【安価コンマ要素あり】Master of arms−−武具の支配者−−

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324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/07(木) 01:40:13.13 ID:UNoJWrORO
ウロボロスリングから目を逸らし商品を物色していると、可愛らしい猫のヘアピンが目に入った。
どうやら、モチーフはこれの製作者が飼っている猫のようで、スリムな顔にクリクリなお目目が付いてとってもキュートである。
何故か歯が剥き出しだが。大口を開けている必要は無いだろうに。

「ああ、可愛い顔をしてるがその猫はとんでもなくやんちゃでな。知り合いの飼ってる猫なんだが、毎日飼い主を噛みまくってるんだ。たまに訪問するだけの俺もターゲットらしくてな。ほれ」

店主が服を捲ると、生傷だらけの腕が姿を現した。治癒が済んで傷痕になっているものも多い。なんとも痛ましい光景だ。

「なんとか矯正しようと試みたらしいが全部ダメ。寧ろ噛み癖は悪化して地獄を見ているらしい。寝る時だけは超可愛いらしいけどな」

「まあ、猫だし…。自由気ままに生きてるのが良いところでも悪いところでもあるわよね」

商品に隠れた悲しき裏事情に涙し、あなたは再度物色を始める。
どれもこれも魅力的だがやはり、一番は猫のヘアピンだ。

これが良い、とあなたはヘアピンを購入することにした。実家から逃げ出したとはいえ、冒険者生活でちゃんと稼いでいるので買えるくらいの貯蓄はあるのだ。

「まいどあり。恋人にプレゼントたぁお熱いねぇ」

そんな冷やかしを流しつつ、帰路に着くことにした。
その間、フィズは怪訝な表情をしていた。
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/07(木) 01:41:25.05 ID:WTEst91rO
「で、それを誰にあげるの?私…なわけないわよね?」

訝しむような問いかけに、あなたは毅然と答える。無論、フィズに贈るものだと。

帰るべき場所を護り続ける。そう想ってくれているフィズに、少しでも感謝を伝えたいのだと。そう答えた。
そして、自分に関係あることだから、出来ることであれば協力すると、定期的に帰還して顔見せするとも伝える。
これはある意味契約金、前払い金のようなものだ。約束を守るための覚悟を分かりやすい形にしたものだ。

「…へぇ。どういう風の吹き回しなの?」

対するフィズの反応は、冷淡なものだった。何か失礼でもあっただろうか。
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/07(木) 01:41:59.41 ID:WTEst91rO
「…あのね。ほんのちょっと前まで割と塩対応されてたのよ。それが急に、ここまで優しくされたらいくら好きな人相手でも怪しむわよ」

「誤解が無いように言っておくけど、贈り物はものすごく嬉しいわ。…ただ、やった!嬉しい!って素直に受け取れないだけ」

そこまで言うと、フィズは唇を噛みながら俯いた。あなたの目には自己嫌悪しているように映っている。

「…ごめんなさい。折角のプレゼントなのに」

フィズは俯いたまま、ラッピングされたヘアピンをあなたに返却する。
迷っていたのか、返却するまでの間に数度逡巡していた。

「…こんな醜態を晒した私でも良ければ、プレゼントは受け取るから。だから、改めて私に声を掛けて。その時は、私も相応のお返しをするから」

「でも、忘れないで。もし、万が一、そのプレゼントが軽い気持ちで渡すつもりのものだったら。とりあえず渡しておけば喜んでくれるだろう。好きでいてくれるだろう。って打算の元の贈り物だったら」

「その時は私は泣くわ。…涙が枯れても、それでも。ただひたすらに泣き続ける。悲しみを流しきるまで、ずっと」

後悔を帯びた声色でフィズは告げ、背を向け走った。涙を流しているように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/07(木) 01:42:40.53 ID:WTEst91rO
翌日。深い眠りから目が覚めたあなたは、ボサボサの髪を整えていた。
寝ぼけた意識をはっきりさせるため、冷水で顔を洗う。

「お、おはようございますぅ…」

後ろから声を掛けてきたのは、新入り神器のジーナだった。
同じく寝起きでボサついた髪からは女子力を感じないが、服は可愛い柄のパジャマなので女子力減衰は差し引きゼロといったところか。

