小林「あなたは……誰ですか?」トール「……えっ?」【小林さんちのメイドラゴンSS】

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247 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:05:04.93 ID:r52j5KEa0

トール「あ、夕食と言えば……。昨日の夕食、どうでした?」ボソリ

小林「え?」

トール「その、お口に、合っていたかなって……」モジモジ

小林「そりゃもちろん、美味しかったよ〜!」

トール「…………!」パアッ

小林「味良し、量良し、栄養バランス良しで大満足の料理だった。ここ数年で一番ってくらい!」

滝谷「高級料理店もかくやという程美味しかったね。毎日食べたいと思ったよ」

小林「カンナちゃんやエルマさんも美味しそうに頬張ってたよね。
   あのファフニールさんも、料理漫画の解説役みたいな長台詞喋りながら食べ続けてたし」

トール「……ありがとうございます!」エヘヘ

トール(――ほら、大丈夫! 尻尾肉さえ入れなければ、普通に美味しく食べてもらえる!)

トール(……私の世界の小林さんにも私の料理、今度こそ食べて、喜んで頂きたいな……)

トール(……いや、食べてもらうんだ! 必ず帰って!)ムン

248 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:06:01.54 ID:r52j5KEa0

テクテク テクテク……

【滝谷宅近くの公園】



トール「――皆さ〜ん! お待たせしました!」

カンナ「あ。トール様きたー」パタパタ

エルマ「ああ、来たかトール」

ファフニール「……フン」

トール「あれ、ルコアさんとお父さんはまだですか?」

エルマ「ああ。とは言え予定時刻までまだ間はある。じき来られるだろう」

カンナ「トール様ー、昨日はごちそうさま。美味しかったー」ピョンピョン

トール「は〜い、ありがとうございます、カンナ」ナデナデ

エルマ「ああ、馳走になった。毎日食べたいくらい、美味だった」

トール「おや、あなたも随分気の利いた世辞を言う様に……」

エルマ「本気だぞ?」ズイッ ジュルリ

トール「そ、そうですか…… まあ、あなたならそうですよね……。今日もお弁当作ってきたんで、後であなたも食べて良いですよ」

エルマ「本当か!? 約束だぞ!!」グウウゥゥ

トール「今から腹を鳴らさないで下さい!」

ファフニール「確かに美味だった。お前の事を多少侮っていた様だ」スッ

トール「ファフニールさん?」

ファフニール「だが調子に乗るなよ。俺はまだお前を認めた訳ではない!
       素材や調理法から拘り直し、至高の一品を仕上げてから、再び挑んでくるが良い!」ゴゴゴ

トール「どういう立ち位置からの発言なんですか……」

249 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:06:53.69 ID:r52j5KEa0

ブウン



トール「! っと、二人もご到着ですか」

ルコア「皆、お待たせ〜」スタッ

終焉帝「…………………………」ザッ

小林「おお、虚空に現れた魔法陣から二人が……」ホヘー

滝谷「空間転移か……。やっぱ便利だねえ〜魔法、楽ちんそうでいいなあ」ホウ

トール「いえ、確かに転移魔法は便利ですが、そう楽ばかりでもないですよ」

小林「そうなの?」

トール「空間に影響を与える都合上、結構外界からの干渉を受けやすくて、
    他の魔法以上に繊細な操作が必要でして。単純に習得難度も高いですし……」

カンナ「わたしもテンイはできない。あとエルマ様も」

エルマ「あ、こら! 余計な事を!」ワタッ

小林「じゃあ二人は今回、他のドラゴンの方に連れてきてもらって?」

カンナ「うん、ルコア様に連れてきてもらったー」

トール「幼いカンナはともかく、エルマはもうちょっと頑張った方が……」

エルマ「う、うるさい! 向き不向きがあるんだ、空間の繋がりを乱す転移魔法は調和勢の者として感覚的にちょっと苦手で……」ゴニョゴニョ

トール「ふ〜ん、どーだか」ジトー

エルマ「む、むう〜〜〜……!」プルプル

ルコア「あはは、まあまあ――」



ギャイギャイ――

250 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:09:28.86 ID:r52j5KEa0

――――――――



ルコア「――さて、楽しいおしゃべりもそこそこにして……、本題に入ろうか」パンッ

トール「はい」

エルマ「う、うむ。お願いする」

ルコア「よし。では、出発の前に一度、改めて状況を確認しておこうか」

ルコア「昨日の話し合いによって導かれた現状に対する仮説は、この世界は今ここにいるトール君にとっての並行世界であり、
    トール君は“この世界のトール君”と引き合った事でやって来たという事」

ルコア「その仮説を検証する手がかりを得る為に、“この世界のトール君”が最期を迎えただろう場所、
    即ち1年前トール君が落ち延び、小林さんと出会ったという山に向かう……、というのが今回の目的だ」

トール「はい、承知してます!」フンスッ

ルコア「うん、良い意気だね。道中、トラブルが無いとも限らない。皆、気を引き締めていこうか」ニコッ

トール「はいっ!」グッ
エルマ「うむっ!」ムン
カンナ「おー!」ピョン

終焉帝「……………………」コクリ

ファフニール「フッ、誰にモノを言っている」フンッ

ルコア(……一番心配しているのは君の事なんだけどな〜……)ボソッ

ファフニール「? 何か言ったか?」ジロッ

ルコア「いや、何も♪」ニコ〜



トール「――特に小林さんと滝谷さんは脆弱……もといか弱い人間なのですから、無茶はせず、私達から離れない様にして下さいねっ!」ズイッ

小林「ぜ、脆弱……」アハハ……

滝谷「まあ、ドラゴンと比べたら人間が弱いのは事実だから……」フフ……

トール「あ、いえっその、そういう嘲りとか茶化しとかの意味ではなく、そのっ――!」ワタタ

小林「?」

トール「――二人共、事ある毎に無茶しがちな方達なので、心配で、その――」オズッ

小林・滝谷「「――!」」

小林「――ありがとう、トールちゃん」ギュッ(手を握る)

トール「!」

小林「約束するよ。無茶はしない。ちゃんとトールちゃん達の事、頼りにするから」ニコッ

トール「……! はいっ、頼って下さい!」ギュッ

滝谷「ああ、いざという時は脇目も振らずに全力で背後に隠れさせてもらうから、よろしくね!」グッ!

トール「そ、それはそれで絵面がどうなんですか……」

251 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:10:13.95 ID:r52j5KEa0

ルコア「じゃあ早速だけど、トール君と小林さんが出会ったという山まで移動しようか」

トール「はい、小林さん達の為にも、できれば日帰りで終わらせたい所ですし!」

滝谷「ハハハ、まあその為に無茶をして欲しくはないけれど」ハハハ

小林「そうなって頂けると仕事的にぶっちゃけ助かるね」アハハ

トール「ええ! では、時間も勿体ないし転移魔法でサクッと行きましょうか。私が準備しますね!」

ルコア「よろしく頼もうかな」

トール「行きますよ〜……!」



ブオンッ!(魔法陣を展開)



トール(行き先をイメージ! 魔法陣の大きさ等の諸条件を設定……!)



ブオン ブオン チキチキ……



トール(後は術式の定着、空間への固定――ッ!?)

ルコア「っ!」



ブオン ブオ ……バチンッ!



トール「わっ!?」

小林「魔法陣が壊れた!?」

滝谷「これは一体……」

252 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:11:07.46 ID:r52j5KEa0

トール「な、何かミスっちゃいましたかね……。もう一回!」ブオンッ



ブオンブオン――パキンッ!



トール「駄目だあ……。何でえ……?」

ルコア「待ってね、僕も一応やってみよう」ブオンッ



ブオンブオンブオン――バチンッ!



トール「ルコアさんでも失敗……?」

ルコア「うーん、これは……」

ファフニール「悩むまでも無いだろう。妨害されている」

トール「妨害!?」

ルコア「――うん、魔法陣の不備という訳でもないのに、術式が特定処理中に突然壊れるこの感じ……」

ルコア「対抗魔法による妨害……。それもこの感じだと、転移先からの妨害を受けている様だね」

トール「転移先? って事はつまり、これから向かおうとしてる山から……?」

滝谷「それって、まさか……」

小林「“この世界のトールちゃん”が……?」

253 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:11:38.15 ID:r52j5KEa0

ルコア「う〜ん、これだけだと誰が、というのはまだ分からないけど……。ただ、何者かが干渉しているのは間違いないかな」ポリポリ

ルコア「前に捜索の為この辺りに来た時は、こんな事はなかったはずなんだけど……」ムムム

ファフニール「状況が変わったのだろう、このトールがこの世界にやってきた事で」

トール「状況……。何者であれ、並行世界から来た私に山へ来ないで欲しい存在がいる、という事ですね?」

滝谷「ん? それって、逆を言えば……」

小林「うん、“私達にとって重要な手がかりが山にはある”って示してる様なものかもね」

エルマ「っ! 成程……」

トール「……これは尚更、山に行かなくてはなりませんね」グッ

254 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:12:20.48 ID:r52j5KEa0

ルコア「転移魔法が使えないなら仕方ない。予定変更して、空を飛んで直接現地に向かってみよう」

トール「はい、繊細な転移魔法は妨害できても、ドラゴンの直接突破を止められるモノはそうそうありませんから!」ビシッ!

