100日後に死ぬ彼女

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1 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:40:47.65 ID:7siPWhRxO
はじめに

・本スレは地の文で構成されています。終始シリアスになる予定です。

・本スレは現実のカレンダーと連動して進行します。週1〜2回の更新予定です。

・アルファポリスでも同様の内容を掲載しています。こちらの方は加筆することがあります。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/733762571/962546746

・前シリーズを読んだ方ならなお楽しめますが、読まなくても問題ありません。
なお、前シリーズの設定は一部改編されている可能性があります。
(後日リメイクする予定です)

【安価】殺人鬼コナン4【コンマ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1554727814/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1632148847
2 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:41:45.55 ID:7siPWhRxO





嫌な、夢を見ていた。





3 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:42:21.97 ID:7siPWhRxO

僕は漫然と、町中華のテレビを見ていた。昼のニュースは、アメリカの金融政策が変わりそうだとか、上野の動物園でパンダが生まれただとか、そんなどうでもいい話題を流していた。
僕はズズッとタンメンを啜った。塩気と胡椒と化学調味料が効いたスープは少しくどいけど、野菜の旨味が凝縮されたスープは少し太目の麺によく絡んでいた。熱いスープも、年末のこの時期には有難い。

評判通り、悪くない店だな。

その時、画面が切り替わった。ベテランの女性アナウンサーの声が、一気に緊張感のある物に変わった。

「速報です。東京都小金井市のマンション3棟が、倒壊したとの情報が入ってきました。現場から中継です」

倒壊?どういうことだ?

ほぼタンメンを食べ終わり、立ち上がろうとした僕は、テレビに視線を向けた。

記者が震えながらレポートを始めている。混乱からか、記者は噛み気味に原稿を読み上げていた。

「ご、午前11時頃っ、と、東京都目黒区のマンション3棟が、突如と倒壊しましたっ。きゅ、救護活動が始まっていますがっ、百人以上がい、生き埋めになったもようですっ」

記者の背後には多数の救急車と消防車、そしてパトカーがあった。まだマンションが倒れて間もないからか、土煙で画面がくすんでいる。

何かすごいことになっているな、とぼんやり思っていた僕の意識は、数秒後に叩き起こされた。
4 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:43:34.78 ID:7siPWhRxO


……見覚えがあるぞ、ここ。


あのコンビニと、遠くに見える鉄塔。……まさか。いや、そんなはずは。


記者は続ける。


「と、倒壊したのはエバーグリーン自由ケ丘の1号棟から3号棟っ、倒壊の原因は、不明で、警察が詳しい状況をっ……」


ガタッ


僕は思わず立ち上がった。唇が一気に乾いていくのが分かった。


……間違いない、由梨花のいるマンションだ。

5 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:44:05.00 ID:7siPWhRxO

由梨花が家にいないことを、強く願った。大学に行っているか、家族や友達とたまたま外出していると思いたかった。
震える手で、スマホを操作する。焦りと恐怖で指がずれ、何回か変な所をタップしてしまった。

由梨花に電話を掛ける。頼む、出てくれ。



「お掛けになった電話番号は、電源が入っていないか、電波の届かない場所に……」



その願いは、無機質な電子音声と共に、瞬時に打ち砕かれた。


6 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:44:43.64 ID:7siPWhRxO





そして、いつもそこで目が覚めるのだ。




7 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:45:22.77 ID:7siPWhRxO
*

「クソッ」

熱帯夜でもないのに、汗が酷い。僕は手で額のそれを拭い、強く頭を振った。

悪夢は段々と鮮明になっている。最初に見たのは、春頃か。凄まじく嫌な夢を見たという記憶だけがあった。
次に見た時には、内容をうっすら覚えていた。その次は夢に色が付き、声が付き……そして今日は、味まで感じていた。

霊感などというものは、僕にはない。勿論、予知能力などというものもない。この20年、普通の、どこにでもいる人間として生きてきた。
多分このまま院に進み、研究者として大成することなくどこかのメーカーに就職し、そこそこの収入とそれなりに平凡で暖かな家庭を作って死ぬのだと思っていた。
家庭を作るのが、由梨花となら最高だ。ただ、大学に入ってやっとできた初めての恋人と添い遂げられると考えるほど、僕はロマンチストじゃない。今はただ、このぬるま湯のような幸福に浸っていたかった。


