【ウマ娘】トレーナー「なんかループしてね?」ターボ「3スレ目だ!」【安価】

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586 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/04/24(日) 11:56:10.48 ID:bObbjpKL0
―――――――――――――――――――――――――――
【作戦】

■追込[A](補正:パワー、根性)
補正がある能力値:1.5倍

―――――――――――――――――――――――――――
▼着順決定

[ 下4のコンマ+序盤補正+中盤補正+終盤補正]=レース中達成値

[ウマ娘の能力値から賢さを除いた合計]=能力値参照値

―――――――――――――――――――――――――――

【[レース中達成値]+[能力値参照値]+バ場補正/芝A(+100)+中距離適正A(+100)+やる気/絶好調(+100)=達成値

【判定スキル+達成値=固有達成値】

―――――――――――――――――――――――――――

固有達成値-(レース中全てのマイナス補正-賢さ)=最終達成値

―――――――――――――――――――――――――――

最終達成値が1500を超した場合 1着
※(100超えるごとにバ身が1伸びる。報酬増)
最終達成値が1400を越した場合 2〜3着
最終達成値が1300を越した場合  4〜5着(掲示板)
最終達成値が1300を下回った場合 着外

―――――――――――――――――――――――――――

記載忘れの為追記、安価は下を取ります。
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/24(日) 12:17:55.37 ID:2D1trn6w0
おりゃ
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/24(日) 12:41:42.71 ID:2uLJRgKko
はい
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/24(日) 12:44:39.45 ID:M2CxQ7B6o
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/24(日) 12:47:19.82 ID:QxmCr21DO
はい
591 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/04/25(月) 00:48:56.07 ID:BQqsB4Fa0
■キンイロリョテイ

▼レース展開
序盤(37):掛り(-25)
中盤(71):快走(+25)
終盤(45):末脚(+50)
着順確定:82
――――――――――――
[-25]+[25]+[50]+[82]=132
※1(黄金天馬の効果発動、終盤の判定に+100の追加補正値)
132+100=232
※2(黄金天馬の効果発動、判定の和を1.9倍)
232×1.9=440.8
440.8×[賢さ:A+]1.8=793.44 レース中達成値


▼作戦:追込(A) (パワー、根性に1.5倍の補正)
スピード:1025(S)
スタミナ:890(A)
パワー :671(B)×1.5=1006.5
根性  :670(B)×1.5=1005
賢さ  :963(A+)
――――――――――――
[1025]+[890]+[1006.5]+[1005]=3926.5 能力値参照値



▼着順
[レース中達成値:793.44]+[能力値参照値:3926.5]
+[バ場補正/芝A:100]+[中距離適正A:100]
+[やる気/絶好調:100]
=5019.94 達成値
―――――――――――――
・[黄金天馬]Lv5 発動!
※1/終盤の判定値に+100
※2/判定の和に1.9倍
・[ひらめき☆ランディング]Lv2 発動!
+400
・[シューティングスター]Lv1 発動!
+175
―――――――――――――
[達成値:5594.94]
[レース中全てのマイナス補正:-25]
[補正後賢さ:963] 
―――――――――――――
[最終達成値:5619.94]≒[最終達成値:5620]

結果、キンイロリョテイ――大差にて1着!
592 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/04/25(月) 01:25:15.41 ID:BQqsB4Fa0

 降りしきる歓声を背に受けながら、リョテイはゆっくりと控室へ戻っていく。

 その表情に、僅かな疑問を残しながら――。


―――――――――――――――――――――――――――――――


■下1〜5 リザルト
※コンマ分の能力値上昇
※ゾロ目の場合は追加ロール

スピード:下1 +25
スタミナ:下2 +25
パワー:下3 +25
根性:下4 +25
賢さ:下5 +25

下6:コンマが75(基準値50+バ身ボーナス25)以下なら[中距離]あるいは[作戦:追込]あるいは汎用スキルのヒントレベル上昇


―――――――――――――――――――――――――――――――

本日はここまで、次回はメインイベントが進行します……!
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/25(月) 01:52:19.25 ID:+rYl7VW0o
おつー
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/25(月) 04:16:54.38 ID:LGxvH1Jf0
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/25(月) 05:45:37.87 ID:aiuuTEiN0
おつつ
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/25(月) 07:24:25.99 ID:wABVg9QTo
はい
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/25(月) 07:25:03.66 ID:rGptQsxl0
はい
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/25(月) 09:22:10.81 ID:t1IPuKLmo
やわ
599 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/04/26(火) 01:00:08.54 ID:pEMWNlUz0
ゾロ目が出たので追加ロールです

―――――――――――――――――――――――――――――――

下1 根性分の追加ロール

下2 賢さ分の追加ロール
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/26(火) 01:03:57.40 ID:4IiUVpc00
根性根性ど根性
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/04/26(火) 02:27:32.62 ID:FCtzfr0N0
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/04(水) 20:29:38.56 ID:kfXlXO6n0
支援
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 17:51:11.87 ID:rYV+b3N9O
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/27(金) 23:01:23.44 ID:ljj/G3Zj0
1ヶ月か。熱が覚めるのには充分すぎる期間だな
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/28(土) 00:08:35.72 ID:JV/JCYYDo
キャラ付けもさほどされてないキンイロリョテイを選んだのも原因の一つかねぇ
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/28(土) 08:27:51.28 ID:ICeCepAVO
SS速報で書き逃げなんかざらにあるし諦めろしかねーな。安価で捌けなかったから変な言い訳して逃亡
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/08/07(日) 18:23:50.84 ID:LGWUOqHc0
無理なシナリオなら、強制敗北なりで、仕切り直せばよかったけど、しゃーない。>>1乙でした。
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/08/11(木) 23:47:29.08 ID:dJiiDAch0
ああ
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/04(火) 00:31:09.17 ID:WG6zFm6z0
あなたが半年も書いていないのを見て、私はここで大胆に一つのことを言います。よろしければ、この本の続きを書くことに同意してください。あなたのこの本は同人作を出して、あなたが同意することを望みます、もちろんあなたは引き続き書くことができるのは最も良いです。(私は自分のために続編を書きたい、私は中学生のIQの愚か者だけがこの物語を終わらせたい)
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/16(日) 02:33:37.87 ID:3V/sPGTd0
100年だろうが1000年だろうが待つぞ俺は!
611 : ◆FaqptSLluw [sage]:2022/10/18(火) 01:21:43.38 ID:ONfMs8sQ0
こんばんわ。お久しぶりです。
半年もの間放置してしまっていて申し訳ございません。
言い訳を重ねてしまうようで申し訳ないのですが、リアルをはじめとしてほうぼうで様々な要因があり、筆を一時期手放してしまっていました。
精神的にも肉体的にも落ち着いてきたので、執筆を開始しようと考えています。

大変お待たせしていますが、ゆっくりと書いていきますので何卒宜しくお願い致します。
612 : ◆FaqptSLluw [sage]:2022/10/18(火) 01:51:32.52 ID:ONfMs8sQ0
「これくらいなら余裕――って言いたいトコだけど」

 額からこぼれ落ちる汗を拭い、キンイロリョテイはごちる。
 レース後の余韻などそこに存在しない。あるのはただの違和感だけだった。
 それが何によってもたらされるのか、今までのキンイロリョテイには不明で。
 しかし、ゴールドシップとの並走が、彼女に明確な気付きを齎す。

「なぁトレーナー、アタシに足りないモノ……何か掴めたぜ」
「そうか」

 一言だけ呟くトレーナー。その表情には確信が宿っていた。
 ゴールドシップはその奇抜さゆえに軽んじられやすいが、しかし指折りの追込ウマ娘であり、トレセン学園でもトップクラスの実力を持っている。

――得られたよ。なんとなく、これよりももっと走れそうな気がする。

 キンイロリョテイの発言を、トレーナーは疑わない。疑う余地はない。

「だから、とりあえず見といてくれ。アンタに一番の景色、見せてやる」

―――――――――――――――――――――――――――――――

スピード:1025(S)+(25+25)=1075(S+)
スタミナ:890(A)+(38+25)=953(A+)
パワー :671(B)+(87+25)=783(B+)
根性  :670(B)+(99+25)+40=834(A)
賢さ  :963(A+)+(66+25)+62=1116(SS)

▼[メインイベント:未だ見ぬ黄金郷]が終了しました。
固有スキルヒント:[黄金天馬Lv6]Lv1を獲得しました。
※固有スキルヒントは、特定イベントで獲得が出来る「固有スキルをレベルアップさせるヒント」です。固有スキルは通常スキルと同様、1ターンを消費することによって習得コンマに挑戦することが可能となります。

▼[メインイベント:猛き黄金、黎明に吼える]が発生しました。

613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/18(火) 06:17:49.07 ID:MJRVaPQO0
生きていてくれてよかった
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/18(火) 07:33:22.74 ID:I14ddSk3o
おかえりなさい!
615 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/10/18(火) 21:22:09.60 ID:ONfMs8sQ0
トレーナー「天皇賞・秋までもういくばくの時間もない……」

