小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

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95 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:09:08.23 ID:JrHRtvfJ0

トール「空き巣ってつまり、ええと、ど、泥棒に家を荒らされたって事ですよね!? な、なぜそんな事に……!」ワタワタ

小林「いやー…… 元々その頃この辺りでは、空き巣の被害が既に何度も報告されていてね。行政から注意勧告がされてたりもしたんだ」

滝谷「当時は結構ニュースでも取り上げられててね。
   なんでも手口のソツの無さから見た所、指名手配もされてる様な“やり手”の窃盗犯二人組による犯行ではないか、なんて言われてたりもしたね」

小林「とは言え『まさか自分が被害に遭いはしないだろー』なんて油断してたら、しっかり私もやられちゃったって訳。いやー馬鹿だねーホント」ヘヘヘ

トール「そんな、小林さんのせいじゃ……!!」

滝谷「そうさ、自分を卑下しちゃいけないよ、小林さん」

小林「いやあ、でも幸い加入してた火災保険が盗難にも対応してて、
   ある程度は家財補償もしてもらえたから、実はそこまで金銭的被害はなかったし……」ヘラヘラ

滝谷「それでも、精神的ストレスは酷かっただろう? 警察の事情聴取や保険会社との連絡で忙しくもあったみたいだったし」

小林「……うん、あの時は、仕事のフォローありがとね、滝谷君」

滝谷「いやいや、それぐらい何て事はないさ」ズズー

トール「そんな、大変な事があったなんて……」

トール(――ん? 空き巣というと――)ホワンホワン



《〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



【1年前・小林宅の玄関】

空き巣A『――この部屋の人間は出払っている時間だ』フッフッフ

空き巣B『さっさと済ませよう』クックック



カチャカチャピン ガチャ ギイッ……



トール(竜形態)『………………』フシュルルル



空き巣A『――――』
空き巣B『――――』

トール『――――――――グオォォォッツ!!』ゴアァ!!

空き巣A・B『『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッツ!!!(声にならない悲鳴)』』



クルッ ダダダダダダダダダッ……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》



トール(――確か、小林さん宅に住み始めてすぐの頃、そんなのを追い払った様な記憶がある気も……)

トール(そう言えばその後テレビで、
    『指名手配犯の空き巣、まさかの自首?“守ってくれ”と錯乱した様子も――』なんてニュースもやってた様なやってなかった様な……)ホワンホワン

96 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:11:10.40 ID:JrHRtvfJ0

小林「トールちゃん?」

トール「ハッ! ……い、いえ、ともかく、そんなとても災難な事があったんですね…… ん?」

小林「………………………………」

滝谷「………………………………」

トール「え、なんですかお二人共、その意味ありげな沈黙は…… 怖いんですけど」タジッ

滝谷「いやー、そのー、ねえ…… 話はこれで終わりでないというか……」シドロ

小林「この後の方が、空き巣以上に大変だったというか……」モドロ

トール「い、一体何が…… 気になりますから教えて下さいよ!」

小林「……そのー、あんまり驚かないでね?」

トール「大丈夫です、今の空き巣被害の事で充分驚きましたから! ドーンと来いです!」ドンッ

小林「そう……? じゃあ、続き話すね。空き巣被害に遭った数日後の事なんだけど……」

トール「はい!」フンス



小林「……会社をクビになりました……」ズズーン



トール「ははあ、会社をクビに…… って、どええええええええええ!!?」ガガビーン

小林(やっぱり驚いた……)

滝谷(昼とはいえ、騒音大丈夫かな……)

97 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/15(月) 23:14:40.50 ID:JrHRtvfJ0
短く切りも悪いですが、今日は時間がないのでスレ保守代わりにこの辺で。

今週中に切りの良い所まで上げるつもりです。

それではまた〜。
98 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/23(火) 23:50:32.09 ID:bRojTz220
ハア……ハア…… 今週、中……?(すっとぼけ)

何はともあれ再開します。(また短いですが……)
99 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/23(火) 23:53:34.30 ID:bRojTz220

トール「ななななななな、え、ク、クビって即ち、会社を解雇されたって事ですか!?」

小林「は〜い、そうで〜す……」ヘヘ……

滝谷「トール君、言い直さないであげて……」

トール「あ、す、すみません…… え、けど一体なぜそんな事に……!?」バタバタ

トール「だって小林さんって、かなり優秀なSE?なんですよね!
    私は詳しい仕事内容は分かりませんが、社内でも皆さんに、とても頼りにされていらっしゃったじゃないですか!」

小林「え、いや、別に私の腕はそれ程では……」

滝谷「いんや、トール君の言う通り。
   小林さんは部署内でもクオリティ・速度共にトップクラスのプログラミング能力を持つスーパーSEだったよ」ズイッ

小林「ちょ、滝谷君!?」

トール「ええ、ええ、聞いていますとも。本来一週間かかる仕事を『小林さんが1日でやってくれました』伝説!」ズズイッ

小林「いや、あれは工数の見積もりが過大だっただけだろうから――」

滝谷「いやあ、思い出すなあ小林さんの勇姿! 最後に放った『───教えてやる。これが、モノを作るっていう事だ』の決め台詞――」シミジミ

小林「おいコラ、言ってねえからな!? 捏造すんな!」カアァッ

トール「――――」フッ

滝谷「――――」ニヤリ

トール・滝谷 (ガシィッ!!)(無言の熱い握手)

トール「――あなたとは基本相容れませんが、殊、小林さんへの理解度に関してだけは認めてあげてもいいでしょう」グッ

滝谷(眼鏡ON)「ふふ、そういう時は『わかりみが深い』と言うものでヤンスよ――」カチャ

トール「これが―― わかりみ――」

滝谷「ふふ―― わかる――」



小林「二人で意気投合しないで!? あとそこ、スッと眼鏡を掛けるな!」ビシッ

トール「あ〜、小林さん照れてる〜! か〜わ〜い〜い〜!」フリフリ

滝谷「か〜わ〜い〜い〜!」プリプリ

小林「どつくぞ! 特に滝谷ァ!」ガーッ!

……………………………………………………

100 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/23(火) 23:55:50.24 ID:bRojTz220

小林「はあ、はあ…… 全く、脱線し過ぎ! 話、戻すよ!?」フーフー

トール(赤くなってる小林さん、いいですよね……)コソコソ

滝谷(眼鏡OFF)(いい……)コソコソ

小林「ア゛?」ギロリ

トール・滝谷「「アッハイ、すみません」」スン……

小林「全くもう…………」フーーー……

小林「……………………さて、気を取り直して」コホン

小林「えーと話は確か、なぜ私が会社をクビになったか、という所までだったよね」

トール「はい。なぜ優秀なはずの小林さんがクビになる必要があったんですか?」

小林「それは…… と、その前にトールちゃんは、私のいた会社の所長については知ってるんだっけ?」

トール「はい。あの男尊女卑で声が喧しいパワハラクソ野郎の事ですよね」ゴゴゴ

小林「あーその…… まあ、否定はしない」ニゴシニゴシ

滝谷(トールちゃんの殺気が目に見える様だ……)ブルッ

小林「まあ、その所長についてなんだけど…… 1年前より以前から、所長のパワハラは目に余るものがあってね。私も問題視してたんだ」

滝谷「当時は特に、女性であり仕事も出来る小林さんに対して、強く当たってたね……」

小林「うん。だから私も、密かに所長からの暴言を録音したりパワハラの証拠集めをしたりして、いつか上層部にタレコミしようと準備してた」

トール(あ、そんな事してたんですね)

トール(あ、じゃあ、私の知るあの野郎がいつの間にか会社から追放されてたのは、小林さんの手によって――?)

小林「――でもね、駄目だった」

トール「え?」

小林「タレコミの前に、所長にバレちゃったんだよ。録音機を見つかっちゃってさ」

101 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:00:04.29 ID:5V1TTe5a0

トール「え……? そ、そんな! 何で!?」ガタッ

小林「何で…… と聞かれるとその、所長と会話中に、懐に忍ばせた録音機を不注意でこう、手が滑って床に落としちゃって……」

滝谷「山の中で夜を明かしたり、空き巣に入られたりで、数日前から心身に疲労が溜まってたのも要因だろうね。
   それまでは小林さん、見事に隠し切ってたから」

トール「そんな…… で、でもそれでどうしてクビに……?」

小林「………………」

滝谷「……トール君。あの所長はパワハラも酷かったし、仕事においてお世辞にも有能という訳でもなかった。
   ではなぜ彼は、所長なんて役職に就けていたと思う?」

トール「え? ……分かりません。何でですか?」

滝谷「それはね…… 彼に仕事の才能はなかったが、上司に良い顔をする―― “媚を売る才能”は十二分にあったという事さ」

トール「なっ…………!」

滝谷「彼は部下に対しては横柄だが、上司に対しては驚くほど腰が低くて、媚びへつらうタイプだった様でね。
   上司をヨイショしたり、自分の部署の問題点を隠しつつ成績をアピールしたりするのもかなり上手くて、
   おかげで上層部からの彼の印象は中々良かったらしいよ」

トール「そんな馬鹿な……!?」

滝谷「更に言うと、彼は尊大な一方で、自己の保身の為なら手間を惜しまない周到さ…… いや、臆病さがあった」

小林「……うん。だから所長は、私が落とした録音機を見るやいなや、全てを察したのか―― まず即座に録音機を踏み潰した。
   『おっと、足が滑った』とか言ってね」

トール「なっ…………!?」

小林「パワハラしてた時の嘲りの表情は何処へやら、強く本気の敵意を持った――
   それでいて怯えた様な視線で私を一睨みすると、所長は凄い速さでオフィスを出て行った」

滝谷「自分のパワハラを密告される前に、小林さんを排除するために上層部に働きかけに行ったらしいよ。
   実際それから数日で、あっという間に小林さんは解雇されてしまった」

102 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:04:01.08 ID:5V1TTe5a0

トール「そんな! 許されるんですかそれ!
    た、確かこの国の法は大分厳しくて、人を辞めさせるにもすぐに辞めさせてはいけないとかいう、なんか、あの……」

滝谷「労働基準法における“解雇予告”の事? 良く知ってるね」

トール「た、多分それです!」

滝谷「確かに通常は事業者が労働者を解雇するには、30日以上前にその予告をするか、
   又は30日分以上の賃金に相当する手当を支払う様に法で定められている」

小林「………………」

トール「な、なら!」

滝谷「しかし同時に労働基準法には“解雇予告除外認定”という制度があってね。
   天災などで事業の継続が不可能な場合の他、労働者自身に大きな問題がある場合には、
   予告も手当もなしに即時解雇する認定を受ける事が可能になる」

トール「お、大きな問題というと……?」

滝谷「長期の無断欠勤、著しく悪い勤務態度、経歴の詐称、ギャンブルなど風紀を乱す行い、横領や傷害事件などの犯罪行為――
   まあ要は“社会人としてアウト”な事した時って所かな」

トール「そんな事、小林さんがする訳が――!」

滝谷「勿論あり得ない。だが、『した事にされた』」

トール「………………!!」

滝谷「所長によってでっち上げられた小林さんの問題行動の報告を、上層部はすっかり信じて、小林さんを即時解雇した――」

滝谷「無論、小林さんも不当解雇であると反論しようとしたが、上層部からの信用は所長の方がずっと上であり、話も聞いてもらえなかった様だ」

トール「………………ッツ!」

小林「………………」

滝谷「……と、大体僕が話しちゃったけど、ごめん、小林さん。思い出すのも辛い記憶を勝手に――」

小林「……ううん、大丈夫。1年も前の事だしね。ていうかこっちこそごめんね? 代わりに話してもらっちゃって……」

滝谷「それこそ気にしないで。任せてよ、小林さん」ニコッ

トール「………………」ワナワナ

103 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:07:41.41 ID:5V1TTe5a0

トール「――――」スック

小林「あれ、どうしたのトールちゃん? 急に立ち上がって――」

トール「――いえ、ちょっと今からあの男を血祭りにあげてこようかと……」ゴゴゴ

小林「へ?」

トール「足を引っかけるだけなど、やはり生ぬるすぎた様ですね……
    この世に生まれてきた事を悔悟するまで嬲り尽くしてから、魂の一片に至るまで完全消滅……
    いや、地獄の最奥に幽閉してやる方が良いか……」ブツブツ

小林「ちょっと!?」

トール「我が混沌竜としての秘奥義、もとい48のメイド技を全開放する時が来た様ですね……ッツ!」ゴゴゴゴゴ

小林「待った待った! 流石に血生臭いのは駄目だって!」

トール「GURRRRRR、GOAAAAAAAAAAAAAA!!!」ビキビキ

小林「あ、これマジでやばい奴だ! ちょっと、滝谷君も止めて――」ワタワタ

滝谷「ズズー……(茶をすする音)」

小林「飲んどる場合かーッツ!」ガビーン!

滝谷「んー? あんまり止める気しないなあ……
   僕もあの所長にはこう見えても業腹だからね。痛い目見るなら見てほしいという思いは正直あるよ」フウ

小林「いや痛い目とかそういうレベルじゃなさそうでしょこれ! もっと真面目に――」

滝谷「――とは言え、僕も所長を血祭りにするのは反対かな。流血沙汰は小林さんが嫌いだし、それに――」

滝谷「――もう既に、彼は報いを受けてるからね」

トール「GURR……………」ピタッ

トール「……それは、どういう意味ですか」プシュー

小林(お、落ち着いた……)ホッ

104 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/24(水) 00:13:49.22 ID:5V1TTe5a0
今回も切りが悪いですが、明日も早いのでこの辺で。

少し暗いパートが続きますが、ちゃんとハッピーエンドに向かうつもりなのでご容赦を。

次回は出来る限り今週末に上げる予定です。それではまた〜。
105 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 22:49:49.13 ID:DVTuWEAg0
こんばんは。少し更新します。
106 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 22:53:32.24 ID:DVTuWEAg0

滝谷「うん、それを説明するには、まずは先程からの話の続きを聞いてもらわなくちゃいけない。だから、ま、座って座って」ニコッ

トール「……………分かりました、聞きましょう」ペタン

滝谷「うん。さて、話は小林さんが不当な解雇を為された後の事だけど――」

小林「――――!」ピコーン

小林「あ、滝谷君! そこから先は私が話して良い? というか私が話す!」ハイハイ!

滝谷「えっ? べ、別にいいけど。どうしたの小林さん、急に……」ビクッ

小林「いんやあ? ただ滝谷君ばかりに話させるのも悪いなあと思っただけさ。元々私がメインで話すって割り振りだった訳だし、ね?」ニヤリ

滝谷「そ、そう……?(何か企んでるな……)」(汗)

小林「トールちゃんもそれでいいよね〜?」ニンマリ

トール「? はい! よろしくお願いします、小林さん!」

小林「よし! じゃあ語らせてもらおうか。えー、私が解雇通知を出された日の事なんだけど……」

小林「さっきの滝谷君の話通り、私は会社の上層部からは極悪な社員として見られた様で、通知を受けるとすぐ、鬼の様に急かされてね。
   とにかく身の回りの物だけ持って、追い出されるかの如く会社を締め出されたんだ」

トール「むう…………」プクー

小林「その時は私も流石に応えて、頭が真っ白になっちゃってね。
   山を彷徨って、空き巣に家を荒らされて、更には突然職まで失って…… たった数日で、色々ありすぎた」

小林「トールちゃんの話では、トールちゃんは神との戦いに負けて、全てを失ってこの世界に流れてきた……って事だったよね?」

トール「は、はい…… そうです」コクン

小林「まあ、それと比べると命あるだけマシかもしれないけど…… 私もその時は、本当に全てを失った様に感じて、茫然としちゃったんだ」

トール「……小林さん……っ」ギュッ

107 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 22:56:36.69 ID:DVTuWEAg0

小林「しばらくぼんやりとしながら、目的もなく町の中をふらふらと歩いてた。現実感がなくて、ふわふわと、取り留めのない事を考えながらね」

小林「でも、あんまり長い事歩き続けていたら、流石に足が疲れちゃってさ。何処だか分からない裏路地で、一人しゃがみ込んじゃった」

小林「気付くと会社を出てから何時間も経ってて、辺りはとっくに暗くなってて――
   その時、やっと現実味が湧いてきて。『ああ、これは夢じゃないんだな』ってさ」

小林「そう思ったら、急に悲しくなってきてさ。涙が出てきて―― でも、変なプライドがあったから、声は押し殺して、すすり泣いてて――」ポロッ

トール「っ、小林さん? それ……」

小林「え? あ、涙……」ポロポロ

小林「あはは、ごめんごめん…… 当時を思い出したら、ちょっと泣いちゃった……」ズビッ

トール「小林さん、辛いのなら無理をしなくても……」

小林「ありがとう、でも違うんだよ」ズズッ

小林「これに関しては辛いから泣いたんじゃないんだ。むしろその逆」フフッ

トール「?」

小林「そうやってしゃがんで泣いてたらさ、ある人がやって来たんだ。誰だと思う?」ニヤー

トール「え? ある人って一体……?」

小林「ふふふー、それはね〜……」チラッ

トール「?」チラッ



滝谷「………………………………(無言の赤面)」カァァァァ



トール「…………えっ! 滝谷さんですか!?」

小林「うん。顔を上げるとそこには、息を切らせて汗だくの滝谷君が立ってたんだ」

108 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:01:47.33 ID:DVTuWEAg0

トール「どういう事ですか!? 詳しくお願いします!」ズイッ

小林「うん。滝谷君はね、その時まず『やあ、奇遇だね小林さん。大丈夫かい?』って話しかけてきて。
   言葉自体はいつもの様に爽やかなんだけど、でももう凄い汗だくで荒い呼吸で言うからさ、全然爽やかな感じじゃないの」ペラペラ

小林「実際は『や、あ……ハア、 奇遇っ、だね、小林、さんっ…… ゼエ、だ、大丈夫、かい……? ゲホッ……』って感じでさ。
   大丈夫かって、こっちのセリフだよと思ったね」アハハ

滝谷「……………………」プルプル

トール「ほほう、それでそれで!」ズズイッ

小林「その時の彼、『たまたま会えて良かったよ』とか言って、いかにも偶然を装おうとしてたんだけど。
   もうその息の荒さから、私を探して走り回ってくれてたのが丸分かりだったのね」

小林「笑顔もかなり無理して作ってたのが分かったしさー。もう彼のあまりの姿に、私も涙が引っ込んじゃった」アハハ

小林「ね〜、滝谷君♡ あの時の君スゴかったよね〜?」チラッ ニヨニヨ

滝谷「………………………………」プルプルプル



滝谷(これが狙いか〜〜〜…………っ!)カアアァァァ

滝谷(急に自分から話したいと言い出して、絶対何か企んでるとは思ったけど…… 僕をこっ恥ずかしがらせるためとは……ッ!)

