【安価】ようこそ実力主義の教室へ

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207 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:00:10.89 ID:wv2ppvvR0
>>206
 7:「水泳部が新生徒会に宣戦布告だって!」】
 
「おっと。今年は早いなぁ」

 ゲームを嗜む乙葉先輩が小さく呟いて数秒後、鞄の中に入れていた携帯が通知を知らせてくる。
 わたしは鞄から、神宮くんはブレザーのポケットに入れていた携帯を取り出そうとしたとき、乙葉先輩がソファの背もたれに掴まって起き上がる。同時に錦山先輩と内山先輩、生徒会長席で寛ぐユキ先輩までもが立ち上がった。

「よし、行くぞ」

 錦山先輩が先導して生徒会室の扉から廊下へ出る。
 ひとまずわたし達も立ち上がり、並行して携帯に届いた通知を確認する。想定通り『生徒会(仮)』のグループチャットに向けて一通の連絡事項が届いていた。
 その内容は─────。

「なーにしてるの? 行くよ?」

 その連絡事項の意味が分からず立ち尽くすわたし達に上機嫌な乙葉先輩が声をかけてくれる。
 わたしは改めて連絡事項の一文を読み返すが、やはり理解が追いつかない。無理に考えるのは諦めて、携帯の画面を先輩に見せながら訊いてみる。

「水泳部と対決するからプール集合ってどういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ? 宣戦布告されたから、ちょっと懲らしめに行ってやろうってね」

「懲らしめる……」

「そうそう。新生徒会の力を見せてやろうじゃないかってハナシ。売られた喧嘩は買うのが生徒会だからねー」

 言っている意味は理解できたが、行動に移す意味が分からない。ただそれでも先輩方が決めたのなら、下級生であるわたしが否定する権利もない。
 わたしと神宮くんは顔を見合わせてお互いの動向を伺うが、それもほんの少しの間だけ。
 二人揃って乙葉先輩の後を追うように生徒会室を出る。

 新生徒会が発足して初日。
 早速、この生徒会室は無人の部屋となった。
208 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:00:41.73 ID:wv2ppvvR0
◇◇◇

 プール前に新生徒会の全員が揃っていた。
 今朝の全校集会前に軽く挨拶をしただけの先輩が四人もいる。いずれも一学年上の二年生だ。
 急にプール集合となったことについて何の疑問も抱いていないようで、「またか」とか「勝てば済む話だろ」など和気藹々としている。
 ここで錦山先輩が手を2回叩き、わたしを含めた新生徒会メンバー全員の注目を集める。

「さて」

 そう一間置いて、話し出す。

「乙葉の連絡通り、まぁ例年通りのアレだ。水泳部に喧嘩を売られた。部費を増やせとか、生徒会が偉そうにしているのが気に入らないとか、役員に対しての私怨とか、乙葉がポイントを返さないとか、そういうのじゃねぇ」

 最後のは喧嘩を売られるどころか、教師を巻き込んだ苦情になりかねない案件だと思うが、ここで口出しは出来ない。先輩の言葉は続く。
209 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:01:16.98 ID:wv2ppvvR0

「売られた喧嘩は買う。そしてタダでは済まさない。俺たちが勝てば向こうの奢りで飯だ。神宮、十九時からケヤキモールの焼肉屋を予約しておけ」

「は、はい」

「名義は三年Bクラスの麻倉だ。人数は……」

「今朝の時点で水泳部は27名、生徒会を併せて37名です。顧問の大島先生を入れると38名になります」

「とりあえず40人分の席を取ってくれ。残りは適当なヤツを呼んでおく」

 途中、副会長の1人である二年生の佐倉新汰先輩の一言もあり、予約人数が決定する。隣の神宮くんは早速携帯で予約を取り始める。
 それにしても、なるほど。
 水泳部との競泳対決。勝てば向こうお奢りで焼肉。
 非常に魅力的だと思う反面、言及していなかったが負ければこっちの奢りになる可能性は充分にある。それを考えるとやや頭が痛いが、先輩たちの余裕そうな振る舞いからして勝機はあるんだろう。
 競泳対決の時点で向こうにかなりの分がある。タイムか距離か、メンバーの選出でハンデが設けられてようやく互角といったところか。

「やるからには勝つ。いや、勝たないとヤバい。この10人で教師を除く37人分を奢りは笑えない」

「ちなみにわたしの残ポイントは0だからね!」

 引きつった笑みを浮かべる乙葉先輩以外の面々に対して、本人は満面の笑みだった。よほど焼肉が楽しみと見える。それは勝つことを確信しているから…かな。
 何も考えずにノーリスク・ハイリターンを望んでいるのなら、一刻も早くその認識を改めて欲しい。

「どちらにせよこの後は親睦会の予定だった。向こうの奢りになれば、この上なく最高だろ?」

 その一言に、新生徒会は盛り上がる。
 一方、わたしは頭の中で1人あたりの出費を算出してしまい、どうにも盛り上がれないでいた。
 この対決は、今後わたしが人並みな生活を送れるかどうかが決まる重大な分岐点になる。もしわたしが選出されるようなことがあれば、その時は勝利を取りに行くしかないだろう。
210 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 14:01:52.22 ID:wv2ppvvR0
◇◇◇

 競泳100メートルを最大3回行い、2回勝った方が勝者として奢りの恩恵を受けられるというルールになった。
 勝敗を決するには良いルールだと思う反面、水泳部との直接対決となれば飛び込みや50メートル地点でのターンなどの技術力も勝敗に大きく関わってくる。つまりハンデがそれなりに大きくなければ勝ち目は薄いだろう。

「で、ハンデについてだが─────」

 水泳部の部長である麻倉舞香先輩が錦山先輩に提案しようとしたところで、

「ハンデは要らない。ウチには超絶優秀な新人が入ってきたからな。ユキとアイツで2回の勝ちは取れる」

「あのDクラスのヤツか。なかなか傾奇者だな、貴様も」

 ジッと頭から爪先まで舐められるような視線で見られると、わたしは一歩後退りをしてしまう。

「噂には聞いていたが、とてもそうは見えないな」

「まぁやってみろって。お前がアイツとぶつかっても良い。なんであれ勝つのは俺たちだ」

「大した自信だな。で、選出は?」

「新汰、ユキ、天音だ」

「承知した。こちらからも男子生徒1人、女子生徒2人で対決と行こう」

 以上で、生徒会長と水泳部部長の会合は終わる。
 わたしが泳ぐのは確定のようだった。
 数時間前の授業に続いて、まさか1日に2回も水着を着ることになるとは思わなかった。
 まぁ、やるからには勝とう。数時間後にはなんの憂いもなく焼肉を食べられることを願って。


【安価で試合結果を決めます。
 天音の身体能力もあるため高確率で勝利です。
 4・8:水泳部勝ち
 それ以外:生徒会勝ち
 ※ゾロ目の場合も生徒会勝ちとなります
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 14:55:46.56 ID:4ORJfrtnO
212 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 15:42:55.96 ID:wv2ppvvR0
>>211
 6:生徒会の勝利]

 新汰先輩は水泳部の次期部長候補である新山先輩のタイムに僅かに届かず、ユキ先輩は去年の雪辱戦だと名乗りを挙げた倉島先輩に勝利を収める。
 そして迎えた勝っても負けても最後の対決。
 結果として、わたしは水泳部部長の麻倉舞香先輩に勝利した。つまり生徒会側の勝利が確定する。

「よーしっ! よくやった、天音!」

 先輩方が非常に喜んでいるのを確認した後、プールに入ったまま隣のレーンの麻倉先輩を労う。

「お疲れ様でした、麻倉先輩」

「なんだか嫌味っぽいが、まぁ素直に受け取っておくことにしよう。それにしても噂の一年がここまでだとは思ってもいなかった。学年差も水泳に対しても私の方がずっと先輩だと思っていたのだがな」

「少しだけ運動には自信があるんです」

「それ、同じクラスの宮野にも言ったみたいだな」

 視線を横にずらすと、宮野さんがこの対決の様子を伺っていた。もう彼女からわたしという存在については聞き取り調査済みらしい。
213 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 15:43:32.77 ID:wv2ppvvR0

「負けたのは事実だ。完敗だった」

「もしよろしければ、再戦させてください」

「それは負けたヤツの台詞だ。またわたしに負けろって言いたいのか?」

「そ、そうじゃないですっ」

「はは、冗談だ。まぁとりあえず上がるか」

 たった100メートルくらいで疲労感は無く、わたしはプールサイドに上がる。そこには神宮くんがタオルを持って待っていてくれた。

「お疲れ様。間近でオリンピックを見ているような気分だったよ」

「それは言い過ぎじゃない? でも、確かに勝ったよ」

「うん、ずっと見てた。瞬きを忘れるくらいに」

 この対決が始まる前、わたしは神宮くんに一つ約束をしていた。
 『わたしは必ず勝つ』と。
 実力の測れない麻倉先輩相手では勝てるか不安な部分もあったが、自分を信じて競技に臨んだ結果、無事に約束を果たすことができた。
 その後に上がってきた麻倉先輩には水泳部の女子生徒がタオルを手渡し、軽く水滴を拭き取った後で錦山先輩のもとへと寄る。

「この勝負、私たち水泳部の負けだ」

「ウチの新人は有望だろ?」

「あぁ。本気で水泳部に欲しくなった。春宮、これからの放課後、休日、暇なときはここへ来い。部員でなくともお前ならいつでも大歓迎だ」

 生徒会役員である以上、水泳部に入部することはできない。しかし部長直々にお許しを戴いたとなれば、今後自由に練習に参加することは出来るのだろう。
 暇なとき、ここに寄るのもありなのかもしれない。
 そんな予期せぬ収穫もありながら、第一の目標であった焼肉を奢って貰える権利を獲得した。
 乙葉先輩がとても喜んでいるようで何よりだ。


【休日に水泳部を訪れることが可能になりました。
 ここで1年Dクラスの雰囲気を安価で決めたいと思います。
 7・0:生活態度が真面目なクラス
 その他:授業中の私語・遅刻欠席が頻発するクラス
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 16:23:28.07 ID:eg9sxgS10
へい
215 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:14:50.15 ID:wv2ppvvR0
>>214
 7:生活態度が真面目なクラス
 少し時間が飛びます。

 四月下旬の週末。
 ゴールデンウィークを目前に控えた頃。
 昨日と今日の各授業で小テストが行われた。
 その内容は中学三年生程度の簡単なものから昨日の授業で習ったことをそのまま出すといった、比較的難易度の低いテストだったと言える。
 少し気になったのは成績には反映されないと前置きがあったこと。あくまで現時点の学力を測るため、と先生は言っていたが、その真意は汲み取れない。
 各々が本気でやるにしても手を抜いてやるにしても、やや緊張感のある二日間を超えたからこそ、金曜日の放課後には緩みが生じる。

「でさ、今日の帰りはどうする?」

「来週にはさ、またポイントが振り込まれるわけだし、ちょっと良いもの食べたいよね」

 食べ物、服、家具と。
 週明けの1日に振り込まれるポイントをあてに、各々が財布の紐を緩めようとする。
 わたしは教室を出て行く彼女らの背中を見送りながら、ひとり教室の端の席で現状を整理する。
216 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:15:18.31 ID:wv2ppvvR0

 まず、この1年Dクラスにおけるリーダー的存在について。
 男子生徒では間違いなく、初日に自己紹介を提案するなど様々な場面でクラスを引っ張っていった一色颯くん。生活態度も真面目そのもので、このクラスだけでなく他のクラスの人、さらには部活動を通して上級生にも伝手が生まれているらしい。
 女子生徒は幾つかの派閥に分かれていることもあり、一人に絞り込むことは難しいが、ある程度の勢力図は目に見えている。
 宮野真依。水泳を通して仲良くなった彼女は気立が良く、クラスの女子のおよそ半数を率いるほどになった。聞いた話では一色くんと良い雰囲気だとか。
 倉敷春香。コミュニケーション能力と分析力に優れていて、まるで相手が望む言葉・行動が分かっているように事を進めることで信頼を構築している人物だ。クラス内からの信頼度は宮野さんには一歩劣るが、クラス外の伝手はかなり有力だと見える。

 その他、人を率いる力は無いものの学力や身体能力が秀でている生徒は何人も居る。実際に授業を通してその能力の片鱗が垣間見えている。
 他クラスの雰囲気はあまり把握できていないが、なかなか優秀なクラスだと素直に思った。無断欠席や遅刻、もちろん暴力事件は起こっていない。
 授業中に少し話したり、眠くなる程度はご愛嬌だろう。
217 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:15:53.07 ID:wv2ppvvR0
 わたしが入学間もない頃に危惧した事態は回避されたと見ても良い。これで一安心して月初を迎えることができる。
 そう、思っていたとき─────。

「Bクラスのヤツが退学になったってよ!」

 つい先ほどクラスを出ていったばかりの、クラスメイトの一人が慌てた様子でそう言い放った。
 退学? 聞き間違い?