トレーナー「リョテイのために何かできることはないだろうか」

トレーナー「そんな風に考えても、終ぞ何をしたらいいのかは分からない。まるで閉塞しているかのような……」

トレーナー「……いや、俺にもできることはあるはずだ。きっと」

トレーナー「とはいえ、何が出来るんだろうか――」

トレーナー「おっと、これでは思考が堂々巡りになってしまうな」

トレーナー「さて、今日はどうしようか――」
―――――――――――――――――――――――――――――――

[黄金探しの放浪者]キンイロリョテイ
スピード:1075(S+)
スタミナ:953(A+)
パワー :783(B+)
根性  :834(A)
賢さ  :1116(SS)
やる気 :絶好調

―――――――――――――――――――――――――――――――

下1
トレーニング/お出かけ/休憩/メインイベント進行
スキル習得(ウマ娘)/スキル習得(トレーナー)/その他(良識の範囲内で自由に)
※天皇賞・秋まであと1ターン(当該ターン含む)

―――――――――――――――――――――――――――――――

ナイスネイチャの好感度:★★★/★★★☆☆☆☆☆(好感度:+3/友人)

キンイロリョテイの好感度:★★★/★★★★★☆☆☆(好感度:+5/親友)

シンボリルドルフの好感度:★★★/★★★★★★★★(好感度:+8/比翼連理)

ツインターボの好感度:★★★/★★★☆☆☆☆☆(好感度:+3/友人)

マヤノトップガンの好感度:★★★/★★★★★★★★(好感度:+8/比翼連理)

―――――――――――――――――――――――――――――――
        【現在立っているフラグ】

■エクストライベント
・「祈りは力に、願いは形に」/特定の時期に、ある場所を訪ねる
・「地を支え、海を拝せよ」/探索の進捗を終了させる
―――――――――――――――――――――――――――
■メインイベント
・[猛き黄金、黎明に吼える]/サイレンススズカに勝利する。
―――――――――――――――――――――――――――
■リミテッドイベント
・[過去] / 行動安価で[リミテッドイベント:過去]の開始を選択する
・[現在] / [リミテッドイベント:過去]の終了後条件解禁
・[未来] / [リミテッドイベント:現在]の終了後条件解禁
―――――――――――――――――――――――――――
■エンディングイベント
・[夢n夜]/?????
―――――――――――――――――――――――――――――――
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/18(火) 22:59:21.20 ID:DaqtuDiW0
確か1人だけ(スぺちゃんだっけ?)記憶まだ戻してなかったよね?できるならそれで
無理ならメインイベント進行
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/22(土) 01:03:53.07 ID:g26hUAG30
リミテッドイベント気になるけど秋天負けたら洒落にならんしトレーニングでパワー上げたい。
メインイベントのスズカって秋天で勝てばいいんよね
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/22(土) 01:04:37.97 ID:g26hUAG30
リミテッドイベント気になるけど秋天負けたら洒落にならんしトレーニングでパワー上げたい。
メインイベントのスズカって秋天で勝てばいいんよね
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/22(土) 01:06:31.40 ID:g26hUAG30
リミテッドイベント気になるけど秋天負けたら洒落にならんしトレーニングでパワー上げたい。
メインイベントのスズカって秋天で勝てばいいんよね
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/22(土) 01:21:32.31 ID:LMCP7AUyo
大事だからね、念押ししなきゃね
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/22(土) 10:13:34.25 ID:Zgob8xZh0
支援
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/23(日) 10:24:08.56 ID:n5vwQvDd0
すまん、なんかめちゃめちゃ連投なってたww
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/23(日) 10:25:52.89 ID:n5vwQvDd0
すまん、なんかめちゃめちゃ連投なってたww
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/23(日) 21:22:08.99 ID:wOfuYZgyo
掛かってますね!冷静さを取り戻せるといいのですが

この板は反映遅いから一回書いたら深呼吸、5分くらい様子をみるのだ!
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/23(日) 21:32:34.73 ID:p8KxDKM60
落ち着くのだ
626 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/10/23(日) 23:59:52.22 ID:3x4JNPzb0
更新は明日の夕方以降になると思います!

あと、別の意見が出ているので
下3くらいまでで、スペちゃんのイベントを進行するか、トレーニングを選ぶかの多数決を取ります。

安価スレとしてはどうなのか分かりませんが、初心者ゆえ何卒ご了承くださいまし……
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/24(月) 00:36:34.74 ID:pEs8TgqQo
スペちゃんに一票で
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/24(月) 19:58:27.85 ID:HBQDhCu80
安価取った本人が入れるのはどうかとは思うけど、他に書き込みも無いのでスぺちゃんに1票入れておきますね
ダメならスルーしてください

今更だけど、スぺちゃんだけ指定じゃなくて、朝校門にでも立って
スぺちゃんを含む登校してきた生徒全員に「おはよう」って言いまくればよかった
629 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/10/25(火) 00:34:00.69 ID:BxxUETtg0

 地面を、靴が叩く音が聞こえる。

 何処からともなく、聞こえてくる。

 俺は僅かに上体を起こして、今から訪れるであろうそれを眺めていた。

 階上から見下げるその光景は羨ましくて――どこか、苦しくも感じる。

 僅かな風にレースのカーテンが揺れて、一瞬だけ光景が遮られた。

 その一瞬の間に、靴の音の主は横切ってしまったのだろう。

 音は、遠くに消えていた。

 いつだって、「彼女たち」はそうだった。

 俺なんかよりも、ずっと速くて、追いつけない。

 ……いや、本当は。体格や筋量で勝る俺の方が早い。

 それでも、彼女たちに追いつけない理由が、俺にはあった。


――この脚が、竦んで動かない。


 歩くことも、立つことも。きっと可能なはずなのに。

 いざ地面に触れれば、まるで足が消えてしまったかのように動くことがない。

 何故、いつからこうなったのだろう。

 その原因を、俺は知っているけれども思い出せない。

 知っているという直感はあるのだが、その仔細について思い出せない。

 まるで、記憶にロックがかかったかのようだった。
630 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/10/25(火) 00:35:40.77 ID:BxxUETtg0

…………
……



 その日の目覚めは本当に穏やかだった。

 まさしく秋晴れ。カーテンの隙間から降り注ぐ太陽の光は、にわかに冷えた俺の肌を温めた。

 もうそのころには、俺の中に先ほどの夢の記憶はおぼろげにしか残っていない。

 荒唐無稽に過ぎた。だって、俺は人間で、彼女たちは人間ではない。

 ウマ娘。人間よりも強靭で、しなやかで――とても、速い。

 俺なんかが追いつくことなど、出来はしないんだから。

 よく晴れた九月の、ある一日。変な夢を、俺は見た。

631 : ◆FaqptSLluw [sage]:2022/10/25(火) 00:36:19.09 ID:BxxUETtg0

――リミテッドイベント:回顧、開始。
632 : ◆FaqptSLluw [sage]:2022/11/23(水) 22:23:35.55 ID:vJkGWX/F0
「もちろん気にしているさ。だが、承前啓後……新たな風を少し吹かせてみることもときには肝要だ」
「……それがリョテイにとっていい刺激になる、と?」


 そうだ、と言わんばかりに頷くルナ。日の光を浴びプリズムめいた煌めきを見せる瞳には、言外のメッセージが込められている気がした。

 ……ルナは、俺よりも長い――永い年月をトレセン学園で過ごしている。

 少なくとも、俺より3年。しかも、俺とは違い他のウマ娘のことに目を向けながら、だ。

 その意味が、俺にはよく理解できないようで理解できる。

 頭によぎったのは、マヤノトップガンと共に挑んだ有馬記念でのナリタブライアンのことだった。


(――切羽詰まった、というか。なんか異常な雰囲気を放っていた)


 ”総てを賭けた戦い”。ふと頭によぎった言葉だが、何故かしっくりと来る言葉だった。

 極限まで研いで研いで研いで――たった一閃のために研ぎ澄ました刀のような、危うい鋭さがナリタブライアンにはあって。

 そこに潜む事情に、俺たちは触れることがなかった。……出来なかった、という方が正しいが。

 ともかく。そのような細やかな事情は俺の知るところではない。


――だけど、ルナならあるいは……?


 もし、新しい風という言葉が、そこに込められている以上の意味を孕んでいるのであれば。


「……分かりました。受けましょう」
「歓喜ッ! そうであるなら早速希望者を選抜して、君に連絡をするとしようッ!」


 理事長の快闊な笑い声に、ルドルフの短い吐息が混ざる。

 まるで安堵したかのような立ち振る舞いに、俺はにわかに違和感を覚えた――。
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/24(木) 00:36:37.69 ID:SwatoqfI0
1ヶ月放置でこりゃもうだめかと思ったが

それにしても22233555ってなんだよなんかスゲーな
634 : ◆FaqptSLluw [sage]:2022/11/30(水) 20:05:02.52 ID:tw0m1Ope0

