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【安価】ようこそ実力主義の教室へ
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82 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/07(火) 22:29:48.07 ID:MB3dUsC60
【
>>81
1.本屋】
目的も無しにケヤキモールを徘徊していると、本屋を見つける。店先の案内版を見る限り、一般的な書店と大差ないラインナップが揃えられている。国内と海外向けの旅行誌が用意されているのは、敷地から出られない学生に対してのせめてもの情けなのか、皮肉なのか。
ともあれ進学に伴い電子書籍へ完全シフトしなくて済むというのは助かる話だった。モノによるが、やはり紙媒体の方が本を読んでいる感がある。
お気に入りの作家さんの新作が出ていないことは承知の上だが、自然と背表紙に書かれた作家名を目で追ってしまう。
「やっぱりないかぁ」
つい独り言を吐いてしまう。
かれこれ三年ほど新作が出ていない。何の告知も無しに出版することも考えられないが、どうしても心のどこかで期待し続けてしまっている。
わたしはその後しばらく他の作家さんの小説を吟味した後、学術書や趣味に使えそうなコーナーを転々と見て回る。
【コンマ安価です。
奇数:料理本を購入して寮へ
偶数:イベント
安価下のコンマ1桁でお願いします。】
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/07(火) 22:47:27.49 ID:vePKuw3rO
連取りありならこのコンマで
無しなら下で
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/07(火) 23:04:35.92 ID:sR6jp3oYO
ほい
85 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/07(火) 23:44:10.63 ID:MB3dUsC60
【
>>83
9:料理本を購入して寮へ】
一通り本を見漁って、わたしは料理の基本を学ぶためのノウハウ本を購入した。本当に基礎的な包丁の持ち方や野菜の切り方、それに簡単なレシピが幾つか載った薄い本だ。
紙袋を片手に、ケヤキモールの入り口へと戻る。
専用ロッカーに学生証端末をかざし、預けていた荷物を受け取って外に出る。寮までは五分程度。少し重たいが、ちょっとした運動程度にはなるだろう。
桜の並木路を歩き、一年生用の寮へと着く。
フロントに立っていた職員の方の指示に従い手続きを済ませる。ルームキーと寮での生活におけるルールブックを戴く。
「ありがとうございます。今日からよろしくお願いします」
わたしはお礼を言い、日用品や本が入った袋を両手に持ち直し、エレベーターへ。Dクラスの女子の半分は11階らしい。
偶然誰かと居合わせることもなく、すんなりと目的階に到着する。私の部屋は『1101号室』。エレベーターを出て廊下を一番右まで行ったところにある角部屋だ。また、近くには非常階段がある。
ルームキーを部屋の扉に通すと、胸の高鳴りを感じる。今日から一人暮らしという高揚感。部屋にどんな物を置こうか想像が膨らむ。
86 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/07(火) 23:44:46.53 ID:MB3dUsC60
扉を開け、玄関からじっくりと内装を観察した後、鍵を閉めて部屋へ。荷物を置いて早速部屋の中を見て回る。
勉強机、パソコン、ベッド、冷蔵庫、ケトル、クローゼット、洗濯機、バスルーム。
一通り見て周り、不足している物を思い浮かべる。
「一通りの調理器具と、電子レンジ……は、いらないかなぁ」
寝て起きるだけならこのままでも問題なさそうだが、せっかくなら料理も出来るようになりたい。確かケヤキモールの一階にホームセンターがあったはず。明日にでも赴いて、購入を検討する必要がある。
それからわたしは買ってきたものを袋から出し、とりあえず買い立ての部屋着に着替えることにした。本来なら一度洗濯をした方が良いかもしれないが、一番最初は仕方がない。
「と、よしっ」
数分ほどでやることを終え、わたしはベッドの上で一息つく。
今日はまずまずの一日だったのではないだろうか。
色々と気になることが多く、つい考え込んでしまうところもあったが、何よりクラスメイトと連絡先を交換できたのは大きい。今もこうしているうちに、わたしの携帯は小刻みに震えている。クラスチャットがそこそこ盛り上がっているようだ。
わたしは携帯をベッドの上に置き、窓際へと移動する。真っ白なカーテンを開けると、夕焼けに染まる学校が目についた。
『高度育成高等学校』
その学校は、果たして入学できた時点で人生勝ち組を約束されるのか。
「……」
それとも、と考えたところで思考を止める。
結局、高校生となった今日も昔のわたしと似たような考えをずっとしていた。打算的な思考。それは捨てたはずなのに、無意識のうちに絡みついてきている。
「……ダメダメ、そんなの」
損得勘定なしで、わたしはわたしの人生を歩む。
欲を言えば、誰からも好かれる。
そんな生徒を目指して。
一歩一歩、確実にわたしの力をクラスへ貢献できるように頑張ろう。
【イベント安価です。
7・0:外出
その他:翌日学校
下1のコンマ1桁でお願いします。】
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/08(水) 00:14:07.30 ID:BHo4RfVYO
え
88 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/08(水) 07:08:23.58 ID:CEGUFkD4O
【
>>87
0:外出】
改めて学校とケヤキモールのパンフレット、そして寮生活におけるルールを確認していると時刻は二十時を回っていた。
ルール上、深夜帯に男子が女子の部屋のフロアに居ることは原則禁止されているものの、コンビニなどの外出は制限されていない。
各階のエレベータードア付近、一階のフロント、寮出入り口、徒歩三分程度のコンビニ付近には監視カメラがある。学校の敷地内であることも考慮すると、まず滅多なことは起こらないだろう。深夜帯に高校生が一人で外出しても然程危険はないと思われる。
「よしっ」
わたしはコンビニへ行くことにした。
ケヤキモールは一部を除いて二十時閉館。スーパーもその内の一つだ。コンビニの方が高くつくのは想像に難くないが、今後もし部活動に所属する場合は放課後の練習などでスーパーの営業時間に間に合わない可能性がある。
そういったやむを得ない場合にコンビニを利用する機会も少なくないだろう。事前にある程度の物価を知っておけば、週末に食品を買い込むこともできる。
軽装に着替えて部屋を出る。エレベーターまで若干距離はあるものの、角部屋だったのはなんとなく得した気分だ。
89 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/08(水) 07:09:16.94 ID:CEGUFkD4O
程なくしてエレベーターに乗り込み、一階へ。
フロントのお姉さんはいなかった。しかしその分、至るところに設置された監視カメラが目についた。
特に気にせず外へ出るとひんやりとした風に包まれる。日中は暖かかったとはいえ、夜は冷える。コンビニついでの散歩も程々に、わたしは歩き始める。
道中、数人の同級生と思しき人とすれ違う。
特に話しかけることも話しかけられることもなく、目的地であるコンビニへと辿り着く。コンビニの前には部活動終わりの上級生が数人屯していた。
コンビニの中は内装も販売品も地元のものとほぼ変わりなかった。強いて言えば、少し日用品の幅が広いことか。ケヤキモールの営業時間に間に合わなかった生徒のため準備されているものだろう。
売られている物、値段を見て回る。
想定通りの値段に近しい。割高になることも学割が効いていることもないようだった」
「────」
しかし一点、気になるものを見つける。
コンビニの奥の方に置かれた、商品が入ったカゴ。
そこには貼り紙でこう書いてある。
『このワゴンの商品 無料 一ヶ月 3つまで』
賞味期限が近そうな食品の他、洗剤や消臭スプレーなどが置かれている。食品はともかく、洗剤や消臭スプレーはコンビニの中に普通に売られている。
わざわざ同じ商品を同じコンビニの中で有料と無料に区分けしているのは何か理由があるのか。
このことは気に留めておく程度とし、特に欲しいものも無かったためコンビニを出る。収穫品はゼロだったが、二つ知ることができた。
一つ目は、コンビニはやはりスーパーよりも高い。
二つ目は、無料配布の商品。
今後のコンビニ生活には十分に役立つ情報だろう。
【イベント安価です。
4・6:「一年Dクラスの春宮だな」
その他:翌日
安価下のコンマ一桁でお願いします。
続きは今晩にします。ありがとうございました。
文章が見づらいなどありましたら書き方を変えます。】
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/08(水) 07:37:12.26 ID:yoLBrh0C0
あ
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/08(水) 22:47:37.09 ID:gI0bR3+/o
今日はあるのかな
92 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:45:43.08 ID:gvlgOaLx0
【かなり遅くなりましたが、再開します。
続きは今晩にしたいと考えています。】
93 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:46:18.15 ID:gvlgOaLx0
【
>>90
6:「一年Dクラスの春宮だな」 】
思いがけない収穫を頭の引き出しに詰め込んでコンビニを出ようとしたところで、わたしは立ち止まる。
先ほどまでコンビニの前で屯していた上級生の数人が店内へ視線を向けていたからだ。
それに、その内の一人は携帯で通話しているようだった。
しばらくドア越しに様子を伺っていると、コンビニのドアが開く。上級生の一人がわたしの目の前へ。
「一年Dクラスの春宮だな? 春宮だよな」
「は、はい。そうですけど…」
身長は百八十センチに届くかという男子生徒に見下ろされ、言葉が詰まる。やや上擦った声色で応答すると、彼は外で通話をしている生徒へアイコンタクトを送った。
「少しいいか? 時間は取らせない。いいよな」
独特の言い回しをする先輩に連れられて店の外へ。
店外にも監視カメラが設置されているため、大ごとにはならないだろう。ならないといいな。
94 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:46:43.35 ID:gvlgOaLx0
少し不安な気持ちを抱えながら、聞いてみる。
「あの、なにかご用でしょうか」
「お前に会いたがってる人がいる。ここで待ってな」
状況から察するに、件の人物は上級生で間違いない。さすがにたった一日で上級生を顎でつかうような一年生は現れないだろう。
それから何度か小まめに連絡を取る先輩方を横目に、わたしは携帯を弄る。と言ってもクラスチャットに目を通すだけ。為人は文章に如実に現れる。まだ顔と名前が一致しているわけではないが、一部生徒の名前に対して、どういう人物かのイメージを持つことができた。
そんなことをして店先で待つこと十分。
学校の方から男女一組の生徒が姿を見せる。
どちらも制服で、手には茶封筒を抱えている。
わたしはその内の一人、男子生徒の方を知っていた。
「おう、待たせたな。……あ? ただ待たせてたのか?」
「は、はい。待ってろと、言われていたので…」
「馬鹿野郎。可愛い後輩ちゃんにコーヒーの一本くらい奢ってやるのが先輩ってもんだろ。なぁ?」
男性の方────半日前、入学式で生徒会長の挨拶を務めていた人物────確か名前は、錦山暁人。やや粗暴な言動のまま、わたしに声をかけてきた先輩を小突く。
95 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:47:10.23 ID:gvlgOaLx0
一方でわたしは反応に困った。「なぁ?」と言われても、同意はしにくい。
「お前らはもう行っていいぞ。乙葉、ちょっと離れたところで待ってろ。あー、そうだ。この前、遣いに行かせたときのポイントが余ってたよな? それでコーヒー買ってきてくれ。なぁ、アイスとホットどっちが好みだ?」
「……ホットでお願いします」
「だそうだ。俺はアイスな」
マイペースに話す生徒会長の発言に、乙葉と呼ばれた女子生徒は深妙な面持ちで会長へ近付く。
「もう残ってないけど」
「……は? いや、あの時のポイントが残ってるとかどうでも良くてさ、とりあえず立て替えてくれよ。後で倍にして返すからさ」
「いや、だからもうポイント無いんだって」
その発言に、会長は額に手を当てて空を仰ぐ。
しばらく訪れる静寂の間。
それを破ったのは、呆れたような表情をする会長だった。
「お前、三年生になったらちゃんと節約するって言ったじゃん。まだ四月の一週目だぜ? 一週間も経たずに今月のポイント全部使ったのか?」
「うん、そうだけど」
「……もういいや。ほら、端末出せ」
手慣れた手つきでお互いが学生証端末を操作する。
なるほど、ああやってポイントを他人に与えることもできるのか。目の前のケースは特殊のようだが、今後何かの役に立つかもしれない。覚えておこう。
96 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:47:41.92 ID:gvlgOaLx0