だからこそ、この悪夢は不快だ。……不快極まりない。


由梨花といつか別れることに、僕が恐怖している表れなのだろうか。機会があったらカウンセラーにでも相談しようかと思ったが、金が勿体無いのでやめた。

時計は10時過ぎを示している。休日とはいえ、少し遅い目覚めではある。
由梨花に無性に会いたくなった。あの夢を見ると、いつもそうだ。

僕はスマホを手に取り、LINEを開いた。
8 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:46:12.87 ID:7siPWhRxO
*

「で、私を呼び出したってわけ?」

ニヤニヤしながら由梨花が僕を見る。僕はバツが悪くなって、フラペチーノのクリームを口にした。

「……悪いかよ」

「いやあ、可愛いなあと思ってさ。前にも急に呼び出したことあったじゃん。あれもそうなの?」

僕は無言で、もう一度スプーンでフラペチーノをすくう。由梨花の笑みが深くなった。

「ニャハハ、そうなんだあ。てっきり私としたかったからだと思ってたよ。あの時の真人、随分お姉さんに甘えてきてたからさ」

「こういう時だけ歳上ぶるなよ」

「でもそういうの、嫌いじゃないよ?俊太郎、母性本能くすぐるタイプだもんねえ」

「……褒められてるのか貶されてるのか分からん」

「勿論、褒めてるよお。私の友達でも、俊太郎可愛いって言う娘結構いるもん。大学でも、狙ってる娘いるかもよ?」

「生憎、大学ではとっつきにくい陰キャで通ってるんでね。第一、うちの理学部に女はほとんどいない」

由梨花が少しむくれた。

「俊太郎のそういう自己評価の低いとこは直した方がいいと思うけどなあ。てか、学歴だけなら私より上なんだし」

「たまたま入試で山が当たっただけさ。本物の天才を前にすると、思い上がろうなんて気も失せる」

「あー、前に言ってた青山って教授?でもそこのゼミ生なんだから、俊太郎も凄いと思うけど」

僕は苦笑してストローに口をつけた。

「僕からしたら、由梨花の方が凄いさ。就職、もう大体決まったんだろ?三友地所なら十分だろ」

「私こそたまたまインターンで行ったのが上手く行っただけだよ。……就職まであと1年半かあ」

ふうと溜め息をつく由梨花を見て、僕は微かな不安を覚えた。由梨花は僕より1つ上だ。僕が多分院に行くことを考えたら、社会人としてのキャリアは最低3年離れることになる。その間、この関係が維持できているのだろうか。
由梨花も同じようなことを考えているのかもしれない。あんな夢を見るのも当然か。
9 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:47:02.84 ID:7siPWhRxO

「……マンションに、異変はないよな」

「あ、さっき言ってた悪夢を気にしてるの?大丈夫、もう住んで10年経ってるけどすっごく快適。セキュリティも万全だし治安は良好だよ」

「……ならいいけど」

「考えすぎだってば。ていうか、これからどうする?スタバでお茶して終わりじゃしょうがないでしょ」

時計を見ると14時過ぎだ。道玄坂方面に向かってもいいが、身体目当てに呼んだと思われても癪に障る。そういうことは嫌いじゃないが、今は由梨花といる時間そのものを楽しみたかった。

「……そうだな、映画何かやってたっけ。竜のなんとかってのが流行ってるらしいけど」

「んー、映画もいいけど。ヒカリエの辺りをブラブラするのもよくない?」

「ま、それもいいか。ただ、そんな手持ちはないぞ」

「いいのっ。じゃ、行こっ……」

由梨花の視線が止まった。窓側の席をじっと見ている。

「どうした?」

「いや、誰かが見てるような気がして」

由梨花の視線の先には、若い母親と小学校高学年ぐらいの子供がいた。

「……あの母子が?」

「どうだろ、気のせいだと思うけど」

母親はかなり整った顔立ちだ。母親にしては少し若すぎる気もする。
ただ、それより目を引いたのは子供の方だ。水色のジャケットにフレームの厚い眼鏡。これで蝶ネクタイまで着けていたら、ほぼ某国民的アニメの主人公だ。

「コスプレ、じゃないよな」

「あー、言われて気付いた。名探偵コナンっぽいよね、あの子。本当に探偵だったり」

「なわけあるかよ。行くよ」
10 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:47:37.65 ID:7siPWhRxO



