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【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】

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18 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:56:45.15 ID:uUkbKYqQ0

不可解の連続で不安に押しつぶされかけていた私はすぐさま美琴さんの元へ駆け寄った。


にちか「美琴さん! こ、これってどうなってるんですか……?!」

美琴「えっと……なんていえばいいのかな」

美琴「……ごめんね」

にちか「い、いえ! こちらこそすみません! 美琴さんも混乱してますよね!」

美琴「……うん、でも他のみんなも同じみたいだから」


他のみんなという言葉を聞いて辺りを見渡した。
うわうわ……イルミネーションスターズからノクチルまで……283プロの錚々たるメンツが集まってるよ……。

でも、みんなあたりをキョロキョロと見回したり忙しない。誰一人として今の状況を理解している人間はいないみたいだ。


にちか「何かの撮影、でしょうか……」

美琴「ドッキリにしては大規模すぎるし……他の事務所の人間もいるのが気にかかるね」

にちか「ほ、他の事務所……?」


美琴さんは指さしたりはしようとはしなかった。
ただ視線をチラリと寄せただけ、それ以上は関わりたくないという意思表示なんだろう。


(……うっ)


あの人は、よく知っている。
私よりも前に美琴さんとタッグを組んでいたアイドル。
今現在では同世代の悩める女子のカリスマ的なシンボルマークである“カミサマ”、【斑鳩ルカ】さんだ。
19 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:57:59.69 ID:uUkbKYqQ0

ルカ「……あ?」

(……ひぃっ?!)


美琴さんの視線を追っただけの私は偶然にも彼女と目があった。
ルカさんはそれだけでもよほど不快だったらしく、顔をぐにゃっと歪ませると。


ルカ「……ちぃっ!」


……これ見よがしの舌打ち。


美琴「……どういうキャスティングなんだろうね、これは」

にちか「そ、そうですね……」


うぅ……なんだか居た堪れない。

未知の状況に放り込まれた不安と露骨な敵意を一人の人間に向けられている肌のひりつきとに戸惑っていた。
誰でもいいから、この際プロデューサーさんがドッキリの札を持って現れてくれても許すから、説明をして欲しかった。

でも、私たちが貰えたのは説明ではなく……




更なる【不可解】だった。



20 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:58:44.76 ID:uUkbKYqQ0





「ミナサン、どうやら揃ったみたいでちゅね!」





21 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:59:54.24 ID:uUkbKYqQ0

突如聞こえてきたのは素っ頓狂な語尾による呼びかけ。
全員の視線が一気にその声の発生元である教卓へと注がれる。
私たちが“非現実”を目撃するまで、そう時間はかからなかった。

バビューン!!

教卓の天板が跳ね上がったかと思うと、白い影が一気に飛び上がり……
不気味なまでにふんわりとした着地をしてみせた。



「あちしはウサミ、魔法少女ミラクル★ウサミでちゅ! よろしくね!」




薄桃色のフリルのついたドレスを身に纏って、ハートのステッキを携えた白い寸胴のウサギ。
ぬいぐるみ大の大きさのそれが、表情豊かに動いて、喋った。

22 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:01:03.60 ID:uUkbKYqQ0

にちか「う、うわわぁ?! な、なんなんですか、あれ?!」

美琴「……びっくりした」

???「ロボット!? ロボットっすかね、アレ?!」

???「すごいですーーーー!! あんな風にうごくロボット、はじめて見ましたーーーー!!」

???「ぬいぐるみ……なのかな?」

???「そのようだけど……あんなに自由自在に動いたり喋ったりするものは見たことも聞いたこともないわ」

ウサミ「そうでちゅ、あちしはヌイグルミなんでちゅ。フェルト地なんでちゅ」

???「素材より気になるところがあるといいますか……」

???「でも、なんだかちょっとかわいくない? うち、ケッコー好きかも!」

???「そ、そうかなぁ……」

ウサミ「えへへ……そう言ってもらえるとあちしもうれしいでちゅ。フェルト地の心臓が、じんわりと暖かくなっていきまちゅ」

23 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:02:24.21 ID:uUkbKYqQ0

???「そんなことより、今の状況を説明して欲しいんですケドー?」

ウサミ「ああ、そうでちゅね。ミナサンも今どういう状況かわからなくて、とても不安だと思いまちゅ」

???「あー、そういえば……わかんないや、全然。どうしてここに来たかとか」

???「あれ〜? そういえば、どうやってここに来たんだっけ〜」

(……!!)


言われてみれば私もそうだ。
あの時レッスン室でよくわからない幻覚を見てから、ここに来るまでの記憶がまるですっぽりと抜け落ちている。
気がつけばここにいたし、気がつけばよくわからないうさぎのヌイグルミが目の前で動いている。
その間の記憶を呼び起こそうとしても、まるで靄がかかってしまっているようで何も見えてこない。

……これは。


???「集団記憶喪失……そういうことなのかしら」

???「きおくそうしつ……ですか?」

???「ここにいる全員がここに来るまでのことを忘れている……明らかに不自然だよね!」


どうやらそれは私だけでないらしく、みんな顎に手を当てたり腕を組んだりして考え込んでいる。
でも、その誰もがいくら記憶をのぞき込んでも解答が見えてこない。まるで事実そのものを脳が放り出してしまったような、そんな不自然さを覚える。
24 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:04:05.56 ID:uUkbKYqQ0

中でも動揺が激しかったのは、この場で唯一の283プロ【以外】の所属の人間、ルカさんだった。


ルカ「おい、説明しやがれ! なんで私までこんなところにいるんだよ! 私は283プロの人間じゃない!」

ウサミ「お、落ち着いてくだちゃい! それを含めて諸々込み込み、説明いたしまちゅから!」

ルカ「283プロのことは勝手にすればいいけど、私まで巻き込まれた理由を教えろよ!」

ウサミ「わー! 乱暴はいけまちぇん、フェルト地の耳は繊細なんでちゅ!」


ルカさんはウサミと名乗る怪しいぬいぐるみに掴みかかり恫喝じみた質問を繰り返す。
私たちはというとその剣幕にたじろぐばかりで、しばらくその怒声にびくついていた。


ルカ「このヤロー……!」


ルカさん自身も昂ぶりが収まらず、とうとう振り上げた右手。それがぬいぐるみのフェルト地の顔面に炸裂するかと思ったその直後。




____拳はそのまま宙で静止した。



25 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:05:40.65 ID:uUkbKYqQ0

美琴「……必要以上にうるさくしないで。みんな混乱してるんだから」

(み、美琴さん……!)

ルカ「……チッ!」

(き、気まずい……)


ルカさんは虫の居所がよほど悪いのか、捨て台詞でも吐きそうな具合の勢いでその場を離れると、どかんと音を立てて近くの椅子に腰かけた。
美琴さんに向ける視線が妙にとげとげしい。


ウサミ「あ、ありがとうございまちゅ……あちしはゆるふわ系ウサギなので、正直助かりまちた……」

美琴「ううん……それより、説明をお願いできる?」


一方の美琴さんはというと、正体不明なぬいぐるみをいたわる様に頭をなでると、優しく問い直した。
やっぱり美琴さんはすごい、オーラというか魅力というか、人間性の深みを感じられる。


ウサミ「はい!でもそれより先に……まずは!」
26 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:06:52.67 ID:uUkbKYqQ0

シャラララ……

???「ふぇ?! つ、杖が光っとうばい?!」

???「へ、変身……ですかーーーー!?」

ウサミ「これは変身ではなく、あちしの魔法でちゅ。いざ、とくとご覧あれー!」


ウサミと名乗るそのヌイグルミが高々とそのステッキを掲げたかと思うと、俄にあたりは桃色の光に包まれ……



____バタン!




教室の壁は、ハリボテのようにその場で倒れてしまった。
そしてそれと同時に姿を表したのは……




青い海、眩しい太陽。


打ち寄せる白波、きめ細かな砂浜。


そして、心地よい潮風________。

27 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:08:38.89 ID:uUkbKYqQ0



にちか「……え?」

にちか「え、ええええええええええ?!」



ウサミ「てんてれてーん! ミナサンを、南の島にご招待ー!」


一瞬にして私たちのいた教室は、南の島の砂浜に変わってしまった。
それも、漫画みたいに素っ頓狂な方法で。


???「あは〜〜〜! すっごく気持ちいい天気〜〜〜!」

???「すごいっすー! どうやってやったんっすか?! 魔法って本当にあったんっすか?!」

ウサミ「はい! あちしの魔法は世界一でちゅから! 不可能はありまちぇん!」

???「三峰的にはもう色々とキャパオーバーなんだけど……」

にちか「み、美琴さん……!」

美琴「……びっくりした」

にちか「だめだ! 美琴さんがすっかり『びっくりしたbot』みたいになっちゃってる!」

ウサミ「どうでちゅか、この綺麗なビーチ。波の音を聞きながら日差しを浴びているだけでなんだか心が安らいでいきまちゅね……」
28 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:10:29.00 ID:uUkbKYqQ0

ルカ「おいコラ!」

ウサミ「はぅ?!」

ルカ「てめェ……どういうつもりだ、私たちを拉致監禁した挙句海外に連れまわしやがって……」

(……! 拉致監禁、海外……?)

ウサミ「ち、違いまちゅ! あちしはそんな物騒なことはしてまちぇん!」

ウサミ「あちしは犯罪とか悲しいことは大嫌いなんでちゅ、そんな言葉聞きたくもないくらい!」

ルカ「そんな理屈が通ると思うか? どう見ても今の私たちの状況は普通じゃない、しかもてめェはその全てを知っているような口ぶり……」

ルカ「これが拉致じゃないってんなら説明してみろよ!」


ウサミ「えっと……その……これはロケ、でちて……」


???「ふぇ? ロケばい?」

ウサミ「そうなんでちゅ、283プロのみんなと、斑鳩さんを特別ゲストにして親睦を深めるための【旅ロケ】なんでちゅ」

ルカ「はぁ?! そんなの聞いてない!」

???「私たちも聞いてないなぁ……そんなこと」

???「あのプロデューサーが連絡ミスをするとも思い難いし……どういうことなのかしら」

ウサミ「こう見えてもあちしはそのロケを率いるディレクターなんでちゅ。フェルト地なんでちゅ」

美琴「ディレクター……? あなたが……?」

ウサミ「はい! あちしは出演者も視聴者も、みんなが幸せでハッピーになれる番組を作りたいんでちゅ、だからこの島でミナサンに危害をくわえるようなことはしまちぇんよ!」

???「えっと……ディレクターさんがウサギさん越しに指示を出してるってことでいいのかな……」

ウサミ「違いまちゅ! あちしこそがディレクターなんでちゅから、エッヘン!」

???「よろしくおねがいします、ディレクターさん!」

???「適応が早すぎるよ?!」
29 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:12:05.39 ID:uUkbKYqQ0

???「それで、その……あなたはそのロケと題して、この島で何をさせたいんですか? ディレクターと称すのであれば、何かしら考えあってのことだと思いますが……」

ウサミ「いい質問でちゅね! あちしがミナサンにして欲しいことはただ一つ、仲良くして欲しいんでちゅ」

ウサミ「先ほども言った通り、このロケは親睦を深めるのを目的にした旅番組でちゅ。ヤラセなんかは一切なし、障害なんかも特に存在しまちぇん」

ウサミ「ミナサン自由に自分たちのやりたいように、仲良くらーぶらーぶする……それがこの『どきどきIsl@nd☆tour』なんでちゅ!」

にちか「うーわ、ダッサ……なにそのタイトル……」

ウサミ「こらー! 番組のタイトルなんでちゅからケチをつけたらいけまちぇん!」


……狂ってる。
正直そう思った。さっきのルカさんじゃないけど今の私たちは完全に拉致された身のはず。
それなのに私たちに仲良くしろだのなんだの宣うこのヌイグルミは何者なんだ。






……でも、殊の外周りの方々は警戒心を緩めていく。





30 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:13:16.51 ID:uUkbKYqQ0

???「じゃあ、自由に過ごしてもいいってことっすか?」

ウサミ「はい、ミナサンがやりたいようにやってくれて構いまちぇんからね」

???「果穂ちゃん! 一緒に南国の珍しい虫を探しに行こうよ!」

???「あさひさん……!! はい!! おともします!!」

???「もう……あさひちゃん? 一人で遠くに行っちゃダメでしょ?」


次から次へと砂浜からは人の姿がなくなっていき、


???「ふふ……ヤバい、めっちゃ」

???「だね〜? 円香先輩がここにいたら顔すごい引き攣ってそ〜〜〜♡」

???「あー……泳ごっか、せっかくだし」

???「さんせ〜い!」


意味不明なぐらいの順応を見せて、


???「こがん立派なヤシの木があれば、美味しいココナッツジュースが作れるばい!」

???「へぇ〜、こがたん、そういうのもできるんだ」

???「経験はなか! でも、やってみんことには何も始まらんばい!」

???「何その熱血ー……」


現状を受け入れられない人間の方が少なくなりつつすらあった。

……で、肝心の私はというと。
31 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:14:37.60 ID:uUkbKYqQ0


「あーーーー!!」

ドシン!


思いっきり勢いよく後ろから倒れてやった。
思考するのがもう面倒で、いっそ昏倒してくれてもよかった。
でも、南国の砂浜というのは思っていた以上に優しいらしく、大した衝撃も感じることなく私はその場に仰臥していた。


「もうわっけわかんない……」


……私は現状を受け入れられない側の人間。
それも割と最初の段階で。

美琴さんの手前、パニックになったり叫んだりはしなかったけど本音を言えばそれらで収まるほどの動揺じゃなかった。

完全に日常と隔絶された異常な陽気に、見たこともないヌイグルミしかもそれが喋って動くと来た。かと思えば南国に連れてこられて仲良くしろって?