乙葉先輩は満面の笑みでコンビニへと消える。
そして数分後、ホットコーヒーとコーヒー味のアイスを買ってきた。わたしは理解が追いつかず、ホットコーヒーを受け取るのを躊躇う。
「どうしたんだよ天音。あぁこれか? アイスコーヒーつっても、俺はこのコーヒー味のアイスが好きなんだよ。あいつが間違ってるわけでも、嫌がらせをしようとしたわけでもねぇ。むしろ飲み物の方を買ってきたら叱っていたところだ」
その言葉を聞いて、安心する。
仲の良い二人だからこそ成り立つお遣いのようだ。
わたしはホットコーヒーを受け取って会長と乙葉先輩の両方にお礼を言う。乙葉先輩が「いいのいいの、コイツ、結構貯め込んでるから」と言うと、お菓子とジュースが入った袋を持ってわたし達から距離を取る。
アイスの袋を開けて早速齧り付いた会長はわたしと目を合わせることなく話し始める。
「平塚邦彦。知ってるよな?」
ドクン、とわたしの心臓が大きく跳ねるのが分かった。決して表情には出ていないと思うが、そんなことよりもどうして会長の口からその名前が出たのかが気になる。
「中三の頃、あいつが俺の中学に転校してきた。たまたま部活動で知り合って、二ヶ月程度だったがよく話をしてくれた。好きなこと、嫌いなこと、家族のこと、それから幼馴染の春宮天音という少女のことを」
「……」
97 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:48:12.12 ID:gvlgOaLx0
わたしは俯いて話を聞く。
「神童って呼ばれていたみたいだな」
「……そんなんじゃ、ありません」
「小学生とはいえテストでは常に満点、誰よりも早くチャリンコに乗れて、逆上がりも、縄跳びも出来たそうじゃねぇか。文武両道、完全無欠の優等生って聞いたぜ」
俯いたところで会長の話が途切れることはない。
わたしの過去を穿り出すように淡々と告げる。
「ただ頭が良い奴だけならいくらでも居る。ただ身体を動かす事が得意なやつならいくらでもいる。ただお前は、随分と頭がキレるらしいな。大人が考えた謎解きを数秒で解いて学校の行事を潰したとか────」
「……」
「いや、悪りぃ。悪気はないんだ。俺は面白いと思ったぜ。難しい問題を考えられない大人が悪いってな。まぁ難しくしすぎても他の子供が解けないわけだが」
そんなこともあった。
いつしか記憶から抹消しようとしていた記憶。
「まぁ何はともあれ、お前はスゴイ奴らしいな。そんなお前がこの学校に入学するって聞いて、俺はつい一晩かけて笑っちまった。運命なんてこれっぽっちも信じていなかったが、噂の天才と会うことが出来たんだからな」
「……話はそれだけでしょうか」
「いいや、ここからが本題だ。邦彦から言伝を預かっている」
その言葉にわたしは顔を上げる。
98 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:48:43.51 ID:gvlgOaLx0
喧嘩別れしてしまった彼からの伝言。
それはやはり、わたしを責めることだろうか。
決して逃れることのできない嫌な記憶が蘇る。
「あー、いいか? こんな風に代弁するってのは、なかなか気恥ずかしいが、仕方ねぇ。男の約束だ」
会長は頬を指で掻くようにした後、こう続ける。
「あの時はごめん。僕が間違っていた。天音ちゃんはクラスの赤点ラインを下げるためにわざとミスしてくれていたんだね。僕は実力を出さない君に対して、色々と暴言を吐いてしまった。本当にごめん────ってな。多分、一言一句間違ってねぇ」
「……っ」
胸が張り裂けそう、とはよく言ったものだ。
まさにそれを体感している。
どんな意図があるにしても実力を出さず、まずまずな点数を取り続けるのは一部からしてみれば嫌味と認識されても無理はない。
ただそれだけならまだ良かったかもしれない。
しかしわたしはその後、言い返してしまった。
そもそもこんな簡単なテストで満点を取れない方がおかしい、と。
その言葉の痛さ、重さを理解したときには、すべてが手遅れだった。程なくして邦彦くんは地元を離れた。それから何人もの友人がわたしと接することを辞め、わたしは一人ぼっちになる。
99 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:49:10.52 ID:gvlgOaLx0
その後は、単純だった。
わたしのことを知っている人が少ない場所で、とにかく他人に好かれるよう努力をした。幸い、物事を分析することが得意だったわたしが他人を気遣い、そして好かれるようになるのは簡単なことだった。
いつしか形成された春宮天音という少女の偶像。
明るく朗らかで前向き、頑張り屋で好奇心旺盛、様々なことに興味を示して習得しようとする。周りから頼られる事が好きな少女。
それがわたしが思い描くわたしという人だった。
演じる。演じ続ける。そして。
いつしか昔の自分を思い出せなくなる。
本来のわたしとは、なんだったのか。
そんな喪失感から逃れるため、中学卒業を機に新たな自分形成のため、わたしはその考えを改めることにした。周囲を分析せず、思うように行動する。打算的じゃない、感情的な自分を作り出すために。
ところが高校生活初日にして分析を繰り返し、この学校の仕組みを汲み取ろうとし、何気ない日常の中でクラスメイトの性格を把握しようとしている。
「────」
もう変われない。
わたしが知るわたしは、打算的な思考をする人間であること。何事にも損益をもとに行動する狡いヤツ。
胸の奥で溜め息を吐く。
ともあれ、今は会長の前だ。これ以上なにも喋らず黙っているのは迷惑になる。
「ありがとうございました。邦彦くんの言伝はしっかりと聞きました」
「そうかい。ならいいんだけどよ」
話が終わりそうな気配を感じ取った乙葉先輩が近付いてくる。手に持つジュースは早くも空になりそうだった。
100 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:49:55.33 ID:gvlgOaLx0
「おわった感じ?」
「ま、そんなとこだ。じゃあな天音。何かあったら相談に乗ってやるよ。年下ながら、邦彦には世話になったからな。その恩をお前に返してやる」
頼もしい言葉を残して立ち去る背中へ頭を下げる。深々と、五秒、十秒、三十秒、一分と続く。
ぐちゃぐちゃだった頭の中がなんとなく整理される頃にわたしが顔を上げると、そこには乙葉先輩が居た。
会長は少し遠くでこちらを伺っている。
それにしても近い。もう少しで顔と顔が触れる距離だ。
「あの、乙葉先輩?」
「んー、肌綺麗だね。化粧水なに使ってるの? いや、やっぱり年齢の問題かな。まだ十六歳だもんね。あれ、十五歳と数ヶ月だっけ? まぁいいや」
マイペースに話す乙葉先輩。
「なんであれ、天音ちゃんはまだまだ若いよ。あっくんは君のことを随分と認めているようだけど、わたしからしてみれば君なんてウチの近所に居た子供よりもずっと子供だよ。自分が分かってない。生まれたての赤ちゃんでも君よりは────ん、それは違うか」
意外と核心を突いてくる先輩にわたしは動揺する。
「新しい環境で、新しい友達と本来の自分を探してみる、あるいは形成してみるっていうのも高校生活の醍醐味なんじゃないかな。幸い、この学校は全寮制で一人暮らしだから、自分を見つめる機会は多いと思う。例えば、料理が出来ない自分をどうにかしていくとかね」
「────はい。ありがとうございます、先輩」
「お、いい顔になったね。うんうん、お姉さん的には、そっちの顔の方がずっと好きだなー」
「先輩のおかげで自分を見つけられそうです。大真面目に自分を見失っていたので助かりました」
「何かあればわたしとあっくんを頼ってねっ! わたしは相談係、あっくんはポイント係だから」
101 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 00:50:28.30 ID:gvlgOaLx0
わたしは乙葉先輩と連絡先を交換する。
ついでに、乙葉先輩経由で錦山会長の連絡先も勝手に教えてもらった。
何かあれば、頼れるかもしれない。
「おやすみ、天音ちゃん」
「おやすみなさい、乙葉先輩」
こうしてわたしと錦山会長、乙葉先輩は別れる。
コンビニの前に残ったわたしは、深呼吸をする。
「……よしっ!」
わたしは寮への道を辿る。
その足に迷いはなく、春宮天音という女子生徒のイチから始まる人格形成の第一歩のように真っ直ぐだったと思う。
【長くなりましたがこれで高校生活一日が終了です。
最初から
>>31
で戴いた性格にしたかったのですが、ステータスが高すぎる都合上、分析しすぎる描写が増えてしまいました。
今後、様々な試験や友人と交流して
>>31
で戴いた性格に回帰できるよう人格形成していきたいと考えています。
この後は小刻みに行動をしていきます。
続きは今晩にします。
遅くなりすみませんでした。お疲れ様でした。
所持ポイント:86560ppt
早見有紗:信頼度35(クラスメイト、少し好印象)
一色颯 :信頼度40(クラスメイト、話しやすい)
立花 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
篠崎 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
清水 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
木下 :信頼度38 (クラスメイト、話しやすい)
錦山暁人:信頼度50(生徒会長、かなり信頼できる)
奄美乙葉:信頼度50(先輩、かなり信頼できる)】
102 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 22:29:29.74 ID:Sjq7SYBPO
【再開します。】
103 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 22:29:56.23 ID:Sjq7SYBPO
高度育成高等学校に入学して二日目。
朝のホームルームでは、今日の放課後に体育館で部活動説明会が行われる旨の連絡を受ける。
説明会そのものの参加は任意、さらに入部も任意。
つまり興味本位で立ち寄っても強制的に加入という運びにはならないようだ。
先生曰く、部活動に所属している生徒はおよそ半数。さらにその中から籍を置いているだけで練習に参加しない幽霊部員を除くと、四割程度になるらしい。
「どうする? 行ってみる?」
「まぁ行くだけならいいんじゃない?」
「でもさー、昨日行けなかったカフェ、席埋まっちゃいそうじゃない?」
「だねー。んー、じゃあ参加しない方向で」
一人の女子生徒がカフェ優先宣言をすると、次々に同意の声が上がる。
その一方で教室の隅の方、特に男子生徒が固まっているエリアでは前向きな意見が上がる。高校でもサッカー、せっかくなら弓道をやってみたい、男は黙ってバスケだろ、など。
「えー、それではホームルームを終わります。それでは皆さん、この後から授業になりますので、えー、先生の言うことを聞くようにー、お願いしますー」
やはり覇気の無い伊藤先生がホームルームの終わりを宣言すると同時に、わたしの携帯が震える。
昨日一色くんに招待を受けたグループチャットだった。内容は部活動説明会に参加するかどうか。
少し迷った後、わたしは午前中には決めるとメッセージを入れて、授業に備えて携帯の電源を切る。
【イベント安価です。
奇数:「春宮さん、食堂行かない?」
偶数:「早見さん、よかったら食堂行かない?」
0:「春宮天音はいるか?」
下1のコンマ1桁でお願いします】
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/09(木) 22:36:50.25 ID:WhoOBbsW0
あ
105 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 23:40:40.48 ID:Sjq7SYBPO
【
>>104
5:「春宮さん、食堂行かない?」】
午前中の授業が終わった。
そのすべての授業でタブレットを利用した授業の取り進め方、また先生個人の授業方針についての説明が大半を占めていて、実際の講義は明日からになりそうだった。
一部、そんな説明だけの授業が退屈だと言わんばかりに眠そうにする生徒も見受けられた。
そんなこんなで訪れたお昼休み。
わたしはお弁当を持ってきていない。
今朝コンビニに寄ってくることもできたが、せっかくなら学校の売店か学食を利用してみたいと考えていたため、あえてそうしなかった。
昨日少しだけ話をした前の席の女の子、早見さんを誘おうと思ったが机の上に手作りのお弁当を広げていた。わざわざ学食で一緒に食べようとは言い出しづらく、素早く売店で買って戻ってこようと考えた。
席を立ち、教室の扉へと向かう途中、
「あ、春宮さんも学食いくかんじ? 一緒に行こうよ」
昨日ランチをした清水さんがそう誘ってくれた。
一瞬だけ早見さんとのランチのため断ろうとも考えたが、その誘いを無下にすることは出来なかった。
付け加えると、早見さんの席を覗くともうお弁当箱を片付け始めていた。もともと量が少なかったのか、食べるスピードが早いのか。それは明日以降、一緒にお昼ご飯を食べれば分かることだろう。
「うん、行こっか」
わたしは頷き、清水さんと教室を出る。すると昨日のメンバーが一色くん以外は揃っていた。
「一色くんは他の人とランチだってさ」
「あ、そうなんだ」
どうやら一色くんが所属しているグループは幾つかあるらしく、満遍なくクラスメイトと仲良くなりたいと考えているようだ。
わたしもそうなりたいと考えながら、清水さんたちと肩を並べて食堂への道を歩む。
106 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 23:41:15.68 ID:Sjq7SYBPO
◇◇◇
食堂はおよそ三百人程度が余裕を持って座ることのできる席が用意されていた。
お昼休みが始まって十分ほど。意外にも席は半分以上は空いているようだった。
