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イレイナ「サヤさん、お出かけしましょう」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/08/28(土) 08:11:18.25 ID:mC8RIJV00
◯月△日
私は朝早く起き、身支度をしたあと宿を出ました。
今日はサヤさんとお出かけをする約束をしているので、その待ち合わせ場所へと向かいます。
夏が終わり秋になり、うだるように暑かった空も、
そよそよと涼しい風が吹き始めた今では、ほうきに乗って飛ぶには絶好だといえるでしょう。
小川を通るときは心地の良い水の音を聞き、原っぱを通るときはどこからか現れた鳥さんたちと共に行き、
清々しい空の旅を満喫しながら、私はニコニコ顔を浮かべます。
「今日はどこへ行きましょうか」
そんなことを考えているうちに、サヤさんとの待ち合わせ場所に着きました。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1630105877
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/08/28(土) 08:12:32.06 ID:mC8RIJV00
「おーい、イレイナさーん」
「あっ、サヤさん」
サヤさんの元気な声ですぐに気が付いた私は、
既に到着し、地に立って手を振るサヤさんのところへほうきを降ろしました。
「少し、遅れてしまいましたか」
「いえいえ、ぼくも今来たばかりなので」
いつものように会話をすると、私は目的であるお出かけ先を聞きます。
「では、今日はどこへ行きましょうか」
そうですねぇ、とサヤさんは少し考えると、パッと目を開いて言いました。
「空の遊園地なんかどうですか」
「とても楽しそうな名前ですね」
私はそこに行き先を決め、サヤさんと共に、『空の遊園地』というところへ行きました。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/08/28(土) 08:43:26.96 ID:JEQNddpM0
サヤさんから聞いたことによると、
空の遊園地というのは、普通の遊園地とは違い魔法がかけられている遊園地のことで、魔法使いではない人も魔法使いである人もよく遊びにくるところだそうです。
「様々な魔法がかけられた遊具というのは、なんだかワクワクしますね」
「そうでしょう。イレイナさんもきっと楽しいと思いますよ」
あ、着きました。と見る空の遊園地は、とても広大なものでした。
ぐねぐねと曲がっている線路を走るジェットコースターに、別の場所では何やらドンドンと太鼓のようなものを叩いている人たちに、奥に見えるのは山岳のようなお城、あれは何でしょうか。
他にも見渡すほどの様々な遊具があり、広い敷地はまるで一つの街に来たかのようです。
「とっても広い場所なんですね」
「そうですよ。さあイレイナさん、さっそく遊びましょう」
ええ、と私はサヤさんに着いていき、地に降りると受付で手続きを済ませました。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/08/28(土) 23:41:40.21 ID:bP9TJCPz0
歩いて入る空の遊園地は空から見たときとは全く違って見えました。
奥行きが見えずそびえ立つ建物を見て、私は圧倒されます。
「サヤさん、建物がとても大きく見えますね」
「そうですね」
沢山の遊具を見て胸が躍るような気持ちになった私は、さっそく遊具で遊ぼうとしていました。
「では、サヤさん。さっそく遊びましょう」
「はい」
サヤさんは笑って私に着いてきます。
では、まずはあの遊具で遊びましょうか。
私は目に映っていたある遊具に向かいました。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/08/30(月) 07:44:26.29 ID:M1471pg60
私が遊ぼうとしたのは、ジェットコースターでした。
いえ、正確には、
「幻のジェットコースター…?」
名前に『幻の』が付いています。
魔法がかけられた遊園地ということで、このような名前になっているのでしょうか。
「あ、ここに説明がありますよ」
サヤさんが指をさす先に貼り方があり、私はそれを注視します。
「このジェットコースターでは各席に魔法がかけられています。魔法の種類は多様で、席によって異なります。
バラ色魔法や草原魔法、それから恐怖の魔法など、他にも沢山あります。
どんな景色が待っているのか、レッツ・ゴー…」
「へぇ、なんだか面白そうですね」
と、サヤさんはジェットコースターを見上げます。
私とサヤさんはチケットを買ってそれをスタッフに渡した後、そのまま『幻のジェットコースター』に乗り込みました。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/02(木) 18:27:36.86 ID:T+hvoRZJ0