「ふわぁ…。やっぱり、寝る感覚って慣れないですね…」

人になってまだ日が浅いジーナは、人間生活に四苦八苦しているようだ。
なに、どうせすぐ慣れる。とあなたは励ました。
実際、他の神器たちもすぐ順応した。それまでは惨憺たる光景ばかりだったが。
食器の使い方が分からずご飯を溢しまくるエリー。風呂の入り方が分からない、一人が怖いと泣きじゃくっていたエリー。
とまあ、そのほぼ100%はエリーが見せた醜態なわけだが。子供だから仕方ないが。

「わ、私もそうならないように気をつけます」

良い心がけだとあなたは笑い、朝の牛乳を飲み干した。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/07(木) 01:48:40.77 ID:nfanuMWpO
ここまで。
ちなみに、登場予定の神器ですが、安置されているダンジョンの参考BGMは『天空の塔(ポケモン不思議のダンジョン)』です。
エルデンリングその他で遅くなりました。申し訳ありません。

屋敷居住時代の侍従を募集して終わります。

【侍従枠】

男女の指定なし。新人ベテランも問いません。
ただ、魔族は新人のみ限定です。それ以外の種族は新人でもベテランでも可。
あなたが逃走した今は、妹たちの補佐やあなたの捜索にあたっています。
戦える人もいますが、あなたの戦友ほど強くはありません。上限でも、エルウッドさんと互角かそれ以下程度の実力です。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/07(木) 07:46:08.17 ID:mJvbRxon0
乙です

ここまでの反応、あなたは戦争のストレスやら国からのしがらみやら抱える前からフィズに大概過ぎる塩反応で、贈り物もしたことなかったんか
でなければ、多少なりともあなたが精神的に回復してきたのかなみたいな反応しそうだし
フィズもフィズで、つまり、あなたが実際に帰ってくることをほぼ期待していない、あなたの帰る場所を用意しようといたわけで……
おい重いぞこの子(大概あなたのせい)

しかもこのあなた、約束なりなんなりである程度縛り付けとかないと、「死に逃げることは許されない」と思っているから自死はないだろうけど、
どっかでアラバコア戦みたいな自暴自棄的な戦いして死んでそうなのが、またなんとも言えない
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/04/07(木) 11:48:21.56 ID:hYAVLnAt0
【従者枠】

【名前】カトレア・モレット
【性別】女
【種族】人間
【魔法】探知系魔法
【詳細】ベテランの従者。水色髪で長髪の女性で右目が髪で隠れている。美人でグラマラスな容姿。"あなた"が幼い頃から屋敷で従者を勤めており容姿も変わらずそのまま。冷静沈着な性格でどんな時でも冷静に対応している。年上、年下関係なく敬語で話している。武器は大きめのハンマーで今でもを使っている。元冒険者で幼い"あなた"に色んな冒険の事等を話していた。(どちらかというと"あなた"の方から興味を持っており聞いてきたりしていた)もちろん神器の事も知っている。今は魔法を使って"あなた"の捜索にあたっている。
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/07(木) 14:07:48.89 ID:ATJdoa6KO
あー、なるほど
元々「あなた」は普通の感性持ってたけど、恋とか愛とか知る前に戦争とかで歪んじゃったとばっかり思ってたけど
戦争前から「あなた」が他人への情とかほぼなかった(それが戦争で更に酷くなった)とすると腹に落ちる

フィズは、「あなた」にかつて持ってた人間らしさを取り戻して欲しいわけじゃなく、「あなた」に愛されることも、「あなた」が(自分以外も含む)誰かを愛することも諦めながらも、見返りを求めない愛情を振りまいてたってことなのか
ちょくちょく、もうちょっと大事にしてくれてもいいのにー! とか言ってるのは、あくまで一緒にいるための外向きの理由付けってことなのかな
「あなた」に取ってはこの前のフィズの気持ちに答える努力の、第一歩的な行動だったかもしれないが、十数年ずっと続けて、とっくの昔に諦めてたのに今更期待もたせるなってことなら、そりゃ泣く

(書いといてなんだが、大外れかもしれん)
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/07(木) 19:39:18.80 ID:hYAVLnAt0
>>330
すいません一部訂正します
【従者枠】→【侍従枠】
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/08(金) 00:59:33.67 ID:ExgwVwnq0
何度もすいません。>>330の訂正します
「ベテランの従者」→「ベテランの侍従」
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/08(金) 19:52:11.70 ID:p1HyUY6UO
侍従枠

