【安価】ようこそ実力主義の教室へ

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345 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 00:17:10.01 ID:rzJGhzMtO
>>343
 8:プラス5
 音楽センス:17 → 22】

 その後、疎らに席が埋まるカフェで甘い飲み物と軽食をテイクアウトして寮への帰路に着く。
 5月も中旬に差し掛かった今日は、一段と強い陽射しがアスファルトを焦がしていた。陽炎が見えるほど気温も高く、蝉が鳴いていないのが不思議なくらいだ。

「……あっつい」

 半歩後ろを歩く雨宮さんは前のめりになり、今すぐにでも倒れそうだった。
 やや後方に注意を払いながらも無事に寮に到着したわたし達は1101号室、つまりわたしの部屋へと直行する。

「おじゃましまーす」

「はい、誰もないけどね」

 机の上に置いてあったエアコンで空調を効かせて、手洗いうがいを済ます。
 こういう時期は体調を崩しやすいため念入りに行う。もしやらずに風邪を引いたとき後悔しないようにするためだ。
 わたしに続いて雨宮さんも済ますと、居間で買ってきたものを広げて寛ぐ。今頃、この寮の何処かで必死になって勉強している人も居るかもしれないが、わたし達はそれほど切羽詰まっていない。
346 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 00:17:44.51 ID:rzJGhzMtO
 涼しい部屋でのんびりと過ごす。
 冷たいピーチティーで喉を潤したところで、雨宮さんが口を開く。

「変なこと聞いてもいい?」

「うん。答えれるどうかは保証できないけど、答えられる範囲でよければ答えるよ」

「じゃあ遠慮なく。春宮さんってさ、彼氏とか居たことある? というか現在進行形でどうなの?」

 一瞬、わたしの思考が止まる。
 かれし、カレシ……彼氏かぁ。彼氏ねぇ。
 他の何者でもない、友人以上の関係の異性だろう。
 そういった人は……。


【コンマ判定
 1・7・0:彼氏居たことがある
 2・3・4・5・6・8・9:居たことがない
 ゾロ目:彼女が居たことがある
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/01(金) 01:14:33.69 ID:WjHbsCm50
348 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 22:55:53.97 ID:v4CAPZ5Z0
>>347
 9:居たことがない】

 わたし達はまだ15歳から16歳になる年。
 彼氏が居ない歴イコール年齢というのは恥ずべきことではない。むしろ普通のことだと思う。たった15年で会える人の数はごく僅かだ。
 それに学校という閉鎖的な身分に縛られている内は出会いも少ない。社会人になってから日本全国、あるいは海外で一生のパートナー候補を見つけ、友人から始まり恋人、そして結婚に至るのではないだろうか。
 ……と、わたしは考えているけれど、重いかな?

「あ、ごめん。彼氏って言い方は今どきアレだね。恋人だ。春宮さんは恋人とか居たことある?」

 余計な気を遣わせてしまったかもしれない。
 確かに今どきその辺りは人それぞれだからなぁ。

「居たこともないし、現在進行形で居ないよ。高校では良い出会いもありそうなものだけどね」

「へー、意外。まぁ春宮さんは真面目だもんね。恋人を作るってことは、結婚を前提に考えちゃう系でしょ?」

「そんなことは……ある、かも?」

「そういう生き方も全然アリだと思うけどね。取っ替え引っ替えで恋人を作ると軽く見られがちだし、前の彼氏に好きって言ってたのはどんな意図があってのことなのかってカンジだよね」

「そうそう、それ!」
349 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 22:56:21.10 ID:v4CAPZ5Z0

 「好き」は気軽に言うべきでない言葉のひとつ。
 ライクを意味する「好き」は多用しても問題ないが、ラブを意味する「好き」は人生で一度きり。たった一人、この人と残りの人生を添い遂げると覚悟をもって発する言葉だと思う。

「私は春宮さんと同じ考えの側かな。仕事の都合で同年代の美男美女と話す機会が多くあったけど、一部は取っ替え引っ替えで恋人を作ってたね。そして私は軽い男だな、とか軽い女だなとか思ってた」

「へー、どこもそんな感じなんだね」

「芸能人でも所詮は十代だからね。普通の学生より自分がカッコいい、カワイイって自覚している分、かなりタチが悪いよ。そういう軽い男の告白は容赦なく一蹴することにしているし」

 わたしのように狭い地元の中学に縛られることなく、様々な学校、幅広い年代の人と絡む機会が多い彼女が言うのだから間違いない。

「軽くない男の子の告白は断ってないの?」

「少し迷ったこともあったけど、この人とは結婚までは行けなさそうだなって思って断ったよ。顔は悪くないし性格も悪くない。でも、たったひとつだけ。私が彼に興味が持てなかったっていう理由でね」

「……そっか。確かにそれは大切だよね」

 互いに相手に対して興味関心を持ち続けることは長く付き合っていく上で必須だというのは賛同できる。

 興味が尽きてしまえば、刺激の無い日々が続く。
 それは惰性で生きているのと何ら変わりない。
 部屋で携帯を触って過ごすのと大差ないと思う。
 恋人でいる必要はないと、思い至るだろう。

 考えれば考えるほど奥深い。
 恋とは、結婚とは。
 それを考えるのは、この未熟な頭では結論が出ない。
350 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/01(金) 22:56:54.71 ID:v4CAPZ5Z0

「あ、ごめんね。なんか真面目な話になっちゃった。本当は過去の恋人のこと、今の恋人のこと聞き出そうと思ったのに」

「聞き出してどうするの?」

「高校を卒業した後に映画が決まっていてね。春宮さんのこと、居たかもしれない彼氏のことが分かれば、役の参考になるかもって」

「卒業って……まだ、学生生活ほぼ残り3年だよ?」

「5年後というか、卒業後2年先まで予定が埋まっている私にそれ言う?」

「……まじかぁ。すっごいなぁ」

 彼女の経歴は歌って踊るアイドルというよりは、女優そのものだった。
 子役から始まり中学生になって幅広く迫真の演技を可能とする彼女は同年代の役者の中でも頭ひとつ飛び出ていると称されている。
 そんな彼女が卒業後2年先のスケジュールが決まっていると言えば、わたしは素直に信じてしまう。

「あぁ、急に話は変わるんだけど……」

 雑談は続く。夕方五時になるまで。
 その時間はとても楽しく、後から考えてみれば何の中身もない話だったかもしれないけれど、非常に有意義な時間の使い方だったと言えるだろう。


【コンマ判定
 ゾロ目:将来について
 4:家族について
 それ以外:夜へ
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 00:19:22.61 ID:L6WAn+0q0
352 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 07:59:52.30 ID:TvV/xGYLO
>>351
 1:夜】

 その日の夜、わたしは深く考えずクラスチャットに対して何枚かの画像を送る。
 ものの5秒ほどで10件の既読、20秒も経てばクラスメイトのほぼ全員から既読がつけられる。
 30秒ほど経って、ようやく1人が反応を示した。

『これ明日の試験問題?』

『三年生の先輩から貰った過去問題』
『そのまま出題されるかどうかは分からないけどね』

 素早く返信すると、続々とレスポンスが返ってくる。

『うわ! まじか!』

『さっすが生徒会役員! 助かる〜!』

『これ覚えれば満点いける?』

 信じるか信じないかは各々の判断に任せるとして、ひとまず上手くいった。
 生徒会役員という肩書きのおかげで、他の人よりも上級生との繋がりが強いことを信じ込ませることは容易い。
353 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 08:00:20.44 ID:TvV/xGYLO
 それからしばらく反応を見た後、わたしからは特に何も発することなくチャットのアプリを落として、ベッドに倒れ込む。
 真っ白な天井を仰ぎ、目を閉じた。

「これでおっけーかな」

 本当は三年生の先輩から過去問題は貰えていない。
 周知した過去問題はわたしが手作りしたもの。
 高校受験のとき、そして先日の小テストでの問題用紙の形式が同一であったため、その形式もとに出題されそうな問題をひたすらに打ち込んだ。

 わたしが行ったのは出題されそうな問題予想と嘘をつくこと。

 前者は真っ当な試験対策。
 後者は許されることではないかもしれないけれど、三年生にはどんな噂が流れてきても無視するように手は回してある。
 つまり嘘はわたしの中でのみ発生する罪悪感であり、他人からすれば真実そのものとなる。
 問題の精度はまずまずだと思うが、所詮は過去問題。そのまま出題されるこの方が少ないだろう。

 かくして、わたしの手作り試験問題は1年Cクラスの皆に実際の過去問題として知れ渡った。
 前日の夜にこうして発信したのは他クラスへ流出する可能性を限りなく小さくするため……だったが、もう既に他クラスのグループチャットに回っているかもしれない。
 それは仕方がないことだと割り切り、わたしは明日のため就寝の準備を進める。

 クラス全員が他クラスを蹴落としてAクラスに上がるという共通の目標を持ってくれたら……。
 そんな淡く、悪い思いを胸に秘めて。


【赤点候補者の学力は45のため退学者は0です。
 手作りした過去問題の精度を判定で決めます。
 コンマ2桁を反転して判定します。
 学力:97(超優秀) 補正あり
 直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
 01〜29:50%
 30〜59:75%
 60〜89:90%
 90〜98・ゾロ目:100%
 学力が優れているため最低でも50%以上の精度になります。
 また、学力・直感・洞察力の補正としてコンマ判定の値にプラス15されます。
 下1でお願いします。】
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 08:38:52.07 ID:uNS7VPKFO
高めもしくはゾロ
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 08:39:28.99 ID:uNS7VPKFO
ぎゃあ
すまん
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 10:07:09.16 ID:GxHWl+Zso
まあ見たことないテストだからしかたないね
357 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:36:32.80 ID:oaa+Ihd4O
>>354
 07 → 70(反転) → 85(学力直感洞察力補正込み)
 85:90%
 >>353のコンマ判定の3行目に2桁反転と書いています。
 もう少し下の方に書いた方が分かりやすかったですね。
 次から気をつけます。】

 週明け水曜日の朝。
 2日間の中間テストを終え、通常の学校であれば各教科の授業にて採点済みのテスト用紙が返却されるところだが、この学校では翌朝のホームルームで一斉に発表される。
 誰もが一刻も早くテスト結果を知りたいと思い、浮き足立ったまま迎えた定刻。
 ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴ると同時に伊藤先生が教室前方の扉から入ってくる。
 いつもと何ら変わりのない雰囲気を纏う先生はノロノロと教卓に着くと、手元のリモコンを操作する。
 間もなくして背後の電子黒板の表示が切り替わる。

『1年生 1学期初回中間テスト 結果』

 至るところから息を飲む音がした。
 5分後には退学が宣告されるかもしれないという状況だが、今さら気にしても仕方がない。

「え、2日間に渡る中間テスト、お疲れ様でした。色々と言いたいことはありますが、まずはこちらをご覧ください」

 先生は教壇を降り、ついさっき入ってきた扉の前まで移動する。
358 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:37:03.68 ID:oaa+Ihd4O
 クラスメイトの全員が教卓の奥、電子黒板の方へ注目する。
 次の瞬間、画面は切り替えられる。
 出席番号順ではなく、良いものから悪いものまで上から下へ名前と点数が書き連ねられている。
 わたしは真っ先に各教科の一番下の点数を見て安堵する。どの教科も最低の点数が70点を超えている。この時点で退学者はゼロという重畳の結果が分かる。

「ぁ……よかったぁ」

「っし!」

 クラス中からそんな声が聞こえる。
 その雰囲気に喜びを感じながら、わたしは頭の中で全教科の平均点を算出した。

 『91点』

 それが1年Cクラスの平均点。
 つまり、おそらくこの中間テストにおいて獲得のできるクラスポイントは『91』で、5月1日時点の保有クラスポイントは『710』だったため合計で『800』を超える。
 授業を受ける態度などに問題がなければ、わたし達は来月には80000円分に相当するプライベートポイントを貰えることになる。この結果も含めて、この上なく上出来と言えるだろう。
 ちなみに全教科満点の生徒がわたしを含めて数名いた。その他も全教科90点以上が半数を上回り、赤点組も全教科70点以上を出して勉強に対してのモチベーションを上げることが出来たのではないかと思う。

「えー、正直、驚きました。お見事でした」

 先生が数回手を叩き、賞賛を送ってくれる。
359 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:37:37.64 ID:oaa+Ihd4O
 クラスの大半が伊藤先生に対して好意的な意識は持っていないが、それでも褒めて貰えたことが嬉しいのかクラス中に笑顔が溢れる。