食堂前の食券機周辺で昼食を吟味する。
「ねぇ、あのスーパーデラックスウルトラ定食ってやつ、すごくない?」
木下さんの視線を追うと、確かにそういった名称のメニューがあった。
写真を見る限り、とんかつ、唐揚げ、牛肉コロッケ、カニクリームコロッケ、ハムカツ、海老とかぼちゃの天ぷら、それに三人前ほどはありそうな炒飯。
とんでもない物が売られていた。
こんなものを注文する人がいるのか? と様子を伺っていると、いわゆるノリで注文する生徒が極稀にいるらしい。現に目の前で何人かが友達同士のノリで購入している姿が確認できた。
「……あれはないなぁ」
わたしが呟くと、他のみんなも同意したように頷く。
107 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/09(木) 23:41:45.29 ID:Sjq7SYBPO
それからは頭を切り替え、自分が何を食べたいのかを探る。日替わりランチの中も数種類あり、なかなか決め手に欠ける。ここはいっそのこと前に並んだ人が注文したものと同じものを注文する手を考える。
スーパーデラックスウルトラ定食を直前で注文されたときは和食の日替わりランチBにしよう。
そう考えながら食券機に並ぶ。
食券機は全部で三台。ほんの数十秒で自分の前の番がやってくる。さて、わたしの本日の昼食は、っと。
「……」
食券機の一番右下のボタン。それは『山菜定食』。
並んでいる人を遠目に眺めていたときから薄々その存在には気付いていたが、何か裏があるんじゃないかと疑ってかかっていた。
山菜定食は無償で食べることのできる定食。
写真が無いため量の想像はつかないが、ひとつだけ確かなことがある。それは注文した人の雰囲気。
どこか悲壮なオーラを漂わせた彼らは、溜め息を吐くようにして山菜定食のボタンを押していた。
昨晩のコンビニで見つけた無償の品々、そして目の前にある無償の定食。これらから考えられることはかなり限定的となる。
ともあれわたしの昼食は決定した。
「え、春宮さん、本当にそれ?」
「うん。なんとなくこれにしようかなって」
「……まさか春宮さんが初日でポイントを使い果たすなんて思ってなかったよ」
「違うからっ。ほんの興味本位だからね?」
わたしが選んだのはスーパーデラックスウルトラ定食────もちろんそれではなく、山菜定食。
それから数分後、わたしは受付で定食を受け取り、席に着く。改めて定食を眺めるが、特に不可思議なところはない。良く炒められた山菜に、決して少なくない白米とお味噌汁、そして少量の漬物。これだけあれば十分だと思わせるほど良く出来ていた。
周りの視線はやや冷たいものだったが、わたしはポイントを消費することなくお昼を終える。
味の感想は、リピートしたいと思えるほどだった。
【イベント安価です。
奇数:部活動説明会
偶数:「春宮、少しいいか」
下1のコンマ1桁でお願いします。】
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/09(木) 23:48:21.12 ID:9OLtblpD0
あ
109 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 07:45:08.98 ID:DUud2CeQ0
【
>>108
2:「春宮、少しいいか」】
午後の授業も授業方針に関する説明で終わった。
やや退屈だと感じながらも、タブレットを用いた授業には興味がある。明日以降の授業を楽しみにしながら迎えた帰りのホームルーム。
先生からはほんの数言だけ、簡潔に締め括られる。
「それではこの後、あそこでアレをするみたいなので、ご興味がある方は行かれてみてはいかがでしょうか。それじゃあ今日は終わります。おつかれさまでしたー。さようならー」
朝のホームルームを聞き逃していれば、今の発言の内容を一切理解することができなかっただろう。
適当な先生だなぁ。そんなことを思いながら帰り支度────ほぼ使用しなかったノートを詰めるだけの作業────をして、席を立ち上がろうとしたとき、
「春宮、少しいいか」
隣の席の男の子からそう話しかけられる。
確か名前は一之宮重孝。
黒髪の短髪に眼鏡、知的な印象の男子生徒だ。
生活態度そのものはかなり真面目で、昨日のポイント配布時や今朝のホームルームでは静観を貫き、今朝わたしが登校すると彼は一人で自習をしていた。
110 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 07:45:34.73 ID:DUud2CeQ0
そんな彼が何か用があるらしく、わたしは頷く。
「うん、大丈夫だよ」
「悪いな。手短に済ます」
眼鏡の位置を直す動きを見せた後、彼は話す。
「人違いだったら申し訳ないんだが、去年の夏に全国模試を受けなかったか?」
「ん、あぁ、うん。受けたよ」
中学校の担任の先生に勧められて受験したのを覚えている。半ば強制的な空気もあり、わたしは受験した。
「……やはりそうか。あの時は見事だった。俺は数学の最後の問題だけ解けなかった」
「相似の問題、だっけ」
「そうだ。ちょうど授業で習っている最中の模試で出題された、というのは言い訳にしかならないか。現に春宮は全教科で満点を取ったんだからな」
「わたしの学校では習い終わった後だったからだよ」
一年間を通して学習する範囲こそ定められているものの、授業の進行度は学校によって、担当する教師によって異なる。中には生徒が真面目に授業を受けず、なかなか進められないというクラスもあるだろう。
111 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 07:46:45.95 ID:DUud2CeQ0
そんな中であの模試の最後に出た問題は、ちょうどわたしのクラスで学習が終わった直後だった。
『もともと知っていた』というのは抜きにしても、単純に習い終わっているかどうかは試験の明暗を大きく分ける。
そして彼の存在を改めて認識する。
一之宮重孝。そうだ。
全国模試で二位が同率数名いた中の一人。
奇しくもあの試験で僅差に名前を連ねていた生徒。
「もしよければ今度一緒に勉強をしないか?」
「わたしと?」
「あぁ。他人の勉強方法を取り入れてみるのも自分のためと判断した。もちろん嫌なら構わないし、そうだな、茶を飲みながらでも良い。費用は俺が出そう」
思いがけない申し出に、わたしは一秒という短い時間の中で決断する。迷うまでもない。
「もちろんいいよ。わたしも一之宮くんの勉強方法を知りたいし。ただ、対等な関係で互いにポイントの損得を考えない上でなら、という条件だけど」
カフェでの勉強などの時、奢ることは無し。
それがわたしの提示する条件だった。
あくまでも対等な関係を持ち、互いに高め合う。その先に生まれるのは信頼関係そのものだろう。
「なるほど、了解した。それで構わない」
ふっと笑みを見せると、彼は右手を差し出す。
わたしはその手を取り、協力関係を結んだ。
【イベント安価です。
1.部活動説明会へ
2.早見有紗を誘ってケヤキモールへ
3.一之宮重孝とケヤキモール(カフェ)へ
4.寮へ
下1でお願いします。
一晩明けてしまいましたが、一旦ここまでにします。
今晩は21時頃に開始します。】
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/10(金) 11:31:15.40 ID:xe2yVbsy0
2
113 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 21:06:54.86 ID:i4SyU8OG0
【再開します。】
114 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 21:07:21.15 ID:i4SyU8OG0
【
>>112
2.早見有紗を誘ってケヤキモールへ】
思いがけない巡り合わせを果たしたわたしは、一之宮くんの後ろ姿を目で追った後、前方の席の子の様子を伺う。
思いがけない巡り合わせを果たしたわたしたちは、今日のところは件の勉強会開催を見送る方針に定めた。その理由は、今すぐやる必要がないから。単純に入学早々、お互い身の回りを整えるため忙しいだろうと判断した。
教室を出て行く一之宮くんを見送った後、わたしは前の席に座って帰りの支度をする早見さんに話しかける。
「早見さんは部活動説明会に行くの?」
背後から声をかけても驚かせるだけだと思い、前の方へ回り込んだが結果は変わらなかった。ビクッと肩を震わせてわたしの方を恐る恐る見る。
昨日ほんの少し話しただけの関係。
115 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 21:07:53.50 ID:i4SyU8OG0
undefined
116 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 21:08:42.83 ID:i4SyU8OG0
【おそらく文字数超過です。】
とはいえ同じクラスで席も近く、一応同じ性別だ。そこまで警戒されていないと踏んでいたが、この様子では極度の人見知りらしい。自分以外の三十九人の前で自己紹介するのはともかく、こうやって喋ることにも抵抗感を示されると悪いことをした気持ちになる。
「ぁ……えっと、わたしは、行かない、です」
俯き気味に、かなり小さい声で話す。
「そうなんだ。わたしも行かないつもりでね、もしよかったらなんだけど────」
ここでようやく早見さんの目とわたしの目が交錯する。彼女は怯えているようだった。何に怯えているのかは分からないが、環境が大きく変わったのもその一因だろう。親元を離れての一人寮暮らし。そこまで大袈裟ではないものの、物寂しさを感じることはある。
だからこそ、ここで「なんでもない。またね」と言ってしまえば、しばらく彼女は救われない。可能であれば「一緒に帰ろう」とか「寄り道して行こう」と言ってくれると嬉しいが、今の段階でそれを求めるのは酷だろう。
「もしよかったらさ、ケヤキモールに一緒に行かない? 昨日買い忘れた物があって……あぁ、もちろん、早見さんの買い物にも付き合うから」
「……わたしと、ですか?」
「うん。ダメ、かな?」
「いえ……はい、わたしは特に買う物もないので、春宮さんのお買い物に付き添います」
多少の難色を見せるかと思ったが、思いのほか真っ直ぐに良い方向へ話が進んだ。これが大人数での買い物となればまた話は変わってくるかもしれないが、今日のところは二人で出掛けることで様子を見よう。
117 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/10(金) 21:09:12.80 ID:i4SyU8OG0
「うん、ありがとう。じゃあ早速、これからでも大丈夫かな? 一回、寮に戻った方がいい?」
「できればこのまま、でもよろしいですか?」
「もちろんだよ。そっちの方が楽だからね」
わたしは軽い鞄を持ち、早見さんと歩き出す。
早くも周囲ではグループが出来始めている。
高校生活最初の一週間が卒業までの三年間を左右すると言っても過言ではない。出来るだけ正攻法で彼女の心の壁を取り除く、あるいは心に刺さった針を抜かなければ手遅れになることは容易に想像がつく。
それにしても、本当にすんなりと快諾してくれた。
極度の人見知りというのは、わたしの思い込みだったのだろうか。それとも、他人すべてに怯えているわけではないのか。
それは、そう遠くない未来に分かることだろう。
【イベント安価です。
1.映画館
2.カフェ
3.ファミレス
また、コンマ一桁でも判定を行います。
4・8・0:追加イベント
下1でお願いします。】
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/10(金) 21:32:30.58 ID:bsz9PU1M0
2
119 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:10:44.01 ID:OCYa+xYb0
【
>>118
2.カフェ
コンマ1桁が8のためイベント発生です。】
買い忘れたものと言っても、学校で使用する文房具を少々。ポイントとしては七百ポイント、時間にして十五分程度で済んだ。
本屋と一体化された文房具屋を出て、人通りの少ないところで改めてお礼を言う。
「今日はありがとう。助かったよ」
「わたしは特に、何もしていませんから……」
文房具屋では常に絶妙な距離を保っていて、傍から見ればそれぞれが別の目的を持っての来店そのものだっただろう。わたしと早見さんの間には絶対的な見えない壁が存在する。それがやや厚いと言ったところか。
「もし良かったらお礼をさせて貰えないかな。何もしていくても、わたしとしてはすごく助かった訳だし、これくらいはさせて貰えると嬉しいな。あんまり高いものはアレだけど、お茶くらいなら是非」
二度目の接触としてはまずまず話せた方だと思うが、このまま手放してしまうのは少し勿体ない。
120 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:11:12.87 ID:OCYa+xYb0
もし明日、早見さんとの時間を作れなかったら当初のスケジュールが崩れる。ここは彼女と二人きりの時間を作るべきだろうと判断した。
「そんな、お礼なんて…」
わたしと目が合うと、すぐに逸らされる。
とはいえ言葉で強く否定されたわけでもない。ここはもう少しだけ引っ張れば引き込めそうだった。
「いいからいいから。ね、どこのカフェにする?」
やや強引に手を取り、歩き始める。
一回フロアには幾つかのカフェが入っており、座席数も巨大ショッピングモールのフードコート以上にある。座って話せそうなのは大前提だとして、早見さんの好みを知るきっかけにもなる。
「……じゃ、じゃあ、あそこでも、いいですか?」
少し引き攣った表情で一つのお店を指さす。
