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【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】

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518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/11/30(火) 00:35:45.15 ID:Iw46JQw1O
読み返すと、にちかもそこそこ怪しげな言動してるんだね
にちかの当初の標的が誰だったかは俺も気になる
あんま重要じゃないのかな
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/30(火) 01:47:13.11 ID:cFVfej660

メタ的にはにちかクロ確定だったけど作中視点だと自白まで込みで投票に踏み切っていいかだいぶ際どかった感じあるな
停電の瞬間に倒れたテーブルの目の前にいないと鉄串とテーブルクロスの調達難しそうだしあさひとの2択から絞れる証拠残してないように見える
520 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 10:53:16.21 ID:BBrd2CUc0

更新は夜からですが、いくつかいただいている質問などに返信させていただきます。

>>516
ロンパ本編だと発言力ゼロになった瞬間ゲームオーバーではあるのですが、今回はとりあえずナシの方向で行きます
そこらへんしっかりと定義していなかった部分でもあるので、次章以降は厳格にゼロになった瞬間報酬半減で行こうと思います
まあ次章は当分先になるとは思いますが……

>>517
メダル・アイテムは引き継ぎます。
ただし、親愛度はその人同士の友好のパラメーターであるため、前の主人公がこれまでいくらか上げていたとしても続く主人公が引き継ぐことは考えていません。

シナリオ関連の話は後にシナリオ内で語られる部分もあるので、詳細はそちらをご確認ください。
521 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 19:58:23.68 ID:BBrd2CUc0

再開時刻本日は少し遅くなります。
522 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 21:57:48.32 ID:BBrd2CUc0
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CHAPTER 01

MIDNIGHTのせいにして

裁判終了


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523 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 21:58:52.91 ID:BBrd2CUc0

モノクマ「大正解! みんなを率いるリーダー、希望の象徴だった風野灯織さんを殺害した極悪非道なクロは七草にちかさんなのでしたー!」

結華「本当に、にっちゃんが……ひおりんを……?」

果穂「にちかさん……!」

にちか「……投票してくれてありがとうございます」

美琴「……」


投票結果は正解。
風野灯織を殺害したのは七草にちか。
モノクマのやたらハイトーンな声とは魔反対に押し黙っている連中はうつむいて、文字通り葬式の参列のような空気が漂っている。
七草にちかが本当に人を殺していたこと、そしてその人間を自らが殺人犯だと告発し次なる犠牲者に差し出したこと。
そのどちらに気を沈めているのかは私には測りかねる。
ただ、その悉くが絶望という言葉で表現するに足る表情を浮かべていることは事実だ。
524 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 21:59:58.93 ID:BBrd2CUc0

モノクマ「みんなが楽しくパーティの準備をしていた中で一人別の人間を殺す準備をしていたなんて、なんとも殊勝な殺人犯ですね!」

千雪「さ、殺人犯だなんて……」

モノクマ「殺人犯でしょ。だって七草さんは明確な殺意を抱いていた、これは神様にだって否定できない事実だよ!」

(……その“神様”ってのは、私のことじゃないな)

摩美々「……ねえ、ルカの言ってた推理って全部正しかったのー?」

にちか「はい……何から何まで言ってた通りです」

摩美々「だとしたら……にちかは本当は誰を殺そうとしてたのー?」

美琴「え……」

摩美々「だって灯織はその誰かと勘違いされて殺されちゃったんでしょー、にちかが塗料を直接塗り付けた……本当は殺されるはずだった人物がいるはずじゃーん」

にちか「……言いたく、ないです」

愛依「にちかちゃん……?」

にちか「言いたくない、言えない……! 今この場所で、私が殺そうとした人間なんて言っちゃったら……!」

千雪「摩美々ちゃん、そっとしておこう……? にちかちゃんが可哀そうよ」




あさひ「わたしはハッキリさせておくべきだと思うっす」




525 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:01:26.80 ID:BBrd2CUc0

愛依「あ、あさひちゃん……!」

あさひ「にちかちゃんだって、灯織ちゃんを殺しちゃったのは不本意だったはずっす。本当に殺したかった相手への思いを隠したまま死んじゃって、にちかちゃんはそれでいいっすか?」

にちか「違うの……私が殺したかった相手には、恨みとか妬みとかがあったわけじゃなくて……」

モノクマ「ああ、もうまどろっこしいなあ! そんなに気になるなら手っ取り早い方法があるじゃない!」

モノミ「ちょっと、今はミナサンが七草さんとお話しているんでちゅから余計な口出しをして邪魔しないでくだちゃい!」

モノクマ「だからこんなうだうだ言ってる無駄な時間を使うくらいなら、もっと一発ですっぱりとターゲットが分かる方法があるじゃない!」

モノミ「え?」




モノクマ「こういうことだよ!」




バンッ!

俄かに暗闇に包まれる裁判場。


モノクマ「七草さんは殺したい相手に夜光塗料を塗りつけてたんだよ? 裁判場ごと真っ暗にしちゃえばおのずと浮かび上がってくるじゃない!」

モノクマ「それこそ暗闇を仄照らす明かりのようにね!」
526 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:03:12.41 ID:BBrd2CUc0

私は参加をしていなかったけど、きっと風野灯織が命を落としたのはこんな暗闇だったんだろうな。
手足の所在もわからなくて、すぐ近くに人がいることはわかっているはずなのに、心がざわつく。

その心のざわつきが目線を走らせる。首を振って、目を凝らし、明かりと呼べる元を探し求める。
そして、その右往左往はある一点で収束した。ちょうど人間の胸のあたりの高さに、わずかに光るものがある。
ほんの一点ほどで、言われなければなかなか気づかない。それぐらいの光量が顔をのぞかせ、私を見つめている。


ルカ「……てめェだったんだな、七草にちかの本当のターゲットってのは」


暗闇の中、私はそのターゲットに近づいていく。
まだそのターゲットは自分のことを指されているのに気づいていないのか、夜光塗料もぼんやりとして動かない。

でも、そんなことは知ったことではない。
たとえ無自覚だったとしても、他者に殺意を抱かれていたその事実は知るべきだし、知られるべき。私はそう思う。

だからそいつの肩に、手をかけた。

丁度この位置に立っていたのはアイツのはずだ。
この裁判の間、終始涼しい顔して、まるで自分は無関係ですともいわんばかりの表情を浮かべていた……【あの女】。

527 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:04:11.20 ID:BBrd2CUc0





ルカ「【浅倉透】……お前の代わりに風野灯織は死んだんだよ」





528 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:06:13.94 ID:BBrd2CUc0

瞬間、裁判場に明かりがともった。
私が手を乗せている肩の持ち主は案の定浅倉透で、自分が選ばれたことに戸惑っている様子だった。
口をまごつかせて、柄でもなくよろけて見せた。


透「え、私……?」

雛菜「透先輩〜〜〜?! なんで〜〜〜!?」

あさひ「にちかちゃんが夜光塗料を塗りつけることができたのはボディチェックのタイミング。誰を標的にしても夜光塗料を塗るチャンスはいくらでもあったはずっす」

雛菜「そういえば……透先輩のボディチェックをしたのって」


≪灯織「市川さん……いえ、まだ始まっていません。その前に身体検査をしてもよろしいでしょうか? ……七草さん、浅倉さんをお願いします」

にちか「は、はい!」

透「厳重じゃん、めっちゃ」

にちか「ここまでやる必要はあるんですかねー……」

とはいえ一度引き受けてしまった仕事。風野さんに言われるがままに浅倉さんの身体検査を行った。全身をパンパンと叩いていき、不審なものはないか確かめて、さらには【胸元も襟を掴ませてもらって】一応は確認。

透「えー、恥ず……」

にちか「す、すみません……」≫


透「あの時かー」

にちか「……これ以上ないチャンスだと思ったんです。浅倉さんを殺すなら今しかない、って」

冬優子「ちゃ、チャンスって……」
529 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:07:04.74 ID:BBrd2CUc0

智代子「な、なんで……なんで透ちゃんを殺そうと思ったの?!」

ルカ「どういうことか、説明してもらえるよな」

にちか「……」


七草にちかはなおも俯いていた。
本当にこいつはどこまで苛立たせる。美琴の隣でいつまでもうじうじうじうじと……自分を口にすることに怯えてばかり。


ルカ「……ッ!」


その苛立ちが、私に七草にちかの胸倉をつかませた。


夏葉「ルカ……! そんな乱暴な真似は……!」

にちか「夏葉さん……いいんです」

ルカ「言えよ」

にちか「……わかりましたよ」


私の顔をその間近にとらえた七草にちかは、観念した様子でその口を動かし始めた。


にちか「……発端は、モノクマの提示したあの動機でした」

恋鐘「漫才に託けて、うちらの記憶が長い間にわたってトンどることを示した、あん動機ばい?」
530 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:08:57.55 ID:BBrd2CUc0