【名前】ロウ・デイビス
【性別】男
【種族】人間
【魔法】分身魔法 何人もの分身をつくり出すことができ、本人と分身がお互い離れていても情報共有が可能。
【詳細】茶髪ボサボサ髪でひげがはえている40歳の男性。「めんどくさい」が口癖だが仕事はしっかりこなしている。ナイフを使った戦闘が得意。屋敷には長く侍従を勤めている。聞き上手で妹達や"あなた"の相談相手になってくれた。人柄もいいので妹達から信頼されている。分身を使って妹達の補佐と捜索にあたっている。
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/08(金) 22:25:59.19 ID:fwnfaUQg0
【名前】ステラ・マルーク
【性別】女
【種族】人間
【魔法】熱魔法(自在に暖めたり熱を奪って冷やしたりできる)
【詳細】青髪ショートヘアで褐色肌。年齢はあなたとその妹の間くらい
クールで気が利くなかなかの有能であり、当主となった妹の右腕的存在の一人
主に家事と当主の補佐を担当。常に丁寧語で礼儀正しくてきぱき仕事する
元々は孤児であなたの家に拾われてあなたと妹とともに育ってきた
そのためあなたと妹とはお互い幼馴染のような気安さがあり
あなたや妹に対して冗談を言ったりやや辛口なツッコミをいれたりもする
ただしプロ意識が高く侍従としてわきまえているので、やりすぎて主を不快にさせることは絶対にしない
身辺警護もするため多少腕に覚えがあり下級冒険者程度なら割と勝てる
熱魔法を繊細にコントロールして最適な温度でお茶を淹れるのが特技
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/11(月) 04:13:01.07 ID:Kk/fsI9l0
侍従枠

【名前】デルタ・ベヤリス
【性別】男
【種族】獣人(タヌキの獣人)
【魔法】変身魔法 (男女とはず見た相手に変身する事ができる。変身すると容姿や声が変身した相手と同じになるが魔法は真似する事はできない。魔物にも変身ができる。)
【詳細】
オレンジ髪短髪でタヌキの耳がついている。身長は160cmでタヌキの尻尾がある。18歳だが侍従になったばかりの新人、それでも有能な妹たちの為に補佐など色々尽くしている。心配性で臆病な性格なので妹たちによくいじられる。あなたに対しても心配している。普段は臆病な性格だが武器を持つと落ち着いた性格に変わる(武器は剣2本使い二刀流)。変身魔法もその人に変身すると相手になりきる為、性格もその人と同じ性格になる。戦闘では戦友達ほどではないが冒険者達の中では結構強い。こんな自分を拾ってくれた屋敷の人達に恩を返す為、日々頑張っている。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/11(月) 19:40:29.81 ID:i0vFhw1eO
ども、次回予告に参りました。

次回は『がんばるおっさんがんばれ新人』と『目醒めし煌災』の二本立てになります。

投稿はまだ少し掛かりそうです。完成したら一つ投下、もう一つも完成次第投下する予定です。
募集は完成したあたりで締める予定です。では。
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/11(月) 20:46:21.04 ID:RJ9lho5To
ほうこくおつー
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:41:12.54 ID:slbhixy8O
なんか筆が乗ったので前編、後編って感じでいくつかのパートに分けて出します。出来上がった部分を投下します。
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:41:49.43 ID:slbhixy8O
幕間『がんばるおっさんがんばれ新人』


朝食を済ませたあなたは、ギルドの依頼を確認することにした。休暇はまだ明けていないが、ある程度の予定を立てるなら今の状況に目を通しておいた方が良いと判断したためだ。

掲示板をチェックしたあなたは、興味本位で酒場に立ち寄った。

冒険者の歓談と酔っ払いの笑い声が心地良い。冒険者とはかくあるべきだ。
あなたは満足気に頷き、何故か尻を触ろうとした変態不届き者泥酔変質者を蹴っ飛ばした。
あなたは断じて同性愛者ではない。可愛い顔立ちもしていないし、その手の男性に受ける渋い顔立ちもしていない。
激戦を生き延び過ぎたからなのかやや冷めた目付きをしていること以外は普通だと自身を評しているし、戦友からも同意を得ている。
その時の彼らの目が泳いでいたことは何にも関係ないだろう。

