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【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】

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1 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:34:56.46 ID:uUkbKYqQ0
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※注意

・本作は「ダンガンロンパ」シリーズのコロシアイをシャニマスのアイドルで行うSSです。
その特性上アイドルがアイドルを殺害する描写などが登場します。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
・キャラ崩壊・自己解釈要素が含まれます。
・ダンガンロンパシリーズのネタバレを一部含みます。
・舞台はスーパーダンガンロンパ2のジャバウォック島となっております。マップ・校則も原則共有しております。
・越境会話の呼称などにミスが含まれる場合は指摘いただけると助かります。修正いたします。

※前作シリーズ
【シャニマス】灯織「それは違います!」【ダンガンロンパ】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1613563407/#footer
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「その矛盾、撃ち抜きます!」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1616846296/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「私はこの絆を諦めません」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1622871300/
【シャニマス×ダンガンロンパ】灯織「これが私たちの答えです」【安価進行】
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1633427478/

以上のほどよろしくお願いいたします。

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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1637235296
2 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:35:55.37 ID:uUkbKYqQ0






「……ねえ、大丈夫?」






3 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:36:53.90 ID:uUkbKYqQ0

「……大変だよね、こんなに一気に訳のわからないことが起きて」

(……ここは?)


仰臥する私の耳には、どこか遠くで波が打ち寄せるような音が響く。そして視界には、照りつける太陽。肌もその熱でひりついている。


(……なんで、こんなところにいるんだっけ)


熱で茹で上がっているのか、思考がまるでまとまらない。
昨日の晩御飯は何食べたっけ、今日のレッスンいつからだったっけ。
そんな取り留めもないことばかりが浮き上がってきて、この“現実”を説明してくれる言葉が見当たらない。


「……ゆっくりでいいから、落ち着いて」


でも、それは私が悪いわけじゃない。なんてったって、今の状況が状況。
私の思考が、理性が、本能が理解しようとすることを拒むんだ。

4 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:37:43.51 ID:uUkbKYqQ0





_____だって、突然南国にいることの説明なんて、つけようがないじゃん。





5 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:39:17.58 ID:uUkbKYqQ0

Code:reproduce…………set.
Acceration………………complete.
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8416137856419247632189431249671
シャイニーダンガンロンパ2 ゼツボウノアイドルトキボウノシマ…………start
6 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:41:05.42 ID:uUkbKYqQ0
____________________________



SHINY DANGAN RONPA 2

絶望のアイドルと希望の島


__________________________
7 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:42:29.77 ID:uUkbKYqQ0





_____現実ってホント、ヤバい。





8 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:44:14.12 ID:uUkbKYqQ0

生まれた時に全て決まるっていうのは割と真理。
父親もいない、母親も入院中。家計は常に火の車でお姉ちゃんはバイトの掛け持ち。
言ってしまえば同世代の子供の中でも割と不幸な部類だと思う。
私だってもっと人並みにショッピングに行きたいし、自分の部屋だって欲しい。なんなら家だって安アパートより一軒家が良かった。

……でも、そんな無いものねだりした所で無駄だって気づいたのは割とすぐ。
現実はヤバいし、周りの大人たちだってもっとヤバい。『可哀想』の一言で全てを片付けられると思ってるとかパンチすぎでしょ。


そんなヤバすぎる現実を見てきた私だからこそ、レコードの中の夢と理想とが魅力的に思えた。

……きっかけはなんだったか。
ほとんど記憶もない父親の遺したレコードだったんだと思う。

何気なく手に取った一枚を、これまた何気なく機械にかけて、またまた何気なく耳を傾けた。

9 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:45:25.43 ID:uUkbKYqQ0


『そうだよ 赤いじゅうたん駆けて
そうだよ 月までだって行けるわ』
『ti ta ta tik tik shake! Pa dun du da_______,ah』