≪モノクマ「でもな、おかんはそのマスコットはみんなの記憶を奪っとるって言うんよな」

モノミ「それは……!」

モノミ「あ、あれ……?」

モノクマ「コロシアイ南国生活に参加しているみんなの記憶を奪っちゃってるあくどいマスコットがいるんだってさ。全く、ひどいマスコットもいたものだよね!」

モノミ「あ、あはは……ほ、本当でちゅね……いったい誰のことやら……」

モノクマ「ほんでおかんが言うにはな、そのマスコットってピンク色のウサギみたいな見た目らしいんや!」

モノミ「……い、今のあちしはツートンカラーの愛らしいウサギでちゅ……人畜無害なウサギさんでちゅ……」

モノクマ「でもな、おかんが言うには最近そのウサギは色を変えられた挙句、お兄さんができたらしいねんな!」

モノミ「いやあああああああ! それ以上はやめてくだちゃい!」

モノクマ「で、オトンが言うにはな、それってモノミちゃうか?って!」

モノミ「……」

モノクマ「もうええわ! どうも、ありがとうございました〜〜〜!」≫


にちか「私の家って貧乏なんですよ。片親だし、母は入院中だし……おかげさまで安アパートにおじいちゃんおばあちゃんとお姉ちゃんとで暮らして」

にちか「お姉ちゃんは毎日バイトを掛け持ちして全部生活費にして、私もアルバイトしながらアイドルやって」

にちか「……とてもじゃないけど、何年も持つような生活じゃないんですよ」

にちか「それなのに、記憶が飛んでる? 私の知らない時間が流れてる?」

にちか「じゃあそれはどれくらい? 数時間や数日ならまだしも、もし数か月……数年なんか経っていたとしたら……」



にちか「家族は、どうなってるんですか……?」



531 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:11:17.12 ID:BBrd2CUc0

冬優子「にちかちゃん……あの漫才を、本当に信じちゃったんだね……」

千雪「仕方ないわ……今私たちの身に起こってることはどれも信じがたいことばかり。どれが本当か嘘かなんて、もう誰にも分らないもの……」

にちか「だから確かめなきゃって……この島を早く出て確かめなきゃって……」

にちか「でも、それでもぎゅっと抑え込もうとしたんです。だって、不安に感じているのはみんな同じだし……私以外の人にも家族だっていますから」

美琴「じゃあ、どうして……?」

にちか「浅倉さんです」

透「……え」

にちか「殺しちゃダメ、殺すなんてもってのほか。そう思ってたのに……浅倉さんは、浅倉さんは……!」

(……っ!)


七草にちかが浅倉透を見つめるその瞳はこれまでの生活の中で見た七草にちかのどの表情よりも鋭く、尖っていて……それは、以前私が七草にちかにぶつけた視線と全く同じだった。

___敵意、そして【殺意】。

今にもその咽喉元を掻っ切って命を奪い去ろうかという剣幕がそこにはあった。

532 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:13:30.71 ID:BBrd2CUc0

夏葉「にちか……お願い、あなたに透に対する敵意と殺意を抱かせたその原因と理由を教えてもらえないかしら」

夏葉「……私たちも、何もわからないままにすべてを終えたくはないのよ」

雛菜「……」

(いつもの能天気女も今回ばかりは頭にキてるみたいだな……)

にちか「……あれは、この島に来て四日目の朝の話です。前の日に私はルカさんと喧嘩みたいになって……なんだか気も立っていて、寝れなくていつもより早く起きちゃったんです」

ルカ「……そうだったな」

美琴「……」

あさひ「四日目ってことは、あの漫才があった日の朝っすね」

果穂「それじゃあにちかさんは……動機がはっぴょうされるよりもはやくに透さんをころそうと思っていたんですか……?」

(……七草にちかは首を縦には振らなかった)

にちか「落ち着けなくて、私は本当になんとなく……なんとなくの気持ちで散歩をしに外に出たんです」




にちか「その結果、私は見てしまったんです……浅倉さんの、【裏切り】の証拠を……」




ルカ「……う、【裏切り】……だと……?」

冬優子「う、裏切りってことは……透ちゃんが……モノクマ側ってこと……?」

愛依「と、透ちゃん?! う、ウソだよね!?」

透「……」

雛菜「と、透先輩……?」

にちか「……浅倉さんが何も言わないなら私が全部言いますよ」
533 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:14:51.83 ID:BBrd2CUc0



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≪island life:day 4 moring time≫
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534 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:16:32.35 ID:BBrd2CUc0
【牧場】


私の中の『なんとなく』は静けさを求めていたのか、コロシアイという言葉からイメージされる人由来の脅威から身を置きたかったのか。
気が付けば私は人ではなくむしろ家畜たちがのびのびと過ごす穏やかな牧場に足を運んでいた。

獣の放つ、ありのままの臭いが鼻について煩わしい。
けれど、誰もいない、なにも無い、ただそこにあるだけの牧場の景色は存外私の気持ちを落ち着かせた。


「……はぁ」


私もあの牛みたいに何も考えずだらだらと過ごすだけの一日を送りたい。
あ、でも乳しぼりとかは嫌だな。生理的に無理。
それに家畜って最終的には食べられるんでしょ……最悪じゃん。
どうせなら食べられないし、人に触られないような動物が……


なんてとりとめもないことをひたすらに考えていた、その時だった。

私の視線の先にうっすらと人影が見えた。
その人物はあたりの様子を慎重に伺って、誰にも見つからないように姿を隠しているようだ。

まさかルカさんが何か犯行を企てているんじゃ……?
そんな危惧がふっと湧き上がり、私もスニーキングよろしく身を隠し、慎重に慎重にその人物との距離を詰めていく。


……その人物と背中合わせぐらいの距離までやってきた。
小説とかだと、こういうときでも肝心のその人物はピンとこないとかありがちだけど……
これは現実だ。非現実っぽいだけで、現実だ。

現実というのは、嘘をつかない。
535 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:18:52.23 ID:BBrd2CUc0





透「……あー、うん。大丈夫、今のところは」





536 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:20:48.55 ID:BBrd2CUc0

(……浅倉さん?)


浅倉さんは誰かと会話していた。とはいえほかの人物の気配はない。
彼女が何かしらの方法で外部と連絡を取っているのは明らかだ。
もしかして、助けを呼んでくれている?
そう思うと声が飛び出そうだったが、ぐっと堪えた。


(……信用してばかりじゃ、ダメだ。疑いながらの信用じゃないと……)


浅倉さんは悪い人じゃない。それは私だってわかってる。
でも今、ここではコロシアイ南国生活が行われている。
悪い人じゃなくたって、何か間違いは起こってしまうかもしれない。
そのリスクを検討しないと、足元をすくわれるのは私。
必死に自分を押さえつけて、息を殺した。


透「バレてない、平気だって」

透「あー……うん、多分、覚えてない。何も言ってこなかったし」

透「……計画通りだから」

(……浅倉さん?!)
537 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:22:55.67 ID:BBrd2CUc0

浅倉さんの言っている言葉はところごころが歯抜けだ。
元から多くを語る人ではないけど、この欠落は電話口の相手がそれを語っているから殊更語らないということに由来する。
ただ、その抜けた中身とやらが、私に疑念を抱かせるには十分すぎる要因であることは確かだった。


透「こっちから仕掛けるよ、黙ってたら……やられるのはこっち」

(……!!)

……『仕掛ける』?
その言葉の意図するところはわからない。ただ、彼女の通話相手が、そして何より彼女自身が何かを『仕掛ける』……その言葉に何か良からぬものを感じ取るのは当然のことだった。


透「……うん、それじゃあまた」


戸惑いと驚きで勝手に出てしまう声を抑え込んで、必死に口を押える私の背後でその通話は終わった。
浅倉さんは深く息を一つつくと、あたりをきょろきょろと見まわし始めた。どうやら今の話を聞いた人間がいないか、点検に動き出したらしい。

(……まずい!)

すぐ背後には壁を挟んで私がいる。
このまま見つかったら、私は彼女に何をされるかもわからない。
すぐに私はその場を離れて走り出した。
多分……見つかりはしなかったはず。
538 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:23:49.37 ID:BBrd2CUc0




透「……」

透「……まだ、間に合うから」




539 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:25:10.56 ID:BBrd2CUc0
◇◆◇◆◇◆◇◆


にちか「初めから、裏切ってたんですよ。浅倉さんは。私たちが外の世界と連絡が取れないことに焦っていた中で、別の誰かと連絡を取っていて……一人だけこの孤立無援の恐怖を感じていなかった」

にちか「だから私思ったんです。ああ、この人はちがう……私たちの仲間じゃない、モノクマとの内通者なんだって」

透「……」

夏葉「……透、説明してもらえるかしら。あなたの口で」

透「あー……」



透「あの時の、にちかちゃんだったんだ」



摩美々「……それは、認めたってことでいいのー?」

透「えっと……うん、大体は。にちかちゃんの言う通り」

結華「と、とおるん……? それ、本気……?」

透「え、うん」

智代子「に、にちかちゃんが聞いたっていう話も全部本当なの?!」

透「マジ」

愛依「そ、そんな……で、でも透ちゃん、別に悪い人と話してたわけじゃないんでしょ?!」

愛依「だ、誰と話してたん?! う、うちらの味方なんでしょ?!」

透「……言えないんだよね、トップシークレット」

540 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:26:17.61 ID:BBrd2CUc0

夏葉「あなた、状況を理解しているの? あなたは私たちをこのコロシアイに巻き込んだ、この企てを行った人間の一人と目されているのよ?」

透「違うよ」

(……!)

