【ミリマス】私が貴方に送った言葉

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1 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 21:48:18.48 ID:UdHDSlcF0
ミリマスのSSです。

可奈のメモリアルコミュ4で存在が出てきた音楽教室の先生視点の話になります。
可奈以外のアイドルの出番は少な目です。
BC及びミリシタの話が混在していたり、若干改変した部分や独自解釈などもありますのでご了承ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1629031698
2 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 21:53:15.73 ID:UdHDSlcF0

「スマイルンルン〜♪ らんらららーん〜♪ 笑顔に〜なって〜♪」

「―――」

「っ!」

何かを言おうとしたところで目が覚めた。

「またなのね」

最近よく夢に見る歌。だけど一度としてその一言は言えていないし、何て言おうとしていたのかも思い出せない。

だけどなぜこの夢を見るかは分かる。

忘れようとした私の過ち。それを忘れてしまうことを現実が許してくれなかったからだ。
3 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 21:58:48.60 ID:UdHDSlcF0
「「「先生、さようならー!」」」

「さようならー。また来週ね!」

生徒の見送りを終えた後、教室内の片づけを始める。

「はあ」

思わず溜息がこぼれた。

細々と続けてきた合唱教室。そこへの入会希望者が最近増えてきたからだ。

それが私の指導力が認められたことに対する結果だったら喜ばしいものだろう。

けれど実際は違う。

最近売り出し中のアイドル、矢吹可奈が昔通っていたという話がかつての生徒による口コミで広まってしまったことによるものだ。

彼女はとても楽しそうに歌うらしい。

自分の子供もアイドルになれるかもしれないと考えた親、そうでなくてもアイドルを同じ教室に通わせたいと思ったミーハーな親に加えて、伸び伸び子供が楽しく過ごせると親まで様々な期待を抱いて子供たちを連れてくる。

その期待がすごく重い。だって私が最後に彼女へ送った言葉は最低のものだったのだから。
4 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 22:00:26.01 ID:UdHDSlcF0
確かに可奈ちゃんは確かにこの教室に通っていた。

彼女は本当に歌が好きな子だった。

大してうまくないけれど思いがこもった歌を本当に楽しそうに歌っていた。

そんな彼女が愛おしくどうにか上達させてあげたいと他の子よりも熱心に指導してしまったのが1つ目の過ちだった。

贔屓だという批判、時間をかけても彼女の歌をほとんど上達させられない手腕への懐疑。

まだ駆け出しでそれらの声に反論できるだけの実績も自信もなかった私は2つ目の過ちを犯した。

「あなたは向いていない」

堪え切れなかった私は小学生の女の子に対して最低で最悪の言葉を吐いたのだった。

それは私が彼女に送った最後の言葉になった。

次の回から彼女は教室に来ることなく、親が退会しますと告げに来た。

だから私のおかげで今の彼女があるなんて口が裂けても私は言えないし、彼女を見る資格すらない。
5 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 22:02:39.75 ID:UdHDSlcF0
彼女には他にも才能があった。

明るく活発な性格はみんなに好かれていた。

運動能力も高いし、何らかのスポーツをやれば結果を残せたと思う。

一度見せてもらった絵もとても上手だった。

音楽のジャンルで見たって、音程は外しがちだけどリズム感自体は悪くなく、楽器の演奏ならきっと上手くできるだろう。

責任を負うことから逃げた私はアドバイス一つする勇気もわかなかったけれど彼女なら他にいくらでも選べるだけの才能があった。

だからこれは間違ってない。彼女のためでもあるんだ。

そんな言い訳を自分に言い聞かせていて封じ込めたつもりだった。
6 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 22:04:20.86 ID:UdHDSlcF0
そして私は可奈ちゃんのデビューを知った後も一度たりとも彼女のステージを見に行ったことがない。

たまにそういう人もいるが音楽のプロの端くれとして見世物としての側面が強いアイドルなんて興味ないとか、そんな理由ではない。

むしろ笑顔を、涙を、たくさんの感動をくれる存在で大好きだ。

346プロ、315プロ、961プロ、283プロなど今でもステージを見に行くことはたくさんある。

昔は765プロのステージも頻繁に見に行っていた。今の劇場ができてからもしばらくは。

39プロジェクトが始まり、毎週のようにデビューしていく少女たち一人一人をすごくワクワクしながら見ていた。

みんな魅力的で個性があって次はどんな子が見られるのだろうかと楽しみにしていた。

そんなある日、いつものようにステージの最後に次にデビューする子の紹介映像が流れた時までは。

小学生の時の姿しか知らないはずなのに名前が出る前に一目でわかった。私が見捨てたあの子だと。

いつもは最後まで見る紹介映像を途中で抜け出し、荒い息で私は逃げ出すように退場した。

それから二度と765プロのライブに行ったことはない。765プロのメンバーがTVに映ると可奈ちゃんが出てないときですらチャンネルをすぐ変えた。

万一にも彼女の歌を聞いてしまうことが怖かった。それが想像以上のものだったとしてもその逆だとしても。
7 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 22:06:31.13 ID:UdHDSlcF0
「来てくれてありがとう」

「いえ、オーナーにはお世話になりましたから」

ある日、私はとあるライブハウスに来ていた。今でこそ合唱講師一本で楽器に触れることはなくなったけれど、学生時代友人たちとバンドを組んでおり、その際に何度も演奏させてもらった場所だ。

「今回で閉店してしまうのが本当に残念です」

「みんなそうやって惜しんでくれるのがうれしいよ」

私たちに限らず多くのバンドがここで演奏してきた。

中にはクイーンガゼルのようにメジャーデビューしたものもある。

オーナーが高翌齢ということもあり、閉店することになったけれど惜しむ人も多く、ラストライブにはここで演奏してきた多くのバンドが出演者や観客として集まっていた。
8 : ◆iGEcIiQPPHZy [sage]:2021/08/15(日) 22:08:31.53 ID:UdHDSlcF0
「できれば君たちにも参加してほしかったんだけれどね」

「もう無理ですよ。ここしばらくはみんなで集まっても飲み会にしかなりませんし。私だって何年もギターに触ってすらいません」

今でも大切に取っておいているけれど合唱の教室を開くということ、そしてバンドの仲間以外と一緒にやる気持ちになれなかったこともあり、ずっと仕舞ったままになっている。更に私以外のメンバーは仕事が忙しく本日来ることすらできてない。

あの頃の気持ちも熱もろくに思い出せないし、きっともうギターに触ることはないだろう。

「そうかい。でも気が向いたらまたやってみてほしいな。君たちのライブも好きだったよ」

「ありがとうございます。っとそろそろ最後のバンドですね」

「実は次の子たちがラストライブを企画してくれたんだけどね。実はアイドルなんだ」
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