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辻野あかり「7人が行く・EX3・出郷りんご」
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1 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:34:58.06 ID:lF0ws9bq0
あらすじ
この因果が終わるのは、縁が結ばれし時。さぁ、歴史ごと吹き飛ばしましょう。
前話
久川凪「7人が行く・EX2・トクベツなフツウ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1607170950/
注
7人が行くシリーズの後日譚、その3。
設定はドラマ内のものです。
それでは投下していきます
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1629804897
2 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:36:32.78 ID:lF0ws9bq0
メインキャスト
SDsメンバー
1・辻野あかり
2・砂塚あきら
3・夢見りあむ
4・日下部若葉
5・久川凪
6・白雪千夜
7・江上椿
速水奏
依田芳乃
クラリス
柳瀬美由紀
久川颯
持田亜里沙
3 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:38:13.40 ID:lF0ws9bq0
・Apple
名詞
リンゴ
イディオム:Apple of Discord;争い火種と同義。ギリシャ神話に由来する。
4 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:38:46.09 ID:lF0ws9bq0
序
久方ぶりに感じた地上には、見知らぬ赤い果実。
重たい砂の色と比して、なんと生命力にあふれた灯り色。
ああ、忌々しい。
だが、枯れた地としなかったことが隙。
その赤ごと、復活の礎に喰らい尽くそうぞ。
5 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:40:09.10 ID:lF0ws9bq0
1
9月下旬のとある火曜日(祝日)
お昼前
S大学近くのアンテナショップ
S大学近くのアンテナショップ
あかりが手伝っている山形の物産品を扱うアンテナショップ。ライバル、というわけではないが、通り沿いには別のアンテナショップも複数あるとか。
砂塚あきら「あかり、掃除終わった」
砂塚あきら
SDsメンバー。新潟県にルーツがある。お米にうるさい家族にも山形米は好評だったらしい。
辻野あかり「あきらちゃん、ありがとうございます!掃除までやってもらって、助かりましたっ」
辻野あかり
SDsメンバー。最近山形県から引っ越してきた。父親が任されているアンテナショップの手伝いをしている。
あきら「どうも。隣、工事してるからホコリとか気になって」
あかり「猫カフェができるみたいですよ」
あきら「普通の建物じゃなさそうだし、納得」
あかり「それで、お給料は出せないんですけど……」
あきら「それは約束通りだから平気」
あかり「それじゃあ、これをどうぞ!今日入れ替えの冷凍食品一袋ですっ」
あきら「へー、色々あるな。お肉系が多い?」
あかり「山形の牧場で育った牛さん豚さんを使ってます、賞味期限近いから早めに食べて欲しいんご」
あきら「あっ、冷凍餃子がある。りあむサンに焼いてもらって、お昼にしようかな」
あかり「りあむさん?アピールしてたくさん買ってもらえば……いや、変なこだわりがあって自作してるから冷凍餃子はいらないかな?」
あきら「これから部室に行くけど、あかりは?」
あかり「これからレジ当番だから、夕方に行きます、旅行の打合せの時間に」
あきら「わかった。待ってるから」
あかり「はいっ。財前さんのお友達が考えてくれたプランでいいと思うんご!」
あきら「伝えとく」
テレビ『ニュースです。日曜日から行方不明の成宮由愛ちゃんは以前として……』
あきら「あれ、このニュース……」
あかり「あきらちゃん、どうしました?」
あきら「そのテレビ、録画?」
あかり「うん、山形のローカルニュースを録画したデータを貰ってるんです。都会のアナウンサーより訛ってて安心するんご」
あきら「ヒーリングミュージックみたいな使い方なんだ」
あかり「でも、昨日から中学生が行方不明の話題で持ち切りです……あっ、いらっしゃいませっ!中も見て行ってください!」
あきら「あかり、がんばってね」
6 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:43:27.17 ID:lF0ws9bq0
2
S大学・部室棟・SDs部室
SDs部室
夢見りあむが代表を務めるサークル、SDsの部室。スペース的には余裕がある、美容室代わりになるくらいに。
あきら「どーも」
白雪千夜「砂塚さん、こんにちは」
白雪千夜
SDsメンバー。出身は北海道。幼少の頃はよく牧場に遊びに行ったらしい。
あきら「千夜サン、膝の上の子は?」
千夜「アッキーさんです」
アッキー「……♪」
アッキー
太田優の飼い犬。抱かれるのは苦手だが、千夜のブラッシングテクニックで大人しくなった。
あきら「もこもこでカワイイデスね」
太田優「そーでしょ!トリミングもこの前はすっごく上手にできたんだー」
太田優
ペット関係の専門学生。出身は千葉県。人のヘアカット、ヘアカラーも得意とする。大学生時代は時子と同じサークルに所属していた。
あきら「こんにちは。はじめまして?」
千夜「ご紹介が遅れました。太田優さん、財前さんのご友人です」
あきら「財前サンの、なるほど」
優「こんにちはー。あきらちゃんであってる?」
あきら「はい。千夜サン、紹介した?」
千夜「いいえ。そこのてるてる坊主がペラペラと喋ったのでしょう」
夢見りあむ「白雪ちゃん、ぼくのことを言ったな?悪い風に!振り向けないけど、わかるぞ!」
夢見りあむ
SDsの代表。あきらによると、何故か出身を教えてくれないらしい。餃子好きだが宇都宮でも浜松の出身ではなさそう。
あきら「あれ、りあむサンだったんデスか」
りあむ「そうだよ!何だと思ってたのさ!」
あきら「誰かが持ち込んだ人形かと」
りあむ「人と認識されてないとは思わなかったよっ!」
優「あはっ、仲良しだねー♪」
7 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:45:09.75 ID:lF0ws9bq0
あきら「優サン、でいいかな」
優「いいよー」
あきら「優サンはりあむサンに何してるんデスか?」
りあむ「あきらちゃん。それには深い事情が……」
あきら「千夜サン、お願いします」
千夜「もうすぐに看護実習も始まります」
あきら「わかった、染めてるんだ。あの髪色はヤバイし」
千夜「財前さんとも相談しまして、このような対応をとることにしました。実習中くらいは誤魔化せるように」
あきら「このタイミングで変えるつもりは?」
千夜「ないようです。私には分からないこだわり、無駄なこだわりがあるのでしょう」
あきら「りあむサンのワガママにつきあってくれてありがとうございます」
優「そんなことないよぉ、人の髪もいじるの楽しいからぁ」
千夜「そう言っていただけると、幸いです」
りあむ「ぼくのいないところで話がまとまり過ぎてるよ!置いてけぼりかよ!」
千夜「何か間違いでも?」
りあむ「ないけどさ!優さん、ありがとう!こんなぼくに付き合ってくれて神かよ!」
優「毛先もすっごく痛んでたからメンテしちゃった」
あきら「そんなカラーしてるのに、美容室サボってたんデスか?」
りあむ「う……美容師さんって怖いじゃん。ぼくとは対極の世界に生きてるんだよ、眩しすぎて消えちゃうよ」
千夜「そんなことだろうとは思いましたが」
あきら「あかりから貰った冷凍餃子を焼いて欲しいけど、りあむサンは動けない?」
優「動き回るのは良くないかなぁ。仕上がりは出来てからのお楽しみ♪」
あきら「楽しみにしてます」
千夜「冷凍餃子なら私が焼きます。私も昼食にします。太田さんもいかがですか」
優「いいの?それじゃあ、お言葉に甘えちゃうー」
千夜「アッキーさん、良い子でした。太田さんの元へお戻りください」
優「アッキー、おいでぇ。アッキーもご飯にしようねぇ」
アッキー「わん!」
千夜「砂塚さん、その袋を受け取ります」
あきら「どーぞ。山形県産の素材を使ったものらしいデス」
りあむ「あかりんごのアンテナショップの餃子!?気になる!もしかして、あーんしてくれる?」
千夜「しません。別に終わったあとでいいでしょう」
りあむ「うぇーん、メイドなのに優しくないよっ!メイドはどんな時でも優しくあるべきだよ!」
千夜「別にお前のメイドではありませんので。太田さん、砂塚さん、こいつは気にせずにお待ちください」
あきら「わかった」
8 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:48:00.10 ID:lF0ws9bq0
3
S大学・部室棟・SDs部室
あきら「うん、美味しい」
千夜「……」
りあむ「ねぇ、白雪千夜ちゃん?なんで、ぼくの目の前で餃子を食べてるの?嫌がらせか!?」
千夜「はい」
りあむ「即答かよ!そういうのは隠すものだぞ!」
千夜「我ながら素晴らしい出来栄えです。よく焼けているのが見えるでしょう?」
りあむ「うぇーん!追い打ちをかけるように見せつけてくるよぉ!」
あきら「優サン、後どれくらいデスか?」
優「15分くらいかなぁ。仕上がりが気になるから動かないでねぇ」
千夜「お前の分がないわけではありません。大人しくしていればいい」
コンコン!
あきら「お客サン?」
優「あっ、どうぞー♪」
千夜「太田さんが呼んだのですか?」
優「りあむちゃんに用事があるんだって」
佐藤心「こんちはー」
佐藤心
CGプロ所属のアイドル。愛称は名前からしゅがーはぁと♡。丸めたポスターを担いで来た。
優「はぁとちゃん、やっほー♪」
あきら「あっ、見たことある」
千夜「砂塚さんのお知り合いですか」
あきら「ううん、アイドル。テレビで見た」
心「はぁとを見てくれてた?有名になって嬉しいな♡お礼にポスターをプレゼント♡」
あきら「グリーンランドでサンタを探すやつ見たよ。ポスターは部室にはります」
心「あー、よりによってそれかぁ、行かなくていいのわかってたのに。まっ、今は売れっ子なんでなるはやで!優ちゃん、対象は?」
優「そこでカラー待ち。良いタイミングで来たよぉ」
9 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:48:59.04 ID:lF0ws9bq0
心「よしっ。ゆっくりと立ち上がれ!」
りあむ「えっ!?なになに!?そもそも誰なのさ!?」
千夜「言われたことには従うのですね」
心「教会から頼まれてる。すぐ終わるから」
あきら「教会?」
りあむ「……断りにくいこと言うなよぉ。そういう人なんだ」
千夜「つまり、人間ではないのですか」
心「ちがーう。はぁとは人間だぞ?優ちゃん、言っても良い系?」
優「大丈夫だよぉ、ここなら」
心「はぁとは魔法使い」
りあむ「魔法使い!聞いたことある!裕美ちゃんの衣装作った人だ!」
あきら「衣装デスか?」
心「そーいうこと。唯一使える魔法は自分で作った衣装に魔力を込めること」
りあむ「ん?ということは?」
心「採寸するから大人しくしてろ☆」
りあむ「え、ヤバイ!」
優「動いちゃダメだよぉ」
りあむ「逃げられない!罠だっ!」
千夜「どうして、採寸をそんなに嫌がるのですか?」
りあむ「ねぇ、椿さんと採寸情報のやり取りしてないよね?ね?」
心「してないしてない。はい、腕あげてー」
りあむ「それなら、いっか……って、ことはりあむちゃんに何か作るの?」
心「そーいうこと。万が一のためにね」
りあむ「……わかった」
あきら「意外と受け入れるのが早いデスね」
千夜「……」
心「わー、結構マニアックな体形してるな☆」
りあむ「言わなくていいよう!ぼくが一番良く分かってるよ!」
10 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:49:49.89 ID:lF0ws9bq0
4
S大学・部室棟・SDs部室
千夜「佐藤心さんは行ってしまいましたね」
あきら「忙しいのは本当みたいデス」
千夜「ええ」
久川凪「こんにちは。凪が参りました」
久川凪
SDsメンバー。出生地は徳島県。阿波女は働き者、だそうです。
千夜「凪さん、こんにちは。お早いですね」
凪「はーちゃんをS大学付属病院にご案内しました」
あきら「病院?体調悪い?」
凪「いいえ、はーちゃんは元気です。病院にいる人物に用事があると」
千夜「病院にいる人物ですか?」
凪「ヒミツということなので聞いていません」
あきら「教会の関係かな」
千夜「おそらく」
凪「りあむは、何をされてるのですか?」
千夜「カラーの仕上げで髪を洗われています」