ラインナップとしては他のカフェとも大差ないものの、独自にフルーツスムージーを売りにしているようで数人の列ができていた。
121 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:11:51.97 ID:OCYa+xYb0
二人でその列に並び、学生証端末でメニューを確認する。今回は店頭注文の運びになるが、先に席を取って学生証端末で注文後に受け取りだけを行う手段もよく利用されているようだ。
「わたしは決めたけど、早見さんは?」
「ぁ……えと、これを…」
わたしに見せてきた端末の画面には苺のスムージーが表示されていた。苺を選んだ理由の一つとして他の果物よりも十ポイントから九十ポイントほど安かったからという理由はおそらく含まれているだろう。
その後七分程度でスムージーを受け取り、ちょうど窓際の四人席が空いたためそこに向き合う形で座る。他にもかなり四人席は空いているため、非常識とはならないと判断する。
「ありがとうございます…」
席に着くなり、彼女は頭を下げる。
わたしは「これはお礼だから、遠慮しないで」と言って、さっそく『桃のスムージー』にありつく。
口に含んだ瞬間からみずみずしい桃の果肉を味わうことができ、程良い甘さが頭をクリアにさせる。
122 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:12:17.74 ID:OCYa+xYb0
わたしが飲んだのを確認した後、早見さんも一口。
かなり美味しかったのか、表情に出ている。
「本格的な授業は明日からだね」
「そう、ですね…。今日は説明だけでしたから、実際には明日からになるんだと思います」
「タブレットを使った授業なんて、わたしの通っていた中学校では露ほども話に上がらなかったからさ。新鮮な気持ちだよ」
「……そうですか」
一転、やや暗い空気を漂わせる。
わたしの言葉に反応してのものか。だとすれば『中学校』というワードが高確率で引っかかる。
彼女が機械に疎ければ『タブレット』そのものに対して嫌悪感を抱いている可能性もあるが、携帯と学生証端末の操作に困っているようには見えなかったため、それは除外しても良いだろう。
今は距離を縮めることが大事だ。
別の話題で話し込むことにしよう。
「そういえば早見さんはさ────」
話を切り替えようとしたとき、向こうの方からやってくる生徒に視線を取られる。
身長は百七十五センチ程度、銀色の髪色が特徴的で制服を着崩した男子生徒。公共の場を我が物顔で歩くその姿は、傲慢な態度そのものだ。事実、彼の周辺からは人が避けるように消えていく。
123 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:12:44.68 ID:OCYa+xYb0
そんな彼が向かってくるのは、こちら側。
とてつもなく嫌な予感がした直後のことだった。
「お前が春宮か?」
「……何かご用でしょうか?」
突如として割り込んできた柄の悪い男子生徒に、早見さんは視線を逸らすため俯く。
まずい、本当に悪いことをした。
彼女との距離を縮める目的はさておき、誰だってこんな状況に巻き込まれれば嫌な思いはするだろう。
後で精いっぱい無関係である弁解をするのは当然として、明日以降の予定の見直しが必要になりそうだ。
「なに、大した用じゃねぇよ」
彼はわたしを押すように、わたし側のシート席へ入り込んできた。必然と窓側へと移動となり、彼が座ることで退路が絶たれる。
何の話をするか想像もつかないが、わたしに用があるなら、これ以上早見さんを同席させても良いことは無いだろう。
「彼女は関係ないですよね?」
「あぁ。好きにしろ」
ここで彼を無視して帰るよう促すことが悪い方向に進まないとも限らない。何がなんでも早見さんに害が及ぶことは避けたかった。
「ごめん、絶対に埋め合わせするから」
わたしがそう言うと、早見さんは心配そうな顔をしながらもコクリと頷き、スムージーが入ったカップだけを持って席を立つ。
124 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:13:12.37 ID:OCYa+xYb0
それからすぐに彼は話を切り出す。
「俺のクラスへ来い、春宮」
「────?」
言っている意味が理解できず、わたしは返答に困る。
休み時間の度にクラスへ遊びに行く、という意味ではもちろんないだろう。
「なんだ、知らないのか? ポイントを使えばクラスの移動が出来るそうだぜ。その額は、二千万。それだけ払えばAクラスにもDクラスにも移動ができるらしい」
「二千万って、本気で言ってるんですか?」
色々とツッコミどころはあったが、特にポイントの部分には興味を惹かれる。二千万ポイントを貯めることはまず不可能。
そして貯めた先のクラス替えという制度は、何を示すのか。
なんであれこの男子生徒は、わたしよりもずっと学校のポイント制について足を踏み入れているようだ。
「あぁ、本気だとも。一人当たりに毎月振り込まれるポイントは────と、念のため確認だが、気付いているよな? この仕組みくらいは」
わたしは頷くことも首を振ることもしなかった。
コンビニに用意された無料の品、学食の無料定食。
この二つが用意されている時点で、昨日立てた『仮定』はほぼ確証へと切り替わっていた。
125 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:13:39.02 ID:OCYa+xYb0
まず間違いなく毎月一日に全生徒へ『十万ポイント』が支給されていれば、それらを利用する生徒はほぼ皆無と言ってもいいだろう。しかし今の話を聞いて、もし二千万ポイントを貯めるための節約の一環として無料配布のモノが用意されているとすれば────いや、あるいはその両方のためか。
どちらにせよ興味深い話のため続きを聞くことに。
「続けてください」
「ふ。まぁいい。一人あたり、およそ十万ポイント支給だとしよう。一クラス四十人で四百万。二千万を目指せば最低でも半年は必要なわけだが、それは現実的じゃない。なら二クラスで協力した場合はどうだ。半年で各クラスが二千四百万。それから一千万ずつを出し合う。そうすれば二千万だ」
その理論でいけば僅か三ヶ月で二千万に届く。
あえて半年と言ったのは、裏があるのだろう。
ここでわたしは根本的な問題を提示する。
「そのクラス替えが本当に出来るのか知りませんけど、自分以外の生徒が他のクラスへ移るためにポイントを譲渡するとは思えません」
「譲渡する、じゃねぇ。搾取するんだよ。弱みを握って脅すでも、徹底的な管理体制でも方法は任せる。毎月一定以上のポイントを自分に振り込ませろ。そうすれば一千万なんてすぐだ」
頭が痛くなってくる。
126 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:14:08.03 ID:OCYa+xYb0
そんなことできるはずがない。
「だいたい、わたしが協力するとでも?」
「するさ。お前は俺に協力する。そして一千万を貯めるために尽力する。晴れて半年後には、俺と同じクラスになれるってわけだ」
「話になりませんね。わたしに協力する意思はありません。わたしを揺すりたいなら、それ相応の対価があるべきでは? 例えば、四千万ポイントとか」
一クラス一千万ずつ貯めてわたしが彼のクラスへ移動、そして四千万ポイントを受け取れるのなら一考の余地はある。もちろんすんなりとはいかないだろうが、それだけのポイントがあればわたしは元のクラスへ戻れるからだ。
だが実際、四千万ポイントを貯めるなんてほぼ不可能な話。こんなふざけた提案に対して、雲を掴むような話を持ち出せば彼も引っ込むと考えた。
しかし彼は口元を釣り上げ、笑みを浮かべる。
「逆に聞くが、四千万でいいのか? お前には最初の一千万を含めて五千万を払っても価値があると思っている。いや、七千万か八千万か。それくらい払ってもいいだろう」
「じゃあ一億です。それ以外は自分を売れません」
「なるほどな。こうしよう。こうなるとお互いが譲らず青天井だ。一ヶ月後、改めて聞きにくる。そのときにお前が提示した額を払うことにしよう。もちろん三ヶ月やそこらじゃ不可能な話だが、きっとお前にとって悪い話じゃない」
一ヶ月後、またこの人と話すと考えると憂鬱だが、ここは大人しく従っておくべきだろう。
わたしが頷くのを確認すると、彼は身を引く。
塞がれていた席が通れるようになり、わたしは鞄と緩くなったスムージーのカップを手に取り立ち上がる。
「最後に一つ聞かせてください。どうしてわたしに声をかけたんですか?」
「価値があるって言っただろ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」
そう言って彼は立ち去る。
周りの視線を痛いほど浴びながら、わたしは早見さんの鞄を持って後を追う。
127 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:14:37.92 ID:OCYa+xYb0
◇◇◇
寮のフロントで早見さんの部屋番号を尋ねると、割とすぐに教えてくれた。クラスメイトであることを最初に伝えたのが大きかったんだと思う。
この寮ではインターホンが二種類ある。
一つ目は、玄関である一階のインターホン。
二つ目は、部屋前のインターホン。
例えば他学年の生徒が訪れるときなどは、まず玄関のインターホンを鳴らした後、玄関に入るためのロックを解除して貰う必要がある。その後、エレベーターを使って目的の部屋の前でインターホンを再度鳴らすといった二段構えだ。
部屋番号を聞いた以上、直接部屋の前まで行ってインターホンを鳴らすことはできた。しかしそれでは驚かせてしまうだろうと考え、わたしは玄関から彼女の部屋を呼び出す。
間もなくして応答があった。
『────春宮、さん?』
「うん、さっきはごめんね」
呼び出し機に併設されたカメラからわたしのことを視認した早見さんは、安堵したような声を漏らす。
『いえ、あの、待ってていただけますか? すぐに降ります』
わたしは頷く。
それから三分ほどで、まだ制服姿の早見さんはエレベーターを使って降りてくる。
128 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:15:08.69 ID:OCYa+xYb0
ロビーで待っていたわたしと合流すると、手に持っていた鞄に目をやる。
「あ、すみません…。鞄を持たせてしまって…」
「ううん、いいのいいの。こっちこそごめんね。ちょっと絡まれちゃって」
「大丈夫……でしたか?」
「一方的に話をされただけだから大丈夫だよ。本当にくだらない話を長々とね」
心配させないため、わたしは大して取り合わなかったと言っておく。
実際のところ、あの人には興味ないものの、クラス替えという制度やクラスメイトのポイント管理という話には興味があった。
わたしはもちろんそんなことはしない。ただ、一年Dクラスの中からそういうことをしようとする生徒が出てきても不思議じゃない。そしてそれを実行に移すとなれば、かなり早い段階で行動に移すのが定石だろう。
そう、例えば明日にでも『今後のことを考えて僕が、私がみんなのポイントの一部を管理する』などと言い出す人が現れてもおかしくない。
「あの、ごめんなさい。先生を呼ぶべきでしたよね」
「ううん、あの場所には監視カメラもあったし、あの人もそういったことはしなかったと思う。先生を読んだところで話をしているだけっていうのがオチだよ」
この学校の敷地には至るところに監視カメラが設置されている。ケヤキモールは大型ショッピングモールそのもののため、監視カメラがあるのは普通だと言える。
しかし学校はどうか。
教室や廊下など、至るところに設置されている。
129 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 11:15:48.60 ID:OCYa+xYb0
もし校内で暴力沙汰を起こせば監視カメラの映像を頼りに停学、あるいは退学も免れない。
そういったことを抑止するための監視カメラだと考えれば理解できるが、一つ不可解なことはそのカメラが絶妙に隠されていること。じっくりと視認しなければ気が付かないほど微小なカメラが幾つかあった。
気になる点は無尽蔵だが、それは追々考えるとして今は早見さんのことに集中しよう。
「ほんっとうに今日はごめん。もしよかったら明日とか明後日とか、時間を作って貰うことは出来ないかな」
「……わたしでいいんですか?」
「もちろんだよ。早見さんさえ良ければ、だけどね」
逸らされていた視線が元に戻ると、早見さんは頷いた。
「明日はちょっと……。でも明後日なら、はい」
「わかった。じゃあ明後日ね」
明後日、改めてケヤキモールに出掛ける約束をして、わたしと早見さんは一緒のエレベーターで戻る。
早見さんが十階、わたしが十一階だ。
途中の階で止まることなく十階に着き、早見さんと別れる。その後すぐでわたしもエレベーターを降りて、自室へと向かった。
【イベント安価です。
3・6・8・0:錦山会長・乙葉先輩
それ以外:翌日
下1のコンマ1桁でお願いします。】
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/11(土) 11:33:51.87 ID:J/7I1YX+0
あ
131 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 21:00:11.11 ID:h1bofGth0
【
>>130
7:翌日】
高校生活三日目。
今日の午前中は数学、国語、化学、英語、そして昼食を挟んで体育、社会と続く。この二日間がほぼ講義らしいものがなかったからこそ、クラス内からは多少の不満が飛び交う。
わたしはつい朝の五時に起きてしまうほど楽しみだった。特に体育は、初回の授業にして早速水泳らしい。室内の温水プールを使用した授業は日本を探しても数少ないだろう。昼食後というのが少し難点だが、それは我慢をすれば済む話だろう。