「春宮さんのおかげだね!」

「あれが無くても俺は大丈夫だったが、この結果はあれが無いと出せなかった! 良かったな!」

 偽の過去問題作成については、わたしの中で反省点が残る。予想問題の約9割は実際に出題されたが、残りの1割は予想から外れていた。
 次回のテストでは精度100%を目指したいと目標が定まった頃、

「みなさん、携帯を机の上に出してください」

 冷たい言葉が伊藤先生から発せられる。
 テスト結果に浮かれているところを釘刺される形になり、クラス中に緊迫感が漂う。
 中間テストの後、結果発表の後。
 このタイミングでの携帯が指し示すものは、不正行為の確認か。わたしがグリープチャットへ送った自作の問題用紙が不正に触れることはないとして、やはりカンニングが濃厚な線か。
 生徒は全員、机の上に携帯を出す。
 後ろの席から確認できる範囲では、誰一人としてその行為に躊躇う様子はなかった。何もやましいことはしていない、と堂々としている。
 腕時計を見て少しの間を置いた後、先生は改めて教壇を登って教卓の前に着く。

「先に言っておきますが、中間テストに関することではありません。不正はありませんでした。皆さんが積み重ねてきた学力、そしてこの2週間のテスト期間で取り組んできた勉強の成果が後ろの点数です」

 赤点を取ったら退学を提示してくる学校のため、不正行為は最低でも停学、あるいは退学そのものを突き付けられるかもしれないと思っていただけに、その言葉を聞いて安心する。
360 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:38:07.03 ID:oaa+Ihd4O
 ただ、ならどうしてこのタイミングで携帯を出したのか。その意味は、直後に理解することになる。
 全員の携帯が一斉に着信音を鳴らす。
 チャットではなくメール。送り主は学校からだ。
 メールの題名には短く『特別試験開始のご連絡』と書かれてた。

「これより特別試験を開始します」

 特別試験?
 中間テストという分かりやすい試験はともかく、特別? こんなすぐにまた試験?
 疑問を抱きながら、メールは開かず先生の方を向く。

「みなさんの携帯に今、メールが届いたと思います。私の言葉を聞きながらで構いませんので、メールをご覧ください」

 そう促され、改めて携帯へと視線を下ろして特別試験の案内メールを開く。

『特別試験を開始いたします。
 このあと9時に特別棟の視聴覚室へお越し下さい。
 所要時間は20分ほどになります。お手洗いなどを済ませた上、携帯は電源を切るかマナーモードにしてお越し下さい。
 10分以上の遅刻はペナルティを科す場合がございます。
 体調不良の場合は担任へ申告して下さい。
 本日欠席の場合は、下記URLよりテレビ電話を繋いでください。カメラとマイクはオフで構いません。』

 事務的なメールの内容が書かれていた。
 9時に視聴覚室……1時間目の授業が学級活動だったのは、この説明のためか。
361 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/02(土) 12:38:35.63 ID:oaa+Ihd4O
 もう1度本文を最初から読み直そうと思ったとき、雨宮さんから特別試験に関するメールが転送されてくる。
 内容は概ね同一だったが、1箇所だけ異なる。
 わたしが視聴覚室集合だったのに対して、雨宮さんは理科室集合となっている点。
 周囲の様子を伺うと、特別棟の空き教室や体育館、音楽室集合となっている生徒も居るようだった。

「メールを確認していただけましたでしょうか。各個人宛へメールを発信しています。各自、9時には指定の場所に到着しているようにお願いします。特別試験の概要はそちらでお話いたします」

 そう言い残して伊藤先生は教室を出ていく。
 出ていく前と後、どちらも生徒の間では不安という感情が蠢いていた。その本質的な部分は決定的に異なるものの、特別と名のついた試験を急に宣告されたことは生徒に大きな混乱を与える。
 ひとまず9時を15分後に控えたクラスメイトは移動を開始する。わたしはその様子を後ろから見守り、人が少なくなったところで教室の扉へと向かう。

「どう思う?」

「とりあえず聞いてみないと。あとでまた話そう」

 さりげなく雨宮さんと短く話す。
 今の段階ではなんとも言えない。
 わたしは視聴覚室へと向かう。


【コンマ判定
 奇数:視聴覚室
 偶数:イベント
 ゾロ目は今後のコンマ判定1回やり直しストックとし、下1桁に準じて奇数・偶数判定を行います。
 下1桁のコンマ1桁でお願いします。】
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/02(土) 14:17:13.10 ID:HXd++92A0
363 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 21:59:54.64 ID:P4T3KZk70
【ここ2日間できず申し訳ありませんでした。
 これから特別試験の概要説明になります。】
364 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:00:28.63 ID:P4T3KZk70
>>362
 0:イベント】

 廊下では多数の一年生が話し込んでいた。
 話に耳を傾けたい気持ちもあったが、わたしは特別棟まで移動しなければならないため昇降口へと急ぐ。
 その途中で気付いたこととして、おそらく『特別試験』案内のメールを受け取ったのは一年生のみであること。稀に上級生を見かけるが、ただ移動しているだけだと思われる。
 一年生のみに通知された『特別試験』。
 説明をするのであれば講堂などで一斉に説明した方が手間も省けるし、同じような質問が各所で発生することを避けられる。
 わざわざ少人数を招集する理由は─────。

「……嫌な予感しかしないなぁ」

 今にも雨が降り出しそうな空を仰ぎ、わたしは小さく呟いた。
 中間テストで赤点を取ったら即退学と言い出す学校のため、今回の特別試験でも退学、あるいはクラスポイントに大きく影響を及ぼすものだと確信できる。
 ひとまずはそのことだけを胸に留め、わたしは足早に特別棟への道のりを急ぐ。
365 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:01:03.00 ID:P4T3KZk70

◇◇◇

 特別棟の視聴覚室の前には数人の生徒が居た。

 Aクラス、神宮紫苑くん、東雲雪菜さん
 Bクラス、立石樹くん、白城拓也くん、間宮志穂さん
 Cクラス、一色颯くん、宮野真依さん
 Dクラス、辻堂大和くん、西野桜さん

 そしてわたしが加わると、AクラスとDクラスの生徒が2人ずつ、BクラスとCクラスの生徒が3人ずつとなる。
 少し教室を出るのが遅く、もう9時1分前であることを鑑みると、わたしで最後か。
 人数差に意味があるのか考えていると、例によって白髪の男子生徒─────何かとわたしに興味を抱いてくれている辻堂くんが近寄ってくる。
 相変わらず、言い方は悪いけれど薄気味の悪い笑みを浮かべて。

「よう、天音。どうだった? 中間テストは」

「超上出来でした。そちらは?」

 興味はないけれど、一応聞いてみる。
366 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:01:31.76 ID:P4T3KZk70
 すると辻堂くんは壁に寄り掛かり、少し間を置いて勝ち誇ったように微笑んだ。

「こっちも上出来だ。3人も消せたんだからな」

「は……?」

 消せた?
 それは、退学者を出したということ?
 口ぶりから察するに、赤点を取らせたようだけど…。
 意味が分からない。自分のクラスから退学者を出してどうするつもりなのか。

「そんな驚くようなことじゃねぇだろ。1ヶ月も同じ教室にいれば、誰が何を出来るのか、出来ないのか。優秀なヤツと無能なヤツを見極めるのは難しいことじゃない。クラス一丸となって上を目指すには不要なヤツを切り捨てる。当然のことだろ?」

 わたしの目を見て訴えかけてくるが、その意図は言葉通りの意味だったとしても理解できない。
 優秀とか無能とか、たった1ヶ月で判断できるはずがない。体育の授業を取っても未だに水泳しかやっていなくて、陸上競技や球技の実力は未知数なのに。
 Dクラスから合計4人の退学者が出ている。その人たちの最終学歴は中学卒業になるのか分からないけれど、かなり難しい人生を強いられることになる。
 前々から好きにはなれない人だな、と思っていたけれど、今は確信を持って彼のことを敵視できる。

「クク。良い目をしているな。益々気に入いったぜ」

「辻堂くんのやり方は間違っています……!」

「それを決めるのはDクラスだ。今のお前はCクラスの生徒で外野に過ぎない。さっさとDクラスに来いよ、天音。そうすればゆっくり話し合えるし、お前なら無能なヤツを導いていけるんじゃねぇのか?」

 彼の言っていることは、悔しいけど正しい。
 わたしは他クラスの生徒で外野に過ぎない。
 それに見方を変えれば、今回の中間テストを経てCクラスとDクラスの間には大きなクラスポイント差が生まれた。
367 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:02:07.90 ID:P4T3KZk70
 想定ではCクラスが800ポイント、Dクラスはあっても100ポイントがせいぜいだろう。
 側から見ればDクラスは自滅をしている。それは他クラスにとってプラスの話だ。もちろんCクラスにとっても後ろに控えるクラスと700ポイント差があれば安心できる。
 しかし……。
 本当に残念だという気持ちはある。
 彼の悪行を止めるためDクラスに移動するという選択肢が僅かに存在しているのは間違いない。

「まぁ、想定よりもだいぶ少ないがな。ただ約束は変わらねぇ。お互い半々を出し合って移動しようぜ?」

「そんなつもりは……ありませんから」

 クラス移動に必要なポイントは2000万。
 その半分を出し合うとすれば1000万。
 来月以降、Cクラスでは1人あたり8万ポイントが支給されるため、都合の良い名目で集金というシステムを構築すればたくさんのポイントを集めることは出来る。
 もちろんそんなことをするつもりはないけどね。
 いずれにしても、どういう手段を用いたのかは分からないけれど彼はこれまで4人の人生のレールを悪い方向に切り替えている。それは到底許せることではない。
 彼と直接対決できる機会があれば、これ以上の犠牲者を増やさないよう徹底的に叩く必要が─────。

「つーかさ、もう9時過ぎてるけど? みんな仲良くペナルティくらいたいわけ?」

 Bクラスの白城拓也くんがわたし達の間に割り込んで、そのやり取りを静止する。
 窓から見える時計は確かに9時を回っていた。

「また後で楽しもうぜ? 天音」

 辻堂くんが視聴覚室に入ると、その後を追うように続々と他クラスの生徒が部屋に入っていく。
368 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:02:37.88 ID:P4T3KZk70
 あっという間に廊下にはCクラスのクラスメイトだけが残る。

「大丈夫? 春宮さん」

「あの人と知り合い?」

「うん、大丈夫だよ。何かと目をつけられていてね」

 一色くんと宮野さんが駆け寄って心配してくれる。
 わたしは胸の内側にある感情を抑え、出来るだけ笑顔を取り繕って話す。

「何かあったら─────いや、もう後戻りは出来なさそうだね。僕も協力させてくれないかな? 彼は1年生全体、そしてCクラスにとっても脅威になる。なんとなくだけど、そういう雰囲気を感じるから」

「私も! 困ったことがあったら言ってね!」

 ありがたい申し出にわたしはお礼を言って、ペナルティを頂戴しないためにも視聴覚室へと入る。
 部屋の中は約100人程度が収容可能な広い部屋だった。前方には巨大なスクリーンが、そして5人掛けの机と椅子が2行10列になって並んでいる。
 ぱっと見、同じクラス同士の人たちで固まっているようだった。Dクラスの辻堂くんと西野桜さんは、おそらく西野さんが嫌がって遠い席に座っているけれど。
 わたし達Cクラスも適当な位置の席に腰をかけたところで、スクリーンの前に立っていた先生が視聴覚室の扉を閉める。

「3分遅刻ですが、まぁいいでしょう。私は3年Bクラスの担任をしている中田庄司です。早速ですが、特別試験の概要をご説明いたします」
369 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:03:09.58 ID:P4T3KZk70

 中田先生がリモコンを操作すると、スクリーンの表示が切り替わる。そこには大きくこう書かれていた。


『特別試験:シンキング』


 そのままの意味を捉えるとすれば、シンキングとは考えることを意味する。
 クイズ番組のシンキングタイムとは、本当にそのまま考える時間としてその言葉が使われている。

「これから君たちにやって貰うのは、考える力を培っていただく、あるいは存分に発揮していただく試験となります」

 色々なケースを想定していたが、そのままの意味だ! と心の中で安堵しているとスクリーンの画面が切り替わる。
 フリー素材のイラストで作成された一枚の可愛らしいスライドだった。
 中央にネズミが居て、その周りを取り囲むように人が居る。気になったのは12時の方向に王冠を被った白い長髭を生やす『王様』っぽい人が居るのに対して、その他の人間は普通の格好をしていること。
 人数は『王様』っぽい人を含めて10人。
370 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:03:57.03 ID:P4T3KZk70
 この場に集まった生徒の数と一致している。