滝谷(なんて力こそパワーな物言い……!)
小林(流石ドラゴンって感じだね)

ルコア「さて、そうなるとちょっと、組分けが必要かな?」

トール「あ、確かに。人間のお二人は、誰かの背に乗って頂かないと……」

小林「あ、じゃあトールちゃんに頼んでもいい?」

トール「はい、それでお願いします」

ルコア「ああ、それとカンナも」

カンナ「わたしも?」キョトン

ルコア「うん、カンナはまだ皆の飛行速度に付いていけないだろうから、今回は僕の背中に乗って。いいかな?」

カンナ「は〜い、りょーかい」

トール「――ふむ。そうなるとエルマ、あなたは大丈夫なんですか?」

エルマ「何?」ピク

トール「いや、水竜のあなたじゃ泳ぐのは得意でも空飛ぶのは比較的苦手でしょう?」

エルマ「な、何をぅ!? 侮るなよ! 大陸間移動ならともかく、数都市程度の距離の飛行、何の問題もない!」フンスッ

トール「そ、そうですか……(侮るとかではなかったけども)。じゃあ、心配無用ですね」

エルマ「おおともっ!」フンッ

255 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:13:06.70 ID:r52j5KEa0

ファフニール「フン、俺は無論一人で飛んでいく」

終焉帝「うむ、私も自力で――、ゴホッ、ゴホッ――」ゲホゲホ

ルコア「ああ、終焉帝もまだご無理せず! どうぞ僕の背に――」

トール「あ……」チラッ

終焉帝「むう……」

トール「……………………」モジモジ

滝谷「(むっ? トール君の様子が……) ……はっ――!」ピキーン

滝谷(むふふ、成程……。ならばっ!)スッ カチャ……

滝谷(眼鏡ON)「――いや〜折角なので、オイラはファフニール殿の背中に乗せてもらうでヤンス!」

トール「え?」
小林「滝谷君?」

ファフニール「は? なぜ俺が下等な人間を背に乗せなければならん」ブスッ

滝谷「いやあ、さすがにドラゴンとは言え、女の子のトール君の背中に乗るのは気が引けるというか……」ハハハ

ファフニール「俺なら良いとでも?」ズオッ

滝谷「そうカッカせず〜。いいじゃないでヤンスか〜、昨夜男同士で肌を重ねて親睦を深めた仲でしょ〜?」クネクネ

ファフニール「気色悪い言動をするなッ!」イラッ

トール「え、お二人共、そんな事を昨夜……?」ヒキッ

ファフニール「待て。誤解をするな、肌を重ねてと言うのは爪を突き立て――」

滝谷「…………!」チラッチラッ(ルコアへの目配せ)

ルコア「……? っ――!」ピコーン

ルコア「え〜? 爪を突き立て衣をはぎ取り、一糸纏わぬ裸体で交わり……!? わ〜ファフニール君ってばダイタン♡」ウフフ

ファフニール「ケツァルコアトル、貴様は解って言っているだろう! 巫山戯るのも――」グルル

256 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:14:21.81 ID:r52j5KEa0

ルコア「滝谷君が移るというなら、終焉帝はトール君の背に乗られては? 折角の機会ですし」ズイッ

トール「!」

ファフニール「おい、無視す――」

終焉帝「……構わん。好きに配するが良い」

ルコア「ええ! それではトール君、頼めるかい?」

トール「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします……」ドキドキ

ルコア「よし。じゃあ、組分けも決まった事だし、早速出発しようか!」

カンナ「はーい。ルコア様、よろしくー」テトテト

ルコア「うん、よろしくね〜♡」ギュッ

ルコア「じゃ、皆も付いて来てね! あ、認識阻害も忘れずに!」ズズズ……

ファフニール「おい聞――!」



ブアッ! バシュンッ!



小林「うおっ!(一瞬で空にかっ飛んでった!)」ゴオッ

ファフニール「ッツ……! 舐めた真似をッ!」ガシッ!

滝谷「ヤンス?」(ファフニールに掴まれる)

ファフニール「癪だが仕方ない、乗せて行ってやろう……。とにかく早急に奴を追うぞ!」ズズズ……

滝谷「おお、ありがたい! それでは小林殿、トール殿、我らはお先に――」

ファフニール「フンッツ!!」バシュンッツ!

滝谷「ヤンスーーーーー!?」キーン……(フェードアウトする悲鳴)

トール「滝谷さん……」

小林「良い奴だったよ……」

257 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:14:58.84 ID:r52j5KEa0

エルマ「――よし、では私も出立する。現地でまた会おう!」ズズ……

バシュン!



トール「えっと……。じゃあ、私達も行きましょうか。あ、小林さん、移動の間、籠を持ってて頂いても良いですか?」スッ

小林「あ、了解」ヨイショ

トール「よろしくお願いします。それでは……」ズズズ……

トール(竜形態)「――さあ、二人共、乗って下さい」ズズン

終焉帝「……うむ」ザッザッ

小林「うん……、よろしく」ウンショ

トール「……よし、乗りましたね? じゃあ行きますよ――」グググ

トール「――えいっ!」バシュンッ!



………………

258 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:16:14.97 ID:r52j5KEa0

【市街上空・ファフニール組】

ゴオオオオ……



滝谷「――きゃー、サラマンダーよりずっとはやーい!」キャッキャッ

ファフニール(竜形態)「――ム、待て。サラマンダーとは誰だ、ドラゴンの名か?」ピクッ

滝谷「へ?」

ファフニール「お前、以前にもドラゴンに乗った事があるとでもいうのか?」

滝谷「あ、いや今のは有名なゲームに出てくるセリフであって……」

ファフニール「遊戯《ゲーム》だと? 要は飯事(ままごと)の台詞か?
       つまり俺の飛行は児戯と比べる程度のものだと、そう言うつもりか貴様?」ゴゴゴ

滝谷「も〜、何でもネガティブに捉え過ぎでヤンスよ〜?
   これは幼き日に夢想した憧れと今を重ねて感動しているのだ、と思って欲しい所ですな〜」ナハハ

ファフニール「チッ、口だけは回る道化だ……。今も、先程もな」

滝谷「? と言うと?」キョトン

ファフニール「とぼけるな。出発前のお前とケツァルコアトルの三文芝居の事だ」

滝谷「――ほう?」

ファフニール「あまりに強引に話を進める故に仕方なく乗ってやったが、何のつもりだあれは」

滝谷「はっは、お見通しでヤンスか。流石ファフニール殿、荒い言動に対して気配り上手」ハッハッハ

ファフニール「はぐらかすな!」ゴオッ

滝谷「はっは――いや何、トール殿が御父上――終焉帝殿と、何やら話をしたそうに見えたものでしてな」

ファフニール「む…………」

滝谷「今日の調査の具合によっては、ゆっくり話をする時間などもうないかもしれない。
   なら、少ないチャンスを無駄にせず、悔いのない様に言いたい事を吐き出してほしいと愚考した次第で」ナハハ

ファフニール「フン、物好きなものだ」

滝谷「いやいや、ファフニール殿には負けるでヤンス」

ファフニール「減らず口を……」

259 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:17:18.00 ID:r52j5KEa0

滝谷「……しかしあれですな、話してみると、ファフニール殿は中々面白いでヤンスな?」ニヘッ

ファフニール「……何だと?」ピキッ

滝谷「小林さんの、呆れながらも返してくれる温もりある対応とはまた別の、
   打てばその分返ってくる様な、やや天然が入りつつもキレのあるツッコミ……」

滝谷「同性だからですかな? 変に気兼ねなく喋れるのも心地好い……」

滝谷「ですので、親愛を込めて“ファフ君”と呼んでいいでヤンスか?」ニカッ

ファフニール「――――は?」プッツーン

滝谷「ねえ〜、良いでヤンショ〜、ファフ君〜?」スリスリ

ファフニール「…………フ、フフフフフ…………、いいだろう」

滝谷「おお、マジデ!? 言ってみるもんで――」

ファフニール「――この俺に向かって選りにも選って親愛とはな。真意は兎も角、俺を舐めている事は良く分かった……」フルフル

滝谷「へ?」

ファフニール「怒りが一周回って興が乗った。ほんの少しだけ、本気を見せてやる――死にたくなければ死ぬ気でしがみ付いていろ」ゴゴゴ

滝谷「え、ちょ……」

ファフニール「……フンッ!!!」(スピードアップ)ゴォッ!

滝谷「ヤンスーーー!?」ガシィー



キーーーン……

260 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:18:05.87 ID:r52j5KEa0

………………



【市街上空・トール組】

ゴオオオオ……



トール「………………」

小林「………………」

終焉帝「………………」



ゴオオオオ……



トール「……あ、小林さん」

小林「……へっ!? う、うん何?」

トール「あ、いえ、椅子の座り心地は大丈夫ですか?」

小林「あ、ああ、この背中に出してもらった、鱗を変形させているっていう椅子? うん大丈夫、丁度腰にフィットして快適だよ」

トール「そうですか。何か気になればすぐ言って下さいね」

小林「うん、お気遣いありがとう」

トール「はい。……あ、その……」

小林「?」

トール「お父さん、の方は……、大丈夫ですか?」オズオズ

終焉帝「む…………」ピク

終焉帝「…………ああ、大事ない、このままで構わん」

トール「そ、そうですか……。良かったです」

終焉帝「うむ…………」



トール「………………」

小林「………………」

終焉帝「………………」



小林(いや空気、おっも!)ズーン

261 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:19:23.06 ID:r52j5KEa0

小林(出発時、滝谷君が急に組分けを変えてもらってた意図は、やっぱりこの親子二人のギクシャクしてる仲に関してだろう……)

小林(というか去り際にチラッと私に向けて『後は頼んだでヤンス♪』みたいな視線向けてきてたし)ムー

小林(とは言え……)チラッ

終焉帝「…………」ゴゴゴ

小林(う〜、黙ってても凄味あるなあこの方。私にできるか〜……?)