「なんか派手に喧嘩したみたいでさ。Cクラスのヤツがひでぇ怪我してて、それをやったのは俺だってBクラスのヤツが自白したらしくて……」

 このクラスから加害者と被害者が出なかったのは幸いだが、その話は非常に居た堪れないものだった。
 怪我の具合も気になるし、退学という処罰の重さ。殴って蹴って骨折程度でも停学が落とし所だと思い込んでいた。
 わたしはその話を一番よく聞けそうなBクラスの前へと赴く。するとBクラスの前だけやけに人が集まっているのが遠くから見ても分かった。
 その中に神宮くんが居るのを視認して近付く。

「あぁ、春宮さん。聞いた? あの話」

「うん。でも、信じられなくて─────」

 その時、ガラッとBクラスの扉が開かれる。
218 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:16:26.06 ID:wv2ppvvR0
 先には一人の男子生徒が居た。

「チッ、もう馬鹿共が寄ってやがる。人の噂ってのはあっという間に広がるもんだな。なぁ、宇垣」

 見覚えのある銀髪の男子生徒に続くように、体格の良い男子生徒が三名出てくる。その内の一人、おそらく宇垣くんは同調するように笑みを浮かべる。

「今日はアイツの退学祝いに─────っと」

 そして偶然、銀髪の男子生徒とわたしの目が合う。
 ゆっくりと人だかりに突っ込むようにわたしの方へと向かってくる。自然と彼とわたしの間には無人の道が出来上がっていた。

「なんだ、お前も来たのか。春宮」

 クク、と彼は笑って見せる。
 薄気味悪い笑い方は、見た者の背筋を凍らせる。

「この一件、興味があるのか?」

「退学になるって相当だと思います。何をしたのか教えて貰えますか?」

「それは生徒会としての言葉か?」

「いいえ、わたし個人のです」

 わたし達から距離を取りつつも、取り囲むように人だかりが出来ていた。全員が退学になった理由を知りたいのだろう。
219 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:16:59.00 ID:wv2ppvvR0
 そんなギャラリーを全く気に留めることなく、彼はもう一度乾いた笑い声を発する。

「そうか、興味があるか。なら─────」

 彼は右手の人差し指を自らの足元へ向ける。

「膝と手、そして額を床に付けてお願いしてみろ」

 理解が及ばなかった。
 もともと彼の素振りからまともな話を聞けるとは思ってもいなかったが、口から出たのは想像を遥かに上回る一言だった。
 土下座をして頼み込め、と。
 入学して間もない頃に彼がわたしに言ってきた『1億ポイント』でのクラス移動の件に通じる吹っ掛け方だ。
 彼とまともに取り合うことは不可能だと判断する。
 踵を返して立ち去ろうとしたとき、さらに後ろから声が掛かる。

「ひとつ教えておいてやる。コレはまだまだ序盤だ。お前にはもっと面白いもん見せてやる。だから今はせいぜい良い子ぶってるんだな。参考までに、今の二年生は149人らしいぜ?」

 その言葉を聞いてわたしは何か反応することもなく、その場を立ち去る。
 すぐ後ろを神宮くんが付いてくる。

「春宮さん、辻堂くんと知り合いでしたか? かなり雰囲気が悪そうなかんじでしたが……」

「前に少しだけね。ただ、そんな話すような仲ではないよ。一方的に喋られているだけ」

「そう、でしたか……。彼は危ない人ですね」

 素行も悪そうな印象を受けたが、何より。

 『コレはまだまだ序盤だ』

 その言葉が示すものは、平和を想定した学校生活を不穏そのものにさせるものだ。
 十中八九、クラスの生徒の退学騒ぎには彼が関係している。つまりこの先に待つのは、彼による退学者の続出。
 ハッタリである可能性も多いにあるが、その後に言っていた二年生の人数が気になる。
 149人。それは11人もの退学者が出ているということ。
 この学校が暴力に対して厳罰を下しているのか?
 その答えは、生徒会室へ行けば直接的なことを聞かずとも分かるだろう。
220 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 18:17:34.36 ID:wv2ppvvR0
◇◇◇

 生徒会室には一年BクラスとCクラスの担任の先生が顔を突き合わせていた。
 錦山先輩は生徒会長の席に腰をかけ、話を聞いている。乙葉先輩や内山先輩も真剣な表情でその様子を見守っていた。

「つきましては本人が望んでいる以上、退学にするしかないというのが学校側の対応です」

「そうですね。妥当…ではないと思いますが、本人の希望であれば仕方がありません」

 話は終盤だったのか、その二言だけ聞き届けて先生が立ち上がる。わたしと神宮くんは生徒会室の扉を開けて見送る。
 扉を閉めた直後、緊迫していた生徒会が弛緩する。

「はぁ……。まーた面倒ごとを持ち込みやがって」

「ほんとだよねー。Bクラスって疫病神みたいな?」

 Bクラスが起こした問題は今回が初めてではないらしい。わたしと神宮くんが知らない間に、何かが起きていたようだ。

「天音と紫苑は気にするな。今回は本人の希望でさっさとケリがつきそうだ」

 そう言われても納得は出来ないが、頷くことしか出来ない。前回の一件すら省かれていたのだから、首を突っ込む余地はないだろう。
 一年Bクラス。辻堂くんという生徒が率いるクラスは、今後わたし達Dクラスの前にも大きく立ち塞がってくるかもしれない。


【週末の自由行動です。
 1.ケヤキモールへ
 2.人と会う
  1.早見有紗(前の席の女子生徒)
  2.宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3.一之宮重孝(全国模試2位の男子生徒)
  4.一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  5.神宮紫苑(同級生の生徒会役員)
  6..花菱乙葉(信頼のできる生徒会役員)
  7..如月深雪(信頼のできる生徒会役員)
 3.寮で本を読む
 4.学校へ
 下1でお願いします。】
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 19:58:14.12 ID:k24mEo9so
7
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 20:01:41.33 ID:k24mEo9so
2-7です、すみません
223 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/19(日) 21:10:19.77 ID:wv2ppvvR0
>>222
 2-7.如月深雪】

 入学して間もない一年生から退学者が出た。
 そんな信じられないような出来事が起きた翌日、わたしは如月深雪先輩こと、ユキ先輩と会う約束をしていた。
 こと始まりは先週に生徒会の会計という役職繋がりで、神宮くんと二年生の和泉紗希さんが遊んだという話から始まる。
 それはそれは盛り上がったようで、同じ書記として前々から親睦を深める意味で休日に会いたいねという話をしていたわたし達の背中を後押しする事となる。
 特別予定も無かったため日程を任せたところ、今日に至るというのが経緯だ。

「……あと30分か」

 時計を見て待ち合わせの時間を確認する。
 この学校の生徒である限り、遊ぶ場所はケヤキモールに限られる。都内の他の学校であれば池袋や渋谷など、遊ぶ場所は多々あっただろう。
 学校の制度として毎月1日に1ポイントイコール1円の価値を持つポイントを多く配布しているため、並の学生のようにお金に困ることは少ない。ただ、それでも遊ぶ場所が限られるというのは残念だと思った。
 とりあえず部屋着から外行きに服に着替えようとしたところで、

【コンマ安価です。
 奇数:ユキ先輩から一通の通知が届く。制服に着替えて、体操着とジャージを持ってこい、と。
 偶数:わたしはそのまま私服へと袖を通す。
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/19(日) 22:38:16.31 ID:QWW5gV0po
225 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:00:27.47 ID:ClJgpcB/0
>>224
 1:ユキ先輩から一通の通知が届く。制服に着替えて、体操着とジャージを持ってこい、と。】

 外行きの服に着替えようとしたところで、机の上に置いていた携帯がピコンと通知音を鳴らせる。
 少し早いがユキ先輩だろうかと考えながら覗き込むと、制服に着替えて体操服とジャージを持って学校の正門前集合と書かれている一文を目にする。
 確かにケヤキモールでランチとか、そういった取り決めはしていなかった。
 少々予想外だが、特別わたしの方でもこのお店に一緒に行きたいとか希望があったわけではないため、すぐ了承の旨をチャットで送る。

「さて」

 ちょうどウォークインクローゼットから私服を取り出したところだったが、すぐにしまう。
 その代わりに制服と体操着、ジャージを取り出す。
 この学校は休日であっても制服でなければ学校の敷地には入れないというルールがある。職員室でもプールでもグラウンドでも、その限りではない。
 やや面倒だなとか、部活やってる人は大変だなとか考えながら支度を済ませる。

「行きますかっ」

 念のために水着も含めて、忘れ物がないかをチェックしてから部屋の戸締りをして部屋を出る。
 エレベーターに乗ると偶然Aクラスの女子と遭遇する。彼女とは神宮くん待ちでAクラス前で佇むとき、たまに話している仲だ。

「わ、春宮さん、今日も学校に? 生徒会?」

「ううん、ちょっと先輩と約束をね」

「へぇー、暑いのに大変だねぇ」

 二人揃って寮のロビーを出ると、むわっとした熱気が襲ってくる。年中ブレザーの制服を強制されている学生にとって、とても辛い時期に入っていくと改めて実感する。
 寮を出たところでケヤキモールへと向かう彼女を見送り、わたしは学校の方角へ。学校までが徒歩五分圏内であることが唯一の救いだろう。
226 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:00:54.40 ID:ClJgpcB/0

◇◇◇

 わたしが到着した頃には先輩が正門近くに立っていた。
 結構早めに着いたはずだったが、先に来ていたユキ先輩に驚きを─────いや、そんなことじゃない。ユキ先輩の格好にわたしは驚いた。

「おはようございます。待たせてしまいましたか? というよりその制服は……」

「おう、いきなり質問だらけだな。まず待ってない。さっき着いたところだ、本当に。で、これはこの学校の夏服だな。ポイントを払えば制服と着る権利を購入できる」

「はー、なるほど! 参考にします!」

 暑さにめっぽう弱い方ではないが、これは良いことを聞けた。この制服も可愛くて気に入っていたが、夏服のデザインも良さげだ。
 本格的な夏になったタイミングでアナウンスされるのだろうか。そんなことを考えながらユキ先輩の後を着いていく。
227 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:01:30.82 ID:ClJgpcB/0

「今日は何するんですか?」

「ちょっとばかし生意気な陸上部をシメにいく」

「……乙葉先輩もですけど、物騒ですよね」

「ん、そうか? アイツが去年も一昨年もこんなかんじで殴り込みしてたからな。移ったのかもしれない」

 稀に部費の相談などで生徒会室を訪れる各部の部長を乙葉先輩は幾度も追い払っている。門前払いとでも言いたそうに、生徒会長である錦山先輩まで辿り着かせようとしない。
 ただその後、副部長の新汰先輩と会計の紗希先輩が生徒会室を追い出された部長らと会合の場を設けているらしい。まともな会話はそこで成立しているため、今のところは苦情が寄せられていない。
 そうこうしているとグラウンドに着く。
 わたしとユキ先輩の姿を見つけた一人の男子生徒が近寄ってくる。

「ユキ、そいつが例の一年か? 水泳、バスケ、サッカー、テニス、卓球、それだけに懲りず今度は陸上の道場破りか?」

「そうだ。そろそろ乙葉がゴネる頃だからな。この部活にも生徒会の糧になって貰う」

「そいつぁ良い度胸だな」

 そう、わたし達をが勝利を収めたのは水泳だけでない。あの後、バスケット部とサッカー部、テニス部、そして卓球部と対決をして全てで白星を勝ち取っている。
228 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:02:05.69 ID:ClJgpcB/0
 気を良くした乙葉先輩はすべての部活にご飯奢りを掛けた試合を申し込もうとしてたところを、生徒会役員全員で止めた─────はずだったが、これはどういうこと?
 側からは進んで喧嘩を売っているように見える。