滝谷(普段僕がからかってる事への仕返しだろうけど……。 小林殿ッ!あなたがこれを狙っていたのなら、予想以上の効果を上げたぞッ!!)ゴゴゴ



小林「あれ〜〜? そんなに顔を赤くしてどうしたのかな〜滝谷く〜ん? 熱でもあるのかな〜?」ニヤニヤ

滝谷「くっ、殺せ……!」プルプル

小林「これで普段、面白半分で君に褒めちぎられている私の気持ちも多少は分かったんじゃないのかね〜? ん〜〜?」

滝谷「悔しい、でも(反省)感じちゃう……!」ビクンビクン

小林「んん〜? 聞こえんなあ〜〜?」グヘヘ

トール「あのー!!」ワリコミッ

小林「ん?」

トール「取り込み中すみませんが、それで、話の続きは! その後どうなったんですか!?」ドキドキ

小林「おっと良い食いつきだねトールちゃん! 知らざあ言って聞かせやしょう、男・滝谷屈指の武勇伝を!」バーン!

滝谷「こ、小林さ〜ん。その先を話すのは僕が代わってもいいかな〜……?」タハハ……

小林「君に話すのを任せると、この辺サラッと省略して簡単に済ませそうだからダメ〜♡」ニッコリ

滝谷「うっ……(見透かされている……)」

109 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:05:05.96 ID:DVTuWEAg0

小林「それでね、息を切らして私を見つけてくれた滝谷君はね〜……」

トール「はい!」フンフン

滝谷「………………………」ムズムズ



…………………………………



《〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【1年前・どこかの裏路地】



…………………………………



滝谷『――ハア、ハア…… ウッ、ハア、ハア……』ゼエゼエ

小林『……滝谷君?』グスッ

滝谷『ハア、ハア…… いや、たまたま、会えてっ、……フウ、良かったよ、小林さん』フウフウ ニコッ

小林『いや、たまたまって、全くそんな感じには見えないバテッぷりじゃ――』

滝谷『そんな事より!』パンッ

小林『!』

滝谷『どうしたんだい小林さん、こんな裏路地で地面に座り込んじゃって。地面冷たいだろうに、腰痛持ちが腰を冷やしちゃいけないよ?』

小林『どうした、って……分かってんでしょ、それぐらい』プイッ

滝谷『……そうだね、ごめん。いつでも軽口を叩いちゃうのは、僕の悪い癖だね』ハハッ

小林『…………』

滝谷『…………』

小林『……滝谷君の方こそ、どうしたの、こんな所で』ポツリ

滝谷『ん? 何が?』

小林『何って、仕事だよ仕事。暗くはなってきたけど、うちの会社なら今はまだ就業時間でしょ。こんな所で油売ってたら怒られ――』

滝谷『ああ、それなら大丈夫。会社、辞めてきたから』サラッ

小林『――――――――は?』ポカン

滝谷『うん。だからさ、小林さんが会社を出て行った後、僕もあの会社辞めてきたんだ。これで僕も小林さんと同じく無職って訳』ケロッ

小林『は……はああああああぁぁぁぁぁぁ!?』ドギャーン!

110 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:07:51.56 ID:DVTuWEAg0

小林『は? ちょ、え、辞めっtて、待っ、ちょt、なn、えぇ、はああああ!?』ワタワタ

滝谷『ははは、小林さん慌てすぎw』ケラケラ

小林『なにわろてんじゃい! え?辞めたって、もしかして、私のせいで――』サアッ

滝谷『ああ、違う違う。小林さんのせいで辞めさせられたって訳じゃ全然なくて、僕が自分で辞めたってだけだよ』

小林『えぇ……?』

滝谷『小林さんが会社を出た後、僕たち他の社員は強引に通常業務に戻されたんだけど……。
   小林さんに対するあんな所業を見せられて、僕も憤懣やるかたなくてね。気付いたら退職願書いて、所長の顔に叩きつけてた』アハハ

小林『は……はああああああぁぁぁぁぁぁ!!?』ドビーン!

滝谷『いやー、叩きつけた時の所長の顔は最高だったね。
   それまで小林さんを追い出した事への安堵からかニヤニヤしてた顔が、叩きつけた後ポカン( ゚д゚)と呆気にとられてたから』アッハッハ

小林『な……』

滝谷『所長も10秒くらいしてやっと状況を飲み込めたのか怒鳴ろうとしてたけど……
   その時にはもう僕さっさとオフィスから出る所だったから、罵声を聞かずに済んだよ』

小林『え、ちょ……』ワナワナ

滝谷『あー、でも、私物は全部持ち出したから良いものの、社員証や健康保険証は後日会社に返さないとかぁ。
   結局、正式な退職手続きの為には改めて会社と話す必要もあるだろうし、面倒だなあ。全部電話や郵送で何とかならないかな――』

小林『ちょっと待って!』ワッ

滝谷『……何だい? 小林さん』スゥッ……

小林『何の……つもりなの。滝谷君まで辞めるなんて、おかしいでしょ? 辞めさせられる必要があったのは、あくまで私だけで……』ワナワナ

滝谷『小林さん、気にしないで。これは僕なりのけじめなんだから』

小林『けじめ……?』

111 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:13:43.60 ID:DVTuWEAg0

滝谷『そう。確かに所長のパワハラの証拠集めをしていたのは小林さんだけだったけど、
   それは本来、部署の社員全員で取り組むべき問題だったし、全員が望んでいた事でもあった』

滝谷『それを、面倒事に関わりたくない、責任を負いたくないという利己的な思いから、
   皆が小林さんに任せっきりにしてしまった。……僕を含めてね』

小林『そんなの別に、私は何とも思ってないよ……。皆、日々の業務で手一杯だろうし、目を付けられるのは誰だって嫌だろうし……。
   それに皆、滝谷君もちょくちょく証拠集めを手伝ってはくれてたし』

滝谷『業務が大変なのも目を付けられるのが嫌なのも、全部小林さんだって一緒でしょ。それに手伝っていたのだって自己欺瞞に過ぎない。
   責任は取りたくないが、何もしないのも後ろめたいから、お咎めを受けない程度にだけ手伝っておこう――っていうね』

滝谷『だけどこうして小林さんが辞めさせられて……
   それに対して、自分はこのまま変わらずのうのうと会社に居続けるのかって改めて考えると、罪悪感と自己嫌悪で耐えられなかった』

小林『……だから、けじめとして自分も辞めたって事……?』

滝谷『ま、勿論、所長や会社の上層部への怒りや失望も多分にあるけどね』フフ

小林『……でも、だからって、いくら辛くても、その場の激情に任せて会社辞めるなんて、いつも飄々としてる滝谷君らしくも……』

滝谷『……小林さん、実はもう一つ、辞めようと思った理由があるんだ。何なら、それが一番大きい理由さ』

小林『もう一つ……?』

滝谷『うん。……その、僕があの会社に居る理由が、居なくなっちゃったから……』ポリポリ

小林『……。え? あ、うん、だからその理由は?』キョトン

滝谷『あーだから、理由がさ、居なくなっちゃったんで……』タドタド

小林『いや、うん。だからその理由を聞いてるんだけど――』

小林『――ん? 無くなったでなく、“居なくなった”? それってどういう……』

滝谷『〜〜ああもう!! だから! 僕が会社に居た理由は、小林さんが居たからだって言ってるんだよ!』カアァ

小林『…………………………………………』ポカーン

小林『…………へ? 私!?』ガチョーン

112 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:20:31.99 ID:DVTuWEAg0

滝谷『そうですぅ! SEの仕事自体は嫌いじゃないけど、あの会社での激務や所長には元々嫌気が差してた。
   そんな中、あそこで仕事を続けられてた一番の理由は、その……色々気の合う小林さんが居たからだ!』ダー!

滝谷『その小林さんが居なくなるなら、強いてあの会社に僕が残る意味は、ほとんど見出せなかった。――だから、辞めようと思ったんだ』

小林『滝谷君…… そこまで私の事……』

滝谷『……ま、残してきた同僚や後輩達には少し悪い気もするけど……』メソラシ

小林『ああ…… 所長の次のパワハラの標的としても、業務量的にもね……』ハハ……

滝谷『だからって、それで辞めるのを思い留まる気はなかったよ。……それでさ、小林さん。提案なんだけど』

小林『ん? 何?』

滝谷『これからはさ…… 二人で仕事、してみないかい? フリーランスのSEとしてさ』スッ(手を差し出す)

小林『!』

滝谷『開業するための手続きや、仕事を取ってくる営業、経理だとか、フリーランスとして働くための諸々の雑務は僕がやるよ。
   小林さんはSEとしての本業務を集中してやってくれればいいからさ』

小林『滝谷君……』

滝谷『勿論、上手く行く保障なんてない。
   今まで会社がやってくれていた諸般の事務を全部自分達でやらなくちゃいけなくなる訳だし、僕自身、そういうノウハウに詳しい訳でもない。
   仕事を上手く取ってこれるかも分からない。最初の数年は苦労ばかりになるだろう』

滝谷『だから、小林さんが他の企業の社員として再就職を目指したいというなら全然反対しないし、喜んで協力もするよ。
   でももし、小林さんが良ければっ――』

小林『滝谷君』

滝谷『!』ハッ

小林『ありがとう、滝谷君。それは、思ってもない程に嬉しい申し出だよ。だけどね――』

滝谷『……そうだよね、やっぱりこんな話……』シュン

小林『――そんなありがたい申し出は、こっちから頼みたいって話だよ!』ガシッ(差し出された手を掴む)

滝谷『え?』ポカン

113 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:26:48.20 ID:DVTuWEAg0

小林『断る理由なんて何もないさ。有難すぎて申し訳ないくらいだ。やろう、一緒に!』ニギリッ

滝谷『――快諾、だね。誘っといて何だけど、良いのかい? もう少し考えなくても』ハハッ

小林『うーん、ちょっと考えたけど…… まず、他社に行っても結局またそこがブラックな環境である可能性は否めないし……』ウーム

滝谷『ああ…… いや、流石に世の中ブラックな会社ばかりではない……とは信じたいけれどもね……』ハハ……

小林『それに面接の時、実情はともかく“前の職場に予告なしの解雇をされた”って事を説明しなきゃいけないのは、
   考えるだけで面倒で気が重い……』ズーン

滝谷『うん…… 僕も他社を受ける場合“上司に退職願叩きつけて辞めました”なんて面接で言う事になるのは、かなり辛いね……』ズズーン

小林『――どうせ同様に苦労するなら、せめて自分が納得できる形の苦労をしたいよ。滝谷君となら、きっと納得できると思う』ニコッ

小林『だから……よろしくお願いします』ペコリ

滝谷『小林さん……! うん、こちらこそ、よろしくお願いします!』ペコリ

小林『うん。じゃあこれからは、パートナーとして頑張っていこうか!』ニッ

滝谷『パ、パートナーっ!? それはどういう……』ドキッ

小林『? うん、ビジネスパートナーとして、さ』サラッ

滝谷『あっ…… うん、一緒に頑張ろう、ビジネスパートナーとして』スンッ……

小林『?』キョトン



………………………………



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》

114 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:35:09.51 ID:DVTuWEAg0



………………………………



【現在・滝谷宅?リビング】

小林「――と、これがあの日の会話の内容ってワケさ」フイー



トール「……………………」



滝谷「………………………」プルプル

小林「おんや、どうしたんだい滝谷君。両手で顔を覆いながらプルプル震えて?」ニヤリ

滝谷「いやその…… 改めて思い返すと、やっぱりあの時色々格好つけすぎたかなあって、思い出し羞恥を……」プルプル

小林「え〜? 良いじゃん別に。あの時の滝谷君、すっごいカッコ良かったよ?」ケラケラ

滝谷「うう、やっぱりああいう熱くてストレートな言動は僕のキャラじゃなくて合わないと思うんだけど……」テレテレ

小林「そんな事ないよ。普段は飄々として軽口ばかり叩く優男、だけどやるべき時にはしっかりやる熱い人――。
   それが滝谷君って人間だって思ってもいいんじゃない?」ニコリ

滝谷「そうかい……? うう、でもやっぱ気恥ずかしいな……」テレテレ



トール「……………………」



小林「いやあ、でもそうしてフリーランスとして再出発するって決めた後も大変だったよね」

滝谷「ああ、特にフリーランスとして活動を始めて半年くらいは、マジでキツかったね。
   開業の手続き、営業、経理…… 全部が1からの手探りで……。失業保険も僕らの場合、中々降りなかったし」

小林「まさか会社で働いていた時より忙しく感じる事があるとはね……」ハハ……

滝谷「初め、雑務は全部僕がするって言ったのに、結局小林さんにも手伝ってもらっちゃったし…… ごめんね」ペコリ

小林「いやいや、そこは
   『二人で始めた事なんだから、私にも背負わせて欲しい。雑務についてもお互い理解していた方が、都合が良い事も多いだろうし』
   って話になったじゃない? 気にし過ぎだよ」バシバシ

小林「それに滝谷君、初めの頃は並行して正式な退職手続きの為に、会社と結構揉めてもいたじゃん。
   いくら何でも一人で全部はきつかったでしょ?」フフッ

滝谷「うん…… そうだね、ありがとう」フフッ



トール「……………………」



小林「大変だったと言えばさー、会社で使っていたプログラミング言語が結構に特殊だったから、
   業界で主流のプログラミング言語を新しく覚え直す必要があったのも地味に大変だったよね」

滝谷「ああ、業界の主流を学んで初めて、あの会社での使用言語がいかに特異というか…… まるで魔法陣の様に複雑だった事に気付いたね」アハハ

小林「そうそう。なまじそれに慣れちゃってるから変な癖付いちゃってて、矯正するのが大変で大変で」タハハ

滝谷(眼鏡ON)「とか言って小林殿、数か月で直ぐに新しいプログラミング言語に慣れちゃったんだから、やっぱ凄いでヤンスよ。
        まさしくスーパーハカーと言うに相応しい」カチャリ

小林「何その称号〜、何かちょっと褒めてなくない〜? あと何で眼鏡掛けた〜?」アハハ

滝谷「シリアスが続きましたからな、ノリでヤンス」フフフ



トール「……………………」

115 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:41:19.51 ID:DVTuWEAg0

トール「……………………」シーン

小林「……? トールちゃん?」ピクッ

トール「……………………」シーッン

滝谷「ん? おーい? トール殿―?」

トール「……………………」シッシーン



トール(………………………………とか)

トール(不当解雇され傷心の小林さんのもとに、自身も退職して駆け付けて。
    それで二人で仕事しようとか? 自分が会社に居たのは君が居たからだとか? パートナーとか何とか?)ゴゴゴ

トール(それって…… それってもう……ッ)ゴゴゴゴゴ

トール(もうっ、ほとんどプロポーズみたいなもんじゃないですかーーーーーーーッ!!)ドカーンッ!!



トール「――――――!!」ドカーンッ!!

滝谷「うわっ、爆発!?」ビクッ

小林「黙ってたトールちゃんの頭から突然煙が! え、何これ大丈夫なの、トールちゃん!?」ワタワタ



トール(――いや――、いや、待て、落ち着け――!
    滝谷さんが小林さんに好意を抱いているのは、初めて出会った時から薄々分かっていた事のはずだ――!)ドドド

トール(それが、単純に隣人としての好意なのか、それとも、その…… オスとメス的な意味……のものなのかは判然としなかったけど……)ドドド

トール(……恐らく本来の世界では、私が小林さんのもとに現れた事もあって、自身は身を引いて、
    あくまで小林さんの良き隣人として徹していた所もあったのでしょう。この男、押しの弱い所ありますし……)ドドド

トール(――しかし、どういう訳か私と小林さんが出会わなかった事になってる今の世界では――
    小林さんが苦境に立たされ、他に手助けできる者がいない状況なら。
    基本的に前に出たがらないこの滝谷が、自ら積極的に動く事も充分考えられ――!)ドドドドド!



トール「……………………!」キュイイイイン!

滝谷「ちょっと! 煙もそうだけど、トール殿の全身から何か高熱が発せられてないでヤンスか!?」ビクビク

小林「ほんとだ! 何かPCの熱暴走時みたいな高音も出てるし! トールちゃん、起きて、起きてーー!」ドタバタ

トール「……………………!!」シュイイイイイン!

小林「えーい、どーせいっちゅうんじゃ〜い!」ヤケクソ



トール(――どーせいっちゅう――?)ピクッ

116 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:44:21.35 ID:DVTuWEAg0

トール(――どーせい? ……ん? え? あ? え、いや、待って?)カチ

トール(今、唐突に、ふと思い付いちゃった事があるけど…… え? もしかして?)カチカチ

トール(いや、確証は全然ない…… けど、この家に入る時に感じた違和感と、これまで聞いた話を総合すると、まさか……)カチカチカチ

トール(……た、確かめなくては……!)カチカチ、ピーン!



トール「…………………………あの」プシュー

小林「あ! 良かった、トールちゃん起きた!」ハッ!