小林(――いや、トールちゃんの為だ。やるだけやってみようか!)ギュッ

小林(要はこの二人の間をいい感じに取り持てればいいって事でしょ?
   昨日の会話から察するにこの二人、表現の仕方がすれ違ってるだけで、ちゃんとお互いの事を想い合ってると思うんだよな……)

小林(なら、何かちょっとでも話し始めるきっかけさえあれば、後は流れで行けるはず!)

小林(となると、そのきっかけをどうするかだけど……)ウーン

小林「何……か……何かないかな……何か……」ゴソゴソ ポンポン

トール「小林さん? どうしました急に体中をまさぐって。痒いなら私が搔きましょうか?」

小林「あ、いや! そういうんじゃなくて……、えーっと……」ゴソゴソ ピクッ

小林「! (これは……! これなら行けるか……? いや、当たって砕けよう!) よし――」スッ

小林「――あ、あの! すみません、よろしいですか!?」ズイッ

終焉帝「む…………?」

トール「こ、小林さん!? 何を――」

小林「ちゃんとしたご挨拶が遅くなり申し訳ありません! 私こういう者でございます!」スッ

トール「! その小紙片は……」

終焉帝「名刺……、か」パシッ

小林「(! 知ってるんだ?)は、はい! フリーのSE……システムエンジニアをしております!」

トール「こ、小林さんどうして急に自己紹介を……!?」

終焉帝「……ふむ」ジィッ

小林「あっ、えっとシステムエンジニアというのはプログラミングなどのコンピューター関連の仕事を、あ〜とプログラミングとは……
  (しまった、用語どこまで説明すればいいか分からん!)」ワタワタ

トール(小林さん……!)ハラハラ

262 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:21:21.57 ID:r52j5KEa0

終焉帝「……一つ、良いか?」

小林「っ! は、はい! なんでしょう?」

終焉帝「昨日の話で、貴殿が1年前に退職したという会社だが……、何という名だ?」

小林「へ? えっと、『地獄巡商事』ですけど……」

トール(改めて聞いても、名前だけは個人的に好みなんですよねえ、あの会社)

終焉帝「ふむ、やはりか……」

小林「?」

終焉帝「その会社の上役――専務とやらの役職に、“マガツチ”という男がおっただろう?」

小林「へっ!? あ、はい、います――いらっしゃいますけど…… 何故それを……」

トール(専務…… ああ、翔太君のお父さんである魔術師ですね)

終焉帝「あの男とは古くからの知り合いでな」

小林「へ!?」
トール「ふぇぇっ!?」

終焉帝「む?」

トール「あ、いえ……」

終焉帝「そう言えば1年程前、あの男と話した際、勤めている会社で社員が辞めた影響で、
    大分ごたついて大変だとぼやいていた覚えがあるが……。そうか、それが貴殿達の事だったか」

小林「そ、そんな事ってあるぅ……? 世間せっまい……」

小林「――って、はっ! そ、それよりすみません! ドラゴンの方のお知り合いにご苦労掛けてるとは露知らず!
   知らなかったとはいえ、ご容赦――」

終焉帝「フッ、止せ、構わん。むしろ良い薬だ」

小林「え?」キョトン

トール(! お父さんの、笑った顔……)

終焉帝「奴には私も世話にはなっているが、同時にあの腹黒狸親父ぶりには若干いけ好かない点もある。貴殿も覚えがあろう?」

小林「え……、まあ、はい……」タハハ……

終焉帝「あの男が焦っている所など、中々見れんのでな。良いものを見せてもらい、むしろ感謝しよう」フフフ

小林「あ、そうですか? それならまあ、良かったです……」ホッ

終焉帝「名刺についてだが、此方は生憎、今日は持ち合わせがない。機会があれば後日お渡ししよう」

小林「あ、いえお構いなく――、て言うか名刺持ってるんです!?」

終焉帝「あるが?」

小林「あるんだ!?」
トール(あるんだ!?)

終焉帝「しかしSEか……、情報機器には強いと見える。
    折角なのでメールアドレスを伝えておこう。PC関連で時に相談に乗って頂けると助かる」カキカキ

小林「メールアドレスあるの!? PCも!? (え、すごい意外。めっちゃ興味出てきた!)あ、謹んでアドレス承ります……」ペコ

263 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:23:25.11 ID:r52j5KEa0

小林「――いや〜、プレッシャー凄いから内心、腰が引いちゃってたけど……。
   話してみるととっても気さくで面白――興味深いお父様だね、トールちゃん?」チラッ

トール「………………ムウ」プク

小林「ってあれ、トールちゃん? なんかご機嫌斜め?」タジッ

トール「だって……、小林さんズルいんですもん。そんなフランクにお父さんと会話してみせちゃったりして……」プク―

小林「え? 特段無理もせず、普通に話してるだけなんだけど……」ポリポリ

トール「それが普通じゃないんですっ! 普通の人間は、いやドラゴンでさえお父さんの前では呼吸すらままならなくなるものなんです!
    かく言う私ですら、お父さんの前では緊張で総毛ならぬ総鱗が立つ位なんですから!」

小林「そんなに〜? いや雰囲気がおっかないのは分かるけど……」

トール「おっかないで済ますのは流石に呑気が過ぎますよ小林さん!」

終焉帝「………………」

小林「う〜ん、じゃあ逆に聞いちゃうけど、トールちゃんのお父さん――終焉帝ってどんなドラゴンさんなの?」

トール「え?」

小林「いや、混沌勢というドラゴンの一派の代表格であり、神様とも闘り合えちゃう位凄い方ってのは昨日聞いたけども……。
   まだいまいち理解が及ばなくてね。トールちゃんが教えてくれる?」ニコッ

トール「え、え〜? しょうがないですね〜……」

トール「そりゃもうお父さん――終焉帝と言えば、
    神による支配に対する叛逆者たる混沌勢の筆頭であり、創世神話の時代を知る生ける伝説でして……」ペラペラ

小林「お、おう……(急に饒舌だ……)」

トール「その爪の一撃は新たな河を作り、その吐く炎は山を熔かすと言われ、圧倒的で無敵の肉体を誇る一方、
    知識に貪欲であらゆる事柄について知ろうとし、読み積み上げた書物は塔の如し!」

トール「その静かに、然れど凄烈に相手を睨みつける眼光は、敵だけでなく味方すらも震え上がらせる原初の恐怖……」

トール「その完全無欠の在り方故に、時に『死の炎』・『神聖の否認者』・『竜の絶対性の証明』、
   『滅びを告げるモノ』・『頂点種を総べる頂点』、そして『終焉そのもの』と数多の異名で称される、最強の竜の一角なのです――!」ゴゴゴ

小林「ひえ、何かもうラスボスみたいな人じゃん」

トール「――えっと。私の知る小林さんは、そのラスボスみたいなお父さんに啖呵切って、
    連れ帰られそうだった私を引き留めてくれたんですよ?」モジッ

小林「うわあ、ほんとに? 並行世界の私すごいな……、すごい命知らずって意味で」ハハハ

トール「だから、今も充分命知らずなんですって!」

小林「――ちなみに」

トール「?」

小林「途中からお忘れかもしれないけれど、ここまでの発言をお父さんもお聞きだからね?」チョイチョイ

トール「……はっ!!?」

終焉帝「………………」

小林「いや〜羨ましい限りですねえ、めちゃくちゃ慕ってくれる娘さんがいらっしゃって」チラリ

終焉帝「………………フン、まあな」

トール「! は、はうぅぅ……」カアァ

小林(狙い通り……!)ニヤリ

264 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:24:31.04 ID:r52j5KEa0

小林(場の雰囲気が程良く和んできた今なら……!)

小林「――恥ずかしがる事はないよトールちゃん! むしろもっと素を出してっていいと思うよ?
   折角の機会だし、今まで話せなかった事があれば話してみるのはどうかな?」ズイッ

トール「え? えっと……」ピクッ

終焉帝「………………」

トール「うんと…… その……」タドタド



トール「………………」シーン

小林「………………」シーン

終焉帝「………………」シーン



小林(……あ、やべ。詰めがちょっと性急すぎたかも……?)

トール「………………」オズオズ

小林「あ、その、強引でごめ――」

終焉帝「――一つ、良いかトール」

小林「!?(こっちからのアプローチが来た!)」

トール「お、お父さん!? は、はい、なんでしょう……」ゴクリ

終焉帝「――此度の調査が首尾良く進み、元の世界に戻れるようになったとして、お前はどうするトール」

トール「……え?」

小林(一体何を聞いて……?)