____どう考えても夢でしょ、こんなの。



32 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:15:33.58 ID:uUkbKYqQ0
。o○o。.★.。o○o。.☆.。o○o。.★.o○o。.☆.。o○o。



しゃいにー☆あいらんど
どきどき南国ロケで大パニック⁉️



。o○o。.★.。o○o。.☆.。o○o。.★.o○o。.☆.。o○o。
33 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:16:20.28 ID:uUkbKYqQ0





「……ねえ、大丈夫?」





34 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:17:48.67 ID:uUkbKYqQ0

「……大変だよね、こんなに一気に訳のわからないことが起きて」


私のことを怪訝そうにのぞき込む美琴さん。
そりゃそうだよね、隣に立ってた人間が混乱の一時の勢いとはいえ急に倒れこんだらびっくりしちゃうよね。


「……ねえ、聞いてる?」

「き、聞いてます……聞いてますけど……こんな状況……受け入れられないし、信じられなくないです?」


思わず駄々こねる子供みたいな口ぶりになる私。美琴さんは私の言葉を少し宙でなぞるも、それに同調はしなかった。
むしろお母さんのように、私を諭す。


「色々と手いっぱいだと思うけど……動かないことには始まらないから」

「そ、そうですけど……」


ただ、美琴さんにこれ以上迷惑をかけるのは自分的にもナシ。
とりあえずは立ち上がって、現実というものを見定めることにした。


「……手、使う?」

「い、いえいえ! そんな申し訳ないです! 今立ちますから!」
35 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:19:17.41 ID:uUkbKYqQ0

立ち上がると改めて視界に入る、綺麗すぎる海と空。
昔お姉ちゃんと一緒に行ったような、東京湾のきっったない海とは大違い。
混じりっ気のない純粋な青色は胸がすくようで、思わず走り出したくなるような……テレビで見る海外のビーチとかそういうレベルだ。
でも、それがゆえにかえって不気味に見えてしまうというのも実情。


美琴「……大丈夫? 落ち着いた?」

にちか「落ち着いては……ないかもです。すみません……やっぱり、全く意味が分かんない状況ですから……」

にちか「……ってあれ? ほかの皆さんは?」

美琴「もう行っちゃったよ。島の様子を見てみないことには何もできないからって」

にちか「……!! わわっ、すみません! 私が倒れちゃってたから美琴さんのお手を煩わせちゃってましたかね!?」

美琴「ううん、そういうんじゃないから大丈夫。それより、とりあえず私たちも行動を開始したほうがいいかな」

にちか「そ、そうですね! とりあえずは島の調査に……」


自分たちだけ行動が遅れてしまった、美琴さんの足を引っ張ってしまった。
なんとかそのビハインドを取り返さないといけないと思って、すぐに動こうとした……



____けど、美琴さんがそれを制止した。



36 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:20:41.52 ID:uUkbKYqQ0

美琴「待って、その前に……やらなきゃいけないことがあるから」

にちか「え? な、なんですか?」

美琴「……緋田美琴、【超社会人級のダンサー】。よろしくね」

にちか「……み、美琴さん?」


ピロリン

にちか「……わぁっ?!」


突然の美琴さんの自己紹介、それと同時に袂のほうから聞いたことのない電子音。
思わず何事かとポケットを漁ると……その音の発生元はすぐに見つかった。
スマートフォンのような、PDAのような、液晶と捜査のタッチパネルが一体化した装置のようなもの。

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緋田美琴【超社会人級のダンサー】

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その液晶には美琴さんの情報が浮かび上がっていて、その脇には【希望のカケラ】という文字も見える。
37 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:22:02.13 ID:uUkbKYqQ0

にちか「こ、これは……?!」

美琴「……覚えてないの? さっき、ウサミに渡されたと思うんだけど……にちかちゃん、茫然自失って感じだったから」


言われてみればそんなの受け取ったような気もする。
すっかり目の前の異常事態に気を取られていて思考が停止していたのでまるで記憶がないんだけど。


ウサミ「おめでとうございまちゅ! 【希望のカケラ】を手に入れまちたね!」

にちか「わぁっ?! また出た!?」

ウサミ「七草さん、もう大丈夫でちゅか? 突然倒れこんだのでみんな心配してまちたよ?」

にちか「そ、それより……これ、なんなの?! このよくわからない機械も、希望のカケラっていうのも!」

ウサミ「ああ、その機械は【電子生徒手帳】でちゅ! ミナサンのこの島での暮らしをサポートしてくれる便利な機械でちゅよ! まあ、クリアしたらマイルがたまるようなミッションがあるわけではないんでちゅが……」

ウサミ「その代わり、仲良くなればなるほど【希望のカケラ】がたまっていくんでちゅ! 【希望のカケラ】はその数に応じて便利なアイテムと交換できまちゅから、大切に集めてくだちゃいね!」

美琴「ひとまずこの電子生徒手帳に全員分の情報を登録する必要があるみたい。自己紹介をすることで相手の情報が記録されるみたいだから、それで」


ああ、突然美琴さんが自己紹介をしたことにも納得ができた。
別に私の存在が矮小すぎて忘れちゃったとか、そういう余計な心配はしなくていいみたい。
ほっと胸をなでおろす。
38 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:23:30.44 ID:uUkbKYqQ0

画面を指でつつけば、私の情報も浮かび上がってきた。

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七草にちか【超高校級の幸運】

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にちか「わ、私……幸運? 確か始まりのモノローグでその真逆みたいなこと言っちゃってたと思うんだけど……」

ウサミ「あー、その……希望ヶ峰学園の言うところの【超高校級の幸運】って、そういう単純なラッキーってだけの意味じゃないんでちゅ」

美琴「確か……毎年全国の【超高校級でない平均的な高校生】から一人抽選で選んで入学する権利を与える制度のこと、だよね」

ウサミ「その通りでちゅ。で、でもそれって……七草さんが凡人だからこそつかみ取れた幸運ってことでちゅから! 全然、気に病む必要はないんでちゅ!」

にちか「……いや、そんな言われ方したら余計に気になるんですけど」





にちか「……ん? ていうか、今、【希望ヶ峰学園】って言った……?」





39 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:24:42.39 ID:uUkbKYqQ0

ウサミ「そうでちゅけど……どうかしまちたか?」

にちか「どうしたもこうしたもないよ……だって、希望ヶ峰学園ってあの【希望ヶ峰学園】のこと、なんでしょ……?! そんなの、そんなのって……!!」




ウサミ「そうなんでちゅ! ビッグさぷらーいず! ミナサンは希望ヶ峰学園が主催する、【希望ヶ峰学園歌姫計画】の参加者に選ばれたんでちゅ!」




【希望ヶ峰学園歌姫計画】……?
その名前自体は聞いたこともない、でも希望ヶ峰学園の名を冠するというだけでその持つ意味は大きく変わってくる。


だって、希望ヶ峰学園はこの国の、この世界の【希望】の象徴なんだから。
40 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:26:58.44 ID:uUkbKYqQ0

美琴「これもさっき話してたと思うんだけど……」

にちか「す、すみません……完全に聞いてませんでした」

ウサミ「ミナサンもよく知る通り、希望ヶ峰学園は世界中から超一流の才能を持つ高校生を集めて才能の研究を行う研究学術機関なんでちゅ。歌姫計画はその延長線上にある、大規模プロジェクトなんでちゅよ!」

にちか「な、なんだかすごく大きな話になってきた……」

ウサミ「希望ヶ峰学園の才能研究のノウハウを生かして、ミナサンの持つ才能の種、それをアイドルとしての個性・才能まで育むことを目的とした計画なんでちゅ! 新時代のエンタメ産業をけん引するような超一流のアイドルになれるように、頑張りまちょうね!」

にちか「……!!」

(そ、そんな計画に……私が……?!)

美琴「この計画の舞台に選ばれたのがこの島ってことみたい」

ウサミ「はい! でも安心してくだちゃいね、人体実験とか人格移植だとかそんな物騒なことは行いまちぇん。ちゃんとミナサンが自分自身の力で未来を切り開けるような教育プログラムをご用意してまちゅから!」

ウサミ「あちしがディレクターを務めるこの番組は、そんなミナサンのセッサタクマをお茶の間に届けるための番組なんでちゅ!」
41 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:27:43.16 ID:uUkbKYqQ0

なんだかまるで現実味がない話、それは変わらない。
けど……希望ヶ峰学園の名前を聞いた瞬間、その現実味のなさは色を変えた。
むしろ現実味のなさが心地よくすらあった。全身がふわふわして、どこまでも飛んでいけそうな、光が差し込んできたような……


にちか「やったーーーーーっっっ!!」

美琴「……にちかちゃん?」

にちか「す、すみません美琴さん……でも、うれしくて……! だって、私……希望ヶ峰学園の教育プログラムを受けられるんですよ……?! もう人生勝ち組ルートみたいなものじゃないですか……?!」

美琴「……」

(……あれ?)

ウサミ「うふふ、七草さんが喜んでくれてあちしも嬉しいでちゅ。ぜひこの島での暮らしを楽しんで、めいっぱい自分自身の才能を伸ばしてくだちゃいね!」


ウサミはすぐにまた姿を消した。
砂浜に残ったのは私と美琴さんのみ。希望ヶ峰学園歌姫計画とやら聞いて高揚する私とは対照的に美琴さんは冷静だった。
42 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:29:13.23 ID:uUkbKYqQ0

美琴「……ひとまず、みんなと合流しようか。にちかちゃんは、自己紹介もできていないし希望のカケラを集めなきゃだから」

にちか「あ、そ、そうですね……! 私、まだこの島のことも知らないですから……!」

美琴「行先は電子生徒手帳のマップでも確認できるから……私はにちかちゃんについていくよ」

にちか「あ、はい! すみません!」

少しだけ、美琴さんの反応は気になるけど……
今は美琴さんの言う通り自己紹介を進めるほうが優先かな。
この島を一通り見て回って、島での暮らし方も頭に入れておいたほうがいいかも。

よし、それじゃあ探索にいくぞー!


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☆探索パートについて
さて、イントロダクションの時間です。
本スレッドは安価とコンマで進行していくわけですが、ここからの探索パートでさっそくその出番でございます。
行先をご指定の上、同時にコンマ判定を行い、その末尾と同じ枚数だけ【???メダル】が獲得できます。

……え? メダルの前の???、ですか? 
現段階でメダルの名称を申し上げることはできませんが、今お考えのメダルと同一のものだと思われますよ。
あくまで展開上仕方なく伏せているだけ、この島での平和な暮らしがどうなるかなんてことは、皆様が一番お判りでしょう……?

メダルは前スレ同様ガチャを回したり自動販売機で購入したり、スキルの効果に使用したりと多様な使い方が可能になります。
今のうちに多く獲得することが吉でございましょう。

それではこれからのスローライフに幸多からんことを……!

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1.【1番目の島】空港
2.【1番目の島】ロケットパンチマーケット
3.【1番目の島】コテージ
4.【1番目の島】牧場
5.【中央の島】ジャバウォック公園

↓1
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/11/18(木) 21:51:05.23 ID:KI6yjtMS0
5
44 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:53:54.49 ID:uUkbKYqQ0
5 選択

【コンマ23:???メダルを3枚獲得しました!】

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【中央の島】ジャバウォック公園

私たちが最初に召喚された島には橋が建てられていて、そこから別の島に行くことができた。

どうやら私たちの今いるこの場所は、この【中央の島】を取り囲むようにしていくつかの島があるらしい。
その中で現在行くことができるのが、元々私たちのいた島……というわけ。

そして、その中央の島には大きな公園が一つあるだけ。
公園といっても巨大な銅像があるだけで、どちらかといえば何か催しを開いたりするような広場に近いかな?
虎に蛇、巨大な鳥を従えて馬にまたがるこの人物はこの島の伝説の英雄とかなんだろうか。
よく観光地にこの手の銅像ってあるけど、その人物のことを知らないままに帰っちゃったりするもんなんだよね。
多分、今回もきっとそうなる……

だって、私にはそれどころじゃない【不安の種】があるから。


ルカ「……ちっ、せっかく島を移動したってのに来やがった」

美琴「にちかちゃん、行こう。ここにいても仕方ないから」

にちか「ま、待ってください! わ、私まだ……希望のカケラもらえてないです!」

ルカ「……なんで私がてめェなんかと」

(私だって別にやりたくはないんだけど……)

ルカ「……斑鳩ルカ、【超社会人級のシンガー】だってよ」


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斑鳩ルカ【超社会人級のシンガー】

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45 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:55:30.80 ID:uUkbKYqQ0

……ついさっきも気まずい思いをしたように、この人はもともと美琴さんのパートナーだった人だ。
同じユニットを組んで、つい最近まで一緒に活動していた。
諸事情によりユニットは解散し、ルカさんはそのままソロで活動、美琴さんは事務所を移籍して私とくっついた。
傍目に見てもその解散は単純な事情ではないらしく、今も二人の間には走る火花が見えそうなくらいにバチバチだ。

そしてその敵意は私にも向けられている。
その敵意も美琴さんの肩を持つ存在、というだけでないように感じられるんだけど……


ルカ「……はっ! 事務所移籍して新しいユニットを組んだとは聞いたけど、まさかこんなチンチクリンが相棒だなんてな」

にちか「ちんちく……?! そ、それもしかしなくても私のことです?!」

ルカ「他に誰がいるんだよ、緑チビ。あんたも大変だな、美琴と同じユニットを組むことになってよ」

美琴「……ルカには関係ないでしょ?」

にちか「ちょ、ちょっと待ってください! それってどういう意味ですか?!」

ルカ「どういう意味も何も……美琴と組んだところでろくなことにはならないって意味だよ」

にちか「……今ちょっと私もカチンときましたよ」

ルカ「は?」

にちか「美琴さんのことをなんでそんなに悪く言うんですか?! 私よりも長い間美琴さんと一緒にいたのに、なんで?!」

ルカ「……」

にちか「なんで美琴さんの魅力をわかってあげないんですか?!」

ルカ「わかってねえな……」

にちか「!?」
46 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:56:54.26 ID:uUkbKYqQ0