世界が一瞬で翻った。
こういうものだと受け入れるしかないと思い込んでいた世界が音を立てて崩れ落ちて、その割れ目から顔を出した光がやけに暖かくて。
夏場のコンビニ、その電灯に集まる羽虫って多分そういうことなんだ。暗い闇にいればいるほど、そこに刺す光に心を奪われてしまう。


だからアルバイト先もその光にできる限り近いところを選んだ。
別に何か算段があったわけでもなかった、ただずっと、その光に包まれていたい。近くで見つめていたい。

でも、ただの普通の女子高生にできるのって、せいぜいレコードショップぐらいのもので。
それでもそれなりには満足はしていた、バイト仲間は優しいし、ポップ作ったり新盤開けたりは楽しかったし。

とはいえこれらは全部目眩し、自分自身の強欲に対する目眩しでしかないんだ。
本当に私がやりたいのはこれじゃない、どこかでずっとそう思っていた。

10 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:46:34.39 ID:uUkbKYqQ0



「すみません、283プロダクションの人間なのですが……」



だから、その時が来た際に必要以上にがっついてしまったのは、今更否定もしない。

目の前に舞い込んで来たチャンスを私は鷲掴みにした。
いや、本当はそれはチャンスですらなかったんだけど……でも無理矢理チャンスってことにした。
本心からの「なんでもします」でゴリ押し、なんとかアイドルデビューを漕ぎつけた。


ヤバすぎる現実、不幸すぎる身の上、最悪すぎる凡庸さからの脱却のチャンスを、やっと掴めたんだ。
11 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:47:38.04 ID:uUkbKYqQ0

……と、アイドルになるまでを雑なモノローグで語ってきたわけだけど。

そろそろ自己紹介ぐらいしておこうかな。

私は【七草にちか】、283プロダクションのアイドル!
今はSHHisというユニットで活動中、一応これでもそれなりに売れたり売れなかったりしてる。
元貧乏な一般人の私がここまでやってこれたのは、私の努力もそれなりにはあるんだけど……

それでも、やっぱり美琴さんの存在が大きいと思う。

【緋田美琴】さん、私のめっっちゃ最高でめっっちゃ尊敬しているパートナー!
私と組む前は別の事務所で別の方と活動をしていて、色々あって解散移籍になったらしい(詳しい事情はまだ聞けてないけど)。
正直私なんかが烏滸がましいとは思うけど、それでもコンビを組んでいるからには、失礼の無い様に、足を引っ張らない様に精一杯やっている。

12 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:48:59.43 ID:uUkbKYqQ0

で、今日はそんな美琴さんとのレッスンの日。
バイトが終わるなり直で事務所、既に自主練を行なっている美琴さんに合流する形だ。

……その筈だったんだけど。


「あー、もう! なんで今日みたいな日に限って!」


店長め、どうでもいい身の上話で時間を取って……息子さんが受験でどうとか正直どうでもいいんですけど?!
とはいえ無視して帰るわけにもいかず相手をしてあげているうちに、気づけば美琴さんとの約束の時間ギリギリになってしまった。
すっかり日も沈んで、事務所の明かりもレッスン室以外は消灯されている。
すぐさま着替えて、乾いた喉に水を流し込んで。
やり場のない苛立ちと焦り、そしてその百倍の申し訳なさを抱えてレッスン室の扉を開けた。


「すみません美琴さん! ちょっと遅くなっちゃいましたーーーー!!」


レッスン室には私たちの曲が流れていて、美琴さんはAメロのステップを練習していた




……はずだった。
13 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:50:40.19 ID:uUkbKYqQ0

「……え?」

そこには誰の姿もなく、美琴さんが練習で使う様なラジカセすら置いていなかった。
日にちを間違えた? いやいや、昨日から楽しみにしてたレッスンなんだし、美琴さんは私との約束なんかなくたって一人で練習する様な人なんだし……