「新庄、お前は長距離だったな」

「いや、そうだけど、流石にキツイだろ。1対1で単純なタイム争いは。せめて十人でリレーとかあるだろ?」

「生憎、中途半端な奴を入れる気は無い。こっちは私と天音の二人だ。そっちはお前と一年の女子生徒を出せ。距離は400メートルと600メートルだ」

「なるほど、わかった。それで決まりだ。文句は言うなよ?」

 ひとまず話はまとまったようだ。
 わたしとユキ先輩は体操着に着替えるため更衣室へと向かう。その道中、ルール決めの真意について問う。

「どうして400と600なんですか?」

「単純にグラウンド一周が400だからだ。400と400でも良かったが、どうせなら1キロちょうどにしたいと思ってな」

 この話題はそれほど盛り上がることなく、ただ単にこのグラウンドが400メールであることを知るだけとなった。
 思いがけず休日に道場破り対決となってしまったが、ユキ先輩と乙葉先輩が喜んでくれれば文句はない。それにわたしも奢りでご飯を食べられるというのは胸躍る権利だ。ご飯のためにも頑張ろう。
229 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:02:35.20 ID:ClJgpcB/0

◇◇◇

 携帯に続々と通知が届く。

『よくやった』

『陸上部は寿司にしません?』

『先日、テニス部とお寿司の約束を取り付けました』

 などなど。『生徒会(仮)』のチャットは休日にも関わらず大盛り上がりを見せた。
 女子更衣室に設置されたベンチに腰掛けるユキ先輩は楽しそうにそのやり取りを見ている。

「大喜びだな」

「ユキ先輩がリードを作ってくれたおかげです」

「そのリードをキープ出来ただけでも上出来だ」

 前半の400メートルをユキ先輩と陸上部の1年生が走り、その後の600メートルはわたしと陸上部部長の一騎討ちとなった。
 ユキ先輩が作った10メートルほどのリードをキープし続けてゴールし、対陸上部も生徒会の勝利で幕を下ろす。

「にしても、やるなぁ天音。これまで3年生を相手に連戦連勝じゃないか。これでは3年生のメンツが丸潰れだ。不得意な競技は無いのか?」

「苦手かどうかは分かりませんが、走り高跳びとかはやったことが無いですね。あと弓道とかも」

「なるほど。走り高跳びはともかく、弓道の経験者は生徒会に三人いる。弓道部との対決はアイツらでやるか」

 早速、次の部活に対して宣戦布告を考えている様子。
230 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:03:02.92 ID:ClJgpcB/0
 この半月の間、部活動との対決ばかりだ。肝心の生徒会としての仕事はほとんどしていない。わたしの知らないところでBクラスのいざこざを対応していたという話は聞いたが……。

「よし、ちょっと外で動こうか。1時間くらい遊んだらケヤキモールに行こう。勝利祝いだ、多少は奢ってやる。いや、そういえば飲み物の礼がまだだったな」

 ユキ先輩と最初に出会ったとき、わたしは水泳の授業で一位を取ったボーナスとして5000ポイントを貰った。その臨時収入をもとにユキ先輩達には飲み物を奢ったこともあった。

「今日は勝利祝いといこう。飲み物の礼はまた今度させてくれ」

「はい、わかりました。ご相伴に預かります」

 時刻は11時前。
 これから少し動いてシャワーを浴びて移動すればちょうど良い時間になるだろう。
 ご飯のことを楽しみにしながら、わたしはユキ先輩の後ろを着いていくようにして外に出た。
231 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 12:03:36.15 ID:ClJgpcB/0

◇◇◇

 陸上部との激闘を終えたわたし達はケヤキモールへと移動する。休日に制服を着ているのは少し浮いているような気もするが、周りからの視線は特に感じなかった。

「天音、なに食べたい?」

「涼しいのが良いです。お蕎麦とか」

「よし、じゃあ蕎麦屋にしよう」

 制服を着て学校からモールへ移動するだけでかなり体温が上がった実感がある。冷たいもので一息つきたいという思いが強かった。
 ケヤキモールの三階にあるお蕎麦屋さんは少し混み合っていた。10分ほど外の待合席で待機して店内へ移動する。この間もわたし達の間に会話が途絶えることなく、またユキ先輩は多数の生徒に話しかけられていた。二年生、三年生からの人望が厚いと見える。

「好きなの頼め。ポイントは気にするな」

「じゃあ、ランチセットAで……いいですか?」

「また安いのを頼んだな。上でも特でも好きなの頼んでも良かったのに」

 ざるそばとミニ天丼もしくはミニカツ丼のセットで700ポイント。おそらく一般的な価格、あるいは少し良心的な価格か。
 ユキ先輩もわたしのと同じものを注文して待つ。


【安価です。
 1.「ユキ先輩は乙葉先輩達とは長いんですか?」
 2.「ユキ先輩って料理とかできますか」
 3.「そういえば図書室って利用したことありますか?」
 下1でお願いします。】
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/20(月) 12:56:25.95 ID:4VQedhm60
2
233 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 15:44:49.81 ID:ClJgpcB/0
>>232
 2. 「ユキ先輩って料理とかできますか」】

 料理が運ばれてくるのを待っている間、ふと思いついたことを聞いてみる。

「つかぬことをお伺いしますが、ユキ先輩って料理とかできますか?」

「急だな。まぁ、苦手ではないと自負しているよ。得意とも言えないがな。もう2年間も寮で1人暮らしをしているんだ。嫌でも覚える」

「そうなんですね!」

 そっか、まだわたしは寮生活を始めて1ヶ月。
 まだまだある寮生活の間に料理の技術を身に付ければいいのか。

「残念だが、この学校に調理部はない。お得意の道場破りは出来ないってわけだ」

「いえ、わたしは料理が出来ないので、もし調理部があっても勝負にもなりませんよ」

「そうなのか? 意外だな。てっきり料理も出来ると思ってた」

「……壊滅的なんですよねぇ。本屋さんに置いてあるレシピ本は暗記したんですけれど、どうにも上手くいかなくて」

「暗記するな。買えよ。というか寮に備え付けのパソコンでも携帯でもレシピが見れるだろ」

「それでやっても上手くいかないんです…」

 先週に煮込み料理に挑戦して以降、平日の夜に何度か台所に立って料理に臨んだ。その結果は壊滅的。もはや才能が無いと確信するほどだった。
234 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 15:45:16.91 ID:ClJgpcB/0

「そうか。なら、夏帆を頼るといい。アイツは実家が洋食屋で、何度か作って貰ったがどれも絶品だった。手際も良いし、学べることもあるだろう」

「はい、わかりました。頼ってみます」

 夏帆とは、副会長の1人である四条夏帆さんのことだ。穏やかな佇まいをする方で、放課後の生徒会室ではよく乙葉先輩のお世話をしている。
 かなり話しやすい人で、わたしも何度か話したことがある。頼るのは難しくなさそうだ。

「お前には運動部との対決で活躍して貰っているからな。夏帆も二つ返事で了承してくれるだろう」

 上級生の一部からは道場破りキャラとして警戒されているという悪評を耳にしたが、それでも生徒会のメンバーからは好意的な目で見て貰えている。
 来週か再来週、夏帆先輩に連絡してみるのもアリかもしれない。
 今後の予定が決まったところで料理が運ばれてきて、少し遅めのランチを取る。
 書記ペアの親睦会かつ祝勝会と称したそのランチは会話が途切れることなく盛り上がり、その後はカフェで一息ついて夕方頃に解散となる。
 今日はかなり充実した一日になった。
 そんな感想を抱きながら、一日を終える。
235 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/20(月) 15:45:47.49 ID:ClJgpcB/0
【一旦ここまでにします。今晩、続きをします。
 現在の色々です。
 春宮天音
 学力:97(超優秀)
 身体能力:99(超優秀)
 直感・洞察力:91(優秀)
 協調生:53(普通)
 成長性:74(高)
 メンタル:86(高)
 料理:25(下手)
 音楽:17(下手)
 残ポイント:67850ポイント

 1年Dクラスからの評価:話しやすく、勉強もできて運動もできるため頼り甲斐のある人物。
 1年Dクラス以外からの評価:去年の全国模試で一位を取り、運動神経も抜群らしい。もし敵対するようなことがあれば要注意。
 2年生からの評価:3年生の運動部部長を負かしている1年がいるらしい。
 3年生からの評価:道場破りのつもりか、手当たり次第に勝負を挑んでは勝ちをさらっていく。厄介者であることは否めないが、その身体能力の高さは認めるしかない。
 生徒会からの評価:超絶優秀な1年が入ってきた。
 担任の先生からの評価:素行は非常に良く、クラスメイトに勉強を教えたり、体育の授業では積極的に他の生徒のフォローに回るなど状況が良く見えている生徒です。生徒会に連れられて色々な部活に顔を出しているそうですが、本人が望んで双方が納得のいくように事が収まっているのなら良いのではないでしょうか。今後もDクラスを支える人物として成長していただき、将来的には学校を支えられるようになって欲しいと思います。】
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/20(月) 15:57:01.95 ID:vN8FU7k30
よう実度外視したなら見れるけど
正直よう実っぽくはないですね
237 : ◆yOpAIxq5hk [sage]:2021/09/20(月) 16:28:08.08 ID:n4KgulOUO
ID変わっていますが>>1です。

>>236
現在、ちょうど4月が終わった段階になります。
5月1日に学校の制度について改めて説明、中間テストの告知が行われ、中間テスト後は特別試験を考えています。

今のところはただの学校生活ですが、この後からよう実らしさを出せればと思います。引き続き読んで頂ければ幸いです。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/20(月) 19:51:15.78 ID:2661leSio
乙 期待
239 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:00:14.27 ID:6iS857jM0
【昨日は続きが出来ず申し訳ありませんでした。
 再開します。】
240 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:00:39.70 ID:6iS857jM0

 5月1日。
 わたしは起きて真っ先に学生証端末を起動した。
 顔写真、氏名、学生番号、クラス、そして保持ポイント。昨日と一箇所だけ変わっている部分に注目する。

『138850ポイント』

 昨晩まで『67850ポイント』であったことを考えると、今日5月1日の振り込まれたポイントが『100000ポイント』でないことは一目瞭然だ。
 覚醒しきっていない頭の中で引き算を行い、増額されたポイントを算出する。『71000ポイント』。
 入学時に配布された額には至らないが、これはなかなか上出来なんじゃないだろうか。わたしの見立てでは最悪『1ヶ月0ポイント生活』もあり得た。
 そんなポイントの増減についても今日話が聞けるだろう。Dクラスだけでなく、他クラスの間でもこの話題は尽きないはずだ。
 身を起こし、身体を伸ばしながらカーテンを開く。
 灰色の灯りが部屋に射し込む。それは真っ黒な雲が太陽の光を遮っているからだった。今日は雨らしい。なんとなく月の始まりと週の始まりが重なる今日がこんな天気だと気分も憂鬱になる。

「ふぅっ」

 ため息をすると幸せが逃げる、という一文を割と信用しているわたしは、小さく深呼吸をした。
 何も悪いことなんてなかった。ポイントについては最悪のケースを避けられたし、こうして雨が降る前に目を覚ましたことも幸運だった。
 さて、雨が降る前に学校に行ってしまおう。少し早すぎる時間だが、本を読むなり自習するなりやることはいくらでもある。
241 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:01:13.95 ID:6iS857jM0

◇◇◇

 珍しく教室に一番乗りしたわたしは1日のスケジュールを確認した後、なんとなくタブレット端末を手に取って自習を始める。
 とっくに学習し終えている高校一年生の範囲の教科書に真新しいことは書いていないが、それでも過去の偉人らが見つけてきた功績を眺めるのは悪くない。
 特に化学は好きだ。元素とか格好良くてテンションが上がる。これを見つけた人はすごいなぁと思う。
 ただ同時に『料理は化学』と世間的に言われていることを思い出す。

「……空腹か、愛か」

 わたしは誰も居ない教室で独り言を呟く。
 化学のことは理解しているつもりでも、料理は上手く出来ない。そこに足りないのは第二、第三の要素。つまり空腹もしくは愛というスパイスに他ならない。
 空腹が最大のスパイスである訳は理解できる。お腹が空いている時に食べるご飯は美味しい。それは間違いない。
 なら、愛はどうなのか。
 空腹が口に入れるときに美味しく感じる要因だとすれば、愛は作っている最中だろう。わたしも大切な人に手料理を振る舞う機会があれば、自然と愛を込めることが出来るのだろうか。
242 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:01:52.04 ID:6iS857jM0
 その辺りも含めて、生徒会一料理上手な洋食屋の娘である四条夏帆さんに聞いてみよう。実際のところは愛情なんて不要だと一蹴されるかもしれないが─────。