滝谷「デジマ!? 良かった、消火器探しに行こうかと思ってたでヤンスよ!」フウー!

トール「あ、何か知りませんがすみません……。で、その、唐突ながらお聞きしたい事があるのですが……」

小林「ん? 何?」フイー……

トール「その、えーと、あ〜…… あ、小林さんは〜、今、どちらにお住まいなんですか〜? な〜んて……」ハハ……(目を泳がしながら)

滝谷「――――!」ピクリ

小林「ああ、そんな事? 何だ、何聞かれるのかと身構えちゃったよ」アハハ

トール「そ、そうですね、変な事聞いちゃって……」タハハ

小林「いや、全然良いよ。私は今ね〜――」アハハ



小林「――この家。滝谷君の家に居候させてもらってるよ」サラッ



トール「――――――――」ピシッ

滝谷「……………………」



トール(…………やっ…………)

トール(やっぱり、“同棲”してたあああああぁぁぁぁぁ!!!?)ガビーンッ!?

117 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:48:32.17 ID:DVTuWEAg0

トール「…………ッ! …………ッ!? …………!!」ワナワナ

小林「ん? どしたのトールちゃん?」ケロッ

トール「……え、そ、それは、その、小林さんは、た、滝谷さんと、ど、どどどどど同棲!?
    してらっしゃるって事で、宜しいんでありましょうか?」ガクガク

小林「ん、そうだね…… 同棲、同居。うん、そうとも言うね。一緒に住んでるって事」

トール「……ッツ………………ッ……………………ッツ!」ガタガタ

トール「ッツ!!」バッ!(滝谷に「どういう事ですか」という視線を送る)

滝谷「…………ッ」フイッ!(全力で目を背ける)

トール「…………チィッ!(小さく舌打ち)」

トール(この家に入る時に感じた、『やけに小林さんこの家に慣れてるな?』という違和感は、こういう事ですか――!)ゴゴゴ

小林「いやー、同居はね、フリーランスの仕事を始めてしばらくして、滝谷君から提案してくれた事なんだけど」

小林「『まだ開業したてで二人共生活費カツカツだし、この家はもう一人くらい住める余裕は普通にあるし。
   少しでも支出節約するためにも、どうだい?』ってさ。私も、じゃあ悪いけど居候させてもらおうかーって」ノホホン

トール(そりゃあ余裕ありますよね、本来の世界ではファフニールさんと二人で暮らしてたんですしねえ!)ゴゴゴ

トール(滝谷、貴様ぁ…… 仕事にかこつけてまんまと同棲に至るとは、貴様ぁ……ッ!)ゴゴゴゴゴ

滝谷「……………………」ダラダラ(汗)

小林「前のアパートは空き巣に一度荒らされてて、一人で住み続けるのも何かちょっと気持ち悪かったしさー。
   渡りに船って感じだったよ」ズズー(茶をすする)

トール「! そ、そうですか……(ぐっ、そう言われると強く言い難い……ッ!)」グヌヌ

118 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:53:52.20 ID:DVTuWEAg0

トール「ッツツ!!」ハッ!

小林「?」

滝谷(……緊張で喉が渇いたでヤンスね…… お茶お茶……)コポポポ

トール「……あ、あああああああの、つかぬ事をお聞ききききしますすすすが……」ガクブル

小林「ど、どうしたのトールちゃん、落ち着いて。何?」

滝谷「……………ズズー(静かに茶を口に含む)」



トール「ま、まままままままさか、ふふふふふふ二人は、その……………… 交際、しているんですか?」ブルブル

滝谷「ブーーーーーーーッツ!」(茶を吹き出す)



小林「うわっ、汚っ!? 滝谷君どうしたのいきなり、大丈夫!?」ビクッ

滝谷「す、すみませんでヤンス、ゲホッ、ちょっと、茶でむせただけなんで……。こちらで掃除してるので、続けて頂きたい……」ゴソゴソ

小林「ええ……? まあ、了解したけど……」

小林「え〜と、で何だっけ…… 滝谷君と私が交際?してるかだっけ?」

トール「で、ですです! そこの所、どうなのかと……」ズイッ!

小林「えー? そりゃ勿論、仕事のパートナーとしても同好の士としても、仲良く交際はさせてもらってるけど……?」

トール「そ、そういうんではなく!」ワキワキ

小林「と言うと?」キョトン

トール「あ〜〜〜…… その〜〜〜…… だんだんだだんだn男、女のそういうあれというか、
    え〜〜〜…… 恋、愛関係的、なというか……………」シドロモドロ

滝谷「……………!!」ビタァッ!

小林「恋愛関係…… 私と滝谷君が?」

トール「はい……………」ドキドキ

滝谷「……………」ドキドキ

トール・滝谷「「…………………………!」」ドキドキ



小林「あっはっは! そんな事ある訳ないじゃん、私と滝谷君がなんて!」アハハのハ!

トール「――へ?」ポカン

滝谷「―――――――――――――」ピシッ

119 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/27(土) 23:57:58.90 ID:DVTuWEAg0

トール「ほ、本当に、そういう関係ではないんですか?」ズイッ

小林「当然でしょ〜! こんなまるで女らしくもない私と恋愛したいなんて男、よっぽどの変人しかいないよ〜」ケラケラ

トール「は、はあ……………」ボーゼン

滝谷「…………………………………………」プルプルプルプル(震える手でゆっくりと眼鏡を外す)

小林「これまで色々親身にしてくれてるのも、あくまで同僚だったよしみで、
   そして同じ趣味の同志としての友情で、でしょ? 滝谷君」ニコリ(屈託のない笑顔)

滝谷(眼鏡OFF)「……………………………………………うん」ニコッ……(絞り出す様な笑顔)

小林「いや〜いい友達を、いや親友を持ったよ私も。あ、お茶切れてるじゃん。じゃ、ちょっと私お代わり淹れてくるね〜」スック カチャカチャ

滝谷「うん……ヨロシク……………」シナシナ

小林「ほ〜い。いや〜、しかしトールちゃんも面白い冗談言うな〜……」スタスタ



カチャ バタン……………



トール「…………………………(滝谷に憐憫の目を向ける)」

滝谷「…………………………(座り込み項垂れている)」

120 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 00:06:54.32 ID:bo7Z/2J70

トール「……………その、なんか、すいません」

滝谷「いいや、トール君は何も悪くないよ……」ズーン

トール(ギンヌンガの淵の様に深く落ち込んでいる……。まさか私が滝谷に同情する日が来るとは……)

滝谷「…………1年近く同棲していながら、小林さん、いまだに遠慮して自分の事を“居候”と言うんだよね……。
   家賃は折半で払ってもらってるから、住宅の契約上はもう立派に対等な同居人なんだけど……」

トール「ああ…… だから小林さん、ここに来る時も、
    あくまでこのアパートの事を『私達の家』ではなく『滝谷君の家』と言っていたんですね……。納得いきました」

滝谷「うん……。この1年間、大人の男女がひとつ屋根の下で生活してるってのに、小林さん全くそういうの意識してる様子がなくて……。
   良く言えば信頼されてるんだろうけど、悪く言えば異性として見られてないというか……」ハハ……(乾いた笑い)

トール(まあ実際この男、奥手すぎて自分から手を出すのなんて無理そうですからね……。杞憂でしたか……)ハア



トール「……滝谷さん」ポンッ

滝谷「! トール君……」ハッ

トール「……………」ニコニコ

滝谷「と、トール君……!」グスグス

トール「どんまいっ♪」グッ☆(>ω・)b(満面の笑み)

滝谷「ちきしょうめーーーい!!(号泣)」ガーッ!

小林「うわっ、どしたの滝谷君? 大きい声出して……」ガチャリ

滝谷(眼鏡ON)「! ななな、何でもないでヤンス……」スチャ

トール(っ! 恐ろしく速いメガネ装着、私じゃなきゃ見逃しちゃいますね……)ホウ……



………………………………………

121 : ◆bhlju8wMK6 [sage saga]:2021/11/28(日) 00:11:36.98 ID:bo7Z/2J70
今日はここまで。あともう少しで切りの良い所まで行けそうです。

明日にでも更新できそうならする予定です。それではまた〜。
122 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:03:45.60 ID:bo7Z/2J70
こんばんは。更新していきます〜。
123 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:06:54.78 ID:bo7Z/2J70

………………………………………



滝谷(眼鏡OFF)「――――さて、そういう訳で僕と小林さんはフリーランスとして再出発したのだけど!」キリッ

トール(無理矢理切り替えましたね……)

小林「とは言っても、まあそれ以降はそのまま、フリーランスとして働いて今に至るって感じだよ」ズズー

滝谷「だね。さすがに大きな波乱はもうないよ」ズズー

トール「なるほど、長かった話もこれで終わり――」ウンウン……

トール「――って待って下さい!
    結局あのパワハラクソ野郎の所長が報いを受けたってのはどういう意味だったんですか! ちゃんと説明してくださいよ!」ハッ

滝谷「ああうん、そうだったね。勿論説明するよ」

滝谷「――あれは、フリーランスとして活動し始めて、半年程経った頃だったかな、小林さん?」

小林「うん…… フリーランスの仕事もやっと軌道に乗り始めた頃のある日、私達の元・勤め先だったあの会社から連絡が来たんだ。
   それも“謝罪させて欲しい”って連絡が」

トール「謝罪? それって――」

小林「うん。会社が私を解雇したのは不当だったって認めたって事」

124 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:10:39.35 ID:bo7Z/2J70

トール「! それは―― え、でもなんで急に、半年もしてから――?」

滝谷「事の次第はこうさ。まず僕達二人が会社を辞めてから半年で、僕達がいた部署の成績はそれはもうガタ落ちしていた」

トール「ガタ落ち……ですか。ああ、それはまあ、当然……ですかね」

滝谷「ああ、当然と言えば当然さ。
   小林さんは部署のエース選手だったし、小林さん程ではないけど、僕もそれなりの業務量を担っていた古株だったからね。
   その二人が片方だけならまだしも、両方とも同時に抜けたんだ―― 業務に深刻な穴が空くのは避けられなかった」

滝谷「さしもの所長も、あまりのガタ落ちっぷりに成績を誤魔化すのも限界だった様でね。部署の異常は、会社上層部の知る所となった」

トール「ふむふむ」

滝谷「改めて上層部が部署の内部事情を調べると、僕達が辞めた直後に業務が成り立たなくなり始めている事がすぐに判明した。
   いよいよおかしいと感じた上層部は、部署の事に所長の事、そして僕達の事について徹底的に調べ直したそうだ」

トール「! それって、つまり……!」パアッ

滝谷「ああ。それにより所長のパワハラや隠蔽などの所業は明るみに出て、晴れて小林さんの名誉は回復されたって訳さ」

トール「〜〜……………!!」ウルウル

小林「あはは…… そんな、泣きそうにならなくても」ハハッ

トール「だって…… だっでぇ……」グスグス

トール「良がっだ…… 本当に良がっだでず、小林さん……!」ベソベソ

小林「あはは、もう…… うん、ありがとね、トールちゃん」ニッ

125 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:14:20.27 ID:bo7Z/2J70

滝谷「そうした事実関係が明らかになった段階で、一度話し合いが持たれた。僕と小林さん、会社の上層部でね」

小林「会社もこの件はかなり重く見ていた様でね、あくまで平社員だった私達にも、きっちり頭を下げて謝罪してくれたんだ」

トール「うむうむ、トーゼンですね! 分かってるじゃあないですか!」ムッフーン

滝谷「誤解で小林さんを不当に解雇した事、それにより強い精神的苦痛を与えた事―― そうした事について謝罪した上で、彼らはある提案をしてきた」

小林「そう、『所長は責任を取らせるために解雇するから、どうか二人共我が社に戻ってきてくれないか』ってね」

トール「ひゅーう! それでそれで?」パタパタ

滝谷「うん。丁重にお断りしたよ」ニッコリ

トール「いえ〜い! お断り―― って、え!? 断ったんですか?」ビクッ

滝谷「ああ。だって、そうじゃないと僕達、今こうしてフリーランスしてないでしょ?」

トール「あ…… まあそれはそうですが……。でも何でです? あのパワハラクソ野郎が居なくなるなら会社に戻ってもいいんじゃ……」

小林「うん、私も話を聞いた当初はそう思って、承諾しかけたんだけど……」

滝谷「二人共、人が良すぎ(トール君はドラゴンだけど)。
   確かに今回の騒動で直接小林さんを陥れようとしたのは所長だけど、会社上層部の対応だって問題だった」

滝谷「あの時、所長の言い分ばかりを信じて小林さんの訴えを聞こうともしなかった会社だよ?
   いずれ別の問題が起こった時、似た様な事になってまた僕達や他の社員が害を被る事がないとは言えないだろ」

トール「ああ…… 言われてみれば、その通りですね」

滝谷「いくら謝罪されたとは言え、再び社員として所属して働くには、正直信用しきれない―― まあ、そういった理由で申し出は断ったのさ」ズズー

126 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:20:44.89 ID:bo7Z/2J70

小林「私もその時ね、滝谷君の話を聞いて改めて考えてみると、
   一度いざこざがあって辞めた会社に再び勤めるのって、何かすごく気まずくなりそうだなーって思って……」

小林「もうフリーランスとしての新しい生活にも慣れ始めていた頃だったし……。
   所長が居なくなっても、強いてもう一度勤めたいとは思えなかったから、私も最終的に断った」

トール「なるほど……。はい、小林さん自身が選択した事なら、それが一番よろしいかと、私も思います」コクリ

トール「……ん? では、あのクソ野郎への報いとは一体?
    というか改めて思い返せばそもそも私、今日あいつがまだあの会社で働いてるの見てるんですけど!?」

滝谷「うん。だからそれが彼の報い」ニコッ

トール「へ?」ポカン

滝谷「僕達が会社に戻るのを断る代わりに、ある要求をしたんだよ。
   『所長は解雇するのではなく、むしろ馬車馬の如くこき使ってやって下さい――』ってね」

トール「そ、それはどういう……」

滝谷「そもそも会社が僕達に戻ってきて欲しがったのも、別に善意なんかじゃないさ。
   単に、そのままじゃ部署の仕事が回らなくなったから仕方なく、ってだけに決まってる」

滝谷「さっきも言った様に、僕達が抜けた後、あの部署の成績はガタ落ちした。
   それでいてあの会社のプログラミング言語は特殊だから、新たに人を雇って1から戦力を増やすには、教育の手間が掛かりすぎる」

滝谷「だから即戦力になる人、それも元エースである小林さんを会社は呼び戻したかった訳さ」

小林「戦力として欲されたのは私だけじゃなくて滝谷君もでしょ〜。全く、隙あらば、す〜ぐ自分の事抜かそうとするんだから」

滝谷「ははは、まあその事は置いといて」サラッ



トール(そうか…… 確かに今日会社で見たあの男は、横柄な態度は相変わらずでしたが、それ以上にとても忙しそうに慌ただしくしていました。
    あれは、会社からその様に強いられていたんですね……)

トール(おべっかだけは上手いクソ野郎をただ社外に放流するだけでは、いずれ他の場所、他の会社で返り咲かせかねません。
    それだけでなく、小林さんの様にその被害を受ける人間を新たに生み出す可能性もある……)

トール(そういう意味でも首輪を付けてこき使う方が、確実に報いを受けさせられますかね)ウム

127 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:35:09.12 ID:bo7Z/2J70

トール「……でも、会社側もその条件をよく飲みましたね。
    有能な人材であるお二人を呼び戻せず、その上、無能なクソ野郎は雇い続ける事になるのに」

滝谷「ああ、交換条件を出したからね」

トール「交換条件?」

小林「うん。『先程の条件を聞いてもらえるなら、会社には戻らない代わりに、ヘルプとして会社の業務を適宜手伝っても良いですよ』ってね」

トール「ははあ、なるほど…… 部下と上司の主従関係でなく、あくまで対等なビジネス相手としてなら手伝う、という事ですか」

滝谷「そう言う事だね。僕としては内心、別にそこまでする義理もないとは思ったけど……」

滝谷(――更に言うなら、慰謝料請求した上で縁切りするのが妥当だとすら思ったけど、野暮だからそれは黙っておこう――)ズズー

小林「そう、だからこの条件は私から提案したんだ。
   さすがに会社側に何のメリットもないんじゃ、さっきの条件も飲んでもらえないだろうし……。それに、元同僚達の事も気がかりだったし」

トール「同僚達?」

小林「ああ。私達二人が抜けて、一番業務のしわ寄せが行ったのは元同僚達だろうしね。
   元々ブラックな職場ではあったけど、その点については悪いことしたなあって思ってたんだ」

トール(ああ、確かに……。今日行った職場の方々皆、憔悴し切った様子でしたね……)

トール「では、そういう経緯もあって、会社の業務を手伝う事にはなったんですね」

滝谷「勿論、仕事相応の代金はもらう契約でね。
   下請けの様な扱いをして、足元見て安く値切ろうとしてきたらすぐ辞めるって、はっきり言ってあるよ」ズズー

小林「うん。会社員時代はどうしても雇われの身でやりにくかった価格交渉を、臆せず出来るようになったのは良かった点の一つかな」

128 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 17:40:00.87 ID:bo7Z/2J70

小林「まあ、トールちゃんの話だと、社員の業務のブラック具合は今でも……いや昔以上にやばくなってる様だし、
   元同僚達には悪い気はしてるけどね……」ハハ……

滝谷「そう気に病まなくていいよ、小林さん。
   今の状況は僕も含めた他の社員が、所長のパワハラ問題を放置して、対処を小林さんだけに押し付けてきた事のツケでもあると言える。
   気の毒ではあるけど、皆にはしばらく頑張ってもらおう」ズズー

トール「ふーん。小林さんに比べドライですねえ、滝谷さんは。まあ同意見ですが」

小林「――とか言いながらね?」コソッ

トール「?」

小林「実は彼、同僚や後輩達が会社を辞めようとしていたら助けられる様に、
   フリーランスでやっていくためのノウハウをまとめたマニュアルとか作ってたりするんだよ」コソコソ(耳打ち)