終焉帝「……お前は、元の世界に戻るつもりか」

トール「も、もちろんですっ。その為の調査ですし――」

終焉帝「だが、戻る事が本当に、お前にとって最良の選択なのか?」ジッ

トール「!? 何を言って……?」

終焉帝「戻ってどうする。お前は元の世界――並行世界のこの人間・小林とやらと口論になり、仲違いの末この世界に来たのだろう」

トール「っ! そう、です……」

終焉帝「ならば、例え戻れた所で、必ずしも元の世界の此奴ともう一度暮らせるという保証はなかろう」

トール「…………っ! それは、そうですが……」

終焉帝「昨日も言ったが、並行世界とは本来交じり合う事のないもの。この異変が解消された後、再び世界間を移動できるとは限らん」

終焉帝「――幸い、此方の世界のこの人間は、お前の事を好意的に思ってくれている様だ」チラッ

小林「!」ピクッ

終焉帝「ならば、戻っても上手く行くとは限らない元の世界より、
    此方の世界で新しく関係を築き直す方が、お前にとって幸福なのではないか――?」

トール「……そんな、事は……っ!」グッ

265 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:25:56.06 ID:r52j5KEa0

トール(……でも、本当に、そうなのかな……)

小林「――いや、そんな事はないと思うよ」

トール「!」

終焉帝「何…………?」ゴゴゴ

小林「私って、昔からそんなに人付き合いが得意って訳じゃないからさ。
   仕事先ならともかく、家の中でまで気の合わない相手と過ごそうとしても、多分数日も保たないと思うんだよ」

小林「けど、トールちゃんはそんな私……、厳密には違ってもほぼ同じなそっちの世界の私と、一年も一緒に生活してきたんでしょ?
   ならその事実だけできっと大丈夫。喧嘩したってまた、仲直りできるさ」ニコッ

終焉帝「………………!」

トール「小林さん……!」

小林「それにもし、トールちゃんが謝って、それでもそっちの私が許さなかったなら、
   こっちの私が『何様のつもりだ小林!』って怒ってたって伝えていいからさ」グッ!(拳を握って挙げる)

小林「――ってヤバ、結局私が口挟んじゃった!? 折角二人が腹を割って話してたのに……」ワタワタ

トール「! (そうか、小林さん、私達親子を慮って……)フフ、ありがとうございます」

トール「――お父さん」

終焉帝「む…………」

トール「確かに、元の世界に戻った所で、必ず仲直りできるかは分かりません。余計に関係が悪化して、悲しい思いをする可能性もあるかもしれない」

トール「――でも、それでも良いんです」

終焉帝「何だと……?」ピクッ

266 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:28:21.88 ID:r52j5KEa0

トール「私は別に傷付きたくないから、争いたくないから小林さんと暮らしてきた訳ではありません」

トール「時に衝突しても、すれ違って辛い思いをしても……。
    それらも含めてこの人と同じ時を過ごしたいと、共に歩んで乗り越えていきたいと、そう思ったから一緒に居るんです!」

終焉帝「………………!」
小林「………………!」

トール「勿論、こちらの世界の小林さんと離れてしまうのも、寂しいですけれど……」

トール「それでも、私は戻れるなら元の世界に戻ります。辛くても苦しくても、あの人と共に在れるならどんな時間も私にとって宝物なんです!」ギュッ

終焉帝「………………そうか」

トール「だから、その……。ご心配、有り難うございます。お父さん」

終焉帝「フン、何の事だ。私は疑問を只尋ねただけだ」

終焉帝「お前が覚悟出来ておると言うのなら、これ以上は聞くまい。困難も苦労も、好きに味わって来ればよい」プイッ

トール「………………」

終焉帝「……戻れると良いな、元の世界に」ボソッ

トール「……っ! はいっ!!」ニコッ

小林「――いや、良いもの聞かせてもらったよ」パチパチ

トール「! こ、小林さん……!?」

小林「誇張や茶化しでは無く、ね。それだけ真っ直ぐに誰かに想われてるなんて……、
   違う世界の自分自身の事とは言え、ちょっと妬いちゃうな」パチパチ

トール「え、えへへ……、いえ、そう言われると自分でも勢いでちょっと、
    こっ恥ずかしい事を言っちゃった気がして照れて来ますね……」エヘヘ カアァ……

小林「うんうん、それもまた青春だね」ニコニコ パチパチ

トール「だ、誰目線なんですかっ……?」アハハ

終焉帝「………………」



終焉帝(――そうか。そういう道も、そういう可能性も、有ったのだな……)フウ……



267 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/03/04(月) 22:29:50.75 ID:r52j5KEa0

トール「――あ、そうだ! 小林さん、持って頂いている籠の中の、一番上の保温容器を出して頂けますか?」

小林「ん? いいけど……(ゴソゴソ)……これ?」

トール「はい、それをお父さんに――」

小林「了解。えっと、では、どうぞ」スッ

終焉帝「む、これは…………?」パカッ

トール「――昨日のお夕飯の残りです。折角だから、お父さんにも召し上がって頂きたくて……」

終焉帝「……これは、お前が作ったのか?」

トール「はい、その、どうでしょう……?」オズオズ

終焉帝「……ああ、頂こう」

トール「! 良かった、ええ、どうぞ――!」

小林「………………」ニコニコ パチパチパチ

トール「だっ、だから、誰目線の何の拍手なんですか、小林さんっ……!」



バサッ バサッ ゴオオオオ………………

268 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2024/03/04(月) 22:32:17.00 ID:r52j5KEa0
今回はここまで。それではまた。
269 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:56:34.04 ID:PDbAYs0+0
こんばんは。
半年以上も空いてしまいましたが、また少し更新していきます。
270 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:57:45.92 ID:PDbAYs0+0

【上空・トール組】

バサッ バサッ ゴオオオオ………………



トール(竜形態)「――そろそろ、目的の山が見えてきましたよ。お二人共!」バサッバサッ

終焉帝「む、もうか……」

小林「おっ、ホントだ。1時間くらいかかったけど、話してたらあっという間だったね」

トール「はい。同感です……」

トール(最初は転移魔法の妨害があってどうなる事かと思ったけど……)

トール「……案外、このまま何事もなく到着でき――」

終焉帝「――おい」ズオッ

トール「ひゃいっ!?」ビクッ

小林「ひっ――(何かオーラが出て……)」

終焉帝「そうして気が緩んだ時が最も危うい。既に我々を妨害する何者かがいるのは分かっておるのだ。上首尾な時ほど気を抜くな」ゴゴゴ

トール「は、はいいぃ、肝に銘じます……っ!」ドキドキ シャキッ

小林「――はっ! い、いやいやまあまあ、終焉帝さんもそんなにお怒りにならず……」ワタワタ

終焉帝「……む? いや、特に怒っては――」



――キィーーーーーン!!――



終焉帝「っ!これは……」

小林「え、何々、何の音です!?」

トール「魔法による緊急通信――、ルコアさんからです!」

271 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:58:38.72 ID:PDbAYs0+0

ザザッ…… ザッ……!



ルコア『――みんな、聞こえる!? 今すぐ、減速し……ぐっ!』ザザッ

トール「ルコアさん!? 一体何が――」

終焉帝「トール!!」キッ

トール「っ! はい、とにかく、減速します! しっかり掴まってっ……!」グググッ

小林「うおっと、っとぉ!?」ガシッ

終焉帝「ぬぅ……!」ググッ



グググッ……

――ブオオオオオォッツ!!



トール「っ、前方から突風っ!?」グラッ



ゴオオオオオオォッツ!!



トール「っ……!姿勢が、維持できなっ……!」グラグラッ

小林「うわわわわわっ! 落ち落ち落ち、るぅわあああ!!?」ズルッ

トール「小林さんっ!!?」

終焉帝「――フンッ!」キュインッ!

小林「あああああ――お?」フワリ

終焉帝「彼女は魔法で最低限保護した! ――ゴフッ!?」ゲホッ

トール「お父さん!? お身体が……!」

終焉帝「ハア……! 長くは保たんぞっ、行け、トールッ!」

トール「――はいっ! お二人共、しがみ付いて! この空域を離脱します!」バサッ!



バサッ バサッ! ゴオオオオ……

272 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 21:59:44.52 ID:PDbAYs0+0

【山の麓の草原】

バサッ バサッ…… ズズン……



トール「ハア、ハア……。何とか、着陸、成功です……」ヘタッ

小林「ふう、びっくりしたあ……」フイー

終焉帝「ゴホッゴホッ……。やれやれ、危うい所だった……」フウ

トール「お父さん、お身体の方は……」

終焉帝「案ずるな……。多少むせただけだ、支障ない」

トール「そうですか、良かった……。申し訳ありません二人共、危ない目に遭わせてしまって……」

終焉帝「いや、緊急通信を受けてからの対応は、判断及びその速度共に、概ね最善だったと言えよう。気に病むな」

小林「うん、ありがとうトールちゃん。それに終焉帝さんも、魔法で守って下さってありがとうございます」ペコリ

終焉帝「うむ、貴女も無事で何よりだ」

トール「……私からも、改めてありがとうございますお父さん」

終焉帝「む?」

トール「もし直前で気を引き締め直せてなかったら、対応が遅れてもっとマズい状況になってたかも……。油断大敵です」シュン

終焉帝「フッ……、それが理解できただけ上々だ。反省は、今後に活かせ」

トール「はいっ」コクリ

273 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:01:36.09 ID:PDbAYs0+0

ガサガサッ ザッザッ



ルコア(竜人形態)「――ああ、いた! 無事だったかい、トール君達!」ザッザッ

カンナ(竜人形態)「トールさま〜!」ピョンピョン

ファフニール(竜人形態)「無傷か。まあ当然か」ザッ

トール「! ルコアさん、カンナ、ファフニールさん!」



――――――――――――



トール(竜人形態)「なるほど、そちらも山に近付いた所で急に強風が吹いて……」

ルコア「うん、急いで後続の君達に通信魔法で注意を促して、僕達もとりあえず降りてきたって所さ」

ファフニール「フン、あの程度の風、貴様が止めなければ俺は突っ切って行けたがな」プイッ

ルコア「駄目だよ〜? 君自身はともかく、君には滝谷さんが乗ってたでしょ〜?」プクー

小林「あれ、そう言えば滝谷君は今どこに……」

ファフニール「あっちだ」クイッ

小林「あっちって――」チラッ



滝谷「」プルプルプルプルプル



小林さん「う、生まれたての子鹿みたいに四つん這いでプルプルしてる……」

トール「足腰立たなくなってますね。どうしてこんな笑え、もとい哀れな姿に……」

ルコア「ファフニール君〜? 君、大分ハチャメチャなスピードで僕に追い付いて来てたでしょ〜。
    人を乗せてる時はもっと加減してあげて〜?」プンプン

ファフニール「咎められる謂われはない。俺を挑発した者の、当然の報いだ」フンッ

ルコア「も〜……」

小林「大丈夫、滝谷君? この先、自力で歩ける?」サスサス

滝谷「の、ノープロブレム、でヤンス……。しばし休憩を頂ければ……!」プルプル

小林「そう……(大丈夫かな……)」サスサス

274 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:02:45.25 ID:PDbAYs0+0

トール「あれ、滝谷さんだけでなく、エルマもいませんが……」キョロキョロ

ルコア「彼女はどうもまだ来ていな――、おっと、噂をすればかな?」チラッ

トール「むっ、町の方角から飛んできているあの影は……」



キイィーーーーーン!