「社会では、常に考え続けることが求められます。状況を分析し、課題を明らかとし、問題を解決するために自分が何をするか、同僚に何をして貰うか。そのように考えることが必須となります」

 中田先生の話を聞いて、すぐ中間テストでの出来事をそれに変換する。

 状況:小テストの結果から赤点候補者の把握
 課題:赤点候補者の赤点回避
 自分:赤点候補者を対象とした勉強会の先生役になること
 周囲:赤点候補者には可能な限り自習に取り組んで貰い、成績優秀者には勉強会の先生役として取り組んで貰う

 学生のうちは割となんとでもなるが、社会では自分のミスひとつが同僚の生活を脅かすものとなる。
 もし会社を傾けてしまうようなミスをして同僚から職を奪うようなことがあれば、その家族の人生の歯車をも大きく狂わせることになる。
 特に、お医者さんや看護師さんなどの直接人の命に関わるお仕事をされている方は高いシンキング能力が求められているのかもしれない。
 その力を培う試験であれば、単純に好奇心として興味は湧いてくる。

「まず、この『ねずみ組』の皆さんには、明日の朝8時に一通のメールが学校から届きます。その内容は各自の役職が記載されています。すなわち『王様』であるか、『国民』であるかの2つです。それ以外の役職はありません」

 スライド中央のネズミはグループを表すもの、そしてその周囲の人間は役職を表すものだった。
 その後スライドが切り替わり、向かって左側に1人の『王様』、右側に9人の『国民』が現れる。

「13日後、この場で皆さん揃って投票を行います。投票による結果については、こちらのスライドをご覧ください」
371 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:04:33.49 ID:P4T3KZk70



結果1:役職『王様』以外の全員の解答が正解していた場合、役職『王様』に100万プライベートポイントを支給、役職『一般人』に50万プライベートポイントを支給

結果2:役職『王様』以外の誰か一人でも解答が誤っていた場合、役職『王様』に200万プライベートポイントを支給、役職『一般人』には支給なし。
   また、誤った解答をした役職『一般人』が所属するクラスのクラスポイントより“30”が役職『王様』の所属するクラスのクラスポイントへ移動する。
   ※役職『王様』が所属するクラスから解答の誤りが出た場合はクラスポイントの移動は無し。
   ※役職『王様』が所属していないクラスから複数人が解答を誤った場合は人数を問わず“30”クラスポイントのみ移動。

※役職『王様』の投票はいずれの場合でも無効。
形式上の投票を行う(投票結果に一切の影響なし)。
※投票は必ず行わなければならない。
医療機関の判断で解答可否を判断。


372 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:05:04.20 ID:P4T3KZk70

 この説明を見ただけで『特別試験』が異常なものであることが分かる。ひいてはこれを実行しようとしている学校も普通ではないと認識させられる。
 一介の学生に毎月何万円分のポイントを支給しているのに加えて、この特別試験では50万や100万、200万円分のポイントの支給を提示してきている。
 例え未来ある若者のシンキング能力の向上を目的としていても、さすがにやり過ぎだろう。ちょっとしたゲームを行なって、好成績をおさめた生徒は学食券を配布程度が無難なところだと思う。
 また、わたし達以外にも同じ試験内容が提示されているとなると、それはもう夢の話だと疑いたくなる。

「ここまでは理解していただけましたか?」

 中田先生が視聴覚室を見渡し、生徒一人ひとりと目を合わせていく。
 10人全員と目を合わせると、大きく頷いた。

「よろしい。では、次です」

 次? と考える時間もなくスライドは切り替わる。
373 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:05:33.37 ID:P4T3KZk70


結果3:役職『王様』以外の者が投票期日よりも前に解答を行い正解した場合、解答者には50万プライベートポイントを支給し、役職『王様』が所属するクラスのクラスポイント“50”が解答者の所属するクラスのクラスポイントへ移動する。

結果4:役職『王様』以外の者が投票期日よりも前に解答を行い不正解だった場合、役職『王様』には50万プライベートポイントを支給し、解答者が所属するクラスのクラスポイント“50”が役職『王様』が所属するクラスのクラスポイントへ移動する。

※役職『王様』の投票はいずれの場合でも無効。
形式上の投票を行う(投票結果に一切の影響なし)。
※投票は必ず行わなければならない。
医療機関の判断で解答可否を判断。
※結果3・4の解答は投票日の前日19時までとする。
担任教師もしくは担当教師を通して厳正に投票を行う。
※結果3・4の解答は役職『王様』が所属するクラスと同じクラスに属していても有効。プライベートポイントの支給およびクラスポイントの移動は無し。

374 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:06:07.85 ID:P4T3KZk70

 これで結果1〜4までのパターンが出揃った。
 すっごく簡単にまとめるとこういうことだ。

 まずこの場に集まった10人のうち1人が『王様』。
 13日後に投票を行い、『王様』以外の9人の解答結果によって結果1〜4となる。

 結果1:9人の解答先が『王様』であった場合は『王様』へ100万プライベートポイント、その他の9人は50万プライベートポイントを獲得

 結果2:誰か1人でも解答先を誤った場合は『王様』へ200万プライベートポイントを獲得し、誤った人のクラスから“30”クラスポイントを貰える

 結果3:13日後の投票日の前日、つまり12日後までに『王様』を突き止めて解答を行い正解した場合、解答者は50万プライベートポイントを獲得し、『王様』のクラスから“50”クラスポイントを貰える

 結果4:13日後の投票日の前日、つまり12日後までに『王様』を突き止めて解答を行い誤った場合、『王様』は50万プライベートポイントを獲得し、解答者のクラスから“50”クラスポイントを貰える

 結果3〜4については19時までに担任もしくは担当の先生を通して投票を行う、また『王様』と同じクラスから解答者が出た場合はプライベートポイントの支給とクラスポイントの移動が無くなる。

 ざっくりと噛み砕いて、この程度だろう。
375 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:06:40.10 ID:P4T3KZk70
 キーとなるのは期日よりも前に同じクラスから解答者が出たとき無効試合になることか。
 クラスポイントの移動を危ぶむならばクラスメイトに解答してもらうのも有りかもしれない。ただ、50万以上のプライベートポイントを捨てることになるためそれは避けたいところだ。

「以上が特別試験の主概要となりますが、質問は?」

 こういう場で最初に質問するのはハードルが高いと言われていることだが、二つ前の席に座っているDクラスの西野桜さんが挙手した。
 中田先生が質問を許可すると立ち上がり、話し始める。

「先生、今回の試験を通してクラスポイントがマイナスになった場合はどうなるのでしょうか」

 推定100クラスポイントも無いと思われるDクラスからそういった質問が出るのは当然のことか。諸悪の根源っぽい辻堂くんは全く気にしていないようだけど。

「普段の行いであれば0クラスポイントを下回ることはありません。しかし特別試験は異なります。マイナスになった場合は、一時的に学校側が不足分を補います。今回のケースで言えば『王様』が所属するクラスに対して不足分のクラスポイントを支給する形になりますね」

「ただそれでもマイナスはマイナス。中間テストなどの結果で返済していく形になるって認識でよろしいですか?」

「はい、その通りになります」

「わかりました。ありがとうございます」

 今回の特別試験において、最も最悪なケースが結果4の投票期日前日に解答を行い、誤った場合。
376 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:07:16.07 ID:P4T3KZk70
 『王様』へ50万プライベートポイントを渡すだけでなく、自クラスのクラスポイントが“50”も移動する。
 このグループが『ねずみ組』であるため、干支の名前でグループ分けされていると仮定して12グループ。結果が偏ることがあれば最大“600”クラスポイントが移動となる。
 役職『王様』の振り分け次第でDクラスがBクラスになることもありえる。

「その他はありませんか?」

 周囲の動向を窺ってみるが、動く様子がない。
 ここで目立つことが恥ずかしいとか言っていられないため、わたしは挙手をする。

「はい、春宮さん」

 名前を知られていた。
 先日、先生が担当する3年Bクラスの生徒が部長を務める部活動と対決を行なったからなのか、単純に生徒会役員として目立っていたのかは分からない。
 ただ気にする必要は無いと判断して立ち上がる。

「意識不明などの重篤の場合が解答不可を意味すると思いますが、その場合は無効票の認識でよろしいでしょうか」

「その通りになります。正解にも不正解にもなりません。また、その方が『王様』であっても変わりません。どちらにせよ『王様』の投票は無効ですからね」

「ありがとうございます。それともう二つ。『ねずみ組』以外のグループにおいても同じ試験を行うのか、また全部でいくつのグループがあるのか教えていただけますか」

「質問に答える意味でも、こちらをご覧ください。次のスライドになります」

 スクリーンに映されたスライドが切り替わる。
 想定通り『ねずみ』を含め干支のイラストが表示されている。つまり全部で12グループ。
377 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:07:47.45 ID:P4T3KZk70
 ただそれ以上の情報は無く、どの干支のグループに誰が、そして何人体制で振り分けされているのかは分からない。

「お気付きの方も多いと思いますが、全部で12グループ、その内訳はクラスによって人数は異なります。そして行われる試験は同一のものになります。ただ、一点だけ異なることがあります」

 続いてスライドが切り替わる。
 本日5月17日から31日までのカレンダーだ。
 5月18日のマスにネズミ、19日のマスには牛、20日のマスには虎と、30日までのマスにそれぞれの動物のイラストが収まっている。

「こちらは各グループへの通達のタイミングになります。先ほども言った通り『ねずみ組』は明日18日の朝8時に『王様』か『一般人』かの通達がされます。『うし組』は明後日19日の朝8時となります。その後はカレンダーの通りです」

「31日に『投票日』と書かれていますが、これは全グループにおいても共通でしょうか」

「はい、そうです。『ねずみ組』は明日から13日後、『うし組』は明後日から12日後、『とら組』は明明後日の11日後から試験が開始ということになりますね」

 つまり、わたし達『ねずみ組』が一番試験時間が長い。『王様』を隠し通すことも、『王様』を見つけ出す機会も多くなる。
 一方、干支の最後である『いのしし』組は通達の翌日に投票となる。見つけ出す機会も少なく、当てずっぽうで投票する可能性が高くなり、『王様』は高確率で100万ポイント、あるいは200万ポイントを手に入れることが出来るだろう。
378 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:08:17.86 ID:P4T3KZk70

「そして明日より6時間目には全クラス共通で学級活動の時間割になっていると思います。通達のあった組は、今回の概要説明と同じ場所へ集まっていただきます。『王様』であることを見つけ出すも良し、雑談をするでも、一切話さなくても良いです。ただ、1時間が経過するまではこの部屋から出ることは出来ません」

 わたし達は明日以降、6時間目になる度にこの視聴覚室まで来なければならない。
 そして話し合うでも、これまでしてこなかった他クラスとの交流でも、じっと窓の外を眺めているでも良いらしい。
 スクリーンに映し出されたスライドには、無料でトランプやジェンガを貸し出してくれるようだ。実質、この試験は他クラスとの交流という意味合いが強いのだろうか。

「せんせー、明日の6時間目、『うし組』とかはどうするんですか? 集まるのは『ねずみ組』の俺たちだけですよね?」

「自分の教室で自習となりますが、自由にしていただいて構いません。携帯ゲームは見て見ぬふり出来ませんが、迷惑にならない範囲での雑談や睡眠は許可します」

 明日は『ねずみ組』以外が教室で待機、明後日は『ねずみ組』と『うし組』以外が教室で待機と、段々と人が減っていくようだ。
 やや不公平さを感じるが、この部屋ですることも自由とされているため反発も起こらないか。音楽室集合の組にピアノを弾ける人が居れば楽しくなるだろう。

「あとは……あぁ、そうそう。『王様』は“厳正なる調整”の上、きちんと決められるので、例えば偶然Aクラスの生徒12人が『王様』になることもありません」

 やや気になる言い方をしていたが、つまり4クラスから等しく3人ずつが『王様』となると解釈していい。
379 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:08:46.42 ID:P4T3KZk70
 仮に3人の『王様』が投票日前に当てられる、残り9グループにおいて投票日前に誤った『王様』を解答した場合、その合計は600クラスポイントを失う。
 当てられるのは仕方がないが、こちらから先走って当てに行かない限りは150クラスポイントで済み、許容範囲か。