トール「ほほー?」ニヨニヨ

滝谷「ブホッ!? ちょ、小林さん! 知ってたのかい!?」ゲホゲホ

小林「ふふ〜ん。会社辞めた後も、密かに親しかった同僚達と連絡取り合って、
   辞めた件で詫び入れたり、相談や愚痴を聞いたりしてるのも知ってるぜ〜?」ニヨニヨ

トール「ほ〜ほ〜? ドライを装った男の、正体見たり!って感じですね〜え?」ニヤニヤ

滝谷「結構知られてるね!? ちょ、ちょっと待って、せっかく僕のイメージ、
   表向きは剽軽なお調子者だけど、本質はクールでドライな男、って感じで固めて来てたのに、それは……」

トール「自分で言うんですかそれ?」

小林「いやあ滝谷君、普段すましてるけど割と根っこは熱いし、ピュアで理想家な所あると思うよ〜?」ニヤア〜

滝谷「い、いや、ほんと気恥ずかしいから勘弁して……」プルプル

小林「(^_^)」ニコニコ

トール「(^w^)」ニヤニヤ

滝谷「(//´;ω;`//)」カアァー



……………………………………………………

129 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2021/11/28(日) 18:12:51.69 ID:bo7Z/2J70

滝谷「――全くもう、からかい過ぎだって……。あー、まだ顔暑い……」パタパタ

小林「ごめんごめん、つい、ね――」ケラケラ

トール「…………………………」ズズー

小林「――そう言えば先日実は、町を歩いてた時に偶然所長とすれ違ったんだけどさー」

滝谷「え、大丈夫だったかい?」

小林「うん、目が合った時にすごい恨みがましく睨まれはしたけど、
   しばらくしたらバツが悪そうに顔を背けて、何も言わずそそくさと足早に歩いて行っちゃったよ」

滝谷「ああ、彼にとって小林さんは、結果的に自分の悪行を暴いた相手である一方で、現状、部署の業務を助けてもらってる相手でもあるからね……。
   会社からもそこら辺、きつく言い含められてるだろうし、文句言いたくても言えないか」

小林「文句言いたいのはこっちの方だってのにねー、もう――」クダクダ

トール「…………………………」



トール(……これで、この1年間における『小林さん達にとっての記憶』については、大体聞き終わった様だ)

トール(驚くべき内容ばかりで、正直まだ頭が混乱している……)ヌヌウ

トール(でも、私の記憶と大きく異なるものの、お二人の記憶の話は終始筋道立っていて、矛盾や齟齬は感じられなかった)

トール(記憶の改竄自体は魔法で可能とは言え、この精度での辻褄合わせは上位存在でも極めて困難…… いや、到底無理と言っても良い程だ)

トール(一体何が起こっている? この記憶の相違にどんな意味が……?)

トール(くそっ、もう少し手掛かりがあれば、何か掴めそうな気がするんだけど――)



ピンポーン……



トール「!」ピクッ

滝谷「? 玄関のチャイムだ。誰か来たのかな……」

小林「今日は特に誰かと打ち合わせとかの予定は入ってない筈だけど…… 誰だろう? 滝谷君、宅配でも頼んだ?」

滝谷「いや? 僕も検討つかないな……。訪問販売や、ただの部屋間違いとかじゃ……」



ピンポーン!



???「――ごめん下さ〜い……!」



トール「…………!!」ガタッ

滝谷「うわっ!」ビクッ

小林「トールちゃん? 立ち上がってどうしたの――」

トール(この声、それにこの気配…… まさか……!)ドクン



ピンポーン、ピンポーン!



???「――あの、すみません! ここにトール君…… いえ、トールという名の女の子が来ていませんか!?」



トール「まさか、ルコアさん……!?」ザワッ……!



……………………………………………………
130 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2021/11/28(日) 18:43:54.92 ID:bo7Z/2J70
今回はここまで。やっとひとまず切りの良い所まで上げられました。

途中ですが、ここで本文中の訂正とお詫びを2点。

・小林さんの上司である所長は、原作漫画版では「課長」、アニメ版では「所長」となっています。
 この話ではアニメ版の「所長」で統一しているつもりですが、見返したら>>49においてのみ「課長」表記が混じっていました。ややこしくてすみません。

・滝谷のオタクモード時の一人称は執筆開始時に1つも確認できなかったので勝手に「オイラ」にしましたが、改めて見直したら、
 原作9巻82話で1コマだけオタクモード時の一人称「小生」の記述ありました…。まあ滝谷はノリで一人称変えて遊びそうな気もするので、
 これはこのまま行こうと思いますが、申し訳ありません。

…細かすぎんだろ、と言われそうですが、まあ一応という事で。



ここまででやっと話全体の5割となる予定です。

書き溜めた分が切れたので、ここからはまたしばらく時間が空きます…。

アニメ2期もとっくに終わってしまいました(2期良かったですね)。これは年末どころか年度末までに完結するかも怪しいですね…。(汗)

ただ、一番書いてて苦しい部分はこれで終わった予定ですので、出来るだけサクサク書いて、また近日中に投稿できる様に頑張ろうと思います。

では皆様、寒い日が続きますが体調にはお気をつけて。それではまた〜。
131 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/01/23(日) 20:37:40.45 ID:c8GX+i4N0
あけましておめでとうございます(震え声)

また2か月近く経ちましたが、年末年始の忙しさにかまけて全然書けてないので、今回はスレ保守のみで更新はなしです…。

書く気は失ってないので、あまり間を空け過ぎない様頑張ろうと思います。

今年の抱負は、年内完結(下方修正)。それではまた〜。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/28(金) 19:44:50.16 ID:kkZX4lcRo
続き楽しみ
133 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/03/23(水) 23:20:09.74 ID:Xrhx9rE80
もう三月も下旬…だと…?(滝汗)

今回も進捗なしのスレ保守のみです…。少なからず待っていて下さる方もいる中、申し訳ない。

やる気は、やる気はあるので…!どうぞ気長にお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…。
134 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/05/20(金) 06:24:08.19 ID:yEcR6nyj0
おはようございます。(出勤前)

今日はスレ保守だけですが、近日中に少し再開する予定です。
135 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:06:14.86 ID:bTM3bRGi0
こんばんは。

少しですが再開していきます。
136 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:08:22.82 ID:bTM3bRGi0

滝谷「! 今の声、トール君の名前を……」

小林「トールちゃん、ルコアさんってもしかして、トールちゃんの記憶の話で出てきた……?」

トール「――はい。私の知り合いのドラゴンです」

小林・滝谷「「………………!」」



トール(……どうして?)

トール(なぜ来た?/なぜ今まで居なかった?/どこに行っていた?/
    私の名前を呼んだ、私の事を覚えているのか?/それとも思い出したのか?/
    なぜ彼女の気配に気付かなかった?/私が話に夢中だったから?/それとも気配を隠していた?/
    そもそも本物か?/……)

トール(……疑問が次々湧いてきて、考えがまとまらない。ただ、今は……)ゴクリ



トール「………………」ソワソワ

小林「……滝谷君?」チラッ

滝谷「ん? ……ああ、いいとも」コクリ

小林「ん。……トールちゃん、玄関、出て良いよ」

トール「っ! 小林さん……」

小林「確かめたいんでしょ? 色々と。突然の訪問だ、今あれこれ悩んだって仕方ないさ」ニコッ

滝谷「なあに、せっかくの手がかりがあっちから来てくれたんだ。丁度良いと思って、まずは思い切って当たってみても良いんじゃないかな」ニッ

トール「お二人共……!」

トール「――はい!ありがとうございます。トール、特攻してきます!」バッ スタスタ……

小林「いや、ちゃんと帰っては来てね?」ハハ……

137 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:11:19.76 ID:bTM3bRGi0

【滝谷宅・玄関】

ルコア「…………すいません!ごめん下さ〜――!」

ガチャ

ルコア「!!」ピタッ

トール「――――ルコアさん」

ルコア「……トール……君……?」フルフル



トール(――ああ、私の知っている通りのルコアさんだ)

トール(明るいウェーブがかった長い髪、鮮やかで特徴的なオッドアイ、
    今時の人間の若者の様なラフなファッション、そして特大の果実が如き胸……)

トール(姿や声だけじゃない。この近距離だからこそ感じられるその匂い、そして魔力の波長に至るまで……
    幻や偽物だなんて有り得ない程に、まさしく彼女の物だ)



トール「……本当に、あなたなんですね、ルコアさん……」ウルッ

ルコア「…………………………」スッ ペタッ…

トール「へっ!? ルコアさん? 何故手を私の頬に……」

ルコア「…………………………」ペタペタモニモニ

トール「リュ、リュコアしゃ〜ん? にゃんれすか〜?」ムニムニ

ルコア「――――生きてる」ボソッ

トール「?」

ルコア「幻影でも木偶でも死霊でも複製体でもない……。容姿、声紋、虹彩、臭気、魔力波長、生体反応……
   、感知可能な全ての要素が、この子が本当のトール君である事を示している……」ブツブツ

トール「えっと、ルコアさん、その……」

ルコア「…………」ピタッ

ルコア「――――ッ!!」ダキッ!(トールに抱き着く)

トール「わぷっ!?」

ルコア「…………………………っ」ギュウウウウッ…

トール「ちょっ、もう、苦しいですって、ルコアさん……」

ルコア「……本当に、君なんだね。トール君……」グスッ

トール「……えっと、ルコアさん、私の事。覚えてらっしゃるんですか……?」

ルコア「覚えているとも……! 忘れる訳ないじゃないか、君の事を……」ギュウッ

トール「! ルコアさん……」ウルウル

138 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:14:28.42 ID:bTM3bRGi0

…………………………

ルコア「……いや、突然不躾にベタベタ触ってすまない。ありがとう、トール君」パッ(トールを解放する)

トール「いえいえ。ちょっとびっくりはしましたが、全く嫌ではないですから」アハハ

ルコア「そう言ってくれると有り難い。君が本当に君だという確証が、どうしても得たかったんだ」

トール「え〜、私、疑われてるんです? いつものカワイイトールちゃんですよ〜☆?」フリフリ

ルコア「アハハ、確かに可愛いけど、その見慣れない服装もあって疑ってしまった所もあって……」カンラカンラ

トール「えっ、見慣れない? (……いつものメイド服ですけど……)」



…………………………

小林「――良かった。無事に仲間のドラゴンさんと再会できたみたいだね、トールちゃん」コソリッ

滝谷「うんうん。仲良き事は美しきかな……」ヒタリッ

滝谷(……ところで、何ですかね、あのお姉さんのでっっっかい胸部装甲は。ありったけの夢がかき集められてるのかな?)ジー

小林「――滝谷君、今何見て何考えてる?」ジロリ

滝谷(!? 思考が……読めるのか? まずい……)ダラダラ

小林「何がまずい? 言ってみろ」ゴゴゴ

滝谷「…………………………ッツ!」ドドド



ルコア「――え〜と、そちらの奥から覗いているお二人は、この部屋の住人さんかな?」チラッ

小林・滝谷「「!」」ピクッ

トール「ん? あ、お二人共、見てたんですね。はい、そうです! 小林さんに、滝谷さんです! どうぞお二人もこちらに!」グイグイ

小林「えっちょっ……あー、どうも、えっとその、人間の小林と申します、よろしくお願いします〜……」ペコッ

滝谷「同じく滝谷です。よろしくお願いします」ニコッ サワヤカー

滝谷(ふう……事なきを得た……)ホッ

小林(後で滝谷君はどついておくか)

トール「えっと、ちゃんと話すと長いし複雑なんですが、とにかく私、このお二人に助けて頂いてて……」

ルコア「そう……。良かった、君がたった一人で困ってなくて」ホウ……

139 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:17:20.44 ID:bTM3bRGi0

小林「――えー、それじゃ、玄関で立ち話もなんですし、中へどうぞ」スッ

トール「はい! どうしていらっしゃったのかとか、しっかり聞きたい事が沢山ありますし……」

ルコア「あ、すぐ話をしたいのは山々なんだけど、ちょっと待って。実は今日来たのは私一人じゃないんだ」

トール「え?」

ルコア「人様の部屋に急に何人も押し寄せるのは警戒させてしまうだろうから、って事でね。先に私だけ確認がてら来たんだ」

トール「ルコアさん以外にも来ていた方が……? 気付きませんでした」

トール「そう言えばルコアさんの存在も、玄関チャイムが鳴るまで認識できませんでしたが……。
    変ですね、いつもの私なら匂いや音なり魔力なりで知り合いの接近には気付けるはずなんですが……」ムウ

ルコア「それはしょうがないさ。私達は此処に来るまで、簡単にだけど認識阻害や魔力隠蔽を施していたからね。
    トール君ほどのドラゴンなら集中して探知すればすぐ見破れる程度のものだけど、
    逆を言えば明確に探そうと意識を向けない限り、気付けないのも無理はない」

トール(……ただ此処に来るのに、何故そんなに警戒して……?)

ルコア「皆を、呼んでもいいかい?」

トール「あ、はい、どうぞ…… ってそうだ、小林さんと滝谷さんは良いですか?」

小林「ん。全然オッケー」b

滝谷「もちろん。むしろこの部屋に大人数だと、ちょっと手狭になってしまいそうで申し訳ないけどね」アハハ

トール「ありがとうございます!」ペコッ

ルコア「感謝します、お二方にも。じゃあ、ちょっと呼んでくるね――」クルッ スタスタ……



…………………………

トール「……皆って……?」ポツリ

140 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:19:33.34 ID:bTM3bRGi0

トール(先程ルコアさんは、私のメイド姿の事を見慣れないと言った)

トール(丁度1年前に小林さんと出会って以降、私がこのメイド服以外を纏った事はほとんどない)

トール(という事は、ルコアさんは私という存在は覚えているが、
    こちらの世界に来てからの――つまり、1年前からこれまでの私については恐らく覚えていないという事だ)

トール(――小林さん達同様、また“1年前”、か)

トール(偶然、ではないでしょうけど…… 具体的にどう関連してるかはまだ分からない)

トール(何にしろ、それも含めてこの後しっかりと確かめて――――)



タッタッタッタッ……



トール「?」ピクッ

小林「誰か、走って来て――」



タッタッタッタッタッ! バッ!



???「トール様!」ダキッ!

トール「わっ! ……あ、カンナ!?」

カンナ「…………………………っ」ギュウッ

141 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:21:44.90 ID:bTM3bRGi0

小林「わ、可愛い女の子だ」

滝谷「トール君の脚に引っ付き虫だね」

小林「カンナ……と言うと、トールちゃんの記憶では、私とトールちゃんと一緒に生活してたっていうドラゴンの子、だよね?」

トール「あ、そうです。良かった、再会できて…… もう、心配したんですからね?」ナデナデ

カンナ「…………………………ん」ギュ



タッタッタッ ドタプンドタプン……

ルコア「――お〜い、待ったカンナ、一人で行かないで〜!」ドタップン

トール「あ、ルコアさん」

小林・滝谷((何だあの移動音……))

ルコア「も〜、彼女、来て良いよって言うや否や、すぐ走り出しちゃって……」フウー

トール「そうですか、カンナあなた、ルコアさんと共に居たんですね……。安心しました」ホッ……

トール「ふふっ、けどカンナ、再会できたのは私も嬉しいですが、ちょっと引っ付きすぎですよ? 一回離れて……」

カンナ「…………………………!」ギューッ! フルフル

小林「ありゃ、更に強くしがみついちゃった」

トール「もうカンナ、一体どうし――」ピタッ

カンナ「……トール様……ほんとに……トール様…………」ポロポロ ズビズビ

トール「カンナ、泣いて……?」

142 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:27:06.00 ID:bTM3bRGi0

スタスタ ザッザッ……



???「本当に……生きていたんだな、トール!」ザッ

トール「その声…… エルマ!?」チラッ

エルマ「その通り。私の事、覚えていたか…… 久方振りだな」

トール「エルマ、あなたも来て…… ん?」

ファフニール「………………」ムスッ

トール「え、ファフニールさんも!?」

ファフニール「………………何だ」ギロッ

トール「あ、いえ、あなたも来てくれたんだな、と……」

ファフニール「………………フン」プイッ

トール「ハハ……(ファフニールさんは私の事を忘れていたはずでは……?)」

トール「……えっと、とりあえずこれで全員ですか、ルコアさん?」チラッ

ルコア「いや、後一名…… ファフニール君、あの方は?」

ファフニール「問題ない、すぐ来る」

ルコア「いや、そーじゃなくて。君にはあの方の介助をお願いしてたはずなんだけど〜?」プクー

ファフニール「馬鹿を言え。そこらの凡骨ならまだしも、王種たるモノに介添えなどむしろ礼を失するというものだ」フンッ

ルコア「ふ〜ん……? ……混沌の邪竜を自称する割に、結構お堅いというか、面子や体裁にうるさいよね、君って」

ファフニール「黙れ」ゴゴゴゴゴ

ルコア「……まあ、そうだね。あの方ほどの立場の者に関しては、その意見も一理あるか」

トール「あの方? 王種って一体、誰が――」ピクッ



カツン……カツン……

トール(歩道の方から誰かが、ゆっくり歩いてくる音……)



カツン……カツン……

トール(……? この、馴染みがあるけど思い出し切れない気配は……)



終焉帝「………………」ユラリ…… カツン……カツン……

トール「え―― お父さん!?」

143 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:29:58.24 ID:bTM3bRGi0

終焉帝「………………ッ!! ……トー、ル………………」ヨロヨロ

トール「お父……さん……? 本当に……?」

トール(姿を見ても、一瞬分からなかった……。気配は確かにお父さんの物、けれどこんなに衰弱してプレッシャーのないお父さん、見た事ない……)

トール(まるで別人、いや別龍の様な変わり様…… 一体お父さんの身に何が……?)