 と、そのときだった。
 ガラッと教室前方の扉が開かれる。

「あれ、早いね、春宮さん」

「ぁ……望月くん、おはよう」

 爽やかな格好良い男子生徒、望月弘人くんが姿を見せる。
 思い返せば彼は、いつもわたしが登校した頃には席に着いていた。今日のように一番乗りを日常的にしているのかもしれない。
 連日の一番乗り記録を阻んでしまった罪悪感を胸に、一応聞いてみる。

「望月くんはいつも早いの?」

「そうだね、この1ヶ月は毎日一番を目指していたよ。五月早々に阻まれてしまったけどね」

「う……ごめん、じゃあわたしが五月担当ということでどうかな? 四月は望月くん、五月はわたしということで」

「あはは。いいよ、そんなの。それこそ五月病ってヤツになりそうだ」

 そう言いながら彼自身の席に着いてわたしの方を向き、一呼吸を置いた後に続きを話す。
243 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:02:18.35 ID:6iS857jM0

「自らに何かを強いることは過ちだ。目標を掲げて突き進むのが人間─────って、僕のお世話になった人が日常的に言っていてね。こうして一番乗りを目標にして努力する分にはいいけど、朝5時とかに目覚ましをかけて無理やり来るのは違うんじゃないかって」

「……おぉ。なるほど。良いこと言うね、その方」

 こうして望月くんと話す機会は初めてだったが、非常に興味深いことを聞けた。一理ある、どころか全面的にその意見には肯定したい。
 そこでふと、彼という存在について思い出す。
 望月くんといえば、四月上旬に行われた水泳の授業でどうにも本気を出していないように見えた。このクラスでも随一の運動神経を持っていそうなのに、彼は九位という結果に留まった。そのことが気になって仕方がなかったのに、すっかりと失念していた。
 この機会に、遠回しに聞いてみよう。

「今日も水泳の授業あるね」

「そうだね。温水プールが完備されているとはいえ、四月から水泳の授業なんて珍しいよね。おかげで未だにグラウンドを使った授業をしていない訳だけど」

「珍しいよね。ところで、」

「ところでさ、聞いてもいいかな?」

 ずっとこちらを向いていた望月くんが、ここで立ち上がった。わたしの言葉に被せてきたことも込みで、ややプレッシャーを感じる。
 ところで、何を聞いてくるつもりなんだろうか。
 カツ、カツと足音が近付いてくる。
244 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:02:49.82 ID:6iS857jM0
 彼は、私の前で窓の外を眺めるように佇む。
 その姿は、なんだか見覚えがあるような気がした。

「いや、今のは春宮さんの言葉を遮っただけだ。特に深い意味はない。ただ本当に、僕のことはあまり詮索しないでくれって話だ。訳ありな人間なんていくらでもいるんだから」

「……うん、そうだね。わかった。望月くんが何でどんな結果を残そうと、わたしは関与しない。ただ、テストで赤点を取らない限りは」

「面倒見が良いんだね。でも大丈夫、高校生程度のレベルの低い学習はとうの昔に終えたから。まぁそれでも春宮さんには劣るのかな?」

「やめてよ、そんなことないって」

 わたしの否定が届かなかったように、彼は続ける。

「そんなことあるよ。君の学力、身体能力は『僕たち』に負けず劣らず─────いや、それ以上かもしれない。一体どうやったらそうなれるのか教えて欲しいところだけど、これ以上はやめておく。君が僕のことを詮索しないと約束してくれた以上、僕も礼儀は尽くす」

「……あー、その、えっと……」

「だから僕たちは敵対し合うことはないと思うんだ」

 彼はそう言った後、「ふぅ」と軽く息を吐いた。
 そして改めてわたしの方を向いて笑顔を見せてくれる。
245 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:03:22.62 ID:6iS857jM0

「─────ノリが良いんだね、春宮さんって。ノってくれなかったらどうしようかと思った」

「うん、でも途中のセリフ忘れちゃった。ごめんね?」

「気にしないで、僕もなんだか適当なことを口走っちゃってた気がするから。会心の出来だったよ」

 そう、この一連の流れは昨晩放送されたドラマのシーンをなぞったもの。
 わたしたちの入学式前日に第一話が放映された高校を舞台にしたドラマは、毎話で視聴者の期待を遥かに上をいく展開が続いて各地で話題になっている。当然、この学校の中でも話題に挙がることは多い。
 望月くんが今にも雨降り出しそうな外を眺めている姿を見て、昨晩の記憶が鮮明に甦った。役者の経験は無かったが、なかなか上手くできたんじゃないだろうか。最後の方はセリフが飛んでいたけど。

「うん、まぁ、今話したのは事実だからよろしく」

 気軽に言って彼は自席へと戻っていった。
 確かに会話の内容はとてつもない才能を隠す男子生徒が主役のドラマと酷似している。ただ、その全てが演技というわけではない。
 彼は詮索されることを嫌っているようだった。
 ならわたしは詮索しないでおく。これを冗談だとは受け止めずに。彼は真面目に授業を受けてくれている。それだけで十分だ。
246 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:04:00.36 ID:6iS857jM0

◇◇◇

 朝のホームルームを報せるチャイムが鳴ると同時に、くたびれた背広を着た伊藤先生がやって来る。
 表情、無精髭、ボサボサの髪、足取り、その全てが先週と何ひとつ変わらなかったものの、なんだかいつもと異なる雰囲気を感じた。
 教壇に立ち、出席簿を教卓に置いた直後、教室前方から早速声が上がる。

「せんせー、今日のポイントなんですけどー。71000ポイントってバグっすか? いや十分ではあるけど、足りないっていうかー」

 そうそう、とクラスから賛同の声が上がる。
 1人暮らしのため様々な出費が嵩むとはいえ、71000円分のポイントは高校生にとって多すぎる。
 寮の宿泊費や電気水道ガスなどが徴収されない以上、食費を抜いても十分すぎるほどに余る。そのため強い声こそ上がらなかったものの、多少の意見はこうやって飛び出る。

「今から説明します。えー、Cクラスの皆さんはよく聞くように」

「C? いや、せんせ─────」

 先生の後ろにある電子黒板の画面が切り替わる。

Aクラス:979ポイント
Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント
Dクラス:435ポイント
247 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:04:42.05 ID:6iS857jM0

 わたしたちDクラス─────いや、Cクラスの隣には『710ポイント』と記載されていた。
 これは今朝振り込まれた『71000ポイント』と無関係でないことはすぐに分かる。

「えー、この学校では、クラスの成績や評価が毎月一日のポイントに関わってきます。授業中の私語31回、授業中に携帯を触った回数15回と、例年のDクラスと比較するとマシな方でした」

「な、なんだよ、それ…!」

 クラスの一人がそう呟く。
 彼は私語と携帯を弄った者に該当しない方だろう。
 連帯責任という形でポイントの減額をされるのは、決して額の問題ではなく心の負担になる。

「当初、こちらのポイントは全てのクラスで1000ポイントでした。お気づきの通り、100を掛けた数字が振り込まれるわけですが─────先ほど言ったマイナス事項を踏まえて710ポイント、ひいては71000ポイントというわけです」

 クラス中からヒソヒソと声が挙がる。
 その大半は『無いよりはマシだった』というものだが、そもそも告知もせずにそんな監視のような真似をされていたことに腹を立てる声も聞こえて来る。

「Sシステム─────リアルタイムで生徒の成績を査定して、数値として算出するアレですが、まぁその辺りは良いでしょう。率直に言って、上出来でした」
248 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:05:15.92 ID:6iS857jM0

 先生は一呼吸ついて、電子黒板に表示された数字に改めて注目する。

Aクラス:979ポイント
Bクラス:719ポイント
Cクラス:710ポイント
Dクラス:435ポイント

「四月まではBクラスにあったクラスがこの五月からはDクラスへと降格しました。見ての通り、ポイントの高い順にクラスが変わります。これからの学校生活でCクラスの皆さんが超まじめに授業を受けてテストでも良い点数を取れば、Aクラスにもなれるということですね。一方で、悪さをすればDクラスにもなります」

「……なんの意味があるんですか、AとかDとか」

「卒業後の進路に関わってきます。えー、そう、皆さんはこの学校の特典目当てで入学してきたと思います。この学校を卒業すれば良い会社、良い大学に進学できる、とかそういうアレです。全員がそんな都合の良い話にありつけるとでも? そんなわけないですよね」

「っ……」

「言い方は悪いですが、Aクラスが優秀なクラスであることに対して、Dクラスは不良品とかガラクタとか、そうやって揶揄されることがあります。先ほど言った特典はもちろんAクラスで卒業をした生徒のみです」

 クラス内が静まる。
 入学できた時点で勝ち組だと息巻いていたからだ。
 実際はAクラスで卒業しなければ、意味がないと分かったこの段階で各々が考え込むのも無理はない。

「ただ、先ほども言った通り上出来だったのは間違いありません。多少の反省点はあるものの、もう早速Cクラスに上がっているんですから。それにBクラスとの差も9ポイント。授業中に携帯を一回触る度の減額ポイントについては教えられませんが、ほんの少し控えていればあなた達はBクラスでした」

 次は「おぉ」と声が挙がる。
 それでもAクラスとの差は200ポイント以上と、決して大きくも小さくもない数字の差があるが、十分に巻き返す機会は多くあると見える。
249 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:05:43.94 ID:6iS857jM0
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250 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:06:10.16 ID:6iS857jM0
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251 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:06:55.51 ID:6iS857jM0
 それにBクラスから落ちてDクラスとなったクラスとも300ポイント近くの差が出来ている。これから差が縮まる、広がることを考えてもこの結果は非常に良いと言える。

「こちらの数字はいわゆるクラスポイントと呼ばれているものです。そして皆さんに振り込まれたポイントはプライベートポイント。つまり今月は710クラスポイントに、71000プライベートポイントとなります」

 淡々と説明を続けていく先生に、一色くんが立ち上がって質問をする。

「先生、ポイントがマイナスされることは分かりました。逆に、増えることはあるのでしょうか。今後、ただ減る一方ということは……」

「もちろんあります。全部のクラスがただクラスポイントを減らすだけで順位を付けていくわけではありません。直近で言えば次の中間テスト。最大で100クラスポイントを獲得できます」

 100クラスポイント。それはこの1年Cクラスの生徒に等しく10000円分のプライベートポイントが支給されるということ。
 あくまでも最大という前提付きだが、これはBクラスに勝るため、そしてDクラスを引き離す意味でも重要な試験となる。

「つきましては、こちらをご覧ください」

 先生が手元のリモコンを操作すると、画面が切り替わる。
252 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:07:22.42 ID:6iS857jM0
 見出しには『小テスト結果』と書かれている。
 中学生レベルの問題も出されたあのテストだ。
 いずれの教科でもわたしの名前が一番上に100点と付いて表れていたのは喜ばしいことだが、先生の意図は他にある。

「次回以降の中間テスト、期末テストで赤点となった生徒は退学となりますので、ご注意ください」

 皆が息を呑む。
 赤点を取ったら補修ではなく、退学。
 それはこの学校から追放されることを意味する。
 無茶だと思う反面、この学校が政府の息がかかっているということ、広大な敷地の中にはケヤキモールという巨大な施設があること、曲がりなりにも入学式当日に10万円分のポイントが支給されていたこと、そして今朝7万円分のポイントが支給されたことを考えると、そういった超特権的なことをしてもおかしくはない。

「以上でホームルームを終わります」

 先生はそう言い残して締め括り、教室を出て行く。
 退学というワードを聞いて呆然とする生徒を残して。


【赤点候補の人数を決めます。
 0:赤点候補なし
 1〜3:10人
 4〜6:5人
 7〜9:3人
 人数によっては勉強会を開いたりなど強制的なイベントが発生します。
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/21(火) 22:14:49.72 ID:Ev35Cg4H0
254 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 22:52:04.09 ID:6iS857jM0
>>253
 2:10人】

 ホームルームが終わってすぐ、わたしは電子黒板に映ったままの小テストの結果から赤点の可能性がある生徒の名前をノートに書き連ねていく。
 このままいけば赤点になる生徒、赤点になる可能性のある生徒を合わせて10名。なかなか危うい。
 クラスの中がまだ騒然とする中、一色くんが教壇に立って2回手を叩いて注目を集める。