 俺がチーム体験を承諾してから一週間が経過した。

 準備は滞りなく進み、もう出迎える準備は万全。

 あとはウマ娘のことを待つだけだ――と一息ついたところに、着信が入る。

 相手は――ルナだった。電話を取れば、どうやら生徒会室かららしい。エアグルーヴの声や、トウカイテイオーの声が電話越しに聞こえてくる。


「いきなりすまないね。チームへの体験加入、今日からだっただろう?」
「あ、ああ。確かに今日来る手はずになっているが……」


 とはいえ、誰が来るのかはいまだに聞かされていない。

 決まってはいるそうで、ルナはどうやら具体的に誰が訪れるかを把握している様子だが……なぜかたくなに正体を明かそうとしないのかが気になって仕方がない。
 
 ……とはいえ、ルナが意味もなくこのようなことをやるはずがない。ルナへの信頼が、ヴェールに包まれた謎への言及をやめていた。


「トレーニングに入る前に、君に少し伝えておきたくて」
「……何をだ?」
「君が思っているよりも、ウマ娘は――難儀な生き物なのだよ」


 その言葉の本義を質そうとしたが、直ぐに電話は切れてしまった。

 難儀な生き物。何をもってして難儀な生き物とするのか、俺にはわからない。

 それでも、その言葉はまるで胸に刺さったかのように俺の元から離れることはない。

 ……何というか。こう。

 ”むしろなぜ今まで忘れていたのだろうか”と。

 その言葉は、そう思ってしまうほどに……しっくりと来ていた。
635 : ◆FaqptSLluw [saga]:2022/11/30(水) 20:25:38.36 ID:tw0m1Ope0

「そろそろ来る時間じゃないか?」
「そうだな。……もう少し落ち着いたらどうだ?」
「……落ち着いてるって。アンタこそソワソワしてんじゃねーのか?」

 濡れ羽の烏色の尻尾が揺れる。こういう時の、こういう尻尾の揺れ方は――リョテイがワクワクしている時の揺れ方だ。

 何となくこういうイベント好きそうだもんな、と俺は内心で思いながらも、浮足立つリョテイをなだめる。


「リョテイは誰が来るのか聞いてるのか?」
「いや? むしろアンタこそ知らないのかよ、トレーナーの癖に」
「ほんとにな……なんで俺が知らないんだろうな」


 理事長も、俺に少しくらい教えてくれたっていいのに。

 この前理事長室に問い合わせた時に返ってきた「緘口ッ! 私は口を開かないッ!」という言葉を脳裏で反芻して、俺はため息を吐いた。

 なんでそこまで正体をかたくなに隠すのだろうか。訪れる人物が俺にとってよっぽど質の悪い誰かなのか……。

 あるいは、俺にとってよっぽど価値のある誰かなのか――。


「トレーナーさん、どうやら来たみたいですよ?」
「ん、来たか――」


 ナイスネイチャの声と共に腰を上げ、ノックを待つ。

 コンコンコン、と。規則正しい三回のノックが響き……その人物がトレーナー室へと入ってくる。

 その姿に、俺は思わず手に持っていたバインダーを落とす。

 ブルネットの髪に一閃の流星。アメジストの瞳は、俺がいつか見た時よりも少し濁って見えた。

 だが、その身にまとう雰囲気は紛れもなく、俺が知っている姿だ。何度も何度も、勇気を貰った姿だ。

 有馬で勝ったあの日、夏合宿で凹んでいたあの日、もうだめだと諦めて全てを投げ出そうとしたクリスマス。

 その姿が脳裏によぎるたびに、その声が響くたびに、俺は何度も彼女の名前をそらで呼んだ。


「――失礼します。今日からお世話になる、スペシャルウィークって言います!」


 夕陽のような、少しだけ陰のある笑顔で。

 彼女は――スペシャルウィークは、ほほ笑んだ。
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/14(火) 00:46:48.54 ID:5T63SDu10
保守
637 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/25(火) 21:46:22.76 ID:KfwqF3Hv0
「スペシャルウィーク……?」


気づけば、うわごとのようにつぶやいていた。

出会う事はないと思っていた。あったとしてもすれ違うくらいで。

感情のパスは一方通行。俺から彼女へ向ける感情はあっても、彼女から俺へ向かう感情は一つもないはずだった。

だけど。今ここで、交わってしまった。想定だにしないことが起こってしまった。

漏れて溢れた言葉は、俺にとっては吐しゃ物のようなものだ。

吐き出すべくして吐き出そうとしてモノではない。

むしろその逆。押しとどめておくべき言葉だったというほかに、これを説明することはできない。

……俺は。俺は、彼女と会話をするべきではない。

俺がいなくなった後も努力して、有馬に勝った彼女に。

過去を顧みるばかりで、過去に停滞している俺が。

声を、かけることが出来るわけがなかった。
638 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/25(火) 22:31:16.95 ID:KfwqF3Hv0
「……おい。おい、トレーナー……!」

「……っ!」

「しっかりしろ、アンタの目の前にいるのは何も知らない”スペシャルウィーク”だぞ……!」


リョテイに小さく背を突かれて、ようやくまともに思考が回り出す。

そうだ、スペシャルウィークは俺が過去に何があったのかなんてこれっぽっちも知らないんだ。

状況だけ見たら、優秀なチームを取りまとめるトレーナーがいきなり取り乱しているってことになる。

……困惑、してしまうだろうな。


「すまない、スペシャルウィーク。少し考え事をしていたんだ」

「考え事……ですか。あの、顔色が悪いですが、体調は大丈夫なんですか……?」


心配そうにこちらをのぞき込むアメジストの瞳に、俺は思わずどきりとした。

わずかな暗さはあるものの、以前と変わることなく煌めいている瞳に。

……罪悪感を感じて、どきりとしたんだ。魅力的だけど、それよりも後ろめたくて。

声がうまく紡げているのも、俺が彼女の顔を見ていないからだ。瞳をそらしているからだ。


「……あ〜。すまん、スペシャルウィーク。ちょっとコイツと話しがあるから一旦離籍してもいいか?」

「え、あ。はい……!」

「ほらほら、こっちのソファでゆっくりできますよ〜っと」


行くぞ、とリョテイに手を引かれて部屋を出る。

廊下に出て扉を後ろ手で締めたリョテイは、あきれたようにため息を吐いて、俺の顎を掴んだ。


「顔色、悪すぎだろ」

「……そんなにか?」


俺の言葉に、リョテイはもう一度息をついて。そして顎をくい、と持ち上げた。


「死人もかくや、って感じだ。今のアンタは、誰が見ても憔悴してるってわかるぜ?」

「……」


今朝、夢を見た。心が抉られるような夢だった。もちろんそれもある。

それよりも俺の心を満たしているのは、後悔とうしろめたさだ。

本当に、俺はスペシャルウィークと向き合うことが許されているのだろうか?



「――許されてるか、許されてないかの話じゃないんじゃないか?」


ふと、リョテイの言葉が耳に響いた。

許す、と俺はリョテイの言葉を反芻して。リョテイも、許すと、俺の言葉を反芻した。



639 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/25(火) 22:31:51.77 ID:KfwqF3Hv0
「アンタは何だ? スペシャルウィークの元カレかなんかかよ」

「……そんなんじゃない! 俺は、あの子のトレーナーで……!」

「前だろ。今はそうじゃない」


そんなこと知っている。知っているんだ。

だからこそ、俺はあの子に話しかけることができないでいたんだ。

理性では彼女は俺の担当ウマ娘ではないことを理解している。ただ、本能が……俺の心の奥底が、彼女は俺が担当していたウマ娘であると叫んでいる。

背反する二つの感情がごちゃ混ぜになって、俺は動くことが出来なかった。言葉を吐くことも出来なかった。


「……とりあえず、だ。ここで話し込むわけにもいかないだろ。会長サンに説明とかお願いして、アンタは必要な指示だけ出しとこうぜ」


それはトレーナーとしていかがなものかとは思う。ただ、リョテイの言葉はとても正しかった。今の俺にまともなコミュニケーションをとる能力は……きっとない。

ルナはこのチームについてもかなり考えてくれている。彼女に説明を任せるのであれば問題はない。……問題はない。


「決まりだな。じゃあとりあえず部屋に戻るぞ、トレーナー」
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/26(水) 00:01:43.96 ID:Sc88OVqzo
おお…おおお……生きとったんかワレェ!!!
おかえりなさい!帰還に感謝ぁ!
641 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/26(水) 00:59:26.30 ID:nzNiyhvc0
「――チーム・エルタニンへようこそ、スペシャルウィーク」
「え、シンボリルドルフさん……?!」
「ああ。トレーナーが訳あって席を外すそうだから、戻るまでの間は私がこのチームの説明をしよう」


 わあ、とスペシャルウィークの声が上がった。それを聞きながら、俺は隣の部屋で今後どうするかを考えている。

 ……考えている、というよりかは、決めあぐねているといったほうが正しいかもしれない。

 スペシャルウィークとまともに話をするのか。それともただ事務的な対応に徹するのか。


「……でも、事情を話したところで恨まれるだけなんじゃないか?」


 マヤノの例を考えれば、おそらくスペシャルウィークも俺が消えてからの記憶が舞い戻ってくるはずだ。

 有馬記念を制して、それでも戻ってこない俺のことを、スペシャルウィークがどう思っているんだろうか?