理解不能な現実が突然目の前に現れたことでパニック状態。
やたらと体温が上がって汗をかく。私が知らず知らずのうちに何かやらかしたのかと体が震える。

どれだけ私がヒートアップしようとも、この謎に答えを与えてくれる人はいないし、私以外はただ静寂が広がるだけ。
そんな理解不能に怯えているうちに、もう一つあることに気がついた。


「……あ、あれ……?」


鏡に映る自分の姿が、歪んでいる。まるで水面に石を投げ込んだ様に波紋状に歪んでいる。
その歪みはどんどんと細かくなって、急になって、気がつけば螺旋になっていて。
鏡の中に自分自身が吸い込まれる様な錯覚すら覚えるほどのぐるぐる。


ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

14 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:51:39.26 ID:uUkbKYqQ0





_____そして世界は、溶けて無くなってしまった。






15 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:52:58.32 ID:uUkbKYqQ0
___
_____
_______


【?????】


(……あれ?)


ところ変わって……何処?
0と1でできたデータ世界の様な空間に扉が一つ浮かんでいる。悪い夢か何かだろうか。
それならもう少しだけ寝させて欲しい。さっきの今で、頭はまだこんがらがっているんだから。

そう思う私自身だったが、体の私自身はそうではないらしい。
目の前の悪い夢、その正体を明かさないと満足がいかないらしく、私の理性が遮る間すらなくドアノブを掌に掴んでいた。


(……あはは、こんな扉、今時の学校にあり得ないでしょ)


木造の横開き戸なんて今時ドラマでも見ないっていうのに。
夢ってのは随分と時代錯誤なものなんだなとその滑稽さを笑いながら、その戸を引いた。

16 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:54:20.72 ID:uUkbKYqQ0
-------------------------------------------------
【??????】

ところ変わって、教室。

____いや、それも意味がわからないんだけど。

さっきまでの記憶では私はレッスン室にいたはずなんだけど……どうして学校に?
しかも私の通っている学校とは別物。全くもって違う机に、全くもって違う黒板、そして全くもって違う……【クラスメイト】。

というかこれって……クラスメイトっていうよりも……


「にちかちゃん……大丈夫?」
「み、美琴さん?! どうしたんですか?! こんなところで!」


そこにいたのは、美琴さんをはじめとした【283プロダクションのアイドルたち】だった。

17 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:55:35.60 ID:uUkbKYqQ0
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PROLOGUE

VOY@GER
〜超高校級の希望たちの希望に満ちた船出〜



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18 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:56:45.15 ID:uUkbKYqQ0

不可解の連続で不安に押しつぶされかけていた私はすぐさま美琴さんの元へ駆け寄った。


にちか「美琴さん! こ、これってどうなってるんですか……?!」

美琴「えっと……なんていえばいいのかな」

美琴「……ごめんね」

にちか「い、いえ! こちらこそすみません! 美琴さんも混乱してますよね!」

美琴「……うん、でも他のみんなも同じみたいだから」


他のみんなという言葉を聞いて辺りを見渡した。
うわうわ……イルミネーションスターズからノクチルまで……283プロの錚々たるメンツが集まってるよ……。

でも、みんなあたりをキョロキョロと見回したり忙しない。誰一人として今の状況を理解している人間はいないみたいだ。


にちか「何かの撮影、でしょうか……」

美琴「ドッキリにしては大規模すぎるし……他の事務所の人間もいるのが気にかかるね」

にちか「ほ、他の事務所……?」


美琴さんは指さしたりはしようとはしなかった。
ただ視線をチラリと寄せただけ、それ以上は関わりたくないという意思表示なんだろう。


(……うっ)


あの人は、よく知っている。
私よりも前に美琴さんとタッグを組んでいたアイドル。
今現在では同世代の悩める女子のカリスマ的なシンボルマークである“カミサマ”、【斑鳩ルカ】さんだ。
19 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:57:59.69 ID:uUkbKYqQ0

ルカ「……あ?」

(……ひぃっ?!)