「みんな、気持ちは分かるけど落ち着いて。今はとりあえず再来週の中間テストに備えよう」

 その言葉は赤点候補者へと発せられた言葉。
 事実を重く受け止める者、退学という単語をチラつかせて脅しているだけだと冗談のように受け止める者、興味なさそうに携帯を弄る者と反応は様々だ。

「放課後組と部活動組で2つのグループを作って勉強会を開こうと思う。この前の小テストで危ないと思った人は是非参加してほしい」

 部活動をしていない生徒は17時から、部活動をしている生徒は20時からの2つに分けて勉強会を提案する。
 赤点候補者のうち半数は部活動に所属している。一度に全員の面倒を見るよりは少人数ごとの勉強会を開催した方がずっと有効だろう。
 ただ問題は、該当者が勉強会に参加するかどうか。
 後ろの席から様子を見ている限りでは、せいぜい半数が真面目に取り組めば良い方。すんなりと全員が勉強会に参加すると手を挙げることはないだろう。


【気付きコンマ判定。
 直感・洞察力:91(優秀) のためほぼ気付きます。
 4:気付かない
 それ以外:クラスから退学者が出た場合について
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/21(火) 23:04:05.54 ID:ZaXLtMCMo
はい
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/21(火) 23:04:31.50 ID:ZaXLtMCMo
あっ
257 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:54:01.06 ID:6iS857jM0
>>255
 4:気付かない】

 放課後、わたしはすぐに生徒会室へ向かうことなく一色くんの席へと近付いていた。
 他でもない赤点候補者への勉強会について進言しておきたいことがあったからだ。

「一色くん、今いいかな?」

「あぁ春宮さん。生徒会はいいのかい?」

「うん、まだ大丈夫。どうせゲーム……じゃなくて、16時過ぎまではのんびりしてると思うから。で、勉強会のことなんだけど、わたしも参加してもいいかな?」

「春宮さんが? それは願ってもないことだけど、色々と忙しいんじゃないの?」

「今のところ運動部に混ざって運動くらいしかしていないからね。全然忙しくないよ」

 一色くんの所属するバスケ部とは2週間ほど前に対決をして勝利を収めている。その場に居た彼なら、わたしが生徒会で何をしているのか想像がつきやすいだろう。
 本当にわたしは生徒会で何をやっているのだろうか、という疑問は置いておいて、今は勉強会の予定について集中する。
258 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:54:32.67 ID:6iS857jM0

「それを言うなら一色くんも練習で忙しいんじゃない? 20時からの勉強会も毎日は大変だよね?」

「そうかもしれないけど、このクラスから退学者なんて出させれないよ。僕にできることならなんだってやるさ」

 彼の目には強い炎が宿っているようだった。
 嘘偽りなく、彼は純粋にこのクラスを大切にしているようだった。

「それでも1人より2人居た方が良いでしょ? お邪魔でなければわたしもいいかな?」

「うん、わかった。じゃあお願いする。夕方17時からの勉強会の先生役はもう他の人にお願いしたから、僕たちは20時からで。もちろん忙しかったりする日は来なくてもいいからね」

 わたしは頷く。
 これで赤点候補者の進行度を近くで確認できる。
 さて、とはいえ問題はここからだ。
 先生役として勉強会に参加すること自体は、こうやって声をかけるだけでなんとかなると想定がついていた。しかしこの先、問題は生徒役である赤点候補者が集まってくれるかどうかが問題だ。

「で、来てくれるのかな? みんなは」

「幸い、部活動をやっている人で危なそうな人は全員了承してくれたよ。毎日は無理かもしれないけど極力参加するって」

「あ、そうなんだ。よかった」
259 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:55:13.01 ID:6iS857jM0

 もちろん今の言葉には裏がある。
 部活動をやっている人は、と前置きをした以上、放課後組に勉強会を拒否した人間が居ることは間違いない。彼なりに気を遣って遠回しに言ってくれたんだろう。
 ここで変な駆け引きをしてその正体を探ることこそが無駄だ。わたしは直接聞くことにした。

「放課後組の方はそうもいかなかったんだね」

「……うん、実はね。ただそっちは僕の方でなんとかしてみるから大丈夫だよ。春宮さんは気にしないで」

「一色くんだけに任せるなんて出来ないよ。わたしもこのクラスの一員なんだから、出来ることは協力させて」

 今朝の望月くんとのやり取りを引きずっているのか、ドラマのような台詞を口にしてしまった。
 ただ、これは本心そのものだ。たった1ヶ月を過ごしただけでもこのクラスの雰囲気は好きな方だ。全員と仲良くなれた訳ではなくても、欠けることは避けたい。
 一色くんは指の先を頬に当て、少し掻くような仕草をして対象者の名前を口にする。

「そうか、わかった。雨宮さんだよ。彼女には僕の方から何回か伝えたんだけどね。うまく取り合ってもらえなかった」

「雨宮さん……」

 廊下側の真ん中の席の女子生徒だ。
 わたしが春宮であるため、少し苗字が似ているなと思っていたくらいの生徒。たったの1回も話したことがないような関係性だ。というより声を聞いたことがないというレベルで人と話している姿を見たことがない。
260 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/21(火) 23:55:41.31 ID:6iS857jM0
 それでも一色くんよりは、同性であるわたしの方が話して貰える可能性は僅かに高い。アタックしてみる可能性はあるだろう。

「うん、わたしの方からも声をかけてみるよ」

「うん、そうしてもらえると助かるよ。難航するようだったら声をかけて。僕にも出来ることがあるはずだから」

 協力的な言葉を戴いて、その場は別れる。彼はバスケ、わたしは生徒会の仕事をするため別々の道を歩き始める。
 その移動時間の中、わたしはやるべき事を整理する。

 第一に20時から行われる勉強会に参加すること。
 第二に放課後組の不参加者である雨宮さんを説得すること。

 雨宮さんはギリギリ赤点になる恐れがある程度のため、本番ぶっつけでもなんとかなる可能性が高い。しかしどうしても退学という自体は避けて欲しい。そのためには勉強会への勧誘は必須となる。
 ふぅ、とりあえず今は生徒会だ。今日は道場破りの予定が入っていなかったため、久しぶりに本来の業務につくことが出来るだろう。


【気付き判定。
 先程のとは異なります。
 直感・洞察力:91(優秀) のためほぼ気付きます。
 4:気が付かない
 それ以外:この試験の攻略法に気付く
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/22(水) 00:02:40.54 ID:V2U0yWVho
あ0
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/22(水) 00:42:50.68 ID:3JKs1XNy0
2連ピンポで草
263 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 10:28:38.47 ID:rlQZRnFe0
【昨日は出来ませんでした。
 再開します。】
264 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 10:29:14.18 ID:rlQZRnFe0
>>261
 4:気が付かない】

 その日の放課後、わたしはいつも通りAクラスの前で神宮くんを待つ。
 半月前は外を眺めたり携帯を触ることが彼を待つことが多かったが、ほぼ毎日こうしてAクラスの前に立てば知り合いも増えてくる。色々な運動部に顔を出していることも手伝って、顔見知りの人は日に日に増して行った。
 今日も先日エレベーターで一緒になった女子生徒と5分ほど話し込み、神宮くんが来たタイミングでお別れをする。

「いつもごめんね。あんまり待つようなら先に行ってくれてもいいのに」

「ううん、気にしないで」

 わたし達はBクラス、Dクラス、Cクラスの教室の前を通って生徒会室へと向かう。
 会話は無い。お互いが廊下を歩き、階段を降りる音だけを響かせる。
 いつもは雑談が絶えないわたしたちでも、今日ばかりはそうもいかない。それは今朝の事が原因だろう。

『Aクラスで卒業しなければ志望した就職先や進学先に進むことは出来ない。ひいてはBクラス、Cクラス、Dクラスで卒業した場合の進路の保証は無い』

 その事実が判明した以上、CクラスのわたしとAクラスの神宮くんは争う立場にある。卒業のとき、どちらかが望む進路を勝ち取り、もう一方は卒業は出来ても入学前に聞かされていた進路の恩恵は受けられない。
265 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 10:29:40.28 ID:rlQZRnFe0
 そこでふと思い出す。
 入学2日目に白髪の男子生徒、辻堂くんがわたしに提案してきた2000万ポイントを支払うことでクラス移動が可能だということを。普通に考えれば現実的ではないが、不可能ではない。
 その手段を用いることで神宮くんと同じクラスになることは出来る。ただ、クラス移動をするなら卒業間際の時点でAクラスの教室に潜り込むのが確実だろう。
 どちらにせよ現時点では2000万ポイントは夢のまた夢で、1年生が始まって間もないこのタイミングは他クラスの状況が把握できていない。力量も測れていない現状ではクラス移動のことを考えるだけ無駄だろう。
 気が付けば職員室前まで来ていた。
 神宮くんはジッと前を見て歩いている。
 もう間も無く生徒会室というところで、


【イベント安価です。
 奇数:「春宮さんはさ、どうしてDクラスに振り分けられたか心当たりはある?」
 偶数:生徒会室へ到着
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 10:50:32.66 ID:p0U6kiCZ0
267 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 11:46:53.19 ID:rlQZRnFe0
>>266
 6:生徒会室へ到着】

 結局、その後一言も話さずに生徒会室へ到着した。
 今日はわたしが生徒会室へと入る旨をチャットで送信した後、扉を開く。
 既に庶務の二人以外が揃っているようで、今日もみんなでゲームをしていた。かなり良いところみたいで携帯に目を向けながら軽く挨拶を交わした後、わたしと神宮くんはいつもの席に着く。

「おう、紫苑、天音。そういえば聞いたぜ? 先月は上手く立ち回ったみたいじゃないか」

 立ち回る?
 その言葉の意味を汲み取れずにいると、錦山先輩は続ける。

「基本的にこの学校は生徒の自主性に任せているからな。無断欠席、無断遅刻、授業中に喋っても携帯を触っても、それが他の生徒に大きく迷惑ならない限りは注意されることもない。ただ、評価は落ちる。何年か前の1年Dクラスは0クラスポイントまで落ちたって聞いたぜ。それに比べれば天音のクラスは良くやってるよ。紫苑のクラスもな」

 錦山先輩はなんてことなさそうに話す。
 常識で考えれば分かることだが、授業中に携帯を触ったらクラスポイントおよびプライベートポイントに影響を及ぼすことを教えて欲しかったというのが本音だが、教えられなかった事情も理解できる。
 学校側から明言されているのか、暗黙の了解的に下級生へ学校のルールを教えることを禁じられているのだろう。教えれば連帯責任としてクラスポイントが減るなど、ペナルティは想像に難くない。
268 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 11:47:20.02 ID:rlQZRnFe0
 それにしても何年か前には本当に『1ヶ月0ポイント生活』を強いられた年があったと聞くと、そうならずに済んで良かったと思う。
 『710クラスポイント』を残して5月を迎えられたことは重畳と言える。

「ま、上出来じゃねーの? 俺たちの代のDクラスは300ポイントくらいしか残ってなかったしな」

「自分のときは250程度でしたね」

 錦山先輩の2年前、そして新汰先輩の1年前のDクラスと比べれば格段に素行が良いようだ。
 現状、後ろの席から傍観しているだけでも特に目立った様子はない。授業態度がポイント評価に直結すると言われれば少なかった携帯を触る行為もほぼ無くなると見ても良い。
 この5月から、クラス間のポイント差が大きく離れることはないだろう。おそらく日々の積み重ねにより追い越した、抜かれたというのが時折発生すると思われる。

「まずは中間テストだな。2人なら退学は無いと思うが、まじで頼むぜ? 生徒会からテストで退学者が出たなんて笑えねぇからな」

 わたしと神宮くんは頷く。
 勉強会の様子次第ではクラスの赤点ラインを下げるため全ての教科で51点を取る選択肢も、頭の片隅で有効な案として思いついている。
 ただ、わたしはわざとテストで手を抜いてすれ違いを起こしてしまった経験があるため、その手段は可能な限り避けたい。
 テストで出そうなところを重点的に教える正攻法こそが最も有効な手段だろうか。ただ、それを3年間続けるというのはお互いに負担になる。自主的に学習して貰えるように矯正して行く必要もあるだろう。


【イベント安価です。
 奇数:四条夏帆(生徒会副会長、料理上手)
 偶数:生徒会の仕事を終えて勉強会へ
 下1でお願いします。】
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 13:32:22.97 ID:CmB9Piz/O
はい
270 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:46:18.28 ID:rlQZRnFe0
>>269
 7:四条夏帆(生徒会副会長、料理上手) 】