エルマ(竜形態)「――――うおおおおおーーーー!…………」ゴオオオオ!



小林「エルマさんだね。おーい、こっちですよ〜!」ブンブン

ルコア「……? 待って、彼女、あの速度……」

トール「止まらず山に突っ込もうとしてません!?」



エルマ「うおおおおおーーーー!」ゴオオオ!

――ビュゴオオオオオ!!(暴風)

エルマ「うおっ!? と……、う、うわああああああ!?」ヒュウウウウ



小林「ちょっと、風に巻かれてエルマさん墜ちてきてるけど!?」ガーン

トール「あの馬鹿、あの巨体で墜落なんてしたら辺り一帯が……! ルコアさん!」キッ

ルコア「うん、空中でキャッチしよう!」コクリ

ダンッ!ダンッ!(跳躍)



エルマ「わあああああ!!」ヒュウウウウ

ガシッ、ガシッ!

エルマ「わああ……、お?」

ルコア「ふう〜」フヨフヨ

トール「全く、世話の焼ける……」ハア

275 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:03:51.15 ID:PDbAYs0+0

――――――――――――

トール「――で? なんで思いっ切り山に突っ込んでるんですか?」ツーン

エルマ(竜人形態)「むぐ……、す、すまなかった……」(正座中)

トール「あなたもルコアさんからの“減速して”って通信、聞いてたんでしょ? 何で全速力出してるんですか?」

エルマ「う、うう……。た、確かに通信は聞いたが、だからこそ先行した方々に何かトラブルがあったなら助けに向かわねばと思い、急いで……」ムググ

トール「その心意気は、まあ殊勝ですが……。なら尚更、まずは通信し返して安否を確認したり、状況の把握をするべきでしょう?」

エルマ「う……、その通り、だが……」ヌググ

トール「? 何ですか言い淀んで……」

エルマ「……………………」

トール「……もしかして通信魔法、苦手なんですか……?」

エルマ「っ! ぬ、ぬぐぐ……っ!」プルプル

トール「そう言えばそもそもあなた、私より先に出発したのに後から来たのも、やっぱり空を飛ぶの苦手だったんじゃ……」

エルマ「う、う……っ」プルプル

トール「………………」(何とも言えないものを見る目)

エルマ「そ、そんな憐れみと慈しみに満ちた目で見るなあ!」ガアアッ!

エルマ「別にどっちも苦手じゃないからな! 到着が遅れたのも、途中で喉が渇いてしまったからちょっと川に寄り道して給水してきたからだし!
    通信魔法もわざわざ使うより直接飛んできた方が早いと思ったからそうしただけで、使えない訳じゃないし!」ギャーギャー

トール「……いいんですよ、エルマ」ポン(肩に手を添える)

エルマ「ぬ、むっ?」

トール「誰だって、苦手な事はあるものですから……」ニコッ……

エルマ「うっすら涙を浮かべながら微笑むなあっ!」ガーッ!

276 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:05:03.15 ID:PDbAYs0+0

……………………

ルコア「……え〜、何はともあれ、全員怪我もなく無事に集合できた訳だけれど」

エルマ「は、はい……、お騒がせしました……」シュン

ルコア「い〜え〜♡ で、ここから先の移動だけど……。僕は、上空を飛んでいくのはもうやめた方が良いと思う」

トール「え、それは何故です? 確かに凄い突風でしたが、止むのを待ってから向かうのでもいいのでは……」

ルコア「いや。僕達を阻んだ突風……。見た感じあれは、自然の風じゃあない」

トール「!」

ルコア「恐らくあれは、山に近付く者を排除する為に敷かれた、風の結界だ」

トール「風の……」

エルマ「結界……!」

ルコア「――いや、より正確には山に近付く者の内、強い魔力を持つ者を排除する、かな」

トール「?」

ルコア「上空を見てごらん。ついさっきはあんなに強く風が吹いていたのに、今は静かなもんだ」フイッ

トール「確かに……。風も、その音も感じられませんね」

ルコア「ああ、そしてあの辺り、目を凝らしてごらん」スッ

トール「? あの辺りって……、あ!」



チュンチュン パタパタ……



カンナ「トリだー」

トール「鳥が、普通に飛んでいる……。風に巻かれる事もなく……」

ルコア「ああ。あの様に山に近付く鳥や……、恐らく上空を通る飛行機なども風の影響は受けていない様だね」

滝谷「まあ確かに、あんな突風を飛行機が受けてたら、たちまち墜落して大騒ぎになってるでしょうでヤンスからね」

ルコア「うん。この事から、僕達ドラゴンの様な力ある存在が山に近付いた時のみ、突風が生じるのだと考えられる」

トール「で、でも! 突風が吹いても、私達が本気で突っ込めば風に負けずに飛んでいけるのでは?」

エルマ「……その場合、小林殿や滝谷殿、カンナや終焉帝殿はどうするつもりなのだ?」

トール「え? え〜……。く、口の中に隠れててもらうとか!」ボーン

小林「え、ええ……」

滝谷「涎まみれはちょっと勘弁でヤンスよ……?」

ルコア「いや、そもそも僕達でも突破は難しいかもしれないよ」

トール「え? 何故……」

277 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:06:47.56 ID:PDbAYs0+0

ルコア「先程の、エルマが突っ込んでいった時の事なんだけど……」

エルマ「うっ……」

ルコア「周囲の様子を観察していた限り、まずエルマが一定以上山に近付いた所で風が吹き出し、そこからエルマも多少は風に負けずに進めていたけれど……
    その後進めば進む程に、風も比例して強くなっていったのが確認できた」

トール「そうだったんですか?」

エルマ「う、うむ。確かに私も、体感として風がどんどん強くなっていっていたと思う」

ルコア「エルマはトール君とほぼ互角の力を持つドラゴンであり、更に言えば単純な筋力ならトール君以上だ。
    そのエルマが途中で力負けして墜落する程の風となると……」

ファフニール「フン、まあお前らでは突破は厳しいだろうし、俺でも流石に面倒だ」

滝谷(「俺にも出来ない」とは決して言わない辺り、ブレない俺様系でヤンスな〜……)

トール「でも、上位のドラゴンすら退ける強度の結界を張るなんて、並大抵の技量では……」

ルコア「うん、単純な強度で僕らを弾ける結界を張れるとしたら、それこそ神霊や最上位の竜クラス。
    とは言え今回はそこまでヤバい気配はないから……、結界の方式が特殊なんじゃないかな」

トール「方式?」

ルコア「ああ、例えば結界内に侵入してきた者の力を吸収・利用して逆風を発生させる、とかね」

トール「吸収・利用……」

小林「ああ成程、確かにそれならエルマさんを押し返す風が、進む程に強くなったのも説明できますね」

ルコア「そう、この場合進む力が強い程に風も強まるし、風を発生させる力を結界側で負担しないから魔力切れもしない」

滝谷「侵入者自身の力で侵入者を止める……。スマートで理に適っているという訳でヤンスね〜」

トール「――近付く力が強くなる程、際限なく風も強くなる……。理論上越えられない結界……!?」

ルコア「まあ勿論、力の吸収限界だとか何らかの弱点はあるかもだけど……。さっきも言ったがエルマが押し負ける程の風だ。
    仮に無理に突破できたとして、誰かしらの怪我に繋がりかねない」

トール「確かに、それだと空から行くのは危険そうですね……」

278 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:08:16.32 ID:PDbAYs0+0

エルマ「しかし、それではどうすれば――」

ファフニール「先程試しに歩いて山に近付いてみたが、特段突風などの妨害はなかった。地上からの徒歩なら行けるんじゃないか?」サラッ

トール「はっ?」
エルマ「へっ?」
ルコア「――ファフニールく〜ん?」ゴゴゴ

ファフニール「? 何だ?」

ルコア「君という奴は、何があるか分からない場所での団体行動中なのに無断で単独行動して〜……」

ファフニール「俺は団体行動などしているつもりは元よりない。貴様等の今回の探索という団体行動に、俺が自由意志で帯同しているに過ぎん」ドーン

小林(なっ…………)
滝谷(何という屁理屈……ッ!)

ルコア「……………………は〜あ、そうだね、君はそういう奴だよね……」フウ

ルコア(――それで一人置いてかれたりするときっちり拗ねたりする癖に)ボソッ

ファフニール「何か言ったか?」

ルコア「い〜や? まあ、そういう事なら話は早い。とりあえず地上から目的地に向かってみようか」

トール「賛成です!」
エルマ「了解だ!」
カンナ「さんせー」
終焉帝「了承した」

小林「じゃあここからは山登りか……。そこまで急傾斜な山じゃないとはいえ、運動不足の私達に付いてけるかなあ」ハハッ……

滝谷「多少動ける服装はしてきたでヤンスが、本格的な登山装備ではないでヤンスしねえ」

トール「大丈夫です! 適宜、私がサポートしますから!」

ルコア「うん。疲労軽減の魔法とか虫除けの魔法とか、役立つ魔法も沢山あるから安心してね♡」

小林「わあ、ありがとうございます……!」

滝谷「感謝感激センキューベリベリマジックテープ!」

ルコア「ふふふ、何かの呪文かな?」スルー

トール「フ、フフフ……!(山中では私達の助けがないと弱々で何もできない(誇張)小林さん……、これはこれで萌え……!)」グフフ

小林「(なんか変な事考えてそうだけどまあいいか……)よろしくお願いしまーす!」

279 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:10:09.19 ID:PDbAYs0+0

―――――――――――

ザッザッ……

【山中の森】

トール「――では、ここから先の道案内は私にお任せを!
    小林さんと出会った場所は私にとって運命の聖地! 道順は完っ璧に記憶しています!」フンスッ!