今朝のホームルームでは特別連絡事項がある訳でもなく、ほんの二十秒程度で終わる。
その後は授業の準備────は不要だった。
教科ごとのノートを一冊用意して、その他教科書はタブレット端末にすべてインストールされている。そのため机の上は文房具とノート、そしてタブレット端末の三点だ。なお、タブレット端末にインストールされたメモ帳やノート機能を利用すれば紙のノートを用意する必要もない。その機能を利用しようとする生徒はちらほらと見受けられた。
程なくして担当の先生がやってくる。
ホームルーム後に席を立っていた生徒も席に着き、一時間目開始のチャイムを各々が待つ。中にはギリギリまで携帯を弄る者、予習をする者。
132 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 21:00:43.37 ID:h1bofGth0
わたしは数学1で習うことを思い出していた。
たしか最初は単項式と多項式。随分と前に学習した内容だが、おそらく問題はないだろう。
「……」
ふと、天井を仰ぐ。
教室上部に取り付けられたプロジェクター。
電子黒板の方へ向けられており、基本的にはこのプロジェクターを映し出すことで授業を進めていく。
わたしが気になるのはプロジェクターの下に空いた小さな穴にハマるレンズ。やはり廊下同様、この教室も監視されていると見て間違いない。その真意は今の段階では分かりかねるが、居眠りや携帯を弄るなんてことをすればすぐにバレるだろう。
なんだか嫌な予感を胸の奥に感じながら、わたしは後ろの席からクラス全体のことを監視する決意をする。
優等生を演じるつもりはないが、それでも『手遅れ』にるようなことは避けたい。みんなのためにも。
【イベント安価です。
奇数:乙葉
偶数:午後の授業へ(プール)
下のコンマ1桁でお願いします。】
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/11(土) 21:24:42.50 ID:hxzW8YBg0
あ
134 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 22:26:52.58 ID:h1bofGth0
【
>>133
0:午後の授業へ(プール)】
午後一の授業は体育。プールだった。
昼休み後半に移動を開始して、更衣室で学校指定の水着に着替える。
男子はほぼ全員が参加、女子はおよそ半分が見学という選択をした。先生はそれについて全く触れず、ただただ名簿に見学のチェックを付けるだけだった。特に水泳では顕著に現れそうな教員としての配慮か、あるいは放任主義か。
授業開始のチャイムが鳴る少し前のプールサイドへ到着すると、そこには五十メートルプールがあった。
「わ〜! すごいね〜!」
一年Dクラスが発足されてから早三日目。人を率いていく人物として頭角を表し始めた生徒が何人か居る。
その内の一人、宮野真依が感心したように言う。
彼女は幼い頃から水泳を習っていると、先ほど聞こえてきた。それは女性ながらにしても筋肉の付き方を見れば、なんとなく真実であることは分かる。
やけに男子の視線を感じながらも、先生の号令に従い改めて出欠を取る。
「────と、まぁ見学者が多いようだが、構わないだろう。さて早速だが、準備体操をしたら泳いでもらう。泳げない生徒もだ」
「えー!」と至るところから声があがる。
「安心しろ。俺が担当になったからには、絶対に泳げるようになる。この道二十年、俺が担当したクラスの生徒で誰一人泳げないまま卒業していった生徒はいない」
とてつもなく頼もしい発言だった。
135 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 22:27:29.41 ID:h1bofGth0
この先生の指導方針が未知数である以上、単純に教え方が上手であることを期待しよう。
わたしは周りに合わせて準備体操に移る。
そして先生の指示のもと、全員が軽く泳ぐように指示が下る。泳げない生徒は足をついても良いらしい。
レーンごとに分けられたプールの中、右の二レーンが泳げない人用、それから左側のレーンに行くに連れて得意な生徒が入水していく。
わたしは左から三番目にした。なんとなく見ている限り、ゆったりと泳げそうだったからだ。そして経験者である宮野真依の一つ右側のレーンでもある。
「春宮さん、だっけ。ごめんね、まだ覚えられてなくて」
「ううん、いいの。宮野さん、だよね」
「そうそう。春宮さんは水泳やってたの?」
「授業で習ったくらいかな。それでも一年ぶりとかだから、手とか上がるか心配だよ」
自由形ことクロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライと様々な泳ぎ方がある中、やはり自由と名のつくだけあってクロールが授業の中では一般的だろう。運動に自信の無い人は平泳ぎを選択する傾向があり、また背泳ぎとバタフライはほとんど授業の中で扱われることがない。
136 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 22:28:49.00 ID:h1bofGth0
前の人が泳ぎ始めたのを確認し、わたしも入水する。
水の冷たさはあまり感じない。さすが国立の高校。温水プールの準備にも怠りがなかった。
それから軽く五十メートルを泳ぎきる。前の生徒に追いつかないよう、そして後ろを追う生徒にも追いつかれぬよう、自然なペースで。
泳ぎきると、宮野さんが待っていた。
「春宮さん、センスあるんじゃない? すごくフォームが綺麗だったし、まだまだ余裕あるかんじでしょ? 本気で競泳とかやったら絶対伸びるって」
「えー、そうかなー?」
そんなやりとりをしていると、改めて先生からの号令がかかる。
「それでは早速だが、競走を行う。男女別の五十メートルだ」
右側のレーンに居た生徒からは悲鳴に似た声が、左側に居た生徒からは歓喜の声が屋内プールに響く。
「普通にやっても面白くないだろう。一位になった生徒には俺からの特別ボーナスとして、五千ポイントをやろう。男女それぞれ、一位になった生徒だけだ」
その太っ腹な発言に、左側の生徒はさらにやる気を見せる。
137 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 22:29:20.73 ID:h1bofGth0
五千ポイント。今の所持ポイントとしては、喉から手が出るほど欲しいというほどでもない。
ただ、やるには本気でやるべきか?
「先に女子からだ。十一人だから、六人と五人に分けよう。そして一位だった生徒にボーナスだ」
八レーンと限られた中、六人と五人で分けて競走を行うのは自然な流れだった。
泳げない生徒は足をついてでもゴールを目指すことを指示した後、先生はグループ分けの名前を呼んでいく。
わたしと宮野さんは後半のグリープだった。
「五千ポイントかぁ。まぁ貰えるものは貰いたいけどねー」
宮野さんの視線は、前半グループの一人、秋山春香に向けられる。彼女も水泳の経験があるらしく、先ほどの準備運動では一番左のレーンで泳いでいた。
他の女子生徒の動きも確認していたが、おそらく先ほどまでの状況を踏まえると宮野さんか秋山さん、そしてわたしが優勝候補とされている可能性が高い。
プールサイドに移動したわたしたちは前半グループの競走を見守る。
「いちについて、よーい、」
直後、ピーと鳴る電子ホイッスル音。
138 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/11(土) 22:29:52.55 ID:h1bofGth0
やはり秋山さんが群を抜いて速い。
初速から他を大きく引き離す。
それからわずか二十六秒後にゴールした。
「おー、速いな秋山。水泳部か?」
「まぁ、はい。中学生の時は」
「高校の部活は? 水泳部はどうだ? 大会で表彰台を狙えるぞ」
「今は弓道のブームなので。また考えておきます」
ブームで部活を決めるのか、と先生は首を傾げたようだったが、すぐに切り替えて後半に移る。
どうしても経験の差というものは生まれてしまうものだが、それでも極力抑えるため飛び込みは無しとしている。入水した状態でのスタートだ。
「それじゃあ行くぞ。準備はいいか?」
この瞬間まで、わたしは考える。
今後のことも考慮して、やるか、やらないか。
【安価です。
身体能力99のため、確定で一位を取ることができます。コンマ判定をする必要もないため、今後を踏まえて選択式にしたいと思います。
1.大差をつけて一位
2.ギリギリを見極めて一位
2.2位を取る
どれもそこまで大差があるわけではありませんが、大差をつけて一位になると信望が高くなります。
また、他クラスから要注意人物として見られることになります。
下1でお願いします。】
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/12(日) 00:54:13.85 ID:lKGroAFvo
2
140 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 02:14:08.26 ID:/n5N8f0V0
【
>>139
2.ギリギリを見極めて1位】
わたしは一度深呼吸をする間に、決意する。
一位を取る。ほぼ全力を出して。
先ほどの秋山さんが二十六秒と二三。宮野さんもそれくらいだと仮定して、二十五秒前半辺りが確実か。
自分の本気は自分でも理解が及ばず未知数であるが、『それくらいなら』優にタイムを出せそうだ。
「それじゃあ行くぞ。いちについて、よーい」
電子ホイッスルの音が鳴った直後から、わたしは頭の中でタイムを計測しながら泳ぎに没頭する。
三十五メートルを超えたところで隣のレーンを視認すると、ほぼ同じくらいだった。わずかにわたしがリードしているか。でも、このままだと二十五秒前半は厳しいかもしれない。
悪いけど、先に行かせて貰うね。
水を掻き分け、ゴールへと一直線に泳ぐ。
あぁ、気持ちが良い。これからもっと─────。
そんなことを思い始めるとほぼ同時に、わたしは五十メートルを泳ぎきる。
141 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 02:14:34.63 ID:/n5N8f0V0
顔を水面から上げるとプールサイドから歓声が聞こえてくる。その直後、隣の宮野さんもゴールする。
「ふぅっ……はぁ。はぁ〜、速いねー、春宮さん」
「実はちょっとだけ運動得意なんだ」
「ちょっとって、そんなもんじゃなくない? 全然疲れてそうなかんじもないし」
「そんなことないよ。久しぶりに泳いだからね」
「久しぶり、ねぇ。なんかショックかも」
そうは言いつつ笑みを浮かべてみせる。
わたしは先に上がり、宮野さんに手を差し出す。
「ありがと」
宮野さんをプールサイドに上げると、それから数秒して女子の後半グループ全員がゴールに到着する。
先生は前に出て結果を発表する。
「一位は春宮、二十五秒一四。二位は秋山、二十六秒と二三。三位は宮野、二十六秒四五。ということで一位は春宮だ。いずれも水泳部に欲しいくらいだ。もしよければ見学からでも来てくれると助かる」
結果発表が終わると、わたしは宮野さんと女子が固まるプールサイド脇へと移動する。
142 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 02:15:00.33 ID:/n5N8f0V0
もともと水泳をやっていたのか、大会に出たことはあるのか、陸上競技などは得意なのか、様々なことを質問攻めされても、嫌な気分はしなかった。
と、競争が終わった女子グループが一息ついて盛り上がる一方で男子グループの競争が始まる。
男子グループは三グループに分けて予選を行い、上位五人で改めて決勝を行うようだった。
わたしは女子グループの会話に耳を傾け、応対しながらも男子グループの泳ぎを観察する。
優勝候補は四人。
一人目は初日から色々とお世話になっている一色くん。バスケ経験者で、昨日の部活動説明会を経て正式にバスケ部に所属した彼の実力やいかに。やはり脚の筋肉の付き方がそれっぽい。
二人目は松本くん。野球、サッカー、バスケと多数の競技を本格的に経験してきたと噂だ。全体的に筋肉が付いているようで、これもまた期待ができる。
三人目は荒垣くん。この人は少し特殊だ。まず体格が規格外だ。身長は百八十センチを超過していて、それに見合った筋肉が充分すぎるほどに付いている。毎日過酷なトレーニングをしているんだろうと見て取れる。スポーツ経験などの情報は一切ない。
そして四人目は望月くん。背も百七十センチほどと高すぎる方ではなく、ぱっと見の筋肉はあまり付いていないように見える。しかし実のところ、必要最低限な筋肉が異常と言えるほどに付いている。間違いなく今回の競走ではダークホースとなりえる。そのことに気が付いているのは、この場にそれほど居ないと思うけど。
なお、この中で一番女子人気が高いのは一色くんで、やはり優勝も期待されている。
だがこの勝負、本気を出せば望月くんの優勝が目に見えている。もし本気を出さなければ荒垣くんの勝利で終わるだろう。
さて結果はいかに─────。
143 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 02:15:39.02 ID:/n5N8f0V0
◇◇◇
「一位は荒垣、二十四秒六九。二位は松本、二十五秒八三。三位は一色、二十六秒五三だ。春宮と荒垣は後でボーナスポイントを配布する」
ほぼ予想通りの結果となった。
望月くんが本気を出さず男子で九位だったことも含めて、想定通りだ。やはり彼は本気を出さなかった。
「残りの時間は自由にしていい。ただし後十分だ。授業が終わるまではまだ二十分あるが、この後の授業に遅れるといけないからな。十分したら上がって各自教室に戻れ」
その指示が出されると、生徒は自由にプールで遊び始める。
そんな姿を横目に、わたしは名指しで指示を受けた通り更衣室へ学生証端末を取りに戻る。