ジェットコースターが、ガタ…ゴト…と音を立てながら少しずつ線路を登っていくなか、緊張感やワクワクとした気持ちが入り混じっていました。
「私が座った席にはどのような魔法がかけられているのでしょうか」
ふと呟くと、気づいたサヤさんはこたえます。
「さぁ、いろいろな魔法がかけられていると書いてありましたからね。ぼくもどんな魔法がかけられているか分かりません」
「バラ色魔法…というのは楽しそうでしたね」
「そうですね。ぼくもこのような乗り物は初めてで、すごく楽しみです」
そろそろですね…と私は視界が開けてくる先に目を向けます。
登っていたジェットコースターも少しずつ登ることをやめ、傾き始めていました。
もうすぐ走り始めるということが分かり、少し不安になり、そわそわとした落ち着かない気持ちになります。
そのような気持ちを待つこともなく、ガタン…ガタン…と傾いていたジェットコースターも、カラカラ…と動き始め、ついに、ゴーッと視界が迫るように走り始めたのでした。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/02(木) 18:45:04.34 ID:2OEAJ2d+0
「ううっ…!」
きゃーーっという叫び声が聞こえるなか、私は必死に、せまる圧迫感に目をつむり歯を食いしばっていました。
ジェットコースターというのはなかなか爽快なものばかりではありません。
真っ逆さまに落ちていくときは少し身に負担がかかりますね。
そのようなことを考えましたが、次の瞬間。ふわっと浮き上がったものを感じ、目を開けてみると
そこにはさっきまでとはまったく違った景色が広がっているのでした。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/02(木) 19:19:10.44 ID:Ar4eVVG00
「おお、これはっ…」
あたりはキラキラとした景色に包まれ、いくつもの花がほのかに浮かび走る先に続いていました。
ぽかぽかとした暖かい空気に和み、ついうっとりとした気持ちになります。
ふと下を見ると、さっきまで線路や地面ばかりが続いていたものも、綺麗な小川やたくさんの花に変わっていました。
「これはいいですね」
私は呟きました。
さっきまで感じていた圧迫感のようなものも無くなり、自然に体が浮くようで、見る先には、またキラキラとした景色にたくさんの花ばかり、ついジェットコースターに乗っていたことを忘れてしまいそうです。
なるほど、これが、幻のジェットコースターという名前が付いているゆえんなのですね。
私は名前の理由に納得し、サヤさんに呼びかけました。
「このような空の旅も良いものですね」
「………」
しかし、呼びかけても一向に返事が来ません。
おかしいですね、
私はそう思ってサヤさんに目を向けると、楽しい顔をしているはずのサヤさんは、かっと目を見開き、おどろしいような叫び声をあげているのでした。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/02(木) 19:31:09.40 ID:gjz1WvDO0
「ぎゃ〜〜〜っ、イ、イレイナさ〜〜ん!」
「サ、サヤさん!?」
呼びかけても、サヤさんは聞こえない様子でぎゃーぎゃーと声を上げます。
「怖いよ〜〜!」
どうやら、サヤさんは恐怖の魔法がかけられた席に座ってしまったようです。
バラ色の景色が見えるなか、ジェットコースターが止まるまで、サヤさんは叫び声を上げ続けていました。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/02(木) 19:50:35.18 ID:4y/eOQDR0
「うう…ひどい目に遭いました」
サヤさんはベンチにゆったりと座り、ため息をついていました。
「ひとつめの遊具からいきなり怖い目にあってしまうとは、ついていませんね」
私が呼びかけると、サヤさんはがっくりとうなだれます。
「そうですよ、ぼくもバラ色のような魔法を期待してたのに」
うぅ、これは結構キイたようですね。
私はサヤさんの気分を和らげるために、ぽんっと手を叩いて提案をします。
「そうだ、喫茶店で少し休憩しましょう。喉も渇きましたし」
すると、サヤさんは重そうな体を起こしながら、
「行きましょう」
と言うのでした。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/03(金) 19:49:41.53 ID:v8Sc4foy0
喫茶店は、魔法がかけられた遊園地を意識してか、帽子やほうきなどがアクセサリーとして飾られていました。
他にも、微かに光るランプや、明るいともしびなどで部屋が明るくされており、なんとも優雅な雰囲気になっています。
「ずいぶんと凝ったつくりになっているんですね」
「そうですね」
サヤさんも頷きます。
店員さんに案内され、私とサヤさんは空いているテーブル席に向かい、席に座ると、店員さんがメニューを持ってきました。
