ?」

「エルフですから。まだ100年くらいしないと、エルウッドさんのような状態にはならないかと」

「その頃には俺死んでるなー、はは。…はぁ」

人種の違いか価値観の違い。分かってはいるが、彼女とは何もかもが違う。生きていた世界も、見てきた世界も。感じてきた世界も、何もかもが。

人間と他種族が交流を始めて長い年月が経ったが、個人間の認識が擦り合うまでは、まだまだ時間が掛かりそうだ。

そんな壮大な考えを、最後の一切れと共に飲み込んだ。
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:45:07.64 ID:3Bd9Fv4zO
「さーせーーーん!!!お待たせしやしたーー!!!」

耳を劈く叫び声と共に姿を現したのは、元傭兵の冒険者と同年代かやや若いくらいの青年たちだった。

公共の場ではお静かに、とエルウッドはジェスチャーをすると、三人は慌てて頭を下げた。悪気があったわけではないようだ。

「ほら、急いで列車に乗るぞ。自己紹介とかは中でも出来るし、もう出発の時間だ。よその人に迷惑掛けちゃダメだからな」

「うす!」

先導するエルウッドに、雛鳥のようについて行く新米冒険者たち。可愛らしいものを見るような目で、シルファは微笑んだ。

『カレアード行き特急列車、間もなく発車します。お乗りの方はお急ぎください』

透き通るような美声が数度鳴った後、鉄の方舟はガタン、と音を立てて動き始めた。

「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

それを青年らは、窓から顔を出して眺めていた。初めて見る光景に目を奪われていた。

彼らは知らない。勢いに任せて引き受けた依頼に潜む悪意を。
彼らは知らない。深淵に触れた人の真(まこと)の恐ろしさを。
エルウッドは知らない。ある冒険者が適当にでっち上げた経歴に隠された惨劇の数々を。

まだ、知らない。
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:45:44.52 ID:3Bd9Fv4zO
その一終わり。続きは出来たら投下します。
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/12(火) 10:36:07.26 ID:6iTjQhqA0
早いね、乙
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/13(水) 00:57:26.38 ID:rlW956vj0

不穏な気配だな
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 17:57:28.84 ID:rYV+b3N9O
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