優「ふふふーん♪」
あきら「流し台なくても洗えるんデスね」
凪「まるで宇宙飛行士のヘルメット」
優「水が嫌いな子とかいるからねぇ、最小限の水で洗えるように練習してるんだー」
あきら「へー」
千夜「災害時にもいいかもしれませんね」
りあむ「ぼくを犬みたいに!」
優「りあむちゃんは、カワイイから大丈夫だよぉ」
りあむ「飼ってるわんちゃんに言う時と同じ言い方だよ、それは!」
凪「おや?」
アッキー「わん!」
11 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:50:47.18 ID:lF0ws9bq0
凪「もこもこの犬が凪に近づいてきた。カワイイ。この子はどなたでしょうか」
千夜「アッキーさんです。そちらにいる太田優さんが飼われています」
あきら「大人しいから撫でても平気」
凪「フムン、それでは。これは、ふかふかです」
千夜「このように撫でると喜びますよ」
アッキー「♪」
凪「ほうほう。はーちゃんにも見せましょう。ぱしゃり」
あきら「優サン、アッキーさんの写真取っていい?」
優「もちろん!たくさん撮ってぇ。ドライヤー使うからコンセント借りるよぉ」
千夜「ご自由にどうぞ」
あきら「アッキーさん、カメラ慣れしてるね」
凪「ぱしゃりぱしゃり」
あきら「うん、上手く撮れた。どうかな?」
凪「どれどれ」
千夜「良いと思います」
あきら「椿さんに習っておけばよかったかな」
凪「どうでしょうか。オスは専門外かもしれません」
千夜「江上さんは、そんな人ではないと思います。おそらく」
あきら「断定はしないんデスね……」
優「できた!みんな、見て見て〜」
12 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:52:19.83 ID:lF0ws9bq0
5
S大学・部室棟・SDs部室
りあむ「待って、ぼくがどうなってるか見てないよ!というか、1回たりとも見てないからね!」
千夜「お任せと言ったのはお前です」
凪「今の流行りはフリースタイルです。構いません」
りあむ「凪ちゃんが決めることじゃないよね!って、3人共もう並んでるし、さては仲良しだな!」
優「それじゃあ、おひろめ〜」
千夜「……」
凪「ほう」
あきら「なるほど」
優「ふっふーん♪」
りあむ「その薄い反応はなんだよぉ。笑い飛ばしてくれた方が精神的に楽だぞ?ああ、りあむちゃんはもう地べたを這いつくばる虫ぐらいの存在感しかないんだ……」
あきら「なんでそういう考えになるんデスかね……」
凪「ぱしゃぱしゃ」
りあむ「凪ちゃん、ネットで拡散はダメだぞ!S大学のブランドがりあむちゃんによって地に堕ちるぞ!」
千夜「お前にそこまで影響力はありません」
りあむ「そっか!いや、それはそれで寂しい!」
凪「第一印象は感心です」
あきら「同じく。優サン、センス良いね」
優「ありがとー」
あきら「真っ黒になってたら爆笑してたけど、そうじゃないから」
りあむ「えっ、そうなの?黒髪乙女になってないの?」
千夜「はい」
13 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:52:57.32 ID:lF0ws9bq0
優「りあむちゃんは真っ黒は似合わなそうだからぁ、清良ちゃんみたいにしてみたんだー」
りあむ「え、あの看護師さんと一緒なの?恐れ多いよ!」
凪「どうみても看護学生です」
りあむ「鏡、鏡を!白雪ちゃん!」
千夜「姿見を……どうぞ」
りあむ「お、おおお……」
優「こうやって、シニョンにするといいよ〜」
千夜「フムン、実習中でも邪魔にならなそうですね」
あきら「おー、りあむサンも女子大生だったんデスね」
りあむ「それ以外の何者でもないぞ!何だと思ってたのさ!」
あきら「それは、答えるのは辞めておく」
りあむ「そんな深刻なことにされても困る!」
優「千夜ちゃん、どうかな?」
千夜「良いと思います」
あきら「来月からの実習は何とかなりそうデスね」
千夜「ええ。これで門前払いはなさそうです」
りあむ「うーん……」
千夜「何か気になることでもあるのですか」
りあむ「やっぱり地味じゃない?」
凪「確かに物足りない。りあむ感が足らない」
りあむ「凪ちゃん、やっぱりそうだよね!ぼくもそう思うよ!」
千夜「……」
りあむ「うわっ!思いっきり冷たい視線が刺さる!」
14 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:53:47.07 ID:lF0ws9bq0
千夜「はぁ……こいつは本当にどう性根を治せばいいものか。太田さん、申し訳ありません」
りあむ「ため息が深すぎるよぅ。これでちゃんと実習は受けるからさ、ね?」
あきら「というか、それが当然」
凪「りあむ感は別のところで補うか」
優「謝らなくていいよぉ。今は色々やってみるべきだと思うから」
りあむ「すげぇ優しい……名前通りだ。名は体を表すんだ、って、りあむちゃんは何を表すんだ?ヤバイ奴じゃん」
優「しつけはちゃんとしないとだもんねぇ。あたしもアッキーのしつけはちゃんとしたもんねー」
りあむ「あれ?本当に優しいか分からなくなってきたぞ?」
千夜「なるほど、かしこまりました」
りあむ「白雪ちゃんも凄く納得した表情やめない?これから不安だよ?」
千夜「待ても出来ましたし、餃子を焼きますよ。手でも洗っていてください」
りあむ「色々気になるけど、やったー!白雪ちゃん、最高かよ!」
優「お片付けするねぇ。手伝ってくれる?」
凪「もち」
優「そうだ、あきらちゃんがいいかな?」
あきら「自分デスか?」
優「りあむちゃんの髪、お手入れと簡単なカラーはやってみる?」
あきら「うん。興味もあるし。りあむサンなら気兼ねないから」
りあむ「あきらちゃん、ぼくをカットマネキン代わりにするとか言った?」
あきら「そこまでは言ってないデス」
15 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:54:56.43 ID:lF0ws9bq0
6
S大学・部室棟・SDs部室
あきら「ふむ……りあむサン、右向いて」
凪「はい。ぐるり」
りあむ「なんで凪ちゃんが答えるのさ。まぁ、向くけど」
あきら「椿サン、写真お願い」
江上椿「はーい」
江上椿
SDsメンバー。出身は新潟県。柿の種にこだわりがあるらしい。
りあむ「椿さん、そんなに撮らなくて良くない?」
椿「資料ですから。多めに」
りあむ「何の?何の資料なの?」
椿「もちろん、あきらさんのためですよ。どうですか?」
あきら「うん。優サンの資料分かりやすいし、できそう」
椿「それは良かったです。写真は何枚か印刷しておきますね」
あきら「椿サン、ありがと」
りあむ「次からはあきらちゃんがやってくれるの?それだと気が楽になる!シャレオツお姉さんはぼくにはハードルが高い!」
あきら「すぐにはムリ。来てもらいながら教わらないと」
椿「次来た時はお礼をしないとですね、考えておきます」
千夜「お茶を淹れました。はじめますか」
りあむ「あれ?もうそんな時間なのか。休み明けが近づいてる……やむ」
凪「時は午後3時。予定通り、あかりんごと若葉お姉さんはいません」
りあむ「よーし、集合!椿さん、ファイルは持って来た?」
椿「はい。こちらに」
千夜「先ほど太田さんから資料も受け取りました」
凪「さすが社会の先生、興味深い内容です」
りあむ「あきらちゃん、あかりんごは!?」
あきら「まだアンテナショップにいる」
りあむ「よーし、凪ちゃんは天使サマを招集しておいて!」
凪「うむ。ぽちぽち、送信」
りあむ「白雪ちゃん、今日のお茶は!?」
千夜「伊集院さんから頂いた紅茶です。氷を入れてレモンでお楽しみください」
りあむ「それめっちゃ美味いやつだよ!それじゃ、はじめるよ!手短に!」
16 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:56:14.77 ID:lF0ws9bq0
7
夕方
S大学・部室棟・SDs部室
あかり「ちょっと遅れちゃいました!」
凪「あかりんごが到着です。お待ちはしていません」
速水奏「辻野さん、こんにちは」
速水奏
N高校に通う高校生。山形旅行の発案者。出身地はとても美しくて本当に退屈だったとのこと。
あかり「凪ちゃん、奏さん、こんにちは!何してるんご?」
凪「ドラマの上映会です。予習です」
あかり「映画セットを使ってるドラマですねっ。山形でも話題だったんご」
奏「そういうことだから、急いではいないわ」
あかり「あきらちゃん達は、どこに行ったんですか?」
凪「写真を印刷しに行きました。千夜さんはキッチンに」
あかり「写真?」
千夜「辻野さん、いらっしゃったのですね。餃子いただきました、美味しかったです」
あかり「千夜さん、喜んでもらって嬉しいんご」
日下部若葉「こんにちは〜」
日下部若葉
SDsメンバー。出身は群馬県。地元には仲間がそこそこいる、らしい。
凪「赤の若葉お姉さんです。ごきげんよう」
若葉「間に合いましたね〜」
千夜「ええ。凪さん、地図の準備を」
凪「りょ」
奏「上映会も終わりね。片づけてしまいましょうか」
あかり「手伝います」
奏「大丈夫よ」
千夜「戻られたようです」
あきら「りあむサンは気にし過ぎデスよ」
椿「はい、自信を持ってくださいな」
りあむ「うー、りあむちゃんが突然地味色になってたら怪しくない?ひそひそ陰口叩かれない?いや、絶対そうだ!騙されないぞ!」
あきら「これ、逆に自信過剰?」
椿「そもそも、りあむさんを知ってる人もそんなにいませんから」
りあむ「そうかぁ?そうかな、プリンターまでの行きかえりだったけど大丈夫だったかな?」
あきら「大丈夫デスよ、あ、あかり来てたんだ」
あかり「はいっ。あっ!りあむさん、それ!ふふっ」
りあむ「笑うなようあかりんご!ぼくだってコスプレ感漂うのは分かってるよぉ!」
あかり「そんなことないんご!似合ってます、前と違ってまともな女子大生に見えるんご!」
りあむ「前はまともじゃなかったみたいに!」
あきら「それは仕方ない。ピンクと青はまともじゃないし」
りあむ「あきらちゃん、ひどい!」
17 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:57:03.34 ID:lF0ws9bq0
椿「前のりあむさんも今のりあむさんもカワイイですよ」
りあむ「椿さんの言葉は信じて良いのかな、悩むよぅ」
あきら「信じておけばいいデス。椿サン、写真ありがと」
椿「どういたしまして」
りあむ「あかりんごに、若葉お姉さんもいる!時間にみんな正確だね!真人間っぷりに、りあむちゃんは感心しちゃうよ!」
あかり「りあむさんも遅れたりしないですよね?」
りあむ「りあむちゃんは、大体ここにいるからね!いつもいれば遅れないのは当然だよ!」
あきら「授業とかはどうしてたんデスか?りあむサン、夜型だし」
りあむ「朝の授業は寝ないで行ってた!」
若葉「頭に入りませんからダメですよ〜。実習もありますから、直していきましょうねぇ」
りあむ「若葉お姉さん、来てたんだ。うん、ぼくもそうしたい。というか、ちょっと治ってるよね?ね?」
椿「ちょっとどころか、この前は早寝早起きでしたよ」
あかり「それじゃ、りあむさんのためにモーニングコールするんご!」
りあむ「いや、そこまではいいから。うん、多分、きっと」
あきら「学校行ってるし、いいかもね」
凪「地図とホワイトボードの準備ができました。凪は山形旅行への興味で満ちています」
りあむ「凪ちゃん、ありがとう!ぼくの中学生時代の百億倍くらいしっかりしてるよ!」
あかり「りあむさんの中学生時代……どんな子だったんだろう?」
りあむ「あー!黒歴史だから聞くな!聞いても話さない!想像もするなよ!」
あきら「だそうデス」
千夜「速水さんもいらっしゃっていますから、はじめますか。お茶も用意してあります」
りあむ「えっと、白雪ちゃん!今日のお茶は!?」
千夜「伊集院さんから頂いた紅茶です。氷を入れてレモンでお楽しみください」
あかり「財前さんのお友達の、とっても美味しそうですっ」
りあむ「集合!週末の山形旅行プランを発表するぞ!」
18 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:58:08.20 ID:lF0ws9bq0
8
S大学・部室棟・SDs部室
りあむ「発表は白雪ちゃんから!」
千夜「かしこまりました。辻野さん、気になるところがあったら言ってください」
あかり「わかりました」
千夜「今週末の山形旅行は1泊2日です。主な目的地は、こちらです」
奏「私が行きたい映画のオープンセット」
千夜「はい。辻野さんは色々と案内したいところがあると思いますが、あまり詰め込みないようにしました」
りあむ「別に日本だし、山形は逃げないからね。それに、出不精なりあむちゃんはリア充のノリで動かれたら疲れちゃうよ!」
奏「ワガママを聞いてくれてありがたいわ」
千夜「オープンセットは公共交通機関で行くのは不便ですので、日下部さんに車を出していただきます」
若葉「はい〜」
あかり「山形市まで4時間くらいかかると思いますけど、大丈夫ですか?」