「ごゆっくり」
そう言い残すと、コツコツ…と足音を立てながら店員さんは去っていきます。
しばらく私は店内を眺めていましたが、やがてメニューを開き、何を飲もうかと考え始めていました。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/03(金) 20:11:46.48 ID:EXuD+ao20
「さて、何を飲みましょうか」
メニューを眺めていると、サヤさんは言います。
「このメロンソーダはとてもおいしそうですね」
「何でも好きなものを飲んでくださいな、疲れた体を癒すためにも」
疲れたときは甘いものがいいでしょう、と私はつけ加えます。
メニューに載っているメロンソーダを見ると、何か注意書きがあるのが見えました。
「サヤさん」
私が指をさすと、サヤさんも気がついてそれを目にします。
「なになに…」
サヤさんはふむふむと頷きながら、説明を読むのでした。
「ええと、つまり。このメロンソーダにも何やら魔法がかけられていて、それは飲んでからのお楽しみと」
「そのようですね」
相槌を打つと、サヤさんはジェットコースターでのできことを思い出したかのように少し不安そうな顔をします。
「イレイナさん、また変な魔法がかけられていたらどうしましょう」
「まぁまぁそう言わずに…」
と言いながらも、少し気の毒に思った私は人差し指を立てて提案をしました。
「それではこうしましょう。私もメロンソーダを頼みますから、もし変な魔法がかかっていたら私のと交換するということで」
そういうと、不安そうにしながらも、「はい」とサヤさんは頷き、私とサヤさんは店員さんにメロンソーダを2つ注文しました。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/03(金) 20:35:38.07 ID:1GeouWLW0
「どうぞ」
と持ってこられたメロンソーダは、シュワシュワと気泡がたつうえにレモンが飾りのようについており、
秋になり始めた今の季節にはぴったりともいえる、おいしそうな香りがしていました。
「きっとこれは美味しいですよ」
私は本音混じりにサヤさんに言います。
「そうですね」
サヤさんもおいしそうにメロンソーダを見つめていましたが、飲もうとする手はおそるおそるグラスを掴み、少し飲むのを躊躇っているようでした。
「大丈夫ですよ、私のもありますから」
「はは…」
サヤさんは私にか弱い笑みを見せると、ズズッと勢いよくメロンソーダを一口飲みます。
「どうですか?」
と聞くと、
「おいしいです!」
とサヤさんは言うのでした。
それはよかったですね。
その後サヤさんはすっかり気分を取り戻したので、私とサヤさんは次の遊具へと再出発するために喫茶店をあとにしました。
私が飲んだメロンソーダも、普通においしいメロンソーダでした。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/03(金) 20:44:51.36 ID:Q6IIC7tQ0
「次はどこへいきましょうか」
あたりを眺めると、遊具が沢山あり、どれを遊べば良いのか逆に迷ってしまうようでした。
「ここすごく広いですからね」
サヤさんもすぐには決めかねているようで、私とサヤさんはなかなか2つめの遊具を選び兼ねていました。
すると、ふと私の視界の先に、ある山岳のようなお城が目に映りました。
それは、この空の遊園地に入る前に、空から眺めて見たときのお城でした。
「サヤさん、あのお城に行きません?」
そういうと、サヤさんもお城を見て呟きます。
「たしかにぼくも気になってはいたんですよね」
あれにしましょう、とサヤさんも頷き、私とサヤさんは遠くにそびえ立つお城を目指し、歩き始めるのでした。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/03(金) 20:55:21.95 ID:SxsIz9o10
お城までの道のりは、長い長い上り坂となっていました。
坂道にはいくつもの休憩所のようなお店があり、私はサヤさんと共に、休んだり、歩いたり、そしてまた休んでは少しずつ近づいてくるお城に向かって、歩き続けていました。
「どうしてこんなに歩くようなつくりになっているんですかね」
「知りませんよ。私が聞きたいくらいです」
私とサヤさんはへとへとになりそうなくらい、上り坂を登っていました。
魔法の遊園地だというのに、どうしてここはこう古典的なのでしょう。
そんなことを考えながら、私はやっと、目にしたお城に辿り着くことができたのでした。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/03(金) 21:16:38.09 ID:DRvgxdv80
「つきましたね…」
私はぐっと背を伸ばし、その横でサヤさんもぐったりしたように腰を曲げ、膝に手を当てていました。
「ぼくはもうへとへとになってしまいました」
「それは、私もです」