「それと最後に、今回の試験ではまとまったポイントが必ず誰かの手に渡ります。私や担任の先生に言ってもらえれば、ポイントを分割で支払うことも、半年の有効期限付きですが別の学生証端末を用意することも可能です。無論、期限が切れる直前で元の端末へポイントを送ればその後も利用は可能です」

 今回の試験では嘘をつくことが必須になる。
 素直に王様ですと白状して結果1のウィンウィンの関係になるのは難しいだろう。クラスポイントのため、おそらく誰かが投票日前に当てることは想像がつく。
 そして今回の試験では多額のプライベートポイントが動く。学生証端末に表示された保有ポイントで誰が事前に言い当てたのかが分かってしまえば、その後の学校生活に影響が出る。学校側の対応は当然か。

「以上で特別試験の説明を終わります。他に質問はありませんか?」

 わたしを含め、挙手した者はいなかった。
 再度締め括りの言葉を口にし、2時間目からは通常通りの授業となるため、それまでには教室に戻るよう言って先生は視聴覚室を出て行った。
380 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/04(月) 22:09:17.92 ID:P4T3KZk70
 残された10名の生徒は残り30分程度、自由に過ごすことが許可される。この場で自己紹介をし合うも良し、教室に戻るも良しと少し困る。

「ねぇ春宮さん、理解できた?」

 1席空けて隣に座っていた宮野さんが小声で話しかけてくる。わたしは少し首を傾けながら頷く。

「まぁ、なんとなくはね」

「じゃあ後でもう一回教えて? 多少間違っててもいいから」

「後で一色くんも込みで話そうね」

 ひとまずこの場であえて他クラスに弱みを見せる必要もないと判断して、早めに教室に戻ろうと促す。
 明日以降、12日間に渡ってこの場のメンバーとは話す機会がある。嫌というほど顔を合わせることになる。
 引き上げることを決意し、席を立つ。


【コンマ判定
 奇数:Aクラス 東雲雪菜
 偶数:Cクラスの教室へ
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 2桁がゾロ目の場合は、今後コンマ判定を1回やり直す権利を得ます。今回のコンマ判定はそのまま1桁を採用となります。

 特別試験の内容は原作4巻で行われた試験とほぼ同一です。一部別のルールを追加しています。
 とても分かりにくいと思いますので、分からないところがあったらレスをお願いします。わたしの方でルールの抜けがあるかもしれません。】
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/04(月) 22:17:33.18 ID:m3YAiVxmo
はい
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/05(火) 09:14:02.30 ID:UBLQLvJkO
久しぶり、おつ
383 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/05(火) 22:19:31.55 ID:x+YhKm2i0
>>381
 8:Cクラスの教室へ】

 教室に戻ると既に半数程度の人が戻っていた。
 聞こえてくる話題は、やはり特別試験について。
 ルールを理解していない者も多数いるようだった。

「ほら、みんな分かってない。難しすぎだって。投票とか干支ごと発表日が違うとかさぁ」

「みんな戻って来たら再説明するよ。全員の認識合わせと、念のため全グループで同じ説明をされたかの確認ね」

「ほんと助かる! 大好き」

 気軽に抱きついてくる宮野さんと戯れながら席に戻る。視線を廊下側の中央へと向けると、雨宮さんと眼鏡越しに視線が合う。
 干支通り12グループに分かれているため、わたしが介入できる場面は少ない。せめて雨宮さんのグループのメンバーくらいは把握しておきたいところだ。
 携帯で短くチャットを送ると、素早く返ってくる。
 他クラスの生徒は接点の無い人ばかりだが、このCクラスでは望月くんと一緒のグループのようだった。
 彼とは2週間前に少し話したくらいで、彼の力量と底は未だに知れていない。このクラスで唯一すべてが謎の人物だ。
 頼りにしすぎるのは危険かな、と考えていると全員が戻って来たようで、一色くんが先導してルールの再説明を行ってくれる。
384 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/05(火) 22:20:05.09 ID:x+YhKm2i0
 時折、わたしが自席から説明の補足をして一通りの説明を終える。

「〜と、以上が僕たちの受けた試験概要だ。僕たちの受けた説明と違っていた、というグループはあるかな?」

 反応は肯定するものだけだった。
 これで全グループが同じ試験を行うことの裏付けが取れる。
 あとクラスで出来ることと言えば、各グループの内訳メンバーと各クラスの人数を把握すること、そしてメリットもあればデメリットもある期日前投票を避けるように提案することか。
 元よりそのつもりだったのか一色くんが2つを行ってくれる。完璧な進行で、わたしが出る幕もない。こうしてクラスを引っ張って行ってくれると本当に助かる。

「ありがとう。これでメンバーの把握は出来た」

 一色くんは電子黒板に書かれたメンバー表を携帯で撮影し、その写真ををクラスチャットへと送ってくれる。
 他クラスへの流出の恐れもあるが、流出して困るようなものでもない。調べようと思えばすぐに調べがつくことだ。
 ぱっと見、グループ分けには法則性が無いように思える。1グループあたり2人〜4人と、人数はバラバラでも1人だけということは無いらしい。


【コンマ判定
 直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
 4・8:気付かない
 その他:気付く(本当に些細なこと)
 ゾロ目:気付く+戦略を思いつく
 下1のコンマ1桁、もしくは2桁でお願いします。】
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/05(火) 22:28:10.38 ID:n26V5qzF0
386 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/05(火) 23:40:21.45 ID:x+YhKm2i0
>>385
 8:気付かない】

 ……うん、特におかしいところは無いかな!
 完全にランダムに決められたように見える。もちろんわたし達『ねずみ組』も、そこに集まった他クラスの生徒も含めて。
 ひとまず明朝の『王様』か『一般人』かの通達を待って、それから考えることにしよう。色々と手を回すのはその後でも余裕で間に合う。
 今のところ、わたしの希望としては『一般人』を希望する。
 まず自分が『王様』でないと嘘をつく必要が無いし、見抜かれるかどうかでドキドキするのが嫌だという至極真っ当な理由で。
 もちろん貰えるプライベートポイントはとても魅力ではあるけどね。
387 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/05(火) 23:40:58.03 ID:x+YhKm2i0

◇◇◇

「あ、神宮くん。待っててくれたの?」

「今日はこっちの方が早く終わったみたいだったからね。いつも待っててくれているんだから当然だよ」

 帰りのホームルーム後、教室の前で神宮くんを見つける。
 このまま生徒会室へ向かうのであればお礼を言うところだが、今日はとある理由で寄り道しなければならない。
 そのためわたしの口から出るのは謝罪だった。

「待っていてくれたところ申し訳ないんだけど、ちょっとこの後予定があってね? 本当にごめん!」

「あぁ、そうなんだ。全然いいよ。じゃあ先に行ってるね」

「ごめんねー」

 教室すぐ目の前の階段を降りていく神宮くんの背中を見送って、わたしは昇降口へと向かう。
 靴を履き替えて向かった先は特別棟の屋上。
 本日2度目の特別棟で、屋上に来るのも2週間近く前に続いて2回目だった。
388 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/05(火) 23:41:27.52 ID:x+YhKm2i0
 屋上へ出ると1人の上級生がしっかりと固定されたフェンス越しに、興味津々といった表情で地面を見下ろしていた。……部活動に励む生徒を上から観察しているのかもしれない。

「先輩、危ないですよ」

「ん。だいじょうぶだいじょーぶ。ここのフェンス、去年度末に設置し直してるからさ。ちょっとやそっとじゃ壊れないよ。試してみる?」

「遠慮しておきます。カメラもありますし」

「そうだねー。ちなみに校内に設置されているカメラを壊したりするとクラスポイントがマイナス200されるって噂だよ。今の3年生と2年生でやった人は居ないと思うけど、何年か前にやらかした人がいるんだって」

「覚えておきます」

 屋上へと唯一繋がる扉近くには、屋上全体を見渡すように260度ほど動き続けている監視カメラがある。
 もしあのカメラの目を掻い潜って悪さをするようなことがあればクラスポイントが減らされるようだ。
389 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/05(火) 23:42:12.73 ID:x+YhKm2i0
 先輩はフェンスに寄り掛かり、数メートルの距離まで近付いたわたしに微笑みかける。

「上手くやったみたいだね、天音ちゃん」

「はい、なんとかなりました」

「わたしは信じていたけどね? で、どうやったの? 平均91点だっけ? 超優秀じゃん」

「これです」

 鞄から取り出した自作の問題用紙を手渡す。
 ざっと目を通した後、乙葉先輩は首を傾げる。

「あれ、最後の問題って変わったのかな。 わたしの時と違うよ?」

「それ、わたしが作った問題用紙です。実際に出た問題はこっちです」

 続いて実際の中間テストの問題用紙を手渡すと、先輩は「あー、これこれ!」と元気よく頷く。

「えーっと、あれ? 聞き間違いじゃなければ、こっちは自作? すっごくよく出来てるじゃん! っていうか凄いしズルい!」

「先輩が意地悪して過去問題を渡してくれなかったので、真っ当に試験対策しただけです」

「……いや、まじかぁ。まさかこんな精度でテスト予想するなんて思わなかったもん」

「次は100%を狙います。今回は90%くらいでした」

「ずっるーい。いいなぁ。3年生の分も作ってよー」

「それは出来ません! 出来たのは1年生の範囲だからです」

「またまたぁ。もう天音ちゃんが3年生で学習するようなことを知っていても驚かないんだからねー」
390 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/05(火) 23:42:54.12 ID:x+YhKm2i0

 実際はその通りだけど、ここでは肯定も否定もせず話を逸らすことにする。

「ところで、1年生に特別試験の案内が出たことについて先輩はご存知ですか?」

「うん、知ってるよ。特別試験には生徒会も絡んでるからね。天音ちゃんと紫苑くんを『生徒会』のグループチャットに入れられないのはそれが理由。この試験が終わったら入れてあげられるよ。特別試験の監督も生徒会の仕事のひとつだからね」

 今回の特別試験には乙葉先輩たちも携わっているらしい。
 あれこれ聞いても答えて貰えるとは思っていないため、ここは何度か頷く程度で済ませておく。
 ここでグループ分け理由とか教えて貰えると楽だったんだけどなぁ。

「まぁ頑張って! 天音ちゃんなら出来るよ。ちなみにわたしの代でも同じ試験をやったからね。船の上で」

「船の上?」

「おっと。聞かなかったことにして?」

「……わかりました」

 と、口では言いつつ、とても気になる。
 船の上でわたし達と同じ試験をやった?
 いいなぁ、船かぁ。
 漁船からクルーズ船、さすがにイカダは船には含まれないか。でも船そのものに興味はある。学校でやるより船の上でやりたかったというのが正直なところ。

「そうだねぇ。じゃあそのお礼と、ちょっと意地悪しちゃったお礼として、答えられることは答えてあげる。とりあえず言ってみ?」

 おそらく今回の試験に関することはダメ。
 無難かつ気になることで言えば……。

【安価です。
 1.毎月、月初でも金欠の理由
 2.3年生のクラスポイント状況・リーダー格について
 3.2年生のクラスポイント状況・リーダー格について
 4.乙葉先輩から見た1年生について
 5.その他(質問出来る・出来ないは判断します)
 6.特に聞きたいことはない
 下1でお願いします。】
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/06(水) 13:03:46.02 ID:oZ/y3PLlO
4
392 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/06(水) 21:45:45.65 ID:c+PYG1Pd0
>>391
 4:乙葉先輩から見た1年生について】

 2粘性や3年生のことも気になるけど、今は目の前の試験の集中するという意味でも他級生から見た我々1年生の印象を訊いておくべきかもしれない。

「乙葉先輩的に、わたしを含めた1年生ってどんな感じですか? 客観的でも主観的でも良いので、教えていただけると嬉しいです」

「お、そんなことでいいの? じゃあ主観的に感じたことをAクラスから順に。まずはAクラスだけど、ここは例年通り優秀な生徒が揃ってると思うよ。勉強も運動も、素行も悪くない。だからこそAクラス配属なんだけどね」

 この学校では入学の段階で学力や身体能力を鑑みてA〜Dへとクラス配属をするらしい。
 必然とAクラスにはレベルの高い生徒が集まり、Dクラスには能力の低い生徒が集まるシステム。
 しかし一之宮くんや一色くん、宮野さんを始めとした大半の生徒において能力の低さは見られない。少なくとも去年の全国模試で2位を取った一之宮くんがDクラスの配属される理由はミスを疑うほどだ。
 考えられることは、単純に学力と身体能力以外でもクラス分けをする基準があること。乙葉先輩も言った通り、素行の悪さもその理由の一つだろう。
393 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/06(水) 21:46:42.87 ID:c+PYG1Pd0
 どうしてわたしがDクラスなのかは置いておいて、学力・身体能力・素行、その他の要素を見てAクラスが優秀であることは間違いない。