美琴さんの視線を追っただけの私は偶然にも彼女と目があった。
ルカさんはそれだけでもよほど不快だったらしく、顔をぐにゃっと歪ませると。


ルカ「……ちぃっ!」


……これ見よがしの舌打ち。


美琴「……どういうキャスティングなんだろうね、これは」

にちか「そ、そうですね……」


うぅ……なんだか居た堪れない。

未知の状況に放り込まれた不安と露骨な敵意を一人の人間に向けられている肌のひりつきとに戸惑っていた。
誰でもいいから、この際プロデューサーさんがドッキリの札を持って現れてくれても許すから、説明をして欲しかった。

でも、私たちが貰えたのは説明ではなく……




更なる【不可解】だった。



20 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:58:44.76 ID:uUkbKYqQ0





「ミナサン、どうやら揃ったみたいでちゅね!」





21 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 20:59:54.24 ID:uUkbKYqQ0

突如聞こえてきたのは素っ頓狂な語尾による呼びかけ。
全員の視線が一気にその声の発生元である教卓へと注がれる。
私たちが“非現実”を目撃するまで、そう時間はかからなかった。

バビューン!!

教卓の天板が跳ね上がったかと思うと、白い影が一気に飛び上がり……
不気味なまでにふんわりとした着地をしてみせた。



「あちしはウサミ、魔法少女ミラクル★ウサミでちゅ! よろしくね!」




薄桃色のフリルのついたドレスを身に纏って、ハートのステッキを携えた白い寸胴のウサギ。
ぬいぐるみ大の大きさのそれが、表情豊かに動いて、喋った。

22 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:01:03.60 ID:uUkbKYqQ0

にちか「う、うわわぁ?! な、なんなんですか、あれ?!」

美琴「……びっくりした」

???「ロボット!? ロボットっすかね、アレ?!」

???「すごいですーーーー!! あんな風にうごくロボット、はじめて見ましたーーーー!!」

???「ぬいぐるみ……なのかな?」

???「そのようだけど……あんなに自由自在に動いたり喋ったりするものは見たことも聞いたこともないわ」

ウサミ「そうでちゅ、あちしはヌイグルミなんでちゅ。フェルト地なんでちゅ」

???「素材より気になるところがあるといいますか……」

???「でも、なんだかちょっとかわいくない? うち、ケッコー好きかも!」

???「そ、そうかなぁ……」

ウサミ「えへへ……そう言ってもらえるとあちしもうれしいでちゅ。フェルト地の心臓が、じんわりと暖かくなっていきまちゅ」

23 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:02:24.21 ID:uUkbKYqQ0

???「そんなことより、今の状況を説明して欲しいんですケドー?」

ウサミ「ああ、そうでちゅね。ミナサンも今どういう状況かわからなくて、とても不安だと思いまちゅ」

???「あー、そういえば……わかんないや、全然。どうしてここに来たかとか」

???「あれ〜? そういえば、どうやってここに来たんだっけ〜」

(……!!)


言われてみれば私もそうだ。
あの時レッスン室でよくわからない幻覚を見てから、ここに来るまでの記憶がまるですっぽりと抜け落ちている。
気がつけばここにいたし、気がつけばよくわからないうさぎのヌイグルミが目の前で動いている。
その間の記憶を呼び起こそうとしても、まるで靄がかかってしまっているようで何も見えてこない。

……これは。


???「集団記憶喪失……そういうことなのかしら」

???「きおくそうしつ……ですか?」

???「ここにいる全員がここに来るまでのことを忘れている……明らかに不自然だよね!」


どうやらそれは私だけでないらしく、みんな顎に手を当てたり腕を組んだりして考え込んでいる。
でも、その誰もがいくら記憶をのぞき込んでも解答が見えてこない。まるで事実そのものを脳が放り出してしまったような、そんな不自然さを覚える。
24 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:04:05.56 ID:uUkbKYqQ0