 待たされに待たされて。日本一のウマ娘にすると誓って。でも戻ってこなかった男のことを。

 スペシャルウィークは、どう思うだろうか。

 ああ、なんでこんなに悩んでいるのか今ようやく理解した。


――結局のところ、俺は怖いんだ。


 スペシャルウィークに嫌われるのが。

 ……俺に勇気をくれた相手が、俺のことを嫌いになっているという可能性が。

 俺は弱い人間だ。すぐに挫けるし、折れてしまいそうになる。そんな可能性だけで、もう動けない。


「……事務的に、接しよう」


 本当は。その五文字を胸の奥に深く押しとどめて。

 俺は、彼女のためを思って。……違う。

 俺のためを思って、そう決めた。
642 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/26(水) 01:36:45.95 ID:nzNiyhvc0
https://imgur.com/a/2XOOaw8

お詫びといっては何ですが、ささやかな絵です。
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/26(水) 12:38:13.01 ID:x9lKebqKo
帰ってきてくれてありがとう
644 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/26(水) 22:10:30.09 ID:nzNiyhvc0

例えば、牛を見ると懐かしいと思う瞬間がある。

それは、私が幼いころに触れあったことがあるからだ。

例えば、駄菓子屋を見かけて懐かしいと思う瞬間がある。

それは、子供のころに通ったことがあるからだ。

例えば、あの人を見て懐かしいと思う瞬間がある。

何故か、わからないけれど。

既視感、というか。デジャヴっていうか。

私には、あの人に関する記憶がないんだけれど。


――懐かしかった。とっても。


まるで、会いたい人に出会えたかのようだった。

だから、顔を合わせただけであんな態度を取られたのが少し……。

いや、かなりショックだった。
645 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/26(水) 22:28:23.22 ID:nzNiyhvc0
「――いったん休憩しようか」


 ルナのそんな声で、リョテイたちはランニングをやめた。

 秋風のからりとしたのが、彼女たちの熱を奪い去るように吹いていた。

 俺は……そんな様子を遠巻きに眺めていた。少しでもスペシャルウィークと接触しないように、と。

 そうすることが最善だと思っているし、疑わない。……疑えない、今の俺には。

 視線をエルタニンの面々に送れば、スペシャルウィークを囲んで談笑しているリョテイたちの姿があった。

 あれが本来のウマ娘であることを、俺は最近ようやく理解した。

 いくら身体能力が高くたって、俺たちと違う生き物だからって。

 その本質は、少女だってことを。


「ちょっと席を外しますね。開始時間までには戻ります!」


 スペシャルウィークがそんなことを言って、リョテイがトイレかなどとからかっている。

 顔を赤くして走り去るスペシャルウィーク。そう、アレが本来のスペシャルウィークであるべきだった。

 ……俺が担当したウマ娘は、本来あるべき姿から外れてしまう。

 それがたまらなく……恐ろしかった。おぞましかった。

 まして、それが俺にとっての――ヒーローであるならば、特に。


「――見つけましたよ、トレーナーさん」


 ああ。だから、スペシャルウィーク。

 そんなまっすぐに、俺を見つけないでほしい。

 そんなまっすぐに、俺を見つめないでほしい。


「話を、しませんか」


 第三ループ、あの岩部でかけられたあの言葉。

 それよりももっと強く、もっと大きく。

 彼女は、俺にたたきつけてきた。
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/26(水) 22:34:18.95 ID:Zac7bD+W0
帰ってきてくれて、ありがとう!
続きを書いてくれて、本当にありがとうございます!!
647 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/26(水) 23:36:28.03 ID:nzNiyhvc0
「……問い詰めるとか。怒ってるとか。そういうのじゃないんです。ただ聞きたいんです」


 秋風が、スペシャルウィークのブルネットの髪を巻き上げる。

 その奥に見え隠れしていたアメジストの瞳が、俺のことをしっかりと見ていた。

 ……彼女のことを、視界に半分しか入れていない俺のことを。


「私、何かしましたか……? あなたを傷つけることをしたんですか……?」

「……してないな」

「じゃあ、なんで目を合わせてくれないんですか……」


 一歩、スペシャルウィークが近づいてくる。

 一歩、俺はスペシャルウィークから離れる。


「……」

「私が、怖いんですか」

「違う」


 一歩、スペシャルウィークが踏み出して。

 一歩、俺は後ずさる。



「じゃあ、なんでそんなに震えているんですか……?」

「これは……」


 一歩、スペシャルウィークが近づいて。

 かつり、俺はこれ以上後ろへと進めなくなる。

 木々のざわめきが間近に聞こえて、そこでようやく俺は木に背中をぶつけたのだと理解した。


「怖くて、苦しくて震えて。そんな顔をしているあなたを、私はなんでだか”知っている”んです」

「俺は……俺はただ、君に」


 うわごとのようにつぶやいた言葉を、口を真一文字に結んで締め切る。

 それ以上を言ってしまえば、彼女を遠ざけた意味がなくなってしまうから。

 でも、それでも。俺が壁を作っているのにもかかわらず、スペシャルウィークは踏み出してくる。

 踏み入れてくる。いつか見せた、あの行進のように。


「――あなたは、私がなんでこんな気持ちになっているのかを知っている。そうですよね?」


 驚くべき言葉ではなかった。彼女の言葉を聞いていれば、何か想いを抱いていることは明白で。

 だから、その言葉に驚き以外で返したことこそが……俺が、彼女の想いの何かしらのファクターになることは明白だった。
648 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/27(木) 01:25:24.65 ID:QRT8ZZ1e0
「なんで、私はこんな気持ちになってるんですか……」


 まるでこぼれるように、スペシャルウィークの口から言葉が溢れた。

 先ほどまで俺のことをしっかりと見据えていたアメジストの瞳は、今は俺以外の何かを見つめている。

 一歩、一歩と近づくスペシャルウィークに、俺は動くことが出来ずにいて。

 やがて俺の目の前までたどり着いたスペシャルウィークは――俺の胸元へと手を宛がった。

 ……暖かい手だ。じんわりと、胸辺りから温度が広がっていくような。


「なんで、こんな悲しくなるんですか……」


 カッターシャツをぎゅ、と握って。スペシャルウィークは言葉をこぼした。

 ……コップから水があふれ出るみたいな、訥々とした言葉たちだった。


「今日、あなたに敬遠されたとき、本当に、ほんとうに苦しかったんです」
「なんでこんなにきゅっと胸が痛くなるんだろうって」
「私の感情は、地続きだったはずなのに。あなたへの気持ちだけはまるで……」
「まるで、私ではない私が、私の気持ちの中にいるみたいで……!」


 堰を切ったかのように、言葉たちがあふれ出す。

 ぽたりぽたりと、スペシャルウィークの瞳から涙があふれて。

 地面を、ゆっくりと濡らした。


「おかしくなっちゃった、私……」
「教えて、教えてください、トレーナーさん……あなたは、私のなんなんですか……?」
「私は、あなたの……なんだったんですか……?」


 袖を引いて。スペシャルウィークは泣きじゃくる。布が伸びるのも気にせずに。

 俺も何もできずにいた。触れることも許されないと思っているし、言葉をかけることすら本来許されていいことではないと思っている。
 
 それでも、一つだけ彼女に伝えるべき言葉がある。
649 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/28(金) 12:25:52.56 ID:ppyp0opk0

「……俺は、君の味方だ。世界で一番の味方……だった」
「みか、た……?」


 トレーナーは、担当ウマ娘にとって一番の理解者であり――味方だ。それを俺はターボに、マヤノに、リョテイに教えてもらった。

 だから、これはしっかりと伝えなきゃいけないことだった。俺が俺であるならば、俺は君たちの味方なんだって。

 ……味方のくせに、俺は君を傷付けるばっかりだけど。


「俺の言葉は、きっと君にとっては信じがたいものだろう」
「……本当なら、信じられないって思っちゃうところです。でも……」


 でも、と。スペシャルウィークは都度2回、小さくつぶやいた。


「そうじゃなかったら納得できないくらい、胸が痛いんです」
「……そうか」


 ぎゅっと握られた袖はそのままに、スペシャルウィークはこちらを見上げる。
 
 そこにはやはりいまだに困惑が宿っていて。迷っていて。


「だったらあなたは……私にとってのトレーナーさんのような存在だったのかもしれないですね」
「そう、かもしれないな……」
「でも、だったらなんで私は忘れているんでしょう」


 そんな人のこと、忘れるわけがないのに。スペシャルウィークはそう呟いた。

 覚えていないのも無理はない。仕方のない話だ。

 俺が知っている事情を話せば、スペシャルウィークはきっと理解してくれる。

 だが、それはリスキーな行為だと俺は考えている。鼻血を出すだけならいいが、心理的に――大きなダメ―ジを受けるのではないか、と。


――トレーナーさんッ! 私、どこにいてもトレーナーさんが見つけられるくらいに輝きますから! いつかまた、会いに来てください……! 私にいつか、あの時のお礼をさせてください!!