しばらく息を切らしていましたが、私とサヤさんは、そのお城がどんなお城なのだろうかと見渡します。
近くで見ると、改めてお城は大きく、見上げるのも難しいくらいてっぺんは高くなかなか見えませんでした。
「これは、遊具というより、ひとつの館のようですね」
「そうみたいですね」
サヤさんも、建物の大きさにぎょっとしながら建物を眺めます。
「さぁ、では中に入りましょう。あ、ぼくが手続きをして来ますね」
サヤさんは入り口近くにあった受付に、小走りで向かっていきます。
「お願いします」
そう返事して、私はこのお城がどんな遊具であるのかを再び考えました。
あまり考えていませんでしたが、遊園地でお城と言ったら何があるでしょうか。
なかは洞窟になっていて、水の上をボートで渡ったりするのでしょうか。それとも、また、線路がありジェットコースターのような乗り物が走っているのでしょうか。
でも、定番として思いつくのは…
そこまで考えたとき、受付から雄叫びのような叫び声が聞こえて来ました。
「ひぇ〜〜!」
「サヤさん!?」
サヤさんの声がし、私はサヤさんのところに駆けつけます。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/03(金) 21:42:53.92 ID:7DsiAVC70
「どうしたんですか、サヤさん」
呼びかけると、サヤさんは泣きそうな顔で振り向いて言うのでした。
「ここ、お化け屋敷だそうです」
私は頬に手を当てて、困りましたねと笑ってみせます。
「これは困りましたね。サヤさん、ジェットコースターで怖い目にあったばかりですし、別の遊具にしましょうか」
「ぜひそうしたいです。ぜひそうしたいですけれども、この建物を目指してずっと坂を登って来たのに、今さら引き返すのもしたくないというか」
せっかく来たのに…とサヤさんは少し口ごもって名残惜しそうにします。
「よし、では…」
私はぐっと握り拳をつくって、サヤさんに言ってみせました。
「では、サヤさん。このお城を探検しましょう。数々のおばけから逃げかいくぐり、私たちは無事に帰還するのです」
えぇ!、と、サヤさんは目を丸くし少し戸惑ったようでしたが、お城に入りたいようで、決心したように頷きます。
これは長い旅になりそうですね。
「いってらっしゃい」
受付に居たおばあさんがふふふと微笑むなか、私はサヤさんとともにその大きなお化け屋敷のなかへと足を踏み入れるのでした。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 06:10:05.15 ID:KeH5AdMi0
「お、おじゃましまーす」
律儀に挨拶をするサヤさんとともにお城のなかに入ると、中は意外にも明るく、お化け屋敷には似つかわしくないシャンデリアが城内を照らしていました。
とある大理石には小石がつめられており、その上から水がちょろちょろと流れ出て細い水路へと流れていき、まるで私たちを案内してるかのように道先へ続いていきます。
これでは、お化け屋敷というよりも観光地ですね。
「ずいぶんと豪華なお化け屋敷ですね」
そのように言うと、そうですね、とサヤさんも頷き、うわぁと何やらときめいた様子でトコトコと何かに向かって歩いて行きます。
「イレイナさん、ダイヤがありますよ、ダイヤが」
ダイヤとはまた、豪華ですね。
行く道には、本物かどうかは分かりませんが、壁にダイヤモンドが飾られており、ますますこの建物がお化け屋敷なのか疑わしくなってしまうほどでした。
どうしてこのようなつくりになっているのかは分かりませんが、とりあえず進みましょう。
私とサヤさんは道を歩いて行きます。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 06:35:58.59 ID:KeH5AdMi0
サヤさんはふと言いました。
「うーん。お化け屋敷だと思って入ったのですが、なかなかおばけが出てきませんね」
「ええ、そうですね」
私は無駄に明るい城内を歩きながらあたりを見渡しますが、お化け屋敷にありがちな骨やガイコツのようなものは見当たりません。
「サヤさん、ここは本当にお化け屋敷だと聞いたのですか?」
サヤさんに問いかけると、サヤさんはそりゃあもちろん。と頷きます。
「間違いないですよ。受付の人もお化け屋敷だと言ってましたし、名札にもそう書いてあったのですから。間違えるはずはありません」
「そうですか」
すると、歩いていく先に何やら扉のようなものが見えてきました。
「サヤさん、扉が…」
今まではただの道案内だったということでしょうか。
「これから怖いおばけが待っているということなんですかね」
サヤさんは少し怯えたように震えましたが、一本道になっているので、扉を開けるしかありません。
「行きますよ、サヤさん」
私は少し意気込むように自分にも言い聞かせながら、先の景色を見ようとギィッと音を立てて扉を開けるのでした。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 07:00:41.94 ID:KeH5AdMi0