 生徒会の業務を終えたのは18時を回った頃だった。
 20時からクラスメイトと勉強会の約束を控え、かなり時間がある。その間に夕食を済ませてしまうべきか。それとも適当に時間を潰すべきか。
 そんなことを考えながら生徒会室の戸締りをして鍵を職員室へ返す。職員室前で乙葉先輩と夏帆先輩が待っていた。
 じゃんけんをして、乙葉先輩が勝ったら夏帆先輩が手元のクッキーを与えている。これは餌付け?
 その光景を少し観察していると、乙葉先輩がわたしに気が付く。

「お、きたきた。おっそーいよ、天音ちゃん」

「すみません、先生と少し話していまして。えっと、わたし待ちでしたか?」

「そーそー。夏帆ちゃんに用があるってユキちゃんから聞いてさ。このわたしじゃなくて夏帆ちゃんなのは何か理由があるのかな?」

 乙葉先輩は自分が頼られなかったことに少し憤りを感じているようだった。しかしその直後に口へクッキーが放り込まれると、すぐに機嫌を直したようだ。
271 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:46:50.25 ID:rlQZRnFe0
 夏帆先輩は乙葉先輩の手懐け方を熟知しているように、口を挟む暇を与えず次々にクッキーを与える。

「天音ちゃんにはお世話になってますから、私に出来ることであればなんでもしますよ?」

 先日ユキ先輩に相談した料理上達の件。
 裏から手を回していてくれたようだ。
 ありがたく、この機会に告白してしまおう。

「わたし、全然料理が出来なくってですね、夏帆先輩に教えていただくことは出来ないかなーって」

「そんなことでいいんですか? それくらいならお任せ下さい! 洋食屋の娘として、きっと天音ちゃんを料理上手にしてみせます。天音ちゃんには運動部の対決でお世話になっていますからね」

 夏帆先輩は笑顔でそう快諾してくれた。
 初めて運動部への道場破りを促されるままに行ってきて良かったと思った。

「ええと、いつがよろしいですか? この後、乙葉先輩と私の部屋でご飯を食べる予定でしたが」

「あ、そうですね…。20時から予定があるんですけど、なんとかなったりしますか?」

「簡単なものなら間に合うと思いますよ。あと1時間と少しありますからね」

 左手に付けたレディース用の腕時計を見て、夏帆先輩は答えてくれる。
 何をしようかと考えていたが、ちょうど有効的に自らを高めることのできる機会に遭遇できた。
272 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:47:17.47 ID:rlQZRnFe0
 ここはありがたく教えて貰うことにしよう。

「わかりました。それではよろしくお願いします!」

「はい、それじゃあ行きましょうか」

 わたし達は2年生の寮へと向かう。
 1年生の寮から近い距離にあるその建物は、この1ヶ月間で近付いたこともなかった。
 中の造りはまったく一緒のようで、ほぼ1年生の寮と変わらない風景を目にエレベーターを上がる。13階で降りたわたしたちは、そのまま夏帆先輩の部屋にお邪魔する。

「わ、かわいいお部屋ですね」

「そうかな? あまり意識してなかったんだけどね」

 カーテンとか掛け布団とか、所々にピンク色が使われている。目に痛くない程度の薄い色は、第一印象で女性らしい可愛らしさを彷彿とさせる。
 未だに白一色なわたしの部屋とは大違いだ。

「乙葉先輩はテレビでも見て待ってて下さいね」

「うん、楽しみにしてるよー。頑張ってね、天音ちゃん」

「はい!」

 手をふらふらと振る乙葉先輩を居間に置き、わたしと夏帆先輩は台所に立つ。
 部屋の作りもまったく一緒のはずだが、調理器具や調味料の整い方はわたしの部屋とは段違いだ。特にスパイスの量が尋常ではない。おそらくスーパーで販売されているものは全て揃えているのだろう。
273 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 14:47:56.69 ID:rlQZRnFe0

「参考までに、苦手なものとかありますか?」

「いいえ、特に。アレルギーも無く、なんでも食べられます」

「そうですか。えっと、時間が無いようですので、ハヤシライスでもよろしいですか? お米を炊いている時間にさっと作れる簡単なものです」

「そんな簡単に作れるんですか?」

「はい。少し裏技的なことをしますがね」

 そう言って夏帆先輩はデミグラスソース缶と野菜ジュースを取り出す。それをどう使うか検討もつかなかったが、洋食屋の娘というポジションが絶対的な信頼度を誇っている。
 その後、わたしは夏帆先輩の指示に従って調理を進めていく。
 結果として絶品の一皿が出来上がった。
 もちろん乙葉先輩にも大絶賛で、わたし自身も信じられないほど美味しいと感動する。
 今回のことからわたしが得た教訓は、既製品のものを利用することは悪ではないということ。デミグラスソース缶を利用することで何時間も煮込んだかのようなハヤシライスを作ることが出来た。
 そこには化学も愛もないことを知る。
 早速、明日も1人でハヤシライスを作ってみようと意気込んで、夏帆先輩にお礼を言って2年生の寮を離れる。
 時刻は19時45分。
 勉強会まで残り15分と、ちょうど良い時間だ。


【料理スキル上昇
 現在:料理:25(下手)
 基本的にコンマ1桁で決めます。減少はありません。
 1:プラス1
 2〜4:プラス3
 5〜8:プラス5
 9・0:プラス7
 2桁がゾロ目:プラス10
 下1でお願いします。】
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 15:10:05.49 ID:p0U6kiCZ0
275 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 15:27:31.11 ID:rlQZRnFe0
>>274
 9:プラス7
 25 → 32(ちょっと下手)


 勉強会に行く前に、人に教える能力を決めます。
 コンマ反転 27 → 72

 01〜19:下手
 20〜39:ちょっと下手
 40〜59:普通
 60〜79:ちょっと上手
 80〜90:上手
 91〜98:かなり上手
 ゾロ目:かなり上手

 学力:学力:97(超優秀) ボーナスで
 反転後の値にプラス15します。
 下1のコンマ2桁反転でお願いします。】
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 16:12:16.85 ID:+xjZVp7I0
ゾロ
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 17:48:46.34 ID:CmB9Piz/O
普通ですね…
278 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 20:25:20.03 ID:rlQZRnFe0
>>276
 85 → 58
 学力ボーナス:プラス15
 58+15 = 73
 73:ちょっと上手】

 19時55分、わたしは7階にある一色くんの部屋のインターホンを直接押す。事前に部屋番号を教えて貰っていたため、玄関から呼び出す手間は省けた。
 間もなくして一色くん本人が扉を開けてくれて、わたしは一色くんの部屋に入る。
 思い返せば男の子の部屋に入ったのは初めてだ。
 内心ドキドキとしながらも居間まで通されると、赤点候補者の5名の男子他、宮野さんが居た。水泳部の練習終わりに合流したようだ。彼女は赤点からかなり遠い位置に居たため、わたしと同じく先生役だろう。

「あ、春宮さん。良かった、男子ばっかりで花がないって思っていたところなの」

 彼女はそう出迎えてくれた。
 そうだね、とも言えず、わたしは宮野さんから遠い位置に座る。先生役が一箇所に固まっていても仕方がない。

「で、どんなかんじ?」

「ひとまずテスト範囲を洗い直しているところだよ。時間はまだあるからね。少しずつ積み重ねていけば問題なさそうだ」

 前回の小テストをもとに、解けていなかった箇所から教えているようだ。
 確かに小テストで出題された問題が本番の試験で出されることも多い。それに中学生レベルの問題も出題されているため、個人の苦手な教科も分かりやすい。
279 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 20:25:50.01 ID:rlQZRnFe0
 一色くんと宮野さんの教え方も上手く、このままいけば問題なく中間テストを越えることが出来そうだった。

「つーか、退学ってマジなのかな。そこんところ、生徒会役員なら知ってるみたいなところない?」

 20時30分、勉強を始めておよそ45分が経過した頃に候補者の1人である明道くんが気の抜けた声色で呟く。
 ここまで拍子抜けと思わせてくれるほど真面目に勉強に取り組んでいてくれたため、私語として咎めることはない。
 わたしへ向けられた質問に対して、わたしは嘘偽りなく率直に答えることにした。

「たぶん本当だね。今日みたいに多額のポイントを生徒全員に支払ってるなんて普通じゃないでしょ? だったら赤点を取っただけで退学なんてことも有り得る話なんじゃないかな」

「はー、そうだよなぁ、やっぱなぁ」

「それに生徒会長も生徒会から退学者を出したくないって話をしてた。あ、これオフレコでお願いね?」

 おそらく隠すことでもないが、秘密の話っぽくしておけば信憑性も増すだろうと錦山先輩の言葉を口にする。
 効果は絶大だったらしく、改めて候補者は勉強を再開する。
 わたしの受け持ちは2人、一色くんも2人、臨時参加となった宮野さんは1人に対して勉強を教える。
 幸いにも、わたしの教え方は下手ではなかったようだ。少しずつ理解をしてくれているようで嬉しい。
 そうして21時をまわった頃、本日の勉強会がお開きとなる。進捗次第では22時を覚悟していたが、まったくそんなことはなかった。
 今朝を持ってCクラスとなった女子の部屋は4階上の11階に位置する。宮野さんも11階らしく、エレベーターに乗りながら世間話をする。
 ほんの短時間であったが、部活の話、今日から1ヶ月限定のカフェの新作ドリンク情報など大変有意義な話を聞けた。


【天啓
 奇数:クラスから退学者が出た場合について
 偶数:中間テストを乗り越える方法
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 20:27:40.55 ID:p0U6kiCZ0
281 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/23(木) 21:07:27.66 ID:rlQZRnFe0
>>280
 5:クラスから退学者が出た場合について 】

 5月2日の午前2時、わたしは目を覚ます。
 この人生で最も目覚め良く、まるでスイッチのオンオフを切り替えたかのように頭が覚醒している。
 直前まで学校生活の夢を朧げに見ていた。
 昼は教室で授業を受けて、夕方は生徒会室で業務をこなし、夜は夏帆先輩に料理を教わる。そして2年生の寮からの帰り道、1年Dクラスとなった辻堂くん姿を目にして目を覚ます。
 こんな時間に目を覚ましたのはあの人のせいだと言っても過言ではないだろう。ついさっきまでご飯を食べて幸せな夢を見れていたのに……。
 だが、その一方でひとつ気が付いたことがある。

 元Bクラスは先日に退学者を1名出した。
 退学者を1名出して435クラスポイント。
 そのクラスが4月のうちにどれだけ不真面目に授業を受けてきたかは分からないが、それでも確実にクラスから退学者を出したペナルティが課せられていると考えるのが自然だ。
 わたしたちCクラスと同じくらい授業中に私語をして携帯を触り、無断欠席などが発生したと仮定して残700クラスポイント。そこから更に退学者を出したペナルティとしてマイナス300クラスポイントされていれば計算が合う。
 もちろん実際はマイナス100ポイントだったとも、マイナス500ポイントだったとも考えることも出来る。
 総じて言えることは、次の中間テストで退学者を出したとき、0クラスポイントになる恐れがあるということ。
 わたしの見立てでは3人退学者を出すだけでマイナスに振り切れる。なんとしてでも退学者を出す訳にはいかない。
 そうと決まれば、今は寝ることにしよう。
 徹夜漬け否定派のわたしは、計画を立てて赤点候補者への教育を行なっていきたい。
 そのためにはまず、勉強会不参加を宣言した雨宮さんを説得しなければならない。昼休み、放課後にはすぐ席を立ってしまう彼女を逃さないように……寝よう。


【コンマ1桁判定
 奇数:呼び止めること出来ず
 偶数:雨宮綾香
 下1でお願いします。】
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/23(木) 21:48:47.57 ID:WjifbbtAO
偶数
283 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 20:29:52.91 ID:1ouIvNPrO
>>282
 7:呼び止めることできず】

 5月2日の放課後。
 結論から言ってしまうと、雨宮さんと話すことは出来なかった。
 ほんの一瞬だけ目を離した隙に彼女は居なくなっていた。、あるいは神隠しを疑うほど忽然と姿を消すものだから大変驚いた。
 どこか喪失感を覚えながらも、すぐに切り替えて明日以降の方針を立てる。
 まず授業と授業の間の休み時間を利用して彼女に話しかけること。お昼休みか放課後が良いと思っていたが、今日のように彼女が消えてしまう可能性がある。
 再来週明けに実施される試験に向けて、ひとまず意思確認だけでも早めに取っておきたい。
 そんなことを自席で考えていると、隣の席の一之宮くんが話しかけてくる。