透「それは、違う。……けど、言えないから……ごめん」

摩美々「何を言えないことがあるのー? 摩美々たちにとってプラスなら、言えばいいじゃんー」

透「……」

摩美々「黙秘権を行使します……ってコト?」

雛菜「なんで……?」

雛菜「透先輩……? 雛菜には話してくれるよね……?」

透「……雛菜」

雛菜「透先輩……!」

透「……ごめん」

雛菜「……そん、な」

(……チッ)

夏葉「……透のことは一旦、後に置いておきましょう。ともかく、にちかはこの透に対する疑念を拭い去ることができなかったのね?」

冬優子「そして、その疑念から……犯行を決意しちゃったってことなんだね……」


にちか「私は……浅倉さんなら殺してしまってもいい、むしろ殺すべきだって……私たちのことをコロシアイの標的に選んだ黒幕の側の人間なら、許しておけない……死んじゃえって……!」
541 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:26:54.49 ID:BBrd2CUc0





モノクマ「何被害者ぶってんの?」




542 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:27:59.45 ID:BBrd2CUc0

ルカ「……ッ!?」

モノクマ「さっきから黙って聴いてればさぁ……七草さんの話って要は『自分が帰りたいから、比較的怪しい人間を狙って殺しました』ってだけだしさ」

モノクマ「しかもそれも黙って自分自身のうちにしまっておかずに直ぐにみんなに言えば良かったじゃん!」

モノクマ「それなのにこんな結末って……」

モノクマ「一番仲間のことを信じてなかったのは七草さんなんじゃーん!」

ルカ「……ッ!」

(こ、こいつ……塗り替えるつもりか?)

(七草にちかへの同情を、もっと別の……どす黒い感情で……!)

にちか「それ、は……」

モノクマ「それとも……もしかして、唾をつけておいたのかな? 後でこいつは私が殺す、そのための正当な名目は自分だけのものだ……ってね!」


七草にちかに向けられる視線が少しずつその色合いを変えていく。
悲哀の別れを演出する、冷たくも温かい視線から、疑いの籠った純然たる熱を帯びた視線。
肌を灼くようなその視線を前にして、七草にちかの体はまるで凍えるかのように振動を始めた。

543 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:29:02.13 ID:BBrd2CUc0

モノミ「ち、違いまちゅ! 七草さんは……疑心暗鬼を食い止めようとしただけなんでちゅ!」

モノミ「こんなみんなが不安に感じて日々を過ごしている中で、浅倉さんの不審な行動を共有すればみんながきっと暴走してしまうって……」

モノクマ「だからそれが七草さんの不信なんじゃん!」

モノクマ「お互いが仲良しで、本当に信じ合えるんだったらその疑心暗鬼だって生じない!」

モノクマ「どれだけ取り繕っても七草さんが283プロ同士の信頼と絆を信じていなかった事実は覆らないよ!」


わざとらしく仰々しく、その声を張り上げるようにして私たちに呼びかけるモノクマ。反論の言葉を返すものはいなかった。
信頼なんてもの、証明のしようが無い。
手を繋いで、隣でニコニコ笑っていても、その腹の中はその本人にしかわからない。
自分が信頼していたって、相手はそうじゃない。

私も、その信頼の脆弱さを誰よりも一番理解している。



____だから、この酷く沈んだ膠着状態で口を開いたのもまた、【脆弱さを一番理解している人間】だった。




544 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:29:33.32 ID:BBrd2CUc0





美琴「少し黙って」





545 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:31:16.09 ID:BBrd2CUc0

にちか「み、美琴さん……」

美琴「にちかちゃんは確かに私たちにその疑念を打ち明けようとはしなかった。でもそれが信頼していなかったことと同じかどうかはわからないでしょ?」

美琴「信じているからこそ、言えないことだってある。相手のことを思うからこそ、黙っていることがある」

美琴「だって、にちかちゃんが本当に私たちのことを信じていないなら……自分から罪の告白なんてしないでしょ?」


《にちか「……最初はね、私も勝とうとしたんだ」

にちか「だから芹沢さんの推理に便乗したし、机を倒した人の時にも名乗りを挙げなかった」

にちか「でも……ほかのみんなが必死に議論をして、生き残ろうとしている中で自分だけみんなを欺こうとして……」

にちか「私が生き残るってことは、その全員を殺すことになるから……それはできないなって途中で思ったんだ」

にちか「こんなので一番になったからって……私は、うれしくない」

にちか「きっともうイヤだって! めちゃくちゃに後悔して……そんで、呆れるくらいに死にたくなるに決まってる」

にちか「だから、もう……終わらせてください。これ以上は、もう」》


美琴「少なくとも、今のにちかちゃんは私たちを利用しようという気持ちじゃない。それにきっと……ずっと苦しみ続けてきたんだろうと思うから」

美琴「私たちのことを信頼していない自分と、私たちのことを信頼している自分。その鬩ぎ合いに」
546 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:32:57.97 ID:BBrd2CUc0

ルカ「……ケッ」

ルカ「おい、そろそろ腹を括るタイミングらしいぜ、七草にちか。お前が死ぬ前に私たちに、美琴に届けたい言葉……聞かせてみろよ」

ルカ「ただし、それを変に取り繕うようなことがあれば……分かってるな?」

にちか「……ルカさん」

にちか「それじゃ、見といてくださいよ。今からやるのはルカさんにとってのお手本なんですからね!」

(ハッ……)


クソ生意気に私に向かって拳を向けた七草にちか。いつの間にかその体の震えはひいていた。
ブレることないその拳を引っ込めて、意を決したように向き直る。
それに正対するのは、美琴だ。
547 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:33:52.15 ID:BBrd2CUc0

にちか「……まず第一に、私のやったことは間違いじゃないと思ってます。私が動かなくちゃ浅倉さんが何をしていたか分からない、それに家族のことだって一生わからないまま。そんなのでどうやって生きていくんですか」


にちか「でも、それとは別に。後悔をずっとしてます。どうしてそれを打ち明けられなかったのか、皆さんに……そして、美琴さんに」


にちか「ずっと、ずっっっと思ってたんです。私は美琴さんのことが大好きで、憧れで……でも、美琴さんはきっとそうじゃない」


にちか「美琴さんにとって私はきっとただのお荷物。歌もダンスも足元にも及ばない。経験だってない」


にちか「そんな年下のお守りを無理やりさせられて……私のことをよく思うはずなんかない」


にちか「……私なんかいらないんじゃないかって」


にちか「だから、話せなかった。話したくなかった。言ってしまえばきっと、美琴さんに余計なものを背負わせてしまうから」


にちか「重たすぎる荷物を、下ろされるのが怖かったんです」


美琴「……ッ!」


548 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:34:48.21 ID:BBrd2CUc0

正直言って、妬けてしまう。
私の時に、そんな表情でもして見せたかよ。
私の時に、そんな涙を流したかよ。
私の時に、そんなに優しく抱きしめたりなんかしてくれたかよ。

……嗚呼、きっと私という失敗例があるからこそお前はその一歩を踏み出せたんだよな。
一度掴み損ねた“ソレ”をお前は思ってくれてたんだよな。




【もう、二度と離したくない】……って。



549 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:36:33.64 ID:BBrd2CUc0

にちか「み、美琴さん……!?」

美琴「ごめんね……」

にちか「美琴さんが謝ることないですよ……私が、私が……」

美琴「違う……自分の気持ちを伝えていなかった私が悪いから」

美琴「にちかちゃん……さっき、エレベーターに乗っている時にした話、覚えてる?」

にちか「奈落……ですか?」

美琴「うん……ステージに出る前、いつも考えているの。この先にある、一瞬のパフォーマンスのために私の【すべて】はある。その【すべて】のために、私はある」



美琴「でもね……その【すべて】は私一人じゃ作れないの」



にちか「……!!」
550 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:37:49.46 ID:BBrd2CUc0

美琴「隣で歌ってくれる、踊ってくれる。ちょっと遅れちゃっても一生懸命についてきてくれる」

美琴「そして、私のことを気にかけて無理やりにでも笑顔を見せてくれる」

美琴「ごめんね、少しだけ嘘をついた」

美琴「私のとっての奈落はもう一つ」

美琴「奈落」

美琴「ステージの下。私は一人になる。誰の助けもない、誰も隣にいない。出番を待つその時間に、自分自身を顧みる」




美琴「……でも、ここを出れば私は孤独ではなくなる。私を待ち構えてくれる人が、ファンが、スタッフが、プロデューサーが」

美琴「……そして、隣に立ってくれるパートナーがいる。その人たちのために、【すべて】がある。私の【すべて】はそのためにある」

美琴「……なんて」

にちか「美琴さん……あはは、美琴さんは……ずっと見てくれてたんですね」

にちか「それなのに、私ってば、本当に救えないなー!」

にちか「バカ、バカ、バカ……本当に私って……」

にちか「バカすぎじゃないですか……」

551 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:38:52.38 ID:BBrd2CUc0

誰も言葉を挟み込みはしなかった。
まるで姉妹であるかのように抱きしめ合う二人の姿をただ傍観していた。
283プロでは唯一の二人ユニット、その二人の間に横たわる関係性……絆とも言い換えられるそれは、他の人間のそれとは違っていたからだ。