ルカ「おいおい……美琴、今度のパートナーはお前の信者ってことかよ! はは!笑える、ケッサクだな!」

にちか「はぁーーー?! なんですかその言い方! 私は純粋に美琴さんを尊敬してですねー!?」

ルカ「ああ、もういい……黙ってな」

にちか「嫌です! 美琴さんほど魅力的な人もいないですよね!? それを認めるまで_____」

ルカ「やめろ、それ以上詰め寄ってきたら出るとこ出る」

にちか「……っ!」

美琴「にちかちゃん、いいから。時間の無駄」

ルカ「……けっ」

美琴「じゃあね……信者がたくさんの『カミサマ』」

ルカ「じゃあな、シーズの『七草にちかじゃない方』」

(……最悪だ)

(私のせいで二人をかき乱しちゃった……ってこと……だよね)


美琴「にちかちゃん、ルカのことは放っておいていいから」

にちか「で、でも……」

美琴「……ルカとのことに踏み込まないで」

にちか「……!」

美琴「にちかちゃんは何も関係ない、私とルカ二人の問題だから」

(ちがう……とは言えなかった)

(美琴さんの口調はこれまでに触れてきたどの美琴さんよりも冷淡で、壁を貼るような……拒絶の色を濃く感じてしまったから)

(私の唇はくっついて引き剝がすことができなかった)

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1.【1番目の島】空港
2.【1番目の島】ロケットパンチマーケット
3.【1番目の島】コテージ
4.【1番目の島】牧場

↓1
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/11/18(木) 22:57:07.43 ID:cAbE+2DcO
3
48 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:05:08.68 ID:uUkbKYqQ0
3 選択

【コンマ43:モノクマメダル3枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…6枚】

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【コテージ】

一階建てのワンルームハウスがいくつも木製の桟橋で繋がれたエリアが入り口入ってすぐ。
そこを抜ければ巨大なプールとそれを囲むようにレストランと旧館とが姿を現す……普通に立派なホテルだ。
実際ここに泊まるとなるとそれなりの金額は張りそうな豪華な設備。
しかもこれ、マップを見てみるとひとり一部屋しっかり用意されている。


美琴「どうやらここに宿泊するみたいだね、食事もレストランで揃って食べる感じかな」

にちか「す、すごすぎますって……流石は希望ヶ峰学園、ただの合宿とかじゃこうはいかないですよ……!」

美琴「……そうかもね」

(それでも涼しい顔をしてる辺り美琴さんはやっぱりすごいや……こういうホテルに泊まった経験も一度や二度じゃないんだろう)

(それなのに私ってば真横で舞い上がって……うぅ……)

美琴「にちかちゃん、ここにも何人かいるはずだから……自己紹介しに行こう?」

にちか「あ、はい……! そ、そうですね!」
49 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:06:33.99 ID:uUkbKYqQ0
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【プールサイド】

昔っから謎だったんだけど、こういうビーチの近いリゾート地にも必ずと言っていいほどプールがあるのってなんでなんだろう。
海に行かずにプールにだけ行く人とか、そんなのっているのかな……

でも、プールでもしっかり寛げる様にビーチベッドにパラソルもしっかりおいてあるし……ここを利用するだけの需要はあるってコトだろう。
美琴さんとか、結構似合うかもしれない。このベッドで横になってジュースを飲みながら……
なんて、美琴さんはそんな時間があったら振付の一つや二つ練習してそうなんだけど。


???「にちかちゃん……!! さっきは大丈夫だった……?!」

にちか「え……? ああ、黛さん! だ、大丈夫です! 心配してくれてありがとうございます!」

冬優子「よかった……ふゆ、ずっと心配だったの……ほら、こんな状況だから何が起こるかわからないでしょ……? にちかちゃんに何かがあったらと思うと、ふゆ……心配で、心配で!」


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黛冬優子【超専門学校級の広報委員】

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ストレイライトの後の二人は割とステージ上とギャップがあるけれど、黛さんはそうでもないんだよね。
変わらず完璧にキュートな振る舞いで徹底されていて、自分自身の売り込み方も上手。
そういう意味合いでの【広報委員】ってことなのかな?
前にもインタビューでツイスタの使い方は丁寧にしているって話してたし、事務所の他のアイドルに比べてもそのあたりの意識は高いんだろうな。
50 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:07:22.78 ID:uUkbKYqQ0

冬優子「ホテルを一通り見て回ったんだけどすごく立派なホテルだね、旧館以外は手入れもちゃんとされてるみたい!」

にちか「旧館は、違うんですか?」

冬優子「うん、蜘蛛の巣も貼ってたし、中も真っ暗で……長いこと誰も足を踏み入れてないって感じかなぁ……」

美琴「そうなんだ……ウサミの管理も、行き届いてない感じなんだね」

冬優子「そうですね……肺に障ってもよくないから、あんまり近寄らない方がいいかもしれません……」

(やっぱり黛さんはしっかりしてるな……)

にちか「なんだか事務所の寮みたいですね、それって」

美琴「寮……?」

にちか「ああ、美琴さんはあんまり知らないと思うんですけど……283プロダクションの寮の一室がつい最近まで長いこと荷物置き場になってて……だいぶ埃とかたまってたらしいんですよねー」

冬優子「そういえばそんな話をふゆも聞いたかも。あれ……? その部屋って確か……」

にちか「はい、私の父の部屋です。もう死んじゃって結構経つんですけどね」

冬優子「そっか……」

にちか「あ、いやなんかすみません! 急に湿っぽい話になっちゃって!」

冬優子「ううん、大丈夫。にちかちゃんがそれだけ家族のことを思ってるっていうのが伝わってきたから……ふゆ、なんだか逆にほっこりしたよ?」

(嫌な顔一つせず……黛さん、優しいなぁ)
51 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:08:30.03 ID:uUkbKYqQ0
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【ホテルロビー】


こういう旅館とかホテルってなぜか高頻度でゲームが置いてあるけど、なにかそういう決まりとかってあるのかな……
なんか流行とかと無関係にカビの生えた化石みたいなゲームなんだよね。
それが案外面白かったりするもんだけど。


美琴「……やりたいの?」

にちか「あ、いや、ぜんぜん! もうぜんっぜんやりたくないですから!」

美琴「そう? ……遠慮しなくていいよ」

(……正直なところ、ちょっと憧れはある)

(ああいうアーケードゲームってプレイのたびにお金がかかるから、なかなか手が出なかったんだよね……)

にちか「だ、大丈夫です! それより今はやるべきことがあると思うので!」

???「透先輩あんまりうまくないね〜〜〜?」

???「ふふ、なんでだろ」

美琴「……やってるみたいだよ?」

???「あ、なんかシーズ来た〜!」

???「あー、やる? 難しいよ、これ」

にちか「……まあ、どのみち自己紹介はしなきゃなので、ちょっとだけなら……?」

美琴「じゃあ、私もちょっとだけやってみようかな」

にちか「み、美琴さんも……?」

(う、うわうわ……! こんなの……畏れ多いし、負けらんないじゃん……!)

???「おー、じゃあマルチだ。ぶちかますよ、うちら」

???「あは〜? 雛菜も手加減しませんよ〜」
52 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:09:43.97 ID:uUkbKYqQ0
__________
________
______


にちか「……なんか、驚くほどあっさり勝ちましたね」

美琴「にちかちゃんがうまかったから」

???「透先輩がへたっぴすぎるんだよ〜」

???「ふふ、ごめん」

透「負けたわ、あるんだね。ビギナーズラック」


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浅倉透【超高校級の???】

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浅倉さんってば本当につかみどころがないんだよね。
たまにお仕事ご一緒することがあるけど、なんか会話の運び方というか間合いというか独特で……
でも、別に居心地が悪いわけじゃなくて、むしろその逆。
言葉を使わなくとも、誰かを引き寄せてしまう不思議な魅力がある。
持ってるなー!って感じで、正直ずるい。ずるすぎるんだよねー……
53 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:10:45.59 ID:uUkbKYqQ0

にちか「ビギナーズラックってそれ使い方あってます?」

透「えー、どうだろ」

にちか「ぜったい違うと思います……」

美琴「あんまり普段ゲームとかしないの?」

(美琴さんにこれ言われるって相当だよ……)

???「ん〜、透先輩の部屋でたまにやったりしますけどね〜。透先輩ってば波が激しいから〜」

美琴「……そういえば、雛菜ちゃんと透ちゃんは幼馴染なんだよね」

雛菜「そうですよ〜、あとは小糸ちゃんと円香先輩がいるんですけど、なぜか今ここにはいないみたいですね〜」


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市川雛菜【超高校級の帰宅部】

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市川さんは私と同級生なのに、なんていうか……とにかくすごく強い。
自分の中の芯があってそこから揺るがないというか、ゴーイングマイウェイな感じって言えばいいのかな?
他の人の顔色を窺ったりとかしないし、自分にとにかく自信があるみたい。
彼女の『しあわせ』の指針はすごく興味深い。


にちか「そういえばほかのユニットでも結構いない人がいるんですよね……」

透「あー……確かに。いないかも、真乃ちゃんとか」

雛菜「円香先輩はここにいてもつまんなそうにするだろうけど、小糸ちゃんは来てくれてもよかったな〜」

透「あー、樋口はそうかも」

美琴「……ルカより、そっちの子を入れてくれたほうがよかったな」

(……あれ、もしかして地雷踏んだ……?)
54 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:12:24.42 ID:uUkbKYqQ0
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【レストラン】


ホテル本館の二階はオープンビューのレストラン。
島の美しい自然を見ながらご飯を食べられるというのはいいなぁ、夜なんかは雰囲気も出てまた別の趣がありそう……
なんて、そんな経験自分は全くないから、想像の話でしかないんだけど。


美琴「……でも、料理ってだれが作るのかな」

にちか「え……? そういえば、誰なんでしょう……ホテルの従業員みたいな人も見かけてないですよね」

美琴「ウサミがさっきの魔法を使って作ってくれるのかな」

にちか「えー? そ、それもどうなんですか? あんまり食べたくなくないです?」

美琴「私は気にしないかな、油ものばっかりとかじゃなければ」

???「その心配はなさそうですよ、備え付けられてる食材は健康志向のものが多いみたいです」

???「うん、あんまり見たことない野菜も果物もそろってるし、食事は楽しく体にいいものが摂れそうかな」

美琴「……そうなの?」

???「は、はい……場合によっては私たちで作ることもできそうですし、食事の心配はないと思います」

灯織「あ、そ、その前に……七草さんとは希望のカケラの交換がまだでしたよね。風野灯織です、【超高校級の占い師】……だそうです。私は趣味程度で、占うこともできませんけどね」


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風野灯織【超高校級の占い師】

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55 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:13:25.38 ID:uUkbKYqQ0

風野さんとは初対面でなかなか距離が縮まらず苦労したっけ。
結構人見知りをする子だし、私もつい余計なことを口走っちゃうタイプだしでなかなかかみ合わず。
最近では共通の話題である家事で少し話せるようになった。風野さんは料理が上手らしくて、私も勉強することが多い。
顔もいいんだし、アイドルとしての実力もあるんだし、もっと自信を持てばいいのになぁ…


灯織「どうやら食料も備品も随時補充されるようですよ、先ほどウサミが現れて説明を加えていきました」

にちか「でも、こんな島でどうやって補充するんだろう……どこかに船が停泊するところでもあるのかな……」

灯織「まだ未開放の島もいくつかありましたし、食料供給のための設備がそこで整えられている可能性はありますね……なにせ希望ヶ峰学園です、規模感が常識と違いますから」

美琴「……未開放の島?」

灯織「ええ、先ほど中央の島にも立ち寄ったんですが、私たちのいる島は【第一の島】と呼ばれていて、ほかにもいくつか島があるようですよ。現在はゲートが閉じていて通うことはできない様子でしたが……」

にちか「なんで行動の幅を狭めてるんでしょう? 最初っから開けとけばよくないです?」

灯織「……何か危険がある、とか……?」

にちか「風野さんは心配しすぎな気もするけどなー」
56 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:15:38.00 ID:uUkbKYqQ0

???「フルーツは新鮮なものみたいだし、スーパーの材料を合わせるとスイーツを作ったりもできそう……あさひちゃんとか果穂ちゃん、喜んでくれるかな」

にちか「フルーツです? いやー……なんだか緊張感なさすぎな感じもしますけど……」

???「せっかく南の島に連れられてきたんだし、今のところは安全みたいだから……気を紛らわせる過ごし方を考えるのもいいと思うの」

にちか「そ、それはそうかもですけどー!」

千雪「大丈夫、お姉さんたちがついてますから! いざとなったら私たちを頼ってくれていいのよ、にちかちゃん」


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桑山千雪【超社会人級の手芸部】

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千雪さんはもともと雑貨屋さんで働いていて、最近アイドルに転身したらしい変わった経歴の持ち主。
美琴さんとは年齢が近いけど、キャリアの面ではそこが違うかな。
性格も結構違ってて、美琴さんに比べると少しのんびり……いや、これはアルストロメリアの空気感のバイアスだったりするのかな?
少し幼い無邪気さも持っていて、年相応かそれ以上の色気もあって……悔しいけど、人気があるのもわかる。


千雪「ウサミちゃんも話した感じだと、悪い子ではなさそうだから……ひとまずは信じてみない?」

にちか「いやいや! さすがにそれは人が良すぎですって! 素直を通り越して妄信ですよ、そんなの!」

千雪「そう? なんだか抜けたところもあって、愛嬌も感じちゃうから……どことなく甜花ちゃんに似てるからかな」

にちか「そ、そうですか……?」
57 :12時まではいます ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:17:03.00 ID:uUkbKYqQ0

美琴「……でも、実際やたら暴力に対しては否定的みたいだから。危害を加えてくる可能性は低いと思うよ」

千雪「だって……ほら、しおりにも書いてあるよね?」

にちか「しおり……?」


千雪さんが見せてきたのは私も持っている電子生徒手帳。
そこに移っているのは、私たちのプロフィールとはまた別の画面だった。


『ルール その1
この島では過度の暴力は禁止です。みんなで【平和にほのぼの】と暮らしてくださいね』

『ルール その2
お互いを思いやって仲良く生活し、【希望のカケラ】を集めていきましょう』

『ルール その3
ポイ捨てや自然破壊はいけませんよ。この島の豊かな自然と共存共栄しましょう』

『ルール その4
引率の先生が生徒たちに直接干渉することはありません。ただし規則違反があった場合は別です』


にちか「うーわ、胡散臭……」

千雪「でも、ここに書いてあることを信じればウサミちゃんは私たちに敵意を抱いていないことになるじゃない?」

にちか「それはそうですけど……逆に信じられませんよ。ほら、暴力をふるうタイプの男の人ってはじめは甘い言葉で近寄って来るって言うじゃないですか」

美琴「……そうなの?」

にちか「いや知りませんけど!」

千雪「うーん……ウサミちゃん、危険そうには見えないけどなぁ……」

にちか「その4とか『規則違反があった場合は別』とか、怪しすぎますよ!何かと託けて襲ってくるにきまってますから!」

(だめだ、この年上たち危機感がまるでない……っ!)