「春宮、勉強会の件なんだが…」

「あ、うんうん。放課後組を担当してくれているんだよね?」

 わたしがそう聞くと、彼は一度頷く。
 昨年の全国模試で同率2位を取った一之宮くんは、先日の小テストでもケアレスミスで落とした1科目以外は満点を獲得していた。そのため先生役としてはこの上ない適任で、彼も教えることに抵抗は無いようだった─────が。
284 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 20:30:30.63 ID:1ouIvNPrO
 どうやら昨日の勉強会は上手くいかなかったようで、重苦しい表情をしている。

「正直、あそこまで理解が及んでいないとは思わなかった。具体的に言うと小学生の範囲も理解できていない。まだ初日を終えた段階だから弱音を吐くのはダサいことだが、どうしたものかと悩んでいる」

「そっか。……そうだなぁ」

 正直、次の中間テストは付け焼き刃で乗り切れるとは思っている。しかしそれ以降のテストは幾度となく訪れる。その度に今回の規模で勉強会を行うのは負担になってくるだろう。
 なんとか自主性に任せて勉強を促したいものだが…。

「ごめん、ちょっと考えてみるね。本当に悪いんだけど、もうしばらくは今の体制で協力して貰えないかな?」

「春宮が悪いわけじゃない。……まぁ、アイツらが悪いと決めつけるのも違うんだろうな、この場合は」

 日々の学習を怠っていた彼らを責めることなく、一之宮くんは頷いた。しばらく負担をかけてしまうことに胸の奥が痛くなる。
 部活動組の勉強会は滞りなく進みそうだったが、放課後組は雨宮さんの件と理解度の件が2つ重なっている。頭を抱えたい気持ちは間違っていない。
 彼が自分のことだけでなく、クラスメイトのことを想える人格者であることを認識して、わたしは一之宮くんと別れる。
 この件は今週中にケリをつけないと厳しそうだ。
285 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 20:31:44.87 ID:1ouIvNPrO

【ここから5回(プラスα)の自由行動の間は以下を行うことができます。
 1.部活動組の学力向上
  現在の部活動組学力:35(今回の中間テスト範囲)
  自由行動で1を選択する度に学力プラス5されます。
  →55の場合は退学者0
  →50の場合はコンマ判定10分の1で退学者1名
  →45の場合はコンマ判定10分の2で退学者1名、10分の1で退学者2名(10分の3で退学者が出ます)
  →40の場合はコンマ判定10分の2で退学者1名、10分の2で退学者2名(10分の4で退学者が出ます)
  →35の場合はコンマ判定10分の3で退学者1名、10分の2で退学者2名(10分の5で退学者が出ます)
 2.雨宮綾香の説得 (最低1回、最大3回会う必要あり)
 3.自主的に勉強させる方法の模索(今回の安価かその次の安価で必ず選択する必要があります)
 4.今回のテストの攻略法を模索(最低1回、最大2回選択する必要あり。攻略法を思いつけば学力45で退学者が出る確率が0になります。40以下は低確率で退学者あり)
 5.四条夏帆に料理を教わる(優先度低)
 6.誰かと遊ぶ(優先度低)

 ☆1つの自由行動後、コンマ判定を行い、10分の3で自由行動を1回獲得できます。

 今回の安価かその次の安価で3を実施する必要があります。
 1〜6の行動をします。下1でお願いします。
 また同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」の場合は自由行動を1回獲得します。】
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/24(金) 21:50:55.88 ID:vn4MkRz30
4
287 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:42:09.77 ID:1ouIvNPrO
>>286
 4:今回のテストの攻略法を模索
 ゾロ目ボーナスの記載を忘れていました。
 後出しで申し訳ありませんが自由行動プラス1です。
 自由行動残り4 → 5】

 5月2日の夜、わたしは初めて湯船にお湯を貯めた。
 この1ヶ月間はずっとシャワーだけで過ごしてきたが、今日は夏帆先輩から入浴剤を譲ってもらったので使ってみることにした次第だ。
 感想は、最高の一言に尽きる。
 浴室に広がるジャスミンの香りは心身を癒やし、入浴剤の裏に書かれていた様々な効能は現実味を帯びる。
 まさに極楽浄土。至福の瞬間とはお風呂に浸かっている瞬間だと実感する。
 この寮生活において、水道代やガス代、電気代は請求されない。使い過ぎれば注意が入るかもしれないが、毎日湯船に浸かるくらいは許されるだろう。つまり日替わりで入浴剤を愉しんでも家計に響くことはない。
 今度の休日は入浴剤を買い込み、夏帆先輩とその素晴らしさを共有しようと考えたところで、頭のスイッチを切り替える。

「どーしよっかなぁー」

 閉鎖された浴室にわたしの声が響く。
 このまま勉強会を開けば運動部組は問題なし。
288 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:42:43.41 ID:1ouIvNPrO
 しかし放課後組が危ないようだ。良くてギリギリ退学者なし、悪くて3人ほど退学の恐れがあると聞く。なんとかそちら側の勉強会に混ざって状況を把握したいところだが、生徒会の業務の手前そうもいかない。
 赤点候補者の自主性に任せる。
 一之宮くんを始めとした放課後組の先生役に託す。
 その他に、わたしが打っておける手段と言えば…。

「……一か八か、賭けてみるか」

 正攻法の道を一歩踏み外した一か八かの賭け。
 失敗すればプライベートポイントの減少に止まらず、クラスから退学者を出すことになる。
 しかし成功すれば退学の恐れはほとんど無くなり、またクラスメイト全員が高得点を狙える。ひいては来月のクラスポイントが80〜90ほど高くなり、1人あたり8000ポイント〜9000ポイント程度の収益が継続的に見込める。
 賭けてみる価値は十分にある、と意気込んだわたしは明日のお昼休みに早速行動を移すことにした。
289 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:43:09.04 ID:1ouIvNPrO

◇◇◇

 入浴剤で癒された翌日のお昼休み、わたしは友達のお誘いを断って、一人で食堂を訪れていた。
 ランチAセットの券を購入して、わたしは食券機近くでただその時を待つ。こうしている間にもお腹は段々と空いていくが、この機会を無駄には出来ない。
 約5分ほど待つと、待ち人はやって来る。
 やや肥満気味な男子生徒。確か苗字は鈴木さんといったか。名前までは思い出せない。また生徒会室に置かれている生徒名簿を読み返しておく必要がある。
 ともあれ彼は重い手つきで食券機の右下にある『0ポイントの山菜定食』を選択した。ポイント振り込み日である5月1日から間も無いが、3年Dクラスのクラスポイントはかなり困窮していると見える。
 わたしは先輩の後を着いていくようにして、先輩が山菜定食を食べ始めたところで声をかける。

「お食事中に申し訳ありません。わたし、1年Cクラスの春宮といいます。お食事をしながらで結構ですので、お話を聞いていただくことはできますか?」

「し、知ってるよ…。錦山くんの生徒会に入った1年だろう? それに君は、何かと噂になってる」

 無視を貫かれたらどうしようかと思ったが、わたしの肩書きと道場破りの悪名は良く轟いているようだ。
 先輩の向かいの席に座り、和食のDセット─────1050ポイントというお高い昼食を見せつける。
290 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:43:47.80 ID:1ouIvNPrO
 ゴクリ、と息を呑む音がハッキリと聞こえて来る。

「手短に済ませます。先輩、」

 いよいよ交渉が始まる、というところで背後から聞き覚えのある声がわたしを呼び止める。

「お、天音ちゃん。なーにしてるの? 鈴木くんとお話? 知り合いだったの?」

 振り向くと、そこには乙葉先輩が居た。
 手元には鈴木先輩と同じ山菜定食。
 この人はAクラスだったと記憶しているが、本当にもうプライベートポイントが空なのだろうか。そんな疑問を抱きながら、わたしは否定する。

「いえ、少しお話をと思って─────」

 ふと乙葉先輩から鈴木先輩へ顔を向けると、鈴木先輩の顔には陰が出来ていた。視線が定食へと落ちている。

「わたしは外した方が良いかな?」

「いえ、構いません。乙葉先輩もご一緒に」

「わーい! 天音ちゃんは優しいねー、その調子で海老の天ぷらもくれると嬉しいんだけどなー」

「いいですよ。少し多いと思っていましたから」

「冗談だって。今わたしが出せる対価は無いからね。今晩も夏帆ちゃんのウチで美味しいもの食べさせて貰うから、今は我慢だよ我慢」

 饒舌な乙葉先輩はわたしの隣に座り、山菜定食を食べ始める。それから口を開く様子は見られず、わたしと鈴木先輩の話を傍観するようだった。
291 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:44:16.83 ID:1ouIvNPrO

「鈴木先輩、ご相談です。1年生の5月に行われた中間テストの問題用紙を持っていませんか? もし可能であれば4月末に行われた小テストの問題用紙も戴きたいです。もちろんポイントをお支払いします」

 一瞬、鈴木先輩は顔をあげてこっちを見た。
 わたしと乙葉先輩。その両方に視線を向け、そしてまた視線を定食の方へと落とす。
 そんな光景を見かねたのか、隣の先輩が口を開く。

「ま、フツー持ってないよね。くしゃくしゃにしてポイだよ。過去のテストなんてさ。ね?」

「……あ、あぁ。そうだな。花菱の言う通りだ」

 どうにも乙葉先輩が姿を現してから鈴木先輩の様子がおかしい。さっきまでは警戒されつつもお互いが持つ武器を見せ合うことくらいは出来そうだったのに…。
 乙葉先輩の手前、わたしも強く揺することは出来ない。交渉はたった1度の掛け合いで幕を閉じる。

「そうですか。わかりました。無理を言って申し訳ありませんでした」

 わたしは頭を下げながら、状況を整理する。
 今回、上級生に交渉を仕掛けたのは中間テストの問題用紙を譲ってもらうため。過去の問題と全く一緒のものが出題されるとは考えにくいが、それでも参考にはなるはずだと考えた。
 その対価として3万程度のポイントを失う覚悟は出来ていたが、空振りに終わる。
292 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/24(金) 23:46:06.77 ID:1ouIvNPrO
 この一連の流れから推測できることは3つ。
 1、学校から過去の問題用紙をバラまくことを禁じられている。破った場合はクラスポイントもしくはプライベートポイントにペナルティがある恐れ。
 2、上級生を取りまとめる1人、あるいは数人の生徒が1年生に対して問題用紙を渡さないように規制をかけている。
 3、本当に問題用紙を捨ててしまった。
 可能性として濃厚なのは1か2。
 状況から見ても2の可能性が高い。
 しかも鈴木先輩の様子を見るに、乙葉先輩が諸悪の根源である可能性が高い。というか絶対に犯人だ。すごく無邪気にわたしのDセットの方をチラチラと見ながら山菜定食を摘んでいるが、その胸の内では何を考えているか分からない。
 わたしは海老の天ぷらをひとつ乙葉先輩のお皿に乗せて、食事を始める。どちらにせよ揚げ物ランチセットは胃に悪い。食べ切れるか不安だったため、ちょうど良かった。

「ありがとー! 天音ちゃん! わたしが問題用紙持っていたら渡せたのになー。渡せたのになー」

 もはや隠す気がないんじゃないかと思えるほど露骨にそんなことを口にした。
 わたしの敵は案外身近に居たみたいだ。
 ともあれこれでわたしの攻略は封じられる。
 さてさて、どうしたものか。今のところ少し時間を無駄にしたくらいで、ほぼノーダメージと言っても過言ではない。今ならまだ正攻法の道に戻れるが…。


【コンマ判定
 直感・洞察力:91(優秀) 補正あり
 1・3・5・6・7・9・0:最後の手段を実行(自由行動消費なし)
 2・4・8:考える(自由行動を消費して実行 or 他の選択肢を実行)
 ゾロ目も最後の手段を実行できます。
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 00:29:43.75 ID:3ZfZ4rr0O
294 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:52:54.19 ID:TuZ+rf/1O
>>293
 5:最後の手段を実行】

 昼食後、わたしは乙葉先輩に連れられて特別棟の屋上を訪れた。鍵は掛かっておらず、誰でも屋上に入ることが出来る。それが出来るのは監視カメラ1台と、高いフェンスが色々な問題を解決しているからだろう。
 フェンス近くで乙葉先輩は長い黒髪を靡かせ、わたしの方を振り向く。