もともと歪な関係性だった。かたや一度解散を経験した曰く付きの物件、かたやただの一般人上がりの没個性な小娘。
……それが今や、これだ。

ここ島に来てからもずっと、私は考えていた。
どうして美琴は私ではなく、こんなガキを選んだのか。

人間というのは面倒な生き物だと思う。
感情をすべて素直に伝えられれば丸く収まるというのに、その口は、手は、足は……思うように動かないことの方が多い。

その意味では、やっとこいつは救われたんだ。
ずっとその胸に押し込んでいた感情を吐き出すことができた。
それに、その感情を相手にも返してもらえたんだから。
七草にちかはこれ以上なく幸せ者で、
552 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:39:41.08 ID:BBrd2CUc0






___________私がなれなかった“私”だ。



ルカ「ハッ……」





553 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:40:55.24 ID:BBrd2CUc0





____だけど、そんな感慨に耽る時間は唐突に終わりを告げる。


モノクマ「さて、そろそろ始めちゃいましょうか!」





554 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:42:11.82 ID:BBrd2CUc0

ルカ「……おい、始めるってまさか」

冬優子「おしおき……処刑……!?」

美琴「……!」

愛依「た、タンマタンマ! べ、別にいいじゃん! にちかちゃんも反省してるし、灯織ちゃんもにちかちゃんのことを恨んでなんか……!」

モノクマ「何か勘違いをしてるようだけど、処刑ってね。誰かの溜飲を下すわけにやるんじゃないんだよ?」

モノクマ「許されざる大罪を背負った人間に、然るべき罰を下す! ただそれだけのことなんだから!」

夏葉「大罪って……あなたがいなければにちかはこんな人を殺めたりなんかしなかったのよ?!」

モノクマ「うぷぷ……だからって罪が消えるわけじゃないよね? 他の誰かに唆されたら無罪だってんなら、戦争はなんになるの?」

モノクマ「お国のために他の国の人間を山ほど殺しても仕方ないことで終わらせるの?」

夏葉「そ、それは論点のすり替えだわ……!」

モノクマ「小宮さんの大好きなヒーロー特撮でも、悪いことをした悪役は必ずその報いを受けますよね?」

果穂「そ、そうじゃない怪人だっています……! 反省した怪人は、まちの平和のためにヒーローを助けてくれることも……」

モノクマ「……」

モノクマ「ま、どうあれおしおきを止めるなんてあり得ないので止めるだけ無駄ですよー!」

智代子「む、無視なんて酷すぎるよ!」

モノクマ「うるさいうるさい! ボクがクロといえばクロ、シロといえばシロ! それがすべてだよ!」

摩美々「モノクロツートンの存在がそれ言うー……?」

モノクマ「キッチリカッチリ、七草さんには死んでもらいますからね!」

にちか「……死ん、で……」

モノクマ「おしおきのないコロシアイなんて、お魚抜きの海鮮丼ですからね!」

(……くそッ!)


血の気が引く、とはまさにこのことを言うんだろう。
手足の力が地面に吸い取られるように抜けていき、体温が急速に冷めていく。
反対に込み上げてくるのはむせ返るような嫌悪感。嘔吐感にも近しい衝動が私の喉元を襲った。
555 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:43:45.21 ID:BBrd2CUc0

モノクマ「今回も、超高校級の幸運である七草にちかさんのためにスペシャルなおしおきを用意しました!」


にちか「美琴さん、最後に本当のことを言えて、本当のことを聞けて良かったです」

にちか「えっと……その……私はこれから死んじゃうみたいなんですけど……頑張ってください!」

にちか「美琴さんは絶対絶対ぜっったい! 一番のアイドルになれるので!」

にちか「【SHHisの緋田美琴】として……一番になってください!」


モノクマ「それでは張り切っていきましょう! おしおきターイム!」

556 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:44:48.55 ID:BBrd2CUc0





にちか「【奈落】の底からでも、応援してますから!」





557 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:46:46.70 ID:BBrd2CUc0
-----------------------------------------------


GAMEOVER

ナナクサさんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。


-----------------------------------------------
558 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:48:08.59 ID:BBrd2CUc0

あまり恵まれた家庭環境ではないお家に生まれた七草さん。
そんな彼女がアイドルとしてデビューして、もうそれなりの月日が流れました。
憧れの緋田さんとタッグを組んでスターダムを上り詰める彼女の姿には本当に勇気をもらえますね。

でも、そんな彼女は……今本当に輝いているのでしょうか。

今彼女の履いている靴は……


___一体誰の【靴】なんでしょう?

-----------------------------------------------


ヴぇりべりいかレたサいゴ

超高校級の幸運 七草にちか処刑執行


-----------------------------------------------

とある敏腕プロデューサーがこんな言葉を口にしたことがあります。

「足に合わせるんじゃない、靴に合わせるんだ」

そう、トップアイドルならどんな靴でも華麗に着こなして、そのレッテルに見合うだけのパフォーマンスを披露できるはず!
559 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:50:02.12 ID:BBrd2CUc0

七草さんもこれから上を目指していくなら、ありとあらゆる靴を履きこなせるはずですよね。
玉座に手や膝をベルトで固定された七草さん、そんな彼女に今回用意された靴はこちら!


編み込みの決まったお洒落なブーツ!……ただし、【鉄製】の物ですが。

でも、まだこのブーツは七草さんには少し大きいみたいです。足を入れてもまだブカブカ。
なら、キチンとサイズに合わせないとですよね!

せっかくなら、その隙間はファンからのプレゼントで埋めてしまいましょう。
ファンレターに寄せ書き、花束にプレゼント、スタミナドリンクやチョコレートまで。
ドンドンドンドンファンからの愛がブーツに詰まっていきます。
やがて七草さんの足とブーツとに空いていた隙間は無くなり、ギチギチに。

……でも、まさかファンからの想いを受け取らないなんて言いませんよね?
まだまだファンからのプレゼントはたくさんありますよ〜!
監視カメラに盗聴器、GPSなんかも貰っちゃって! 愛されてますね〜!

え? 靴にはもう入らない?
それもそうですね、これは七草さんのためだけに職人が作り上げた鉄製のブーツ!
強固な作りのブーツはそう簡単には形も変わりません。




でもでも……「足に合わせるんじゃない、靴に合わせるんだ」でしたよね!



560 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:51:34.75 ID:BBrd2CUc0


バキッ ボキッ グシャッ


七草さんの足をバキバキに押し潰しながらでもプレゼントは受け取ってもらいます。
それがファンからの愛、そしてトップアイドルになる上での痛みなのですから。
自分自身を変えずにトップになれる存在なんていません、今一度の苦しみを受け入れないで何だと言うんですか。

……あれ?
もしかして、足の骨がバキバキに砕かれた痛みで気を失ってます?

あーもう、仕方ないなぁ!
その程度の覚悟しかない「灰被り」にはシンデレラストーリーなんか似合わないってことで!

七草さんの頭上にあったカボチャのくす玉からは大きな大きなガラスの靴が落ちてきて。




……グシャァ

アイドルになる心構えもなってない只の一般人は、自分の身の丈に合わない【靴】に押しつぶされて死んでしまいましたとさ。
561 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:52:17.44 ID:BBrd2CUc0





___七草にちかが死んだ。





562 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:54:38.39 ID:BBrd2CUc0

美琴の周りをブンブン飛び交う煩わしい蝿のような女が死んだ。
そんな願ってもない事態を前にして、晴れやかな感慨を……抱けなかった。
想定外に私の膝は支柱を失ったかのように崩れ落ち、気がつけば両の掌を地面にくっつけて、体を戦慄かせるようにしていた。

一言言葉を吐き捨ててやりたかった。
されども私の喉は何かに打ち震えたようで、口から出るのはそれこそ羽虫の羽音のように聞くに耐えない弱々しい絞り出したような声だった。


私が、七草にちかの死を前にして抱いているこの感情はなんだ?
奴は憎しみ、嫉み、煩わしいだけの存在だったはずだ。
私と美琴の間に横たわる軋轢を土足で踏み荒らして、図々しくも自分の了見で食ってかかってきた余所者でしかなかった。
なら、この上体を支えている両腕を上げて万歳でもしてやればいい。
あいつの死に為るべきは歓喜じゃなかったのか。
その掌は、溶接されたように地面から離れない。


「……畜生」


私の口から出てくるのは、その一言だけだった。
563 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:56:41.04 ID:BBrd2CUc0

モノクマ「ヒャーッホウ! 久しぶりのおしおきで思わず昂っちゃうね!」

モノクマ「ビンッビンだぜ! これが……生の悦び?」

千雪「……」

恋鐘「……」

愛依「……」

モノミ「うぅ……七草さん……モノクマ、なんて酷いことをするんでちゅか……」


モノクマの品性のかけらも無い煽り文句。
本来なら激昂しそうな連中も、その拳は垂れ下がったまま。言葉一つ出てこない様子を見るに、相当キているらしい。

そして、言うまでもなく一番、そういう状態なのは……


美琴「……」

ルカ「……美琴」


美琴はまるで魂が抜けたみたいに動かなかった。
さっきまで手に抱き抱えていた相方が奪われ、その先で惨たらしい死を遂げた。
尊厳を踏み躙られて、人生そのものを嘲笑うような、そんな最悪の方法だった。
もう、今の美琴に言葉は届きそうもない。