 有馬記念の、スペシャルウィークの言葉。俺はこの言葉に何回も勇気をもらった。

 彼女に会うために、目標を達成しなければならないと思った。

 だから、こうして不意にめぐってきた機会に、タイミングに、俺は逆に考えるんだ。

 ……俺は、彼女に会うことはなかったんだ、と。

 俺は会いに行くつもりだった。URAの頂点に立てば、すべての因果から解き放たれると、そう思っていた。優勝を果たした後で、あの時のスペシャルウィークと話ができる確信が、俺にはあった。

 だけど、その考えの主体は俺でしかない。スペシャルウィークからしてみれば、唯一の味方が生涯会いに来てくれなかったという事実だけがそこにあるわけで。

 勇気をもらったからこそ、怖かった。俺のことを考えて走って、走って……その末に待ち受けた未来が一体何だったのか、俺はわからないからだ。


「……大丈夫、ですか?」
「……大丈夫だ」
「大丈夫じゃない、って顔してます」
「大丈夫だよ。俺は、君に比べたら」


 口をついて出た言葉に、スペシャルウィークは首を傾げた。

「私に比べたら?」
「……ああ」
「どういうことですか、それは」
「……」


 この言葉が、きっと彼女への対応の分水嶺になるだろう。

 ……どんな言葉を、彼女へ送ろうか。

―――――――――――

下1 トレーナーはどんな言葉をスペシャルウィークへと送る?
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/28(金) 15:03:48.59 ID:stZSe+Eyo
スペシャルウィーク、おはよう

(ここまできて避けるのはなしだ
頑張ってくれトレーナー)
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/28(金) 16:29:44.77 ID:m51FBEEH0
ドリジャの育成ストーリーでリョテイの元ネタであるステイゴールド出てきちゃったね
652 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/28(金) 18:57:16.82 ID:ppyp0opk0

 スペシャルウィークは、俺の言葉を待っていた。

 真剣なまなざしを向けてくる様子に、いつかの有馬記念のスペシャルウィークの様子が重なった。

 あの時も、今も。スペシャルウィークは俺のことを待っている。

 ……それに気づいたら、はっとした。

 迎え行くのが恐ろしい、だなんて俺が思っているうちも。彼女に勇気をもらっているうちも。

 彼女は、俺がやってくるのを待っていた。世界で唯一の味方を。自身の夢への共犯者を。


「……もし、もしだ。世界で唯一の味方が、目の前からいなくなったら、どう思う?」


 口をついて飛び出した質問に、スペシャルウィークは驚いて目を見開いた。

 だが、その質問は彼女にとってあまりにも簡単なものだったのだろう。小さく笑って、けれどしっかりと答える。


「何か事情があるんじゃないかな、と思うのがまず一つ」


 指を一つ立てる。その言葉は、いつかマヤノが……一年目のクリスマスのときに教えてくれたことと一緒で。


「消えちゃったら……次は、会いに来るときに分かるように輝こうって思うのが、もうひとつ」


 指を一つ立てる。その言葉は、俺の支えでもあった。有馬記念の歓声が、ふと脳裏によみがえる。

 有限実行。実際に優駿の頂上に立ったスペシャルウィークは、俺のことを待っていた。

 だから、これは聞きたいことじゃなくて。聞かなければならないことだ。


「もし、名声が日本中に轟いても、その人が現れなかったら……?」

「――次は世界中に名前を轟かせてみせます」

「それでも現れなければ……」


 そこで、スペシャルウィークは何故か小さく笑った。驚いて俺がスペシャルウィークを見れば、彼女は……。

 彼女は、どこまでも挑戦的な笑みで宣誓する。


「世界で無理なら宇宙を、宇宙で無理なら次元を、もっともっと上へ、もっともっと広く!」

「……はは、なんて無茶な」

「だって、言うじゃないですか」


 秋風が、飄風が頬をかすめた。それは、いつかスペシャルウィークを夢の舞台へいざなったときのような。

 ぱちりぱちりと目の前ではじけるかのように、記憶が蘇る。ああ、”そう”なのか。

 この後に続く言葉を、俺はきっと一度聞いたことがある。

 あの日も、こんな風が――海風が、頬に吹き付けていた。
653 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/28(金) 18:57:50.65 ID:ppyp0opk0

「――明けない夜はない。止まない雨もありません!」
654 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/28(金) 19:00:01.26 ID:ppyp0opk0

 俺は、夜を駆け抜けてきたこの子を。雨に降りしきられたこの子を。

 きっと、迎える必要がある。

 資格がどうとか、そんなの関係ない。俺がそうしたいから、そうする。

 それだけでよかったんだ。


――これから朝を迎えるスペシャルウィークへかける言葉。それは、これでしかない。
655 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/28(金) 19:00:29.87 ID:ppyp0opk0

「スペシャルウィーク、おはよう」
656 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/28(金) 19:28:14.03 ID:ppyp0opk0

 きょとん、と。スペシャルウィークは首を傾げる。


「午後ですよ、今――っ!」


 次の瞬間、スペシャルウィークは頭を押さえてのけぞる。このままでは地面に倒れ込んでしまう……!

 とっさに俺は彼女を抱きとめる。その間もスペシャルウィークは眉間にしわをよせて、歯を噛みしめて痛みに耐えている。


「とれ、な、さん……私……!」

「大丈夫。大丈夫だ。俺がそばにいる」

「……あは、うれ、しい、です」


 にへら、と精一杯の笑みを浮かべて見せるスペシャルウィークに、俺はただ頭を撫で続けることしか出来なかった。







「だ、だいぶ収まりました……」

「……俺が言うのもなんだが、大丈夫か?」

「ちょっと体がけだるいんですけど……ただ、気分はそんなもんじゃないくらいです」


 うつむいたスペシャルウィークの表情は、俺には見えない。

 声音でうかがい知れる感情も、俺自身の動揺もあってわからない。

 ……もしかして、待たせてしまったことに何か思うところがあるのだろうか。

 いや、思うところはあるはずだ。なにせ……彼女は一生俺と出会うことはなかったのだから。


「その、迎えに行けなくて、すまなかった……」

「……」

「怒ってる、よな? どんな言葉を吐かれても仕方がないことをしたと思う……」

「……はい」

「許せなんて言わない、ただ――」

「――く、んふふ、あはは!」


 突然、噴き出すように笑い始めたスペシャルウィーク。俺は驚いて手を放すが、スペシャルウィークはその手をしっかりとつかんできて。

 そのまま、背後の木へと追いやられた。何を――と思って見れば、スペシャルウィークはわずかな逡巡ののち、掴んだ手を自身の頭へと置いた。


「そんな慌てたトレーナーさんを見るのは、初めてだべ……」

「……そう、だったか?」

「はい! 前は全然オトナ〜って感じで、落ち着いていてカッコ良いな〜ってイメージだったので、余計に」

「新鮮だった?」

「はい……!」


 くすりくすりと、鈴を転がしたように笑うスペシャルウィーク。その間も、スペシャルウィークは俺の手を放そうとはしなかった。


「トレーナーさん、私、私、ずっと言って欲しかったことがあるんです」

「言って欲しかったこと?」

「はい! メイクデビューのとき、かけてほしかった言葉があるんです。何かわかりますか?」

「……当然だ」


 俺は、君の味方なのだから。
657 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/28(金) 19:29:12.93 ID:ppyp0opk0


「――よくやったな、スペシャルウィーク」

「……はいっ!!」
658 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/28(金) 20:00:28.27 ID:ppyp0opk0

「……落ち着いてきました」

「ならよかった。この手は?」

「そのままで」

「はいよ」


 ……あれから十数分。俺はスペシャルウィークの頭をただ撫で続けていた。

 記憶が流れ込んできたショックでハイになっていたスペシャルウィークも、今は落ち着いているようだ。

 ただ、まだリラックスは出来ていないようで、緊張しているかのように耳としっぽは立っている。

 なんとなくだが、今は咀嚼している段階なのかな、と思う。

 だったら、スペシャルウィークが話せるようになる段階まで俺は待つだけだ。


「……トレーナーさんは、なんで消えちゃったんですか?」

「あんまり信じられない話かもしれないけど、笑わないで聞いてくれるか?」


 スペシャルウィークが頷いたのを見て、俺は口を開く。もちろん頭を撫でるのは忘れずに。


「俺は、各レースごとに設けられた目標を達成できない場合にループしてしまうらしいんだ」

「ループ、ですか」

「そうだ。トレセン学園の校門をくぐる前まで時間が巻き戻る……っていうのかな」

「じゃあ、私がメイクデビューで負けちゃったから……」


 はい、とは死んでも言えない。

 スペシャルウィークは才気あふれるウマ娘だ。俺以外の、もう少し実力があるトレーナーに育ててもらっていれば、メイクデビューなんて簡単に勝ってしまうだろう。

 だから、あの結果はスペシャルウィークのせいじゃない。俺のせいなんだ。


「君のせいじゃない。事実、君は中山の……日本一に一度輝いた素質あるウマ娘だ」

「じゃあ、あの負けはトレーナーさんのせい、って言いたいんですか?」

「……事実、そうだと思っている」

「あんまり自分をバカにしないでください、トレーナーさんとはいえ怒りますよ?」


 たしなめるように微笑むスペシャルウィーク。上目遣いでこちらを見上げてくるのも、頬を膨らませているのも、見れば見るほど年相応の少女のものだった。

 それでも、その言葉たちには数十年の含蓄がある。彼女の言葉は、説得力に満ち溢れていた。


 ……それから、少し時間が経って。スペシャルウィークの様子がようやく落ち着いてきた。

 緊張でぴんと張りつめていた耳も尻尾も、今はゆらりと揺れている。……相変わらず手は頭から離せそうにはないけれど。

 離れていた時間が長いからだろうか。この体制のままとなるとスペシャルウィークにとってはキツそうだが、崩しそうにない。

 ここは……。


「立ちっぱなしじゃなんだから、一回座らないか?」


 俺の言葉にスペシャルウィークは頷いて、近くのベンチについてきてくれる。

 俺が座った位置にスペシャルウィークも座ろうとするが、俺はそれを止めることはできなかった。

 ……さて、席を移したが先ほどまでと状況自体は何も変わっていない。ここは何か話をするべきだろう。


――――――――――――

下1 トレーナーは何を話す?
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/28(金) 22:37:45.43 ID:UdglwaYuo
スペ周以降のループのこと
660 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/30(日) 00:18:56.56 ID:dnFcDoLu0

