【シャニマス】芹沢あさひ(17)「わたしも、変われてるっすか?」

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64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/01(日) 15:03:14.76 ID:D6z5jikaO
>>63
なんだこのゴミ
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:36:43.13 ID:TXiC4Vig0
 カチ。

 1週間が経った。

 何事もなく時間は過ぎて、わたしは舞台の準主役を引き受けるか悩んだまま引きずり、今の舞台の稽古を仕上げていた。もうすぐ本番。
 いざ悩んでみると今を過ごすことに精一杯で、改めて考える時間というのはなかなか生まれない。でも、明日には答えを出さなければならない。
 わたしの中で転がっている不安は、手をつけないまま孵化しようとしていた。

 レッスンが被って、久しぶりに果穂ちゃんと並んで踊った。曲は全然違うから一緒なのは前半の基礎レッスンだけだったけど、交代しながら振り付けを見てもらってる時間、ぼーっと果穂ちゃんを眺めてると、また背が伸びてるような気がした。

 シャワシャワシャワ。蝉の声。
 風が吹くと制汗剤の香りが強くなって、暑い空気とは対照的に鼻の奥は涼しくなった。

「お腹空きません?」
「ペコペコかも」

 2人で少しまったりしたくて、どちらからともなく事務所に向かってゆっくり歩いていた。

「商店街寄りましょうよ」
「いいね」

 商店街になった。

 何も考えていない。これくらいの心持ちで行き先が決まればいいのに。
 空は晴れていたけど、風がよく吹く日で、不思議と汗は流れなかった。暑くはあるけど、日陰を歩けば何とかなる。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:37:46.46 ID:TXiC4Vig0
 果穂ちゃんと何でもない話をしながら歩いていると、ふと声音が前と違う気がした。ちょっと明るくなった気がする。

「最近何かあった?」
「んー?」

 返事がしばらく帰ってこなくて、代わりに街路樹の蝉がシャワシャワと間を持たせる。
 スニーカーがキツい。

「ファミレスに行きました! 放クラで」
「え、すごい。5人で?」

 前に会えないという話をしていたから、ちょっと驚いた。3人でも集まるのは難しいのに、5人がたまたま集まるなんて。
 商店街が見えて、2人とも少し歩調が早まる。

「はい、たまたま揃ったんですよ」

 商店街はミストが吹いていて、どちらからともなくその中に入っていくと、思ったよりしっかり顔が濡れて2人で笑った。

「あさひさんは?」
「わたしはね、冬優子ちゃんとバーに行った」
「バー?」
「そう、お酒が出るところ」
「かっこいい〜」

 飲むんですか? と聞かれたので、まだ飲んだことないよ、と笑う。気になるけど、流石に人前では飲むことはない。ダメなことをして見つかってしまうと、プロデューサーさんに迷惑をかけてしまう。

 そういえば、さっき何となくプロデューサーさんの話が出てきた時、果穂ちゃんの声音がいつもと変わらなかった。最近はちょっとひっかかるところがあったのに。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:39:58.34 ID:TXiC4Vig0
「果穂ちゃん、何かあった?」
「んー?」
「プロデューサーさんと」

 独特の間が開く。

「別に、何もないですよ」

 何もないらしい。そういうこともあるのかもしれない。何もなくても、変わるものもある、のかもしれない。
 わたしは、自分で決断しなければ変われないところにいる。

 商店街とはいっても買い食いできるところはそんなになくて、目的地はなんとなくわかっていた。
 果穂ちゃんについて行くように精肉店に寄って、150円の牛肉コロッケを2人で買う。5つくらい食べられそうだったけど、持ち歩くのは面倒なので、わたしは1つしか買わなかった。果穂ちゃんは2つ買ってた。

「そいえば、果穂ちゃんもう16歳だ」

 ふと思い出して、口に出してみる。誕生日以来会ってなかったから、16歳の果穂ちゃんとははじめましてだ。

「そうなんですよ」
「おめでとう」
「当日もチェインくれたじゃないですか」

 はは、と果穂ちゃんが笑って、コロッケを大きく齧った。わたしも同じくらい齧ってみると、熱くて口の中を火傷しそうになった。

 歳はふたつ違う。果穂ちゃんはまだ1年生。身長は果穂ちゃんの方が高いし、でも、そんな気はしないけど、一応歳下ではある。そんな果穂ちゃんが、今年もまた先に一つ歳を重ねた。先に行った。わたしはまだ迷っている。

 自分が決めなければならないこと、見つからない判断基準、聞こえてこない孵化の音、頭の中にモヤがかかったように不安が募っていた。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:42:05.55 ID:TXiC4Vig0
「あさひさん、週末から舞台本番ですよね」

 ぼーっと歩いていると、果穂ちゃんが自販機でいちごオレを買っていた。ガコン。

「そうだよ」

 もうすぐそこまで迫っている。今日は最後の稽古休みだったけど、体力はあったのでプロデューサーさんにダンスレッスンを入れてもらっていた。疲れは溜まらない。
 明日からの仕上げで他のみんなと合わせれば、本番に向けた心配はない。

「見に行きますね! 1番おっきい花贈ります」
「絶対見にいく、開演前に」
「お客さんに見つかっちゃいますよ」

 プロデューサーさんに「本番に向けた心配はない」という話をすると、褒められたことがある。すごいことだって。
 おれはいくら準備しても不安はたくさんあるから、それだけ自信があるのはあさひが才能もあって努力もしてる、ってことだと思う。そして、それができるということは、今やっていることが正解だということかもしれないな。