僕が席を立ったその時、コナン似の少年が一瞬ハッキリと僕を見たのに気付いた。



その時は単に、躾がなってないだけだろうとしか思わなかった。
その意味が分かるのは、もう少ししてからのことだ。

11 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:48:04.86 ID:7siPWhRxO





木ノ内由梨花が「死ぬ」まで、残り100日。
これはその100日間の物語だ。




12 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:48:34.62 ID:7siPWhRxO
以上です。次回は最速23日になります。
13 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/20(月) 23:56:48.95 ID:7siPWhRxO
なお便宜上、コロナのない世界での話になります。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/21(火) 00:18:49.97 ID:QJHp7uUco
おつ
きたい
15 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/21(火) 00:32:04.93 ID:y6GtpLXdO
一部ミスを発見。

>>3
小金井市→目黒区

アルファポリスでは直っています。
16 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 16:23:05.86 ID:Ns5pZRqgO
>>8で訂正です
「あの時の真人」→「あの時の俊太郎」

こちらもアルファポリスでは修正しています

本編2話は19〜20時頃にアップします
17 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:33:21.81 ID:N9VhFuQzO




残り97日




18 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:34:13.16 ID:N9VhFuQzO

「お、来たね」

分厚い扉を開けると、カランという音と乾いた木の匂いがした。マスターの大城戸さんが、ニヤリと笑う。

「ども」

「最近良く来るな。また、競馬で勝ったのかな。この前のセントライト記念、竹下君の予想通りだったしな」

「この前のは買ってないんですよ」

大城戸さんが目を丸くした。

「そりゃなんで。馬連で万馬券だっただろ」

「や、何となく」

「うちに君が来る時は、大体大勝ちした時なんだが。株は暴落したしなあ」

大城戸さんが顎髭を触って首をひねった。僕はフフッと笑ってカウンターの椅子に座る。客はまだ僕だけだ。

「実はそれなんですよね。連休前にショート(空売り)仕掛けたんで」

「……凄いな。ここ最近、日経平均はえらい調子よかったから、あそこで売るのってなかなか勇気いるだろ。……っと、1杯目はいつものでいいか?」

「ええ、ギムレットで」

「了解っと」

大城戸さんがシェーカーにジンを入れ始めた。僕は軽くカウンターを撫でる。
この年季の入った古いチーク製のカウンターは、大城戸さんが1年かけて頼み込んで譲ってもらったものらしい。この手触りが、なんとも言えず心地いいのだ。
19 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:34:49.79 ID:N9VhFuQzO

「で、どうなんだ。例の彼女」

シャカシャカという軽妙な音と共に、大城戸さんが訊いた。昔は湯島にある老舗のバーで働いていたらしく、シェーカーさばきは素人の僕でも分かるほど鮮やかだ。

「由梨花のことですか」

「おう。もう付き合って1年になるだろ。最近姿を見せないからな」

大城戸さんはシェーカーから静かにグラスへとカクテルを注ぐ。ライムの香りを、わずかに感じた。

「上手くいってますよ。この前の休みも会いましたし。インターンで忙しかったんですけど、やっと落ち着いたみたいで」

ギムレットを口に含む。ここのギムレットはコーディアル・ライムジュースを使ったクラシックスタイルだ。切れの中に甘酸っぱさが感じられる。

「あー、年上だっけな。またうちに連れてくればいいのに」

「ええ、就職先も大体決まったみたいですし」

「早いねえ。俺の頃は4年の春まで内定なんて出なかったけどなあ。青田買いってやつか」

すっとお通しの麦チョコが出される。僕はそれをつまみ、口に放り込んだ。

「……就職したら、どうなるんでしょうね」

「んー、何とかなるんじゃないか?結局の所、恋愛って相性だよ。君には、ああいう引っ張ってくれるタイプが合ってる気がするな」

「でも、会える時間は減りますよ」

「そこは密度でカバーさ。何より、彼女の就職はまだ1年半も先だろ。心配しすぎだよ」

大城戸さんが苦笑する。それはそうかもしれない。ただ、あの悪夢を引き合いに出すまでもなく、先に行かれることへの焦りが僕の中にある。
大城戸さんのような大人の余裕を、僕は持てるのだろうか。