終焉帝「おお…… トール…… お前なのか……? トールよ……」フラフラ

終焉帝「っ!」ガクッ

トール「っちょっ……! 大丈夫ですか!? お父さん!」パシッ(肩を支える)

終焉帝「う、うう……」ググッ……

トール「どうして、お父さん程の方が、こんなにやつれて……」

終焉帝「……トール…… よくぞ、生きて……――ハッ!」

終焉帝「――いや。よくもまあ、しぶとく生き残っておったものだ」スクッ

トール「っ! お父さん……(これまでの、厳格な雰囲気のお父さんに戻った……)」

カンナ「っ、その言い方、ひどい! トール様がかわいそ――」キッ

ルコア「しーっ」ムギュ(カンナの口を手で塞ぐ)

カンナ「んむっ? んほははは(るこあ様)?」

ルコア「大丈夫。終焉帝もトール君を嫌ってる訳じゃない。勢力の長としての体面というしがらみがあるだけさ……」(小声)

カンナ「……むー」グスッ

トール「………………」

終焉帝「………………」

144 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:35:33.93 ID:bTM3bRGi0

ルコア「――さてさて、全員揃った所で改めて!」パン!(手を叩く)

トール「!」

ルコア「それでねトール君、まず、なぜ僕達がこうして君に会いに来たかなんだけど……」

トール「……あ! そ、そうですね! 是非聞かせて下さい!」アセアセ

ルコア「うん。……事の始まりは、ファフニール君が数時間前に『突然トール君から連絡を受けた』と教えてくれた事でね。
    その後、君の事を心配していたドラゴン達にその事をすぐに周知して、こうして一緒に確認しに来たんだ」

トール「え、ファフニールさんが!?」

ファフニール「……フン、お前等はともかく、俺は心配なぞしていない。偶々退屈だったから、暇潰しに丁度良いと思って同行したまでだ」プイ

ルコア「素直じゃないねえ。それに、退屈なのはいつもじゃないの?」

ファフニール「………………」ゴゴゴ

ルコア「いや黙んないでよ……(図星を突かれた時、とりあえず黙って凄むよねえファフニール君……)」アハハ……

トール「ええ……? えっと、それはつまりあなた…… 私の事、忘れてないんじゃないですか!?」ガアアッ!

ファフニール「む…………?」

トール「電話越しで言ってた『お前は誰だ』って何だったんですか! あれ言われて私、めっちゃ傷ついたんですからね! 謝って下さい!」ブーブー

ファフニール「………………」ブスッ

トール「……何ですか、黙ったまんまで。何か言ったら――」

ファフニール「……誰だと言いたくもなる」ボソリ

トール「は?」ピクッ

ファフニール「改めて問おう、終焉帝の娘によく似たドラゴンよ。お前は…… 誰だ」ギロリ

トール「は? 何訳の分からない事言ってるんですか…… 喧嘩売ってるんですか? 買いますよ?」ゴキリ

ファフニール「フン…… 良いだろう。確かめるには、直接戦り合った方が手っ取り早い」ググッ

トール「……………………!」ゴゴゴゴゴゴゴ

ファフニール「……………………!」ドドドドドドドド



ルコア「こらこらこらこらこらこら」ズビシッ!

ファフニール「ぬぐっ!?」ポカリ

ルコア「何で当然の様にバトルの流れになってるんだい」ハー

ファフニール「黙れ。これが俺の流儀と言うものだ」ゴゴゴ

エルマ「あの、こちらの世界で暴れられてしまうと立場上、私も止めに入らざるを得ないのでやめて頂きたいのだが……」オズオズ

ファフニール「チッ、調和勢が……!」

カンナ「ファフニール様、ちょっとバトル脳すぎ」プー

ルコア「ほらー、子供にも駄目だしされてるよー。年長者としてどうなのかなーその辺」プープー

ファフニール「ぐ……………!」ギリッ

145 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/05/24(火) 23:41:01.78 ID:bTM3bRGi0

小林「トールちゃんも、玄関先で暴れるのはよしてね」

トール「は〜い♡」クルッ

ファフニール「!?」
ルコア「!?」
カンナ「!?」
エルマ「!?」
終焉帝「!」

ファフニール「何……だと……」ドドドドド

ルコア「あのトール君が……」ドドドドド

カンナ「破壊の申し子と呼ばれたトール様が……」ドドドドド

エルマ「ただの人間の指示に……」ドドドドド

終焉帝「素直に従った……」ドドドドド

ドラゴン達「「「「「だと……!?」」」」」ドドドドドドドドドド……!



トール「いやあの、ちょっとさすがに失礼じゃないですか皆さん?」

ファフニール「ほれ見ろ、やはりこの竜はトールなどでは……」

トール「まだ言いますか!」ガー

ルコア「ごめんごめんトール君、後でファフニール君には僕からちゃんと言っておくから……」

ファフニール「お前に何を言われる筋合いも――」

ルコア「君はちょっと黙ってなさい」ギュッ

ファフニール「むぐっ!?」モニュッ

ファフニール(顔をケツァルコアトルの胸に押し付けられて…… 息が……!)バンバン

滝谷「あれは…… 何ともウラヤマC……!」ゴクリ

小林「何 か 言 っ た ? 滝 谷 君」ゴゴゴ

滝谷「イエ、ナンデモナイデス」スン……

トール「……全くもー、何なんですかこの引きこもりドラゴン。訳の分からない事を……」プンプン

ルコア「ごめんね突然。……でも、彼を許してあげて?」

トール「え?」

ルコア「彼がそう言いたくなってしまうのも、無理のない事なんだ」

トール「それって、どういう……」

ルコア「トール君…… 今目の前でこうして生きている君に対して、言いにくい事ではあるんだけど――」



ルコア「――少なくとも僕達の認識では、君はもう死んでいるものと思っていたんだ」

トール「…………………………え?」



ザァッ……

146 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/05/24(火) 23:46:34.16 ID:bTM3bRGi0
短いですが、今回はこの辺で。

この5,6月でスケジュールに多少余裕が得られる予定なので、あまり間を空けずに切りの良い所まで、小刻みに投下していきたい所存です。

それではまた〜。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/25(水) 00:02:32.21 ID:Fc06W/qDO
謎が謎を呼ぶ
待て次回!

おつ
148 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/07/18(月) 00:42:52.91 ID:iRPtMnDe0
ぜ、全然2か月進捗がなかった…だと…(無念)

まさか空いていたはずのスケジュールに次々と新たなタスクが入り込んでくるとは…。

リアルが充実している結果、創作に割く時間が足りなくなるという事態は喜ぶべきか悲しむべきか。

とは言え依然完結を諦めてはいないので、待っていて下さる方は申し訳ないですが、気長にお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…
149 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/09/12(月) 23:27:56.79 ID:lRER0Feg0
うん、また進捗無しなんだ、すまない…(諦念)

様々なタスクが重なって忙しく、気付けばまた2か月…流石にそろそろ自分でも呆れる程の遅筆っぷりで情けなし。

待っていて下さる方には本当に申し訳ないですが、もう少しお待ち頂ければ幸いです。ではまた〜…
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/03(月) 00:14:22.07 ID:LEN30Acu0
2周年までに完結するかどうか賭けようぜ!
151 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:14:59.46 ID:lrUlPmko0
>>150
出来らあっ! 後6か月で完結まで行ってやるって言ったんだよ!!
…えっ!! 後6か月で完結まで!?(自縄自縛)

それはさておき、少し更新していきます〜。
152 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:16:36.86 ID:lrUlPmko0

――――――――――

ルコア「……………………………」

トール「――私が、死んでいると思ってたって、どういう……」



小林「ちょ、ちょーっと待った〜〜!!」ズイッ

ルコア「!」

トール「わっ! こ、小林さん?」

小林「いやーそのー、込み入ったお話の最中すいませんが、良いですか皆さん?」ペコペコ

滝谷「ままままままま、お互い色々話がしたいのは山々だと思いますが…… そろそろ、部屋の中に入りませんか?」アセアセ

小林「そ、そうそう! 玄関先で立ち話もなんですし、まずは中に入って、落ち着いて腰を据えてからじっくり話しましょう!」ウンウン

滝谷「えぇえぇ、なのでどーぞどーぞ中へ!」ワタワタ

トール「お二人共……」

ルコア「……そうだね、大人数だし、そろそろ夕方だし、此処で話してちゃご近所にもご迷惑だよね。
    じゃ、お言葉に甘えさせて頂こうか。皆もそれでいいよね?」

カンナ「りょーかい」ハーイ

エルマ「私も、そちらの人間のお二人が宜しければ、それで異議はない」

ルコア「――終焉帝も、それで宜しいですか?」

終焉帝「……うむ、構わぬ」コクリ

153 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:18:20.04 ID:lrUlPmko0

ルコア「ファフニール君も、それで良――あ」

ファフニール「…………………………ッツ!!」バンバン

ルコア「ああ、ごめんごめん! 押さえ込んでたの忘れてたよ」パッ(手を離す)

ファフニール「ップハッ! 全く、巫山戯た真似を……っ!」ゼエゼエ

ルコア「ごめんって(笑)。それで、中に入って話をするって流れになったけど、良い?」

ファフニール「ハアハア……フン、力持つ竜が“話をする”などまどろっこしい事この上ないが……
       どうせ俺は暇潰しで付いて来ただけの身。お前らの好きにすれば良い」プイッ

ルコア「はいはい、君もお話聞きたいんだよねー。分かってる分かってる」ウンウン

ファフニール「貴様ッ、何を適当な――!」キッ

ルコア「はい、それじゃあ皆の了承も取れたので、部屋に上がらせて頂いていいかな? え〜と…… 小林さん、に滝谷さん?」クルッ

小林「あ、はい!」

滝谷「はーい、いらっしゃいませどうぞ〜! 5名様ご案内〜!」ガチャッ

小林「飲み屋の店員か! ああいや、とにかくどうぞどうぞ〜!」ササー

ルコア「は〜い、お邪魔しま〜す♡」スタスタ

ファフニール「おい! ケツァルコアトル、先程の発言――」

ルコア「さ、終焉帝もどうぞ」スッ

終焉帝「……うむ……」スタスタ

ファフニール「おい!」

カンナ「おじゃましまーす」テクテク

ファフニール「おい――」

エルマ「では私も、上がらせて頂く」スタスタ

ファフニール「おい……?」



ファフニール「…………………………」ポツン



ルコア「――――ファフニール君? どうしたの、早く上がりなよ。玄関閉められないよ?」ヒョコ

ファフニール「…………………………くっ!」スタスタ

ルコア「?」

バタン ガチャリッ……

154 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:20:33.09 ID:lrUlPmko0

…………………………………………

【滝谷宅・リビング】

ガヤガヤ、ワイワイ……



カンナ「せまい」ムー

トール「狭いですね……」

滝谷「いやー、流石に一部屋に8人もいると狭く感じるね……。あ、お茶入れるね」コポポポ

トール「あ、じゃあ皆さんに渡していきますね」スッスッ

滝谷「ありがとー」コポポポ…



小林「すいません、お二人には立っててもらう事になってしまって…… 大丈夫ですか?」

エルマ「いえ、家主の方を立たせる訳にはいきませんし…… それにドラゴンにとってこの程度、何の痛痒にもなりませんので」フルフル

ファフニール「…………フン」ブスッ

ルコア「ごめんね二人共〜、僕、座らせてもらっちゃって」アハハ……

ファフニール「……別に構わん。ただし、面倒なので俺は口を出さんからな。その分、諸々の説明はお前が担当しろ、ケツァルコアトル」ゴゴゴ

ルコア「はいはい、了〜解♪(何故か殺気を向けられている……なんでだろ?)」ケロッ

終焉帝「……私が立っていても構わないが……」スッ

トール「お父さん!? じゃ、じゃあ私も……!」スッ

ルコア「いえいえ! 終焉帝は是非、ご無理なさらず…… どうぞ楽にしていて下さい」

終焉帝「むう……すまん、かたじけない」ストン

小林「トールちゃんも、話さないといけない事が多いだろうから、それに集中できる様に座って楽にしてた方が良いんじゃないかな」

トール「は、はい……では、お言葉に甘えて……」ストン

終焉帝「………………」ジィッ……



カンナ「ルコア様、わたしも立つー?」

ルコア「んー? カンナはこのまま、僕の膝の上に座ってて良いよ〜」

カンナ「はーい」ポフッ

滝谷(おっぱいを背もたれに……だと……!? なんと羨ま――)ドドド

小林「――おらぁっ!」ドゴッ!(滝谷の後頭部をどつく)

滝谷「いっだあ! 小林さん、突然何を……!?」ジンジン

小林「さっき玄関でどつきそびれた分、思い出したから清算しとこうと思って」ニコッ

滝谷「ホワット?! 理不尽……!!」イテテ

155 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:22:28.67 ID:lrUlPmko0

…………………………



ズズー(お茶を啜る音)

ルコア「――――ふう。さて、一段落した所で」コトリ

トール「ええ、改めて本題に入りましょう」

ルコア「……とは言え、何から話し始めようか? お互い現状認識に大分差がある様な雰囲気だし……」

トール「うーん、そうですね……
    なら、まずはどちらか片方が自分の認識する現状を一通り説明した後、今度はもう片方が同様に説明する…… というのでどうでしょう?」

小林「ああ、さっきまで私達がやってた感じだね」

トール「ですです!」

ルコア「……? さっきまでって、君達もお互いに説明を?」

トール「あ、はい。今日の昼過ぎに二人と出会えてから、先程までここで……」

ルコア「――んん? ちょっと待ってくれ、トール君とそちらのお二人は既知の間柄ではないのかい?」

トール「あ、え〜と、その〜、そうなんですが、そうなってなかったと言いますか何というか……」シドロモドロ

ルコア「――成程、そこも含めて“説明すべき現状”という事だね?」

トール「は、はい。ちょっと、複雑なんですが……」アセアセ

ルコア「そうか――。うん、それなら、最初はトール君、そちらの話から聞かせてくれないかな」

トール「え、その、よろしいんですか?」

ルコア「ああ。どうも、君の経てきた事情の方が複雑そうな気がするからね。まずはそちらを聞いておきたいな」

トール「で、でも大分長くなると思いますよ? 私の認識と合わせて、小林さん達の認識についても話さなきゃだし……」

ルコア「そこはそれ、トール君、君は確か“アレ”。使えただろう?」フフッ

小林「アレ?」

滝谷「アレ?」

156 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:25:06.67 ID:lrUlPmko0

トール「アレ…… ハッ! そうか! “アレ”ですね!!」ピーン!

小林「トールちゃん、何か覚えがあるの?」

トール「はい! フッフッフ、遂に“アレ”を使う時が来た様ですね……。48のメイド技が一つ、『圧縮言語』を!」ドン!

小林・滝谷「「『圧縮言語』……!?」」ゴクリ

トール「ええ。自身の有する情報を圧縮された魔力波に変換、その魔力を呪言に載せて聴覚を介して相手に送る事で、
    莫大な情報量を瞬時に伝達する事が出来る魔法です!」フフーン!

小林「……あー、成程。便利だね」サラッ

滝谷「うん。確かに便利だ」サラサラッ

トール「ってあれ!? 何か反応薄くないです!?」ガビーン!

小林「いやいや、うん、本当に凄いなーとは思ってるよ? 思ってるけど、方式にちょっと馴染みがありすぎて……」アハハ……

滝谷「要は『zipでくれ』というのと同じだろうからね……。親近感が凄い」ふふっ

トール「“ジップ”……?こちらの世界に伝わる秘儀か何かで……?」ゴゴゴ

小林「あーいや、うん、そんな感じ! まあまあこっちの話、こっちの話だから!」

滝谷「うん、ごめんね水差して? 気にせず続けて大丈夫だから、ね?」

トール「そ。そうですか……? ちょっと釈然としませんが……
    それじゃあ、伝える情報を取り纏めてから圧縮するんで、ちょっとお待ちを――フッ!」ギュオッ!

滝谷「おお!? トール君の前で透明な何かが渦巻いて玉の様に……(螺旋丸かな?)」

カンナ「キレー」お〜

157 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:28:40.89 ID:lrUlPmko0

ギュオオオ…………!



小林「あれ、ところでその圧縮された情報って、私や滝谷君も受け取れるの?」

トール「いえ、あくまで魔力波を用いての情報伝達ですので、少なくとも魔法を扱える素養がないと理解はできないはずですね」ギュオオオ!

小林「そっかー、ちょっと残念」

トール「ふふっ、でも、もしかしたら小林さんも、ちょっとは分かるかもしれませんよ? ――っと、準備完了!」ギュン!

ルコア「うん、では説明よろしく♡」

トール「はい! ではドラゴンの皆さん、耳かっぽじってよ〜く聴いてくださいね! 行きますよ〜……」



ガバッ! パクッ!



小林(生成した玉を――)

滝谷(食べた!?)



スウ〜〜〜ッ……(大きく息を吸う音)



滝谷(さて…… さっきは素っ気ない態度をとってしまったが…… 本当は興味深い……)ワクワク

小林(呪言に載せて伝えるそうだけど…… 一体どんな風に……)ソワソワ



トール「…………………………」

トール「ッ!」キッ!



トール『かくかくしかじか!まるまるうまうま!』ゴーン!



小林・滝谷((ん?))キョトン



トール『ほしほしとらとら!ばつばついぬいぬ!』



小林(これは……)

滝谷(小説とかで見る、説明シーンを省略する時のアレ……!)ノーン



トール『どらどらごんごん、めいめいどーどー!』



ルコア「ふんふん(相槌)」

滝谷(あ、本当に伝わってはいるっぽい……)



トール『こばこばやしやし、らぶちゅーべろちゅー!』ガー!