滝谷「お〜、凄い自信でヤンスね。トール殿」

トール「はいっ!もはや目をつぶってでも辿り着けますね!」ドヤァ!

小林「そこまで言うなら安心だね。じゃあよろしく、トールちゃん」

トール「はいっ、任されました! 付いて来て下さい!」ハツラツ

ルコア「うん、よろしく〜。終焉帝のご介助は僕に任せてくれればいいから、心配せず先導してね」

終焉帝「うむ、かたじけない……」コクリ

トール「よろしくお願いします! ご安心ください、すぐ着いちゃいますから! さあ行っきますよ〜!」ザッザッ



ザッザッ……



【30分後】



ザッザッ……



トール「あっれ〜〜〜……?」ノーン

エルマ「トール〜? まだか〜?」

ルコア「かれこれ大分歩いてるけど、大丈夫、トール君?」

トール「え〜と……」キョロキョロ

小林「トールちゃん……。もしかしてだけど、これ道に迷って……」

トール「い、いや、道は絶対合ってるはずなんです!」バッ!

トール「ほら見て下さい、あの木はケヤキ263番であっちがクリ421番!
    時間経過による樹木の生長や枯損、風雨による地形の変化を考慮しても、ルート上は間違いないんですよ!」

小林「えっ、急に何その番号は……?」

トール「何って、私がこの山の木1本1本に付けている番号ですが?」シレッ

小林「ヒエッ……(引)」

トール「先程も言いましたが、ここは私と小林さんの聖地《サンクチュアリ⦆。
    この地を保全する為にその構成要素を余す所なく把握するのは当然の務めでは?」ドドド

滝谷(曇りない瞳で凄まじい事をさらりと……!)ドドド

280 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:11:03.30 ID:PDbAYs0+0

小林「で、でもまあ、そこまで把握してるとなると、単に道の覚え違いというのも変だね」

トール「は、はい、そう……のはず、なんですが……」タドタド

カンナ「……でも何か、この辺り、見覚えあるかも?」

トール「ぐっ!?」ドキッ

カンナ「トール様、ホントは、同じ所グルグル回ってたりしない?」ズバッ

トール「ぬぐぅっ!?」ドキドキッ

エルマ「何だ〜、その死霊の呻きみたいな声は〜? 図星か〜?」ケラケラ

トール「ええい、うるさいですね! そうですよっ! ここ通るのもう三回目ですぅっ!」ガーッ!

滝谷「おおうトール殿、Be cool……! どうどう、どうどう、威風堂々……」

トール「ひゅっ――」ゾクッ……
エルマ「ひっ――」ゾッ……

滝谷「(頭は)冷えたでヤンスか?」

トール「……はい、(唐突な寒いダジャレで全身が)冷えました、どうも……」ペコリ

281 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:12:16.21 ID:PDbAYs0+0

トール「……変と言えばもう一つ、気になる点が」

小林「ん?」

トール「この山にはそれなりの数の鳥や獣が生息しているはずですが……。ここまでの道中、周囲にまるで気配を感じないんです」

小林「確かに、言われてみると……」キョロキョロ



シーーーン……



滝谷「鳥の声すら全然聞こえないでヤンスね……」

トール「はい、流石に偶然だとかでは片付けられない異常を感じます」

ファフニール「――おい、ケツァルコアトル。この感じは……」

ルコア「うん、僕も丁度思ってた所」コクリ

トール「? 何か気付いたんですか、お二人共?」

ルコア「うん、というかその〜……、恐らく“また”なんだけど」

トール「?」

エルマ「また?」

ファフニール「結界が張ってある」

トール「結界ぃ!?」

エルマ「またぁ!?」

282 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:13:34.51 ID:PDbAYs0+0

ルコア「うん……、けど先程の風の結界とはまた別系統かな」

トール「と言うとっ?」ズイッ

ルコア「恐らく認識阻害の一種だね。山に入った者の方向感覚を無意識の内に狂わせ、同じ所をグルグル回らせて、奥に立ち入らせない様にするまじない……。
    いわゆる“迷いの森”というやつだ」

トール「認識阻害……? え、でも私は全然違和感とかは……」

ルコア「ああ、それは仕方がない。僕やファフニール君でも、しばらく山中にいてやっと僅かに違和感に気付けたくらいの、強力な干渉力だ」

ファフニール「よもや俺が呪に関して後れを取るとはな……。癪だが認めざるを得ない、驚異的な結界だ」ギリッ

トール「そんな、お二人でも手こずる程の高度な結界、どう突破すれば……」

ファフニール「フン、突破方法は単純だ」

小林「……と言うと?」

ファフニール「この山一帯、丸ごと吹き飛ばす」ドーン

小林「THE・力技!?」

ルコア「また乱暴を言うね君ぃ!?」

滝谷「爆発オチなんてサイテー!」

ファフニール「五月蠅い、何が不服だ? 土地に紐づけられた結界など、土地ごと除いてしまうのが最も手っ取り早いだろう」ツーン

エルマ「いや、山一つ吹き飛ぶと流石に人間達の間でも騒ぎになりますし、動植物への被害も見過ごせませんし……」

ルコア「そもそも僕達はこの山の何処かにいる“この世界のトール君”を探しに来てるんだから、それだと彼女ごと吹き飛ばしちゃうでしょ……」

ファフニール「…………ム」ピク

ルコア「……………………」

ファフニール「…………終焉帝の娘ならまあ、耐えられるだろう、多分」フイッ

ルコア「取って付けた様な答えだねぇ!?」

終焉帝「――ファフニールよ、秘宝抱く邪竜よ……」スッ

ファフニール「ム、終焉帝…………」

終焉帝「状況に応じ即座に破壊を選択できるその姿勢、まさしく混沌勢と呼ぶに相応しい好戦性ではある――」

ファフニール「! おお、やはり王種は良く分かって――」

終焉帝「とは言え、やりすぎ。それは“無し”だわ」ボーン

ファフニール「ッ…………!」ガーン

トール「はい、この話題終了! 他の手考えますよ〜!」パンパン!

283 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:14:57.54 ID:PDbAYs0+0

ルコア「とは言え、ここまで結界が高度だと魔術的に解呪するのを目指すよりは、破壊を狙った方が早いのはそうなんだよね」

トール「ちょ、ルコアさんまで!?」

ルコア「いやいや、勿論山は吹き飛ばさないよ。この手の結界は大抵、魔力の流れの基点となっているポイントがあるものだ。
    それを探し出して破壊できれば、結界は解除できるはずだ」

トール「な、なるほど…………」

ルコア「ただ問題は、その魔力の流れも認識阻害によって隠蔽され、極めて追いづらくなっている事でね……」

小林「魔力の基点とやらを壊そうにも、どこにあるか分からない、という事ですか……。厄介ですね」

トール「! そうだ、お父さん程のドラゴンなら、何とか分かりませんか?」クルッ

終焉帝「……悪いが、期待には応えられそうにない」

トール「!」

ルコア「無理を言っちゃいけないよトール君。ここまで隠蔽されている魔力を追うには終焉帝でも強い集中が必要だろう。
    本調子が出せるならともかく、今の傷付いた体では……」

トール「す、すみません! 無配慮な事を言ってしまい……」ペコ

終焉帝「いや、謝らずとも良い、私こそすまんな」

ルコア「しかし困ったね。僕やファフニール君でも、ここまで薄く隠された魔力を追うのは一苦労だ。
    出来ないとは言わないが、専用の術式を組んだりする必要があるから、ちょっと時間が……」ムムム

エルマ「? 話がややこしかったので黙って聞いていたが……。要はその結界の基点とやらは、魔力の中心にあるのか?」

ルコア「え? うん、そうだけど……」

エルマ「なら、あっちに向かえばいいじゃないか」ピッ

ルコア「え?」

トール「へ?」

エルマ「ん?」キョトン

284 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:16:09.96 ID:PDbAYs0+0

トール「エルマ……、あなた、結界の基点の位置が分かるのですか!?」ズイッ

エルマ「おっ!? お、おお……多分。薄っすらとだが、漂う魔力が臭っているからな」クンクン

小林「臭い……? 魔力って臭うものなの?」

エルマ「あっ、あくまで例えの様なものだっ! 五感で言うなら嗅覚による感覚に近いというだけで……」ゴニョゴニョ

トール「すごいじゃないですかエルマ! ルコアさん達でも感じるのが難しいものが分かるなんて!」

エルマ「そ、そうか……?」テレッ

トール「ええ、お世辞ではなく!」

エルマ「そうか……、ふ、ふふーん! まあ私は調和勢だからな!
    空間や魔力の歪み・淀みの様な“悪”の発見力には一日の長があるという事だ!」エッヘン!