「何がとは言わないけど、良い線は行っていたよ」

 十中八九、ポイントが不足している上級生にポイントを譲渡する代わりに中間テストの問題用紙を手に入れようとしたことだ。
 裏から手を回していたことを自白するように乙葉先輩は笑う。

「嫌がらせがしたい訳じゃなくってね。それこそ天音ちゃんが一人で利用する分には良かったよ。でもそれでクラスメイトの子達を助けようとしているのなら、それは反対かな」

「反対……というと?」

「なんていうか、普通なんだよね。ちょっと賢い子が機転を利かせればそれくらいのことは思いつく」

 そこで一呼吸を置いて、先輩は続ける。

「あっくんから聞いていたよ。中学3年生の頃に転校してきた1年生の子が天音ちゃんの幼馴染で、彼から君に関することをたくさん教えて貰ったって。当時、小学生とは思えないほど頭が良くて、身体も動かせたこととかたくさんね」

 入学式の日、錦山先輩からその事については聞かされていた。幼馴染の平塚邦彦くんが錦山先輩の居た中学校に転校して、わたしのことを話していた。
295 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:53:28.93 ID:TuZ+rf/1O
 そのエピソードを錦山先輩が乙葉先輩に話していても何の不思議はない。特に話されても困るような内容でもない。

「実際、日々の生徒会の業務と運動部との試合で天音ちゃんが聞いていた以上に優秀だってことは分かった。それは生徒会の全員が認めている。だからこそ、過去の中間テストの問題用紙を手に入れてテスト対策とかして欲しくないんだよね」

 ここで乙葉先輩は暗躍していたことを認めた。
 表情には何の悪びれる様子もなく、それどころかわたしに対して期待の眼差しを向けて来る。

「天音ちゃんには驚かせて欲しいんだ。常人には思いつかないようなこと、常人には為し得ないことをもって、この中間テストを乗り越えてほしい」

「……買い被り過ぎですよ。わたしはそんな人間ではありません」

 口では否定をするが、1つだけ策は残っている。
 それは奇抜でも常軌を逸脱した策でもなく、ただ一か八かの賭けの部分が強い。しかしわたしならきっとやれると信じている1つだけの対策法。
 きっとそれは他の人では精度が落ちることだろう。
296 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:53:55.51 ID:TuZ+rf/1O
 そういう意味ではわたしが適任で、常人には為し得ないと言えるかもしれない。

「1つだけ約束してください」

「うん、言って言って。まずは聞くだけだけどね」

「1年生から流れてくる噂を全部無視して下さい。それがどんな噂であっても、です」

「噂かぁ。うん、過度なもので無ければおっけーかな。ユキちゃんが誰かと付き合っているとか、そういう個人に迷惑をかける根も歯もない噂でなければ無視してあげる」

「そんなことはしません。ありがとうございます」

「お礼を言われる立場じゃないって。ちょっかいを出しているのはこっちなんだからさ。3年生と2年生、その両方に噂を無視するように言っておく。あとは中間テストが終わった頃に種明かししてくれると嬉しいな」

「はい、もちろんです」

「じゃあ戻ろっか。もう少しで授業だからねー」

 フェンスから離れた先輩はわたしの手を取って屋上の扉へ向かう。
 足取りは軽く、心の底から楽しんでいるようだ。
 ほぼ正攻法に近いこの策は、果たして有効に働くか、そして乙葉先輩を楽しませることが出来るか。
 それはテストの結果が出てからのお楽しみだ。
297 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:54:24.29 ID:TuZ+rf/1O
【テスト攻略法を思い付きました。
 学力による退学者を出す確率が下がります。
 赤点候補組の学力 現在:35
 45:必ず退学者なし
 40:コンマ判定10分の1で退学者1名
 35:コンマ判定10分の2で退学者2名

 次の行動は強制的に『自主的に勉強させる方法の模索』になります。
 自由行動残り5 → 4】
298 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:55:05.05 ID:TuZ+rf/1O

 乙葉先輩と対峙してから二日後の金曜日。
 週末が差し迫り、放課後組の勉強を教える一之宮くん達の限界が近づいて来た頃。
 わたしは生徒会の業務を一度抜け、図書室の隅で行われている勉強会に顔を出した。
 テストを目前に控えたタイミングであれば、もちろん小声の条件で私語が咎められることはない。生粋の読書好きの方々もそれは承知のようで、各所から聞こえてくる小声を聞かなかったフリしてくれている。

「春宮、生徒会は大丈夫なのか?」

「うん、少しだけならね。どう様子は?」

「不参加の雨宮を除いて、前よりはマシになった。だがこのままでは不安も残る」

 そう言って問題に取り組む4人に視線を向ける。
 一之宮くんの中では4人中2人がセーフラインを越える想定、そして残りの2人はギリギリ踏めないと言う。
 後ろにはわたしの策も控えているが、根本的な学力向上を図らなければ今後のテストの度に躓くことになる。互いが負担を感じるような事態は避けるべきだ。
 なんとか自主的に勉強に取り組むモチベーションを上げておきたい。
299 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:55:31.94 ID:TuZ+rf/1O
 すっごく単純に考えて、思いついたのは2つ。
 1、毎月1万ポイントを払うから勉強してとへり下る
 2、無事に終わったらみんなで焼肉パーティ
 どちらもポイントがかかってしまう安易な考え。特に1はパッと思いついた中でも最低な提案だろう。
 仲間意識を持たせて2という選択肢はアリだ。
 テストを無事乗り越える度にお疲れ様会的なことをすればモチベーションも上がるだろう。また互いに教え合うという理想のシチュエーションも作れるかもしれない。

「ね、中間テストが終わったらみんなでご飯食べに行こうよ」

 候補者の4人は怪訝そうにこちらを見てくる。
 急に顔を出しただけのクラスメイトに言われたことが癪に触ったのか、とも思ったが。

「え、春宮ちゃんとご飯?」

「いくいく、ぜってぇ行く」

「つかさ、テスト後なんて言わず今晩にしない?」

 などと、意外にも好感触だった。
 それは想定していたお疲れ様会とは異なる様子だったが、モチベーションが上がってくれるならそれでいい。

「見事だな」

「そんなことないって」

 やや茶化すように言ってくる一之宮くんの言葉を否定して、生徒会室へと戻るため踵を返す。
 かくして、意外と単純に放課後組のモチベーションを上げることに成功した。
 部活動組も勉強に対しての姿勢は整っている。
 中間テストを無事乗り越えることができれば、ちょっとした大人数で楽しくお疲れ様会ができそうだ。
300 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 12:55:59.44 ID:TuZ+rf/1O
【放課後組のモチベーションを上げることに成功しました。
 自由行動残り4回。
 1.部活動組の学力向上(現在の学力:35)
  45:必ず退学者なし
  40:コンマ判定10分の1で退学者1名
  35:コンマ判定10分の2で退学者2名

 2. 雨宮綾香の説得 (最低1回、最大3回会う必要あり)
 3. 四条夏帆に料理を教わる(優先度低)
 4.誰かと遊ぶ(優先度低)

 下1でお願いします。
 同時にコンマ1桁が「0」「3」「7」もしくはゾロ目で自由行動1回獲得です。】
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 14:42:59.00 ID:CBbQRUoY0
2
302 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 16:20:21.11 ID:TuZ+rf/1O
>>301
 2:雨宮綾香の説得
 コンマ2桁ゾロ目のため自由行動1回獲得
 自由行動残り4回】

 5月6日、土曜日の朝10時。
 わたしは1年生の寮の玄関で部屋番号を入力してインターホンを鳴らしていた。『1111号室』。
 わたしの部屋が『1101号室』のため、雨宮さんの部屋が同じ階にあったことをコンシェルジュさんに訊いて驚いた経緯がある。
 この時間はケヤキモールの開店時間ということもあり、とにかく玄関周辺の人の出入りが激しい。どうして同じ1年生がわざわざ玄関でインターホンを押しているのかと奇怪なモノを見るような目で同級生が通り過ぎていく。
 鳴らしてから10秒ほどが経って、

『はい』

 そんな声がした。
 雨宮さんの声は初めて聞いたため、この声の主が本人であるという確証も無い。ただ、別人である可能性こそ少ないため、本人でほぼ間違いない。
 凛とした声。少なくとも寝ているところを起こしてしまった訳ではなさそうで安心する。

「同じクラスの春宮です。今、大丈夫かな?」

『……どうぞ、11階へ』

 そう言って玄関の扉を開けてくれた。
 ありがたくそのままロビーを抜けてエレベーターへ。押し慣れた11階のボタンを押して昇って行く。
 やや気の抜けた音がエレベーター内に鳴り響き、11階に到着する。扉の前で宮野さんと軽い挨拶を交わして入れ違うように11階のフロアに降り立つ。
303 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 16:20:53.03 ID:TuZ+rf/1O
 エレベーターを出て左側がわたしの部屋がある1101号室方面、右側が雨宮さんの部屋がある1111号室方面だ。
 部屋番号を確認しながら右へ歩くと、右側の角から5つ目に『1111号室』と表札が掲げられている部屋を見つけた。部屋の前のインターホンを鳴らして数秒。扉が開かれる。
 眼鏡をかけた部屋着の少女が姿を見せる。

「あんまり長話はしたくないから、要点からどうぞ」

「なら率直に言うね。勉強会に─────」

「やだ。人と会いたくないの。今回だって本当は無視するつもりだったけど、この際に言っておいた方が良いって思った。学校で話しかけられても嫌だからね」

 出鼻を挫かれる。
 会うことを承諾してくれた以上、交渉の余地はあると思っていた。しかし実際は、ほぼ出会い頭に誘うなとノーを突き付けられる。
 まともに交渉に応じてくれなさそうな雰囲気だが、ひとまず話だけはしてみよう。

「次の中間テスト、赤点を取ったら退学なんだよ?」

「そもそも、たかだか小テストの結果が微妙だったから私に声をかけてきた訳でしょ? 本番のテストで赤点を取らなければ退学にはならない。違う?」

「それはそうだけど……。一緒に勉強会をした方が点数が取れるんじゃないかなって」

「必要ない。一緒に勉強会って、あの男達とでしょ? 普通に無理だから」

 放課後組の男子生徒4人のうち3人は女子から煙たがられている側面がある。口が軽いとか、いやらしい視線を向けてくるとか、そんな話が絶えない。
304 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 16:21:23.07 ID:TuZ+rf/1O
 雨宮さんが勉強会を拒否する理由が彼らにあるのなら、わたしは別の対応をするまで。

「なら部活動組の方はどうかな? 夜8時からになるけど」

「それも嫌。汗臭いの嫌いだし」

 きっぱりと断られてしまう。
 実際に一色くんの部屋に集まって勉強会をしている限りでは、あまり汗臭さとか感じないけどなぁ。
 なまじスポーツを齧る身には分からないだけで、実際スポーツを一切やらない人からすれば違うのか。
 ややショックを受けながら、わたしは提案する。


【コンマ判定
 4・9:「わかった。……でも、諦めないから」
 それ以外・ゾロ目:「もし、わたしと一緒に勉強しようって言ったら……どうかな?」
 下1のコンマ1桁でお願いします。】
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/25(土) 17:30:16.05 ID:TMymUI4XO
それ!
306 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/09/25(土) 18:35:23.07 ID:TuZ+rf/1O
>>305
 5:「もし、わたしと一緒に勉強しようって言ったら……どうかな?」】

 今のところ、彼女の言い分としては男子と一緒に勉強をしたくないというところが強く感じられる。
 ならば同性のわたしはどうか提案する。

「わたしと勉強しようって言ったら……どうかな?」

「春宮さんと二人きりで?」

「う、うん。言い方がアレだけど、そうなるね」

「なら……」

 ダメ元ではあったが、かなり好感触。
 真っ直ぐに伸びた艶やかな黒髪を指に絡めながら、わたしの目をじっと見つめてくる。

「……うん、春宮さんと二人ならいいよ」

「えぇっ、ほんと? いいの?」

「だからいいって。まぁ、教えて貰う立場で偉そうなことは言えないけどさ。春宮さんって頭良いし、1人でやるよりも捗るみたいな?」

「そっか、わかった。わたしも頑張るね」

 意外と簡単にオーケーが出て、わたしは内心で裏があるんじゃないかと勘繰る。
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