その間、少しの間だけ荒垣くんと二人きりになる。
男子更衣室と女子更衣室は途中まで同じ道だから仕方がない。
144 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 02:16:20.90 ID:/n5N8f0V0
前を歩く荒垣くんの大きな背中を見てしばらく歩き、あとは右に行けば男子更衣室、左に行けば女子更衣室という分岐点前で荒垣くんが歩みを止める。
「本気でやったか?」
「もちろんだよ」
わたしは即答した。
事実、ほぼ本気だったのだからそれは間違いがない。しかし彼はわたしのことを疑っている様子だ。
「俺にはそうは見えなかった。特に残り十五メートル。あそこから段々と加速していくように見えた。なぜ最初から加速させなかった。それが不思議でならない」
「それは、久しぶりだったからだよ。水泳自体が久しぶりで、準備運動もそんなに出来なかった。だから、って言ったら信じてくれる?」
「……なるほど。わかった、今はそれで納得しておくことにしよう」
決してこのやり取りの中で彼は振り向くことなかったが、ここでようやく右を向いた。男子更衣室の方へ向かうようだ。
「それともう一つ聞きたい」
わたしも女子更衣室へ、と思ったところで再度声をかけられる。
「もし百メートルだったらどっちが勝ってた」
「……飛び込みありかなしかで、変わってくるかも」
「ありだ。実際の競泳百メートルをやったら、どっちが勝つ」
五十メートルのタイム差はコンマ五秒に満たない。
わたしは彼の言う通り三十五メートルから本気を出したし、これからというところでゴールしてしまった。もし最初から本気を出して、トップスピードで泳ぐことができたら。
それはおそらく…。
【安価です。
1.「もちろんわたしだよ」
2.「たぶん、わたしが勝つと思う」
3.「荒垣くんじゃないかな。さすがに」
4.「かなり良い勝負はすると思うよ。僅差で勝負は着くと思う。どちらが勝つかは分からない。
下1でお願いします。
今日はここまでにします。お昼頃か、夜頃に再開します。】
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/12(日) 03:18:28.17 ID:yj59OMDxO
2
146 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 21:21:14.39 ID:w7jRohRZO
【再開します。】
147 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 21:21:48.83 ID:w7jRohRZO
【
>>145
2.「たぶん、わたしが勝つと思う」】
自惚れるな。
そういった反応をされることを承知の上、わたしは実直に答えた。
「たぶん、わたしが勝つと思う」
「随分な自信家だな」
背を向け合った状態だが、彼の声色から笑みを浮かべていることは容易に想像がつく。
「だがその真っ直ぐな姿勢は嫌いじゃない。本当に自信があるからこそ、そう答えたんだろう。俺の負けだ。おそらくな」
教室の廊下側一番後ろに座れる荒垣くんは、一見その体格も相まって話しかけることすら躊躇われていた。
しかしこうして話してみると、意外と話しやすい。
わたしのことを『たった一回、そこそこな記録を出しただけの女に過ぎない。自惚れすぎだ』と烙印を押さなかったのも、彼自身に人を見る目が備わっていたからだろう。
その裏付けは、すぐに出来る。
「でも、クラスの中だとわたしが一番じゃないかも」
悪い言い方をすれば、わたしは吹っかける。
彼の見る目は本物か。
競泳で男女一位になったこの二人以外に実力者が潜んでいるという話は、本当に見る目がなければ一蹴するような話だろう。
148 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 21:22:16.34 ID:w7jRohRZO
荒垣くんは少しの間を置いてから話し出す。
「驚いた。そこまで分かっていたのか?」
「荒垣くんも気が付いていたんだね」
「まぁな。望月、だったか。細身だが鍛え込んでいる。奴を警戒していたが、今回の競走では九位だった。何か実力を隠す理由があったんだろう」
「今後わかるんじゃないかな。嫌でも実力を発揮する機会は貰えそうだし。今回のように授業の一環としてスポーツで競走すること、勉強の点数で競争すること。そんな中できっと望月くんの実力が分かると思うよ」
荒垣くんは少し黙り込んだ後、
「そうだな。そうかもしれない。今は様子見といこう。まだ三日目だしな」
そう言って男子更衣室の方へと向かう。
わたしは振り返り、その後ろ姿を目で追う。
運動神経が抜群に良く、望月くんの実力も正確に見抜いた彼はきっと大きな戦力になるだろう。
ここで少し関係性を持てたのは、お互いにとって非常に有意義だったかもしれない。何かあれば、彼に相談することも視野に入れよう。
149 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 21:22:47.71 ID:w7jRohRZO
◇◇◇
先生のもとに学生証端末を持っていくと、わたしは一年Dクラスの競泳で一位になった特別ボーナスとして五千ポイントを頂戴した。
入学早々に十万ポイントを支給されているだけあって、そのありがたみが若干薄れているのは嫌だなと思った。本来、高校生にとって五千円はかなりの大金のはずだからだ。
そしてちょうど受け取ったタイミングをもって、授業終了まで残り十分になった。プールで遊ぶ時間は残されておらず、遊び終わった生徒に混ざって更衣室へ戻る。
更衣室に設置されたシャワーを浴びて塩素を流す。この後の授業もあるため、しっかり流しておかないと色々と問題だろう。
シャワーを浴び終わり、タオルで身体全体の水気を取った後、制服に着替えて髪をドライヤーで乾かす。
隣では宮野さんが同じく髪を乾かしていた。
奇しくも同じくらいの髪の長さのため、ほぼ同時に髪を乾かし終わり、席を立つ。
そして荷物を置いていたロッカーが近かったこともあって話し込む。
「で、実際のところ水泳部だったかんじでしょ?」
「色々な部活をやってたんだ。結構緩い中学校だったからそういうのも容認されててね」
「へぇー。いいね、そういう学校。でさ、水泳部に一緒に入らない? 担当はさっきの先生が顧問で少し胡散臭い部分もあるけど、教える力は確かみたいだからさ」
「うーん、それなんだけどね……」
泳ぐのは楽しいと、改めて感じた。
150 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/12(日) 21:23:29.36 ID:w7jRohRZO
五十メートルを泳ぎ切った直後はもっと泳ぎたいと考えたのは事実だし、おそらく水泳部に入れば二百メートルや四百メートルといった種目もあるのだろう。
かなり揺らいでいる部分はある。
このまま無所属でも評価のペナルティのようなものは無いと認識している。ただ、部活動を通して学校への貢献といったところでは無所属である限り加点されることはないだろう。
ケヤキモールで買い物をするのは楽しい。
けれど、それが三年も続くとなると流石に飽きる。
なら先輩後輩とも関係性を持てるような部活動に所属するべきか、かなり前向きに考える必要がある。
「今週いっぱいは考えてみようかなって」
とりあえず今は保留と返答しておき、放課後にでも色々な部活に顔を出して見学するのが一番だろう。自分が一番興味あって、どうせなら活躍できるような競技に没頭したい。
宮野さんは「そっかそっか、興味あったら水泳部に来てみてよ。わたしは入部するからさ」と言って、一緒に教室に戻ろうと誘ってくれた。
わたしは頷いて、一緒に戻る。
その道中、ヘアオイルを分けて貰った。
シトラスの良い香りがする。これで六時間目の授業も楽しく過ごせそうだ。
【
宮野真依:信頼度45(友人)
「いやー、すごいね、春宮さんっ。ぜひ水泳部に!」
荒垣佳正:信頼度40(相談できそうな相手)
「実力は本物だ。素直な性格は嫌いじゃない」
望月慎也:信頼度XX(警戒すべき相手)
「……」
放課後、自由行動です。
1.人と会う
1.一色颯 (クラスをまとめる男子)
2. 一之宮重孝 (全国模試二位の男子)
3.宮野真依 (水泳で競い合った女子)
4.錦山暁人・乙葉 (上級生で信頼できる男女)
2.校内を散策(特別棟・部活動を見学など)
3.ケヤキモールで買い物
4.寮へそのまま帰る
1の場合は「1-3」などで人の指定までお願いします。下1でお願いします。】
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/12(日) 23:58:25.45 ID:l63TGBWdO
1 4
152 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:01:59.64 ID:t1CcS+Yh0
【
>>151
1.人と会う
4.錦山暁人・乙葉】
プールの後の六時間目、眠そうにする生徒が見受けられる中、わたしは宮野さんに分けて貰ったヘアオイルの香りもあって随分と機嫌良く授業を受けることができた。
そうして迎えた放課後。
早見さんとの約束は明日のため、今日は何も予定がない。必要な日用品も買い揃えてしまったためケヤキモールにも用はない。となれば、誰かを誘うか。
少し考えて、わたしはとある人物へチャットを送る。返信はすぐに返ってきた。
『生徒会室に来てくれればいつでもいいよー』
そう書かれたメッセージを目に、わたしは鞄を持って席を立つ。
たしか生徒会室は一階の職員室あたりだったはず。ひとまず職員室まで行ってしまえば『生徒会室』の札を見つけることは容易だろうと踏む。
153 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:02:36.60 ID:t1CcS+Yh0
教室を出て職員室へ向かう途中、伊藤先生の背中が見える。相変わらず皺の寄ったスーツにボサボサの髪、そしてずっとお辞儀をしているかのような猫背だ。
追い抜くこともできず、一定の距離を保ち続けたままゆっくりと歩いていると、伊藤先生は足を止めて振り向く。
「あぁ、春宮さん、でしたか。刺客かと思いました」
「……先生に刺客なんて居るんですね」
「もう至るところに刺客だらけですよ」
どうやらわたしの見えない敵と戦っているらしい先生は、改めて歩き始める。どうせならと思い、わたしは並んで歩くようにする。
若干、生徒からの視線が痛いが仕方がない。
「体育では大活躍だったそうですね。大島先生が褒めていました。水泳部に誘うよう協力してくれ、とも。部活動はやられないんですか?」
「まぐれです。次やったらあのタイムは出せません。部活動は考えているところです。三年間、ずっと帰宅部というのも退屈かなと思っているので、前向きに検討しています」
「春宮さんなら色々な種目で活躍できると思います。で、そんな春宮さんはどちらに? この先は職員室くらいしかありませんよ」
「あれ、生徒会室ってこっちの方ではありませんでしたか?」
「そうですね、そうでした。生徒会室もこの先にあります。生徒会に興味があるんですか?」
「いえ、先輩と会おうって話をしたら生徒会にくるように言われました」
「先輩…?」
「乙葉先輩っていう、三年生の」
伊藤先生は「あぁ、あの人ですか」と頷く。
その表情は俯いているせいで伺えないが、どこか笑みを浮かべているように見えた。
「彼女は春宮さんに似ているタイプです。きっとたくさんのことを彼女から学べるでしょう」
多くは語らず、ただそれだけを言い残して伊藤先生は職員室へと消えて行く。
乙葉先輩がわたしに似ている、ね。
偶然、興味深い話を聞けた。
その言葉の真意を探る意味も込めて、職員室の先にある生徒会室へ歩みを進める。
154 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:03:04.89 ID:t1CcS+Yh0
◇◇◇
重厚な扉の前、わたしはノックした後に名乗る。
「一年Dクラスの春宮です」
すると中から「どうぞー」と軽い声が聞こえてきた。おそらく乙葉先輩だろう。
「失礼します」
そう言って扉を開くと、まず第一にソファに寝転がって携帯を弄る乙葉先輩が見えた。かなりスカートが危ないが、そんなヘマをするような先輩ではない。計算され尽くしたギリギリの格好をしているのだろう。
そして奥の生徒会長席に座る錦山暁人先輩。その席に相応しい会長らしい威厳を─────出していなかった。どうやら乙葉先輩と、もう一つのソファに座る少し派手目な上級生とアプリゲームで遊んでいるようだ。
「おう、天音。ちょっと座って待っててくれ」
「は、はい」
入って右側のソファは乙葉先輩が寝転んでいる。
必然と、派手目な格好をした上級生の隣にかけることになる。
「こちらよろしいでしょうか?」
「ん、あぁ、構わないよ。乙葉の上でも良かったんだけどね?」
「ひっどーい。まぁ天音ちゃんなら良いかなー」
どうやら隣に座る男性は乙葉先輩と同じ三年生の先輩のようだった。結構酷いことを言っても、冗談として受け流している。
155 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:03:32.71 ID:t1CcS+Yh0
それから一分ほど経つと、三人がほぼ同時に悲鳴に近い唸り声をあげる。どうやら負けたようだった。
「やっぱ四人じゃないとキツイな」
「ユキちゃん入れてもう一回やる?」
と、放課後の生徒会室は随分とゲームで盛り上がっているようだった。
上級生の輪に入れず肩身を狭くしていると、隣の男子生徒が近寄ってくる。ついさっきまで携帯に目をやっていたが、今はわたしの顔をジッと見つめている。
「君、可愛いね。一年だっけ。連絡先交換する?」
「あ、はぁ……」
「ほらー、困ってんじゃん。ごめんね天音ちゃん。コイツのことは基本無視でいいから」