 この道が、正解なのかもしれない。あの人はそういっていた。

 果穂ちゃんがわけてくれたいちごオレを一口飲んで、手についた水滴を頬に塗る。冷たい。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:43:29.86 ID:TXiC4Vig0
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70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:44:33.23 ID:TXiC4Vig0
「あさひさんも特別ですよ。あたしの中で」
「え?」

 わたしが立ち止まると、果穂ちゃんとの距離はさらに開いた。シャワシャワシャワ。油蝉じゃない。

「わたしは普通だよ」

 頭によぎる言葉がある。

「十で神童、十五で才子、二十歳過ぎればただの人」

 誰に言われたわけでもないけど、誰かに言われたように、いつからか頭の中にこびりついている。
 それは、わたしも変わってしまっているということでもあって、何も考えなければ、望まない方向に変わってしまうこともある。それがうまく選べないわたしは、

「ただの人だよ」

 雲が動いて、日陰がなくなる。商店街を抜けて道路に出ると、刺すような日差しがわたしの頭に直撃して、暑さで脳を揺らす。
 何をしても正解ではない気がする。熱を持つ不安はわたしの顔を暗くして、気がついたら目線は足元に落ちていた。キツいスニーカー。

「でも」

 でも、の声が、少し大きくなった。前を歩いていた果穂ちゃんが、こちらに振り返っている。

「あさひさんは、あたしの中では特別です。ずっと前から」

 ずっと前から。
 顔を上げる。目線より少し上に、果穂ちゃんの顔がある。明るい顔だ。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:45:16.24 ID:TXiC4Vig0
 変わらないものがある。

 変わっていくものもあるけど、その中でも、変わらないものがある。わたしはそれを守りたい。
 そのために選ばなきゃいけないことがある。自信はない。でも、わたしも、果穂ちゃんの中では特別。
 わたしが特別と思っている人が、わたしのことを特別といってくれている。

「わたしも、特別」
「はい」

 もしかしたら、わたしは大丈夫なのかもしれない。
 少なくとも、果穂ちゃんはそう信じてくれそうだった。

 頭の中にあった選択肢が、ひとつになっていた。孵化の音が聞こえる。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:47:05.02 ID:TXiC4Vig0
>>69

「果穂ちゃんって次の仕事決まってる?」
「え?」

 自分の思考に一区切りついた気がしたので、果穂ちゃんに同じような質問を投げかけてみた。
 急に話題が変わったからか、果穂ちゃんはぽけっとした顔をしている。

 以前より大人な顔つきになったと思う。

 そうですね、と果穂ちゃんはコロッケを齧って、思い出すように空を眺めた。高い。

「しばらくはモデルのお仕事ですね、あとは樹里ちゃんとラジオがあるかも」

 前に果穂ちゃんがゲストのラジオを聴いたけど、意外に低くなった声が聴きやすくて耳に馴染んでた記憶がある。向いているかもしれない。

「じゃあ、これからはラジオとモデルでやっていく感じ?」
「? そんなことはないと思いますけど……でも、ありかもです」

 まだ先のことはわかりませんし。

 果穂ちゃんの言葉に、歩みが止まる。アスファルトを擦る靴の音は、ジャリッと足の裏に振動を与えて、それが頭まで伝わってくるような錯覚をする。

「なんだって出来ますからね、アイドルは!」

 すごいな、と思う。先のことを考えても不安にならなくて、そして選べるものならすぐに決めてしまえるというのは、

「特別だね、果穂ちゃんは」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:48:09.06 ID:TXiC4Vig0
>>69

 わたしはまだ迷っている。

 舞台の仕事を引き受けることに抵抗はない。でも、今回の仕事はいつもとは違う。それはプロデューサーさんの言葉でそう伝えられたし、声や様子もいつもと違った。
 これを引き受けることが、そのままわたしの将来に繋がるのかもしれない。

 これまでプロデューサーさんが撮ってきた仕事は、だいたい何も考えずにやってきたし、それなりに上手くやってこられたと思う。
 けど、今回はたぶん違う。あの時のプロデューサーさんの目を思い出す。一瞬しか見てないはずなのに、鮮明に覚えている。それだけ真剣だった。

 わたしはプロデューサーさんにずっとわたしのことを見ていて欲しい。それは当たり前のことだと思っていたけど、当たり前だと思っていた冬優子ちゃん、愛依ちゃんはどんどん変わっていってしまった。もしかしたら、プロデューサーさんだって、いつかは変わってしまうかもしれない。

 なら、そうならないために、わたしは彼にずっと見てもらえるように先のことを考えなければならない。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/03(火) 18:49:19.94 ID:TXiC4Vig0
投稿ミスって申し訳ない
またそのうち
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/04(水) 22:21:13.75 ID:+SFF+zLRO
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/10(火) 01:55:41.56 ID:/+UHCbSB0
なんか泣けてくる
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/22(日) 21:17:52.20 ID:35Ix6MLZO
まだ?
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/22(日) 21:18:10.09 ID:yQS7uf7Mo
まだ?
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/27(金) 00:34:33.90 ID:sYu7jr0dO
エタったか
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