若葉「運転は得意です〜。交代もできるし、これくらいなら1人でも大丈夫ですよ〜」
千夜「日下部さんの車では座席が足りませんので、レンタカーも使います」
椿「レンタカーは予約しておきました」
千夜「出発は早朝となります。ここに集合としましょう」
りあむ「深夜も考えたけど、JCJKもいるから朝に出発することにしたよ!」
あきら「りあむサンは起きられるんデスか?」
りあむ「前日はここに泊まるからね!たたき起こせばいいだけ!家に帰っても独りだし、一緒だよ!」
あきら「強引な解決策。さっき言ってた、寝ないと同じくらいの」
若葉「私は早起きなので任せてください〜。車で寝ててもいいですから〜」
りあむ「優しい!さすが若葉お姉さん!年上のかがみ!」
千夜「早朝ですので、凪さんはご自宅までお迎えに行きます」
凪「りょ。ゆーこちゃんはどちらでもよいと言っていましたが」
椿「そうはいきませんから。凪さんのお母様には私の方からご挨拶しておきました」
凪「椿さんなら任せられると」
りあむ「うん、椿さんはぱっと見はちゃんとしてるからね。さすがだよ」
19 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:59:07.35 ID:lF0ws9bq0
千夜「車の分け方も決めました。この通りです」
りあむ「若葉お姉さんの車には、若葉お姉さん赤白、あかりんご、あきらちゃん、白雪ちゃん、ぼくと天使サマ!」
奏「お世話になるわ」
りあむ「りあむちゃんと一緒はいやだ、とか言うなよ?泣くぞ?」
若葉「そんなこと言いませんよ〜」
あかり「1台に7人ですか?」
りあむ「若葉お姉さんの車は8人乗りのワゴン車だからね!広々だよ!」
若葉「それに、私が別れるので〜」
あかり「なるほど」
りあむ「別れた若葉お姉さんと、椿さん、凪ちゃんはレンタカーで!」
凪「凪はお姉さま方にお迎えされます」
千夜「高速道路の休憩場所で合流しましょう。伊集院さんと相談して、こちらのパーキングエリアに決めました」
若葉「わかりました〜」
千夜「辻野さん、ここまでは大丈夫ですか」
あかり「大丈夫だと思うんご」
千夜「山形市内には10時頃の到着予定です」
椿「予定は予定ですから、焦らずに行きましょう」
りあむ「急に行きたいところができたら行くのもいい?のか?りあむちゃんは友達と旅行したことがないからわからないぞ?」
あかり「初日は辞めた方がいいかも」
奏「オープンセットは、もう少し先だもの」
千夜「はい。11時頃、道の駅でゆっくりと昼食としましょう」
あかり「ここは広くて、月山も綺麗に見えるし、ご飯も美味しいですっ。フルーツ販売もたくさんあるんご!」
あきら「うん、楽しみ」
千夜「その後は月山を越えて行きます。休憩もかねて、物産館に寄るスケジュールです」
りあむ「これは椿さんのリクエスト!渓谷と吊り橋がキレイらしい!」
椿「ここで写真を撮りたいので、良いですか?」
あかり「もちろんですっ」
千夜「13時頃にオープンセットに到着予定です。速水さん、問題は」
奏「十分に楽しめると思うわ。晴れると良いのだけれど」
あきら「天気予報は晴れ。降水確率10パーセント」
凪「それは良い知らせ」
千夜「帰りの時間は決めていませんが、宿泊先は寒河江方面ですので戻ります」
椿「日本海側も良い所ですけど、また別の機会ですね」
千夜「夕食は決めてあります」
あかり「ラーメンですっ!」
千夜「そういうわけですので、辻野さんオススメの冷やしラーメンを食べに行きましょう」
りあむ「山形の名物だっけ?あかりんごが言うなら間違いないよ!ラーメン良く食べてるし」
あかり「山形は家庭でのラーメン消費量日本一なんですっ。みんなにも食べて欲しいんご」
20 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 20:59:46.43 ID:lF0ws9bq0
千夜「1日目はここまでです。2日目に関してはあまり決めていません」
りあむ「そのくらいでいいよ!計画通りはりあむちゃんは一番苦手なことだからね!」
奏「そうね。美味しいご飯とスイーツでも食べるくらいかしら」
あかり「今なら梨とか桃がオススメですっ。定番のサクランボ狩りは時期じゃないですけど」
凪「りん……ごほん。凪は梨も好きです」
あきら「当日決めるのも面白いかも。何か発見があるかもしれないし」
千夜「翌日も学校ですから、遅くならないうちに山形を出発しましょう」
凪「ゆーこちゃんが心配する前に帰宅。久川家も安心」
千夜「計画は以上です。辻野さん、いかがでしょうか?」
あかり「良いと思いますっ!山形を堪能して欲しいんご!」
若葉「伊集院さんが考えてくれたから、運転時間も大丈夫そうですよ〜」
千夜「速水さんも良いでしょうか?」
奏「ええ。私のワガママに付き合ってくれてありがたいわ」
りあむ「決まりだ!旅行の計画が決まるなんて凄いぞ!夢見家の旅行だったら……うん、疲れるんだよ、本当にさ……」
千夜「計画通りに行くことが目的ではありませんから、要望ありましたら言ってください」
あかり「えっと、質問がありますっ」
千夜「辻野さん、どうぞ」
あかり「費用はどれくらいですか?」
りあむ「お小遣いは使い過ぎない程度に!おやつ代も制限ナシ!」
凪「わーお、なんと贅沢な。これでは、バナナおやつ問題もありません」
あかり「いいえ、お小遣いは気にしてないです。ガソリン代とか宿泊費とか」
りあむ「あー、それな、うん、それは問題ないよ。あかりんごは自分で使うお金だけ持って来ればいいから」
あかり「はい?」
21 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:00:43.67 ID:lF0ws9bq0
りあむ「急に連絡きたと思ったら、旅行の話は聞かれるし、直ぐにお金は振り込まれるし。別にりあむちゃんが望んでるのはそうじゃないんだけど。うーん、本当にさ……」
千夜「つまり、旅費をいただきました」
椿「りあむさんのご家族から」
あかり「いいんですか?」
りあむ「いいよ。使う以外に方法ないじゃん?ぼくが他に使うのもアレだし」
千夜「ご厚意に甘えても良いかと思います。私もお嬢さまからお小遣いをいただきました」
あかり「じゃあ、遠慮しないんご」
りあむ「うんうん。ぼくはみんなが楽しんでくれればそれで幸せだよ」
あきら「りあむサンは保護者ポジションじゃないデスから。それっぽいこと言ってるけど」
りあむ「えっ!そうなの!?そんなに信頼感ない!?」
あきら「いや、りあむサンもふつーに楽しめばいいから」
椿「そうですよ」
りあむ「そっか。うん、そうする!旅行楽しい!行って良かった、って思えるようにするぞ!絶対に」
あきら「うん、絶対に」
凪「凪も賛成です」
千夜「旅行の計画も決まりました。お前、この場をしめてください」
りあむ「え、えっと、とにかく無事に終われるように!楽しみ過ぎて熱ださないように!交通安全!山形楽しみだな!えーっと?」
あきら「もう十分デス」
りあむ「じゃあ、土曜日の朝!レッツゴー山形!あかりんごのふるさとに行くぞー!おー!」
凪「おー」
あかり「……」
あきら「……大丈夫だから、あかり」
あかり「あきらちゃん、何か言いました?」
あきら「何でもない。あかりも力抜いていいから」
あかり「はいっ。久しぶりの山形、楽しみにしてますっ」
千夜「それでは、これで終わりとします。紅茶は飲み終えてください」
りあむ「それじゃ土曜日に!りあむちゃんは部室にいるからそこまででも会えるけどね!大学生にあるまじき暇さだよなとか言うなよ!」
あきら「言ってないデス」
22 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:02:09.20 ID:lF0ws9bq0
9
出渕教会・1階・礼拝堂
出渕教会
シスタークラリスが所有する教会。礼拝堂にはオルガンが備えられている。
凪「オルガンの音が聞こえる」
奏「シスタークラリスね。歌の方は、妹さんかしら」
凪「そのようです。はーちゃんの歌声です。軽快で楽しい」
柳瀬美由紀「凪ちゃん、奏さん、こんにちはー」
柳瀬美由紀
クラリスのアシスタント。生活で視覚を使うことができないクラリスを手伝っている。出身は冷たい土地らしい。
凪「こんにちは。凪がはーちゃんを迎えにきました」
奏「私は凪ちゃんの付き添い。何かあったかしら?」
美由紀「今日は何もないよー。クラリスさん、凪ちゃんが来たよ」
クラリス「そろそろ時間ですね。颯さん、終わりにしましょうか」
クラリス
『シスター』。出身は兵庫県。今も自宅は兵庫県にあり、目的のために出渕教会に滞在している。
久川颯「はいっ。ありがとうございました!」
久川颯
『捕食者』を楓から受け継いだ。久川凪の双子の妹、なので徳島県出身。徳島ラーメンがたまに食べたくなるらしい。
凪「はーちゃん、お歌のレッスンですか」
颯「シスタークラリスに習ってるんだ。シスターもとっても上手なんだよ」
クラリス「それほどでもありません」
美由紀「美由紀もクラリスさんと歌うの好きなんだー。颯ちゃんも今度は一緒に歌おうね!」
颯「うん。練習しないとね」
クラリス「颯さん、今日はありがとうございました。病院の件も、助かりました」
颯「やっぱり病院は集まりやすいのかな、増える前に見つけられてよかった」
凪「集まりやすい?」
奏「悪いものがいたのね」
颯「ついでだったけど、『捕食者』さんも満足できたみたい」
凪「流石はーちゃん、お手柄です。凪は聞きたいのですが、何故歌の練習を?」
クラリス「歌に宗教的は意味合いもありますが、気を静める効果もあります。変わったばかりの颯さんには重要なことです」
颯「おかしな感じはしないけど、何かあったらいけないもんね」
クラリス「『捕食者』は人ではありません。だからこそ、言葉以外での意思疎通手段を持っておくべきでしょう」
奏「どこの世界でもそれは同じなのかしら。ま、どこまで効果があるかはわからないけれど」
凪「フムン。聖歌の目的も違うのか」
23 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:02:51.66 ID:lF0ws9bq0
クラリス「他にも目的はあるのですが、後でお話しましょう」
颯「なー、帰ろっか。お腹すいちゃった」
凪「はい。それでは、さようなら。また会う日まで」
美由紀「ばいばーい」
クラリス「奏さんは、少しお時間を。地下でお待ちください」
奏「わかったわ。みんな、週末はよろしくね」
凪「りょ。計画は順調です」
24 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:03:43.84 ID:lF0ws9bq0
10
9月下旬のとある木曜日・旅行まであと2日
S大学付属高校・空き教室
空き教室
ちとせ達の部室になるはずだった教室。相変わらず頼子が利用申請を撤回していない。
千夜「辻野さん」
あかり「ごちそうさまでした、お母ちゃんのお弁当は美味しいんご。千夜さん、どうしました?」
千夜「昼食の量が少ないように思えますが、平気でしょうか」
あきら「ダイエット?」
あかり「違います、今日はリンゴをたくさん食べるんご!はい、はい、はいっ」
あきら「カバンからリンゴが3つ出て来た」
あかり「父ちゃんの知り合いが出荷できなかったリンゴを送ってきてくれました」
千夜「そうなのですか。何も問題はなさそうに見えますが」
あかり「傷があったり定形外だったりするんです。ブランドリンゴじゃないから大変で。千夜さん、あきらちゃん、私がむくので食べてください!」
千夜「いただきます」
あきら「ゼロ円だし、もらう」
あかり「わかりましたっ、よいしょっと」
あきら「ナイフと一緒にカバンからリンゴが更に出て来た……」
25 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:04:30.02 ID:lF0ws9bq0
あかり「サークルの方は何かありました?」
千夜「いいえ、これと言ったものはありません」
あかり「財前さんから情報とかはないんですか?」
あきら「まだ大学が夏休みだから、りあむサンがせっせと調べてるみたいデス」
千夜「これまで通り、怪異が原因なものはないようです」
あかり「それなら安心して旅行に行けますね。千夜さん、リンゴをどうぞ!」
あきら「まるごと1個分……」
千夜「ありがとうございます。食後にいただきます」
あかり「あきらちゃんの分もちゃんとむきますから、待っててください」
あきら「待って。そんなに要らないから」
あかり「わかってます。2切れにします」
千夜「美味しいですよ」
あきら「千夜サン、いつの間にか食べ終わってるし」
千夜「売り物にならないのは残念ですね」
あかり「仕方がないんです。お隣さんに渡すわけじゃないですから、厳しくしないと」
あきら「……」
あかり「あきらちゃん、やっぱりもっとリンゴ欲しいですか?」
あきら「いや、違うから」
あかり「旬だからいつもより美味しいはずです。あきらちゃんのもむけました、どうぞっ」
あきら「ありがと。そう言えば、優サンが部室に来るって」
千夜「そうなのですか。辻野さん、リンゴをむきましょうか」