ルコア(種族差による感覚の鋭さの違い……、いや、長年人間の国の巫女として土地を統治してきた経験……? 何にせよ、これは……)フム

カンナ「エルマ様、エルマ様ー。エルマ様が感じる魔力って、あっちの方って言った?」ピッ

エルマ「むっ? おお、そうだぞ。そっちの方角だ」

カンナ「ほんと? なら私も何となく分かるかもー」ピョンピョン

エルマ「なんと!?」

カンナ「私も手伝うー、役立ちたいー!」ピョンコピョンコ

トール「そういえばカンナも、魔術的な感知能力は元々高かったですからね……」ホホウ

小林「そうなんだ。(飛び跳ねてるカンナちゃん、可愛いなあ)」ニコッ

滝谷「これなら行けるのでは?(あぁ^〜カンナちゃんがぴょんぴょんするんでヤンス^〜)」

ルコア「うん……、ここは、二人に任せてみようか!」

トール「では二人共、ここからは先導お願いします!」

エルマ「うむ、合点承知!」グッ!

カンナ「しょうちー!」グッ!

285 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:17:36.96 ID:PDbAYs0+0

ザッザッ……



カンナ「ん〜〜〜〜〜〜〜〜…………………………」ググーッ



小林(カンナちゃん、目を瞑って眉間に皺を寄せて唸ってる……。集中してるんだな)

小林(一方のエルマさんの方は……)チラッ



エルマ「(クンクン)(スンスン)(クンカクンカ)」



小林(四つん這いで一心不乱に魔力の臭いを追ってる……。ちょっと犬みたいだ……、いや頑張ってもらってるのに失礼だけど!)

滝谷(エルワン……)

トール「いや〜カンナはともかく、エルマの格好は犬というよりトリュフを探す豚ですね」ズバッ

小林(言った! しかも更にひどい例えで!)ガビーン!

トール「見ていて下さい、その内こいつキノコ見つけてかじり出しますよ」

小林「と、トールちゃん、流石にそれは――」

エルマ「失礼な! 私だって真面目にやるべき時くらい、食欲を我慢して責務を果たせるとも!」フンス

小林「あ、怒る所そこなんだ!?」ガガビーン!

滝谷(それはつまり、平時なら本当にキノコにかじりつくと……!?)

トール「なら良いですが……。昔みたいに、毒キノコの食べ過ぎで動けなくなるのはやめて下さいね」フウ

小林「あ、過去実際にあった事なんだ!? あと“毒キノコの食べ過ぎ”ってワード何!?」

エルマ「い、いやあ、あの時のあれは、あのキノコが美味すぎるのがいけなくて……。ドラゴンの免疫力で毒は効かなかったし……」モジモジ

滝谷「確かに、毒のある生き物は美味いなんて話は時折聞きますが……っ!」



…………………………

286 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:18:39.28 ID:PDbAYs0+0

【30分後……】

ザッザッ……



エルマ「――っふう! 疲れた!」フヘー!

カンナ「集中しすぎてヘトヘトー……」フイー

エルマ「私も嗅ぎ過ぎでいいかげん鼻が変な感じだ……!」ピスピス

小林「お二人共、お疲れ様です……」

ルコア「ふむ……。トール君、景色の方はどうだい?」

トール「はい、先導を二人に代わってもらってからは、景色のループは起こっていません。結界に惑わされずに進めているかと」

ルコア「そうか……。じゃあ、ちょっと休憩しようか?」

トール「ええ、良いと思います。丁度そろそろお昼ですし、お弁当を出して昼食にしましょうか」

カンナ「おべんとう!」ピクッ

エルマ「ご飯の時間か!? お腹ペコペコだったんだ、やったー!」ピョン

トール「そう言いながら、跳ねるくらい元気じゃないですか! 全くもう、ほらシート敷くの手伝って下さい!――」



―――――――

287 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:20:58.84 ID:PDbAYs0+0

ワイワイ―― ガヤガヤ―― パクパク――



エルマ「――ん〜! 美味しいな、このおにぎり!」モグモグ

小林「こっちのサンドウィッチも美味しいよ。種類も色々あってほら、タマゴにハムチーズ、サラダ……」

エルマ「モグモあ、そのホイップもグモグモ美味しそう、取ってくれグモグ!!」モグモグ

トール「こ〜ら! せめて今食べてるもの飲み込んでからにしなさい!」



滝谷「ああ〜……、お茶が体に沁みるでヤンス……」ホウー

カンナ「しみるー……」プハー

ルコア「あっはは! 二人共若いのに何だか老人臭いねえ。お茶が美味しいのは同意だけど」ズズー

カンナ「むっ。誰よりもおばあちゃまのルコア様に言われるのはちょっと心外」

ルコア「え〜ひど〜い! それに誰よりもって事はないだろ〜、この場では終焉帝の方が僕より年上……、
    あれ? どうでしたっけ? そうですよね終焉帝?」チラッ

終焉帝「いや知らんが……。永く生きていると、流石に細かい年齢を数えるのは辞めてしまったからな」

ルコア「え〜そんな〜困ります〜、これじゃあおばあちゃまを否定できないじゃないですか〜!」

終焉帝「……一応尋ねるが、貴殿、飲酒してはおるまいな?」

ルコア「飲んでませ〜ん、神話時代から絶賛禁酒中で〜す!」ユラユラ

終焉帝「……そうか(場酔い、という奴か……?)」

ルコア「――ただ、大勢で騒がしく食事、というのが久し振りで。ちょっと浮かれてるのはあるかもしれません、すみません」フフッ

終焉帝「――そうか。まあ構わんさ、私も似た様なものだ」フッ



滝谷「あー小バアさん……、そっちのポット取ってくれんかね」ヨボヨボ

小林「誰が小バアさんだ! はいどうぞお爺さん!」ダンッ!

滝谷「おお、かたじけKnights of the Round Table……」フガフガ

小林「老人ムーブの癖に、挟むボケが流暢な英語で小憎らしい……!」

トール「フッ円卓の騎士ですか。ジョークとしては悪くないチョイスですね」フフフ

エルマ「ん? 珍しくないか、お前が人間の英雄達の話題で悪態を吐かないの」モグモグ

トール「逃れられぬ滅びに抗う愚かな人間達でしたが、気骨はある奴らでしたからね……。
    それに自分達を“赤き竜”と呼称していたのも、不遜ですがガッツは感じて嫌いじゃありません」クックッ

小林「ドラゴンサイドからの評価そんな感じなんだ、アーサー王伝説……」アハハ……

288 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:22:28.47 ID:PDbAYs0+0

小林「そう言えば、落ち着いて考えるとちょっと変な気がしない? ここまでの道のり」モグモグ

トール「変……と言いますと?」トポトポ

小林「いや、さ。最初の転移魔法の妨害から上空での風の結界、そしてこの迷いの森……。
   確かに一見すると、私達を近付かせない為にいくつもの妨害を仕掛けているみたいだけど」

トール「はい、いずれも極めて高度な術式によるもので、私達ドラゴンでも苦慮するものばかりです」ハイオチャドーゾ

小林「うん。……けど逆を言えば、いずれも結果だけ見れば進行不可能にはなっていない、常に抜け道の様にルートが残っている」ドーモ

エルマ「む……、それは確かに。転移魔法の妨害はあっても、直接飛んでくる事は出来たし、風の結界も地上を歩き進む事を妨げはしなかった」バクバク

トール「この迷いの森も、魔力の流れを辿る事で現状先には進めている……」チャントカミナサイ

滝谷「ふむう……、確かに言われてみれば奇妙でヤンスね。まるで“わざと”進む道を残している様な……」ボリボリ

小林「でしょ? 本当に誰も近付かせたくないなら、そうする事も可能なはずなのに。例えばそれこそ風の結界を地上にまで張っておいたりとかね」ズズー

トール「私達の進行を妨害しているのにも拘わらず、何故か常に穴は残している……。矛盾していますね」フムウ

滝谷「まるで二つの異なる意思――、我々に来て欲しくない者と来て欲しい者の二者がいるみたいな感じでヤンスね」ゴックン

小林「来て欲しい者……。それなら昨日、そもそも今目の前にいるトール君を呼んだのは“この世界のトール君”じゃないかって話をしたじゃない?
   彼女が私達に来て欲しい方かな」プハー

エルマ「その場合、“この世界のトール”以外に、私達に来て欲しくない未知の相手がいる事になるか? それはちょっと……、まずくないか」ウヘエ

小林「上位のドラゴンだっていう皆さんをも翻弄する魔法の使い手って事になるもんね……」

トール「…………………………」

289 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:24:25.49 ID:PDbAYs0+0

トール(未知の強大な第三者の存在……、確かにそういったものも想定しようとすれば想定する事はできる)

トール(けど、昨日の話でも似た話があった。“それ”を想定してしまうなら、それこそ何でもありになる)

トール(私達より強大な何者かが私達を妨害しようとしているなら、直接私達を攻撃するなりした方がもっと手っ取り早いはずだ。
    わざわざ結界なんて迂遠な方法を取る必要もない……)

トール(それに私がこの妨害から感じるのは、どちらかと言えば二者の思惑というよりは――)

ルコア「――はい、そこまでそこまで!」パンパン

トール「!」ピク

ルコア「確かに用心に越した事はないけれど、あくまで推測は推測。ネガティブに考えすぎて不安に陥るのも良くないよ」

トール「ルコアさん……」

ルコア「この山が現状一番の手掛かりである以上、進まない訳にも行くまいさ。警戒は怠らず! されど心は気楽に行こう、ね?」ニコッ

小林「……そうですよね。第三者の存在もあくまで仮定に過ぎない。
   考えすぎて止まっちゃうよりは、行って確かめてやるって気持ちじゃないとですよね!」グッ

ルコア「うん、その意気その意気♡ 大丈夫、案外ここから簡単に事が運んでくれる可能性も、あるかもしれない、ぜ?」パチンッ(ウィンク)

トール「――そうですね。そう願いたいです」



―――――――――



一同「――ごちそうさまでした!」パンッ
トール「お粗末様でした」ペコッ

小林「ありがとねトールちゃん。お弁当、とっても美味しかったよ」ニコッ

トール「ふふーん! どういたしまして!」フッフーン!