ギムレットの苦みを、やけに強く感じた。


20 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:35:30.00 ID:N9VhFuQzO
*

「Bar Orchid」を出たのは21時ごろだった。ギムレットを含むショートカクテルを3杯、そこにロングアイランドアイスティー。
酒量としてはかなり飲んでいる。店を出る時、心配そうな大城戸さんに「大丈夫れす」と答えたけど、正直足元はおぼつかない。

不安を酒でごまかそうとしているのかな。どうにも、僕らしくもない。

由梨花に電話をしようと思ったけど、確かこの時間は居酒屋のバイト中だ。コミュ障気味で接客業に向かない僕と違い、彼女は職場では看板娘として人気らしい。
株式投資が上手くいっているおかげでお金には苦労していないけど、社会性という意味で僕は由梨花に遠く及ばない。

くすんだ夜空を見上げ、ふーっと深く息をつく。「ネガティブになりすぎるのが俊太郎の悪いところ」と、由梨花に何度言われただろうか。
だからあんな嫌な夢を、何度も見てしまうのだ。つくづく自分が嫌になる。
21 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:36:24.90 ID:N9VhFuQzO


……コツリ


僕は振り返った。……誰か、僕の後をつけている?
酔いと鬱気味の心理が作り出した、幻想だろうか。祝日夜の中目黒駅前商店街には人がそれなりにいて、もし誰かが僕を尾行しているとしても、特定は難しい。

少し歩くペースを速める。マンションまではあと数分といった所だ。足が少しもつれた。


……カッカッカッ


かすかに硬い、革靴のような足音がする。間違いない、誰か後ろにいる。
僕は走ろうとしたけど、血の中を流れるアルコールがそれを邪魔した。胃液が漏れそうになる。これ以上は限界だ。
22 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:36:55.38 ID:N9VhFuQzO

立ち止まり、僕は叫んだ。


「誰だっ」


振り向くと、誰もいない。


……そんなはずはない。誰か、いるはずだ。


「か、隠れてないでっ、出てこいっ!」


……返事はない。そんな馬鹿な。確かに、気配と足音はしたのに。

こんな現実と混同するような被害妄想まで出るとは、いよいよカウンセラーに診てもらった方がいいのかもしれない。
僕は自分自身が嫌になり、再び深い溜め息を吐いた。
23 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:37:32.27 ID:N9VhFuQzO
*





その夜、また、夢を見た。





24 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:38:11.04 ID:N9VhFuQzO
*

スローモーションのように、あるいはソフトクリームが溶けるように、高層ビルが崩れ落ちていく。
逃げ惑う人々。立ちこめる黒灰色の煙。それはありきたりな言葉で言えば、地獄絵図そのものだった。

僕はそれを、画面越しに見ていた。音は聞こえない。仮に音があったとしても、爆音と轟音しか聞こえないだろう。

ホテルの客室から、窓の外を眺める。丸の内方面から、黒煙が立ち上っているのが分かった。もう、あのオフィスビルは瓦礫と化したはずだ。



僕は満足げに頷き、グラスに缶ビールを注ぐ。そして、僕以外誰もいない部屋で、「乾杯」と呟いた。




そう、僕の復讐は成されたのだ。




25 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:39:01.51 ID:N9VhFuQzO
*

「……はっ」

思わずベッドから飛び起きた。深酔いのせいで気分は最悪だ。かといって、胃の中の内容物を吐くまでには至らない。それが僕を一層苛立たせた。

「何だってんだよ……」

スマホを見ると、まだ3時過ぎだ。夜明けまでにはかなり時間がある。
いつもの悪夢とは違う。しかし、これも酷い夢であるのには変わりない。しばらく酒量はひかえよう、そう心に誓った。

冷蔵庫に向かい、冷やしてあったスポーツドリンクのペットボトルを開けた。一気飲みすると、身体の中がわずかに洗い流された気がする。

さっきの夢は何だったのだろうか。精神的に参っている所に酔ったのがいけなかったのか。
それにしては、夢の内容は鮮明だった。例の夢ほどじゃないけど、内容はかなりはっきり思い出せる。


何か、強烈な違和感がある。まるで、あれは実際にあったことのような……


26 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:39:46.15 ID:N9VhFuQzO




その時、ふと気付いた。あのオフィスビル、どこかで見覚えがある。……丸の内にある「三友グランドタワー」。
由梨花が就職する予定の、三友地所の本社が入居しているビルだ。