 何を話すべきか考えたとき、真っ先に浮かんだのは今までのループについてだった。

 他の子たちに話している、というのもそうだけど……スペシャルウィークにはきちんと話しておきたかった。

 君に貰った勇気が、どれだけ俺を突き動かしてくれたのかってことを。


「スペシャルウィーク――」

「――むぅ。トレーナーさん、ここまで来てその呼び方は少し水臭くないですか?」

「……どう呼んだら?」

「自分で考えてみてくださいっ」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて、スペシャルウィークはこちらを見つめる。期待に満ちた目だ。

 それにしてもどう呼ぼうか。いや、どう呼ぶかなんてもう決まってるんだよな。実際のところは”そう”呼んでもいいのかという気持ちがあるだけで。

 ……いや、ここで呼ばないのは逆にスペシャルウィークに失礼だ。


「……スペって呼んでいいか?」

「ぜひっ!」

「正解だったようで何よりだよ」


 スペが浮かべた笑顔は底抜けに明るくて。ああ、この笑顔に俺は何度も救われてきたのだなと再認識することができる。

 ひとしきり笑いあった後、わずかな沈黙が場に振り下りた。……言うなればそれはクールダウンのようなものだった。

 新たな話題へと向かうための。


「――スペ、俺の話をしてもいいか?」

「はい。そのあとに私の話も、聞いてくださいね」

「当然だ。むしろこちらから聞かせてくれとお願いしたいくらいだ」


 知らず、俺とスペは向かい合っていた。ひざとひざがくっつくくらいの距離だった。

661 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/30(日) 00:19:33.95 ID:dnFcDoLu0


「最初はさ、君を選んだのはかなり打算的な理由だった」

「そうなんですか?」

「ああ。最初は”素直そうな子がいいよな”って理由で育成ウマ娘を君に決めたんだ」

「びっくりしました、流石にもっとまともな理由だと思ってました……」


 まぁ、そう思うのは無理もないよな。


「……でも、本当に最初だけだった。君と話してるうちに、君の目的がしっかりと見えてきて」

「”日本一のウマ娘にならないか?”でしたよね」

「ああ。君の瞳にはどこまでも熱がこもってて。君なら勝ち抜けるっていう確信が俺にはあった」

「でも、私は負けました」


 ぐ、と拳を握るスペ。その表情は何処までも暗くて。

 ああ、ずっと後悔してきたんだなって一発で分かった。

 分かったからこそ。俺はあの時伝えたかった言葉を。


「君のせいじゃないよ」

「トレーナーさんのせいじゃ……いや、これだとずっと続いちゃいますね」

「俺は君のせいじゃないと思ってるし、君は俺のせいじゃないと思ってる」

「はい。だから……半分こにしましょう。責任も、後悔も」


 スペはそういうと、小指を差し出してきた。

 俺は……その小指に、自分の小指を絡めた。

 すると、スペは淡く微笑んで指をゆるゆると振った。


「ゆびきりげんまん、嘘ついたら……そうだなぁ、ニンジン100本のーます」

「指き……100は流石に死ぬぞ」

「そうだと思います。だから、今後はトレーナーさん一人の責任だなんて死んでも思わないでくださいね?」


 ぎゅ、と手を握ったスペ。そこで初めて、スペの手が震えていることに俺は気づいた。

 気丈にふるまっているだけで、スペは確かに恐怖していた。何に対してか、なんて。俺にはすでに分かり切っている。

 別離だ。


「スペ、安心してほしい。君を担当していたころの俺と、今の俺は違う。こうして君の記憶を呼び覚ましたのだって、今回でループを終わらせる覚悟があったからだよ」

「……じゃあ、もう離れ離れにならない、ってコトですか?」

「ああ。俺の全身全霊をもって、ループの運命を壊して見せるさ」

「トレーナーさん……」


 繋いだ手から伝わる震えは、小さくなっていた。


「……歯が浮くような言葉、言えるようになったんですね」

「うるさいわい」

662 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/30(日) 00:33:47.77 ID:dnFcDoLu0
「そんなセリフを吐けるようになったのが、私以外の子の影響だって言うのが少しだけ悔しいです」

「……知ってるのか?」

「知ってるっていうか、あれだけ盛大に態度が変わったら誰しもが噂しますよ?」

「そんなにあからさま過ぎたか……?」

「それはもう」


 態度が変わった、つまり俺がマヤノに「おはよう」と伝える以前と、以後のマヤノの態度の差だろう。

 できるだけ表に出ないように振舞ってきたつもりだったが、やっぱり少女の感性は敏感だ。些細な違いを読み取ってしまう。


「でも、これで疑問が一つ解けました」

「疑問?」


 俺が問えば、スペは頷いた。


「なんでマヤノちゃんがいきなりあんなに態度を変えたのか」

「なるほど」

「まるで人が変わったみたいだって友達の……セイちゃんが言ってたんですけど、当たらずも遠からずって感じでしたね」


 一生分の記憶が入るのだから、今までのマヤノとは確実に違いが生じる。


「次からは気を付けなきゃな」

「私も気を付けなきゃいけないですね。……でも、大手を振ってトレーナーさんに甘えにくいのは残念です」

「チームに入ればどうにかなりはするんだろうけどな……。ただ、ルナをチームに入れてすぐスペまで、というわけにはいかないだろうしな」

「シンボリルドルフさんがチームに入るだけで、かなりいろんな意見が出てましたし……」


 まぁ正直あれはかなり強引だったとは思う。理事長のゴリ押しが無ければそもそも実現していなかっただろうし。


「それは置いといて。私、トレーナーさんの話を聞きたいです!」

「俺の話?」

「はい、今までのループで何をしてきたかを教えてほしいんですっ!」

「……面白い話、ではないけど」

「安心してください、私の話もそんなに面白いものじゃないので!」


 それは自信満々にいう事なのか、と俺は小さく笑みをこぼした。

 スペもスペで「自信満々に言う事ではないですね?」だなんて笑いをこぼした。


「じゃあ、話すか。――今までの、俺の話を」


 今までの旅路を、振り返るためにも。
663 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/30(日) 00:49:38.81 ID:dnFcDoLu0


 俺は新人トレーナー。気づいたらトレセン学園の門前に立っていた。

 生まれてからここに至るまでの記憶は確かにある。何故か、それに加えて――未来の記憶があった。

 とはいえ、記憶と本当に呼んでいいのかってくらいあやふやだ。ただ漠然と”俺はURAの舞台に立てなかった”ってことだけは分かった。

 そんな記憶があるからこそ、俺はこの場にループしたんだと気づけた。俺が数奇な運命のただなかに居るんだと。


――校門をくぐって、俺はまず誰を担当するかを考えた。


 脳内に何故か存在した、ウマ娘のデータベース。そこから、適している子のデータを引っ張り出してきた。

 俺の目に留まったのは、日本総大将という二つ名まであるウマ娘、スペシャルウィークの名前だった。

 スペを選んだのは、さっきも言った通り、まず打算が大きな割合を占めてる。

 素直そうで、言うことを聞いてくれそうだからっていう、そんな理由。

 そこから瞳の熱量を見初めて、トレーナーになることを申し出たのは、さっき言ったとおりだ。ここから俺に打算はない。


 他のウマ娘との交流や、トレーニングをこなすうちに、メイクデビューがやってくる。

 このときの俺は、今と違って”ターン数を認識する”ことが出来なかった。

 だから理論的にトレーニングを行うことは出来ていなかったし、勝つための努力に欠けていた。

 ……正直、スペと約束しはしたが、スペがメイクデビューで負けたのは俺が原因だって今でも思っている。


「――行ってこい、スペシャルウィーク……!」


 ターフに送り出した言葉は、今でも覚えている。そのあとの展開も。

 ブロックされ、抜け出せず。スタミナをいたずらに消費するスペシャルウィーク。

 もう二度と走れなくなりそうな体験を前に、俺はただ声をかけることしか出来なかった。

 そこからは、すさまじいの一言だった。掲示板の外ではあったが、その走りはまさに”神がかっていた”。


 素晴らしい走りを見届けた俺は、ループした。糸が切れた人形のような、ってあんな感じなんだろう。


 ループした俺は様々なスキルや因子を得て……次のループに備える。モニターのたくさんついた部屋で。

 そのモニターのうち一つが、スペが俺を探し回っている映像を映し出してて。……それからだ。俺が負けたくないと思い始めたのは。

 そんな思いを胸に、俺はループした。次はもっとうまくやってみせるって、そんなことを想いながら。
664 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/30(日) 01:06:08.72 ID:dnFcDoLu0
 ループした先で待っていたのは、今までの決意をほぐす見たいな日常の景色だった。