ここでようやく携帯を閉じ、乙葉先輩はソファに座り直す。そしてぐっと身体を伸ばして一息ついてから切り出す。
「で、わたしに何かご用?」
「先日のお礼に、お茶でもどうかなって。もちろん錦山先輩もご一緒に。……迷惑でしたか?」
「ぜんっぜん迷惑じゃないよ! 行こう! 今すぐ行こう! 新作の苺のヤツ飲みに行こう! うっちー以外で! あー、二日ぶりの糖分だ! 山菜定食はどうにも食べた気がしなくてねー」
そう言って立ち上がる乙葉先輩。
156 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:04:09.91 ID:t1CcS+Yh0
そうか、浪費癖のある先輩は月初でも金欠で、必然と毎日無料で食べられる山菜定食を食べているのか。
「先輩もご一緒でも大丈夫ですよ」
「まじ? 天使じゃん、この子」
今日は臨時収入が入ったことだし、うっちーと呼ばれた先輩も込みで奢ることには全然抵抗感がない。
四人でもせいぜい三千ポイントといったところだろう。それでも余るほど大島先生からはボーナスを貰えた。
「あー、そういえば聞いたぜ。競泳で女子一位を取ったんだってな。大島先生だろ? 体育の担当。あの人はお喋りだからなー。明日には全校中に広まってるんじゃねーの?」
錦山先輩は立ち上がりながら、そう言った。
なんだか恥ずかしいな、と思いながらも、目の前の光景に少し疑問を覚える。
錦山先輩、乙葉先輩、うっちーと呼ばれた先輩。
その三人が、同時に生徒会室を出て行こうとする。
「生徒会室に誰も居ないってアリなんですか?」
「……まぁいいんじゃねーの?」
「わたし興味ないし」
「もうすぐユキが来るだろ」
誘った手前、取り止めるのは憚られるが、本当に良いのだろうか。
157 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:04:35.75 ID:t1CcS+Yh0
そんなことを考えている内に、先輩方は生徒会室を出て行く。わたしもそれを追うと、職員室の前で三人が一人の先生に止められていた。
わたしが合流した頃には先生はこめかみに手を当て、溜め息を吐いて道を譲っていた。どうやら生徒会室が不在の機会はそこそこあるようだった。
「大丈夫でしたか?」
「十五分くらいで戻ってくるって言ったら納得してくれたよ。さ、行こう行こう。今日は天音ちゃんの奢りだー」
二日ぶりの糖分を摂取しに行く軽い足取りの乙葉先輩を筆頭に、わたしは先輩方と雑談をしながらケヤキモールへの道を歩む。
ここでうっちー先輩の名前は内山和樹であることが判明した。内山先輩は学年、クラス問わずかなり交友関係が広いらしい。そして運動神経も抜群だとか。そして生徒会では庶務を担当しているらしい。
ちなみに乙葉先輩は副会長をやっているようだ。本人は「名前を置いてるだけで内心が上がるんだもん。これ以上楽なことないよねー」と言っていた。
そんな生徒会の役員の方々と楽しげに談笑するわたしの姿は、他の生徒からはどういう風に見えただろうか。
158 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:05:03.05 ID:t1CcS+Yh0
◇◇◇
ケヤキモールに向かった四人分と、ユキと呼ばれる先輩の分も含めて五人分の飲み物を持って生徒会室へ戻る。
すると長身の女子生徒が生徒会長用の机の上に座って足を組んでいた。手には文房具屋で購入したと思しきカッターナイフ。
率直に言って、怒ってそうだなぁと思った。
「おう、ユキ。とりあえず甘い物飲むか? 今話題の苺のやつだ。それに今日は後輩が居る。あんまり怖いイメージを持たれてもアレだろ? ……なぁ?」
カッターナイフはユキ先輩の手を離れる。
そのまま机の上に落とされただけだった。
「……飲む」
そう小さく答えると、錦山先輩と乙葉先輩は内山先輩の背中を強く押す。内山先輩は猛獣に餌をあげるように恐る恐る近付いて、右手に持った苺の飲み物をゆっくりと手渡す。
「ありがと」
短くお礼を言い、早速一口。
「去年より甘くなった? でも美味しい」
機嫌が良くなったのか、生徒会長の机から降りる。
そしてそのまま生徒会長の椅子に背中を預けた。
159 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:05:36.32 ID:t1CcS+Yh0
どうやら日常的な出来事らしく、わたしを含めて買い出し組はソファに座って一息つく。
「で、その子は? 一年?」
生徒会長席からジッと見る視線を感じる。
身内しか居ないこの場での異分子。それは間違いなくわたしのことだった。
「はい、一年Dクラスの春宮天音といいます。よろしくお願いします」
立ち上がり、一礼をすると「ふーん、そっか」と聞こえてきた。興味なさそうな声色だった。
ゆっくり座るわたしに乙葉先輩が顔を近付けて囁く。
「ユキちゃんはずっとあんなだから。決して嫌ってるとかじゃないからね」
それを聞いて少しホッとする。
その後、わたしの向かいに座る錦山先輩が思い出したように言う。
「ユキ、水泳の50メートル何秒だっけ」
「25秒75だったかな」
「天音は25秒14……だったか?」
「はい。確かそのくらいです」
「は、まじ? 一位ってのは聞いてたけど、ユキより早いとか超逸材じゃん」
驚いたような表情を見せる内山先輩とユキ先輩。
160 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:06:08.83 ID:t1CcS+Yh0
ユキ先輩はそこで初めてわたしに興味を持ったのか、質問をぶつけてくる。
「部活動は?」
「先生から水泳部には誘われました。あと友達からも。ですが、今週いっぱいは色々と見学してみて、それから決めようかな、と」
「じゃあウチ来なよ。生徒会に」
「え……」
生徒会長の席に座り、机に肘をついて話す先輩に、わたしは真面目に受け取るか冗談として受け取るか迷う。
「ちなみに俺は反対しないぜ?」
「わたしもー。こんな可愛い子を他の部活にあげるのは勿体無いからねー。ちょーぜつ優秀だし」
「俺もモチ賛成だ。この子には飲み物の礼もある」
錦山先輩が、乙葉先輩が、そして内山先輩までもわたしの生徒会入りを歓迎してくれるようだった。
これは流石に冗談じゃないのか、と考え始めたとき、内山先輩の言葉にユキ先輩が反応する。
「ん? 飲み物の礼? 暁人と和樹の奢りじゃないの?」
「……やべ。じゃあな、用事思い出した」
そう言って荷物をまとめて生徒会を出て行く内山先輩の後を、ユキ先輩が追う。おそらくすぐに捕まるだろう。
161 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/13(月) 22:06:47.66 ID:t1CcS+Yh0
静かになった生徒会室で、錦山先輩は切り出す。
「悪いな、いつもこんな感じで騒がしいんだ」
「いえ、とても楽しくて良いところだと思います」
「そう言って貰えると助かる。で、さっきの話なんだが、アレは割と本気だ。生徒会と部活動の所属は両立できない。もし部活をやりたいなら、生徒会はナシだ。そこは曲げれない。まぁ暇なときに練習付き合うくらいなら構わないけどな」
錦山先輩の目は本気だった。
生徒会か…。
中学生の頃はあまり興味なかったけれど、こうして直に誘われると断りづらいという思いと同時に、興味も湧いてくる。
「仕事内容としてはそこらの学校と大差ない。ただ、この学校独自のアレに触れる機会があるくらいか。一年はまだアレをやってないから、それについては言えない。だが、きっと楽しいものではあると思う」
職務の一環として、学校独自のアレに携われる。
そう言われてもアレの実態が分からない以上、興味が惹かれるかと聞かれれば微妙なところだ。
「あと一応言っておくと、空いているのは書記と会計の二つ。さらに言うと、Aクラスの神宮くんとCクラスの立石くんは昨日ここに来たよ。生徒会に入りたいって」
「だが、二人には回答を待ってもらっている。俺たちの意思としては、天音を引き入れたいからな。ここだけの話、遅かれ早かれ誘うつもりだった。それに類稀な運動神経は全校に広まった。これでお膳立ては充分だろう?」
生徒会か。
おそらく生徒会の一員になることで、クラスメイトや他クラスの生徒がわたしを見る目が大きく変わることはよ予想される。それが羨望の眼差しか、警戒の眼差しか。どちらにせよ目立つことは避けられないだろう。
【多数決安価です。
1.生徒会に入る
2.生徒会に入らない
3.週末まで保留(土曜日まであと3日)
今後のことが大きく変わってくるため多数家とします。先に2票入ったものを採用します。】
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/14(火) 04:47:48.50 ID:8Zjtkes6O
1
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/14(火) 05:59:15.15 ID:NaaSk+toO
2
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/14(火) 06:59:13.42 ID:U7QiMOza0
1
165 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 22:10:29.07 ID:uJ9TLURy0
【
>>162
>>163
>>164
1.生徒会に入る 2票
2.生徒会に入らない 1票】
決心はついた。
わたしはこの学校で、生徒会として─────。
「ん、決まった?」
決意を口にしようとしたとき、ユキ先輩は戻ってくる。内山先輩は意識を失ったまま引き摺られている。脳震盪でも起こしたのだろうか。
そのままズルズルと引き摺った後、その辺りで手放す。元の位置に収まるように、ユキ先輩は生徒会長席に着く。
やや気圧されてしまったところはあるが、それでもわたしの決意は変わらない。
「先輩方が歓迎してくださるのなら、ぜひわたしを生徒会に入れていただけると嬉しいです」
そう言って頭を下げると、
「っし、決まりだな」
「生徒会に入ったら共通のアプリゲーム入れる決まりだからさー、早くインストールしようよ」
「待て乙葉、先に連絡先を交換だろ?」
「……」
床に寝る内山先輩以外は歓迎の意を見せてくれた。
なんだか恥ずかしくもあるが、胸の奥から嬉しいという気持ちが無尽蔵に湧き上がってくる。
166 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 22:11:06.77 ID:uJ9TLURy0
早速、アプリゲームをインストールしている時間を利用してユキ先輩とも連絡先を交換する。そして『生徒会(仮)』のチャットへと招待される。
「さっき話した『アレ』の関係でな。悪いが、現段階では『生徒会』のチャットには入れられない。今は仮のチャットだが、あと一ヶ月か二ヶ月もすれば天音も入れてやることができる。決して省いている訳じゃないからな?」
「あ、はい。もちろんです。ありがとうございます」
わたしは改めて『生徒会(仮)』のチャット欄を眺める。
クラスのチャット、クラスの一部で作成されたチャットを含めて四つ目のグループチャットとなる。仮の生徒会には、この場に居る人物を除いてあと三名が入っていた。
「生徒会は生徒会長1人、副会長が3人、庶務と書記と会計がそれぞれ2人の合計10人で構成される。多分、他の学校より多い。まぁ後輩を育成って意味で枠を広く設けているらしい。で、空いているのは書記と会計の2つだ」
「書記の先輩枠はユキちゃんで、会計の先輩枠はサキちゃんだねー。名前の語感だけは似てるけど、性格的な意味では正反対かなー」
「どういう意味だ?」
「なんでもなーい」
ユキ先輩─────改め、如月深雪先輩は、ソファでぐだーっと姿勢を崩す乙葉先輩に鋭い視線を向ける。しかし乙葉先輩は個性であるマイペースをもってそれを回避したようだった。
167 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 22:11:59.36 ID:uJ9TLURy0
「まぁ俺はどっちでもいいんだが、天音はユキと組ませた方が面白そうだしな。空いてる書記の枠に入ってくれ」
「はい、わかりました」
「で、あと一つの会計はAクラスの神宮に任せようと考えている。Cクラスの立石には悪いが、断らないとな」
Aクラスの神宮くんが同じく一年生として生徒会に入るようだ。まだ会ったことのない人だけど、同じ生徒会に所属するからには仲良くしていきたい。近々、一目見るくらいでも出来るといいな。
「はやる気持ちは分かるが、生徒会に入ったことは今週いっぱいは黙っててくれ。来週の全校集会で発表する」
「わかりました。内緒にしておきます」
「担任には俺から伝えておく。担任は誰だ?」
「伊藤先生です」
そう言った直後、床に寝る内山先輩以外の視線が交錯する。かなり真剣な表情で、しばらく静寂の時が流れる。
「……あぁ、そうか。伊藤先生な。オーケーだ。あとで伝えておくとしよう。伊藤先生だな」
「あれでしょ? スポーツ系の先生っ」
「いや、文系の先生じゃなかったか?」
「化学の先生だと記憶していたんだが」
正解は日本史の先生と、錦山先輩がやや掠っていたところか。わたしは苦笑いを浮かべながら、今後のことを再確認する。
今週いっぱいは生徒会に籍を置くことは他言してはいけない。それは、宮野さんに水泳部に誘われている身としては辛いものがある。あと数日の間に誘われれば一時的にでも嘘をついて断らなければならないからだ。
ひとまずはその事だけ注意していれば良いらしい。具体的な業務については来週以降に改めて説明の場を設けると話がつき、わたしは寮へ戻ることになった。
まだ明るい寮への帰り道、ひっきりなしに携帯が振動する。どうやら早速『生徒会(仮)』のチャットが動き始めたようだった。
あの場に居なかった先輩方も含めて、わたしを歓迎してくれているようで嬉しかった。
【イベント安価です。
奇数:Aクラスの神宮