中でも動揺が激しかったのは、この場で唯一の283プロ【以外】の所属の人間、ルカさんだった。


ルカ「おい、説明しやがれ! なんで私までこんなところにいるんだよ! 私は283プロの人間じゃない!」

ウサミ「お、落ち着いてくだちゃい! それを含めて諸々込み込み、説明いたしまちゅから!」

ルカ「283プロのことは勝手にすればいいけど、私まで巻き込まれた理由を教えろよ!」

ウサミ「わー! 乱暴はいけまちぇん、フェルト地の耳は繊細なんでちゅ!」


ルカさんはウサミと名乗る怪しいぬいぐるみに掴みかかり恫喝じみた質問を繰り返す。
私たちはというとその剣幕にたじろぐばかりで、しばらくその怒声にびくついていた。


ルカ「このヤロー……!」


ルカさん自身も昂ぶりが収まらず、とうとう振り上げた右手。それがぬいぐるみのフェルト地の顔面に炸裂するかと思ったその直後。




____拳はそのまま宙で静止した。



25 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:05:40.65 ID:uUkbKYqQ0

美琴「……必要以上にうるさくしないで。みんな混乱してるんだから」

(み、美琴さん……!)

ルカ「……チッ!」

(き、気まずい……)


ルカさんは虫の居所がよほど悪いのか、捨て台詞でも吐きそうな具合の勢いでその場を離れると、どかんと音を立てて近くの椅子に腰かけた。
美琴さんに向ける視線が妙にとげとげしい。


ウサミ「あ、ありがとうございまちゅ……あちしはゆるふわ系ウサギなので、正直助かりまちた……」

美琴「ううん……それより、説明をお願いできる?」


一方の美琴さんはというと、正体不明なぬいぐるみをいたわる様に頭をなでると、優しく問い直した。
やっぱり美琴さんはすごい、オーラというか魅力というか、人間性の深みを感じられる。


ウサミ「はい!でもそれより先に……まずは!」
26 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:06:52.67 ID:uUkbKYqQ0

シャラララ……

???「ふぇ?! つ、杖が光っとうばい?!」

???「へ、変身……ですかーーーー!?」

ウサミ「これは変身ではなく、あちしの魔法でちゅ。いざ、とくとご覧あれー!」


ウサミと名乗るそのヌイグルミが高々とそのステッキを掲げたかと思うと、俄にあたりは桃色の光に包まれ……



____バタン!




教室の壁は、ハリボテのようにその場で倒れてしまった。
そしてそれと同時に姿を表したのは……




青い海、眩しい太陽。


打ち寄せる白波、きめ細かな砂浜。


そして、心地よい潮風________。

27 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:08:38.89 ID:uUkbKYqQ0



にちか「……え?」

にちか「え、ええええええええええ?!」



ウサミ「てんてれてーん! ミナサンを、南の島にご招待ー!」


一瞬にして私たちのいた教室は、南の島の砂浜に変わってしまった。
それも、漫画みたいに素っ頓狂な方法で。


???「あは〜〜〜! すっごく気持ちいい天気〜〜〜!」

???「すごいっすー! どうやってやったんっすか?! 魔法って本当にあったんっすか?!」

ウサミ「はい! あちしの魔法は世界一でちゅから! 不可能はありまちぇん!」

???「三峰的にはもう色々とキャパオーバーなんだけど……」

にちか「み、美琴さん……!」

美琴「……びっくりした」

にちか「だめだ! 美琴さんがすっかり『びっくりしたbot』みたいになっちゃってる!」

ウサミ「どうでちゅか、この綺麗なビーチ。波の音を聞きながら日差しを浴びているだけでなんだか心が安らいでいきまちゅね……」
28 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:10:29.00 ID:uUkbKYqQ0

ルカ「おいコラ!」

ウサミ「はぅ?!」

ルカ「てめェ……どういうつもりだ、私たちを拉致監禁した挙句海外に連れまわしやがって……」

(……! 拉致監禁、海外……?)