(……何が『美琴さんは任せましたよ』だ)

(私に出来ることなんか、何にもない……お前の穴を塞ぐことなんて、お前にしかできねえだろ……)
564 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 22:58:33.60 ID:BBrd2CUc0

果穂「夏葉さん……夏葉さんの手で何にも見えないです……にちかさんは、どうなったんですか……?」

夏葉「……」

果穂「にちかさんは……しんじゃったんですか……?」

夏葉「……っ!」

夏葉「モノクマ! もういいでしょう! あなたの目論見通り、仲間同士でコロシアイが起きて、あなたの私刑でにちかも……!」

夏葉「あなたの目的は果たされたはずでしょう?! 私たちを解放しなさい!」

モノクマ「うぷぷぷ……目的が果たされた? バカを言っちゃいけないよ」

モノクマ「これはまだ第一歩、スタートラインから一歩踏み出しただけに過ぎないんだよ。まだまだゴールテープは遠く先さ」

夏葉「あ、あなたは何を目的にしているの……?!」

モノクマ「それはオマエラも知っての通りさ! これはあくまで希望ヶ峰学園歌姫計画なんだからさ」

モノクマ「このコロシアイを生き抜いて勝利する……そんな最高の希望の象徴たるアイドルを作り出すこと、それが目的なんだよ」

モノクマ「だから、まだまだ終われない。むしろここからが本番だよ! 最初のコロシアイを経たオマエラがどうするのか……目が離せないよね!」

摩美々「……モノクマの狙い通りになんかさせませんケド」

モノクマ「ぶひゃひゃひゃひゃ! この惨状を前にしてそんなこと言われても説得力ないんですけど!」

565 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:00:42.74 ID:BBrd2CUc0

恋鐘「うちらはもうこれ以上間違えんよ……今度こそ、ちゃんとお互いを信用して……全部全部共有するばい」

恋鐘「秘密も不安も、全部仲間で分かち合えば何も怖いことなんかなか……!」

モノクマ「……? やれやれ、カーカー喧しいから何かと思えば、月岡さんは人間じゃなくてカラスさんなの?」

恋鐘「な、なん……!?」

モノクマ「だって、ついさっきのことを忘れちゃって……それって丸っ切り鳥頭じゃん!」

モノクマ「秘密を共有するも何も、浅倉さんがダンマリじゃんかー!」

透「……」

(……そうだ、こいつは)

結華「ま、待ってよ……とおるんは確かに三峰たちに秘密を抱えてるけど、敵対してるわけじゃないんだしさ……」

モノクマ「そうだね、浅倉さんはそう言ってたね!」

摩美々「何ぃ? その言い方ぁ?」

モノクマ「別にー? 浅倉さんはそう言ってたなーってそれだけだよ?」



モノクマ「ま、ボクが内通者だとしても同じように言い訳するかもなーなんて思わなくもないけどさ!」



566 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:01:59.04 ID:BBrd2CUc0

透「……ちが」

モノクマ「そりゃ素直に黒幕と繋がってますなんて普通は言わないよ、そんなの針の筵になりにいくようなもんだからね!」


……やられた。
こいつがやったのは、疑念をほんの僅かに後押しするだけの一言。
でも、そのほんの一言は真っ白なシーツに一滴こぼれただけのコーヒーの染みのように気になって仕方がない。

浅倉透という人間を前にした時に、脳裏にその僅かな可能性がよぎってしまう。
私たちに、そういう呪いをかけてきやがった。

そして、タチが悪いのが最初に浅倉透への疑念を口にしたのが、今もうこの場所にはいない七草にちかだということ。
その事実を前にした時、【あいつ】はまともじゃいられなくなる。


美琴「……にちかちゃんはあなたのことを疑っていたけど、あくまで答える気はないの?」

透「……」

美琴「……そう」

(美琴……)


字面だけ言えば淡白に尋ねただけ。
ただ、私にはわかる。その瞳に仄かに灯っているワインレッドの火種、これがある時の美琴は大抵碌でもないことをしでかす。



____そして、その予感はやっぱり的中した。


567 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:03:35.38 ID:BBrd2CUc0


パンッ


透「……痛ッ」

美琴「……私はあなたを信用できない。本当のことを話さない限りはね」

ルカ「……美琴ッ!」


慌てて美琴を羽交い締めにした。
誰かを引っ叩くなんて今まで見たこともない。
美琴自身も、自分自身の感情の向け所を見失っているのだ。
私の腕に収まった美琴は抵抗するでもない、ただ静かにその肩を震わせていた。


千雪「落ち着いて……何も透ちゃんが敵だと決まったわけじゃないでしょう?」

あさひ「でも、味方とも言えないっすよ?」

智代子「だからって、手をあげたりしちゃダメだよ……!」


緊張の海に美琴が投じた一石が、水面を揺らし、波は畝り、そして決壊したように溢れ出た声が一つ。
568 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:05:04.91 ID:BBrd2CUc0

雛菜「うるさ〜〜〜〜〜〜い!」

雛菜「透先輩のことを信じられない人は好きにすればいいですけど、雛菜はどうだって透先輩のことを信じてるもん〜〜〜!!」

冬優子「ひ、雛菜ちゃん……落ち着いて……」

雛菜「もう知りませ〜ん!」


浅倉透の腕を引ったくるように掴んだかと思うとズイズイと私たちの間を通り過ぎて、二人そのままエレベーターに乗り込んでその姿は見えなくなった。


果穂「雛菜さん……」

愛依「行っちゃった、ね……」

モノミ「い、市川さん! 浅倉さん! 待ってくだちゃい!」

モノクマ「うぷぷぷ……何だっけ、信頼? 友情? それって今のオマエラに使う権利のある言葉なのかな?」

モノクマ「この、空中分解寸前のオマエラの間に絆なんかあるのかな?!」



最悪の捨て台詞を吐き捨ててモノクマはその姿を消した。

569 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:06:26.38 ID:BBrd2CUc0

「「「……」」」


また、不信の果てに大切なものをその手から溢してしまった。
残された私たちには、そういう退廃的かつ諦観的な重たい空気が漂っている。


(……知ったことかよ)


でも、私にはそれは関係ない。
私はこいつらとは違う。
自分が生きるために七草にちかという人間を切り捨てて、はなから信用なんかもしていない。
私は私、ただそれだけで生きていけばいい。
美琴をその手から離すと、踵を返して背を向け、私もエレベータへと向かう。


知ったこっちゃない。
勝手に意気消沈してればいい。
私は巻き込まれただけの部外者だ。
信じるだの信じないだの、決めるのはお前たちの仕事だろ。
570 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:07:52.50 ID:BBrd2CUc0

(……あ?)

でも、何故かその足が動かない。
エレベーターに乗り込もうとするその一歩が踏み出せない。
こいつらの状況を見かねて、後ろ髪を引かれているとでもいうのか?
そんなわけない、私は慈善主義でも博愛主義でもなんでもない。
神様なら救いの手を差し伸べるかもしれない、でも生憎私はカミサマだ。
そんな選択肢は毛頭持ち合わせちゃいない。

___私に出来るのは、その背中を見せることだけだ。



ルカ「……死にたくないんだよ」


571 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:09:57.21 ID:BBrd2CUc0

ルカ「こんなところで、283プロの連中に足を引っ張られて死ぬなんか最悪だ。勝手に内輪揉めして内部分裂しかかってる間抜けな連中、死ぬなら勝手にそっちで死んでくれ」

ルカ「でも、今は私もお前らと一蓮托生らしいからな。この学級裁判とやらで負ければ私も一緒に死ぬ……本当に、どこまで行っても最悪だよ」

夏葉「ルカ……あなたね……!」

ルカ「だから、いつまでそんなしょうもないとこにいるんだよ。一生そのまま不信を嘆いてるつもりなのか?」

恋鐘「……!」

愛依「……!」

ルカ「信じられなかったんだったら今から信じればいいんだろ? 七草にちかが、そうやって信じ直してくれたから私たちは今生きてるんじゃ無かったのか?」

美琴「……ルカ」


あいつの死に様を利用するのは癪だけど、今のこいつらにはあいつが必要だ。
283プロの間にある信頼を、絆を、証明したままに死んでいった【あいつ】の力が。


ルカ「七草にちかのことを信頼してるんなら、エレベーターに乗れよ。……こんな所にいるより、さっさと帰ったほうがいいだろ」


572 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:11:01.09 ID:BBrd2CUc0

私の言葉にも明確な返答はしてこなかった。
憎まれ口の私に対する敵対心なのか、それともまだ踏ん切りをつけられていないからなのか。
ともかく、言葉では何も返ってこなくとも、行動は正直な連中だ。
一人、一人と私の横を通って、エレベーターへと乗り込んでいく。
まあ、中には何を勘違いしたのか感謝の言葉を投げてくる奴もいたけど。
それは当然ながら無視してやった。
感謝される謂れはひとつもない、するとしても相手は私じゃないだろ。


そして、最後の一人。


美琴「……」


美琴も無言で歩き出し、私の隣へ。
表情はまだずっと暗いまま、口もギュッと結ばれていた。
それなのに、すれ違うその一瞬の間に……美琴の声を聞いた気がした。
573 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:11:50.03 ID:BBrd2CUc0





「……信じてた」





574 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:13:56.85 ID:BBrd2CUc0

それは、その言葉は……
『私は七草にちかのことを』?『283プロのみんなのことを』?