「特に気になる生徒は居ますか?」

「んー。あんまり1年生とは絡んでないからなぁ」

 腕を組んで首を左右に傾げた後、先輩は「強いて挙げるとすれば……」と話し始める。

「紫苑くんはもちろんとして、東雲さんは目立つ生徒だなと思ってるよ。あとは槇原さんもね」

 同じ生徒会役員でもある神宮紫苑くん、今日初めて目を合わせた東雲雪菜さん、数回寮のエレベーターで居合わせたことのある槇原由奈さん。
 確かに一際目立つ生徒だとわたしも見ていた。

「どんな学校でもクラスでも、リーダー的な存在って居るじゃない? この学校には無いけど、学級委員的なやつね。今挙げたのは学級委員的な立場の人」

「神宮くん以外とはあまり接点ありませんが、そんな感じはします」

「そっかそっか。だよねー、目立つよねぇ」

 うんうんと頷いた後、「次はBクラスね」と続きを話す。

「惜しくも生徒会役員になれなかった立石くん、超運動が出来ると噂の白城くん、笑顔の可愛い間宮さん」

 ここで特別試験のメンバー振り分けについて気が付く。
 先輩が挙げた6人の内、Aクラスの槇原さん以外が特別試験の『ねずみ組』に属していることを。
394 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/06(水) 21:47:18.13 ID:c+PYG1Pd0
 12のグループの内、自然と1つのグループに割り振られたとは考えにくい。Cクラスの一色くんや宮野さん、Dクラスの辻堂くんと西野さんもリーダー的立ち位置だ。
 あまりにも露骨に固まっている。
 これが故意に仕組まれたものだと認識するのにそう時間はかからなかった。

「Cクラスは一色くん、宮野さん、倉敷さん、そしてそして何を隠そう天音ちゃん。みんなコミュニケーション能力高いよねー。単純にその観点で言えば、倉敷さんが一歩抜きん出てる感じはあるね。上級生にもいっぱい彼女と連絡先交換してる生徒いるし」

「……たしかに」

 倉敷春香さんは勉強も運動も出来て、かつコミュニケーション能力の高さが段違いだ。
 休日のケヤキモールで彼女が上級生や同級生と一緒にいるところを良く見かける。それに見かける度に一緒にいる人が違って、かつ遊んでいる最中でも偶然通りかかった他の生徒と話し込んでいる姿もある。
 6月が終わる頃には全校生徒の連絡先を集めるのでは、と思うほど交友関係を広めている。

「Dクラスは、認めたくないけど辻堂くんかな。特に勉強が凄く出来るわけでも運動が出来るわけでもないんだけど、視点が良いって言うのかな。観察する力とか発想力は学年でもトップクラスだと思う」

 フェンスに寄り掛かかった先輩は、その後むしゃくしゃしたような表情をする。

「でもでも、あの子ちょーぜつ問題児だからね! 天音ちゃんの知らないところで問題を2件起こして、生徒会に持ち込んでるんだから。ほんと迷惑な話だよ」

 4月末に起こした問題は少しだけ聞こえてきた。
 当時Cクラスだった生徒を大怪我させたとかで、Bクラスだった生徒の一人が自主退学する形で収まったという。その一件を引き金に、元BクラスはDクラスまで堕ちた。
395 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/06(水) 21:48:34.95 ID:c+PYG1Pd0

「と、こんなもんかな。わたしから見た1年生は」

「ありがとうございます。参考になりました」

「いいのいいの。ちょっと意地悪し過ぎた自覚はあるからね。……怒ってないよね?」

「もう怒ってないので大丈夫です!」

「ぁ、怒ってたんだ……」

 ほんの冗談混じりに話す。
 一方、良い話を聞けたというのは事実。
 あれくらいの意地悪に対しては大きい情報を貰えた。
 それにプライベートポイントを支払って問題用紙を手に入れる手段を未然に防いでくれたおかげで、お財布事情的には助かっている。むしろお礼をいうのはこちらの方だったかもしれない。

「特別試験がんばりなよー? で、勝ったら一緒にご飯食べよう! わたし予約しておきますから!」

 急に謙って敬語で話す先輩と戯れながら、生徒会室へと向かう。
 今回の特別試験で動向を注目するべきはAクラスの東雲さん、Dクラスの辻堂くんか。特に辻堂くんは何をしてくるか分からない。要注意人物だ。


【イベント安価
 奇数:東雲雪菜
 偶数:翌日
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 2桁がゾロ目の場合は今後のコンマ判定やり直しのチャンスを1回獲得です。(現在0)】
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/06(水) 21:54:49.13 ID:VR5Xap3M0
397 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:04:12.30 ID:KFWSPOjR0
>>396
 3:東雲雪菜】

 生徒会の業務終了後、生徒会の鍵を職員室に返したところで神宮くんが何か話したげな様子をしていた。
 しばらく向こうから話してくるのを待つ心構えでいたが、昇降口で靴を履き替えたところでこちらから聞いてみることにした。

「わたしに何かお話?」

「ぁ……うん、実はね。凄いな、分かっちゃうんだ」

「結構バレバレだったよ? 『王様』になったら一発で分かっちゃうタイプだね」

「それは勘弁して欲しいな…」

 この1ヶ月間で神宮紫苑くんという生徒についてはクラスメイト以上に分析することが出来た。
 得意なこともなければ不得意なこともない、初対面で話した時に彼自身が言っていた通り普通を体現したような男の子だ。
 一見、能力の低い子かと思いきや、何でも普通程度にこなせてしまうのはとても羨ましい。わたしが不得意な調理や音楽もそつなく平均的にこなすのだろう。
 そんな彼が唯一苦手としていそうな事を見つけた。
 良くも悪くも嘘をつく、隠し事をするのが苦手なようだ。
398 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:04:43.95 ID:KFWSPOjR0
 もうこの段階からわたしを欺くための演技が始まっているとすれば本当によく出来ているけど、恐らくそれは考えすぎだ。

「実はね、Aクラスの東雲さんが春宮さんに会いたいみたいなんだ。この後、19時30分からなんだけど…」

「うん、大丈夫だよ。30分後だね」

 現在は19時前。今夜は夏帆先輩のお料理教室の日でなく、勉強会もひと段落着いた。
 ケヤキモールで少し買い物をしてゆっくり帰ろうと思っていたところのため、このお誘いを断る理由もない。それに話してみたかったというのもある。

「場所はケヤキモールの入り口。もう居るみたいだから、出来れば早めに着いて欲しいなって」

 それなら尚のこと早めに言い出して欲しかった。
 集合時間まで時間があるとはいえ、このまま律儀に30分も待たせる訳にはいかない。

「じゃあ行こっか」

「あ、ううん。僕は行かない……というか、行けないんだ。春宮さん一人で来て欲しいって」

「そっか、わかった。じゃあこれから行くって伝えて貰える? 5分、10分で着くと思うから」

「もちろん。東雲さんは分かる?」

「今日会ったばかりだからね。大丈夫だよ」

 クラスメイトの神宮くんを経由するにも関わらず、彼を外してわたしだけを呼んでいる。
 明日から始まる特別試験の事だとすれば、一緒に行った方が良さそうなものだけど…。
399 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:05:23.90 ID:KFWSPOjR0
 とりあえず向かってみることにし、神宮くんと別れてケヤキモールの方へと向かう。
 期待半分、怖さ半分といったところか。
 どちらにせよ、どんな話が出来るのか楽しみだ。
400 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:05:52.11 ID:KFWSPOjR0

◇◇◇

 東雲雪菜さんは良く目立つ。
 腰まで伸びた黒髪は手入れが行き届いていて、手足はスラっとガラスのように細く、儚げな雰囲気を纏っている。それでいて肌が真っ白なのだから、まるで和人形のような印象を受ける。
 そんな彼女が綺麗な佇まいでケヤキモールの出入り口から少し離れたところで待っていた。特に携帯を触ることも、星を眺めることもなくジッと。
 つい携帯を取り出して一枚撮影したい気持ちを抑えて近付き、声を掛ける。

「ごめんなさい、お待たせしましたか?」

「いいえ、待っておりません。本日は生徒会の業務後にも関わらずお越しいただきありがとうございます」

 恭しく一礼をされ、わたしもしどろもどろにお辞儀をする。ここまで謙られるとこちらも恐縮してしまう。

「お時間は取らせません。あちらでお話できますか」

 そう言って視線を向けたのはケヤキモール近くの休憩所だった。
 花壇に囲まれたそこは、ケヤキモールで購入したものをあの場所で飲食する生徒が多く見られるスポットだ。しかし今は時間帯もあって利用者が見られない。少し話すだけなら絶好の場所だろう。
401 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:06:23.85 ID:KFWSPOjR0
 わたしは頷き、休憩所へと移動する。
 3人掛けのベンチに1人分のスペースを開けて座ると、東雲さんが小さな口を開いて話し始める。

「春宮様とは一度お話させていただきたいと、失礼ながらずっと思っておりました。今回の特別試験にあたり、こうしてお話させていただく機会があって非常に喜ばしく思います」

「そ、そうですか。ところでその、敬語というのは……一応、同級生ですし。もう少し砕いてもよろしいのではないでしょうか」

 と、言っている自分も釣られて言葉が怪しくなる。
 これでは説得力がカケラも無い。
 彼女は一切表情を変えることなく、淡々と話す。
 感情が無いように、ただ義務的に。

「ご無理はなさらないで下さい。わたくしは、昔からこのような話し方なのです。ご不快に思われたのであれば、申し訳ありません」

「いえ、そういう訳ではありません……!」

 しっかりと頭を下げる東雲さんに頭を上げるよう促し、心を落ち着けるためにも座り直す。
 東雲さんってこんな感じの人なんだ…。
 かなり礼儀正しい人だとは聞いていたけど、ここまでとは想像していなかった。

「春宮様、単刀直入に本題を申し上げます。もしよろしければ、わたくしとご連絡先を交換していただけますでしょうか」

「連絡先? はい、もちろんですっ」

「ありがとうございます」

 携帯を取り出し、連絡先を交換する。
 要した時間は30秒にも満たなかった。
402 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:07:14.33 ID:KFWSPOjR0

「本日はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございました。要件は以上となります」

「あ、もういいんですか?」

「はい。幸い、わたくし達は『ねずみ組』あと13時間もしないうちに通達があります。お話させていただく機会はこれから存分にございます」

 試験開始前から協定を結ぶよう提案があるかと身構えていただけに、連絡先を交換しただけでお開きというのはやや意表を突かれた結末だ。
 それでも連絡先を交換できたのは大きい。
 神宮くんに続き、東雲さんとも連絡が取れるようになった。これは『ねずみ組』における特別試験では良い方向に事を運べるだろう。

「改めまして、本日はお疲れのところありがとうございました。こうしてお話できて大変嬉しく存じます。明日より、またよしなにお願い致します」

「こちらこそありがとうございました。明日から2週間、一応敵同士ではありますが、お手柔らかにお願いします」

 立ち上がり、お互い深々と頭を下げる。
 内心、高校一年生でするようなことじゃないなと思いながらも、3秒、5秒と経過した頃に頭を上げる。
 目の前の東雲さんはわたしが戻って1秒後に頭を上げた。
 なんだかどちらが先に頭を上げるかで勝負をしていたような気もするが、おそらく彼女とは平行線の勝負になる気がする。無意識の内に頭を上げてしまった自分を責める必要は無い。
403 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:07:43.39 ID:KFWSPOjR0

「それでは、わたくしは寮に戻ります。春宮様もどうか夜道をお気を付けて。お誘いした身で申し上げにくいのですが、学校の敷地内とはいえ淑女が夜に外出するのは褒められた行為ではありませんからね」

「ご丁寧にありがとうございます。早めに帰宅することにします」

 東雲さんが受けてきた教育は、おそらく名家の子女のそれなのだろう。
 言葉遣いもそうだが、特に背筋の伸び方や歩き方がそれっぽかった。映画で観たことのある、頭の上に本やティーカップを乗せて歩いた経験とかありそう。ちょっと気になるため、明日以降に機会を伺って聞いてみよう。

「……買い物して帰ろ」

 まだそう遅い時間ではないけど、ああ言われてしまっては夜遊びも出来ない。するところもないけどね。
 帰ってご飯食べて、食後の運動として頭の上に本を乗せて歩いてみようと決心して休憩所から移動することにした。
404 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 22:08:24.47 ID:KFWSPOjR0