扉を開けた先には…
扉を開けた先はある広場になっていて、シャンデリアが豪華になかを照らしており、鍾乳洞のようなかたちをした壁が光を反射して、中心にある大きな噴水をキラキラと輝かせていました。
噴水の上には、なぜか虹もかかっています。
「あ…あぁれえ?」
私は思わず素っ頓狂な声を漏らし、コツコツと広場のなかに足を踏み入れました。
「ま、また豪華なつくりになってますね。おかしいですね」
サヤさんも後から着いてきて言います。
「たしかにお化け屋敷にしては、見物という感じがしますね」
どうしてなのでしょうか。私はお城にお化け屋敷という名前がつけられていることに疑問を抱えて、首を傾げてしまいます。
うーん、悩んでも仕方がありませんね。
私はサヤさんに振り向いて言いました。
「こ、ここはもしかしたら、観光地としてつくられているのかもしれませんよ。外から見てもとても大きなお城のようでしたし、観光気分を味合わせてくれているのかもしれません」
ここはひとつ観光するつもりで楽しみましょう。と笑みを浮かべると、サヤさんもふっと笑います。
「そうですね。見てるとなんだか楽しいですし、観光するのもいいかもしれませんね」
あ、真ん中にある噴水が気になりますね。とサヤさんは中心にある大きな噴水へと歩いていきます。
そうそう、観光しましょう。私も知らず知らずのうちか、自分にそう言い聞かせていました。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 10:33:55.86 ID:/9CKO7P40
大きな噴水の前で、サヤさんは虹を眺めながらわぁとため息を漏らしていました。
「イレイナさん、この虹はどこから現れているのでしょう。ここには日差しもさしませんし、灯りでこのような虹になるでしょうか」
「たしかにとても綺麗な虹ですね。日差しがさしてないなら、魔法でつくられているのでしょうか」
「そういえば、ここ魔法がかけられた遊園地ですもんね」
サヤさんはぶらぶらと噴水の周りを回りながら、噴水を眺めます。
「綺麗な噴水に、こんな虹が見られるなんて、なかなか得した気分ですね」
「そうですね…」
返事をしながら、私は考え事をしていました。
この虹が魔法でできているのなら、今までの豪華なシャンデリアやダイヤモンドなどの様々な備え付けも魔法でできているのでしょうか。
むかし、こんな話を聞いたことがありました。
ある旅人が旅をしていたところ、大雨が降り、止まなくなったので、雨宿りをしようと見かけた屋敷に入ります。
屋敷に入ると、そこは人の気配もなく、手入れもされていない暗い屋敷でした。
旅人は、ここはどんな屋敷なのだろうかと思いなかに入って散策をします。しかし、歩いても歩いても見るのは同じ景色ばかりで何も変わり映えはしません。
やがて帰ろうと思った旅人は外に出ようとするのですが、中に入り込んで道が分からなくなってしまい、出口を探して屋敷のなかを彷徨います。
しかし、とうとう出口が見つかることはなく、旅人は最後はひとり生き絶えてしまったとか。
私はサヤさんに呼びかけます。
「サヤさん。もしこのお城が魔法でつくられたもので、数々の装飾品も魔法で見せられているのだとしたら、私たちは本当は薄暗いお化け屋敷のなかを歩かされているのかもしれません」
サヤさんは「ひっ」と少し飛び上がり不器用な笑みを浮かべてこちらを見ます。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 10:47:37.72 ID:bYIXLMlq0
「やだなぁイレイナさん。急にそんな怖いこと言わないでください。あれ、でもたしかに妙ですねぇ…」
サヤさんはキラキラと輝き続ける噴水を見つめます。
「お化け屋敷なのに、どうしてこんな立派な噴水があるのでしょうか。それに、妙に輝き過ぎてる気も…」
私は杖を取りだし、矛先を噴水に向けます。
「たとえばこの噴水も魔法でつくられていて、本当は何かの妖怪なのかもしれません」
私は噴水に変身を解く魔法をかけてみせます。
すると、噴水はみるみるうちに姿を変え、水はどろどろとした液体にかわり、噴水は黒い妖怪のような姿に変わりました。
「ギャー!」
妖怪は雄叫びをあげて腕を広げます。
すると、サヤさんはヒイッと飛び上がったように顔を引きつらせ、
「ギィえええ!」
と叫び声を上げ、走っていきました。
「あ、待ってください。サヤさん!」
私はサヤさんのあとを追います。
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 11:00:12.99 ID:ZFqAWkqR0
広場を抜けても、妖怪は私たちの後ろを追いかけてきていました。
「何ですか、あれ。追いかけてきますよ」
そういうと、サヤさんはさらに叫び声を上げて走ります。
妖怪は雄叫びを上げながらどんどん私たちの後ろに迫ってきていました。
「ギャー、ゴワイヨォ!ギャー、ゴワイヨォ!」
近づくたびに、妖怪は雄叫びを上げます。
心なしか、サヤさんの真似をしてません?