それとも________


いや、どうでもいい。
今の私に大切なのは、私自身が生き延びることだ。
間違っても、絆を改めて見定めることなんかじゃない。
それにきっと今のは幻聴だ。
私も長時間の議論で疲れていただけなんだろう。
そう思って眉間を指で押さえて、息を一つ。


何故だか、次はその一歩を踏み出せた。

575 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:15:07.21 ID:BBrd2CUc0
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【第1の島 ホテル】


裁判が終わった後の感想戦なんかに付き合ってる暇はない。
地上へと戻った私は他の連中とは行動を一緒にせず、そのままホテルへと戻ることにした。

疲れている。
ホテルに帰る道中でも手や足には倦怠感を覚えたし、頭はずっとキリキリと痛む場所がある。胸には何かがつっかえたようでどことなく息苦しい。
ゆっくりと寝でもしたら少しは回復するだろうか。
そんなことを考えながらホテルに帰った私。

だがその私の考えは他所に、体と本能とは、別の場所に私を運んだ。

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576 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:22:29.63 ID:BBrd2CUc0

【旧館】

……ハッ。
どういうつもりだよ、自分が参加していなかったパーティで人が死んだ。
今更そのことを悔やみにきたってのか?
まさか風野灯織の死を悼みにきたってのか?
いや、そんなちゃちな感慨ならこんな所には来ない。

私がここにきたのはもっと別な理由だ。
それは言うなれば、一つの好奇心。
私には、どうしても知りたいことがあった。

その答えがここにはきっと眠っている。


「……そうだよな、この事件はまだ終わってなんかない」

「風野灯織を殺したのは七草にちかだった。ただ、それだけのことなんだよ」

「まだ、出てきてないものがある。顕在化していない悪意がある」




「七草にちかの裏に姿を隠した、【狸】が紛れ込んでるんだよ」



577 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:23:51.20 ID:BBrd2CUc0

≪にちか「死体のそばに落ちていた暗視スコープ……あれ、実は使えなかったんです」

千雪「使えなかった……?」

にちか「はい、レンズの上から【黒い絵の具か何かで塗りつぶされてて】、暗闇どころか向こう側も見えないぞって感じなんですよ。だから逆にあれをつけちゃえば見えてるものも見えなくなるぐらいで……」

にちか「暗視スコープがあったからって風野さんが辺りを見えてたとは限らないんじゃないですかね!」

千雪「たしかにそれはそうかも……でも、なんでスコープのレンズが塗りつぶされてたのかな?」

美琴「それこそ犯人の策略なんじゃないかな」

美琴「犯人が灯織ちゃんの暗視スコープの準備を知ったうえで、それに黒い絵の具を塗りつけたのだとしたら……意図的に隙を作ることができるよね」≫


「……風野灯織が停電中に仕様を試みた暗視スコープは何者かにレンズ部分が黒塗りにされる細工をされていた」

「でも、七草にちかはそんなの犯行計画には入れていなかった。それも当然だ、あいつは風野灯織を狙ってなんかいなかったんだからな」

「しかも、それだけじゃない」


≪恋鐘「こん鉄串を犯人が使ったからって大広間の人間が犯人とは限らんばい!」

ルカ「なんでだよ! 鉄串は大広間にしかないもんだろ? 料理を作った後は備品も全部ホクロ女に回収されたって……」

恋鐘「だって、この【鉄串はうちが厨房入った時には既にもう一本無くなっとった】けん!」

にちか「う、嘘……!?」

恋鐘「厨房には備品リストがあって、スプーンから鍋までなんでも数が書いてあるんよ。それに照らし合わせたら、確かに鉄串が一本足り取らんかったばい」≫


「旧館の鉄串は風野灯織殺害に使われた一本以外にももう一本、その所在が分からなくなっていた。しかもそれを持ち出した人間はいまだにわかっちゃいない」

「私たちがこの島にくる以前になくなってた……そんなことがあるってのか?」

「私たちの中に潜む【狸】は何を考えてやがる……?」
578 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:25:00.39 ID:BBrd2CUc0





「あはは、やっぱり気づいてたんっすね」





579 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:26:09.04 ID:BBrd2CUc0

思わず振り返った。
今のは、幻聴じゃない。
確実に私の後ろにいた、【何者か】の声だ。

でも、視界には何の姿も捉えることはできなかった。
人気もない物静かな夜にプールの水音がするだけ。

波ひとつない水面には、満月が綺麗にそのまま象られている。


「ハッ……あんな事件があったってのに嘘みたいだな」


月光というのは不思議なものだ。
月そのものが光っているわけでもないのに、太陽の光を我が物顔で地球に押し付けてくる。
満月ともなると虎の威を借る狐っぷりにも拍車がかかる。
闇に姿を紛れさせようとしても、その光の元に晒される。
夜だというのに、満月の元では隠れることすらままならないのだ。
580 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:28:15.62 ID:BBrd2CUc0

「……ん?」


そこで漸く、気づいた。
今私の目の前で、プールの水面に写っているのは紛れもない月だ。満月だ。
東京に居たんじゃなかなか見ることのできない、立派なまでの満月だ。


「どうなってる……?」


でも、それはおかしい。
私が満月を見れるはずがない。


「なんで、なんでだよ……」


月というのは一ヶ月の間に満ち欠けを繰り返す。
先の二週間で満ちた月は、後の二週間でその姿を欠いていく。




……じゃあ、なんでこの月はずっと変わらない……【満月のまま】なんだ?




581 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:29:05.18 ID:BBrd2CUc0

この島に来た、はじめの夜。


≪煌々と輝く【満月】の月光の元、沈黙だけが流れた。
伏目がちに猜疑の視線を送る人、仲間をかばうようにして背を向ける人、狼狽えた様子で口をパカパカさせる人……その反応はまちまちだが、恐怖と不安というマイナス感情の鎖には全員が全員縛り上げられている。≫


あの時も変わらず満月が出ていたはずだ。

途端に全身の毛が逆立つような感覚を覚えて飛び上がった。


「……気色悪い」


もう私の目の前にあるそれを、私の知るそれとは思えなかった。

……目眩がするような感覚だ。
千鳥足のようになりながら、ヨタヨタと私は自分の部屋へと戻っていった。

582 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:30:24.14 ID:BBrd2CUc0
-------------------------------------------------
【???】


「やっぱり、話してくれないの?」

「……」

「そっか〜……」

「……」

「ううん、気にしないで〜。それでも、もう信じるって決めたから」

「……でも」

「何があっても、雛菜は透先輩の味方だよ。他の全員を敵に回しても、雛菜だけは絶対に透先輩を見放さない」

「……」

「……そう約束したからね〜〜〜〜〜!」


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583 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:31:20.29 ID:BBrd2CUc0
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CHAPTER 01

MIDNIGHTのせいにして

END

残り生存者数
14人

To be continued…


-------------------------------------------------
584 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:32:22.75 ID:BBrd2CUc0


【CHAPTER 01をクリアしました!】


【クリア報酬としてモノクマメダルを60枚獲得しました!】


【アイテム:割れた名盤を手に入れました!】
〔CHAPTER01を生き抜いた証。かつて流星のごとく姿を現し、そして短い活動期間のもとに消えていった伝説的なアイドルのレコード。ある少女の胸を打ち、夢を抱かせた伝説的なサウンドは、レコード自体が割れてしまった今となっては聞く術もない〕

585 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/30(火) 23:38:36.29 ID:BBrd2CUc0

というわけで第一章はこれにて終了です。
次章からは主人公を新たにルカに替えて物語が進行していきます。

丁度今日シーズの感謝祭イベントシナリオが追加されましたね。
新規ユニットということもあり、原作シャニマスのシナリオ次第で軌道修正も視野に入れていましたが……
とりあえず今回は大丈夫そうかな……?
ルカのメンタル面がちょっと本作では強すぎな感じもしますが。

さて、第二章なのですがまだまだ書き溜めは出来ておりませんので、しばらくお待ちいただくこととなります。
恐らく年内更新は難しいと思います……来年の一月に公開できればいいな、ぐらいに考えています。
それにシャニは年末年始クソ長シナリオ君が追加されるのは確定事項みたいなものですしね……

それではひとまずお疲れさまでした。
またよろしくお願いいたします。

586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/30(火) 23:39:40.86 ID:StSRVgT70
お疲れ様でした!楽しみにしてます!
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/12/01(水) 00:02:28.85 ID:rRyB3Fs1O
乙です
キャラの魅力をちゃんと発揮させつつダンガンロンパしてるのがすごいです
1月まで楽しみに待ってます
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/01(水) 14:41:53.88 ID:bT3LiANj0
お疲れさまです あさひが狛枝ポジになるのかな?あそこまで壮絶なキャラにはならなそうだけど不思議と納得できてしまう
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/12/26(日) 23:17:48.78 ID:w+a1yeTg0
今追いつきました乙
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/09(日) 00:44:24.78 ID:Sa0eRoC10
前作のその後の詳細がわかんなかったり、死んだはずのキャラが出てたりして、原作の2やった時ぐらいワクワクしてる。
591 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:37:43.10 ID:VIg00xsT0
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GAMEOVER

カザノさんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。



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592 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:38:30.08 ID:VIg00xsT0

かつてこの国を席巻した大予言、ご存知の方も多いでしょう。

来る世紀末、空から恐怖の大魔王がやってくる。
地上は等しく滅ぼされ、人類も滅亡し、新しい世界がそこから始まるとかなんとかかんとか。

よくもまあこんな突拍子もない話をメディアやマスコミで持て囃し、終わりの時がやってくるなんて喚いていたんだからお笑いですよね!
子供世代はそんな話があったこともつい知らず、すくすくと育っとりますがな!