◇◇◇

 翌朝。特別試験開始の日。
 わたしは5月1日以来、早めに登校した。
 時刻は7時50分と、『ねずみ組』の通達を10分前に控えた頃に自席に着く。
 早めにきた理由は特に無いが、なんとなく心構えはしておきたかった。
 本当に厄介なことに、こういう時の10分の1の『王様』は割と引ける。おそらく10分の3くらいはあると思っている。しかも3割なんてほぼ50%みたいなものだし、悪い方の2分の1なんて引くに決まっている。
 つまり、わたしは『王様』になる自信があった。
 さてさて、一体どうなるものか……。

【コンマ判定で『王様』か『一般人』か決めます。
 単純に10分の1でやってもつまらないので、2分の1で『王様』とします。

 奇数:一般人
 偶数:王様
 ゾロ目:コンマ判定やり直し権利1回獲得
     当該コンマ判定は下1桁で決定
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/07(木) 22:23:54.09 ID:8dPtq1Cq0
406 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 23:38:13.91 ID:KFWSPOjR0
>>405
 9:一般人】

 8時ちょうどに1通のメールが届く。

『厳正なる調整の結果、あなたの役職は『一般人』に決まりました。グループの一員として、自覚を持って行動し試験に臨んでください。また、ねずみ組の集合場所は特別棟の視聴覚室になります。』

 どうやらわたしは『一般人』らしい。
 危惧していた『王様』にはならなかった。
 これで一安心して、これから2週間かけて『王様』探しに集中できる。

「……」

 通達メールを再度読み返していると、教室前方の扉が開く。
 望月くんだった。彼は一度わたしの方を見た後、自席に鞄を置いて、わたしの方へ向かってくる。

「おはよう、望月くん」

「うん、おはよう春宮さん。『ねずみ組』のメールは来た?」

「ついさっきね」

 『王様』でない以上、隠す意味は無いと、望月くんへ携帯の画面を向ける。
407 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 23:38:54.52 ID:KFWSPOjR0
 メールを読み終えると、彼は微笑んだ。

「そっか。王様にはなれなかったんだね」

「額の大きいポイントは欲しいけど、追われない身っていうのは楽だからラッキーだと思ってるよ」

 『王様』の場合、最大で貰えるポイントは200万。
 『一般人』の場合、最大で貰えるポイントは50万。
 その差は歴然で、誰もが出来ることなら200万ポイントを懐に入れたいと考えると思う。
 ただバレないように立ち回るリスク、信頼し合えると思ったグループ間で解答を一致させるための労力を考えると誰もが『王様』になりたくないと考える。
 わたしもその一人で、この結果には安心している。

「そうだね。特に『ねずみ組』は今日から8回も話し合う機会があるんだから、隠し通すことは他のグループよりも難しいはず。今頃、当人はヒヤヒヤしてるんじゃないかな」

「そうかもしれないねー」
408 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 23:39:41.57 ID:KFWSPOjR0

 『ねずみ組』の件は、宮野さんと一色くんと協力してどうにかするとして…。
 ちょうど望月くんとは、望月くんのグループの件で話したいと思っていたところだ。ちょうどいい。

「望月くんは『いのしし組』だっけ」

「よく知っていたね。そうだよ、僕たちは『いのしし』だ。最後の組になるね。つまりシンキングタイムはたった1日、たったの1回ということになる」

 干支における最後は『亥』。つまり『いのしし』。
 本日19日より干支順で毎朝8時にこうしてメールで通達されるため、『いのしし』は11日後の30日となる。その翌日は31日は投票日のため、話し合う機会は当日の6時間目しかない。
 『王様』になれば隠す機会が少なく有利に、『一般人』になれば見つけ出す機会が少なく不利となる。
 このDクラスからはわたしの友人である雨宮さんと、目の前の望月くんが選ばれている。そのどちらもが『王様』になる可能性を有しているとして、何か策を考えておいた方が良いか。
 と、そんなことを考えていると。

「僕たちの方は心配しないでいい」

 望月くんが窓の外を覗いてそう言った。
 先日、ドラマのシーンを再現するという黒歴史的な行為を行ったばかりだが、近頃放映されたドラマでこのようなシーンは無かった。完全なオリジナルか、演技では無い素か。
409 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/07(木) 23:40:12.48 ID:KFWSPOjR0
 なまじ先日の件が頭に残っていて、口から出る言葉が引っ張られそうになる。

「信じてもいいの?」

「もちろんだよ。こんなところで躓くわけにはいかない。それにさっき見せて貰ったメールで確信した。この試験はランダムではないってね」

 わたしもメールの冒頭が気になっていた。

『厳正なる調整の結果、あなたの役職は『一般人』に決まりました。』

 『厳正なる抽選』ではなく『厳正なる調整』。
 これは学校側が適当に選んだ場合は用いられない文言。何らかの意図があって選択をした。そう確信して相違ないはず。

「参考になったよ。ありがとう。また近々に話をさせてくれ。きっと君にとってプラスになるはずだよ」

「うん、楽しみにしてる」

 手を振って、彼は自席へ戻って行く。
 相変わらず普通に接しやすい男子生徒に見えて、力量を伺わせてこない。
 雨宮さんを任せられる人物なのか、少し吟味する必要がある。あと10日以内には『いのしし組』の方針も定めたいところだ。


【イベント安価
 奇数:食堂
 偶数:視聴覚室
 ゾロ目:コンマ判定やり直し権利1回獲得(現在0件)
     当該コンマ判定は下1桁で決定
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/08(金) 01:36:19.41 ID:YcPkMFHbo
はう
411 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/08(金) 21:59:45.78 ID:XsHRxl5v0
>>410
 1:食堂】

 お昼休み、わたしは同じ『ねずみ組』の一色くんと宮野さんに誘われて学食に来ていた。
 テスト期間は教室でサンドイッチを食べる生活が続いていたため、こうして温かいご飯を食べられるのは嬉しい。
 高揚感いっぱいに券売機で和食Aセットを選択して受付で食事を受け取った後、3人で空いていた席に座る。

「先輩たちは我関せずってかんじだよねー」

 宮野さんの言葉通り、上級生が固まる席から『特別試験』という単語は聞こえてこない。
 また休み時間に聞いた話では、それぞれ水泳部とバスケットボール部の先輩に話を聞いてみたそうだけど、有力な情報は得られなかったらしい。学校側が下級生への試験対策の告げ口を禁じているものだと想像がつく。

「ちなみに生徒会的にはどうなの?」

「頑張って、って応援はして貰えたよ。先輩たちの時はどうだったとかはノータッチ」

「だよねぇー。ま、なんとかするしかないか」

 幸か不幸か、『ねずみ組』の『王様』はCクラスのメンバーから選出されている。
412 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/08(金) 22:00:17.93 ID:XsHRxl5v0
 つまりわたし達はこの3人の中で協力をし合い、『王様』であることを隠し通せばいい。あるいは、嘘をついて『一般人』のわたしへ期日前に投票させるか。そのための作戦はいくらでも湧いて出てくる。

「とりあえず6時間目の授業で話し合いだね。誰が『王様』なのか、見つけられるように頑張ろう」

 クラス内でも学食でも、『王様』であることを明かして貰った時はノーリアクションを貫いている。
 クラス内で誰が『王様』なのかを周知することは、即ち話し合いの場を持たずとも敗北を意味する。そのため『王様』のメールの文面を見せて貰ったとき、内心では「おお」と思いながらも、「8回の話し合いの場で見つけれるように頑張ろう」と前向きな発言をしておいた。
 今のところ『ねずみ組』の『王様』が誰かを知るのはわたし達3人のみ。なんとか隠し通して全員で投票期日を迎えたい。


【コンマ判定
 奇数:Aクラス
 偶数:Dクラス
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/08(金) 22:39:52.30 ID:C3KmwCt90
414 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/09(土) 22:36:47.30 ID:kNZzxQKH0
>>413
 0:Dクラス】

「てかさ、そろそろ久しぶりに水泳部来てよー。麻倉部長も春宮さんは大歓迎って言ってるしさー」

「試験終わったらお邪魔するね」

 特別試験の話題を中断し、楽しく雑談しながらの昼食を終えようとした時、背中にぞくりとした視線を感じる。
 これは、あれだね。
 思い当たる節に、心の中で重い溜め息を吐いて振り向くと、例によって彼がそこに居た。今回は3人の取り巻き付きで。

「よう天音。どうだった?」

「どうもしません。わたしが『王様』でしたよ。結果3もしくは4をお望みなら、早く投票してください」

「なるほど『一般人』だったか」

 ち。
 生まれて初めて舌打ちをした。もちろん心の中で。
415 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/09(土) 22:37:17.46 ID:kNZzxQKH0
 彼と関わるくらいなら早めに試験を終わらせたい。
 特に今回の場合、『ねずみ組』の『王様』がCクラスに居るため、結果4の投票期日前の投票で解答が誤っていた場合が最も望ましい。


 結果4:13日後の投票日の前日、つまり12日後までに『王様』を突き止めて解答を行い誤った場合、『王様』は50万プライベートポイントを獲得し、解答者のクラスから“50”クラスポイントを貰える


 無事投票日を迎える結果1もしくは2よりも貰えるプライベートポイントは少ないものの、クラスポイントを貰えるのは大きい。
 50クラスポイントは5000プライベートポイント相当。つまりクラス40人全員でその恩恵を受けることが出来れば、それだけで20万円プライベートポイントと大きな額になる。

「辻堂くん、春宮さんとは試験の話をしに来たのかな?」

「お前には関係ねぇよ、黙ってろ一色」

「そういうわけには─────」

 向かいに座っていた一色くんが彼を退かせようとしてくれたけど、あえなく一蹴されてしまう。
 これ以上の口論になる前に、わたしは一色くんと目を合わせて制止させる。
416 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/09(土) 22:37:56.71 ID:kNZzxQKH0

「クク。随分と手懐けてるようだな、天音。その調子で1000万頼むぜ? 少々出遅れたが、俺たちも予定通り1000万稼ぐ。今回の特別試験は稼ぎ時だからなぁ」

「その話には乗りません。で、何のご用ですか?」

「知らない仲じゃないんだ。見かけたら話しかけるのは当然だろ?」

 入学して2日目、早見さんとケヤキモールでお茶していたところで割り込んで来たのは何処の誰だったか。
 その話を振るとまた長くなるため、席を立つ。

「そろそろ教室に戻ろっか」

 一色くんと宮野さんの方へ向かって、そう言うと彼らは頷いてくれて、済んだ食器が乗ったおぼんを手に取る。

「てめぇ、無視してんじゃねーよ」

 取り巻きの一人、宇垣くんがわたしの肩を掴む。
 避けるのも振り解くのも容易に出来たが、あえて掴まることでこの場を去るための正当な理由が出来た。

「一度だけ言います。はなして」

「……ッ」

 視線を逸らし、肩を掴んでいた手が退く。
 改めておぼんを手に取り、返却口へと向かう。

「せっかく一緒の組になったんだ。少々外野がうるさいが、じっくり楽しもうぜ?」

 後ろの方からそんな声が聞こえた。
 わたしがDクラスと繋がっている、と根も葉もない噂が出回る前に手を打った方が良さそうだ。
 差し当たってはこの特別試験でDクラスに対して完全勝利を収めたいところ。その中でも『ねずみ組』の勝敗は譲れない。
 5月1日から中間テストのため頑張ったつもりだったけど、もう少しだけ頑張る必要がありそうだなぁ。
417 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/09(土) 22:38:33.28 ID:kNZzxQKH0

◇◇◇

 6時間目の学級活動の時間。
 昨日の説明にあった通り、わたしと一色くんと宮野さんの『ねずみ組』は今日から試験開始となる。
 話し合いの場である特別棟の視聴覚室へ赴き、授業開始の合図と共に周囲の様子を伺う。
 昨日と同じ席にみんな座っていた。そしてみんな周りの出方を伺っているらしく、30秒が経過した頃、この張り詰めた空気に耐えきれないとばかりにBクラスの白城くんが立ち上がる。

「まずは自己紹介か? つっても学年の中でも有名人ばっかだからなぁ。お互い名前くらいは知ってるよな?」

「いいえ。わたくしは白城様のご意見に賛成です。ここは改めて自己紹介と致しましょう」

 Aクラスの東雲さんが白城くんの意見に賛同する。
 そしてAクラス神宮くん、Bクラス立石くんと続々賛同の声が上がり始める。当然、わたしたちCクラスも賛同した。
418 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/09(土) 22:39:06.54 ID:kNZzxQKH0
 興味なさげにしていたDクラスの辻堂くん以外は賛同する形となり、簡単に挨拶をしていく。と言っても出身中学や趣味特技などは話さず、所属クラスと氏名を名乗るだけで淡々と進められた。