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1.【1番目の島】空港
2.【1番目の島】ロケットパンチマーケット
3.【1番目の島】牧場

↓1
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/18(木) 23:27:17.72 ID:RfvpMWhN0
3
浅倉生きてるってことは1とは別の世界線なのけ?
59 :12時まではいます ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:30:07.72 ID:uUkbKYqQ0
3 選択

【コンマ判定72:モノクマメダル2枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…8枚】

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【牧場】

異国情緒あふれる掘っ立て小屋に、洋風の風車……
なかなか見かけぬ空気感はどこか和んでしまう空気感のようだけど……


にちか「なんで飼ってるの、ニワトリだけなんですかね……?」


大規模な敷地はスカスカのニワトリ放牧場。
いや、そもそもニワトリの放牧なんてあるのかも知らないけど、せっかく手入れされた草原もなんだかもったいなく感じられる。
こういう場所って普通、牛とか馬とか羊とか、もっと大きな家畜用の敷地じゃないだろうか。


???「あはは、ニワトリ捕まえたー!」

???「すごいですあさひさん! 目にもとまらぬはやさでした……!」

???「ちょいちょい、優しくしてあげて! ニワトリも首掴まれたら苦しいじゃん?」

にちか「うっ……あのやたら騒がしい集団は……」

美琴「……行かないの?」

にちか「い、いや……行くんですけど……」

???「あっ、にちかちゃんっす! おーい!」

にちか「あ、相変わらず元気だね……芹沢さん」

あさひ「これ見てほしいっす、ニワトリ! わたしが捕まえたんっすよ!」


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

芹沢あさひ【超中学生級の総合の時間】

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60 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:31:55.07 ID:uUkbKYqQ0

芹沢あさひ……この子の相手は、ちょっと疲れるんだよね……
グイグイなんて言葉じゃ収まらない圧、隙を見せれば質問攻めにしてくる……
かと思えば、目を離したすきにどこかで何かやらかしている。
それでいていわゆる天才肌っていうのが厄介だ。
前になみちゃんのステップを見せた時もすぐにコピーしちゃって、ちょっとショックだったっけな……


美琴「すごいね……ニワトリ、早いでしょ」

あさひ「はいっす、素早くて背丈も小さいからこっちも屈みながら走る必要があって……それで先回りして捕まえたっす」

にちか「な、なんで捕まえようと思ったの……?」

あさひ「ニワトリといえば卵じゃないっすか、わたしの住んでる場所と違うところでニワトリが産んだ卵がどんなものになるのか気になったんっすよ。味とか、違うんすかね?」

にちか「だとしても捕まえる必要はなくない……?」

あさひ「え?……あはは、そっすね」

(この子は、相変わらず反射と直感で生きてるな……)

61 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:33:38.85 ID:uUkbKYqQ0

???「あさひさんの動き、すっごくかっこよかったです……! ジャスティスVが怪人・タンドリーマンを倒すときの空中さっぽうみたいでした……!」

にちか「そんなにすごかったの……? なんだかすごい鼻息が荒くなってるけど……」

???「はい! すっごい動きだったので、あたしも真似してみたいと思いました!」

(あの子の動きはそうそう真似できるものじゃないと思うけどな……)

果穂「……あっ! そういえばにちかさんとまだ自己しょうかいしてませんでした! あたし、小宮果穂って言います! 超小学生級の道徳の時間だそうです、よろしくお願いします!」

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小宮果穂【超小学生級の道徳の時間】

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この子は事務所の最年少、小宮果穂ちゃん。
とにかくヒーローものが好きで、よく放クラの人を集めてヒーローごっこをやっているのを見かける。
正直はじめはあんな慣れあいするぐらいならレッスンをすればいいのに、とも思っていたけど、
一度無理やり私も参加させられてから、なんだか憎めなくなってしまった。
年相応の子供らしさっていうのはそれだけで無敵。

……なんだけど、私に言わせればあさひちゃんより大人な面すらあると思う。
それぐらいしっかりした子だ。年の割にできすぎていると思う。
プロデューサーさんなんかより、よっぽどしっかりしてるんじゃないかな。

果穂「にちかさんは超高校級の幸運さんなんですね!」

(そ、そんな目を輝かされても……実質なにも無い、なんて言えないな……)

にちか「そ、それより果穂ちゃん、放クラの二人と一緒じゃないんだね。よく芹沢さんとは一緒に遊ぶの?」

果穂「はい! あさひさんはあたしを未知のせかいによくつれていってくれます! 今ももともとは大きなカブトムシを探してたところだったんですけど……とちゅうでこの牧場を見つけたので!」

あさひ「そうなんすよ、さっきこれぐらいの大きさのカブトムシがいて追いかけてたんすけど、見失っちゃったっす」

果穂「あたし、前に図かんでみたことがあるんですけど、きっとあれはコーカサスオオカブトっていうカブトムシだと思います!」

あさひ「へー、詳しいね果穂ちゃん! 今度その図鑑、見せてよ!」

果穂「はい!」

(まあ仲睦まじいことはいいことなんだけど、どことなく興味の趣旨が男の子ベクトルなんだよね……)
62 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:34:43.12 ID:uUkbKYqQ0

???「さっきのカブトムシマジでデカかったかんね〜! 後でスーパーから虫かご取ってきてもっかい探しにいこっか!」

あさひ「あ! それなら罠仕掛けたい! 冬優子ちゃんの使ってるタイツを借りて、その中にバナナを仕込むっす!」

???「アハハ、冬優子ちゃんそれ許してくれるかな〜?」

美琴「慣れてるんだね、この頃の年の子の扱い」

???「え? あー、うち、弟と妹がいるから自然と慣れちゃったカンジ? まあ別に何か特別なことしてるわけでもないんだけどね」

愛依「……てゆーか、うちも自己紹介しとかなきゃじゃん! うち、和泉愛依! 【超高校級のギャル】らしいんで、とりまよろしく〜!」


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和泉愛依【超高校級のギャル】

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正直事務所に入って一番驚いたのは、愛依さんのギャップだったかもしれない。
ネットで流れてた噂、和泉愛依は本当はギャルだってやつ……あれがまさか本当だったなんてね。
ステージの上とはまるで別人、ノリも軽めでしゃべり方もアゲアゲ。
ちょっとだけショックだったけど、愛依さんの人当たりの良さがそれを上回って今に至る。
この人は純粋な、優しい人だ。それでいて、自分自身の弱さに向き合える強い人でもある。
63 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:36:10.39 ID:uUkbKYqQ0

愛依「超高校級……びっくりしたよね、うちってば毎年発表をテレビの前で家族全員で見てたりしてたからさ〜」

にちか「あ、私もです……! 今年はどんな才能が選ばれるのかなー、どんな人になるのかなーって!」

美琴「……そうなんだ」

(美琴さんはアイドル一本だからあんまり興味とかなさそうだな……)

愛依「でも、希望ヶ峰学園が主催でこの南国ロケやってるんだったらとりあえずは安心じゃん? だってあの希望ヶ峰学園なんでしょ?」

にちか「まあ、国とか政府とか、そのレベルで信頼出来ちゃいますよね……」

美琴「……」

愛依「せっかくなら、あさひちゃんとか果穂ちゃんにも思いっきり満喫させてあげたいんだよね……! 海もめっちゃキレーだったし!」

にちか「本当に愛依さんって、面倒見がいいですよねー。うちのお姉ちゃんも見習ってほしいですよ」

愛依「あはは、はづきさんも優しいと思うけどなー」

にちか「それは! 事務所だからです! 家のお姉ちゃんとか見たら、愛依さんもひっくり返りますよー!」

愛依「まあうちも家ではそんなもんだと思うよ? ほら、あさひちゃんとか果穂ちゃんには弟たちみたいに叱ったりとかできないしさ」

にちか「そうですかねー……」
64 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:38:05.87 ID:uUkbKYqQ0

愛依さんと兄弟家族トークに花を咲かせているときだった。


突如その場を劈く断末魔。
それを発していたのは……ニワトリだった。


コケーーーーーーー!!!


愛依「ちょ、ちょいあさひちゃん?! な、なにやってんの!?」

あさひ「あ、愛依ちゃん。そういえばさっき摩美々ちゃんに聞いたんっすけど、ニワトリって頭を切り落とされてもしばらく動けるらしいんすよ。それ、本当なのか気になるんすよね」

愛依「だ、だめだよ?! そんなことしちゃ……!」

あさひ「やらないっすよ、でもそれってきっと首に秘密があると思うっす。だから首元を観察したいんすよね……」


おおよそ動物にするような掴み方でない持ち方をして、ニワトリを入念に観察している芹沢さん。
その後ろでは果穂ちゃんがどうしたものかと狼狽えて、愛依さんも突拍子のない行動を前に右往左往の地獄絵図。

(これ、私がどうにかしたほうがいいのかな……でも、美琴さんも見てるし……)

と、茫然と立ち尽くす形で私も地獄絵図の仲間入りを果たしたちょうどその時だった。


ウサミ「せ、芹沢さん!? 何やってるんでちゅか?!」

あさひ「あ、ウサミだ! ウサミってどうやって動いてるっすか?! 研究させてほしいっす!」

ウサミ「はわわ!? 興味の対象があちしに移ってしまいまちた?!」

愛依「に、にちかちゃん! 今のうちにニワトリを、キューシュツ!」

にちか「は、はい!」


ウサミに気を取られた一瞬のうちに、首筋を掴まれていたニワトリを自由にしてやった。
コッコと声をあげながらよろめきながら、ニワトリは逃げていく。
65 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:38:59.17 ID:uUkbKYqQ0

あさひ「あ、行っちゃった……」

ウサミ「も、もう! 芹沢さん、乱暴なことしちゃだめでちゅよ! 人間も動物も一緒、みんなこの島で暮らす仲間なんでちゅから、らーぶらーぶしまちょうね!」

あさひ「はいっす」

ウサミ「ふー、危ないところでちた……ニワトリさんたちが苦しむところは見たくないでちゅからね!」

(本当にそのためだけにやってきたんだ……)

美琴「……ねえ、ウサミ。それより聞きたいんだけど、どうしてこの牧場にはニワトリしかいないのかな?」

ウサミ「……え? あっ、そうでちた! もう一つの用事を忘れてまちた!」


美琴さんの問いかけにも随分とあわただしく答えると、またどこからともなくウサミは例のステッキを取り出した。
先端のハートの宝石がピンクに俄かに輝きだす。


シャラララ…


ウサミ「ちんぷい、ちんぷい! ちちんぷいぷい、ちんちんぷいぷーい!」

ウサミ「えいやー、牛さんになーれ!!」





ピロリロリーン!