 カフェテリアでのパンの奪い合い。そのさなかに、次の育成ウマ娘――ツインターボはいた。

 俺が声をかけちゃったせいで、ツインターボはパンを食い損ねたと怒ってたな……。

 で、いろいろあって俺がターボのトレーナーになることになって。


 ターボといろいろなところに出かけたり、トレーニングしたり。

 そんな日常の中で、ふと有馬のニュースが流れてきた。思えばあの時が初めて有馬について意識した瞬間だったな。

 ターボも有馬の舞台に立ちたいって言ってて、いつかそんなことができるのか、なんて思ってたり。

 それもこれもメイクデビューに勝たないと何も始まらないのに、そんな夢想ばっかりしてて。


 だからなのかな。ターボの時も俺は漠然と「勝てる」って思いこんでた。


 勝たなきゃって思いが、多分そういう思い込みを強くしたのかな、と思っている。

 「行ってこい、ツインターボ……!」って、ターボの背中を押したのも覚えてる。

 結果は、散々だった。大逃げはスタミナを使う事なんてわかり切っていたのに、俺はそれを伸ばしてやれなかった。

 途中でターボはダレて、着外だった。……それでも、ターボは諦めていなかったな。

 負けて、ほうほうの体になって。倒れ込むターボが、そのループで見た最後のターボだった。


……悔しかった。ターボは諦めてなかったのに、俺が彼女の足を折ってしまうんじゃないかと思えてしまって。


 でも、それでもターボは走っていた。それがどれだけうれしかったかなんて……スペ、君にも分かってもらえると思う。

 ……まぁ、このときの俺は正直かなり憔悴してた。ループして、あのモニタールームに行って。

 そこで何もなければ、俺は次のループでも似たような展開を繰り返していたかもしれない。


 そのときだ。スペが有馬を優勝した映像を見たのは。……俺がそれにどれだけ勇気をもらったかは、何度も言ってるから割愛しよう。
665 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/30(日) 01:12:22.46 ID:dnFcDoLu0
「……トレーナさん、こういっちゃなんですけど、言ってもいいですか?」

「どうぞ」

「感情の矢印の大きさを感じれて、私はちょっとうれしいですよ」

「……」


 否定は、しない。俺は確かに担当したウマ娘のことを全員好ましく思っている。

 大好きだ。愛している。だからこそ、みんながつらい思いをすることに責任を感じていた。

 ……だからこそ、俺は多分ちょっとだけ壊れてしまった。
666 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/30(日) 01:23:46.24 ID:dnFcDoLu0
体調が悪いので今日はここまで。次回までにはこのイベント終わらせて秋天の前座まで進めたいところです。
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/30(日) 03:23:19.13 ID:9PkVY3Kho
おつ
ご自愛ください
トレーナーくん、いっそ堂々とチーム作ろう
668 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/30(日) 23:00:34.55 ID:dnFcDoLu0

 彼女との――マヤノとの関係を一言でいえば、それは比翼連理だ。


 俺が今こうして羽ばたけているのは彼女のおかげだと確信を持って言える。マヤノにとっても、俺はそうあったと信じていたい。

 マヤノとの出会いもカフェテリアだった。体格故にケーキを取れないところに声をかけた……かけたのか? まぁそれがきっかけだった。

 天才ゆえに孤独を感じていたマヤノと、特異な状況に置かれて孤独を感じていた俺。思えば共通点があったからこそ、俺のオファーをマヤノは受けてくれたのかもな。


 このループから、俺は残りのターン数を視認できるようになった。


 だから、マヤノのことも以前の二人と比べたらより適切に育てることができるようになったと思う。

 実際、メイクデビューを突破したのはマヤノが初めてだった。あのときは喜びよりも安堵が勝ったな。

 メイクデビューを超えたら次は京都ジュニアステークス。いきなりG1に挑むのは難しいと思ったからこその采配だったが……。

 華々しい勝利だった。さすがはマヤノトップガンだと思ったし、俺は彼女となら、と思えるくらいには落ち着いてた。

 ……まぁ、結果から言うと”落ち着いたフリ”だったんだけど。

 それからナイスネイチャとの勝負の約束やらなんやらあって、クリスマス。


 正直に言えば、あの時の俺はかなりどうにかしていた。トレーナーをやめたいとか言い出して……。


 理事長が居なければ、きっと俺はそのままあの場から逃げていただろう。……今になってみれば、黒歴史のそれだ。

 理事長からの喝、滅茶苦茶後になって効いてくるんだよ。トレーナー室に戻ったらマヤノがいてさ。それで俺の未明を恥じた。

 そのクリスマスから、俺はある程度落ち着いた。多少心理的に不安定になるときもあったが、それでも前に比べたらマシになった。

 ナイスネイチャとの戦いに向けておちおち慌てても居られなかった、っていうのもあったのかな。

 だから、シンボリルドルフ――ルナが、マヤノの面倒を見ると言い出したのにも驚きはしたが否やは唱えなかった。


 まぁ、そんなルナ本人がマヤノをぶっちぎって皐月賞に勝ったわけなんだけど。


 あれで、俺たちは壁の高さを再認識した。ルナに勝るとも劣らない怪物……ナリタブライアンを相手どろうとしていたのもあって、特にな。

 だからこそ、天皇賞・秋に出走するという決断にも、さして驚かずに従ってくれたんだと思う。

 サイレンススズカがライバルとして立ち塞がるだなんて思ってもみなかったけどな。そして、まさか彼女に勝つなんて。
669 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/30(日) 23:04:38.37 ID:dnFcDoLu0
「ここまで聞くと順調に思えるんですけど……ここにトレーナーさんがいるってことは」

「……ああ。正直あれは、骨肉を削る――戦争のようなレースだった」

「それほど、ですか。……影をも恐れぬ怪物は」

「ああ。それほどの存在だったよ」


 だからこそ、俺は彼女――ナリタブライアンを知りたいとも思った。
670 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/06/30(日) 23:05:18.85 ID:dnFcDoLu0

――ナリタブライアンは、形容するなら抜き身の剣のようなウマ娘だった。
671 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/30(日) 23:12:29.92 ID:dnFcDoLu0

 二年目のクリスマスを経て、俺とマヤノはお互いを失わないように、失いたくないという思いから……依存関係に陥った。

 そんな依存関係を断ち切ってくれたのが、ナリタブライアンだった。

 彼女はそれほどに鋭かった。俺とマヤノをがんじがらめにしていた糸を断ち切るくらいには。

 ……断ち切られたからこそ、俺には分かった。彼女は、何かを強く求めているということに。

 それが何かは、ついぞわからなかったが……有馬記念に見せた彼女のスキル――”総てを賭けた戦い”。

 もう二度と走れなくてもいい、だなんて。そんな悲壮な決意が彼女の瞳から、体から、スキルから見え隠れしていて。


「だから、彼女には絶対に勝たなくちゃって。俺はそう思ったんだ」


 結果は……言うまでもない。俺の力量不足が、最後の最後にマヤノを有馬の頂点に押し上げることを許さなかった。

672 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/30(日) 23:21:42.05 ID:dnFcDoLu0
「……これが、今までの話だ」

「……」


 スペシャルウィークは、俺の話を最後まで真剣に聞いてくれた。

 まるで咀嚼するように、目を閉じて何度も頷いて、考えて。そして数分後、ゆっくりと目を開いた。


「大変、だったんですね」


 月並みにも聞こえる一言だけど、スペが語れば鉛よりも重い言葉だと思えた。

 俺は担当ウマ娘という理解者がいた。でもスペにはいなかったのだ。

 俺の道のりを大変だとするなら、スペの道のりは地獄にも似ていただろう。


「……ありがとう」


 だから、俺は彼女への敬意を忘れない。漏れ出た言葉は、彼女の尊重に対する、感謝の言葉だった。

 俺の言葉が以外だったのか、スペはちょっとだけ驚いて。そしてそのあといつもよりも優しい笑みを浮かべた。

 まるで母親のような、すべてを包み込むほほえみだった。


「どういたしまして」



673 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/06/30(日) 23:40:25.04 ID:dnFcDoLu0
「……あ、忘れてた」

「何をだ?」

「練習から抜け出してここに来たんです! 今頃私が居ないって大騒ぎに――」

「――なってるワケないだろ」


 声のしたほうに振り向けば、そこにはリョテイの姿があった。

 こちらを見てはニヤ付いた表情を隠していない。

 ……さてはコイツ、ここまでのやり取りを聞いてたな。


「にしてもトレーナーサンよ、アタシの話はしてくれないのか?」

「リョテイの話?」

「だってよ、スペにターボにマヤノの話をしてただろ? アタシの話は何処に行ったんだっての」

「ああ……」


 なるほど、さっきからちょっと機嫌悪そうなのはそういうことだったのか。

 であれば簡単だ。俺がリョテイの話をしなかったのは……ここまでのループを経た俺だからこそ至った結論ゆえだ。


「俺は、君との旅路に句読点を付けるつもりはないからな」


 未来は変えられないだなんて、俺は思っていない。

 いわば、描かれていく日記。その白紙のページのような、そんな連続性ある未来こそが俺の望むもので。

 閉塞しきった未来がもし待っているのなら、俺はそれをこじ開ける。可能性に満ちているなら、それもきっとできるはずだ。

 だから俺は、可能性を収束させない。そうすることで、俺たちはきっと、未来に生きることができるのだから。


―――――――――――――――――――――――――――――――


▼過去の担当ウマ娘の記憶を呼び覚ました。
サポートカード[日之本一の総大将:スペシャルウィーク]を入手しました。
サポートカード[日之本一の総大将:スペシャルウィーク]がアクティブ化しました。


▼スペシャルウィークから受け継いだ因子が強化された。

スピード★☆☆→スピード★★★
シューティングスター★☆☆→シューティングスター★★☆
全身全霊★☆☆→全身全霊★★☆



―――――――――――――――――――――――――――――――
674 : ◆FaqptSLluw [saga]:2024/07/01(月) 00:44:25.14 ID:MSnVTOqo0
「――明日か」