「あとは辻堂様だけになりますが」

「今更必要か? 東雲」

「わたくしのことは苗字でお呼びになるのですね。春宮様のことを下のお名前で呼んでいらっしゃるのは何か理由があるのでしょうか?」

「そいつは気に入ったからだ。だが、お前は違う」

「それは失礼いたしました。わたくし自身、思い上がっていたようです。確かに春宮様はとても優秀ですものね。手駒にしたいという気持ちは分かります」

「生憎だが、俺が先約を入れてるんだ。その後にして貰おうか?」

 どうしてかAクラス東雲さんとDクラス辻堂くんがわたしのことで言い争っていた。
 わたしのことで争うのはやめて、という台詞はこういう時に用いられるのだろうか。
 そもそも、わたしは現在のCクラスのみんなとAクラスに上がりたいと思っているため、そのどちらの願いも承諾できないのだけどね。
 しばらく他の誰も2人の間に割り込めずにいると、必然と矢は私の方へと向かってくる。

「当人の春宮様にお伺いしましょう。春宮様はAクラスとDクラス、どちらに着きますか?」

 この試験はクラス間の戦いとなる。
 そのため自分の所属しているCクラス以外に着くつもりはないけど……。
 ただ、考え方を変えてみるとこの返答は重要になる。
 もしここでAクラスに着くと言っておけば、Aクラスと協力関係が築けるかもしれない。一方、Dクラスに着くと言っておけば敵の懐に入り込めるかもしれない。
 どう答えるのも抵抗感があるけど、ここは…。

【安価です。
 1.「どちらかと言うと、東雲さんのAクラスかなぁ」
 2.「間をとってBクラス……的な?」
 3.「わたしはCクラス以外の味方にはなりません」
 4.「……どうしてもって言うならDクラスに着いてもいいよ?」
 下1でお願いします。】
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/10(日) 22:10:42.01 ID:3NV237qco
悩みますね
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/10(日) 22:12:29.61 ID:3NV237qco
3で
421 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/11(月) 22:19:19.30 ID:ZiOBOz660
>>420
 3.「わたしはCクラス以外の味方にはなりません」】

 ……ううん、これについては最初から決まっている。
 今回の特別試験はクラス対抗。どこかのクラスと協力する必要は無い。というより、下手に信用して足元を掬われる結果になったとき目も当てられない。
 Cクラスの完全敗北を避けるためにも、ここはフラットな意見を貫こう。

「わたしはCクラス以外の味方にはなりません」

「……失礼いたしました。同級生になって2ヶ月も経たず、正式に顔を合わせて1日2日で信頼関係なんて築けるはずがありませんでした。ましてやクラス対抗となれば、尚更ですね」

「ま、当然だな」

「……」

 Aクラスの東雲さんが丁寧に腰を折って謝罪、Bクラスの立石くんが大きく頷き、Dクラスの辻堂くんが内心で舌打ちするようにと各々反応を見せる。
 ひとまずわたし関連の話は落ち着き、東雲さんと辻堂くんの言い合いも一段落ついた。
 辻堂くんの自己紹介もこの一連の流れで有耶無耶となったが、自己紹介そのものの必要性が低かったため気にする必要はない。
422 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/11(月) 22:19:53.14 ID:ZiOBOz660
 さて、この後は……。

「正直に『王様』は手を挙げてください、と言っても挙げるはずありませんよね。メールを見せ合うというのもつまらないですし、ここはゲームで過ごすことにしましょう」

 気を取り直した東雲さんが明るく提案する。
 『王様』を抱えるCクラスとしても、特別試験について話し合うよりもゲームをしていた方がボロが出る心配が少ない。
 辻堂くん以外の合意のもと、神宮くんが学校に対してトランプやジェンガを持ってくるようにメールで伝える。
 5分後、視聴覚室へやって来た教師と思しき大人からその2つを受け取ると、早速どちらで何をして遊ぶか話し合いが始まる。

「ただ普通にやってもつまらないので、何か賭けませんか?」

「……そうだな。じゃあ1日1戦、最下位が正直に『王様』か『一般人』を言うってのはどうだ?」

「それは素晴らしいアイデアです。話し合いの場は今回も含めて8回。この場には12人いるので、毎回最下位が異なれば3分の2の正体が分かる訳ですね」

 この場合『王様』を最下位以外にするため、わざと負けるという選択肢も出てくる。
 しかしわざと負けるということはCクラスに『王様』が居ると安易に伝えるようなもの。そうなればわたし以外の2人の内、2分の1で『王様』を言い当てられてしまう。
 かと言って、もう乗り気なみんなを引き止めることも出来ず。『王様』を抱えるクラスは何かと気を遣い過ぎなければならない。この先の2週間、胃が痛くなる日々が続きそうだった。
423 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/11(月) 22:21:06.53 ID:ZiOBOz660

【今後4回の行動で以下@〜Bを達成する必要があります。
 ゾロ目の場合は行動1回獲得です。
 @『ねずみ組』の『王様』について隠匿(コンマ判定1回 暴かれる可能性あり)
 A他クラスの『王様』について調査(コンマ判定 最低2回、最大3回)
 B雨宮綾香・望月慎也の『いのしし組』について対策を話し合う(A完了後、1回実行の必要あり)
 C試験外で人と会う(優先度低)

 まず@『ねずみ組』の『王様』が暴かれないことについてコンマ判定を行います。
 コンマ1桁が4・9以外で暴かれることがありません(下1桁が4もしくは9でもゾロ目の場合は隠匿成功)。
 下1でお願いします。】
 
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/11(月) 22:58:59.12 ID:gMqbKiM50
425 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/12(火) 01:27:43.85 ID:FVjXptvb0
>>424
 2:『ねずみ組』の『王様』について隠匿成功】

 5月19日、特別試験初日の勝負はBクラス間宮志穂さんがババ抜きで負けたことで決着が付く。
 当然、彼女は『一般人』だった。
 少し誤算だった事として、口頭による自己申告と携帯に届いた通達メールの2つで念入りに確認という流れを彼女が作ってしまった。従って、次回以降も当然の流れとして通達メールを見せる事になる。
 当然と言えば当然の流れだけど、これは『王様』を抱えるわたし達としては口頭での嘘で誤魔化せないというデメリットがある。なんとしてでも残り7回ある会合の場であの人を負けさせる訳にはいかなくなった。
 ひとまずは今日、無事に乗り切れたことを喜ぶべきなのかもしれない。明日と明後日は休日だし、特別試験のことは忘れて遊んだり休んだりしよう。

「そうと決まれば…」

「ん、なんか言った?」

「あ、ううん。なんでも。疲れたねー」

 今日はまだ生徒会の仕事も残っているけど、作業量としてはそれほどでもない。
 一方、特別試験の監督役も生徒会の仕事の内だと言っていた先輩方は、今思い返してみると最近慌ただしかったように思える。この特別試験に向けて準備を進めていたのだろうか。
 わたしも生徒会の一員として、今回の特別試験が終わった後でその業務に就くことになる。監督役として各学年で行われる試験内容について知れるのは役職特権として喜ぶべきことのはず。
 今回はプライベートポイントやクラスポイントの変動だけだけど、中間テストで赤点を取ったら退学と言い始める学校のため、特別試験においても成績が振るわなかった生徒は退学という処置もあるかもしれない。その対策が事前に練られるのはとても良い。
 明日以降の休日と得した気分を胸に、わたし達は教室に戻る。
426 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/12(火) 01:28:15.42 ID:FVjXptvb0

【5月20日(土) うし組 通達の日
 うし組の通達の日ではありますが、休日のため会合の場はありません。
 行動回数の消化なしで自由行動を行います。

 1.人と会う
   1.早見有紗(前の席の女子生徒)
   2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
   3.一之宮重孝(隣の席の勉強が出来る男子生徒)
   4.一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
   5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒)
   6.花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
   7.如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
   8.四条夏帆(信頼のできる3年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
   9.雨宮春香(信頼のできるクラスメイト・選択に応じて音楽スキルアップ)
  10.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
 2.寮で1人で過ごす(料理の本を読む、自己学習など)
 3.ケヤキモールへ(安価で出会う人を決定)

 1.人と会う場合は「1-10」のようにお願いします。
 下1でお願いします。】
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/12(火) 09:01:52.91 ID:2erpX6as0
1-8
428 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/12(火) 23:21:52.80 ID:FVjXptvb0
>>427
 1-8:四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)】

 5月20日、土曜日。特別試験2日目。
 一色くんから『うし組』の『王様』がCクラスには居ない報告を受けたのが30分前。わたしは9時50分に私服に着替えて2年生の寮の前で夏帆先輩を待っていた。
 中間テストを終え、ケヤキモールで羽を伸ばそうとする先輩方とすれ違い、目が会う度に会釈をしていると、いつ間にか手元には5つの飴玉が握られていた。

「……」

 これは可愛がって貰えている認識でも良いのかな?
 なんだか3年生の間ではわたしは厄介者として扱われているようなので、こうして貰えると嬉しい。
 日向から日陰へと移動して携帯でネットニュースを見ていると、

「お。お前、1年の春宮だろ?」

「そう…ですけど。えっと、化野先輩、ですよね?」

 身長180cmはありそうな2年生の男子生徒、化野伊吹先輩に声を掛けられる。
 下ろせばやや長い黒髪をオールバックにして、背の高さが際立つお洒落な服を着ている姿はとても様になっている。
429 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/12(火) 23:22:25.76 ID:FVjXptvb0
 化野先輩は一度大きく頷き、

「誰かと待ち合わせか?」

「5分後に四条先輩と待ち合わせをしています」

「あー、あの女か」

 先輩の顔が曇り、視線は遠いところへ向けられる。
 その表情から読み取れるものは色々あるけど、少なくとも好意的な意識は欠片も存在していない。残ったのは憤りや妬みといった負の感情だった。
 申し訳ないけど、この人とは長話をするだけ損だと自分の中ですぐさま折り合いを付ける。

「すみません、ついさっき連絡があって、5分後に別の場所で集合になったので失礼します」

 頭を下げてその場を立ち去る。
 一歩、二歩とケヤキモールとは逆の方向に進んだとき、先輩方の声が聞こえてくる。少し離れた場所で待っていた同級生と合流したようだ。

「今の、例の1年ですよね?」

「あぁ。あの裏切り者と待ち合わせしてるんだとよ」

「……チッ。あの女とですか」

「生徒会繋がりだろうよ。新汰の手駒かもなぁ」

 わざとわたしに聞かせてるのか? って思うほどの声量で話す声はしっかりと聞こえて来た。
 話に出て来た『裏切り者』とは、話の流れからして夏帆先輩のことで間違いない。

「……」

 この学校の仕組み上、『裏切り者』と呼ばれることは少なくないと思う。
 例えば今回の特別試験においても、わたしが『ねずみ組』の『王様』を他クラスに密告すれば、それはもう『裏切り者』となる。
 夏帆先輩がどのような経緯でそう呼ばれることになったのかは分からないけど、ひとまず話半分で耳にしたという程度に留めておこう。
430 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/12(火) 23:22:54.18 ID:FVjXptvb0

◇◇◇

 化野先輩達がケヤキモールの方へ向かったことを確認して、わたしは改めて2年生の寮の前へ赴く。
 すると夏帆先輩はもう待っていて、笑顔で手を振って来た。
 わたしは頭を軽く下げて近付く。

「すみません、お待たせしましたか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。私も今さっき来たところですから」

 柔らかく微笑んでくれる先輩と合流して、わたし達もケヤキモールへ向かう。
 今日の予定はノープラン。昨日の生徒会の仕事終わりに誘って、二つ返事でオーケーを貰えたところ。
 何をしようか……。


【安価です。
 1.家で料理
 2.映画館
 3.ショッピング
 4.カフェ
 下1でお願いします。】
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/13(水) 07:36:50.68 ID:IYdT+m1Oo
3
432 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/13(水) 22:21:19.41 ID:vXrKmZ+x0
>>431
 3:ショッピング】

 ケヤキモールへの道中でふと、夏服を所持していないことに気が付く。
 ここに来てから購入した私服といえば春物ばかり。着こなしによっては夏でも使えないこともないけど、特にポイントに困っていることもないし、それに年頃の女性としても少ない衣類を年中着回し続けるのにも抵抗があった。
 夏物の服を揃えたいという希望はすぐに承諾して貰えた。