そのとぼけた掛け声とともに、目の前でニワトリは……牛になった。
66 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:40:27.67 ID:uUkbKYqQ0

にちか「え、ええええええ?! な、なにが起きたんですか、今の?!」

ウサミ「あちしのマジカルステッキにかかれば不可能はないんでちゅ! 確定申告だって二秒で終わっちゃいまちゅ!」

美琴「……それはすごいね」

あさひ「す、すごいっす!何が起きたんすか?! そのステッキ、貸してほしいっす!」

ウサミ「申し訳ないでちゅが、これはあちしの命の次に大切なステッキでちゅから誰にも貸すことはできないんでちゅ!」

あさひ「えー、ちょっと見るだけっすからー!」

ウサミ「わ、わー! ついてこないでくだちゃい! どれだけ言われても無理なものは無理なんでちゅ!」


そのまま芹沢さんはウサミを追いかけて牧場を出て行ってしまった……


にちか「あは、あはは……今の、なんだったんですかね……」

美琴「手品かマジックの類……なのかな。裏で牛を仕込んでいたのかも」

にちか「で、ですよねー……」

(そう思うしかない、そうじゃないと……あまりにも……)

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1.【1番目の島】空港
2.【1番目の島】ロケットパンチマーケット

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67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/11/18(木) 23:44:02.86 ID:KI6yjtMS0
2
68 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:46:37.10 ID:uUkbKYqQ0
2 選択

【コンマ判定86:モノクマメダル6枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…14枚】

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【ロケットパンチマーケット】


東京の町に住んでいると、すっかり規模感が狂ってしまう。
いわゆるスーパーマーケットなんて言ってもウナギの寝床みたいに細長い感じだったり、コンビニと大差ない大きさだったり。
アニメとかで見るみたいな大きなスーパーマーケットに行ったのはいつ以来だっけ。
まあその、『いつ以来』よりも……比にならないくらいここは大きい。


にちか「うっわ……なにこれすっごい……! 見たこともないような野菜もあるし……うわうわ……お惣菜なんかもめちゃくちゃな種類あるじゃないですか……?」

美琴「……」

にちか「美琴さん……?」

美琴「……ああ、うん……あんまり、家事とかしないから」

(そっか……美琴さんは日々練習でそれどころじゃないもんね。私みたいにそんなやたらめったら日ごろから通い詰めるような人間でもない限り、こんなに興奮はしないか)

美琴「……でも、なんだかすごいね。こんな大きなコーラなんて、見たことない」

にちか「これアメリカのサイズじゃないですか……海外ドラマで太った人がラッパ飲みしてるやつ……」

美琴「……ふふ、ああいうの見るとなんだかあこがれちゃうよね」

(美琴さんがコーラをラッパ飲みなんて……まるでイメージできないな)

69 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:47:39.17 ID:uUkbKYqQ0

???「ここならその夢叶うみたいだしー、挑戦してみたらどうですかぁ? 幸いここには弾けるタイプのソフトキャンディもありますしー」

???「ちょ、ちょっとまみみん?! それって悪魔の提案なのでは?!」

???「結華―、ちょっとこっち手伝ってほしか〜! ここの棚の料理道具、一式持って帰りたかやけん!」

にちか「あ、アンティーカ……相変わらずユニットイメージとは裏腹に騒がしい……」

美琴「どうやら咲耶ちゃんや霧子ちゃんがいないみたいだから余計にね」

???「ホントですよ……三峰への負担が今回デカすぎやしませんかね……」

結華「あ、そういえばにっちゃんとはまだ希望のカケラの交換してなかったよね? 三峰結華、【超高校級の写真部】ってことらしいんだけど……まあ、色々とよろしく!」


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三峰結華【超高校級の写真部】

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アンティーカの中では常識人……というか場を回すような役割を担っているような印象。
結華さんはノリこそ軽妙に見えるけど、何かと周りの様子を見たうえで動く思慮深い人でもあるから……この場においては結構頼りがいがありそうかな?


にちか「結華さんってば283随一にツッコミ属性ですもんねー!」

結華「やめてやめて! べつに三峰はそんなポジションに就きたくてやってるわけでもないんだからー!」

にちか「あはは、すみません! なんだか結華さんは色々とボケやすいというかやりやすくて、つい……」

結華「まあ年上のお姉さんとして、ある程度面倒は見ますけどね、そりゃあ……ったく、『みんなの妹』なんて言うだけありますな、こりゃ!」

美琴「……ふふ」
70 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:48:44.20 ID:uUkbKYqQ0

???「まぁ三峰のホスピタリティっていうより、にちかが扱いやすいだけみたいなところもありますけどねー」

にちか「え゛」

???「プロデューサーとトントンぐらいには反応が分かりやすいんで、仕掛ける側としても何かとやりやすい相手だよ、にちかはー」

(こ、この人はまた……)

摩美々「ふふー、【超高校級の服飾委員】田中摩美々だよー。これで自己紹介のフラグは立ったよねー?」


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田中摩美々【超高校級の服飾委員】

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田中さんは最近ではファッションブランドとの個人コラボも行われたらと283の中でも注目度の高い人だ。
それでいて特有の人懐っこさというか……包み隠さず言えば悪戯癖があるわけで。
私も前に被害にあったことがある、その時には「チョコと同じくらい反応が面白い」とか言われたっけ。
でも、たまにはプロデューサーさんに一緒にいたずらを仕掛けたりする仲でもある。
……まぁ、多分面倒見は悪くない人。


にちか「プロデューサーさんと一緒にされるなんて心外です! 私、あそこまでじゃないですから!」

摩美々「言うねー、でも結構にちかは隙多いと思うケド」

にちか「どこかですかー?! 私、アンテナ常に張ってるんで、そう簡単にはやらせませんよ!?」

摩美々「……いや、そんな思いっきり頭にバナナの皮のっけたまま言われてもー」

にちか「……!? い、いつの間に?!」

摩美々「ふふー、引っ掛かったー」

(こ、この人は……! まあ、いいや……また食事に七味を混入させてやる……)
71 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:50:32.71 ID:uUkbKYqQ0

???「もう、なんでどっちも手伝いに来んと?! うちだけじゃこげん嵩張るもん持ちだせんとよ!」

にちか「な、なにしてるんですか月岡さん?! あ、圧力鍋?! フードプロセッサ?!」

???「ふふーん、ここのスーパーのもんはなんでも持ち出してよかってウサミが言うとったばい! やけん、みんなにうちが手料理を振る舞おう思って必死に準備しとったのに、結華も摩美々も手伝わんから困っとるばい!」

結華「い、いやいや……こがたん、気が早すぎるって、まずはこの島の事情を調べてからでも……」

???「この島の事情を調べるのにも、おなかが空いとったら動けんよ?!」

摩美々「はぁ……変な才能を与えられたから、みょーに張り切っちゃってるんだよねー、恋鐘……」

美琴「……そうなの?」

恋鐘「変な才能とはご挨拶ばい! うちは【超高校級の料理人】っていうピッタリの才能を手に入れとるけんね、練習せんばいかんとよ!」


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月岡恋鐘【超高校級の料理人】

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月岡さんは確か長崎から来た人で、アンティーカのセンター。
アイドルとしてデビューするまでにはちょっと苦労したらしくて、それを通じて美琴さんと話をしているのを前に見たことがある。
その時に意気投合したのか、それとも月岡さんが一方的に距離を詰めているのかはわからないけど、時々手料理を美琴さんにふるまっているのも見かける。
美琴さんは食事をおろそかにしがちだし、その分では私も助かってる……かも。

72 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 23:52:30.06 ID:uUkbKYqQ0

恋鐘「せっかく認めてもらったけん、もっとこの腕に磨きをかけたくて仕方なか!」

美琴「そうだね……練習は常に、いつだって、どこだって……欠かしちゃいけないから」

結華「ちょ、ちょっと美琴姉さん?! そのストイックさ、今は抑えてもらっても!?」

摩美々「大体まだ摩美々もお腹すいてないし、みんな食べるどころじゃないでしょー」

恋鐘「うーん、せっかくいい食材もこげん沢山あるのに……」

にちか「そうですね……こんな豪勢なお肉とか、使って料理してみたいです」

恋鐘「……!! そういえばにちかは料理とかやらんね?」

にちか「あー、それなり……ですかね。お姉ちゃんの帰りが遅いときとかは」

恋鐘「にちかなら気持ちわかってくれるばい?! この……よか食材を前にして、料理したか衝動ば抑えん辛さ……!」

にちか「えぇ……? ど、どうでしょう……」

美琴「にちかちゃんの料理、おいしいよね」

にちか「!??!???!」

にちか「月岡さん、今すぐ料理しましょう」

結華「ちょ、ちょっとにっちゃん?!」

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【選択肢が残り一つになったので自動進行します】

【メダルの獲得枚数判定のためにコンマの判定を行います】

↓1
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/19(金) 00:00:33.19 ID:kR1uoyxCO
うぃ
74 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 00:02:04.97 ID:2iGNOf2W0
【コンマ判定19:モノクマメダル9枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…23枚】

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【空港】

うわー、すっごい……
家が貧乏な私からすれば、飛行機での旅行なんて本当に縁遠いものだ。
こんな空港にすら踏み入れたことはほとんどない。

一面ガラス張りの壁からみえる巨大な飛行機とジェット機に思わずかじりついてしまう。


美琴「……ふふ、そんなに珍しい?」

にちか「あっ、そ、その……すみません! 全然、そういうんじゃないですから! 空、青いなーって!」

(子供っぽいって思われたかな……変な誤魔化し方しちゃった……)

にちか「……あれ? っていうか、あの飛行機で私たちここに来たんですかね? まるで乗った記憶とかないですけど」

???「いえ、その可能性は低いと思うわ」

???「さっきみんなで確認したけど、エンジンがまるまる抜き取られてた……っていうか、元々入ってなかった、みたいな感じだったよ!」

???「ええ……あれはどちらかというとハリボテのようなもの、飛行機のレプリカといったところかしら」

にちか「そ、そうなんですか……」

???「あら、そういえばにちかとは自己紹介をしていなかったわね? 改めてここで自己紹介をしておきましょうか」

夏葉「私の名前は有栖川夏葉。どうやら【超大学生級の令嬢】としてこの歌姫計画に参加しているらしいわ。一緒に日々研鑽を積みましょうね」


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有栖川夏葉【超大学生級の令嬢】

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75 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 00:03:32.39 ID:2iGNOf2W0

夏葉さんの称号はすごくシックリくるな……
実際おうちは超が付くほどのお金持ちだし、すごい名家の育ちだって聞いた。
私なんかとは、多分育ちも全然違う……
でも、だからといってそれに胡坐をかかないストイックさが有栖川夏葉という女性の魅力なんだよね。


夏葉「何やら奇妙な状況のようだけど、ひとまず身の安全自体は確保されているようだし、ひとまずは冷静に事態を見極めましょう」

美琴「うん……そうだね、あんまりウサミの言うことも鵜吞みにしすぎない方がいいかも」

にちか「あれ、そういえば美琴さんと夏葉さんって仲が良かったんです?」

夏葉「そうね……何かと美琴とは馬が合うことが多いから、よくレッスンのアドバイスを私が仰ぐことがあるわ」

(二人ともトレーニングとレッスンとに全力投球って感じだもんなー……)

???「はいはい! にちかちゃん、わたしも自己紹介、いいかな?!」

智代子「わたしは園田智代子、【超高校級のインフルエンサー】……なんだって!」


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園田智代子【超高校級のインフルエンサー】

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園田さんは私とも同い年のチョコアイドル。
正直なところ、事務所に入った当初はかなりびっくりしたな。
こんなにセルフプロモーションが上手で、個性だってあるのに『クラスに一人はいるような女の子』なんて言うんだから……私の立つ瀬がないって!
よっぽど私のほうが凡人だし、そりゃ超高校級のインフルエンサーなんてのも納得。
武士っぽい口調のツイスタの投稿は毎回異様な盛り上がりを見せるんだよね。
76 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 00:04:15.52 ID:2iGNOf2W0

智代子「にちかちゃん、さっきは大丈夫だった? 突然のことで頭パニックだったよね……」

にちか「あ、ありがとうございます……正直まだ整理がつかないところはあるけど……」

智代子「頭を回転させるには……ほら、糖分補給糖分補給!」

夏葉「……あら? 智代子、そのチョコレート、どこから取り出したのかしら?」

智代子「ひぃ?! ち、違うんだよ夏葉ちゃん?! こ、これは……チョコに見えるけど、本当はタンパク質の塊みたいなものでして……」

(さ、さすがに苦しい言い訳だな……)

夏葉「いい? プロデューサーがいないからといって自己管理を怠るようなことがあってはならないわ! この島での暮らしがどうなるにせよ、常に気を引き締めておかなくちゃだめよ!」

美琴「そうだね……レッスンもいつまで空くかもわからない、自主練はしっかりとやっておかないと」

智代子「そ、そうだね……夏葉ちゃん……」

智代子「うぅ……一緒に頑張ろうね、にちかちゃん……」

(な、なんとも悲壮感ある圧力だな……)

77 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 00:05:52.59 ID:2iGNOf2W0

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キーンコーンカーンコーン・・・・・・

にちか「……え? こ、これって学校のチャイム?!」

美琴「にちかちゃん、アレ……」


『どうやらミナサン、最初の希望のカケラを全員分集め終わったようでちゅね! おめでとうございまちゅー!』

『うるうるうる……あちし嬉しいなぁ……という訳で、そんなミナサンをさらにハッピーにするプレゼントを用意しまちた!』

『お手数でちゅけど、最初の砂浜に集まってくだちゃい』

『ぷすー、くすくす! 輝かしい希望はミナサンとともにね!』


美琴「……だって」

にちか「えー……どうしますー? なんか招集かかってますけど……」

美琴「……行かないことにはウサミの考えもわからないよね」

にちか「ですよねー……」

(うーん、ひとまず危険はなさそうだけど……大丈夫、かな……?)

