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私「茹でられた天使たち」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 18:59:07.59 ID:IVNRNWtJ0
オリジナルのSSです
よろしくお願いします
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1628330347
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:00:08.37 ID:IVNRNWtJ0
──
私「空を見上げると天使が飛んでいた」
私「珍しい光景じゃない。彼らはどこにでもいる。森にも公園にも学校にも」
私「天使はある日を境に突如として現れた。最初の一羽が発見された当時は、世界中が大きくニュースに取り上げたらしい」
私「けれども各地で天使が確認されるようになって、次第に世間の興味は薄れていった。だって、あまりにも毎日その姿を目にするから」
私「今ではすっかり日常に溶け込んで、みんな”そういうもの”として天使を認識している」
私「空に天使が飛んでいる。それはそうと、今日も天気が悪い」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:01:10.41 ID:IVNRNWtJ0
ザーッ
友達「おはよう。遅刻ギリギリだね」
私「傘が壊れてコンビニで買い直したから」
友達「折り畳み傘ぐらい鞄に入れておきなさいよ」
私「二本壊れたんだよ」
友達「あらま。それは不運だったわね。最近風が強いもんね」
私「……今日の一時限目は何の授業だっけ」
友達「生物だよー」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:02:18.85 ID:IVNRNWtJ0
──
先生「カエルに関するとある寓話を紹介します。『茹でガエル』というお話です」
先生「あるところにカエルAとカエルBがいました」
先生「Aを熱湯に入れ、Bをゆっくり昇温する冷水に入れたところ」
先生「Aは直ちに飛び跳ねて脱出したのに対し」
先生「Bは水温の上昇に気付かずに、茹でられて死んでしまったのです」
私「……」
私(窓の外を見ると、つがいだろうか。二羽の天使が雨の中を飛んでいた)
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:03:01.21 ID:IVNRNWtJ0
キンコーンカンコーン
友達「やっと学校終わったー」
私「この後どうする。一緒にどこか遊びに行く?」
友達「あーごめん。今日は映画を観に行く予定があるから、パスで」
私「映画? 誰と行くの?」
友達「天使だよ」
私「天使? どういうこと?」
友達「一緒に住んでる天使と、適当に映画でも観に行こうってなってさ」
私「天使と一緒に住んでる? へぇ、珍しいもの飼ってるんだね」
友達「何言ってるの、今時天使の一羽や二羽どの家庭にだって普通にいるよ」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:03:56.35 ID:IVNRNWtJ0
私「そういうものかな」
友達「うん。天使には癒しの効果があるんだよ。エンゼルセラピーって言葉ぐらい聞いたことあるでしょ」
私「ふーん。私はなんだか敬遠しちゃうなぁ。天使って人間とそっくりの見た目をしてるし」
友達「見た目が似てるだけで、人間と天使は全く別の生き物だよ」
私「そりゃそうだけど……」
友達「じゃあ待ち合わせ時間に遅れちゃうから、お先に」
タタタ…
私「待ち合わせって、人間との約束じゃあるまいし」
私「……暇だな。散歩でもしようか」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:05:17.37 ID:IVNRNWtJ0
──公園──
私(雨の日の公園には私以外の誰もいなかった)
私(そういえば最近ずっと雨が降っている気がする)
私(いつからのことだっただろうか。当たり前になりすぎて、思い出すこともできない)
私「それってまるで……」
スッ
天使「雨宿りですか?」
私「え?」
天使「お姉さん、なんだか呆然としている様子だったので」
私「そんな風だったかな。いや、傘はあるよ。また買い直したんだ」
天使「その制服って近くの高校のですよね。勉強でお疲れなのかもです」
私(急に話しかけてきた天使の少女の背中には、純白色の翼が生えている)
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:06:15.09 ID:IVNRNWtJ0
私「単に暇してただけだよ。あなたは?」