「とりあえず見て回ってみましょうか」

「はい!」

 ケヤキモールには何十というブランドのお店が並んでいる。店頭に置いていない物でも通販を利用すれば最短2日で届く。
 本格的な夏を前に、一式揃えるのは今からでも十分に間に合う。今全てを揃える必要もなく、気に入った物だけを必要なだけ買うことにしよう。
433 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/13(水) 22:21:46.59 ID:vXrKmZ+x0
 そう意気込んでお店を次々と回る。

「落ち着いたお洋服の方がお好きですよね?」

「そうですね。派手目なのはあまり経験が無いです」

「似合うと思いますけどねぇ。演劇部に色々な衣装がありますので、利用してみては如何ですか?」

「演劇部に? でもそれって舞台用ですよね?」

「1つ上の先輩にコスプレって言うんですか? そういった衣装が好きな方が居て、卒業のときメイドさんの服とか寄贈していましたよ」

「……わたしには似合いませんっ」

「そんなことないですよ! 絶対に似合います!」

 と言ったやり取りをしながら。
 メイド服かぁ。演劇には興味あるけれど、少しだけ抵抗感があるのは特に変なことじゃ無いと思う。
 タイミングを見つけて衣装を見るだけでもお邪魔してみようと考えていると、気になった広告を見つける。

「先輩、これ」

「あ、クイズ大会? 四半期に1回くらいやってるイベントですね」

 ペアで参加、参加費は2000プライベートポイント。
 全30問によって構成されるクイズで点数を競い、1位〜3位まで順位に応じた額の商品券が配布される。また、参加賞としてモール内のカフェで使用可能なドリンク交換券が貰えるらしい。
434 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/13(水) 22:22:21.49 ID:vXrKmZ+x0

「先輩は出たことありますか?」

「ううん、私こういうの得意じゃないから。雑学とかが中心に出たかな。そういうのに自信がある人なら、多分学年関係なく良い線狙えると思うよ?」

 参加費は2000ポイント。
 1位を取れば15000ポイント分の商品券。
 2位を取れば10000ポイント分の商品券。
 3位を取れば5000ポイント分の商品券。
 その点だけでも十分に魅力的。
 それに参加賞のドリンク交換券だけでも1000ポイント分は還元される。つまり入賞できなくてもマイナス1000ポイントほど。参加しても痛手は小さい。
 ……やってみようかな?


【安価です。
 1.「先輩、一緒にやってみませんか?」
 2.「わたしもちょっと自信ないので、やめておきましょうか」
 下1でお願いします。】
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/13(水) 22:25:55.30 ID:NNJsY/gs0
1
436 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/13(水) 23:11:06.60 ID:vXrKmZ+x0
>>435
 1.「先輩、一緒にやってみませんか?」】

「先輩、一緒にやってみませんか?」

「えぇっ?」

 興味半分、夏服を購入するための資金の足しにもなりそうという理由で、わたしは提案する。
 先輩は自信なさそうにしながらも、コクリと小さく頷いてくれた。

「でもでも、本当に私、力になれないよ?」

「大丈夫です。気楽にやりましょう! わたしも戦力になれるかは不安なので」

 と口でいいつつ、わたしは胸の奥にギラギラとした気持ちを昂らせる。
 他の参加者には申し訳ないけど、勉学はもちろんのこと、雑学に関しても自信がある。わたし達が優勝する。そして超お得に買い物をしてみせる……!

「申し込みに行きましょうか」

「天音ちゃん? ちょっと目が怖いですよ……?」

 先輩の手を引いて会場へ赴く。
 1000ポイントずつ支払い、受付を済ませる。
 イベント開始時刻は12時。周囲の生徒の数からして、かなりの出場組数になりそう。ただ参加する人数を気にしても仕方がない。敵となる人の姿を気に留めても意味がない。
 受付を済ませたわたし達は、改めて夏服の物色に出る。

437 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/13(水) 23:11:39.92 ID:vXrKmZ+x0

◇◇◇

「あれあれ。夏帆ちゃんと天音ちゃんだー。ふふふ、何してるかは聞かないよ? でも分かるよね?」

 11時50分。
 改めてイベント会場を訪れたわたし達は、乙葉先輩に出会う。表面上はいつもと変わらず微笑んでいるけど、あの人は常にポイント不足に悩んでいるらしい。つまり負けろと遠回しに言ってきていることは明白だった。
 優勝する気満々だったけど、その気も削がれる。
 近くには錦山先輩の姿もある。おそらく乙葉先輩のペアなのだろう。
 その他に気になる人と言えば、ユキ先輩と内山先輩、東雲さんと神宮くん、立石くんと白城くん、一色くんと宮野さんなど、見覚えの凄くある生徒がたくさん見受けられる。『ねずみ組』の生徒が良く目につくのは仕方がないことだと思う。

「ちなみに去年度の優勝は乙葉先輩のところですね。あの人、クイズとか凄く得意ですから」

 わざわざ本人が忠告してくれたってことは、要注意の一グループとして数えて貰っている認識でも良いのだろうか。
 それはともかく、手を抜くつもりはない。
 偶然を装い、勝ってしまうという結果は仕方がないことだと思う。別に中間テストで意地悪されたことの意趣返しという程でもなく。

「あ、そろそろですね」

「勝ちましょう! 先輩!」

 実際のところ、入賞は半分くらいの確率で出来るとして、1位を取ることはかなり難しそう。
 出来れば優勝をしたいところだけど……!


【コンマ判定
 学力:97(超優秀) 補正あり
 5・7:1位
 3・9:2位
 1・8・0:3位
 その他:4位
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 コンマ2桁がゾロ目の場合は1位です。】
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/13(水) 23:16:52.77 ID:XSDRzLvu0
それ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/13(水) 23:17:51.96 ID:XSDRzLvu0
7でゾロが出たんだが
440 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/14(木) 00:34:33.98 ID:6fC21ecn0
>>438
 7:1位
 7でゾロ目のため? 満点で優勝になります。】

「優勝は、四条夏帆・春宮天音ペアーーっ!」

 司会のお姉さんの甲高い声が響く。
 スタッフの方に優勝商品の商品券1000円分が14枚、500円分が2枚、そして参加賞のドリンク交換券2枚を受け取る。

「やりましたね、先輩」

「あ、うん。……私、何もしてないんだけどね?」

「そんなことないです! 力を合わせた結果です!」

「いや、でも……」

 ちょっと難しい問題もあったけど、わたし達の正解数は30と、申し分のない満点を叩き出した。
 2位は錦山先輩・乙葉先輩ペア。26点。
 3位は東雲さん・神宮くんペア。25点。
 雑学に関する問題も多かったけど、学生で勉強するような内容も出題された。全学年を通してもほぼ公平に戦えるような出題形式だったと思う。
441 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/14(木) 00:35:05.41 ID:6fC21ecn0
 結果発表が終わると集まっていた人も捌けていく。
 残ったのは入賞した3チームと数名の生徒の他、設営スタッフの方々だった。

「天音ちゃん、ちょっといい?」
「春宮様、少しお時間よろしいでしょうか」

 乙葉先輩と東雲さんの両方から声を掛けられる。
 只事ではない雰囲気は嫌でも伝わってくる。

「あー、まぁいいや。東雲さん、手短に先どうぞ」

「いいえ。後輩として、先輩に先をお譲りするのは当然というもの。わたくしの用は花菱様の後で構いません」

「なら遠慮なく。天音ちゃん、よく満点取れたね。最後の方の問題とか訳分からなかったんだけど?」

 最後の方の問題。
 ルベーグ積分とかその辺りの問題だったはず。
 確かに最終問題の方は難易度が跳ね上がっていた。高校生で学習する範囲を超えている。解けなくて普通なんだと思う。
 そんな問題を学生しか参加しないイベントで出す方もどうかと思うけど、今はそんなことどうでもいい。
 わたしは万全を期して優勝するために手を抜かず正しく解答を導き出した。その結果、満点という結果を出せば、こうやって詰め寄られるのも当然の事だと思う。

「理系の教科には興味があって、むかし本で読んだことがあったんです。だから解けました。自信は半々といったところです」

「……ほんっと規格外。ずるいずるい! 勉強も出来て運動も超出来るとかさー」

 頬を膨らませる乙葉先輩を押し退け、錦山先輩が近付いて、わたしにしか聞こえない小さな声で囁く。
442 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/14(木) 00:35:40.73 ID:6fC21ecn0

「正直、ここまでとは思ってなかった。生徒会に誘ったりした身でこんなこと言えないが、変に目立ちすぎるなよ。敵は同級生だけじゃないんだからな」

「……はい、わかっています。ご忠告ありがとうございます」

「ま、俺たちはギリギリだったが2位を取れた。余裕でプラスだからな。本当に偶然、お前が参加したことで1位という名声と5000ポイント分の商品券を逃しただけだ!」

 錦山先輩も結構気にしてそうだった。
 ひとまず乙葉先輩達に参加賞のドリンク交換券をプレゼントすることで気を良くしてもらう。わたし達には15000ポイント分の商品券さえあればいい。
 カフェの方へと向かっていく先輩方を見送り、改めて東雲さんと目が合う。
 彼女は微笑み、その冷たく綺麗な瞳を向けたまま語りかけてくる。

「改めまして、お見事でした、春宮様。ひとつお伺いしたいことが」

「ありがとうございます。なんでしょうか」

「春宮様は、わたくしや、あの人のような……こっち側の人間じゃないですよね?」

「こっち側?」

 あの人、と隠された人物が判明すれば考察の余地もあったが、こっちと言われてもどっちか分からない。
 わたしは首を傾げ、おそらく違うと答える。
443 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/14(木) 00:36:10.86 ID:6fC21ecn0

「そう……ですよね。失礼いたしました。貴女のことは見かけた覚えがありませんでしたので、お伺いするまでもありませんでした」

 掴めない話に、わたしは「はぁ」と相槌を打つことしかできない。
 東雲さんは一息つくと、改めていつも通り微笑んでくれる。

「四条様、春宮様、お時間を戴き感謝いたします。それではまた」

 ご機嫌よう、とくるぶしまであるロングスカートの裾を摘んで、頭を下げる。
 お嬢様然とした姿につい見惚れてしまいながらも、これで身の回りは落ち着いた。東雲さんの言っていることのほとんどは分からなかったけどね。

「まずはお昼ご飯にしましょうか」

「あ、うん。そう……ですね」

 イベントが始まる前と後で、先輩がわたしを見る目が少し変わっていたような気がしたけれど、……うん。
 それは多分、気のせいじゃなかったと思う。


444 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/10/14(木) 00:36:37.32 ID:6fC21ecn0

◇◇◇

 昼食を経て、貰った商品券を折半して夏服の購入資金へと充てる。ほんの2着も買えば、7500ポイント分の商品券は消えて自腹の域に達する。
 自腹で15000ポイントほど追加で使用して、ひとまず直感で欲しいと思った夏服は揃え終わる。
 それでもなお、わたしの手元には10万を超えるプライベートポイントが残っている。
 もし特別試験で何十万というポイントが懐に入ってくれば、それはもう泣いて喜ぶと思う。

「結構買えましたね」

「はい、先輩が良いお店を知ってくださっていて大変助かりました!」

「それは良かったですっ」

 急遽参戦したイベント終わりの微妙な表情は消え、先輩は笑顔で喜んでくれた。
 わたし達はドリンク交換券こそ先輩にあげてしまったけれど、個室の喫茶店で休憩することにした。今日付き合っていただいたお礼も兼ねて。

「天音ちゃんは来たことあるんですね、ここ」

「同じクラスの友達と来ました。何回か」

 雨宮さんは眼鏡を外せば超有名人。眼鏡を外していなくても身バレするかもしれないリスクと常に隣り合わせのため、一緒にお茶する時はこの個室の喫茶店を利用する。
 そのため大体の気になるメニューは頼み尽くしてしまっている。新鮮味には欠けていたけど、美味しいと分かっているメニューがあると選ぶのも早い。
 ドリンクと軽食を注文して、一息つく。


【安価です。
 1.「先輩、困ってることありませんか?」
  今朝の化野の件を遠回しに
 2.「実は……今朝、化野先輩と会いました」
  今朝の化野の件を直接
 3.「この後、先輩のお部屋でお料理とか……」
 4.「今、わたし達1年生は特別試験をやっているんですけど……」
 5.「……先輩に悪いことしちゃいましたね」
  クイズ大会の件
 下1でお願いします。】
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