(とりあえずは砂浜に行ってみようか……)
78 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 00:09:50.59 ID:2iGNOf2W0

というわけで初回更新はこれくらいで終了。
シャニマス×ダンガンロンパ、七草にちかを新たな主人公にまた暫くの間お付き合いください。
前作で培ったノウハウを生かしていきたいですね。

メダルに関して途中から伏字してませんでしたね。
まあ自明のことなので伏せる必要もなかったんですが……

前もってアナウンスしておきますと、今回は書き溜めは1章分までしかございません。
前作では2,3章も書き溜めしてから始めていましたが…今回はその分1章1章にしっかり力を込めて制作して参ります。

11/19、22時か23時ごろからプロローグ終わりまで投稿しにまいります。
安価はありません。

それではお疲れさまでした。
79 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 00:14:46.50 ID:2iGNOf2W0
【希望ヶ峰学園歌姫計画:参加者名簿】

【超高校級の占い師】風野灯織
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘
【超大学生級の写真部】 三峰結華
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子
【超高校級のギャル】 和泉愛依
【超高校級の???】 浅倉透
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜
【超高校級の幸運】 七草にちか
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴
【超社会人級のシンガー】 斑鳩ルカ
80 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:41:58.18 ID:6J07c1J10
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【砂浜】


ルカ「……ちっ、集まるのが遅いんだよ」

灯織「お二人で全員ですね、別段遅刻などではないのでお気になさらないでください」

夏葉「ちょうど今全員で調査結果の報告会をしているところだったの、二人も協力してもらえるかしら?」

にちか「あ、はい! わかりました!」

美琴「うん、いいよ」

結華「じゃあ続きを始めていきますか! えっと……この島の施設についての話をしてたんでしたっけ」

智代子「大きな空港があったよねー、飛行機が飛べばあそこから脱出できると思うんだけど……」

夏葉「飛行機にはエンジンが入っていなかったの、あれではただのハリボテね」

恋鐘「ばり大きかスーパーがあったばい! 食料も日用品も揃っとったし、生活に不自由はなさそうやね〜」

冬優子「ホテルには全員にそれぞれお部屋が用意されてました! 中も見てみましたけど、清潔で新しい部屋で……セキュリティもしっかりしていると思います!」

透「あー、それとは別になんか使ってない建物あったよね」

雛菜「うん〜、そっちはまるで掃除もされてなかったし、雛菜は入る気も起きませんでしたけどね〜」

千雪「食事はレストランで毎食用意されるみたい、自分たちで料理するための材料も設備もあるって!」

あさひ「大きな牧場があったっす! そこではニワトリを飼育してたんすけど、ウサミが魔法で牛に変えちゃったんっすよ!」

果穂「はい! すごかったです……! あたしたちの目の前で姿が変わって……!」

摩美々「えー、なにそれー……マジックかなんかでしょー?」

81 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:43:11.11 ID:6J07c1J10

灯織「……」

愛依「灯織ちゃん、どしたん?」

灯織「……ああ、いえ……一つ気になったことがあるんですよね」

結華「なになに? どうしたの?」

灯織「皆さんは中央の島の公園には行かれましたか?」

夏葉「ええ、確か巨大な銅像が置いてあったわね。動物を模したものだったはずよ」

愛依「あー! あのあさひちゃんが登ってたやつ!」

にちか「えぇ……?」

灯織「あの銅像を見た時に、以前聞いた話を思い出したんです。太平洋に浮かぶ小さな島で、風光明媚な常夏の楽園という呼び方をされるにふさわしい島の存在を……」

灯織「中央の小さな島を中心にして、“5つの島”から構成されるその島々は同じく“神聖な5体の生物”を島の象徴にしているらしいんです」

にちか「えっ……?! そ、それって……」




灯織「確か、その名前は【ジャバウォック島】」




82 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:43:54.44 ID:6J07c1J10

雛菜「ふ〜ん? 雛菜はあんまり聞き覚えない感じですね〜」

夏葉「……以前父の海外赴任の際に一度耳にした名前だわ。でも灯織、それっておかしくないかしら」

果穂「おかしい……ですか?」

灯織「はい……ジャバウォック島は確か……もう人が住んでいないはずなんです」

恋鐘「ふぇ? でも実際島には誰もおらんよ?」

摩美々「そうじゃなくて、管理する人間もいないぐらいの廃島ってことでしょー?」

灯織「はい……こんなに環境が整備されているというのがなんだか気になって」

千雪「でも、ウサミちゃんが言ってたようにこれが希望ヶ峰学園の主催のものなら島を丸ごと改造して……なんてこともありえないかな?」

冬優子「確かに希望ヶ峰学園ならそれぐらいのことはできそうですね!」

透「まあ、でもさ。いいじゃん、なんでも。島の名前は」

にちか「え……?」

雛菜「どうせこの島で暮らさなきゃいけないのは変わらないですよね〜? 雛菜たちの現状が島の名前で変わるわけでもないですし〜」

ルカ「……けっ」

灯織「それはそうかもしれませんが……」
83 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:44:45.60 ID:6J07c1J10

智代子「とりあえず島を見た感じだと目立った危険はなかったし、最初ほど絶望的な状況には感じないといいますか……」

あさひ「それより、この島でしかできないことをいろいろ試してみたいっす!」

愛依「アハハ、海もすごくきれいだもんね! せっかくなら泳いだりもしたいしー!」

(うーん……こんな感じで大丈夫なのかな……)

(実際、本当に希望ヶ峰学園の計画でここにいるんだったら余計な心配なんだろうし……)

(ウサミ自体も危害を加えてくるような様子もないわけで……)

にちか「美琴さんは、どう思います?」

美琴「……ウサミの言うことが全部が全部、信用できるわけではないのは変わらない。だけど、今私たちにできることもない……とも思うかな」

にちか「……それは確かに、そうですね」

美琴「脱出しようにもする術もないよね」

にちか「あっ! でもそこらに生えてるヤシの木を切り出してイカダにするとかなら……」




ウサミ「いけまちぇーーーーーーーん!」



84 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:45:54.97 ID:6J07c1J10

(うわっ!?)

ウサミ「七草さん! ロケのしおりをみまちたよね?! この島の生活で環境破壊はだめでちゅよ!」


『ルール その3
ポイ捨てや自然破壊はいけませんよ。この島の豊かな自然と共存共栄しましょう』


ウサミ「草や木にも一つ一つに慈しみの心をもって接してあげてほしいんでちゅ。博愛の心がミナサンの交流にも助けになるはずでちゅよ!」

にちか「げー、木の一本や二本よくないですかー? けち臭いなー」

摩美々「ちょっとー、気持ちはわかるケドさぁ……不用意に刺激しないでよ、摩美々たちにも危険が及ぶかもしれないしー」

ウサミ「はわわ! き、危険なんてそんな! あくまでもあちしが行うのは教育的措置、せいぜいデコピンぐらいのものでちゅよ!」

透「おー、強いよ。私の薬指」

雛菜「円香先輩のデコピンこの前すごかった〜!」

結華「はいはい、脱線しない脱線しない……」

美琴「……まあ、あんまりウサミを刺激しないほうがいいのは確かだと思うから」

にちか「そ、そうですね……すみません!」
85 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:47:17.26 ID:6J07c1J10

ルカ「それより何の用事なんだよ、プレゼントとか言ってたけど」

ウサミ「よくぞ聞いてくれまちた! 希望のカケラを全員分最初の一つ集めたミナサンにご褒美を用意したんでちゅ!」

ウサミ「ぷすー、くすくすっ! ウサミストラップでーちゅ! あのね、お腹押すとしゃべるんでちゅ」


『あちしはウサミ……魔法少女ミラクル★ウサミ。ちょっぴちスイートなミルキーっ娘でちゅ!』


ウサミ「かわいいでしょ! らーぶ、らーぶでしょ!」

あさひ「いらない!」

ルカ「……やっぱ来る意味はなかったな」

摩美々「期待して損したぁ」

千雪「そうかなぁ……すごく細かいところまで手が込んでると思うけど」

夏葉「……ただ、この状況でストラップだけ渡されても少し困るわね」


ウサミに渡されたストラップの数々。
その悉くが……次の瞬間、ウサミの手にもう一度戻っていた。


ウサミ「受け取り拒否でちゅか!? あちしの手は募金箱じゃないんでちゅ、ここに返したところで世界中の不幸な子供たちのもとに届くわけでもないんでちゅよ!」

結華「あ、あはは……せっかく用意してもらって悪いんだけどさ、三峰たちはもっとここでの生活に役立つプレゼントとかを期待しちゃってたところもありまして……」

ウサミ「うぅ……くすん、あちしのストラップもQOLをあげるのに大いに役立つのに……」
86 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:48:24.21 ID:6J07c1J10

ウサミ「わかりまちた、ミナサンにはもう一つのプレゼントを渡すことにしまちゅ」

にちか「もう一つの……?」

美琴「プレゼント……?」

ウサミ「じゃじゃーん! 【動機】を用意させてもらいまちた! ミナサンがこの島で暮らす上で仲良くなる動機だよ!」

果穂「なかよくなる、どうき……すっごく気になります!」

あさひ「何かのおもちゃっすか?! みんなで遊べたりするっすか!?」

ウサミ「いいでちゅねぇ、無邪気な反応はそれだけで癒されまちゅねぇ」

灯織「じ、実際なんなんですか?! その動機というのは……」

ウサミ「はい、これでちゅ!」

夏葉「あら……? これって……」

智代子「み、水着……水着だよ、これ!」

ウサミ「うーみーはひろいーなー、おおーきーいーなー! というわけで、やっぱりまずは海水浴でちゅよね! ミナサン一人一人のスタイルに合わせた水着を用意させていただきまちた!」

ルカ「……はぁ? なんだよそれ、ここで泳げってか?」

ウサミ「はい! そういうことでちゅ! もちろん強制するわけではないんでちゅよ! ミナサンがここの生活でより仲良くなって希望のカケラを集めるその助けになればいいと思って……」

にちか「いやいや……流石にこの状況でそんな、海水浴だなんて……」




あさひ「やったー! 泳いでいいんだー!」

にちか「……え」



87 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:49:27.57 ID:6J07c1J10

あさひ「果穂ちゃん、早く着替えて泳ごうよ!」

果穂「はい! あたしもずっとおよぎたいと思ってましたーーー!」

愛依「ちょいちょい、危ないから走らないで! ほら、手ぇつなぎながら行こ?」

にちか「ちょ、ちょっと……?!」

雛菜「あは〜! 雛菜こういうイベント待ってた〜!」

透「泳ごっか。うちらも」


気が付けば次から次へとみんながみんなスイミングバッグを受け取って更衣のためにコテージへと走り出していた。
数人はそのままその場に待機していたけど、別にウサミを警戒してといった様子でもなく別の事情があってといったところ。


美琴「……にちかちゃんは行かないの?」


美琴さんは不思議そうに私のことを見ている。美琴さんからすれば私のほうが変わって見えるんだろう。
この島では何も起きない、事件なんか起こりっこない。
何も起きずにただ平和な時間だけが過ぎていく。

かくいう私も、本当のところは……その不気味な平和に浸りたいと思っている。
ウサミの口からきいた『希望ヶ峰学園歌姫計画』とやら、それが本当ならこれ以上ない僥倖。
今は美琴さんの手前抑え込んでいるけど、本当はそこかしこに言いふらして回りたいぐらいの代物。


……私も、その一線を越えていいのかな。
考えるのをやめて、つかの間の平和に走る、その一歩を。
88 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:50:13.04 ID:6J07c1J10

私が砂浜を右往左往して考えているうちに、着替えの終わったみんなが次々に戻ってきた。
流石は283プロダクションのアイドル、写真集にでもしようものならかなりの売り上げがありそうな光景が目の前に広がった。


千雪「海で泳ぐなんて久しぶりなんだろう……日の光が気持ちいいなぁ」

灯織「はい……! 天気もいいので、絶好の海水浴日和ですね……!」

摩美々「ふふー、こうやって水に浮いてるといつかのプールのことを思い出しますねー」

結華「ちょっとまみみん……約束したよね、ほかの人を心配させるようなイタズラはしないって。こがたんなんか絶対焦って助けに来るんだから、やっちゃダメだよ!」

恋鐘「ふぇ〜〜〜〜!? 足が攣ってしもうたばい〜〜〜〜〜!」

果穂「すごい……夏葉さん、すっごくかっこいいバタフライですー!」

夏葉「果穂にもやり方を教えてあげるわ、綺麗なフォームを作るにはコツがいるの。……もちろんそのあとで智代子にもみっちりコーチしてあげる」

智代子「うぅ……ゆっくりと浮き輪で浮いていたかった……」

あさひ「あはは! 水、すっごく冷たいっすー!」

愛依「うりうり〜! あさひちゃん、水鉄砲も持ってきたよ〜!」

雛菜「透先輩埋めちゃった〜〜〜!」

透「あー、重いかも。手、出ないわ」
89 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:51:12.91 ID:6J07c1J10

……ずるい。
ずるい、ずるすぎるよ。こっちは現実と自分の都合と、美琴さんとの建前と色々の兼ね合いで手いっぱいなのに手放しで楽しんじゃってさ。
あんなに笑顔で気持ちよさそうに海を満喫なんかしちゃって……

私はいつの間にか食い入るように彼女たちの海水浴を見つめていた。
その一線を中々超えれずにいる自分への歯がゆさと彼女たちに対する嫉妬とをごちゃまぜにしてこぶしを握る。力が入って体が震えてしまっていた。
人生この先長くとも羨ましくて体が震えるなんてこと、そうそうないだろう。
それぐらい人の体が震えるなんて、珍しいことだし、何より目に付く。


美琴「……ねぇ」


実際、美琴さんの目に留まってしまった。
しまった、浅ましいと思われちゃったかな。こんな状況下で遊びたがってるなんて、緊張感が足りてないって失望させてしまったかな。
慌てて言い訳の言葉を口の中で装填する。




____けどその弾を使うことはなかった。




90 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:53:11.73 ID:6J07c1J10




美琴「……泳ごっか、私たちも」




にちか「み、美琴さん?! そ、そんな私に合わせて無理しなくても?!」

美琴「ううん、違うから。私もせっかくだし、ちょっとだけ……ワクワクしてるところもあるかな」

にちか「え、ええ……!?」

美琴「ほら、私の生まれって北海道で……上京してからはそれどころじゃなかったし」

美琴「興味があるんだ、こういうの」


そう言ってはにかむ美琴さんがすごく可愛らしくて、優しくて、もう飛びつきたいぐらいの衝動を抱いて。


にちか「はい!!!!!!」


……全身全霊で返事をした。
91 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:54:06.29 ID:6J07c1J10

「おーい! ウサミー! 私と美琴さんの分の水着くださーい!」

「七草さんもわかってくれまちたか! みんなとらーぶらーぶしてくれるんでちゅね!」


もう知ったこっちゃない。
こうなったからには私だって満喫してやる。めいっぱいこの島での暮らしを遊びつくしてやる。
美琴さんと一緒に過ごせるなら、どこだってそこが最高の場所で最高の時間だ。
今自分たちの置かれている状況も今は忘れよう、それより美琴さんの海水浴がしたいという希望を最高の形でかなえてあげないと。
だから私がまず一番に楽しまないと、嘘!