ウサミ「ち、違いまちゅ! あちしはそんな物騒なことはしてまちぇん!」

ウサミ「あちしは犯罪とか悲しいことは大嫌いなんでちゅ、そんな言葉聞きたくもないくらい!」

ルカ「そんな理屈が通ると思うか? どう見ても今の私たちの状況は普通じゃない、しかもてめェはその全てを知っているような口ぶり……」

ルカ「これが拉致じゃないってんなら説明してみろよ!」


ウサミ「えっと……その……これはロケ、でちて……」


???「ふぇ? ロケばい?」

ウサミ「そうなんでちゅ、283プロのみんなと、斑鳩さんを特別ゲストにして親睦を深めるための【旅ロケ】なんでちゅ」

ルカ「はぁ?! そんなの聞いてない!」

???「私たちも聞いてないなぁ……そんなこと」

???「あのプロデューサーが連絡ミスをするとも思い難いし……どういうことなのかしら」

ウサミ「こう見えてもあちしはそのロケを率いるディレクターなんでちゅ。フェルト地なんでちゅ」

美琴「ディレクター……? あなたが……?」

ウサミ「はい! あちしは出演者も視聴者も、みんなが幸せでハッピーになれる番組を作りたいんでちゅ、だからこの島でミナサンに危害をくわえるようなことはしまちぇんよ!」

???「えっと……ディレクターさんがウサギさん越しに指示を出してるってことでいいのかな……」

ウサミ「違いまちゅ! あちしこそがディレクターなんでちゅから、エッヘン!」

???「よろしくおねがいします、ディレクターさん!」

???「適応が早すぎるよ?!」
29 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:12:05.39 ID:uUkbKYqQ0

???「それで、その……あなたはそのロケと題して、この島で何をさせたいんですか? ディレクターと称すのであれば、何かしら考えあってのことだと思いますが……」

ウサミ「いい質問でちゅね! あちしがミナサンにして欲しいことはただ一つ、仲良くして欲しいんでちゅ」

ウサミ「先ほども言った通り、このロケは親睦を深めるのを目的にした旅番組でちゅ。ヤラセなんかは一切なし、障害なんかも特に存在しまちぇん」

ウサミ「ミナサン自由に自分たちのやりたいように、仲良くらーぶらーぶする……それがこの『どきどきIsl@nd☆tour』なんでちゅ!」

にちか「うーわ、ダッサ……なにそのタイトル……」

ウサミ「こらー! 番組のタイトルなんでちゅからケチをつけたらいけまちぇん!」


……狂ってる。
正直そう思った。さっきのルカさんじゃないけど今の私たちは完全に拉致された身のはず。
それなのに私たちに仲良くしろだのなんだの宣うこのヌイグルミは何者なんだ。






……でも、殊の外周りの方々は警戒心を緩めていく。





30 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:13:16.51 ID:uUkbKYqQ0

???「じゃあ、自由に過ごしてもいいってことっすか?」

ウサミ「はい、ミナサンがやりたいようにやってくれて構いまちぇんからね」

???「果穂ちゃん! 一緒に南国の珍しい虫を探しに行こうよ!」

???「あさひさん……!! はい!! おともします!!」

???「もう……あさひちゃん? 一人で遠くに行っちゃダメでしょ?」


次から次へと砂浜からは人の姿がなくなっていき、


???「ふふ……ヤバい、めっちゃ」

???「だね〜? 円香先輩がここにいたら顔すごい引き攣ってそ〜〜〜♡」

???「あー……泳ごっか、せっかくだし」

???「さんせ〜い!」


意味不明なぐらいの順応を見せて、


???「こがん立派なヤシの木があれば、美味しいココナッツジュースが作れるばい!」

???「へぇ〜、こがたん、そういうのもできるんだ」

???「経験はなか! でも、やってみんことには何も始まらんばい!」

???「何その熱血ー……」


現状を受け入れられない人間の方が少なくなりつつすらあった。

……で、肝心の私はというと。
31 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:14:37.60 ID:uUkbKYqQ0


「あーーーー!!」

ドシン!