あかり「大丈夫です。お料理もできるようにならないといけないですから」
あきら「放課後すぐに行こうと思うけど、2人は」
千夜「私もお伺いします」
あかり「アンテナショップのお手伝いしてから行きます。お夕飯、家だと1人か遅くなるから、りあむさんと一緒に食べるんご」
あきら「わかった。自分もそうしようかな」
あかり「自分のもむけました。お昼はリンゴをたくさん食べてお腹を満たすんご」
あきら「あかり、栄養には気をつけなよ」
26 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:06:08.45 ID:lF0ws9bq0
11
18時半頃
S大学・部室棟・SDs部室
あかり「こんばんはー」
あきら「あかり、お疲れ様」
りあむ「あかりんご!待ってたよ!」
あかり「り、りあむさんっ!どうしたんですか!」
りあむ「えっ?どうもしてないけど?お腹が空いてるくらいだよ!」
あかり「毛の色が戻っちゃったんご……」
りあむ「やっぱり、これだよ!こうでもしないと消えそうだからね!ザコメンタルを支えてくれないと!」
あきら「優サンに教えてもらって、やってみた」
りあむ「あきらちゃん、たすかる!」
あかり「またすれ違ったら目を背ける存在になっちゃいました、どうしましょう」
りあむ「あかりんご、ぼくのことそんなふうに見てたの?」
あきら「それは平気。ヘアスプレーだから、よく洗えば落ちるから」
あかり「そうなんですか?えっと、ホースはありましたか?」
りあむ「洗車するみたいに!それに、まだ授業始まらないから平気だよぅ」
千夜「辻野さん、いらっしゃいましたか」
あかり「おぉ、黒髪乙女は美しいんご。ピンクと水色を見た後だと特に」
りあむ「そんな感嘆が漏れるほどか。いや、白雪ちゃんはカワイイよ?最高だからな?りあむちゃんと比べたらそうなるよな!」
27 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:06:48.51 ID:lF0ws9bq0
千夜「辻野さん、夕食としますか」
りあむ「もはや反応しないのか。でも、それがいい!」
あかり「はい、お腹が空いて来ましたっ」
千夜「準備はできています。手を洗ってお待ちください」
りあむ「わかったっ!ぼくも一緒に行こう!あれ、あかりんご、どうしたの?」
あかり「準備?」
あきら「千夜サンが夕ご飯を作ってくれた」
りあむ「ごはん、味噌汁、煮物、つまり和食!」
千夜「砂塚さんも食べて行かれますよね」
あきら「うん。手伝うから」
千夜「ありがとうございます」
あかり「いいんですか?」
千夜「構いません」
あかり「いつもごちそうになったりしてます、いいのかな」
りあむ「いいんだよ!あかりんご、気にし過ぎだよ!白雪ちゃんの手料理だぞ、食べない理由がない!」
あきら「うん、りあむサンほど図々しくなくていいけど」
あかり「……」
りあむ「さ、あかりんご!正しい手洗いの仕方を教えるから、行くよ!」
あかり「わっ、りあむさん、引っ張らないで欲しいんご!」
あきら「……」
千夜「砂塚さん。気持ちはわかりますが、悩むのは今ではありません」
あきら「わかった。キッチンでいいかな」
千夜「はい、お手伝いください。人は誰かがいなければ生きるための食事もできませんから」
28 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:08:14.14 ID:lF0ws9bq0
12
S大学・部室棟・SDs部室
千夜「食後のお茶を淹れました。どうぞ」
あかり「ごちそうさまでしたっ、千夜さんのご飯はいつも美味しいんご!」
りあむ「一家に一人白雪ちゃんが必要だよ!白雪ちゃん、うちに来ない?」
千夜「お断りです」
あかり「普通のお野菜なのに何でこんなに美味しいんだろう?」
りあむ「愛情、愛情なのか!」
千夜「違います。おそらく出汁かと。少しだけ奮発しました」
あきら「ぱぱっと料理したとは思えない深み」
あかり「はぇー、千夜さんは凄いんご」
あきら「千夜サン、お茶、いただきマス」
りあむ「はぁー、ほっとするよ。そういや、旅行の準備できた?」
千夜「はい。旅行道具は常に揃えてありますから」
りあむ「メイドだ、お嬢さまが突然旅行に行っても追いかけられるように準備してるメイドだ」
あかり「私は今日しようかな。あきらちゃんは?」
あきら「大丈夫。1泊の国内だしそんなに持って行くものないから」
あかり「りあむさんは?」
りあむ「ぼくも準備してるよ!あそこに!家に忘れるといけないからね!」
あきら「ソファーに散乱している服、りあむサンのだったんデスね」
千夜「1泊2日ですから、あんなに要らないでしょう」
りあむ「同年代と旅行なんて行ったことないからね!わかんないんだよ!」
あきら「正直、りあむサンが持ってる服なら似たり寄ったり」
りあむ「え、そうなの?やっぱり、おかしい?」
千夜「私からは言いかねます」
りあむ「そこは言ってよ!白雪ちゃん、頼む!何だったらコーディネートしてくれ!」
あきら「別に気をつかうメンバーでもないから。いつも通りでいいデス」
あかり「変に気にしたら、ますますアレになりそう」
りあむ「あかりんご、アレってなにさ?」
29 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:09:26.86 ID:lF0ws9bq0
あかり「私の帰省旅行ですから、リラックスしてください。りあむさんは、それでいいんご」
りあむ「気になることはあるけど、そうする。変なことは考えない!」
あきら「1番の目的が果たせればいいデス」
千夜「はい」
あかり「映画のセットを見て、ラーメンを食べるんご!」
あきら「あ、ラーメンは重要なんだ」
あかり「山形県民にはラーメンが必要なんですっ」
りあむ「あかりんごには、の間違いじゃない?」
千夜「お前、服の片付けを手伝います。どうせ、旅行の準備も苦手でしょうから」
りあむ「白雪ちゃん、ぼくのこと良く分かってるね!たすかる!」
あきら「自分も。服の扱いはバイトで慣れてるから」
30 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:10:23.62 ID:lF0ws9bq0
13
深夜
根高公園・東地区
根高公園
河川敷近くにある大きな公園。晴れた日には東地区の芝生エリアで、ピクニックを楽しむ人も多い。
関裕美「……」
関裕美
吸血鬼。夜の存在になってから遠出はしていない。ご両親は富山出身とのこと。
黒埼ちとせ「裕美ちゃん、どこを見てるの?」
黒埼ちとせ
裕美が変質させた吸血鬼。出身は東京都。幼少の頃は北海道の牧場によく連れていかれたとか。
裕美「あっ、また目つき悪くなってたかな」
ちとせ「ううん。遠くて見えないものじゃなくて、そこにないものを見ようとしてた」
裕美「どういうこと?」
ちとせ「何か、想像してたの?」
裕美「ここでピクニックしたのを覚えてるんだ。とっても良い天気で、見上げると真っ青な空だけ見えた」
ちとせ「今は、夜の曇り空」
裕美「太陽は見えない。ピクニックを楽しんでる家族もいない」
ちとせ「私達にはもう見えない景色。寂しい?」
裕美「ううん。家族もいるし、私は覚えてるから」
ちとせ「そうだね」
裕美「ちとせさんには、そういう思い出ある?」
ちとせ「あるよ、牧場の景色。広い空へ、あの子が走っていく思い出」
裕美「目を閉じてみたら思い出せるかな?」
ちとせ「それじゃ、閉じてみようか」
裕美「うん」
ちとせ「……」
裕美「……」
ちとせ「私には見えた」
裕美「私も。でも、ね」
ちとせ「私達には眩しすぎた」
裕美「そう。私達は変わったから」
ちとせ「今は夜空が見守ってくれる。だから、記憶の中だけでいい」
裕美「次がなくても平気」
ちとせ「ええ」
裕美「ちとせさん、何か見つけた?」
ちとせ「なーんにも。静かな夜だよ」
裕美「こっちも」
ちとせ「『チアー』の姿は見えない」
裕美「あのウワサ、本当なのかな」
ちとせ「確かめてみるまではわからない」
裕美「亜季さんも同じこと言ってた。ちとせさん、教会に帰ろう」
ちとせ「ええ」
裕美「月曜日まで何もないといいけど」
31 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:11:58.90 ID:lF0ws9bq0
14
9月下旬のとある金曜日
S大学・部室棟・SDs部室
椿「……」
りあむ「ねぇ、椿さん、聞いても良い?」
椿「りあむさん、なんでしょうか?」
りあむ「いつも以上に真剣に手入れしてるけど、そのレンズ全部持ってくの?」
椿「はい」
りあむ「まじで!?凄い重そうだよ!数もあるし!」
椿「今回は車もありますし、平気ですよ」
りあむ「そうか、いや、騙されないぞ!普段の旅行の時は肩にかけてるってこと?凄くない?」
椿「普通ですよ?」
りあむ「わかるぞ。椿さんの言う普通は信じない方がいいことは」
若葉「こんにちは〜」
りあむ「若葉お姉さんブルーだ。ということは、レンタカー?」
若葉「はい〜。椿ちゃんの荷物を回収しに来ましたよ〜」
椿「ありがとうございます。もう少し待ってくださいね」
りあむ「若葉お姉さん、何か飲む?白雪ちゃん特製の水出しコーヒーくらいしかないけど」
若葉「椿ちゃんも時間がかかりそうですし、いただきます〜」
椿「外はまだ暑いですか?」
若葉「はい、冷たい飲み物が欲しいです〜」
りあむ「若葉お姉さんのカップは、どれだっけ?」
若葉「自分でやりますよ〜」
りあむ「せめて砂糖とミルクは、これだ。甘くするほうが美味しいって、白雪ちゃんは言ってた!」
若葉「りあむちゃん、ありがとうございます」
りあむ「ふふーん、りあむちゃんも出来ることが増えてきたぞ!凄い?」
椿「凄いですよ」
若葉「椿ちゃん、あかりちゃんのご両親に挨拶に行きました?」
椿「はい。今日改めて行ってきました」
りあむ「許してくれたけど、今日はどんな感じだった?」
椿「どう説明するかは迷いますね。旅行はぜひ、とのことでした」
32 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:12:34.04 ID:lF0ws9bq0
若葉「仕方ありませんよ〜」
りあむ「うーむ、やっぱりそうか。あかりんごについては、何か言ってた?」
椿「お友達も出来て、今の暮らしに慣れたみたいで安心した、とは言ってましたけど」
りあむ「まー、椿さんでもそこまでは聞き出せないか。あかりんご、ぱっと見は元気だし」
若葉「それはお姉さんの仕事ですね」
椿「りあむさんもですよ?」
りあむ「りあむちゃんも?あかりんごよりは年上だけど、そんな能力なくない?」
椿「そんなことありません。一緒に力になってあげましょう?」
りあむ「うん。できることなら、そうしたい。できないけど、誰か助けたい、って気持ちはぼくにもある。気持ちだけで、諦め気味だけど」
椿「できました」
若葉「レンタカーに積むのを手伝いましょうか?」
椿「私も水出しコーヒーを飲んでからにします」
りあむ「椿さんのカップは、これだっけ?」
椿「はい」
りあむ「お、当たったぞ!りあむちゃんをほめて!」
椿「りあむさん、えらいえらい」
若葉「なんだかいけない感じもしますね〜」
りあむ「自分で言っておいてなんだけど、うん、そう思う。夜のお店感だ」
椿「りあむさんは、旅行の準備はできました?」
りあむ「もちろん!あそこにあきらちゃんが詰めてくれたリュックサックがあるよ!」
椿「あら、カワイイペガサスさん」
若葉「小学生が使ってそうなリュックですね〜」
りあむ「うっ、事実小学生の頃に使っていたやつだし。だって、後はデカいトランクしかなくて。海外旅行に行くようなさ。ぼくは別にインドで人生変えられるタイプじゃないんだよ……」
椿「そのリュック、お気に入りなんですか?」
りあむ「昔は、そうだった気がする。今は、どうなんだろ?」
若葉「好きでいいじゃないですか〜」
椿「キライになる必要はありませんから」
りあむ「キライになる必要はないか、うん、そうかな。そうする。白雪ちゃんもあきらちゃんも丁寧にしてくれたから、それでいいんだ」
椿「部室に泊まるみたいですけど、お風呂は大丈夫ですか?」
若葉「もしかしてお風呂抜きですか〜、めっですよ〜」
りあむ「違うよ!時子サマから、使えるシャワー室は確認済みだよ!どうだ!」
椿「それはそれで心配ですね」
若葉「はい〜、今日はいいですけど、ちゃんと家に帰ってくださいね〜」
りあむ「お姉さま方にちゃんと心配されてる。これは居心地がいいぞ!」
椿「あらあら……」
りあむ「いつもと違ってただただ怖い!家に帰るから安心してよ!掃除もするから!」
33 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:13:29.60 ID:lF0ws9bq0
15
夜
某アパート・あかりの部屋
某アパート
辻野家が暮らす小さなアパート。あかりの部屋は山形の家と比べると半分以下の広さだとか。
あかり「旅行の準備はこれでいいかな、寝る前に確認したけど……」
あかり「……」