綺麗な放物線を描いて飛んでいく2m弱の巨漢は、頭からワイン樽にホールインワンする芸術点満点間違いなしのビューティフルな一芸を披露した。
これにはあなたも拍手喝采。オーディエンスもブラボー!エクセレント!と沸き立つ最高のエンターテイメントだ。
当然ウェイトレスから商品をダメにしたことに対してお叱りを受けたので、あなたは弁償代を支払った。悪いことをしたら代償を支払うのは、子供でも解る理屈だ。

身体を張って娯楽を提供してくれたド変態に謝辞を述べ、あなたはギルドを退出した。
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:42:18.28 ID:slbhixy8O
メリッサから聴取した情報をメモに記入しつつ、店の商品を眺める。
万一の時は神器を使えば良いが、その万一が来るのは非常によろしくない事態だ。
故に、神器を使わなくてもいいようにあなたの使用に耐えうる頑強な装備を探していた。

そんなあなたの悩みを聴いた受付嬢メリッサが『オススメのお店がありますよ!』と太鼓判を押したのがこの『シュミット工房』だ。
取り扱っているのは武器、防具、装飾品などなど。鍋や包丁などの調理器具からペット用のケージまで、本当に何でも扱っている。

「おうらっしゃい。物品購入見学弟子志望なんでも大歓迎だ。だが冷やかしだけは勘弁な」

新聞を読みながらそう答えたのは工房の支配人であるシュミット嬢。炉で燃ゆる炎のような赤色の髪が鮮やかで、少し着飾れば花のような美しさになること確実な美人だと、あなたの審美眼が告げる。
まあ、その美しさは煤で黒く汚れた肌や女性らしさ皆無のタンクトップ、片目を覆う眼帯のせいで台無しなわけだが。

今は休憩中なのだろう。工房の火は小さく燻っており、シュミットは販売所のカウンターに座っている。
椅子の上で足を組み、タバコを吸うその姿からは貫禄すら感じられる。
タンクトップ剥き出しなのも、熱で火照った身体を冷まさせるためだろう。

「ん?オレをそんなジロジロ観ないでくれないか?観るなら売り物にしてくれ」

不快感を感じさせたなら申し訳ない、とあなたは謝罪し、商品に視線を移した。
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:42:51.66 ID:kGyfnVX6O
目に映る商品はどれもこれも素晴らしい出来栄えをしていた。あなたは無意識のうちに、感嘆の声を漏らしていた。

「そりゃそうだろう。オレが心と全力を込めて鍛えた逸品だ。それがそこらの安物と一緒に見えるような素人に、オレはこいつらを使って欲しくないね」

「まあ、安物が悪いわけじゃないがな。あれだって、普段使いするならちょうどいい物だ。普段使いするなら、な」

そう言うシュミットの視線は、あなたに向けられている。じっとりとしていることから、抗議されていることは理解出来た。

最悪神器を抜けばいいから普段使いの武器なんて安物でええじゃろ。そんな浅ましい考えがあったことは認めるし謝る。
が、それは過去の話だ。今あなたは、自身の本気に耐えられる装備を求めていた。神器以外で。神器が手に入るのなら、それはそれとしてありがたく頂戴する。

そういう意味では、シュミットが作り上げた物はあなたの無駄に高い要求水準を見事に満たしていた。
神器顔負けの耐久性と斬れ味を持つそれは、使い手によっては後世に神器と言い伝えられてもおかしくない。
意思は内包していないので、言い伝えられたとしても神器未満の紛い物になるだけではあるが。

「だがまあ、お前にゃまだ手が届かんだろう。もっと稼いでから来な」

逸品を買うにはまだまだ寂しい懐を見透かされたあなたは店主の洞察力に脱帽し、また品揃えを観に来ることを伝え退店した。

「平和を望んでいるくせに闘争を求めている。なのに、殺すのには微塵も興味が無し、と。面白い眼をしてる奴だ」

「お前にどんな神器が相応しいか見定めてやる、天命の煌災」

くつくつと笑う女神の声は、勇者には聞こえなかった。
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:43:31.23 ID:q1ulCQSxO
現実に打ち拉がれたあなたはマーケットを進む。その最中に、見知った顔と出会った。