走っていると新たな広場が見えてきたので、私はサヤさんに呼びかけました。
「サヤさん、広場で隠れましょう。隠れればこのおばけも追ってこないかもしれません」
「わがりましたぁ!」
サヤさんは泣きそうになりながら広場へ走ります。
幸いにも、広場は大きなお花畑になっており、隠れるには十分の茂みがありました。
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 11:39:42.66 ID:Zqi5a8gZ0
「行きましたか…」
私はおばけが広場の向こうに去っていくのを確認し、サヤさんを見て言います。
「もう、行ったようですよ」
「そうですか…」
はぁ…とサヤさんは肩をおろし、がっくりとした様子で呟きます。
「やっぱり、お化け屋敷なんて来るべきではなかったんですかね」
「まぁそう言わずに。あのおばけたちも、脅かしてくるだけで何もしてはこないみたいですよ」
笑みをつくってみせると、サヤさんは言います。
「あのおばけ、実はジェットコースターに乗っているときに出てきたものと同じ姿をしていたんです。それがとても恐ろしい姿で、ついそれを思い出してしまいました」
「そうですか。サヤさんはジェットコースターではあのようなものたちと遭遇していたんですね」
私が見たバラ色の景色とは大違いです。
サヤさんは、ジェットコースターに乗っているとき、恐怖の魔法がかかった席で妖怪と遭遇し、何度も暗闇のなかを彷徨っていたのでした。
気がつくと、明るかったお城のなかも、どことなく薄暗くなってきているように見えました。
サヤさんは顔を伏せ、涙を浮かべます。
「ぼくはここから出られるのでしょうか」
サヤさんはじっと動こうとしません。
私は言いました。
「それは怖い出来事でしたね、サヤさん。でも、今は私がついています。心配しなくても、ここから出られますよ」
私は杖で明かりを照らします。
「こうすれば部屋も明るくなりますし、何より、ここは単なるお化け屋敷ですから」
そういうと、サヤさんは少し元気を取り戻したように立ち上がり、「はい」と頷きます。
きっと出られるでしょう。
私とサヤさんは明かりを照らしながら、お城の出口を目指して、また歩きだすのでした。
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 16:33:28.59 ID:5gEASRLV0
お城に入ってから、もうそれなりに時間が経ったでしょう。
そう思ったころ、道に沿って歩いていく先に看板が立ててあるのが見えました。
「サヤさん、看板がありますよ」
少しずつ正気を取り戻し、また元気になったサヤさんも看板を見ます。
「ほんとうだ、ありますね。何と書いてあるのでしょうか」
「どれどれ…」
私は看板に書いてある文字をひとつひとつ読み上げました。
「みなさん、このお化け屋敷も中間地点へとやって来ました。ここから先は沢山の迷路になっていますが、同時に出口も沢山あります。どのような出口を迎えるのか、出口を見に、レッツゴー…」
うーん、前にも見たことがある文句があるような
そんなことを考えていると、サヤさんが言いました。
「また運試しのようなものが待っているのですか。ぼくはもう怖いものは見たくありません」
サヤさんは心細そうにしながらも、少し怒ったかのように頬をふくらませ、腰に手を当ててみせます。
「まぁまぁ、今度は出口ですから。また変な魔法がかけられているとは限りませんよ。しかし、どうもこの遊園地は、あみだくじのようなものが好きなようですね」
私は少し考えました。
お化け屋敷に出口がいくつかあるなら、それは外につながっているはずです。
それなら…
私は明かりをつけていた杖の先から、細い細い煙を出します。
「これは僅かな気流もキャッチすることができる魔法です。こうすれば、出口も見えてくるでしょう」
すると、煙はすぅっとある道へと続いて行きます。
「こっちのようです」
私が煙が漂う方向へ歩くと、サヤさんは、おぉ…と期待を込めた表情であとに続きました。
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 16:57:38.90 ID:2qCF4mrV0
しばらく歩くと、大広間に出ました。
高さが何十メートルもあるような、とても大きな広間です。
見渡すと、分かれ道がいくつもあり、数を数えると大広間をぐるっと一周してしまいました。
「道が全部で9つもありますね。来た道を数えると10ですか」
私は杖から煙を出しましたが、あまりにも広いからか煙はひょろひょろと漂い、どこの道へと続くこともなくふらふらと上がると、やがて高い天井に見下ろされながらスッと消えてしまいました。
仕方がありません。これでは、ひとつひとつ道をつぶしていくしかないみたいですね。
「来た道が分からなくならないように、目印をつけておきましょう」
私は近くに落ちていた小石を道の入り口におき、もう一度同じ道を通らないように目印をつけました。
「行きましょう、サヤさん」
「はい」
サヤさんも決心したように歩きます。