ファフニール「女将を呼べッ! 副菜の煮つけの味付けについて問い質し――!」クワッ

ルコア「さあ出発しよー!」スタスタ

一同「おー!」スタスタ

ファフニール「あっ待ておい――」

ファフニール「………………」ポツン

滝谷「――残念でヤンスね、折角のボケをスルーされてしまい……」ヌッ

ファフニール「ッ! 貴様……」ギロッ

滝谷「Don’t mindでヤンスよファフ君。オイラだってそんなのはしょっちゅうでヤンス。
   めげない・しょげない・諦めない! で再トライしていきましょうぞ!」キャッキャッ

ファフニール「――フッ、成程……滝谷真」ニヤッ

滝谷「はいっ!」ニコニコ

ファフニール「いずれ殺してやる」ザッザッ

滝谷「え、えええぇえぇ〜〜!? どうして今の流れで!? ちょっと待ってでヤンス〜!」ザッザッ



ザッザッ……

290 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:25:47.39 ID:PDbAYs0+0

【30分後】

ザッザッ……



カンナ「(ピコピコ)」ザッザッ

エルマ「(クンカクンカ)」ザッザッ



ザッザッ……

ピタッ



カンナ「……ここ?」

エルマ「ああ、私も同意見だ。恐らくここだろう」コクリ

ルコア「うん、僕もここまで近付けば確かに認識できる。ここが結界の基点に相違ないだろう」

小林「おお、遂に……!」

エルマ「どうだ!私はすごいんだぞ!」フンス

トール「まあ、あなたにしては結構お手柄ですね」

エルマ「何だその言い草は! もっとちゃんと褒めろ! 労われ!」

トール「はいはい、飴ちゃんあげますから」ゴソゴソ

エルマ「そんな飴玉一つなんかで私が――」

トール「はい」グイッ

エルマ「むぐっ」パクッ

エルマ「…………」

エルマ「ウマ〜♡」コロコロ

トール「本当に、お疲れ様でしたね」ニコッ

カンナ「私も私もー!」

トール「はい、カンナもお疲れ様でした。どーぞ♡」ヒョイッ

カンナ「(パクッ)……〜〜♡」コロコロ

291 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:28:52.49 ID:PDbAYs0+0

小林「じゃあ後は、結界の基点を破壊する……、でしたっけ」

滝谷「具体的には、どうするんでヤンスか?」

ルコア「うん、ここからは単純明快な力技。魔力の流れを生み出している結界の基点を、より大きな魔力を放出して吹き飛ばすのさ」

トール「フッフッフ……。任せて下さい、大得意です」ニヤッ

ファフニール「フンッ、下がっていろ青二才。俺一人で充分だ」ザッ

ルコア「いや、出来るだけ高い出力が欲しいし、ここは万全を期して協力してやろう、ね?」

ファフニール「……チッ、好きにしろ」ツーン

ルコア「流石に終焉帝にはご静養して頂くとして……。エルマ、カンナも協力してくれるかい?」

エルマ「む? よし、任せろ!」ムンッ

カンナ「がってんー!」ピョイン

終焉帝「すまぬ、頼んだ皆の者……」

ルコア「じゃあ皆、結界の基点を中心にして、取り囲む様に立って――」

「はい!――」「よし――」「フン――」「りょーかいー!――」ザッザッ……



小林「おお、なんか物々しい……。見てるだけの私達もちょっと緊張するね?」コソッ

滝谷「禿同(死語)……。変身だとか転移だとかの魔法は既に見ているでヤンスが、ガチの破壊を伴う魔法はこれが初めて。一体どんな――ハッ!?」ピコーン!

小林「ど、どうしたの滝谷君?」ビクッ

滝谷「ま、まさかこれは、生で本物の攻撃魔法の詠唱が聞けるチャンスでヤンス――!?」ゴゴゴ

小林「気になる所そこっ!?」

滝谷「勿論でヤンスっ! だって、オトコノコだもん……っ!」キラーン

小林「そ、そう……」



ルコア「――よし、配置に付いたね? 皆、準備はいいかい?」

「はいっ!」「うむっ!」「愚問」「おーけー!」ゴゴゴ

ルコア「よし、じゃあ行くよ〜――――」ゴゴゴ

滝谷「…………………………っ!」ドキドキ



トール「はあああああああああああ!!」
ルコア「たあああああああああああ!!」
エルマ「りゃああああああああああ!!」
カンナ「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ファフニール「フンッ――――――!!」

滝谷「え?」



チュドーーーーン!!!

292 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:32:32.99 ID:PDbAYs0+0

ゴゴゴゴゴ……



エルマ「――ふう! どうだ!?」

ルコア「――うん、成功だ! 周りを見てごらん!」

トール「! 景色が、急に開けた様な感覚……! 確かに結界が消えています! 今なら道がはっきり分かる……!」

カンナ「やったー!」ピョイン

ルコア「よし、皆ありがとう! じゃあトール君、ここからは改めて道案内を頼めるかい?」

トール「了解です! 大丈夫、見た限り目的地はもうすぐそこです! 行きましょう――!」ザッザッ

「「「おー!」」」ザッザッ……



小林「いやー無事に進めそうで良かった良かった……ん、滝谷君? どうしたの、うなだれて?」キョトン

滝谷「……いや、何でもないんでヤンス。オイラが勝手に期待して勝手に落ち込んでるだけでヤンスから……」○T乙 ズーン

小林「な、何か凄いショック受けてる……。何、魔法の詠唱が無かったのがそんなに不満?」

滝谷「はは、不満だなんてそんな……」

滝谷「でも『結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ!』とか……、
  『黄昏よりも昏きもの、血の流れより紅きもの』とかみたいな……。もっとこう、ロマン溢れるものを聞きたかったと言うか……」ブツブツ

小林「ふ、不満タラタラだ……!」

293 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:37:32.64 ID:PDbAYs0+0

滝谷「勿論、実際に起きている事象は高度で凄い事なんでヤンショが……、
   やっぱりこう、一目・一聞きで只事じゃないと分かる呪文なり動きなりがないと素人には凄さが分からないと言うか……」タラタラ

小林「あーもう、本場の魔法相手にダメ出しまで始めて……」

ファフニール「――フン、下らん」ザッ

小林「あっ、ファフニールさん……」

ファフニール「何の呪詛を吐いているのかと思えば、魔法の凄さの分かりやすさ、だと? 存外低俗な事に拘る奴だ」チッ

滝谷「ファフ君……、そんな無体な……」オヨヨ

ファフニール「黙れ、ファフ君言うな。……そもそも魔法を使うのに大仰な詠唱や魔法陣を使うなど、力量の足りない人間の術士がやる事だ」

滝谷「へ……?」

ファフニール「真の強者たるドラゴンなら、目的に応じた必要最低限の術式をその場で構築し、最小の手間・最短の工程で行使するなど容易い」

ファフニール「特に今回は繊細な力加減など要らず、ただ基点を吹き飛ばすのみが目的……。
       ならばわざわざ技術で補助をするなど、むしろ竜にとっての恥と知れ」スタスタ

滝谷「………………!」

小林「あ、行っちゃった……。ほら滝谷君も、そろそろ起きないと、みんな行っちゃうよ?」

滝谷「……成程、そういう見方も……?」ブツブツ

小林「……滝谷くーん?」

滝谷「オイラとした事が、少々視野が狭まっていたか……? 
   確かに創作においては読み手に凄さを伝える為の特徴的で外連味のある口上や動き、
   いわゆる“大見得を切る”事は分かりやすさという点で極めて重要……」ペラペラ

滝谷「けど! 敢えてそれらを排しコンパクトな動作で粛々と実行するというのも、
   言わば花〇薫が技を磨いたりトレーニングしたりする事を女々しいと言うのに似た、
   ドラゴンという生来の絶対強者が持つ余裕・実力・誇りの表れと考えればそれはそれでいぶし銀で格好良――!」ドドド

小林「……置いてくねー」スタスタ

滝谷「ああっ、ごめんなさい! 待ってほしいでヤンス〜!」ガバッ テケテケ



―――――

294 : ◆bhlju8wMK6 [saga]:2024/11/30(土) 22:39:32.68 ID:PDbAYs0+0

―――――

ザッザッザッ……



ルコア「――どうだい、トール君?」ザッザッ

トール「はい、もう少しです! この林を抜ければ――っ!」ザッザッ



ザアッ……!

小林「! ここが……!」



【山中・トールと小林の出会いの場所】



ルコア「空間が開けたね……」

エルマ「ここだけ木々がまばらな、広場みたいな場所だな」キョロキョロ

カンナ「ここがモクテキチ?」

小林(……? 奥の方に何か巨大な塊みたいなものが――って!?)

小林「トールちゃん! アレって……!?」バッ

トール「………………ええ、行きましょう」スタスタ

小林「あっ、その……うんっ」テクテク



ザッザッザッザッ……

ピタ



トール「――ハハッ……。なんて格好、してんですか……」

物言わぬドラゴンの骸「…………………………………………」



トール「やっと会えましたね……、“この世界の私”」

295 : ◆bhlju8wMK6 [sage]:2024/11/30(土) 22:42:17.70 ID:PDbAYs0+0
今回はここまで。それではまた。
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/12/06(金) 21:04:07.89 ID:1bHunX4b0
>>294 この世界の私・・・? まさか・・・?!
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