「おう、数日ぶりだな」

「あれからどうですか?体調を崩したりしてないですか?」

一緒に墓場で一仕事をした美女と野獣コンビこと『付き合ってません。本当です』パーティことエルウッドとシルファだった。
防具と買い物の内容を見るに、これから依頼を受けに行くのだろう。

「ん、まあ、な。ちょっと新人のお守りをすることになったんだ」

「カレアードとエルダのちょうど真ん中辺りにある農村で、賊の被害が出ているんです。その対処をする依頼があるんですけど」

「どういうわけか、ベテランが対応する前にひよっ子たちに流れちまったみたいでな。再三受付嬢たちも警告したが、何とかなるって押し切ったそうだ」

「若くて血気盛んなのは良いのですが、無謀なことはしないでいただきたいので。せめて、私たちがフォローに回ろう…ってわけです」

カレアード。別名魔王領で、そちらの方が通りの良い名前だ。嘗てはあなたもカレアード内で暴れ回ったものだ。
ここから数百kmは下らない距離にある村を助けに行くとは、なんとも奉仕の精神に溢れている。素晴らしいものだと内心感心していた。
災難なことだとあなたは二人を労う。エルウッドは苦笑し、言葉を漏らした。

「ま、誰も死なないように俺が頑張るよ」

健闘を祈る、とあなたは手を振り、二人を見送った。
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:44:20.92 ID:Mw9Fi4gmO
待ち合わせ時間が迫る中、二人は列車の発着場で待機していた。

「あと10分で電車が出ちまうぞ。流石にそこまでは面倒は見切れないからな」

「約束の時間を守るのは人として当たり前のことですからね。私も異存ありません」

軽食のホットドッグを頬張るエルウッドは、弓の手入れをするシルファをぼんやりと眺めている。

「これで俺より歳上だってんだから怖いよな、エルフって」

「あら、私は人間換算すればまだ成人もしていない小娘ですよ。それを怖いだなんて酷い」

「いや怖いよ。俺なんか、もう一年経つ度に身体の節々に違和感が出てきてるってのに…。お前さんは俺より歳上なのに、どんどん調子が良くなるんだろ?」

「エルフですから。まだ100年くらいしないと、エルウッドさんのような状態にはならないかと」

「その頃には俺死んでるなー、はは。…はぁ」

人種の違いか価値観の違い。分かってはいるが、彼女とは何もかもが違う。生きていた世界も、見てきた世界も。感じてきた世界も、何もかもが。

人間と他種族が交流を始めて長い年月が経ったが、個人間の認識が擦り合うまでは、まだまだ時間が掛かりそうだ。

そんな壮大な考えを、最後の一切れと共に飲み込んだ。
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:45:07.64 ID:3Bd9Fv4zO
「さーせーーーん!!!お待たせしやしたーー!!!」

耳を劈く叫び声と共に姿を現したのは、元傭兵の冒険者と同年代かやや若いくらいの青年たちだった。

公共の場ではお静かに、とエルウッドはジェスチャーをすると、三人は慌てて頭を下げた。悪気があったわけではないようだ。

「ほら、急いで列車に乗るぞ。自己紹介とかは中でも出来るし、もう出発の時間だ。よその人に迷惑掛けちゃダメだからな」

「うす!」

先導するエルウッドに、雛鳥のようについて行く新米冒険者たち。可愛らしいものを見るような目で、シルファは微笑んだ。

『カレアード行き特急列車、間もなく発車します。お乗りの方はお急ぎください』

透き通るような美声が数度鳴った後、鉄の方舟はガタン、と音を立てて動き始めた。

「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

それを青年らは、窓から顔を出して眺めていた。初めて見る光景に目を奪われていた。

彼らは知らない。勢いに任せて引き受けた依頼に潜む悪意を。
彼らは知らない。深淵に触れた人の真(まこと)の恐ろしさを。
エルウッドは知らない。ある冒険者が適当にでっち上げた経歴に隠された惨劇の数々を。

まだ、知らない。
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/04/12(火) 02:45:44.52 ID:3Bd9Fv4zO
その一終わり。続きは出来たら投下します。
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/12(火) 10:36:07.26 ID:6iTjQhqA0
早いね、乙
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/13(水) 00:57:26.38 ID:rlW956vj0

不穏な気配だな
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 17:57:28.84 ID:rYV+b3N9O
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