あかり「山形なんだから、そんなに気張らなくていいですよね。あっ、あきらちゃんから着信だ。もしもし?」
あきら『あかり、今いい?』
あかり「はいっ。旅行の準備も出来たんご」
あきら『そう。聞きたいことがあって、山形って寒い?』
あかり「峠道は少し肌寒いかもしれませんけど、昼間は大丈夫です。あっ、夜は冷えるかも」
あきら『わかった。上着だけ持って行く』
あかり「そこまで寒くない、はずだから安心してください」
あきら『うん……』
あかり「あきらちゃん?」
あきら『それだけ。あかり、朝早いから気をつけてね』
あかり「早起きは得意ですっ。あきらちゃん、おやすみなさい」
あきら『おやすみ、あかり』
あかり「……」
あかり「色々考えちゃうから、寝よう」
34 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:14:52.08 ID:lF0ws9bq0
16
9月下旬のとある土曜日・旅行当日
早朝
S大学・部室棟・SDs部室
あきら「ふわぁ、おはよ」
あかり「あきらちゃん、おはようございます」
あきら「あかりは元気そう。他の人は?」
奏「おはよう。早起きしちゃったわ」
あきら「奏サン、どーも」
奏「どうやら朝弱い人がいるみたいね」
あきら「りあむサン?」
りあむ「おはよう!ぼくは元気だよ!部室でやることないからさっさと寝たからね!しかもあかりんごに起こされるまで寝てた!」
あきら「無駄に元気デス。ということは」
千夜「おはようございます……」
あきら「千夜サン、すぐにでも寝たそうデス」
千夜「申し訳ありません……お嬢さまがおらず、最近は早起きしないので……」
あかり「千夜さん、やっぱり寝起きが弱かったんですね」
若葉「お待たせしました、車の準備ができました〜」
りあむ「ありがとう!若葉お姉さん、おねむの人は車で寝て良い?」
若葉「もちろんですよ、気にしないでください。運転は好きなので」
りあむ「よし、出発しよう!レッツゴー、山形!おー!」
若葉「おー」
千夜「おー……」
あかり「弱ってる千夜さんもめんごい。いや、農家の嫁としては……いやいや慣れれば平気ですから」
あきら「千夜サン、あかりに変なこと言われないうちに行こう」
35 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:15:36.44 ID:lF0ws9bq0
17
久川家付近
久川家
住宅街の一角にある。凪と颯には別々の部屋が与えられている。
凪「7人乗りのレンタカーが凪を迎えに来ました。後部座席のスライドドアが開く」
椿「凪ちゃん、おはようございます」
凪「凪は朝の挨拶をします。おーはー」
椿「時間通りですね。お家まで迎えでも良かったんですよ」
凪「凪は起きて一人でいけます。ゆーこちゃんもはーちゃんも休みの日くらいお寝坊でよいのです」
椿「さ、乗ってくださいな」
凪「広々です。りあむ達はもう出発しましたか」
椿「はい。こちらも揃ってます」
凪「では、合流地点のパーキングエリアへ」
椿「若葉さん、出発してくださーい」
36 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:16:38.93 ID:lF0ws9bq0
18
某パーキングエリア・自動販売機前のベンチ
凪「若葉お姉さま号が見えました。ちょうど前に止まった」
椿「降りてきましたね」
凪「りあむが駆け足で来ました」
りあむ「あれ?早いぞ!ごめん、先にトイレ!待ってて!」
あきら「大声で言う必要ないデス」
あかり「途中でラーメン食べたから遅れちゃった?」
あきら「別に競争してるわけじゃないから」
椿「時間はありますよ」
凪「はて、夕飯にラーメンを食べる予定なのにラーメンを食べたと?」
あきら「同じラーメンじゃないから平気、だって」
千夜「凪さん達が先に到着していたのですね」
凪「はい。快適な車の旅です」
椿「売店に行こうと思いますが、行きますか?」
千夜「はい。辻野さんはどうされますか」
あかり「外の空気を吸って休憩してます。りあむさんがどっかに行く前に捕まえておくんご」
あきら「わかった。何か欲しいものある?」
あかり「飲み物も前に買ったし大丈夫です」
千夜「わかりました」
凪「それでは売店へ」
椿「凪さん、お土産はそんな急いで買わないでも平気ですよ?」
凪「確かに。はーちゃんの顔が浮かぶと手が伸びてしまう。気をつけないと」
千夜「辻野さん、お待ちください」
あかり「わかったんご」
37 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:17:22.07 ID:lF0ws9bq0
19
某パーキングエリア・自動販売機前のベンチ
あかり「すー、やっぱり空気が綺麗になりました。それにしても、りあむさんはトイレが長いです」
依田芳乃「そなたー」
依田芳乃
和服に身を包んだ謎の少女。なんとなく神々しい。南の方の島で産まれ育ちまして、とのこと。
あかり「あっ、はい?私ですか?」
芳乃「はいー。ご気分は悪くありませんかー」
あかり「車酔いは休んだから平気ですけど」
芳乃「悪しき気がするのでしてー」
あかり「……悪い気、ですか」
芳乃「わたくし依田は芳乃ともうしますー」
あかり「依田は芳乃、ちゃんですか?」
芳乃「目を閉じてくださいませー。一時しのぎはなるかとー」
あかり「へっ?私のおでこに何かついてますか?」
芳乃「あくしーおー。これでよいかとー」
あかり「何か変わった、のかな?」
芳乃「それでは良い旅をー。ご縁があったら会えるでしょうー」
あかり「不思議な人ですね、田舎には神々しい人が残ってるのかな」
りあむ「あー!スッキリしたー!あかりんご、どしたの?」
38 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:18:12.62 ID:lF0ws9bq0
あかり「りあむさん、和服の巫女さんみたいな人に話しかけられてて」
りあむ「えっ!どこどこ?まさか美少女だった!?それなら見たい!」
あかり「まだ、あそこに、あれ?」
りあむ「いないじゃん。あかりんご、夢でも見てた?」
あかり「確かに一方的に話しかけられたのに、足が速いのかな?」
りあむ「まっ、いっか。あかりんご、休憩できた?」
あかり「はい、空気が美味しいんご。庄内あたりはもっと美味しいはずです」
りあむ「りあむちゃんも何か甘い物を買おうかなー。あかりんご、一緒に行こ?」
あかり「わかりました、あの、りあむさん?」
りあむ「なに?ぼくはスッキリしたし、皆と旅行も何か楽しくなってるよ?」
あかり「私、何か悪いものでも憑いてますか?」
りあむ「あかりんごが?そんなわけないよ、気のせい気のせい。少なくとも今は問題ない!さ、行くよ!次降りる時は山形だ!」
あかり「そうなのかな、あっ、りあむさん、待ってください!」
39 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:18:52.01 ID:lF0ws9bq0
20
山形市内・某所
椿「……♪」
凪「ここは趣ある建物の前。今の状況を一言で表すのなら」
あきら「修学旅行の記念撮影」
奏「言い得て妙ね。カメラマンさんは楽しそうよ」
若葉「椿ちゃんは映らないんですか〜?」
椿「入ります、スイッチ撮影の準備はバッチリです」
りあむ「あるよね、何故か写真のためだけに降ろされるの。あかりんごは来たことある?」
あかり「はい。修学旅行じゃなくて校外学習でした」
あきら「あかりの実家から近い……んだっけ?」
あかり「バスに乗ったらすぐでした」
凪「かきかき、スケッチブックにかきかき」
千夜「凪さん、何をされてるのですか」
りあむ「あかりんご、中に入ったことある?」
あかり「はい。何度も来ました」
りあむ「じゃあ、入らないことを決めた!お昼の時間も近いし!」
凪「凪は今日の日付を書きました」
奏「ふふっ、本当に修学旅行の記念撮影みたいね」
千夜「凪さん、名前を書きましょう。SDs、山形旅行記念としておきますか」
あきら「あはっ、それいいね。ぜんぜんクールじゃなくて」
若葉「カッコつけないぐらいいいですよ〜」
椿「立ち位置を調整しますね。りあむさんは真ん中に」
りあむ「え、ええ、ぼくは端っこでいいよぅ」
あきら「こういう時に真ん中に行かないでどうするんデスか」
あかり「そうです!どうせこれまでの修学旅行の写真は端にいるんですから!」
りあむ「どうして知ってるのさ!言ったことないぞ!」
若葉「さっき自白してみたいなものですよ〜」
椿「奏さん、もう少し右に。凪さん、スケッチブックは頭の上でもいいですよ」
凪「なるほど。では」
あかり「あはっ、凪ちゃんかわいいんご♪」
凪「ほめられた。悪くない」
りあむ「若葉お姉さん、全員集合出来なくてごめんね」
若葉「いいんですよ、こうしてるのが奇跡みたいですから」
あきら「何時か撮ろう、全員一緒に」
椿「いいですよ、私も入りますね」
奏「椿さん、どうぞこちらに」
椿「ありがとうございます。それじゃあ、撮りますよ。はい、ポーズ」
あきら「ニッ」
あかり「んご!」
りあむ「凄いシャッター音がしたな……連射か」
椿「何回か撮りましょうね」
りあむ「椿さん、後1回だけにしよう!好き放題させるには時間がない気がする!」
40 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:20:04.45 ID:lF0ws9bq0
21
プランにあった道の駅・特設会場のベンチ
看板『山形出身!榊原里美さんによる甘々トークショー!』
あかり「榊原さん、って誰でしょう?」
奏「辻野さん、隣いいかしら」
あかり「奏さん、どうぞ。ソフトクリーム買ったんですね、サクランボ味ですか?」
奏「ええ。アドバイスどおり旬じゃないから加工品にしたわ」
あかり「それがいいんご。今なら、ぶどうとか」
奏「誰か買ってたわね。辻野さんも何か食べるかしら」
あかり「お昼をちゃんと食べたから大丈夫です」
奏「うん、美味しいわ。お昼も満足したわ」
あかり「舌、ピンク、色気……」
奏「どうしたの?」
あかり「そ、そう言えば!榊原里美ちゃんって知ってますか?これからトークショーが始まるみたいですっ」
奏「名前は聞いたことがあるわ。魔法使いと同じ事務所だったかしら」
あかり「あまり人がいないですね」
奏「でも、ゼロじゃない。接触まではしてこない」
あかり「はい?」
奏「辻野さん、ヒミツは守れるかしら」
あかり「ヒミツ?守れると思いますけど……そんなに知りたいわけじゃないです」
奏「もしもの時の切り札。敵を欺くには味方から。持っていて」
あかり「小さな箱、ですね」
奏「開けてちょうだい。私は触らない方がいいの」
あかり「シルバーの丸い……なんでしょう、模様が描いてあります」
奏「退魔の武器。当たっても当たらなくても人以外に効くわ」
あかり「……」
奏「しまって。砂塚さんが来たわ」
あきら「あかり、ぶどうを買ってみた。食べる?」
あかり「はい、ありがとうございますっ」
あきら「奏サン、隣失礼します」
奏「どうぞ。あら、始まりそうよ」
41 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:20:36.55 ID:lF0ws9bq0
22
プランにあった道の駅・隣接した公園
凪「椿さん、聞いてください」
椿「凪さん、どうしました?」
凪「写真を撮りました。どや」
椿「川の風景が上手に撮れてますね」
凪「こちらもどうでしょう」
椿「いいですね、レンズが足らないのでボケてるのは仕方ありません」
凪「効果テキメン。有識者へのヒアリングは重要」
椿「やはり近くでしたか」
りあむ「あっ、2人ともいた!なんかアイドルのトークショーがあるんだって!あかりんご達が見てるから行こうよ!」
凪「それではりあむの言う通りに」
42 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:21:25.38 ID:lF0ws9bq0
23
プランにあった道の駅・特設会場
榊原里美「みなさん〜こんにちは〜」
榊原里美
CGプロ所属アイドル。甘々妹系。出身は山形県。
あかり「あれが山形に育まれた、ぼんきゅぼん……山形のポテンシャルを感じるんご」
あきら「最初がそこなの?」
里美「今日はトークショーを同じ事務所の忍ちゃんとやります〜忍ちゃん、どうぞ〜」
工藤忍「みなさん、こんにちは!工藤忍です!よろしくお願いしまっす!」
工藤忍
CGプロに最近所属した新人アイドル。北国出身のがんばり屋、とホームページに書かれている。
奏「ふふっ、緊張してるわね」
里美「忍ちゃん、リラックスですよ〜のんびりした場所だからのんびりやりましょう〜」
忍「は、はい!」
あかり「うんうん、がんばる姿は美しいんご。きっと田舎から上京してきた新人さんなんです、北国生まれの」
あきら「それはどうだろ」
里美「同じ東北出身なのでお手伝いしてもらいます〜」
あきら「あってた」
あかり「どこなのかな?」
奏「聞いてみたら?」
あかり「はいっ!忍ちゃんはどこ出身なんですか!」
あきら「あかり、変なところで思い切るよね」
忍「え、アタシ?」