1つ目の道ではハズレを引いてしまいましたが、行き止まりの先には、前に来たことがある人が書いたものなのか、とある落書きがしてありました。
「何やら大きな木の絵が描いてありますね」
私が言うと、サヤさんも頷きます。
「そうですね。これを描いた人は何を思ってこれを描いたのでしょうか」
やがて大広間にもどり、私とサヤさんは2つ目の道へと向かいます。
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 17:10:05.49 ID:2qCF4mrV0
2つ目の道も行き止まりでしたが、奥にはある工場のような広い空間があり、そこには大きな木が立ち、私たちを見下ろしていました。
その木は、1つ目の道で見た木の絵とよく似ていました。
「どうやら、壁に描いてあった絵はこの木を真似て描いたもののようですね」
そう言うとサヤさんは、はっと笑います。
「前に来た人も、迷って退屈して、壁に落書きをしたんでしょうか」
「でも、前にここに来た人がいるなら安心ですね。いずれ出口も見つかりますよ」
私はまた大広間へと足を戻します。
出口があると分かったからか、私はその次も道も、また次の道も、行き止まりにある装飾物や遊びに来た人たちが残していったらしきものを見ては楽しみ、ひとつひとつ、道を潰して行きました。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/09/04(土) 17:58:37.24 ID:Xga10edY0
半分ほど道を潰したころでしょうか。
私は依然として見つからない出口に少々歯痒い思いを覚え始めており、それはサヤさんも同じようでした。
私は言います。
「置き物を見るのは楽しいですけど、そろそろ出口も見つかって欲しいものですね」
「そうですね。でももう半分を過ぎましたし、もうすぐ出口も見つかるのではないですか?」
「そうですね」
私は納得しながら次の道へと向かいます。
6つ、7つ…
その後も道を潰して行きますが、なかなか出口は見つかりません。
やがて、私とサヤさんは話すことをやめ、ただ黙って道を歩いていました。
行き止まりで見る数々の置き物にもだんだんと関心がなくなり、私は興味を示さなくなっていきました。
そして、8つ目の道に来たときでした。
私は、少し歩ききったようにサヤさんに言います。
「とうとうあと3つになりましたね。いえ、元来た道を含めるともう8つ道を歩いてることになるので、実際はあと2つですか。どちらの道が出口が賭けをしませんか?」
すると、サヤさんはふっと笑います。
「いいですよ。それではぼくは右側の方で」
「じゃあ私は左側で」
私とサヤさんは、順番通りに私が選んだ左側の道から行くことにしました。
29 :
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:2021/09/04(土) 18:16:42.97 ID:Xga10edY0
歩きながら、私はお城に来てもうずいぶんと時間が経っていることに気がつきました。
少しずつ空腹にもなってきて、わたしは喫茶店でメロンソーダを飲んで以来まだ何も食べていなかったことが思い当たります。
それはサヤさんも同じであり、急に帰りに食べる夕飯が恋しくなってきたのでした。
今日はサヤさんと立派なディナーをしましょう。
私はサヤさんに言いました。
「そういえばお昼から何も食べていませんでしたね。もう夕方になっているでしょうか。長かったお化け屋敷でしたけど、今日はおいしいディナーが食べられそうですね」
「ふふっ。そうですね」
サヤさんは少し元気を取り戻したように笑います。
歩く先に明かりが見え始め、私はぱっと疲れがとんでいくのを感じました。
「あぁ!サヤさん、明かりがありますよ。賭けは私が勝ったようですね」
私は走って明かりがする方へと向かいます。
「出口なんですね!あ、待ってください」
サヤさんも元気そうに後ろをかけてきます。
私は細い一本道を渡り、明かりがさす方に出ました。
30 :
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:2021/09/04(土) 18:35:30.56 ID:emvZhRbY0
が、しかし。
「……」
明かりがさすその空間は、見覚えのある大広間に繋がっているのでした。
「あ…れぇ?」
何が起こったのか分かりません。
私はサヤさんに聞きました。
「たしか、一本道を渡ってきましたよね。どうしてまた大広間に戻ってしまうのでしょう」
サヤさんは気がついたように言います。
「あれ。ぼくたちが今出てきたのって、ぼくが選んだ右側の通路からですよ」
…ということは、最後の2つの道は繋がっていて、私とサヤさんは元の大広間に戻って来てしまっただけなのでしょうか。
そうなると、ここには出口が無いのでしょうか。
「そんなことはありません!」
私はとっさに考えを振り払います。
「きっと出口があるはずです。私が出した煙魔法だってここの広間に繋がっていましたし、今まで見てきた置き物も過去にここに遊びに来た人たちがいた証ではないですか!」
そこまで言って私は、ある考えが過ぎりました。
