高木さん「もしもわたしが転校したらどうする?」西片「えっ……?」

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7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 21:52:52.42 ID:sp1eyNH5O
「わたしは西片に不満なんてないよ」

高木さんは優しい目をして、励ますようにそう言ってくれた。それだけで、ほっと安堵してしまう自分がなんだか情けないと思った。

「でもね、西片」

わかってる。情けないままなのは嫌だった。

「うん。オレも、今日よりも楽しい明日が来たらいいなって……」
「今日よりも楽しい明日にしよ?」

ああ、やらかした。言葉は難しいなあ。
やっぱりオレは高木さんには敵わない。
勝ち誇った顔で、高木さんが勝利宣言。

「わたしの勝ち」

オレは負けた。いつも負けっぱなしだ。
だけど、高木さんの笑顔が見れたなら。
いや負け惜しみはやめよう。次は勝つ。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 21:55:46.82 ID:sp1eyNH5O
「それを伝えたくて、そのために転校するみたいなことを言ったのはごめんね」
「そういうことなら、謝らなくてもいいよ」

遠回しだったかも知れないけれど高木さんが突然居なくなって会えなくなる恐怖が前提にあったからこそ、オレは真剣に向き合えた。

「ずっとこのまま居れたらいいのにね」

安定や安心を求めていたオレの気持ちを汲むように高木さんがそうひとりごちる。

「ずっとこのままってわけにはいかないよ」

図書館だって閉館時間になれば閉まってしまうのと同じように、夏休みもそして中学時代もいずれ終わる。変化は避けられないのだ。

近い将来、大人になってから、オレたちは今日の眩しい太陽をどのように思うのだろう。
良い思い出なのか、ただの思い出じゃなく。
もっと特別な何かになればいいと。だから。

「今日、高木さんにからかわれて良かった」

このかけがえのない1日1日を大切にしよう。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 21:58:29.01 ID:sp1eyNH5O
「それで、罰ゲームのことだけど」
「え?」

はて、罰ゲームとは。全く身に覚えがない。

「わたしに大事なことを言わせた罰だよ?」

ああ、日和った罪は残っていたのか。
高木さんは抜け目なくて、厳しいな。
しかし、罪は罪なので罰は受けよう。

「どんな罰ゲーム?」
「明日はずっと手をつなぐこと」

思わず拍子抜けする。それが罰ゲームとは。

「西片は照れ屋さんだから」

言われて事態に気づく。手汗がやばかった。

「あ、明日も暑いだろうし、ずっと手をつないだままっていうのはちょっと……」
「転校するよ?」
「わかったよ! わかったから……やめて」
「うん。だから手、離さないでね?」

脅されて情けない悲鳴をあげて懇願するオレの手汗まみれの手を、高木さんはしっとりした手のひらで優しく包み込んで、微笑んだ。

「あ、明日からでしょ?」
「練習しておかなくて平気?」
「平気……じゃないかも」

何事も慣れだ。すんなり挨拶出来るようになったように場数を踏めば手だって普通につなげるようになる。そう前向きに善処しよう。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 22:02:21.13 ID:sp1eyNH5O
「熱いね」
「うん……熱いね」

小さな呟きが蝉の声に負けることなく耳に届いたのは、きっと手をつないでいるからだ。
触れ合っているだけで、齟齬が格段に減る。

「ずっと、こうしてたい」

そう言いながら、強めに手を握ってくる。
ちょっと躊躇いながらオレもそっと握る。
高木さんの細い指が折れてしまわぬよう。

「そろそろ図書館の中に戻ろっか?」
「うん……そうだね」

名残惜しいけれど、涼しい館内のほうが手をつなぐには相応しいだろう。と、その前に。

「ごめん。ちょっとオレ、トイレに……」
「うん、わかった。いいよ。行こっか」
「えっ……?」

汗にならなかった分のジュースを尿として排出しようとするオレの手を、高木さんは離さない。何故かトイレについて来ようとする。

「た、高木さん、さすがにトイレは……」
「ずっとつないでるって約束」
「で、でも、それは明日の約束で……」
「予行練習が必要なんでしょ?」

逃げられない。避けられない明日が、来る。

「ち、ちなみに大は……?」
「うーん……えへへ。そうだなぁ」

高木さんは珍しく照れながら、耳打ちした。

「一緒にしよっか?」
「フハッ!」

困惑が愉悦となりて脳内を瞬時に駆け巡る。

「明日、愉しみだね」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

高らかに、モリモリとまるでウンコのように空に聳える入道雲の頂上まで届けと言わんばかりに哄笑して図書館の司書に怒られたことをオレは、大人になっても忘れないだろう。

歌うように表情豊かな哄笑のカンタービレ。

遠い未来に、自分が偉人シリーズの漫画になるとは思えないけれど、もしかしたら明日、糞好きのモーツァルトもびっくりな展開が待っているかも知れないと思うと、愉しみだ。

忘れられない夏に、なりそうな予感がした。


【耳打ち上手な高木さん】


FIN
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2021/07/23(金) 22:23:07.53 ID:sp1eyNH5O
>>6
誤記訂正の筈が、またも誤記してましたね
正しくは一瞬に、ではなく、一緒にです
重ねてお詫び申し上げます

最後までお読みくださりありがとうございました!
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/06/20(木) 07:03:33.85 ID:MtgnP4Lc0
2021年投稿って、未来人かな?
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