里美「答えてあげてください、大丈夫ですよ〜」
忍「そうだよね。客席にも降りていくんだから、交流しないと」
里美「忍ちゃんはどこの出身なんですか〜」
忍「青森県です!えっと、りんごどころの」
あかり「青森、りんご、ふーん……」
忍「あれ?アタシ、変なこと言った?」
あきら「言ってないデス!ありがとうございます!続けてください!」
里美「はい〜、それじゃあスタートです〜」
忍「デザートの試食もあるから、楽しんで行ってください!」
43 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:22:11.82 ID:lF0ws9bq0
24
プランにあった道の駅・駐車場
千夜「帰られました。時間通りです」
りあむ「白雪ちゃん!待った!?ご飯にスイーツも食べた!?暇してない!?」
千夜「日下部さんとおやつの時間にしていました」
あかり「千夜さん、お待たせしましたっ」
千夜「構いません。トークショーはどうでしたか」
あかり「楽しかったですっ、山形スイーツの未来は明るいんご!」
奏「最初はあんな感じだったのにね」
あきら「同じ東北からの上京仲間だし、直ぐに心変わり」
あかり「スケジュール帳に、サインも貰っちゃいました!」
りあむ「里美ちゃんのCDも買ったぞ!握手券はあかりんごにあげた!」
千夜「よくわかりませんが、楽しんでいるなら何よりです」
りあむ「凪ちゃん達は?もう出発した?」
千夜「はい。私達も参りましょうか」
奏「次の目的地は、あの山」
あきら「綺麗に見えてる。晴れて良かった」
あかり「はいっ!行きましょう!」
44 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:23:05.67 ID:lF0ws9bq0
25
山の物産館・近くの吊り橋
りあむ「ふぅー、空気が美味しいなぁ」
あかり「りあむさん、車酔いしましたか?お水いりますか?」
りあむ「へいきへいき、もう直ってきた。車で映画を見たからテンションあがってきたけど、酔うとは予想外だよ。あきらちゃんは良く平気だよね、一番真剣に見てたのに」
あきら「なんでだろ、ゲームで慣れてるから?」
りあむ「りあむちゃんは平気だと思ってたけど、刺客がばっさばっさ人を斬る映画は酔うんだな。初めて知った」
あかり「でも、爽快だったんごっ!セットが見れるの楽しみですっ」
あきら「あかりのそういうとこ、キライじゃないよ」
奏「綺麗なところね。風が気持ちいいわ」
あきら「これが椿サンの見たかった景色。うん、椿サンはやっぱりセンスある」
りあむ「うーん、良い眺めだ!椿さんは、あそこか!」
若葉「あっ、みんな〜」
りあむ「青の若葉お姉さん!元気!?運転疲れてない?」
若葉「ぜんぜんへっちゃらですよ〜」
あかり「全員一度に休めないのは不便ですね」
奏「もっと人気のないところならいいけど」
あきら「ここはだめデスね」
りあむ「椿さんと凪ちゃんは、あそこか!」
45 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:24:01.00 ID:lF0ws9bq0
若葉「もう写真はたくさん撮ってますよ〜」
凪「椿さん、椿さん、どうでしょう」
椿「あっ、野鳥がいたんですね。ベストタイミングです」
凪「いえいえ、椿さんのカメラが良いのです」
りあむ「何か師弟関係位になってる?凪ちゃんに悪影響ない?」
あきら「ないと思うけど。師弟というよりは姉妹感」
あかり「凪ちゃんも偶には妹キャラになりたいんご」
あきら「そうかも。まっ、写真に興味あるからだよね」
凪「おや、ご到着のようです」
椿「はい。みなさんの写真を撮っていいですか?」
りあむ「いいよ!見返す予定もない写真を撮るのも旅の醍醐味だからね!」
凪「おや、千夜さんの姿が見えません」
あかり「千夜さんはソフトクリームを買いに行きました!山ぶどう味があるみたいですっ」
りあむ「相変わらずよく食べるね、白雪ちゃんは。でも、山ぶどうソフトは気になる!1個は多いけど!」
あきら「自分も。あかり、後でシェアして食べよっか」
りあむ「その手があったか!女子っぽいぞ!」
あきら「凪チャンは、風景写真は満足した?千夜サンが来るまでもう少しありそうだけど」
凪「満足です。そして、凪達は初心を忘れません。撮りたいのは風景ではありません」
椿「やはり、女の子です」
凪「はい。はーちゃんいずべすと」
りあむ「やっぱり悪影響受けてない?いや、元からか?」
46 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:25:20.79 ID:lF0ws9bq0
26
映画のオープンセット・エントランスエリア
凪「待っていたぞ、勇者達よ」
椿「5分も待ってませんよ」
りあむ「到着!りあむちゃん達は目的地に降り立ったぞ!というわけでー!」
あかり「というわけで?」
りあむ「解散!2時間後にここ集合だよ!外には出て行くなよ!迷子はりあむちゃんが困るぞ!」
あかり「え、解散なんですか?」
奏「ペースは人それぞれだもの。私は勇者の剣があった神社を見に行くわ、すぐそこなの。またね」
凪「奏さん、凪も付いて行きます。一緒に予習した仲、断れないはずです」
奏「来たいならどうぞ。独りに今はなりたいわけじゃないから」
りあむ「暑いから熱中症には気をつけるんだぞ!水分補給は喉が渇く前に!30分に1回座れよ!」
あかり「本当に行っちゃいました」
若葉「私は交替しながら見るので、ご自由に〜」
あかり「若葉お姉さんも行っちゃいました。あんなにカワイイ日傘を持ってたんですね」
りあむ「あれにあわせるゴシック衣装もあるらしいよ」
あきら「へー、似合いそう」
椿「主に右回りか左回りか、ですね」
千夜「速水さんと凪さんは左へ」
椿「千夜さん、貸衣装がありますよ。左側です」
千夜「わかりました。行きましょうか」
りあむ「白雪ちゃん!?進んで着せ替え人形になるの!?」
千夜「お嬢さまからリクエストされているので。江上さん、良い写真をお願いします」
椿「はーい♡」
りあむ「ちとせと椿さんが繋がってたのか……これは大変だぞ」
あきら「さっきまで見てた映画のセットは右側にあるんだ。あかり、最初に行く?」
あかり「はいっ、大立ち回りして色白の暴君を倒す気分になるんご」
りあむ「りあむちゃんも付いてくぞ!断られてもな!」
あきら「いや、断らないから」
47 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:26:19.84 ID:lF0ws9bq0
27
映画のオープンセット・左側のエリア
凪「見てください、何度となく登場した舟屋です」
奏「見過ぎて馴染みがあるわね」
凪「キャラバンはいつもここに逃げ込みます。ぱしゃぱしゃ」
奏「本当にあるものしか、使ってないのね」
凪「奏さん、ピースです」
奏「ふふっ、はい、ピース」
凪「眩しい青空が似合う。凪も成長するだろうか、いや希望を捨ててはいけない」
奏「そう?私は青空よりも夜のイメージだけれど」
凪「そんなことはありません、お似合いです」
奏「ありがとう。疲れてないかしら?」
凪「はーちゃんが準備してくれた帽子が守ってくれています。ですが、ここで水分を取ります。ごくごく」
奏「楽しいかしら?」
凪「はい、凪は楽しいです。ところが、あまり楽しそうでないと言われるのもしばしば」
奏「やっぱり、私も同じ。ちゃんと楽しいわ」
凪「わかります。きっと同じようにする人が近くにいるから似てくる。例え天使様でも」
奏「それが本当なら、嬉しいわね」
凪「次は何があるでしょう」
奏「さぁ、行ってみればわかるわ」
凪「のどかな場所です」
奏「観光シーズンからは少し外れてるようね」
凪「奏さん、聞きたいことがあります」
奏「どうぞ。映画のことなら少しくらい出てくるわ」
凪「人に紛れて学生として過ごす、とはどういうことなのですか」
奏「それを聞くために、私についてきたの?」
48 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:27:16.91 ID:lF0ws9bq0
凪「いえ、そう言うわけではありません。一緒に回るのが一番の目的です」
奏「でも、どこかで聞こうとは思ってたのでしょう?」
凪「それは認めます」
奏「意地悪な言い方だったわね。最初から答えるつもりだったの」
凪「それでは、お聞きしたい」
奏「颯ちゃんは独りじゃないから大丈夫よ。あなたがいるもの、産まれた時からずっと」
凪「はーちゃんのことは聞いていませんが」
奏「自分が線を引かなければ世界は広がるわ。だけれど、その線は孤独だと消せない」
凪「……」
奏「本当は言ってしまいたいわ、誰にでも正体を。普通の人には重すぎるから、私が秘密として背負わないといけない。その秘密も1人でも一緒に背負ってくれれば軽くなる。だから、大丈夫よ」
凪「訂正します。はーちゃんのことを念頭に聞きました」
奏「そう、正直なのはいいことよ。答えになった?」
凪「はい。奏さんは、10年以上この世界にいますか」
奏「いいえ、そこまではいないと思うわ」
凪「それでは、凪がお姉さんです。お手をどうぞ、姉は妹の手を引くものです」
奏「ちょっと考え方が私には理解できないわ」
凪「凪も、はーちゃんにそうするように、あなたの秘密を背負う1人になります」
奏「……そう。ありがとう、凪ちゃん」
凪「握り返された手はひんやりしている。暑さにも強いのか」
奏「おそらく、考えてる以上にずっとずっと私は人から離れているわ」
凪「他にも秘密はありませんか。花ざかりのJKにはたくさんあるはず」
奏「お姉ちゃんに隠し事はできない、か。でも、片側だけは不平等よね」
凪「凪は凪についても話します。一緒に映画を思い出しながら」
49 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:28:00.83 ID:lF0ws9bq0
28
映画のオープンセット・左側のエリア・貧しい民家のセット
椿「ここは、有名なドラマの家を移設したそうですよ」
千夜「見たことはありませんが、あらすじは知っています。実際に住んでいてもないのに苦労が染み込んでいるようです」
椿「そうですね、セットの作り込みが凄いんでしょうか」
千夜「江上さん、先ほどはお写真ありがとうございました」
椿「気にしないでください、私の趣味ですから。後でちとせさんにも送っておきますね」
千夜「……」
椿「あっ、送る写真は自分で選びますか?」
千夜「このドラマの主人公のように、苦労しなくてはならないはずだったのに、そうはなっていません」
椿「ちとせさんがいたから、ですか」
千夜「はい。だから、お嬢さまは私の全てです」
椿「急にどうしたんですか?」
千夜「いえ、江上さんにはちゃんと言ってないような気がしたので。もう既にお聞きかもしれませんが」
椿「お礼とは言いませんが、1つだけ教えてあげます」
千夜「何を、でしょうか」
椿「財前さんからの頼まれごとに、それは、入ってません」
千夜「……どういうことですか」
椿「旅行、ここまでは楽しいですか?」
千夜「わかりません」
椿「お嬢さまに聞かれたら、楽しかったと答えますよね?」
千夜「おそらく」
椿「そうなるようにしないといけませんね」
千夜「しかし、目的は」
椿「私の目的は旅行ですよ?」
千夜「……きっと、私もです」
椿「それなら、次に行きましょうか」
50 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:28:53.14 ID:lF0ws9bq0
29
映画のオープンセット・右側のエリア・一番奥の高台
あかり「わっ、遠くの景色まで見えるんご!りあむさん、あきらちゃん、こっちです……別の建物に入っちゃった」
あかり「……ふぅ。座れそうな所があったから、お茶でも飲んで待つんご」
芳乃「また、会いましてー」
あかり「わわっ!いつの間に!って、ええ!」
芳乃「お座りになられると良いかとー」
あかり「色々気になるけど、座ります」
芳乃「お飲み物はありましてー?」
あかり「はい。途中で買ってきたのが。りあむさんが言ってたから、喉が渇く前に飲みます」
芳乃「わたくしもいただくのでしてー」
あかり「……」
芳乃「気分は晴れましてー?」
あかり「えっ?」
芳乃「故郷を訪れる躊躇いは、先ほどより弱くなっていましょうー」
あかり「あれ?山形出身って言いましたか?」
芳乃「人は産まれ育ちし土地の匂いをまとうゆえー、そなたはこの地に似た匂いなのでしてー」
あかり「私、匂いますか?」
芳乃「匂いというのは鼻からだけではなくー、全てから感じるものですー」
あかり「そうなんですか?」
芳乃「ここは良き場所でしてー」
あかり「はい、そう思います」
芳乃「このおせんべいも美味なのでしてー、1枚お裾分けをー」
あかり「ありがとうございます。あっ、これ、アンテナショップで売ってるのと同じだ」
芳乃「地、空、食、気に触れ、隣人の喜びは出立前の戸惑いを上回り、そなたの気分も前向きになったのです」
あかり「そうですね、やっぱり山形は良い所ですっ!」
芳乃「この旅の終わりに、そなたの迷いが消えることを祈りましてー」
