愛を知るための物語

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/07/03(土) 23:15:41.01 ID:jGqu1IYDO
「ねえ、お兄さん、何を願ったの?」

立花悠理との出会いは、逆ナンと呼ぶにはあまりにおかしな状況だった。

これから新人賞に応募する小説をリュックに潜ませて、最後の神頼みに神社に来たところだった。あまり有名でもないけれど、家と学校の間にあるから都合がいいから寄った小さな神社だ。そんな気持ちでお参りをしてご利益なんてあるのかは分からないけれど、それでもしないよりはいくらか気が楽になる。

五円玉を賽銭箱に投げて、二礼二拍一礼。正しい作法かどうかも分からないけれど、誰かがそう言っていた気がする。

よし、と気合いを入れて目を開けて、振り向いたときだった。

目の前には音もなく彼女が立っていて、僕はそのあまりの唐突さに硬直してしまったところだった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1625321741
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/07/03(土) 23:17:53.90 ID:jGqu1IYDO
「ね、何?」

再度問い返されても、僕の硬直が解けることはなかった。というか、僕は彼女のことを知っているからこそ驚けるし、一方で彼女は僕のことなんて知るはずもない。知っていたなら、むしろそっちの方が驚きだ。

勝利の女神、アテーナーなど、彼女を評する言葉は多数あるし、彼女のことを知らない日本人はそう多くはないだろう。いるとしたら、よっぽどテレビやインターネットから隔離されている奇異な人くらいだ。少なくとも、僕の同級生で彼女のことを知らなそうな人は誰も思い当たらない。

僕だって、本人を目の前にしたのはこれが初めてだ。テレビでも彼女の美しさを褒めたたえることはよくあるが、いざ本人を目の前にしたらそれがより一層強く感じられた。子どもの頃に憧れていた近所のお姉さんの茉奈ちゃんだって、学年のマドンナと評されている坂本美夏だって、彼女を目の前にしたら霞んでしまうことだろう。これが有名人のオーラってものなのかもしれない。

「えっと……これから小説を賞に応募しようと思って、最後の神頼みに」

「小説書いてるの? えーっと、何くんかな」

どうやら、僕のことを知っていて声をかけていたわけではないらしい。そりゃそうだ、今まで何の繋がりもなかったはずなんだから。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/07/05(月) 09:37:03.16 ID:kKDlt7PZO
「ね、何?」

再度問い返されても、僕の硬直が解けることはなかった。というか、僕は彼女のことを知っているからこそ驚けるし、一方で彼女は僕のことなんて知るはずもない。知っていたなら、むしろそっちの方が驚きだ。

勝利の女神、アテーナーなど、彼女を評する言葉は多数あるし、彼女のことを知らない日本人はそう多くはないだろう。いるとしたら、よっぽどテレビやインターネットから隔離されている奇異な人くらいだ。少なくとも、僕の同級生で彼女のことを知らなそうな人は誰も思い当たらない。

僕だって、本人を目の前にしたのはこれが初めてだ。テレビでも彼女の美しさを褒めたたえることはよくあるが、いざ本人を目の前にしたらそれがより一層強く感じられた。子どもの頃に憧れていた近所のお姉さんの茉奈ちゃんだって、学年のマドンナと評されている坂本美夏だって、彼女を目の前にしたら霞んでしまうことだろう。これが有名人のオーラってものなのかもしれない。

「えっと……これから小説を賞に応募しようと思って、最後の神頼みに」

「小説書いてるの? えーっと、何くんかな」

どうやら、僕のことを知っていて声をかけていたわけではないらしい。そりゃそうだ、今まで何の繋がりもなかったはずなんだから。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/07/05(月) 09:37:35.56 ID:kKDlt7PZO
僕から何て声をかけるか正しいかが分からずに、彼女が口を開くのを待った。しかし、彼女も何と言っていいのか困っているらしく、二人で黙って微妙に視線をそらして向き合ったままだった。

まだ梅雨は開けていないはずなのに、今日は雨も降らずにただただ暑い。立っているだけで、汗が流れてくる。額にたまった汗を制服のポケットに突っ込んでいたしわしわのハンカチで拭いた時、彼女が口を開いた。

「今日は暑いね」

同意を求めるような目でこちらを見てくるが、僕は何を求められているのか分からず沈黙を続けた。

彼女は一瞬困ったような目をしつつも、言葉を続けた。

「よ、よかったら、お茶でもしませんか?」

まるで数十年前のナンパのような提案、と思っても断れないのは美人に誘われた時の男の性なのかもしれない。
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