27 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/23(木) 19:40:18.77 ID:N9VhFuQzO
今回はここまで。
次回は視点が変わるかもしれません。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 19:42:19.52 ID:yUqS+uKAo
おつおつ
29 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/25(土) 18:52:27.21 ID:gwMWrsNYO
更新は今日か明日です。
あと、由梨花の一人称を私からあたしに変更します。
(アルファポリスでは修正済みです)
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 19:26:00.06 ID:N+mQOAWOo
了解
31 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/25(土) 22:14:14.49 ID:rdad/mqRO




残り95日




32 : ◆QlCglYLW8I [saga]:2021/09/25(土) 22:14:58.30 ID:rdad/mqRO

「今日も随分並んでるな」

俊太郎が呆れたように呟く。ビルを取り囲むようにできている行列は、ざっと5、60人くらいかな。

「こりゃ2時間コースだねえ。今日は何だっけ?」

「ズワイガニとキウイ」

「キウイ?そんなのラーメンに使うなんて聞いたことない」

「僕もだ。どうする?並ぶの嫌なら諦めるけど」

「いやー、そんなレアなの食べない手はないでしょ」

あたしはニマっと笑い、俊太郎の手を取った。
デートの時、あたしたちは大体まずラーメンを食べる。2人の共通の趣味の一つというのもあるけど、並んでいる間ゆっくり話せるというのも大きい。

中でもここ、「総本家」はお気に入りだ。最初に俊太郎が連れてきてくれた店だけど、とにかく色々強烈なお店なのだ。
まず、スープが違う。普通のお店じゃ決して使わない食材を惜しみなく寸胴に入れ、徹底して煮出す。それを濃厚な醤油タレと合わせてできたスープは、凄まじいほどの中毒性がある。
前に来た時は夏のインターンの前だったけど、その時のスープは確かスッポンだった。食べ終わった後にやたらと身体が火照ってしまったけど、深いコクがあってとにかく美味しかった。

もう一つの特徴はご主人だ。まるで仙人のような風貌で、お弟子さんと2人で切り盛りしていている。
とても気さくな人で、ご主人との会話も結構楽しみだったりする。なお店内のBGMはご主人のカラオケで、なぜかやたらと上手い。
ラーメン界では、ご主人は伝説的な人なのだそうだ。ちょっと前に亡くなった「ラーメンの鬼」とは親友だった、らしい。

そんな「総本家」だから、2時間ぐらい並ぶのはさほど苦じゃない。
列の最後尾に着くと、あたしは俊太郎の頭を撫でた。

「……何だよ」

「んー?いや、なんとなくね。ここに来るのも、結構久しぶりだねえ」

「……夏の間、ほとんど会えなかったからね」

俊太郎の表情が、少し暗くなった。1ヶ月以上も続いたインターンの期間、あたしたちはろくにデートもできなかった。
やっと解放されたのが2週間前だ。その時の俊太郎が凄く不安そうに「会いたかった」と言ってきたけど、寂しかったのはあたしもだ。
だから、月曜に会って間もないのに、こうやって今日も誘った。できるだけ長く、心も身体も繋がっていたかった。

「……例の夢、また見たの?」

「いや……違うのを見た。あまり言いたくないけど、ろくな内容じゃない。一度、カウンセラーか何かに診てもらった方がいいかも」

俊太郎はかなり参ってそうだった。思わず抱き締めたくなったけど、さすがに人目につく。代わりに握っていた手に、少しだけ力を込めた。

「大丈夫、あたしはどこにも行かないから」

俊太郎はちょっとだけ涙目になって、すぐに目を手で擦った。

「……うん」

俊太郎は、基本的に自己評価が低い。東大に通えるほど頭がいいのに、やたらと自分を卑下したがる。
ルックスだってそうだ。ちゃんとしてたら、下手なアイドルよりずっと整ってる。あたしの友達が俊太郎を可愛いと言っていたのは、多分お世辞でもなんでもない。それでも、俊太郎は自分に魅力がないと思い込みたがるのだ。

もちろん、俊太郎は単なるネガティブな陰キャじゃない。優しいし、結構気が利く。
何より、あれで結構男らしい所もあるのだ。


あたしは、俊太郎と初めて会った時のことを思い出していた。

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