思いっきり勢いよく後ろから倒れてやった。
思考するのがもう面倒で、いっそ昏倒してくれてもよかった。
でも、南国の砂浜というのは思っていた以上に優しいらしく、大した衝撃も感じることなく私はその場に仰臥していた。


「もうわっけわかんない……」


……私は現状を受け入れられない側の人間。
それも割と最初の段階で。

美琴さんの手前、パニックになったり叫んだりはしなかったけど本音を言えばそれらで収まるほどの動揺じゃなかった。

完全に日常と隔絶された異常な陽気に、見たこともないヌイグルミしかもそれが喋って動くと来た。かと思えば南国に連れてこられて仲良くしろって?



____どう考えても夢でしょ、こんなの。



32 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:15:33.58 ID:uUkbKYqQ0
。o○o。.★.。o○o。.☆.。o○o。.★.o○o。.☆.。o○o。



しゃいにー☆あいらんど
どきどき南国ロケで大パニック⁉️



。o○o。.★.。o○o。.☆.。o○o。.★.o○o。.☆.。o○o。
33 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:16:20.28 ID:uUkbKYqQ0





「……ねえ、大丈夫?」





34 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:17:48.67 ID:uUkbKYqQ0

「……大変だよね、こんなに一気に訳のわからないことが起きて」


私のことを怪訝そうにのぞき込む美琴さん。
そりゃそうだよね、隣に立ってた人間が混乱の一時の勢いとはいえ急に倒れこんだらびっくりしちゃうよね。


「……ねえ、聞いてる?」

「き、聞いてます……聞いてますけど……こんな状況……受け入れられないし、信じられなくないです?」


思わず駄々こねる子供みたいな口ぶりになる私。美琴さんは私の言葉を少し宙でなぞるも、それに同調はしなかった。
むしろお母さんのように、私を諭す。


「色々と手いっぱいだと思うけど……動かないことには始まらないから」

「そ、そうですけど……」


ただ、美琴さんにこれ以上迷惑をかけるのは自分的にもナシ。
とりあえずは立ち上がって、現実というものを見定めることにした。


「……手、使う?」

「い、いえいえ! そんな申し訳ないです! 今立ちますから!」
35 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:19:17.41 ID:uUkbKYqQ0

立ち上がると改めて視界に入る、綺麗すぎる海と空。
昔お姉ちゃんと一緒に行ったような、東京湾のきっったない海とは大違い。
混じりっ気のない純粋な青色は胸がすくようで、思わず走り出したくなるような……テレビで見る海外のビーチとかそういうレベルだ。
でも、それがゆえにかえって不気味に見えてしまうというのも実情。


美琴「……大丈夫? 落ち着いた?」

にちか「落ち着いては……ないかもです。すみません……やっぱり、全く意味が分かんない状況ですから……」

にちか「……ってあれ? ほかの皆さんは?」

美琴「もう行っちゃったよ。島の様子を見てみないことには何もできないからって」

にちか「……!! わわっ、すみません! 私が倒れちゃってたから美琴さんのお手を煩わせちゃってましたかね!?」

美琴「ううん、そういうんじゃないから大丈夫。それより、とりあえず私たちも行動を開始したほうがいいかな」

にちか「そ、そうですね! とりあえずは島の調査に……」


自分たちだけ行動が遅れてしまった、美琴さんの足を引っ張ってしまった。
なんとかそのビハインドを取り返さないといけないと思って、すぐに動こうとした……



____けど、美琴さんがそれを制止した。



36 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:20:41.52 ID:uUkbKYqQ0

美琴「待って、その前に……やらなきゃいけないことがあるから」

にちか「え? な、なんですか?」

美琴「……緋田美琴、【超社会人級のダンサー】。よろしくね」

にちか「……み、美琴さん?」


ピロリン

にちか「……わぁっ?!」


突然の美琴さんの自己紹介、それと同時に袂のほうから聞いたことのない電子音。
思わず何事かとポケットを漁ると……その音の発生元はすぐに見つかった。
スマートフォンのような、PDAのような、液晶と捜査のタッチパネルが一体化した装置のようなもの。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