偶数:翌日
下1のコンマ1桁でお願いします。】
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/14(火) 22:20:09.85 ID:9UuLd8sG0
あ
169 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 23:26:28.42 ID:uJ9TLURy0
【
>>168
5:Aクラスの神宮】
わたしが生徒会入りを決断した夜。
勧められたゲームが意外にも面白く、『生徒会(仮)』とのチャットを行き来していると、一件の個別チャットが届く。
相手は『神宮紫苑』。
わたしと同じく、生徒会に加入することになった一年Aクラスの男子生徒だ。
ゲームを中断してチャットアプリを起動する。
彼から確かに一件の通知が来ていた。
『急なご連絡ですみません。もしよろしければお話できませんか?』
挨拶もそこそこに、会えないかと送られてきた。
時刻は二十時を回ったところ。高校生にしてみればこの時間帯に会うことも不思議ではない。それに寮の中でとなれば、会える場所はいくらでもある。
わたしはすぐに返信をする。
『わかりました。ひとまず寮のロビーで待ち合わせでもよろしいですか? 時間はお任せします』
『もちろんです。それでは三十分後に』
短くそうやり取りをして、わたしたちは三十分後に落ち合う約束を取り決めた。
エレベーターが毎階止まることを想定しても二十分程度は余裕がある。とはいえ、相手を待たせるのは気が進まないため身嗜みを整え次第、すぐ移動しよう。
170 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 23:27:02.81 ID:uJ9TLURy0
◇◇◇
わたしがロビーに着くと、ソファに腰をかけて携帯を弄る生徒が数名いた。その中で男子生徒に絞り込みをすると0人。
約束の時間まであと十分近くある。彼がもう到着している可能性も僅かながらあったが、さすがに早すぎたようだ。
わたしはエレベーターから近いソファに腰をかけ、人を待つ。その間、何人もの一年生がわたしの隣を通り過ぎて行った。
つい先ほどまでケヤキモールで遊んでいたと見られる制服姿の生徒、コンビニに買い出しに行くのか軽装の生徒。そのどれもがわたしに一度視線を向けてくる。どうやら水泳の授業での顛末は早速知れ渡っているみたいだった。
わたしが到着してから五分ほど経って、明確にわたしに近づいて来る者の気配があった。携帯をしまい、立ち上がって彼の姿を視認する。
一言で表すと、普通の生徒だった。
身長は百六十五センチほどで、高すぎるほどでも低すぎるほどでもない。顔は童顔、色白、そして体格は痩せ身と、服装以外では女の子と見間違えるほどだ。
「初めまして、一年Aクラスの神宮です」
「こちらこそ初めまして、一年Dクラスの春宮です」
寮の一階、ロビーで握手を交わす。
しかしここでは通行人に目立つこともあり、裏口から出た先で話し合うことになった。
171 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 23:27:35.85 ID:uJ9TLURy0
人気の無い落ち着いたベンチに腰をかけ、ゆっくりと話を始める。
「錦山会長から聞いたよ。今日、春宮さんが生徒会に入ることになったって。そして同時に、僕も入ることになったって。Cクラスの立石くんには謝るとも」
「……そのようですね」
遅かれ早かれ、わたしに声をかけるつもりだったとは聞いていたが、どうにも立石くんの枠を奪ってしまった気がしてならない。ただ、そのことを訊いても明確な回答は貰えないだろう。
わたしは首を振り、そのことを忘れようとする。
「春宮さんのことは聞いているよ。去年の全国模試で一位を取ったことも、今日の体育のことも。僕なんかとは違って、才能に恵まれているようで羨ましいよ」
やや皮肉げに言う彼に、何かを言ってあげたかったがそれは叶わない。わたしは彼のことを一切知らず、彼はわたしの成績を知っている。
「わたしなんかより」という話は出来ない。
神宮くんとはどんな生徒なのか、今のところわたしに一切情報がない。錦山先輩が彼を選んだ。ただそれだけの情報しか持ち合わせていない。
「ごめん。わたし、神宮くんのことを何も知らない」
「あはは、そうだよね。まだ学力テストとかもやってないし、僕のクラスは体育もまだだから。強いて言うなら、そうだね。自己評価になってしまうけど、僕は普通だよ。勉強が得意な訳でも、運動が得意な訳でもない。かと言って苦手でもない」
普通であること。
それは、難しいらしい。
人は普通に憧れる、と本で読んだことがある。
172 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 23:28:07.88 ID:uJ9TLURy0
「理解できないよね、春宮さんには。言い方は悪いけど、君は普通じゃない。良い方向に才能が上振れし過ぎている人間の代表例だ。もし君が普通であることを渇望するとき、それはその他大勢の人が望む普通とは真逆なんだろうね」
言っていることの理解はできる。
実際にわたしは普通であることを何度か望んだことがある。それは、テストで良い点数を取りすぎないこと。限りなく普通を示す平均点を取ろうと努力した経験が昨日のように思い起こされる。
その一方、点数の悪い学生は一回は考える。せめて普通くらいの点数を取れたら、と。
わたしは100点を50点に、他の人は10点を50点に。
そういう意味で、真逆の普通なんだろう。
「あぁ、気を悪くしたらごめんね? 決して悪気は無い、つもりなんだ。僕は君が憎いほど羨ましいから」
「……そう、ですか」
ここで「わたしなんて碌な人間じゃないです」と答えるのも何か違う気がする。
今はまだ神宮紫苑という男子生徒のことを理解できていない以上、肯定も否定もするべきでない。
ただただ彼の言葉に耳を傾け続けるべきだ。
「と、ごめん。こんな話をしにきたんじゃなかった。改めて来週から、僕たちは生徒会の一員となる。その挨拶をしようと思ったんだ。まずは同学年の春宮さんにね」
「こちらこそよろしくお願いします。わたしも近々、お会いする機会を探そうと思っていました」
「そう? なら良かった。あと、出来ればタメ口にしてもらえないかな? 一応、同学年なわけだしね」
「ぁ……うん、わかった」
わたしが頷くと、彼は携帯を取り出す。
「先輩たちに勧められたゲーム、やってる?」
「うん、まだ全然だけど─────」
春とはいえ、今夜は冷える。
しかしそれが気にならないほど、わたしと神宮くんは話し込む。主にゲーム、いや、ゲームの話だけで。
彼はゲームが得意なようだった。
わたしが行き詰まっているところもすぐに解決し、その先へ進むことができた。
およそ一時間。二人でゲームをして、解散となる。
173 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 23:28:54.07 ID:uJ9TLURy0
結論として。
神宮紫苑は、今のところ最も警戒すべき一年生としてわたしの中で順位付ける。
彼の目に宿る憎しみ。
それは、一朝一夕で賄えるものではないだろう。
174 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/14(火) 23:29:26.82 ID:uJ9TLURy0
【少し早いですが、今回はここまでにします。
遅筆なこともあってなかなか進まないですが、明日以降はペースアップしていきます。
ほぼダイジェストのような形で早見有紗との放課後、生徒会に入ることが全校生徒に広まる、を行ないます。
その後は中間テストをやります。
中間テストを無事乗り越えた後は特別試験となります。
引き続きお願いします。お疲れ様でした。】
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/15(水) 17:10:25.53 ID:RRLcAk0CO
主人公がとても優秀だあ
176 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/15(水) 22:17:41.78 ID:92epslBg0
【再開します。】
177 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/15(水) 22:18:10.18 ID:92epslBg0
わたしが生徒会に入ることを決めた翌日。
生徒会のお仕事は週明けからということになっているため、今日は元々の予定を遂行できる。
そう、放課後に早見さんとお出掛けすることだ。
この前は白髪の男子生徒に水を差されて打ち切りとなってしまったが、今日は無事にゆっくりとお茶ができるだろう。
午前と午後の授業を乗り越え、各々が部活やケヤキモール、寮へと向かい始めたとき、わたしは早見さんに声をかける。
「早見さん、今日の予定は大丈夫かな」
「は、はい…。大丈夫、です」
未だにやや警戒されているところだが、こればかりは少しずつ距離を縮めていくしかない。
わたしは早見さんと横並びになり、教室を出る。
教室の扉を閉めるまでわたし達の背中に向けられていた視線について、今追及することは避けよう。
「今日もケヤキモールでいいかな」
「はい」
短くそう返ってくる。
とはいえ、娯楽施設がケヤキモールという一つのショッピングモールに集中しているため、寄り道をするにはケヤキモールかコンビニかの二択になる。
放課後に友達と向かう先といえば、ケヤキモール一択になるだろう。
今日は暖かく、学校を出ると暖かい空気がわたし達を包み込む。窓側の席だけあって授業中に眠気を感じなかったかと聞かれれば怪しいところだが、こうして外に出るととても気持ちが良い。
178 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/15(水) 22:19:04.12 ID:92epslBg0
学校から徒歩数分でケヤキモールの入り口に着く。
お互いに買い物をするつもりはなかったため、そのまま幾つかのカフェが集中している場所へと向かう。
この前は無理矢理誘って、無理矢理カフェを決めさせていたため、わたしは入念に下調べをしてきた。
「ここでも良いかな?」
「はい、そちらで大丈夫です」
確認を取った後、各々が注文をする。
この前のお礼も兼ねて奢ると言ったのだが、それは拒否されてしまった。理由があるとはいえ2回連続で奢られることにはわたしも抵抗があるため、そこは受け入れることにした。
わたしはアイスティー、早見さんはアイスレモンティーが入ったカップを持って席に着く。放課後間もないこともあり、埋まっている席は疎らだ。
「あの、前から気になっていたのですが」
席に着いてすぐ、早見さんからそう切り出してきた。
わたしは頷き、質問に答える姿勢を見せる。
「変な意味ではないのですが、どうしてわたしとお茶してくれるんですか?」
お茶をしてくれる。
そう聞いて、自己評価の低い女の子だと再認識する。
対等な関係であれば「お茶をするんですか」と少し突き付けるような言葉でも良かったはずだ。彼女なりに気を遣った線も考えられるが、おそらく自己評価の低さからのものだろう。
わたしは至極当然のように、その質問に答える。
【安価です。
1.「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから」
2.「余計なお世話かもしれないけど、わたしはクラスの全員が仲良くしてほしいと思ってる。もちろん早見さんもその内の一人」
下1でお願いします。】
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/09/16(木) 00:42:57.21 ID:6qQCrznfO
1
180 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/16(木) 08:38:51.46 ID:DpbNaL2rO
undefined
181 :
◆yOpAIxq5hk
[saga]:2021/09/16(木) 08:39:19.97 ID:DpbNaL2rO
【
>>179
1. 「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから」 】
彼女が極度の人見知りでクラスに馴染みにくそうだったため、わたしが橋渡し的な役割を担おうという本質的な部分が第一に思い浮かぶ。
ただ、それは彼女からしてみれば余計なお世話かもしれないし、言葉を間違えばわたしが偽善者として映ってしまうのは避けられない。
そのため第二に思いつく運命的な出会いの旨を話すことにする。
「たまたま席が近くて、入学式の日にわたしが話した初めてのクラスメイトだったから、かな」
クラス内が自己紹介をしようと話している中、彼女が気分を悪そうにして教室を出て行く姿は記憶に新しい。席が近くなければ彼女の顔色は伺えなかったし、結果として彼女が駆け込んだトイレで数言交わすこともなかった。
「ぁ……そう、なんですね。すみません変なこと聞いてしまって。他意は無いんです。春宮さんが良い人ってことは分かっていますから」
「良い人って言われると少し照れるけど、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
疑惑が晴れたためか、その後は純真な目をして色々なことを話すことが出来た。
好きなこと、好きな食べ物飲み物、春夏秋冬でどれが好きか、誕生日について。
他愛のない話。ほんの雑談程度の話。
それでも彼女は、わたしに心を開いてくれた。
この調子で席の周りの子と話せるように調整できれば、今月中には人見知りも多少緩和されるだろう。
彼女が半歩ずつでも前進できることを隣で、あるいは後ろの席からサポートしていきたいと思う。
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