小林(あ、今のは何となく私の事言ってるなって分かった)

158 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:35:51.54 ID:lrUlPmko0

トール「――ふう。以上です!」

ルコア「うん、お疲れ様、ありがとうね」

終焉帝「…………うむ」コクリ

ファフニール「ふん、やっと終わったか」コキッ

滝谷(……皆あからさまに“長話が終わった感”出してるけど、本当に伝わってるのかなアレ……)

小林(うーん、嘘って事もないだろうけど……)

ルコア「ん――? ははーん、ほんとに伝わってるか怪しいな〜って顔だね、お二人共?」フフッ

小林・滝谷「「!(バレとる……)」」アハハ……

ルコア「ふふっ。ま、証明代わりに今の話を要約すると……



一年前、神との戦いに敗れてこちらの世界に落ち延びたトール君は、人間の小林さんに命を助けられ、彼女のメイドとして共に暮らし始める。


小林さんの同僚・滝谷さんや地域の人々、そして私達ドラゴンを交えての、波乱はあれど充実した平和な日々を重ね、気付けば丁度昨日で1年。
トール君は出会って一周年を記念してのご馳走を準備するも、些細なすれ違いから小林さんと喧嘩をして、家を飛び出してしまう。


それから一晩中、激情のまま空を飛び回って頭を冷やしたトール君だけど、いざ今朝部屋に帰ってみると様子がおかしい。
部屋はもぬけの殻、更に隣人からは自分や小林さん達の記憶が無くなっていた。
異常を察したトール君は、小林さん達を探すために方々を飛び回るものの、更に謎は深まるばかり。


そして昼頃、偶然にも街を歩く小林さんを発見し駆け寄るも、
小林さんにもトール君との記憶が無い事が分かり愕然としたトール君は、ショックのあまり走り去ってしまう。
頼みの綱のファフニール君に電話もするけど返ってきたのは、すげない「お前は誰だ」コール。


打ちのめされたトール君は雨の中で泣き崩れてしまうけど、そこで現れたのが小林さん。
記憶はなくとも、それでも自分を心配して探してくれていた小林さんの優しさに、トール君はまたも号泣するのだった。


落ち着いた二人は、同じくトール君を探してくれていた滝谷さんと合流。
滝谷さん宅、つまり此処に移動して、状況理解のための話を始める。
まずトール君が自身の覚えている記憶を説明するが、小林さん達二人の認識はそれとは大きく異なるという。


曰く、まず1年前、小林さんはトール君と出会った覚えはないらしい。
そしてその後小林さんは空き巣に遭い、会社をクビになり、それに伴い滝谷さんも会社を辞め、
二人はフリーランスとして働き始め、四苦八苦しながらも何とか今日までやってきたという話。


互いの認識する記憶があまりに乖離しているこの状況。
どう考えればよいかと頭を悩ませていた所…… 丁度僕達が訪問してきた、って感じだよね?」



小林・滝谷「「(;゚д゚) (;゚д゚)」」ポカーン

159 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2022/11/30(水) 22:38:32.72 ID:lrUlPmko0

小林「ちゃ、ちゃんと伝わってる…… というか、完璧すぎる要約……」オオオ……

滝谷「まるで、半年近く間が空いて、話がうろ覚えの人でも大丈夫な様に挟まれたあらすじの様に完璧だ……」プルプル

小林「いやその例えはちょっとよく分かんないけども」



カンナ「う〜、頭重いかんじー……」ウー

エルマ「う、む。内容は理解したものの、濃すぎる魔力波に、ちょっと、酔った、かもしれん……」クラッ

トール「ちょっとー、まだ幼いカンナはともかく、あなたはあの程度の魔力波、普通に処理して下さいよ。“聖海の巫女”の名が泣きますよー」

エルマ「う、うるさい……! こういうまどろっこしい、もとい繊細な魔法はちょっとだけ苦手なんだ!」ガー!

トール「全く、この脳筋はらぺこドラゴンは……」ハ〜

エルマ「何を〜!?」ギャース!



ギャーギャー……

160 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2022/11/30(水) 22:56:02.79 ID:lrUlPmko0
ちょっと中途半端ですが、今回はこの辺で。

気付けば今年も残り一ヵ月、皆様お元気でしょうか。
自分は病気こそしていないものの、仕事と私生活のリズムが中々掴めず、更新が半年近く空いてしまいました……(無念)

最近、やっと時間のメリハリの付け方が見えてきたので、この調子で進めていければと思います。
冒頭では冗談っぽく言いましたが、ここは本当に後6か月で完結する目標で行きたい所。

読んで下さっている方々は、もう少しお付き合い頂ければ幸いです。それでは〜。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/30(水) 23:34:53.77 ID:TZYYXIM60
何かと臭い自分語り書く暇あるならさっさと本編書けばいいのに
雑談したいなら適した場所もっとあるから
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 10:03:36.09 ID:2bBcI67DO
あらすじ助かる
個人的にはさっさと終わっちゃうよりもダラダラ長く続いてる方が好き
終わったら終わりだから
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 12:12:59.19 ID:BCu2RPhu0
いろんな意味で終わってるけどなこのスレは
R板でスカトロスレ乱立する荒らしの方がまだ場の盛り上げ方を理解できてる
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 15:32:27.58 ID:7GIOvT/10
スカトロスレってあのいつもの「フハッ!」のうんこマン?
あいつ頑なにR行こうとしなかったけどようやくR行く知能が生えたのか
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/01(木) 23:55:45.60 ID:BCu2RPhu0
そういえば>>162はダラダラと引き伸ばす事は肯定してる割りに「自分語りが寒い」って所には逆張りしてないんだな
やっぱ信者も薄々そう思ってたんだなぁと実感
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/02(金) 07:32:21.42 ID:/U+7moNDO
好意的に見られないからといって叩く理由にはならないから触れないだけ
別に悪事働いてるわけでもないんだし
167 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:13:03.31 ID:/uPr47kR0
コメントありがとうございます。耳に痛いお言葉も多いので、真摯に受け止めさせて頂きます…。

という事で、また少し更新していきます〜。
168 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:14:20.92 ID:/uPr47kR0

―――――――

ルコア「よし、それじゃあ次は僕達の話をする番だね」フウ

トール「はい、よろしくお願いします。どうしましょう、そちらの話も圧縮言語で……?」

ルコア「いや、こちらの話は普通に話すよ。どうやらそちらの人間のお二人にも、一応聞いておいてもらった方が良さそうだしね」

小林「え、そうなんですか?」キョトン

ルコア「うん、多分だけど」

小林「で、では謹んで」ピンッ

滝谷「聞かせて頂きます!」シャキッ

ルコア「あはは、そう緊張しないで。トール君が今してくれた話よりは長くならないよ。主な内容は二つだけさ」

トール「二つ、ですか」

ルコア「ああ。一つ目は玄関前でも言ったが…… 僕達の認識では、トール君は既に死んでいたものと思っていた、という事だ」

トール「……はい。ぜひ説明をお願いします」

169 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:15:44.94 ID:/uPr47kR0

ルコア「うん。1年前、トール君が神の軍勢に戦いを挑んだ末に敗北し、こちらの世界に逃げ延びた――
    その点については僕達の認識とも一致している」

ルコア「けれど僕達からすると、トール君がこちらの世界のこの地域に転移したという所までは魔法で追跡できたが、それ以降の消息は掴めなかったんだ」

トール「え……?」

ルコア「こちらの世界に入った辺りで、トール君の臭いや魔力反応どころか、その残滓もぱったり途切れてしまっていてね」

ルコア「恐らく高度な隠蔽魔法などで痕跡が消されていたのだと思うけど……
    それについて、トール君に心当たりは? 追っ手を撒く為などに自分で使った記憶はあるかい?」

トール「え? うーんどうでしょう、あの時は本当に命からがらで、そういう事を気にしてる余裕もなかったですし……」ウーン

ルコア「じゃあ、無意識にでも魔法を行使していたという可能性は?」

トール「あー…… いや、そこらの魔術師ならともかく、ルコアさんの様なドラゴンまで欺ける様な魔法を私が無意識で使えるとはとても……」

ルコア「そうかい…… いや、ありがとう。ひとまずその点は置いておいて、話を進めようか」

170 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:17:43.35 ID:/uPr47kR0

ルコア「トール君が消息を絶って数日後、トール君を捜索する為に僕はこの世界、この地域に訪れた」

トール「えっ、以前にもこちらの世界にいらっしゃった事、あるんですか?」

ルコア「うん、そうだよ〜。実は1年前から何度も、この世界に来てたんだ。
    野山を飛び回ったり、人の町中を歩き回ったり、あちこち探してたんだよ?」ウフフ

ルコア「更に言うと僕、そちらの小林さんと滝谷さんの事も、姿だけは街中で見かけたもあるんだ。
    お二人は僕の事、認識阻害で見えなかったろうけど」チラッ

小林「えっ、そうなんですか!?」

滝谷「いやん、エッチ!」ササッ

小林「いや、シナを作るなシナを!」

ルコア「アハハ! 面白い人だね、君」

滝谷「ふふ、よく言われます」キリッ

小林「下手に褒めないで下さい、調子に乗って暴走しますんで……」

トール「まあ滝谷さんは置いといて―― すいませんルコアさん、私の為にご足労頂いてた様で…… ありがとうございました」ペコリ

ルコア「いやいや、そう畏まられる事じゃないさ。と言うのも、ある方の依頼だったからね」

トール「依頼? 一体誰から?」

ルコア「ふふっ、誰だと思う?」

トール「えっ、うーん、誰だろ、ルコアさん程の方に依頼なんてできる格の相手ってそんなに……」

ルコア「じゃあヒント。君の目の前で僕の横に座ってる方♡」

トール「え……」

トール「――――えっ!?」ガタッ

トール「お、お父さん……ですか!?」

終焉帝「……………………」ブスッ

171 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:20:50.27 ID:/uPr47kR0

トール「…………ほ、本当なんですか?」オズッ

ルコア「ああ、終焉帝に、トール君の捜索を内密に依頼されてね。もちろん僕自身、トール君の身が心配なのもあったから、快く承ったよ」

トール「お父さん……」ジーン

終焉帝「…………フン」

トール「……えっ、でもなぜ、わざわざ勢力の違うルコアさんに?」

終焉帝「……愚か者め、分からんのか」ギロッ

トール「っ!」ビクッ

ルコア「終焉帝!」

終焉帝「……………………」ゴゴゴ

ルコア「もう……。トール君、終焉帝はね、混沌勢の長として、大っぴらに君を捜索する事は出来なかったんだよ」

トール「え?」

ルコア「トール君は勢力の意向を逸脱して、単独で神の軍勢に戦いを挑んだ。
    それは言わば混沌勢の、ひいてはその長である終焉帝に対する反逆とも言える訳だ」

トール「あ……」

ルコア「トール君が実の娘とは言え―― いや、実の娘だからこそ、反逆者となった君を公然と助けようとしては、他の混沌勢の者達に示しがつかない」

ルコア「だから内密に僕に依頼して、表面上はあくまで傍観勢で根無し草の僕が、自分の意志で勝手にトール君を探していたという体裁にしたのさ」

トール「そうだったんですか……。でもルコアさんは大丈夫だったんですか?」

ルコア「ん〜?」

トール「傍観勢は、混沌勢・調和勢の争いから逃れる代わりに、自身もどちらの勢力にも与してはいけないというのが暗黙のルールのはず……。
    混沌勢の私を探すのは、ルコアさんにも危険が及ぶのでは……」

ルコア「な〜に、それくらい平気さ。勢力は関係なしに、私的に親交のあるドラゴンに会いに行こうとしていただけで、
    “たまたま”その子がその直前に神の軍勢とやり合っていたってだけ、だよ」

トール「そういう……ものですか?」

終焉帝「……とは言え、それですら筋としてはギリギリだ」

トール「!」

終焉帝「一線を越えたと見做され、調和勢や他の傍観勢から攻撃の対象となる可能性も少なくはなかった。
    そうした危険を押してまで依頼を受けてくれた事、改めて礼を言う、ケツァルコアトル殿」スッ(頭を下げる)

ルコア「……言いっこなしですよ〜、終焉帝」ニコッ

トール「………………」

172 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:23:23.68 ID:/uPr47kR0

ルコア「――でね? そうして捜索している折にたまたま、父親に追放されてこの町を彷徨っていたカンナを見つけてね。
    そのまま放っておくのも忍びないので、僕の棲み処で今まで保護していたんだ」

カンナ「うぃー。お世話になってた」ハーイ

トール「そうだったんですか……。カンナも大変でしたね」

カンナ「だいじょーぶ。それに私も、トールさま探すの手伝ったりしてたー」

トール「あら、それはありがとうございます」ニコッ

ルコア「あっ、手伝うと言えばこの二人…… エルマとファフニール君にも何度か捜索に協力してもらったんだよ?」フフ

エルマ「ちょっ!ルコア殿……!」ピクッ

ファフニール「………………」ブスッ

トール「! ――へ〜?」ニヤ〜

エルマ「わっ! 私はっ、あくまで調和勢の者の務めとして、混沌勢のトールがこちらの世界に隠れ潜んで、
    悪だくみでもしていないか調査する必要があっただけでっ! 心配したとか、そういうのではないんだからな!」プイッ

トール「ふ〜ん?」ニヨニヨ

エルマ「なんだその顔はぁっ!」グオオ

ルコア「ちなみにファフニール君は……」

ファフニール「……ひ――」

ルコア「暇潰し、だよね〜分かってる分かってるって」ヒラヒラ

ファフニール「…………貴様…………」グルルル



小林(お手本の様なツンデレムーブ…… ドラゴンにはツンデレが多いのか……?)

滝谷(ツンデレドラゴン、略してツンドラ……)

173 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:25:04.33 ID:/uPr47kR0

ルコア「……まあ、そうして時には協力を得つつ、何度もトール君の捜索を行ったんだけど。
    結局手がかりを得る事は出来ずに時間はひと月、ふた月と過ぎて行った」

トール「…………」

ルコア「そしてここからが、話す内容の二つ目だ」

トール「……はい。一体何が……」ゴクリ

終焉帝「…………」

ルコア「二つ目の話、それはトール君が消息不明になってから3か月後、つまり今から9か月前の事――」



ルコア「――今度は終焉帝が、神に戦いを挑んだ」



トール「―――――――――――は?」ヒクッ



174 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:27:09.30 ID:/uPr47kR0

トール「――――いや、は? 冗談でしょう?」ハハ……

ルコア「いいや、本当だよ。3か月の捜索を経てもトール君の生存を確認できなかった事から、
    トール君は死亡したと結論付けた終焉帝は、弔い合戦として神と戦った」

トール「……そんな事、ある訳……」チラッ

終焉帝「…………事実だ」ポツリ

トール「っ! ―――本当に……?」チラッ

ファフニール「…………」コクリ

エルマ「…………」コクッ

トール「……………………っ!!」

小林「……トールちゃん? 大丈夫?」

トール「……そんな、お父さんが、私なんかの為に……?」ワナワナ

小林「いや、確かに驚きはする事だろうけど…… そんなに否定する事なの?
   親が子の仇を取ろうとするって、普通じゃない? 善悪はともかく」

トール「いえ、そうかも、ですけど……」フルフル

終焉帝「…………」

トール「けど……けど! それじゃ私、何の為に戦って……!」

トール「私が神と戦ったのは! 混沌勢とか調和勢とか、そういう自分や皆を縛ってる“しがらみ”を全部壊したかったから――!」

終焉帝「――知っていたとも。そんな事は」

トール「――――ッ!?」

ルコア「……僕も、気付いてたよ。『神さえ倒せれば、永年続く混沌勢と調和勢の不毛な対立を終わらせられる』
    ――本当は心優しく、自由を願う君がそう決心して、神に挑んだという事は」

トール「そんな…… でも、なら尚更、何で戦争なんて……」

終焉帝「何を勘違いしている」

トール「え?」

終焉帝「誰がいつ、私が混沌の勢力を率いて戦ったと言った? 勝手な思い込みで話を進めるな」

トール「……えっと、それはつまり……?」

ルコア「うん。勢力同士のこれ以上の対立を望まないというトール君の真意は、終焉帝も分かっていた。だから終焉帝は、娘の意を汲んで――」

ルコア「――トール君同様。神に、単騎で挑んだのさ」

トール「……………………!!」

175 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:32:19.55 ID:/uPr47kR0

トール「本当に、一人で……? お父さん……」

終焉帝「……ふん。ドラゴンが、それも混沌勢の長と呼ばれる者が、子の仇討ちで戦うなど笑い話にも程がある。
    そんな冗談に配下を巻き込むなど出来なかっただけの事だ」

トール「……………………っ」ギュッ



小林(……このお父さんドラゴンも、だいぶツンデレが極まってるな……)

滝谷(やはりツンドラ……)



ルコア「神も、単騎で挑んできた終焉帝の覚悟を見て思う所があったのか、神側の勢力に手出ししない様に伝え、戦いは一騎打ちとなった」

ルコア「二人の激闘は7つの昼と夜を越えてのものとなり――神にも深手を負わせたものの、結果は終焉帝の敗北となった」

トール「敗北…… じゃあ、お父さんがこんなにも衰弱しているのは……」

ルコア「ああ。その時の傷が、今もまだ癒えていないのさ」

トール「……お父さんが弱ってる姿なんて信じられませんでしたが、神を相手取ったというなら納得です」

トール「でも、それならむしろ、良く生き残る事が出来ましたね。神に歯向かって敗れた者を、天界の奴らが生かして帰すなんて……」

ルコア「それについてはね、彼も絡んでるんだ」チラッ

ファフニール「………………」

トール「ファフニールさんが?」

ルコア「そう…… 一騎打ちの趨勢を密かに窺っていた、ファフニール君を含めた少数の混沌勢の精鋭が、勝敗の決した後に終焉帝を逃がしたんだ」

トール「!」

終焉帝「……勢力の者には全員に、『手出しはするな』と厳に命じたはずだったがな……」ギロリ

ファフニール「ええ。ですが『戦闘中に手出しするな』と言われただけで、戦闘が終わった後の事は言われていなかったので」サラッ

ファフニール「それに混沌勢は力こそ全て、負けた者の命令など聞く義理はないはず」フンッ

終焉帝「……フン。よくもまあ、弁の立つ邪竜だな」

176 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/01/31(火) 22:35:57.40 ID:/uPr47kR0

ルコア「……さて、そうして混沌勢は少なくない被害を出しつつも、何とか終焉帝を連れて逃げ延びた。
    神の軍勢側も、神が追撃を命じなかった事もあって、それ以上は追わなかった」

ルコア「それから現在まで、僕達の世界の情勢は緊張状態ではあるものの、
    混沌勢・調和勢共にトップを始めとして多大な消耗があるため下手に動けず、目下睨み合いが続いている、という所だ」

エルマ「直接的な衝突がない分、ある意味で均衡が保たれているとも言えるだろう。気は抜けないがな」

トール「そう……だったんですね」

トール「……傷は大丈夫なんですか、お父さん」

終焉帝「命に係わるものではない。長い時を要するが、いずれ癒えるだろう」

トール「そうですか……」ホッ

トール「……ファフニールさんも、その、ありが――」

ファフニール「やめろ」ゴオッ!