あかり「迷い?」
芳乃「ご友人が参られますー」
あかり「あきらちゃんが出てきました!せっかくだから、紹介します……あれ?」
あかり「また、どこかに行っちゃった……不思議な子です」
51 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:29:35.39 ID:lF0ws9bq0
あきら「あかり、ここにいたんだ」
あかり「あきらちゃん、和服の女の子見ませんでした?」
あきら「見てないけど。でも、ここコスプレOKだって」
あかり「うーん、誰なんだろう……」
りあむ「何か見覚えある小屋だな?凪ちゃんが見てたドラマかな?わっ、凄い景色いいじゃん!そうなら早く呼んでよ、あかりんご!ずるいぞ!」
あかり「ふっ、あはは。りあむさんは大げさです」
りあむ「どうしたの、あかりんご。急に楽しそうになったよ?ここまでもそこそこ楽しそうだったけど、更に」
あかり「皆が山形で楽しそうで、私は嬉しいですっ」
52 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:30:39.29 ID:lF0ws9bq0
30
集合時間
映画のオープンセット・エントランスエリア
千夜「多少遅れても問題ないとは思いましたが」
椿「みんな、時間通りに集合しましたね」
凪「これは奏さんを時間通りに導いた凪の手腕といっても過言ありません」
奏「ええ、凪のおかげ」
りあむ「そこは凄く仲良くなってるな、予想外。さっき一緒に自撮りしてたのも見たし」
若葉「仲の良いことはいいことです〜」
りあむ「みんな、体調悪くない?山道に戻るけど平気?」
あきら「問題ない。歩いてたのに疲れが取れた気がする」
あかり「それは気のせいです、歩いたら疲れるんご!車で足を休めましょう」
あきら「気分の問題なんだけど、まっ、いいか」
千夜「十分に楽しめましたか」
あかり「はいっ、私も楽しかったんご!」
千夜「速水さんはいかがでしょうか」
奏「ええ、十分に。私の目的は果たされたわ」
凪「つまり、これからは欲望の時間」
りあむ「欲望の中でも食欲だね!日に当たったから、食べたいものがある!」
あかり「そう、冷やしラーメンですっ!日が落ちて気温が下がる前に行くんご!山形は気温差がありますからっ」
奏「辻野さん、今日一番で元気な気がするわ」
あきら「奏サン、気がするじゃなくて正解」
53 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:31:41.24 ID:lF0ws9bq0
31
冷やしラーメン後
若葉の自家用車・車内
あかり「ぐぅぐぅ……」
りあむ「あれ、あかりんご、寝ちゃってる?」
奏「思ったよりも緊張して疲れてたのかも」
あきら「ラーメン大盛を食べてお腹いっぱいだから、だと思う」
りあむ「あれは良い食べっぷりだった。あかりんご、朝もラーメン食べてたのを思い出した。それなのに大盛を?ラーメンに対する情熱が高すぎる」
千夜「日下部さん、ここを右です」
若葉「わかりました〜」
千夜「山道ですのでお気をつけください」
りあむ「そろそろ話しておこうと思ったけど、起こす?」
千夜「寝かせておきましょう」
あきら「泊まるところ、聞いてこなかったし」
りあむ「うん、ここまで来たら最後までだよ。行っちゃおう」
あきら「うん。はじめちゃったから、止まれない」
54 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:32:23.81 ID:lF0ws9bq0
32
山形県内某所・本日の宿泊先・駐車場
奏「畑の隣に家があるのね」
千夜「月も星も綺麗に見えます」
凪「これが空が近いということか。凪はわかりました」
椿「きっと陽当りがいいんでしょうね」
若葉「果物が美味しく育ちそうです〜」
りあむ「りあむちゃんは車の移動で疲れた!若葉お姉さんもここなら人の目は平気だよ!」
若葉「はい〜」
若葉「風が気持ちいいです〜」
若葉「椿ちゃん、荷物を運びますよ〜」
椿「ありがとうございます、レンズをお願いします」
あかり「え?寝ている間に来たのがここですか?」
若葉「みなさーん、お茶の準備が出来てますよ〜。お風呂ももう少しで準備できますからね〜」
りあむ「若葉お姉さん黄色!お出迎えありがとう!めっちゃ割烹着似合ってるよ!萌え萌えだよ!」
あきら「凄い似合ってる。借りたんデスか?」
若葉「はい〜、あきらちゃんも荷物を持ちますよ〜」
あかり「あ、あきらちゃん!聞きたいことがあります、ここはどこですか!?」
55 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:33:46.54 ID:lF0ws9bq0
りあむ「どこって、あかりんごの実家だよ」
あかり「あきらちゃんは知ってたんですか!?」
あきら「……知ってる。黙っててごめん」
りあむ「隠してたんじゃないぞ!聞かれなかっただけ!ちゃんとあかりんごのご両親には許可は取ってるよ!旅行の日程は全て伝えてあるし!」
あかり「なして私に言わないんですか!?」
千夜「改めて聞いても良い言い訳とは思えません」
あかり「まさか、千夜さんも知ってたんですか。千夜さんまでりあむ面におちるなんてこの世の終わりです」
りあむ「なんだよ、りあむ面って!ぼくはダークサイドかよ!その通りだな!」
あかり「それに、そうなると……つまり」
千夜「辻野さん、まずは落ち着いてください。荷物をまずは置きましょう」
あかり「……」
りあむ「あかりんご、若葉お姉さんが用意したお茶を飲もう!みんな、集めるから!」
あかり「千夜さんが言うなら、そうします」
りあむ「そこはぼくじゃないのかよ!いいけどさ!」
56 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:34:37.08 ID:lF0ws9bq0
33
辻野家・リビング
辻野家
辻野家が所有するりんご畑の片隅に建てられた平凡な一軒家。リビングは掘りごたつ式。
椿「あかりさん、来ませんね」
奏「着替えると言って、2階の自室に戻り」
若葉「茶碗のお茶が冷めちゃいました〜」
奏「拗ねてるのかしら」
りあむ「怒って引きこもり!?どうしよう、りあむちゃんのせいかな!?だよな!どうやって土下座すればいいかな!?」
千夜「土下座しても変わりはしません」
あきら「そうじゃない、と思う」
千夜「階段を降りる音がしました」
あかり「みんな、いますか」
りあむ「いるよ!良かった天照大御神にならなくて!というか、着替えなかったの?」
凪「りあむはネットで何か調べたと思われます」
あかり「若葉お姉さんは、5色……今はいるんご」
若葉「はい、やっとリラックスできます〜」
あかり「あかりんご、わかったんご!」
57 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:35:56.75 ID:lF0ws9bq0
34
辻野家・リビング
千夜「辻野さん、全てお話しましょうか」
あかり「せっかく考えたから話しますっ」
千夜「わかりました。どうぞ」
あかり「とりあえず、私以外はみんな知ってるんですよね?」
凪「はい。凪は色々と知っています」
りあむ「正直、あきらちゃんは色々とあぶなかった。隠し事してもばれるぞ!これは自信がある!あきらちゃんは嘘つかないで生きよう!」
奏「私も同感。隠し事なんてないのが良いわね」
あきら「そうなんだ、気づかなかった」
椿「例えば、あかりさんが来る前に別の打合せをしています」
あかり「あの時、みんな揃ってたのは遅れたからじゃなかったんですね」
奏「そういうことね。私は遅れていくことが多いもの」
凪「余った時間は鑑賞タイム」
あかり「次は、りあむさん!」
りあむ「ぼく?ぼくは何もして、してなくはないけど」
あかり「駐車場に車は何台ありますか?」
りあむ「そりゃあもちろん、3台だよ!あっ、あかりんご家のものは除くよ!」
あかり「隠す気が全然ないんご!2台で旅行してたのに!」
千夜「隠す気はないですから」
あきら「ここまで来たら、さ」
あかり「運転できるのは」
椿「私は出来ますよ。でも、今日は若葉さんにお任せしています」
りあむ「りあむちゃんは出来ない!他は未成年!ドライバーも雇ってないよ!」
あかり「さっき、若葉お姉さんが2色うちから出てきました」
若葉「お掃除をしてたんですよ〜」
若葉「あかりちゃんのお父さんお母さんに頼まれました〜」
あかり「3台目で最初からこっちに来たんですね。若葉お姉さんは1人でも運転は平気って言ってたので、凪ちゃん達が乗ってた車には若葉お姉さんは青色さんしかいなかった?」
凪「正解です」
若葉「運転は得意なので〜」
58 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:36:48.06 ID:lF0ws9bq0
奏「見直したわ。頭が回るのね」
あかり「公園の事件でちょっと慣れました」
りあむ「うんうん、成長するのはいいことだ!りあむちゃんが楽になる!」
あかり「そうなると、レンタカーが気になるんご」
凪「その心は」
あかり「レンタカーは7人乗りでした。3人しか乗ってないはずなのに」
椿「広々でした」
奏「……来たみたい」
りあむ「凄いな、ホンモノなの確信したよ……」
あかり「先に来てた若葉お姉さん含めても5人で、余ります。だから、答えてください」
あきら「あかりの思ってるとおりデス」
あかり「和服の女の子、一緒に来てますか」
りあむ「そうだよ。りあむちゃんは何回か見えないふりした」
千夜「同じ時間に同じ経路を辿るのは良く出来た偶然です。しかし、今回は私達の意思です」
りあむ「でもでも、必要なんだよ。何に必要かはちゃんと話すから。もう1回会いに行ってよ」
奏「りんご畑の奥、裏山の方にいるわ」
あかり「誰、なんですか」
奏「名は依田芳乃、退魔師よ」
あかり「……」
あきら「あかり、お願い」
あかり「わかりました。行ってくるんご」
59 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:37:54.51 ID:lF0ws9bq0
35
辻野家・山の目の前のりんご畑
あかり「……いました」
芳乃「また会えましてー」
あかり「それは、会うつもりだったから」
芳乃「はいー。そなたー、お名前をお聞きしてよいでしょうかー」
あかり「辻野あかり、です」
芳乃「わたくし依田は芳乃、生業は」
あかり「退魔師さんって聞きました。ここは、やっぱり、そういうところなんですか」
芳乃「この地には悪しき気配がするのでしてー」
あかり「退魔師さんじゃなくても、見ればわかりますよね。だって……」
芳乃「後ろへ。悪しき者が現れました」
あかり「え……」
成宮由愛「……」
成宮由愛
学習旅行先で行方不明になった中学生。無表情のまま、あかりを見つめている。
あかり「ニュースで見た子、なんでここに」
由愛「あなたが辻野さんの娘ですか?」
芳乃「言葉を学んだようでして。騙されぬよう」
あかり「なんで知って」
由愛「見てたから。りんご畑を育てる夫婦とその子供」
あかり「会ったことない、何かに憑りつかれてる……?」
60 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:38:38.04 ID:lF0ws9bq0
芳乃「その通り。故に、離れよ」
由愛「見慣れない護符です。でも、力不足」
芳乃「ばばさまの護符をはねのけるとはー、認識を改めましてー」
あかり「手から羽根が見えたような、気のせい……?」
由愛「封印がなければ、あなたなんて敵じゃありません。2度と東洋の魔術に不覚などとりませんよ。あの憎たらしい坊主のように」
あかり「封印、東洋の魔術……?」
由愛「りんご、ありがとうございました」
あかり「……あげてません」
芳乃「すぅー……」
由愛「南国の退魔師さんが何かしそうなので、消えます。再び会いましょう、辻野の娘さん」
あかり「退魔師さん、逃げちゃいますよ!」
芳乃「かまいませぬー、そのつもりでしてー」
あかり「大丈夫なのかな……」
芳乃「少女の健康は守られているようでしてー」
あかり「あの、あれの原因って」
芳乃「その話はわたくしには不要でして、話すべき人は別におるでしょうー」
あかり「……はい」
芳乃「今日は休みましょうー、わたくしも辻野の家で休むのでしてー」
61 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:39:54.59 ID:lF0ws9bq0
36
辻野家・玄関前
奏「お疲れ様」
あかり「奏さん」
奏「接触は出来たかしら」
芳乃「はいー。しかし、離すことには失敗しましてー」
奏「あら、予想より強力ね。憑かれている子、平気なの?」
芳乃「問題ないようでしてー。封印前は供物を求めていたのかもしれませぬー」
奏「封印、そう言ってたのかしら」
あかり「はい、言ってました。封印がなければ、退魔師さんは敵じゃないって」
奏「つまり、今は違うということ。力量を見極めるくらいは出来るでしょう」
芳乃「ええー」
奏「今夜は私が見張るわ。ここには近づかせない」