すっかり頭がすっからかんになって私は走り出していた。
美琴さんと一緒に海で遊べるなんて夢にも思わなかった、最高の展開。
もうそれが待ちきれない、膨らみ切った思いからの第一歩だった。


その一歩は砂浜の柔らかい地表にすっぽりと埋まって____
92 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:54:36.31 ID:6J07c1J10





____そのまま勢いが止まった。





93 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:55:35.01 ID:6J07c1J10

キーンコーンカーンコーン・・・・・・


『えーえー、マイクテス、マイクテス! 大丈夫? 聞こえてるよね?』


それはウサミとは全く異なる声の持ち主。恐ろしいまでの濁声は、一度聞いただけで内臓まで揺さぶられるような不快感を与え、その語り口の軽妙さがかえって拒絶反応を引き起こす。頭の中の多幸感を一瞬で吹き飛ばすには十分なほどの何かがそこに在った。


『オマエラお待ちかねの時間、【集いの時間】だよー! 南国での仲良しスローライフ、なんてくっだらない茶番劇に幕を下ろして、真の南国ロケが幕を開けますよー!』

『オマエラ、今すぐ中央の島のジャバウォック公園にお集まりください! 来なかったらウサミの家の住所をネットに公開してやるからなー!』


一方的なアナウンスはそのまま途絶えてしまった。
一瞬にしてさっきまでの活気が嘘のように消えてしまった。気が付けば空も曇っているし、飛んでいた海の鳥も姿を隠してしまっている。
残された私たちは理解不能の連鎖を前に狼狽えるのみ。
顔を見合わせ、事態の異常さを確かめ合う。

____そして誰よりも狼狽えているのは【彼女】だった。
94 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:56:48.21 ID:6J07c1J10

ウサミ「ど、どうしてアイツが……この島にいるんでちゅか!」

にちか「ウサミ、今のって?!」

ウサミ「……許しまちぇん! あちしが絶対に、ミナサンを守って見せまちゅ!」


ウサミは私たちの呼びかけに反応する余裕もないといった様子で、一目散に駆けて行ってしまった。
その口ぶりからして、今のアナウンスの主はウサミにとっては知り合いであるらしい。それが良い関係にしろ、悪い関係にしろ。


愛依「ど、どうする……?」

あさひ「とりあえず行ってみるしかないっすよ! 今のアナウンス、ウサミとはまた別人っすよね?」

夏葉「……なんだか胸騒ぎがするわ、何も起きなければいいのだけど」

果穂「あたしも、なんだか体がふるえます……」

智代子「果穂、大丈夫。わたしと夏葉ちゃんがついてるからね!」

にちか「美琴さん……」

美琴「……行くしかないんじゃないかな。今は」


私自身、これまでにない嫌な感覚を覚えていた。
指先が妙に敏感で、風の流れの一つ一つさえ感じとれてしまう。それでいて喉元を伝う汗が妙に脂っぽくて不快だ。
瞳孔もどこをとらえるべきなのか、それとも視界そのものを閉ざすべきなのか、そんなことを制御とは離れたところで思考しているような。
まるで私の体が私の手から離れてしまったような、そんなフワフワとした緊張。


その足取りは、重たかった。

95 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:57:51.36 ID:6J07c1J10
-------------------------------------------------
【中央の島】ジャバウォック公園


ウサミ「どこに隠れてるんでちゅか! でてきなちゃい!」


公園に着くとすでにウサミがすごい剣幕(に見えなくもない)であたりを怒鳴り散らしていた。
私たちの抱いている不安の感情とはウサミのそれは完全に別物、完全な敵意とそれ以上の何かをはらんだ語気だ。


ウサミ「あちしは……あちしは……絶対に負けまちぇんからね!」

摩美々「ねえ、ウサミー。摩美々たちってば完全に置いてけぼりなんだケドー?」

ウサミ「ミナサン……あちしが絶対に守ってあげまちゅからね!」

冬優子「守る……? それ、どういう意味なのかな……?」

ウサミ「やい! いつまで姿を隠してるつもりなんでちゅか! 姿を見せない卑怯者め!」

???「うぷぷぷ……」

結華「……まみみん、今そういうイタズラはいいから」

摩美々「私じゃないケドー? 恋鐘のお腹の音じゃないー?」

恋鐘「ふぇ?! うちじゃなかよ、ついさっきフルーツ食べたばっかりでお腹も空いとらんばい!」

???「うぷぷぷぷぅ!」

千雪「これ……さっきのアナウンスで聞こえた声と同じよね……?」

灯織「は、はい……この声は、一体……?」
96 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 22:59:40.82 ID:6J07c1J10

そして、それは突然だった。
突然に姿を現して、突然に私たちのそれまでの考えを吹き飛ばして、突然にこの島の色を変えて、突然に……

____【理解不能】を持ち出した。


果穂「あっ! あそこをみてください……銅像の、足元が!」


全員一気に果穂ちゃんの指さす先に目を向ける。
巨大な銅像の足元の台座部分が動いたかと思うと、そのまま珍妙な駆動音とともに、何か黒い影が射出される。


バビューン!!


それはさっき教室のような場所で見た、ウサミの登場とそっくりだった。
もっちゃりとしたシルエットが飛び上がったかと思うと、ふんわりとした着地……ではなく不格好なまでにどっしりと着地。

しかもそのぬいぐるみはウサギじゃなくて……【クマ】だった。
97 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:00:09.50 ID:6J07c1J10






「全地球70億超えのファンの皆々様お待たせいたしました! ついにボクの登場だよ!」





98 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:00:54.64 ID:6J07c1J10

愛依「え、ええええええ?! ま、また?!」

透「おー、なんか出た」

ルカ「……はぁ? これ以上ぬいぐるみが増えんのかよ」

摩美々「もう渋滞気味なんですケドー?」

(そのクマは右と左とで彩色が白黒に二分されていて瞳が不気味なほどに赤黒い)

(吊り上がった口元はまるで口裂け女のようで、醜悪な笑みを浮かべていた)

???「コラー! ボクはぬいぐるみなんかじゃないんだぞ! 少なくともそこの薄汚いウサギ風情と一緒にするんじゃなーい!」

ウサミ「なんてことを言うんでちゅか! あちしのフェルト地は高級品でちゅよ!」




モノクマ「ボクの名前は【モノクマ】! オマエラの参加している希望ヶ峰学園歌姫計画の主催元……希望ヶ峰学園の【学園長】なのだー!」

(……は?)



99 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:01:51.77 ID:6J07c1J10

にちか「いやいや、何言ってんの?! 冗談にしてもセンスなさすぎ……」

モノクマ「冗談? 何言ってんのさ、ボクは本気だよ?」

千雪「希望ヶ峰学園の学園長……あなたが?」

モノクマ「学園長なんですけど! きょーいん……の免許?も持ってるんですけど!」

智代子「大変だ! 絶対嘘だよ!」

夏葉「あなたを操作している人間が希望ヶ峰学園の学園長という意味合いなのかしら? だとしたらこれはどういう状況なのか説明してもらえる?」

モノクマ「はぁ……すぐそうやって中の人間がどうとか言い出すやつって本当に萎えるよね。映画とかアニメとか見てるときは世界に没入させてほしいっての」

灯織「返事になってませんね……」

モノクマ「まあいいや、それよりさっさとお仕事をやっちゃいましょうかね! えっと、ボクがここにやってきたのはほかでもありません! オマエラで____

ウサミ「そうはさせまちぇんよ!」


呆気にとられるばかりで動けずにいた私たち、モノクマと名乗るぬいぐるみとの問答しかできなかったその間隙に。
ウサミは私たちの横を抜けて、そのステッキをモノクマめがけて振り下ろした!
100 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:03:05.15 ID:6J07c1J10

モノクマ「痛ぁ!? な、なにするのさ! まだ人が話してる途中でしょうが!」

ウサミ「うるちゃいうるちゃい! オマエなんか、オマエなんか……消えてなくなっちゃえばいいんでちゅ!」

雛菜「なにこれ〜、仲間割れ〜?」

結華「もうお姉さんはなにがなんだかだよ……」

あさひ「……!? あ、あれ! さっきの魔法が出るっすよ!」

冬優子「あ、あさひちゃん引っ張らないで……! ま、魔法!?」


芹沢さんの指摘通り、モノクマに何度もぶつけているそのステッキの先は牧場で見た時のように不思議な光に包まれていた。ピンク色のどぎつい発光に、怪しげなエフェクト……LED電飾か何かなんだろうか。


シャラララ…

ウサミ「行きまちゅよー! ちんぷいちんぷい、ちんちんぷいぷーい! モノクマ、チョコになっちゃえーーーー!」

ピロリロリーン!


瞬間、辺りがすさまじい光に満ちた。
目を覆わねば立っていられないほどの眩しさと轟音。
目を覆う直前、最後にはあのステッキから発せられたものがモノクマを取り囲む様子が見えていた。
101 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:03:54.64 ID:6J07c1J10

光が収まるには数秒がかかった。
ゆっくりと手を除けて、その目を開ける。
その先には……


ウサミ「な、なんで……なんで効いてないんでちゅか?!」

モノクマ「“ムリョー・クーショ”……」

モノクマ「クックックッ……ボクの領域内でオマエの魔法が利くとでも思ったのかい? そんなわけあるかい! ボクの領域内では魔法の一切が無効化されるんだよ!」

愛依「ん……? これ、何がどうなってんの?」

摩美々「よくわかんないケド、ヒーローショーみたいなもんじゃないのー?」

果穂「じゃあウサミさんがヒーローで、モノクマさんが怪人なんですね!」

雛菜「どっちもどっちな見た目ですけどね〜?」

モノクマ「しかし生意気なやつめ、ボクに反抗するなんて、いい度胸だよね!」

ウサミ「は、はわわ……」

モノクマ「ボクに反抗できないように、その体に教え込んでやるー! 教育的指導の時間だぜ、ヒャッハー!」
102 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:04:46.23 ID:6J07c1J10

ポカポカポカポカポカポカポカポカ

ウサミ「いやー! やめてくだちゃい! お嫁に行けなくなっちゃいまちゅー!」

ポカポカポカポカポカポカポカポカ

モノクマ「うるさい! 抵抗するな! 形変えてまうぞコラー!」

ポカポカポカポカポカポカポカポカ

ウサミ「いやー! 往年のプロレスラーみたいな脅し文句のパワハラでちゅー!」

ポカポカポカポカポカポカポカポカ

モノクマ「オラ! どうだ! その痛みがボクの心の痛みなんだぞ!」

ポカポカポカポカポカポカポカポカ

ウサミ「いやー! いつ心が傷ついたっていうんでちゅかー!」

ポカポカポカポカポカポカポカポカ

モノクマ「うるさいうるさい! プロメッサを何度も食らう身にもなってみろー!」

ポカポカポカポカポカポカポカポカ

ウサミ「いやー! メランコリーやめてくだちゃいー!」

ポカポカポカポカポカポカポカポカ
103 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:05:32.42 ID:6J07c1J10

私たちを置いてけぼりにしてもみくちゃになるウサミとモノクマ。
やたら激しい喧嘩っぷりで砂煙が舞い上がり、その姿はだんだんと見えなくなっていく。

そして、その煙が晴れるころには……


「な、なんなんでちゅかこれ……!」


ウサミの持っていたステッキはぽっきりと折られ、その姿は白とピンクのツートンカラーに変えられてしまっていた。


モノクマ「今日からオマエの名前は【モノミ】! ボクのかわいい妹になるんだよ!」

モノミ「うぅ……しくしく……あちしの体、弄ばれちゃったでちゅ……」

104 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:06:17.77 ID:6J07c1J10

ルカ「おい、いつまでそんなくだらねぇ茶番やってんだよ! 私たちに用事がないんならもう行くぞ!」

モノクマ「おっと! 妹を愛でるあまりうっかり本題を忘れてしまっていた! ボクからオマエラにお話がございます!」

冬優子「お話、ですか?」

モノクマ「うぷぷぷ……もうこの出来損ないの妹から聞いたとは思うけど、オマエラは希望ヶ峰学園歌姫計画の参加者としてこの島に集められたんですね!」

モノミ「誰が妹でちゅか! あちしは認めた覚えなんかないでちゅよ!」

モノクマ「で、オマエラは実際その歌姫計画でどんなレッスンを受けられるのか疑問を抱いておられるかと思います!」

灯織「それは確かにそうですね……ウサミ、いやモノミからも事の仔細は聞けてないですし……」

モノミ「風野さん……わざわざ訂正しなくていいんでちゅよ……」

モノクマ「今回、その歌姫計画の中身をオマエラに教えてあげようと思いまして! ……まぁ、なんとなく察してるとは思うけどさ」

にちか「……あ! それってもしかして希望のカケラ?!」

モノクマ「ん?」

にちか「私たちで交流していると手に入るアイテムで、さっきも自己紹介で手に入ったやつ! これじゃないです?」

モノクマ「……うぷ、うぷぷぷぷ……」

にちか「な、なに……?」

モノクマ「違うよ、オマエラにやってもらうのはそんなしょーもないギャルゲ兼宝探しじゃなくて……」

105 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:07:08.64 ID:6J07c1J10




モノクマ「コロシアイだよ」




106 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:08:45.22 ID:6J07c1J10

(……は?)