トール「っ!」ビクッ

ファフニール「これは将たる者と臣たる者の間の出来事だ。ただ将の娘というだけのお前には関係がない。
       感謝も謝罪も口にするな、頭も下げるな。殺すぞ」ゴゴゴ

トール「――――はい」

トール(――それでも、ありがとうございます、ファフニールさん)ニコッ

ファフニール「何を笑ってる! 笑うのもやめろ!」ガアッ!



小林(……ツンデレにしては圧が強〜…… 魔力とか分かんなくてもプレッシャーがキツいんだけど)ビクビク

滝谷(もしやドラゴンって基本すごいツンデレなのでは……? ボブは訝しんだ)

177 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/01/31(火) 22:42:01.93 ID:/uPr47kR0
という所で今回はここまでです。

いい加減グダグダ言い訳言っててもしょうがないので、できるだけ早くまた更新できる様に頑張ろうと思います。

それではまた〜。
178 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:13:14.90 ID:Mi2UAr//0
こんばんは。少し更新していきます。
179 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:15:40.23 ID:Mi2UAr//0

――――――――――――

ルコア「――さて。これで、双方話すべき事は話したかな」

トール「……はい。私も、私達が把握している現状については、全て語ったつもりです」

ルコア「うん。じゃあ次は―― と、その前に」

トール「?」

ルコア「少し休憩にしようか。お互い、頭の中を少し整理したい所だろうし」

トール「……そうですね」

小林「あ、じゃあ一服しますか。お茶、淹れ直しますねー」カチャカチャ

トール「あ、手伝います!」カチャカチャ

滝谷「お茶淹れは任せろー!」トポポポ

小林「やめて! …………あ、いや別に止めなくていい、お願いね」

トール「?」

滝谷「小林さん、定型句に対して脊髄反射でレスするのはリアルだと色々危ないよ」ニコッ

小林「君が振ったんでしょーが君が……!」カアァ

トール「??」

180 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:16:37.85 ID:Mi2UAr//0

――――――――

トール「……………………」ズズー

トール「…………ふう」ホフウ



トール(……とても、驚くべき内容だった)

トール(小林さん達の話…… ルコアさん達の話……。いずれも衝撃的で、それでいて真に迫っていて、嘘とは思えないリアリティを感じた)

トール(でも、ここまでの話はあくまで前準備に過ぎない)

トール(ここからだ。本題は、解決すべき謎は――――)



ルコア「――――――――」ズズー… コトン

トール「――――――――」ズズー… コトン



ルコア「――さて、準備はいいかい?」

トール「――はい。始めましょう」コクリ

ルコア「うん。じゃあここからは一緒に考えようか。
    この1年間についての『僕達の記憶』と『トール君の記憶』の間の、あまりに大きな差異をどう説明するかを」

トール(そう。ついにそこを考えるべき時が来た――)

181 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:20:37.01 ID:Mi2UAr//0

ルコア「まず差し当たってトール君。君は今日1日、町中を飛び回って色々と見聞きしてきた様だけど……」

ルコア「その中で、この状況について説明する為の仮説とかは、考えたりしたかい?」

トール「仮説…… ですか」

ルコア「ああ、簡単な所感でも構わないから、あれば聞かせて欲しいのだけど」

トール「仮説…… 道中で考えたものは、一つありました」

トール「……でも今は、正直、良く分からなくなりました」

ルコア「ほう?」

トール「初めは…… 今日の朝、異変に気付いてからは、誰かの陰謀を疑っていました。
    私に敵対する何者かが、高度な魔法を用いて皆の記憶の改竄などを行って、私を孤立させようとしているのでは、と……」

トール「でも、小林さんと滝谷さんの話、そしてルコアさんの話を聞いてたら…… 『それは無理だろ』と思い直しました」

小林「そうなの? いや、魔法については良く分からないけど……」

トール「はい。私に関する記憶を皆から根こそぎ消す、という大雑把な処理ならともかく……
    私がいなかった場合の1年分の偽の記憶を、詳細に、筋道立てて創り上げて、私の関係者全員に植え付ける、なんていうのは私でも困難……
    というか、考えたくない手間のかかる行為です」

トール「ましてや、小林さんや滝谷さん達の様な、魔法への防衛手段のない一般の人間だけでなく、
    私達、それも最上位のドラゴンであるお父さんやルコアさん達も含んだ方々の記憶すら操り、操った事すら気取られない――
    なんて、私を倒した神ですらきっと至難でしょう」

トール「そんな事が出来る者がいたとしたら、それはもう――」

ルコア「――ああ。それはもう神をも超える、まさしく全知全能の“超越者”だ」

ルコア「“それ”を想定してしまうなら、それこそ何でもあり。
    仮説にどんな矛盾や難点があろうと、全能であれば通せてしまうからね。考察するのが馬鹿馬鹿しくなる」

トール「はい。だから、その…… っ……」グッ

トール「……まだ、私一人の記憶が何者かにイジられている、という方が現実的で……」

ルコア「ん〜いや、それも同様に考え難いかな」

トール「!」

ルコア「トール君も最強格の存在達には及ばずとも、充分に上位の力を持ったドラゴンだ。
    そんな君の記憶を違和感も与えずに改竄する、なんて芸当は僕や終焉帝でも困難だ」

小林「うん。それにトールちゃんの話はしっかりとした感情や実感に溢れてた。偽物の記憶だなんて、私達には思えないよ」

滝谷「うん、右に同じ」グッ!b

トール「皆さん……」

ルコア「何にしろ、全能でその痕跡も残さない超越者というのは考えられない―― いや、厳密には“考えても良いが意味がない”。
    もし本当にそんな事が出来る相手が敵なら、僕達が何をしようと敵いはしないからね」

ルコア「それに、そこまで出来る存在がトール君や僕達に敵対しているというなら、
    今度はなぜわざわざ“記憶を改竄する”なんて迂遠な方法を採るのか? という疑問が生じる。
    トール君を攻撃するにしろ絶望させるにしろ、何でも出来るならもっとやり様はあるだろうしね」

ルコア「少なくともこの仮説は、他に考えられる可能性が全て棄却された時、もしくは超越者の存在を示す証拠が出てきた時、
    初めて考慮すれば良い程度のものだ。今は置いておこう」

トール「そうですね……」

182 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:24:16.36 ID:Mi2UAr//0

トール「でも…… では他にどういった可能性が……?」ウ〜ン

ルコア「……僕も話を聞いていて思った事と、そこから考え付いた仮説があるんだけど、言ってみても良いかな」

トール「思った事と、仮説……? はい、お願いします」

ルコア「うん。まず思ったのは、トール君の記憶と僕達、そして小林さん達の記憶との相違点についてだ」

ルコア「この一年間における僕達の記憶は、一見するとその大部分で差異が生じている様に思えるけど……
    本質的に違うのは、多分たった一点だけだと僕は思う」

トール「たった一点……? それって……」

ルコア「君も気付いてるんじゃないかい? 丁度一年前、『この世界に逃げ延びたトール君が、山中で小林さんと出会ったかどうか』さ」

トール「……!」

ルコア「それ以外の相違点は、あくまでその一点の違いから連鎖的に生じた、副次的なものに過ぎないんじゃないかな。
    いくらその違いが劇的に見えても、ね」

ルコア「ほら、トール君にとってのこの一年間は全て、小林さんと出会った事で成り立つもののはずだろう?

    小林さんが神剣を抜いてくれたからトール君は一命を取り留め、
    小林さんが誘ってくれたからメイドとして小林さんちに住み込み、
    小林さんとの生活を通じて様々な人間との交流が行えた。

    また小林さん側も、トール君と出会いメイドとして住み込んでもらえた事で空き巣の被害を防止でき、
    空き巣による疲弊がなかった事で上司のパワハラの証拠集めを気取られる事もなく、
    それ故に失職する事も無くなり、フリーランスになる事もなかったろう。

    僕達ドラゴンからしても、そもそもトール君が失踪せず生きている事が確認できていたなら、
    何度も捜索する事も、終焉帝が神に一騎打ちを仕掛ける事もなく過ごしていただろう。
    トール君の記憶通り、こちらの世界に遊びに来る事もあったかもしれない」

トール「確かに…… そう考えれば色々と話がすっきりしますね」

ルコア「だろ? とりあえず、ここまでは双方の話を照らし合わせて思った事。
    ひとまずこれを真として…… ここからがそれを元に考えた仮説なんだけど」

トール「はい」

ルコア「……………………」

トール「……ルコアさん?」

ルコア「……ん。ちょっとショックな事言うかもだけど、良いかい?」

トール「! ……はい、大丈夫です」ゴクッ

ルコア「うん。その、ね――」



ルコア「――トール君にとってのこの一年の記憶は、もしかしたら全て夢なんじゃないかな」



トール「―――――――――――」カヒュッ

183 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:28:51.26 ID:Mi2UAr//0

小林「ちょっと……!?」

トール「……ふ……っ! ふっ…………っつ!」フルフル

小林「トールちゃん、大丈夫!? しっかり、焦らず、ゆっくり呼吸して……」サスサス

トール「…………っ」コクリ

エルマ「ルコア殿、今の発言、どういう意味ですかっ!」キッ

ルコア「うん。厳密に言えば、夢とは言ってもより詳細で具体的な想像……
    そうだな、こっちの世界で言う“シミュレーション”という奴かな」

エルマ「シミュ……? ってそうではなく――」

トール「…………っ、続けて下さい」フウッフウッ

エルマ「! トール……」

小林「トールちゃん、無理しちゃ……」

トール「二人共、心配ありがとうございます。でも、聞かなきゃ始まらないっ……!」グッ

ルコア(……ごめんね、トール君。君の強さに甘えてる。せめてその心意気に応じよう)

ルコア「……了解した、続けるよ」

トール「……………………」コクリ

ルコア「僕の仮説はこうだ。まず一年前、神との戦いで深手を負ってこちらの世界に逃げてきたトール君は、話の通り、とある山奥に落ち延びた」

ルコア「神の剣に貫かれ瀕死となったトール君は、傷を癒す為にそこで眠りに就いた。仮死状態と言い換えてもいいか」

トール「………………」

ルコア「その間、肉体は休眠している訳だが…… ドラゴンの感覚というものは、人間のそれより遥かに発達している。
    だから、眠った状態でも周囲の状況をある程度把握できていても不思議はない」

ルコア「……そう、たまたま近くをうろついていた人間の事を知覚する事も」

トール「! ……それが、小林さんだと……?」

ルコア「ああ。結局彼女――小林さんは、トール君に気付かずに通り過ぎて行ったかもしれないが、
    彼女を知覚した君は夢見る中で、こう思ったんじゃないか?」

ルコア「『願わくば、自分も勢力の立場から自由になって、他者と交流してみたい』と」

トール「………………!!」

ルコア「さっきも言ったが、ドラゴンの感覚は極めて鋭い。それのみに集中すれば、町一帯の生命体の言動を全て把握する事も可能だ」

ルコア「そして同様にその頭脳、特に演算能力も人間より遥かに優れている。
    ――知覚した周囲の情報から、極めて精確な未来予測(シミュレーション)を行う事も可能な位にはね」

トール「………………つまり、私は………………」

ルコア「ああ。この一年間、夢の世界――ただしそれは極めて具体的で現実に近い、それこそ“有り得たかもしれないもう一つの世界”――
    で過ごしていたのかもしれない」

ルコア「この場合も、君の記憶は決して偽物という訳ではない。ただ、現実の出来事ではなかっただけで」

ルコア「そして一年経ち、傷が癒えて目覚めた君は現実の空に飛び立った。――夢と現実を区別しないまま」

184 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:34:01.10 ID:Mi2UAr//0

トール「………………っっ………………」フルフル

小林「トールちゃん…… 気をしっかり……っ!」ギュッ

トール「………………ッ!」ギリッ



トール(今までが、夢……? この一年の、小林さん達との思い出が、全て、夢……?)ドッドッ

トール(信じられない、信じたくない、そんなの……っ!)グゥッ

トール(…………でも、そう考えた方が、辻褄が…………)



滝谷「いや〜、その仮説もどうかと思いますけどねぇ?」

トール「…………え?」

ルコア「…………ふぅん?」ピク

トール「滝谷……さん……?」

小林「――滝谷君。頼めるんだね?」

滝谷「――ああ、任せてよ小林さん」ニコニコ

小林「ん、じゃあ頼んだ。――ほら、トールちゃんはお茶飲んで、落ち着いて」サッ

トール「あの、でも……」

小林「だ〜いじょうぶ。(普段はともかく)こういうレスバトルの様な時は彼、ほんとに頼りになるんだから」



ルコア「――どうかと思う、と言うと…… 具体的には?」ニコニコ

滝谷「いくつもありますよ。
   まず、瀕死のトール君が、通り過ぎた小林さんを知覚して『自由に他者と交流したい』と思ったという点ですけど……
   ちょっと無理がないですか?」

滝谷「トール君の話通り、2人が実際に出会い、語らい、お互いを知った結果として『この人と一緒に過ごしてみたい』と思うなら分かりますが、
   ただ通りすがっただけの人間を見ただけで果たしてそんなに交流したいとまで願いますかね?」

ルコア「そこはそれ、ドラゴンの高い推察能力で、話さなくても小林さんのひととなりを察知できた可能性もあるんじゃないかな」

滝谷「便利ですねえドラゴンの高スペック。だけどそもそもシミュレーションなんてしてる余裕あったんですかね?」

ルコア「……ふむ?」

滝谷「世界そのものの精確な脳内シミュレーション一年分、なんて、いくらドラゴンの脳がスパコン並みに凄くとも、
   実行するにはそれなりにエネルギーが必要なはずだ。瀕死の重傷を癒す為に休眠した、にしては妙に余裕ありすぎでしょう」

ルコア「………………」

トール「………………!」

滝谷「それに、一年で傷を癒して目覚めたって言いましたけど……
   トール君を貫いていたっていう神の剣とやらはどうしたんですか? 神の剣という位だ、ただの剣じゃないんでしょ?」

ルコア「……ああ。トール君を貫いた剣は、剣の形をした神の権能の一部。
    魔に属する竜を殺すという概念そのものであり、刺さっている限り竜の命を蝕み続けるだろう」

滝谷「そしてトール君の話では、自力で剣を抜くのは不可能だったと言う。なら、一年放っておけば傷が癒えたというのも疑わしい」

滝谷「そしてよしんばトール君が底力を発揮して、眠っている間に神の剣を自力で抜き、傷を癒したのだとして……
   それなら今朝のトール君は、その山の中で目覚めていないとおかしい筈だ。けど、そうではないんでしょトール君?」チラッ

トール「え…… あっ、はい! 結局昨夜から今朝まで一晩中、私は空を飛び回ってた、はずで……」

滝谷「――だ、そうですが?」

ルコア「――――面白い人だね、君」ニィッ

滝谷「ふふ、よく言われます」ニコッ

185 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:36:41.46 ID:Mi2UAr//0

ルコア「――ま、実際仰る通り、僕の仮説も穴だらけさ。わざわざ超越的な敵を想定するよりはまだ現実的かな、と思って言ってみただけでね」フッ

滝谷「まあそこには同意しますよ。本質的な差異は『トール君と小林さんが出会ったかどうか』の一点のみ、というのは鋭い着眼点だと思いますし」ニコッ

ルコア「ありがとう。……そして本当に申し訳ない、トール君。憶測で無駄に君を怖がらせた形になった」ペコリ

トール「いえっ! 仮説を立てて検証するのは辛くとも必要な過程ですし、
    むしろ言い辛い事を言う役を担って頂いてこっちこそすみませんと言うか……」ワタワタ

ルコア「……ありがとう。その優しさに、改めて感謝を」フフ

トール「よして下さいっても〜!」テレテレ



小林(――お疲れ、滝谷君。はいお茶)スッ ヒソヒソ

滝谷(ああ、ありがとう小林さん)カチャ

小林(すごいじゃん、ドラゴン相手にも全く怯まずに舌戦とか、ガチの英雄じゃん)ケラケラ

滝谷(いやいや、内心心臓バクバクの冷や汗ダラダラだよ? ほら見てこの手汗)ジットリ

小林(でも、トールちゃんの為に頑張ったんだ? やるじゃん)フフ

滝谷(いや、そんなカッコいいもんじゃ……)

小林(二人共、似た者同士なのかもね。滝谷君とルコアさん)

滝谷(んーそうかい? ……そうかもね)ズズー

186 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:39:27.35 ID:Mi2UAr//0

――――――――――

トール「……でも、そうなると結局……」ウーン

ルコア「うん。振出しに戻っちゃったかなー……。ちょっと僕もすぐに次の仮説は浮かばないや」

滝谷「少し、皆で考える時間を取りますか」

トール「そうですね……」



一同「………………………………」ウーン



終焉帝「……………………」フム



小林(うーん、第3の仮説ねえ……)ムムム

小林(何か、もう少しな気もするんだけど……)



ルコア『――わざわざ超越的な敵を想定するよりはまだ現実的かな、と――』

滝谷『――まあそこには同意しますよ――』



小林(わざわざ敵を想定するよりは―― 確かにそうだ。今回の事態を説明するのに、現状必ずしも敵は必要ない)

小林(あくまで敵意のない、事故や現象と考えた方がよりすっきりする気がする……)



ルコア『――君の記憶は決して偽物という訳ではない。ただ、現実の出来事ではなかっただけで――』



小林(それは…… 本当にそうか? 確かにトールちゃんの記憶と私達の記憶は決定的に異なってはいるけれど……)



滝谷『――本質的な差異は『トール君と小林さんが出会ったかどうか』の一点のみ、というのは鋭い着眼点だと思いますし――』



小林(そう…… 違うのは一点のみ。でも“違う”という事と、“どちらかが間違っている”という事は本当にイコールか……?)