煙魔法はこの広間で消えてしまったではないですか。置き物はあっても、出口は見つからなかったではないですか。
過去にある屋敷に入った旅人がいました。
その人は暗い屋敷のなかを散策し、探検をしました。
しかし道に迷ってしまい、屋敷のなかを彷徨いました。
そして、とうとう出口が見つかることはなく、旅人はひとり生き絶えてしまいました。
…その旅人は、今も屋敷のなかを彷徨っているのでしょうか。
見ると、大広間の真ん中に、私とサヤさんを追いかけてきた黒い妖怪が私たちを見て立っているのでした。
31 :
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:2021/09/04(土) 18:43:40.12 ID:emvZhRbY0
「あっ…」
私は声を失ってしまいました。
振り返ると、サヤさんは黒い眼差しで、正気を失ったように体を震わせていました。
何も悪さをしないと思っていた黒いおばけも、今は私の目には恐ろしく映るのでした。
「どうしましょう、イレイナさん…」
微かなサヤさんの呼びかけも、今の私には反応できません。
どうすればいいか分からないからです。
黒い妖怪は、少しずつ私とサヤさんに近づいてくるのでした。
32 :
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:2021/09/04(土) 19:28:20.49 ID:emvZhRbY0
サヤさんは言いました。
「すみません。イレイナさん」
ぼくがお化け屋敷に入ってみたいだなんてことを言わなければ。
ぼくはただ、遊園地は楽しいところだから、イレイナさんもきっと楽しいだろうと思って」
「サヤさん…」
私は少しずつ正気を取り戻していました。
「サヤさんのせいではありませんよ」
私は黒い妖怪に杖を向けます。
「サヤさんが遊園地を提案してくれたおかげで、私はジェットコースターでバラ色の景色を見ることができました。今、それをお返しします」
私は数々の水玉を杖から出して見せます。
吹き出された水玉はすぐに消えてしまいますが、キラキラと輝き、残った数々の水玉が大広間に広がり、あたりを輝かしい空間に変えていきました。
天井まで数々の水玉が登って行き、吸い寄せられるようにあたって消えて行きます。
私は天井が不自然に揺れていることに気がつきました。
そうですか、出口は天井にあったのですね。
天井に風を吹きかけると、天井は紙のように破れ、外の景色が見えるのでした。
「出口がありましたよ」
私はほうきをとりだすと、サヤさんに呼びかけました。
サヤさんも即座にほうきをとりだし、私とサヤさんはお城の外へと飛び向かいます。
ふと、下を見ると、黒いおばけは笑った顔で送り出すように手を振っているのでした。
「行きましょう、イレイナさん!」
サヤさんの声に気がついた私は、そのまま外へと飛び立ちました。
33 :
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:2021/09/04(土) 19:44:13.66 ID:emvZhRbY0
…どれくらいお城のなかに居たのでしょうか。
あたりは夕焼けが沈もうとしていて、かすかに鳥さんたちの鳴く声が響いていました。
私とサヤさんは、しばらくぼうっとほうきに乗ったまま遊園地を眺めていました。
「もう日も暮れようとしていたんですね」
そう言って、サヤさんは少し申し訳なさそうに私の方を見ます。
「いいんですよ、サヤさん」
そのとき、あたりの街灯に明かりがつき始めました。
少しずつ、少しずつ。それからどんどん広がって、街灯は遊園地を照らしていきます。
緑色の明かりや、青色の明かり、黄色の明かりなど、様々な色の明かりが遊園地を照らし、私は今日いちばんの景色を目の当たりにしているのでした。
明かりに照らされ、サヤさんは言います。
「すごいですよ!イレイナさん。こんな景色、見たの初めてです!」
「はい」
私は頷いて、サヤさんを見て笑いました。
34 :
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:2021/09/04(土) 19:56:32.65 ID:emvZhRbY0
あとから聞いた話ですが、あの遊園地に出てきたおばけは、私が考えていたようなおばけではなく、プラスチックなどでつくられて魔法で加工された模造品だとのことでした。
魔法でできていると本物のようで、ついおばけだと見間違えてしまいますね。
遊園地から帰る途中、サヤさんは言いました。
「今日はもう遅いですけど、大丈夫ですか?」
「はい。宿はとってありますし、門限とかも無いので」
そうですかと、サヤさんは安心したように笑います。
私はサヤさんに言いました。
「サヤさん。今日はありがとうございました。また、どこかへ遊びに行きましょう」
サヤさんはぱっと目を輝かせます。
「はい。必ず!」
それでは、とサヤさんは帰路へとほうきで飛んでいきます。
見送った私も自分の宿へと向かいました。
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