モノクマ「仲間と交流を深めるなんて真逆真逆! 今オマエラの隣にいる、信頼関係ある大切な仲間をその手でぶっ殺してもらいまーす!」

にちか「な、何言って……?」

結華「こ、殺す……って言った? 三峰の聞き間違いじゃなくて?」

雛菜「へ〜〜〜?」

モノクマ「ボクぁね、成長というのは常に犠牲の上にあると思うんですよ。学力だって若い時の貴重な時間と青春とを犠牲にすることで手に入るわけですし、野球だって肩の寿命を犠牲にすることで初めて活躍できるんですよね!」

モノクマ「だからさ、仲間を犠牲にしてステージに立つとき……最高に輝くパフォーマンスができるんじゃないかなって!」


途中から耳が聞こえなくなった。いや、正確にはその音は届いている。
届いていても、それを咀嚼して脳が情報として処理するのを拒んでいる。
生きるだの死ぬだの、まして殺すだのなんて人生において自分から能動的にかかわってきた場面なんてまるでない。
それにこれからだってそんな場面が人生に現れることなんてないと、今この瞬間まで思っていた。


……それなのに、

107 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:10:21.74 ID:6J07c1J10

モノクマ「だから、仲間の誰かを殺してくれればその人は歌姫計画の成功例としてこの島からの脱出を許可しまーす!」

果穂「い、いっている意味がわからないのに……体がふるえて、とまりません……」

夏葉「果穂、私の後ろに隠れておいて」

果穂「は、はい……」

にちか「じょ、冗談……嘘に決まってますよね?」

モノクマ「冗談? 冗談って何さ、ボクがそんないい加減なことを言うと思うかい? ボクはクマ一倍責任には厳しいからね」

モノクマ「いいかい、この世界は殺すか殺されるかなんだよ。それはオマエラのいた芸能界だってそうでしょ? たった一つの椅子のために何十人何百人という人間が蹴落としあう。オマエラは無自覚のうちにコロシアイの輪廻にすでに組み込まれていたんだよ」


殺す殺されるなんて、フィクションの中の話だと思っていた。
そりゃ報道でたまに人の生き死にのニュースは見ることだってある。
でも、それはあくまでテレビの中の出来事で、私が直接関知することなんかじゃない。

なかったはずだ。
108 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:11:26.19 ID:6J07c1J10

モノクマ「殺し方の内容は問いません! 床下からめった刺し? シンプルに正面から金属バット? 見立て殺人なんかも乙だよね! 宙づりにしちゃえば相手が勝手に落下しするかもよ? 運任せの殺人なんかもエンタメ性抜群だよね!」


その口ぶりは異様なほどにコミカルで、本当に私の考える『殺害』の概念と同じなのか疑ってしまう。ただ、その中身を確かめると異常なまでの残虐さも兼ね備えていて、子供が包丁を振り回しているのを見た時のように背筋が凍り付く。

それはこの場に居合わせた全員がそうで、言葉を瞬間的に失ってしまっていた。額には妙に粘度のある汗が伝い、口元は固く結ばれる。焦点も定まらないままに、モノクマの言葉が嘘だと、悪質なドッキリだという証拠を求めていた。


ルカ「おい、ウサギ……どういうことなんだよ、これ」

モノミ「あ、あちしでちゅか……?」

雛菜「もともとこの島に連れてきたのってモノミちゃんでしたよね〜? 希望ヶ峰学園歌姫計画もモノミちゃんから聞いた話だったし〜」

モノミ「ち、違うんでちゅ……あちしは、ただミナサンを……」

あさひ「元からモノミはわたしたちにコロシアイをさせる気だったっすか?」

モノミ「そうじゃないんでちゅ! あちしは、あちしは……」

モノクマ「そうなんだよ、ボクのかわいい妹はボクのために手となり足となりオマエラを誑かせてここまで連れてきてくれたんだ! 上出来だよモノミ!」

モノミ「何言ってるんでちゅか! あちしとあんたに関係なんかないでちゅよ!」


目の前で交わされる会話の数々。
もう私は限界だった。完全に処理落ち。
情報を追うこともできず、口の中にたまる唾を飲み込むことしかできず立ち尽くす。

張り詰めた緊張感と息苦しさに膠着する場の中で、【彼女】だけが動き出した。
109 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:12:37.22 ID:6J07c1J10

ルカ「……ちっ、くだらねぇ。そんなに私たちが従う義理なんかないだろ」

にちか「……え?」

ルカ「トロいんだよ、283プロ。言いなりになってんじゃねえよ、それとも殺人欲求でも普段から持ってたのか?」

美琴「……」


それは唯一私たちの空気感と違う人。
足がコンクリートで固められたみたいに動けなくなってしまっていた私たちとは別に、彼女はモノクマに背を向け歩き出した。
不和を生み出すばかりだった彼女が今度は潮目になったのである。
彼女の挙げた声によって俄かに私の中にも変化が起きた。
単純な話だ、コロシアイに律儀に従う必要なんてない。
だって目の前にいるのはただのぬいぐるみ。こんな奴の命令なんて、従う理由のほうが見つからない。

……そう、思ったのもつかの間。


モノクマ「ん? あー、やっぱり跳ねっ返りはいつの時代もいるものですね。いいよいいよ、それも織り込み済み! コロシアイをしないって言うんなら……」
110 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:13:54.18 ID:6J07c1J10





モノクマ「無理やりにでも従わせてあげましょー!」





111 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:14:53.34 ID:6J07c1J10

そう言ってモノクマが右手を振り上げると、【絶望】が姿を現した。
私たちの目の前にあった巨大な石像は音を立てて崩れ落ち、それを外殻としていた巨大なロボット……というよりも殺戮兵器とも言うべき代物が姿を現した。


ルカ「な、なんだよ……これ……!」

モノクマ「こいつらはモノケモノ! このジャバウォック島の秩序に基づき、オマエラに断罪を下す最終審判だよ!」

モノクマ「コロシアイに従わないって言うんならこいつらと鬼ごっこをしてもらうことになるよ! まあ力加減がちょっと難しいからうっかり踏みつぶしちゃうかもしれないけどね!」

愛依「あ、あんなんにやられたら……うち大ケガしちゃうって……!」

冬優子「お、大ケガどころじゃないんじゃないかな……?」

透「……死ぬね、多分」

夏葉「果穂……大丈夫、私がついてるわ」

智代子「な、夏葉ちゃん……」

夏葉「……智代子も私の後ろに隠れていなさい」

モノクマ「で? コロシアイがなんだって?」

ルカ「……くそっ!」


ルカさんもモノケモノたちを前にしては、悔しそうに握りこんだその拳を宙で振ることしかできない。
八方ふさがり。文字通りの状況下に押し込まれた私たちはこみあげてくる唾を嚥下することしかできないでいた。
112 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:16:17.90 ID:6J07c1J10

モノクマ「ま、ボクも鬼じゃないんでね。今この場で誰かを殺せなんてことは言いませんわな、ここで生活をしていて、出たくなったらチョイとばかし殺してちょ!」

夏葉「……悪趣味が過ぎるわ」

千雪「どうしてこんなことになってしまったのかしら……」

モノクマ「どうして? その答えは何よりもオマエラが一番詳しく知ってるんじゃないの?」

(……え?)

モノクマ「ま、いいや! とりあえずはオマエラに言っておくべきことは大体全部伝えたので……【最後の催し】に移ろうか!」

冬優子「最後の催し……?」

あさひ「何するっすか?」

モノクマ「オマエラの、コロシアイ南国生活の希望に満ちた門出、いや船出を祝しまして……どでかい【花火】を打ち上げさせていただきます!」

雛菜「やは〜! 雛菜花火好き〜!」

智代子「ぜ、絶対雛菜ちゃんが思ってるような花火じゃないよ?!」

雛菜「え〜? そうなんですか〜?」

モノクマ「一度といわず何度でも! たまや〜! かぎや〜! 絶望や〜〜〜〜〜〜〜〜!」
113 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:17:32.25 ID:6J07c1J10
-------------------------------------------------
モノクマが右手を掲げたかと思うと、すぐにその惨劇は始まった。
モノケモノのうちの一体、足にマシンガンを携えた鳥は即座にワイヤーを射出!
私のすぐ隣、奥にいたモノミをとらえた。


ダダダダダダ
ダダダダダダ
ダダダダダダ
ダダダダダダ


そして、そこから数秒。いや数分? 数時間だったかもしれない。
すぐ真横を掠め通っていく弾丸の雨に生命の危機を本能で感じ取った私は、時間感覚というものを壊してしまったのだ。
永遠にも感じる刹那、その果てには……



モノミの姿はかけらほども残らず、穴だらけのぼろきれのようなリボンだけが宙を舞っていた。



-------------------------------------------------
114 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:18:52.04 ID:6J07c1J10

にちか「……え?」


千雪「な、何してるの……? も、モノミちゃんは……妹さんなんじゃ……」

モノクマ「ん? あー、そういえばそんなこと言ったばっかだったか! まあいいよ、そんなの一時的な設定に過ぎないんだし!」

にちか「た、確かについさっき思いついたようなものだったけど……でも、なんでこんな一方的に、突然に……!?」


ものの数秒前まで横に立っていたものが、消え失せている。
これまで感じたことのない脅威が、私たちに身のひりつきを与えた。
感覚が嫌に研ぎ澄まされて、肌を伝う汗が痛い。


モノクマ「はぁ……これってさ、ボクの優しさなんだよね」

灯織「ど、どこが優しさなんですか……今のがもし人だったら……一方的な虐殺ですよ!」

モノクマ「それの何が悪いの?」

灯織「!?」

モノクマ「生きていくってのはそういうことじゃん。一方的に自分より弱い存在を虐げて、殺して、自分の血肉に変えていく。ただオマエラはそれから目を背けて自分たちは平和主義者だって謳ってるだけ。言葉では何とでもいえるけどね、オマエラの血がまっさらなわけないんだよ」

摩美々「はぁ? コロシアイとか処刑とか、生きるために別に必要じゃないし論点ずれてないー?」

モノクマ「ズレてないよ! だってこの島で生きていくにはまず、『殺す』ことが大事なんだからさ! 殺される前に殺す、それってサバイバルの基本でしょ!?」

愛依「う、うち……そんなサバイバルなんか、する気……」

美琴「……生きるために、殺す」

モノクマ「オマエラみたいな現代の気にほだされた腑抜けの令和世代がコロシアイに挑むにあたって、死とはどういうものなのかを改めて実感してもらわないとじゃん? モノミには身を挺してそれを実演してもらったわけ! ああ、なんと心優しきクマとウサギなのでしょう!」

結華「いやいや、そんな倒錯した優しさ……流石に受け入れられないっていうか!」

恋鐘「少なくともモノミはそんなつもりはなかったはずたい! モノクマの言うことなんか信用ならんよ!」

モノクマ「まあオマエラが信用しようがしまいが関係ないんだけどね、すぐにその身をもって理解することになるさ。この島で生きていくことの難しさをね!」

にちか「……そ、それって、どういう意味……?」


聞いたことをすぐに後悔した。だって、こんなのモノクマに言われなくたって分かり切ってる結論。きっと全員が思いついている結論。
ただそれを口にされて、目の前に提示されてしまうと、正気ではいられなくなる、あの結論。

それを、私はみんなの前で尋ねてしまったんだ。
115 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:19:42.13 ID:6J07c1J10





「オマエラの周りの誰かが、オマエを殺すんだよ」





116 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:21:29.67 ID:6J07c1J10

にちか「……っ!」


それしか解答がないことは、分かり切っていた。
みんながみんな、わかっていた。
ただ、それを言葉にされると、これまでにない衝撃がずしんとその身にのしかかり、視界は帳が降りたかのように暗くなってしまうのだ。
私たちは【疑心暗鬼の暗礁】に乗り上げたのである。


モノクマ「隣で涼しい顔してるあの子も、動揺しているように見えるその子も、腹の内はわかんないよね! もしかしたらオマエをどう殺すか考えている真っ最中なのかも?」

灯織「そ、そんなこと……あるわけありません!」

モノクマ「どうしてそう言い切れるの? オマエってばサイコメトラーだったりするわけ?」

モノクマ「いいかい? どれだけオマエが相手のことを好きだとしても、相手のことを真に理解することはできないんだ。反対に相手だってそう、オマエがいくら信じても相手も信じてくれるかどうかはわからない!」


私たちは顔を見合わせていた。
これまで事務所で毎日のように見てきた顔、顔、顔。
テレビの中で追っていた憧れにも近しい顔、顔、顔。
そのどれもが表情を取ってつけたようにのっぺりとしたものに見えた。
この人は今何を考えているんだろう。これから何をしようとしているんだろう。

……そんな猜疑心の芽が顔を出すには、そう時間はかからなかった。
117 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/19(金) 23:22:36.23 ID:6J07c1J10

モノクマ「それでも仲良しこよしを貫くって言うんならお好きにどうぞ! ま、ボクとこのモノケモノ達が何をするのかは保証できないけどね!」

ルカ「……ちっ、ご丁寧に恐喝までしやがって」

果穂「あ、あたし……どうなっちゃうんですか……?」

夏葉「果穂、大丈夫……大丈夫よ……」

あさひ「……」

透「……これ、もしかしなくても……やばいやつ」

雛菜「あは〜……」

モノクマ「さあさ今から始まるのは希望ヶ峰学園の秘蔵も秘蔵の極秘プロジェクト・歌姫計画〜〜〜〜! 仲間を手にかけ、踏み台にして! 新時代の希望となる歌姫は誰になるのか、乞うご期待!」

モノクマ「アーッハッハッハッハ!」


モノクマの笑い声に、遠くに打ち寄せる波音だけが響いた。
頭がやけに重たくなっていた。そこに詰め込まれていたのは、これまでの人生を、現実を生きてきた脳漿。
ただ、ものの数時間と経たないうちにその中には南国という非現実、拉致監禁という非現実、コロシアイという非現実、モノクマという非現実、命の危機という非現実……
根限り挙げてもきりのないほどの非現実が図々しくも堂々と詰め込まれてしまった。

揺らぎ、揺れる、世界。
その世界から振り落とされないように、輪からはみ出さないように、誰にも殺されないように。
この島では私たちは、縋ることしかできないんだ。
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