……でも、その予言は本当は外れてなんかいなかったんです。


滅亡の時は、今この時。

神殿の祭壇、その上で空を仰ぐ風野さん。
その眼前には今にも地上に降り注ごうとしている流星群の数々が……!

593 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:39:02.83 ID:VIg00xsT0
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落下予測地点

超高校級の占い師 風野灯織処刑執行



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594 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:40:09.40 ID:VIg00xsT0

神仏の怒りを鎮めるにはお供物と昔から相場が決まってますよね!
恐怖の大魔王だって、きっと捧げものをすれば鎮まってくれますよ!

風野さんも粛々とそのための儀式を執り行います。
トライアングルを象った魔法陣を描き、その四隅にはパリパリに焼いた餃子を並べていきます。
そして捧げるのは彼女の歌声。
イルミネーションスターズのアイドルとして活躍する彼女の歌声は聞く者すべてを魅了しますね。
清流のように澄んだハミングが空に響き、魔法陣もそれに共鳴するように輝き始めます!
トライアングルの三頂点から発せられたピンクと黄色と蒼の光は空で交わり一つの閃光に。


さあ、届けよう!
私たちの希望、そして私たちの祈りを!



天に打ちあがる輝きを、恐怖の大魔王は受け入れてくれるのか________!


595 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:41:33.32 ID:VIg00xsT0

*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*

さあ、今日の運勢一位は獅子座かそれとも魚座かどっちなんでしょう〜?

ごめんなさーい、今日一番悪い運勢なのは魚座のあなた!
神様にお願いしても、聞いてもらえないかも!
どれだけ頑張っても無理なものは無理だと諦めるのも一つ選択肢ですよ!

ラッキーアイテムは傘、空から降り注ぐ隕石もこれで防げちゃうかも?

それでは今日も1日張り切っていきましょう!
いってらっしゃ〜い!

*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*


……あ、いってらっしゃいも何ももう、風野さんは隕石が祭壇に直撃して瓦礫の下でペシャンコでしたね。
せっかく綺麗に焼いた餃子もこれじゃ台無しだよ!

ラッキーアイテムをちゃんと持ち歩かないからこういうことになるんですよ?
皆さんはちゃんと朝の占いを聞いてから出かけるようにしましょうね♪
596 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/09(日) 17:49:40.40 ID:VIg00xsT0

というわけでお久しぶりです、そしてあけましておめでとうございます。
前回の更新から丸一か月以上空いて、その間にシーズ・斑鳩ルカ周りに色々と供給がありましたね。
今後が気になるところです。

2章更新の準備があらかた整いましたので、事前の告知に参りました。
更新は1/12(水)の21:00〜を予定しています。
自由行動パートも含まれると思いますので、どなたでも参加していただけますと幸いです。


※あらかじめ申し上げておきますと、主人公交代で親愛度がリセットする都合上二章は大目に自由行動パートを用意しています。
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/10(月) 18:49:26.89 ID:GeYZp9L8o
了解です!
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/12(水) 01:11:46.27 ID:CUAq4iRJ0
あけましておめでとうございます!楽しみにしてます!
599 :更新前に現在の状況を整理します ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:00:35.72 ID:Gmun8+E70
現在の主人公の情報
【超社会人級のシンガー】斑鳩ルカ

‣習得スキル…特になし
‣現在のモノクマメダル枚数…70枚
‣現在の希望のカケラ…18個
‣現在の所持品
【キルリアンカメラ】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】
600 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:01:23.31 ID:Gmun8+E70

‣親愛度
【超高校級の占い師】風野灯織…0【DEAD】
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘…0
【超大学生級の写真部】 三峰結華…0
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々…0
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂…0
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子…0
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉…0
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪…0
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ…0
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子…0
【超高校級のギャル】 和泉愛依…0
【超高校級の???】 浅倉透…0
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜…0
【超高校級の幸運】 七草にちか…0【DEAD】
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴…0
601 :それでは2章スタートです ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:02:40.82 ID:Gmun8+E70





_____みんながどう思うのか気になるんすよ!





602 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:03:59.34 ID:Gmun8+E70

だって、こんなコロシアイだなんて外の世界じゃまずありえないじゃないっすか?
明日自分が生きているかもわからない、そんな状況映画でしか見たことがないっす!

わたしもすごい毎日ドキドキして、夜になると体が意味もなく震えたりするんっす。
多分これって「怖い」って事だと思うんっすけど、それって本当にみんな同じなんすかね?

だって、今から人を殺すって人が「怖い」って思ってたら殺すこともできないじゃないっすか。
だからきっと、わたしたちと違った気持ちの人がいると思うっす。
今はいなくても、やがて「怖い」じゃなくて別の気持ちになる人が出てくると思うんすよね。

そういう人が何を考えて、何を感じて、何を思って人を殺すのか。
そして、人を殺した後、学級裁判に挑んでる時はどんな気持ちになるのか。

わたしはそれがすっごく気になるっす。



……だって、わたしはそんなこと今まで考えたこともなかったっすから!



603 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:05:07.75 ID:Gmun8+E70
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CHAPTER 02

厄災薄命前夜

(非)日常編


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604 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:05:55.30 ID:Gmun8+E70



《美琴「奈落」

美琴「ステージの下。私は一人になる。誰の助けもない、誰も隣にいない。出番を待つその時間に、自分自身を顧みる」

美琴「……でも、ここを出れば私は孤独ではなくなる。私を待ち構えてくれる人が、ファンが、スタッフが、プロデューサーが」

美琴「……そして、隣に立ってくれるパートナーがいる。その人たちのために、【すべて】がある。私の【すべて】はそのためにある」》




605 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:07:06.35 ID:Gmun8+E70
【ホテル ルカの部屋】


「……クソッ」


ベッドから見上げた天井はシミひとつなく真っ白で、忙しなくファンだけが回り続けてブンブンと音を立てる。
その音が妙に煩わしく感じると同時に、喉に渇きを覚えた。
備え付けの冷蔵庫には一応の飲料はあるが、そういう気分じゃない。


……一応は私も成人している身だ。
こういう気分の時には【その力】に頼ることが許される。


「……行くか」

606 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:08:32.90 ID:Gmun8+E70
-------------------------------------------------
【ロケットパンチマーケット】


さっきの今で、月明かりが薄気味悪い。
背中を突き刺す光の一つ一つに嫌悪感を覚えながら、足早に目的を果たすためだけに向かう。


道中特に人影はなし。誰ともすれ違わなかったのはラッキーだ。
どうせ283プロの連中は七草にちかの一件でまだ立ち直ってもないだろうし、煩わしい会話もしなくて済む。
用件だけ済ませてさっさと個室に戻ってしまおう。
あのスーパーの棚の並びはなんとなくは頭に入っている。

と、私はまるで無警戒に店内に踏み入ってしまった。




……もっと慎重になるべきだったという後悔を、私は数分の後にすることになる。


607 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:09:49.46 ID:Gmun8+E70





千雪「……あら? ルカちゃん……?」

(……!)





608 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:11:59.67 ID:Gmun8+E70

高校生以下が半数以上の283プロ、まさかこんなところにいるとは思いもしなかった。
手芸女は口をポカンと開けて間抜けに私の姿に驚いている。


ルカ「……帰る」

千雪「ま、待って! 大丈夫……その、誰にも言わないから……」

(誰にも言わないってなんだよ……私が気恥ずかしさから逃げようとしてるとでも思ってるのか?)

ルカ「……私は誰かと話をしに来たんじゃない、そこの棚のそれに用があるだけ」

千雪「ここの棚って……お、お酒……?」

ルカ「……悪いかよ」

(学校の先生にでもなったつもりか?)