 窓際で俺は、温めたミルクを飲んでいた。

 こうでもしなければ眠りに就けなさそうだった。実際のところ、飲んでも眠りにはつけなさそうだ。

 明日、明日――運命の天皇賞が始まる。天気は、予報では秋晴れ。すがすがしいほどの晴日だそうだ。

 リョテイとスズカの戦いの場にとって、これ以上ないほどの舞台になる予定だ。


(だけど、胸騒ぎがしてならない)


 俺がループするから、とか。確かにその懸念もないわけではない。

 それよりも気になるのはレースの行方だった。このレースが一筋縄ではいかないことを、俺の直感が告げている。

 ……気にしても仕方がないことだった。だが、気になって仕方がないのもまた事実で。

 本番前にあまりよくはないとは思うが、寝付きをよくするために酒でも一献傾けようかとした時だった。

 ふと、スマホが通知を鳴らして。


「……リョテイ?」


 メッセージの主とその内容に、わずかな呆れと……やっぱりそうなのかと納得の念を覚えた。

 俺は軽く身支度して、外に出ることにした。

 秋冷えのする午後11時。この日の夜空は、想像よりも明るかった。


675 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/07/01(月) 00:45:14.78 ID:MSnVTOqo0




「――ンだよ、やっぱり起きてるじゃねぇか」

「君のほうこそ。明日は大事な大事な天皇賞だぞ?」

「ンなことくらいわかってる。でも、なんだか今日は夜空が綺麗でさ。……アンタと話したくなったんだ」


 背中越しにそんなことをのたまったリョテイは、ようやくこちらを振り替える。

 月のように静かに煌めく、金色の瞳。夜のような長髪。華奢な手足は、ともすれば浮いて見えるほどに真っ白だった。

 幽霊のように妖しく、しかし存在感のある居ずまいの彼女は――今淡く笑った。

 普段とは違う笑い方に、少しドキリとするものの……流石に見惚れるわけにはいかないとかぶりを振る。

 どうやらそれすらも見抜かれているようで。


「……惚れたか?」

「正直キレイだとは思った」

「……ありがとよ」


 白い頬に、朱がさした。そうすれば、彼女がようやく血の通った生き物のように見えてくる。


「で、どうしたんだ、いきなり呼び出したりして」

「どうしたもこうしたも最初に話したろ。アンタと夜空が見たくなったって」

「方便か何かだと思った」

「このアタシが方便でこんなロマンあることを言うかって話だけどな、ソレ」


 変に納得した。確かにこれは……ロマンある展開だ。

 大きな戦いを前に、空を、月を見て語らう。うん、ロマンだ。


「だから、トレーナーサンよ。こっちに来て座ろうぜ」


 どかり、とベンチに座ったリョテイは、隣へ俺をいざなう。

 小さく息を吐きながら、リョテイのガス抜きと思えば安いもんかと自分を正当化。彼女の横へと座り込んだ。


「こんなに空が綺麗で星が瞬いてるとさ、アタシたちってちっぽけな存在だと思えてくるよな」

「気持ちはわからんでもないな」

「だろ? 月並みな言葉だけど、素がデカいと説得力がある」


 確かに、この夜空の美しさは月並みな言葉にも正当性を持たせてくれる。
676 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/07/01(月) 00:46:04.33 ID:MSnVTOqo0

「なぁ、トレーナー」

「なんだ?」

「――アタシも、星になれるかな」


 天を仰いで、手を伸ばす。星を掴んで、引きずりおろすみたいにだらりと手を下げた。

 実際は、その手には何も握られていない。当然だ。星は悠久の彼方から光を俺たちに届けている。

 ただ、リョテイの掴んだ掌の中には、何かがありそうな気がした。それが実態を伴うかは、ともかくとして。


「アタシはロマンの求道者だ。レースのさなかにロマンを求めて……その結果、星になってみたい」

「星に」

「ああ。きらきら光って、誰かの目標や目的になるような輝きに、だ」

「……それはロマンだな」

「だろ?」


 に、と笑うリョテイ。そこで俺は、先ほどリョテイが何を掴んだのかをようやく理解した。

 あこがれだ。彼女は、憧れを手にしたんだ。


「星が綺麗ですね、ってか」

「ん、知ってたか」

「その手の表現が好きだった時代があってな」

「ああ、忘れてたわ」


 こちらを見てけらけらと笑うリョテイに、俺は疑問の目を向けた。

 リョテイは俺の目を心外そうに見つめ返して、もう一回空を見上げて、うそぶいた。


「――アンタは、ロマンの嚮導者だってことを、よ」

「嚮導者、ねぇ」


 先に立つ人間かと言われれば、俺はきっと違う。

 けれど、リョテイがそう感じているのであれば、きっと俺はそうあらんと努力する意味がある。

 ……一歩踏み違えれば、中二病のイタい奴になりそうだけど。
677 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/07/01(月) 00:47:34.60 ID:MSnVTOqo0

「なぁリョテイ。君は想像したことがあるか? 君が天皇賞・秋に出たときの歓声を」

「したこたねぇな。想像すらしたことない」

「だろうと思った。じゃあそれもロマンの一つだな」

「……どういうことだよ」


 空から視線をこちらに戻して、リョテイは聞く。

 何だ、そんなこともわからないのか? と俺はわざと煽り口調で返して――リョテイに問いかけた。


「リョテイ。君は天皇賞・秋のパドックで大歓声を浴びるだろう」

「かもな。それが何のロマンだっていうんだよ」

「――君の勝ち方次第では、パドックの何倍もの歓声を、君は浴びることになる」


 それはとても気持ちがいいことだってことは、リョテイも知っているはずだ。

 さぁ、想像してみろ。君が抱くべきロマンを。君の描くべき、冒険譚のヤマを。


「――」


 夜空に浮かぶ月のような瞳が、いっそう煌めきを増していた。

 まるで、満天の星星を従えたかのような、輝きだった。

 夜のような墨染めの長髪が、期待に揺れ動いていた。

 まるで、夜を切り裂いてしまうかのような、情熱があった。

 浮いて白く見える肌は、今や紅潮して熟れていた。

 まるで、幽霊が人になったかのように、生気があふれ出ていた。

 恋をしている。恋をしているかのような表情だった。


「――ああ、良いな、それ」


 嫋やかだった指先が、何かを求めて空をさまよったかと思えば――強く握られる。

 再び、そこには憧れを掴んでいた。そうに違いない。


「勝つぜ、アタシは」

「勝てるよ、君は」


 熱に浮かされる様に、俺たちは拳をぶつけて振り返る。

 言葉はいらなかった。それぞれが自分の気持ちを高めるために、あるいは明日へぶつけるために。

 種火は、薪は、もう胸の中にくべられていた。
678 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/07/01(月) 00:48:03.94 ID:MSnVTOqo0

――天皇賞・秋まで、あと0ターン。
679 : ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/07/01(月) 00:50:05.59 ID:MSnVTOqo0
今日はここまで。
次回、天皇賞・秋――
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/07/01(月) 02:25:54.85 ID:hDVBvzEKo
おつおつ
このドキドキをまた経験できるとは……待ってて良かった!
681 :いぬ ◆FaqptSLluw [saga]:2024/07/01(月) 21:21:18.23 ID:MSnVTOqo0

 空を見上げれば、そこには鉛色が広がっていた。

 前日の予報では快晴だったが、突如として雨雲が立ち込めたらしい。

 先ほどまで秋晴れだった分、立ち込めた雨雲に不吉さを感じずにはいられなかった。


「よく眠れたか、リョテイ」


 不吉なことなんてない、と。俺は浮かんだ考えを振り払うようにリョテイへと話しかける。

 俺の言葉に振り返ったリョテイは、俺の顔を見るなり怪訝な顔を浮かべる。


「……アンタ、寝てないのか?」

「結局寝れなくてさ」

「それはアタシがそうあるべきだったろ。まったく……それでアタシの走りを見逃しでもしてみろ、殺すからな」

「それはないよ。君の走りを見届けるのは、俺のつとめだからね」


 はん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くリョテイ。耳としっぽがきちんと動いているので、気を悪くしたわけではなさそうだ。


「にしても、晴れるって予報だったのにな」

「ああ。まさかこんな天気になるとは」

「……まぁ、バ場が重くなれば有利になるのはアタシだ。そうなるかはわからないが、そうならなくても勝ってみせるぜ?」

「君ならできる。根拠は……そうだな、俺の直感だ」

「そこは嘘でも時間だとかなんとか言えよ。締まらねぇな」


 俺に話の締まりをよくする能力なんてないこと、知ってるくせに。

 そっぽを向いた背中越しに声をかけると、これまたはんと鼻を鳴らして返答。

 ……本当は、俺がリョテイの方の力を抜こうとしたんだけど、逆に俺が助けられることになってしまった。


「……勝てよ、リョテイ」


――――――――――

下1〜3:コンマ判定

高低によって分岐します。合計値で計算。

〜100
〜200
〜300

※連取りは都合上3分間隔で可能なものとします。
682 :いぬ ◆FaqptSLluw [sage saga]:2024/07/01(月) 21:23:54.76 ID:MSnVTOqo0
※勝敗に関連する安価ではありません。安価は下。
※用意のため、本日の更新はここまでです。
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/07/01(月) 21:25:34.56 ID:spf5m6fdo
おつおつ
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/07/01(月) 22:42:17.62 ID:sYHtCtUG0
乙!
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/07/03(水) 00:11:30.84 ID:c79P/Ug5o
乙です
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