小林(くそ、もう少し、後ほんの少しな気が……。それこそ、私はこういうのを良く知っている様な……)

小林(う〜〜〜〜〜ん………………………………)



ルコア『――“有り得たかもしれないもう一つの世界”――』



小林「!!」

187 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:42:13.82 ID:Mi2UAr//0

――――――――――

一同「………………………………」ウーン

終焉帝「……皆の者。少し良いか――」

小林「――分かった」ポツリ

終焉帝「む?」

トール「小林さん?」

滝谷「分かったってまさか……」

小林「うん。私、分かったかも、今の状況がどうなってるのか」

一同「………………!」ザワッ

終焉帝「ほう……」

小林「って、あ、すいません。何か言いかけたのを遮っちゃいました? どうぞお先に――」

終焉帝「いや、構わない。其方の考えを語ってみよ。人間の淑女よ」

小林「しゅ、淑女……!? あ、その、では僭越ながら……」テレテレ

小林「ン、ン゛ッンー(咳払い)、アーアー…… スーハースー……」



一同「……………………」ジー



小林(うう、全員に注目されると、緊張するな……)

トール(小林さん、ファイト!)グッ

小林「スーハー…… よし。コホン」

188 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/03/27(月) 22:47:59.84 ID:Mi2UAr//0

小林「――昔のある哲学者が言ったとされる言葉にこんなのがあります。『ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきではない』」

滝谷「いわゆる『ベッカムの髪切り』というやつだね」

小林「いや『オッカムの剃刀(かみそり)』ね。それだと有名人が散髪してるだけだからね」

滝谷「ヘアスタイルは哲学……!」キリッ

小林「はいはい、無理に緊張ほぐそうとしなくて大丈夫だから。話進めるよ」

滝谷「はい(´・ω・`)」しょぼーん

小林「……さて、その言葉に従うなら、さっきルコアさんが言った様に、証拠もないのに無闇に敵を想定するのは合理的ではない事になります」

トール「はい。先程のルコアさんのシミュレーション仮説の様に、半ば事故的に発生した事態である可能性だってあるのですもんね」

ルコア「ああ。だが僕の仮説では結局、記憶の差異について上手く説明できなかった。
    小林さんはこの記憶の差異についてどう考えてる? どちらが正しい記憶だと?」

小林「そこです、私が疑うのは」ビシッ

ルコア「ん?」

トール「と言うと?」

小林「私達は無意識の内に、こう思い込んで、もう一つ不必要な仮定をしていたんじゃないですか?
   『トールちゃんの記憶と私達の記憶、二つの記憶に明確な差異があるなら、それは少なくとも一方が間違っている』と」

ルコア「…………!」ピクッ

トール「……? え、でも、それは当然の前提では? だって実際二つの記憶は互いに矛盾していて、両方が成り立つ事は……」

小林「勿論、普通に考えればその通りだ。現実に起きた出来事が一通りだけであれば、その正しい記憶も一通りだけが当たり前……」

小林「でも、そうではない場合があるとしたら? トールちゃんの記憶と私達の記憶、どちらも間違ってない正しい記憶である可能性もあるとしたら?」

トール「……!? 小林さん、それは一体……?」

小林「一見矛盾する二つの記憶が両方とも成り立つ場合…… それは、その二つが実は、別々の対象について述べていた時だ」

トール「どういう……意味ですか」ゴクッ

小林「………………………」

トール「……小林さん?」

小林「……その、うん。まあまだ証拠もないただの仮説だから、話半分で聞いてもらっていいんだけど……」ゴニョゴニョ

トール「……言いにくい事なんですね? 多分、また私にとってショックな内容だから」

小林「う゛。その…… はい」コクリ

トール「大丈夫ですよ小林さん、その優しさだけで充分です」フルフル

トール「今更遠慮は要りません。さあ思い切り言って下さい、ラグナロクを告げる予言の巫女の様に!」ドーン

小林「いや、そこまで破滅的な内容ではないよ!? ……でも、うん、分かった。変に濁さず、まっすぐに言うよ」コクッ

トール「はい!」ニコッ

小林「――よく聞いて、トールちゃん。私はきっと、君の知っている“小林さん”じゃない。
   君の知る“小林さん”ととても良く似ているけれど、厳密には別の存在」

小林「それは他の皆、滝谷君やドラゴンの皆さんも…… そしてこの世界すらも同様で、“そっくりさん”に過ぎないんだと思う」



小林「――この世界はきっと、トールちゃんにとっての並行世界なんだよ」

189 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2023/03/27(月) 22:53:39.58 ID:Mi2UAr//0
ちょっと切りが悪いですが、今回はここまで。また出来次第更新します。
それでは〜。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/04/30(日) 10:15:27.51 ID:uk5drgDt0
気付きな反発探す絵織物買ってダイイングッズメッセージ考える気付きな役立つけど届きましたですも役立つ影響で有為形跡考えるもある ❗️クスノックス気付いた心が軽いシャンクスのかです影響拡大する受けたきゃdせる申し訳した心が軽いシャンクスの‼️半の心が2年後大昔考えるも離れた?受けた心が軽いシャンクスのか悪い関わる心が軽いシャンクスの‼️気付きましたバシッ証拠心が心が軽い清原着いた気付きました?セメント買ってもある ❗️クスノックス❗️偽考える気付きな反発探す特別なんqが戻るキャンセル料買ってダイイングッズメッセージのか悪い関わる心が軽い心臓病買ってですけど届きましたですもある 本物虚実寝な無い無い寝な無えな❗️クスノックス気付いたサカズキ見抜けた水瓶座の‼️気付きました変わりました?セメント買ってダイインがあった真実味があったですけど届きました?受けた心が軽いシャンクスが永い言ったけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロ漫画があった敗れた去ったアスランエアがあった敗れた去ったエロ漫画があった敗れた去った?受けたいじめたも離れた嫌い同士島があったけど次考える心が軽い青そうです心が心が軽い警察庁があった敗れた去ったエロ漫画考える気付きな役立つpも重いもある 本物考える心が考える気付きな心が心が軽い警察庁の‼️後に役立つ受けた敗れた去った昆布拓未があった敗れた67探す絵織物考える気付きな‼️気付きました変わりました?セメントがあった敗れた去ったアスランエア考える心がスキン考える気付きな‼️後に入れるけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロ漫画考える気付きな‼️気付きました変わりましたけど本物冷酷冷淡な心が戻るもない悪いでしょうかを受けた?偽があった心が心が軽い警察庁信のかですも役立つけど届きました後の野と後に役立つ受けた敗れた去った昆布拓未大佐は‼️気付きは戻るキャンセル料があった真実味があった真実味考える心が軽い青そう空があった真実味考えるもある 4434rdgジぇr5しlyシャーロックホームズがあったけど届きました?受けた気付きましたけど本物冷酷冷淡ズキンズキン無効清原秀晃霊時代60年前から59年相違年後99最後があった歳99歳エロが病死探す絵織物考える心が軽い青空老?今日があった?受けた暴くにするも首が横フリフリ❗️動くも動いた?セメントの‼️気付きました変わりましたけど本物冷酷冷淡ズキンズキン無効清原秀晃霊永橋で影響で清原秀晃霊考える心が軽い青空考える気付きな役立つ受けた敗れた去った昆布拓未大佐に戻るキャンセル料にするも入れる今日考える心が考える心がスキン考えるズキンズキンは‼️半の心が軽い青空暴かれたにする受けた敗れた去った昆布拓未役立つ影響で清原秀晃霊役立つ受けた敗れた空信lyショー無図ホームズ影響で清原秀晃霊役立つ受けた悪行を暴かれたにするけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロです影響拡大した心が買う塁約束通りを嫌な感覚があった?受けた受けなさい?今日今は‼️後に行った同盟全知全能ホームズがあったけど本物冷酷冷淡ズキンズキン無効清原着いた気付きました変わりました事件考えるズキンズキンエロ漫画のかは戻るキャンセル料があった?受けたホームズ霊影響で清原秀晃霊があったけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロが戻るキャンセル料考える心が軽い青そう空があった心が軽い青そう空考えるズキンズキン無効清原秀晃霊買ってです影響拡大探す追加探す特別な心が軽い悪行もない暴かれたにする後に入れるも入れるけど本物冷酷冷淡ズキンズキンエロ漫画があった心が心が軽い警察庁があった?受けたホームズがあった心が心が軽いホームズゴースト影響で清原秀晃霊役立つも受けた特許清原考えるズキンズキンエロ漫画考える気付きな心が心が軽い後に行った距離考える気付きな‼️気付きましたバシッ証拠考える気付きな‼️気付きましたバシッ証拠考える本物冷酷冷淡虚実があった?受けたにする受けたにする後に役立つ影響で清原秀晃霊があった大昔考える本物冷酷冷淡❗️クスノックス気付いた心が心が軽いも形跡があったけど本物冷酷冷淡残した事があるけどフォン多いでしょうかを買う塁があった心が軽い青そう空があった真実味があったです影響拡大探すも受けた?偽考える気付きな心が心が軽いも役立つけど届きましたです影響拡大で清原秀晃霊考える暴かれたにする受けたけど届きました後のも永い三回3回に役立つ影響で清原秀晃霊があった敗れた去ったアスラン大根があった真実味感gら他があった敗れた去ったアスランエア霊があった敗れた67探す特別な心が考える気付きな‼️気付き気付きなした気付きました暴かれたにする受けたにする広まるも受けた欠かされた素直に戻るキャンセル料ズキンにズキンズキンエロ漫画考える
191 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:06:05.28 ID:BsrFHKfa0
こんばんは。また少し更新していきます。
192 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:07:44.39 ID:BsrFHKfa0

小林「………………………」

トール「………………………」

小林「……あれ? 何か反応薄いね」

トール「あ、いえ、その……」モジモジ

トール「……すみません、“並行世界”って何ですか?」エヘヘ……

小林「へ?」ポカン

トール「失礼ながら聞いた事が無くて……。
    この世界とは違う世界の事で、かつ私達の世界とも違うものなのかな〜というのは何となく分かるんですが……」

小林「え? ほんとに知らないの? 他の方達は?」

エルマ「……すまないが、私も聞いた事がない」

カンナ「私もー」

トール(あ、良かった私だけではない……)ほっ

ルコア「僕は魔術書とかで概念だけなら読んだ事あるかな〜」

ファフニール「俺も聞き覚えぐらいはある。噂程度だがな」フン

終焉帝「私も同じ様なものだ。あちらの世界では仮説として提唱されてはいるが、実在を証明されてはいない…… 少なくとも私の知る限りはな」

小林&滝谷「へ〜……」

ルコア「むしろこちらの世界にも同様の概念があるのに驚いたよ。もしかして、こちらの世界では実証されてたりするのかい?」

小林「へ!? いや、すみません私達もそんな専門家並に詳しいって訳じゃなくて、あくまで概念として何となく知ってるだけと言うか……」ワタワタ

滝谷「分岐世界や可能世界、多元宇宙や代替宇宙とか、色々呼び名はありますが……。
   あくまでこちらの世界でも想定されているだけで、実証とかはされてなかったと思いますね」

ルコア「ふ〜ん?」

トール「博学なのですね、お二人共……!」オオ〜

小林「いや、博学っていうか、創作物でよく見るテーマだから馴染みがあるだけっていうか……」ポリポリ

トール「?」

ルコア「――とりあえず、この事態の解明の前に、まずは並行世界についての説明が必要な感じかな?」

トール「はい、お手数ですが、よろしくお願いします!」フンス

エルマ「私も、よろしく頼む」ペコ

カンナ「たのむー」ペコ

小林「え〜、上手くできるか自信ないんだけど……。分かりました、頑張ります……」

193 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:10:03.34 ID:BsrFHKfa0

小林「え〜と、並行世界っていうのは、私達のいるこの世界とほとんどそっくりで、けれど少し違う別の世界の事で……」

エルマ「そっくりな別の世界……? その“そっくり”というのは、どの程度を指すので? 陸地や都市の形が似ているという感じか?」

小林「いや、それもですけど、住んでいる人間や他の生命もほぼ同じ……
   そうですね、例えばこの世界に私が存在している様に、並行世界にも私と姿も記憶も人格もほぼ同じ、
   “もう一人の私”が存在しているってレベルでそっくりって事です」

エルマ「同一人物が存在……?」

トール(小林さんがもう一人……!? なんてお得……じゃなくて!)

トール「つまり、この世界と双子の様に瓜二つの世界がある、って事ですか?」

小林「うん。あくまで“あるとされてる”ってぐらいだけど……」

エルマ「それは…… 何者かがその様に用意した世界という事か?」

小林「え? いや、誰かが意図的に創った特別なものって訳でもなく、自然に存在するものっていうか……」

エルマ「自然に? 世界は原初の神々によって創世されたものだろう? それともこちらでは違うのか?」

小林「へ? あ〜、神様が実在するならその考えも確かに妥当…… というかそっちの世界ではそれが事実なのかな? え〜とこっちだとビッグバンとか……」

エルマ「ビッグパン? 大きなパンか?」ジュルリ

小林「あー………………(宇宙創生についての説明とかできる自信がないし面倒臭い)」

小林(……助けて、タキえも〜ん……!)チラッ

滝谷「!(しょうがないなあ、こば太くんは……)」フフッ

滝谷「……並行世界論にも色々あるからね。あくまで概念が掴めればいいだけなら、ここは独立型じゃなくて分岐型で説明した方が話が早いんじゃないかな」

トール「分岐型?」

滝谷「うん。始まりの世界は唯一であっても、時間と共に世界が複数に分岐し、並立していくという考え方さ」

滝谷「『あの時、もしも違う選択をしていたら、今の自分はどうなっていただろう?』と思った事はないかい?
   並行世界は、その“もしもの可能性の世界”が、次元を越えて実際に存在していると仮定するものさ」

エルマ「もしもの、もう一つの世界……」

トール「……いえ、“もしも”なんていうのは世界に生きる命の数だけ、それこそ無数にあるはず。なら……」

滝谷「その通り。詳しく言えば、並行世界は無数にある“もしも”と同じ数だけ存在していると言われている」

エルマ「無数の、世界……!?」

トール(無数の、小林さん……!!? 超お得…… って、そうでもなくて!)ブンブン

滝谷「勿論、“もしも”と言っても大小様々だ。歴史が変わる様な大きな“もしも”から、日常のほんの些細な“もしも”までね」

カンナ「じゃあたとえば、『あの日私は川に遊びに行ったけど、ヘーコー世界では代わりに山に遊びに行った私もいるかも』ってことー?」ハーイ

滝谷「うんうん。そういう事だね」ニコッ

エルマ「『あの日私は肉料理と魚料理、どちらを食べるかで悩んだ末に肉料理を選んだが、並行世界には魚料理を食べた私がいるかも……』という事だな?」

滝谷「うん…… うん? まあ、それもそういう事だね」

エルマ「くっ、羨ましいぞ私……!」ジュルリ

滝谷「あ、例えじゃなくて実体験の話?」

194 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2023/05/29(月) 23:14:32.80 ID:BsrFHKfa0

トール「――そうか。そして同様に、『1年前に、もしも私と小林さんが出会ってなかったら』というその“もしも”が……」

小林「……うん。今、私達がいるこの世界なんじゃないかって話」

トール「なる、ほど……。人も歴史もとても良く似ているけど、少しだけ違うもしもの世界……。
    似ているだけで実際は異なる世界だから、記憶が食い違うのも当然、と……」

トール「……じゃあ、それが正しければ、ここにいる皆さんは、私の知る皆さんとよく似ているけれど、実際には……」

小林「そう。あくまでよく似ているだけの“そっくりさん”という事になる」

トール「………………………」シーン

小林「……その、ごめんね。やっぱりショック……」

トール「え? ああ、いえ、確かにショックはショックなんですけど、そうじゃないというか……」フルフル

小林「え?」

トール「精神的ショックの方は、もう予めしっかり心構えさせてもらってたのでそんなではなくって」

小林「あ、そ、そう? 良かったけど、じゃあ押し黙ってたのは一体……?」

トール「その…… まだ少し違和感があるというか」

小林「違和感?」

トール「はい。並行世界の仮説は、確かに前二つの仮説にあった矛盾点がきれいに解決できてて、きっと正しいんだろうなと私も思うんですけど……」

トール「……けど、それは私達の世界と、どの様に違うんですか?」

小林「ん? と言うと……?」

トール「えっとその、私達ドラゴンは、次元を越えてあちらの世界とこちらの世界を行き来できる訳じゃないですか。
    もし他にも世界があるとしたら、どうして今まで同様に行き来できていないのかな、と思って」

小林「……あー、確かに。異世界転移が出来てて、並行世界移動は今まで出来てない理由かあ……」

滝谷「なるほどねえ……。僕もちょっと、すぐにはピンと来ないな……」ウーン

ルコア「――じゃあ、並行世界をもう一段階上の区分だと考えるのはどうかな?」

トール「ルコアさん?」

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