千雪「……ううん、ルカちゃんの気持ちはわかるから」


そういうと手元の籠を少し揺らして、私に中身を見せてきた。
なるほどこいつの籠にも酒瓶の影が見える。
裁判の疲れと心に追った傷とを癒すためにそのはけ口を探しにやってきたらしい。
何もこちらから言葉は送らなかったが、手芸女は何を思ったのか自嘲気味に口を開いた。
609 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:13:02.25 ID:Gmun8+E70

千雪「大人ってずるいよね、こんな時でも逃げ道があるんだもの。……でも、今この島にいるみんなはそんな逃げ道もなく現実に向き合うしかない」

ルカ「卑怯者って言いたいのか?」

千雪「ち、違うの! えっと……その……」

(なんでこいつはこんなあたふたしてまで私を呼び止めるんだ? 話題もちゃんと用意してすらいないくせに……)

(……チッ、七草にちかに限らず283プロの連中はこんなのばっかかよ)


いつまでたっても理由なく会話を続けようとする手芸女に業を煮やした私は語気を強めて言葉を吐き捨てる。


ルカ「悪いけど、お前の無駄話に付き合うつもりはない。イラつくんだよ」

ルカ「言いたいことがあるなら、もっとスパッと言ったらどうなんだよ」

千雪「……!」


針で刺すような私の言葉に手芸女は面食らった様子で、左足を少し後ろにやった。
私はこういう交渉には慣れっこだ。相手が少しでも下手に出る様子があるなら、圧で押し通してしまえば相手は臆して勝手に引っ込んでいく。
今回もその範疇。普段からほんわかした雰囲気を巻き散らかしているような、奥手で弱気な相手なら私が御しきれない道理がない。
610 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:14:27.08 ID:Gmun8+E70




____そう、思った。




千雪「……わかった」

ルカ「……あ?」

手芸女は一度は引いたその左足を、今度はもっと図々しく私の方に向かって踏み込んできた。
逃避の防御姿勢とは魔反対、臨戦態勢といったところ。

不安で揺れる瞳を私のもとに矯正して、奥歯で何かをぎりぎりと噛み潰している。
手芸女は生唾をひとつごくりと飲み込むと、口を開いた。



千雪「ルカちゃん、本当にありがとう」



611 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:17:02.41 ID:Gmun8+E70

「ありがとう」その五文字が理解できず、一度目の前の宙に描いてみた。
やっぱり違う。裁判の終わりにも283プロの連中が私たちに投げかけてきたその言葉は、何度確かめようとも私には不適切な言葉だと思う。
何かを施してくれた相手に、その謝意を示すために使われるその言葉は、もっと善人で、もっと余裕綽々として、もっと背筋の伸ばした日の当たる人間に向けられるべき言葉だ。
少なくとも、私が受けていい言葉なんかじゃない。
だから私は強い言葉でその五文字を拒絶した。


ルカ「……裁判終わりにも言ったはずだ、私は何も礼を言われる謂れはない」

ルカ「不愉快なんだよ、押し付けてくんじゃねー」


それでも、手芸女はその身を揺らがせることもせず、正対したままだ。


千雪「ルカちゃん、あなたが言っているのは私たちを立ち直らせたにちかちゃんの言葉についてのこと……だよね?」

ルカ「じゃあ……違うのかよ?」

千雪「うん……私はルカちゃん自身が美琴ちゃんと向き合ってくれたことに対する感謝をしたいの」

ルカ「美琴と……?」

千雪「私たちと美琴ちゃんとの間にはまだ隔たりがある……そして、それを真に理解してあげられるのはルカちゃんだけだもの」

(……! こいつが言ってるのは、美琴と私との【解散】のことか……)


何を理解した風な口ぶりで、本来ならそうやって言葉を返すところだが、手芸女にその言葉はぶつけられない。
こいつからにじみ出ているものは、そういう表面的なものではない。
もっと奥底にしみついた、海泥みたいなドロドロとした淀んだ感情。私もよく知るそれが透けて見えている。
612 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:18:02.31 ID:Gmun8+E70

千雪「裁判の時……ルカちゃんが美琴ちゃんと正面からぶつかり合ってくれたおかげで、最後の最後にシーズの二人はお互いの素直な感情を打ち明けられたんじゃないかなって思うの」

ルカ「……」

千雪「美琴ちゃんが納得していなくても、多数決の投票できっと間違った道にはなっていなかった。でも……それじゃダメなんだよね」

千雪「本当の気持ちを押し殺したままなんて……辛いもの」

ルカ「……お前、それって」

千雪「……」

(こいつも、そういう経験があるってことか……?)


私に手芸女のことはわからない。
所詮美琴と同じプロダクションに所属しているだけの存在で、それ以上の興味も関心もない。
だが、こいつが持っているそれは、近からずも遠からずという距離感で私と美琴の間の溝と類するものらしい。



でも、だからと言って……受容するわけにはいかない。


613 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:19:58.87 ID:Gmun8+E70

ルカ「……手芸女、お前の言いたい事はわかった。わかったけど……それでも違うんだよ」

ルカ「私は……まだ向き合えちゃいない」


情けない話だけど、私はまだ七草にちかのように一歩を踏み出す事ができていない。
私が裁判でやったのは、ただの癇癪のぶつけ合い。
シーズの二人が、死の間際にいつかの私たちのような道に向かおうとしていたから、それが見苦しくて足掻いただけ。
実際、七草にちかもそれはよくわかっていた。

じゃないと、【私の手本】なんてクソ生意気な口を叩くわけない。
あいつは、私に美琴のことを託そうとした。
あいつの願いを受け入れるつもりは全くない。

でも……私がここで生きていくのなら、それと同じことをしなくては生きては行けないだろう。
今この瞬間も、美琴のことを思うだけで胸が張り裂けそうだ。



千雪「____別に、いいんじゃないかな」



614 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:21:28.06 ID:Gmun8+E70

ルカ「……はぁ?」

千雪「まだ向き合えていない……きっとそれでもいいと思うの」

ルカ「お前……他人事だからって適当なこと……!」

千雪「適当なんかじゃないわ。……私たちは、にちかちゃんに生かされた。生きている私たちには時間がある、悩んで、つまづけるだけの時間があるんだもの」

ルカ「……!」


『七草にちかに生かされた』。
とんでもないことを口にしてくれたものだ。あんなに憎くて恨めしくてたまらない存在だったあいつに恩義を感じろとでも言うのか?


千雪「ゆっくりでいいの、ゆっくりとでもルカちゃんの答えが見つけられればそれでいいんじゃないかな」

ルカ「……知ったような口利きやがって」

千雪「ごめんね、お節介焼いちゃって」


正直なところ、手芸女の論法は非常に癇に障った。
自分の中の経験と勝手に類似を見出して推し量り、分かったような気になる。それでいて臆面もなく教訓じみたくさい言葉で諭してくる。
ドラマに出てくる『理想の教師』みたいなそれは、私が一番苦手とする相手だ。
615 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:22:32.23 ID:Gmun8+E70

ルカ「本当、メーワクこの上ねーよ」



でも、だからこそ……こいつのその腹の内を見てやりたいと思った。

たった数年ごとき年上だからって、よき理解者ぶった余裕を見せびらかしてくる、その面の皮の厚さを検証してやりたいと思った。
無駄に透き通ったその言葉に、一点の濁りもないのか、明かりに透かして見てやりたいと思った。
……幸いにも、今日は月光夜だ。
夜を利用して、それを検証するにはもってこい。


ルカ「……だから、迷惑料。付き合ってくれんだろ」


千雪「……! ふふ……ええ、喜んで」

ルカ「言っとくけど、まだ成人したばっかなんだよ。酒の良し悪しなんか知らないから、任せる」

千雪「それじゃあ熱燗なんか挑戦してみる? 日本酒もコンロも揃ってるから……案外おいしいの」

ルカ「……おう」

千雪「やった! それじゃあおつまみも選んじゃおうかな〜」

ルカ「……好きにしな」

616 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:23:41.20 ID:Gmun8+E70
-------------------------------------------------
【千雪のコテージ】


千雪「ごめんね、少し散らかっているけど……好きなところに座ってくれていいから」

ルカ「……おう」

(なんだ、この部屋。やたらといい匂いっつーか……雰囲気が違うっつーか……)

千雪「さっそく始めちゃいましょ! ……ふふ、誰かと飲み交わすなんて久しぶりだからなんだかテンション上がっちゃうな!」

ルカ「……そうかよ」

千雪「よし、それじゃあ早速ルカちゃんには私のとっておきの飲み方を伝授しちゃうぞ!」

ルカ「……」


スーパーを出た私たちはそのまま手芸女の部屋へ。
薄桃色でファンシーな雰囲気ある部屋はなんとも収まりが悪くてはじめソワソワしていたが、
その中で飲み交わす日本酒のミスマッチさが妙に滑稽ですぐに部屋の空気は気にならなくなった。
617 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2022/01/12(水) 21:25:01.53 ID:Gmun8+E70

はじめこそ無言だったものの、酒を入れ始めるとアルコールが口元の緊張をほぐしていき、自然と口から言葉が継いで出た。
私の口から出る愚痴や妬み嫉みも、手芸女は文句ひとつ言わず受け止めて、真剣に話を聞いていた。
そんな手芸女に気をよくしたのか何なのか、私も自然と守ろうとする領域の防衛線を徐々に徐々に無自覚に下げ始めていた。


ルカ「……別に七草にちかに嫉妬してたわけじゃねえんだよ、それより____」

千雪「……それより?」

ルカ「美琴を失ったことが辛くて……この島で美琴を見た時に、嬉しさと辛さが同時に湧き上がってきて、さ……」

千雪「そっか……」


裁判を終えた疲れからか酔いは思ったよりも早く回って……正直記憶もしっかりしない。
酒の勢いに任せて余計なことも口走った気がする。

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