天使「私も同じです。何せ天使には学校も仕事もありませんから」クスクス
私「……現国の授業で習ったんだけどさ」
天使「はい?」
私「澄んだ気持ちのいい女性の声を、鈴を転がすような声って形容するんだって。あなたってまさにそれだね」
天使「ふふふ、ありがとうございます。そういう風に作られていますから」
私「作られている?」
天使「天使には学校も仕事もありません」
天使「あるのは唯一つの使命だけ。”人間を癒す”という」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:07:17.94 ID:IVNRNWtJ0
ザーッ…
私「……天使ってロボットだったの?」
天使「いいえ。神により作られ遣わされた生き物ですよ」
私「はぁ。私は生物にも神話にも詳しくないけど……とにかく天使は人間を癒すために存在するんだね」
天使「そういうことです」
私「……エンゼルセラピーが流行るのもわかる気がする。その声で神がどうとか途方もない話をされると、頭がぼーっとしてくるもん」
天使「ふふふ。お姉さん、私を飼ってみませんか?」
私「あー……天使が現れてからもう随分経つけど、私は未だに人の形をしている生き物を飼うことに抵抗があって」
天使「ものは試しですよ。退屈してるんでしょう、毎日に」
私(天使に張り付く水滴が、後光のようにきらきらと輝いた)
私(確かに見た目が似てるだけで、人間と天使は全く別の生き物だなぁなんて考えながら、私は静かに頷いた)
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:08:17.31 ID:IVNRNWtJ0
──自宅──
私「一人暮らしでテレビぐらいしかない部屋だけど、好きに使ってくれていいから」
天使「今日からお世話になります。掃除に洗濯に炊事に、もろもろ全部任せてください」
私「え? そんなの悪いよ。それじゃあどっちが飼い主かわからない」
天使「いいんです。むしろさせて欲しいんです。天使の使命は人間を癒すことにあるんですから」
私「はぁ……」
天使「お姉さん。好きな食べ物はなんですか?」
私「……パスタ」
天使「ふふ、では今日の夕食はパスタにしましょう」
私(天使は手際よく具材を調理しスパゲティを茹でて、あっという間にカルボナーラを作り上げた)
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:09:10.09 ID:IVNRNWtJ0
イタダキマース
私「もぐもぐ……ごくん」
天使「いかがでしょう?」
私「お世辞抜きで、今まで食べた料理の中で一番美味しい」ビックリ
天使「うふふ。そう言っていただけて嬉しいです」
私「同じ材料を使ってるはずなのに料理の仕方でここまで違うとは。遠慮してないであなたも食べなよ」
天使「いいえ、私に飲食は必要ありませんので。天使は食事も水分も休息も睡眠も取らないんです」
私「そ、そうなの。じゃあこれは私が全部美味しくいただくね。ありがとう」
天使「はい」ニコ
モグモグ…
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:10:23.78 ID:IVNRNWtJ0
──寝室──
私「そろそろ寝るけど、あなたは寝ないんだっけ?」
天使「ええ。私のことは気になさらずお姉さんは寝てください」
私「なんだか申し訳ない気もするけど……おやすみなさい」
私(電気を消してしばらくすると、天使の細い指が私の手のひらを覆った)
ギュッ
私「……あの、どうかした?」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:11:22.70 ID:IVNRNWtJ0
天使「そのままゆっくり目を閉じてください」
私「いや、でも……」
天使「私たちには癒しの効果があるんです。騙されたと思って、今晩はこのまま眠りについてください」
私「……」
私(迷いながらしばらく目を瞑っていると、心地の良い睡魔が襲ってきて)
私(翌朝目を覚ますと意識が透き通るようにクリアになった。いつもの十倍よく寝た感覚だ)
私(隣を見ると、にっこりと笑う天使の姿があった)
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/08/07(土) 19:12:04.31 ID:IVNRNWtJ0
──学校──
友達「おはよう。なんかめちゃくちゃ爽やかな顔をしてるね」
私「うん。エンゼルセラピーの効果だと思う」
友達「お、早速天使を飼い始めたんだ。私も昨日一緒に映画を観て、存分に癒されてきたわぁ」
私「なんて映画観たの?」
友達「ホスピスってやつ」
私「面白かった?」
友達「どうかな。私には難しすぎたかも」
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