緋田美琴【超社会人級のダンサー】

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

その液晶には美琴さんの情報が浮かび上がっていて、その脇には【希望のカケラ】という文字も見える。
37 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:22:02.13 ID:uUkbKYqQ0

にちか「こ、これは……?!」

美琴「……覚えてないの? さっき、ウサミに渡されたと思うんだけど……にちかちゃん、茫然自失って感じだったから」


言われてみればそんなの受け取ったような気もする。
すっかり目の前の異常事態に気を取られていて思考が停止していたのでまるで記憶がないんだけど。


ウサミ「おめでとうございまちゅ! 【希望のカケラ】を手に入れまちたね!」

にちか「わぁっ?! また出た!?」

ウサミ「七草さん、もう大丈夫でちゅか? 突然倒れこんだのでみんな心配してまちたよ?」

にちか「そ、それより……これ、なんなの?! このよくわからない機械も、希望のカケラっていうのも!」

ウサミ「ああ、その機械は【電子生徒手帳】でちゅ! ミナサンのこの島での暮らしをサポートしてくれる便利な機械でちゅよ! まあ、クリアしたらマイルがたまるようなミッションがあるわけではないんでちゅが……」

ウサミ「その代わり、仲良くなればなるほど【希望のカケラ】がたまっていくんでちゅ! 【希望のカケラ】はその数に応じて便利なアイテムと交換できまちゅから、大切に集めてくだちゃいね!」

美琴「ひとまずこの電子生徒手帳に全員分の情報を登録する必要があるみたい。自己紹介をすることで相手の情報が記録されるみたいだから、それで」


ああ、突然美琴さんが自己紹介をしたことにも納得ができた。
別に私の存在が矮小すぎて忘れちゃったとか、そういう余計な心配はしなくていいみたい。
ほっと胸をなでおろす。
38 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:23:30.44 ID:uUkbKYqQ0

画面を指でつつけば、私の情報も浮かび上がってきた。

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七草にちか【超高校級の幸運】

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にちか「わ、私……幸運? 確か始まりのモノローグでその真逆みたいなこと言っちゃってたと思うんだけど……」

ウサミ「あー、その……希望ヶ峰学園の言うところの【超高校級の幸運】って、そういう単純なラッキーってだけの意味じゃないんでちゅ」

美琴「確か……毎年全国の【超高校級でない平均的な高校生】から一人抽選で選んで入学する権利を与える制度のこと、だよね」

ウサミ「その通りでちゅ。で、でもそれって……七草さんが凡人だからこそつかみ取れた幸運ってことでちゅから! 全然、気に病む必要はないんでちゅ!」

にちか「……いや、そんな言われ方したら余計に気になるんですけど」





にちか「……ん? ていうか、今、【希望ヶ峰学園】って言った……?」





39 : ◆zbOQ645F4s [saga]:2021/11/18(木) 21:24:42.39 ID:uUkbKYqQ0

ウサミ「そうでちゅけど……どうかしまちたか?」

にちか「どうしたもこうしたもないよ……だって、希望ヶ峰学園ってあの【希望ヶ峰学園】のこと、なんでしょ……?! そんなの、そんなのって……!!」




ウサミ「そうなんでちゅ! ビッグさぷらーいず! ミナサンは希望ヶ峰学園が主催する、【希望ヶ峰学園歌姫計画】の参加者に選ばれたんでちゅ!」




【希望ヶ峰学園歌姫計画】……?
その名前自体は聞いたこともない、でも希望ヶ峰学園の名を冠するというだけでその持つ意味は大きく変わってくる。


だって、希望ヶ峰学園はこの国の、この世界の【希望】の象徴なんだから。
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