芳乃「白き羽のそなたを信じましてー。わたくしはお休みを」
奏「ええ、ゆっくり休んでちょうだい。辻野さんも、ね」
あかり「大丈夫ですか、奏さんだって疲れてるのに」
奏「この世界に降りて来た存在なの、よほどの存在でなければ負けないわ。疲れ方も人間とは違う」
芳乃「まことの言葉でしてー」
奏「旅行のお礼よ。任せて」
あかり「お礼が大きすぎます、たぶん……」
奏「辻野さん」
あかり「なんでしょうか。飲み物とか持ってきますか?」
奏「あの子達は多くのことを既に知っているわ。だけれど、全てではない。あなたから聞かなければいけないことは、調べていない」
芳乃「わたくしもそれは同じでしてー」
あかり「……それなら、どうすればいいんでしょう」
奏「心に従うの。どんなことでも、受け入れてくれるはずよ」
62 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:41:33.63 ID:lF0ws9bq0
37
辻野家・リビング
芳乃「ただいま戻りましてー」
凪「これからは自由です。羽を伸ばしてください」
千夜「お飲み物を準備しました。おくつろぎを」
芳乃「お気遣い、感謝しますー」
りあむ「あかりんご、おかえり」
あかり「はい、りあむさん」
りあむ「えーっと、こういう時どうしたらいい?りあむちゃんにはわからない」
あきら「そう言われても」
あかり「あ、あの、皆に聞いて欲しいことがあるんです。いいですか……?」
あきら「もちろん、と言いたいけど」
千夜「申し訳ありません、全員は揃いません」
りあむ「若葉お姉さんはもうおねむだから寝てるよ!場所は、和式の客間ね!」
あきら「椿サンは今お風呂タイム」
千夜「依田様はお次を。僭越ながら寝間着の準備をさせていただきました」
芳乃「感謝しますー。わたくしも車には慣れていないのでして」
千夜「はい。ゆっくりとお休みください」
りあむ「天使サマには見張りと威嚇を頼んでるし」
凪「中学生には夜更かしはいけません。ゆーこちゃんを安心させるためにおやすみコールをします」
あかり「それじゃあ、明日にします。何にもない普通の家ですけど、ゆっくりしてください」
りあむ「あかりんご、それ本当なの?」
あかり「えっ?」
りあむ「今すぐ言いたいことがあるんでしょ!りあむちゃんの勘違いかもしれないけど!」
あきら「聞くから。あの時、聞けなかったこと、聞きたい。あかりから、じゃないといけないから」
あかり「りあむさん、あきらちゃん……」
千夜「こちらはお任せください。何かあればご用命を」
りあむ「白雪ちゃん、ありがと!退魔師サマのおもてなしは任せたよ!凪ちゃんのお世話も!」
凪「千夜さんにお世話を受ける。役得が過ぎる。やはりJCは正義」
りあむ「あかりんご、ぼくとあきらちゃんが聞くよ。それでいい?」
あかり「はい。何があったか、話したいんです。私から、ちゃんと」
63 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:42:22.79 ID:lF0ws9bq0
38
辻野家・あかりの自室
りあむ「ねぇ、あきらちゃん」
あきら「何ですか、りあむサン」
りあむ「ぼくたちはあかりんごを待ってる。2人で。あかりんごの部屋で」
あきら「そうデス。座布団は客間から借りたやつ」
りあむ「あかりんごの部屋のって、普通?りあむちゃんはわかんない」
あきら「普通でしょ。少し広い気がする。姉妹がいたら半分で分けたのかも」
りあむ「あかりんご、編み物好きだっけ?言ってた?」
あきら「クラスの自己紹介で言ってたような」
りあむ「かごにたくさん入ってる。部屋は綺麗なのに、捨てられないのかな?他の物はあんまりない」
あきら「本棚は、ほとんど教科書。雑誌が幾つか」
りあむ「ラーメン雑誌だ、食べ歩きとかしてたのか?いや、食べ歩きするには不便か」
あきら「車とか、ないから」
りあむ「まだJKだもんな。おっ、クリアファイルがあるぞ」
あきら「りあむサン、そういうの怒られるから辞めなよ」
りあむ「どれどれ、袋ラーメンのパッケージだ……これは怒られないな」
あきら「それなら、編み物の山より喜んで見せてくれそう」
りあむ「お土産をコレクションしてるんだな、古いのもあるぞ」
あきら「物産展とかで買ったのかな。あるいは」
りあむ「アンテナショップ、か。あかりんご、前から知ってたのか?」
あきら「そうなのかな」
コンコン
あかり「お待たせしました。千夜さんから冷たいお茶を貰いました」
りあむ「あかりんご、ありがと」
あかり「りあむさん、いつもより声小さいですね」
あきら「一応遠慮してるんデスよ。というか緊張かな」
64 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:43:13.56 ID:lF0ws9bq0
りあむ「皆休んでるから、人とコミュニケーションに慣れないオタクは慎まないと」
あきら「でも、地下アイドル仲間はいるんじゃないデスか?」
りあむ「アレは人じゃないから。鳥の鳴き声と変わらないよ」
あきら「そういう言い方が誤解されるんデスよ」
あかり「そこまで防音がしっかりしてないですから、そうしてください」
りあむ「わかった。大人しくするぞ。いつも一言多いのに、必要な言葉は足らないのがりあむちゃんだからね」
あきら「自覚してたんデスか」
あかり「……よし。聞いてくれますか」
りあむ「うん。好きなところから話すといいよ」
あきら「聞いてるから」
65 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:44:53.22 ID:lF0ws9bq0
39
辻野家・あかりの自室
あかり「えっと、最初は、辻野あかり高校1年生です。知ってますか?」
あきら「知ってる」
あかり「父ちゃんとお母ちゃんはりんご農家です。山形の、小さな畑で、ブランドじゃないりんごを作っています」
りあむ「それも知ってる。山形はフルーツ王国だけど、りんごはそこまで生産量が多くないのも」
あかり「去年、りんごが取れなかったことは、知ってますか」
りあむ「……りあむちゃんはここは答えない。あきらちゃん、任せた。代表なのに責任をとらないとかそういうんじゃなくて、さ、その」
あきら「りあむサン、ありがと。自分があかりのこと知りたくて、聞いた」
あかり「父ちゃん、話しちゃいましたか」
あきら「うん」
あかり「椿さんが丁寧に頼んだらきっと話しちゃいます。お母ちゃんじゃなくて、父ちゃんが自分で」
りあむ「親のことわかってていいね。そうあるべきだよ」
あかり「父ちゃんは来年も実らないことがわかっちゃいました。木を見たら、多くの人がわかると思います」
りあむ「ぼくはわからなかったけど、若葉お姉さんはそんなこと言っていた」
あかり「父ちゃんは前から都内での物産展を手伝ってました。だから、お仕事はちゃんと見つかりました。都内のアンテナショップです。山形のことをよく知ってる働き者、父ちゃんにぴったりです」
りあむ「あ、あかりんご」
あかり「何ですか、りあむさん?」
りあむ「……タイミングが違う気がする。続けて。ぼくは黙ってる」
あかり「ご厚意で近くに部屋も借りれました。この家よりずっと狭いけど、良い部屋です」
りあむ「……」
あかり「アンテナショップはお手頃価格で提供したいから利益はそんなにないんです。でも、お母ちゃんと私でがんばるんご」
りあむ「うぅ……」
あきら「これも知ってるでしょ、りあむサン」
りあむ「……そうだよ」
あかり「通っていた高校は3ヶ月で辞めて、転校しました。S大学付属高校だった理由は、わかってますか」
あきら「知ってる、古澤先生がこっそり教えてくれた」
りあむ「転入試験が簡単、手続きが早い、ちゃんとある学費免除。それにアンテナショップから近いよ」
あきら「あかりが付属高の制服じゃなかったのは、新品で買わなかったから」
あかり「はい。新品で買えば間に合ったんですけど、少しでも節約したいですから」
りあむ「それは……いや、黙る」
あかり「私は諦めません、ここにもう一度、赤いりんごが実ることを」
あきら「……」
66 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:45:54.09 ID:lF0ws9bq0
あかり「どんな理由でもお金は必要ですから。あかりんご、がんばるんご」
あきら「あかりは、SDsが出来る前から、原因を探してた」
あかり「はい。ちょっと調べたんです、だって……」
あきら「だって……」
あかり「ありえないじゃないですか、こんなの」
りあむ「……」
あかり「農業には何でも時間がかかります。直すのも、です。だから、傷つかないようにしてるんです。父ちゃんは、それくらい知ってます」
あきら「……」
あかり「突然、収穫量が半分になって、次の年にゼロになるわけないんです。しかも、畑全部が」
りあむ「……あかりんごは、ぼくたちといる理由があった。偶然かもしれないけど、もしかしたらが、あるかもしれない。そんなことをやってた」
あきら「理由、か」
あかり「もう、原因は分かってるんですね」
あきら「もう少し。正体はわかった」
りあむ「時間がなかったから色んな人に手伝ってもらった。おびき寄せるのに、あかりんごを使ったのは謝る。黙ってたのも、ごめん」
あかり「原因は、人でも自然でもなかったんですよね?父ちゃんが間違ったわけでもないんですよね?」
あきら「そうだよ、あかり」
あかり「良かった〜、安心しました。父ちゃんも喜びます、それに……そう、良かった……」
あきら「あかり……?」
あかり「何時か家を出ていくかもしれない、って、考えてました。もしかしたら、山形からも。だけど」
りあむ「……」
あかり「この場所に嫌われてなくて良かった。そんな理由で出て行きたくなかったから」
あきら「あかり……」
あかり「えへへ、りあむさんもあきらちゃんも言ってくれればいいのに。秘密だなんて、ずるいですよ」
りあむ「だって、あかりんごは、えっと、あきらちゃんに任せた」
あきら「あかりは、それだと言ってくれないから……さっきのこととか」
あかり「え……?」
あきら「あかり、辛いことがあっても平気そうにしてるから。でも、そういうことも共有したい。まだ過ごした時間は少ないけど、仲間……友達だから」
あかり「えへへ、あきらちゃん、ありがとうございますっ」
67 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2021/08/24(火) 21:47:16.17 ID:lF0ws9bq0
りあむ「ぶえええん、これが友情、りあむちゃんは感動だよ」
あかり「りあむさんが泣く場面じゃないんご。泣き方が汚くて感動できません」
りあむ「りあむちゃんは汚いのか……むしろ、あかりんごは平気なのさ。あきらちゃんの友情に感極まる場面だよ?」
あかり「そういうタイプじゃないんで。本音を言ってスッキリしましたっ」
あきら「うん、あかりらしい」
あかり「りあむさん、きっと色々隠したりしてくれたんですよね?ありがとうございます」
りあむ「うん。あきらちゃんもあかりんごも、何かギクシャクするのはいやだからね。絶対に解決する。ぼくがするわけじゃないけど」
あきら「りあむサン、そこは自分のおかげにしてもいいデスよ」
あかり「奏さんから銀のアクセサリーを貰ったんですけど、これも知ってますか?」
あきら「うん。もしものために、渡してもらった」
りあむ「このことを話す前に何かあると困るからね。ぼくたちに秘密にするなら相手にも気づかれないから」
コンコン
あかり「はい、どうぞ」
千夜「失礼します。お話は終わりましたか」
りあむ「白雪ちゃん、ベストタイミングだよ」
あかり「千夜さんもありがとうございます」
千夜「何を、でしょうか」
あかり「私のこと、心配してくれて」
千夜「最善の手ではなかったかもしれません。許してくださるのなら、幸いです」
りあむ「それで、白雪ちゃんは何しに来たの?」
千夜「辻野さん、どなたか自室にお泊りさせてもよいでしょうか?」
あかり「大丈夫ですっ、人が居ても寝れますから。何人ですか?」
千夜「お2人のどちらか1人で」
あかり「あきらちゃん、一緒に寝るんご」
りあむ「即答なのか。りあむちゃんはショック、でもないか。先輩と同級生なら同級生だ」
あきら「それじゃ、お邪魔する」
千夜「かしこまりました。お布団は準備します」
りあむ「白雪ちゃん、ぼくは?まさか車とか言わないよね?」
あかり「そこまでうちは狭くないんご」
千夜「お前は私と同じく客間です」
りあむ「ザコ寝ってやつだ。ザコメンタルなりあむちゃんにはぴったりだよ」
あきら「そういう意味じゃないデス」
千夜「それでは、ごゆるりと。気のすむまでお話ください」
りあむ「いや、夜更かしはだめだな。明日が本番だから」
あかり「……はい。詳しい結果は明日聞きます」
りあむ「白雪ちゃんも寝るんだよ、早めに。お世話とかいいから」
千夜「お前が言うことではありません。ですが、そうします」
あきら「自分もそうする。お風呂、入ろうかな」
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